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伊藤(榮)
政府委員 解放減軽の
規定は、この
法律では採用しないことといたしております。
現行刑法で解放減軽
規定のございますのは、
刑法二百二十八条ノ二にございます身のしろ金誘拐の場合だけでございます。身代金誘拐罪ができました当時の
社会状況を見ますと、特に赤ん坊が主でございまして、これが何者かによって奪い去られて全くどこにおるのかわからない、安否ももちろんわからないという状態に置いておいて親に身のしろ金を要求する、こういう
行為が頻発いたしましたので身代金誘拐罪という
規定が設けられたわけでございますが、そのときにそういった
犯罪の実情として、誘拐をされた赤ちゃんなどの居場所が全然わからないというのがそういう
犯罪の特色でございましたために、身のしろ金は、払うものは払ってもいいからとにかく誘拐された赤ちゃんだけは安全に解放してほしい、こういうきわめて特殊な刑事政策的な見地から異例な減軽
規定が設けられたわけでございます。しかしながら、ただいま御
提案申し上げておりますこの
事犯の
関係になりますと、最近の事例に徴しても明らかなように、犯人は建物でありますとか乗り物でありますとか、所在の明らかな特定の場所に
人質を盾にとってこもりまして、そうして不法な要求をする、不法な要求が実現しますと
人質を連れて海外などの安全な場所まで行ってそこで
人質を解放するという例が非常に多いわけでございます。かような場合に、たとえばダッカで
人質になった人がアルジェリアで解放される、こういうような場合まで一律に減軽しなければならぬということにするのは適当ではないというふうに
考えられますので、今回のこの
法案においては解放減軽
規定は置かないことにしておるわけでございます。特に情状くむべきものがあれば、
刑法総則にございます酌量減軽の
規定の活用を
裁判所に期待する、こういうことで賄えるのじゃないかというふうに思っております。
なお、
改正刑法草案の三百七条で解放減軽の
規定を置いておりますのは、その三百七条の
人質強要罪は身代金誘拐罪の
一般法の
関係になりますので、
特別法の
関係に立つ身のしろ金誘拐に解放減軽があるのに、それより下のランクというと表現が悪いのですが、そういう
一般法に解放減軽がなくては均衡を失するという観点から一応置くこととしておるわけでございますが、身のしろ金誘拐の解放減軽
規定の運用状況を見てみますと、制定されてから適用された例がほとんどございません。そういうこともございますし、いまから
考えてみますと、赤ん坊さえ返れば金は取られてもしようがないわというような
考え方自体も多少問題があるところではないかということで、将来
刑法の
全面改正の際にはこの解放減軽
規定というものを再検討しなければならぬ、なくす方向で再検討すべきではないかと
考えておるところでございます。