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宇津参考人 最初のは
地震の
予知の確立の問題でございまして、たとえば何%当たるようになったら
予知が完成したかというようなことですが、これはなかなか言うのがむずかしい問題でございます。たとえ一〇%しか的中率がなくても
予知をしたらいいんではないかという考えも成り立つだろうと思いますし、九割くらい当たらなければ、むやみに
予知を出すのは人心を騒がせるだけであるという考えもあるかと思います。結局どの
程度確信があったらば
予知を発表すべきで、それ以下ではすべきでないという境目は、発表したことによって生ずる利益と、それから発表したのに外れて生ずるいろいろな混乱その他の損害、あるいは発表しないのに突然襲われてしまったための損害、そういうのを勘案して決めなければいけない問題だろうと思うのですけれども、これは非常に複雑な問題でございます。それから人間の心理というものも
関係してくると思います。わかっているのに言わないのはまずいという考えもあるわけですね。ですから一つの案としては非常に確かであるとかあるいは半々ぐらいの
確率であるとか起こる
可能性はそれほど高くはないけれども、少し心配なことがあるといったような
確率的な表現をつけた
予報の発表ということも考えられるわけでございますけれども、こういうことは非常に
社会的な問題がありますので、しかるべき
社会心理とかあるいはいろいろな
関係の専門家が
研究した上で決めるべきことではないかと思います。私ども
地震そのものの
研究者としましては、ちょっとそこまでのことについて余りうまい言葉が浮かばないわけでございます。
それから、もちろん、いろいろな
観測研究を進めていけば平均的に見ましてそういった
確率が高くなることは疑う余地もないわけでございますが、これも
地震の
性質によりまして、ある種の
地震ですと、たとえばかなり浅い
地震は
前兆現象が非常によくあらわれるということもありますが、深さがたとえば三十キロ、四十キロ、東京の直下あたりにはそういう
地震が起こる
可能性がなきにしもあらずですが、深くなりますと、
被害も小さくなりますが、
前兆のあらわれ方も非常にとらえにくくなると思われます。そういったわけで、
地震によって、将来非常に進んだとしても
予知のしにくい、
予知のできない
地震は残るだろうと思いますし、これも一概に、たとえば何年たてば
マグニチュード七以上は八〇%は当てるようになるということは言いにくい
状況でございまして、その辺の数字を言うのはちょっと御勘弁願いたいと思うわけであります。
二番目は、人の問題だったと思いますけれども、私ども大学はそういった
研究者の養成を第一の使命としてできておるわけでございます。たとえば、
地震関係の
研究者は、
予知計画の始まる前に比べましておそらく二倍あるいはもっとふえたのではないか。というのは、
関係官庁あるいは大学のポストがふえまして、そういったところに就職できるようになったわけでございます。たとえば
地震学会での
研究の数なども十年前に比べれば三倍ぐらいになって、その中には非常にすぐれたものも出てきておるわけでございまして、全般的に見まして大変順調に伸びているという感じはいたしますが、やはり現在をとってみましても、
地震学などをやったのでは大学を出ても就職がないんじゃないか。特に
基礎的な問題、理論的な問題をやりますと、
東京大学では比較的少ないのですが、私の前におりました名古屋大学あるいは
北海道大学では、いわゆるオーバードクター、地球物理
関係をやっても就職先がないということがそろそろ出かかってきておりまして、せっかく
地震学を勉強した優秀な学生が意に反して民間会社に就職して自信を失ってしまうというようなこともたびたびあったわけであります。
そういうわけで、現在のところ、もう少しそういう
地震関係のポストをふやしても供給不足になるということはまだございません。これが一遍に五倍も十倍もなればまた問題でございますけれども、現在では問題はないわけでございます。それで
地震学を
研究して
災害防止に役立ちたいという学生も、そういう志願者は非常に多いわけでございますので、そういう人たちの人材確保というのも大事な問題だろうと思います。
それから第三番目は、
予知計画に関連しまして、大学以外の官庁に対する注文というようなことだったと思いますけれども、
地震予知の事業というのは非常に専門の違ったものを組み合わせてやっておりまして、測量というものと
地震観測というものは、非常に違った技術でございます。それから最近ですと、化学的なものだとかあるいは地質学というようなものも非常に大きなウエートを占めてまいりまして、違った専門のものの力を合わせてやっているわけでございます。そういった点では、現在までのいろいろな
関係機関、官庁間、あるいは大学等の
関係というのは、こういった事業としては非常によくいっているのではないかと私ども思っております。
ただ、それぞれの機関に行きますと、たとえば
気象庁ですと、
気象庁というのは大体天気
予報をやるところであって、
地震というのはほんの添え物にすぎないという感覚が以前はございまして、恐らく
気象庁全体の一%か二%ぐらいしかウエートを占めていなかったと思いますが、最近ではだんだん
地震関係も拡張されてまいったようでございますけれども、まだ課が一つか
二つあるだけでございまして、部にもなっていないということで、外から見ますと、非常に重要な仕事をやっているわりには苦労しているのではないかと思っております。同じようなことは、たとえば
国土地理院もそうでして、
国土地理院は地図をつくるのが専門であって、測地学的な
地震予知のための測量というのは従の仕事、従来はそうだと思うのですが、あるとき
地震予知の仕事に携わって成果を上げたような方が、非常に長い目で見なければいけない仕事であるにもかかわらず、そこを外されて別の部門に行かれるということもありまして、外から見ておりますと、何かもったいないような気がすることもございます。
ほかの官庁についても、やはりそれぞれ
地震というのはその官庁の専門ではなくて、わき道のような仕事でありますので、そういった感じはいたしますけれども、といって、これをいま急に、そういった
関係者だけを一つに集めて何か官庁をつくったら果たしてうまくいくかどうかということは、これはやってみなければわからないことでございます。非常にむずかしい問題があるのではないかと思っておりまして、いずれはそういった
地震に関する専門官庁というのが必要なことは明らかでございますけれども、そういったものは慎重につくるべきではないか、そう感じております。
以上でございます。