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1978-08-18 第84回国会 参議院 外務委員会 閉会後第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十三年八月十八日(金曜日)    午後三時一分開会     ―――――――――――――    委員の異動  六月二十八日     辞任         補欠選任      立木  洋君     小笠原貞子君  七月四日     辞任         補欠選任      小笠原貞子君     佐藤 昭夫君  七月十五日     辞任         補欠選任      佐藤 昭夫君     立木  洋君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     委員長         安孫子藤吉君     理 事                 稲嶺 一郎君                 戸叶  武君                 渋谷 邦彦君     委 員                 大鷹 淑子君                 永野 嚴雄君                 田中寿美子君                 立木  洋君                 和田 春生君                 田  英夫君    国務大臣        外 務 大 臣  園田  直君    事務局側        常任委員会専門        員        山本 義彰君    説明員        内閣法制局長官  真田 秀夫君        防衛庁防衛局長  伊藤 圭一君        外務省条約局長  大森 誠一君        文部省学術国際        局長       篠澤 公平君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○国際情勢等に関する調査  (日中平和友好条約に関する件)  (国の防衛問題に関する件)  (今後における日ソ関係に関する件)  (北朝鮮との関係に関する件)  (尖閣諸島問題に関する件)  (派遣委員の報告に関する件)     ―――――――――――――
  2. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) それでは外務委員会を開会いたします。  国際情勢等に関する調査を議題といたします。  まず、園田外務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。園田外務大臣
  3. 園田直

    国務大臣園田直君) 本大臣は、去る八月八日から十三日まで中国を訪問してまいりました。外務大臣としての私の任務は、中国政府要人と率直な意見交換を行い、それを通じて数年来の懸案であった「日中平和友好条約」の締結交渉最後の活力を与え、この条約日中双方にとって満足のいく形でまとめることにありました。そして、華国鋒主席総理鄧小平主席兼副総理及び黄華外交部長と率直に話し合いました。  その結果、八月十二日、人民大会堂において「日本国中華人民共和国との間の平和友好条約」に、日本国全権委員として署名調印をいたしました。  この条約日中両国及び両国民双方の満足する形でまとまったと確信するものであります。このことを心から喜びたいと思います。  そして、このような円満なる条約締結アジア世界の平和と安定に寄与することを強く希望し、また、それを確信しております。  私は、この機会に、この歴史的な外交文書がこの世に生まれるについては、この条約締結のため不断の努力を惜しまれなかった日中両国の数多くの先輩同僚諸兄姉友人各位のことを決して忘れてはならないことを強調いたしたいと思います。特に、外務委員会各位のこれまでの御激励、御指導、御支援に対し衷心より感謝申し上げます。  私は、日中平和条約署名調印をきょうここに御報告できることを衷心から欣快とするものであります。  ここで、「日本国中華人民共和国との間の平和友好条約」の概要を御説明申し上げます。  この条約は、前文と本文五カ条から成っております。  「前文」におきましては、一九七二年九月二十九日の日中共同声明発出以来の日中関係発展を回顧し、引き続きこの日中共同声明の諸原則を厳格に遵守すること、また、国連憲章原則を尊重することを確認した上、アジア世界の平和と安定に寄与したいという希望のもとに、「日中両国間の平和友好関係を強固にし、発展させるために」この条約締結することに決定した、と述べ、この条約の「目的」を明確に規定しております。この目的は、日中共同声明第八項においてすでに明らかにされていたところと完全に一致しております。  「第一条」におきましては、日中共同声明の第六項と同様に、社会制度を異にする日中両国がそれぞれの立場を尊重しながら、恒久的な平和友好関係を築き上げていくに当たっての指針となるべき原則を挙げております。  「第二条」におきましては、日中共同声明の第七項と同様に、日中両国が、いずれも覇権を求めないこと、また、覇権を確立しようとする他のいかなる国または国の集団による試みにも反対することを表明しております。なお、共同声明第七項に比し、その対象地域は、日中両国に特に関係の深い「アジア太平洋地域」に限らず、「他のいずれの地域においても」と拡大されております。  また、「いかなる国または国の集団」であれ、覇権を確立しようとする試みがあれば、これに反対する、ということですから、だれそれと指しているものではないことは読んで字のごとくであります。  「第三条」におきましては、日中両国間の経済関係及び文化関係の一層の発展、また、両国民の交流の促進のための努力が規定されております。特に、その際、善隣友好精神に基づき、互恵平等、内政不干渉原則に従うべき旨が明らかにされております。  「第四条」におきましては、この条約が、各締約国第三国との関係でとっておる立場には何ら影響を及ぼさない旨を規定しております。このことは、前文において明らかにされておりますように、この条約目的が「日中両国間の平和友好関係を強固にし、発展させること」にある以上当然のことですが、日本について言えば、日米関係を基軸として、いずれの国とも体制のいかんを問わず親善友好関係を維持し発展させるというわが国外交基本的立場が、この条項により、将来にわたって確保されるわけでございます。  なお、このことは、第二条に示されている立場と何ら矛盾するものではございません。  「第五条」は、この条約批准を要すること、批准書交換は東京で行われること、そして批准書交換の日にこの条約効力が発生して、まず十年間という有効期間を定め、その後も、いずれか一方の締約国が一年前の予告をもって廃棄通告しない限り、いつまでも有効である旨を定めております。  以上が日中平和友好条約概要であります。  なお、ここで、条文自体に直接関係はありませんが、わが国において関心が持たれている問題につき若干御説明いたしたいと思います。  中ソ友好同盟相互援助条約に関しましては、かねてから中国要路人々がわが方に対し非公式に述べてきた同条約に関する中国側の考え方が、今回、中国政府より、同政府の正式な立場として確認されました。さらに、本大臣は、今般の中国指導者との会談を通じて、中国政府は来年四月には中ソ同盟条約を廃棄するため必要な措置をとるとの強い感触を得ました。  尖閣諸島の問題に関しましては、十日午後の私と鄧小平主席との会談において、私から日本政府立場について述べたのに対し、中国側は、中国政府として再び先般のような事件を起こすことはないと述べました。  本大臣といたしましては、この条約ができるだけ早く効力を発生し、日中両国が、安定した基礎の上に平和友好関係発展させるとともに、同国がそれそれの立場アジア世界の平和及び安定に寄与することを心から念願するものでございます。
  4. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  5. 戸叶武

    ○戸叶武君 一九七八年八月十二日は、日本にとっても歴史的な条約締結した日でありまして、この調印の知らせを私は郷里の夏季大学に行って聞きましたときに、思わず涙がこぼれ落ちました。  一九六〇年の安保闘争のときに、私と早稲田大学以来の盟友であった浅沼稲次郎君の、アメリカ帝国主義日中共同の敵だというあの激しい一九五九年の春の演説を受けて、社会党は共産党か社会党かわからないじゃないかというまでの非難を浴びせられましたが、これに対して浅沼稲次郎君は一言自己弁解はしなかったのです。私は浅沼君の心情を思うときに、同志からまで浅沼はばかだとまで言われました。近い人からももっとあれを修正するような発言をするように、あるいは取り消しをするようにと言われましたが、浅沼君はやはり政治家です。浅沼君はあの段階において、兄弟党とまで結盟しておったソ連から突き離された中国近代化の道をどうやってたどろうかと苦悩した際に、やはり浅沼君に対して周恩来なりあるいは廖承志君なり、そういう人が心を込めて私は説き伏せたのだと思います。  浅沼には素朴な――孫文がかつて大正十三年、神戸の女学校を訪れて、北京国共合作に踏み切る前に日本に呼びかけたことがあります。日本の反響のむなしさを知りながらも、中国におけるあの腐敗した軍閥政権を武力を使っても倒さなければ中国の前途は真っ暗やみだという気持ちで最後訴えをしたのでありますが、あの孫文の悲壮な叫びは、すでに第一次世界戦争が勃発したどさくさのときに加藤高明によって二十一カ条の、背後における山県や井上馨の思想によってつくり上げられたイギリス帝国主義的な冷酷無情の二十一カ条の突きつけによって、中国の若者は皆日本に絶望し、日本と戦わなければならないという決意を持っていながらも、孫文はそのはやる心を押さえて最後訴えをしたんです。  日本中国、この第、次世界戦争の始まった断初の帝国主義的二十一カ条が中国のナショナリズムを高揚させ、五七及び五四運動反日抵抗運動から今日の新中国はつくられたのですが、その憎しみを乗り越えて、なおかつソ連から突き離されたときに、浅沼君にお願いしたその心情というものは、最近周恩来アメリカに対する打診も公表されておりますが、千々に心を砕いたものだと思います。浅沼君は、みずからの責任において、このことを成就させるのは容易なことじゃない、他の人にゆだねることはできない、自分責任で死のうということはあのときから決したと思います。浅沼君が河上委員長委員長を争ったのも、左派の謀略に乗ったのでなく、浅沼は余人をして死を賭して日中関係を正常化することはできない、自分が最高の責任者としてこのために骨を埋めようというのが浅沼の悲願だったと思います。私は七日間も河上さんと浅沼君の間に立って、その周囲の人々にもせき立てられて交渉しましたが、浅沼君は一言も言を発しませんでした。それだけに今日浅沼のあの悲劇を見るときに、日中のために命を捨てた人がここにもある。  今度の園田君の外務大臣としての行き方には、私は、浅沼と同様、敬服するんです。党内からもずいぶん誤解を受け、そねみを受け、そういう中において、あの鄧小平との最後詰めは、やっぱりこれを物にしなければ私は日本に帰れないというのは芝居ではない、死を賭して園田君も鄧小平に迫ったのだと思います。十数年もチンピラ革命家にさいなまれて苦難のイバラの道を歩んだ鄧小平が、自分というものを捨てて次の時代指導者を育てようと決意している苦労人鄧小平が、その心をくみ取ったところにあうんの呼吸が合ったのです。さすが園田君も武道の達人だけあって、無念無想、あの瞬間における気合いというものが十分加わっているから、このごろ病気をするのも無理はないと思いますが、どうぞ体は大切にしてもらいたい。  問題は、しかし、あれでいいんじゃない。私は、きょうの質問は、今後のことに対して大まかにあの条約に込められている三点だけを質問します。  前文における国連憲章日本平和憲法を引用しての、いままでの同盟条約安保条約と違って烈々たる理想主義理念国際条約の中に初めて、日本中国において、みずからの反省の上に立って、これからの日本中国東南アジアその他の国々に迷惑をかけないようにという配慮からみずからも反省し、いかなる国の覇権主義にも反対するという気合いのかかった堂々たる発言世界史の中における初めての記録だと私は思います。マキャベリズム的な暗い権謀術策外交から、光明に背面なし、ざっくばらんに腹を割ってお互いに忠告もし、語り合い、理解を深め、相互信頼の上に立ってつくり上げた条約前文はみごとなものです。今後、世界外交史の中において私は非常な参考になると思います。  日本外務省にはなかなかの達人がいるものだ。気負った園田さんも最終段階詰めにおいては、外務官僚のエキスパート、能吏に任せて、そしてあれだけの条文をつくり上げたということは後世の範になると思います。私は立場は違うけれども、かつて西村条約局長時代日華条約条約技術を見て、蒋介石一派があれほどはやりにはやっているのにもかかわらず、自分の現に統治していない地域における主権というものを認めない断固たる条約をつくり上げたというのは、あの段階においても私は世界条約歴史の中において画期的なものだと思いますが、あれ以上に新しい歴史をこの条約の中にぶち込んだ。  政府の中における見識ある政治家外務省能吏――私は官僚軍閥は大きらいだが、しかし、やはり時代の流れを敏感に把握してデタントの方向へ世界が動いている。第三次世界戦争を夢想することは勝手だが、頭が変になったやつ以外にそんなことを考えるのはどうかしている。アメリカでもソ連でも、第三次世界戦争が誘発したならば自国も破滅に帰するということを百も承知の上で、第三国を揺すぶって武器弾薬を補給し代理戦争をやらしているんじゃないですか。その悪風潮に便乗して、日中の平和条約締結したから、今度は右向きの号令をかけてもいいというような徒輩が自民党の中には、うじゃうじゃと言わないけれども、それ相当にいると私は認めているのであります、これはあなたの関係ではありませんが。  国民は何百万という人の悲劇戦争を通じてあの憲法をつくり上げたのです。マッカーサーから押しつけられたと言うが、マッカーサーは滅びていったじゃないですか。スイスのように日本をするとか、あるいは日本に再軍備させて朝鮮に派兵のできるようにするとか、一貫した文明史観と哲学を持たない。しかし、日本マッカーサーの権力に屈したんじゃなく、天皇みずからも、まだ象徴時代でないでしょうが、あの声をふるわせて再び戦争をやらせない、外交戦争手段を用いない、平和憲法にたたみ込まれている精神を泣いて国民だけでなくて全世界訴えたじゃありませんか。天皇も退位でもして、象徴天皇でも放置するのなら別だが、政治原則信義です。国内だけでなく、外国にも誓ってそうして日本の窮状を打開しようとした天皇からあらゆる人民の声を無視して日本憲法を徐々に変えよう、なし崩そうなどという風潮の中にいま再軍備への足音が聞こえてきている。最近における法制局長官、自衛隊の要人防衛庁長官、まちまちの発言がなされておりますが、緊急事態に入ってからということが前提ですけれども、緊急事態に陥れないようなことが外交の本領です、これが第一線です。  園田君はまあ北京で腹かき切ってこないで無事帰還したということはいいことですが、健康に気をつけてください。そのかわり福田さんの忠犬ハチ公になることだけはやめてもらいたい。福田さんに対するあなたの知己であるということに対する感激はあるかもしれないが、最近の福田さんの動向はだれが見てもおかしいと見られている。新聞の論説を見てごらんなさい。きのうは左、きょうは右、みずてん芸者じゃあるまいし、一国の宰相が貫く理念を持って外交なり防衛指導しないでだれが指導するんですか。こんなばかげた三流政治家になり下がったならば、日中平和条約締結させた福田はあっぱれなやつだというほめ声があるが、さらに人気が上がらないのはそういう疑念が国民の中にわだかまっているからだと思うんですが、まず第一段階に、よくあの平和友好条約はつくり上げたと思いますが、どういう点にその一番の秘訣があったか、そのことをちらりと承りたいと思います。
  6. 園田直

    国務大臣園田直君) いま御発言にありましたとおり、辛うじて私が日本に帰ることができましたのは、一に先輩諸氏、特に皆さん方のおかげであると考えておりますが、なおまた中国指導者が私の話を真剣に聞いて、そして非常な友情を日本に示されたということをつけ加えておきたいと存じます。  この条約を結ぶについて、私は、第一には次のようなことを申し上げました。  日本中国の間には過去百年近く残念な時期が続いてまことに遺憾であった。しかし、悠久何千年の歴史から見ると、お互いに栄枯盛衰があり、強い国が弱い国に脅威を与え、それを繰り返してきた。日本ばかりでなく、どこの国でも隣の国に不安を感じ、脅威を感じ、そして隣の国が繁栄しないようにということでやってきたが、いまやその時代は過ぎた。お互い相手の国を繁栄させ、そしてその繁栄の中に自分の国も繁栄の道をもっていくという時代に変わってきた。現にヨーロッパで西ドイツとフランスは興亡常ならずやってきたが、いまでは緊密に提携をしてECを利用し、そしてまたそれぞれ繁栄の策を講じておる。  したがって、この条約は、貴中国ではいろいろな厳しい国際環境情勢にあるから、現状のもとでいろいろお考えになるであろうけれども、この友好条約は未来永劫これからの将来を規定するものであるから、本来に日本中国お互いに侵し侵されず、そしてアジア繁栄のために尽くす、こういう条約をつくりたい。いま第三国条項などあるけれども、これは第三国の問題ではありません、日本中国の問題であります。こう申し上げて、私は、アジア国々日本、これは現在正直にソ連脅威を感じております。しかし、将来、中国が強くなった場合には、中国はどうやるんであろうかという中国の未来に不安を感じております。こう言ったら、向こうから、中国アジア国々は、わが国に対する不安もあるだろうが、日本軍国主義復活に非常な不安を感じておる、こういう話がありました。  そこで、私は、その点は反発しない、十分自覚をいたします。日本中国アジアに対して軍国主義復活はいたしませんということを、言葉ではなくて、今後の実行で示す所存であります。中国の方も、言葉ではなくて、実行アジア国々に将来とも中国の不安はないということをここでお互いに話し合おうじゃありませんか。そこで、この日中友好条約というものは、日中が本当に手を握ってやればアジアは安定をし得るし、アジア繁栄をするし、世界国々がこれを祝福する、そういう条約をつくろうではございませんかというのが第一義であります。  第二義には、私は、条約交渉その他の会談で世の中が変わってきたと思います。どう変わってきたか、お互い自分の国の利害あるいは主張を相手にぶっつけて、勝った、負けた、譲った、あるいは向こうが譲った、そういう時代ではなくて、お互いが議論をするうちに、アジアのためにどういう条約が一番いいか、世界国民が祝福する条約はどういう条約か、そういう高い見地から話し合おうじゃありませんか、こういうことを言ったわけでありますが、幸い中国の方はこれを理解していただいて、そして今日のような条約締結できたと考えております。
  7. 戸叶武

    ○戸叶武君 中国人々モラルの点で一番重視するのは信義でございます。日本ではやくざが仁義なんて言いますが、信義というのはざっくばらんに語り合って長所も欠点もさらけ出してお互い知己となることであります。士は己を知る人のために死すというのは誇張した表現ではなく、それだけの感激を持って相手と交わるのでありまして、信義を守らなかった場合には軽べつされることになるのであります。  ソ連中国との中ソ論争の発端は何かということを、私は一九六四年社会党訪ソ使節団の一人として招かれていったときにソ連要人に聞きましたが、だれも語ってくれませんでした。レーニン研究所の所長をやりレーニン大学の学長をやった知性人スースロフ氏も黙して語らず、苦労人のミコヤンさんも語ってくれませんでした。禁語になっておったのでありましょう。バルカンにおいてあのパルチザン隊を率いて戦ったユーゴスラビアのチトーの古戦場における別荘を訪ねたときに、初めてチトーさんが、それは領土問題だと言って明確に語ってくれたのであります。それほど領土問題というものは重要な点であるということを平和条約締結に際しては常に考えないと、その国の固有の領土というのは民族の肉体の一部と同じなのでありまして、戦争に勝ったから他国の領土を取ってもよいという国際法理念は今日においては通用しないのであります。  そういう意味において領土問題、覇権問題はきわめて重要な問題でございますが、特に覇権問題に対して園田さんもいままで東南アジア諸国を訪ね、そうして日本に対する、中国に対する警戒というものはつぶさに私は知ってきたと思います。いまのベトナムと中国の間における華僑の問題をめぐっての紛争も一方的な発言だけを信ずるわけにはいかない面もあるのでありますが、共産主義国社会主義国とを問わず、政権を取ったときには国家は消滅するのでなくて、国家の権限が拡大せられ、その国の国民の利益を擁護しなけりゃならないというので、レーニン国家論とは逆に国家というものがのし上がってくるのが通例になっております。国家を強烈に代表しなければ国民の支持を得られないという関係と結びついておるものでありまして、観念的な国家論というものは、その時代基盤を背景としなければ、抽象的な論理においては国家論というものはそれほど価値がないのであります。近代国家は、多元論的国家論を提唱しようとするのではないが、もっとファンクショナルに機能しなければならない面が多々あるのだと思います。  私は、イデオロギーの異なっている国の日本中国の今度の平和条約締結というものは、お互い長所を尊敬すると同時に、その行き過ぎなり間違いを率直に忠告して自省していくだけの責任感と見識を持たなければ、この平和友好条約発展しないと思うのであります。したがって、今後において、一番大切なのはその基調となる信義でありますが、国連憲章ハイモラル理想をうたい、日本平和憲法を高らかにうたってこの条約締結しながら、日本の国が平和憲法を変えようとか、再軍備体制をつくろうとか、危急の場合にいまのような形では間に合わないとか、金が余るからもっと軍備を拡充しようとかいうような拡大解釈を持っていくならば、この基本理念で固められた、国際的平和協力の連帯の基盤をつくり上げようとしたこの試みというものは画餅に帰するのではないかと思いますが、そのことも十分考えた上での平和条約締結であって、見せかけだけの平和条約締結ではないと私は思うのであります。  やはり日本が今日までの繁栄をかち得たのは、忍びがたきを忍んでも――天皇もかつてこういうことを言っておりました。そうして戦争への道をとらないでぐっとがまんしたところに平和への道があったので、今度は金ができた、ロッキードはまずいからどこか違うところから飛行機を買おうなんて言って、また不正ができたり、そういう形において軍備が拡充されていくならば、私は、結局はそこに突っ走るところがあると思うんです。それは起きた時点においてそれぞれわれわれは議論することですが、いま累卵の危うきにあると思いますが、この覇権問題に対する明快な成文化を行ったということは、日本外務当局も、中国のこれに調印して責任を持った外交部長も、鄧小平さんもあなたも福田さんもりっぱであるが、りっぱな背後に黒い影がひそんできたということになると、せっかくつくった平和条約画餅に帰する危険はないと思いますが、あなたは大分楽観的な物の見方で前進する方でありますが、やはり平和条約責任を持って締結したからには、この問題に対しても重大な責任があるんです。どうぞ三流、四流の政治家のうろちょろ理論に惑わされることなくて、国家百年の計をこれによって築かなけりゃならないという大悟徹底が必要だと思いますが、高い理想を掲げながらも現実との矛盾のギャップを抱え、そんなずるずるといくところの俗流政治家とはかわって、一個の哲人的心境を持たなけりゃ祖国日本は守れないという心情に私は北京でも打たれたと思うし、相手も打たれたと思いまして、そこにあうんの呼吸の通ずるものがあったと思いますが、お互いにだまし合いじゃだめですが、どうです、その辺の打診は。
  8. 園田直

    国務大臣園田直君) 私は、中国ばかりでなく、ASEANの国々の一部にも日本に再び軍国主義復活するのじゃなかろうかという不安は、国々によって大小あると思いますけれども、真に日中両国が提携をし、アジアの平和の安定を図るためには軍国主義復活は断じてさしてはならぬ、これはもう第一の要件であることはいま先生がおっしゃったとおりでございます。
  9. 戸叶武

    ○戸叶武君 私は、一九六四年モスクワのクレムリンの最高幹部の部屋で日ソの問題、特に領土問題を率直にミコヤン、スースロフ氏らと語り合いました。そのときに社会党のある指導者は、やはりソ連との平和条約を急がなけりゃならないという好意的な心情から、歯舞、色丹において早期条約を結ぶと同時に、その後において日本固有の領土の返還について話し合おうという提言をいたしましたが、私は、そのとき失礼と思ったが、日本ソ連との国家性格は異なる、ソ連はプロレタリア独裁の国で共産党によって国が代表されているけれども、日決の国は人民主権の国である。平和条約のような国の運命を決定するところの条約国民の合意を得なければ成立するものではない。日本固有の領土である北方領土をずたずたにされて、歯舞、色丹の線で平和条約を結ぶというようなことをたとえ日本社会党ソ連の共産党が合意を得て共同声明を発しても、それはむなしい、国民が応じない。国民が応じないような共同声明日本自体を誤りソ連自体にも思い違いをさせるからそれは御免だ。少なくとも最小限度国後、択捉の線まででも返還しなければ平和条約というものは締結にはならぬということを主張しましたら、思慮の深い苦労人のミコヤンがニエットとテーブルをたたいたから、私もそれならばさようならだと言ってテーブルをたたいて、ソ連のために日本のためになることを直言しようと思ったらニエだから、おれの方もニエだからさようなら、帰ると言ったら、スースロフ氏が上着を脱いでワイシャツだけになって、いま最高幹部の会議の最中だから一週間ほど待ってこの問題をまた話そうということでお開きになったのです。  園田さんは、率直簡明に、中国要人日本政治家を名指しで誹謗することにもたしなめをやったようななかなか勇気のある方です。私はこういう態度、率直に語り合うという態度がなけりゃ、一度や二度けんかぐらいしなけりゃ本当に友人としての交わりはできないんだと思いますが、その後でミコヤンさんにプールを見てくれと誘われたときに、これは和解しなけりゃいかぬ、いつまでも腹を立てていちゃいかぬと思っていましたが、そのときに中ソ論争の根源を聞いたが、やはり語らなかった。だから私はひやかして、悪口と皮肉ではソ連の理論は合理的な議論を積み重ねるが、「三尺の堅氷一日に成らず」という中国の無限の恨みを込めた表現力というのは、あれはすばらしいですねと言ったら、答えずににやにやと笑っておりましたが、やはりこの「三尺の堅氷一日に成らず」、中国には中国ソ連に対する憎しみはわれわれが何と言っても消えないと思います。しかし、そんなことによって世界は変わるものではない。  戦時中のヤルタ秘密協定、軍事謀略協定は、アメリカが仕掛けてルーズベルト、チャーチル、スターリンによってヤルタでつくられたので、あれを変えろと私たちは叫ぶのじゃないが、あれは当然ソ連アメリカ、イギリスの責任において解消すべきものです。平和条約の基本となるものは、次の平和を保障すべき条件が具備されることによってのみ平和条約締結されるのであって、覇道主義的な押しつけによって、力によって、威喝によってそれがまかり通るというような十八、九世紀のマキャベリズムの外交はもはや世界に通用しなくなった時代が来たんです。  そういう意味において、私は、覇権問題に対しても領土問題に対してももっと政党政派やイデオロギーを乗り越えて、この国の民族が平和を保ち相手からなめられないで、そうして平和共存体制をつくり上げるというモデルを日中平和友好条約でつくり上げる。中国にしても近代化が先決であって、そこつな怒りに任せてソ連との激突をやるようなことは戒めて、なかなか言うことを聞かない場合もあるでしょうが、それに引きずられたり巻き込まれたりしないような態度が必要と思いますが、外務大臣はどういうふうにこの覇権問題と領土問題、日本中国ソ連のおのおの国柄の異なる国における外交のあり方を考えているか、端的に表明してもらいたい。
  10. 園田直

    国務大臣園田直君) 私は、中国に対しては、覇権の問題はこれはむしろ向こうから言われて同意したのではなくて、私みずから、覇権反対はこれは今日の原則である、たとえ相手が米国であろうと中国であろうとソ連であろうと、覇権を行われた場合にはわが日本は抵抗いたします、ただしその抵抗の仕方、覇権反対の仕方は中国とは立場が違うし方法も違います。  なお、中国ソ連との対立、これはソ連に行ったときにモスコーでも同様のことを言いましたが、中ソはもともときょうだいの国であり、かつては中ソ同盟条約を結び日本を敵国ときめつけられた。ある時期には誠心誠意ソ連学習という言葉中国は建設を始められた。それがいまけんかをされて対立しておるのはいいが、両方が日本に対してとばっちりをかけておられるのはまことに迷惑である。日中友好条約を無条件で結べというのは三〇%近くしかありません、あとの大多数は、日中友好は大切である、締結しろという声ではあるが、ただ中ソのけんかに巻き込まれては困るというのが日本の意見であります。したがいまして、わが日本はいかなる地域でもいかなる場所でも紛争が火を噴くことがないように全力を尽くす所存でありますから、中ソの対立については緊張を緩和するようにわれわれは望みます、場合によってはその時期と場所があれば日本はその役目を果たすつもりであります。新聞には一笑に付せられたとありますが、そうではなくて黙って中国の方は聞いておられました。そこで、日本は、この覇権という問題はあくまで社会原則である、一国を指定してやるべきものじゃないということを私は主張したつもりでございます。  領土の問題については、尖閣列島については、先般報告したとおりでございます。
  11. 戸叶武

    ○戸叶武君 外交防衛の問題は国の運命を決する大事な問題であります。外交は曲がりなりにでも、編出さんもやや聡明なところがあると見えて、日中平和友好条約が何とかかんとか、こんにゃく問答のようなそぶりをしていた福田さんにおいても最後の決断が下されて高く評価されておりますが、問題は、この機に乗じていわゆる防衛の問題で、栗栖前統幕議長の超法規発言防衛庁の有事研究の開始が発火点となって最近は新聞をにぎわせております。一体、どれが本音でどれがたてまえなのかさらにわからないので、きわめてアクロバチックな一つの表現方式をとっておりますが、見せ物なら別だけれども、こんな醜態は有事においては通用しないと思います。  そこで、今日は、金丸防衛庁長官、あるいはそれにかわるべき竹岡官房長なり伊藤防衛局長なり真田法制局長官なりのいままでの発言を私はよく調べましたが、よほどの頭のいい人の発言と見えて、われわれにも一般にもわからないし、新聞の論説を見てもみんな悲鳴を上げています。第一本人がわかっているのかどうかをしかと確かめたいので、この際、おのおのその責任ある地位の人から三人三様の発言を承りたいと思っております。率直に答弁してください。まず防衛庁。
  12. 伊藤圭一

    説明員(伊藤圭一君) いま先生のお話にございましたように、国の安全保障にとりましては、単に軍事的側面というものだけで私どもは考えているわけではございません。  で、わが国の国防の基本方針というのが昭和三十二年に国防会議において決定されております。その中の一番最初に挙げられておりますのが、近隣諸国との友好関係を確立するという外交を重視するということでございます。二番目に掲げてございますのは、いわゆる民生を安定し国力を上げて国家としての豊かな国にするということが二番目でございます。そして三番目に、必要最小限度の自衛力を持つということが基本的な線でございまして、国連が世界の平和維持に対して有効に機能するまでの間は日米安保体制によって安全を確保していくという方針になっているわけでございます。したがいまして、私どもは、この国防の基本方針から考えまして、外交防衛というものはそれぞれの分野において機能しなければならないと思っておりますし、私どもがこれに対しまして考えておりますのは、外交は積極的に、そしてまた自衛力といいますか、軍事力の面では控え目にという姿勢だろうと考えておるわけでございます。  しかしながら、この控え目な防衛力というものもやはりきちんとしたものでなければ、もし侵略が行われたときに、それに対処できるような防衛力でなければならないと考えているわけでございます。したがいまして、私どもとしましては、与えられた範囲、任務の範囲の中で有効に防衛力を発揮するのにはどのようにすればよいかということを常々勉強しており、そしてまたそれに対する施策を講じているところでございます。
  13. 真田秀夫

    説明員(真田秀夫君) 私の発言につきまして私の真意を述べろというような御趣旨の御質問だと思いますが、最近私が国会で御答弁申し上げましたうちで、憲法第九条の解釈につきましては従前から政府及び法制局がとっておった考えをそのまま申し上げたつもりでございます。  最近の私の発言で従来なかったことといいますと、むしろその憲法じかの問題ではなくて、自衛隊法の七十六条、つまり防衛出動の命令が出る前に奇襲攻撃があった場合にはどうなるんだろうかという点についての私のお答えだと思いますが、従来、私たちは、自衛隊法七十六条の規定のしぶりから見まして、防衛出動の発令される前にそういう外国からの攻撃があってあたふたあわてるというようなことはないというふうに解釈しておりましたし、私もそのような了解のもとで法律を読んでおったわけなんですが、最近、栗栖前統幕議長がいわゆる奇襲の場合はどうするのか、つまり防衛出動の発令とそれから防衛出動の発令があるまでに要する時間のギャップといいますか、それを問題にされましたので、実は、私たちはそういうものはないということで理解しておったんですが、専門家の方があるとおっしゃるものですから、それは大変なことだということで、一体そういうギャップということがあるのかどうかということも含めて、これは非常に検討に値する問題であるというふうにお答えしたわけでございます。  そこで、防衛庁の方でいまの問題点をよく御検討いただきまして、そしてもしその御検討の結果を踏まえて立法の必要があるということであれば、その立法の手続を踏むことはもちろんやぶさかでないというふうに申し上げたわけでございまして、その間考え方については私の方と防衛庁の方とは全く一致しておるわけでございまして、決して違うことを勝手に申し上げたということではございません。
  14. 戸叶武

    ○戸叶武君 伊藤局長はきわめて慎重な形において発言をしておるようにも見受けられるのでありますが、真田法制局長官は、新聞でもそう受けとめているけれども、防衛庁で罷免したところの栗栖発言を相当高く意義あるかのように評価しているように見受けられるところにおいて一般の誤解を招いているんだと思いますが、あなたのことだから相当慎重を期しての発言と思いますが、あの発言は相当慎重を期した発言ですかどうですか、その心境を承りたい。
  15. 真田秀夫

    説明員(真田秀夫君) 栗栖前統幕議長の発言に関連する私の発言は二つございまして、一つは、防衛出動の下令が行われる前にそういう奇襲攻撃があった場合には、いわゆる超法規的な措置として相当なことができるんだというふうな御発言があって大変物議を醸したわけなんですが、その点に関しましては、私は自衛隊法の七十六条をしかと読んでみれば、防衛出動の命令が出る前にいわゆる防衛出動発令下において予想されるような自衛隊の武力の行使は、これはできませんということははっきり申し上げまして、それは新聞でも法制局長官も回しように厳しい判断をしたというふうに紹介されておりました。  第二点は、先ほど申しました時間のギャップがあるではないかという栗栖さんの発言がありまして、実は、先ほど申しましたように、私はどうもいままではそういうことは予想しておらなかったわけでございますが、そういうことがあるという御指摘がありましたので、それはあったんではまた大変なことであるという観点から、果たしてそういう時間のギャップというものがあるのかどうかを含めて、もしあるとした場合には一体じゃどういうふうにしたらいいのかということを検討する、そういう検討には値する問題であるというふうに申し上げたわけでございますが、それが新聞では法制局官が栗栖発言を非常に高く評価したというふうに誤って報道されておる次第でございます。
  16. 戸叶武

    ○戸叶武君 時間がありませんから、まああなたが新聞が誤って伝えたと言うんだから、本人の言うことにそう間違いはないかとも思いますが、これは新聞の方と相当話し合ってみてください。  私の感じたことですが、この有事の場合においていつも過ちを犯すのは、明治憲法における統帥権の問題だけでなく、前線における部隊長が戦争への道へ発火点をつくるとなかなかそれが抑えられないんです。あの日華事変の盧溝橋事件のときに牟田口さんという少し頭が変な方ですが、ビルマ作戦においてもそれが暴露しておりますけれども、あれが聞かないんだ。石原さんが参謀本部の作戦部長であり少将として、またあのときには柴山兼四郎少将が陸軍省の軍務局長で輜重から出た人で中国通で慎重な人でした。どうやっても軍の体質は、それ皇軍が侮辱されたという形と功名手柄と金鵄勲章につられたわけじゃあるまいでしょうが、いきなり戦争に突入した。向こう中国側では――中国側のことは私はよく資料を集めてきていますから別な機会にやりますが、とにかく戦争回避に努めたんだが、できなかった。ああいうことを二度、三度と犯したら日本の国はめちゃめちゃになりますよ。  どうぞそれだけ心して慎重に、事、軍事行動の問題に対しては、外交も重要ですが、この日中平和友好条約批准に至るまでの道程において、外交防衛の問題に対して与野党の境あるところまでは撤去して、国の大事だからざっくばらんの慎重な論議がなされんことを期待し、私の発言はこれで終わります。
  17. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 まず、本論に入ります前に、このたびの日中条約調印に当たりまして、大変な御苦労と努力をされました園田外務大臣に心からなる敬意を表したいと思います。  きょうは多くをお尋ねする時間もありませんので、今後の日本の将来的展望に立った大まかなことを若干お尋ねをさしていただきたいと思っております。  日本の将来にとっても非常に大きな重みを持つであろうこの日中条約は、非常に簡潔な中に、また一面から見るとバラエケィーに富んだそういう内容を持つものではなかろうかと受け取れるだけに、この条約そのものはその意味でも大事な成果であったろうと思います。アメリカを初めASEAN、あるいはソ連の衛星国家と言われているような国々においてすらも、今回の条約締結は好感を持って迎えられている。と同時に、あるいは日中を軸にした新しい世界の大勢という夜明けがこれから始まるであろうというような受けとめ方もできるわけであります。  そうした環境を考えてみますと、国際的に孤立化するのではあるまいかというおそれを持っておりますソビエトの出方というものも私どもとしては決して軽視できませんし、また、政府当局においてもあらゆる観点に立って、大臣御自身がソビエトを訪問された場合にも、その点については重々日本の気持ちというものをお伝えになってきた。しかし、果たしてそれだけで十分な理解と認識が得られるであろうか。  この条約で一番問題になりました覇権につきましても、確かにソビエトを対象にしているものではないという、こうした合意に基づいて取り交わされたはずではありましょうけれども、外電等が伝えるソビエトの日中条約に対する評価というものは依然として手厳しさというものが薄れていない。それは長年にわたる中国の対ソ関係というものによる影響というものが依然として尾を引いているということも言えるでありましょう。私どもが決して対ソというものをむき出しにして覇権問題を云々したわけではないことは重々認識もしているわけでありますが、そのように受けとめないソビエト。また、今後、先ほどのごあいさつにもございましたように、中ソ同盟が来年の四月で事実上何らかの形で廃棄されるという強い感触を受けられたということが現実化されてまいりましたときに、この中ソ関係というものはいままでに増して激化するんではあるまいか。となりますと、日本といえども、その置かれた立場というものは非常に微妙でありまして、こうむる影響というものは何らかの形であらわれてきはしまいかということをやはり心配せざるを得ないわけであります。  その点についてかねがね外務大臣としての所信を伺ってはおりますけれども、今後恐らく激動する日ソ関係というものがどのような方向をたどるのか、今後の事態というものを静観しなければいたずらに論評も評価も加えることはむずかしいにいたしましても、やはり重大な問題でありますだけに、現在、外務大臣として、いままでの経過の中で、さらに今回の日中条約成立という段階を踏まえまして、今後どのような対ソ関係の施策をとられていかれるかという点についてまずお伺いをさしていただきたいと思います。
  18. 園田直

    国務大臣園田直君) 冒頭に私に対して労苦をいたわるお言葉がありましたが、先般から申し上げますとおり、井戸を掘られたのは皆さん方であって、私はその水をちょうだいしただけでざんきにたえません。  日ソの問題の前に、私は中ソの問題を一言申し上げたいと思いますが、ソ連に参りましたときに、ソ連の方は中国の悪口を一言も言いません。中国の方は御承知のとおりであります。これはまたソ連中国の現状からしてわからぬでもございません。しかし、いずれにしましてもいろいろ問題が対立してはおりますが、中国自体もソ連に対して進んでいこうということは考えないと思います。ソ連の方もまた中国に対して実力をもってどうこうすることはないと考えますので、中ソの対立が火を噴くことは万々あるまいと考えております。  なおまた、日中米ということをよく聞かれますが、米国もそのとおりでありまして、やはり米国もお互いに牽制しつつ逐次対立激化を避けていこうということでありまして、アフリカ、中東の問題についても、対決はしながらも内々では必要な連絡はとりつつやっておると判断をいたします。そこで、いまやすべての国々が、環境によって違いますけれども、緊急事態か起きないような体制をつくろうというのが世界の趨勢であると考えております。  そういう状態の中で、近ごろ新聞等では日ソの修復ということを言われますが、私は日ソの修復などとは考えておりません。日中友好条約について、これを契機としてソ連日本の間が、あいだが抜けたとか、あるいは何か問題があったとかということではないと思いますので、私はいままで続けてきた日ソの関係をさらに進んで拡大して友好関係を進めていこう、こう考えておるわけであります。  そこで、日中友好条約については、東京とそれからモスコーで、調印した後、この内容を説明いたしました。これは何もソ連だけに弁明したわけではなくて、ECまたはASEANの国々にもそれぞれ逐次機を失せず連絡をして通報をしてございます。そこで、私自身は、日中友好条約ソ連に対して敵対するものではないと考えておりますから、これに対して特別それ以上の弁明とかあるいは弁明の使いをやろうなどということは考えておりません。問題は、ソ連の方は、この説明に対して、いままではけしからぬ、敵対行為である、報復を考えるということはありましたけれども、今度いささか違いましたところは、言い分は何と理屈をつけてもこれは敵対行為である、しかし今後敵対行為であるか、あるいはソ連に対して日本が友好関係を進めてくるかは今後の日本の実績によって見る、こういうことでありますから、私はソ連の方がいまの条約締結によって何らかの常識で判断できないような行動をされることは万なかろうと考えております。  そこで、ソ連に対する積極的な外交は進めていくつもりでありますけれども、やはり日本中国の中にも若干の心構えの差があったと同様、いま日本国民とソ連国民の間には若干の心構えの差がありまして、その差を取って互角にすることが大事であると思いますので、私は、ソ連の方には、いままでのように脅迫とかあるいはおどしとか、こうやらなきゃどうするとか、ああやらなきゃこうするとか、こういうことによって話を進めていくことはできないと存じます。お互いに互角の資格で話し合おう、その話し合いならば、いかようなことでも話し合っていこう。北方四島以外はソ連日本の間には共通する利害がたくさんあるわけであります。日本ソ連が必要であります、隣国でありますから。ソ連の方も日本が必要であると考えておるわけでありますから、いままでどおり北方四島を含む平和条約の解決ということを前提にしながら国交を逐次進めていきたいと考えておるわけであります。
  19. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 ソビエトが果たして日本の誠意というものをどう受けとめてくれるか、これは私ども大変疑問があるわけでございます。申すまでもありませんが、日ソ共同宣言が発出されましてからちょうど二十二年であります、日中共同声明は六年であります、この時間的な経過の開きというものは一体どこに阻害条件があったんであろうか。  恐らく、日本政府としても、いろんな問題はあったにせよ、今回の日中条約調印に至るまでの経過と同じように努力もし誠意を持って北方四島の問題を含めた交渉に当たられてきた。もちろん北方四島の返還というものが最大のネックになっていることは、これはまごう方なき事実でありますけれども、その辺の隘路というものが開けなかったということも一つの理由でございましょう。ということを考えますと、果たしていま外務大臣がおっしゃったようなそういう誠意を持った日本の意向というものを、今後、果たしてくみ入れてくれるんであろうかという問題と、その反面に、先ほど申し上げたような新しい国際環境の成立ということを踏まえて、孤立化を恐れるソビエトといたしますれば、何とか早く日本との間における友好関係を結びたい、もうすでに善隣友好条約なるものはかねてからソビエトから提出されているわけでありますが、これは現状としてはわれわれとしてはのめないと私は思うんです。で、そうしたことがこれから非常に強く前面に押し出されてくるのではあるまいか。  もし日本が何らかの形において同意をしないとするならば、これはきわめて常識だと思うんでありますけれども、いままでもそうであったように、恫喝外交の一環としてウラジオを中心とする海軍力の強化であるとか、あるいは四島における軍事演習であるとかというようなもろもろのいやがらせ、あるいは二百海里問題をめぐる漁業関係のこれからの進展に対してどういうような申し入れをしてくるか、あるいはいまシベリアという問題も話題に出ました。このシベリア開発もまだ具体的には進んでおりませんけれども、そうした経済協力を通じての要求というものを、日本が少々不利である――少々どころではない、あるいは日本の将来にとって大変マイナスになるかもしれないという、そういうような要求もあえて突きつけてくるかもしれない等々、頭の中ではそうしたことをいままでの歴史的な経過の中でやっぱりどうしても考えざるを得ない。そういうことを踏まえて、果たしてそれを乗り越えながら、いま申されたような方向に向かって日ソというものが新しい段階における条約締結を基軸にした交流というものの可能性というものは十分考えられるのか、相当時間がかかるのか、あるいは絶望的なのか、こうした三つの観点の物の見方というものは当然迫られもするでしょうし、その辺の判断もしなければならない、こう思いますけれども、その辺はいかがでございましょうか。
  20. 園田直

    国務大臣園田直君) 相手のある国でありますから予測することはなかなか困難であります。しかし、私は、ソ連日本の間には、いろいろ問題もあるわけでありますが、また反対に共通の利害も多いわけであります。したがって、私の在任中は恫喝には屈しませんが、話し合おうということであればそれぞれいろんな方法があると存じます。いまここで具体的に申し上げるわけにまいりませんが、そういうつもりで処置していきたいと考えます。
  21. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 現状として、民間レベルの特にコンブ漁についての話し合いが延期されたという話、あるいはポリャンスキー大使の帰任がおくれているというような問題、こうしたことはそれぞれ事情があるといえばあるのかもしれませんけれども、今回の日中条約調印にかかわる一つの影になっていないのかどうなのか。そうしたものが一つのソビエトとしての日本に対する牽制の策なのか、この辺の分析等はいかがされておられるんでございましょうか。
  22. 園田直

    国務大臣園田直君) ポリャンスキー大使が本国に帰っております、それからコンブ漁も御承知のとおりでありますが、それぞれ理由のあることであって、ソ連日中友好条約締結に対する牽制であるとか意地悪であるとかは絶対ないと考えております。
  23. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 今後、この日中を中心とした新しいアジア体制、その中でやはり気になりますのが北朝鮮の問題であろうというふうに思うんです。  北朝鮮にとってみれば、いま恐らく等距離的な考え方に立ってソビエトあるいは中国との交流を続けておるようでありますが、日本といえどもこれを傍観しているわけにいかない。今回のこうした一つの取り決めを中心にして、やはり新しい一つの展望あるいは展開というものが当然考えられてくるんではなかろうか。そうしたときに初めてアジアの平和というものが一つの大きな流れというものを、あるいは大河から大海というような一つの大きな流れをつくっていく、そういうふうな気がしてならないわけでありますが、今後全力位外交というものを主張されている政府当局にとってみれば当然北朝鮮といえども例外ではなかろうというふうに思いますし、今回の日中条約調印に基づく北朝鮮の今後のあり方、日本として取り組まなければならない姿勢、どんなふうにこれからお進めになるおつもりなのか。
  24. 園田直

    国務大臣園田直君) 北朝鮮に対する態度はわが党としては決定しておりませんが、いまお話しのとおり、戦後の処理でソビエトとは国交はすでに回復をしております。なお、インドシナ半島の問題もありますが、朝鮮半島に平和と安定が来ることは、真にアジアの平和と繁栄を望むならば、これは一番大事な問題でございます。いろいろ困難な問題もありますが、日中友好条約締結されたことを機会に、わが日本政府も、折に触れ問題に触れて、北朝鮮との話の場所を求めて前向きに進めていくべき必要があると考えております。
  25. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 次に、ちょっと具体的になるかもしれませんが、まだ条約調印されて後でございますし、いろいろこれからも整理をして具体的に今後の政策遂行というものにどう取り組まなきゃならぬか、これからの問題であろうかと思いますが、特にこの条約の第三条に盛られております経済交流、文化交流、こうしたものをきわめて積極的に推し進めて日中間の友好を堅持していこう、当然、そういうような行き方になるであろうということは好ましい受けとめ方としているわけでございます。  で、園田さんが華国鋒主席に会われたときにも、すでにこうしたような問題が具体的に出たようでございますね。特に文化交流について、文化と言っても大変範囲の広い課題でありますから、あれこれという細かいところまではきょうは差し控えるにいたしましても、そこで特に強調されていたのは、日本のすぐれた科学技術というものの導入というものをぜひ進めていきたい、同時に留学生の問題についても今後積極的に頭脳改革の一環として日本に求めていきたいと、これはまことに結構なことではないか。むしろ文化交流に重点を置いた日中間の友好というものが一番好ましいと思うんですね。経済交流というのは時にして軍事的なそういういろんな影響を持つ場合の問題が出てきますし、非常にデリケートな要素を含む。むしろ文化の面で積極的にこれからそういうつながりを持つということは両国間においても平和を維持する上から非常に望ましい、こう思うんであります  きょうは文部省の学術局の局長も来ておられるようでございますが、もうすでに条約調印され、批准されることは間違いない、こう見ておるわけでございまして、具体的にそうした問題というものがいま俎上に上ってきているわけでございまして、政府としても早急にこうした学術交流の問題、留学生の問題にどう対応していくのか。きょうは大まかなところで結構でございますので、その受け入れ体制、また日本から中国に対しての派遣という問題あるいは留学生の問題等々、これに伴ういろんな整備が必要となりましょうし、当然のことながら、これに伴うあるいは昭和五十四年度の予算措置というものも組み込まれていかなければならないという問題がすぐもう現実的な問題として出てくるわけでありますが、こうしたとりあえずやらなければならない問題についていまどのように取り組まれていらっしゃるのか。
  26. 園田直

    国務大臣園田直君) これは主として鄧小平主席との間の話でありますが、中国近代化に協力をしてくれと率直に話がありました。そこで、私は、軍事協力はできない、その他のことについてはすべてのことについて協力をする用意がある。その中で言われましたのは、第一は中国の経済開発の問題、産業改革の問題それから科学技術の導入の問題、それからいまの文化交流の問題でございます。  私は、全般的には、華国鋒主席最後に、これを機会に今後お互いに気持ちのいい話ばかりしないで、私の方も遠慮なしにあなたの方に注文をつけたり、あるいはここは都合が悪いと申し上げますが、あなたの方もひとつ遠慮なしに言ってもらいたい、そして率直に友好関係が実を上げるようにしたい。そのために、こういう種々の問題があるから、外相レベル、事務レベルの打ち合わせは頻繁にやりたい。そこで具体的にどうやるかは批准書交換においでになったときに決めましょう、こう言って帰ってきたわけであります。  その中で、いま出ました留学生の問題、これは私行く前に文部大臣と直接会いまして、中国近代化のために文化、留学生の問題が来ておる、そこでこれはぜひよろしく頼む、こういうことでしたが、文部大臣はそのときは予算の関係で余り多過ぎるという話でございました。向こうの方では、いや予算は要らない、全部私の方で金を持ってもいい、こういう話でありますから、帰りましてから、党の方にも、それから文部大臣の方にも、そういうことであるから無理をしてでも格別の処置を願いたい、こういうことでいま努力をしているところでありますが、詳細は文部省から来ておられますから。  次に、経済開発の問題でありますが、私、これも行く前に河本通産大臣と打ち合わせていきましたので、鄧小平主席との会談の最中、実は、この友好関係が始まったら、直ちに日本中国は、日中間の問題、それからアジア国々に対する責任と義務が出てくるはずであるから、こういう点を十分やりましょう、経済開発については通産大臣がすぐ橋を渡ってくることになっております、長期貿易の契約、それから今後の問題、こういうことで十分お話し合いを願いたい。鄧小平主席はその場で歓迎する、こういうことでございました。こういう方向で進めていきたいと考えております。
  27. 篠澤公平

    説明員篠澤公平君) ただいまの渋谷先生のお話に、あるいは外務大臣からのお話もございましたことについてお答え申し上げます。その前に一言現状をごく簡単にお話しすることをお許しいただきたいと存じます。  すでに御案内かと思いますが、中国との学術文化の交流につきましては、従前、主として民間レベルで実施されておりました。政府間での交流はまたきわめてある意味では限られて実施されたという状況でございます。たとえば留学生をとりましても、受け入れにつきましては、東大ほか東京外国語大学あるいは大阪外国語大学、私立では創価大学等を含めまして、現在二十三名の留学生が来ております。また、日本から中国の方への留学生でございますが、これは私どもしかと把握いたしておりませんけれども、法務省の出入国管理統計によりますと、昭和五十一年度の数字でございますが、技術習得または留学という目的をもちまして約五百三十人が中国へ渡航しているという実態があると伺っております。  それから、学術の面におきましては、近年、地震学、プラズマ物理学あるいはレーザー等の関係につきまして、主として中国からの自然科学者の一行の訪日が非常に多いわけでございます。ごく最近では高エネルギー物理学あるいは宇宙航空関係関係者の来日が多くなっています。また、こちらから中国に参ります領域につきましては、たとえば地震学あるいは外国語――中国語でございますが、そのほか農学などの領域につきまして、大学関係者が訪中しているという実態でございます。先ほど申し上げましたように、いずれにつきましても、主として民間ベースの交流ということでやっておるわけでございますが、ことしの秋ごろには学術振興会の招聘という形で中国の大学長等をお招きするということを現在打ち合わせているようなこともございます。  その他のものにつきまして、若干省略さしていただきますが、青少年の交流だとかスポーツの交流もそれぞれ相当活発に行われておりますが、いずれも民間ベースということでやっておるわけで、ただいま先生の御指摘にもありましたように、これからの事態はこういう形ではいかぬということは私どもも承知しておるわけでございます。したがいまして、中国との教育、学術、文化の全面につきましては、現時点を踏まえて十分な対応策を考えておかなければならないということは考えておるわけでございます。  先ほど外務大臣のお話にもありましたように、具体的に留学生という問題での外務大臣から文部大臣に対するお話もございました。私どもも承っております。留学生の関係につきましては、まだ人数の点で明確でない点もございますけれども、さらにいろいろな問題といたしましては、たとえばある程度人数が固まりましたものにつきましても、研究留学生か、あるいは学部レベルの留学生か、さらには大学院を超えた研究者の招致、留学かという問題につきましても、実は、これから詰めてまいるようなお話になろうかと思っておるわけでございます。特に留学生の問題につきましては、従前から受け入れについて非常に文部省としても気を使ってまいりました。留学の効果が十全にあらわれるように、これはやはり受け入れの問題が一番重要であるという認識を持っているわけでございますので、特に来年度の予算等から見ましても、特にその点を重点的に考えながら、これから積もる話に対応するような形で考えてまいりたい、寄り寄り内部で相談を詰めておる段階でございます。
  28. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いずれにしても、七年間で二千名をという数を挙げて希望している中国側の要請に対しまして、従来は二十数名というきわめて少ない、しかも民間ベースでもって受け入れをしている、今後はあながちに民間ベースにだけ頼れない、政府間ベースでもって取り決めなきゃならぬという事態も起こるであろうことは当然だろうと思います。  また、いまおっしゃったように、受け入れというものが常に問題になることも事実でございましょうし、気候風土が違う、建物の構造が違う、いろんなそういう点も配慮しなけりゃならぬということになりますと、もう体制としてはいつでも受け入れられるという準備を進められるのが当然であろう、それはもう強力に推し進めていただきたいもんだなと、そういうところで思わぬ不愉快な現象が起こっていることは、日中間においてもせっかく友好という、そういう条約を結んだ以上、前進を妨げるようなことがあっては非常にまずいんではないか。  それから、学術交流にいたしましても、学者の交流というものも今後非常に頻繁に行われてくるであろうし、そうした受け入れ体制、あるいはこちらから派遣する場合にしても、円滑に交流ができるような措置を当然文部省は監督官庁でございますので、その辺も十分配慮してひとつやっていただきたい。  きょうは経済問題をもっと突っ込んでお伺いしたかったんですが、通産省の方には大変失礼をいたしますけれども、いずれにせよ、この日中条約精神に基づいて万遺漏のない今後の展開が示されることを強く希望を申し上げ、時間が参りましたので、私の質問は終わることにいたします。
  29. 立木洋

    立木洋君 大臣、今回の中国との平和友好条約の交渉締結に当たって、私も当委員会で何回か大臣に御要望申し上げたと思いますので、その点は繰り返しませんが、本当に中国との関係で恒久的な平和的友好的な関係が確立できるかどうかということが非常に重要な問題だと思っているわけです。  その点で、現在の段階で本当に両国の恒久的な平和友好関係を確立していく上での主権の問題や領土等々の問題が一体どうなっているのか。あるいはいま日本で進められているいろいろな日米共同作戦体制の問題あるいは有事立法その他の関連において、本当にアジアの平和と安全に貢献するというかかわり合いで一体どう考えたらいいのか。さらには、日本の自主的な外交の確立という点から果たして問題がなかったのかどうなのか、いろいろな点をぜひともお尋ねしておかなければならないというふうに考えているわけです。  それで、きょう、すべての問題でお尋ねするには当然もう時間がありませんので、幾つかの点に限って御質問したいと思いますので、端的に御答弁をお願いしたいと思います。  一つは、大きな問題になっていた覇権の問題。交渉前においてはなかなか大臣も明確にお述べになりにくかった点もあるかと思いますけれども、覇権の問題というのは今日日本政府としてはどういうふうに定義をされておられるのか、中国側はどういうふうに定義をされているのか、日中間で覇権の定義について一致したのかしないのか、その点、まず最初にお尋ねしたいと思います。
  30. 園田直

    国務大臣園田直君) 具体的にいかなる行為を覇権を確立しようとする試みまたは覇権と認定するかは、個々の具体的状況に照らして各締約国がそれぞれの立場で行う事柄ではございますけれども、一般的には、一国が他国の意思に反して力により自己の意思を押しつけようとするごとき行為は覇権を求める行為であり、国連憲章原則に反することであると考えております。
  31. 立木洋

    立木洋君 そうすると、いま述べられた一般的な意味での覇権に反対するということは、これは当然のことですし、私たちも全く賛成であります。  ただ、中国側が、大臣御承知だと思いますけれども、ことし開かれました第五回全国人民代表大会での政治報告の中では「反覇権国際統一戦線を強化、拡大し、超大国、わけてもソ連社会帝国主義の侵略政策と戦争政策に反対」、これは「各国人民には共通の戦略的任務」というふうに中国としてはこの覇権の問題はとらえ、述べているわけですけれども、こういうとらえ方が今度の交渉の中で若干とも中国側で変化があったのかなかったのか、あるいは全く変化がないというふうに日本政府としては判断されているのかどうか、その点はいかがでしょうか。
  32. 園田直

    国務大臣園田直君) 日中友好条約において覇権とは何かを定義しておりませんが、覇権に関するわが方の考え方については、交渉の全過程を通じてわが方から具体的に話してございます。一国が他国の意思に反して力により自己の意思を押しつけようとするごとき行為は覇権を求める行為であり、国連憲章原則にも反するものである旨、中国側に明確に述べており、これに対する反論はございません。そこで、覇権に対する解釈は、中国日本の間に見解の相違はないと存じます。  ただ、反覇権行為で私ははっきり言っておきました。覇権に反対する行為あるいは判断は、あなたの国と私の国と立場が違う、やり方も違う、この点を明確にしておきます。したがって、反覇権行為をどのように中国が利用するかは私の関するところではございません。
  33. 立木洋

    立木洋君 覇権についての日本政府の見解は明確に述べたが、それに対する反論はなかった、そういう点でその基本的な点については一致できたというふうに判断するということが日本政府立場だろうと思うのです。しかし、中国側がどう具体的にそれを理解し、具体的に行動をとるかということは、それは別の問題だというふうに理解します。  それで、日本政府として、ここに述べられておるいわゆる「覇権を確立しようとする他のいかなる国」という表現がございますけれども、覇権を確立しようとしている国は具体的に日本政府はどの国であるというふうに考えられるか。また、現在、世界じゅうで覇権を行使、覇権行為をとっておるという状態がどういう状態に現実に存在しておるというふうにお考えになるのか、日本政府としての見解を伺いたい。
  34. 園田直

    国務大臣園田直君) 日本政府は、覇権国あるいは覇権試みようとしている国というのは特定の国を考えてはおりません。そこで、私は、それを言葉では、覇権行為があれば、相手ソ連であろうと、米国であろうと、あなたの中国であろうとも反対をいたします、こういうふうに表現をしております。
  35. 立木洋

    立木洋君 具体的な覇権行為という点についてはいかがでしょうか、現実に世界じゅうでどこに存在しているか。
  36. 園田直

    国務大臣園田直君) 具体的な覇権行為ということになれば、やはり力をもって押しつけようとする、恫喝する、こういうことは覇権行為であり、あるいは覇権行為と誤認をされる行為であると存じます。
  37. 立木洋

    立木洋君 中国側のそういう覇権に反対するという具体的な考えやあるいは行為に同調するものではないという保障がどういう点でつけられたのでしょうか。
  38. 園田直

    国務大臣園田直君) それは条文を読まれてもおわかりだと存じまするし、特に第四条には、それぞれの国の外交的な基本方針を拘束するものではないという自由を確保しております。  私の今度の交渉の中で私が自分で考えてよかったと思うのは、最初は第三国というのが非常に問題になっておったのを、そうではなくて、日本中国お互い覇権を行わないということに論争を持っていった点は私なりに成功したと考えております。この論争の中でソ連に対する覇権の論争はございませんでした。
  39. 立木洋

    立木洋君 この第四条の解釈になるのですが、「第三国との関係に関する各締約国立場に影響を及ぼすものではない。」というこの「立場」ということをどう解釈するのか、「影響」というのをどういうふうに解釈するのか、その点はいかがでしょうか。
  40. 大森誠一

    説明員(大森誠一君) 第四条の趣旨についてまず御説明申し上げます。  第四条は、第一には、この条約が各締約国がそれぞれ第三国との関係でとっている立場には何ら影響を及ぼさないことを明確にしたものでございます。このことは、いずれの国とも体制のいかんを問わず友好関係を維持し発展させるというわが国外交基本的立場がこの条約のいかなる規定によっても影響を受けるものではないことが明確に確認されているところでございます。  第二には、この条約の規定中には、各締約国第三国との関係に触れた規定、すなわち第二条の後段の規定が設けられているわけでございますが、第四条によりまして、両締約国は、いずれの国であれ、覇権を確立しようとする試みがあれば、それぞれの立場において判断し、行動することを明確にしているものでございます。  次に、「立場に影響を及ぼすものではない。」という趣旨について申し上げます。この「影響を及ぼすものではない。」という意味は、一方の締約国第三国との関係でとる立場について、その一方の締約国の意思に反する一切の効果を及ぼさないという意味でございます。
  41. 立木洋

    立木洋君 そうすると、この意思に反する影響を及ぼす可能性があると見られる条項は、この五条の中のどの条項ですか。
  42. 大森誠一

    説明員(大森誠一君) この条約は、前文最後のところで明らかにしておりますように、日中両国間の平和友好関係を強固にし、発展させることを目的として結ばれたものでございます。  そこで、ただいま御質問の「影響を及ぼすものではない。」という点でございますけれども、先ほど申し上げましたように、この条約は全体として、いずれの締約国もいずれの締約国第三国との間でとっている関係に影響を及ぼすということはないということをはっきりさせているものでございます。
  43. 立木洋

    立木洋君 どうもすれ違いがあって時間がなくなるんですが、大臣、日米安保条約とこの日中平和友好条約との関係はどういうふうになりますか。
  44. 園田直

    国務大臣園田直君) 日米安保条約とこの関係については一言も話題になりませんでした。しかし、問題はきっと極東地域の問題と思いますが、台湾地域については、日中共同声明のときと同じでございます。
  45. 立木洋

    立木洋君 つまり極東条項を廃棄する考えもないし、廃棄する必要もない、そのまま極東条項は存続させるという意味だと思うんですけれども、そういうふうに判断されるのは、第四条があるからそうなっておるというふうに理解していいんですか。
  46. 大森誠一

    説明員(大森誠一君) 先ほど大臣が申されましたように、日中国交正常化というものが日米安保条約にかかわりなく達成されたのと同様に、このたびの日中平和友好条約は日米安保条約にかかわりなく調印されたものでございます。  今次交渉の過程におきまして、日本側より、わが国外交政策において、日本と米国の特別な協力関係は今後ともわが国の対外関係の基軸であり、日米安保条約体制わが国の安全保障を支える一つの大きな柱であり、これを堅持する旨を述べまして、これに対し中国側は、日米関係が特別な地位にあること、日本が日米安保条約な必要としていることにつき明確な理解を表明した次第でございます。
  47. 立木洋

    立木洋君 どうも文章を先につくっておられるんだけれども、私の質問に対する答えになってない文章を読まれたんじゃ質問が先に進まぬのですが、まあ大森さんまた後でゆっくりやりましょう。  それで、衆議院でも幾つか出されておったと思うんですけれども、たとえば米日中のこの関係が今後どうなるのか、そういう点で疑念があるということについて、衆議院でもけさ午前中いろいろ議論がありましたですね。それで端的に言ってこういう特殊な関係がこの三国に生じる可能性というのは全くないのかどうなのか、その点はいかがでしょうか。
  48. 園田直

    国務大臣園田直君) それは全くございません。日本日本中国と、米国は米国の立場中国と、こういうことで、米中日の関連性はございません。
  49. 立木洋

    立木洋君 日本政府としてはそういうふうに当然お述べになるだろうと思うんですが、客観的な状況を見ますと、かつてブレジンスキーが中国を訪問したときに、「われわれは世界的あるいは地域的に覇権を確立しようとするいかなる国の試みにも抵抗する中国の決意を認め、共有する。」ということを述べておるわけですね、中国の考え、それを認めて共有すると。そして強い中国アメリカの利益である、こういう趣旨の発言がありました。  そしてさらに、マンスフィールド駐日米大使がいわゆる中国の存在というのを東の北大西洋条約機構つまりNATOと言っているわけですが、これについて鄧小平主席の述べている発言によりますと、マンスフィールド駐日米大使が述べたこの点、つまり中国を東のNATOと言ったが、この評価には基本的には賛成であり、敬意を表するという発言もあります。  また、今日の日本の状態ですね、これは防衛白書を引くまでもなく、ソ連の軍事力の問題ということに対するきわめて重視した表現が防衛白書の中にもありますし、伊藤防衛局長も仮想敵国ということを申し上げるつもりはないけれども、ソ連日本の隣国であるのは事実であり、したがって強力な軍事力というものがソ連にあるという事実を十分に考えておるという発言も六月八日の衆議院の内閣委員会で行われております。  こういうふうな一連の関連性を考えた場合に、日本政府がどのように主張されようとも、客観的にそうなるおそれあるいは危険性というものが事実存在しているんではないか、これは客観的な事実としてですね。それに対して日本政府がどう対応するか、つまり危険性があるからそういうふうにならないように努力するというのか、危険性が全くないというのか、全くないからそういうものについては日本政府は考える必要がないと言われるのか、その辺の見解を――。
  50. 園田直

    国務大臣園田直君) 私が、バンス国務長官に、正式の会談で、中ソの対立を外交に利用することは冒険であってきわめて危険である。したがってわが日本はとらざるところ、中ソの対立は緩和の方向へ努力したい、こう言ったことに対して、バンス国務長官も同意であるということを言っております。日中米をつなぐという考えがありますが、それは断じてないという確信を持っております。
  51. 立木洋

    立木洋君 それから、会談の中で外相がこういう発言をされているという報道があるんですけれども、日本の外相として、たとえば中国への兵器輸出問題についても、欧州各国の外相らとの会談を通じ、中国近代化に有利になるよう話をしているという報道がありますが、これが事実かどうか。そういう話をしておるとすると、その真意はどこにあるのか。日本政府が軍縮特別総会で述べた提案とも反する発言ではないだろうかというふうに考えるのですが、この点はいかがでしょうか。
  52. 園田直

    国務大臣園田直君) そのような発言をしてはおりません。ただしヨーロッパその他の話はいたしました。覇権の問題が出たときに、私はベトナムに対してどういう態度をとっているか、ソ連の抗議に私が屈服したか、あるいはヨーロッパでどのような話をしているか、それはあなた方がわかっているとおりである。覇権というもの、あるいは恫喝には抵抗する、しかし闘い方はあなた方と違うんだと、こういうときに出ただけでありまして、兵器の話は出ません。
  53. 立木洋

    立木洋君 じゃ、もう時間が参りましたので、非常に短い時間だったもんですから十分にお尋ねすることができませんでしたけれども、条約の審議のときに十分にいろいろお伺いをしたいというふうに考えます。
  54. 和田春生

    ○和田春生君 まず最初に、長年の懸案であった日中平和友好条約締結につきまして、園田外務大臣がこの時期に訪中をされまして、園田外務大臣のもとにおいて締結に導かれた、このことについて敬意を表するとともに、御労苦に対しましておねぎらいを申し上げたい、こういうふうに思います。  いずれ条約全般並びにその背景については時間をかけて審議をする機会が承認の問題と絡んであるわけでございます。したがって細部についてはその際に譲りますが、きょうは、日中平和友好条約締結に絡んで重要なポイントの一つについて、ほとんどいままで触れられていない問題を一、二お伺いしたいと思うんです。  まず最初に、第四条の第三国条項でございます。  いままでの質疑で大分明りかになってまいりましたが、「第三国との関係に関する各締約国立場に影響を及ぼすものではない。」この場合の「第三国」というのは、ソ連アメリカなどはもとより、世界に現存するあらゆる国を指している。その中にはわが国が承認している国もあれば承認していない国もある。あるいは正式に国交がある国もあれは、まだ正式に国交がない国もある。さらに、その国が現在の中華人民共和国政府とどういうかかわりを持っているか、そういうことを問わず、すべてを指す、こういうふうに理解してよろしゅうございますか。
  55. 園田直

    国務大臣園田直君) そのとおりでございます。
  56. 和田春生

    ○和田春生君 そうしますと、ここで一つ重要な問題がありますのは、一九七二年の日中共同声明以来、台湾にある中華民国との正式国交は断絶をしております。しかし、御承知のように、実務関係はずっと続いて、むしろ発展をしておる。現在では、台湾を訪れる日本人は年間五十万人を超えておりますし、日本を訪れる中華民国国籍を持つ人々は十万に近い。貿易も往復二千数億ドルありまして、外務大臣も御承知のように、輸出相手国としては自由世界では西ドイツに次いで第四位、ソ連並びに大陸中国に対するそれを上回っているという関係が存在をしているわけであります。  この関係についても、今度の条約締結については影響を及ぼさない、こういうふうに理解してよろしゅうございますか。
  57. 園田直

    国務大臣園田直君) 台湾は、この前の日中共同声明以来、わが国は国としては対象にしておりませんので、この第三国という対象には入らぬと存じます。
  58. 和田春生

    ○和田春生君 そうしますと、今度の条約締結によって影響が及ぶということですか。
  59. 園田直

    国務大臣園田直君) 従来どおりだと存じます。
  60. 和田春生

    ○和田春生君 従来どおりでありますか――そのことを、正式の国交があるかないかは別であります。わが国外交関係、国際関係でやはり大きな部分を占めていることは間違いない事実なんです。これは相手側に何らかの方法で伝わる、あるいはまた日本には中華民国国籍を持つ居留民が多数あるわけであります。そういう人々についてもそういうことが伝わる、そういう措置を考えておられるのか、あるいは何らか手段について外務省当局としては検討されておるんでしょうか。
  61. 園田直

    国務大臣園田直君) 正式の委員会では具体的に申し上げるわけにまいりませんけれども、十分考慮をしていきたいと考えます。
  62. 和田春生

    ○和田春生君 その点、外務大臣のお話がございましたので、本日のところは、この程度にとどめておきたいというふうに考えます。  もう一つの問題点については、先ほど来、これはかなり議論になってまいりましたけれども、ソ連との関係についてでございます。  覇権条項の問題についてもっぱら日本がどう解釈をするか、中国側がどう解釈をするかということも議論をされておりますけれども、どこまでが真実であるかどうか、こういうことについては確かではございませんが、いままで新聞その他で報道されるところによりますと、どうも日本政府覇権反対に関して今回の条約締結のもとに対ソ関係を考えていることに対して、中国側がむしろ否定的である、そういうニュアンスを持った報道がかなりありますけれども、それは気にとめなくてもいいことでしょうか。
  63. 園田直

    国務大臣園田直君) 条文から読んでいただいてもこの点明らかであると思いますが、会談を通じ、数回にわたって日本ソ連立場は明確にいたしておりますから、この点は、今後とも、ソ連に対しては向こうからの要人の来日、こちらから行く人、あるいは機会をとらえて説明をしたいと存じます。
  64. 和田春生

    ○和田春生君 そういたしますと、反覇権条項及び第四条の三国条項が入っておりますけれども、ソ連に対するそれぞれの外交政策、そういうものについては日本日本中国中国とそれぞれの自主性に基づいて対応する、これははっきりいたしましたけれども、少なくともこの条約の意味していることについて玉虫色の解釈が出てきたり、いやそれはそうではないんだというようなことが今後生ずるおそれはありませんか。
  65. 園田直

    国務大臣園田直君) それは絶対ないと存じます。
  66. 和田春生

    ○和田春生君 結構だと思います。  もう一つは、条約に直接関係ございませんけれども、尖閣列島の問題であります。  これにつきまして、いままで外務大臣の御報告等を、お聞きしている範囲内におきましては、日本の主張を貫いた、そして鄧小平副首相がそういうことは二度と起こさないという形で確認をされたと思う、一口で言うとそういうふうに言われているわけでございますけれども、これについて、これも新聞に出ておりますのできのう以来御存じだと思いますけれども、香港の左派系夕刊紙の新晩報が、これは従来からも中国政府の代弁といいますか、あるいはその意向というものがこの紙面をかりて伝えられているということではわりあい定評のある新聞なんであります。その時事評論のコラムの中で、尖閣列島発言について、日中平和友好条約第一条二項の精神、紛争の平和的解決を述べたまでのことであって、釣魚島(尖閣諸島の中国側呼称)は中国領土であり、寸土といえども譲れないという主張を表明しているということがございます。  これは人民日報の正式記事ではございませんが、この左派系夕刊紙の従来からの性格並びに報道にかんがみて、これは問題にしなくてよろしいんでしょうか、問題になる報道でしょうか。
  67. 園田直

    国務大臣園田直君) 尖閣諸島の問題は、当初、私は、この条約に直接関係がありませんので、この問題を出すことはかえって日本の国益を損ずると判断しておりました。いま御承知のとおり、尖閣列島は昔から日本領土である、日本はそう主張しております。そうして有効支配をしております。竹島や北方四島とは違います。最近になって台湾を通じて中国自分領土であると主張されたものでありますけれども、日本はそういうばかなことはありませんとはねのけたかっこうが今日の状態であります。  もしうかつに私が国益を守るという立場で尖閣列島は日本のものだと言う、そうすると中国はいままでのいきさつ上中国のものだと言う、ここで互角の論争が起これば、それじゃ将来平和的に話し合おう、こうなれば紛争地帯であるということを日本みずから認めるわけになりますので、いまの状態が一番いいのではないか、こう思ったわけでありますが、言わなければいかぬとこういうことでございましたから非常に心配をしておりましたが、幸いそういう意見が出てきましたから、尖閣列島については日本立場を述べ、さらにこの前のような偶発事件が起こっては困る、このような事件がないようにと、こう要請しましたところ、鄧小平主席は、笑いながら、この前のは全く偶発事件であった、漁師というものは魚を見て追えばつい見境がつかなくなる、今後はこういう事件はない、こう言われましたから、これが私は私としてはぎりぎりの線であると思って、それ以上は突っ込んではおりません。
  68. 和田春生

    ○和田春生君 この問題については、私たちの民社党もいままで主張してきておりますように、日本が実効的に支配をしている、歴史的に日本国領土である、そういうことには間違いないこれは事実であるから、向こうから持ち出さない以上、こちらから強いて持ち出さなくても、その立場を堅持してこの問題については解決を図ろう、こういう考え方を党としては示しているわけでありまして、外務大臣の御見解もそれと一致しているわけでありますから、そのことがいいか悪いかということをいま問おうとしているわけではないわけです。  こういう報道がありますと、現在は問題が起こらないけれども、これからどうなるかということが問題になる。というのは、日中平和友好条約締結は問題の終点ではなくて、これからの日中関係の始まりでもあるわけですね、いままで続いてはおりますけれども、また、この条約を結んだことによってその条約のもとにおける関係というものが展開をされていく。  そこで、たとえば、現在、日本は二百海里水域につきましても太平洋サイドには引いておりますが、西側の大陸の関係は、ソ連あるいは韓国あるいは中国との関係を考慮して、現在、開放してあるわけなんです。しかし、やがて周辺諸国の動きによって二百海里のエコノミックゾーンというものについていまのままでは済まない事態が出てくると思うんですね。伝えられるところによると、中国政府の方でもこの、百海里の問題について検討をしている、こういうふうに言っているわけです。さらに、東シナ海における大陸だなの石油開発の問題につきましても、政府間ベースであるか民間ベースであるかは別といたしまして、日中間においても一つの話題として上りつつある。その場合に、二百海里経済水域による線引き一つをとりましても、尖閣列島はわが国領土であるのか中国領土であるのかということが決定的に線引きにおいて重要な影響を及ぼす課題であります。さらに、それはそれぞれの国の主権のもとにおける開発ないしは共同開発という問題についても非常に大きなかかわりを持っているわけです。  そこで、今度のことでそういう点については問題はなくなっておって、日本の主張がそのまま通るという感触のもとに結ばれたのか、当然紛争事項としてこれは両国間に起きるという感触のもとに結ばれたのか、その点を確かめておきたいと思います。
  69. 園田直

    国務大臣園田直君) 香港の新聞報道よりも鄧小平総理発言の方が重いと考えております。したがいまして、この問題で今後こちらが挑発的なことをやれば別でありますが、これで紛争は起きないと存じております。  なお、その後の開発の問題については、今後すべて友好的に話し合える基礎ができたわけでありますから、こういう開発はなるべく一国だけではなくて協力してやったがよいと考えておるわけでございます。
  70. 和田春生

    ○和田春生君 きょうは、園田大臣の御報告を聞いて、第一回の概括的な質問でございますから、この点についてこれ以上はいま重ねてお尋ねはしようと思いませんけれども、どうもいままでのいきさつないしお話を承っておりますと、やはり領海並びに二百海里経済水域、大陸だなというような海洋法上の諸問題で日中間においては紛争が起きないという前提ではなくて、将来紛争が起き得るということが予想されているような気がしてなりません。その点に対する懸念を表明しておきまして、本日は、私の質問はこれで終わりたいと思います。
  71. 田英夫

    ○田英夫君 まず、今回の日中平和友好条約をきわめて好ましい形で締結された園田外務大臣、また、いま中江、大森町局長もおられますが、行政府の皆さんの御努力に対して心から敬意を表したいと思います。  そこで、まず伺いたいことは、今回の日中条約平和友好条約であるとわざわざあえて友好という名もつけているわけですが、何よりもまずあの忌まわしい戦争状態を終わらせるという平和条約であるということにわれわれは思いをいたさなければならないと思います。  そこで、当然、あのような加害者の立場であった日本の過去を考えますと、従来の国際間の慣習といいますか、からすれば、賠償を支払うということが課せられてもこれは拒否できないといいますか、仕方のない状態が過去にあったと思いますけれども、周恩来総理の御配慮から賠償が免除をされた。こういうことを私ども日本人としてこの条約締結に当たって改めて考えるべきだと思いますが、今回の会談を通じて、鄧小平副首相あるいは黄華外相、さらには事務レベルの接触というようなところでこの賠償問題について何らかの形で触れたことがあったかどうかを伺いたいと思います。
  72. 園田直

    国務大臣園田直君) ございません。ただ、黄華部長も鄧小平主席華国鋒主席も同じように三人が、これで過去の遺憾なことは一切済んだ、水に流した、こういうことを言われました。
  73. 田英夫

    ○田英夫君 中国指導者は大変高い政治的な見地から周恩来総理以下今回のその三人の方の発言もあったと思いますけれども、私のささやかな経験からしても、七年前に、実は、単身で一カ月ほど中国各地を旅行したことがありますが、無錫というところの郊外の農村で大変心の痛む場面に遭遇したんです。  その農村の広場の真ん中に一本だけ木がありまして、そこに「血涙の場」という札がかかっておりまして、ただ黒い木の板に白い字で書いてありました。また、その村の外れのところのほら穴のようなところの木には「怨恨の渕」と書いてありました。これはいずれもその村人が日本軍に惨殺された現場でありまして、わざわざそのようなことを書いているのは、あの戦争のことを知らないその後生まれた子供たちにそのことを知らせるためである、こういうことをその村の指導者が私に話してくれたんでありますが、中国の人たちの心の中には依然としてあの日本軍の、日本の侵略戦争のつめ跡というものは厳しく残っているということをわれわれは考えなくちゃいかぬと思います。  今回の条約締結をめぐりましても、与党自民党の中では、第三国条項であるとかあるいは覇権反対の問題であるとか、その過去の罪悪を忘れたような議論にばかり熱中をしておられたということはまことに私は遺憾のきわみであると思います。また、ジャーナリズムも、こうした過去の問題について触れることなく、この条約締結を喜ぶというだけであったのではないかと思いますが、そういう立場から、私は、この条約締結に当たって、改めて中国側の配慮は配慮として、日本側として過去の罪悪をわびるという一つの印を何らかの形で表示する必要があるんじゃないだろうか、こう思いますが、大臣の御見解を伺いたいと思います。
  74. 園田直

    国務大臣園田直君) 中国の方では、田先生おいでになったときもそうだと思いますが、日本人民を憎んでいない、日本軍国主義が間違っておるという言葉を使っておられます。いまここで過去は水に流すと向こうから言われ、私もこれに対して遺憾であったということは言っておきました。したがって、これに対する何らかの方法ということではありますが、それは念頭に置いて中国近代化に積極的に協力することが必要であるとは考えております。
  75. 田英夫

    ○田英夫君 まさにいま大臣から私も全く同感のお言葉が出てきたわけでありますが、実は、これは私の方から提案を申し上げたいと思っていたことですけれども、いま中国では四つの近代化ということに取り組んでいることは御存じのとおりであります。その中で、先日私も中国を訪問したときに中国側からいろいろ話を聞いている中で、特に日本については科学技術の近代化という問題について全面的な協力をいただきたい、こういうことを私の会いました耿ヒョウ副総理を初め関係者が言っております。  そこで、先ほど来のこの条約の第三条の問題に関連をして、経済・文化の交流ということにも関連をしますけれども、科学技術協力協定というような、これは全く私の思いつきの名前ですけれども、そうした協定を締結することによって政府間で真っ正面からこの近代化に協力をするという意思を示して、また、それが実効あるものにできるような形にしてはどうかということを考えるんですけれども、大臣のお考えを伺いたいと思います。
  76. 園田直

    国務大臣園田直君) いま御発言のとおり、中国は四つの近代化を目標に国家建設に努力を傾注いたしております。その一環として日本またはヨーロッパ諸国から科学技術を学び取りたいという意欲を持っておりまして、そのため種々な視察団や代表団を諸外国に派遣する模様であります。  鄧小平主席から、具体的に、私が軍事面の協力はできないが、その他の協力、特に経済開発、農業の近代化については協力をする用意がある、何でも言ってもらいたい、こう言ったら、ぜひそれは頼むと、しかし、一番大事なことはと言っておっしゃったのがいまの科学技術協力の問題であります。そこで、もっと詳細に日本中国の科学技術の水準の話などもありまして、ぜひわれわれは追いつきたい、これに協力を頼むというような話がありましたから、私は、これに対しては具体的に今後御相談を願いたい、私の方もこれに応じます、こう言ってきたわけでありますが、これはぜひわれわれもやらなきゃならぬと思っております。  そこで、そのために協定を結ぶかどうかということはまだ具体的な話にはなっておりませんが、結ぶ結ばずにかかわらず、政府は全力を尽くす所存でありますけれども、また、そういう必要が出てくれば、これは改めて検討するつもりでおります。
  77. 田英夫

    ○田英夫君 大変前向きの積極的な御発言でありますが、私がこういう御提案をするのは、一つには、先ほど申し上げた賠償を免除されたということに対して何らかの感謝の姿勢を示すといいますか、ということになれば、中国側が最も日本に対して望む問題について協力をするということがふさわしいのではないか。しかも、それがもちろん軍事的なものであってはならないし、また心の通い合うものでなければならないというようなことを考えたときに、科学技術協力協定ということを思いついたわけであります。  もう一つは、すでに民間のレベルでは八カ年の期限でかなり大型の経済協力がすでにできておりますね。これはそれとしてまことに結構なことでありますけれども、これはむしろ稲山団長で行かれたときに結ばれたものはいわゆる経済協力であって、科学技術協力協定という一つの大きな枠の中で政府がそのやり方あるいは枠、そういうものを決めて、これに民間その他いろいろなものが協力をするという形になってくれば非常に形としても整いますし、先ほどからお話の出ておりました留学生の受け入れの問題などもその枠の中で処理できる、あるいは日本側からの技術者の派遣の問題、さらには民間経済協力ですでに話はついておりますけれども、いろいろなプラントの輸出とか、あるいは今度はさらに政府が加われば政府からの経済協力、借款というような問題も含めてさまざまなものができる。  これを統括して一つの協定にするという、そういう姿の方が、個々に、悪く言えば無原則になるおそれがあるような、あるいは枠が一方に広がり過ぎてしまうというような、ある部分が全く欠落するというようなおそれもありますので、そういうことにならないように、政府で仕組みあるいは枠をお決めいただくという形のむしろ協定というものが望ましいのではないか、こういうふうに考えました。  科学技術協力という名前が実はふさわしくないかもしれません。もっと形而上的な文化的なものというものもその中に含むんだという意味の名前にすればよりふさわしいかとも思うんですけれども、いずれにしても政府間協定という形のものがあった方がいいのではないかと思いますが、重ねてその点を伺いたいと思います。
  78. 園田直

    国務大臣園田直君) 先生の御意見は十分わかりましたが、ただ、賠償のつもりでやれとおっしゃることは、向こうは過去は水に流すと、こう言っておられる。中国の風格ある発言にも影を差しまするし、また、われわれが償いのつもりでやるということでは本当に協力はできないと思います。そういうことを超えて、いまおっしゃったような趣旨を含みながら、中国発展のために日本は積極的にわが身を削ってでも協力しなければならぬことは御発言のとおりだと思います。  なお、今度河本通産大臣がすぐ参りますが、これについては鄧小平閣下とよく話をしてまいりました。鄧小平主席はその場で歓迎だと、こう言われましたが、いまおっしゃったようなことも考えながら、河本さんとよく打ち合わせをして行ってもらうつもりでおります。ただ、総合的な協定を結ぶかどうかは、これはなかなか実務的な問題もありますから、よく事務当局とも相談をして、いまおっしゃったような趣旨が通るような方向でやりたいと考えております。
  79. 田英夫

    ○田英夫君 条約そのものについて、たとえばソ連との問題あるいは全方位外交の問題とか、さらには覇権行為というものについて先ほど日本政府の見解のお示しがありましたけれども、実は、現実の世界情勢にあてはめてみると、日本国民の多くの人たちはソ連脅威というものを感じています。これは先ほどはしなくも大臣の御発言の中にもソ連脅威という言葉が出てきたわけでありますが、こういう問題も含めまして、条約の審議が行われる場に譲りたいと思いますので、本日はこれで終わりたいと思います。
  80. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) 本日の質疑はこの程度にとどめます。     ―――――――――――――
  81. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) 次に、派遣委員の報告に関する件についてお諮りをいたします。  先般、当委員会が行いました北方領土問題、日ソ漁業問題等に関する実情調査のための委員派遣については、報告書が提出されておりますので、これを本日の会議録の末尾に掲載することに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  82. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) 御異議ないと認め、さよう取り計らいます。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時十八分散会      ―――――・―――――