○加地和君 私は、新自由クラブを代表して、ただいま
議題となりました
刑事事件の
公判の
開廷についての
暫定的特例を定める
法律案について、福田
総理並びに
法務大臣に対して、四点にしぼって質問を行います。
第一に、この法律をつくっても、
ハイジャック事件を防止するのには何の役にも立たないのではないでしょうか。すなわち、昨年のダッカでの日航機
ハイジャック事件によって、
国民世論が
ハイジャック事件防止へと沸き上がったのをきっかけとして、突然にこの
法律案の構想が
政府より発表されました。しかし、この法律を
国会でつくっても、
過激派犯
人たちが海外へ連れ去られていくのを防止することはできません。なぜなら、この法律がつくられても、
裁判確定までに数年の年月がかかり、また、
死刑に処せられる者以外は刑務所におり、常に奪回される可能性があるからであります。
第二に、この法律をつくっても、
過激派裁判の
審理の進行に余り役に立たないのではないでしょうか。たとえば、
連合赤軍事件の
公判の第一
審判決が出るまであと何年ぐらいかかるのでしょうか。最高
裁判決が確定するまで何年ぐらいかかるのでしょうか。この法律が成立すればどのくらい判決が下される時期が早くなるのでしょうか。すなわち、
連合赤軍事件が弁護士の
裁判に対する非協力によって遅々として進んでいないかのように言われておりましたが、
裁判官の独断と偏見が
訴訟の進行を妨げていた面も多くあったと言うべきであります。(
拍手)
すなわち、
連合赤軍事件の第一回
公判期日前の準備において、検察官は週二回の
開廷を主張し、
弁護人らは月一回
開廷を主張して、意見の調整が見られませんでした。
弁護人が
法廷でしゃべる
言葉数の多い少ないにかかわらず、膨大な記録を
公判前に読みこなし、メモをとり、頭にたたき込み、参考文献をあさり、関係者との打ち合わせ等のために、月一回
開廷であっても四日も五日も準備に時間を費やすでありましょう。また、
連合赤軍事件の
被告人や家族が基準どおりの弁護料を支払えたとは考え得ません。
弁護人としては出血サービスで、義侠心から出た弁護の引き受けであったであろうと推察されるのであります。そうすると、この
事件を引き受けた弁護士は、事務員の給料を支払い、自分の生活費を捻出し、いままですでに引き受けている他の
事件も
責任を持って処理するためには、一カ月のうち二十日ぐらいは
連合赤軍事件以外に時間を割かなければならないのは当然であります。
ところが
裁判官は、一カ月につき六回ないし七回
開廷の百回にわたる
公判期日を指定したのであります。
弁護人はこんなむちゃくちゃな
公判期日の指定の取り消しを求めたが、なかなか聞き入れられませんでしたが、弁護士及び弁護士会の努力と、現実に
公判が開かれないために
裁判官もその非を悟り、百回期日の指定は取り消され、証拠調べは最小限月二回
開廷ということになったのであります。
連合赤軍事件の
審理にもし数カ月の空転があったとすれば、それは余りにも一方的な
裁判所の期日指定そのものによることは明らかであります。(
拍手)
裁判所みずからが百回指定についてこだわりを捨てたとき、
審理は円滑に進行を始めたのであります。
裁判所が弁護士の業務の実態を無視し、
連合赤軍事件の百回期日の指定のような誤りを犯し、弁護士が
法廷へ
出頭することを不可能にしておきながら、この
法律案に盛られているように、正当な
理由なく
公判期日に
出頭しないときであると
裁判所が認め、
審理を強行していたならば、
弁護人不在のまま、いや恐らく
被告人もいないまま、
裁判は終わっていたかもしれません。それが公正な
裁判であろうはずがありません。(
拍手)
第三に、いかなる大
事件も一年ないし二年ぐらいで判決が確定するのでなければ、
裁判の教育的効果はなくなるのではないでしょうか。
すなわち、この法律が成立しても、
連合赤軍事件の判決が確定するまで十年も二十年も
期間を要するものと思われます。その原因は、単純な
事件と比べて、証拠によって立証すべき事実が通常の
刑事事件の数百倍にもなるからであります。この
法律案のような小手先細工でなく、現在の
裁判のあり方に根本的な発想の転換を図らなければ、
訴訟遅延を解消することは不可能であります。世間を騒がした
連合赤軍事件が、
事件発生後二十年も三十年も
経過してからしか判決が確定しないのであれば、
裁判の教育的効果もなく、法の威信も低下してしまいます。
また、
裁判の前提ともなる事実関係について証人調べをしても、十年も二十年も前のことを証人が正確に覚えているはずもなく、真相究明という点からも
訴訟の遅延は大きな問題を抱えているのであります。
また、特に、
政治家などが政争によって不当に罪をかぶせられ起訴された場合に、五年も十年も
経過して無罪が確定しても、
政治生命あるいは青春時代は長年月の
経過によって失われてしまい、回復不可能な打撃を与えてしまうでありましょう。
現在の
裁判だと、
裁判官も検事も一人で百件以上
事件を担当しているでありましょう。弁護士も一人で百件ぐらいは担当しているでありましょう。きょうAという
事件の
裁判の準備のために膨大な記録を読み、準備したとして、一カ月後にまたAという
事件の
裁判があるときには、一カ月後にもまた同じ記録を読まなければならないでありましょう。一カ月間に他の九十九件の記録を読んだり、関係者と会って話をしたりしているうちに、一カ月前に読んだ
事件の記録の
内容は相当記憶から抜けてしまっておるでありましょう。
仮に、
連合赤軍事件の場合に、一カ月に二回ずつ、二十年間
裁判が行われるとすれば、四百八十回
公判が開かれることになります。もし、
連合赤軍事件を担当する
裁判官も検事も弁護士も、他の
事件は
連合赤軍事件が終了するまで一切担当しないようにすれば、雨だれのようにぽつりぽつりと記録を読むむだが省け、毎日Aという
事件のみが頭の中にあり、四百八十回
公判も半分ぐらいの回数で済むかもしれません。この方式で一週間に三回
公判を開けば、一年半ほどで
連合赤軍事件の判決は、最高
裁判所ででも確定してしまうことになるはずでございます。
これを
実現するためには、大
事件にのみ没頭することのできる
裁判官や検察官
制度、
国選弁護人制度をつくることは、私はそうむずかしいことではないと思います。現在の
裁判官、検察官の数を二割か三割ぐらいもふやせば可能でありましょう。また、
裁判終了までその大
事件のみに没頭する弁護士は
国選弁護人として、一被告に二人ぐらいとし、また、その弁護士は、その
事件を抱えている間の生活の問題もありますので、現在の国選弁護料ではとても足りないでありましょう。それ相応の、やはり
政府としての
措置が必要でありましょう。
現在のように、
訴訟の遅延によって
裁判の教育的効果、法の威信が失われ、実体的真実の発見が妨げられ、
訴訟関係者に不当な苦痛を与えている数々の問題点を解消するためには、ただいま提案したような方法しかなく、
総理の決断力によってのみ解決し得るのではないでしょうか。福田
総理の大胆な答弁を求めます。
第四に、
わが国を法と
秩序の支配する真の民主主義国家にするつもりがあるのでしょうか。
すなわち、
昭和三十七年に臨時司法
制度調査会設置法により臨時司法
制度調査会がつくられ、瀬戸山
法務大臣も同調査会委員となられ、
昭和三十九年八月に臨時司法
制度調査会意見書が出されています。この中でも、
裁判官、検事、弁護士らの法曹人口の増加が強調されています。「
わが国の法曹人口は、全体として、諸外国に比べて著しく少なく、試みに、最近の主要各国における人口十万人当たりの法曹の数を見ると、アメリカの百六十二人を最高とし、西ドイツの六十二人、イギリスの四十六人、フランスの二十六人に対し、
わが国ではわずか十人にしかすぎません」と、
同意見書では書かれています。その後、
わが国において、人口十万人当たりどの程度法曹人口は増加しているでしょうか。
最近では、
東京大学法学部において、
大学四年で卒業せず、司法試験等の勉強のため、さらに一年、二年と留年をしている者がふえているようであります。現在の司法試験
制度、特に論文式試験においては、果たして有能な者を公平に選抜できる
制度かどうか、疑問に思います。最高点も、平均点も、最低合格点も発表されないという秘密主義的なものであり、論文式試験の採点基準も明確ではありません。帝国主義時代の遺物とも言うべき
制度のままでございます。どの試験でも、合格最低点の周辺に多くの者がひしめいているものであり、毎年の司法試験合格者の数を二倍にした場合、いままでの最低点がどれだけ下がるものか。合格者数を二倍にしても、合格者の質的低下はそれほど顕著とは思えません。
現在の秘密主義的司法試験の論文式試験の採点基準を明確にして、法曹志望者の勉学の努力目標、指針を明らかにすることによって、能力と熱意を有する者を法曹界に吸収することは重要でございます。
この点について、
法務大臣の決意と考えをお聞きしたいのでございます。
以上をもって私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣福田赳夫君
登壇〕