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河野参考人 お答えいたします。なお、先生の御発言によって、私の日ごろ考えております猛獣に対する
意見も述べてみよというようなありがたい御指示がございましたので、少しく述べさせていただきたいと思います。
現在問題になっております一般個人における猛獣飼育による事故発生について、いろいろ世上あるいは
国会の先生方で御心配になっておられますけれども、私は、この道に終戦後携わりましてからすでに三十年を経過しておりまして、国内動物園の充実に対して、営々としてこの道専門にやってまいりましたので、少なくとも事動物に関しましては、国外あるいは国内の事情にある程度は精通しておるというふうに考えておりますので、また、私の説明で御不審な点がありましたら、何なりと御質問いたださましたら、私としてお答えができる点をお答えしたいと思います。
そこで、現在問題になっております一般個人の飼育しておる猛獣は外国から入ってきておるんじゃないか、あるいはしておるんだというふうに定義づけた世論が沸騰しておるやに思いますけれども、実はそこに一つの盲点があるように私には見受けられます。
と申しますのは、私、ここに昨年一年間の猛獣類の輸入業者における実績を持ってまいりましたけれども、昨年一年間を例にとりましても、あるいは過去数年間を例にとりましても、一般家庭用の、あるいは個人用の飼育、ペットとしての猛獣類はほとんどと言っていいぐらい輸入されておりません。
具体的に数字を挙げますと、昨年一年間に、先ほど先生が御指摘になりました
東京の業者あるいは横浜、神戸の業者が入れました数字を私、逐一電話によって確認したのでございますが、昨年一年間にライオンが三十七頭輸入されております。これは全部私の会社で一括してオーストラリアから入れまして、これは全部一括して山口県の自然動物園に納入してございます。それから、トラが昨年三十四頭、ヨーロッパあるいはアメリカから輸入されております。これも等しく動物園に全部納入されたものでございまして、一般家庭用としては一頭も入っておりません。それから、チーターが二十四頭、昨年一年間で輸入されております。これもやはり同じく動物園に全頭が納入されております。また、クマが四十三頭入っておりますけれども、これもすべて動物園向けに入ったという具体的な納入先も全部わかっております。ここでは申し上げませんけれども。
以上が私の手元にあります猛獣類の昨年一年間の輸入実績でございます。
輸入実績は、御指摘のように、税関でも官庁でもどこでもわからないという組織になっておりますと申しますのは、いまも通産省の方から御説明がありましたように、何らの法的規制がない。それから、統計がない。税関であえてこれを調べる場合には、キログラムでなければわからないというような日本の通関上のしきたりになっております。
しかし、私は、本日その肩書きとして
参考人として呼ばれました
全日本動物輸入業者協議会というものを結成しておりまして、その会長の席を汚しておりますけれども、会員は現在二十一名ございます。これは全部、鳥獣の輸入業者でございます。そして、ほかに一社、有力な業者がおりますが、この業者は、名前は差し控えますけれども、昨年ちょっといろんな面で対外的に信用を失墜するというような事件がございましたので、二年間の期限つきで自主退会をして、一応会員から外してございますけれども、この業者を入れますと二十二社が鳥獣を輸入しております。その中でも、猛獣類あるいは動物園用の大型動物を入れておりますのが、先ほど御指摘のありました有竹、京浜、あるいは神戸の吉川というのがございまして、
東京の川原鳥獣店は最近余り大物は扱っておりませんので、実質的には三社でございます。
しからば、どういう経路でもって一般の家庭あるいは個人に動物が流れていっておるのかということをここで説明してみたいと思います。
その前に、私は、この業に携わってから三十年間、終始一貫、猛獣類はペットとしては飼うべきではないという主張を叫び続けております。
その理由は簡単でございます。猛獣類は、生後三カ月あるいは六カ月以内は見た目も非常にかわいいのでございます。だれでも飼ってみたい、かわいいなという衝動に駆られるのでございますけれども、猛獣の性格上、半年から一年たちますと、お飼いになった方は大抵の方がもてあましてしまわれる。その理由は、まず飼い主自身に大変危険であるということです。それから、猛獣特に肉食獣におきましては、特殊なアンモニアと申しますか、ふん尿が特別臭いという点において、みずからの家庭あるいは付近にも迷惑をかける。それから猛獣の中で、なかんずくライオンなどにつきましては、成獣に達しますると夜中の三時、四時、これは大体時間が決まっているのですが、夜明け前に腹に響くような咆哮を発するわけです。ですから、そういう点においても猛獣はペットとしては向きませんということで、私どもにもよく個人で飼いたいという御相談があるのですが、そのような具体的な例を挙げて、お飼いにならないように指導をいたしております。少なくともいま述べました日本の代表的な輸入業者は、私の指導と言ってははなはだ僭越でございますが、業界のモラルの点においてそのように私と同調しておるものと私は確信しておるものでございます。
話をまた先ほどに戻しまして、しからばどのような経路で猛獣が一般家庭に流れておるのかということに実は問題があるのでございます。ここに教字をもって説明したいと存じます。
現在、私のところで
調査いたしました猛獣類の動物園関係の飼育頭数を申し述べたいと思います。先ほど先生は、
警察庁の方の統計によって一般家庭の数字を述べられましたけれども、私は一般家庭でどのような猛獣がどのくらい飼われているということはタッチしておりませんので全くわかりません。そこで、現在動物園水族館協会というのがございまして、その加盟団体の動物園が六十五動物園ございます。これは本部が上野動物園の中にあります。これはその数字だけで出したものでございます。それからそのほかに少なくとも二十くらいの動物園協会に入ってないプライベートな動物園があると思いますけれども、この方面の数字はつかむことができませんけれども、いまから申し上げます数字を御
参考にしていただきましたら、なるほどそういうような経路でそういうようなものが一般に流れているかというふうにお気づきになるのではないかと思います。
ライオンが、現在動物園においては二百七十五頭飼われております。その中で、昨年一年間に百七十三頭の子供が動物園において国内で生まれております。そしてやはり成育までの間に死亡がありまして、実際に生き残ったのが百三十一頭というデータがございます。トラが百四十七頭飼われております。そして四十三頭生まれて二十三頭が生き残っておるというデータがございます。アメリカンライオンと言われますピューマがございます。これが四十六頭飼われておりまして、十五頭生まれて十一頭が育っております。ヒョウが八十八頭飼われております。その中でヒョウは余り成績がよろしくなくて、二十六頭生まれて二十一頭が育っております。それからジャガーという、やはりこれはアメリカ大陸系の猛獣でございますが、二十四頭が飼われておりまして、八頭生まれて六頭育っております。チーターが五十七頭飼われておりまして、これは非常に生産成績が悪いのですが、七頭生まれて二頭育っております。クマが動物園だけで三百二十頭飼われております。そのほかに皆様御
承知の登別温泉の熊牧場に百頭以上が飼われております。これを合計いたしますと、四百二十頭以上のクマが動物園において飼われておりまして、この熊牧場のデータはわかりませんけれども、協会加盟の動物園だけの生産数量は、四十三頭のクマが生まれて三十頭残っておるという実情がございます。
以上、このほかにも猛獣あるいは毒蛇、ペットとしてふさわしからざるものはたくさんあるのでございますが、一応通例的なものをここにピックアップしたわけでございます。
しからばこのようにたくさんの動物が国内で生まれておるということにやはり何らかの措置を講じていただかなければ、黙っておったのでは結局動物園も御
承知のように入れ物に制限がございます。かといって生まれたものを殺してしまうということは動物愛護精神上よろしくないということで、実は私どもも、業者として動物を輸入するだけでなく、国内で生まれたものを他の動物園にお世話するという仲人的な役目を引き受けておるわけでございますけれども、それとてなかなか引き取り先に限度がございまして、言わば生産過剰という実情にございます。
オーストラリアにおきましては、ライオンだけを飼って人集めをしておりますライオンサファリ、ライオンパークというのが、オーストラリアだけでも東はメルボルン、シドニー、ブリスベーン、あるいは西はパースに至るまで六カ所ございますけれども、オーストラリアでもライオンが非常に生産過剰になって困っております。私はそれを昨年日本の動物園用に三十七頭買ったわけでございますが、ふえてふえて困るというのでオーストラリアでは猛獣専用のピルと申しますか、避妊薬を開発してそれを使っておるということを聞いております。国内においても恐らく避妊ということを考えるべきときに来ておるのではないかというふうに私は存ずる次第でございます。これは私ども一個人、一業者が言うことでなく、やはり行政指導あるいは高い国の御指導のもとに何らかの措置が講ぜられるべきではないかと思っております。
また、それを動物園から出す場合には、一般の家庭に出すのでなく、行き先をちゃんと追及して、動物園、研究用あるいは国際親善としての国外への輸出というような、ルートを確認をした上で出していただければそのようなことはないと思います。また、上野動物園を初めモラルの高い動物園におかれましては、現在もそのような方法をもって一般には絶対に出さないという措置が講ぜられておるということを聞いております。
それからもう一つ、先生先ほど御指摘の、一体猛獣がこれほど国内で飼われておって、もし天災地変、地震があった場合にはどうするのだという御心配をされたわけでございますが、これは国民ひとしく、皆さんも心配されておることではないかと思います。近所近辺で猛獣を飼われておったのでは、近所の方は災害の場合には一体どうするのだということはもう当然の御心配かと思います。私もこの道に三十年携わりながら、天災地変のときの処置というものを常に考えながら、脱出したらもうおしまいだ、自己の営業品目である猛獣が脱出して人身事故を起こしたらもう私の一生は終わりだというような自覚を持って今日まで取り組んでまいりまして、もし逃げたら自分が猛獣の前にはだかつてでも犠牲になるというような覚悟で臨んでまいりましたので、幸いにして現在まで一回の脱出事故も起こしておりません。
また地震などがありました場合は、私は必ず即座にその地区に電話をかけまして、実は今回の宮城県沖地震の場合にもすぐ仙台動物園に私は電話を入れましてその被害状況を
調査しております。また一月における稲取沖の地震におきましても、たまたま昨年暮れに稲取において伊豆急行の系統の放し飼いの動物園が開園されたばかりでございますので、早速情報をとっております。今回も私は仙台動物園の被害状況、それから福島県の二本松においてミニサファリと称してライオン三十五頭を放し飼いにしておりますが、ここの情報もとっております。両方とも何ら被害がなかったということを聞いて安心いたしました。
地震に関しては、いままで私は国外における大きな地震災害地においても情報をとっておりますけれども、地震が起きてから猛獣が逃げ出して人身事故を起こしたという例はいまのところはございません。それには私なりの理由があるというふうに考えております。それは猛獣を飼う場合には、いかなる災害が起きても逃げないというだけの、大きなボルトでつくった、アングルの間隔も縮めて、つぶれても中の動物は死んでも絶対に脱出しないというようなおりで飼っておる、これが動物園あるいはわれわれ専門家の常識だというふうに考えておりまして、火事になっても地震になってもいままでは逃げておりません。ただ、一般の方が大変粗雑な飼い方で飼っておられますと、これは脱走につながるものだということを、私どもは専門家としての
立場から常にもう本当にひやひやした気持ちで見ておりましたけれども、いままではそういったような指導がなされませんでしたけれども、幸い私か住んでおります横浜市において条例をもって厳しい飼育基準をつくられましたので、少なくとも私は横浜においては大丈夫だというふうに考えております。
以上、大体述べましたことが私の
参考意見でございます。