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田中寿美子君 外務大臣、大変御心労の多いときで、詳しくはこういう
条約の中身な
ども余りごらんにならないかもしれません。これはわずかの時間でございますので、本当に一、二点にしぼって外務大臣の御意思を伺いたいと思います。
これは
船員の
災害の
防止に関する
ILO条約百三十四号で、いままでにみんなが問題にいたしましたことは、
船員の
海上の
災害は
陸上の
労働者の
災害をはるかに上回っている、大体三倍ぐらいの
災害が起こっているし、
死亡率は十五か十七倍もあるということが言われて、これを少なくしなければ、せっかく百三十四
号条約を
批准しても問題ではないかということが言われておりますが、私は、その際に、大変問題になるのは、
国内の
船員労務官が百二十二人、これは
労働基準監督官より数が多いと言われましても、そういう
船員労務官が船の中まで入っていって、そうして航行中に見るわけではございません。それで非常に多くの
災害がいわゆる
便宜置籍船から引き起こされているという問題を二回にわたっていろいろと御質問したわけでございます。
便宜置籍船というのは、
日本の
海運会社が動かしている船ではあるけれ
ども、籍は
外国に置いて、特に
リベリアとか
パナマとか、そういった第三世界の国に置いて、そして走らせております。しばしばそれは
日本の
海運が高度成長する段階で非常にたくさんの船をつくり、回したわけでございますが、その間、
国際競争に勝つ
一つの方途として、
日本の
船員は
コストが高い、だから
韓国、台湾、フィリピン、香港、その他第三世界の国々の
船員であれば非常に
コストが安いということから、そういう
船員を乗せ、しかも
船籍を
日本に置かなければ税金も逃れられるし、それから
災害が起こった際の
補償も逃れられると言えば変な言い方ですけれ
ども、そういうことも見越してどんどんつくったものだと思われるんですが、その
便宜置籍船の
事故というのは非常に多いんですね。
ごく最近、ブルターニュの海で、フランスの海岸ですね、あそこで非常に大きな
タンカーが
事故を起こして、そしてそこから原油がやたらすごく流れ出たと、これ四月二日の読売新聞ですけれ
ども、「
便宜置籍船ゆえの〃人災〃」というレポートをしている、非常に詳しく。これなんかも
リベリアの籍を持っているけれ
ども、
アメリカの
海運会社が動かしている、
船長はイタリア人と、そしてどっこも責任を持つところがない。だからフランスは非常な大きな損害をこうむっているということが出ております。こんな事例を引くまでもなく、
日本の海岸の周辺でもいっぱいあって、そして海事新聞で見ますところによりますと、
海上保安庁が調べても
便宜置籍船の当て逃げというのがたくさん起こっている、ことに瀬戸内海なんかでたくさん起こっている、東京湾でも、あるいは伊勢湾でも。これは非常な工業地帯ですから、これが大きな
災害に発展しないという保証はないような
状況で非常に問題があるんではないか。外からそういう
海難事故がいっぱい起こるということや、それからそういう
船籍が
外国にあって、しかもそれが
ペーパーカンパニーであるような場合には、その船で起こりますところの殺傷事件、暴力事件、こういうものに関しても
補償をちゃんとするすべがないということすら起こってくる。
そこで、そこに乗っている
第三国の、つまり大体東南アジアその他の発展途上国の安い
労働者の
労働条件や生命は守らないでもいいのかという問題もあるし、それから
マルシップといって
日本の
国籍を持ちながら
外国の
人たちを
船員としてマニングの
会社が乗せて、そして引き回している船がいっぱいあるわけですが、これなんかに乗っておりますところの
日本の
船舶通信士その他一、二名乗っているような
船員の
労働条件と、それから
第三国の
船員の
労働条件とが食い違うというようなことで感情問題も起こるわけで、暴行、殺傷事件もあり得るし、転落した者はすぐ
死亡事故に通じるというような、海の上に出たら何が起こるかわからないような
状況で、外からのそういう衝突
事故あるいは船自体が欠陥船である場合が非常に私はあると思います。先ほど
運輸省の方は必ず船はちゃんと検査を通っているし、
保険にも入っているとおっしゃったけれ
ども、事実、そうでない事例がいっぱいあるわけですね。そういうような
状況を何とかしないことには、中から起こってくる
災害だけじゃなくて、外からそういうふうに引き起こされる
災害がいっぱいあるし、その船を回しているのが
日本の
海運会社であるという問題がありますので、そのことを今後どういうふうにしていくかということの問題があると思います。
これは
運輸省の方針もあると思いますが、同時に、そのことによって
船員が
日本人でなく、脱
日本船員化、つまり
外国船員にかえられていくという問題があるわけですね。そこで
日本の
船員はいま
予備員率、
陸上に上がっているのが七〇%にもなると先ほ
どもお話があって、これは失業につながっていくわけなんですね。それで
国際競争のために
海運会社が
第三国の
船籍で船を回すことは、これは
運輸省も半ば——半ばどころか大いに認めているわけで、今後も
仕組み船が好もしいようなことを
海運白書でおっしゃっておりますが、そういうことになるとすれば、
日本人の
船員はどうなるのかということについて十分考えませんと、せっかく
ILO百三十四
号条約を
批准して、
船員を
災害から守ってやるんだと言ったって、
実態が伴わないという問題を非常に私は問題にしているわけなんです。
ですから、これは外務大臣の立場からして、
外務省というのはこういう問題では窓口、
ILO条約に関して窓口でございますね。ですけれ
ども、
実態は
運輸省が握っているとしても、これはどの
条約に関しても
ILO条約というのは
労働者の
労働条件の最低を守ろうとする
国際条約でございますから、これに関しては窓口である外務大臣も大いに
実態が
条約にそぐっていくように、あるいは
国内法に
実態がそぐうように督励していただきたいと思うんですが、いかがでございますか。