○
谷本参考人 全日農の
書記長をしております
谷本であります。
時間が制約されておりますので、三点について申し上げたいと存じます。
まず第一は、私
ども全日農の
要求米価についてであります。
私
ども全日農は、ことしの
生産者米価について六十キロ、一俵
当たり正味二万七千三百円と
決定をいたしました。こうした
要求米価を
算定いたしました中での主な
特徴は、次の
二つの点であります。
その第一の点は、八〇%バルクラインによる
生産費所得補償方式によって
算定しているということであります。八〇%バルクラインによる生所方式を私
どもが堅持をいたしておりますのは、災害
農家など特殊な
生産条件にあった
農家は別といたしまして、正常な
生産状態にある
農家の
生産費は全部補償できるような
米価でなければならないというのが私
どもの主張したい点であります。申し上げるまでもなく、農産物
価格は限界
生産地の
生産費によって
決定されると言われております。そうであってみるならば、農産物
価格の
決定のあり方からしても八〇%バルクライン、つまり
限界地の
生産費で
生産費を決めていくというあり方は正当なあり方でないかと存じます。
第二の私
どもの
要求米価の
算定上の
特徴は、
家族労働の
評価がえについて製造業百人
規模以上の
賃金を当てていることであります。
米価要求は農民にとっての
賃金要求に匹敵するものであります。その
賃金要求としまして、あるべき正常な
賃金は一体どの程度なのかということが問題だろうと思います。米は国の管理作物であります。今日公務員の
賃金については、
政府と公務員の間に人事院が設けられており、人事院が
政府に対して公務員
賃金のあるべきものについての勧告を行っております。その勧告の目安になっておりますのは、民間
事業所の百人
規模以上の
賃金であります。そうであってみるならば、社会的に一人前の正当な
賃金というのはほぼその
水準ではないのかというような
立場から、私
どもといたしましては、公務員並み
賃金という
立場で製造業百人
規模以上の
賃金をもって
評価がえをしているということであります。
〔
委員長退席、
山崎(平)
委員長代理着席〕
以上二点の
特徴を持った私
どもの
要求米価は、そういう点では農民の生活
要求にかなった
米価だと思います。私
ども全日農は、そうした
要求米価を掲げながら今日
米価運動を行い、またそれと同時に、多くの農政上の
要求を掲げながら
運動をしておるところであります。
次に、第二の問題といたしまして、低成長に
日本経済が移りましてから
価格要求は農民にとって一層切実になったということと、さらに、そのことに
関連して若干の
意見を申し述べたいと存じます。
申し上げるまでもなく、
農家の主な
所得は農産物販売代金と賃
労働兼業収入であります。賃
労働兼業収入は、
日本経済が経済不況に入りましてから大変な
状態になってまいりました。これを出かせぎについて見てみますと、製造業を初め、求人は高度成長時代に比較しますと激減するという
状態であります。そういう
状態の中でどんな変化が起こっているかということを申し上げますと、まず高度成長時代と違いますのは、就労の選択が不可能な時代に入ったということであります。そして、そのもとで、たとえば
賃金について言うならば、土建業では日当五、六千円という安い
賃金でありまして、それもここ三、四年据え置き
状態になってきております。またさらに、最近は
賃金の不払いもふえております。厳しくなったのは
賃金条件だけではないのでありまして、就労条件もまた厳しくなってまいりました。たとえば年齢制限が強められました。五十歳以下でなければならないあるいは四十歳以下でなければ採用しないというような年齢制限が強まったということであります。またさらに、資本の側から就労期間の拡大が
要求されるような
状態も生まれております。出かせぎ
農家は農繁期と重複しない形で就労を続けたいというのが要望であります。しかしながら、資本の、雇用者側から期間の拡大が
要求されるために、出かせぎ
農家は、
農業を続けるか出かせぎだけにしていくか二者択一を迫られるような
状況すら生まれてきているのであります。こうした出かせぎの実態は、また同時に地場の日かせぎ
状態の中にも似たような問題が生まれていると申し上げなければならないと思います。高度成長時代と違ってまいりましたのは、
農業がなかなか引き合わないから他の方に、賃
労働兼業の方へ逃げていくというような形態がもはや今日ではとりにくくなったということなのであります。したがって、多くの
農家は農産物
価格問題についての
要求を強めざるを得ない
状態に置かれるようになってまいりました。
さて、それでは農産物の
価格状態は低成長に移ってからどういう
状態になってきているのか。申し上げるまでもなく、農民が
農業生産に従事することによって得ている
所得は、
賃金の六割程度しかありません。それも
昭和五十年、五十一年度当時で見てみますと、春闘賃上げ幅とほぼ同じ程度の
農畜産物価格の上昇があったのでありますが、これが
昭和五十二年以降大きな変化が生まれてきております。大きな変化とは、
昭和五十二年の場合には
農畜産物価格の上げ幅は春闘賃上げ幅の二分の一前後になったということであります。そしてさらに、ことしに入りましてから、加工用原料乳
価格等々、主要
農畜産物価格が軒並み据え置き
状態になるという
状態が生まれてまいりました。
価格問題が非常に厳しくなったということであります。
その点を
米価について見ますと、
政府決定米価の性格が、これまでと違いまして大きく性格が変わってきたのではないかと思います。御承知のように、
政府決定米価は
生産費所得補償方式で
算定されております。それも
平均生産費方式であります。したがって、
生産性が平均以下の
農家については
所得を補償することができないという矛盾を持っておるのでありますが、その際、これまで
政府が説明をしてまいりましたのは、
賃金のとり方を農村雇用
賃金に切りかえて
生産費方式で計算がえをすると、
農家について見るならば、八〇%以上の
農家が
生産費がカバーされているというふうに説明されてまいりました。ところが、
昭和五十一年の場合で見てみますと、そういう
状態ではもはやなくなってきているのであります。
昭和五十一年の場合で見てみますと、五十俵以上の米販売
農家でないと
生産費がカバーされないという
状態が生まれてきているのであります。米五十俵以上の販売
農家は、戸数にしてみますと三〇・七%にしかすぎません。米の販売数量で見てみますと、五十俵以上の
農家が販売しているものは全体の七丁三%でしかありません。食管法は、
生産者米価は「再
生産ヲ確保スルコトヲ旨トシテ之ヲ定ム」というぐあいに規定しております。
生産費方式で計算がえをした場合には、確かに再
生産確保ということが言えるかと思いますが、
昭和五十一年の
米価について見るならば、
政府がこれまで主張してまいりましたような条件にも合わないような
米価になってしまっているということなのであります。五十一年の場合には米のできが悪かったという特殊な条件もあるのでありましょう。しかしながら、そういう
状態になったということは、
米価政策の変質を意味するのでありまして、低
米価の徹底にほかなりません。今日、
生産者米価が高いから米が過剰になった、
生産者米価が高いから多くの
農家が米の
生産に集中してきたのだと説明されております。こうした事実を見てみますと、私は決してそうではないと思う。
生産者米価も低い、そして他作物
価格がこの
生産者米価よりも不当に低いから、多くの
農家が米の
生産に集中せざるを得なかった。したがって、米の
生産が、自給が一〇〇%以上というような
状態が一方にできるということがあり、他方では、他の
農畜産物の
生産が、自給がゼロに等しいような
状態すら生まれるちんばな形というのは、こうした中から生まれてきたものだと言わなければなりません。
生産者米価は抑制すべきではなくて、他作物の
価格を
引き上げなければ、米過剰問題の根本的解決にならないというふうに申し述べなければならないと思います。
さらに、この際もう一つ付言をしておきたいと思いますのは、ことしは十カ年計画に及ぶ米の新
生産調整が発足いたしました。
生産調整を行った上、
生産者米価についてこれを据え置きにするということは、私
どもはとうてい納得するわけにはまいりません。米の
生産計画については
生産調整という形でやっておるのでありますから、他方で
価格政策の中で需給
調整のための需給事情を反映するとするならば、それは
農家にとって二重の犠牲の強要だと言わなければならないからであります。
最後に、制度問題について若干申し上げておきたいと存じます。
制度問題の第一点は食管問題であります。食管制度があるからこそ、これまで
農家は安心して米をつくることができました。そしてまた、そうであったからこそ、慢性的米不足国であった
日本が、
昭和四十年代以降それを解消することができたわけであります。しかしながら、最近多くの
農家の間から食管制度堅持の声というのが非常に少なくなってまいりました。それとともに、米づくりの将来について不安を抱く
農家の数がふえております。それはなぜか。たとえば
米価について言うならば、
米価保障が崩されてきているからであります。その点は先ほど申し上げたとおりでありますし、さらに付言するならば、今日の
米価は、自主流通
米価格、
政府買い入れ
価格、さらに超過
米価格と三本立てにもなってしまっております。買い入れ制限も強化されるようになってまいりました。さらに売買逆ざやが、ことしを含めてあと三年程度で全面解消されようとしております。売買逆ざやが全面解消されるなら、
農家の
立場から見てみるならば、米はどこへ売っても同じ程度に売れるという
状態になることを意味します。業者からするならば、米はどこから買ってもほぼ同じ程度の値段で手に入れることができるということを意味します。これは何か。食管制度の部分管理化への移行、つまり間接統制化と言ってよろしいかと思います。
今日、先進欧米各国と比較いたしましても、
日本の消費者
米価は最低の
水準であります。低いのであります。そうした安い
米価が消費者にとって保障されておるのは、やはり食管制度あってのことと言わなければならないと思います。米の
生産を、さらに自給を続けて、そしてまた消費も伸ばしていくというような
立場からいたしますならば、食管制度の持つ
価格上の機能、そしてまた流通上の機能、これを見直しながら、食管制度を一層充実したものにしていくことが大切になってきているのではないかということを述べたいと存じます。
さらに第三の制度上の問題の最後に、
基本農政の確立問題について若干付言をさせていただきたいと存じます。
私
どもは、農政の確立という点については、次の三つの点を柱にして要請を行っておるところであります。第一は、
農畜産物の
価格保障であります。第二は、農用地の確保と外延的拡大であります。そして第三は、
農業への投資の拡大であります。こうした三つの要請を柱といたしまして、私
どもは
基本農政の確立について要請
運動を行ってきておるところでありますが、これに最近私
どもは農政の民主化問題をもう一つの柱として取り上げてきております。
具体的に申し上げますと、
農畜産物価格は団体交渉で決めるようにしてほしいという
要求であります。団体交渉で決めることができるようにしていくのには、幾つかの前提的条件の整備が必要でありましょう。たとえば、国が長期にわたる
生産計画を決める、年次別の
生産計画を決める、これを決めるに当たっても
生産者団体と話し合いをする、
国会で十分な
審議をした上で決めるというような形が必要でありましょう。また、
価格問題については、そうした
生産をしていくための、
生産条件を満たしていくための
価格について、
生産者団体と話し合いをしながら
価格を決める、消費者
価格については
国会でこれを決めるといったような条件の整備等が必要かと思います。私
どもが
農畜産物価格を団体交渉で決めるようにしていただきたいということを
要求していることの中身は、そうしたことを前提としながらの
要求なのであります。つまり、農政の主体を
政府と
国会と農民、この三本柱に置くということなのであります。農政の運営というのが今日は役所
中心であります。そういうあり方ではなしに、農民と
国会と
政府とが一体となって農政が運営できる、そういう民主的なものに農政を切りかえていかなければならない。これまでも農政のあり方がそうした民主的なものであったとするならば、今日見るような
日本農業の衰退はなかったと思います。
簡単でありますが、以上三点について申し上げたわけであります。
ありがとうございました。(
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