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黒羽参考人 日本経済新聞に勤めております
黒羽と申しますが、申すまでもないことだと思いますが、きょうの私の
発言は、別に
日本経済新聞の
意見ということではなくて、私
個人の
意見でございます。
それで、この問題でありますが、四十九年五月十日に衆議院の
文教委員会で
決議が行われております。大変たくさんの
項目があるようでありますが、
最初の第一と第二の
項目について主として
お話をしたいと思います。
第一の
項目は、申すまでもありませんが、「四十五人の
学級編制の
標準を、例えば、四十人以下に引き下げるとともに、
複式学級を解消すること。」それから第二番目の
項目は「四十五人を超える
学級を直ちに解消する
措置をとること。」こうなっているようであります。
そこで、まず第二の方について私の見方を申し上げますと、
平均をとりますと、現在でも四十一人以上の
学級というのは
小学校の場合二五・五%、
中学校の場合五〇・八%だそうであります。そういうことを
考えますと、
中学校の場合と
小学校の場合と若干ニュアンスが違うと思いますが、
小学校の場合はすでに七五%ぐらいの
学級が四十人以下というふうな状態になっておるわけでありますから、いろいろむずかしい点はあると思いますけれ
どもこういう線で努力ができるのじゃないか、こんなふうに思います。それから
中学の場合は後ほどちょっと申し上げます。
それで、この問題はよく諸
外国の
基準と比較されるわけでありまして、諸
外国が、
小学校の場合は三十人前後、
中学校の場合はもう少し多いけれ
ども、それでも四十人以上の
学級はないというようなことを比較されますので、諸
外国といいましてもやはり
先進諸国、
欧米諸国ということになると思いますが、そういうことを
目標に
教育条件をよくしていくということは大変必要なことではないか、こう思うわけであります。
ただ、いつ、どの時期までにその
目標を達成するかというようなことになりますと、率直に申しましていろいろな面でかなりむずかしい問題があるのではないかと思います。大きく分けまして、
一つは
財政上の問題、それが七〇%か八〇%のウエートを占めていると思いますが、もう
一つは、余り言われませんが、
教育の
効果を上げるというような
問題点から検討するというようなことも必要じゃないかと思います。
最初の
財政上の問題というのは言うまでもありませんで、この
決議が行われたのは四十九年でありますが、
実態としては四十八年までの
経済情勢の
推移というようなものが反映しているのではないかと思います。われわれジャーナリズムの
言葉で非常に大ざっぱに言ってしまいますと、
高度成長期から
安定成長期へというようなことで、この四十九年、五十年あたりを境に、それまでの
経済社会全体の模様がその後大きく変わった
状況を表現しておりますが、どうも
教育問題にもこの問題が反映しているのではないか、こんな気がするわけであります。御
承知のように、四十九年にはGNPが
実質マイナス成長を初めてとったわけでありますが、その後おいおい回復化しておりますが、これに伴いまして
財政規模な
ども非常に問題がある
状況になってまいりました。
公立小・中学校の場合でありますから、これは当然国税なり
地方税なりというようなことになるわけでありますが、こういう
財政の面からかなりむずかしい問題がその後生じてきており、その
状況がこの五十三年から五十四年へという
状況でも余り変わらないのじゃないかというような気がいたしますので、私も実は大変困っているわけであります。それから、この一、二年で変わらないということだけではありませんで、今後五年とか六年とか、六十年ぐらいまでの
段階を
考えますと、やはりこういう問題が続くのではないか、こういうような気がしております。
そうしますと、この間に実は、小・
中学生の方は第二次ベビーブームと俗に言われておりますが、現在
小学校一千万人、
中学五百万人と、大体の
数字でございますが、それが
小学校の
ピーク時は何か五十六年ごろだそうでありまして、千百七十万人ぐらい、
中学校の
ピークは六十一年ぐらいだそうでありまして、六百万人ぐらいになるわけでありますが、それが六十年代の終わりになるとまた現在ぐらいの
数字になるわけです。そこで、
生徒数がふえますから当然現在の
基準でも
学級増、
定数増ということをしなければならないわけですが、その
段階に一挙に
決議の二番目の「直ちに解消する」という
措置を絡ませていきますと、その後、六十年代後半以降の
教育条件が非常によくなるということは言えるのでありますが、それから、もちろんできればそれをやることにこしたことがないと思うのですが、その辺になかなかむずかしい問題があるのではないかと外から見ております。
それから、これは当
委員会に対しては若干問題のある
発言になるかもしれませんけれ
ども、あえて申し上げさせていただきますと、われわれ
民間会社にいる者の感覚といたしましては、
民間ではいま非常に雇用の
条件が厳しくなっておりまして、
増員は
おろか減員というようなこともしきりに行われているわけであります。それから、いろいろお伺いしますと、他の職種の
公務員などは、やはり行政管理庁の方針その他で
定員をふやさないというようなことを鋭意努力しているようであります。そういうときに、もちろん
教育は非常に大事な仕事でありますから
教育の
条件をよくするということは
賛成なんでありますが、非常に急激な
増員というようなものを
社会がどういうような受け取り方をするかというような問題が
一つあるのではないかと思います。しかも、その間に
教員の待遇の
改善というようなものは、俗に言う
人確法によりまして二〇%ぐらい
一般公務員より高いところまできております。そこで平たく言ってしまいますと、給与は非常によくなった、しかも
定数も非常によくなった、それでそこで果たして
教育がよくなるのかどうかというような問題が出てくるのではないか、こんな気がしているわけです。その辺に対しまして、やはり国全体の行政あるいはわれわれ
社会の方から言いますと
経済社会全体の
動向の中で、この問題を少し冷静に
考えるという必要があるような気が私はいたします。
それは主として
財政上の問題でありますが、もう一点、これはいまの問題に比べればそう大きな問題とは思いませんが、
教育内容の問題との絡みがあると思います。俗に、一
学級当たりの
生徒数では
わが国は
先進諸国に比べてかなり劣悪な
条件と言われているわけでありますが、たとえば
児童・
生徒数に対する
教員の
比率というようなものをとってみますと、これは私がじかに
調査したわけでありませんで、
文部省調査課の「
教育指標の
国際比較」というパンフレットに載っている
数字でありますが、おおむね
先進国並みになっているようであります。それから、
先生一人
当たりの
授業の持ち時間という点でも大体同じようなことになっているようであります。もちろん、
学校で
先生方の勤務というものは
授業だけではありませんが、一応
授業について言えばそんなような
状況になっております。
それで、この理由を
考えてみますと、
わが国の場合、
小・中学校とも
学級担任外の
先生というようなものが
割合数が多く配当されているようでありまして、特に、
小学校の場合はそれほどでもないのですが、
中学になりますと
教科担任制でありますから
担任外の
先生がかなり配当されている。そういうことで、
先生一人
当たりの
児童・
生徒数という点で見れば
先進国並みになっておるということだと思います。そして、なぜそういうことになってきているかと言いますと、
日本の
学校の
授業時間というものが
先進各国に比べて多いというような
状況、それから
カリキュラムがかなり複雑でありまして、
小学校でも、できれば
体育とか音楽とか特定の
教科については専科の
先生がいた方がよろしいというような
状況、いろいろそういう
カリキュラムの組み方、
教育内容の問題が絡んでいるのではないかと思います。
そして、この
教育内容の問題というのは国全体の
学校に対する
考え方の問題だと思いますが、これについては、それぞれ歴史と伝統によりまして生々発展してきた経過があるわけですから一概に比較するのは大変間違いだと思いますが、私の
考え方を言いますと、
日本の
カリキュラムというものはかなり過密なのではないか。特に
小学校の一年生から七
教科もずらっとそろえてやっているというような国は、まずほかの国にはないのでありまして、そういう
教育内容の問題というようなものもやはり
考えてみる必要があるのではないか、こんなふうに思います。
今度は
教育課程の
改正が行われまして、若干整理されたようでありますが、この点は、私
個人としては完全に整理されたとは思っておりません。たとえば
小学校の
授業時間削減といいましても、各
教科をみんな一割か二割ずつ削減した
程度で、
内容にまで立ち入ってそういう
小学校の
カリキュラムを精緻に検討した、その時間もなかったと思いますので、そこまでは立ち入っていないと思いますので整理されたとは思いませんが、若干の前進はあるようであります。たとえば
小学校の四年以上、
高学年といいますか、中
高学年の
授業時間数というものが
週当たり二時間か三時間減っております。それから
中学の場合は、一年、二年では三十四時間が三十時間に、それから三年では三十三時間が三十時間に減っております。もちろん、これが減ったからすぐ
先生方の
授業時間が少なくなるとも言えないかと思います。それはいろいろと
学校裁量の時間を活用するとか、いろいろなことが言われているようでありますが、しかしながら、やはりこういう
状況も絡めて一緒に
考えていく必要があるのではないか、こんなふうに思います。
それから、
学力低下の問題が
増員の要求の根拠に
一つなっておるようでありますが、確かに、日教組が昨年発表されました
学力白書などによりますと、
日本の
学力が
低下しているということが書いてありまして、非常に憂慮すべき
状況かと思います。しかしながら、これもちょっと私なりに読んでみますと、かつて二十年代や三十年代は一
学級六十人とか、
教育条件の非常に悪いときであったわけです。その後どんどんよくなっておるわけですが、なお
学力が
低下しているというようなことは、
学力低下の問題というのは、直接
教員の
定数の問題と絡めて話し合うためにはもう少し詳しく研究をしてみる必要があるのではないかと思います。
学力低下の問題は
アメリカとか
イギリスとかでも
調査がありまして、私が
比較教育学の
先生方からお伺いしたところによりますと、やはりそれぞれの国でいろいろな
調査の結果、
基礎学力の
低下、
教員の資質の問題だとかいうものが問われているようであります。
〔小
委員長退席、
藤波小
委員長代理着席〕
しかし、この問題も、私なりに
考えてみますと、それぞれの国の
社会事情がある。たとえば、
アメリカではいろいろな人種の
人間を抱えて
教育が大変むずかしいというような問題、
イギリスの場合には全体として
経済社会の
動向が
わが国とか西ドイツとかとは違う趨勢をたどっている、そういう背景があるかもしれませんし、また、
情報化社会というような
言葉で集約されますように、子供が昔みたいに非常に落ちついて
学校だけで勉強していくというような時代ではなくて、いろいろなところからさまざまな
情報をどうしても入れられてしまって混乱するとか、そういうような問題もあるでしょうし、全体として、
人間が努力するインセンティブである
危機感とか
貧乏感とかいうものが喪失してきているというような問題もありましょうし、総じて、何か
先進国における
学力低下というようなものはもっと大きな文明問題であるのかもしれないというような
感じが私はしているわけです。ですから、もちろんこれを守るべき手だてはいろいろと講じなければいけませんけれ
ども、この問題はちょっとむずかしい問題がある、そんなふうに私思っております。
大体そんなような
感じでありますが、当面の問題として、本年も、
文部省の
予算書を見せていただきますと一万六、七千人の
教員の
増員をしているわけですが、ここのところずっと数年そうしております。こういうものはできれば二万人台とか、そういうことで今後数年間進めていくというようなことは必要かと思います。そして、できるだけ、先ほどの
国会の
決議の二番目の
措置に
小学校の場合はなるべく早く近づけるというような施策が進むことは私も期待しているわけです。
ただ、
中学の場合は、現在四十一人以上の
学級というのが五〇%ぐらいあって、
小学校に比べますと
平均三十七人と、かなり高いわけでありますので、これは
小学校よりは少し遅くなるのもやむを得ないのじゃないか、こんなような気がいたします。
中学校の場合は、
中学校の
学校教育の目的は、
学校教育法三十六条には「
個性に応じて将来の
進路を選択する
能力を養うこと。」こう書いてあるわけですが、どうも現在の
状況は必ずしも
中学校はそうなっていません。むしろ、
中学校段階になりますと
個性も
能力もかなり多様化してくるわけで、その点、
教科によってはかなり少ない
人数で
教育をした方が
教育効果が上がるような
教科があるのかもしれない。それから、たとえば
教科によっては四十人とか四十五人の方が、
体育などはやはり球技などをやるのには
人数が多い方がいいというようなこともありましょうし、何かもう少し
カリキュラムの問題と絡めて、もちろん
目標四十人の
方向で進むことは大
賛成でありますが、きめ細かくこの辺を
考えていく必要があるのではないか、こんなふうに思います。
それから、
事務職員、
養護教員の問題が
一つ問題になっているようでありますが、これは私もよくわからないところがありますけれ
ども、とにかくこういう
事務職員、
養護教員というようなものはいた方がいいのでありまして、七五%というようなことじゃなくて、必要な
学校には全部配置できるようにいくことが必要かと思います。ただ、別にわれわれ大蔵省の
立場をそんたくする必要はないわけですが、
一般的に
考えた場合に、
事務職員、
養護教員の
増員と
教員の
増員がどういうふうな絡みになっているのかというふうなところがかなり明快になっていませんと、その辺でなかなか
事務職員、
養護教員の
増員というのもむずかしいというような
状況が続いてきたと思いますので、この辺は
趣旨を明確にして
増員をしていくということがいいかと思います。
いずれにしましても、この二番目の「直ちに解消する
措置をとること。」というのは、「直ちに」は別問題として、この
方向にいくことは非常に
賛成なのでありますが、一
学級の
学級編制の
標準というような問題、この問題だけで
教育条件を議論するということには私は若干の疑問がございます。その辺は
国会の方でもいろいろお
考えになりまして、四十人と書かないで、「例えば、四十人以下に」と含みのある書き方をしたのは、やや私と同じようなお気持ちを持たれたのではないか。私、どなたにもお伺いしたわけではありませんが、きょうここへ来るというので、ちょっと過去の
文章を見て
感じた点であります。
そういうわけでありまして、
法律の
改正というのは、ことしはもちろん来年度も間に合うかどうか私にはわからない。それをやるにはもう少し、この十年間ぐらいの
財政事情、
生徒増、そういうものを
考える。それから私の希望としては、それは
教育内容に立ち入って、それとの絡みでも
考えてほしい、こんなふうに思います。ただ、しかし、
法律を
改正しなくても
先生の
増員はできるわけですから、
先生の
増員は
財政の許す範囲で拡充することがいいかと思います。
どうも失礼しました。