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参考人(
深谷昌弘君) 成蹊大学の
深谷でございます。
ごらんのように、私は若輩者でありますし、また学問的にもまだまだ未熟でありまして、しかも、このような場で
意見を述べるという経験もこれまでございません。それでお聞き苦しい点もあるかと思いますが、しばらく私の
意見をしんぼうしてお聞き願いたいと思います。
私は、今回の
改正案における主な
改正点というのは、次の二点であると理解しております。
まず第一は、
交付税及び
譲与税配付金特別会計の借り入れに関してのものであります。内容は、借入純増加額の二分の一を当該
借入金をした
年度以後の
年度に
臨時地方特例交付金として
一般会計から繰り入れるというものです。ただし、この
措置は当分の間とされています。この当分の間という意味は、先ほど
渡辺参考人から出ましたように、大蔵・自治両大臣の取り交わしました覚書を敷衍しますと、
地方財政が好転し、あるいは
地方税財政制度の基本的
改正が行われるまでの間と、こういうふうに解釈されます。
それからもう
一つの主要な
改正点は、
公営企業金融公庫の
融資対象事業に関してのものであります。すなわち普通会計における三
事業を融資
対象として認めるというものであります。で、これは従来なされていなかった普通会計への融資に、いわば端緒を今回開いたというふうに私は理解いたします。
で、以下、私の
意見は、この
二つの点について私なりの私見を述べさせていただきたいと思います。
大きく分けまして、以下三つの観点から私の
意見を述べたいと思います。
最初は、まずこれらの
改正、諸施策の必要をもたらしたマクロ
経済的な背景、そして
財政の
状況、そういうものについて私がどのように理解しているかということ、これが第一です。
それから第二は、今回の施策がいわば暫定的な施策であると、性格的にはそのようにとられますので、暫定的施策として私はどう評価するかという点であります。
それから第三番目は、暫定的とは言いながら、それがやはりある意味で
制度の
改正でありますから、
制度というものはある
程度継続すると見られます。そうした場合に、中長期的な視点から
問題点はないかということが出てまいりますので、中長期的な視点から
問題点があるかどうかということに関して、三番目の
最後の問題として触れたいと思います。
改正案の暫定的な性格としての評価とそれから中長期的な評価に入る前に、まず、これらの諸施策がなぜ必要とされるに至ったかということに関する私なりの理解を簡単に述べておきたいと思います。
まず、マクロ
経済的な側面に関して申し上げますと、第一に、中長期的には、高度成長路線から安定成長路線への、いわば
経済の進路のシフトダウンが生じているということ。それから第二に、
景気変動という、先ほどの成長路線のいわば中長期的な問題よりは、やや短期な局面の問題となるわけですが、オイルショックあるいは円高、そういった事柄による不況が現在発生している。この
二つがマクロ
経済の面では指摘されるわけです。
すなわち、中長期の路線のシフトダウンと、それから
景気の落ち込み、この
二つが重なって発生している。そのために不況は長引き、また深刻化しており、またさらに、マクロ
経済は今後もなかなか立ち直れない
状況にあると見られているわけです。
こうしたマクロ
経済の
状況に対して、
財政の
状況はそれではどうか。
まず第一に、国、
地方ともに大幅に
税収が落ち込んでいる。こういった
経済状況を反映して、国、
地方ともに大幅に
税収が落ち込んでいる。それから第二に、国、
地方とも
歳出需要の
拡大傾向は、高度成長期からやはりまだ継続している。それから第三に、その結果として、国、
地方とも深刻な財源難に陥っている。しかも、その改善はこのままでは当分の間見込めそうもない。このことは、大蔵省あるいは自治省から発表されております国、
地方の
財政収支
試算でも明らかであります。すなわち現行の
財政制度、税
制度が維持された場合に
財政収支がどうなるかというケースを見れば、この財源難が当分の間続いていきそうだという予想がなされているわけです。それから四番目に、
財政の
機能としては、これは教科書的でありますが、資源配分の
機能。すなわち公的財サービスの供給、第二に所得再分配、第三に安定成長——フィスカルポリシーと言いかえてもいいかと思いますが、この三つの
機能が挙げられておりますが、このうち
地方は主として資源配分、中でも地域的な公共財サービスに責任を持つべきものであると私は
考えております。所得再分配、安定成長、そして国家的な規模での公共財サービス、それは国の責任と
考えております。目下の不況期においては、フィスカルポリシーの要請上、減税、
歳出増などが必要とされているわけであります。
次の点は、フィスカルポリシーは、基本的には国の責任とはいえ、現在その
政策手段としては
公共投資が依然として大きな比重を占めざるを得ない。そういう現在の
わが国の
財政制度にあっては、やはり
地方財政の協力が必要不可欠となっていると言えるかと思います。
最後に、このような
状況のもとで
地方財政は
税収の落ち込み、そしてフィスカルポリシーの要請という二重のパンチを受けていわばダウンしかけていると私は
考えます。しかも、前に申しましたように、このダウン寸前のグロッキー状態というのは放置されていれば容易に回復しそうもない、このように私は見ているわけであります。
以上述べたような
状況の中で、今回の
改正案が提出されている、そのように私は認識いたしております。
そこで、以下この
改正案の私なりの評価を述べたいと思うのですが、今回の提案は、
交付税特会借り入れについては「当分の間」という形容詞がはっきりついておりますし、また公庫の融資
対象拡大にしても、普通会計が必ずしもタブーではないということを示したわけではありますが、しかしその
融資対象事業も臨時
事業とされていて、必ずしも恒久化されるものとは限られていないわけであります。したがって、
両者ともやはり暫定的な性格のものであると言わざるを得ないと思います。
さて、暫定的な施策として見た場合にどうであろうかということなのでありますが、その場合に
二つのことを
考える必要があると思います。
まず、現在の
地方財政の困難の度合いというものがどれほどのものであろうかということでありますが、この困難の度合いは、フィスカルポリシーの要請に支障を来すという、それだけのことではなくて、やはり地域的公共財サービスの
確保も困難になっている、そういう
状況にあると私は
考えます。たとえば五十三
年度におきましては、一兆三千五百億円の
地方債が財源
対策のために
増発されております。これはやはり単なるフィスカルポリシーの要請に支障を来すというだけでなく、地域的公共財サービスという
地方財政が第一義的に果たすべき責任の個所においても、やはり困難を来している、そういう
状況にある
一つのあらわれではないかと思います。こうした困難な
状況は、
歳出の合理化はもちろん必要ではありますけれども、しかしそれで乗り切れるものではないと
考えられます。
第二として、何よりもまず公共財サービスの
確保と、それから不況からの脱出ということが目下の急務であるとすれば、そしてこの困難が当分継続するとすれば、
交付税の
確保と、それから
地方債の発行の円滑化はやはり不可欠であろうと
考えられます。したがいまして、「当分の間」という括弧つきではありますが、それにめどをつけたという今回の提案はそれなりに私は高く評価し得ると
考えています。しかしながら、このそれなりに高く評価し得るという意味は、こういう困難な状態にあってめどをつけたという意味と、もう
一つは、この提案が暫定的だからこそ評価できるという意味が含まれております。すなわち中長期的な観点から
考えますと、以下私は国、
地方をあわせての
財政制度の抜本的な改革がいま必要になっていると
考えるわけですが、その抜本的な改革の方向が現在まだ確定しておりません。そういう中にあっては暫定的な施策だからこそ意味がある。そういう国、
地方あわせた全体としての
財政制度のあり方が
確立していない状態においては、ある一定の方向だけを
地方財政の
制度においてとってしまうということにはやはり問題がある。したがって、そういった抜本的な方向が
確立されるまでの暫定という意味においてこそ評価できる。そういう意味もあるということであります。
最後に、中長期的な視点からの
問題点を申し述べたいと思いますが、今回の提案を暫定的とみなした場合に、それなりに高く評価し得るということは申し上げたとおりなのですが、中長期の観点からはやはり問題が残ります。以下では
幾つか気づいた点を指摘してみたいと思います。
まず、中長期的な視点から問題を
考えてみるというときの、中長期的な前提条件として私がどのようなことを
考えているかと申しますと、まず第一に
税収でありますが、
税収については成長路線のシフトダウンによってかつてのような大幅な伸長はこのままでは期待できないと
考えております。それから
歳出面につきましては、高度成長期には
公共投資がどちらかというと、
景気抑制の手段として使われる
傾向があったという関係もありまして、依然として社会資本整備が立ちおくれていると
考えております。また各省での整備
計画も、昨今の財源難から大幅なぺースダウンを強いられる
傾向にあったことは御承知のとおりかと思います。
私も
地方財政の長期展望に関する研究作業をいたした経験がありますが、そこで可能な
地方財政の投資量はどれぐらいになるであろうかという
試算をした経験がございますが、やはり財源的に見ますと、これまでの十年
計画、五ヵ年
計画といった諸
計画が大幅にぺースダウンせざるを得ないというのが現下の
状況だというふうに、その
試算の中でも結果が出ております。
それからもう
一つ、社会福祉的な支出の
需要についてはどうかと申しますと、高度成長期における
自然増収に頼った安易な
拡大ということについては、現在反省が求められているわけですが、しかしながら、今後人口老齢化が急速に進む、あるいは核家族化が進んでいくだろうといったファクターを
考えますと、これらはやはり社会福祉的な支出
需要を
拡大させる基調を持っておりますから、この福祉的な支出
需要の
拡大基調というのは今後も変わらないであろうと私は
考えております。
したがって、「当分の間」という括弧つきの表現がありますが、その「当分の間」が解消するケースとしての
財政の好転による解消というのは私は望みがたいと
考えております。税
負担率の
引き上げを含む税
財政制度の基本的な
改正が国、
地方ともに必要と思われるわけであります。このようなことを私はまず中長期的な視点の前提条件として
考えております。
そのときに、次に、安定成長路線に即した中長期の税
財政制度が必要だということを申し述べたいと思います。
現在の
交付税制度及び
地方行財政制度は、高度成長期にはある
程度うまく
機能してきたわけですが、現行
制度が果たして安定成長路線の上でうまく
機能し得るかどうか、うまく
機能しない可能性があると
考えます。たとえばその徴候として、国の
財政においては建設
公債主義が破綻いたしました。それから
地方では今回の提案が行われております。こういったことはやはり高度成長期に
機能していた国、
地方の
財政制度が安定成長路線の上でうまくいかないかもしれないということの徴候であろうと
考えます。
地方税財政の基本的
改正ということも全体の税
財政制度のあり方の一環として私は
考えられる必要があると思います。で、新しい全体の税
財政制度について要求される
幾つかの必要な性格というものが
考えられるわけですが、時間の関係もありますので、二点だけ私は指摘したいと思います。
まず
一つは、税
負担率は全体として
引き上げられるであろうということ、そのような
制度の改革になるであろう。第二番目として、
景気調整をより的確に行い得るような
制度であると、これが必要であろうかと思います。で、実質成長率が高いときは
経済の少しの変動というのは大目に見られるわけですが、この実質成長率が低くなりますと、少しの変動でもインフレが激化するとか、あるいは不況感が強まるといった可能性があるわけです。そうしてまた、現在の
公共投資の増減による
景気調整の効果が弱まってきたのではないかというような
問題点もありまして、こうした
景気調整をより的確に行い得るような
制度になることということが
一つの
課題であろうかと
考えます。
で、そのような点を念頭に置きまして、中長期的な視点から
地方税財政制度のあり方ということに私の気づいた点だけを指摘しておきたいと思います。
で、まず第一点は、
地方財政の借り入れについてでありますが、国の借り入れの場合、マクロ
経済全体の貯蓄投資バランスを
配慮しなきゃならないといったことも必要でありましょうが、
地方についてはどの
程度が借り入れとして妥当なものだろうということがやはり
考えられる必要があると思います。で、私の私見では、投資的
経費の範囲、つまり建設
公債主義が恐らく
地方の場合の借り入れを許容する妥当な限度ではなかろうかと、せいぜいそこが上限ではなかろうかというふうに
考えます。で、特別会計の借り入れあるいは
地方債増発などで投資的な
経費を上回るような借り入れが長期的にも行われるとすれば問題ではなかろうかというふうに
考えます。
それから第二点は、
渡辺参考人も申されましたが、
地方財政の自立性についてであります。特別会計借り入れの増大、それから
地方債依存度の上昇、こういった
現象はいまの
制度のもとでは、これらの総枠の決定が、いわば中央に
制約されておるわけですから、そうである以上、三税の一定率という
地方交付税率の
引き上げよりも、やはり自立性を低める可能性は強いかもじれないと
考えます。したがって、抜本的
財政制度改正のめどが立たない
現状では仕方ないとしても、余り長期にわたってこの
制度が維持されるのは問題ではなかろうかというふうに
考えております。で、
地方財政がどの
程度自立性を持つのが適当であるかということに関しては、今後大いに議論される必要があるわけですが、しかし今後の
わが国の
状況を
考えますと、地域格差は次第に縮小する
傾向にありますし、それから人口移動の緩慢化が生じてきております。こういった今後の
傾向を前提に
考えますと、中央
政府による強力な調整の必要性というものは長期的に
低下していくだろうと
考えます。また、定住圏構想といったような
考え方に見られますように、人々が地域社会に定住するという
傾向が次第に強くなってまいりますと、やはりみずからの居住地域のあり方の決定に参加したいと、それぞれが参加したいという意欲も高まろうかと思います。したがって、私としてはいまよりはどの
程度かは、今後大いに議論の余地はありますが、いまよりはやはり
地方の自立性を高めるのが長期的な方向だと
考えております。で、その点から
考えますと、単独
事業のウエートが、ここに
地方財政白書がありますが、そこで普通
建設事業費の推移という図がありますが、それによりますと、
昭和四十一
年度から五十一
年度まで単独
事業費のウエートが
歳出決算額の中で占める比率ですね、これがどのように推移してきたかということが図に描かれているわけですが、それで見ますと、
昭和四十九
年度までは
歳出決算額に占める単独
事業費のウエートというのが高まっております。ところが、五十年、五十一
年度に至ってウエートは実は
昭和四十一
年度のウエートよりも下がっております。で、単独
事業費が果たして自立性の
指標として適当であるかどうかは別としまして、
地方のどの
程度裁量の余地があったかを示す
一つの
指標にはなろうかと思います。それが現在ウエートが低まってきているということは気になるところであります。
で、五十三
年度は単独
事業費の増加率も非常に高いものになっておりますけれども、これは
景気対策の観点からこのようにされたわけであって、決して恒久的なものではないわけです。で、私自身は
地方の自立性ということに関しましては、ナショナルミニマム以上は
地方の裁量に任せる。そうして税
負担も、
地方自身がそれに責任を持つということが理想ではないかというふうに
考えております。これは
財政民主主義の理念から申しましても、それから住民の選好は住民がよく知っているという資源配分の効率性の観点から見ましても、こういう自立性をある
程度高めるということが私は必要だと
考えております。
それから第三番目としては、少しいままで申したこととこんがらがるところがあるかと思いますが、
景気調整への
地方の協力というのは強めざるを得ない。一方では
地方の自立性を高めよと言い、一方では
景気調整に対しては、
地方ももっと協力を進めなければならないというのは、一見矛盾しておるように思えますが、私は自立的な
地方の
財政計画、資源の長期的な配分
計画と矛盾しないようなシステムが必要であるというふうに
考えております。で、それがないと、合理的、効率的な
財政運営もまた破綻を来すということであります。
これまでの経験から申しますと、
景気調整の必要によって
公共投資がしょっちゅうフラクチュエートして、それが長期的な必要な資源配分にかなっているかどうかということが無視されるという
傾向にあったわけです。それであってはならないわけです。そういう長期的な資源配分の
計画と矛盾しないような
景気調整のシステムが私は必要だというふうに
考えます。たとえば
地方の投資を、
景気変動に応じて調整する
地方の投資調整基金のような構想が私は
考えられてもいいのではないかと思います。それで、長期的には、中央
政府の投資が長期の
計画に沿った形で実現されていく。しかしタイミングその他に関しては
景気の変動に合わせた要請に国に対しても協力をしていく、そういうようなことが
考えられてよいのではないかというふうに
考えております。
で、以上のような私の気がつきました点だけを指摘して、私の
意見を終わりたいと思います。
で、このように成長路線の変更と、その中での税
財政制度のあり方という基礎からの検討が現在必要な
事態だと私は
考えております。そのような中において、今回の暫定的な
制度が余り長く
機能しますと、私は前に申し述べましたような
幾つかの点で問題が発生してくると
考えますので、やはりできるだけ早目に基礎的な点からの検討を押し詰めていただきたいというふうに
考えております。
以上です。