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千葉参考人 私は、この
法案の対象
業種の筆頭に挙げられております平電炉の
労働者を組織する
組合の
立場から、この数年来つぶさに体験をし、あるいは見聞きしてまいりました事実に即しまして、
意見を申し上げたいと思うわけであります。
まず、初めに結論を申し上げさせていただきますと、私どもとしましては、平電炉業を今日の
構造不況から早く脱却をさせて、
産業の再建と残された
労働者の
雇用の安定を図るためには、
過剰設備の
廃棄が何よりもいま必要であり、しかもそれは、この
産業の疲弊の
状態あるいは非常に根強い過当競争体質というものからいたしますると、
企業の自主努力だけに任せておったのでは、とてもじゃないけれどもなかなかこれは実現をしないと
判断をしておるわけでありまして、ぜひともここで国の強力な指導と支援をこの
設備廃棄に関してお願いをいたしたい。したがいまして、これを法的に裏づけるところの本
法案をぜひとも一日も早く今国会において成立をさせていただきたい、これを強く希望しておるというのが私どもの結論的な
立場でございます。
御承知のように、平電炉業と申しますのは、石油危機を契機といたしましてさま変わりに実需の
構造的な減退を受け、非常な
需給ギャップを生じてしまったものでございますから、非常な
構造不況に陥りましてすでにまる三年を過ぎ、四年目に入ろうとしております。この間、
企業は大変な累積赤字を出し続けておりまして、東証第一部上場の主力
企業ですら、すでに過半数が債務超過という準倒産
状態に陥っているということでございます。
この間、
労働者がこうむった苦しみというものは、これは言葉に尽くせないものがございます。大量の失業、賃金が抑制されて物価上昇との
関連で実質生活がどんどん落ちておる、こういう
状態でございます。人員
整理だけをとりましてみましても、私ども鉄鋼労連が把握している限りで、昭和五十年の六月からことしの一月までの約二年半に、全員解雇が六件約千百人、希望退職の募集が二十八件、約三千九百人、合せて五千人の人を結局
雇用調整の対象にせざるを得なくなりました。平電炉業全体で見ますると、同じ期間で、
下請関係を含めまして、恐らく一万一千人が離職せざるを得なかったと見ております。これは、五十年四月現在の在籍人員四万五千人に対しまして、実に四人に一人が結局離職をさせられたという
状態でございます。
もちろん、
組合としましては、この間全力を挙げて
雇用調整の人員の枠の圧縮だとかあるいは大幅な退職金の支給等の退職条件の改善などをやってまいったわけでありまして、一定の成果はそれなりに上げてきたわけでございますけれども、結果としてこれほどの大量の離職を余儀なくさせてしまった根本
原因は、何と申しましても、余りにもこの
産業の
不況状態が深刻かつ長期にわたっておりまして、倒産、全員解雇を覚悟するか、しからずんばある程度部分的な
雇用調整をやって
企業を存続させて
最大多数の幸福を貫くか、このどちらかという二者択一の選択に迫られまして、かくてやむなく
産業の再建等による
最大多数の
雇用確保を優先させざるを得ない
立場から、希望退職そのものについてはこれをある程度受け入れる、そして
内容を是正させる、こういうことをせざるを得ないというのが実情でございます。
このような犠牲を私ども払いながら、あえて
産業の再建と残る者の
雇用の確保を求め続けてまいっておるわけでありますけれども、この前途自身が大変まだ非常に不安定である。その
最大の要因は、言うまでもなく巨大な
過剰設備の存在ということであるわけであります。
平電炉の
設備能力と申しますのは、昭和五十二年末現在で粗鋼換算で約二千百万トンと見られます。これに対しまして、現在の生産はせいぜい年率で千四百万トンそこそこで、七百万トンの巨大な
設備余剰がいまあるわけでございます。しかもこれが一体いつまで続くか、今後とも長期にわたって
解消する見込みはないわけでございます。
昨年の二月に発表されました平電炉基本問題研究会の報告によりますと、いまのままで
設備能力を抑えたとしても、昭和五十五年度においてなお三百三十万トンないし五百三十万トンの
需給ギャップが残る、こう言っておるわけでありますけれども、これは実は平電炉の主製品である小棒と
中小形形鋼につきまして、五十五年度の需要量を五十二年度の実績見込みに対して最低でも二八%、多い場合は四四%伸びるという、実は結果的にはそういう計算を
前提としての算定なんでございます。一年前にこういう
判断があり得たのだが、すでにその後さらに
状況が悪化して、いまとなってはこれは非常に過大過ぎる見通しである。過大過ぎる見通しを
前提として三百三十万ないし五百三十万トンの余剰がある、こういうことでございますから、
実態はもっとこれを上回って、長期にわたって
設備過剰は残り続けるのではないかと考えられるわけであります。
典型的な市況
産業でございまして、かつ非常に過当競争体質の強い平電炉の場合には、こんな巨大な
過剰設備の圧力のもとでは、とてもではないが、長期に見ての市況の安定と採算のある程度の回復というものは期待できるわけがないわけでございます。しかもこの
産業は、非常に巨大な累積欠損を抱え、超過債務を抱えておる。そして現状すでに
企業体力が疲弊の限りを尽くしておる、こういう
状況でございますから、この
産業が安定し、
雇用も安定するためには、今後長期にわたってある程度採算性の維持が図られなければならない、こういう
状態にあるわけでございます。
もっとも、ここへ来まして平電炉業の市況は多少回復をいたしております。トン当たりで五万二千円ぐらいだったものが六万二千円ぐらいに、約一万円ぐらい回復をしておる。もちろん反面でくずが上がっておりますから、利ざやはさほど伸びてないわけでありますけれども、どうにかやっとフローでの採算線に乗り始めておるという
状況がいまのところ生まれておりますけれども、これはもっぱら小棒工業
組合による非常に厳しい約五割近い生産抑制を
前提として初めて生じておることでございまして、一たん何らかの事情でこの生産調整そのものが停止ということになりますると、苦しい財務
状態で、そうして減産のコスト負担にあえいでおりますから、個別
企業がいまとめておる
設備の再投入を含めましておのおの自身が過度な生産拡大に走る、結果としてたちどころに市況は暴落し、どろ沼市況へ逆戻りするという
状況になるであろうことは、これは明白であると考えられるわけであります。
こういう事態を避けながら、本当にここでこの
産業の再建を軌道に乗せてしまうためには、現在一応休止
状態に置いている
過剰設備というものを、この小棒工業
組合による生産調整が維持し得られる間に、早く明確に
廃棄、持ち込んで、
需給不均衡の根源を
構造的な面からしっかり是正をしていくということがどうしても必要であるわけでございます。
ところが、この
過剰設備の
廃棄というのは、
業界の圧倒的多数自身もが基本的に
合意しているにもかかわらず、その実際の
実施になりまするとどうもはかどらないというのが
実態でございます。
その理由はいろいろあろうかと思いますけれども、主要なものとしましては、
企業の財務
処理上これは非常に困難である、債務超過でもってバランスシートが崩れているときに、さらに
設備を、資産を落とすということは大変むずかしい。しかもそれに伴っては当然資金が要る、こういったことがまず大きな問題でありましょう。
それからもう
一つは、やはり
業界の過当競争体質でございまして、うちはやってもいいが、よそは果たして一緒にやるであろうかという疑心暗鬼が非常に根強いということがもう
一つの
原因でありましょう。
こういうことによりまして、この
業界の自主的努力だけではこの一番いま求められている
廃棄のタイミングを失してしまって、うかうかしておりますと結局時期を失って、この
産業の再建そのものが挫折をするというおそれが目下のところきわめて強くなっておると私どもは
判断をするわけでありまして、どうしてもここでこの法の裏づけによる
政府の強い指導と支援が必要とされるわけでございます。
なお、このような行き方に対しまして、今日、たとえば
業界過保護であるとかあるいは市場自由経済の根幹を脅かす統制的な方法であるとかいう非難が投げられておるわけでありますけれども、石油危機というのはまさに昭和大恐慌に匹敵する巨大な驚くべき経済変動であったわけでありまして、このような異常事態が起こったときには、当然のことながら、
政府たるものが特別立法によって国の強力な支援と援助というものを民間経済に立ち直るまでの間与えるというのはあたりまえなことではないだろうか。しかもこれはあくまでも緊急避難として時間的な制約を持ってなされるものであるわけでございますから、そうであるならばこれは自由経済を脅かすという非難も当たらない、こう考えるわけであります。
以上、いろいろ述べたわけでございますが、具体的にこの
法案を見ますると、なお幾つか、二、三お考えいただきたい点がございます。
その
一つは
雇用対策面の充実であります。
設備廃棄に当たって当然
雇用安定に配慮を払わなければいかぬということは、
法案中にも一応は書いてあるわけでありますが、何と申しましてもウェートが小さく、かつ抽象的な感は免れないわけでありまして、これをより
具体性あるものにするために、たとえば本
法案に依拠しての
設備廃棄については
事前に
労働組合との
協議を
企業に義務づけるといったような点はぜひ考慮いただきたい。もう
一つは、
関係審議会等への
労働組合代表の
参加もぜひ御考慮いただきたい。
いま
一つの大きな問題は、
設備廃棄ないし新増設規制の
共同行為に際してのいわゆるアウトサイダー規制の
実施でございまして、これにつきましては大変むずかしい問題と思いますけれども、
過剰設備廃棄を真に実効あらしめるためにはこれは非常に必要なことであって、ぜひともまげて御検討いただきたい。
以上が具体的な要望
意見でございますが、何としても、何よりもお願いしたいことは、本
法案を今国会においてぜひとも、これは角をためて牛を殺すようなことは避けていただきたい、早期に成立させていただきたいということが一番のお願いでございます。特にわれわれ平電炉といたしましては、
産業再建によって
最大多数の
雇用を維持しなければならぬということをよくみんなが理解し合うからこそ、
構造改善が必要であることを理解するからこそ、耐えがたきを耐えて、この際譲れるものは譲るという形で、職場を一万一千人が去っていっておるわけでありまして、この人たちの犠牲を無にしないためにも、ここでぜひともこの根源をなすこの
設備廃棄をきちんとやっていただけるような御配慮をお願いしたいことを特に申し上げたいと思うわけであります。
なお、私どもは、この
法案は、今日なされるべき数多くの
構造不況産業対策のうちの、特に法の裏づけによって緊急的になすべきことに特に
産業間
共通の問題に限ってとりあえず打ち出したものだという理解に立っておるわけでありまして、これはこれとして、今後
政府が必要とされる多くの
産業政策、たとえば平電炉について申せば実需の積極的な拡大策、あるいはくず鉄価格の安定などといったような事柄でございますとか、それから
雇用安定のためのいろいろな諸
施策、こういうものをさらに
強化することを当然のこととして求めたいわけでありまして、それを
前提にこの
法案の早期成立をお願いしておるのだということをつけ加えまして、私の
意見を終わらせていただきます。