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国務大臣(
中川一郎君)
日本の農業についていろんな御批判はありますけれども、
一つは、一億一千万の
国民に安定的に
食糧が供給されるということが
一つの基本だろうと思うのです。
総合自給率はいま七〇%です。ところが、一方、国際的には世界が自由貿易をやれという圧迫も非常に強い。国際競争力との
関係ではどうなるかというと、
日本は土地面積が非常に少ない。まあ笑うんですが、豪州なんというのは肉をつくっているんじゃなくて拾ってきていると言ったら言い過ぎかもしれないけれども、二千町歩、三千町歩というところで自然に繁殖したものをもって輸出しているということですから、これはもう国際競争力からいくと非常に弱いものである。これは肉だけでありませんで、農業全体が
アメリカでは平均が百五十四町歩というんです、農家の経営面積が。これは平均でございます。
日本では一町歩ということですから、
アメリカで麦をつくるのには一俵千円でできます。
日本では一万一千円出さなければできない。そうすれば、その差額の分は消費者が持つのか、国が助成するかという、自給率を上げるためには国際競争力との
関係において
国民あるいは
国家が非常な
決意と犠牲を払わなければ自給率が上がらぬ、こういう問題が一方でございます。国防的観点も加えて、少々の負担があろうとも自給率を上げるのだと
決意をするか、それほどの無理をしないで、やっぱり安い物を食った方がいいという最近の消費者の動向、安い物を食いたいという、
外国から自由化してもいいじゃないかという声も消費者の中に一方ある。これをどう調和してやっていくかというのが農政のこれからの非常にむずかしいところではないかと存じます。
また、他産業との所得の問題については、確かに戦後三十年間高度経済成長を続けて、総評を初め官公労等のベースアップが毎年十数%という
時代が長くあった。三年、五年にして所得が倍になるという
時代が三十年間続いたものですから、他産業がよくなる。それに比較して農業というものは合理化が進まない。相当
政府も力を入れてきております。大体国の予算の一割、ことしも三兆円を超すでありましょう。そういった多額の金を入れながら、なかなか追いついていかなかったというところに問題があり、離農という問題もあったかと存じます。しかし、最近、経済が安定してまいりますと、むしろ農村の方が安定ということで最近ではUターン現象も見られる現状でございます。こういった農家経済所得の向上というものを、高度経済成長を反省しつつ、安定したものに持っていかなきゃいかぬというのがこれからのもう
一つの大きな課題であろうと思います。
もう
一つ、農業で大事なことは、やはりどこの国でも
国家民族の魂は農村から出るというぐらい、農村に働く人は実直であり、人間の基本を外さない、民族の魂であろう。この民族の魂である農業を自由化その他によってだんだん狭いものにしていくということは
国家百年にとってマイナスである。この辺も農政上
考えていかなければならない大事な課題だと存じます。
こういう幾つかの厳しい中に
日本の農業はどうあるかということを
考えていかなければならない。この際、農業
食糧省というぐらいにしたらどうだという御
意見でございますが、実は、水産のことが名前に入っておらぬというので水産省をつくってくれという声もありましたので、
食糧省まではまいりませんが、農林水産省というようなことで全体的な農林水産をあらわす省名にかえたい、こう思っております。
そこで、具体的に肉の御
指摘でございますが、確かに
日本の肉はおいしいというので、松坂牛
あたりは自由化結構でございますと、幾ら入ってきても私の方は負けませんという肉があることも事実でございます。ところが、和牛を中心とする最近の畜肉、それから
北海道あたりの素牛を育成する育成牛、こういった方々の肉と
外国の肉とがちょうど競争条件にある。ところが、国内のは非常に高い。なぜ高いかと言うと、
アメリカ、カナダ
あたりでできました飼料を地球の裏から高い輸送コストをかけて持ってきて、そしてそれを肉にかえておりますから、どうしても二倍、三倍高いものにつくというので、最近も消費者の間から
外国の安い肉を食いたいというので肉の値段を下げろ、牛肉大臣ということになってしまったわけでございますが、
外国の物を入れて安く食わせるのがいいのか、やはり先ほど言った
食糧自給率から言えば、少々高くてもがまんをして国内の物を食っていただくのがいいのか、非常に判断に苦しむところでございます。
しかし、最近の外圧は予想以上に強いものがありますので、何とか国内の生産コストも下げるように行政の力で生産対策を行って、安い肉を消費者に与えるようにする、そこへ
外国のも補完をして入れていく、そして消費の拡大を図って、生産農民の安定といいますか、需要に対する長期的な安心感も与えると同時に、余力があるならば、
外国からの輸入枠の拡大も図っていきたい。いずれにしても、
日本では牛肉というものが手の届かない特殊なお祭りとか何とか、あるいは特殊な金持ちの人にしか手が届かぬというようなところにこの際メスを入れよう。もう
一つは流通過程が非常に複雑で、流通コストが高い。こういうことにもメスを入れて、国際的な要請にもこたえるし、
国民的な要望にもこたえ、さらに自給率向上という
日本の畜産、酪農、肉食の安定も期してみたい、こういうことで取り組んでおるところでございます。
農政については非常にむずかしいやっかいな相反する課題がありますが、何とか安定的に
国民に
食糧を供給できる体制、そして農家の経済がよくなる方向、さらには国際的にも
協力できる接点というものを見出すために苦労いたしておるところでございますので、御
理解と御
協力をお願いいたす次第でございます。