○瀬戸山国務大臣 まず第一に、
民事執行法案につきまして、その趣旨を御
説明いたします。
現行法におきましては、
判決等の債務名義に基づく強制執行については民事
訴訟法第六編(強制執行)に、抵当権等の担保権の実行としての競売については競売法に、それぞれその執行
手続が規定されておりますが、これらの
法律は、いずれも明治時代に制定されたものであります上、その両者の
手続が必ずしも十分に調整されていない点もあり、加えて、規定に不備がありますため学説、判例も区区に分かれ、実務の取り扱い上各種の不便を生じているのみならず、競売の完結までに相当の長期間を要しており、また、必ずしも適正な価額による売却が行われがたい面も否定できないのであります。
そこで、この
法律案は、強制執行法と競売法とを統合した民事執行の
手続法としての単行法を制定し、債務者その他の利害
関係人の利害を調整しつつ、執行
手続の改善及び執行の適正迅速化を図ろうとするものであります。
この
法律案の要点を申し上げますと、第一は、執行
手続の迅速化を図ることであります。すなわち、まず、執行の引き延ばしを目的とする不服申し立ての乱用を防止するため、不服申し立ての方法を整理し、執行抗告は特に定める場合に限り許されるものとし、かつ、執行抗告の理由を具体的に記載した抗告状を
原裁判所に
提出しなければならないものとし、不適法な執行抗告は、
原裁判所で却下できるものとしております。また、強制執行の停止につきましても、それが
手続の遅延を生じさせ、ひいては利害
関係人に対して不利益を与えている現状にかんがみ、これに合理的な制限を加えることとしております。
第二は、債権者の権利行使の実効性を確保するとともに、売却
手続の改善を図っていることであります。すなわち、まず、虚偽債権等の届け出による不当な配当
要求を排除するため、現行法の配当
要求の制度を改善し、配当
要求をすることができる一般債権者につきましては、原則として、
判決等の債務名義を有する債権者及び仮差し押さ、え債権者に限ることとし、例外的に、給料債権者等一般の先取り特権を有する者につきましては、その優先弁済権を確保するため、債務名義がなくても配当
要求ができることとしております。また、目的物が適正な価格で売却されることが、債権者の権利実現のために不可欠なことでありますので、特に権利
関係の錯雑しております不動産については、その権利
関係を正確に把握して執行
裁判所が適正な売却価格を定めてこれを売却することができるように、執行官による不動産の現況調査
権限を強化し、評価人の評価の適正を図り、加えて、目的不動産の権利
関係を明らかにした物件明細書を作成し、これを一般の閲覧に供し、適正な価格による買い受けの
申し出を保障することといたしております。さらに、執行の目的物を迅速かつ適正な価格で売却するためには、一般の市民が広くその売却
手続に参加して買い受けの
申し出ができるようにすることが必要でありますので、目的物の売却
手続を改善いたしております。たとえば、不動産の競売においても、その売却の方法については、執行
裁判所が入札、競り売りのほか、随意売却等の弾力的な売却方法が選択できるように、最高
裁判所規則で定めることといたし、また、買い受け人が代金を納付しないために再競売が行われることを防止するため、買い受け
申し出人に相当な保証を提供きせることといたしておりますほか、次順位買い受けの
申し出を認めることとしまして、最高価の買い受け
申し出人が代金を納付しない場合でも、再競売をせずにその次順位買い受け
申し出人に対し売却許可の決定ができる道を開くことといたしたのであります。また、競売場で売却の適正な実施を妨げる行為をした者等に対し退場を命ずる等、執行官に秩序維持の
権限を与え、かつ、それらの者に対しては、売却不許可決定をすることを明らかにすることといたしております。
第三は、買い受け人の地位の安定、強化を図っていることであります。すなわち、不動産の買い受け人の所有権取得の時期を明確にするとともに、代金を納付した買い受け人が容易にその不動産の引き渡しを受けられるようにするための不動産の引き渡し命令の制度を強化し、買い受け人に対抗することができない不動産の占有者に対し、一定期間内に引き渡し命令を受けて強制執行をすることができるものとするほか、この引き渡し命令による執行を保全するため、不動産を執行官保管に付することができる措置を講じております。また、担保権実行としての競売における不動産等の買い受け人の地位の安定を図るため、担保権実行の要件と
手続を整備し、買い受け人の所有権取得の効果は、担保権の不存在または消滅により妨げられないことを明らかにいたしております。
第四は、債務者の保護に関する規定を整備していることであります。すなわち、債務者の生活の保持を図るため、動産の差し押さえ
禁止の範囲を合理化する一方、執行
裁判所は、申し立てにより債務者の生活の
状況等を考慮して、差し押さえ
禁止物の範囲の拡大または減縮を認めることができることとし、また、債権についても、一定の部分の差し押さえを
禁止するとともに、差し押さえ可能の範囲の拡大または減縮ができることといたしております。
なお、この
法律の制定に伴い、最高
裁判所規則の制定及び
関係法律の整理等所要の
手続を必要といたしますので、その期間を考慮いたしまして、この
法律は、
昭和五十五年十月一日から施行することとし、また、競売法を廃止し、民事
訴訟法の所要の整理をし、必要な経過措置を定めております。
以上が、
民事執行法案の趣旨であります。
何とぞ慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
次に、仮
登記担保契約に関する
法律案につきまして、その趣旨を御
説明いたします。
民法によれば、金銭債務を担保する法的手段としては、抵当権が最も典型的、かつ、近代的な担保制度でありますが、近時、種々の理由により、この抵当権の利用を回避し、またはこれと併用して、代物弁済の予約等を
原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を利用することが一般に行われております。この仮登記は、通常、金銭債務の不履行がある場合には、その履行にかえて債権者が目的不動産を取得し、これにより債権債務
関係を簡易迅速に決済することを目的としているものでありますが、この仮登記を利用すれば、不動産の価格が債権額をはるかに上回るときにおいても、債権者は、仮登記に基づく本登記をすることにより、完全にその不動産をまる取りできることとなり、債務者の保護に欠けるうらみなしとしないのであります。
そこで、最高
裁判所は、
昭和四十二年十一月十六日第一小
法廷判決を初めとし、
昭和四十九年十月二十三日大
法廷判決に至るまでの一連の判例により、債権者が不動産の所有権を取得しようとするときは、その価格から債権額を差し引いた差額を清算金として債務者に支払うことを要する旨を明らかにし、債権者が債権額を上回る価格を有する不動産をまる取りすることを
禁止したのであります。
この判例法理は、債権者が債務者の窮状に乗じて暴利を搾取するのを防止し、債務者を保護する観点から展開されたものでありますが、個別事案の解決を通じて展開された判例法理の性質上
関係する各般の
法律関係については、必ずしも疑問なしとしないし、立法的に解決すべき多くの問題点があるのであります。
そこで、この
法律案は、判例法理を原則として承認しつつ、その
法律関係を明確にして債務者の保護を図るとともに、債務者及び利害
関係人の利害を合理的に調整しようとするものであります。
この
法律案の要点を申し上げますと、第一は、代物弁済等による所有権取得
手続の特則を設けたことであります。すなわち金銭債務の不履行があるときはその履行にかえて債権者が目的不動産の所有権を取得することを目的としてされた代物弁済の予約、停止
条件付代物弁済契約等の契約により、債権者がその所有権を取得しようとするときば、あらかじめ債務者にその旨を通知し、その通知が債務者に到達した日から二月の期間が経過しなければ、債権者は、その所有権を取得することができないものとしたのであります。これにより、債権者があらかじめ債務者から預かり保管中の登記申請書類を利用して、債務者の不知の間に所有権の取得の登記をしても、その登記を無効とし、もって債務者の保護を図るとともに、この二月の期間を置くことによって、利害
関係を有する第三者がその期間内に権利保全の手段をとることができるようにしたのであります。
第二は、債権者に対し清算義務を課したことであります。債権者は、前述の通知が債務者に到達した日から二月の期間が経過したときに不動産の所有権を取得することになるのでありますが、その時における目的不動産の価格が債権額を超えるときは、債権者は、その超過額に相当する金銭を清算金として債務者に支払い、債権債務
関係の清算を行うべきものとし、この清算金の支払いの債務と不動産の所有権移転の登記及び引き渡しの債務とは同時履行の
関係に立つべきものとしたのであります。さらに、これに反する特約で債務者に不利益なものは、原則として無効とし、債務者の保護を図ることとしたのであります。
第三は、清算金をめぐる利害
関係人の争いを合理的に解決する方法を講じたことであります。代物弁済の予約による権利を保全するための仮登記がされた後、抵当権等の担保権の登記を受けた後順位担保権者は、仮登記権利者が債務者に支払うべき清算金について通知を受けるべきものとし、通知を受けた清算金の額に不満がないときは、債務者の有する清算金請求権を差し押さえることによって物上代位し、その権利の順位に従った優先弁済を受けられるようにしたのであります。また、通知を受けた清算金の額に不満があるときは、不動産の競売を請求し、その競売
手続にこの仮登記権利者の参加を求め、仮登記権利者にも抵当権と同様の優先弁済権を認め、配当
手続を通じて各債権者の利害を調整することにしたのであります。
第四は、債務者の受け戻し権、すなわち債権者が清算金の支払いの債務を履行しないときは、一定の要件のもとに債務者が目的不動産を受け戻すことができることとしたのであります。
第五、以上の
法律関係は、不動産の所有権以外の登記または登録制度のある財産権についての代物弁済の予約等にも準用することとしたのであります。
なお、このような
手続を設けることに伴い、その円滑な運用を期するために、差し押さえを
原因とする清算金の弁済供託及び第三の通知の拘束力、その他
関係人の利害の調整に関する規定を設けるほか、この
法律の制定に伴う国税徴収法等の
関係法律の整理をいたしております。
以上が仮
登記担保契約に関する
法律案の趣旨及びその内容であります。
何とぞ慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
司法書士法の一部を改正する
法律案につきまして、その趣旨を
説明いたします。
この
法律案は、司法書士の制度の充実強化を図るため、その資格に関する制度を合理化するとともに、その職責、業務等に関する規定を整備しようとするものであります。
この
法律案の要点を申し上げますと、第一に、現行の
司法書士法によりますと司法書士となるには、法務局または地方法務局の長の選考認可によることとされているのでありますが、これを改め、司法書士となる資格は、(一)法務大臣が毎年一回以上行う司法書士試験に合格した者、(二)
裁判所事務官、法務事務官等一定の職歴を有する者等で、法務大臣が司法書士となるのに必要な知識及び能力を有すると認定した者に付与するものとしております。また、未成年者は司法書士となる資格を有しないものとするなど欠格事由に関する規定を整備することとしております。
第二に、司法書士となる資格を有する者が司法書士となるには、その事務所を設けようとする地を管轄する法務局または地方法務局において登録を受けなければならないものとし、登録に関する所要の規定を設けるとともに、登録の申請と司法書士会への入会の
手続とを同時にすべきこととしております。
第三に、司法書士の制度は、登記、供託、
訴訟に関する
手続の円滑な実施に資し、
国民の権利の保全に寄与するために設けられたものであること、及び司法書士の職責は、常に品位を保持し、業務に関連する法令に精通して、公正かつ誠実にその業務を行うことにあることを明らかにすることとしております。
第四に、司法書士は、登記、供託の申請についての代理等のほか、これに関する審査請求についても代理することができることを明らかにすることとしております。
第五に、司法書士の職責の重要性にかんがみ、懲戒処分による業務停止の最長期間を現行の一年から二年に改めるとともに、司法書士会の自主性の強化を図る見地から、司法書士会は、法令に違反するおそれがある所属の会員に対して、注意勧告をすることができることとし、また日本司法書士会連合会は、司法書士の業務または制度につき、法務大臣に対する建議等をすることができることとしております。
第六に、
司法書士法に定める罰金及び過料の多額は、これを定めて以来長年月を経過しておりますので、相当額に引き上げることとしております。
以上が
司法書士法の一部を改正する
法律案の趣旨であります。
何とぞ慎重御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
以上でございます。