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政府委員(中江要介君) まさしくいま先生が御
指摘になりましたように、
日本政府がとっております
考え方は、
韓国の主張にも相当の根拠があるということを前提にして、実際的解決として
共同開発構想になったということでございます。
そこで、
韓国の主張にも相当の根拠があるという、その根拠のありなしの判断はどこかという点は、いま過去の
議事録の全く的確なところを御援用になったわけでございますけれども、沖繩海溝の存在をもって、
大陸だなが割れているのか、割れてないのか、こういう
議論でございます。で、それが
韓国が――まあ私
韓国とその
法律論争をやりまして、
韓国側が主張しているその根拠に年じゅう使っておりました、そしてまたそれが、われわれとしてそれはそれなりにやはり根拠があるなあということになりますその一番の的確な根拠は、北海の
大陸だなに関する国際司法裁判所の判決の該当
部分でございます。で、これは
大陸だなの
境界を画定するときに、どういう原理、原則によるべきかということを説いておるところでございますが、その中で
国際法上の
大陸だな制度というものの根底にある
基本概念をこのように言っておるわけです。
これは判決の第十九項、パラグラフ十九というところでございますが、ちょっと援用さしていただきますと、「沿岸国の自国領土の海中及び海底への自然の延長を構成する
大陸棚に対する
権利は、領土
主権に基づいて事実上かつ初めから存在するものであり」ということでございますので、領土
主権を持っている国は、その海中及び海底に自然に延びていく
大陸だなに対しては、事実上また初めから、もう本当に最初から領土
主権を持ったときから存在するんだと、これが「
大陸棚制度の根底にある
基本概念」である、こういうのが第十九項でございます。
そこで、その自然延長という観念が出てくる。これに対しまして、この判決で争われましたのは、デンマークとかオランダというのは、この
大陸だなが沿岸国の領土
主権に属する、属さないというときには、そういうふうに自然に延長しているということだけではなくて、その
大陸だなが自分の領土に非常に近い場合はこれは主張できるんだという、つまり距離的に近いということを主張したわけです。ところが国際司法裁判所の判決は「近接性」つまり近い、接近しているという「近接性の観念より一層根本的なのは、沿岸国の完全な
主権のもとにある陸地領域は、領土
主権の公海への自然の延長又は連続という原則である。」ということでございまして、一番このポイントになりますのは、パラグラフ四十三項でございますが、「ある海底
区域が沿岸国の陸地領域の自然の延長をなさないときは、」「陸地領域の自然の延長をなさないときは、たとえその領域が他のいずれの国の領土よりもその国の領土の近くにあっても、その海底
区域は当該沿岸国に属するものとみなすことはできない」つまりいまの
共同開発区域にあります地域が、いかに
日本に近いからといっても、それが自然の延長をなさないときは、これはその沿岸国に属するものとみなすことはできないということを、はっきりICJの国際司法裁判所の判決が言っておるわけです。
そこで
韓国は、再三、再四これを援用いたしまして、その
部分は九州のすぐ西だとか、男女諸島の鼻の先だとか、こういう
議論はあるけれども、しかしここの、国際司法裁判所が、
大陸だなの
基本理念だと言っているのは、あくまでもやはり自然の延長でなきやならない。いかに近いからといっても、近いといっても、自然の延長でない場合はだめだということを援用するわけです。
そこでいよいよ沖繩海溝というのは、自然の延長の中にたまたま入ったみぞであるのかどうかという点でございますが、これにつきましてはイギリスとノルウェーの
境界画定の一九六五年の国際司法裁判所の判決にこういうのがございます。
それはノルウェー海溝というみぞが入っているわけです。「ノールウェー海溝により分離された
大陸棚区域は、いかなる自然科学的
意味においてもその自然の延長ということはできない」、つまりノルウェー海溝というものは、もう自然の延長を切っていると、こういうことをはっきり言いまして、ノルウェーとイギリスがこの海溝を無視して
境界を画定したことは
国際法に合致したものと認めるとの
立場はとれないと、こう言っておるわけです。
そこでは一体、それではノルウェー海溝というのはどれぐらいの幅と深さかということが問題になりまして、ノルウェー海溝の深さは四百メートルないし七百メートル、幅は五十キロないし百五十キロ、この四百ないし七百メートルめ深さで、幅が五十キロないし百五十キロのノルウェー海溝ですら、これはもう自然の延長と言えないという判決がある。ところが、この沖繩海溝は、深さは四百メートルから二千メートル、幅は百三十キロから二百三十キロです。ノルウェーの海溝に比べては、もう比較にならないくらい深いし、幅がある、こういうことであるので、
韓国としてはその
大陸だなの
基本理念からしても、またノルウェー海溝が
大陸だなの自然延長と、延長上のみぞだとは言えないという判決があることを根拠にして
韓国の理論武装をしたわけでございます。そのことを、私は
韓国の主張にもそれなりの根拠がある。
そういうことですので、こういう
先例もあり、
日本政府としてはあの際、その国際司法裁判所に提訴しようということを決意いたしましたときも、これは相当の決心であったということを再三申しておったわけでございます。