運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1978-04-26 第84回国会 衆議院 法務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十三年四月二十六日(水曜日)     午前十時十三分開議  出席委員    委員長 鴨田 宗一君    理事 山崎武三郎君 理事 稲葉 誠一君    理事 横山 利秋君 理事 沖本 泰幸君    理事 高橋 高望君       稻葉  修君    上村千一郎君       篠田 弘作君    田中伊三次君       中島  衛君    二階堂 進君       西田  司君    松永  光君       西宮  弘君    飯田 忠雄君       長谷雄幸久君    正森 成二君       鳩山 邦夫君    阿部 昭吾君  出席国務大臣         法 務 大 臣 瀬戸山三男君  出席政府委員         法務政務次官  青木 正久君         法務大臣官房長 前田  宏君         法務省民事局長 香川 保一君         法務省刑事局長 伊藤 榮樹君         法務省矯正局長 石原 一彦君         法務省保護局長 常井  善君         法務省訟務局長 蓑田 速夫君  委員外出席者         経済企画庁国民         生活局消費者行         政第一課長   吉岡 博之君         外務大臣官房領         事移住部外務参         事官      橋本  恕君         大蔵省主計局主         計官      塚越 則男君         厚生省薬務局企         画課長     新谷 鐵郎君         通商産業省産業         政策局消費経済         課長      野崎  紀君         運輸省航空局監         理部国際課長  山田 隆英君         運輸省航空局技         術部運航課長  川井  力君         労働省婦人少年         局婦人課長   柴田 知子君         最高裁判所事務         総局民事局第一         課長      三宅 弘人君         法務委員会調査         室長      清水 達雄君     ————————————— 委員の異動 四月二十六日  辞任         補欠選任   木村 武雄君     松永  光君   原 健三郎君     中島  衛君   前尾繁三郎君     西田  司君 同日  辞任         補欠選任   中島  衛君     原 健三郎君   西田  司君     前尾繁三郎君   松永  光君     木村 武雄君     ————————————— 四月二十五日  民法第七百五十条の改正に関する請願外九件(  土井たか子紹介)(第三四〇四号)  刑事事件の公判の開廷についての暫定的特例を  定める法律案反対に関する請願安藤巖君紹  介)(第三四二七号)  同(荒木宏紹介)(第三四二八号)  同外四件(稲葉誠一紹介)(第三四二九号)  同(浦井洋紹介)(第三四三〇号)  同(工藤晃君(共)紹介)(第三四三一号)  同(小林政子紹介)(第三四三二号)  同(柴田睦夫紹介)(第三四三三号)  同(瀬崎博義紹介)(第三四三四号)  同(瀬長亀次郎紹介)(第三四三五号)  同(田中美智子紹介)(第三四三六号)  同(津川武一紹介)(第三四三七号)  同(寺前巖紹介)(第三四三八号)  同(東中光雄紹介)(第三四三九号)  同(不破哲三紹介)(第三四四〇号)  同(藤原ひろ子紹介)(第三四四一号)  同(正森成二君紹介)(第三四四二号)  同(松本善明紹介)(第三四四三号)  同(三谷秀治紹介)(第三四四四号)  同(安田純治紹介)(第三四四五号)  同(山原健二郎紹介)(第三四四六号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  法務行政検察行政及び人権擁護に関する件      ————◇—————
  2. 鴨田宗一

    鴨田委員長 これより会議を開きます。  お諮りいたします。  本日、最高裁判所三宅民事局第一課長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 鴨田宗一

    鴨田委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  4. 鴨田宗一

    鴨田委員長 裁判所司法行政法務行政検察行政及び人権擁護に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。稲葉誠一君。
  5. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 最初に法務大臣に概括的なことをお尋ねしたいと思うのですが、後から民事局長なり刑事局長にもお尋ねしたいと思うのです。  例の大韓民国飛行機ソ連の銃撃に遭って日本人が一人殺された事件があるわけですが、それについて、まだ詳細はもちろんきわめていなくてわからないところもあるかと思うのですが、そのこと自身についての大臣の率直な御感想というか、それからどうしたらいいかとか、いろいろな問題があると思うのですが、そういう点を一応お話しを願って、後から法律的な問題について局長にお聞きをしたい、こういうふうに思うわけです。
  6. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 お尋ねの大韓航空というのですか、あれがパリを発して、アンカレジ経由でソウルに運航するという途中でソ連戦闘機に攻撃された、一部そういう報道もありますが、ソ連領内に着陸をした、その際に死傷者があった、これはまことに遺憾な事件だと思っております。が、稲葉さんも御承知のとおり、ああいう事態に起こった事件でありますから、実はまだどういう理由で、どういう運航状況でああいうふうになったかという詳細がわかっておりません。政府としては、外交機関を通じていろいろ事実の調査といいますか、真相をいま調査中でございますが、その前提がわかりませんと、どういうふうな法律関係になるのか、どういう措置をとればいいのか、率直に申し上げて、現在明確なお答えをする状態にございません。それを御了解願いたいと思います。
  7. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 刑事局長にお尋ねするわけですが、あの事件の場合、どういう状態のときにソ連側飛行士というか何というか、そういうものの刑事責任発生するわけですか。
  8. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 先ほど大臣からも御答弁がございましたように、大韓航空の今度の事故につきましては詳細な事実が判明しておりませんので、そういう事実関係が判明していない状態におきまして、刑事責任とかあるいは犯罪とかいうことを論ずるのはきわめて適当でないと思いますので、御容赦をいただきたいと思います。
  9. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 外交問題に関連することですから、刑事局長答弁も無理はない、こういうふうに思うわけですが、そうすれば現実的な問題としては、これは民事局長になると思うのですが、損害賠償責任問題というのは当然あの事態発生をしておる、こうなってまいりますると、遺族の方々が逸失利益なり慰謝料請求権なり、いろいろな損害賠償があるわけですが、それを一体だれに対して、どういうふうに請求したらいいのか、こういうふうなことが問題になると思うのですが、それについてはどういうふうにお考えですか。
  10. 香川保一

    香川政府委員 これもその事実関係を詳細にまだ承知いたしておりませんので、その事実に基づいて法律的な御答弁を申し上げるのはちょっと自信がないのでございますが、純法律的に一般論として申し上げますと、この場合ワルソー条約適用が当然あると思うのであります。これは日本韓国ソビエトも加盟いたしております。  その場合に、まず第一に問題になりますのは、裁判管轄の問題でございますが、これは大韓航空運送人でございますから、その運送人住所地あるいは営業所の所在地あるいは運送契約締結地あるいは飛行機到着地というふうなところの裁判所訴えができる、こうなっておるわけでございますが、これがどのようになるか、日本裁判所では訴えが提起できないのじゃないかという問題もあるわけでございます。  それから、損害賠償の点でございますが、これはワルソー条約の十七条によりまして、航空機内で損害発生した場合あるいは乗降の際に損害発生した場合には運送人損害賠償の責めに任ずるという規定がございますので、これが適用になりますと損害賠償請求権があることになるのでございますが、同じ条約の二十条で、運送人が十分な措置を講じたというふうな、いわば免責条項がございまして、これの立証がなされますと損害賠償義務がないということになるわけでございます。その辺のところが、一体事実上どうなのか、そういう立証ができるのかできないのかという問題が一つあるわけでございます。  そういう関係で、一般論としてはいま申し上げたとおりでございますが、いましばらく、事実関係が明確になりませんと、具体的にどのような損害賠償請求ができるか、また、その手続関係についてもなお疑問が残っておるということでございます。
  11. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いま、ワルソー条約免責条項で、十分な措置を講じたということで免責になるということになれば、今度はソ連側発砲行為不法だということに裏返しで認定されてくるのではないですか。そうなってくると、今度はソ連側民事上の責任というのはどういうふうになるのですか。
  12. 香川保一

    香川政府委員 これも領空侵犯関係あるいは国際法上そういった発生に至るまでの具体的な状況措置がどのようであったかということが当然問題になるわけでございまして、それが不法発砲であったということになりますと、それによって生じた損害は、不法行為プロパーの問題として損害賠償が問題になってくる、こういうふうに考えるわけでございます。
  13. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だから、普通の場合、いまの免責条項発生するということは常識的には考えられないのではないですか。どういう場合に免責条項発生することが考えられるのですか。
  14. 香川保一

    香川政府委員 条約をお読み申し上げますと、条約の二十条によりますと、一項で「運送人は、運送人及びその使用人が損害を防止するため必要なすべての措置を執ったこと又はその措置を執ることができなかつたことを証明したときは、責任を負わない。」こういう規定になっているわけでございます。新聞紙上伝えられる状況が事実だといたしますと、どうもこの免責条項証明は非常にむずかしいのじゃないかという感じはいたしておりますけれども、何分事実関係が明確になっておりませんので、いま結論的にはちょっと申し上げかねるわけでございます。
  15. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、ワルソー条約モントリオール条約と、もう一つハーグですか、運送に関連して三つの条約がたしかあるわけですね。それは、みんな支払い金額が違うのじゃないですか。ワルソー条約でいくとどうなるの。ワルソー条約は一番低いのじゃないか。
  16. 香川保一

    香川政府委員 これは、実はワルソー条約改正するハーグ議定書というのがあるわけでございまして、そのことで改正されておるわけでございますが、それによりますと、責任限度額は二十五万金フラン、約六百万円になりましょうか、そういう限度になっております。ただ、これは条約上決まっておる限度額でございまして、約款あるいは旅客と運送人個別契約によりましてその限度をさらに上げることは差し支えないということになっておりますので、その辺の約款がどうなっておるかということもいま承知いたしておりませんが、条約上は約六百万円というのが最高限度でございます。
  17. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 六百万円というのは条約上のあれで、非常に少ない金額ですけれども、そうすると、免責条項適用されない以上は、大韓民国がそれ以上の損害がある——これは当然それ以上の損害はありますね。韓国が払うのか、そこら辺のところはどういうふうになるわけですか。
  18. 香川保一

    香川政府委員 これは、損害賠償責任を負うものは大韓航空だと思うのであります。韓国ではないと思いますが、それ以上の損害がありました場合に、つまり最高限度というのはそれに拘束されるわけでございますから、したがって、それ以上の損害賠償請求はできないという結果になると思います。
  19. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、いま六百万円でしょう。成年の男子で職業を持っている人が亡くなって、交通事故だって六百万円というわけはないですね。それが、ワルソー条約に入っているということで六百万円までの責任を負って、それ以上の責任大韓航空は負わないということになるのですか。ちょっと何かはっきりわからなかったのですが、そんなんじゃおかしいのじゃないですか。
  20. 香川保一

    香川政府委員 ワルソー条約運送人責任についての規制でございますので、その条約において責任最高限度額が決められておりますと、やはりそれに拘束されるということになろうかと思います。
  21. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは条約条約で、それ以上の金額を取れないとなると、非常におかしいですね。  それで、これは非常に細かい問題になってきて、たとえばアメリカで乗った場合とかカナダで乗った場合とか、いろいろな乗ったところによっても——あれはモントリオールですか、あの方が非常に高い金額になって出てくるとか、あの条約はいろいろな不均等があるわけですね。細かいことを聞いてもきょうはあれですけれども、法律的な責任が六百万円で終わりということになってくるのは、ちょっと何かおかしいな。それ以上の責任があれば、当然支払い義務というものが出てくるのが普通じゃないですか。何だか、ちょっと理解できないな。
  22. 香川保一

    香川政府委員 実損を賠償する義務があるということになりますと、条約でそういう最高限度を決めていることが無意味になってくるように思うのであります。ただ、そういった場合に、先ほどもちょっと申し上げましたように、条約改正がなかなかできないということで、ただいまの六百万円が今日においてははなはだ妥当でないということを補うあれといたしまして、各航空会社約款でその限度額を上げておるという実情にあるわけでございますが、大韓航空の場合にそれがどうなっているか、いま承知いたしておりませんのでちょっと申し上げかねるわけでございます。
  23. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはこの委員会の問題じゃないかもわかりません、運輸委員会の問題かもしれませんけれども、日本はどの条約に加盟しているんでしたかね。いまのワルソー条約日本は加盟しているの。
  24. 香川保一

    香川政府委員 ワルソー条約は、日本韓国ソビエトも加入いたしております。
  25. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それじゃ、その問題はむずかしい法律問題を控えているのかもわかりませんけれども、その約款をよく見ないとわからぬし、六百万円で終わりだというのもおかしいので、これは法務大臣日本人の命が外国人と比べて非常に安いのですよ。だから、その六百万円を最高とするようなワルソー条約ならワルソー条約というものの改定を、これは法務省責任ではないかもわかりませんけれども、何かの機会に問題にして、その金額全体を上げるようにしないといまの時勢に合わなくなってくるんじゃないかと思うのですが、この点はどうでしょうか。
  26. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 私も残念ながら条約の詳細は承知いたしておりませんが、大分前にできた条約ですから、現在の社会の実態に合わない点があるのじゃないかと思います。そういう意味で、航空約款内容がわかりませんけれども、それぞれ航空約款でいろいろ決めておるのじゃないかと思いますが、その点はまた運輸大臣とも話をしてみたいと思います。
  27. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 では、そのことは事実関係がはっきりしておらない点もあるものですから、外交的な問題でもありますから、その程度にしておくわけです。  そこで、大臣にもう一つお聞きいたしたいのは、たとえば尖閣列島の問題、この前お聞きしました。その問題はそれでいいのですが、そのときに、交戦権がないからああいう事態が起きるんだ、だから交戦権を認めるべきだという議論が一部自民党の中にあるように新聞紙上伝えられておるのですね。私の見間違いかもしれませんが、どこかへ行って勇ましくラッパを吹いた人もいるらしいので、そういう点については大臣としてはいかがお考えでしょうか。
  28. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 交戦権は、憲法九条に書いてありますように、交戦権を認めないというわが国憲法になっております。ああいう事態のときに直ちに交戦権を認めるようにしなければならぬという議論があるかもしれませんが、いろいろ意見のあるところですから、これは憲法関係のあることでございますので、認めるようにするといっても憲法改正につながることでございますから、そう軽々にそういうことをできるとは私は思っておりません。
  29. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だけど、自民党の党の綱領では、憲法改正を党の綱領とし、日本憲法に対して自主憲法をつくるということを党の綱領としておるわけでしょう。自主憲法をつくるという意味はどういう意味なんですかね。
  30. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 自民党綱領にはまさにそのとおりになっております。これもいろいろ意見の分かれるところでございますけれども、日本が第二次大戦で負けて、敗戦の結果、いわゆる占領政策によって支配されておった。その当初に、率直に申し上げて、占領軍政策として日本の基本的な行き方についての憲法草案を出して、それに従ってやっておるというふうに見られる。でありますから、あの憲法内容を盛る盛らぬは別といたしまして、ああいう精神は私は個人的には間違っておらないと思いますが、わが国わが国として、国の基本法であるから国民の合意によってわが国基本法をつくるべきである、この考え方は私は間違っておらないのじゃないかと思います。内容をどうするかはいろいろ意見のあるところでございますが、占領政策によって占領軍から押しつけられたとか押しつけられないとかありますけれども、それらの強制下における憲法でございますから、完全なる自由主義によってできたと私は思いません。そういう意味で、日本国民の自発的な考え方わが国憲法をつくるべきだ、こういう考え方を示しておる、かように思います。
  31. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今度は大臣ではなくて民事局長にお尋ねするわけですが、別のことなんですが、こういうことなんですよ。  仮処分、仮差し押さえで、代理人弁護士名前保証金供託をした、そうして担保取り消しがあって確定して、確定証明をつけて供託課供託金取り戻しの請求代理人名前で行った。代理人名前弁護士名前判こがついてあるのです。弁護士名前委任状をもらって取りに行ったら、委任した本人債権者印鑑証明がないというと供託金は払わない、こういうのですね。こういうことはいつ決まったのですか。
  32. 香川保一

    香川政府委員 本年の三月一日から施行しました供託規則改正省令でありました。
  33. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 どうしてそんなことを決めたわけですか。弁護士代理人となって判こをちゃんと押してあるわけですよ。その判こと同じ判こ請求しているのです。そうすれば、またわざわざ債権者印鑑証明を新たにもらわなければならないという非常に厄介なやり方で、なぜそんなことを供託規則で改めたのですか。ぼくが行ったわけじゃないけれども、ぼくのあれに行ってもらったらそういう話だというので、いままで取れたのに取れないわけですよ。非常に厄介なことで、まるで弁護士——このごろ弁護士を信用しないというか痛めつける法案が出てくるようだけれども、どういうわけで代理人をそんなに信用しないのですか。なぜ債権者印鑑証明をまた新たに必要とするというように規則改正したのですか。民事局長よく知らなかったんじゃないの。そんなことは、あなたいま後ろで聞いてわかったんじゃないの。
  34. 香川保一

    香川政府委員 これは従来から問題になっておりまして、一つの点は、保証供託をいたします場合に代理人供託手続をとる、そのときに供託委任状に受け戻しの関係委任条項も入っておるわけでございます。その場合に長年月かかるのがあるわけでございまして、三年も四年も前に出された委任状によって今日その受け戻しを認めますと、その間に変更があるかもしれないわけでございます。つまり、代理人を解任しておるというふうなことがあることが当然予想されるわけでございます。そういうときに、従来の扱いのように三年も四年も前に出た供託の際の委任状によりまして払い戻しいたしますと、本人の方からそういうことでは困るということでいろいろトラブルが起こるというふうなことが一つございます。  それからもう一つは、これははなはだ内部的なことでございますけれども、そういった供託の際の委任状によって数年後の受け戻しの関係代理権限証明するというふうな手続になっておりますと、供託所といたしましては、常に供託の際の委任状を数年にわたって整理しておかなければならぬ。御承知のとおり、供託所によりましては非常に多忙なところがあるわけでございまして、この整理が供託所事務繁忙度を加えておるという関係もあるわけでございまして、それやこれやいろいろ検討いたしました結果、受け戻しの際には新たに委任状を出していただく、そして本人がその受け戻しの委任をしておるということを明確にする意味印鑑証明書をつけていただく、このような手続改正したわけでございます。
  35. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それなら裁判所担保取り消し確定証明を求める場合も、新たに委任状なり債権者印鑑証明は必要とするの。
  36. 香川保一

    香川政府委員 裁判所手続につきましては私ども関係するところではございませんので、どうなっておりますか、私も承知いたしておりません。
  37. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そういうことは全然一般の人は知らないわけですよ。弁護士も全然知らないわけですよ、供託規則が三月一日から改正になったなんということは。あそこに行って初めてそれがわかって、いつからそんなことになったんだと言ったら、三月一日から規則改正になったということで規則を見せられて、ああそうかというわけだ。知らなかったのが悪かったのかもしれぬけれども、普通の弁護士はそんなことは全然知らない。そんなことをする必要があるのですか。それは何かトラブルでもあったのですか。委任契約はいつでも解除できるけれども、解除しない段階においては成立しているのだし、取り戻し請求のときに新たな委任状をつければいい。委任状をつけるんじゃなかったですか、どうですか。委任状は要らないですね。要らなかったかな、ちょっとぼくも忘れましたが、非常にややこしい行き方ですね。それは、従前に金のことで何かごたごたがあったことがあるのですか。
  38. 香川保一

    香川政府委員 具体的には記憶いたしておりませんが、数年たって、いつか知らぬ間におろされているというふうなことで、本人からどういうことになったんだというふうな苦情が出てくるというケースは相当あったように聞いております。
  39. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 けれども、担保取り消しの場合に、普通は新たな委任状をもらうんじゃないですか。
  40. 香川保一

    香川政府委員 改正前までは、先ほど申し上げましたように、供託の際に出してある委任状の中に受け戻しのときの委任条項も入っておったわけであります。それでもって受け戻しの代理権があるということで取り扱われておったわけであります。したがって、受け戻しの権利というのは、これはあくまでも本人に帰属しているわけでございますから、それが、数年前の供託の際の委任状にそういうことが書いてあるからといいまして今日までその委任関係が続いているというふうに考えるのも、これは一つ考え方でございますけれども、しかし必ずしも実態はそういうふうにもいかぬわけでございますから、やはり念には念を入れて慎重を期するという意味から、先ほど申しましたような改正をしたわけでございます。したがって、その弁護士さんなら弁護士さんが本人との関係委任関係が続いておるといたしますれば、改めて印鑑証明をとるくらいのことはさして手数ではないだろう、こういうふうに考えておるわけでございます。
  41. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そんな細かいことを議論しても始まりませんけれども、そういうことは徹底していないのですよ。弁護士会にそんなことが張ってあるわけでもないし、全然わからぬもので、あそこへ行ってもたもたして、こっちが悪かったかもしらぬけれども、ぼくが行ったわけではないので……。そんなことはちっとも徹底していないよ。それはどっちでもいいよ、余り細かいことですから。  では、今度は矯正局長にお聞きをします。  矯正局長は、監獄法の改正の問題で非常に張り切っておられるわけですね。これは結構なんです。むしろ、国会にちっとも呼んでくれないということで非常に不満で、国会に呼んでもらっても発言する機会が非常に少ないというので大いにファイトを燃やしているという話があちこちから伝わってくるので、監獄法の改正問題についてのあなたの抱負経綸というものをひとつ長時間にわたって述べてください。——余り長時間でなくてもいいですよ。
  42. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 私が特別に張り切っているわけではございませんで、監獄法につきましては、御承知のとおり明治四十一年制定、施行でございますので、本年で七十年になるわけでございます。しかも、その内容、形式ともにきわめて古いということがございまして、改正を急いでやれということは、歴代法務大臣が非常に御答弁に苦慮するほど野党の委員からせっつかれた問題でございます。そこで、その法務省の方針を受けまして、私も急いでやっているということでございます。  なお、御理解いただきたい点は、とにもかくにも、犯罪を犯した者を拘置所なり刑務所に入れたままで改正をいたすわけでございます。そして、現に改正をするということは改善をするということにつながる関係から、最近の情願を見ておりましても、このように改正するんだったらばいまからすぐに変えろというような声も出ているのでございます。これが遅くなりますと、衆情の不安定ももたらしかねないということで急いでいるわけでございます。  なお、私は、本日も監獄法改正の起草委員会を矯正協会の会議室でやるということで急いでおりまして、むしろ国会に来たくないと言うとおしかりを受けますけれども、適宜、適当な時間で御質疑等を賜れば幸いと思っているところでございます。
  43. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは何時からやるの。それはちゃんと便宜を図りますから。もうやっているの。
  44. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 もうすでにけさからやっておりまして、私の部下を代理に派遣しております。
  45. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは安村さんが部会長をやっているんだから、あの人に任しておけば大丈夫よ、あの人はりっぱな人だから。  そこで、代用監獄を廃止せよという問題が非常に起きておるわけですね。これはあるいはいろいろな誤解があるかもしれないのですけれども、明治四十一年に監獄法ができたときですか、拘留は拘置監で行うということが決められておる。これはあたりまえな話ですね。やむを得ざる場合に代用監獄を、留置場を使う、なるべく留置場は将来用いない、こういう意味答弁があったように伝えられておるのですが、それはどういうことですか。
  46. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 ただいま代用監獄の問題を含めまして監獄法改正上の問題点につきましては、監獄法改正部会で検討をいたしておりますので、公正なる審議を確保する観点において、余り詳しく申し上げることは適当ではないかと思います。  ただいま御指摘の、明治四十一年監獄法制定当時における帝国議会の速記議事録の内容につきましては、部会でも相当激しい論議が出ました。それを御紹介申し上げますと、弁護士委員の方々は、明治四十一年当時からいわゆる代用監獄を廃止するということが政府の方針として決まっていたという御主張でございます。これに対して、私も含めまして相当数の委員からは、そうではない、代用監獄と言います場合には、刑務所に代用する場合と拘置所に代用する場合がございます。当時は、留置場には当然刑事被告人、被疑者も含めまして入れる形になっておりました、それを踏襲したのであります。むしろ、刑務所代用という面につきまして、一月でも受刑者になった者を入れることができるという点に論議が集中したのである。なるほど、この速記録の文言を見ますと「監獄ノ拘置監ニ拘置スルコトニ致シマスレバ宜シイノデアリマス、」という言葉がございます。それから「成ルベク留置場ハ将来ニ於キマシテモ監獄トシテ用ヰナイ方針ヲ採ル積リデアリマス、」ということが、当時の政府委員から答えが出ておりますが、その前に、お亡くなりになりました花井卓蔵先生あるいはほかの方々の御論議、御質問の内容を見ますと、留置場に受刑者を入れることがけしからぬのではないかという点に論議が集中しておりまして、その中で出ているのであります。「成ルベク留置場ハ将来ニ於キマシテモ監獄トシテ用ヰナイ方針ヲ採ル積リデアリマス、」というのが、直ちに未決の者を留置場に入れない方針をとるとは読めないのではないかということで論議がございました。  しかし、いずれにいたしましても、明治四十一年のことを歴史的に研究するのもいかがか、むしろ被疑者も含めまして刑事被告人をどこに収容するかということは、すぐれて現実的な問題であるので、ただいまの現実に沿ってりっぱな法律改正をしようではないかということに相なりまして、部会から小委員会におりまして、近く開かれる小委員会におきまして代用監獄問題を検討するという手はずになっております。
  47. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは被疑者の場合でも、四十八時間と二十四時間、それを過ぎたら拘置監に入れるのが原則なんですか、それとも代用監獄である留置場へ入れるのが原則なんですか。どっちが原則なんですか。
  48. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 現行の監獄法の一条の三項は「警察官署ニ附属スル留置場ハ之ヲ監獄ニ代用スルコトヲ得」という言葉がございます。この代用という言葉をめぐりまして、代用というのは、本則が拘置監であって代用というものはあくまで単なる代用にすぎないのではないか、こういう御議論弁護士委員の御主張でございます。しかしながら、明治四十一年当時におきましては法文のつくり方というような点がはっきりいたしませんで、むしろここで代用と使いましたのは、司法省の管轄にない警察、内務省系統の留置場を監獄に使うので代用という言葉を使ったというふうに説かれているのが一般でございまして、必ずしも本則が拘置監であるというところまでは言っていないと思います。これは未決の勾留者についてのことでございまして、行刑関係、すなわち受刑者につきましてはやはり刑務所に収容するのが本則ではございますけれども、未決の収容者を留置場に入れるというのが全く単なる代用、世間で言われるような代用であるかどうかという点については、十分論議をしなければならないことだと思います。  その代用という言葉で、たとえば代用教員という言葉がございます。これは正規の教員資格のない方がかわりにやるのが代用教員だ、こういう代用という言葉もございますが、一方において代用食という言葉があります。米の飯を食べるかわりにパンを食べるというときには、いまや代用食が、パンを食べる方が多いぐらいになっているわけでございまして、代用食の議論であるか代用教員の議論であるか、いずれにいたしましても、余りこれを議論しても、明治四十一年の立法当時の技術を論議することに相なりますので、これまた現実的観点において検討し直そうではないかというのが現在までの監獄法改正部会における御論議の大要であると了解いたしております。
  49. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 代用の問題については、言葉の問題ですから、それはわが方にも専門家がおりますから専門家に任せますけれども、何だかはっきりしないな。そうすると、原則はどっちなんですか。原則はないのか。
  50. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 監獄法の一条三項からは、代用という言葉がございますので、代用監獄と言われるわけでございます。ところで、現行の刑事訴訟法におきまして勾留場所を指定いたしますのは裁判官の裁量でございます。したがいまして、その面から、勾留場所をいずれに指定するかという点につきましては、法制上あるいは最高裁判所規則を含めまして、決まったものはございません。しかし、実務の運用からいたしますれば、被疑者、被告人の便利、あるいは関係者の便利、防御権の行使に支障を来すかどうか、さらには捜査上の必要があるかないかということを総合的に判断いたしまして裁判所がお決めになっているというのが現状であろうかと思います。  それからさらに、実務の慣行といたしましては、被疑者の時代には警察の留置場に入っていることが多い、被告人になりますれば拘置所に移される場合が相当多いというのが実務の現状であろうかと思います。
  51. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それでは、裁判所で代用監獄を指定するというけれども、その場合に、検事の方で代用監獄に入れてくれという意見書をつけているのでしょう、あのぺらぺらを。ぺらぺらを勾留請求にくっつけて請求して、それで裁判所はそのとおりにやっているのじゃないですか、実務は。
  52. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 勾留請求の場合には、拘置所あるいはどこどこ警察本部管轄下の警察署留置場というふうに書きます。しかし、お決めになるのは裁判官でございまして、大体検察官の意見が通ってはおりますけれども、必ずしもそうでない場合もございます。
  53. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それでは、代用監獄に裁判官が一たん決めて、それを準抗告か何か知りませんけれども、抗告があって取り消されて、拘置監に移されたという例がずいぶんあるでしょう。それはどういう理由で代用監獄に決めたのを取り消して拘置監に移すようになったのですか。その理由の主なところはどこですか。
  54. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 御指摘のような事例が、必ずしも多くはございませんが、確かにございます。その点の一般的な基準を申し上げますと、先ほどもちょっと触れましたが、まず捜査の必要性ということが問題になろうかと思います。たとえば、長く実務の御経験のある裁判官が書かれた著書等を拝見いたしますと、参考人あるいは物証の取り調べを必要とするもの、こういうものは拘置所に入れるよりも代用監獄に入れておいた方がいいのではなかろうか、と申しますのは、参考人の出頭の便利等を考えますと、一々拘置所に行くのは大変である、あるいは多量の証拠品のあるものにつきまして、警察でも調べなければいけないでありましょう、あるいは、被疑者、被告人にも当たらなければいけないという場合がありましたときに、拘置所との運搬等に大変な手数がかかります。あるいは実況見分、これを引き当たり等と実務的に警察では言っておりますが、そういう必要性があるものについては代用監獄に入れておいた方がいいだろう。しかし一方におきまして、徹底否認をしていて人証、物証とも少ないというようなものについては、最初から拘置監でいいのではなかろうかというふうにされております。それから、検察官認知の事件につきましては、相当数が直接拘置所に入る場合が多いようでございます。なお、先ほども申し上げましたように、防御権行使について差し支えがあるかないかという問題、あるいは面会等の便宜の問題ということがございまして、そういう点を総合的に判断してお決めになっているようでございます。  ちなみに、拘置所を中心といたしまして、直接被疑者でもって拘置所に入ってくるものがどのぐらいあるかということを申し上げますと、拘置所に入ってくる数字は、一昨年度におきまして約五万八千人でございますが、被告人として入ってくるものが三万四千人、被疑者として入ってくるものが二万三千人でございまして、相当数が直接拘置所にも入っております。この点は、裁判官の勾留場所の指定が大半は適切に行われている。大半といいますか、検察官の請求どおりというふうにおっしゃっておられますけれども、実態につきましては、裁判官の裁量が正当に行われているというふうに考えられます。  なお、実務的な裁判官がお書きになっておられる本では、そのほか、少年はできるだけ拘置監に最初から入れた方がいいのではなかろうか、それから病人は拘置監に入れた方がいいではないか、それから警察官が被害者である事件についてはやはり拘置監に入れた方がいいのではないかというような点が挙げられている項目でございます。
  55. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 拘置監に入る場合と代用監獄、警察の留置場に入る場合と、被告人側から見た利害得失はどういう点にありますか。それから警察側から見た利害得失、検察官側から見た利害得失——利害得失というのもちょっと言葉はおかしいけれどもね。
  56. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 被告人の点からまず申し上げますと、一般的には捜査が早く済む場合があろうかと思います。先ほど監獄法の一条三項を読みましたが、相当数が警察の留置場に勾留をされている。裁判官がそれをお認めになっておりますということは、捜査の迅速適正な機能に代用監獄制度が資しているという点が認められているからだろうと思います。それとまさにうらはらでございまして、たとえば例を挙げて申し上げますと、東京の場合に、丸の内の警察に入っている者が、仮に東京拘置所に入りますと、検察官の取り調べのための護送の時間は相当な時間になります。丸の内からだとすぐ出て来られるということになりまして、まず第一は拘束期間が短くて済むのではなかろうかという点がございます。それから、それに対する反論として弁護士委員がおっしゃっていることは、警察に留置場があるから自白強要のもとになっているのだというふうに言われるのでございます。しからば、外国で警察の留置場に未決勾留者を入れてないところでは、人権じゅうりん的なものがないのかというと、必ずしもそうではございません。してみると、これは警察官の捜査のやり方の問題でございまして、留置場を持っているということとは因果関係がないのではないかというふうに思われます。大きな点の利害だけを申し上げるとそれでございます。  次に、家族等のことを考えますと、これはやはり近くにいた方が便利であろうかと思います。  次に、弁護士さんの点でございますが、この点につきましてはいろいろな御意見もあるようでございますが、たとえば、東京で御受任されている方が、小菅まで一々行かなければいけないのであるかどうか。近くの警察に行って捜査経過も伺うとともに、面接、面会等をされた方が便利なのではなかろうかという点がございます。現に弁護士委員は代用監獄を将来には廃止していいということをおっしゃっておられますが、「自由と正義」の昨年に書かれたある田舎の弁護士さんでは、むしろ第一回公判期日までは警察の留置場に身柄を入れておいてもらいたい、遠くに行きますとバスが行かないところがある、タクシーで行って待たせておくと莫大な費用になる、それが国選の事件であればとても費用を捻出することもできない、こういう点がございます。  それから警察官の場合でございますが、先ほど申し上げましたように、迅速的確な捜査をやる、あるいは参考人の取り調べそれから物証を示す、実況見分等を考えますと、時間の制約があって集中的に行わなければならない捜査の期間中は、警察に留置しておいた方が便利であるということは当然でございます。
  57. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ほかの国では、拘置監というものを認めて拘置監へ入れて、警察に入れるということは、主な国では立法例として認めていない、こういうようなことが言われておるのですが、この関係はどうですか。
  58. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 日本で言いますと、裁判所に引致いたしまして、勾留になる。いわば司法官憲に引致するわけでございますが、司法官憲に引致された後、警察官による取り調べが認められているかいないかによって違うわけでございます。警察官による取り調べを認めていないところが実は圧倒的に多いのでございまして、そういうところでは警察の留置場に身柄を収容する実益がございません。したがいまして、拘置所に入っているのでございます。日本の刑事訟訴法では、御承知のように警察官にも取り調べ権限がございます。しからば、司法官憲に引致後警察官の取り調べのないところでは、捜査官による拘束期間がどれだけあるかということを調べてみますと、これは相当長いのでございます。先般東南アジアのさる国の矯正局の次長が参りましたときに聞いてみましたところ、法律上は第一回の更新は七日である、ところが十二回更新できる、合計八十四日間拘束できる、したがって、その後裁判官のところに持っていって正式に勾留になればもう調べる必要がないということでございます。そういうことから考えますと、代用監獄制度というのは外国にはないのです。ないのにかかわらずその分だけを取り上げて、代用監獄制度は外国にないというのもおかしいわけでございまして、要するに司法官憲に引致後警察官による取り調べ権限があるかないか、これを調べた上で留置する必要があるのかどうかということを見るべきであろうかと思います。その点につきましての調査は私の方でもやっておりますが、各国の刑事立法の内容が相当違うものがございますので、容易に実態をつかめないというのが現実の姿でございます。
  59. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いまあなたはその例を挙げましたけれども、アメリカでは代用監獄を認めてなくて、裁判所へ引致して裁判所で勾留状を出すと、それ以後警察官が仮に調べた場合にはその調書は法律的に効力がない、こういうふうになっているのですか。これはどうなっているの。
  60. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 最近のアメリカの判例をつぶさに検討はいたしておりませんが、そういうような判例が出たこともございます。私がワシントンの大使館におりましたときにそういう点が問題になっておりました。しかしながら、アメリカの場合には連邦制度と地方制度とに差異がございまして、カウンティージェイルが相当たくさんつくられているわけでございます。そのカウンティージェィルは警察のすぐ横であるというような場合がございまして、警察署に必ずしも留置場がなくても、カウンティージェイルが完備、相当数あるということから捜査上の支障は生じていない、私自身が見ましたところではそういうふうな感想を持っております。
  61. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いまのお話の中で、代用監獄で留置場に被疑者なり何なりが入っている方が家族が便利だという話がありましたね。それは認識が非常に違うのですよ。実態を調べてごらんなさい。七十二時間たった後に家族が警察に面会に行って、警察官が面会させない例が非常に多いのですよ。拘置所ならば三人までは必ず一回は面会させなければいけないわけですね。三人というのは、組で一遍だけですね。どこでも大体は、必ず面会させるでしょう。留置場の場合には、いま忙しいからとか、ああだこうだ言って家族に面会させない。だから家族が、きょうも警察へ行ってきたけれども面会できなかったと言って弁護人のところへ訴えてくるのが非常に多いですよ。だから、そこで警察が非常に権力を持つわけですけれども、そういう点がありますからね。だから留置場があるから、その方が近いのだから面会ができるのだ、便利だというのは非常におかしいですよ。これは実態を調べてごらんなさい。  それからもう一つは、拘置監に行くのは遠い。それは小菅の場合は遠いですよ。これは例外です。本来ならばどこだって裁判所のすぐ近所に拘置監があるでしょう。拘置監と裁判所あるいは検察庁とうんと離れているところというのは、これは東京は別ですけれども、ほかはみんな離れていますか。離れてないでしょう。そばにあるでしょう。福島は別だけれども。福島は遠いですね。だから拘置監にいる方が家族もちゃんと面会できるし、それから弁護人なんかも便利なんじゃないですか。
  62. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 ただいまの家族の面会でございますが、先ほどお答え申し上げましたように、現在は被疑者の勾留の大半が留置場に入っております。被告人になりました場合には拘置所に入っております。その現状を踏まえて考えますと、被告人になりましたときには毎日裁判があるわけではございません。房内にいることが多いので面会の時間をとれるということでございます。今度もし被疑者をすべて拘置所に入れたといたしますならば、拘置所から警察に護送しなければなりません。そのときには拘置所に行ってもとにかく相手がいないわけですから会えなくなるという事態が来るのでございまして、家族の面会というのは拘置所が便利である、警察は不便であるということを私も耳にはしておりますが、それが同じ被疑者についてであるか、被告人についてであるかということまでお聞きいたしますと、被告人になってからの場合と被疑者時代のをお比べになっているということでございまして、必ずしも警察の場合にはきわめて不便だということにはならないと思います。現に取り調べをしている最中でございますれば御面会を遠慮願うということに相なりますが、この点は拘置監についても同様でございます。  なお、遠い近いという問題がございましたが、東京だけではないかというお話がございますけれども、必ずしもそうではないと思います。たとえば稲葉先生御出身の栃木の地勢は、私はよく知りませんが、宇都宮は現在拘置支所がございますけれども、この拘置支所をどこかに移すか移さないかという問題がございまして、仮に現在の栃木刑務所のあるところなり——黒羽というわけにはとてもいきませんから、栃木刑務所の近くになりますれば、これは相当遠くなるのではなかろうかという気がいたします。北から順次申し上げてもいいのでございますが、最近は刑務所の移転問題等が盛んでございまして、拘置監のついている刑務所も遠くに移転するということに相なりますと、非常に不便になるというところが大変多いのでございます。最近できたところで申し上げますれば、帯広も遠くになりました。旭川も遠くになりました。甲府は近くできますが、これは市内の比較的近いところではございますが、現在の位置よりも遠くなります。遠くでは福岡が大変田舎に入りました。したがって、やむなく福岡市に拘置支所を設けております。それから宮崎が相当田舎の方に入りました。あちらこちらの点を見てまいりますと、相当数が遠いところに行っているのでございます。
  63. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 日本列島縦断の話を聞いているわけじゃないのです。しかし、裁判所なり検察庁のそばに拘置所があるというのが原則じゃないのですか。あなたの話を聞いていると、遠いところにあるのが原則のような話ですが、法務大臣がいる宮崎はうんと遠いのだそうですね。大臣知っていますか。大臣のいるところをそんなに遠くしてはけしからぬ、だめだよ。裁判所なり検察庁は大体同じところにあるでしょう、多少離れたところもあるけれども。そのそばに拘置所があるのがあたりまえなんじゃないのですか。それでなければあらゆる人が不便でしようがないでしょう。何か逆のようなことをやられている。
  64. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 大変いいお話を承って心を強くしているのでございますが、検察庁、裁判所の近くに拘置所、拘置支所があるべきだと私どもも思っております。しかし、現実は裁判所、検察庁に近いところといいますのは、都市が発展いたしておりまして、拘置所、拘置支所の移転問題が相当数出ているのであります。そこで非常に苦労をいたしておるのでございますが、土地の値上がり等によって当該拘置所の近くに新しい土地を求めることが非常にむずかしい。しかのみならず現在地での改築も非常に困難になっているというのが現実の姿でございます。
  65. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは最初に拘置監を裁判所なり検察庁のそばに置くという方針を立てておかなかったからそういうことになってしまったのじゃないですか。どんどんどんどん代用監獄に入れてしまう。もちろん余罪などがある場合には代用監獄に入れた方がいいというか、いたし方がない場合もあると思いますが、いまの場合はそうじゃなくて、被告人になったって代用監獄に入れていますよ。入れっ放しが多いですよ。拘置所へなかなか持ってこない。どこだとは言わぬけれども、非常に不便なのです。それで検事の方も、起訴してしまうとどこに入っているか忘れちゃうわけだ、忘れやしないだろうけれども、起訴してしまうと、大体どこに入っているか関係ないからね。調べは済んでいて代用監獄に入れっ放し。それで、しようがないから、拘置所の方へ早く移してくれと言って頼むと、ああ、代用監獄に入っていたのですか、では拘置所に移しましょうなどという場合もあるのです。  いずれにしても、この代用監獄の問題は、いまあなたのおっしゃるような意見もあるし、そうでない意見もあるし、いろいろな意見があるから、十分論議をして決めてもらいたい。これは監獄法の中の一つの山ですね。ほかは余り山はないのですよ。すっと通るのですが、これがごたごたするとまた監獄法が通らなくなってしまう、と言ってはあれになるけれども、この点は民主的な論議を十分やって監獄法を決めていただきたい、こういうふうに思うわけです。  きょうは非常に熱心に、よく勉強して答弁してくださいました。心から厚くお礼を申し上げて質問を終わります。
  66. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 いまの拘置所の問題でございますが、日本の現在の裁判制度ができましたときには、そもそも裁判所と検察庁は同じ敷地内にあったわけでございます。それが非常に離れているというときに、あらゆる都市等にお願いをしておるのでございますが、裁判所、検察庁というと、やはり品がいいのですぐに土地を提供してくださいます。しかしながら、拘置所の場合には提供してくださらないという場合が多いのでございまして、現に、御指摘のように、拘置所の収容能力がないために被告人を入れている場合が多数ございます。それはすべて都市周辺でございます。  たとえば、この二十八日に浦和の拘置支所が落成に相なりますが、浦和の拘置支所ができますれば、浦和近辺のところでは代用監獄に入っている被告人を相当数収容できるだろうと思います。しかしながら横浜、静岡等につきましては、現在受刑者の方の雑居の数を多くして、受刑区に被告人を入れているという状態でございます。それから千葉につきましては、千葉刑務所が破産状態でございまして、たまたま現在改築中でございます。古い舎房から新舎房に受刑者を全部移したのでございますが、古い舎房が残っておりますので、そこに被疑者並びに被告人を入れております。それでも足りませんので、東京拘置所にいる確定から移送待ちの受刑者を相当数地方に回しまして、東京拘置所で千葉の分も引き受ける、こういう状態でございます。したがいまして、都市部における拘置支所の増設につきましては非常に苦労しているところでございますので、今後、選挙区に御関係のないところでございましても先生のところにお願いに参りますので、ひとつよろしく御協力のほどお願い申し上げます。
  67. 鴨田宗一

    鴨田委員長 次に、横山君。
  68. 横山利秋

    ○横山委員 私どもの党はさきの国会で、参議院において民法の一部を改正する法律案を提案したことがございます。五十一年十月に参議院に提出をしたのでありますが、国会の諸般の都合のためにこれが審議未了となりました。最近、国連婦人十年の運動が超党派で結成をされ、改めて日本における婦人問題が超党派で議論されることに相なりまして、数々の婦人問題がこれから院内外において重要な課題となると思われます。その婦人問題はさまざまございますけれども、基本的に、婦人の皆さんは申すに及ばざるところでございますが、私どもも重要な柱といたしておりますのが民法の一部を改正する法律案であります。  この改正の第一は、配偶者の相続順位に関する改正であります。現行法のもとでは、血族相続人として、第一に子とその代襲相続人、第二に直系尊属、第三に兄弟姉妹とその代襲相続人という順位があり、これら血族相続人と並んで配偶者は常に相続人となると定められていますが、最近は、被相続人と最も密接な家族共同生活をともにした生存配偶者の相続権に対する観念も改まり、生存配偶者は、相続上第一位の相続人として重視し、血族であるというだけで相続人となり得る親等の遠い非家族構成員に優先させることが新しい相続法の傾向に合致するものと考えられるに至っているのであります。そこで、被相続人の兄弟姉妹は、相続人である被相続人の配偶者、子及び直系尊属がない場合に相続人となることとし、配偶者の相続順位を被相続人の兄弟姉妹の先順位とすることといたしております。  第二は、配偶者の相続分に関する改正であります。現行法のもとでは、妻の法定相続分は、子と共同相続する場合は三分の一、直系尊属と共同相続する場合は二分の一と定められているのでありますが、戦後相続法が改正された当時に比べ、現在は家族構成が大きく変化しており、妻の相続分が子一人の相続分より少なくなるなど配偶者相続分について不合理な結果をもたらし、妻の地位の保護にも欠け、実質上の不平等を生ぜしめていると考えられるのであります。そこで、配偶者が被相続人の子または直系尊属と共同相続人となる場合における配偶者の相続分をそれぞれ二分の一または三分の二に引き上げることといたしております。  この二点が社会党が参議院に提出いたしました民法の一部を改正する法律案でございます。先般承れば、民事局としては民法の改正を手がけて検討に入っておるそうでありますが、その検討過程におけるこの妻の座はどのように審議が進んでおりますか、まず承りたいと思います。
  69. 香川保一

    香川政府委員 ただいま法政審議会民法部会の身分法小委員会におきまして、御指摘の問題を取り上げておるわけでございます。主な項目といたしましては、ただいま御指摘ございました配偶者の相続分の引き上げの可否、それから現行法は御承知のとおり別産制をとっておるわけでありますから、この夫婦別産制を共有制に改めることの可否、あるいは寄与分つまりたとえば妻が夫の家業について相当の功績があるというふうな場合の寄与分、そういったもの等が主な項目として取り上げられておるわけでございますが、現在までの審議の経過を見ますと、小委員会におきましては、やはり実質的に妻の地位を向上させるためには、単に形式的な相続分の引き上げということは必ずしも適当でないのじゃないか、つまりこれを仮に三分の一を二分の一に引き上げるといたしますと、当然マイナスの財産、債務もそれだけ負担が多くなってくるわけでございますし、また実際問題として抽象的な相続分の引き上げだけでは、実際妻が夫の死後生活をしていくのにいろいろの支障があるのじゃないか、たとえば住居をどうするかというふうな問題もございますし、あるいは生計費の問題もございますので、むしろ実質的に妻の地位を向上させる観点から、きめ細かい、いろいろの問題点について具体的に妥当な結果が得られるような改正考えるべきじゃないかというふうな方向で検討がされております。
  70. 横山利秋

    ○横山委員 国連婦人の十年推進議員連盟、衆参両院与野党多数の人が推進議員連盟に参加をいたしまして、そして稻村総務長官並びに園田外務大臣がごあいさつをいたしまして、婦人の地位の向上、婦人の社会参加につきましてきわめて熱心な政府の態度を表明をいたしておるわけであります。いまの民事局長のお話は、それはすべて物事プラスのものばかりではありません、マイナス要因がすべてなしとはしませんけれども、少なくとも今日税法の上におきましてもかなり妻の地位が向上をし、社会的にも夫婦の生活というものは、妻が扶養されておるという感覚から、夫婦の共同による家庭生活、夫の収入は妻の協力があってこそ得られる、そういう論が成り立っておるわけでありますから、たとえば相続分にいたしましても、子供が一人しかなかった場合となりますと妻の方が少ないということにもなるわけであります。子供が一人で三分の二、妻が一人——一人はあたりまえですが、妻が三分の一ということになりますれば、まだ若い妻あるいは年とった妻、いろいろございますけれども、それは当然のように二分の一または三分の二にするということがいまや常識になりつつある。本当にこれは常識になりつつある。したがって、この民法の改正はまた当然なことではないか。また、配偶者の相続順位が被相続人の兄弟姉妹の先順位になぜいままで一体なっていないのであろうかという疑問の方がむしろ多いわけでありますから、高い次元に立ってひとつ御検討を願いたい。承れば、瀬戸山法務大臣は非常に奥さんと仲がよくて、そして夫婦愛を示していらっしゃるモデルだと聞いておりますが、瀬戸山法務大臣のこういう体験豊かな気持ちから言って、本件はどうあるべきか、御意見を伺いたいと思います。
  71. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 どこから伝わったか知りませんが、まさにそのとおりでございます。経済的には私のところは共有財産でございます。  それはそれといたしまして、おっしゃるように現行民法はやはり昔のいわゆる家族制度時代の考え方が残っておると私は思います。そういう意味で長子が大体家を継ぐということになりますから、少なくともそういう場合には二分の一ということになっておるのであろうと思いますが——三分の二ですか、三分の二が長子が引き継ぐ、これは家族制度の遺物であろうと思います。でありますから、こういう従来の観念というものを全然離れて、今後は民法も改正しなければならない。そういう意味で、先ほど民事局長から御説明いたしましたが、ただ、そういう数字的な割り振りでいいのかどうか、こういう問題をいま専門家が集まって検討してもらっておる、真に妻の座をちゃんとしてやるという方向でいま検討している、これが実情でございます。
  72. 横山利秋

    ○横山委員 大変力強い大臣意見表明を聞いて結構でございます。民事局長、ひとついまの大臣の経験豊かな所見を含めて、綸言汗のごとしという言葉がございますから、どうぞひとつ大臣の意向を体して民法の改正に取り組まれんことを要望をいたします。  同じ民法の改正で、私どもはこの委員会で数々の問題を提起をしています。たとえば製造物責任、たとえば公益法人、たとえば集団訴訟、まあそれが一例でございますが、それぞれの問題を提起をいたしておるわけでありますが、私どもの国会のこれらの意見というものは一体審議会の中で十分反映をしておるのでありましょうか。あなたがここで自分が言ったことだけ記憶しておって、自分の言うことばかり言っておるのではないかという心配をわれわれはしておるのでありますが、国会における民法改正に関する意見を審議会に十分反映をされる措置をとっておるのですか、どうですか。
  73. 香川保一

    香川政府委員 これは、国会の場におきましていろいろ御審議の過程で出てきた御意見あるいは請願、そういうものは全部それぞれの委員会に参考資料として提出いたしまして、さような意見を十分踏まえて御議論いただくようにお願いいたしております。
  74. 横山利秋

    ○横山委員 ぜひひとつその点は今後とも遺憾なくやってほしいと思います。  特にいま列挙をいたしました問題の中で製造物責任、これは本委員会のみならず他の委員会におきましても私が力説をして、時代の流れとして申し上げておる。今日まであなた方と私の意見の違いは、私は、直ちに製造物責任の基本的な骨格を民法等でつくるべきだ、あるいは単独法でつくるべきだ、あなたの方は、一挙にはいけないから、厚生省なりあるいは運輸省なり建設省なり、それぞれの地域でその方向に沿った改正が順次行われる方がいい、こういう御意見でございました。その真ん中をとっても、少なくともその一つの一定の方向、判決において示された一定の方向について各省に示唆し、指示し、その方向に追い上げていくということが必要ではないかという私の中間的な意見がまだ整理をされていないのでありますが、その点についてあなたの最終的な御意見を伺いたい。
  75. 香川保一

    香川政府委員 製造物責任の立法につきまして大きな柱は、無過失責任を導入するかどうかという問題が一つと、それから、因果関係立証の問題があろうかと思うのであります。基本的には、製造物によりまして——これは製造物と申しましても千差万別でございますが、物によってはそういった無過失責任を導入するというふうなこと、あるいは損害立証を容易にする意味での因果関係の挙証責任の転換というふうなことも十分検討に値することだと思うのであります。  ただ、この二つの柱を考えました場合に、一般法、基本法としての民法の中にそういった原則を打ち立てることはいろいろの面からいかがであろうかというふうに考えるわけでございまして、ただいま、中間的なと申しますか、物によってはこういう基本的な考え方で立法するというふうな意味での民法とは離れたそういった一つの特別法を考えるということも十分検討すべきことだと思っております。近く法制審議会の民法部会財産法小委員会におきまして、適当な時期にこの問題についての審議を煩わしたいというふうに考えておるわけでございますが、率直に申し上げまして、この問題は、具体的な、たとえば薬なら薬というふうなものを考えての立法でございますればわりあいそう時間もかからずにできるのではないかと思いますけれども、お示しのような中間的な、いわば基本特別法というふうなものの制定を考えますと相当時間がかかるだろうということでございまして、私どもとしては、できるだけ具体的に問題が生起しておるところから逐次取り上げていくというふうな方向の方がかえっていいのではないかというふうに思っておるわけでありますが、さような点は各省にもお願いしつつ、一方で先ほど申しましたような法制審議会での議論をしていただくように考えております。
  76. 横山利秋

    ○横山委員 もう一つの問題がいわゆる公益法人の問題でございます。これももう私が取り上げること再三にわたっておりまして、この間の本委員会における結論らしきもの、つまり公益法人の監査基準を総理府が行政的に指導しておる、しかしながら、その指導というものは強制力がないから、各省あるいは地方自治体を含んで数十万とある公益法人について、監査基準はこういう方法でやれというふうに言っているけれども、それは説明のしっ放し、それから聞きっ放しというような状況にあると感ぜざるを得ない。したがって、何らかのそれに対する方法を考えなければ、先般列挙いたしました公益法人の汚職、内部混乱というものがいつまでたってもとめどがない。何か今度公益法人でどえらい問題が起こりましたときには政府の怠慢が必ず責められるというように私は考えておるわけであります。そこで、この種の問題の最終責任者は一体だれかという問題についてこれまた問題になっておるのであります。しかし、公益法人が、特殊法人は別ですから、そもそも民法の中に根拠があるとするならば、法務大臣として、この際公益法人のありようについて所管大臣として一石を投ずるべきではないか。私がかねがね言っておりますのは、民法を改正するか、あるいは公益法人基本法ないしは組織法を制定するか、あるいは、もっと下がるならば、公益法人の会計基準に関する法律をつくるか、あるいは、もっと一歩下がるならば、公益法人は政府に会計報告をしなければならぬのだから、その会計報告については公認会計士の監査証明を添付するを必要とするとするか、とにかくいろんな方法がございますけれども、いずれにしても、この際法務大臣が民法、商法等の所管大臣として一石を投ずるべきではないか、こういうふうに考えますが、その点大臣はどうお考えになりますか。
  77. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 御承知のとおり、民法に言う公益法人は、社団にしろあるいは財団にしろ、定款なり寄付行為によって組織、経理の規定があり、その中で監事なり監査役が監査をするということになっておるわけでございますが、いまおっしゃるように、多くの公益法人があって、間々会計上といいますか運営上といいますか、トラブルがあることもまた事実でございます。そういう場合にはそれぞれ許認可をする系統の政府機関が監督をしておるわけでございます。それでうまくいかなければならないはずでございますが、何となく公益法人というと、たくさんありますけれども、目が届かないといいますか、ややずさんになっておるような感じを私も受けております。でありますから、いま横山さんがおっしゃったようなことがうまくいくのかいかないのか、そういうものをあわせて一遍検討してみる必要がある。あるいは別に総合的なそういう法律を必要とするのかしないのか、あるいは現行法でちゃんとできるのかどうか、こういうものをあわせて考えなければいかぬのじゃないかと思いますので、これはまた法務省としても課題として検討してみたいと思います。
  78. 横山利秋

    ○横山委員 現状においては、総理府が各省を集めまして、一年有余、お茶とコーヒーをサービスして、皆さんでひとつ整理してくれということででき上がったのが会計基準であり、それを各省が持ち帰って行政指導として説明をしておるというのが総理府の任務としての精いっぱいなことなんであります。総理府がそういうことについてとことんまで念査し、追及し、そうしてこれで足らなければ何かするというところまではいかない役所だと私は見ている。そうなりますと、民法に基礎を置く問題でございますから、法務省法務大臣がそれに画竜点睛をするということがどうしても必要でございますから、私は今後ともくどくこの問題について問題提起をするつもりでございますけれども、法務大臣がいま、それじゃ一回十分検討しようというお答えでございますから、なるべく速やかにその結論を得られるように期待をいたしたいと思います。  それから、民事関係の行政のありようについて、少し意見を述べながら質問をしたいと思います。  かつて私が本委員会で、前の前の大臣でございましたか、言ったのでありますが、法務省というところは二面性を持っておる。世間の人は、法務省と言えば検察を中心とする権力機構だと考えておる。ところがその中にあって、民事局というものは、まあ民事局のみならず人権擁護局等もそうでありますが、これは一種のサービス機関である。国民の権利を守ってやる、そうして国民の期待にこたえた行政をするという、ある意味ではサービス機能を持っておる、それが中心だと私は思っておるわけです。権力的な機能とサービス的な機能とが同居しておることに、本来的に、歴史的に見ましても、法務庁当時の状況考えましてもやや異質なものがそこにある。決してとやこう言うつもりはありませんが、ともすれば権力的な機能だけが働いて、サービス的な機能というものがなおざりになっておるということを私は痛感をしておるわけなんであります。そこで、機構として昔に返れというふうに言うつもりは必ずしもありませんが、その車の両輪を法務大臣としてどういうふうに采配を振っていくか。ともすれば権力的な機能だけが中心になっていく傾向について常に念査をしていく必要があるのではないか。  承れば、法務局が創立してから、去年でたしか三十年になると聞き及んでおります。この三十年の民事局、法務局の機能というものを考えてみますと、この間、登記所の整理統合、いま千百五十あるそうでありますが、登記所の整理統合が進んでおる。登記所の整理統合というものは、地域住民から見れば、これは非常に不便だという感覚、役所から見れば、一人庁とかあるいは本当に老朽した施設があるのであるからそれを統廃合した方が便利だ、役所としての行政上便利だという問題があるだろうが、この点についても、国民に対するサービスという点から言えばいかがなものか。しかも、それらはすべてと言っていいほど地方自治体なり地域の協力によって存しておるものでありますから、その点も一体無視ができるかどうか。一方において、この職員の不足というものが常に課題になっている。  私は長年大蔵委員をやっておったわけでありますが、税務署の建物は全く一新されたと言ってよろしい。これは私ども推進した方なんでありますけれども、税務署の税金の徴収のコストと、それから法務局などでいろいろな国庫収入が入ってくるコストと比べると、大変法務局のコストが安く——何もコストの区別をしようとは思いませんけれども、かなりの財政収入を法務局は上げておるところである。ところが、新築された法務局へ行けば別といたしまして、全く旧態依然たるもので、国民は自分の権利の保存のためでありますから当然だとは言いながら、税務署へ入って——税務署でまだ、それは問題はないとは言いませんけれども、税務署へ入ったときの感覚と法務局の登記所へ入った感覚とは、サービスに格段の違いがある。植木一つ、水飲み一つ等からいいましても、いろいろな意味からいいましても、国民に対するサービスはきわめて悪い。それから不動産登記、特に表示登記なんかの事務にしてみれば、私が先年これを取り上げたのでありますが、百年河清を待つというような状況である。いつの日にこの表示登記、土地台帳その他の問題が改善されるか、そして問題がないようになるのかと聞いてみましたら、あのときの時点をもってしても夢のような話である。それは金がかかる、人が要る、けれども必要は痛感されるというような状況がきわめて現実的課題として放置されておる。  それから国籍事務をとってみますと、もちろん、帰化だとかあるいは国籍に関する問題というものは調査が必要であろう。だから時間がかかるのも必要であろう。であろうけれども、余りにも遅い。調査をいたしますと、国籍関係で年間七千件くらいの問題があるそうですね。これらを一人が——たとえばある人間が帰化をしたいという申し出をする、それが本省までやってくる、やってきて本人にオーケーが行く、それまでにどのくらいの日数がかかると思いますか。これは単に調査の必要ばかりではありません。その調査も、自分たちが調査するわけにいかないので警察に頼む、いろいろなところへ頼む、回答が来る、不十分だ、また調査を依頼するというわけですね。そういう国籍事務もきわめて遅い。なぜ遅いか。それはいま言ったとおりであります。  等々を考えてみますと、まあ香川さんを前にして大変恐縮だけれども、これは法務大臣がお考えなさらなければならぬ問題で、国民のサービス部面を担当し、多額の国家財政に貢献をしておる法務局の事務というものは、創立三十年をけみした今日、思い切って見直すべきではないか、そういうことを私は痛感をするわけでありますが、法務大臣はどういうふうにお考えになっているのですか。
  79. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 横山さんが法務行政の推進について深い理解をいただいておりますこと、心から厚くお礼を申し上げます。  私は、行政というものは一般国民に対するサービスであろうと思います。その中でも、法務行政の中にはたとえば刑事局あるいは先ほど来ておりました矯正局、こういうものは、同じサービスでありましてもやはり国民の平和と安全を図る、いわゆる治安を維持するという意味でありますから、その一面また、いわゆる権力と申しますか、強制力が伴わなければならない。しかし、これをやりますのもやはり国民の安全、平和、これに対するサービスでございますから、やはり行政を、国民に対するサービスに誠意を尽くすべきである、こういう立場で考えております。特に民事関係といいますか、あるいは擁護局関係等は、これはまさに多くの権力を伴わないサービスが主であると思います。その中で、おっしゃった特に法務局あるいは登記事務あるいは登記所の問題等もありましたが、これはまさに、主として国民の財産保持あるいは身分の確保等についてのサービスである、こういう考え方でやっておるわけでございますが、指摘をされてまことに恐縮な点がたくさんあるわけでございますが、法務局あるいはその出張所の整備については鋭意努力をしておりますけれども、明治の初期からの問題でありまして、非常におくれておることは事実でございます。これは従来からしばしば申し上げておりますように、庁舎等の整備を計画的に進めておるわけでございます。それから、登記所のいろいろな事務関係も改善に努めておりますが、これは財政あるいは人の問題がありますから、なかなか一挙にいかないという、残念ながらそういう事態があることも事実でございます。  なお、国籍の問題等についても、これは新たに日本国民の国籍を得るという、参加でございますから、ただ軽々にはいかないところもある。その身分、状況等、将来日本国民として安全な社会生活ができるかどうか、こういう点を十分慎重にといいますか認識をして、それから決定するという段階になりますから、時間的の時日がかかることも事実でございますが、こういう点もできるだけ推進をしてまいりたい。  それから、同じサービス機関であります明治初年からあったいわゆる出張所の整理をいたしておりますが、社会情勢が相当変わってきた。非常におくれておった日本でありますけれども、交通事情も交通機関も大きく変化を来しておる。また、国民の負担、あるいは事務能力を上げる、またそこに勤務する公務員の立場も考える、こういう点から、ある程度の整理統合をしておることも、これは御承知のとおりであります。これも一方的に簡単にやるということでなしに、国民に対するサービスに大きな支障がないようにということを十分気をつけながら、地元の皆さんとも話し合いをしながら進めておる。これも昔あったからそのままというわけには、こんな情勢が変わった時代では、やはり適合するように、整理統合すべきところはそうすることがまた行政府責任でもある、こういう考え方で進めておることを申し上げておきたいと思います。
  80. 横山利秋

    ○横山委員 私がわざわざきょうこういうことを言いましたのは、もちろんほかの各局についても言い分があるのですけれども、各局について一々並べておったのでは落差が立たないから、特にきょうは民事局、法務局の仕事について指摘をしておるわけであります。  いま列挙をいたしましたようなことは、何とかひとつこれからも一生懸命やりましょうでは済まぬのです。表示登記一つをとってみましても、きわめて長期的、根本的な対策を立てなければ、結局は十年たとうが三十年たとうが解決しない問題なんであります。それはよくおわかりのことだと思うのです。したがって、ひとつ民事局を中心にし、地方の法務局の仕事のありようについて一遍根本的な念査をしてみる、そして長期的な企画を立ててみる、その方向に沿って、国民のサービス面を担当するこの関係の部局について、国民のサービスを徹底するという基本的な考えをここで確立をしてもらいたい、そういうことにポイントがあるわけであります。時間をかければ、私はいま指摘した個々の問題についていかようにも質問をし、問題点を列挙することはできますけれども、それだけでは意味がないと思っておるわけですから、この点は法務大臣として一回ひとつ国民のサービス面の中心をなす法務局行政のありようについて十分検討してもらいたいということになるわけであります。  まあしかし、民事局長、そばに座っておって何も言わせぬのも気の毒だから、いま私が指摘しました諸問題について、何か御意見があれば伺いたい。
  81. 香川保一

    香川政府委員 御指摘、まことにそのとおりでございまして、私も責任を感じておりますが、いまおっしゃいましたような根本的な対策がぜひとも必要だということを考えまして、実は法務局発足三十年たったところで、おととし、去年二カ年かかりまして、いわゆる法務局の体質改善、事務処理体制の確立、サービスの強化というふうなことを踏まえまして総合計画を策定した次第でございます。これはもちろん民事局限りのものではございませんので、各地方法務局の職員にもそれぞれ現場における経験からいろいろ案を出させまして、それを取りまとめて総合計画を策定した次第でございます。この中に、いま御指摘のそれぞれの問題点の根本的な現状分析と反省、さらにこれをどう処理していくかというふうなことを取り上げておるわけでございまして、本年度からその実施面の具体化につきまして、現在民事局の中に民事調査官を中心にした室を設けまして、検討をさせておるところでございます。  何分にも、先ほども御指摘ございましたように人が足りない、施設が劣悪である、基礎的なそういった問題がなかなか容易に解決しないわけでございますが、この二つの面につきましても、全省的な各組織の御協力を得まして、現在施設の面につきましては、一昨年から五カ年間で現在の劣悪な施設を改善するということで進めていただきまして、恐らくは五カ年間で施設の改善は達成できるというふうに考えております。  増員の点につきましても、御承知のとおり定員抑制の厳しい環境でございますが、これも法務省全省的に御協力をいただきまして、法務局の窮状を助けていただくというふうなことから、各組織はむしろ抑制して、できるだけ法務局の増員に御協力をいただいておりまして、その結果百名そこそこの増員が、まあ数的にははなはだ微々たるものかもしれませんけれども、私どもとしては最大限全省的に御配慮いただいておるというふうに考えておるわけであります。  そのほか、御指摘の国籍事務あるいは表示登記の問題等々、これはすべて総合計画の中に入れておるわけでございますが、表示登記は確かに大きな問題でございまして、土地台帳、家屋台帳が昭和二十五年に税務署から登記所に移管されまして、昭和三十五年の不動産登記法の改正によりまして、登記簿と台帳の一元化ということから表示登記制度が発足しておるわけでございますが、何と申しましても、これはまだ歴史も浅い関係、あるいは職員の表示登記制度の重要性に対する認識が必ずしも十分でないというふうな基本的な解決を迫られる問題があるわけでございまして、その辺も鋭意努力してまいりたいということで、この表示登記制度の充実につきまして、現在具体的な方策を検討いたしておるところでございます。いろいろ問題がございまして、一挙になかなか解決はできないと思いますけれども、ひとつ御協力を賜りまして、できるだけ早く御説のような方向に持っていきたいというふうに考えております。
  82. 横山利秋

    ○横山委員 それは法務大臣にむしろお願いをしなければなりませんが、くどくは言いませんけれども、法務省は、権力的な機能と国民のサービス面を担当する機能、両面を合わせておるという認識を十分強くしていただきまして、この面の施策を強力に展開をしてもらいたいと希望いたします。  次は、総会屋の問題でございます。時間の関係で、警察庁も、そのほかの所管の庁も呼びませんでして、呼びませんのは、特に法務省にバッターをお願いをしたいと思って、特に法務省だけに質問をするのですが、これは、昨年警察庁が調べたところによりますと「総会屋は四十九年に二千二百六十三人だったが、五十年には五千二百二十七人と倍増、五十一年末には六千二百四十人にのぼっている。さらに今年上半期で五百人近くふえているという。特にここ一、二年は、領収書一枚持って企業へ行けば最低一万円の収入になるという総会屋の世界を有力な資金源として暴力団が相次いで進出、約千人は暴力団総会屋という。団体別にみると、山口組八十一人、住吉連合六十人、松葉会四十九人、大日本平和会四十二人など、警察庁指定の広域暴力団を中心に」目覚ましいふえ方であると言っています。  また、それに対して、大阪のビジネス街、証券取引所の一、二部上場九十七社で、企業防衛対策協議会をつくりまして、警察の協力で、総会屋に対する賛助拒否基準をつくって、早速十五の総会屋に対して賛助金を停止をした、こういうことが昨年の記事にございます。  それから、同じく昨年の十月「総会屋に懲役三年」という大阪地裁の方でありますが、これは「「次の総会には多数で乗り込むぞ」などと株主総会を妨害するような構えを見せて賛助金の名目で四月から五十一年十一月までの間、九十九回にわたって二百二十八万円を脅し取った。このほか五十年三月から五十一年十一月までの間に同様の手口で」各社八百七十一万円をおどし取っていた。  東京都内の大手企業で、中央警察署管内の特殊暴力防止協力会連合会、一部、二部上場会社二百二十二社が加盟。「「高田グループ」の総会屋四十四人全員に対し、「今後いっさい賛助金、寄付金を出さない」ことを満場一致で決議した。」ということがあります。  それから、警察庁が本年一月「暴力団取り締まりの一環として進めてきた総会屋問題について企業を内部から破壊する「自由主義社会への挑戦」」と受けとめて、本格的な取り組みを始めた。そして「関係各警察本部の担当官を集めて開く「総会屋問題研究会」で具体策を決めたあと、」総会屋と業界団体との「決別を迫るという。その際、同庁は警告にもかかわらず“黒いゆ着”を続けている企業に対しては背任、特別背任適用などを含めてきびしく取り締まっていく方針を明らかにする。」とあります。  国税局の本年一月の調査によりますと、年十八億円、総会屋に、大手を含む関西の十五銀行が献上をしておるという調査がございます。  大阪国税局の、総会屋の集金リストが押収された。これは、査察官百三十人を動員、所得税法違反の疑いで大阪北浜の総会屋事務所など三十カ所を一斉に捜索、証拠書類を押収、その押収した材料をもとにして、金融関係に脱税の捜査をする、総会屋については脱税容疑で告発。  それから、東京に事務所を持つ主な総会屋の集まりである「水心会」が都内のホテルで本年の二月、総会を開いて新組織を設立、「「企業に迷惑をかけないよう会員の言動を規制する」ことなどを申し合わせた。さらに将来はこの組織を社団法人か財団法人とし、会員の資格認定を行うという考え。これに対して警視庁など関係当局は「いくら擬装しても総会屋は企業社会にとって“悪”。法人認可などとんでもない」と反発、」。  円高、不況の関係で、賛助金を減らす企業が非常にふえておるという状況で、警視庁は、これはチャンスであると言って、総会屋兵糧攻めを各企業に迫っておる。  こういう一連の記事並びに私の調査がございます。  そこで、時間の関係上、端的に申し上げたいのですけれども、一体法務省は何をしておるかということであります。警察庁や国税庁がこれほど一生懸命やっておるのに、法務省は、刑事局にしても民事局にしても、直接自分のところに関係があるとは言わぬけれども、もう少し協力のしようがあるじゃないか、もう少し法務省自身が乗り出して、関係各省と協力をして、そして総会屋締め出しをすることが必要なのではないか。自分のところへ問題が燃え上がってこなければ、この問題について法務省が積極的に乗り出すということをしないというふうに思われてならない。もちろん、あなた方は直接の前線部隊ではないのだから、自分たちがやろうとしても限界があることはわかる。わかるけれども、少なくとも世論の動向としては、次のような指摘がされておる。  第一に、会社の中で金を出した役員に、背任、特別背任、贈収賄罪の適用をもっとどんどんやったらどうだ。それがやれないのなら、やれるようにもっと法律改正もしたらどうか。第二番目に、特に総会屋のバックをいたします大企業、特に銀行並びに証券、これらの会社に対して手はないのか。もちろん大蔵省あるいは警察庁がやるにしても、法務省として、もう少しそれをバックアップする手は一体ないのであろうか。第三番目に、商法の改正がいろいろと議論をされておるけれども、私どもは、前から大企業の社会的責任ということを追及しておるのであるけれども、大企業が総会屋や暴力団を育成強化しておるという結果について、商法の改正の中で取り上げて、早速やるべきことはあるのではないか。第四番目に、上場会社一般に対して、法務省、それから大蔵省、それから国税庁、警察庁、そういうところが一回連絡会議なり何かをして、総会屋締め出しについての行政指導のありようを協議し、それによって各企業に警告を渡したり何かする方法は一体できるのではないか。第五番目に、それらの連絡の中で、先ほど引用いたしましたように、国税庁の調査がある。国税庁の調査結果について、関係の役所の中の連絡さえ十分にさせていくならば、これによって所得税法違反に終わるばかりでなく数々の法律違反というものが浮き出てくる。その浮き出てきた中でさらに追い打ちをかけていくという方法が各役所の協力によってできるのではないか。それから、大阪で総会屋が一番中心にばっこをしておるわけでありますが、国税庁国税局、警察本部、財務局あるいは地検というような地域における関係の役所の協力というものがもう少し進んでいいのではないか。あるいはまた、総会屋が社団法人になりたいと言う、そしていい総会屋とでも申しましょうか、自粛をすると言う。そんな自粛というものが安易に認められたのでは世間の物笑いになると私は思うのでありますが、こういうような総会屋の媚態といいますか、あるいは看板を貸すというようなことがあってはならぬと思うのでありますが、そういう点についても政府はみずからの態度を明白にすべきではないか等々、私が拾い上げただけでもいろいろな方法があると思うのですけれども、冒頭申しましたように、警察が歯ぎしりをしてやっても限界がある、国税局が歯ぎしりをしてやっても限界がある、各役所の連係動作、特にその中でも少し法務省関係局が采配をふるってこの問題について取り上げなければ、これもまた画竜点睛を欠くと言えるのではないか。この際ひとつ、獅子身中の虫というべき総会屋に対して徹底的な糾弾を法務省が真っ先に立ってやるべきではないかと思うのでありますが、法務大臣はどうお考えになりますか。
  83. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 具体的な処置等については事務当局からお答えすることにいたしますが、従来からも法務省あるいは警察、国税庁その他、暴力団につながる場合がありますから、それぞれ積極的にその排除に努めておることは事実でございますが、なかなか社会の中でそう簡単にいかないという面もあるわけであります。いまおっしゃるように、関係各省緊密な連絡のもとにこの対策を立てる必要があろう、推進をする必要があろう、かように思いますから、そういう方向で進んでみたいと考えます。  いまやっておりますことは事務当局からお答えさせます。
  84. 香川保一

    香川政府委員 私どもの所管としましては、行政指導とかあるいは総会屋の取り締まりというふうなことに積極的に関与することもいかがかと思うのでありますが、まあさしあたりやらなければなりませんのは、会社法の改正作業の中でこの総会屋対策を十分練るということだろうと思うのであります。ただいま法制審議会の商法部会におきまして会社法の全面的な見直しをやっていただいておるわけでございますが、その中で総会屋締め出しと申しますか、総会屋対策というものももちろん十分配慮して論議されておるわけでございます。  一つは、罰則の適用が容易にできるようにするという面がございますが、これは別といたしまして、そのほかの点としまして、もともと総会屋が発生をいたしますのは、会社をいじめる側の場合と会社に協力する場合と両方があるわけでございまして、根本的には現在の会社法において株主総会の議決事項と申しますか、付議事項というものがいろいろ多岐にわたっております関係から、会社ができるだけ無難に株主総会を切り抜けようとすることから総会屋が出てくるというような面もあるわけでございます。そういうことから、一体株主総会の権限としてどこまで認めることにするのか、株主総会において議決しなければならない事項の総会屋対策の方からながめました整理が問題点として一つあろうかと思います。  それから、現実にあらわれてくる問題として、株主総会における質問権の確保と申しますか、これは直接総会屋が質問を封じようとする場面においての法規制を十分すべきでないかという問題があろうかと思います。  さらに、金が動くという面におきまして、これは抽象的に申し上げますれば、総会屋は一株なり二株の株主でございますので、その株主に対して他の株主よりも多額の金を渡すというふうな、いわば株主への不平等な金銭の交付ということを取り締まるという面の検討も要るのではないかというふうなこと等々、いろいろの角度から、現在ちょうど商法部会におきましては株主総会を議題にして議論していただいておるわけでございまして、その中でそういった問題を取り上げながら総会屋対策も重く見て論議を進めていただいておる、かような状況でございます。
  85. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 総会屋は、御指摘のように会社の運営を危うくするばかりでなく、最近では暴力団の資金源になってきており、社会的に見てゆゆしい状況にありますので、まず検察当局といたしましては、警察が中心となりまして摘発した事件について、厳重な処罰をするという方向で現在努力をしておるわけでございます。  また、法務省刑事局の立場といたしましても、こういう問題が起こります根本の原因は、会社の関係者の方々が安易に総会屋に賛助金等をお出しになるということがあるわけでございまして、その辺につきましての自制を促すようなPRと申しますか、そういう方面にも努力をしていかなければならぬと思っております。  私自身のことで恐縮でございますが、かつて刑事課長をしておりましたときに、業界の団体などへ参りまして、みずから総会屋の実態、弊害あるいはこれに対する対策として自粛をお願いするようなお話をしたこともございましたが、今後とも機会があればさようなことも含めて努力をすべきであろうと思っております。  なお、先ほど民事局長からちょっと商法罰則の問題がございましたが、総会屋に対する不当な金銭の授受につきまして、現在商法罰則で総会荒らしに対する贈収賄の規定があるわけでございますが、構成要件の中に不正の請託というしぼりがかかっておりますために、いわゆる会社にとっての与党方の総会屋については適用できる場合が時としてありますけれども、野党方の総会屋に対しましては、わあわあ騒がないで静かにしておってくださいというようなことを頼んで金をやりましても不正の請託に当たらないということになって、その辺が運用上隘路があるように思っております。そういう点につきましては民事局と連絡をいたしまして、商法改正の場面で十分前向きに検討していただくようにお願いをしておるところでございます。そういった所要の法律の整備も含めて今後鋭意努力をしてまいりたいと思っております。
  86. 横山利秋

    ○横山委員 ともあれ、大臣がお答え願ったように、私の見るところでは警察、国税局等前線部隊が一生懸命にやっておるけれども、政府としての総合的な総会屋対策というものに欠けるところがある。関係各省が協力して、国民の協力を求めて、ある意味ではデモンストレーションになるかもしれぬけれども、全般的な企業、国民の認識を得るためにはこの際一つの方法を考える、協力体制を整備していただく、こういうことを要望して私の質問を終わります。
  87. 鴨田宗一

    鴨田委員長 午後零時四十五分再開することにし、この際、暫時休憩いたします。     午後零時二十分休憩      ————◇—————     午後零時四十六分開議
  88. 鴨田宗一

    鴨田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。長谷雄幸久君。
  89. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 私は、初めに公図の問題をお尋ねしたいと思います。  実は昨年の十二月十日に東京都下西多摩郡檜原村で、山林、畑の境界争いをめぐって殺人事件が起こりました。一部報道によりますと、この殺人事件の原因は、山林や土地の境界を正しく示すはずの公図が現実の境界と食い違っていた、このことが一因になっていたのだ、こういう記事がございました。この事件について、この公図が原因になっていたのかどうか、その真相をお知らせ願いたいと思います。
  90. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 お尋ねの事件は、昨年十二月九日から十日にかけて起きた事件であります。被告人は桑原金雄という者でございまして、殺人予備、逮捕監禁という罪名の事件であります。  事実は二つありまして、まず第一が、昭和四十三年ごろからある女性と内縁関係にあったわけでありますが、その内縁関係にあった女性の持っておる檜原村の中の畑地に、その隣接地であります被害者の方の山林が食い込んできておると思い込んで、同人との間で紛争が絶えなかったということに端を発しまして、昭和五十二年十二月九日午後九時ごろ、この被害者方におきまして、被害者とその奥さんに対しまして、手おのやこん棒で殴りかかりまして、お二人を結局死亡するに至らせた、こういう殺人事件があったわけでございます。  もう一つ、今度は、かねてから被告人自身の隣の家の坂本さんという方と桑畑の境界を争っておって憤激しておったようでございますが、この坂本さんも殺してしまおうというので、同月十日の午前三時ごろ、あいくち、なた、まき割りなどを持って坂本さん方に参りまして、同人方で坂本さん及びその奥さん、長男、長女、四名の手足をひもで縛り上げて、三時四十分ごろ一一〇番によってつかまるまでそういう状態でおった、こういう事件でございます。  いずれも、二件とも内妻の所有地の関係の土地争い、境界争い、それから自分の土地と隣家との境界の争い、こういうことが問題になっておるようでございます。その間にはもちろん公図の問題も絡んでおるようでございます。
  91. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 大変痛ましい事故があったわけでございますが、こうした境界争いをめぐる紛争は大変数が多いように聞いております。現に、私も弁護士の実務をやっているころにはかなりの事件を扱ったことがございます。  そこで、お尋ねをしたいのですが、境界争いになった事件、特にその中で公図が原因になっている事件を含めて、これまでの紛争の件数がおわかりになればお知らせを願いたいと思います。民事、刑事を問わず、民事事件の場合ですと本訴、調停を含めた事件で結構でございますが、掌握しておられればお伺いをしたいと思います。
  92. 香川保一

    香川政府委員 まことに申しわけございませんが、ただいま把握いたしておりません。
  93. 三宅弘人

    三宅最高裁判所長官代理者 最高裁判所でございます。  私どもの方で把握しておりますのは土地の境界訴訟事件だけでございますが、いわゆる公図が問題となります訴訟は、ほぼ土地境界訴訟事件が主だろうと存じます。過去五年間、地方裁判所におきましては年間約二百六十件ございます。それから簡易裁判所では約四百二十件、合計いたしまして年間約六百八十件の訴訟事件が提起されております。
  94. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 この公図をめぐっての紛争についてでございますが、こういう紛争があることは、その一つには、公図について一般市民の考え方、認識と、公図の実態というもののずれがあるのではないかと思います。そこで、公図についてどのような法的な性格があるのか、お尋ねをします。
  95. 香川保一

    香川政府委員 公図と言われておりますものは、土地台帳の付属地図のことでございます。これは御承知のとおり、地租を徴収するために土地台帳の制度ができましたときに明治政府によって作製された地図でございますが、これが昭和二十五年の七月三十一日から登記所に税務署から移管を受けました。これは御承知のとおりシャウプ勧告によりまして地租がなくなりまして、地方税としての固定資産税に変わった時点からでございます。それで、これがその当時におきましては土地台帳法の施行細則、省令でございますが、これに登記所に地図を備えるということにして、ただいま申しました税務署から引き継いだいわゆる公図を登記所に備えておいたわけでございますが、昭和三十五年に土地台帳と家屋台帳、それと登記簿をいわゆる一元化いたしまして不動産登記法の中に取り込んだわけでございます。それで、その際に土地台帳法、したがって土地台帳法施行規則も廃止されまして、現在では正確な意味での法的根拠は何らないということになっておるわけでございますが、何分にもわが国にある地図として公的に作製された唯一のものでございますので、これを廃棄しないで、やはり一般の便宜に供するという意味で、正式なものではございませんけれども、閲覧も許しておるというふうな関係でございます。
  96. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 登記は、一般的に不動産取引の安全に奉仕するということで、権利関係についてはかなり正確に記載されているように思います。ところが、公図につきましては、いま御指摘のようなことで必ずしも正確ではない。またこの公図制度がとられた経緯から見てもきわめて不十分である、精度に相当差があるということが指摘されております。こうしたものが現在登記所に置かれている、そのことが一つは問題ではないかと思います。私どもの考えでは、登記所というのはお役所であって、お役所が設置した公図については一般住民はそれが真実であるかのような認識を持つ、これは無理からぬことだろうと思います。ところが現実とは食い違いがあるということで、先ほど指摘をしましたようなそういう事件も起きてくるということになると思うのです。  そこで、不動産登記法を見ますと、この十七条には、登記所に地図を備う、こう書いてございますが、この地図と公図との関係はどのように理解されるのでしょうか。
  97. 香川保一

    香川政府委員 ただいまお示しの不動産登記法の十七条に、登記所において地図を備えるという規定が設けられましたのは、先ほど申しました昭和三十五年の不動産登記法の改正によってでございます。その当時、ただいまお話もございましたように、法律でもって備える登記所の地図としては土地台帳の付属地図は必ずしも正確でない、かえって一般に誤解を与えるおそれもあるということを考慮いたしまして、台帳の付属地図、この公図を法十七条の地図としては扱わないということにいたしまして、逐次法十七条の地図を登記所あるいは国土調査事業等によって整備していこう、かようなことにいたした次第でございます。
  98. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 要するに、この不動産登記法で言う地図には当たらない、しかし過去のいきさつから現在もこれを利用しているということのように伺いますが、登記所がこれを設置する以上は責任のある設置をしていただきたいということを私どもは申し上げたいのです。いまの御指摘では、不動産登記法に言う地図、これを逐次整備をする方向であるというようなお話でございますが、その作業として現在どこまで進んでいるのか、完成のめどをいつに考えておられるのか、あるいはこれだけの日本全国にまたがる土地のことでございますので、日本全国について正確な不動産登記法に言う地図を備うるということになりますと、予算的にも相当なものになるのではないか、こう思います。その辺についてどんな所見をお持ちでしょうか。
  99. 香川保一

    香川政府委員 法十七条の規定を設けました時点で財政当局とも協議いたしまして、予算の許す範囲内で逐次整備していくという約束になっておるわけでございます。ただ、御承知のとおり、当時から登記事件が急増いたしてまいりまして、登記所みずからの手で地図を整備するということが客観的には不可能な状況にありまして、したがって、その面の十分な手当てが現在もないわけでございます。ただ、放置しておく問題ではございませんので、昭和四十三年から予算措置を講じまして、登記所の手でモデル的に一定地域について地図を作製するということを始めておるわけでありまして、そしてそのモデル作業の実施の過程におきまして、地図づくりのいろいろの問題点、あるいはどのような予算措置が必要かというふうないろいろのことを調査いたしまして、将来の地図づくりの基本的な方策を決めよう、かようなことでございます。だから、登記所みずからの手でつくっておる地図というのは皆無に等しいというふうに御了解願いたいと思います。  そのほかのものといたしまして、現在法十七条の地図としての扱いをしておりますのは、まず第一には、国土調査法による地籍調査の結果の地籍図でございます。これは相当の精度がございまして、これを登記所に送付を受けまして十七条の地図として扱うということにしております。もう一つは、土地区画整理事業あるいは土地改良事業におきまして換地処分がされるわけでございますが、その結果を図面にした換地確定図というのがそれぞれの事業主体によって作製されております。これは法律的に登記所にも送付されるわけでございまして、一律に全部十七条の地図としての正確性を持っておるとはちょっと断定しがたい面があるようでございますが、やはり内容に応じまして、これなら大丈夫というものを十七条の地図として扱う、かようなやり方をしておるわけでございます。
  100. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 法務当局としてはそれなりの御努力をなさっていることは十分理解できますが、こうした不完全なものが現在登記所に置かれている。このことは一面、先ほど局長も御答弁になりましたように住民に対するサービスだ、これは、法務当局のその気持ちは十分理解できるのですが、先ほどから御指摘申し上げているように、そういう事件発生するということを考えますと、不完全なものを登記所にこのまま置くことが果たして法務行政として正しいあり方かどうかということが今後も非常に問題になるのではないか、こう思うわけです。公図のいきさつについてちょっと触れられましたけれども、資料によりますと、明治六年の地租改正から明治中期にかけて完成されたもので、測量などは実際においては地元の住民が行っていたということで、その後政府の官吏がそれを現地に赴いて確認するというようなこともやっていたように資料にはございます。いずれにしても、不完全であることは免れないと思うわけです。  そういうことで、こういう不完全なものがあることによるメリットと逆のデメリットの面を考えたときに、こういう痛ましい事件が将来とも起きないとは限らない。こういう現状を考えたときに、この公図というものを、いま局長が御答弁なされた換地確定図あるいは土地調査法に基づくいわゆる図面というものが完備するまでの間、これをやめてしまうということは考えられないか。もしこれをやめてしまったときにどういう弊害が起こるか、この点についてはどのようにお考えでございますか。
  101. 香川保一

    香川政府委員 お説のように、デメリットが非常に考えられますので、法制的にと申しますか、法律上は、この台帳の付属地図については、閲覧の制度も写しの交付の制度も実はないわけでございます。したがって、法律的に見ますと門外不出ということで、だれにも見せないということになるわけでございます。しかし、先ほども申しましたように、何しろ、正確性については問題があるといたしましても、土地の形状とかあるいは隣地との関係というふうなものを知る上におきまして、公的に作製された唯一のものでございますので、どうしてもやはり一般国民からは、必要性のあるときに見せてくれという要望が非常に出てくるわけでございます。そういうことから、いわば行政措置として、私どもの方から言えばサービス的にと申し上げることになるかと思いますが、そういう御要望があれば便宜お見せするというふうな取り扱いになっておるわけでございまして、これをやめるということは、やはり今日までの要望の非常に強いという経験から申しまして、かえって問題ではなかろうか。要は、結局、これを正しいものだというふうに信用されてお考え願っては困るということを十分PRする方法を講じなければならぬというふうに考えておるわけでございまして、さような誤解のないようにしていただきたいということをPRしながら閲覧に供するということが、今日的なやり方としては妥当ではないかというふうに思っております。
  102. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 局長御指摘のとおりだと私思いますが、その取り扱いについて、法務当局にもう少し、一般の住民、利用者がこの公図についての法的効力は何もないのだ、これをもととして何かの行動を起こしても全く意味がないのだということを積極的に、たとえば登記官に徹底をして、住民から謄写や閲覧の依頼があったときに、そういう趣旨であるということを十分に理解させる扱いというものが今後ぜひとも望まれるのではないか、このように思いますが、そういう行政指導は今後どのようになされるおつもりでございますか。
  103. 香川保一

    香川政府委員 早急に御趣旨に沿ったような措置を講じたいと思います。
  104. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 次に、交通刑務所の問題について若干お尋ねをしたいと思います。  交通刑務所は、いま市原市その他に施設がございますが、この交通刑務所の施設の特色あるいは目的について、どのようにお考えでございますか。
  105. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 交通刑務所は、市原刑務所ほか七庁、合計八庁ございます。各矯正管区管内ごとに一庁ずつあるわけでございまして、禁錮が中心でございますが、いわゆる開放的処遇が適当と思われる成人の犯罪受刑者で交通事犯以外の犯罪による懲役刑等がない場合、あるいは交通事犯以外の受刑歴がない場合、それから刑期がおおむね三カ月以上である場合、それから心身に著しい障害がないというような者を選びまして収容しております。なお、市原刑務所におきましては、交通犯罪でございましても、懲役受刑者を現在試行的に入れているところでございます。  結局、交通犯罪と申しますのは、何はともあれ遵法意識ということが問題でございますので、遵法意識の涵養を図っております。それから、運転適性があるかないかを判定いたしまして、運転適性のない者には社会復帰後の新たなる仕事をお世話するような指導をする、運転適性のある者については運転した場合の諸種の注意を受刑中に教えるということを目的としております。
  106. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 この交通刑務所のいわゆる開放処遇については、新しい制度として専門家の中から注目を集めております。ぜひともこの成功を期したいと思いますが、現在、この開放処遇を運用するに当たって特に問題点があれば御指摘を願いたいと思います。
  107. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 開放的処遇でございますので、とにもかくにも地域住民の了解と御理解が必要でございますが、市原刑務所を初めとする刑務所につきましては、相当数の御理解を得ておりまして、適正に運営されております。  なお、むずかしい点では、開放的処遇ですと、近隣の外部の事業所等へ通勤をさせて作業をする、これは現在改正を検討しております監獄法につきましては単独で外部通勤もできるというようにしておるのでございますが、これを引き受けてくださる工場等が少ないという点が問題点でございます。この点につきましては、経済不況の影響もあるわけでございますが、さらに各施設、本省を含めまして、関係機関、関係の方々への御協力をお願いしたい、かように思っておるところでございます。
  108. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 交通事故については、もう指摘するまでもなく、非常に多数の事件が頻発をいたしております。  最近のデータによりましても相当な数があるわけでございますが、特に東京について申しますと、昨年の資料によりますと「警視庁交通部の調べでは、昨年一年間に都内全域で約三万三千件の事故があり、三百三十五人が死んだ。」こう書いてあります。その中で「多摩地区は八王子市など二十六市五町一村から成り、静岡県とほぼ同じ人口を抱えている。急激な都市化に、道路や安全施設の整備が追いつかず、交通事故が多発している。」こういう新聞記事がございます。「ところが、二十三区に比べ多摩地区は事故死傷者いずれも増えており、死者は九十二人で一昨年より十人多かった。ことしに入ってもこの傾向は続いており、十四日現在、」五十三年四月十四日でございますが「十四日現在、都内全体の死者は八十四人で、昨年同期に比べ十二人の減なのに、多摩地区は、二十八人で十人も増えている。」こういう新聞がございます。こういう事故がある中で、被害者がこれだけの数がいるということに、あるいはこれ以上の数がいるということになるわけでございます。そしてまた、不幸にして交通事故に遭って死亡された、そのとき死亡された方が家庭の柱であるという場合には、残された遺族の方の将来を考えると大変気の毒な状況にあります。一般に交通遺児家庭と言われておりますが、母子家庭の一つの形態として社会的にも大きな問題になっております。この欠損家庭に対する社会政策は、刑事政策的に見てもきわめて重要であると思います。この問題について、ぜひとも、少年犯罪対策とあわせてこうした事故の再発防止、あわせて欠損家庭に対する救済というものを急がなければならない、こう私たちは考えております。  そこで、こうした交通事故の場合ですといま申しましたような問題がございます。しかしその問題も含めて、交通事故での死傷者については一応自賠責の制度もあります。また労働災害については労災保険の制度もございます。その他一般の疾病、死亡等では健康保険、厚生年金、そうした制度も不十分ながらあるのが現状であります。しかし、一般のいわれなき犯罪というものがあります。このいわれなき犯罪によって被害を受けた方に対する補償というものが現在の法制の中では全く見られない、これが現状だと思います。そこで、私たち公明党としては、かねてから犯罪被害補償法案を提案をいたし、この審議を進めてまいりたい、こう考えておりますが、実は私たち一生懸命この法案の審議をお願いしても自民党さんが乗ってくれないので非常に困っておるわけで、さきの人質の犯罪法案を審議する際にも私ちょっと申し上げまして、大臣の方から御答弁をいただいておりますが、大臣も、政府としてはやはりこういう時勢に対応する、それにふさわしい制度をつくらなければならない、いま検討している、こういうお考えでございますが、ぜひとも前向きに検討してもらいたいと思っております。大臣のこの点についての御所見を伺いたいと思います。
  109. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 犯罪による被害者に対する補償の問題は、結論から申し上げますと、できるだけ早く成案を得て御審議をいただきたいという考えでございます。  長谷雄さん御承知のとおり、犯罪によって死亡、傷害あるいはその他の損害を受けた場合には、法理論からいくと犯罪者に求償をするということがあるわけでございますが、実際問題としてはそれが実現し得るということはきわめてまれな状態が多い。そういうことで、最近の世界的傾向を見ましても、これに対する何らかの国家的な補償の制度をつくらなければならない、こういう傾向がありますし、また現代社会のいわゆる社会連帯の相互扶助の精神から言っても何らかの措置をとるべきだ、こういう考え方でありますが、目下検討いたしております。細かい問題については刑事局長から御説明をいたさせますが、あらゆる場合があるわけでございますから、すべての犯罪の被害を国が補償する——国が補償すみといいましても国民が補償するわけでございますから、なかなかそう簡単に結論が出ない。でありますから、どういう場合の被害者に補償をすべきか、またどの程度のものが適当であるかどうか、これは国家財政の面からもあるわけでございますが、そういうこまかい点をいろいろ各省庁と検討を進めております。  それからもう一つは、その補償の額の認定をどこでやるかという、実施機関が一番問題でございます。新たにそういう組織をつくるというのも、御承知のとおりの行政改革、国民負担の軽減等、いろいろまた別の問題もありますから、そういう点をあわせて細かい問題を検討して、できれば次の通常国会あたりには提案をして、仮に最初から十分理想的なものでなくとも、一歩前進の法案でも提案をいたしたい。皆さんの方から提案されておる案等も参考にして検討しておりますことを申し上げておきます。  細かい点については刑事局長から御説明いたさせます。
  110. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 大臣がお答えになりましたように、被害者補償に関する制度をなるべく早く確立すべきであると考えております。  そこで、私どもといたしましては、これまでこの制度の検討のための予算措置も若干でございますが講じていただいておりまして、これによりましてすでに諸外国の立法例の調査あるいは広く犯罪被害者の実態調査を終えておるところでございます。その実態調査の結果等に基づきまして一応のたたき台というような案をこしらえてみた段階があるわけでございますが、わが国の現状からいたしまして一気に理想的なものを実現するということはきわめて困難である、財政事情はともかくといたしましても、他のいろいろな面の社会保障、社会福祉といった制度、こういったものとのバランスも考えなければなりませんし、ひとり法務省だけの狭い視野で考えるわけにもいかない、こういう問題がございまして、いわば卑近な言葉でございますが、当初は芽を出す程度のものでもやってみたいということで、新たに対象の範囲をしぼりましてもう一度実態調査を行いました。その実態調査の締め切り期限が本年三月末でございまして、間もなくその調査結果が私どもの手に集まると思います。これを見まして、本当にお気の毒で、他の福祉施策との比較においても、何はさておき何らかの方法を講じてあげなければならない人、こういう者の数がどれくらいおられるかということを確定いたしたいというふうに考えております。その上で本格的に財政当局あるいは関係省庁との協議に入りたい、こう思っておるわけでございますが、その過程で問題になります一つは、実施機関をどこでやるか。捜査機関がすなわち補償の裁定機関になるということは必ずしも適当でない。しかし各都道府県にそれぞれ一つずつの裁定委員会をつくる、そして中央に上訴審的な委員会をつくるということにいたしますと、数からいたしますと大した人員ではないように一見見えますけれども、現在の行政簡素化の趨勢からしますとそこに非常な隘路があろう。そこで現在、関係省庁ともお話し合いをいたしまして、捜査機関でない何らかの既存の機関、こういうものを利用して実施をする方法はないかというような点も含めてその問題について詰めておるところでございまして、まだ詰めておる段階ですから結論的には申し上げられませんけれども、その点の解決にはやや明るい兆しが見えておる、こういうふうに思っております。そういう段階でございまして、お尋ねの趣旨をも体しましてなるべく早く実現するように、そういう方向で努力したい、こう思っております。
  111. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 大臣局長から前向きな御答弁をいただきましたが、実はいま私たちのこの委員会の中にかかっている法案の一つに、いわゆる弁護士抜き裁判という形で言われておりますけれども、確かに犯罪者、被告人に対する人権保障というものは、これは憲法規定もあるとおりでございますので、これはおろそかにはできない。しかし、この犯罪によって陰で泣いている無実の、無事の庶民が多数いるということ、これの方をもっともっと充実していかなければならない、この補償を充実していくことこそこれからの福祉社会のあるべき姿ではないか、こう私たちは理解をいたしております。そういうことで、この私ども公明党が提案した犯罪被害補償法案、このとおりでなくても十分結構でございます。いま大臣からも御答弁がありました、当初は芽を出す程度のものでもう十分であろうと思います。要するに、こうした形のものが制度的にできるということが、こうした犯罪被害者にとっての大きな光明になろうと思います。そういうことで、ぜひともこれから積極的に進めていただきたいと思います。私ども、議員立法という形で公明党提案をしておりますけれども、何もこれにこだわることではなくて、内閣提案のものでも十分私たちこれに対応して、国民の皆さんにおこたえをしてまいりたい、こう思っております。  そこで、やや具体的に局長から御答弁がございましたので、若干敷衍して質問さしてもらいたいと思いますが、いま法務省がお考えの中に、故意犯だけの者か、あるいは過失犯も含むものかという点については、どのようなお考えでございましょうか。
  112. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 結論といたしましては、故意による暴力事犯の被害者ということを考えております。と申しますのは、過失犯と申しますのはそのほとんどが交通事故でございまして、一応自賠責という制度があるということ。それから過失事件につきましては、裁判が終わってみませんと過失の存否が必ずしも明らかでないということで、客観的にもう一目でわかる、犯人がつかまろうがつかまるまいがすでにして明らかである、こういうような犯罪の態様を主としてつかまえるべきであろう、こういうふうに考えております。
  113. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 法律は、原則として制定されたときから効力を持つわけですが、この犯罪被害者の補償については、すでに過去相当昔からこの犯罪被害によって不幸な生活を送っている方がたくさんいるわけで、この法律案については少なくとも遡及効を持たせるべきではないか、こう考えます。私ども公明党では、かなり長い先の昔の遡及効を持っておるのですが、法務省のお考えはどの程度のものをお考えでございましょうか。
  114. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 法律をつくりまして、これを遡及適用するという場合には、たとえば御提案のような二十年というような線を引くという引き方もありましょうし、いろいろな考え方があると思いますが、どういうふうに線を引きましてもボーダーラインの方が生ずるわけでございまして、過去の出来事に対して手厚く対処してあげるということも一つのポイントではあろうと思いますが、やはりたてまえとしては現在及び将来ということを考えていくべきだろうと思っております。そういう意味で、原則としては遡及効を持たせないようなことを考えておるわけでございますが、各方面からいろいろそういう点の御意見がございますので、その点もよく踏まえながら、なおそういった点については詰めていきたい、こう思っております。
  115. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 ちょっと細かい点で大変恐縮でございますが、その補償のあり方、形式なんですが、金銭給付を主としてお考えと思いますが、補償の対象になる者について傷病を含むのか、死亡事故だけなのかということですね、その辺はいかがでしょうか。
  116. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 まだ最終的な成案を得ておりませんので確答はいたしかねるわけですが、去る三月三十一日締め切りをもって調査をしておりますところの実態調査の中身は、故意による暴力犯罪によって亡くなられた方、及びそれよりも考えようによればもっと悲惨な状態にあられる方、一生不具廃疾で終わらなければならない方、こういうような方がどれくらいおられるかということをいま把握をしておるわけでございまして、まずその範囲の方々はとにもかくにも対象にせざるを得ないだろう。それからどの程度広げられるか、これは今後の検討の方向であるわけでございます。
  117. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 再度恐縮でございますが、死亡については遺族の態様によって千五百万ないし一千万ということを私ども考えておるのですが、これは財政的な問題もあるので一概に言いにくいかもしれませんが、その財政措置として、たとえば犯罪による罰金、科料、こうしたものの金額は、私ども資料によりますと、昭和五十三年度の予算によりますと、罰金、科料だけで法務省主管の歳入の中に六百二十二億二千百万円、こういうものが見込まれているわけですが、こうしたものもこの犯罪被害補償の財源に考えられないか。こういう財源を、いろいろなものが考えられると思いますが、一例を挙げただけでございますが、こうした財源も繰り入れるというような御努力をなさっていただいて財政的な措置を十分お考えいただきたい、こう考えておるわけでございます。そこで、いま法務省がお考えの補償額については、どのようなお考えでございましょうか。
  118. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 その点も最終的には関係省庁とよく詰めなければなりませんが、一応のめどといたしましては、現在ございます証人被害給付法における給付金額でございますとか、警察官に協力援助した場合の法律、これに定めます給付金額、こういうものをにらみ合わせながら考えなければならないと思っております。ただ、証人被害給付とか警察官に対して協力をした方に関する法律、こういうものは国に対して積極的に御協力なさったことによって亡くなられたり何かした場合でございますので、それを上回るということにはならないという程度に考えております。
  119. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 こうしたお考えに基づく成案がいつごろ、先ほどの大臣答弁では次の通常国会、こういうことでございますが、大体そのころのめどでございましょうか。
  120. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 私どもといたしましては、次の通常国会に間に合うようなテンポで作業をしたい、こう思っております。ただ、政府部内の各般の調整を要しますので、これを鋭意努力をして、そういう努力目標に従ってやってまいりたいと思っております。
  121. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 大蔵省にお尋ねをしたいのですが、いま法務省の方から、大臣並びに局長から積極的な御答弁をいただいたわけでございますが、これに対して、これまでの委員会における質疑、特に昨年の四月六日、わが党の沖本委員からこの問題について質疑がございました。それに対して大蔵省の方は余り積極的な御答弁でないように承っておりますのですが、どうもその辺については、もう少し法務省と歩調を合わせて前向きに財政的な措置を、法務省の要求があれば全部認めるという方向で御検討いただきたい、そのように思うわけですが、その将来についてどのようなお考えでございますか。
  122. 塚越則男

    ○塚越説明員 ただいま法務省の方からいろいろお答えがございましたが、現在この問題につきまして法務省それから関係官庁の間でいろいろ検討しておられますので、その検討を受けまして私ども十分検討させていただきたいと思っております。
  123. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 聞くところによりますと、法務省は積極的に予算措置を大蔵省に要求するのだけれども、いつも大蔵省は削ってしまう、こういうことを言っております。私は、法務省の中には非常に予算を要する、たとえば矯正局の仕事がございます。そういうことについてもっと前向きに法務省の予算については受けてもらいたい、そしてまた、今回の犯罪被害補償についてももっと前向きに受けてもらいたい、こういうお願いがあるのですが、いかがでしょうか。
  124. 塚越則男

    ○塚越説明員 この問題につきまして具体的にこういうことでというお話はまだいただいておりませんので、私ども大蔵省といたしまして、法務省がいろいろお考えになって、こういう行政需要があるということでお話がありました都度、それを十分承りまして、一方的に査定するとかいうことでなく、いろいろ御相談しながら予算をつけておるつもりでございます。
  125. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 いつも大蔵省の方はそういう御答弁をなさるのですが、ぜひともそのことは大臣あるいは所管の方にこの法務省の趣旨をお伝えを願いたい、このようにお願いをしておきます。  次に移ります。一九五五年八月、ジュネーブで開催された犯罪の予防および犯罪者の処遇に関する国際連合第一回会議で、現行被拘禁者処遇最低基準規則というものを定めておるわけでございますが、これに対するわが国政府の基本的なお考えをお伺いしたいと思います。
  126. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 被拘禁者処遇最低基準規則は、ただいま長谷雄委員が御指摘のように国連の会議において決議されたものでございます。決して条約ではございません。しかしながら、その内容は行刑の近代化に資する点が多々含まれております。現在進められております監獄法改正もその柱の一つといたしまして、国際化ということでわが国適用し得る限り最低基準規則に適合するように考えていこうということで検討中でございます。したがいまして、一口で申し上げますならば、この最低基準を尊重しつつ今後の法改正並びに行刑運営を行うということに尽きるかと思います。
  127. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 ぜひともこの基準規則に適合するような御努力を今後ともお願いをしたいと思います。  そのことも含めて、私昨年の五月六日に東京都下八王子にあります医療刑務所を視察をしました。相前後いたしまして多摩少年院あるいは府中刑務所、そういった施設をほとんど視察をしました。特に八王子医療刑務所の中では、この医療について大変充実を要するという問題があるというお話を承ってまいりました。  医療については、文献によりますと「矯正施設における医官の補充は極めて困難となっている現状は、施設医療と地域社会、国の保健行政との密接な連携をますます必要としている。施設医官を確保するため、昭和三十六年「矯正医官修学資金貸与法」が公布施行され、卒業後に矯正施設に勤務することを条件として医学部学生に対し月額六千円の修学資金を貸与する方法を講じているが、最近貸与をうけた者の施設への就職が減少している現状である。」こういうような御指摘がございます。このことも含めて、実は八王子医療刑務所では、あそこは所長さんがお医者さんなのですが、医官になってくる人が非常に少なくて困っている。いま私が文献を読み上げたとおりでございます。それで、非常に御苦労なさってお医者さんを集めるのに努力をされておるが、なかなかなり手がないということで、いろいろな医科大学と連携をとって、ぜひともなってほしい、こういう御努力をなさっているけれども、いろいろな条件があって、条件がそろわなくて医務官になる人が少ない、こういう現状を訴えられておりました。医者がいなければ医療刑務所にならないと思うのですが、現実には数が大変少ない、こういう問題がございました。この医務官の確保について、医務官に希望者がふえるような条件づくりに矯正局の方ではぜひとも御努力を願いたい。このことについてどのようにお考えでございますか。
  128. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 大変御理解あるお言葉をいただいて感謝申し上げるのでございますが、現在一番困っておりますのは仰せのように医官の確保でございます。民間でも困っておるような関係でございまして、矯正医官の採用、確保に非常に苦労をいたしておりますので、民間の開業医の方々の御努力等も仰いでいるところでございます。いろいろの点を考えてみるのでございますが、まず人間を確保することが非常にむずかしいということになりますれば、やはり設備をよくしなければなりません。したがって、いかにりっぱな外枠の医療刑務所ができましても、中がどうにもならないというのでは困りますので、医療設備を重点にしなければならぬであろう、かように思っております。  それから、それをめぐる医療関係職員、衛生士等々の問題がございます。特に看護婦、看護士でございますが、なかなか矯正施設に来てくださる女性の方はございませんので、そういう点も問題がございます。  それから、魅力ある職場にしなければなりませんので、その点の配慮も必要かと思います。  具体的な方策といたしましては、御指摘の矯正医官の修学生の点でございます。いま一万九千円まで上がっておりますが、とても一万九千円では来てくださらない。これはある程度勤務を拘束するのですが、もらった金を払えば免除することになります。一万九千円ではすぐに払えることに相なりますので、これはむずかしいわけでございます。これの増額ということがございます。しかしこの点は厚生省の医官との関係もございまして、十分厚生省とも御連絡申し上げ、財政当局の御協力を得たいと思っております。  それから医者の関係で申し上げておきますと、現在お医者さんはある程度の研究をされますと留学等をされる場合がございます。かつては矯正医官が相当おりまして、留学の経験のある方も多かったのでございますが、最近は必ずしもそういう点がないというので、何とか矯正医官で将来長く勤めていただくような方には外国留学の機会を与えてはどうか、さらに内国留学も必要とあらば考える必要があるのではないか、かように思っております。  それから看護婦等々につきましては、八王子に、看護士と言っておりますが、それを養成する学校を設けております。ここに多くの者を入れまして教育をいたしたいと思っております。  そのほか、医者の苦労あるいは医療関係職員の苦労というものを率直に世の中に訴えまして御協力を得なければならぬであろうというふうに思っております。そういう点につきましては、後にも出るかと思いますが、私どもで「苦しみと喜びと」という題名のもとに矯正職員の処遇体験記録を募集いたしておりますが、これを世間に公刊いたしまして御理解を得たいと思っております。  ほかにもございますが、重要な点だけかいつまんで申し上げた次第でございます。
  129. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 この医務官についてはいま局長からお話がございましたが、民間のお医者さんと違った、外部の方には余り御理解できにくい御苦労があるということを私どもも承ってまいりました。そういうことで、一般のお医者さんあるいは公務員であるお医者さんの基準とはやや違った基準があってもいいのではないか、こんな気持ちも持っております。またそのために、いま局長がお話しのような広報活動についてもう少し住民に理解を得られるような活動が今後望ましいのではないか、このように考えております。それをぜひとも今後進めていただきたいと思います。  次に、これは昨年の四月二十日、八十国会において、この法務委員会で私が矯正施設のあり方について質疑をいたしました。その中で、集中管理装置を設置してはどうか、機械による装置をぜひともやるべきではないか、それが刑務官等の身の安全にもなるし、矯正における合理的なあり方としては一つの正しいあり方ではないか、こういう問題提起を私はいたしました。今年度の法務省の刑務所の保安関係総合整備施設の整備計画内容というものを拝見しますと、その中に集中管理装置というものが書かれてございます。これは私が問題の指摘をしましたものと同じ趣旨のものでございましょうか。
  130. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 大綱においては、昨年長谷雄委員が御指摘された点と同様でございます。  御承知のとおり、昨年九月、ダッカ空港事件が起きまして、ますますこの必要性がうかがえましたので、強く大蔵省にもお願いした結果、予算措置が認められるに至ったものでございます。
  131. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 この予算額については幾らと聞いておりますか。
  132. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 約七千二百万でございます。
  133. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 次に、同じく矯正施設の一環として、現在の夜間における被拘禁者に対する巡回のあり方でございますが、私が各刑務所を回ったときに伺った話でございますが、交代制はとっているものの、当番に当たっている刑務官は一人であるということでございます。相当な御苦労をなさっているというお話を伺っておりますが、夜間巡視の一人制ということについて、今後のあり方として、これを一度に全施設複数にするということは予算的にも無理かと思いますけれども、テストケースとしてでも結構でございますが、複数制の夜間巡視の方向について御検討をする余地があるのかどうか。これはやはり監視に当たられる方のお立場もあるし、また受刑者の立場もあろうと思います。両方相まって、一人制ではなくて複数制の制度をぜひとも取り入れるべきではないかと考えておりますが、その点についての見込み等についてお話を願いたいと思います。
  134. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 結論から申し上げますと、現有では不可能であろう、それも絶対に近い不可能であろうかと思います。  現在、矯正職員は一万六千人でございまして、夜間はその一割ないし一割五分が当直になっております。したがいまして、少なくとも二千人の増員がない限り一人制を二人制にすることは無理でございます。一昨年、昨年とふえましたのが、一年間に三人でございまして、二千人となりますと六百年余りかかるということに相なります。ただ、試行的に行えということでございますが、現在私どもが考えておりますのは、とにかく週休二日制を少しでもやってみようじゃないかという段階でございまして、夜間の二人制は私もしたいとは思っておりますけれども、遺憾ながら困難であろうかと思います。しかしながら、必要がありますときには夜間巡視をしております。たとえば、千葉刑務所に多数の過激派の者が入っておりますが、これは幹部職員がキャップとなりまして、現在五人編成であろうかと思いますが、五人編成で外の巡警及び内部の巡警等を実施いたしております。必要があるときに必要な職員をもってチームを構成するということで当面は対処していきたいと存じております。
  135. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 刑務官に関連しますが、刑務官はこういう形で一生懸命お仕事をやられております。その方々が定年で退官をされる、その退官後の問題なのですが、それなりの保障制度もあろうと思いますけれども、こうした在職中に得た体験というものは、今後そういう関係のところで働ける場所があるならば社会的にも非常に有益ではないかと考えております。たとえば、小中学校、高等学校等で矯正保護の関係者による教育活動、広宣活動というものも一例として考えられるのではないかと思いますけれども、そのためにある程度身分を与えて、財産的に給付もある程度与えるという形でやれば、全く新しい人材を登用するよりも、経験豊かな人を用いることによって相当効果が上がるのではないかと思っておりますが、この辺についてはどうお考えでございますか。
  136. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 制度的にできるかどうかという問題は、やや困難であろうかと思いますが、現在、矯正職員でおやめになった方、特に第一線職員を長くやっておやめになった方は、主として警備会社等に行くということでございまして、六十歳でやめた後、同じような仕事をさせるのはいかがかと思っております。しかしながら、その中でも有能な方々は保護司、調停委員あるいは防犯委員、それから幹部クラスになりますと大学の講師もしております。人権擁護委員、矯正施設の篤志面接委員、保護会の役員等に就職いたしております。  とにもかくにも、こうした矯正職員が一生懸命仕事をしているのだということをまず世間に知ってもらわなければなりません。先ほど申し上げました「苦しみと喜びと」ということで、昨年と本年と募集をいたしまして、作品が出ました。たまたま仮刷りできよう十冊ほど持ってまいりましたが、十人ぐらいにはお配りできそうでございますので、後で事務の方から配らせていただきますが、そういうりっぱな仕事をやっているということをまず世間の方に納得していただいて、その上でそれらの者を活用していただくという方向に行きたい、かように考えております。これは矯正のみならず保護にも関係することでございます。保護局長も来ておりますが、矯正では先ほど申し上げたような点を考えているところでございます。
  137. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 いま局長のお話の中に篤志面接委員という人も出てきましたけれども、こうした人は無給で働いているはずですね。そのほかにも無給の方がいらっしゃると思うのです。無給は必ずしも悪いとは言いませんが、たとえば法務省の役人をやっておられた方で、おやめになった後の行き先ですね。局長みたいな法曹資格をお持ちの方はどこへなりとも自由に行けるわけでございますけれども、そうでない方についてはやはり先行きが非常に心配ではないか。特に大蔵省とか経済企画庁とか、そういうところでは相当法務省とは違った待遇が与えられているように思います。退職後のことですが。そのこととも兼ね合いがありますので、特に刑務官等については他にかえがたい知識と経験を持っているわけで、これがぜひとも生かせるような方向で御検討願いたい。このことについて再度御決意を伺いたいと思います。
  138. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 御指摘のように、幹部になった者につきましては退職後の再就職も容易でございますが、第一線職員で多年苦労した者について、必ずしも幹部職員ほどにいかないという実態につきましては、われわれも十分認識しておるところでございます。今後とも、先ほども申し上げました施策を充実するとともに強化いたしてまいりまして、御趣旨に沿うように努力をしたいと思っております。
  139. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 終わります。
  140. 鴨田宗一

    鴨田委員長 次に、飯田忠雄君。
  141. 飯田忠雄

    ○飯田委員 最近、一連の公害裁判におきまして新しい過失の考え方が展開されてきております。そこで、本日は、こうした新しい過失理論のために生じてきます世の中の具体的な混乱、こういうものに関しましてどのような救済処置を講ずるかという問題をお尋ねいたします。  まず最初に、民事関係の問題でお尋ねいたします。最近の欠陥商品の流通によりまして被害が生じました場合に、企業の経営者が悪いということでいちずにその責任民事、刑事両面について追及しよう、こういう世論が沸いてきております。そこで、一連の公害裁判から生まれてきましたこうした世論に対しまして、どのような方法で対処していくかということが一つの大きな問題になっております。実質的には、従来の法概念からいきますならば過失とは認められないようなことが過失として認定されていく、こういうことはまさに無過失責任を民法の体系上認めていくということになるように思われるのであります。そのことのいい悪いを私は論じているのではありません。今日、無過失責任を認めることが必要であればもちろん認めなければならないと思うのですが、それにはそれ相応の受けざらをつくっておいてやることが必要じゃないかと考えるわけです。     〔委員長退席、山崎(武)委員長代理着席〕  そこで、こういう問題につきまして政府では大まかにどのようにお考えになっておりますか、まずお伺いいたしたいと思います。
  142. 香川保一

    香川政府委員 先ほど横山委員の御質問にお答えいたしましたように、民法の中に無過失責任賠償を設けるということはとうてい不可能と申しますか、やるべきことではない。やはり一般法としての民法におきましては過失責任を原則にすべきだというように考えているわけでございますが、物によりましては、いろいろの観点から検討してやはり無過失賠償責任を認めた方がいいと思われるものもないとは言えないと思うのであります。そういう問題につきまして、私どもとしては、法制審議会の民法部会で御検討を一度願おう、かように思っております。  さような次第で、ただいま申し上げるのはいかがかと思いますけれども、私の個人的な意見として申し述べることをお許し願えれば、やはり不法行為の損害賠償という形で解決するということは必ずしも適当でないのじゃないか。たとえば薬害とかで多くの人たちに一度に被害が生ずると申しますか、そういったものについてはやはり保険制度を導入するとか、あるいはむしろ、被害を受けた人の存在それ自身は否定するわけにはまいらぬことでございますから、その救済を考えるならばやはり補償制度というふうなもの、平素から業界の方で基金を持ってそれに充てるという補償制度、さようなものを考えるべきであろうか。不法行為による損害賠償のカテゴリーの中では、実際問題としてなかなかむずかしいことではないかというふうに考えております。
  143. 飯田忠雄

    ○飯田委員 予見可能性とか結果回避の可能性の問題でございますが、これを認定するに当たりまして、従来は非常に主観的な立場から行為者の故意過失の問題を論じておりましたが、最近の判例を見ますと、簡単に言えば、結果が発生すればその発生したことについて過失を認定する、こうなっておるように見えます。過失があって結果が発生したのではなくて、結果が発生すればもうそれで過失なんだ、こういう認定の仕方なんですね。これでいきますと最近の世論、皆さん方の御意向には合うようです。また、これでいきますと被害者保護ということもできる。企業に責任をおっかぶせれば被害者保護になりますからできるのです。しかし、これは民法の従来の責任主義の観念を根本から崩すものではないか、あえてこういう民法の責任主義を崩してしまうようなやり方、こういうことをこのまま認めていくということについてはどのようにお考えでしょうか。
  144. 香川保一

    香川政府委員 ただいまの結果が発生したことから過失を認めるということ、簡単に言えばそういうことかもしれませんけれども、やはりそこは論理的には、二、三のものについては、私ども昔からの民法の考え方から言えばここまでいけるのかどうか若干疑問のあるものもございますけれども、そういうものにおきましても、判例の考え方はやはり過失を事実から推定するという手法ではなかろうかと思うのであります。これは確かに民法の原則から申しますと、一方から言えば解釈上発展しているのだということかもしれませんけれども、若干民法の基本的考え方とはそごする面があるのではないだろうかというふうに、私は個人的には思っております。  アメリカでもさような手法で相当無過失賠償を認めるようなことになってまいりまして、最近の一般世論的な考え方は、どちらかというと判例の行き過ぎを批判する方が強くなってきているようでございます。日本の判例の場合には、そういった世論的なものとしては批判どころか大いに推奨されておる傾向にあるかと思いますけれども、問題は、結局は、現にそこに被害者がおるということで因果関係が認められる場合に、やはり気持ちとしてはその被害者を救済するという方向に傾くのは人情のしからしめるところだろうと思うのでありまして、そういったことが裁判という中で生じていいかどうかという基本的な問題にもかかわることだろうと思うわけであります。先ほど申しましたような意味で救済という点に重点を置くならば、やはり別な制度を考えなければいかぬのではないか、私はかように思うわけでございます。
  145. 飯田忠雄

    ○飯田委員 お話を承っておりまして感じますことは、現在の民法からいけば相当無理をしている議論だ、しかし無理をしているのだけれども必要があるのでやっているというふうに解されるわけです。そこで、こうした無理をしてまで法的安全性を崩壊させる、そして特に被害者の救済を図る、こういうことなんでございますが、どうせ無理をしてまでということならば、無理をやめて新しい立法をしたらどうだということになると思います。  そこで、被害者の救済の責任なんですが、これを一つの企業だけに負わしている現在の行き方が果たして正しいのか、国は一体被害者補償の直接責任というのは本当にないのかどうかということが問題になるだろうと思います。  そこで被害者補償というもの、これは刑事でも被害者補償のお話が先ほどありましたが、ああした問題と同じような形で民事でも考えられていいのじゃないか。ただ金額が大きいので普通の状態ではできぬので、何らかそれをやり得るところの特別制度をつくることが必要ではないかというふうに考えておるわけです。先ほどの民事局長の御意見では、保険制度をつくったらという御発言でございました。私も大変りっぱな御意見だと思います。そこで、こういう被害者救済のための新しい責任を盛り込んだ賠償責任法というものをおつくりになる御意思はあるでしょうか、ないでしょうか。
  146. 香川保一

    香川政府委員 いかような立法をするかは、先ほど申しましたように法制審議会で検討いただかなければならぬ問題だと思うのでありますが、私の申し上げましたのは、不法行為の領域で問題を解決しようというのにそもそも無理があるのではないか、実際的には解決にはならないのではないか、したがって、やはり業界なら業界の負担による保険制度あるいは補償制度、賠償じゃなくて補償制度をやはり考えるべきではなかろうか。ただその場合に、いまお言葉にもございましたような国の責任ということがよく言われるのでございますが、私は、そういったことについて国が責任を負うということは少しおかしいのじゃなかろうかと考えるわけでございます。国の社会保障とかあるいは社会福祉という面は、これは当然やらなければならぬことかと思いますけれども、ある企業が欠陥商品をつくったために多くの人たちが被害を受けたというときに、国が、補償にしろ何らかの負担をしなければならぬというのは、国民と国というものが対立的なものとして見ているようなことから来る理論ではないだろうか。国というのはやはり国民全体がつくっているものでございますから、それを全体の国民が負担しなければならないという論法は、私は、どうも合理性を欠くのじゃないかと思うのであります。やはり業界みずからが基金なり保険制度なり、あるいは補償制度のためのそういった工夫をすべきではないか。それを可能にするためにはやはり立法的な措置が要ると思いますけれども、考え方としてはそういう方向で解決すべきではなかろうか、こういう考えでございます。
  147. 飯田忠雄

    ○飯田委員 ただいまの民事局長のお話はよくわかりましたが、国の責任という問題が生じますのは、必ずしも一つの企業がある欠陥商品をつくった、それを出していったからそれで認めるというふうには私も解していないのでして、欠陥商品を流通させるような事態を許していた、許したという点で問題があるのではないか。たとえば、ある一つの医薬品をつくるといいました場合に、その医薬品につきましては許可とか認可とかいったようなものが製造あるいは販売過程で要るのではないかと思うわけです。そうした場合に、どこまで誠実に、どこまで実態に即して深く検査した上で許可認可がなされておるかという問題があるだろうと思います。そういう問題を絡めて考えますと、欠陥商品が町にあふれ出たということにつきましては国の責任が生ずる場合もあるではないか。欠陥商品には二色ありまして、許可認可をやった上で、そのときには別に欠陥でも何でもないのだけれども、特別の理由で、本来正しく製造すれば欠陥にならないのに、誤ったつくり方をしたので欠陥商品ができたというのであれば、それは企業の責任だろうと思います。  たとえば、私一つ非常に奇異に感じておりますのは、この前のカネミ裁判の問題でありますが、カネミ裁判において、カネミがPCBを入れた容器の破損しておるのを気がつかないで油にまぜてしまった。あの容器というものは常に検査して安全性を確かめて用いなければならぬものであるはずなんです。そうすれば、それは明らかにカネミ会社の重過失であると私は考えます。ところが、PCBを購入したカネミがそういう過失を犯したのですが、売った方の鐘化の場合は一体どういう責任かといいますと、売るときにカネミに対して、これは危険だから気をつけろということを言わなかったと言われておりますけれども、たとえばああいうPCBのようなものを使う業者は当然その物の性質を知っていなければいかぬ、知っていて使う義務があると思いますが、それさえも怠ってやったというところにおいてカネミの会社の過失はきわめて重大なんだ、しかし売った方につきましては、まさかカネミがああいうものを油にまぜるとは思うていないということになりますと、そこまで一体予見が可能であったかということになりますと、いささか疑わしい、それであの場合の鐘化の責任というのは、被害者救済ということがもとになって、そしてカネミでは救済能力がないのだから鐘化に負わせる、こういう思想が根本にあったのではないかと私は考えておるわけです。そうでなければ、通常の形ならば鐘化の責任は出てこないものであります。  そこで、こうした鐘化の責任というものを追及するということになりますと、あの鐘化にPCBをつくらせることを許可し、むしろ奨励した国の責任というものもやはりあるではないか。つまり、つくったということを罰するというのならば、つくるということを許可した者も罰するということになってきますね。そのもう一つ大きな過失の問題は別にしております。そういう点で、私はやはり国は被害者に対してある程度負う責任があるのではないかというふうに理解をいたすわけなんですが、現在ではそういうことは法制化されておりません。法制化されていないから、法の具体的な立法措置という点からいきますと、これはあるいは国の方は責任がない、こういうことになるかもしれませんね。しかし、そのもっと奥へ行けばあるのではないか、こう考えますが、この点についてはいかがでございましょう。
  148. 香川保一

    香川政府委員 法律上許可認可によって物をつくるというふうな例の場合を考えますと、その許可認可をする際に誤りを犯したということになりますれば、これは当然国に責任があるということになろうかと思うのであります。しかし大体薬にしましても、そういう薬品というのは毒にもなれば薬にもなるわけでございまして、毒になった場合の責任を全部負わなければならぬというふうなことになりますと、そんな薬はつくらぬ方がいいということになってくるわけでございまして、デメリット、メリットの両方を比較考量した上でそういったものを考えざるを得ないのではないだろうか。だから、たまたまその毒の方が強く出た場合に全部責任を負うというふうなことになりますと、そういったものの製造というふうなもの、あるいはそれに国が許可認可等によって関与する場合も、活発な行政活動といいますか、あるいは経済活動というものをやはり阻害する面も出てくるだろうというふうにも考えるわけであります。そういったいろいろの面から検討しないと、この立法もなかなか容易ではないのではないかというふうな感じがするわけであります。
  149. 飯田忠雄

    ○飯田委員 最近製造者責任ということが言われております。この製造者責任というのは一体どういう責任を負うのか私どもは理解しかねるのだけれども、一応言葉が使われておりますのでその言葉を使いますが、恐らくこれはある欠陥商品を製造した者に対しては、過失、無過失を問わず責任を問おう、こういう意味のものではないかと推定をいたしております。  ところで、そういう性質の、過失、無過失を問わず悪い結果を生ずれば責任を問うのだ、製造者の責任を問うのだ、こういう責任が認められたといたしますと、この責任は大変大きな弊害をもたらす責任であります。この責任によって弊害をなくしようとすれば、特別の受けざらをつくる必要があります。受けざらをつくらないで、ただ、大きな被害を生じた物を作ったのはけしからぬということで処罰することが当然だということになりますと、結局これはりっぱな品物をつくり出すということまで抑えつけてしまうことになりはしないか。先ほど民事局長がおっしゃったとおりだと思いますが、企業意欲を抑えてしまいます。企業意欲を抑えてもいいというだけの問題ではなしに、その企業に従事するところの従事者全体の不利益にもかかってくる。それからまた、これからどんどん発展していきます科学に基づいて新しい生産品をつくろうという意欲さえも抑えてしまう。うっかりつくればとんでもないことになるということであれば、だれもつくりません。そうなると、これは文化の発展を阻害することになるし、あるいは企業そのものを崩壊させるということにもなってまいりますので、こうした製造物責任というものはそう簡単に、安易に法制化するということは困るのではないかと思われます。  ただ、この製造物責任を法制化する場合に、一つだけこの問題を可能ならしめるのは、受けざらを完全につくることだと私は思うのです。受けざらを完全につくってから製造物責任を法制化をしていくのがあたりまえだと私は思います。現在はその逆を行っておると思うのです。本来、受けざらであるところのいろいろの制度をつくって、こういう制度があるんだから、製造物責任を認めるぞという法制化がなされて、その法制化に従って裁判がなされるというのが順序だと思いますが、いまは、裁判をしておいて、そして製造物責任をつくっておいて、後で困るから受けざらをつくろう、これは全く逆の行き方をしようとしておる状態だろうと思います。こういう点について、民事局長並びに大臣——これは大臣にお伺いした方がいいと思いますが、どうでございますか。
  150. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 近代の科学技術が非常に進歩いたしまして、責任があるなしにかかわらず、従来考えられなかったいろいろの弊害が出ておることも事実でございます。問題は、それをどういうふうに調和といいますか調整をし、救うかということにかかってきておると思います。先ほど来いろいろ御議論がありました過失責任であるか、無過失責任であるか、これは相当前からいろいろ法理論的に議論されておるところでございますが、民事上の責任としてはやはり責任でありますから、あくまでも最低過失がなければ、責任を問うという制度をつくると、また逆な意味の大きな弊害が出てくると私ども思っております。でありますから、先ほど来民事局長からは、その原則は少なくとも民法の中では破ってはいけないのじゃないかと、私も同じ考えを持っておりますが、ただ最初に申し上げましたように、その理論は理論として、現実にいろんなことが起こってきておるわけでございます。でありますから、最近の裁判はいろいろな裁判がありますが、私もその裁判を批判しようと思いませんけれども、先ほど飯田さんがいろいろ御議論になっておるように、やはり民法の原則を何とか破らない範囲で責任の所在を見つけようということで、理論構成に苦労しておられるのが現状だと思います。  そういう事態に対して、なるほど民法理論はこれは間違っておらないが、それだけで大きく変わってきた社会情勢に対応できるかということは、やはりお互いにこの時点で考える必要がある。政治ですから、理論がそうだから、社会がどうなっても理論が先だというわけにはいかないのじゃないかと思っております。でありますから、製造物責任とかいろいろ言われておりますが、これもまた余り無過失損害賠償ということだけを前面に大きく出しますと、今度は逆な弊害が出てくる。どうせ被害が出れば補償しなければならぬのだから、何も注意をすることはないなんと言ったら、これまた世の中はとんでもないことになる、いろんなむずかしい点があると思います。しかし、いま申し上げましたように薬害、これは非常に多いわけでございますが、私は厚生大臣といろいろ相談もしております。薬事法も根本的に見直さなければ、あの状態で、薬事法上の国家の責任があるとかなんとかいうことで、しかも薬害が非常に起こっておる。これは、薬事法あるいは薬事行政をもう少し真剣に再検討する時期に来ておるのではないかということも、これは別のことでございますが、申し上げております。薬害ばかりでなくて、いろいろ科学技術が進歩いたしており、これはまた国民生活が非常に有効に機能するために、いまおっしゃるようにやっておるわけでございます。でありますから、民法理論だけでは解決できないところがある。企業の性質上あるいは事業の性質上、いまの人類の知恵、これは神様であればそういうことはわかるはずでありますが、それをわれわれが法理論上で言うところの注意を求めても、いまの人類の知恵では、注意をしたいと思っても注意をする限度の知恵がないわけでありますから、その際の責任をどうするかということだと思います。でありますから、その限度で何らかの損害賠償責任の道を法制的に開く必要がある。どの程度にするかということは、これは綿密に検討しなければならぬところだと思います。  でありますから、先ほど民事局長も言っておりますが、これは民法の原則法ではなくて、特別な法律によって、かくかくの場合には無過失でも責任を負わなければならぬ、こういう制度をつくらないと現代社会に合わない。外国にもそういう法制度ができておるとかできつつあるとかということも承っておりますが、そういうことで大きくこの問題に注目いたしまして、これは法務省だけの問題じゃありません。いろんな、あるいは厚生省、通産省その他にも関連のあることでございます。それから、一体外国の法制はどうなっておるか、またそういう法制の実効はどうなっておるか、こういうことまで調査をいたしまして、いかなる制度をつくった方がいいかということをいま検討しておるところでございます。これはあらゆる、飯田さんのいろんなお考え等も参考にしながら、これまた制度をつくって元も子もなくなっても大変なことでございますから、周到な、綿密な研究をして、しかし進んだ事態には対応する法制をつくる必要がある、私はそう考えておりまして、法務省も検討を始めておる。法務省ばかりではなく、関係各省と協議を始めておる、こういう段階でございます。
  151. 飯田忠雄

    ○飯田委員 大臣の御説明、大変ありがとうございました。  次に、経済企画庁とか通産省とか厚生省の方おいでになっておりましたならば、お尋ねをいたします。  私は先ほど申し上げましたように、こういう重大な責任制度を設ける以上は、その前提として受けざらが必要だ、その受けざらとして、先ほど民事局長もおっしゃいました保険制度の確立でございますね。私はこの賠償保険制度を確立することが受けざらとしてまず第一に必要なものなんだ、こう考えますし、また危険防止の技術の開発を企業に義務づけることも必要だろうと思います。あるいはまた、どこまで行政の法的責任があるかということを明確化して、行政の不作為責任を追及するということも必要であると思います。  そこでまず最初に、賠償保険制度の確立につきましてどのような制度をいままで研究してこられ、また設立され、将来なさろうとしておるのかという問題につきまして、経済企画庁、通産、厚生それぞれの方おいででしたらお教えを願いたいと思います。
  152. 吉岡博之

    ○吉岡説明員 お答えいたします。  私どもといたしましては、消費者が迅速にまた的確に救済されるということが非常に大切なことと考えておるわけでございますが、その際、企業の方が支払い能力がないということでは大変困るわけでございまして、そのための支払いのための資金を担保する方法にどういうものがあるかということでございますが、現在でも保険業界で製造物責任保険という保険を一部やっております。そのほかに、通産省関係でございますが、製品安全法の関係でSGマークをやりましたり、おもちゃの業界でSTマークというものをやったりということで、そういう保険あるいは基金という形で、消費者が被害を受けたときに救済するような方法を現実にやっております。私どもとしては、事業者の方々が積極的に今後とも基金をつくる、あるいは保険に加入するということをやっていただきたいというふうに思っている次第でございます。
  153. 野崎紀

    ○野崎説明員 通産省所管の物資につきましては、従来から製品安全法に基づきまして、まず安全な商品でなければ売ってはいけないという意味で、特定製品というものを政令で指定しまして、この安全の確保に当たっておるわけでございますが、それと並びまして、ただいま経済企画庁の方から御紹介がありましたように、SGマーク制度と称しまして、法律に基づいて設立されました製品安全協会というところが損害賠償措置をなし得るような制度をつくっておる次第でございます。  この制度によりますと、製品安全協会が認定をいたしましたSGマークのついた商品につきましては、それによって被害が生じた場合におきましては、製品安全協会が掛けた保険によりまして担保をされるという制度になっておるわけでございます。この制度によりますと、被害者にかわりまして製品安全協会が欠陥の有無というのを調査をすることになっておりますので、被害者の方の立証等の責任が非常に軽減されておるということになっておる次第でございます。ただいままで、この制度に乗っております商品といたしましては、基準ができておりますのが三十八品目、実際にSGマークが貼付されて市場に出回っている商品の品目の数は二十八に及んでおります。そのほか、ただいま経済企画庁からお答えがありましたように、電気用品につきましても、また石油器具、ガス器具、それからおもちゃ等の品目につきましても、業界におきまして自主的な損害賠償措置の制度というものができて、多数の企業が参加している現状でございます。  私どもといたしましては、このような制度を逐次改善かつ拡充を図ってまいりまして、消費者被害の防止及び救済により万全を期していきたい、かように考えておる次第でございます。
  154. 新谷鐵郎

    ○新谷説明員 厚生省で、その被害の関係で当面最も問題になっておりますのは医薬品の問題でございますが、御承知のように薬害裁判が国や会社を被告といたしまして続々提起されておるという状況でございます。すでに訴訟が提起されております事件につきましては、民事責任があるかないかということになりますと、先ほどお話がございましたように、国としても、会社としても、争わざるを得ないということで訴訟が続いておるわけでございますけれども、一面、その被害者が大ぜいおられるという現実は何とかしなくてはならないということで、和解という方針で解決をするというような考え方で進んでおるところでございます。  問題は将来の、今後も残念ながら薬害が同じように発生しないという保証はないわけでございまして、そういう問題に対してどういうふうに考えるかということになりますと、医薬品の場合には、特に一般の商品とはまた違った特別な性格があろうかと思います。薬害の患者さんは、まず自分が選択をして飲んだものじゃないという気持ちがあるわけでございます。それからまた、病気がよくなるつもりで飲んだのにかえって悪くなった、それから国が製造承認をしておるとか、そういう特別な被害者の方の感情があるわけでございます。一方、また医薬品というものはほかの商品と違いまして、よくもろ刃の剣というふうに言われますけれども、有効性と安全性が常に隣り合わせになっておりまして、よく効く薬というのはそれだけ副作用のおそれもあるという性格のものでございますので、片一方でそういう被害者の方の特殊な感情があり、片一方では医薬品の製造承認ということについての非常にむずかしい問題がある。しかし、結果として被害が出れば、やはりこれは救済を考えなければいけない。  そういう観点に立ちまして、昨年の十二月に、一応いまの段階では、先ほど来お話をされておりますような民事責任原理に基づいて解決をするという考え方ではなくて、公的な救済制度を国が法案としてつくりまして、その仕組みの中で問題を社会的に解決していくというような、事務当局の試案を一応発表いたしたわけでございます。ただ、この試案につきましていろいろ各方面から御意見がございまして、現在その意見の調整中でございますけれども、考え方といたしましては、先ほど来お話がございますように、医薬品による副作用被害につきましても、民事責任を負うべき者がいる場合には当然その方に負っていただく、しかし、医薬品の特殊な性格上、だれも民事責任を負うべき者がなくても被害があるという場合には、公的な基金を設けまして、そこから民事損害賠償ではない、必要な生活保障のための給付を行うという制度を検討しておる段階でございます。
  155. 飯田忠雄

    ○飯田委員 損害賠償保険制度といいますと、先ほどおっしゃいましたような、これは責任が根拠になりますが、国としてお決めになる場合やはり補償保険制度ということになるかもしれません。それで、こうした保険制度をいろいろつくられておりますけれども、肝心の最近起こった大きな裁判に関係するようなものについては、保険制度があったようなことは聞いていないのです。あれがもし保険制度ができておればもっと安易に救済もできたであろうと思われるのですが、それがありません。小さな問題については保険制度があるのですが、大きな問題についてまだないということは、これは問題であろうと思います。ことに薬害のような場合には、当然今後も起こる可能性が出てくるのですから、保険制度を確立されていただきたい、このように考えるわけです。  この問題は議論してもしようがありませんので次に行きますが、危険防止の技術開発はどの程度やられておりますか。なければいいのですが、もしあれば、あるところからお教えください。経済企画庁、通産省、厚生省、これはありませんか。——それじゃ、ぜひ危険防止技術の開発につきましては努力をしていただきたいと思います。この問題は、国で技術の開発をやることはもちろんですが、企業に義務づけることが必要ではないか。ある一つの新しい薬をつくる場合に、その薬をつくる企業にそれの安全性についての実験を重ねて確かめる、これはぜひ義務づけておく必要があるのじゃないかというふうに考えるわけです。この問題についてお考えになっておるかどうか。
  156. 新谷鐵郎

    ○新谷説明員 医薬品の製造承認につきましては、昭和四十年代に薬害がいろいろ発生いたしました後、厚生省といたしましては、実際の行政指導としては非常に厳格化いたしまして、製造承認の申請をいたします場合には、特に急性とか亜急性の副作用のみならず、慢性の副作用だとか、あるいは催奇形性と申しまして奇形児が産まれるおそれがないかとか、そういうことにつきましては、かなり膨大な動物実験並びに実際に人を使った臨床試験というようなデータをそろえましたものを中央薬事審議会の専門家が詳しく調べた上で承認をする、そういうたてまえになっております。  ただ、先ほど法務大臣のお話にございましたが、現行の薬事法上はそういう製造業者の責任というものが必ずしも明確にされていないのではないかという議論がございますので、そういう点につきましては、やはり薬事法の改正の問題として検討をしてまいる考え方でございます。
  157. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは次に行きますが、この種の行政の法的責任の問題が、どの裁判を見ましてもどうも明確でないように思います。そこで、許可や認可や承認を与えるという場合に、特に食品だとか薬品の場合は、許可、認可、承認を与えておれば当然それを使う人は安心するということになります。つくる方もお役所が認可をしたんだからよかろうということで安易な考え方になるわけなんですが、そこで、許可、認可、承認をした場合に当然反射的利益というものが認められなければならぬことになります。つまり、食品の安全確保がなされておるということ、あるいは被害の予防ということ、そういうことに対する国民なり会社なりの期待があるわけです。この期待というものは今日の段階ではやはり利益と見なければならぬというふうに考えるわけであります。そこで、そうした許可、認可、承認をなさるときに的確な情報を持っておられるかどうか。つまり、情報を得る特別の機関を持っておられるかどうかということについて、私どもは重大な関心を持たざるを得ないわけです。そこで、研究所なりあるいは情報機関なり、持っておられるかどうか、またそれはどのように運営しておられるのかという問題につきまして、通産省とか厚生省とか経済企画庁の方においてお教えを願える点があったら、この際発表していただきたいと思います。
  158. 吉岡博之

    ○吉岡説明員 経済企画庁でございますので、なかなか技術的なところまでは手が伸びないわけでございますが、経済企画庁の外郭団体といいますか、特殊法人に国民生活センターというものがございますが、全国にいま百七十四カ所、都道府県等の消費生活センターというところで消費者の苦情とか相談に応じている場所があるわけでございまして、そこで、商品の危害とか欠陥等によりまして被害を受けた場合に、そういう情報を国民生活センターに流すようにというふうにしております。大体一週間に数十件程度のもの、多くて二、三十件、少ないときは数件しか参りませんが、そういうものが集まってきておりますので、経済企画庁としましては、そういった情報を関係省に、こういう商品でこういう事故があったというふうな情報として流しております。ただ、その情報は消費者が直接持ち込んだものでございますので、非常におかしな情報、消費者の使い方が全くなってないというために起きた事故も入っておりますから、それはごく内々に行政指導ということで情報として提供しております。
  159. 野崎紀

    ○野崎説明員 通産省といたしましては、ただいま御質問の件に関しまして、まずどのような商品が事故を起こす可能性があるかというような点につきましては、ただいま経済企画庁の方から御答弁がありましたように、国民生活センターの情報制度を利用するほか、当省といたしましても、事故収集制度というシステムをつくっておりまして、各県なり、あるいは企業なり、警察、消防、病院というようなところから、もし事故が起こった場合におきましては通報を受けることになっておる次第でございます。  そのほか、またわれわれといたしましては、新製品についての試買検査というようなことをやったり、あるいは各通産局あるいは本省にも相談室というのがございまして、そこにクレーム等が寄せられた場合に、必要な場合には苦情処理テストといったようなことを通じまして危険な商品についての情報及び分析を行っておる次第でございます。  さらに、このようなことで新たに各種取り締まり法令、電気用品取締法だとか、あるいは先ほど挙げました消費生活用製品安全法、あるいはガス事業法、その他の安全のための法律によって指定をし、安全の基準を作成しようということになった場合におきまして、その可能性も含めまして、十分な時間をかけて、各専門家にお願いをいたしまして、技術基準の作成調査ということで、あらゆる面から基準の検討を行った上で指定をいたしておる、このようなことになっておるわけでございます。
  160. 新谷鐵郎

    ○新谷説明員 医薬品の許認可に際しましての資料の集め方は先ほど申し上げましたとおりでございますが、許認可した後もいつもその副作用情報が集まるようにいたしまして、それをその後の許認可に反映させなければいけないという問題がございますので、特に医薬品につきましては、モニター病院を指定いたしまして、そういう病院から副作用情報があれば出していただくとか、WHOを通じまして国際的な副作用情報を集めるとか、文献資料の中からそういう情報を集めるとか、そういう制度を整備しつつあるところでございます。なお、本年度からは、病院だけでなくて、一般薬局からも副作用情報を集める予算が新しく計上されております。  それから国の研究体制でございますが、国立衛生試験所の中に毒性部というのがございまして、これは食品や医薬品の主として慢性の毒性についての試験研究を担当いたします部門でございますけれども、それをこういう時勢になってまいりまして強化する必要があるということで、この二、三年来約二十六億円を投じまして、そういう生物学的な毒性の検査のセンターにするということで整備をしてまいりまして、近く開所式を行うという段階になっております。
  161. 飯田忠雄

    ○飯田委員 各省の大体の現状報告はわかりました。それで特にこの問題は、私きょう時間がありませんので、はしょるために申し上げますが、製造物責任とかあるいは企業者責任を法制化する場合の基礎になる問題、受けざらになる問題だと思います。こういうものができていないで製造物責任の法制化をすれば、それは無理を押し通すことになります。したがいまして、こうした法制化の前段階としての受けざらの制度の確立という問題については、ぜひこれを国として十分な予算をとって全力を挙げてやっていただきたいと思います。まあ大臣がおいでにならぬので、大臣に対する注文をここで言うてもしようがありませんので、皆さん方に申し上げますから、よくお伝え願いたいと思います。  そこで、私は最後に民事関係の方で一つだけ、法務省におかれましていろいろ立法化される場合に、どの程度こういう問題を考慮して立法化していただけるのかという点をお伺いいたします。これは民事の方でお伺いします。これからまた刑事の方もお伺いしますので……。
  162. 香川保一

    香川政府委員 飯田委員のお説は十分法制審議会の民法部会にも伝えますし、先ほど申しましたようないろいろな前提問題あるいは周辺の問題、これは十分法制審議会でも御議論されることと思いますので、御趣旨に沿うよう努力したいと思います。
  163. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは、刑事問題について少しくお尋ねをいたします。  最近の過失理論としまして、新しい過失理論というものが言われるようになってきたわけです。それは一口に言いますと、現在の企業がいろいろの問題を起こしておりますが、その当該企業に対しては、危惧感を解消するということが必要だ、危惧感を解消する程度に災害防止措置を講ずるのが企業の義務だ、しかし、その義務を怠っておるから過失があるんだ、こういう新しい理論、言いかえれば、ある一つの物をつくったら、つくったということについては国民はもう信頼しているのだから、その信頼を裏切るようなことをして事故を起こせば、それで過失があるのだという論法です。こういう新しい過失理論がございます。  そこで、こうした過失理論でいきますると、これは刑法の過失理論ですから、これで刑罰を科せるというのですから、私は大変問題が生ずるのではないかと思うのです。民事の方で、過失概念の拡大を行って企業に賠償責任を負わせるということは、被害者救済というその手段なんだからまだまだやむを得ぬというふうに言うてもいいのですが、しかし、企業災害の事後規制をやるために過失概念を拡大した処罰を考えるというのはどうかと思われるわけです。被害者救済とは無関係なんです。被害者救済とは直接には関係ないところで過失概念の拡大を行うというのは、民事の場合と事情がおよそ違うのではないか。これは刑罰万能主義であって、可罰的法制の考え方を全然取り入れていない考え方だ、こういうふうに考えるわけです。幸いにして、今日の裁判所が新しい過失理論によった裁判をしておられないから、まだ私は安心しておるわけなんですが、しかし、最近の世論によりますと、民事において無過失責任を認めよという議論が非常に盛んになってまいりました。同時に、ついでに刑事においても無過失責任を認めるべきだという理論が出てきたわけです。これは新しい過失理論なんですね。  そこで、こうした問題が出てまいりまするのは、結局、わが国の刑法の条文がきわめてあいまいもこな規定がある。それは、刑法三十八条一項ただし書きでございます。それによりますと、法律に特別の規定がある場合には、罰しないじゃなくて罰するぞ、こう言っている。そうしますと、法律に特別の規定がある場合というのは、従来、刑法学者はみんなこれを過失だと言って無理やりに過失としてしまったのです。ところが条文を見ますと、ちっとも過失とは書いてないのです。法律に特別の規定があればそれで罰することができるのだと書いてあります。ですから、全然責任がなくても罰し得る。元来は、刑法三十八条一項のただし書きは、こういう規定なのです。これが、今日まで幸いにして、刑法学者の良識によって、これは過失のことだと言って無理やりに学生を教えてきたから、やっと維持されておるという状況です。少し頭のいい人が出てきたら、あの先生の言ったことはうそだということはすぐわかります。現在こういう条文があるのです。この条文があるから、無過失処罰ということが言われてきても、今日それは実定法上の根拠がないとは言い得ない状況にあります。この点につきまして、どのようにお考えでしょうか、お尋ねいたします。
  164. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 まず最初に、一法律学徒としての私の見解を申し上げさせていただきます。  私は、現在の刑法というものは責任主義の原理の上に成り立っておるものだと思います。したがいまして、三十八条一項ただし書きというのは、およそその行為者に対して、社会通念に照らし非難可能性のないような場合をも罰することを可能にした規定ではない、かように考えます。したがいまして、私は、三十八条一項ただし書きは、過失の場合は別に明文を設ければ罰することができる、こういうふうに読むべきものだろうというふうに思っております。  しかしながら、私が支持をさせていただいております。ただいま述べましたような説があります反面、先ほど御指摘になりましたように、このただし書きというものは、過失の存在さえもなくても、法律をつくれば罰することができる根拠として解釈できるのだ、たとえば両罰規定、転嫁罰、こういうようなものを考えました場合に、そういうものが根拠規定にもなるのだという有力な説もあるわけでございます。  現在の三十八条一項ただし書きの規定は、明治十三年の旧刑法以来ある規定で、刑法改正の都度踏襲されてきておるわけでございますが、思いますのに、常にあらゆる時点においてただいま申し上げました二つの説の対立がありまして、立法は妥協の産物と申しますが、その問題点を明快に解決することを避けながら今日に至っておるということであろうと思うわけでございますが、私は個人としては、先ほど申しましたように責任主義というものをあくまでたてまえとして解釈をすべきものだ、こういうふうに考えております。
  165. 飯田忠雄

    ○飯田委員 刑事局長の御説はよくわかりました。しかし、それはやはり私は学説だろうと思います。この刑法の三十八条一項ただし書き、これの解釈につきまして、学説としては私も刑事局長と同じ立場の学説をとっております。しかし、そのことと、現在三十八条一項ただし書きに書いてあることとは違うのです。私どもは、いまここで立法という立場から考えますから、この法律が、どなたが見ても、法律で過失を罰するという規定があればその場合には罰するよという、果たしてそういう規定と読めるかどうかという問題です。私は読めないと思います。「法律ニ特別ノ規定アル場合ハ」とありますので、特別の規定さえあればそれを罰することができることになってしまいまして、無過失処罰の根拠になる、根拠とされても仕方がない規定であろうと思います。もちろん、わが国の刑法学者はすべて責任主義に立っております。一部の学者は、その責任を必ずしも伝統的な責任意味に解しない学者もおりますから、したがいまして、無過失の場合であっても、保安処分の場合、これは無過失を罰するものであります。ですから、そういう保安処分規定をつくろうとする学者は、無過失処罰を考えておる学者なのです。そういうのもあるのですから、そうなりますと、この規定は大変重大な内容を持つ規定であると思います。  そこで私は、実は改正刑法草案を見てみました。改正刑法草案の十九条を見ますと、この三十八条一項ただし書きと同じ内容規定があるわけです。このことは、学説が二つあるから、対立するから真ん中をとったということには当たらない。これは一方の有利な方をとったことになります。私どもは過失責任主義をとるのでありまするけれども、これに対して反対派は無過失責任主義をとるのであります。その無過失責任主義の規定を採用したのが現行刑法三十八条一項ただし書きの条文であり、同時に、改正刑法草案の十九条の規定だと解さざるを得ない状態にあります。この問題について、ただいま刑事局長がおっしゃったようなことでいくというのであれば、表現の仕方を変える必要があるのではないかと私は思うのですが、いかがでしょうか。
  166. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 個人的にはまことに同感でございまして、現に刑法改正に関します法制審議会におきましても全く同様の御主張がございまして、一つの案として、現行刑法三十八条一項ただし書きに当たります部分を、ただし過失による行為を処罰する法律に特別の規定がある場合はこの限りでない、こういうふうに明確化しようという提案がなされたことがあるわけでございますが、御指摘の学説の対立がございまして、いずれとも決することができないというので、簡単に言いますと、疑わしきは現状に従うというような状況で、改正刑法草案の十九条の規定があるわけでございます。しかしながら、私個人の立場を余り申してはいけないのでありますが、私個人、先ほど申し上げたような見解を持っておりますし、ただいま御指摘もございましたので、それらを踏まえて、私はやはり責任主義に立脚した刑法というものであるような方向へ検討してまいりたいと思っております。
  167. 飯田忠雄

    ○飯田委員 刑事局長の御見解はよくわかりました。  そこで、この問題は、法を改正するときに、どうしても書いてあるものに左右されてしまうことになりがちですので、改正刑法草案の十九条が、もし黙っておれば、これはこれで決まってしまう。しかも、これは折衷案じゃないのです。両説あった折衷案をとっておるのではなしに、両説あるうちの一方の説をとった規定であると私は思います。したがいまして、こうした問題についてはもっと慎重な御考慮を願って、刑法改正のときには過ちを来さないような、なるほどこれでりっぱな刑法を改正する意味があったという刑法にしていただきたい。少なくとも憲法の精神に反するような規定は設けるべきではないし、ことに現在の刑法というものは、私は、道徳というものは常に憲法の支配下にあると見ています。徳川時代の刑法は、徳川幕府の憲法のもとにある思想によってつくられた道徳でありますし、明治、大正以来、昭和の戦前時代の道徳は、やはり明治憲法の思想のもとにでき上がった道徳であります。今日の道徳は、やはり日本憲法の支配下に存在する道徳でなければならぬと考えるわけです。したがいまして、刑法が道義主義に従っていくのだ、そういう思想をとりましても、やはり刑法というものは憲法の精神から離れることはできないし、また少なくとも憲法がいろいろ保障しておる保障条項の侵害を罰するのが刑法だという考え方、私のとる考え方が私は一番妥当な線だと考えております。したがいまして、こうした問題につきまして刑法改正に当たって、どのような態度で刑法改正を進めていただくことができるのかという点につきまして、法務大臣の御見解を承りたいと思います。
  168. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 刑法に限らず、憲法のもとにおける法律、規則、これは憲法の諸原則を現実に実行するといいますか実現する、そのためにあるものだと思いますから、もとより憲法の道徳といいますか諸原則に反するわけにはいかない、これは当然なことだと私どもは考えております。ただ、先ほど、現行刑法三十八条の規定から改正草案の同じような規定がございますが、それに関連して、これはいろいろ意見の分かれるところでありますが、精神異常であるとかあるいは病気でなくてもその他の事情によって精神に異常ができた、こういう場合のいわゆる保安処分、これは普通の刑罰とは違って、刑罰で言う責任主義ということでなしに、やはり社会に害毒を及ぼすおそれのある者は社会に害毒を及ぼさないで、そういう病気なりあるいは中毒なりというものを治して正常に戻そう、こういう考え方で保安処分という制度が諸外国にもあるわけでございますが、わが国にも現実にそういう問題点がありますから保安処分というのはあるのであろうと思って、刑法三十八条ただし書きの規定があるからという意味に私は解しておらぬわけでございます。
  169. 飯田忠雄

    ○飯田委員 法務大臣、私質問しましたのは、刑法三十八条第一項は責任主義じゃないじゃないか、だから責任主義の規定にするように刑法改正のときには御考慮願いたい、こういうことを言ったのです。
  170. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 刑法というものはそういうものだと私は思っております。
  171. 飯田忠雄

    ○飯田委員 時間が来ましたので、これで私の質問は終わります。どうもありがとうございました。
  172. 山崎武三郎

    ○山崎(武)委員長代理 正森君。
  173. 正森成二

    ○正森委員 私はまず最初に、国際婦人年というものがございましたが、その中で国内行動計画をおつくりになりまして、最近の四月には政府広報で「男女平等と婦人の社会参加をすすめましょう」という広告を各紙にお載せになりました。その経緯についてまず労働省から御説明を願いたいと思います。
  174. 柴田知子

    柴田説明員 御説明申し上げます。  御承知のとおり、一九七五年が国際婦人年でございまして、この目的が、男女の平等の促進と経済、社会、文化の発展への婦人の参加、国際友好と協力への婦人の貢献でございます。  この国際婦人年を契機といたしまして、わが国におきましては、政府が、この国際婦人年の世界会議で採択されました世界行動計画における決定事項を国内施策に反映し、関係行政機関相互の事務の緊密な連絡を図るとともに、総合的かつ効果的な対策を推進するために、昭和五十年九月二十三日に総理府に内閣総理大臣を本部長といたし、また関係各省の事務次官を本部員といたします婦人問題企画推進本部が設置されました。この企画推進本部におきましては、内閣総理大臣の私的諮問機関であります婦人問題企画推進会議等の意見を参考にいたし、昨年の一月に国内行動計画を策定いたしました。  労働省におきましては、従来から婦人の地位の向上のために婦人週間を実施いたしておりまして、ことしは三十回を迎えたところでございます。この婦人週間におきましては、国内行動計画の趣旨に沿って男女の平等と婦人の社会参加を進めることをテーマといたしております。  国内行動計画におきましては、男女の平等を基本とするあらゆる分野への婦人の参加の促進のために、固定的な男女役割り分担意識を見直すとともに、婦人に対する不平等な慣行を是正し、婦人の能力を十分に発揮することができるような社会環境を整備することといたしております。  このような趣旨に沿いまして、本年はその重点を、慣習を見直し、新しい生活態度を育てることといたしております。特に本年は第三十回を迎えたことでもございまして、総理大臣からも婦人週間に当たってのメッセージをいただき、また労働大臣もそのメッセージにおきまして、社会に残っている因襲にとらわれた婦人に対する不平等な慣行を是正する新しい生活態度を育てるとともに、職場の中での不平等な制度、慣行を是正するため、強力に行政指導を進めていくと述べておられます。ただいまお話にございました政府広報は、このような趣旨につきまして新聞の広報として取り上げたものでございます。
  175. 正森成二

    ○正森委員 そこで申し上げますと、手元にございますのは五十三年四月十三日に毎日新聞に載った政府広報ですが、その中で「私たちの生活のなかには、さまざまな慣習や慣行があります。そのなかに、男女が平等でないものはありませんか。また、「男は仕事、女は家庭」というように、男女の役割を固定してみる傾向が根強く残っていませんか。」云々、こうなっておりますが、これは確かに政府がお出しになったものですか。
  176. 柴田知子

    柴田説明員 ただいまのとおりでございます。
  177. 正森成二

    ○正森委員 そこで瀬戸山法務大臣に伺いたいと思いますが、新聞報道によりますと、瀬戸山法務大臣は十四日午前の閣議で、労働省が婦人週間に当たって新聞発表した政府広報について、一言物を申されたようであります。どういうことを申されたのか、この席でお述べいただきたいと思います。
  178. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 そのとき労働大臣に申し上げたことは全部は覚えておりませんが、これは四月の十三日毎日新聞の政府広報、労働省の署名入り     男女平等と婦人の社会参加をすすめましょう     −婦人週間(四月十日〜十六日)−   私たちの生活のなかには、さまざまな慣習や慣行があります。そのなかに、男女が平等でないものはありませんか。また、「男は仕事、女は家庭」というように、男女の役割を固定してみる傾向が根強く残っていませんか。   国では、婦人週間のなかで「国内行動計画」に基づき、「男女の平等と婦人の社会参加をすすめる」をテーマに、慣習や慣行をみなおし、新しい生活態度を積極的に育てることに取り組んでいます。   私たちひとりひとりが、男だから、女だからといわずに、毎日の生活のなかで、能力や適性に応じた新しい生活態度を育てましょう。 こういうふうに広報が出ておりますが、「男女平等と婦人の社会参加をすすめましょう」これに異存があるわけではもちろんありません。ありませんが、ここに「さまざまな慣習や慣行があります。」そこの中に「男は仕事、女は家庭」というように特に括弧して書いてある。それが「慣習や慣行をみなおし、新しい生活態度を積極的に育てることに取り組んでいます。」こういうふうな文章になっておりますが、女性が家庭で子供を育てたり、保育をしたりすることがいかにも悪い慣行のような印象を受けはしませんか、この感想はどうですかと聞いただけでございます。
  179. 正森成二

    ○正森委員 原文よりも、大臣みずからがここでおっしゃったことを信用したいとは思いますが、その発言自体も一定の私は意見は持っておりますが、新聞に載っておるところでは「男女平等に異存があるわけではないが、世間の誤解を招くような広報ではないか。男は仕事、女は家庭という習慣が間違っているかのようだが、最近非行少年が増えているような実態をみても、家庭は家庭で婦人がちゃんと守らなくてはならない。男女同権とはそういう趣旨ではないのか」云々というような発言があったのだというように載っている新聞があります。あるいは「男が仕事、女は家庭というのはむしろ日本の美徳だ」というような発言があったと指摘している新聞があります。あるいはもう一つの新聞では「政府広報をみると、“男は仕事、女は家庭”の習慣がいかにも間違っているといった印象を与える」こういうように問題提起をされたというように出ている新聞もあります。この間大臣は、刑訴特例法で、新聞というのは半分本当を書き、半分うそを書くというように言われましたから、後で当委員会で物事の半面を伝えるという意味に言われましたので、これらの新聞はあるいは大臣の真意を伝えておらないかもわかりませんけれども、私が読みましたそのような新聞記事をもう一度記憶を喚起されて、その上で、結局どういう趣旨だったのかという点を簡潔にもう一度お願いいたします。
  180. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 この前もそういうことがありましたが、いまの新聞でも三通りに書いてありますように、新聞というものは、非難するわけではありませんが、そういうものじゃないかと思っておるのです。ですから、私も新聞を読むときは、大新聞七つの新聞を必ず見ることにしておりますが、その中で総合判断をしないととんでもない間違いを起こす。私はその三つは見ておりませんが二つは見ております。最初に言われたのが、私が言ったのにやや似ておる。これは新聞記者に言ったのではないのですから、閣議の中で言ったのですから、どう伝わったのか知りませんが、閣議の中で議論をしたわけじゃないのです。  子供を育てる、あるいは保育する家庭教育というものは非常に大切なものだと思っておるのです。最近の社会情勢を見ると、子供をほったらかしてと言うと語弊がありますけれども、そういう日本の社会生活の変化があって、子供がまだ幼い時分から五つ、六つごろまでほったらかされておって、非常に味気ない生活を子供がひとりぼっちでやるというところがたくさん目につく。それがだんだん長じて本当の人間の愛情を感じない、ただ生物として育てられておるというだけでは本当の人間にならないという、私の個人的な考えかもしれませんが、私は持っておる。男女平等というのはそういうところにあるのじゃないのじゃないかと私は思っておるのです。家庭で子供はちゃんと——家庭というのは何か台所の仕事をするだけのような印象を受けますけれども、そうじゃなくて、やはり男でできるところ、女でできるところ、またできないところ、お互いに長所短所あるわけでございますから、それによって生きるというのが男女平等の原則だと私はいまも解しておりますが、そういう家庭で子供を保育したりあるいは仕立てたりすることがいかにも悪い習慣のような印象を受けはせぬか、見直さなければいかぬような文章の構成になっていはしませんかという、考え方を労働大臣に聞いたわけです。ですから、それを固定的に、男は必ず仕事、女は外で仕事をしてはいかぬ、家庭におれ、そういうくだらない考えを持っておるわけじゃありません。
  181. 正森成二

    ○正森委員 いま三つ新聞を読みましたうち、最初の新聞が一番大臣の真意を伝えているのじゃないかということですが、そのおほめをいただいた新聞がわが赤旗でありますから、赤旗が非常に正確であるというおほめをいただいたものというように思うのですけれども、しかし、そうだといたしましても、私は大臣の真意はどうかわかりませんけれども、この政府広報に言うておるのは、女性が家庭で仕事をしたりあるいは子供に愛情を注ぐということがいかぬというようなことは言ってないので、男は仕事、女は家庭、つまり女性は仕事をしないでもいいのだ、あるいは男は家庭で相応の分担をしないでもいいのだという印象を与えるような、そういういままでの慣習というのは間違っているのだ、女性も大いに社会参加をして仕事を持つべきである、特に女性が経済的な独立性を持つということは、女性の解放にとって非常に大切なことであるということは、これは多くの学者も指摘しているところでございますから、そういうことを言っていると思うのですね。ですから、その真意をもし大臣が理解なされば、何も女性が家庭の仕事をするとか、家庭で子供を育てるというのが悪いというのじゃなしに、それだけが女性の天分であって、女性が仕事をするというようなことはおかしいのだ、男だけが仕事をするのだというような考えを固定しているのはおかしいというのがこの広報の趣旨なんですね。そうしたら、われわれとしてはそれは当然のことであるという態度をとるのがもっともじゃないかというように思うのです。  法務省事務当局に伺いますが、婦人週間に当たって、婦人問題企画推進本部長内閣総理大臣福田赳夫氏のメッセージがここに出ているのですけれども、いまのお話によりますと、法務省事務次官がその幹事かあるいは代表になっておられたようですが、そうだとしますと、先ほどの広報の広告も当然法務省も了承しているものであると思うのですね。それなのに、それがどうして大臣がわざわざ閣議の席で一言クレームをつけるというようになったのですか。
  182. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 これは政府の総理府だと思うのです。それを出したのは。聞いておりませんが、その広告の文案に法務省事務当局が参加したとは思いません。  申し上げておきますが、先ほど申し上げたように、男は仕事、女は外で仕事をしてはならぬ、そんな考えは私は全然持っておりません。ただ、そういうふうに書いてあると、何か婦人が家庭におって子供を育てたり、ちゃんとするということが、いかにも悪い習慣のように思われる節がありはしませんかと言っただけでございまして、女性は外に出て働いてはいかぬ、そういう観念は全然ありません。
  183. 正森成二

    ○正森委員 私が質問したことについて、大臣が御自分の言い分を述べておられますが、これを読んでみますと「「男は仕事、女は家庭」というように、男女の役割を固定してみる傾向が根強く残っていませんか。」こう言っております。ですから、これは何もこの宣伝みずからが、男は家庭のことをしたらいかぬとか、女性は仕事のことをしたらいかぬとか、あるいは家庭のことをしたらいかぬとか、そういうふうには書いてありませんけれども、男が仕事で女は家庭というように役割りを固定して見る傾向が根強く残っていないかというので、それ自体としては、いまの現実がそういう傾向が残っているという意味からは当然だと言わなければならないと思うのですね。それに大臣がわざわざ一言異議を言うというのは、これは国際婦人行動年でのわが政府のいろいろな行動というものに非常に水を差すことになりはしないかというように思うのですね。  特に、労働省に伺いますけれども、世界行動計画の序章ではこう書いてあるのでしょう。「男女平等の達成とは、両性がその才能及び能力を自己の充足と社会全体のために発展させうる平等な権利、機会、責任をもつべきことを意味する。そのため、家庭及び社会のなかで両性に伝統的に割当てられてきた機能及び役割を再検討することが肝要である。男女の伝統的な役割を変える必要性を認識しなければならない」こう書いてあるのですね。これはわが政府も賛成しているのでしょう。そうすると、この基本的な考えと、それから総理府が広告に出したものとは全く同じ考え方じゃありませんか。違うのですか。
  184. 柴田知子

    柴田説明員 世界行動計画の文書そのものはただいま手元にございませんが、おっしゃられたような趣旨について触れておるパラグラフがございます。その趣旨を受けまして、先ほども御説明いたしましたように、国内行動計画におきましてはこのようなことが決められております。読み上げますと「婦人が、その主体的選択によって、政治、経済、社会、文化のあらゆる分野に参加する機会を持ち得るよう、固定的な男女の役割分担意識を見直すとともに、婦人に対する不平等な慣行を是正し、婦人が多面的な責任を調和させつつ、その能力を十分に発揮することができるような社会環境を整備する。」  以上でございます。
  185. 正森成二

    ○正森委員 いま労働省の婦人課長が非常に遠慮しながら言われましたが、私の質問自体を肯定していると思うのですね。私は何新聞とは申しませんが、ある新聞には、女子の結婚出産退職制や若年定年制などの差別的な制度、慣行、不十分な育児休業制や保育施設、こういうものをもっともっと変えていかなければならないということを国際婦人行動年に関連して申しておりますし、また別の新聞は、いろいろ大臣が非行少年のことについてお触れになりましたが、それは女性だけの問題でなしに社会全体の問題である。たとえば、暴力礼賛やポルノなどのテレビ番組、映画、週刊誌、雑誌がはんらんしておるというような状況を抜きにして、何か女性が家庭から勤めに行かなければならないということが非行少年を増加させている唯一の原因であるかのような、そういう発言をなさるということは、政治家としても非常に一方的な、あるいは片手落ちな見方ではないかという印象を持たれてもやむを得ないと思うのですね。  それで私は、いまお話を伺って、大臣自身もそれほど偏った意味でおっしゃったのではないということがわかってまいりましたけれども、しかしそれにしても、閣議の席でわざわざ意見をそういう形で言われるということは、非常に誤解を招くおそれがあるというように思いますので、今後意見を言われる場合には、各省庁で協力して進めている物事については、いま少し慎重であっていただきたいというように思いますが、いかがでしょうか。これで質問を終わります。
  186. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 最初に申し上げましたように、この広報の精神自体は異存はありません。それから、先ほど読み上げられた国際的な問題もそのとおりでございます。何も異存はないのです。異存はないのですけれども、特にそこだけを取り上げられて、そうは書いてありませんけれども、見方によると、非常に悪い習慣のように受け取る人がないとも限らない。私はその点を言っておるわけでございます。
  187. 正森成二

    ○正森委員 私が指摘しますのは、物事の慣習というのは、やはり時の権力がもっともな慣習だと思っているのが、いろいろの社会の力でだんだん変わっていくというところに大事な点があるのです。たとえば、私は御参考のためにここに新憲法になる前の第九十議会衆議院本会議の速記録を持ってきておりますけれども、その中にはこう言っているのですね。「国家ガ戸主権並ニ親権ヲ抹消シテ如何ニシテ家庭教育ヲ盛ニスルコトガ出来マスカ、国家ガ戸主権並ニ親権ヲ認メルコトニ依リマシテ、家族隨テ父母ヲ尊敬スベキ理由ヲ知リ其ノ権利ヲ中心ト致シマシテ、父母ニ対スル孝道、兄弟ノ友情、夫婦相愛ノ道ガ立チ、一家相齊フコトニ依ツテ天下ノ泰平ヲ致シテ来タコトハ実ニ我ガ日本ノ伝統的特長デアリマス」中略「草案ヲ読ンデ見マスルト、従来ノ親族法、相続法ハ個人ノ権利ニ立脚シテ改正セラレマスルカラ、余程注意ヲナサラナイト、子供ハ親ノ意ニ反シテ妻ヲ迎ヘ、住居ヲ変ヘ、親ノ意ニ反シテ財産ヲ使フ、親ノ意ニ反シテ善良ナル妻ヲ離縁スル、斯ウ云フコトガ、憲法草案ノ認ムル所デアルト私ハ考ヘテ居リマス、是デ家庭教育ガ出来ルデアリマセウカ、御婦人代議士如何デゴザイマス。」これが某保守党の本会議における親族法、相続法に関する部分の反対討論なんですね。当時は多くの政治家はそういう考えだった。しかしそれが変わって、現在の憲法二十四条、両性の本質的平等の問題だとか、あるいは親族法、相続法の問題で、男女平等の相続権とか、妻が無能力者であるという点を変えるとか、いろいろなことが起こってきたわけです。  私は、願わくば、大臣がこういう逆行した立場と同じように世間からとられるおそれのないように御留意を願いたい、こう思いますし、特にまた女は家庭へということは、現在の不況の中で、かつてヒトラーが失業問題を改善するということのために、女性は家庭へ帰れということで失業問題を大幅に減らそうとしたというようなことで、現在でも経営者が失業問題を考えておりまして、整理をする場合に、まず女性が家庭へ帰れというような言説を弄しておりますが、これはもうすでに歴史的に起こってきたことなんです。そういうときに、男は仕事、女は家庭というような固定的な観念をもっと考えなければならないということに異議を言うということになりますと、やはり仕事は男が中心で、女は家庭が中心かということになるわけですね。ですからそういう点について、くれぐれも法務大臣、特に憲法だとかあるいは男女の本質的な平等という点について、人権擁護局をその管轄下に抱えておられる大臣としては、言動に戒心していただきたいというように思うものです。
  188. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 お互い言動を慎しむことは当然でございますが、私は逆行した考えを持っておる人間じゃないことは理解してください。
  189. 正森成二

    ○正森委員 それでは、この点についてはこれで終わりますが、私も逆行したお考えでないということを信じたいと思いますし、信じますので、大臣も以後言動でそれをあらわしていただきたいというように思います。  それでは次の問題に入りますが、刑事局長にお伺いいたします。  あらかじめ質問事項を申し上げておきましたが、わが党の三谷秀治議員が、一昨年の十一月から十二月にかけて行われました総選挙の最中に、ある刑事事件の黒幕であるかのごとき報道を一部の新聞にされましたために、非常に迷惑をこうむったという事実があるわけです。  それに関連して伺いますが、この事件は読売新聞その他にも大きく報道されましたが、弘容という信用組合があるわけです。その信用組合が約三十億円余りも不用意に担保もないのに貸し出しをしまして、そのうち約二十三億円を焦げつかせたということで、背任で役員が二人逮捕される、あるいは理事長なども呼び出しを受ける、またそういうことで不正な融資をさせるのに力があった藤田という関係者も逮捕されるというような事件であります。この事件については大阪地検特捜部で捜査が十分に行われたと思いますが、この事件について、関係者に対してどういう起訴処分がとられたか、その点についてまず御報告をいただきたいと思います。
  190. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 お尋ねの事件は、告訴人が三谷秀治氏、それから被告訴人が木本晴夫氏という事件でございますが、昭和五十一年十二月四日大阪地検において直接受理をいたしまして、その後、鋭意捜査を遂げました結果、昭和五十二年十二月二十三日同地検において不起訴処分に付されております。
  191. 正森成二

    ○正森委員 私が聞きましたのはそれだけではなしに、弘容信用組合の二十三億円に上る融資焦げつき事件について役員等が逮捕されましたが、その件についてはどういうように処分されたかということも聞いているわけです。
  192. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 ただいまの告訴事件の背景となっております信用組合弘容をめぐる背任事件につきましては、先ほど御指摘のありました藤田政雄を含めまして永大建設に対しまして約二億五千万円の不正貸し付けをしたという事実によりまして、昭和五十一年十二月二日大阪地裁に起訴されております。
  193. 正森成二

    ○正森委員 起訴されたのは藤田だけですか。そのほかに関係者の、たとえば児玉副理事長とか、あるいは吉田専務理事とか、そういう諸君については起訴されてないのですか。
  194. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 手元に正確な被告人の一覧表がございませんが、信用組合弘容の理事数名が一緒に起訴されておるはずでございます。
  195. 正森成二

    ○正森委員 そこで、それらの件については起訴されているわけですが、その起訴に当たりましてこの不正融資事件の全容は大阪地検で解明されているはずであります。その解明された全容によって、ここに現物を持ってきておりますが、金融報知新聞という新聞がありますが、「弘容事件の黒幕は?」「第二日共トラック事件幽霊を演じた藤田政雄 表面に浮び出た三谷秀治」こういうことで、三谷秀治氏が黒幕であるというようにでかでかと載せておるんですね。これが全くの事実無根であるということは捜査の過程で全部わかっているはずであります。わかっているのに、なぜこれが名誉棄損あるいは公選法上の虚偽事項の公表罪、こういうものに当たらないのですか。
  196. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 不起訴処分の理由の関係のお尋ねでございますが、確かに弘容関係事件の捜査の過程で、三谷秀治氏がいわゆる黒幕であるという事実はないようでございます。そういう前提のもとに捜査をしておるわけですが、被告訴人木本晴夫氏はこの金融報知新聞に当該記事を掲載するにつきまして、しかるべき者に面接するなどし、取材活動いたしました上、自分自身が元日本共産党員として知っておった事実を踏まえて真実であると信じて記事にしたという主張をいたしました。したがって公選法違反及び名誉棄損の犯意を否認したわけであります。それで、捜査の結果、右の主張を覆すに足りる証拠が得られないということで、嫌疑が不十分であるということで不起訴処分に付されたようでございます。
  197. 正森成二

    ○正森委員 私はそういうやり方は非常におかしいのじゃないか、こう思うのですね。私はここで判例上の論争をするつもりはありませんが、名誉棄損について、特にその相手方が公務員である場合とか公職の候補者であるという場合には非常に言論の自由が認められている刑法上の規定になっていることは事実であります。しかし、その場合でも、真実であることが証明された場合にはこれを罰せずというようになっているわけですね。この項目をどう解釈するかについて、処罰阻却事由であるというような解釈、それから構成要件の該当性を阻却するんだという団藤教授なんかの説、あるいは違法性阻却事由だという現在の学説の多数説というように、おおむね三つに分かれているようであります。昭和三十四年の最高裁判所の判例は、一番狭く解する処罰阻却原因だということになっておるのですね。そういう解釈をとるならば、あなた方捜査機関がこの弘容事件を調べて三谷秀治が黒幕でも何でもないということがわかっておるならば、これは幾ら木本なる人物が自分が独自に取材したんだということを言いましても、真実でないということが非常にはっきりわかっているから、当然起訴されなければならないと思うのですね。  それではあなた方は、あえて昭和三十四年の最高裁の判例の立場をとらないとすれば、現在検察当局はどのような学説上あるいは理論上の立場に立っておるのか。あるいは最高裁の判例の立場をとったにもかかわらずなおかつ不起訴にしたのかどうか、答えていただきたいと思います。
  198. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 あなた方はとおっしゃいますけれども、私がやったわけではなくて検察当局がやったわけなんですが、大阪地検の判断といたしましては、被疑者が自分が掲載した記事が真実であると信じておったと主張し、またその記事の内容を構成するに至った被疑者のいろいろな取材活動等に徴し、それが真実であると信ずるに足る相当な情況があった、こういうふうに認めたようでございます。
  199. 正森成二

    ○正森委員 私はそういう主張は全く納得ができないですね。判例によりますと、最高裁の処罰阻却事由であるという判例をとれば、いまの刑事局長答弁というのは理由にならないということは非常にはっきりしておりますが、仮に構成要件阻却事由である、あるいは違法性阻却事由であるという立場をとるといたしましても、若干の判例やコンメンタールなどに載っておりますが、その判例ではこう言うておるのですね。「その真実を真実であると信じ且つ通常人の常識をもつてすれば、そのように信ずることが相当と認められる程度の客観的情況のあった場合にはなお犯意を阻却する」これは東京高裁の昭和二十七年の判例。あるいは別な判例では「その真実を真実なりと信じ、且かく信ずるにつき過失がなかつたものと認められる場合に限り故意の責任を阻却される」これは東京高裁の昭和二十八年の判例であります。あるいはまた別な判例では「摘示者の単なる善意の誤認を許容するものではなく、その証明は不十分であったが、摘示者が摘示事実を真実なりと信じたのは無理のないところであると、健全な常識に照らし合理的に首肯し得る程度の客観的な資料乃至情況がある場合でなければならない」というようになっているのですね。  これについて具体的にはどうかというような点もありますが、二、三の例を挙げますと、たとえば「被告人は、甲からある事実を聞いて、その事実は甲が他から聞いた事実であるにもかかわらずその真否を十分に確かめることなく漫然とその言葉を材料として旬刊新聞に記事を執筆掲載したばあい」などやはり名誉棄損が成立するんだ、こういうように言うております。あるいは「窃盗があった日に甲が被告人方を訪ね、被告人の妻と雑談して帰った」しかも「甲に窃盗の前科がある」ということから類推をして書いたというのではだめであるというような判例もありますし、あるいは「日刊新聞・雑誌等にあらわれたところを参酌し利害相反する一方の側の一、二の人々からの伝聞を基礎に、直接該当関係者ことに被害者等の意見を徴することもなく」軽率に推断した事実を信じた場合には、これは名誉棄損が成立する、こういうことになっておるのです。  私が他の関係者から聞いたところによりますと、大阪地検が一、二符合する証拠があったなとど称しておるのは、木本なる人物が取材したという相手は死んでいるというのですね。死人に口なしで、そういう人から聞いたというように言うておると、こう言うのです。あるいは、私がいま挙げました判例でも、該当者から直接聞かない場合にはいかないと言いますが、私が直接確かめたところでは、三谷秀治氏に対して木本なる人物が一遍も取材に来たことがない、電話もかけてきたことがないのです。本人の言い分も全然聞かないで、そして死人になっている者から聞いたというようなことで記載するなどということが、健全な社会常識から見て過失が全くなかったなどと言えないのは当然のことであると言わなければならないですね。一体、日本共産党の衆議院議員には名誉がないのかというように言わざるを得ないわけであります。私は、三谷秀治氏がこういう処分通知書、不起訴の理由に納得できないというのは当然のことだと思うのですね。  そこで、検察審査会などに再び捜査するようにという申し出を出されるようでありますが、私は、検察官一体の原則にかんがみて、ただに大阪地検の一、二の係官の判断だけにとどまるのではなしに、事は五十一年十一月二十八日付の新聞でありますから、選挙戦の真っ最中であります。そういうときに全く根も葉もないことで、何億円という不正融資事件、そこから金をせしめておるという、これは黒幕が某々代議士であるなんということを書かれたら、お互い大変な迷惑をすることはわかり切ったことであります。これがいいかげんなことで、事実ではなかったけれども、信ずるにつき相当の理由があったんだというようなことを軽々しく検察が最高裁の判例に反してまで判断するというようなことは、私はなすべきではないというように思うのです。検察審査会に申し出があるようでありますが、検察庁としても、しかるべき機会に調べ直す御意思があるかどうか、その点について質問をしたいと思います。
  200. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 大阪地検におきましては、まさに御指摘の判例の線にのっとりまして不起訴処分としておるようでございます。真実と信ずるに至った社会通念上相当と認められる理由があるようでございますが、その内容と申しますのは、要するに、木本という人物がいろいろな方面で取材をしておるようでございます。その取材の内容を明らかにいたしますと、いろいろ関係者の名誉に差しさわる点があると思いますので申し上げられないのが遺憾でございますけれども、私が報告を聞きました限りにおきましては、いわば三谷議員の属しておられる党の内部の方でございますとか、いろいろな方の関係が出てまいりますので、なるほどそういう事情があってさような認定をしたのかと思いながら報告を聞いたというのが実情でございます。  もちろん、そういうことでございますから、検察当局としては、これを御質問いただいたからといって再捜査するというようなことはないと思います。もちろん、検察審査会で起訴相当の議決がなされますとか、あるいは不起訴が不当であるというような議決がなされますれば、当然検察としてはもう一回立件して再捜査をしなければならぬと思いますが、恐らくそういう結論にはならない案件じゃないかなという感じがしております。これはよけいなことで、大変恐縮でございます。
  201. 正森成二

    ○正森委員 私は、非常に妙なことを聞くものだなと思います。検察官は、弘容信用組合の件について数名の理事等を起訴しておるのでしょう。そこで、検察は完全に調べているはずじゃないですか。もし、いま言われるように、三谷氏が黒幕だとかなんとかいうようなことの疑いがあるなら、三谷さんに対して当然呼び出しをかけて調べるはずじゃないですか。そんなことも一遍もしていないじゃないですか。それは検察が自分たちの確実な裁判の資料にたえるというものでは、何らそういう関係がないということを明らかに知っているからじゃありませんか。それなのにどうして、木本などという人間がこういう記事を書いたのに対してそれが健全な常識から見たら相当であるなんて言えるのですか。相当であると言えるくらいなら、三谷氏に対して正規の手続がとられるというようなことも当然あってしかるべき範囲に接近してくるでしょう。それを何か非常に思わせぶりな言い方をするというのは言語道断じゃないですか。
  202. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 言葉が過ぎましてお気にさわったとすれば陳謝を申し上げますが、私が申し上げているのは、大阪地検の立場として、弘容事件の黒幕として三谷という議員がおられるわけではない、こういうことは客観的に明らかでございまして、そのことは大阪地検も承知の上で捜査をしております。しかしながら、捜査の結果、被告訴人は三谷氏が何らかの関係があるということを信じておったと言い、また、そう信ずるに足るような情況があったということが、先ほどの判例のような趣旨に照らしましても認められる、こういうことから不起訴にした、こういうことを申し上げておるわけでございます。
  203. 正森成二

    ○正森委員 刑事局長がいま、われわれの捜査では三谷氏が黒幕でないというようなことは非常にはっきりしていると私が言うてからやっとつけ加えましたけれども、そんなことは大前提に当然言うべきじゃないですか。いまのあなたの答弁なら、検察庁もどうやら怪しいと思っておったんだけれども、木本というのも何となく信ずるに足る理由があったというような、三谷氏が名誉棄損でいろいろ言うていることについて、検察庁はその上に上塗りするようなとんでもない答弁だと思うのです。そして、資料提供者については名誉の点があるから言えないがというようなことを言うて、現に公然と名誉棄損されている三谷さんの名誉の問題はどうなるんですか。私は、国会の答弁とは言え、衆議院議員の名誉というものについてもう少し慎重であってほしいと思いますね。自分のところの——自分のところと言うたらまたいかぬかもしらぬが、検察官をかばう余りに、名誉を棄損されている議員が告訴している問題について、しかも、それは事実でないということは非常にはっきりしている。ところが、最高裁の判例とも違う違法性阻却事由説とか構成要件該当説をとった場合に、誤信するについて若干もっともな点があったということだけで不起訴になっているのでしょうが。その点について答弁の仕方というのは非常に軽率じゃないかというように私は思いますし、また、その最終判断についても納得することはできないと思います。私は、最近に検察審査会に申し出がなされているようでありますけれども、その点について、不起訴不相当とかあるいは起訴相当の意見が出れば捜査をするのは当然のこと、それでなくても自主的に記録を調べ直して、そして起訴すべきは起訴すべきであるということを要望しておきたいと思うのです。  それからまた、あなたは不起訴の理由についてここではお答えになれないようですけれども、ここでなくても、もう少し別の機会に、その信ずるに足る理由というものがどういうものであるのか、私はもう少し詳細な説明を受けたいと思いますが、その点はいかがですか。
  204. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 最初にお断りいたしておきますが、速記を後でごらんいただけば御確認いただけると思いますが、冒頭に私は、三谷氏は弘容の事件関係がなかったということをお断りした上でお答えをしておるわけでございます。その辺は御理解をいただきたいと思います。  それから再捜査の関係でございますが、私といたしましては、最高検察庁に対して再捜査を促すような措置をとるべき事案ではないと思いますし、また、検察が本日の質疑の状況承知をいたしましても、再捜査を開始するというような案件ではないように思っております。しかしながら、検察審査会の議決のいかんによりましては、もちろんその議決に従って適切な措置をいたすと思っております。  なお、不起訴理由の詳細については公の席で申し上げることははばかられるわけでございますが、何らかの機会がございますれば、その一端をお話しすることはできようかと思います。
  205. 正森成二

    ○正森委員 それではそういう答弁がありましたから、私は別の問題に移りたいと思います。  この間、大韓航空機がソ連の領空を侵犯して不時着をしたという事実があるわけでございます。運輸省にまず伺いたいと思うのですが、国際民間航空機構、ICAOというのがございますが、そこでは領空侵犯の場合のお互いの一定の約束事といいますか、取り決めというものもございますか。
  206. 川井力

    ○川井説明員 民間機が何らかの理由で他国の領空を侵犯した場合、これに対しまして、領空を侵犯された当該国の軍用機が要撃する場合の取り決めというものが国際民間航空条約第二付属書で定められております。その内容といたしましては主な点が四つございまして、一番目が、要撃機の視覚信号による指示に従うこと。二番目が、可能な場合には当該国の航空交通管制機関と連絡すること。三番目が、緊急用の周波数を使用しまして要撃機と連絡をとり、自分が何者であるかあるいは自分の機体がいまどういう状態にあるかということを通報することになっております。四番目が、レーダーに映します信号を飛行機の方から出します。これをレーダーの応答器と呼んでおりますが、応答器によりまして緊急事態という意味の信号を発する。この四つが定められております。  以上の四つが定められておりますが、一番目に申し上げました視覚信号につきましては、先ほど申し上げました第二付属書において国際的に定められております。内容といたしましては、まず要撃機が、昼間でしたら翼を振りまして領空を侵犯しているぞという注意をする。夜でしたら、翼端灯を点滅させて注意をする。もし強制着陸をさせるような場合ですと、飛行場に近づきましたら、脚を出しましてここへ着陸しろというような意味のことをやる、そういうような信号を定めております。  なお、これを第二付属書で定めているのみでなく、さらに第十五付属書で航空情報を各国が提供するように義務づけております。十五付属書によります航空路誌というのがございますが、通常AIPと呼んでおりますが、これは各締約国が出しまして航空情報を各国に周知するようにしております。この中に、各国が定めております視覚信号も公表しておりまして、それによりまして。パイロットに対する周知を図るようにしております。
  207. 正森成二

    ○正森委員 いま運輸省から御説明がありましたが、新聞の報道によりますと、遭難された——遭難というとちょっと大げさですが、今回の事故に遭われた乗客の談話を総合いたしますと、ソ連の要撃機が主翼を振っておったということはほとんど全部が共通して言っております。それから赤ランプを点滅させておった、昼間であったにもかかわらずやはり赤ランプをつけた。これは金機長も言っておりますし、その他の乗客も言っております。そのほかに、視覚信号の最たるものでしょうが、緑色の信号ロケットを発射したということを乗客が確認しておりますね。そのほかに、ロシア語で何か伝えてきた。ロシア語はわからないので、何を言ったかわからなかったということを言っておるようですが、こういう四つの視覚信号あるいは聴覚的な信号まで送ってきておるわけですね。  そうしますと、今度の大韓航空機というのはINSという慣性航法装置というのを積んでいなかった。日航の場合には三台も念のために積んでおるようですが、これを一台も積んでいなかった。そしてグリッド航法というのをとっておったようだというように言われておりますね。それは何かジャイロコンパスか何か使うのですか、よくわかりませんけれども、そういうのでミスを犯したのであろう、こう言われておるのですね。しかしここの新聞を見ますと逆V字形ですね。こういうように弧を描いておりまして、結局領空なり領土をかすめたというようなものじゃなしに、ムルマンスクあるいはコラ半島方面から、ちょうどアラスカ方面から進入してくる飛行機の通路そのままにソ連の国土奥深くどんどん入っていくという航路をとっておりますね。これは常識では考えられないことだと思うのです。そういうことに気がつかなかったとすれば、報道によりますと、左側に見えておった太陽が右側に見えてきたということを素人の乗客でさえ言うておるのですね。このことは針路が逆になったということを意味しているわけです。また、北極に近づけば当然明るくなるはずなのに日がどんどん暮れてくる、おかしいと思ったという乗客の談話もあります。これはまさに、北向きに飛行しているのじゃなしに南向きに飛行を始めたということを素人でもわかるように示していると思うのです。  そうすると、北極を七十回も飛んでおるベテランの機長だとか航空士がそれに気がつかないはずがない。そこへ外国の戦闘機があらわれて、主翼を振り、赤ランプを点滅させ、ロシア語で話しかけ、あまつさえ緑色の信号ロケットを発射しておれば、これは領空侵犯というか非常に危険な状態である。見ますと、ミサイルがくるくる回っておった、こういうのですね。そのときの民間航空機の対応としては、同じように主翼を振るとか、あるいは翼を三十度傾けるとか、あるいは高度を六千百メートル以下に下げて足を出して、いつでも着陸するという恭順の意を示すとか、いろいろ常識と言われている行為があるにもかかわらず、それらすべてを大韓航空機の機長はとらずに漫然時間を過ごしたということは、すべての報道から疑いのないところだと思うのですね。運輸省はどういうぐあいに考えていますか。
  208. 川井力

    ○川井説明員 大韓航空機のとりました措置に対する事実関係についての正式な情報は運輸省としてはとっておりませんので正確なお答えはいたしかねますけれども、いま先生のお話にありましたような事態から見ますと、なぜそういうことをしたのか、私たちとしてはさっぱり想像すらできないというのが現状でございます。
  209. 正森成二

    ○正森委員 いま運輸省が想像すらできないと言われたのはごもっともであろうと思うのですね。  そこで外務省に伺いたいと思うのですが、きのう外務委員会で園田外務大臣は「現在、ソ連韓国、アメリカに情報提供を要請している。真実が判明すれば、民間航空機への発砲なので、ソ連に対し、どのように抗議し、どのように補償を要求するかということになる。まず、事実を的確に知ることが必要だ」云々と述べたと報道されているのですね。NHKその他でも報道をされました。私はこういうような発言というのは、朴大統領がソ連の好意に感謝する——園田外務大臣も後になってそれには触れておられますけれども、そういう状況の中で、かつ私が乗客の談話として述べていることを総合して、いまここで申し上げたような状況下では、一国の外務大臣として非常に軽率ではないか。しかも、ソ連に対することは述べられているけれども、韓国あるいは大韓航空に対することは述べられていないですね、新聞報道によると。  外務省が外交保護権を行使しなければならないことは、まず第一に、事実関係ソ連韓国あるいは米国等から確かめると同時に、韓国側に、なぜそんなに大幅に千七百キロないし二千キロも航路がそれたのであるか。第二番目に、子供でもわかるようなそういう航路をそれておるということがわかったにもかかわらず、要撃してきた相手国戦闘機の明白な視覚による警告に対して対応する措置をとらなかったのかという問題。そういう疑問点を大韓航空なり韓国政府に確かめるということが日本外務省がすべきまず第一のことではないのですか。
  210. 橋本恕

    ○橋本説明員 外務省におきましては、ソ連それからアメリカに事実の照会をいたしたほか、先週の末に韓国にあります日本大使館を通じまして、それから今週の月曜日に、おととい在京の韓国大使館の公使を外務省に呼びまして、事実関係、特に領空侵犯したとわれわれは聞いておるけれども、これがどのようにして起こったか、どのようなコースであったかというようなこと、それからどの地点でソ連戦闘機と接触したかといったことを初めといたしまして、できるだけ詳細に今回の事件に関する資料、情報を日本政府に提供してほしいということを韓国政府に公式に申し入れてございます。
  211. 正森成二

    ○正森委員 そういう状況であるなら、ソ連に対して抗議をしたりあるいは補償を要求するというようなことを発言するというのは時期尚早ではありませんか。あなた方は参事官課長かの官吏ですから、大臣が政治的に述べたことをとやかく言う立場ではないということでしょうけれども、私らから見れば、私はこの間まで外務委員会でもちょっと質問をしておりましたけれども、非常に一方的な発言ではないかというように思うのです。そういう領空侵犯を犯し、警告を受けても対応する措置をとらなかったかに見える韓国あるいは大韓航空に対して真意を確かめ、あるいは場合によったら抗議し補償を要求するというのが第一義的であって、それがどうしてもできないような場合に初めてソ連に対して文句を言う。ソ連がミサイルか機銃か知らぬけれども撃ってきたというのも穏やかでないから、場合によったら抗議しなければならぬ場合もあり得るでしょう。しかし、まず第一に韓国に対してただすべきをただすということが当然じゃないですか。
  212. 橋本恕

    ○橋本説明員 現在のところ外務省は、大臣の指示を受けまして、先週から現在に至るまでまず事実関係の確認といいますか、事実一体どのようなことがどのようにして行われたか、その原因、背景はどうかという真相究明に全力を挙げている次第でございます。
  213. 正森成二

    ○正森委員 外務省としては当然御留意になっていると思いますが、このコラ半島だとかムルマンスク地域というのはソ連の最重要軍事基地地帯ですね。海軍の基地もあれば飛行場もあればミサイル基地もある。そして北極というのは非常に大事な地域ですけれども、万が一米ソ戦が起こったら、このコースを通ってミサイルがやってきたり飛行機がやってきたりしてモスクワに向かうのですね。この大韓航空機というのは、コラ半島からまさにモスクワに向けた方向に約三百七十キロも領空を侵犯しておった、こういうわけでしょう。それで、迎撃されていろいろ信号を受けているのにどうも言うことを聞かなかった。どうやらフィンランド国境近くまで逃げるつもりじゃなかったかということすら載っている新聞があるのですね。これが韓国戦闘機か何かが紛れ込んだのなら、何をなさろうと韓国の軍部の御判断でしょうけれども、いやしくも民間航空機である場合には、自国民だけでなしに各国民も乗っておるわけですね。そんな場合には、そういう乗客の安全第一の措置をとるということが当然ではなかろうかというように思うのです。そこの点をまず確かめるということが外務省にとっては当然ではないか。また報道によりますと、韓国機というのは自分たちと非常に政治的立場が違うようなところへ連れていかれるくらいよりは死を選ぶというようなことをハイジャック関係でも言うておった、こう言うのですね。そんなことで処置されたら大韓航空に乗っておる通常の人々というのは非常な迷惑です。  そこで、私は外務省に外交保護権として要求したいのですが、グリッド航法か何か知りませんが、ジャイロコンパスか何か知りませんが、一説によるとコンパスを一台しかつけていなかったというのですね。それで、より高度なINSでさえJALは三台つけているというのですね。そういう点について一体幾らつけていたのか、何台つけていたのかという点はやはり聞いてみる必要があると思うのです。  それから、韓国政府が非常なダンピングをやっているのでしょう。運賃が四割か五割くらいなんでしょう。その大きな理由というのは、INS、慣性航法装置等は一台が二千二百万円とか、あるいは五千万円という報道もありますけれども、そういうのを三台もつけると六千万円から一億円からもする、そういうのを省略している安かろう危なかろうという商法にあるということも指摘されているのですね。韓国政府に対してそういう点について注意を喚起するということも必要じゃないのですか。もしそういうことをしないなら、少なくともわが国民の大韓航空に乗る乗客に対しては、大韓航空飛行機はこういう機器しか備えていないということと、それから意見が非常に違う国について着陸するよりは死を選ぶというようなことを考えておる飛行機であるということ、そういう点を周知徹底させる必要があるのじゃないですか。
  214. 橋本恕

    ○橋本説明員 大韓航空九〇二便というのが今度の事件飛行機でございますが、この九〇二便に使われた飛行機がどのような計器を積み、また技術的に見てどのような状況であったかということも含めまして韓国に照会中でございます。
  215. 正森成二

    ○正森委員 法務省に伺いたいと思いますが、航空法の七十五条には「機長は、航空機の航行中、その航空機に急迫した危難が生じた場合には、旅客の救助及び地上又は水上の人又は物件に対する危難の防止に必要な手段を尽くさなければならない。」という規定があります。百五十二条には「機長が第七十五条の規定に違反して、旅客の救助又は人若しくは物件に対する危難の防止に必要な手段を尽くさなかつたときは、五年以下の懲役に処する。」となっております。刑事局長に伺いたいのですが、この規定は、もちろん日本人の機長あるいは日本飛行機に乗っておる機長について適用される規定であって、大韓航空の機長にこの日本の刑事法規を適用することはないというように私は承知しておりますけれども、仮にJALがこういう状況を犯した、ソ連戦闘機が近接して翼を振り、緑色の警告ロケットを発射し、あるいは信号を点滅させたというにもかかわらず、依然としてその対応を起こさないということを続けたためにこういう事故が起こった場合には、この航空法上の容疑者にもなり得る事案であるというように私は思いますが、いかがです。
  216. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 事実関係が確定されない段階で犯罪の成否について申し上げるのはきわめて適当でないと思いますが、仮定の問題として、まさに委員が御指摘のような状況がありました場合には問題になることではないかと思います。
  217. 正森成二

    ○正森委員 そこで私は法務大臣に御提案申し上げたいのですが、乗客が、二十四日だと思いますが、帰ってまいりまして、皆それぞれ自分のおうちにお帰りになっておられます。しかし将来損害賠償を行いますにつきましても、それが韓国に対するものであるかソ連に対するものであるかは別として、ソ連戦闘機があらわれたときの状況、それから急降下するまでの数分間の状況、あるいは飛行機がV型に進路を変えまして太陽がどういう位置に変わったかというような状況、そういうものの参考人としての供述録取をとっておくということは、将来の外交保護権の行使についても、あるいは何国であれ、しかるべき権利に基づいて抗議をする場合にも必要であると思いますが、そういう措置をおとりになるつもりはありませんか。
  218. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 法務大臣法務省がやる考えはございませんが、外務省なり運輸省、所管の省は当然やっておると思います。
  219. 正森成二

    ○正森委員 運輸省や外務省は当然やっておりますか。
  220. 橋本恕

    ○橋本説明員 先ほど申し上げましたとおり、事実関係の究明について関係各国の政府に対して公式に要求を出しておりますが、それ以外に、新聞報道で御存じかと思いますが、在ソ連大使館の担当の一等書記官を初めといたしまして最寄りの在外公館の人間を三名直ちに現地に派遣いたしましてソ連政府との交渉に当たらせたほか、先生御指摘のとおり、乗客の目から見ましてどのような状況でこの事件が起こったのか、日本人乗客のみならず韓国人の一緒に帰ってまいりましたコーパイロットからも直接証言をとる、それから羽田に着きました段階では、私のところから十数名の外務省員が参りまして、手分けして乗客の皆さんから当時の状況をお伺いいたしております。
  221. 正森成二

    ○正森委員 それでは、時間が参りましたので最後の質問に移らせていただきたいと思います。  午前中に稲葉委員もお聞きになりましたが、死亡した日本人乗客等についての損害賠償の点でありますが、稲葉委員に対する答弁で、民事局長はワルシャワ条約等をお挙げになったようであります。運輸省に伺いたいのですけれども、本件の場合はたしかアンカレジ経由でしたね、その場合にはモントリオール協定というのが適用になるのではありませんか。
  222. 山田隆英

    ○山田説明員 大韓航空損害賠償額につきましては、大韓航空から運送約款を取り寄せまして調べましたところ、運送契約において出発地、目的地または予定寄航地として米国内地点が含まれている国際運送につきましては、先生がただいまおっしゃいましたように、モントリオール協定に基づきましてその損害賠償限度額が七万五千米ドルになっております。ただし、米国内地点を含んでいない運送でございますと限度額は約二万米ドルとなるわけでございます。そして、いずれの限度額適用されるかということは、個々の運送契約によって異なると考えられるわけでございます。
  223. 正森成二

    ○正森委員 そうしますと、本件の場合はパリからアンカレジを経由してそれからソウルに行くということですから、まさにモントリオール協定がずばり適用される事案である。ですから、本件の場合には七万五千米ドルが補償されるということは当然ではなかろうかと思いますし、それから同モントリオール協定によりますと、ワルシャワ条約の第二十条の規定運送人は、運送人及びその使用人が損害を防止するため必要なすべての措置を執ったこと又はその措置を執ることができなかつたことを証明したときは、責任を負わない。」という免責規定がありますが、モントリオール協定では、無過失責任でワルシャワ条約第二十条一項をもって対抗できないという明文の規定があります。ですから、このモントリオール協定の方が優先するのではないですか。
  224. 山田隆英

    ○山田説明員 モントリオール協定が適用されるかその他のケースが適用になるか、私どもはちょっと現在判断を差し控えさせていただきたいと思います。と申しますのは、大韓航空約款を見ますと、先ほども申し上げましたように、出発地、到達地または予定寄航地にアメリカ合衆国内が入っているかどうかということでございます。確かに、今回の便はパリ発アンカレジ経由、ソウル便、こういうことでございまして、アンカレジが飛行機の寄航地としては入っております。ただ、さらにほかの条項を見ますと「予定寄航地は、出発地及び到達地を除く、旅客の旅程上の予定寄航地として航空券及びそれに結合して発行された関連航空券に記載され又は運送人の時刻表に示されている寄航地」こういうふうになっておりまして、今回の場合、旅客につきましては予定寄航地とは考えられないのではないか。ただ、運送人の時刻表に載っておるかどうかということでございますが、私どもが大韓航空から入手いたしました時刻表によりますと、このアンカレジが載っていないわけでございます。これは察するに、恐らくアンカレジの地点は給油のためのストップでございますので載せていないということが考えられまして、実際問題といたしまして、今回のケースにモントリオール運送規定適用されるかどうかは、まず第一義的には大韓航空が判断することではないかと考えております。
  225. 正森成二

    ○正森委員 いま運輸省が説明しましたけれども、韓国モントリオール協定に加盟しておることは明白な事実ですね。そしてアンカレジに途中飛行機が寄るということも明白な事実であります。それを、寄航とは何を言うかという文理的な解釈によって二万米ドルになるか七万五千米ドルになるかというのは大変おかしなことですね。七万五千米ドルとしましてもせいぜい千数百万円で、いまの二十代あるいは三十前後の若い人の命としては、交通事故の場合はとてもそれくらいの額では済まないという状況ですから、外務省あるいは運輸省としては、そういう点について当事者の交渉に任せるだけでなしに、しかるべき外交保護権を行使して、二万米ドルなどと言えば四百数十万円にしかならないのですから、そういうべらぼうなことのないように、しかるべき措置をとるということで、単に文理的な解釈を大韓航空側に有利に考えるだけでなしに、社会常識的に見て、日本政府としてどのようにわが国民に対して便宜を図るべきか、権利を守るべきかという観点からやってもらいたいと思いますが、いかがですか。その点についての答弁を求めて、私の質問を終わります。
  226. 山田隆英

    ○山田説明員 被害者の救済という点では、第一義的には、私の考えでは外務省が窓口に当たられると思いますが、運輸省といたしましても、被害者救済ということで補償が厚いようにできる限りの協力をいたしたいと考えております。
  227. 橋本恕

    ○橋本説明員 今回の事件で犠牲になりました死亡された方、それからけがをされた方、これは全く何の罪とがもない、違法性が全くございませんのにこういうことになったということで、お気の毒という観点から、政府として、外務省として何がなし得るかということを、先ほど申し上げました事実の確認とともに鋭意研究中でございます。
  228. 正森成二

    ○正森委員 終わります。
  229. 山崎武三郎

    ○山崎(武)委員長代理 次回は、明後二十八日金曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後四時八分散会