○国務大臣(村山達雄君) 臨機応変の措置をとらねばならぬ――とこの国もそうでご
さいますが、それぞれの国の置かれた条件がそれぞれ違うわけでございまして、そういう意味で、日本は日本なりの臨機応変の措置をとっておるつもりなのでございます。ことしの予算編成あるいは金融の持っていき方、これはすべてやはり現状に即した臨機応変の措置をとっておるつもりなのでございます。
御承知のように、日本はかつては貯蓄はほとんど民間の設備投資に回ったわけでございます。しかし、その後長年の不況でございまして、民間の方の資金需要がないわけでございます。それはそのままにしておきますとこれは大変な不況になるわけでございますから、その民間の投資、貯蓄をいかにして活用するかというところにまさに日本がいままで財政主導型でやってきたという理由があるわけでございます。しかし、これとてもいつまでもそれを続けていくことはとうてい不可能であることは当然でございまして、もとよりいまの経済は自由経済でございますから、最終的にはやはり民間資金というものが、あるいは民間の需要というものが日本の経済を引っ張ってくることがなければやがて財政が破綻するであろうということは理の当然であろうと思うのでございます。そういう意味でことしは臨時異例の財政措置をとり、そして最も効果の多いものとして公共投資、そのほか設備投資あるいは住宅投資もいたしましたけれ
ども、やはり公共投資の方が同じ財源を使うとした場合に最も効果が多いであろう、こういう発想であるわけでございます。そしてまた、いま民間に資金需要がないということ並びに民間の採算がきわめて悪いということ――これは比較の問題でございますけれ
ども、家計とそれから
企業と公共部門と、こう並べてみますと、日本の場合は際立って民間の
企業部門とそれから財政が非常に悪いということはもう歴然たるものであるわけでございます。しかし、それをいつまでも財政部門のことを心配しておっては結局立ち直るものも立ち直らないという問題でございますから、思い切ってことしは早く経済を直し、それがやがて財政の健全化につながる、遠回りのようでございますけれ
ども結局早いだろうと、こういう見込みで今度の財政金融措置をやったわけでございます。
補正予算の話でございますけれ
ども、私たちは、いまいろんな民間の機関が七%というのはむずかしいんじゃないか、あるいは経常収支黒字の六十億ドルというのはむずかしいんじゃないか、いろいろ言われていることはよく存じておるのでございます。しかし、まだわかりませんが、今年度の成長がもし五・――これは恐らく五月末にならぬとわかりません。しかし経済企画庁長官も言っておりますように、五%台は大丈夫だ、こういうことを言っているわけでございます。恐らく五・三になるかどうかそれはわかりません。しかし五・三になりますと、ちょうど五十二年度の
平均の伸び率、四半期の伸びで見ますと、大体上の方のげたが二・二%ぐらいはくんではなかろうかと、こう思っております。そうしますと、七%の成長というのは、実はげたを差し引いて
計算いたしますとまあ四・八ぐらいの
平均の伸びでいいという答えになるでしょうし、五ということになれば一・七ぐらい引いて
計算すればいいということでございますから、私はそれほど不可能であるというふうには考えていないのでございます。現に、最近におきますいろんな経済指標を見ますと、まだまだら模様ではございますけれ
ども、漸次在庫の問題あるいは生産の問題、そういった面に明るい面が見えておりますし、設備投資が九・幾らでしたか、名目でいっておりますけれ
ども、最近の民間の
調査では一〇%を超えるというものがかなり出てきております。そういったことを考えますと、それからまた円高につきましては、従来どっちかと言いますとデメリットの面が非常によく出たわけでございますし、またそれが強調されたわけでございますけれ
ども、今後はメリットの面も考えられますし、特に卸売物価あるいは
消費者物価等が政府見通し以上にいま落ちついておるわけでございますから、これは成長の実質
計算いたします場合にはかなりプラスの要素になってくることはもう間違いないのでございます。そういったことを考えますと、私たちは、いま補正、予算の話はすぐに出ましたけれ
ども、なお当初予算におきましても公共事業の手術費を二千億、あるいは財投の弾力条項が特別会計なりあるいは政府機関を除きますと五割あるわけでございますから、私は機に応じてこれらの施薬をやっていけば七%は何とかいけるんじゃなかろうかという感じがしておるのでございます。
六十億ドルの問題はなかなかむずかしい問題でございまして、今年度百億ドルというのが土台でもって百三十一億三千万ドルになったわけでございますから、土台で四十億ばかり上がったのでございます。しかもわが国の方針といたしまして、いまの保護主義の高まりの中で保護主義的な
傾向、つまり縮小均衡的な考え方はとらない。輸出の方は数量でグローバルでございますけれ
ども横ばいである、こう言っておりますから、一にかかって輸入数量の増大をいかにするかというところにくるわけでございます。恐らく四十億ドル余りのものをやはり余分に輸入することができるかどうか、この辺に私は個人としてはその六十億ドルの経常黒字にとどめることができるかどうかということがかかっているように思うのでございます。
そういった意味で考えますと、やはり内需の拡大という問題が、あるいは金利の緩和ということが一番大きな問題に、内需拡大につながりますので、これが基本だと思いますが、そのほかにも
市場開放政策はとっておりますし、ガットも何ほどかは影響いたしましょうし、特に緊急輸入政策をいまやっておるところでございます。政府による緊急輸入政策、あるいは民間による外貨貸し制度によってどれくらい一体出ていくか、これがまあ大きな問題であろうと思います。
もう一つは、いま日銀が踏み切りましたいわば輸入金融につきまして円シフトをねらっていくということで、今度は公定歩合、輸入為替につきましては公定歩合で貸しましょうということになりますと、従来為替銀行の方が輸入ユーザンスの資金を海外から仰いでおったその短期の債務残が恐らく百二十億ドル
程度あるわけでございますから、それがもし日銀の円金融に移るといたしますれば、これはまた大きな問題になるわけでございます。これは経常収支の黒字幅の縮減につながってくるわけでございます。現在のところ、先物相場と直物相場の間の差が、スプレッドがまだかなり大きゅうございますけれ
ども、だんだん、御承知のようにいま円はここのところ安くなりまして、二百二十八円という相場を示しております。したがいまして、だんだん円の先行きにつきまして見方が変わってまいりますと、この直物と先物のスプレッドが大分縮まる。そういたしますと、安い金利で借りた方が得だということになるわけでございましょう。こういった点もやはり大きく期待できるのではないだろうか。
まああれこれ考えますと、私は経常収支黒字の六十億ドルというのが一番むずかしい問題だとは思いますけれ
ども、いま不可能だとは考えていない。あらゆる施策をやりまして内外の、総理の
言葉じゃございませんけれ
ども、何とか内外の期待にこたえたいと、このように思っているところでございまして、したがって、減税のために補正予算を組むというような考えはいまのところ持っていないのでございます。