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参考人(中西準子君) 中西です。
環境対策として、現在進められている
下水道が、どういう
問題点を持っているのかということについてお話をしたいと思います。
すでに、いま
有元さんの方から述べられております
ように、
環境対策としての
下水道の持っている最大の
問題点は、
工場排水と
家庭下水との
混合処理を
原則として現在の
下水道の
建設が進められているという点にあるというふうに思います。いま、
大阪とか
東京とか、そういうすでに
下水道のある区域で、
工場排水によるさまざまなトラブルについて
議論されましたけれども、
東京の場合ですと
工場排水は八・二%にすぎない。しかし、現在進められている
流域下水道計画というのは、
工場排水を多いところは七五%も含むという
ような問題であって、
流域下水道が抱えている
工場排水の問題は、現在の大
都市が抱えている問題以上の深刻な大きな問題であるということをまず強調したいと思います。その
工場排水がどのくらい含まれているかについては、資料の「
流域下水道における
工場排水の割合」というところに載せられております。これは反対運動があるところだけの数字ですので、これの最高値は五九%ということになっておりますが、七五%にも及ぶところができております。この資料は私どもが出しております「
流域下水道反対運動
全国集会資料集」というのから抜粋をいたしました。そして私どもは、
工場排水との
混合処理をする
ような
下水道をつくる限り、かえって
下水道をつくることが日本の
河川を
汚濁させ、海を
汚濁させることになるんだということを最初に強調したいと思います。
なぜ
工場排水と
家庭下水との
混合処理をしてはいけないかということについて一応順を追って説明いたします。
一番目は、
有元さんも言っております
ように、
基本的に、
工場排水を混合するということによって
処理能率が下がるという問題です。そして、現在
家庭下水の
処理で用意されている活性
汚泥法では、
処理が
基本的にできないものがほとんどである。しかし、違った種類の
工場排水が混合することによって、濃度だけは低下して、見かけ上非常によくなって外へ出されるので、あたかも問題がないかのごとくにされる場合が非常に多いということです。ここでは詳しくは述べません。
二番目に、
汚泥が汚れ、
汚泥処分を困難にするという問題であります。午前中に
久保参考人から、
汚泥が汚れればペレット化などをすればいいんだという
ような非常に非
現実的なお話がありました。しかし、ペレット化をするという
ようなことは非常にコストがかかることであり、エネルギー的に考えても非常にむだなことです。しかも、それに伴う大気汚染の問題その他は全く
解決されておりません。
私どもは、普通の
汚泥の焼却場においても、
下水処理場の焼却場において、重金属による大気汚染があるということを証明しております。これは
東京都の小台
処理場の
調査データをここの図表の(2)と書いてあるところに示してあります。これは
汚泥の中に含まれていた重金属が、焼却の過程で飛んでしまい、残った灰の中にどのぐらい残っているかということを示した図でございます。たとえば、水銀については五%ぐらいしか残らない、九五%ぐらいが飛んでしまう。——ここのこの図です。それから、砒素については二五%ぐらいしか残らない。カドミウムについても三五%ぐらいしか残らない。これは私どもが初めて見つけたわけです。そして、それ以外は結局大気中に出てしまうということなんです。
これを実証するかの
ように、京都の鳥羽という
下水処理場の
周辺の土壌をずっと放射状に調べましたところ、
下水処理場に近くになるに従って土壌のカドミウムの濃度が上がっていくということを、京都大学の学生たちの研究によって明らかにしております。これはここに書いてある(3)という資料に示されております。
処理場の近くになると土壌がカドミウムで汚染されている実態が示されております。
この
ように、
汚泥が汚れますと
処理、処分が困難になり、しかも、その過程でさまざまな
公害を出すということがすでに立証されております。
こういう
ような
状態に音を上げました自治体
当局者が、
汚泥処分地をつくれという
ような要求を現在国に対してしております。そうして、
東京湾や
大阪湾に埋立地をつくって大量に処分をしていくという
ような案がつくられております。しかし、これはきわめて危険なことです。それは、埋め立てによる被害だけではなくて、今度は、汚れた
汚泥がどんどん
生産され、どんどん捨てられていくということに道をあけることであり、これは
環境対策として全く逆行であるということが言えると思うんです。私どもは、
家庭下水だけの
処理場にすることによって
汚泥をずっときれいにすることができ、そうすることによって
農地還元をしていくという方向があるわけです。なぜこういう合理的な
方法を追求せずに、一方で
汚泥をどんどん汚しながら、どこか捨て場はないか捨て場はないかという
ような形で求めていくのか、非常に遺憾であります。
さらに危険なことは、現在捨て場がないものですから、
工場排水を入れたままの
汚泥を
農地に還元するという
ような動きが各地で見られます。これは言語道断です。
三番目に、
工場には
除害施設を設置するから大丈夫だという
意見があります。先ほど
有元さんの方から、
除害施設の設置
状況、それからさらにそれの監視の
状況が非常におかしいということが報告されました。ですから、そのことについては私は述べません。ただし、午前中に
久保参考人が、ヨーロッパでは非常に
除害施設の管理その他がうまくいっているという
ようなことを報告いたしましたが、これは私は間違いであるというふうに思います。私どもは、ヨーロッパの
下水処理場の
汚泥を持ち帰り、重金属を分析をし、日本の
下水処理場よりも汚れており、
工場排水が無制限に入っているという事実をつかんでおります。このことについてはここで詳しくお話はできませんけれども、私どもの方でライン川の実態について報告書を出しておりますので、また
参考にしていただきたいというふうに思います。
さらに、
除害施設の場合に非常に重要なことは、
除害施設が一〇〇%機能しても、企業が全部
基準を守り、
除害施設がそのとおりに動いたとしても、現在の
汚泥が汚れるという問題は全く
解決しないということであります。それからさらに、
処理できない有機物や無機物がそのまま出ていくという
状況も変わらないということなんです。そのことをぜひ注意していただきたいというふうに思います。
しかし、この問題の一番深刻なのは、
下水処理場へ
工場排水を受け入れると、
排水処理の責任が企業から自治体に移ってしまうために、企業が安心して汚れた水を出す
ようになるという実態です。しかも、
下水道は暗渠であるために見つかりにくいわけです。常時監視とか自動監視とかいう
ようなことが言われておりますが、全く実態に合っておりません。
公共用水域へ放流している
工場は、代表的な
工場については
基準値の百分の一以下で出すという
ような実態があります。それは多くの人の目に触れ、被害が出たときに、自己の
工場が責任を負わざるを得ないという責任感から、この
ように
工場がお金をかけた
処理をしているのです。私たちは、やはりこういう
ようなシステムを
基本的に採用していくべきであるというふうに思います。
下水道のある区域と
下水道のない区域について、
排水がどういうふうに
処理されているのかということについて、愛知県が
調査したデータを私どもが入手し、グラフにしたのがここの
参考資料の(4)というところに示されております。これを見ていただきますと、
下水道のない区域では八四・三%がきちんとした
処理をしているにもかかわらず、
下水道の完備している市内では、同じメッキ業者について、そういう
処理をしているのは三七・一%にすぎないというデータが挙がっております。これを見ましても、いかに
下水道の暗渠へ水を流すということが企業にとっては非常に楽なことかということがわかっていただけると思います。
四番目の
問題点に入ります。
企業が
水質基準に違反すれば、水濁法に従って操業停止に追い込まれるにもかかわらず、
下水処理場が数年にわたって
水質基準に違反しても、操業停止を受けるどころか、その実態すら、役所間のなれ合いの中で隠されているという実態を見ていただきたいと思います。
その一例として、愛知県の尾西特水の例を挙げたいと思います。一九七四年の四月から八月にかけて五回採水
調査をいたしましたが、放流水の
BODの値は、一番高いときに一一五〇ppm、一番低いときでも四三ppmで、
基準値の二〇ppmを常に上回っております。この実態については
参考資料に渡しました表の一、表の2に書かれておりますので詳しくデータを見ていただきたいと思います。これは
BODだけではなくて、重金属のクロムなどの値についても非常に大きな問題があります。二、三年かかってこの施設が改善された後のことしの一月の
調査でも、私どもの
調査ですが、
BODの値が九二ppmを示しています。一体どうしてこういうことが許されるのか。
下水処理場が企業のためのたれ流しの装置となっていることは歴然だと思うんです。
しかも、これは尾西特水だけの特殊例ではなく、一宮市西部の
公共下水道、福井県鯖江市の終末
処理場もしかりであり、例を挙げれば枚挙にいとまがありません。
環境に
汚水を流すということは犯罪のはずであります。国と自治体がこの犯罪を助け、隠すために金を出して
下水道をつくるという
ようなことが許されるのでしょうか。本日午前中の
参考人の
久保赳さんも、この尾西特水の設計にかかわった方です。こういう方が、御自分のなさった設計が設計どおりに動かないという事実に目を覆ったまま、さらにそれを日本じゅうに拡大していくという
ようなことを続けることは、私は許されないというふうに思います。
第五番目に、私どもが各地で
工場排水を
下水道に入れるなという運動を続けております。そういう中で、自治体の
関係者の人たちが
住民の人たちから突きつけられる質問に答えられず、どんどん
工場排水の量を減らしていくということをしております。たとえば、愛知県刈谷の境川
流域下水道では、当初四十五万トン見込んだ
工場排水が、
住民の追及に会った途端に十八万トンに減ったという実態があります。これは富山県の小矢部川の
流域下水道、さらには静岡県の西遠
流域下水道でもほぼ三分の一に減っていっております。これは、三分の一に減ったから
解決するということではないんですが、この
ように根拠のない数字が並べられているという実態を知っていただきたいと思うわけです。
この
ように
工場排水のことを問題にいたしますと、じゃ、
下水道から外せばいいという問題ではないかという質問を必ず受けます。私どもは、神奈川県藤沢市の
公共下水道計画において、二年間にわたってすべての
工場の
調査をすることにより、
下水道から外した場合にどうすべきか。そして、
下水道から外した場合の方がずっと
処理効率が上がるということを立証いたしておりますので、ぜひそのことを
参考にしていただきたいというふうに考えます。
それから、やはり神奈川県の藤沢市の
公共下水道の
計画なんですが、私どもが
工場排水を完全にカットして、中規模の
下水処理場の
計画を立てました。そのことについては、
住民の皆さんも当初
下水道は絶対にいやだということだったんですが、私の案ならいいということで、一年かかって
住民の方々が納得してくださいました。そして、市の
当局もそれを認め、
工場排水を完全にカットするという
計画で進め
ようという
住民との間に
基本協定書が結ばれました。ところが、この
計画に対して
建設省が、
工場排水を完全にカットしたら
予算をつけないという
ようなおどしを藤沢市
当局にかけているというふうに私どもは説明をされております。一昨日、私ども
住民団体、二十八の団体の代表は、
建設省の
下水道部長を訪れまして、こういう
ようなことを絶対やめてほしいということを要望いたしました。その席で、井前
下水道部長は、
工場排水を完全カットするからといって
予算をつけないという
ようなことは、そんなばかなことはいたしませんという約束をしてくださいました。私どもは、
全国の自治体の人たちが
工場排水をカットすると
予算をもらえないんじゃないかという恐怖を非常に抱いております。その点はまず
下水道法上からも問題がないんだということを、井前部長の言葉をかりてここで強調しておきたいというふうに思います。
それから、さらに愛知県刈谷市の境川
流域下水道計画の場合なんですが、
住民の人たちと私どもで、入ってくる
工場の
排水の
水質を調べましたところ、そのうちの九割が、現在
下水処理場から出てくる放流水
BOD二〇ppmよりもずっときれいな水であるということがわかりました。
BODが五ppmとか三ppmとかいう
ような水でありました。重金属その他については別の問題がありますが、
BODについてはそういう水であることがわかりました。なぜ
下水処理場の放流水よりもきれいな水を
下水処理場に入れなければならないのかということについて
住民が質問したところ、愛知県
当局は答えることができず、
計画だけ
工場排水を見込ませてほしい、しかし、実際のときにはなるべく入れない
ようにするからわかってほしいということを言っております。神奈川県藤沢市についても全く同じ
ようで、
工場排水を実際のときには入れないけれども、
計画としては
工場排水を入れた
計画で申請をさせてくれということを
住民に申し入れております。
私どもは、こういう
ようなことは、
下水道というものが、
環境対策というよりはむしろやたらと
事業量をふやす、あるいは
建設省が自己の扱う
予算の枠を大きくするために、やたらと水増しの施設をつくらせているというふうにしか思えてなりません。一体こういう面の会計検査というのはどういうふうに行われているのかということを非常に疑問に思います。そして、こういう
ようにやたらと大きくした施設をつくれば、今度は赤字を補うためにやむを得ず
工場排水を入れざるを得なくなるわけで、そういう点でも、それは単なる赤字だけではなく
環境対策として非常に大きな問題が残るんだということを強調しておきたいと思います。
以上が
工場排水を入れることの
問題点であります。
第二に、現在の
下水処理場が
環境対策として持っている二番目の大きな問題は、その規模が巨大に過ぎるというところにあります。巨大の
処理場をつくる
一つの理由として、
維持管理が容易であるということが言われております。しかし、これはやはりはっきりと間違いであります。むしろ
維持管理というのは、どういう水がどのぐらい入ってくるかというところの
流入の管理ができて初めて
下水処理場の管理はできるのであって、私どもは中規模の
下水処理場が
都市には一番向いているというふうに考えております。さまざまな費用や何かを計算した結果、日量二十万トンが私たちがつくれる一番最大の規模の
処理場であり、日量五万トンから十万トンぐらいが
市街地においては適正な規模であるというのが私どもの結論であります。
それから、
下水処理場は大きくすれば大きくするほど安くなるということが
建設省から出されておりますが、私どもはこの費用関数について、
全国百十九の自治体のアンケートをもとに
検討したところ、こういうことは全くなく、日量五万トンを超えれば
維持管理費についてほとんど変わらないというデータを得ました。
建設省の費用関数を算出する根拠になっている統計的な
処理に大きな誤りがあるものと私どもは考えております。このことは別の論文に発表しておりますのでぜひ参照していただきたいというふうに思います。
さらに、巨大な
処理場がどういう問題を引き起こすかという例として、私は現在群馬県の玉村町というところに
建設され
ようとしている利根川上流
流域下水道県央
処理場というものについて例を挙げたいというふうに思います。
玉村町は
人口一万五千人の町です。この町に、日量百万トンの
下水処理場をつくろうという
計画です。この百万トンの
下水というのは、ほぼ二百万人の
下水量に当たります。こういう
ような、
人口一万五千人の町に二百万人分の
下水を集めるということの異常さをまず知っていただきたいと思うのです。こういうことは
住民感情としても許せないものであり、そして、そのことは自然
環境とも調和いたしません。逆に
河川の自浄作用を奪ってしまい、非常に不経済で、逆に
下水処理場が
環境破壊の元凶になってしまうという非常に恐ろしい
計画です。私どもは、こういうものを適正な規模に戻して、自然の
環境と調和をする
ような
下水処理場をつくるべきだというふうに考えております。
下水処理場というのは人間の
生活と自然とのかけ橋のはずであり、片方の自然を無視した
ような巨大な
処理場をつくるということは、非常な間違いであるというふうに考えます。しかし、もう一方でやたらと小規模のもの、たとえば学校の運動場に小規模の
下水処理場がつくれるとか、そういう
ようなさまざまなサゼスチョンがなされておりますが、
市街地に限って言いますれば、そういう
ようなものは
汚泥処理についてのきちっとした見通しがなく、
汚泥処理についての見通しのない
下水処理は、
環境対策としてはやはりかたわの、中途半端なものであるというふうに考えます。
三番目に、この
ように
環境対策としても
住民にとっても、非常に大きな問題である、
下水処理場の
基本的な
計画である、
流域別下水道整備総合計画基本調査報告書という内容のものが、ほとんどのところで
住民に公開されておりません。本当に
環境対策として自信の持てるものであるならば、なぜこういうデータをきちんと公表して、多くの人が
環境対策としての
下水道の最適界を求めるという
議論に参加できる
ようにこういう
ようなデータが公表されないのか、不思議でなりません。ことに、自分の隣に、五十ヘクタールから百ヘクタールのところに
処理場がつくられ
ようとする
住民の人たちにとって、全くこういうデータが公開されないということは、これが民主主義日本の姿であろうかと目を疑うばかりであります。こういう点についてぜひとも国の方でデータの公開を義務づける
ように指導していただきたいというふうに考えます。
四番目に、現在、
全国で
流域下水道反対運動、
工場排水を
下水道に入れるなという運動が非常に広く展開されております。こういう
ような
住民運動について、行政
当局は、それが
地域エゴであるという
ような切り捨て方をしておりますが、もちろん出発点は自分のところに
処理場が来るというところから目が覚めた人たちでありますが、長いこと勉強していく中で、本当の
下水処理場はどうあるべきかという問題を提起している運動でありまして、一昨日もその集会がありましたが、
家庭下水だけの小規模の
下水処理場をつくれと、
市町村単独の
処理場をつくれというのがその要求であります。そういう
ような
住民も納得する
下水処理場をつくれば、
建設そのものも早くつくれるわけです。
住民の合意が得られてつくれるわけです。
環境対策として急ぐものであるならば、ぜひともそういう
住民の総意を得られる
ような
下水道の
建設計画に切りかえることを心から要望したいと思います。
以上です。