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政府委員(田中敬君) 国債消化難の現状、実情と原因という点について御説明を申し上げたいと思います。
いろいろ国債消化難という問題が言われておりますが、これはどういうことかと申しますと、
一つは国債の市況が軟化をした。すなわち、長期債等につきまして発行利回りと流通利回りの乖離が大きくなって長期債に対するニーズが非常に減っていったという現実。それともう
一つ、国債の消化難ということで象徴的に言われておりますのは、証券
会社が毎月発行いたします国債の金額の一定額を自分で引き受けまして、これを個人あるいは事業法人等に販売しておりますが、その販売実績が伸び悩んでおる、あるいは売れ残りが生じたというようなことが国債消化難という言葉で言われております。事実、証券
会社は本年度に入りまして毎月二千億円程度、ピーク時におきましては、この六月には二千七百八十億円というものを証券
会社自身が引き受けてまいりまして市中に販売をいたしたわけでございますが、その後売れ残りが出るというような状況から、だんだん漸減いたしまして、十月には証券
会社が引き受けたものは七百億円という形になっております。
これらの現象を一般的に国債の消化難と言われておるというふうに
理解すべきだろうと思いますが、この消化難という問題につきまして、総体的にながめてみました場合には、そういう状況ではございますけれども、本年十月までに年間発行予定額約十一兆円の国債をどれくらい発行消化したかという側面から見てまいりますと、すでに十月までに七兆二千五百七十億円余を消化いたしておりまして、年間予定額に対します進捗率は六五・四%になっております。これが昨年の実績は十月現在で五兆二千億ということで進捗率は六七%でございましたから、進捗率は若干落ちておりますけれども、実額におきましては昨年と比べて二兆円以上のものをすでに十月までに消化したわけでございます。
そういうことでございまして、この六五・四%の進捗率と申しますのは、国債を本格的に発行しました四十二年度からの平均をとってみましても、一十月の進捗率が六六・五%でございますので、まあ中身についてはいま申し上げましたような問題がいろいろぎくしゃくいたしておりますけれども、総体としてはまずまずの消化をいたしておるというのが現状だろうと思います。
それからもう
一つ、言われております国債の消化難の原因でございますけれども、分析をいたしますと二つに分けられると思います。
一つは一時的あるいは一過性の原因、
一つは構造的な原因。
一過性の原因と申しますのは、この六月、七月、八月という時期に円建て外債が相当出て消化先が競合したこと、あるいは九月の各法人の決算期に向かいまして法人等が決算資金手当てということから債券を売却したということ、あるいはまた、
銀行につきまして国債の評価損に対応しますための引当金制度を設けてこれのための国債売却が都銀筋からあったことというような一過性の原一因、それからもう
一つ大きな一過性の原因といたしましては、やはり証券
会社が非常に多額のものを引き受け過ぎたということが考えられるだろうと思います。証券
会社が引き受けました実績と申しますのは、過去の年をとってみますと、五十年では月平均二百五十億円台、五十一年で七百九十億円台、五十二年で千七百二十億円台と、毎年毎年月平均の証券
会社の消化額がふえてまいりまして、本年度は現在までの実績が月平均二千億円を二千十一億円と超えておりますけれども、こういうふうに本年に入りまして二千億円を超えるような証券
会社の引き受けというものは、
一つは円高の問題が
関連し、あるいは事業法人等に余資が多くあったということで、事業法人や外人への消化というものが相当あったわけでございますが、これが証券
会社が余りにもそれを当て込み過ぎて多くを持っていって、それによって売れ残りが生じたということがございます。
そこで、この証券
会社の引き受け過ぎということが市場に売れ残りを生じて投げ売り物が出てまいりまして市況を軟化さした。これも一過性の原因でございまして、そこでこの十月は、
先ほど申し上げましたように、証券
会社が引受額を七百億に圧縮することによって市況を引き締めるという
措置をとってまいりました。その結果、市況はただいま委員が仰せのとおりに回復基調にございます。
これが一過性の原因でございますが、構造的内容といたしましては、やはりいまの日本の公社債市場あるいは引受市場の
金融力、大きさに比べて余りにも国債の量が多過ぎるという、いわゆる国債大量発行の荷もたれ、重荷というものが
一つの心理的要因でございますと同時に、やはりこの五月、公定歩合が引き下げられました後に金利の底打ち感が出てきて、資金を持っている方がこれ以上金利が下がるということはない、あとはもう上がる一方であろうということから長期に対する資金需要が減ってまいりまして、短いものへそれが移っていった、これが構造的要因だろうと思います。
そういう意味におきましては、金利の底打ち感があります以上は、いまなかなかその構造的要因というものは一挙には回復いたさないと思いますけれども、けさほどの新聞に出ております、市況が急ピッチで回復いたしたと申しますのも、そのように長期資金が長いものをいやがって短いものに行った。そういたしますと現先市場にそれが出てまいりますけれども、現先レートはそれによって急速に最近低下をいたしております。そういたしますと、現先レートが余りにも低下すると、現先の方へ資金を向けた投資家がまた長期債へ戻ってくるということで、総体としての資金需要が発生しておりませんで、資金は一定の資金がある。それが長いものと短いものとの間をシフトしておるという状況と判断すべきだろうというふうに思います。それがだんだんいままた長いものにシフトしてきたということで、現実国債の市況は毎日価格で五銭、十銭というような形で回復をいたしております。
そういう状況でございますので、いまの市況はそういう総合的に見て資金需要がほかから出ておらない以上は、長短いずれかへのシフトは絶えずあるかもしれないけれども、このような市況が今後も当分続くんではなかろうかというのが見通しでございまして、その中においてどういうふうな工夫をして国債を消化していくかということが課題であろうと思います。