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1978-04-04 第84回国会 参議院 外務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十三年四月四日(火曜日)    午前十時二十一分開会     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         安孫子藤吉君     理 事                 稲嶺 一郎君                 鳩山威一郎君                 戸叶  武君                 渋谷 邦彦君     委 員                 永野 嚴雄君                 秦野  章君                 町村 金五君                 三善 信二君                 上田  哲君                 小野  明君                 田中寿美子君                 矢追 秀彦君                 和田 春生君    政府委員        外務政務次官   愛野興一郎君        運輸省船員局長  高橋 英雄君    事務局側        常任委員会専門        員        山本 義彰君    説明員        外務省中近東ア        フリカ局外務参        事官       岡崎 久彦君        外務省経済協力        局外務参事官   中村 泰三君        外務省条約局外        務参事官     山田 中正君        外務省国際連合        局外務参事官   小林 俊二君        外務省情報文化        局文化事業部長  大鷹  正君        文部省学術国際        局ユネスコ国際        部国際学術課長  勝谷 祐一君        運輸省船員局労        働基準課長    豊田  実君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○日本国イラク共和国との間の文化協定締結  について承認を求めるの件(内閣提出) ○船員職業上の災害防止に関する条約(第百  三十四号)の締結について承認を求めるの件  (内閣提出)     —————————————
  2. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) ただいまから外務委員会を開会いたします。  日本国イラク共和国との間の文化協定締結について、承認を求めるの件  及び、船員職業上の災害防止に関する条約締結について承認を求めるの件  両件を便宜一括して議題といたします。  両件につきましてはすでに趣旨説明を聴取しておりまするので、これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  3. 戸叶武

    ○戸叶武君 日本国イラク共和国との間の文化協定に関連して御質問をいたします。  この協定は、昭和五十二年一月のマルーフ・イラク共和国大統領訪日機会に、福田総理と同副大統領との間で協定交渉を開始することに原則的に意見の一致を見、その後、両政府間で検討が進められた結果、最終的な合意を見るに至ったものでありますが、いままでこの種の文化協定は何カ国と日本では締結されておりますか、それをこの機会に承りたいと思います。
  4. 大鷹正

    説明員大鷹正君) いままで日本文化協定を結んでおります国は全部で十六でございます。その十六の国の名前をいま読み上げさせていただきます。  フランス、イタリア、メキシコ、タイインドドイツ連邦共和国エジプトイラン、パキスタン、イギリス、ブラジル、ユーゴスラビア、アフガニスタン、ベルギー、オーストラリア、カナダ、以上の十六カ国でございます。
  5. 戸叶武

    ○戸叶武君 中近東諸国としては最初文化協定でしょうか。
  6. 大鷹正

    説明員大鷹正君) いままで結ばれました十六の中にエジプトイランアフガニスタンと三カ国ございますので、イラクが四番目ということになります。
  7. 戸叶武

    ○戸叶武君 一番最初協定が結ばれたのはフランスですか。
  8. 大鷹正

    説明員大鷹正君) さようでございます。フランスとの文化協定が署名されましたのが昭和二十八年五月十二日、発効が昭和二十八年の十月三日でございます。
  9. 戸叶武

    ○戸叶武君 日本の国は、明治以後、西洋文化の非常に影響を受けましたが、日本近隣諸国との文化協定というものはそれほど進んでいないのが事実のようでありますが、いずれにしても、中近東において、エジプトなり、あるいはイランなりイラクなり古代文化の栄えた国で、日本との文化結びつき古代においてはあったのが事実でありまして、それが新しい産油国として立ち上がってきたときに、荒廃したイランイラクでも石油による資源によって恵まれた経済的な立場の上に立って、明日にどう生き抜けるかということでいろんな諸施設が設けられたり文化交流にも力が入っているようであります。  チグリスユーフラテス地域一帯文化というものは、エジプトのナイル文化なり、インドインダス川、ガンジス川、あるいは中国黄河揚子江以上に文化の栄えた地帯であります。そことの文化協定を行うのには、やはり文化源流をたずねると同時に、新しい国家建設の息吹、民族の意気込み、そういうリバイバルな風潮というものも取り入れて文化協定における成果を上げようとしての試みと思いますが、この文化協定を通じてのイラクへのねらいはどういうところにありますか。
  10. 大鷹正

    説明員大鷹正君) いま先生がおっしゃいましたように、日本イラクとの文化交流をさらに深め、それを通じて両国間の関係をさらに緊密なものにしていくというのが今度の文化協定締結趣旨でございます。  先生がおっしゃいましたように、イラクは非常に古い文明の栄えた国でございまして、そういう国の持っている文化文明日本に紹介する、要するに日本文化を紹介するだけでなくて、同時に相手の国の文化文明をも日本に紹介して、そして両国の真の文化交流を通じて同国間の関係をよくするということが一番のポイントでございます。
  11. 戸叶武

    ○戸叶武君 古代文化流れというものは、海流の流れ河川流れ、そういう自然の交通路というものが大きな一つ文明をつなぐ通路でございまして、バビロン文化というものは、シルクロードを通じて、奈良の正倉院にもあるように、あのような古代文化日本に結びつけた起点でございまして、イランにおけるスメール族イラクにおけるヒット族文化人類学における研究というものは世界においても盛んでありますが、日本上層部の額、耳、目のあり方、あるいは広い意味におけるセミチックな血液、骨相学、そういうものも世界文化人類学対象としては非常に研究されております。特に食べ物、飲み物、それから花、紋章、そういう点でも研究がなされておりますが、日本一つ明治以降における文化というものがどちらかと言えばイギリスドイツ、そういうものに偏して、アジアの古代文化ルーツというものをたずねることを怠っておったんですが、この機会に、やはり私はこのバビロン文化日本への結びつきというものは、ノア箱舟や何かの神話だけでなく、日本紋章学の面において、あるいは植物の点において、あるいはブドウ酒やビール、飲み物の点において、いろんな点で多角的に日本文化交流の中に考えなくちゃならないんじゃないかと思います。  たとえば日本皇室紋章になっている十六の菊の紋の典型的な紋章というものは、バビロンのとびらに刻まれておったものであって、それは現にバビロンからアメリカシカゴ大学の博物館に船で運ばれて保存されております。菊、キリ、そういうものを対象としての紋章学的な一つのつくり上げ、あるいは十字軍前後からのヨーロッパ社会における紋章学の流出、そういうふうなところに洋の東西、ユーラシアにおけるところの接点であると思うんですが、そういうものに対しての各国における文化協定においては、その国々にふさわしい問題点を重点をしぼって特徴ある文化協定による活動というものを目指さなけりゃ、漫然とした官僚的な形において文化協定というものをつくり上げたのでは大して意味がないと思うのであります。  この意味において、この十六からの文化協定の色とりどりのその国にふさわしい文化協定特徴もあると思いますが、日本では優秀な官僚によるところの独善的な文化行政において、およそ意味のないようなおざなりな文化協定が結ばれる危険性があるので、この際、イラク文化協定に対しては、どういうところに問題の焦点を持っていこうと文部省は考えているか、やはり一つのバラエティーに富んだ、世界一つであるが、多元的であるというこの配慮の上に、文化活動というものは、全体主義的な政治体制やイデオロギーをぶち壊す意味においても、個性豊かな特徴のある文化協定のねらいを定めないとおよそ私は意味をなさぬと思いますが、どういうところにねらいを持っておりますか。
  12. 勝谷祐一

    説明員勝谷祐一君) 今回の協定中身には学術面交流も含まれておるわけでございますが、今後、混合委員会等におきまして両国で具体に実施をされる中身が取り決められていくことに相なると思うわけでございますが、その際に、先生ただいま御指摘のようなことも勘案させていただきまして、十分に御趣旨に沿うように努力したいと思います。
  13. 大鷹正

    説明員大鷹正君) 一言つけ加えさしていただきます。  今度のイラクとの文化協定の第四条には、日本イラク両国が「次の手段により他方の国の文化歴史、諸制度及び一般的な生活様式を理解することを奨励し、及び容易にする。」という規定がございまして、その実際の中身としまして、美術展覧会科学展覧会と並びまして考古学展覧会ということが書いてございます。これは普通の文化協定にはない今度のイラクとの文化協定における一つ特徴的な内容であるかと思います。
  14. 戸叶武

    ○戸叶武君 ノア箱舟にありますように、あのチグリスユーフラテスのはんらんを通じての神話の中からいろいろな芦舟の伝説なり、あるいは箱舟なり、いろんな舟においてもさまざまな伝説があると思うのであります。日本にもその類似なものが、とにかく佐渡のたらい舟なんかも、あるいは近世に入ってから能登半島なり、あるいは日本海沿岸からもたらされたものだと言われておりますけれども、いずれにしても日本文化影響があるので、たとえば水と火を中心としたパーシー一つ流れも、インドへ行ってはボンベイ等における富裕な人々古代ペルシャから入った財界人において日本に綿の輸出なんかも図られておるし、日本の神主のかぶる漆の冠は大体パーシーの冠と同じようであるし、あるいは二月堂の水取りの話、あるいは京都、奈良にあるところの火をあがめる祭り、いろいろなものがあるし、ユダヤから広い意味におけるセミチック社会における旧正月あり方なんていうのは日本の旧正月あり方とほとんど同じです。十干十二支基礎とした一つの暦の構成も大体同じでございます。日本では中国に近いからというので中国文化だけを源流にしているように見えるが、海に取り囲まれた島国で、簡単に言うとバイキングの古代国家です。このフェニキア文化あるいはバビロン文化、こういうものが日本と結びついていないとは言えないのであります。  そういう形において、しみったれた考古学のいまの萎縮した発掘と文字解釈の中に停滞している日本古代文化に対する研究態度より、やはり世界相手にグローバルな時代に視野を向けていかなければならないときですから、そういうときにおいては、われわれの文化源流チグリスユーフラテスに、あるいはナイルに、あるいはガンジスインダス川に、あるいは黄河揚子江に、あるいは黒海に向けるだけのスケールがなけりゃ、日本文化というものは栄養失調から脱出することはできないと思うんです。  そういう意味において、いま外務省の方からの御答弁において、とにかくイラクとの文化交流においては、これこれの問題に焦点を置いて、そこから始めるという意気込みは私たちとしては可とするものでありますが、日本の学者は集まりはいいが、勉強はしようとしているが、銭がない。銭がないのに、政府の方は銭が余って使い方を知らない。これは貧乏人の習性の一大欠点です。こういうふうなときにこそ、われわれは一つ文化に対して世界を圧倒するような発想を展開して、これからの世界がどういうふうに——黒人ですら自分たちルーツのありかをとにかく丹念に探求しようとしているのに、日本民族は銭は持っても使い方を知らないで、萎縮してしまって自信をなくしている、こんな根性では世界の物笑いになるんです。  もう少し、この文化協定なり文化交流の問題に対しては、発奮して、たとえばアラビアにおいてもアラビア語はむずかしいですが、これを理解する人はなかなかいない、日本外務省においても数が少ない。そういうような語学の下手なイギリスでも、アラビアのロレンスがやはりアラブの勢力を糾合して、そうして戦争の不利なときに世界戦争においてアラビア人の心をかち取ったような歴史もあるんです。日本アラビアのロレンスのような一つの最もロマンに富んだ人物が生まれてこなければ、他民族を引きつけるだけの一つ文化交流におけるねらいというものが成果を上げることはできないんだと思いますが、その種の人物外務省の中において、あるいは外務省だけでなく、各大学なり研究機関、学界と結んで、そういうアラビアに根をおろそうという考えはいまのところありますか、まだ模索中ですか。
  15. 岡崎久彦

    説明員岡崎久彦君) 外務省アラビア語専門家の育成の現状について申し上げます。  外務省は、戦前以来、中東における語学専門家を育成してまいりまして、ペルシャ語トルコ語アラビア語等専門家を育成してまいりましたけれども、戦後、特にアラブ諸国が独立して数を増しまして以来、その必要性を認識いたしまして、昭和三十四年度の試験卒業者より、外務省上級試験合格者の中からもアラビア語専門家を育成いたしまして、その後、石油ショック以後、大幅にその人員を増大いたしまして、現在、約四十五名のアラビア語専門家を擁しております。戦前専門家はすでにもうアラビア各国の大使をしておりますし、戦後の上級出身専門家は、いま目下、課長になりつつある時期でございます。
  16. 戸叶武

    ○戸叶武君 アラビアンナイトが物語の中においてはきわめてエキゾチックで、世界人々に魅力を持っております。イソップ物証と違う意味において、やはり一つ古代における文学としては、スタンダールのものやモーパッサンのものよりも価値のあるものではないかと思います。こういうふうに、あれだけの文化をつくり上げた民族がなぜ今日のような衰退を招いたか。これは一つ民族にアンビシャスなものを与える政治体制がなかったこと、それが今日の荒廃を招いたのであり、特にこの牧畜民族が羊を連れて南下してきたときに、羊は芝の根まで食ってしまう、これによって植栽事業に力を入れないで、羊の食うに任せて砂漠をつくり上げたアラビア悲劇は今日におけるアラビア悲劇の原因だと見る人もあり、いま日本に求めているのは石油産油国からどうやって緑を復活してもらえるかというところが最大の課題になっております。その緑の復活なりあるいは水資源の確保なり、そういうものに対しては、現在、外務省ではどのような協力態勢をとっておりますか。
  17. 中村泰三

    説明員中村泰三君) わが国といたしましては、中東諸国の海水の淡水化プロジェクトに対する協力、あるいはアラブ諸国砂漠緑化を手伝う技術協力等々の協力をいたしております。
  18. 戸叶武

    ○戸叶武君 港湾並びに河川路の修理、そういうことに対しても協力をやっておるということでありますが、具体的にその成果を上げたものを二、三示してもらいたいと思います。
  19. 中村泰三

    説明員中村泰三君) 具体的なケースといたしましては、エジプトのアレキサンドリア港の改修計画、それから港湾とは違いますが、スエズの運河の拡張計画、こういうものに対する経済協力を行っております。
  20. 戸叶武

    ○戸叶武君 私は、三年ほど前に、トルコを訪ねて、イスタンブールにおけるところのドイツ日本との協力になるところの東と西を結ぶ橋の建設を見て、日本土木工事というものがすばらしい勢いで過去十年間に伸びたものだ、もう国内において土建屋がうろちょろすることよりも、海外における建設事業協力することによって日本土木事業の発揚というものはできるんじゃないかということを痛感したのであります。いま田中さんも大分日本の荒っぽい改造をやって挫折しておりますが、日本だけのことを考えてやると、すべて場所が狭いんですから、ああいう末路を遂げなければならないのですが、世界は広いんです。そういう意味において、もっと雄大な、日本だけよければよいというのでなく、発展途上国に対してプラスになるような、その要望にこたえるような技術協力なり経済活動をすることが日本にとってはいま一番望ましいことだと思いますが、このイラクに対しては具体的にはなかなか建物の建設、いろいろ日本専門家も引っ張りだこのようですが、チグリスユーフラテスにおける砂漠の拡大あるいは塩水の浸潤、そういうものを防ぐためには緑地帯をつくらなけりゃならない、植林もやらなけりゃならない、そういう形でチグリスユーフラテス河川路改修工事というものも重要と思いますが、それにはどの程度協力が実を結んでおりますか。
  21. 中村泰三

    説明員中村泰三君) イラクに対しましては、昭和四十八年、当時の中曽根通産大臣がこの地域を訪問されました際、混合借款十億ドルの供与を約束してまいりました。現在までに化学肥料プロジェクト発電所プロジェクト等に対しての借款を供与しております。ただ、砂漠緑化につきましては、具体的なプロジェクトはございません。
  22. 戸叶武

    ○戸叶武君 中曽根君が石油産油国に口をつけて、あそこへ飛び込んでいった時点において、私は、衆議院の内閣委員会における報告を聞いて一番驚いたのは、イラン皇室を、日本皇室を持ち出して、その結びつきについて熱心でありましたが、中曽根君は歴史を知らない。  日本のいまの新憲法に規定された皇室あり方と、いま海外留学生において大きな抵抗を受けているイラン皇室あり方とは根本的に違うんです。そういうものをごっちゃにしてイランなりイラクなりの工作をやるとえらい目に遭うのであって、エチオピアにおける皇室世界で一番古いとされておりましたが、たちまちにアラブ、イスラエルの紛争の中の陥没地帯となって、あのように滅んでいったし、あの地帯における皇室も三つぐらいは吹っ飛んでおります。そういう他国における伝統と立場の違う国々日本皇室をごっちゃにして結びつけるような一個の日本指導者の存在というものはファシズムに通ずるものであって、きわめて危険な低調な構想なのでございます。アメリカにおいてでもイラン皇室の人が来るときに学生の大デモと抵抗運動があるというようなときに、火中のクリを拾うと言うんじゃないが、事情をわからないで、そうして田中さんがインドネシアやタイに行ってひどい目に遭ったと同じように、日本政治家皇室を利用し、ファシズムの波に乗って日本憲法改正をやろう、軍備を拡張しよう、あるいは日本に利用できるところはどこでも利用するというようながさついた物の考え方で、文化協定に名をかりて、あるいは文化協力に名をかりてやると、取り返しのつかないような私は悲劇もそこに生まれないとは限らないのであると思うのであります。  そういう意味において、たとえば同じ文化活動をしても、あのフランスにおけるド・ゴール体制をつくったアンドレ・マルローのような人、これは日本における文化協定の実践においてもそれぞれの成果を上げております。文化的な教養見識のないはったり政治家によって文化政治的な形において悪用しようというようなあさはかな考え方というものは必ずそれとは逆な結果を生む危険性もあるので、そういう点を文部省なり外務省はどのように受けとめておりますか。まあ現実の政治家に対する名前は当たりさわりがあるから遠慮しても差し支えありませんが、要は、その物の考え方です。今日行われている現象形態における政治の堕落でなくて、根本的に物の考え方からなっておらないいまの政治家に対して、本当に技術協力なり文化協力なり経済協力をやろうという政府の、官僚人々の物の考え方の基本的な構えをこの際に私は外務省文部省から承っておきたい。
  23. 愛野興一郎

    政府委員愛野興一郎君) ただいまの戸叶先生の御高見はまことにごもっともでありまして、福田ドクトリンに示されておりますように、わが国の今日の文化協力経済協力技術協力、すべての協力基礎になっておりますものは、それぞれの民族の心と心の触れ合い、あるいは相互信頼基礎の上に立った協力という根本的な基礎の上に立って行おうとしておるところであります。したがいまして、ただいま先生が仰せられましたようなことでなく、まさにイラクわが国との相互信頼基礎の上に立った文化協定あるいはまた経済協力技術協力、こういうことで外務省としては進めていきたい、こういうふうに考えておるところであります。
  24. 戸叶武

    ○戸叶武君 時間が参りましたから、これで結びます。  いずれにしても、いまの御答弁のように、その国の住民の生活と心との結びつきなしに、ただ、そこの国における皇室なり何なりというものだけを対象にしてやるような文化協定というものはおよそナンセンスですから、その点はいまの暗愚なる政治家を補助する意味においてもっと日本官僚教養見識を持って対処されんことを期待し、答弁は要りませんから、一つの期待とともに、警告を放って私の質問は結びます。
  25. 田中寿美子

    田中寿美子君 私は、ILO百三十四号条約船員職業上の災害防止に関する条約批准に関して御質問するんですけれども、実は、本会議の都合で三十分しかいただけないそうでございますので、とうてい質問できませんので、ほんの初めのところで、あと残して次回に譲りたいと思っています。  まず、この条約批准に関連しての外務省態度なり政府態度。それからその次に、私は、一体船員災害から守られているかということについて第二番目に伺いたいと思っていたわけです。それから三番目には、いま船員の脱日本船員化というのが海運業界では非常に進んでおります。特に、昨日あたりも報道されておりますけれども、ジャパンラインがあのように韓国に籍を置かせて船をあちらに一たん売り払った形にしてまた用船するというような、つまり便宜置籍船というものが非常にたくさんふえているし、それからまたマルシップなんていう名前で、実際には日本の国籍を持ちながら第三世界船員たちをどんどん乗せて走っているような船がいっぱいある。あるいはいろんな形でチャーターバック船だとか仕組み船だとか便宜置籍船が多くなっている。つまり外国用船が非常に多くなっている状況の中で、一体日本船員はどういう立場になっていくのか、日本海運はどうなるのかという重大な問題があります。そういう船員労働条件などもどうなっているかというようなことは次回に回したいと思います。それから最後に、今後海運業界ではそれをどういうふうにしていこうとするのか、外国用船の割合をどういうふうにしようとしているのか、それから日本船員をどういうふうに待遇していこうとするのか。日本の籍を持って走る船、あるいは籍を持っていないけれども事実上日本が回しているところの船に乗っている労働者を、これは百三十四号条約を結んだ上には、知らぬ顔ということはできないはずだと思うんですが、そういう人たちをいかに守るかという重大な問題もあると思います。  そういう問題について伺いたいので、きょうは一点か二点だけにしておきますが、まず、この百三十四号条約批准に関して、外務省そして運輸省は、これで結構結構、何もかもうまくいっていささかも問題ないというふうに思っていらっしゃるのかどうか、お伺いします。
  26. 小林俊二

    説明員小林俊二君) ILO船員の福祉、安全につきまして特別の関心を払っておりまして、そのための協議機関協議の場を設けて、今日までに数多くの勧告ないし条約を作成してまいったものでございます。この百三十四号条約もその一つとして作成、発効いたしたものでございます。  ILO船員関係条約としては今日まで三十七条約がすでに採択されておりまして、そのうちわが国批准しておりますものは九条約でございます。残りの条約のうちには、すでにより高度の基準を定めた改正条約が採択されたり、あるいは改正条約が発効したりして、改めて批准する意味のないものが七条約ございますので、未批准条約として存在し、かつ意味のある批准対象となり得る条約としては二十一条約が残っておるわけでございます。わが国といたしましては、こういう国際的な努力の一環として、わが国船員の福祉の向上という観点から、こうした残された条約批准につきましても、今後、国内体制をにらみ合わせながら、その調整を図りつつ前向きに検討してまいりたいというふうな考えを持っております。したがいまして今回の百三十四号条約批准をもって船員関係の国際協力における努力が一段落したというふうに考えておるわけではございません。
  27. 田中寿美子

    田中寿美子君 一段落したと考えていらっしゃるわけですか。
  28. 小林俊二

    説明員小林俊二君) ではございません。
  29. 田中寿美子

    田中寿美子君 それならいいです。まだいっぱいその後勧告も出ておりますし、それから船員の福祉のためにたくさんのことをしなけりゃならない、それがまだいっぱい残っているという状況だと思います。  それで、一本は法制的に整備することは大変得手でございます。上手にやるわけですけれども、実態が問題なものでございますから、ですから国内法を整えても、その国内法に来たして船員たち労働条件やそれから安全がよく見合っているかどうかということは重大な問題があると思います。いまおっしゃいましたように、ILO条約というのは労働条件の最低基準を国際的に決めるわけですね。で各国労働条件を、労働者を守るために、それからまた公平な国際競争力をつけるというようなこともILOの目的になっていると思うんですが、外務省ILO条約は窓口にすぎないわけですね、実態的には関係している各省庁が責任を持つ、ですから、この場合は運輸省に非常に責任があると思うんです。  今回、関連国内法として船員法、船員労働安全規則それから船員災害防止協会規則など、その他を整備されました。これも法制的に整備されたというふうに私は言いたいと思いますが、これでいかに船員を守ることができるか、また、これによって本当に保護が受けられるか、非常にまだ抜け道もいっぱいあるし、それについて私はそちらの認識を聞いている時間が十分ありませんから聞きませんけれども、それでも批准はしないよりした方がいいのであって、批准をすればそれを手がかりにしてまた船員たち労働条件の改善とか安全衛生のために保障していく手がかりになる、そういうふうに思っているわけで、私はやっぱり一九七〇年のこの百三十四号条約に続いて百三十七、百三十八、百三十九、百四十一、百四十二など勧告が出ているし、百四十五、百四十七の条約もあるわけですからね。これの批准のために、今後、どんどん進めていくおつもりがあるのかどうか、ちょっとその姿勢を伺いたいと思います。
  30. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) いま先生御指摘になりましたもののうち、百四十五号ないし百四十七号の条約についてお答え申し上げたいと思うんですけれども、百四十五号の条約は、漁船は除きまして商船につきまして通常雇用される資格を有する船員につきましてできる限り継続雇用を確保するということ、船員についてはその継続雇用が確保されるということ、それから船舶の所有者については安定的な……
  31. 田中寿美子

    田中寿美子君 条約の内容の説明はいいです、それはいまの問題になっていないので。ちょっと時間が少ないですから、どういうふうにしていらっしゃるつもりか。
  32. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) この法律につきましては、わが国の場合には、実態的に終身雇用制度というものがほぼ一般的に行われております。したがいましておおむね実現されておると考えますけれども、まだ一部の零細な事業者の実態につきましては必ずしも問題がないというわけではございませんので、今後、さらにこういった点について調査、検討を進め、前向きに検討してまいりたい、かように考えております。  また、百四十七号条約でございますけれども、これは「商船の最低基準に関する条約」ということで、この問題につきましては、いろいろと条約の中で、批准した場合には、既存のILO条約と比較してわが国が実質的に同等でなければならないというふうな義務を課せられるわけですけれども、その場合のその表現が非常に抽象的なものでございますので、わが国の現状というものはほぼ実現されると思いますけれども、なおそれでこの基準に果たして十分なものかどうかという点につきましては、諸外国の例なども参考にいたしまして、なお検討をしたいと考えております。また、この条約批准いたしますと、外国からわが国の港に入ってまいりました船について、必要な場合には、船員の労働保護のために是正措置を行うというふうなことが必要になるわけですけれども、その場合の、どういう場合に是正措置をやるか、具体的な基準というものが実はまだ余りはっきりいたしておりません。こういった点についてさらに検討を進めてまいりたい、かように考えているわけでございます。
  33. 田中寿美子

    田中寿美子君 いま今後の百四十五、百四十七についての姿勢を多少お話しになりましたが、それを議論しているもう時間がないけれども、終身雇用制が確立されているから恐らく百四十五号は大丈夫だろうという言い方ですが、実は、いま船員たちは予備員率が六〇%にもなっている。つまり日本人の船員を使わないで、韓国、フィリピン、台湾、香港などの船員日本海運会社の動かしている船にいっぱい乗っているわけですね。いまではもう半分近くがそういう人たちで占められている状況の中で、非常に終身雇用制も危うくなってきているんじゃないか、そういうような具体的な問題がありますが、このことは後でまたやりたいと思います。  そこで、船員は、現在、災害からどのように守られているかということ、つまり反対にひっくり返して言えば、どれぐらい災害あるいは事故が、ここ数年間、船員の事故が起こっているかということについて実態を簡単に御説明いただきたいと思います。
  34. 豊田実

    説明員(豊田実君) わが国船員災害の発生状況について御説明申し上げますと、わが国船員職業上の災害の発生状況は昭和五十年度一年間の実績を見ますと、一年間で一万七千五百三十五人の船員災害に遭っております。これを千人当たりの発生率、私どもの用語で千人率という言葉を使っておりますが、それで申しますと七二・〇、つまり千人の船員のうち一年間に七十二名の船員の方が災害に遭っているという状況であります。  これを船の種類に分けて見てみますと、一番高いのは漁船の関係でこの千人率が八二・七、それから汽船関係が五九・八ということになっております。なお、過去、たとえば昭和四十年当時のこの千人率を見ますと、先ほどの七二・〇に対応する数字が昭和四十年度に一二一・一、四十五年が九二・一ということで、年々減少傾向にはあります。
  35. 田中寿美子

    田中寿美子君 その災害の種類ですね。
  36. 豊田実

    説明員(豊田実君) 災害中身は、やはり海上労働の特殊性ということで、海中に転落する事故、これがやはり圧倒的に多くて、特にその場合に死亡に結びついているという状況にあります。
  37. 田中寿美子

    田中寿美子君 もっと詳しく伺いたいところですけれども、時間を倹約いたします。  で、死亡事故が年間三百人くらいあるわけですね。
  38. 豊田実

    説明員(豊田実君) はい。
  39. 田中寿美子

    田中寿美子君 それで、この死亡率は陸上の労働者の三倍ぐらい高い。それから災害率だって非常に十倍、ぐらいになるんでしょうか、大変高い比率で災害が起こっているわけですが、把握してない分も私はあると思うんですね。これは海上で起こっているから、死亡といったって、転落して死亡したのか、それとも何か傷害事件があって落とされたのか、そういうこともわからないような、海上というのは実に私は恐ろしいところだなと今回この条約中身を見ながら検討してみて本当にそう思っているわけです。  で、今回の条約の提案理由の説明の中に、船員の安全を一層確実ならしめる、それから「労働の分野における国際協調を推進する」という言葉があるわけですが、今後、船員災害を、この条約批准することによって、国内法はすでに整備されている、減らす見込みがあるかということや、国際協調というからには、外国船員日本海運業者が事実上雇っているのがいっぱいあるんですけれども、この人たちには一体どういう保護の手を差し伸べるのか、ちょっと伺いたいと思います。
  40. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) 最初の方でございますが、法制の整備という点については私どももほぼ十分であると思っておりますけれども、実際にそれの運用という問題がなお重大でございまして、この点につきましては、一つには役所の方におきますそういう関係の監督体制と申しますか、そういうことで船員労務官制度というのが法律にございまして、この労務官の監督体制を充実するために毎年多少ずつ労務官の増員というふうなことを図ってまいりまして、昭和四十五年当時は八十五人ということでございましたが、現在では五十二年度の予定としましては百二十二人というふうなことで監督体制の整備もわれわれなりに充実してきたというふうに考えております。  それから、一方、実際の災害防止につきまして、さらに船員災害防止協会等に関する法律によりまして災害防止についての基本計画を五カ年ごとに昭和四十三年以来つくっておりまして、五十三年度がちょうど三回目の基本計画の初年度になるわけでございますけれども、こういった基本計画のもとに、毎年また実施計画というものをつくりまして、そうしてさらに民間の協力体制のもとに実施していくというふうなことで、来年度は三回目の防止計画の初年度ということで私どもとしても今後さらに実際の効果が上がるように努力してまいりたいと考えております。  また、日本船員であって外国の船に乗っているというふうなケースもあるわけでございますけれども、その場合に、その船の国籍がすでに外国になっておる場合には船員法は適用になりませんので、ただ外国に裸貸しされたというふうな船、この中にいわゆるマルシップと言われている船もおるわけでございますけれども、こういった船につきましては、裸貸しをしております日本の船主を通じまして船員法が適用があるんだということ、それから船員法の適用があるんで、こういう点については特に注意しなきゃいけないというふうなことの周知の徹底方をお願いする一方、そういった船が日本に寄港する場合には、先ほど申し上げました労務官というのが船を訪れまして監査を行うというふうなことで船員の保護に努めておる、かようなことでございます。
  41. 田中寿美子

    田中寿美子君 私は、日本海運業者が回している外国籍になっている船がいっぱいあるわけね、便宜置籍している船、そういうところに雇われている東南アジア諸国の船員の安全なんかに関しては一切知らないということになりますかということ。マルシップの方は、これは船籍が日本にあるんですから、私はそこに乗っている人、たとえば船舶通信士一人ぐらいしか乗っていないわけでしょう、この人を守るのは当然だと思う。
  42. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) 便宜置籍船なり仕組み船なり、これは先ほど申し上げましたように、外国籍になっておる関係上、日本船員法は適用にならないということで、そういう意味ではわれわれの手が及ばないということでございますが、今度の百三十四号条約をそういった便宜置籍の国々批准をしてくれれば非常な改善になるのではなかろうかというふうに考えるわけでございます。
  43. 田中寿美子

    田中寿美子君 いまおっしゃったように、われわれの手が及ばないというところにいっぱい日本海運業界が船を回しているという問題、これは大変重大な問題だし、国際的に労働に関して国際協調するという点からいえば、このことももう十分今後の対策を進めなきゃならない問題だと思うんです。  で、さっきちょっと私言い間違えましたけれども、死亡率は陸上の十五倍に当たり、災害全体が三倍に当たるぐらい海上では起こっているということですね。そして死亡災害の五〇%が海難によるというようなことを私は運輸省の資料で承知しているわけなんですが、労働安全衛生というのには健康管理があるし、設備や環境施設をよくするということがある。で安全衛生管理規則というものがつくられているわけなんだけれども、私は災害防止協会という船主の人たちのつくっている協会の協会報を幾つか見てみましたら、毎回のようにこの事故の報道があるわけですね。ある船長さんは、船が港に入っているときにみんなが遊びに出た、自分は船の回りを、これは小さい漁船だと思いますが、ペンキを塗っていた、遊びに行かないで。そしたら海のうねりが来て隣のすぐそばにいた船の間に頭がはさまって死亡した、こういうような事故がいっぱいあるということを知りましたし、それから運輸省の言葉では船員の不安全行為という言葉が使われていますけれども、これは海上暴力事件、これもずいぶんたくさんあるようですね。  ですから、設備が悪かったり、それから労務管理が悪かったり、労働時間が長時間に及んで過重労働をさせられたり、生活するところと労働するところが同じ場所にあるわけですから、非常に疲労したりする、精神的にもいら立つこともある、そういうことから起こる暴力事件もいっぱいあるだろう、そういうものによって殺傷された場合も転落したというふうになっているかもしれないし、海上の暴力事件というのは本当に私はわからないと思いますね。船の上に乗っかって監視している制度というのは相当大きな船に要求されているようですけれども、それはあんまりないようですね。  そこで、私は、この条約の中で、そういった暴力事件とか殺傷事件とかいうもののほかに、普通に一般に日本船員日本船に乗っている場合でも、問題になると思う他所があるわけなんです。これは外務省の方に伺いますけれども、第一条の三項ですね。三項のところに「この条約の適用上、「職業上の災害」とは、船員が被る災害であって、その業務に起因し又はその業務の遂行中に生ずるものをいう。」というふうになっているわけですね。で「起因し」というのですが、私はILO条約でときどきこれが問題になりますのでいつも問題にしているのですけれども、英文の方では「ザ ターム オキュペーショナル アクシデンツ カバーズ アクシデンツ トゥ シーフェアラーズ アライジスグ アウト オブ オア イン ザ コース オブ ゼア エンプロイメント」と「アライジング アウト オブ」というのですね。これはその業務より生ずるということだと思うのです。業務より生ずる、またはその業務を遂行中に生ずる災害ということだと思うのですね。  で、これを「起因し」というふうに翻訳するのは、これはILOの言葉でみんな統一しているらしい感じがするのですが、これは故意に「起因し」となさったのかどうか。つまり「起因し」ということになりますと、その業務と災害との因果関係をきちっとしなけりゃいけないことになる。なぜ私がこういうことを言うかと申しますと、労災認定のときに問題になってくるわけですよ。けがをした、あるいは病気になった、しかしそれはその業務と因果関係があるかないかという議論になってきて、しばしば船員の方の間にこれは問題が起こっているわけなんです。だから、こういうところをもっと正確に、「起因し」としないで、業務より生ずるということになれば、船員としてその船に乗っているという業務から起こってくる、もっと幅広いと思うんですね。その辺は、どういうふうに外務省ではこれを翻訳なさるときに考えて、そうなさったのかを伺いたいと思うんです。
  44. 山田中正

    説明員(山田中正君) いま先生御指摘ございました訳語の問題でございますが、「アライジングアウト オブ」というのをどういうふうに訳するかの問題でございますが、これの訳例といたしましては、先生御指摘になりましたように、何々から生ずるというふうに訳しておる場合、それから何々に起因してと訳しておる場合、場合によりましては何々にかかわると訳しておる場合もございますが、最後の例はちょっと違いますので、前二者について少し御説明させていただきたいと思います。  何々から生ずるという訳の仕方が一番自然と申しますか、一番多い例であろうかと思いますが、その例となりますのは、たとえば契約から生ずる請求でございますとか、条約から生ずる義務でございますとか、また第何条から生ずる事項と申しますか、そういうふうな訳例の場合でございまして、これはそれぞれの、たとえば契約でございますとか条約でございますとか、また第何条、その中に、当然と申しますか、明らかに予定されておることの場合には何々から生ずるというふうに訳しております。  一方、一つの事象がございまして、もう一つの事象との間に関連があるわけでございますが、必ずしも一見必然予定されておるものでないような関係の場合、これはたとえば日米領事条約なんかに出てまいるんでございますが、民事訴訟が行われまして、その結果、船舶なり積み荷の一部が留置されるというふうな場合は、民事訴訟に起因する船舶または貨物の一部の留置というふうな訳し方をいたしております。  それで、ここのいま第一条の第三項の場合の「業務」とそれから災害との関係、これはむしろいま私が申しました後者の方の関係ではないかというふうに考えられまして、「その業務に起因し」というふうに訳したわけでございます。  ただ、先生御指摘になりましたのは、「起因し」というふうに訳すと、その因果関係が非常に厳格な意味になって非常に適用の対象と申しますかが、狭められるのではないかという御趣旨かと思いますが、私ども、そういうふうに狭めるという趣旨でこういうふうに訳したということでは毛頭ございません。やはりその業務と災害の間には何らかの因果関係がなくてはならないとは思いますが、給付の請求のような場合のように、何と申しますか、因果関係を厳密に立証しなくてはならないという関係としてとらえておるわけではございません。  それからまた、この「職業上の災害」のこの三項の全体を見ますと、「その業務に起因し又はその業務の遂行中に生ずるもの」と、船員船員という業務に携わっておる場合であれば、平たく申しますれば、船員が船に乗っておる場合の災害であれば、その災害が業務と全く無関係のものであるということが明らかになっておれば別でございますが、そうでなければ、この条約はそれを広く対象にしておる、そういうふうに理解いたしております。
  45. 田中寿美子

    田中寿美子君 それじゃ、もう時間が来ましたが、いまわざわざ「起因し」となさったのは、別に給付請求のときに厳密な意味で因果関係を実証しなければならないようなときに、それを狭めることを目的としたようなものではないということですね。  ですから、この条約趣旨は、船に乗っている人であれば、どんな場合でもということがその前に第一条にありますね。「「船員」とは、資格のいかんを問わず、この条約の適用を受る領域において登録され、」「雇い入れられ」た人である。そういう人が船に乗っていて、そしてその業務から何か疾病を起こすということだってあるわけですね。そういう場合に、これは因果関係を厳しく問われて労災認定ができないというようなことが起こるからそう申しておりますので、その点は、そういうことはないんだという解釈でよろしいのですね、念を押しておきますが。
  46. 山田中正

    説明員(山田中正君) 先生のお述べになりました趣旨と同じように私ども理解いたしております。
  47. 田中寿美子

    田中寿美子君 第三条にももう一つあるんですね。「海上の業務に特有の危険に起因する」という言葉があって、これは「デュー トゥ」というのですがね、どれもこれも「起因する」で統一していられるけれども、しかし、それが労働者にとってはどんな影響をも及ぼし得るということを十分お考えおきいただきたいと思いますね。  残りの質問は次回にいたします。
  48. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 本日は、本会議の都合もありまして、ただいま議題となっておりますILO百三十四号条約については次回の委員会に留保し、これから若干イラク文化協定についてお尋ねを申し上げたいと存じます。  中東地域における接近の度合い、これはようやく近年と申し上げた方がよろしいと思うのでありますが、石油問題に絡んで交流が深められてきたという経過がございます。しかし、日本が平和憲法のもとで平和へ貢献できる度合いあるいは要素として考えられるものは、申すまでもなく、文化交流あるいは経済交流に尽きると言っても言い過ぎではない。それだけにこの文化交流の持つ意義というものは非常に大きいと私どもは理解をしているわけであります。  ただ、残念なことに、いままで歴史的な経過等を振り返ってみるまでもなく、特に日本にとって非常に重要な地域であるこの中東地域においてのこの種の交流というものが非常に希薄であったという否めない事実があるわけでございます。言うなれば受け身の形でもって、問題が出たら取り組もう、こういう姿勢が経済交流の場合でも同様のことが指摘できるんではないだろうか、このように考えられるわけでございまして、政府として、文化交流、経済交流を含めて、中東地域に対する基本的な姿勢はどういう方針でもって、現在も、そしてまた将来においても取り組まれようとしている御計画がおありになるのかというまず基本的な問題から伺っておきたいというふうに思うわけであります。
  49. 愛野興一郎

    政府委員愛野興一郎君) まず、私から基本的な姿勢、精神というものを申し上げまして、具体的にはまた担当の方から御説明を申し上げます。  中東諸国関係につきましては、いま先生がお話しにもなりましたように、過去においては必ずしも密着したような状況ではなかったとも言えるような状況であったと思います。しかしながら、外務大臣が、去る一月、わが国の外務大臣として初めて中東諸国を訪問されたわけでありますけれども、その際、各訪問国から破格の歓迎を受けられたわけでありまして、このことはわが国が対中東関係に本腰を入れて取り組もうという姿勢を示すと同時に、中東諸国からもその姿勢を理解をいただいたものと思っておるわけであります。今後は、これを契機に各国指導者との交流推進、あるいは福田ドクトリンに示されております心と心の通い合う友情に裏打ちされた多面的ないろんな文化交流、経済交流、技術交流関係を築くために努力をしていくというのがその姿勢であります。  具体的には、中東諸国から表明されたそれぞれの自国の国づくりに対するプロジェクトに対して、わが国から強力にその期待にこたえるために、経済・技術協力等を通じ、これらの諸国の自主的なプロジェクト協力にわれわれは今後積極的に取り組んでいく。同時にまた、人的文化交流等をいままでより以上に積極的に促進することによって中東諸国との二国間及び多国間関係を通じて相互理解を深めていく。同時に、石油産出国とわが国とが、非産油国のいろんなプロジェクトに対しても、三国間の協力でもって進めていく、こういうような姿勢を中東諸国に対しては打ち出しておるわけであります。
  50. 大鷹正

    説明員大鷹正君) 文化交流について、つけ加えさしていただきます。  渋谷先生御承知のとおり、文化交流の実際の仕事を担当いたしております外務省の監督団体に国際交流基金というのがございます。この国際交流基金の実績を昭和五十一年度で見ますと、約半分が先進国との文化交流、半分が開発途上国との交流ということに使われております。その中で中近東の割合を見ますと約八%でございます。  そこで、われわれといたしましては、先進国ももちろん大事でございますけれども、先進国との文化交流は民間レベルでもずいぶん進められるのに比較しまして、開発途上国との文化交流は、資金面その他の問題もございますので、やはり政府、国際交流基金で力を入れていかなければなかなか進められない面もございますので、開発途上国一般との文化交流をもう少しふやしていくということを考えておりまして、国際交流基金もそのような考えで対処していくということになっております。で中近東との文化交流も今後はもう少し割合をふやしていきたいというふうにわれわれも考えております。
  51. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いずれにしても中東諸国との交流については遅きに失した、そういう印象はやはりぬぐい切れない。昭和四十八年のオイルショック以来、にわかに政府としても最大の関心を払わなければならないというふうに傾斜したはずだというふうに記憶しております。しかし、過去のことを一々愚痴めいたことを申し上げたって始まらないわけでありまして、今後どうするかというその問題の方にやはり最大のウエートを置きながら、活路を開いていかなきゃならぬだろうというのは常識でございましょう。  確かに、まあ古めかしいことで恐縮なんですが、これから二十年あるいは二十五年先の日本の将来ということを考えた場合に、いわゆる生命線とも言われる地域でございますね。したがいまして、これからどういう積極性を持って親近感というものを助長させながら、イラクを初めとするその地域国々との交流が深められていくのか、私はまだ相当疑問が残っているのです。なるほどこの十条にわたる条約をずっと拝見してまいりますと、きわめて理想的です、そうあらねばならない、こう思います。さて、いつの場合でも同じでありますけれども、これが実行の段階に移った場合にどういう効果をそこにあらわしながら具体的に進められていくんであろうか。これは経済協力においても端的に、もうすでにこの二、三年来何人かの閣僚が行きました。しかし、実際にそのときに約束してきた金額なら金額、内容なら内容というものがいまだに実行の段階に移されていないという背景を考えた場合に、果たして文化交流の面でも一体こんなふうにうまくいくのかなという、そういう疑問をしかし抱かざるを得ないわけですね。  なるほど、この第八条を見ますと、混合委員会というものを設置して定期的にイラク日本において会合を開き、そして具体的にどうするかという計画については策定をする、こうなっています。じゃ、この第八条についてのみ考えた場合に、そういう展望はすでにこの条約批准を前提にいたしまして御計画をお持ちになっていらっしゃると思うんですが、どういう計画を考えられていらっしゃるんですか。それで、何をこれからとりあえずの目標として討議の対象としながら文化交流への一つの足がかりをつくるのかどうなのか。
  52. 大鷹正

    説明員大鷹正君) いま中近東との文化交流をさらに深めていきたいというわれわれの考え方を申し上げましたけれども、ことし、具体的には日本文化を紹介する写真展を中近東に派遣いたしますし、また主として児童を対象といたします劇団を中近東に派遣いたす予定でございます。  さて、これからどうふうにして文化交流を深めていくか、どういうことを対象にすべきかというようなことについては、もちろん、先生がおっしゃいましたように、イラクとの間ではこの混合委員会の場を通じていろいろと意見を交換して協議していきたいというふうに思っております。  他方、中近東全体との文化交流につきまして、どういう仕方でどういうことをさらにやるべきかということをわれわれもさらに探求いたしたいと思っておりまして、今年度中に、なるべく早い機会中近東の主要な国に調査団を出しまして、そのことについて十分検討、調査してもらいたい、その上でできる限りのことをしていきたいというふうに思っておるわけでございます。
  53. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 在外公館設置法の問題の際にまた改めて申し上げるつもりでおるんですけれども、何度か私自身がこの当委員会において過去から現在に至るまで申し上げてきたことがあるんです。あの辺の地域の在外公館の職員の数を考えましても、果たしてできるのかなという疑問が出てくるんですね。  四人か五人という大変少ない館員、やはり直接その窓口になる場合には、そういう方々が折衝の役割りを果たさなければならぬだろうということも考えられるわけですね。これから強力に推進をする、しかも協定批准されたという責任ある行動というものがこれから望まれるわけでございますね。しかし、果たしてそういう機能的な働きというものがわれわれが期待し得るような方向に向かってできるんだろうかという問題については、どのような解消策をちゃんとわきまえつつお臨みになるのかどうなのか。
  54. 大鷹正

    説明員大鷹正君) 外務省といたしましても、在外定員の拡充強化ということは非常に重要な課題と考えておりまして、現実にも毎年百名ぐらいの増強を図っておりますけれども、もちろんそれでは十分ではないかと思います。今後とも、中近東地域を含めまして、在外公館の拡充強化ということをぜひ図っていきたいというふうに思っております。
  55. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 それ以上の答弁をいまこの機会に、私、求めようとしません、実情はわかっておりますから。  そういう非常に不安感を抱くんですね。せっかくやるからにはこれはわれわれの期待も大きいだけに、ぜひこれは強力に推進してもらいたい、物にしてもらいたい。やはりお互いの国民が認識と理解を深めるということが戦争回避へもつながる大きな原動力になるであろうことは常識でございますね。認識も持たない、理解もできない、ただ単発的に写真展を開く、それも結構だろうと私は思うのですね。果たしてそれを持続させる場合にどういう一体機能を持ち、どう一体具体的にそれを推進するかということになった場合に、これは総合的に条約に基づいて、日本がむしろ受け身の立場じゃなくてもう積極的にこちらからいろいろと働きかけていくという、その方が私は望ましいのじゃないかというふうに考えるがゆえに、そのことを実は申し上げているわけですね。  写真展や何かでごまかされたんじゃ本当にまずいんですけれどもね。もちろん外務省自身がそんなことばかりお考えになっているんじゃないと思います。踊りや写真展も結構だと思いますが、やることはたくさんありますね。特に、この第一条あたりに盛られたこの中身なんてものは大変高度な内容でございますね。こうしたものについては、それは文部省関係してくるだろうし、あるいは文化庁も関係してくるかもしれない。そういうような場合に、これは総合的に一体どこがということになれば当然外務省になるのでしょうけれども、その辺もうまくコントロールができてスムーズにこの種の計画というものが運営されていくのかどうなのか。  こうした問題、学者だとか教員だとか研究員だとか学生、芸術家、なるほどその並べてあることはこれは理想ですよ、ぜひやってもらいたいんだ。だけれども、どうかなという、それには——きょう通産省来ているかどうか、いままでの経済交流の信義を欠くような約束はしないでもらいたいというわれわれ願望があるんです。もうすでに三木さんが行った、中曽根さんが行った、河本さんが行った、園田さんが行った、いろいろな約束をしてきていますね。その約束をした中で、どうですか、もう三年ぐらいたっているはずだ、少なくとも。この三年間で、約束をしたことに対してどれだけの実行がなされてきたのか、それを経済協力に限ってひとつ言うてみてください。
  56. 中村泰三

    説明員中村泰三君) 昭和四十八年から五十一年まで、ただいま御指摘のような三木特使、小坂特使、中曽根、河本両通産大臣が中近東諸国を訪問されました。  具体的に申し上げますれば、三木特使がエジプトを訪問した際、円借款六百八十億円の供与を約束いたしました。現在、わずか三十三億円程度を残すのみで、すべて借款の交換公文の締結で着実に実施に移しております。それからシリアにつきましては混合借款二百七十億円約束いたしましたが、現在、先方と対象プロジェクト協議中でございます。これはシリアがその後経済計画を変更いたしましてプロジェクトの選定に時間がかかっているという実情でございます。  それから小坂特使のとき、昭和四十九年に同じく中東諸国を訪問、ヨルダン、アルジェリア、モロッコ、スーダン等を訪問されまして、その際、計二百十億円の円借款の供与を約束してまいりました。このすべてにつきまして、昭和四十九年から五十一年までにかけまして交換公文を締結済みでございます。  それからイラクにつきましては、中曽根大臣が訪問した際、混合借款十億ドルの約束をしてまいりました。今日まで化学肥料プロジェクト、発電所プロジェクトに対し、その約半分の千四百五十億円程度を供与済みでございます。  それから河本大臣の関係ではイランイラク、サウジアラビアイラクに対しまして追加借款十億ドルの要請がございました。これに対し、昨年、この追加供与を約束しております。それからエジプトに対しましても、三年間に一億ドルの輸出信用枠を約束いたしまして、昭和五十一年度から実施されておりまして、着実にこの履行が進んでいるというような現状でございまして、わが国といたしましては、特使等の派遣を通じて中東諸国に約束したことは、鋭意、その実施に努めてきておりますし、まだ実施の段階に至っていないものにつきましても、今後とも、関係諸国との協議を続け、約束の実施に努力していく所存でございます。
  57. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いまの金額は私が伺っている金額と大分開きがあるのですが、私がいただいた方が間違っているのかな。借款についての約束された額の総計、これはイランだとかいろいろな国が入っています、イラクも入っているし、七千百六十億円ですか、それに対して交換公文等で締結された額が二千三百八十六億円余りと、この金額は間違いですか。おたくの方から聞いたんじゃなかったかな、これは。
  58. 中村泰三

    説明員中村泰三君) 借款約束額は総合計七千百六十億円でございまして、現在まで交換公文等締結額は二千三百八十六億円等でございます。そのうち未消化の主なものはイラクに対します追加の十億ドルの混合借款、それからイランに対する十億ドルの約束、こういうものが残っておるためにこの差が出ております。
  59. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 特にイラクがいま問題の議題に上っているわけですので、政府の意思決定が非常に遅いということで、イラク側としては日本に対する信用というものを失いつつあるのじゃないかということが伝えられてきている。その辺はわれわれが受けとめている理解というものは正しいのか、いま現在進行形であるがゆえに十分相手に理解を与えている段階にいま来ているのか、その辺はいかがですか。
  60. 中村泰三

    説明員中村泰三君) これは現在イラク政府協議中でございまして、イラク側もこの点につきましては十分承知していると思います。  まだイラクにつきまして未使用の分につきましては、たとえば北部ガスあるいはペトケミ、輸出用製油所等を考えておりますが、たとえばペトケミにつきましてはイラク側におきましていまこれを実施するかどうか検討しているという段階でございます。それから北部ガス及びLPGにつきましても、現在、イラク側で検討しておりまして、恐らくは本年中にもイラク側から借款要請が出てくるのではなかろうかというふうに予想しております。
  61. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 援助についても切りがないと言えば切りがない見方もないではないでしょうけれども、約束をし、そしてまた日本に対する信頼と期待というものが大きいという前提に立ってイラクイラクなり日本にそういうお願いをしているわけですね。そうして同時に、いま私が触れましたように、最終意思決定するまで相当時間がかかり過ぎるというところで疑心暗鬼を生じている、というようなことが今後もいろいろなかかわり合いの中で起こるということになれば、両国間のやはり親善友好というものにひびが入りはしまいかということを私どもは心配をし、加えて、こうしたせっかくの文化協定を結ぶに当たっても同様のことが言えるのじゃないのか。形はつくっても中身がないというのでは何にもなりませんし、この発想というものは、いろいろなことの考え方を総合して文化協定を結ぼうという日本政府としてのそういう判断も私はあったのではないだろうかというふうに思うのですよね。  ですから、その辺の整理の仕方というものがまだ残念ながら明快さを欠く点があるのではないのかなという、いままでその接近の度合いが非常に浅かっただけに、私ども試行錯誤をしながらもちろん一つ一つ地固めをして、堅実な交流ということに道を開いていくことが望ましいにいたしましても、余りにもその点が消極的過ぎはしまいか。こうした文化協定を結ぶに当たっても、これは同時にこうしたような考え方が出たのか、どっちかが働きかけて、じゃやりましょうかというふうになったのか、この辺も具体的に実は説明がなされていないわけですね。  中東については、いままでいろんな話を聞いているんです。いままで向こうに在勤された方々がこちらへ帰ってこられる、とにかく日本人の考え方でもって行動しても合わないと、なかなか。それはそうでしょう、地理的な条件、風土的な関係というものを考えた場合に、日本人的な発想でもってすべてを合わせようと思ったって、それは合いっこないのは当然だろうと思うんです。砂漠の、しかも広い地帯でございますし、そういったところでも日本としてはかけがえのない供給を受けなければならないものもありますし、のみならず、それだけではなくして、やはり世界交流を深めて一つ一つとにかく中東紛争への、あるいは遠回しな対策になるかもしれませんけれども、多少でもこのくさびが打ち込んでいけるような話し合いの場というものをつくる上においても、この文化交流というものは非常に大事な役割りを果たすであろうというふうに思うがゆえに、その辺が何か突発的に出ちゃって、それでやろうかという印象もないではない。その辺のいま批准しようというに至るまでの経過は、一体、どういう経過があったんでしょうか。
  62. 大鷹正

    説明員大鷹正君) イラクは、従来から、わが国との間の文化交流の拡大を希望いたしておりまして、昭和四十六年の一月、初めて文化協定の案文を提示するとともに、わが国との間に文化協定締結したいということを申し入れしてきました。その後、重ねてわが方の検討方を依頼してきまして、わが国としては、この協定両国間の相互理解と文化交流の発展に資するところ大であるということを考えまして、この申し入れに応ずることといたしまして、昭和五十二年一月のマルーフ・イラク大統領の訪日の際の合意に基づきまして、その後……。
  63. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 了解。  要するに、能動的じゃないということですよね。いままではエジプト、シリアそれからアフガニスタンですか、あの地域ですと文化協定が結ばれているのは。
  64. 大鷹正

    説明員大鷹正君) エジプトと、それからアフガニスタンイランでございます。
  65. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 ところが、まだたくさんありますね。われわれこう頭の中にすうっと入ってくれは、サウジアラビアあたりはどうなっているんだということも考えられますし、常に受動的な立場に置かれて、それで一体文化交流というものが積極的に進められるんだろうかという、くどいようですけれども、またそういうようなことを確かめておかなきゃならぬという気持ちがあるんです。  この際に、いろんないまつながりを持ちつつある、大変環境的には私いま一番いい時期じゃないかという感じがするんですね。むしろ、こちらから働きかけをしながら、まだ残された、まだ可能性があると思われる国々については、いかがでありましょうかというふうに能動的に働きかけることも、あるいは二国間あるいは中東を中心とする多国間との交流がますます深まっていく一つの推進母体になっていきはしまいか、その辺の考え方はどうなっているんですかね。
  66. 大鷹正

    説明員大鷹正君) われわれも渋谷先生と全く同じ考えでございまして、受動的なことではいけない、もっと能動的に積極的にこちらの方から考えなくちゃいかぬというふうにいま思っておりまして、先ほど申し上げました国際交流基金とも、そういう考え方に基づいて、具体的な話をいたしております。
  67. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 せっかく国際交流基金というような御説明もいま改めてお伺いするまでもないんでありましてね、眠らしておく必要は毛頭ないわけでありますので。いずれにしても、もっとやはり積極的にお取り組みになった方がよろしいんではないだろうか。いろんな事情があることはわかっています。先ほど申し上げましたように、現在の機構あるいはスタッフ、それでできるかという一つの問題もございましょうし、もっともっと総合的にこれから日本が平和外交で強力な推進を果たさんということを考えた場合に、これなんか大きな目だと思うんです、文化協定なんかは。だから、単なる文化協定なんということで甘く考えられては困るなという感じがするんですね。本腰を入れてもらいたい。そうであってこそ初めてその道が開けることは、皆さん方だって百も承知されているはずなんですから、百も承知をされていながらそれができないというところにまだまだ日本外交の手詰まりというものがあるんではないかということをきょうは指摘だけしておきましてね、ちょうど時間が来たようでございますので、本日のところは、これで質問を打ち切らさせていただきたいと思います。
  68. 和田春生

    ○和田春生君 きょうは、ILO百三十四号条約批准にだけ焦点をしぼって質問をいたしたいと思います。  まず、最初にお伺いしたいのは、条約百三十四号が採択をされたのは一九七〇年でありますが、それ以来、八年間も長い時間が経過をいたしております。なぜおくれたのか端的に遅延の理由を伺いたいと思います。
  69. 小林俊二

    説明員小林俊二君) ただいま御指摘ございましたように、この条約昭和四十五年に採択されまして、三年経ました四十八年に発効いたしております。この条約が採択された当時におきましても、この条約を実施するために必要な基本的な法的な枠組みは一応整っておりました。  すなわち、これに関係いたします船員労働安全衛生規則は昭和三十九年に制定されておりますし、また船員災害防止協会等に関する法律は昭和四十二年に制定されております。したがいまして、そういった基礎的な枠組みはすでに存在いたしたのでございますが、その後、これに基づく諸施策を進めるという事態が残っておったわけでございます。で、こういった諸施策の実施を通じまして、船員職業上の災害防止に関するわが国の実態はこの条約趣旨を十分満足させることができる段階に達したという確信を持つことができるようになったというわけでございます。  この条約批准によりまして、船員職業上の災害防止に関する意識の高揚その他を図り、また、ILOにおける国際……
  70. 和田春生

    ○和田春生君 そんなことを聞いてない、理由を聞いているんです。
  71. 小林俊二

    説明員小林俊二君) 一口で申し上げますれば、こういった法律の枠組みに基づく実施の手続が今日まで行われてきたということでございます。
  72. 和田春生

    ○和田春生君 この条約を採択するときに、日本政府は賛成したのですか、反対したのですか。
  73. 小林俊二

    説明員小林俊二君) 賛成いたしました。
  74. 和田春生

    ○和田春生君 世界最大の海運国で船員が非常にたくさんいる。しかも、今日における労働行政の一番重要な問題はやっぱり災害防止、安全衛生ということが焦点になっている。にもかかわらず、条約が発効する後までおくれた理由は何ですか、日本態度が。
  75. 小林俊二

    説明員小林俊二君) 一口に申し上げれば、先ほど申し上げたことでございますが、細かい実態につきましては、運輸省の方から御答弁いただきたいと存じます。
  76. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) 先生御指摘のように、条約の採択には賛成し、それからすでに発効しておるにもかかわらず、おくれておったことについては、私どもとしても大変遺憾であると思っている次第でございますけれども、おくれた理由につきましては外務省から概括的にお答えしましたが、法律問題については特に問題はなかったと思いますけれども、法律とともに国内体制の整備という点については、当時、条約の内容と必ずしも一致しないような点が二点ございました。  その一つは、船員災害防止につきまして地方における民間の協力体制というふうな問題がございました。これにつきましては、昭和四十九年に、船員の労働災害問題を統括する組織としまして、船員局に安全衛生室というのをつくったわけでございますけれども、それを契機といたしまして、地方における災害防止連絡会議中身についてそれを整備強化するというふうなことをやりました。その一環といたしまして、船舶の所有者団体あるいは船員の団体等の関係者を必ず参加させるというふうなことで、強力な指導を行いまして、その結果、現在では各地方の海運局ごとに関係者がすべて参加しました災害防止計画の実施のための連絡会議というものが設置、運営されておるというふうな状況になっております。  また、もう一つの問題は、災害防止のための監督体制という問題でございまして、この点につきましては昭和四十五年当時は船員労務官の配置数というのが全国で八十五人というふうな体制でございましたが、その後毎年増員を図りまして、昭和五十三年度の予定としましては百二十二人となるというふうなことになっておりまして、ほぼ全国的にその体制も整備された、したがって条約の内容を充足することが可能であるというふうに判断をいたしましたので、このたび、おくればせながら批准をお願いしたというふうな次第でございます。
  77. 和田春生

    ○和田春生君 そうすると、おくれた理由というのは、端的に言えば労働安全衛生協議会の地方の組織がおくれたことと、労務官の数が足りないと、二つですか。
  78. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) 主としてそういうことでございます。
  79. 和田春生

    ○和田春生君 それでは、その件については、また後から具体的にお伺いいたしたいと思いますが、この条約批准について法令上の問題はなかったと、こう確認してよろしゅうございますか。
  80. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) この条約とかかわります法令は、船員法それから船員法に基づきます労働安全衛生規則、それから船賃災害防止協会等に関する法律、主としてこの三つの法律があるわけでございますけれども、このうち船員法及び船具法に基づきます労働安全衛生規則というのは、船員の安全なり、あるいは衛生なりの確保について規定があるわけでございまして、船内作業による危害の防止についてのいろいろな安全基準、それから船内衛生の保持についての衛生基準というようなこと……。
  81. 和田春生

    ○和田春生君 法律の内容の説明は要らぬですよ、よく知っていますから。
  82. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) はい。  そういうふうな法律に基づきまして、この条約の実施というものは、法律の点では十分実施が可能であるというふうに判断をしておるわけでございます。
  83. 和田春生

    ○和田春生君 そういたしますと、先ほどの関連で、条約批准が、成立以来、日本国も賛成したにかかわらず、八年近くかかった。おくれた理由は法令上は問題がなかったけれども、実施運用上にいろいろ難点があった、こういうふうに理解していいですね。
  84. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) さようでございます。
  85. 和田春生

    ○和田春生君 じゃ法令上については問題はないということを前提にして、若干お伺いいたしたいと思うんです。  陸上の労働基準法関係、陸上一般の労働者に関しましては、四十七年に労働安全衛生法が成立をしておりますね。で、こちらの方は安全衛生規則ということで、それよりも先にできているわけです。船員の方は法になっていない。しかも成立以来すでにもう二十年ぐらいたっている。この間における社会の情勢、いろいろな関係事項の変化というものは相当著しいものがある。にもかかわらず、すでに二十年前に、二十年と言うのはちょっとオーバーですけれども、十数年前につくられた規則のままでよいと思っているのか、法として整備しなくてはならぬという必要性を感じておられるのか、その点はいかがですか。
  86. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) おっしゃるように、労働安全衛生法というのは陸にあって、海の場合には船員法に基づく規則であるということで、法の体系の上では見劣るというふうな感触がございますけれども、この条約の履行について労働安全衛生規則で不十分だというふうには判断はいたしておりませんけれども、じゃこの条約の問題を離れてそれでいいのかということになりますと、私どもといたしましても、それで十分だと胸を張るつもりはございません。今後、労働安全衛生法というものの制定問題につきましても、これは先ほど先生御指摘のように、船員法というそれ自体が非常に古い法律でございまして、過去に二回改定をやっておりますけれども、最後の改定が昭和四十五年でございまして、その後いろいろと事情も変わっておりますので、そういったいろんな変化に対応しました船員制のあり方という問題も含めまして、今後、船舶の所有者団体なりあるいは船員の団体等との意見の調整も図りつつ、また船員法の規定に基づきまして船員労働委員会の意見も見きわめながら、今後、検討を前向きにやっていきたい、かように考えております。
  87. 和田春生

    ○和田春生君 もう一つ、この災害防止等に関連して、船員災害防止協会等に関する法律というのがありますね、先ほどもおっしゃいました。これは特に法律にした理由は何ですか。
  88. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) 船員災害防止につきましては、先ほどの船員法なり安全衛生規則に十分な規定があるわけでございますけれども、ただ、これを施行するについて十分な効果を上げるには、どうしても民間の協力ということが必要である、そういうことと、それから具体的に災害防止計画というふうなものをつくって、それを実施していく必要がある。そこで、そういったことについての法律として災害防止協会等に関する法律というものが必要になった、かように考えております。
  89. 和田春生

    ○和田春生君 そういたしますと、船員法の中には災害防止ということについてほとんど具体的な規定はないのですが、労働安全衛生規則と、この実施を保障するための一つの手段としてこの法律をつくったわけでしょう、そうなりますか。
  90. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) おっしゃるとおりでございます。
  91. 和田春生

    ○和田春生君 なぜ、その際に、総合的に見直して、船員労働安全法というものをきちっとつくって、その中の一環として災害防止協会に関する規定を設ければいいのに、こちらだけが法律になって、実施すべき主体の方は規則のまま置かれているという理由は何ですか。
  92. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) 当時の理由は私詳しくは存じませんですけれども、船員法の改正につきましては、先ほどもちょっと触れましたように、船員法の規定に雄づきまして、公労使三者からなります船員労働委員会の意見を聞いてやるというたてまえになっておりますが、その船員労働委員会におきまして、そういった船員法の改正問題等に関する審議の中で、なかなか意見の一致を見なかったというふうなことが大きな原因だったというふうに聞いております。
  93. 和田春生

    ○和田春生君 ちょっとおかしいのですね。災害防止というのは、災害防止や般員の衛生を確保することが目的でしょう。だから法令の体系でいけば、どういうことを守らなくてはいけないか、何をしなくてはいけないかというのが主体にならなくてはいけない。しかも、この災害防止協会というのは船主がつくるわけです、言われているように。それはきちんと守られるように、できるだけ促進するための船主サイドの一つの補助的手段としてこれが設けられているということはこの法律の中身を読めばよくわかるわけなんです。その証拠に、たとえば罰則もあるけれども、それは協会の違反事項に対する罰則だけであって、安全衛生を実施していく上についての違反に対しての規制というのは何にも入ってないわけですね。これはよく御存じのとおりですね。それが法律で、肝心かなめの方は規則であるということが腑に落ちない。  規則のままにとどめて置いておくという理由は何なんですか。一方では労働安全衛生法になっている。ところが、陸上よりもより危険な、より災害に対して問題を起こしやすい、衛生管理上も特に注意を払わなくてはいけない船員に関しては規則のままでずっと据え置かれている、十数年。この理由は何ですか。
  94. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) 特に規則であっては不十分である——私どもとしては、労働安全衛生規則という形式が法律でないからいかぬというふうには従来は考えておりませんで、規則であっても、その中身が十分であればいいんではないかというふうに考えておったわけですけれども、先生のおっしゃる法律にしたらどうかという点につきましては、先ほども申し上げましたように、船員中央労働委員会におきましてこの問題についての検討が行われたわけでございますけれども、必ずしも結論が出なかったということで、私どもとしても、今後の問題としては意識いたしておりますけれども、従来はそこまで手が及ばなかったというふうなことでございます。
  95. 和田春生

    ○和田春生君 船員中央労働委員会は立法機関じゃありませんから、そこで意見が一致しなかったということに責任を転嫁してはいけませんよ、船員局長がですね。やはり提案の主体は政府にあるわけでしょう。手続の中でいろんなところに相談をしたり意見を聞いたりすることはありますよね。  私は、なぜそれを問題にしているかというと、これ運輸大臣官房監修の「運輸六法」というのがあるんです。この中に「船員」という章があるんですよ、御存じですね。お気づきかと思いますが、この中には船員災害防止協会等に関する法律は載っているんです。船員の労働安全衛生規則は載ってないんですよ。だから、はるかに軽く見ておって、安全衛生規則なんというのはどうでもいいと考えているんじゃないんですか。これは運輸大臣官房監修ですよ。
  96. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) その法律等につきましては、私も編集の責任の立場にはございませんので、ほかの局の関係のところとのバランスの問題でそういうふうになっているかと思うんですが、実は、私自身も、非常に先生おっしゃる点については痛感しておりまして、不便だというので国会等に参ります場合も、そういうものは持ってこないで別のものを持ってくるというふうなことでございますが、今後、ほかの局とのバランスもあるかもしれませんけれども、入れる際には、ぜひこれは入れていただきたいと私も考えております。
  97. 和田春生

    ○和田春生君 ほかの部局の問題でなくて、船員の労働行政は労働省じゃなくて運輸省所管なんですよ。いいですか、ですから船員局というのは一つの部局かもわからないけれども、その船員労働行政の主体になるところでしょう。しかも「運輸六法」の中にそれが入ってなくて局長自体が不便だと言うんですね。不便じゃないんですよ。先ほどから私がそれを聞いているのは、結局、労働安全衛生規則でも法律とわざわざしなくても十分だというような意味のことをいろいろ申し述べているけれども、現に運輸省自体の認識が規則だから軽いものだと見落としておいて、その規則の中身を促進するための補助手段である災害防止協会の方についてはちゃんと載っかっているというところに、私は、運輸省船員労働行政、災害防止とか、安全衛生に関する基本的な認識が欠落している運輸省の根本的な姿勢に問題があると思うんです。これは別の機会に運輸大臣にしかと確かめたいと思うんですけれども、船員局長、おかしいと思いませんか。
  98. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) 御指摘の点はごもっともかと思いますけれども、私どもとしては、今後、先生おっしゃるようなことを踏まえてできるだけ努力をしてまいりたい、かように考えております。
  99. 和田春生

    ○和田春生君 この点につきましては問題点を指摘いたしまして、十分その御反省をお願いいたしたいと思うんですが、先ほど一応法令上は問題がないとおっしゃりながらも、実施運用上に問題があるというふうに言われました。実施運用上の点について幾つか具体的なことをお伺いをいたしたい、こういうふうに思います。  幾ら法律をつくっても、規則をつくっても、それがきちんと守られなければ意味がないわけです。その監督行政はもちろん運輸省が背負っているわけですが、監督行政の第一線におる船員労務官につきましてお伺いをしたいと思います。  先ほど五十二年度予算案では百二十二人ということをおっしゃいました。労務官ゼロの地区ですね、監督行政を実施する必要がありながら労務官ゼロの地域、それから労務官が一人しかいない地区、そういうところは何カ所ありますか。
  100. 豊田実

    説明員(豊田実君) 御説明申し上げます。  私どもの船員労務官は関係海運局及びその支局に配置するということになっておりまして、いわば全国をその支局単位で分割して担当しております。ただいま、その支局単位で無配置の関係が六支局ございますが、これは私どもの体制としては、隣接の支局なり、隣接の本局の労務官の業務範囲ということで、そういう意味では空白の地区というものはございません。
  101. 和田春生

    ○和田春生君 そんなこと聞いていないんだ。配置ゼロのところが何カ所あって、一人のところが何カ所ありますかと聞いているわけです。
  102. 豊田実

    説明員(豊田実君) 配置ゼロの支局が六カ所……
  103. 和田春生

    ○和田春生君 労務官の配置について伺いますよと言って事前通告してあるんですよ。
  104. 豊田実

    説明員(豊田実君) 一名配置しているところが三十六支局でございます。
  105. 和田春生

    ○和田春生君 海運局の支局全体で幾つございますか。
  106. 豊田実

    説明員(豊田実君) 六十四支局です。
  107. 和田春生

    ○和田春生君 そうすると、そのうちの六〇%以上、七〇%近くがゼロまたは一人ですね。その支局の管轄下に、多いところ少ないところありますけれども、監督行政実施を必要とする港湾は幾つぐらいずつありますか。
  108. 豊田実

    説明員(豊田実君) 全国の対象港湾は約千、商港としてございます。ただ、漁港関係はちょっと手元に正確な数字ございませんが、約三倍ぐらいじゃないかと思いますが、ちょっと正確な数字ございません。
  109. 和田春生

    ○和田春生君 漁港まで一々いま伺おうとは思いません。漁船にももちろん船長法の適用船員がありますけれども、適用外のところもあるわけですが、そうしますと、これは大ざっぱに言って半分以上のところは手が回らぬところだと言っていいですね。
  110. 豊田実

    説明員(豊田実君) 私どもの監査対象として船舶をとらえておりますが、年間、全対象船舶の約三分の一という隻数は一応監査の実績を上げております。
  111. 和田春生

    ○和田春生君 隻数が三分の一でも、中身がきちんとしなければどうにもならぬわけです。  海員組合が、この前の労働安全衛生月間に、これは労使の関係の対立問題じゃありませんから、いかにこれをよくやっていこうかというところで各地でアンケートをとったり座談会をやっている。その際に、労務官の人にも入ってもらって、いろいろやっているわけですね。そうした中の現場の第一線の人たちのいろんな意見の中で、どこでだれが言ったということは申し上げませんけれども、たとえば労働安全衛生に責任を持つ船主、こういう対象に対していろいろ通告をしたり連絡をしたりしたい、こう思っても予算上、費用上の面でほとんどできないという点で非常に悩みを抱えている。  あるいは漁船等の場合には、小さい漁船を一々やるというわけにいかない。それで漁業協同組合ですね、そういう団体を通じて趣旨徹底を図りたい、こういうふうに思っても、こちらの方もいま言ったように同じようになかなか時間がない、手が足りない、費用がない、加えてたまたま行っても相手側に担当の窓口がない、こういう形で非常に徹底がしにくい。  さらにまた、労務官の数が非常に少ないためにデスクワークにもっぱら労力をとられて労務監査の実施には時間がなかなか割きにくい。それからもう一つは、行政機構が船員局、船舶局、海運局というふうに縦割りになっている。労務官は船員局の所属ですが、実際は現場に行くけれども、まずい状態がある、違反している状態があるという場合に、それは船主にも責任があるわけですけれども、そういう点が非常にやりにくいし、それを打開しようと思っても人手が足りないためになかなか手が何らないという問題がある。  それからもう一つ、何といっても一番の悩みは、機動力と予算の不足である。何度要求をしてもこれがほとんど実現しない、こういう声が出ているんです。私なりにいろいろ機会があれば調べてみましても、全くそのとおりだと思うんです。労務官の数はふえましたけれども、それは足がなければ能率が上がりませんわな。労務官にちゃんと車を一つ与えてどんどんやっていくという形にならなければ、いまの港の事情は、御承知のように、歩いていったりバスや電車ではどうにもならないわけです。モーターボートで行こうとしてもどうにもならないという港湾がどんどんふえているわけですから、そういう足がなければいかぬ。さらにタクシーをどんどん使うという形になれば、費用がなければいかぬ。バスや電車や自転車で行っておったのでは、とてもじゃないが回り切れないという実態がありますね。  一体、そういう一人当たりの予算面はどうなっているんですか。人数がふえたということは聞きました。しかし、なおかつ員数の面でもはなはだ不十分で、ゼロないしは一人の地域というのが圧倒的に多いわけです。ゼロではほとんどできないわけです。一人では、その人が病気になるとかデスクワークにとられたら、その間は監査ができないわけです。少なくとも二人ないし三人以上がおらないとうまく手が回らないのは事実ですけれども、それはそれとして重大な欠陥があるにかかわらず、じゃ一人当たりの行動のために予算の面ではどうなんですか、ふえているんですか。それは物価が上昇していますから、物価上外率ないしは予算のふくらむ規模についてふえたというのではいけませんよ、そういう活動改善の面でふえた面があるのでしょうか。
  112. 豊田実

    説明員(豊田実君) 御案内のように、一般的な予算というのはかなり緊縮状態にあるわけですが、労務官関係につきましては、旅費の面とか庁費の面という予算で、全体が抑制ぎみでありますが、その中にあっては年々わずかでありますが、増加してきております。  先ほど足の問題を御指摘ございましたが、私ども自動車というわけにはなかなかいきませんが、一応必要なところには順次オートバイを配置して足の便を確保したいというふうに考えてきております。
  113. 和田春生

    ○和田春生君 オートバイとかバイクを配置すれば、多少はプラスになります。それは私がはるか昔に海員組合の組織部長をしているころに配置をしたんです。やがて限界が来たんです。それは港湾によってはオートバイでは入れないところ、行けないところがあるんです、門で規制されるところもたくさんあるんですね。ですから、いまは船主にしてもあるいは船員のサイドにしても、そういう場合には、やはり乗用車というものを機動力の根幹に据えてやっているわけです。これはボートと乗用車ですね。  そういう点で、少ない人たちに能率的にやってもらうというためには、機動力を備えるということでなければ、本人の犠牲ばっかり強いるから、結局、船に行った、船長にちょっと勧告してきた、帰ってきました、一隻済んだと。これは本人がサボるという意味じゃないですよ、どうしてもそうならざるを得ないんですね、ノルマはなかなか消化できないわけですから。そういう点では、人をもっとふやすということ、同時に、歩かなくちゃいけないし、陸上の工場よりもはるかに不便な港湾に停泊をしている船舶が対象なのですから、そういう面の予算上、資金上のことを適確にやらなければ、せっかく規則をつくっても、仮に法律になっても、しり抜けになるということは困ると思う。なぜかと言えば、守るところはいいわけですけれども、守らないところがどんどんどんどん放置されていくと、結局、逆選択を起こして、せっかくの法令ないしは労働安全衛生を守ろうという行動がしり抜けになってしまうわけですね。そういう点、局長、どうですか。
  114. 高橋英雄

    政府委員(高橋英雄君) 先生御指摘の点は一つ一つまことにごもっともでございます。私どもといたしましては、おっしゃる点いずれも予算とかかわりがございますのでなかなか困難ではございますけれども、運輸省としてはおっしゃるような方向でできるだけ努力をしたい、かように考えております。
  115. 和田春生

    ○和田春生君 本当にこの労働安全衛生というのは特にこれからの社会では大事なことなんですよ、口を開けば福田総理でも人間尊重と言っているんですから。そういう面では、ぜひ本当に力を入れてもらわぬと困る。口先だけではいけないと思うんです。  ついでですが、災害防止協会の組織というものが一応できたというのですが、専属の事務局はあるんですか。
  116. 豊田実

    説明員(豊田実君) 地方におきまして災害防止連絡会議というものが設置されておりますが、その庶務は海運局の船員部で担当してございます。
  117. 和田春生

    ○和田春生君 連絡会議の庶務を船員部で担当する、それは労使も集まってきて、いろいろなものを実施しようといって相談をするわけですね。それを各方面に通達を徹底したり、当然、そういう機構にはある程度の事務局が必要だと思う。だから、その専属の事務局がないにしても、そういうものを設けてやろうとすれば、それを担当するスタッフというものを増強しなければどうにもならぬわけですね。いままでの船員部が暇で暇で困っておって遊んでおったというなら別ですよ。そうではなくて、船員法に基づく労務官の業務でさえも人手が足りなくてふうふう言っておった状態ですね。せっかくそういう連絡協議の機関ができたというものについて、そういう面の予算上人的な措置はとられているんですか、便宜主義的に船員部で事務を扱わせるというだけでしょうか、正直に言ってください。
  118. 豊田実

    説明員(豊田実君) 従来から、九月に一カ月かけまして安全衛生月間運動というものをやっております。その関係につきましては、私どもの行政ベースの中でいろいろ予算面とか人の配置等で考慮してきております。
  119. 和田春生

    ○和田春生君 なかなか具体的なことは言いにくいと思うのですが、ざっくばらんに言って、形式だけで魂が入っておらぬ、また実も入っておらぬ、こういうところに一番問題があると思うのです。いみじくも、船員局長は、法令上は一応問題はないと思うが実施上に問題があったということを言われましたが、その問題というのは若干の問題があったという程度ではなくて、陸上一般の労働基準行政、安全衛生行政に比べますと、船員関係の立ちおくれははなはだ大きなものがあるとざっくばらんに言って認めざるを得ないと私は思うんです。とりわけ海上労働という特種な場所ですから、本当は陸上一般よりも進んでいなくちゃいけない。それが、いまいろいろ問題点を幾つか指摘いたしましたように、大変おくれているということは問題ではないか。これは特に運輸省に考えてもらわなくてはいけない問題だと思います。  で、私どもは、条約の百三十四号を批准するということについては、もっと早くやれ早くやれとこういうふうに言ってきたわけですから、これはもう大賛成なんです。ところが、条約承認した、批准書を寄託して批准手続をとった、ところが実態がいまのようなことでは、世界最大の海運国としてまことにお恥ずかしい次第で、低開発国の船員労働条件がどうのこうのなんて言えた義理じゃないと、極論すれば、そういうことにもなると思うんですね。したがいまして条約批准と今後の決意、また未批准条約に対する対処、さらにまた七〇年及び七六年の海事総会、それに基づいて採択をされた条約、今後の取り組み等につきましては、別の機会に、大臣もお見えになったときにお伺いをいたしたいと思います。  以上で、私の質問を終わります。
  120. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) 両件に対する本日の質疑はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後零時二十八分散会