○大原一三君 私は、新自由クラブを代表して、ただいま
議題となりました
昭和五十三
年度予算三案に対し、
賛成の立場から
討論を行おうとするものであります。(
拍手)
まず初めに、
賛成の立場を表明する
理由を要約いたします。
第一の
理由は、当面の
不況の深刻さに由来するものであります。
昭和五十三
年度予算案は、予想される未曾有の
失業の多発、累増する倒産、深刻化する特定業種の
構造不況問題等の根本的打開のために、決して十分なものではありませんが、しかし、有効
需要創出のため、旧来の国庫優先主義をとりあえずたな上げし、当面の
不況打開のため、ようやく積極的に取り組もうとする姿勢が評価されるからであります。われわれとしても、切れ目のない
予算の執行によって、三十四兆円の
政府需要が、国、地方を通じて速やかに連動し、冷却し切った
国民経済の浮揚力として作用することを期待するものであります。
われわれは、今回の
予算修正についての政治決着を決して好ましいものであるとは考えません。政治決着の内容についても、一兆円
規模の
所得税減税を主張した新自由クラブとして、どの党よりも不満でさえあります。しかし、われわれが今回の決断を行わなかった場合に起こったであろう混乱と
予算の成立のおくれは、
予算修正の
効果を相殺する結果すらもたらすことも考えられ、あえて新自由クラブが
賛成した最大の
理由はここにあったのであります。(
拍手)
わが国経済には、いま約二十兆円近いデフレギャップが内在し、それが国際的不均衡、国内的不完全
雇用の
基本的要因となっております。
経済の現段階においては、私が
予算委員会において指摘した、いわゆる在庫調整の動向についても
政府の
見通しは楽観的に過ぎ、また
雇用につながる
企業の
生産動向もようやく四十八年水準に比べ水面上に頭を出しただけであります。一方、
企業の
設備投資に動意が見られず、逆に
企業収益は再び水面下に低く沈んでしまいました。
この段階において最も重要なことは、
雇用不安、
失業の多発の問題であります。それは、深刻な社会不安の温床ともなる問題でありますから、
政府は、特に
雇用問題に
配慮しながら、きめ細かい、しかも弾力的な
予算の執行を機を失せず実行に移すべきであります。
第二に、
減税問題でありますが、さきに政治決着を見た三千億円の
減税は、
物価上昇に見合って、
所得税の負担の
増加が
実質所得の減少をもたらさない、いわゆる物価調整見合いの
減税であること、さらに五十二
年度の一年限りの戻し税
減税が五十三
年度ゼロに戻るため、
実質増税をもたらさないという意味で、それなりに評価したいと思います。
しかし、この
程度の
減税では
景気浮揚のための
消費刺激
効果は期待できません。
われわれの河野代表が、代表質問において、一兆円
規模の
減税を提案いたしましたのは、国際的公約と受け取られている七%成長、さらに予想以上の
円高の進行状況を踏まえ、一方における
公共投資、他方における
消費刺激、つまり、
投資と
消費の両面作戦がこの際ぜひとも必要であると考えたからであります。われわれも、
政府財政の苦しさは十分認識しておりますが、緊急避難的
財政政策のいま一歩の前進を要請したものであります。
総理は、昨日の
予算委員会において、新自由クラブの小林正巳
委員の質問に対し、今後の
経済政策について、状況の推移を見ながら「大胆かつ前向きに対処したい」と述べられましたが、この際、われわれとしても、
経済の推移によっては、金利
政策はもとより、
減税を含む
補正予算を機を失せず実行に移されることを改めて提案しておきます。
第三に、低
所得者
対策については、われわれも
法律上疑義のない
予算修正という形式をとるべきことを主張いたしたのでありますが、今後、
政府とされましても、国会
審議の状況を踏まえ、適切な対応をされることを強く要望いたします。
次に、特にわれわれが主張した教育費の負担軽減
措置、住宅ローン
減税並びに
雇用対策については、可及的に実現を目指して検討するとの政治的判断を
政府の側においてもしっかりと受けとめられたものと認識し、その解決に重大な関心を払うものであります。
以上、本
予算に
賛成しつつ、若干の要望を申し上げましたが、この際、
予算編成のあり方並びに
経済政策の
基本にかかわる問題について、
政府の
政策の
転換を求めつつ、
意見を申し述べてみたいと思います。
まず、
予算編成のあり方について、国権の最高
機関たる国会とのかかわり合いの問題であります。
ここ両
年度の
予算委員会における
予算の修正問題は、当然起こり得べくして起こった
事態であります。
政府提出の
予算案に対し、国会は、元来、いかなる修正でも可能であるはずであります。
賢明なる
政府は、
与野党伯仲下の勢力バランスに細心の
配慮を用い、自由主義政党としてその
政策の根幹に触れない限り、広く各政党の
政策に耳を傾け、胸襟を開いて、真に有効な
政策手段は思い切って吸収するでありましょう。
これに反して、頑迷な
政府は、いつまでも古いしきたりに固執し、みずからのからを閉ざし、秘密主義的で、
政策に思い切った
発想の
転換が見られず、
予算の国会
審議もしばしばすれ違い、時として不測の
事態を招きかねません。
これを回避する道は、われわれのかねての持論であります
予算編成の段階において、単に形式的ではなく、
政府を交えて、
与野党が
実質的な討議の場所を持つことであります。(
拍手)そして時間をかけ、共通の土俵を見出すためのあらゆる努力が傾注される必要があります。このことは、これからの国会と
政府の
関係改善のためにぜひとも必要であり、時代の要請する政治の近代化のために不可欠な布石であると信じますので、特に総理に強く要請しておきたいと思います。
次に、
経済政策の
基本にかかわる問題について、われわれの立場を述べ、今後の
財政金融
政策の
転換を強く求めたいと思います。
現在の
不況は、これまでの循環的
不況と異なり、
構造的
不況であるとわれわれは考えます。それは自由主義
経済体制にとってまさに大きな試練であります。
政府は、何よりもまず、激しく揺れ動いている
経済を安定成長路線に軟着陸させることが当面の急務であります。しかし、それと同時に、
経済の
構造政策にメスを入れるのでなければなりません。
現在の
不況は、単に
石油ショックとドルショックのみによってもたらされたものではありません。高度成長期を通じて自由
経済の底辺に堆積されてきた数々のひずみが、外圧を契機に一度に顕在化したと考えることが正しいと思います。この病気は、決してこれまでの古い手法では治すことができないと考えます。大きく言えば、自由
経済の浮沈にもかかわる重大な選択であります。
われわれは、いま
政府が、高度成長になれた古い自由主義の惰性の手法を去り、節度と秩序に裏づけられた新しい自由の復活のために、まさに大胆な
発想の
転換を行うのでなければ、自由
経済は枯渇し、動脈硬化が進み、老朽化せざるを得ないと思います。
いま、二、三、その例を申し上げます。
第一は、国家の最も第一義的な物質的基礎である国土、つまり
土地について、現在の
政府には有効な
政策がありません。公共財とも考えられる国土が、もっぱら私
経済の中に醜く埋没し、ために住宅
政策や都市
政策は空念仏に終わっております。行き過ぎた自由主義が不自由に転化している典型的な例であります。われわれは、
土地の公共性に着目し、特に大都市圏の私所有権の制限と一部地価の凍結を求めます。
第二に、食糧問題、特に農政でありますが、今回の
生産調整に見られるように、農政それ自体の貧困が
農家経済の貧困を生んでおります。
政府は、二十一世紀への地球人口の急増を踏まえ、真の食糧自給率の向上のため、農地流動化
政策を含む抜本的農地
政策によって、自立
農家の育成にいまから着手すべきであります。
第三に、産業
構造の変革が好むと好まざるとにかかわらず進行する中で、
政府は目先の対応に終始し、いまだ中長期のビジョンと、その
転換への手法を十分に明らかにしておりません。ビジョンなき自由は、まさに弱肉強食の自由であります。
第四に、
企業並びにその金融機構も高度成長の惰性から抜け切れず、他人資本依存経営が
企業の
不況抵抗力を著しく弱めております。
企業の活力を蘇生させるために、時代に即応した金融
制度の再構築が急務であります。
第五に、あれほど世界を揺り動かしたエネルギー問題について、
政府の決断は怠慢でさえあります。もはや議論の段階は過ぎました。二十一世紀へ向けての国際的、国内的エネルギー戦略が、
国民のはだに感じる
程度に厳しく実行されるべきであります。
第六に、南北問題を踏まえながら、国際
協力に対する
わが国の
指導的役割りを重視し、国際不均衡
是正のための
経済外交の積極的展開であります。これまでの
企業主導型を
政府主導型に改め、
わが国の利益よりその国の利益に密着した基盤的な
生活条件の
改善に資するための援助体系の早急な確立が急務であります。
第七に、
財政再建の問題であります。
その前に、まず重畳的な
政府機構と
予算の重複を思い切って簡素化し、横断的な
政策決定機構を
整備する必要があります。
われわれは、万年
減税論者ではありません。特に、将来の年金
制度の成熟と体系
整備に伴い、
財政負担の増高は目に見えております。そのため、
社会福祉税の導入等、
国民の
税負担にまつべき部分が少なくないことは、先進国の例等からして明瞭であります。
政府は、租税体系を見直し、
所得再配分的
税制を重視しつつ、その不公正を
是正するとともに、広く一般に負担を求めるいわゆる付加価値税的
福祉税の漸進的導入を図るべきであると考えます。いわゆる
財政収支試算的計数よりも、それらのあるべき実際の内容についていまから
国民のコンセンサスを得る行動を開始すべきであります。
最後に、
予算編成の方法について、従来の
実績主義に基づく積み上げ方式をこの辺で改め、毎年その実効を見きわめながら洗い直すいわゆるゼロベース・バジェット方式による
財政資金の効率的運用を図るべきであることを、繰り返して強調しておきます。
なお、社会党の提案に係る組み替え
動議に対しては、
意見を異にしますので
反対申し上げ、以上、本
予算案に対する私の
賛成討論を終わります。(
拍手)