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中川参考人 日本銀行の
中川であります。
ただいまのお尋ねでございますが、私
ども、いまお話しのように、
公定歩合を〇・七五%
引き上げまして、この十七日から実施して、これまでは
警戒的中立の
姿勢と言っておりましたが、それを一歩進めまして
予防的引き締めというふうに
政策を転換したわけであります。その背景といたしまして、いま
三つの
理由ではないかという御
指摘でございますが、最大の
理由は何と申しましても、最近におきます
卸売物価の
上昇がきわめて
急ピッチであるということに対してであります。御
承知のように、
卸売物価は昨年の十一月、アメリカが
ドル防衛策を発表しまして以来、
円高から
円安になったということも影響いたしまして、十一月は〇・二%、十二、一月は〇・六%、それから後二カ月は〇・九%ずつ
上昇いたしました。この五カ月間で合わせまして三・一%という非常に高い
上昇になっているわけであります。四月の上旬につきましては、昨日発表いたしましたが、旬だけで〇・八%という非常な
上昇でございます。四月月中としてはまだどうなるか見当がつきませんが、このままいきますと一%を超える
上昇率になりそうだということであります。
いま申し上げましたように、ここのところ
卸売物価が月を追ってその
上昇が加速しているという点が私
ども一番心配したところでございまして、その要因を少し見てまいりますと、三・一%のうち大体三分の一ずつでございますが、
一つは、その三分の一は、
円安による
卸売物価の
上昇、これはたとえば
石油のように
ドル建ての価格で輸入を契約いたしておりますものは、
ドルが強くなりますとそれだけ円の値段が上がるという
関係で、
円安になりますと直接すぐ
卸売物価に響く部分でございますが、それが約三分の一ございます。それから、
海外でたとえば木材とか非鉄とかそういったものの値段が上がりまして、それが国内の
卸売物価に響いてくる、こういうものが約三分の一ございます。それから、国内要因で上がりましたものが約三分の一、三分の一ずつになっておるわけでありますが、この五カ月間の動きを見ておりますと、
海外要因が強かったのが次第に国内要因のウエートが高くなりつつあるということでございました。
ただ、国内要因と申しましても、まだいまの
段階は生産財といいますか、まだ加工
段階としては低い方の
段階の値上がりが
中心でございます。消費財あるいは投資財といった最終財の値上がりはまだ余り目立っておりません。そういう
意味で、国内への波及は一応まだ低次の
段階だと思いますが、そういうことから推しても、これから
卸売物価の
上昇はこのまま放置するとかなりのものになりかねないという心配を持ったわけであります。
幸い景気の方はいままでのところ昨年来の公共投資増大の効果がずっと浸透してまいりまして、それに加えまして、最近は個人消費あるいは
企業の設備投資、こういったものがだんだん出てまいりまして、緩やかではございますが、わりに力強い
上昇に転じております。民間の自律回復力もある
程度ついてきたという感じがいたします。
企業収益の方も生産財を
中心にいたしまして特に最近は好転いたしておりまして、それを背景に
企業マインドもここへ来てかなり明るくなってきておるというふうに思われます。
こういう
物価、景気の
状況に照らしますと、いまの金融情勢は、ずっと昨年まで緩和を進めてまいったわけでありますが、景気が非常に不振なときにはそういう
状態も適当であったと判断しておったわけでありますが、こういう情勢になりますと、やや緩和が行き過ぎている
状態に転じてきたのではないかというふうな判断であります。
マネーサプライは、今度の場合私
どもわりに用心してまいりまして、前回四十七、八年のときには二七、八%までピークでは前年比増加したわけでありますが、最近でもまだ大体一二%増の下の方でございます。しかし、金融緩和
政策を進める過程で銀行の貸出意欲もだんだん強くなってまいりまして、貸出競争はかなり激しいものがございます。そういうことを背景に市中の貸出金利はだんだん下がってまいりまして、現にまだ三月も下がってきておりまして、銀行の短期の貸出金利は四%ちょっとという非常に低い
水準になっております。
したがいまして、こういう金融緩和情勢でいまの
物価ということから
考えますと、
海外要因からではあっても、それが安易に国内に転嫁される、そういう
可能性もある、あるいはまたそれが行き過ぎますと、インフレマインドを一層刺激するというおそれもあり得るというふうなことを
考えたわけであります。
私
どもといたしましては、予防的な金融引き締めに転じたといっても、これで決して景気の芽を摘むつもりはございません。それほど強い引き締めをする意図ではないわけであります。
先ほど急に上げたとのお尋ねでございますが、やはりこれだけ国債を大量に抱えた
経済ということを
考えますと、予防的にできるだけ早くそういう危険な芽を摘むということをしないと、後で非常にぎくしゃくすることになりかねないというところから、まだいまの
物価上昇は、
卸売物価が相当急騰し始めたという
段階ではございましても、消費者
物価にはまだ波及しているわけではございませんで、三月の東京都の前年比は二・五と、非常にこれまでにない低い
上昇率にとどまっているわけでございますが、いずれ
卸売物価がこれだけの勢いで上がってまいりますと消費者
物価には波及する。私
ども過去の事例で見てまいりますと、大体一・四半期とか二・四半期後にはだんだん波及してくることもございますので、ここで用心して、
海外要因からではあっても、国内
物価に、特に消費者
物価に安易にそれが反映されるのをできるだけ予防しよう、そういうことで決めたわけであります。
何と申しましても、私
ども基本的にはインフレになったら元も子もなくなるということでございまして、むしろいまのように初めから用心してかかるということになりますと、たとえばこのまま
物価が急騰いたしますと、
財政にいたしましても、もう名目で支出額は決まっておりますから、実質購買力が相対的に下がってまいります。あるいは個人消費にいたしましても、
物価が急騰するとやっぱり消費が萎縮するというふうなこともございまして、
物価が安定しておるからこそ昨年来の個人消費の着実な
上昇があったのだというふうなことから言いまして、むしろいま用心してかかることが景気を息長く
上昇させる最大の要因ではないかというふうに
考えておるわけであります。
為替面につきましては、これは内外金利差がそれだけ縮小するわけでございますので、若干資本の流出が抑制されまして、それで最近の
円安傾向に歯どめがかかるという
意味で、プラスの効果があるというふうに判断しているわけでございます。もっとも、
公定歩合を上げました後まだ
円安が続いておりますが、やがてはそういう傾向が出てくることを私
ども期待しているわけでありまして、基本は何と申しましても
卸売物価がこれだけ急騰しておるということに対処してとられたものでございます。