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参考人(松沢卓二君) ただいま
委員長から御指名をいただきました
全国銀行協会連合会の松沢でございます。
本日は、
財政特例法案に関しまして私
どもの
意見を述べるようにとのことでございますので、
特例国債を含む国債問題一般につきまして、私の
意見を、あるいは希望を概括的に申し述べさせていただきたいと存じます。
御高承のとおり、わが国経済は石油ショックを契機といたしまして、戦後最大かつ最長の不況に陥りました。その後の景気回復も必ずしもはかばかしくなく、いまなお減速経済への調整局面の過程にあることは御存じのとおりでございます。
経済の各部門に存在しております不均衡、すなわち
財政赤字の拡大を筆頭にいたしまして、国際収支の黒字不均衡、雇用情勢の悪化、需給キャップの拡大、企業収益の低迷などが五十二
年度中には解決の方向を見出し得なかったばかりでなく、むしろその度合を深めたと申すことができようかと思います。
安定成長経済の達成がこれらの不均衡を解消することにあるといたしますならば、その達成は中期的に見ても容易なものではありません。この調整局面は今後も続くと思われるのであります。
したがいまして、内外均衡回復のために
財政金融政策に課せられました責任はきわめて大きいと言わなければならないのであります。
かかる観点から、先ごろ当
国会におきまして成立を見ました五十三
年度予算が、公共事業支出を中心にいたしまして景気刺激大型予算となっておりますことは、三月から四月にかけまして、実施されました全面的な
金利引き下げと相まちまして、景気浮揚や円高などに相応の効果を挙げ得るものと評価をいたしております。私
どもといたしましても、でき得る限りの努力をいたしたいと存じておる次第でございます。
さて、ただいま当
委員会におきまして御審議をされております
昭和五十三
年度における
財政処理のための
公債の
発行等に関する
法律案は、予算を
財源的に裏づけるものでございますけれ
ども、税収の伸び悩びの中にありまして、内外不均衡の解消のための景気回復が喫緊の課題であることからいたしまして、本
年度特例法によりまして四兆九千三百五十億円の国債を
発行することはやむを得ないものと考える次第でございます。
しかしながら、
財政法第四条に規定されております国債
発行額の歯どめは、過去のわれわれの苦い経験に基づくものでありまして、今後とも節度ある
財政運営につきまして十分御留意いただきたいと存じます。
私
どもといたしましては、いままで申し上げました
状況を踏まえまして、国債の引き受けにも相応の努力をしてまいる所存でございますが、国債の
発行につきまして、せっかくの機会でございますので、国民経済的な立場から特にインフレの問題につきまして申し上げてみたいと存じます。
それは、国債の大量
発行下でもマネーサプライのコントロールが可能かどうかという問題でございます。現在では民間資金の需要の鎮静によりまして貸し出しの伸びが低下をしておりますために、全体としてのマネーサプライは低水準で推移をいたしております。したがいまして、いまのところインフレの危険は認められないということができようかと存じます。
しかし、今後
政府が期待しておりますように景気が
上昇をしてきた場合には、民間資金需要が強まってくる結果、民間部門と公共部門の資金需要が競合することが当然予想されるのであります。このような
状況下におきましては、マネーサプライのコントロールが非常にむずかしくなってまいりまして、インフレを招来する危険性があるということを考えておかなければなりません。
また一方におきまして、五十
年度以来の国債の大量
発行にもかかわらず、現在まで深刻なインフレーションを回避し得ました経済的要因の
一つといたしまして、わが国に特徴的な商い貯蓄率を挙げることができようかと思います。高い貯蓄率に支えられました
金融機関の資金力が、マネーサプライの増加を伴わずに大量の国債を円滑に消化してきたことが、何よりもインフレーションを免かれ得た一因であるということを申し上げることができようかと思います。
しかしながら、インフレの問題は現在は心配は要らないということでございますが、今後の経済の推移いかんによりましては表面化するおそれが十分にあると存ずるのでございます。そういった事態を回避するためには、先ほ
ども申し述べました国債
発行の歯どめはもちろんでございますが、それ以上に市場原理の活用が不可欠であり、いまからそのための環境整備を進めることが肝要と考える次第でございます。
なお最後に、私
ども国債の最大の引受手といたしまして、若干のお願いを申し述べさしていただきたいと思います。
まず第一に、国債大量
発行時代にふさわしい国債管理政策を確立して、そのビジョンを国民の前に明示していただきたいということであります。その意味では、ここ一年間現行の借りかえ方式の見直し、
資金運用部国債の競争入札による売却、
発行条件の弾力化など、それなりに前進を見たことは十分に評価いたしたいと存じます。この動きを今後さらに前進させることが必要と考えるのでございますが、
一つは国債
発行条件の弾力化をさらに促進させ、市場の実勢を的確に反映した適正な
発行条件とすることであり、具体的には競争入札の方法などによりまして、
金利機能を活用した
発行制度を導入することが何よりも大事であると思うのであります。
第三には流通市場の整備であります。国債の大量
発行が続き、市中の国債残高が累増してまいりますと、何より市場で取引価格か資金需給の実勢を正しく反映したものであることが必要となるのであります。そのためには、
金融機関の保存国債の流動化を一層促進いたしまして、市場の拡大と安定を図ることがぜひとも必要であります。それがまた大量の国債の円滑な消化を促進する道であろうかと信ずるものでございます。
要望の第二は、大量国債
発行時代に対応をいたしました貯蓄行政ということでございます。先ほ
ども申し述べましたように、物価の安定の中での大量の国債の消化を支えたものは高い貯蓄率でございます。今後とも続くと思われます国債の大量
発行に備えまして、貯蓄手段の整備と多様化により
金融機関の資金力の増加を図ることは、国債の円滑な引き受け消化にとって最も基本的な条件と思われるからでございます。
第三は
財政政策、
金融政策の運営についてでございます。かねてから
政府が推進しておりますところの景気振興策が所期の成果を上げて景気が回復過程に入ってまいりますと、国債大量
発行下におきましては、先ほ
ども申し上げましたように、マネーサプライの増加によるインフレーションの懸念が生ずるわけでございます。このことはいまも前川副
総裁が御
指摘になったとおりでございます。したがいまして、ぜひ御留意いただきたい点は、まず第一に、
財政政策と
金融政策とが整合性を持って一体となって政策の展開を図っていただきたいということであります。
第一には、同一歩調をとった
財政政策、
金融政策が
状況に応じましてタイミングよく機動的、弾力的に実施されることが必要であるという点でございます。これが満足されるとき、初めて経済政策の効果が実現されるものであり、またそれを通してのみインフレなき経済成長が期待されると信ずるからでございます。
以上申し述べました点につきまして、今後その具体化をぜひ御指導をいただきたいと思います。
私の陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。