○和田春生君 私は、民社党を代表し、
日中平和友好条約の
承認に
賛成の
立場から
討論を行います。
このたび
締結調印された本
条約は、
日中共同声明以来六年にわたる懸案がここに解決を見たという点において、まことに
意義深いものがあります。
条約条文中
わが国の主張をほぼ実現した
日中平和友好条約の
締結を歓迎するとともに、この
条約交渉に当たり、
福田総理、
園田外務大臣を初め、
関係者各位の払われた御
努力に心から敬意を表する次第であります。
しかし、およそ国家間の
関係や
条約には表裏があり、積極的な面とネガティブな面もあります。また、二国間
関係の
発展が、当事国のみにとどまらず、周辺
諸国を含め、
国際情勢にさまざまな波紋を描くこともしばしば見られるところであります。その積極面にのみ目を奪われ、新たな期待感の波の中に看過し得ない問題点を埋没させてはなりません。
翻って、
日中共同声明以来の
中国側の体制や
外交戦略の幾変遷を顧み、
条約交渉が難渋した経緯や、本院
審議における
政府側の説明、答弁などを率直に検証いたしますに、歓迎し首肯に値するものとともに、かなりの疑念をも禁じ得ません。しかし、いまこの時点に立って、すでに
締結調印済みの本
条約について、その利害得失を大局的に勘案した場合、これを
承認することに、
わが国益を開き
世界の平和に寄与し得る道ありと判断し、
本案件に
賛成するものであります。したがって、あえて表現すれば、手放しではない
賛成というのが私どもの偽りのない
立場であります。
以下、その主たる理由を四点にわたって述べたいと思います。
まず第一は、
条約第二条の反
覇権条項であります。
覇権反対が国際間の一般的、普遍的な
原則として
承認されることには、もとよりもろ手を挙げて
賛成であります。しかし、われわれのこの主張と、主要な敵を
ソ連とし社会帝国主義反対の反
覇権統一戦線結成を目指す
中国の
立場との間には、越えがたい決定的なみぞがあります。この彼我の間の深いみぞのゆえに
条約交渉も難渋を重ねたという事実は何人の目にも明らかであります。そのみぞは、今回の
友好条約締結によっても埋められておりません。第四条のいわゆる
第三国条項を設けることによって、それぞれの
立場を留保しながら本質的な問題の回避が図られたわけであります。その点、事をここまで運んだ
政府の精力的な
外交努力を多とするにやぶさかではありませんが、一方、反
覇権条約の成立について、
外交辞令は別とし、諸外国の論調の多くが
中国外交の大成功と称していることも見逃がし得ないところであります。そうまでして反
覇権条項を本
文化したことにいかなるメリットを考え得るでありましょうか。対ソ
関係を初め、今日の
国際情勢にあっては、それがデメリットとして
わが国に反作用を及ぼす危険性の方がはるかに大であります。ポスト
日中条約の
外交政策上、重ね重ね賢明な配慮と慎重な言動を要望する次第であります。
第二は、
条約締結を契機とし、過熱ぎみとさえ見られる日中
経済関係についてであります。
日中
経済協力の進展と
中国の四つの近代化
政策とは不可分の
関係にありますが、
経済力と軍事力の間には境界がありません。たとえば、鉄鋼は軍備の主要な材料の
一つであり、石油もしかり、高度のコンピューター技術は近代兵器の管制誘導システムに不可欠のものであります。
中国政府は、四つの近代化のうち、とりわけ軍事力の近代化と増強のために、工業と技術の急速な近代化を求め、
日本を含む西側先進工業国との
経済的提携に積極的な意図をいささかも隠そうとはいたしておりません。日中
経済関係の
発展が必然的にもたらす
中国軍事力の強大化が、いつの日か周辺
諸国への脅威の要因となり、ひいては
わが国の
立場にネガティブな
影響をもたらすおそれがあるのであります。
いまや
世界屈指の
経済大国となり、大きな対外
影響力を持つに至った
日本は、
わが国政府や
国民の主観的意図にかかわらず、国際的な
パワーゲームの外に超然とすることは現実的に不可能な地位に置かれております。その
日本が、
日本的観念で
経済と軍事力を形式的に引き離し、ひとりいい子になろうとしても、他の国から素直にそのまま理解されるとは考えられません。
日中条約の
締結に浮かれることなく、また、
政府と
経済人が目先の利に走り後でほぞをかむことにならないよう、特に注文をつけておきたいところであります。
第三は、
尖閣諸島の問題についてであります。
本件について、
日本政府は、
日中条約交渉における鄧小平副総理の言明に信頼し、一件落着とする態度を示しておりますが、事の本質に対する理解のずさんさには深刻な不安を覚えざるを得ません。鄧副総理を初め
中国政府首脳は、尖閣列島領有権の主張を決して取り下げてはいないのであります。それどころか、文献が示すように、「尖閣列島確保の工作を波状的に継続することが、台湾問題とからめ、やりがいのある工作である」旨を別の機会に強調しているのであります。
さて、現状のまま過ぎれば、尖閣周辺海域に
紛争が生じないといたしましても、伝えられるごとく、
中国政府も早晩二百海里
経済水域実施の意向であるとしますなら、その事態を迎えたとき、
日本も同様、線引きで対応せざるを得ないのであります。そのとき、
尖閣諸島領有権の問題は、二百海里海域と
中間線の線引きにとって決定的な争点となります。
尖閣諸島が
日本固有の領土たることについては疑念はいささかもありません。しかし、他方、
中国政府の言動が示すところによれば、
中国側が領有権の
基本的な主張を引っ込めるという保証はどこにも見当たらないのであります。二百海里と大陸だなをめぐり、今後
日中間における深刻な課題となり得る
尖閣諸島について、
政府が甘い期待をぬぐい去り、厳しい姿勢と的確な
外交戦略で臨まれるよう、警告を含めて要望しておきたいと思います。
他にも多くの問題点が認められますが、いずれにせよ、
日中条約の
締結は、問題の帰結というよりも新たな課題へのスタートであります。この
条約が
世界の平和に真に寄与する
基礎となり得るか否かは、
わが国と
中国双方のこれからの対応いかんにかかっていることを深く銘記したいと思うのであります。
さて、最後の問題は、台湾
地域を含む東
アジアの安全保障と、中華民国
政府との事実
関係の将来についてでありますが、この点については、本院
外務委員会の
質疑を通して、変化を望まず、現状の維持を好ましいとする
政府の意図を
承知いたしましたので、個々の問題に重ねて言及はいたしません。
日本との正式国交が絶たれたとはいえ、現に中華民国
政府の統治下にある台湾
地域など約二千万人に近い民族の大多数も、また、かつての
日本による侵略と植民地
支配の被害者であります。しかも、この人々とその国とは、いまに至るまで、
日本国と
日本人には恩讐を越えて親愛感を抱き続け、よりよき
交流を
発展させてきた点で、特筆すべき
あり方を示していると言わねばなりません。こうした
歴史と経緯の上に現在の事実
関係が存在しているわけでありますから、今日、
日中平和友好条約が
締結されたもとにあっても、この
関係を大切に考え、
日本側から傷つけるようなことがあってはなりません。それは、国家間の公式
関係や
パワーゲームののりを越え、
日本人の心と生きざまの問題であると信ずるからであります。
以上の所見を特に付して、私の
賛成討論を終わります。ありがとうございました。(
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