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参考人(
畑田薫君) 全
造船の
畑田でございます。私は、
労働組合の立場から、雇用問題を中心に
意見を述べたいと思います。
造船労働者の雇用、失業問題は一層深刻化しているのであります。
造船危機が言われた
昭和四十九年以来の倒産は三十八社に上り、このうち昨年一年間で二十社が、さらに本年に入りましてからもすでに五社が倒産をしておるのでありまして、
現状のままでは今後さらに倒産が続出をする
状況にあるのであります。これら倒産企業の
労働者は、下請
労働者も含めまして一万五千人でありまして、家族を含めますと約三万人以上の人たちが現実に失業と雇用不安にさらされ、生活の危機に直面をいたしているのであります。
さらに、倒産企業だけではなく、大手企業を初めとする各企業の徹底的な人減らし合理化が進められ、昨年十二月末現在では、本工、下請関連
労働者を含めまして五万一千人の人員削減が行われているのであります。こうした人員削減が、今年に入りましてからは各企業が競うがごとく大量の希望退職、定年切り下げ、雇用延長の打ち切りなど、直接的な首切りという形で全般的に出されてきているのであります。
また、ある倒産企業では、会社更生法による保全管理下に置かれているにもかかわらず、再建計画も明らかにされない中で、全員解雇という衝撃的な事態さえ発生をしているのであります。こうした
造船業の倒産、失業問題は地域社会、地域経済に大きな
影響を与えているのであります。
労働集約型である
造船業は、中小
造船といいましても数百、数千人という雇用規模でありまして、しかも同一地域に
造船所が集中しておりますから、関連工業を含めますと、地域的には大きな社会問題となる
要素がきわめて大きいものであります。四国の今治地区を例に申し上げますと、今治の湾内を中心に十二の
造船所がありますが、すでに半数の六社が倒産をし、
造船関係の失業者は約四千人に達していると言われているのであります。かつて繊維のタオルと
造船の町と言われた今治地区は、繊維の
不況とも相まちまして失業地獄と化している
現状にあるのであります。こうした
状況は、単に今治地区だけではなく、
造船所が所在する他の地域でも全く同じ条件下に置かれているのであります。
このような雇用情勢のもとで、私たち
労働組合としては、完全雇用を基本とした雇用対策が緊急の課題であり、これを前提とした政策の確立が必要であると考えているのであります。そうした立場から私ども全
造船機械は、三年前から雇用保障と産業政策の要求を掲げまして、その実現の努力をいたしてきたところであります。そこで私は、これまでの要求と緊急対策を含めまして、五点に分けて
意見を述べたいと思います。
まず第一点につきましては、設備廃棄を前提とした構造改善論についてであります。現在、特定
不況産業安定臨時
措置法案が審議の過程にありますが、すでに
造船の場合は、この法案を受けた形で、運輸大臣の諮問機関である
海運造船合理化審議会の
造船施設部会で、設備廃棄を前提とした構造改善の審議が進められており、
業界筋では、設備廃棄率五〇%の
意見すら出されている
状況にあります。
こうした構造改善の議論が、今日の事態を招いた
原因、政策推進者としての
業界、政府の責任と反省が十分なされないまま、当面の行き詰まり
状況、環境条件の悪化したことだけを取り上げて議論されている
傾向に、大きな疑問を感じているのであります。
かつての
高度成長下で、果てしない設備の
拡張と
生産拡大にのみ奔走をしてきた結果が、船のつくり過ぎ、設備の過剰という事態を招いた大きな
原因ではないかと考えています。こうした政策を促進してきた主体の責任、反省を前提にして従来の政策体系を見直し、国の経済的中期計画の中で
日本の
造船業をどう位置づけるかを明確にしていかなければ、緊急避難的な設備廃棄論だけでは根本的な解決にはならないのではないかと考えます。特に
造船業の場合は
労働集約型でありますから、設備廃棄は直ちに
労働者の解雇につながるおそれが多分にあります。現在すでに仕事量不足を理由に首切り、出向、配転、賃金カット、期末一時金のストップ、定年切り下げ、雇用延長の打ち切り、諸手当、福利厚生費の削減、下請関連
労働者の整理など、軒並みに合理化が出されています。今回の構造
不況法案が制定されますと、これをにしきの御旗にして、一層人減らし、合理化に走り、
造船労働者の雇用問題がさらに深刻な事態を迎えることになるのではないかと、大変心配をしているのであります。
衆議院段階では、本法案に対し、雇用の安定と労組との協議など一定の修正議決を見ましたが、
労働者の雇用安定と保障について一段と御努力をお願いをしたいと存ずる次第であります。
第二点は、中小
分野の確立と過当競争の排除についてであります。かつての
造船業は、
大型船は大手、中型船は中手、小型船は中小手という
建造分野がつくられ、その範囲で企業競争が行われてきたのでありますが、大型
タンカーの
船腹過剰ということとも相まちまして、最近の
造船需要が中・小型船にかわり大手企業が中小
分野に進出して、限られた中・小型船の
受注にしのぎを削る
状況から中小
造船が倒産、経営危機に追い込まれているのが
現状であります。最近の例で申し上げましても、石川島播磨重工が三百九十
トンの油回収船を、三菱重工が六十五
トンの漁業
調査船を
受注しているのであります。しかもこの船は官公庁船であります。このように、大手が五百
トンや百
トン足らずの小型船までとりまくる
状況では、
造船専業である中小
造船は全部つぶれてしまうのではないかと危惧するものであります。これまでのような
高度成長が望めない
状況からして、大手企業は総合重工業として、企業余力もあり、新たな
需要開拓、創出に努力をすべきであり、
造船事業である中小
造船の
分野を守り、保持すべきであると考えます。したがって、
建造許可段階において、これまでも要求をいたしてきているわけでありますが、船台及びドックの
建造能力に応じた
船舶の
建造を基準にチェックをし、
造船業の事業
分野の確立を図るべきであると考えます。また、現在実施している同時複数
建造の規制は引き続いて徹底する必要があると考えています。
二つには、新
造船の
建造許可に際しては、
船種、船型別に工数をチェックをし、従来プラス一〇%以上の所要工数でなければ
建造許可を与えず、また船価のダンピング防止に強力な行政指導が必要であります。昨今の
造船需要量の落ち込みから、各企業間の
受注競争は激しく、ダンピング競争に走っている実情にあります。こうした結果がコスト対策としてさらに人員削減、
労働時間の延長、定年切り下げ、雇用延長打ち切り、賃金、
労働条件の切り下げなど、
労働者の雇用と生活を一層深刻なものにしているのであります。こうした企業行動は全体としての
需要量をふやすことにはならず、限られた
受注量の食いつぶしであり、みずから墓穴を掘る時代逆行の行為であると言わなければなりません。低
成長に向けての対応は、
需要の創出を図るだけでなく、仕事量を食い延ばし、雇用機会の創出と拡大に努力すべきであります。そのために、いまこそ
労働時間の短縮と同時に、一割の工程繰り延べによるゆとりある
労働を実現することだと考えます。したがって、一〇%の工数付加及びダンピング防止の行政指導を強く求めるものであります。
次に、第三点は
需要創出についてでありますが、私どもも
労働者の雇用確保、拡大のために一定の
需要創出が必要であると考えております。これまでも主張をいたしております要求は、
船舶の安全と海洋汚染防止と関連をして、
タンカーの二重底、SBTの実施、LNG船、工場・作業船などの
建造促進、また新たな
需要開拓としてエネルギー、資源、海洋開発など、総合的政策とその研究開発であります。しかし、これらの
需要が現実の
工事量に結びつきませんので、ここ一、二年がきわめて厳しい
状況からいたしまして、緊急対策として老朽船のスクラップ・アンド・ビルドの実施、また
船舶整備公団の予算拡大による代替
建造、海上保安庁の巡視艇など官公庁船の中小
造船への優先
発注を実施してもらいたいと思います。
第四点は、雇用保障についてでありますが、深刻化している
造船の雇用情勢については先ほど申し上げたとおりであります。中でも
不況のしわ寄せを最も受けておる下請への対策として、従来の工事
発注率の維持継続をさせ、親企業の責任で下請
労働者の雇用保障を図るよう行政指導、監督を強化をすることと、またこれは所管が違うかもしれませんが、本工、下請関連を問わず、
労働者の雇用確保のために
労働時間の短縮、週休二日制の実施、解雇制限法の制定、政、労、使三者による雇用対策
委員会の設置など一連の雇用保障対策が必要であると考えます。今日の雇用問題は社会問題となっており、企業の雇用責任と同時に、政府の総合的な雇用保障の施策をとってもらいたいと存ずる次第であります。
最後に、倒産対策についてでありますが、先ほど申し上げましたように、中小
造船の倒産が相次ぎ、これからも続出する
状況にあります。この倒産防止のための緊急対策が必要であります。これまでの倒産企業の内容を分類してみますと、一つには
受注減により前受け金が入らず、運転資金が逼迫をしたこと、二つには
受注船のキャンセルやクレームが発生をして
赤字の発生と資金回転に支障を来してきたこと、三つには設備投資後売り上げが低下し、金利負担と返済資金の捻出が困難となったこと、四つには
円高による差損が発生をしたこと、五つには船主会社の倒産により代金の回収ができなくなったこと、六つには、
赤字船工事が積み重なったこと、七つ目には放漫経営の
要素があったこと、これらの点が挙げられますが、実際の倒産時点ではこれらの
要素が幾つか重なっているのでありますが、直接的には銀行が
造船の先行き判断からの選別融資ということが倒産になっているのであります。したがって、運転資金の逼迫による金融上に問題があると考えます。倒産は直接雇用問題につながっているわけでありまして、地域的、社会的問題に発展をいたしますので、倒産防止のための金融対策として、政府主導による信用保証基金の設立、設備資金、金利などの返済猶予、金融機関の選別融資を排除するなどの行政
措置並びに指導を緊急に講じる必要があると考えるわけであります。また、
造船には多くの関連工業がありますので、連鎖倒産の可能性が大きいわけでありまして、これらの防止のための施策も強く望むところであります。さらに倒産をした企業では、雇用不安にさらされながらも
労働者が企業再建に向けて必死の努力をしているところもあるわけであります。したがいまして、倒産した企業に対しては、工事
受注の保障と緊急融資国、自治体による公共事業の優先
発注、あっせん、さらには
労働債権の確保などの対策に万全を期してもらいたいと考える次第であります。
以上の点について諸先生方の一層格段の御協力をお願いを申し上げまして、私の
意見を終わりたいと存じます。