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横山委員 次の問題に移りたいと思います。
再審の問題であります。
委員長並びに同僚諸君も大変恐縮でございますが、しばらく耳をおかし願いたい。といいますのは、法務
委員会の
理事会におきまして、私は、再審制度に関する
調査小
委員会を
設置してほしいと提案をして、各党でいま御
審議を願っておる最中でございます。その意味で、短い時間ではございますが、各党の皆さんにも私の意のあるところをお聞取りいただきたい。
ここ数年来、再審事件で無罪となりました著名な事件は、まず吉田岩窟王事件、大正二年の強盗殺人事件、再審請求五回、そして三十八年名古屋高裁で無罪判決、実に五十年の岩窟王の闘いでございました。
金森老事件、
昭和十六年放火事件、そして再審請求をして、四十五年大阪高裁で無罪判決、三十年の苦闘であります。
弘前大教授夫人殺し事件、
昭和二十四年殺人事件発生、再審請求をいたしましてようやく五十一年に開始決定、仙台高裁で五十二年無罪判決。
小平事件、
昭和二十六年放火事件発生、そして再審請求、
昭和三十八年長野地裁で無罪判決、十二年の闘い。
米谷事件、
昭和二十七年強姦殺人事件、再審請求を続けてまいりまして、五十三年に青森地裁で無罪判決、二十六年間の苦闘であります。
これらは、多少抜粋して事例を出したわけでありますが、再審についてのこれらの人の悪戦苦闘は全く、その記録を見ますと、涙なくしては読めないような苦闘であります。
なお、吉田岩窟王事件に対する無罪判決で、有名になった
裁判官の
言葉がございます。「当
裁判所は、被告人、否、ここでは被告人と言うに忍びず、吉田翁と呼ぼう。われわれの先輩が翁に対して犯した過誤を深く陳謝し、翁が実に半世紀の久しきにわたって、あらゆる迫害に耐えて無実を叫び続けてきた崇高な態度、その不撓不屈な驚嘆すべき精神力、生命力に深甚なる敬意を表し、翁の余生に幸多からんことを祈る。」その五十年の闘いをした吉田翁も、判決後身体の自由を失い、九カ月後に生涯を終わっておることは皆さん御存じのとおりであります。
このような再審の闘いについての記録を読み、経過をいろいろ検討してみますと、いかに再審の門が狭いかということが痛感をされるわけであります。
ちなみに
調査いたしますと、再審の開始決定があったのは、
昭和四十八年、七十四件の請求で決定が三十件、
昭和四十九年、八十九件の請求で二五件、
昭和五十年、九十三件の請求で決定が二十件、
昭和五十一年、百三十五件の請求で五十二件の決定、五十二年が八十三件の請求で二十六件の再審決定がございます。私どもが予想するよりもはるかに多くの再審の請求があり、また予想以上に再審の決定があるのであります。もっとも、この再審決定の中には交通事犯がかなり含まれておりますから、いわゆる
刑事事件として重要な問題については、この数字で判断するわけにはまいらないと思うのであります。
そこで、この再審についてのあり方について、もう数年来各方面で議論が尽くされてまいりました。すでに
昭和五十一年、
最高裁の第一小法廷は、いわゆる財田川事件の特別抗告決定中で「刑訴法四百三十五条六号の無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは、確定判決が認定した犯罪事実の不存在が確実であるとの心証を得ることを必要とするものではなく、確定判決における事実認定の正当性についての疑いが合理的な
理由に基づくものであるかどうかを判断すれば足りる。強盗殺人事件の再審請求に対する審判において申立人の自白の
内容に強盗殺人の事実を認定するにつき、妨げとなるような重大な疑点があり、新証拠を既存の全証拠と総合的に評価するときは、確定判決の事実認定を動揺させる蓋然性もあり得たと思われるなどの
事情のもとでは、再審請求を棄却した原原審及びこれを是認した原審には審理不尽の違法性がある。」としています。つまり、明らかにこの五十一年の財田川事件におきます刑訴法四百三十五条の無罪を言い渡すべき明らかな証拠という文章については、この判決によって解釈が拡大されたと言うことができます。
五十年の
最高裁第一小法廷は、いわゆる白鳥事件の特別抗告事件でも「当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきである」とし、また「再審開始のためには確定判決における事実認定につき、合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、疑わしいときは被告人の利益にという刑事裁判における鉄則が
適用される」としています。
このような
最高裁の判旨が、その後、弘前事件や加藤事件、米谷事件の再審開始のきっかけになったと私どもには判断をされるわけであります。
そこで、
最高裁のこれらの判決を受けて、
国会において私どもがしばしばこの
質問をしておるわけでありますが、
稻葉前法務大臣は五十一年の十月十四日「この再審制度のことにつきましては、先ほどもお答えしたように、これからも
法務省としては真剣に取り組んでいくべき問題ではあると、法曹三者のうちの
弁護士連合会がああいう考えをもう打ち出しておられるのですから、それにやっぱり歩調を合わせるような方向で検討するというのが
法務省の姿勢ではないかというふうに存じます。」こういうふうに法務大臣が答え、越えて
昭和五十二年三月十二日、
予算委員会第一分科会で社会党
川口大助君の
質問に答えた安原刑事局長が「いま御指摘のように、再審開始決定をするにつきましての手続におきまして、貧しい人は弁護人も雇うのに大変だ、あるいは決定をするのが全くの書面審理であって、そして書面審理でなくても、いわゆる再審を請求した人あるいはその弁護人が立ち会うようになっていないというようなこと、あるいはそういう再審開始決定をした以上は、たとえば刑務所におる者でありましても、弁護人との間に
刑事訴訟法の確定判決前のような秘密交通権を認めることはできないかというような、つまり国選弁護人制度を再審開始決定手続についてもやる、あるいは事実調べの立会権を認める、あるいは秘密交通権を認めるというような、開始
理由ではなくて、開始をするまでの手続の中に被告人の権利をもっと主張できるようなことを考えてはどうかというようなことが、われわれ事務当局としてはさしあたり検討すべき課題であるというふうに考えておる次第でございます。」引用いたしますとまだほかにもございますが、そのように
政府答弁が続いてきておるわけであります。
そこで、これらのことを考えてまいりますと、少なくとも
政府及び日弁連それから
国会側との間に共通点が幾つかあるというふうに私は考えておるわけであります。しかし、この再審制度の改善というものが確定判決、いまの地裁、高裁、
最高裁の確定判決に至るまでの制度、システムに大きな動揺を与えてはならぬという
考え方も一部にはございますが、しかしそれとの調整もまた可能ではないかという
考え方をいたしますがゆえに、直ちにということではございますまいが、少なくとも情勢は熟してきたのではないか、それが私が
理事会において各党からなる再審制度
調査小
委員会を
設置して、多少の時間はかけてもこういうような情勢のもとにおいての再審制度の改善の研究を
国会側としてもやるべきではないか、まあこれは
政府に言うばかりではなくて、
委員長初め各党の皆さんに時間を使って御
説明をしたわけでございますが、まず
委員長に恐縮ながらひとつ御答弁を願いたいと思います。
理事会におきまして私の
説明を詳細にいま敷衍をしたわけでございますが、あなたは与党の
理事でもございます。本日は
委員長の要職におられるわけでありますが、本再審制度の
調査小
委員会を法務
委員会の中に
設置することについて、
委員長の見解を伺いたいと思います。