○
井手参考人 御紹介にあずかりました
井手でございます。
この
租税特別措置でございますが、
企業関係の
租税特別措置が相当ございましたが、これがいわゆる
税制の不公平の大きな原因である、こういうふうにかねて指摘されておりまして、われわれも早急にその
整理合理化を主張してまいったわけでございます。
政府当局あるいは
大蔵省におかれましては、一昨年あたりからかなり精力的に整理に努力をされまして、また今度、五十三年度におきまして十一
項目の廃止、あるいは二十六
項目ぐらいですかの縮減というようなことを御計画になっておりまして、これは私といたしましては、まことに結構なことでございまして、御努力に対して高く評価いたしたいと存じます。あと数十
項目が残存いたしておりますけれども、これは今後早急に手をつけられるようにお願いいたします。
ただ、先ほどからも御指摘になっておりますように、
所得税関係の
利子配当所得の
源泉分離選択課税制度が手つかずになっておるということは、まことに遺憾でございまして、この
制度もすでに使命は終わった。それにまた、今日は
消費需要の喚起ということが重要になっておるときに、
貯蓄増強を目的とするこの
制度は時代にマッチしない、こういうふうに思いますので、使命を終わり、また時代に適合しない、しかも
税制の不公平というところから指摘されておりますので、これはぜひひとつ廃止いたしていただきたいと存じております。
それから、これもまた先ほどから御指摘になっておりますが、医師
所得の優遇、いわゆる
社会保険診療報酬の優遇
制度でございますけれども、これも来年度、五十四年度はぜひひとつ廃止していただきたいと存じます。ある調査によれば、医師
所得の必要経費は平均いたしまして五二%ということになっておる。七二%といいますと二〇%ほど優遇されていることになっております。しかもその五二%というのは平均でありまして、医師間によって相当の開きがあるわけでございます。ですから、一律に七二%にしておくことは医師間において非常に不公平にもなっております。一律にしておくことがかえって不公平なわけです。
一般の医師以外の者との間における不公平と同時に、医師間内部においても不公平だと思います。ですから、実情に応じて医師
所得の必要経費を確認されて、そしてそれを
控除する、こういうように実態に即した
制度に直す方が医師間においても公平ではないか、私はそう存じております。これもお願いいたしておきます。
次に、
租税特別措置というのは、私は必ずしも絶対に反対するというわけじゃなくて、すでに従来の
特別措置が使命を終わっているのだから、それを整理してもらいたい。これからも新しい時世の要求によりまして
政策上どうしても必要だという
特別措置があるならば、それをやるべきだ。ただ、著しく税
負担の不公平を来すようなことはいけないわけですけれども、それを勘案しながら、必ずしも否定するものではない。しかもその
特別措置の内容が、いまからの福祉国家が要求する福祉行政、福祉
政策と内容的にマッチした
特別措置であるならば、これは非常に望ましいとも言えるわけです。ですから、
特別措置というものを、整理の方向に向かいながら中身を変えて、新しいものを必要最小限度設ける、こういう基本方針が望ましい、私はそういうふうに思っております。
それから、
税制の公平、不公平でございます。
特別措置が不公平だというわけでございますけれども、必ずしも
特別措置だけではない。これも先ほども御指摘になったと思いますけれども、たとえばいろいろの引当金
制度、これは本法
法人税法にも
規定されておりますし、
企業会計上も負債性であるということになっておりますけれども、現実にはたとえば退職金引当金のように、ある大
企業におきましては、その計上額の利用額の
割合は七、八%にすぎない。ということは、これは明らかに優遇
措置になっております。ですから、
特別措置の枠を超えまして、そういう引当金
制度の問題等々広く
法人課税の
合理化ということを
検討する、商法あるいは
企業会計
原則と
税法との関連において考えていく、こういうことが必要だと思うのです。
これは非常に厄介でございます。よく言われるように、
法人における受取配当益金不参入というのは不公平だ。しかしながら、
法人擬制説という立場から言えば、これは不公平でもなんでもないわけだ。当然のことなんだ。しかし、現実に不公平感はぬぐい切れないとなれば、このところは非常に厄介な問題だけれども、やはり各界の
専門家を集めて少し
検討していただくということですね。
租税特別措置だけでなしに、全般的に
税制、
法人税と
所得税との
合理化ということを、めんどうで厄介だけれども、もう一遍洗い直していただく時期に参っておるのではないかと私は存じます。
住宅ローン減税でございますけれども、先ほど申しましたように、新しい要求にマッチした、またその中身が福祉的な
政策とマッチしておれば、
租税特別措置に必ずしも反対しないわけでございまして、
住宅ローン減税も、そういう
意味においては私は基本的に賛成でございます。
ただ、そういうことでありますけれども、効果について言われますと、よく言われますように、実質的な可処分
所得が非常に伸びないという
状況のもとにおいて、果たしてこの
住宅ローン減税が
住宅建設に対する意欲をどれだけ喚起をし、どれだけ
住宅政策あるいは
景気回復
政策に寄与するかということになりますと、その点ちょっと疑問でございます。しかし私は、
景気政策にしましても、公共事業でありましょうけれども、いろいろ多様的な
政策が必要でありますからして、こういう
住宅ローン減税をやるという面からの
景気刺激政策、特に福祉
政策とマッチしているのですからして、こういうようなものはやるべきではないかと存じます。
ただ、内容について申しますと、最高二千万円くらい借金可能な人が、限度額が三万円プラスして六万円になるのですね。ですから、そういう相当高額の借金
能力を持った、そうしてマイホームを建設する
能力をたとえ借金にしろ持った者の優遇だということが
一つ問題なわけなんですね。
今度の
予算を見ますと、たとえば住宅金融公庫の個人住宅向け融資に対する貸付限度額を引き上げるとか、償還期間の延長あるいは元金の据え置き、そういうようなことも加わっておりまして、
住宅政策に意を用いられていることはわかりますが、その
住宅政策というのは、民間における住宅の建設あるいは取得を可能ならしめるような方向に向いているわけです。つまり、
国民経済を公共部門と民間部門に分けますと、公共部門、パブリックセクターでは、道路とか公園とか公共財が生産される。民間部門では、こういう洋服とかパンのような民間財が生産されるわけです。家というのは本来民間財なんですね。民間部門で供給されるわけなんです。それで、五十三年度の
予算案を拝見しますと、住宅金融公庫の問題にしましても、また
住宅ローンの問題にしましても、民間部門における民間財、プライベートグッズとしての住宅、家をいかにうまく建設させるかという誘導的な
政策であり、それはそれなりで一応評価できるのだけれども、しかしそれだけでは、いま言ったように土地を買う金もない、借金する
能力もないという人たち、いわば低
所得層の人たちに住宅を供給するということをはみ出ているわけですよ。そうなると、市場
経済というか、民間部門における低
所得層における住宅の供給ということになると、ちょっとこういう借金をして家を建てる人たちを優遇する
制度だけでは非常に片手落ちである、福祉
政策としても片手落ちである。
とすればどうするかというと、住宅の一部を公共財としまして、国が公共財として低利に供給するのですよ。そうして貸し付けるとか、簡単に言えば公営住宅とか公団住宅ですね。こういうような住宅は、公共財としての住宅なんで国が供給しているのですね。こういう面も必要じゃないか。こういう公共財としての
住宅建設戸数の計画数は、五十二年度よりも五十三年度は一万戸ですか減っているようでございますけれども、これは低
所得層向けの
住宅政策としては片手落ちである。
住宅ローン減税は賛成なんだけれども、それと並行して公共財としての住宅の供給ということですね。きざでございますけれども、マスグレイブという
財政学者が、こういうように公共財としての家屋の供給というようなことは、メリットウォンツ、価値欲求の充足ということを言っておりますけれども、こういうことはもう一遍反省されるべきではないか、こういうように私は存じております。
それから、公営住宅、公団住宅が少し減ったということにつきましては、
政府当局の御答弁の中には用地難であるということがあったと思いますけれども、そうなりますと、ここに
土地政策ということも問題になってまいります。それと関連いたしまして、土地譲渡益重課
制度の改正ということがございまして、これも私、基本的には反対する意は持たないわけです。ただ、適正
利益率が二七%ですか、それを適正価格ということにしますと、適正価格をどう決めるかということによっては、従来の適正
利益率二七%を超えるものでも、売買において知事の
許可とか勧告というものが必要でない、自由になるということになる。かなり自由な範囲が出てくる。だから、宅地供給ということになって
住宅政策としてはプラスである、こういうことですけれども、しかしまた考えますと、それは非常に野放しになりまして、何でもいいから宅地を売って、マッチ箱みたいなものをずらりと無計画に宅地が造成されていく、しばらくすると、それが矛盾を来して、もう一遍やり直さなければならぬということになるので、ある程度
住宅政策というものは計画性を持たなければならぬということと矛盾しはせぬか、こういう気がいたします。ですから、私正直言って、適正
利益率というものをやめまして適正価格にするということが果たしていいか悪いかということになりますと、正直のところ、いろいろ判断に苦しんでおる、こういうような
状況でございます。
土地政策につきましては、土地所有権の
制度はあくまでも尊重するとともに、利用権というものについてある程度制約すべきであるという
意見がかなり出てきておるわけでありまして、利用権のある程度の制限ということは、別に資本主義社会における私有財産
制度の根幹を揺るがすものではない、私有権はあくまでも尊重するということでありますから。もっと根本的に
土地政策については考える段階に来ているのではなかろうか、こういうふうに存じております。
投資促進税制、これも基本的には賛成でございます。
こう言うと、何でも賛成というようになりますけれども、やはり先ほども申しましたように、
景気政策を、公共事業を
拡大するという、公共事業一辺倒というよりも、いろいろの角度から、つまり
景気政策の多様性ということですね、そういう
意味においては、さっきの
住宅ローン減税だって一翼をあれする。
投資促進税制もそういう
意味においては一応評価できる。ただし、
住宅ローン減税と同じように、それが果たして実効がどの程度あるか、やった方がいいかもわからぬけれども、ということになりますね。それは基本的には、五十三年度における
政府の
予算案に対する取り組み方、今後の日本
経済をどう持っていくかという、そういう基本的な姿勢というものがはっきりしていないと、
住宅ローン減税にいたしましても、それからまた
投資促進税制にしても、内需
拡大効果というものが必ずしも出てこないんじゃないかという、こういう気がいたします。
この
不況は、あるいは相当続くかもわかりません。五十三年度の
予算は、臨時異常でございましたか、臨時異例でございましたか、言葉はちょっと忘れましたが、
予算編成方針にそういう表現があったと思いますが、私は、この臨時異例という言葉に何かこだわるわけですね。この五十三年度だけでああいう公共事業をふやす。じゃ、五十四年度からはどうか。ある程度腰を据えて
景気対策に打ち込むということをすれば、設備投資意欲もわき起こってくると思うのです。ただ、五十三年度だけが臨時異例でこういうことをやるんだ、そして五十四年度からはぱっと
財政の節度に切りかえていくんだということになると、また先すぼまりになりはせぬかという気もいたします。腰を据えて
不況克服の
政策というものを、ことしの
予算案が臨時異例じゃなくて、
景気が直るまで今後もある程度続くんだ、そしてこういうような日本
経済に持っていくんだという青写真をお示しになるということが必要で、それがないと、せっかくの
投資促進税制というものも効果が薄れていくのではないかと思います。
景気政策の多様性という点から言いますと、
投資促進税制は適用範囲を広げる方がより効果があるんじゃないかという気がいたします。しかし、また他面から言うと、
特別措置でありまして、
税制の公平、不公平という点から言うと、余り広げるべきではない。つまり、適用範囲を
拡大すべきかある程度に抑えていくかという、この辺のところが慎重な勘案のしどころだろうと存じます。
それからまた、一部に声があったと存じますけれども、中小
企業の
税額控除比率というものをより高めていく、大
企業よりも高めていくということで、中小
企業政策もここに組み入れる、こういうような
措置もできれば望ましいのではないか、こういうように存じております。
もう時間がございませんが、タックスヘーブン
対策税制、これも賛成でありますし、中小
企業対策、これも賛成でございます説明は省略いたしまして、
最後に、簡単でございますけれども
国税収納金整理資金に関する
法律の一部改正でございます。
今日は、
予算制度といたしましては、会計年度独立の
原則ということがありまして、これは民主的な
予算制度として非常に重要なものだろうと思います。ですから、現金主義でいま
一般会計は経理しておりますので、三月三十一日までに入ったものをその年度の
支出の財源に充てなければならぬわけなんですね。それを越えたならば次の年度の財源に充てるわけなんです。ただ、機械的に三月三十一日でぴたっと区切るということは、事実上事務上もできないし、また円滑な
財政政策の執行にも支障を来すわけです。年度末になって非常な
財政資金の乱費が行われるというようなこともございますし、それも避けなければならぬし、あるいは事業を行っておってぴたっと三月三十一日で打ちとめるというようなことにもなりますので、やはりある程度の整理期間が必要だ。だから、四月三十日までという必要最小限度の現金収支の整理期間というものを設けてあるのです。
これは必要最小限度であって、大体会計年度独立の
原則からいってこれが最大限度じゃなかろうか、会計年度独立の
制度に違反しているわけですから。それを五月いっぱいまで延ばすということは、せっかく戦後の
憲法、
財政法によって確立した民主的な
予算制度、従来の
予算制度よりも民主的な
予算制度というものができておりますのに、これをお崩しになるということは、非常に残念であると同時に危険でもあるというふうに存じます。
それからまた、そういうことによって
公債依存度が三七%じゃなしに三二%になるということかもわかりませんけれども、それは無
意味だと思うのです。
公債依存度が三七%になってしまったのならそれでいいわけで、そういう現実を
国民に示して、そして、かくのごとく
財政は危機である、だから
増税をしなければならない、こういう危機感を
国民に訴えるためには、むしろ三七%がいいわけなんです。それをわざわざこういうような
措置をとって、形式的には
公債依存度は三二%である、従来の歯どめライン三〇%をただ二%しか超えてないというように工作をするということは無
意味である。むしろ堂々と三七%ということでこれを
国民に訴えて、そして
国民の判断を請う、こういうことが望ましかったのではないか、私はそういうふうに思っております。