○
参考人(
石弘光君) 御指名いただきました石でございます。時間が限られておりますので、やや一般的な
視点ではございますが、以下二点にしぼりまして日ごろ考えておりますことの一端を述べさせていただきたいと思います。
第一の問題は、中長期の
視点から見て
わが国で今後
増税が必要かどうかという点、第二点が
不公平税制との絡みで
租税特別措置の
あり方をどう考えるべきかという
視点でございます。
第一点の方から話を始めたいと思います。これは当然今後
増税が必要だという、そういった問題と絡んでくるわけでありますが、す
ぐいまやれといったような議論ではございません。御
承知のように、
目下円高不況がかなり
わが国の
経済に深刻な
影響を与えておりまして、仮に
増税をしたいといってもできるような
経済環境にないという点はどなたもお認めのことと思います。したがいまして、今後
経済が回復いたしまして
増税ができる条件がきたとき、果たして
増税をすべきかどうかというとらえ方の
議論というふうに御理解いただきたいと思います。
結論から申しまして、私は将来
わが国において
増税は不可避であろうと考えております。
理由は幾つかございますが、一番大きな
理由は、現在の
財政赤字というものはやはりこれは
構造的なものであろうと。仮に完全雇用になったとしても赤字が残るという
意味で、完全雇用赤字であろうと考えております。したがいまして、循環的な赤字ではなく、
景気が回復して自動的に解消するという赤字でもない。したがって、
構造的に赤字が積み重なる体質ができております。したがいまして、これをいずれかの時点において解消する方向に持っていくべきである、これが第一の
理由でございます。
第二は、当然このように積み重なって累積してきます言うなれば過度の
財政赤字というものは、さまざまな弊害をやはり与えるであろうということであります。これに関しましてはいろいろな方がもうすでに申しておりますので詳しくは触れませんが、たとえば当然のことクラウディングアウトの心配が出てまいりますし、
財政の本来持つ
資源配分機能を阻害されるというおそれもありますし、あるいは
財政規律の弛緩を通じまして
財政支出がむだ、浪費といった
視点で支出されるといったような心配も大いにあるわけであります。
したがいまして、当然ある時点
財政のバランスの回復に努めるべきであろう。この時点というのは、今後ある程度
経済が回復した、あるレベルに達したときであろうというふうに理解しております。
したがいまして、中長期に見まして
増税というものを避けられないということならば、こういった課題を抱えつつ短期的な、たとえば五十三
年度予算といったようなものの問題も考える必要があるだろう、このように考えております。
このためにまず第一に念頭に置くべきことは、将来どのぐらい
財政赤字というものが出てくるのであろうか、そういった予想され得る姿というものを念頭に描くことであろうと思います。たまたま大蔵省で
財政収支試算というものを提出いたしまして、国会で問題になったのをわれわれ新聞報道等々で承っております。しかし私の感じでは、だれが試算をやりましても、程度の差はあれ、あのような結果がいずれは出てくるのではないか。つまり、高度成長というものがもう考えられないという以上は、試算の前提を幾つかかなりドラスチックに変えても、将来積み重なってくるであろう
財政赤字というものを避けられないであろうと、こういう感じがいたしております。したがいまして、その試算のいろいろな諸過程の吟味あるいは不備、これは十分あると思いますが、その指摘より、より重要なことはやっぱり将来
財政赤字というものが実態として出てくるんである、これを避けられないのだというそういった認識を持ち、その
財政赤字の実態というものを直視して今後の
財政運営というものを考えるべきである、このように考えております。
したがいまして、このようなかなり厳しい
状況で今後の
財政運営を考える必要がある。その
視点から一番やはり重要なのは、
財政規律とフィスカルポリシーというものを何か両立させるような方向で考えなければいけないということであろうと思います。と申しますのは、
わが国の
経済、特に民間の
経済は昔ほどの活力はございません。したがいまして、
財政の出番が今後出てくる回数がますます多い、避けられない。そうなりますと、
財政による
景気の刺激というものが常に問題になる。これは
財政赤字の解消の問題、言うなれば
財政再建と当然矛盾してきます。今後こういうことが非常に大きな問題になるという以上は、この両立というものが考え得るならば考えられなければいけない一つの条件だろうと考えております。
そこで、可能な条件はありますが、それはかなり厳しい条件、それでかつこれは一つしかないであろうと考えております。それは
財政をいかに
景気引き締めに使えるかということであります。と申しますのは、
財政を刺激的な方向に使うのはいとも容易でございますが、
財政を引き締めの方向に使うのは当然のこと
増税、歳出削減あるいは抑制、そういった政策の選択になるわけであります。これは
国民に苦痛を強いる、言うなればなかなか政策的にかつ政治的にもとりにくい政策の選択になります。好況期に
財政を引き締め的に
運営いたしましてそれで余剰を造出し、その余剰でもって過去に生み出しました
財政の赤字を相殺するという、そういったルートをつければ、恐らく
財政の規律とフィスカルポリシーというものはロングランでは両立するはずであります。あるいは
景気の一循環でもやり方によっては両立すると思います。したがいまして、何度も申しますように、かぎは、いまの時点より今後
景気回復が現実になり、かつ
景気が過熱気味になり、インフレへのおそれが出てきたときに、そういった不人気な政策をどれだけとれるかというところに今後の
財政運営の大きなかぎがひそんでいるような気がいたします。したがいまして、現在
景気刺激から減税というそういった主張は、裏返せば
景気が過熱ぎみになったときに当然
増税といったような言いにくいことも政策のプログラムにのせなければいけないという、そういったつながりがあるわけでありまして、仮にその
増税というものを避けて通らなければいけないという主張ならば、現在
景気刺激という
視点から減税というものは余り大きく声を大にして言うべきではない、このように考えております。これが第一の問題。
第二は、先ほど申しました
不公平税制、
租税特別措置、それをどう考えるかという
視点でございます。私の
立場から申しまして、
増税が不可避と考えますと、今後この
増税をどういうふうな具体的なルートで
検討するかというところが次の問題になってくるわけでございます。先ほど
木下先生もおっしゃいました昨年秋の
税調の
答申以来、
不公平税制の
是正というのは今後の
増税のプログラムの大前提になっているということは、これは
国民一般に広く認められていることであろうと思います。
租税特別措置法もこの
不公平税制の
是正という一環から取り上げられるべきであると、事実そのように取り上げられているんだろうと思います。
そこで、まず一般論といたしまして、
租税特別措置法に関しまして私は次の二点を主張いたしたい、強調いたしたいと考えております。
第一点は、
原則として私は
租税特別措置法を認めるべきではないと考えております。
理由は簡単でございまして、先ほど
古田先生が
コストという
言葉で御説明になりましたが、
三つほど御指摘になりましたが、その第一点が一番高い
コストでございまして、
税制の生命でもあるというべき
課税の公平というものを
租税の
特別措置法は大きく乱す、そういった要因になるからであります。
課税の公平というのは、
税制を一般的に広く包括的に適用することから出てくることであります。したがいまして、
税制の一般性、包括性というのが一番重要な条件になります。ところが、特定のグループ、特定の
経済行為あるいは人々、そういったものに特に限定いたしまして優遇
措置を与えるという
措置は、必然的に
税制の不公平を招くという点でありまして、この点を強く主張したいわけであります。と申しましても、世界各国の
事情を見ますと、
租税特別措置を一〇〇%使うなとまでは言い切れないと思います。そこでその存在を認めるときは、あくまで
原則を踏みにじる例外的な
措置であるという
立場を堅持すべきであります。したがいまして、その適用の期限あるいは対象の範囲などは厳しく条件をつけ、期限切れのときは一たん廃止する、安易に継続しないといったような、そういった歯どめも必要であると考えております。
要約して言いますれば、臨時的な性格というものをあくまで
特別措置にはつけておくべきである。そういたしますと、現在日本の
経済の大きな
目標から言いまして重要なのは、恐らく省資源とか省エネルギーとかいうものに限られるのではないか、このように考えます。端的に申しまして、私が認める言うなれば許容範囲はきわめて狭いと言わざるを得ません。
これに関しまして、
昭和三十九年十二月に
税調で出しました、これもしばしば引用されておりますが、
租税特別措置を廃止するときのいろいろな
理由あるいは継続するときの
原則というものが公の文書になっております。これをもう一度思い起こすべきであろうと考えております。
それから、
租税特別措置に関しましてもう一点主張したい点は、タックスエクスペンデチャーという概念を強く打ち出すべきである、つまり直訳すれば
租税経費というタックスエクスペンデチャーですね。これはアメリカを
中心に最近
財政学界でも広く取り上げられております。過去二回ほど
出席いたしました国際会議でも、これが各国の参加者の関心を呼び共通テーマになりまして、その
意味では世界的な問題になっていると言えると思います。
これはどういうものかと言いますと、
租税特別措置というようなものは隠れた補助金である、つまり
租税側から支出されるエクスペンデチャー、支出であるという
視点を
導入するわけであります。
わが国では、どうも過去に余りにも安易に
税制というものを
政策手段に使い過ぎてきたきらいがあるというふうに私は考えております。これが過去の
租税特別措置の大きな拡張につながった原因であると、このように思います。そこで、こういった
視点から重要なことは、タックスエクスペンデチャー対直接的な補助金、つまり英語で申しますとダイレクトサブシディという選択を常に考えるべきである。一定の
財政資金を有効に使おうといったときに、税の方でまけてやるか、あるいは一たん取って支出の方で補助金あるいは移転支払いで払うか、そういったことを一つ一つ対応をつけて考えるという
考え方が重要であります。つまり効率的な公平的なそういった
視点から
財政資金を使うときに、そうむやみやたらに税の方でまけてしまうのがいいかどうかというのは、当然のこと再考の余地があるわけであります。たとえば、税の方で零細
企業あるいは弱者救済といった形でまけるのも一つの方法とは思いますが、それを一たん取って、補助金なりあるいは
社会保障で還元するということも十分考えられる、この方が効率的であり公平であればはるかにこの方がいいわけであります。日本の
予算編成のプロセスにおきましては、余りこのタックスエクスペンデチャーの地位が
予算の中では高くございません。アメリカとか西
ドイツではすでにこれが
予算編成の中にかなりコミットしております。したがいまして、失われる
財源といった
視点から、
予算編成プロセスの中でもこの
租税特別措置と
財源の関係というものをもうちょっと
検討してもいいのではないかという印象を持っております。
この
租税特別措置法に関しましては、
要約しますと、今後たどるであろう日本
経済の進路から考えまして、過去にとったような資本蓄積とかあるいは輸出振興とかいった特定の
政策目標から
税制で優遇するといったようないわゆるタックスインセンティブの
役割りはもう使命が終わったんではないかと、このように考えております。これから必要なことは、
税制の公平という
視点を大きく打ち出して、
国民全体が納得できるようなそういった
税制にすることで、それこそが今後の
増税ということが避けられないとなったいま、
国民に対する一番大きく政策当局がやらなければならない務めであろうというふうに考えております。かかる
意味では、ここ数年間
政府あるいは
財政当局が
租税特別措置法の
整理合理化ということを
促進されておりますが、この
努力は大いに評価すべきであるし、今後不退転の決意でもってこの方向を一層推進していただきたい。つまりこの方向と逆行するようなことをすべきではないというようなことをここで
意見として強く述べたいと思います。
最後に、きょう取り上げました第一の問題と第二の問題の関係でひとつ
結論をつけますと、
不公平税制ということが大きな話題になり、これは絶対に
是正しなければいけないことでありますが、これを解消したからといって、将来起こり得る
財政赤字の解消に必要な
財源が十二分に出てくるとは当然言えないわけであります。したがいまして、やはり今後は
税制をひとつ公平なものにして、広く一般の
国民大衆に
負担をお願いするというかっこうの税体系にもっていかなければいけない。よく言われますように、日本の租
税負担率はまだまだ国際比較の点から低い、これだけ世界的に注目される
国民としてはまだまだ低いわけであります。したがいまして、まだ私は租
税負担率を
引き上げる余地はある。ただいろいろ条件はございます。そういった
視点で、
税制改正というのを今後考えていくべきであろうと、このように考えております。
終わらしていただきます。