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伊木参考人 ただいま御
紹介いただきました
伊木でございます。
いままで四人の
参考人の方々がそれぞれ御
意見を申されましたけれ
ども、
保安に対する根本的な考え方というのは恐らくどなたも違っていないというふうに私は考えております。そこで、私、平素
炭鉱保安につきまして考えておりますことを
お話し申し上げてみたいと思います。
まず、
保安とは一体どういうことなのかということでございます。
保安は、
災害の発生を予防し、あるいは万一
災害が発生した場合でもその被害を最小限に抑えるということが目的でございます。こういう言い方をいたしますと、
炭鉱には
災害がつきものであるというように聞こえるかもしれませんけれ
ども、決してそういう意味ではございません。われわれは、
炭鉱から
災害を
絶滅することを目標にしましてあらゆる
努力をしなければなりませんし、また
努力をしておるわけでございます。しかし、どんな
産業でございましても、あるいは社会におきましても、全く
災害をなくすということはとうてい人間のなし得ることではございません。たとえ
災害を予測し、それに対して十分な
対策をとったといたしましても、ちょっとした欠陥が
原因で
災害を起こすことがございます。また、
一つの欠陥だけであれば余り問題にならなかったはずであるのに複数の欠陥が重なり合って大きな
災害につながる場合が多いのでございます。ことに、
坑内の
作業は、自然に対抗しまして岩盤を掘削するもので、
自然条件いかんが
作業の難易に大きな
関係を持っております。しかも、
自然条件と申しますのは、地域的にも時間的にも、始終変化することが多くて、
作業の機械化が困難で、人力に依存することが多いわけでございます。したがって、それだけ危険性の高い
作業が多くなるということも否定できないかと思います。
坑内は、一般の工場と違いまして、地下という特殊条件がございまして、これが
災害発生の
原因の
一つになっているということも事実でございます。すなわち、
運搬災害とか酸素欠損のほか、
落盤、自然発火、
ガス突出、山はね、爆発などの発生する危険性をはらんでおりまして、これらは
炭鉱の宿命的危険性と言わざるを得ないと思います。この宿命的な危険性に対しましては、それぞれ各種の
技術対策が講ぜられまして、もちろんまだ完璧だと言うことはできないと思いますが、常にその
改善に
努力しているものでございます。今後、
坑内の
深部化が進むに従いまして、これらの
対策はさらに
強化、
改善していく必要があることは言うまでもございません。
炭鉱の
坑内で
保安優先、
人命尊重を
基本理念とすべきことはもちろんでございますが、
坑内作業には
生産と
保安とに区別できないものが多くありまして、両者を両立させなければ意味がございません。
坑内災害をなくすだけのことであれば、これは
坑内作業を中止してしまえばそれでよいのでございます。
坑内をできる限り安全な
状態に保ちながら
作業をするのが
坑内作業であり、
保安作業であると思います。
生産作業がほとんど
保安作業を伴いますし、
保安作業はすべて
生産作業につながるものでありまして、
生産と
保安とは常にバランスのとれた
状態でなければならないと思います。また、各機械
施設は安全なものでなければなりませんが、各自の安全は自分で守らなければならないと思います。すなわち、機械を安全確実に運転するための安全装置は完備させておく必要がありますが、この機械の取り扱いあるいは誤った接触などについては、各自が注意する以外にはないかと思います。もちろん、誤って機械に接触しないように覆いをするなどといったようなことも結構なことでありますが、余りに人間を過保護にすることは、すべてのものが完璧であるということになって、かえって人に油断を与えることになるのではないかというふうにさえ考えられるわけでございます。
いかなる
坑内の
災害でも、何らかの人的
原因がもとになっているというふうに考えられます。しかも、その人的
原因としては、いわゆる
管理職から
末端作業員に至るまでのだれかの無知あるいは無理あるいは油断によるものが大部分であろうかと思います。
災害が発生しますと、よく不可抗力というような言葉が使われますが、それはその当時の
技術としては予測されなかった
事故だというだけでありまして、結果的には事前にある処置をしておけばよかったということがしばしばございます。その
対策技術は、なかったのではなくて、事前に気づかなかっただけで、不可抗力とは言えないかと思います。
従来、
基礎研究は
大学及び国立研究所において、実用化研究は主として
石炭技術研究所において行われ、さらに各
現場がそれを応用して
現場適用化を図っておるわけでございます。しかし、
基礎研究はとかく理論が先行して実用化との結びつきが薄いものがございます。それは、
基礎研究をやる場合には条件を単純化して実験を行うというのに対して、
現場の
状況というのは複雑でありまして、実験データがそのまま
現場の
状況に適合しない場合が多くあります。
大学などでももっと
現場の
問題点を把握して、その目的に沿った
基礎研究を行う必要があるかと思っております。また、実用化試験におきましても、すぐに役立たないものは失敗であるというようなことで見捨てられてしまう場合が多くありますが、もっと
現場適用化についても
改善する
努力を
技術者自身がする必要があるかと思います。言いかえますと、
大学、研究所などの研究者と
現場技術者との相互連絡を密にしまして、研究の目的、方法、
成果等を
検討するように
努力すれば、それだけでも一層の効果を上げ得るものと思っております。
それから、最近
保安の
管理体制についていろいろ問題が提起されておりますので、そのことにつきまして一言触れさせていただきます。
坑内では上席係員その他
保安専任係員が適時巡回し、
保安点検を行っておるわけでございまして、その他
保安監督員、同
補佐員、また山によっては
保安委員が巡回し、
サイドチェックを行って、いわゆるダブル
チェックシステムというものが採用されて二重三重の
チェックが行われております。その上さらに鉱務監督官による巡回検査もかなり頻繁に行われているように聞いております。ところが、この二重三重の
チェックがあるためにかえって他人の
保安点検に頼り過ぎるようになる場合があるのではないかというような気もいたします。また、各点検者が自分だけ承知しまして相互の連絡が悪いために総合的な判断に誤りを生ずる場合もあるように思われます。ダブル
チェックももちろん必要でございますが、コミュニケーションをもっとよくして、各自が必要に応じて自分みずから点検をし直すという労力を払う必要があるかと思います。
それから、
保安教育について一言申し上げます。
係員、
作業者を問わず、新規採用者に対しては
関係のある
作業について実技
教育を行って、
作業者にはある程度の繰り返し
作業を実際に行わせて習熟させ、係員に対しては、ある程度それ以上に広い範囲にわたって
作業の主要ポイントを会得させるような実技を習得させる必要があるかと思います。そのほか、
災害事例教育というのも
一つの有効な手段かと思います。
以上申し上げましたように、
坑内の
作業では何よりも
保安の
確保が大切であることは言うまでもありません。
保安優先の
作業でなければなりません。
保安対策は、大綱においてはどこの山にも共通するわけでございますが、細部に至ってはこれを画一的に
規定することはかえって
保安の
確保を困難にするものだと思います。常に山の幹部は、自分の山の特性を把握して、各方面の経験を
参考にして独自の
保安対策を立てる必要があります。そのためには、
保安統括者から
末端の
作業員に至るまで相
協力して、みずから
保安を守るという精神を徹底させることが最も大切なことだというふうに考えております。
以上で私の
意見を終わらせていただきます。