○
土屋参考人 土屋でございます。御
承知のように、NHKは報道機関としての
立場と公共機関としての
立場がございますが、私は報道機関としてのNHKの
考え方という点を中心に申し上げたいと思います。
昨年四月、東海
地域判定会が発足するに当たりまして、私
どもはいろいろな角度からこの問題をどう扱うべきかという点について検討を進めてまいりました。放送がこの
地震予知情報を扱う場合に果たす役割りというものはきわめて大きいものがございますし、私
どもはその責務は非常に大きいと思っておりますが、同時にまた、さまざまな問題もあるということが明らかになってまいりました。
地震予知が可能になりますれば、多くの
生命、
財産を救うことに役立つということは自明の理でございます。したがいまして、
地震予知が現実性を帯びてくるということはきわめて結構なことでございますけれ
ども、反面、絶対確実な
地震予知というものがないということも、また現在においては現実としてあるわけでございまして、その点でこの情報の取り扱いというものが非常に微妙なものを持っておりますし、また先ほ
ども幾人かの
参考人から
お話がありましたように、
空振りに終わるということもあります。したがいまして私
どもは、この
地震予知というものが
社会的に非常に大きなインパクトを持っており、それが有効に働けば非常に効果はありますけれ
ども、その扱いを誤れば
地震の発生前に大きな混乱を起こすということも
考えられるわけでございます。したがいまして、
地震予知の伝え方、情報の伝達ということが実はきわめて大きな問題だと思うのでございます。
私
どもは、この
予知情報というものの一番大事なことは、
国民に十分理解され、一体それがどういう
意味づけを持っておるのか、どういう位置づけであるかということが明確に受け取れるような形になることが一番望ましいことではないかと思っております。私
どもは、これまで検討いたしまして一番むずかしいと
考えたことは、こういう
地震予知情報をどのように正確に、速やかに、かつ混乱を起こさないで伝え得るかということでございまして、その
意味でいろいろな議論をいたしましたし、世論調査等もいたしました。基本的には、情報を出す側と伝える側、それからそれを受け取る側というものの間に、ある種の約束事ができる必要があるだろう。たとえば情報をどこが、どういう責任で、どういう形で出すのか、またどういうふうな形でもって具体的にどういう体をなして伝えられていくのか。それからいろいろな機関や伝達経路を経て伝えられる情報が整合性を持っているということが必要である。このような原則の上に立ちまして、できるだけ早く、できるだけ正確に、かつまた繰り返し伝えることが情報による混乱を防いで
予知情報を防災に役立てる基本ではないかというふうに
考えております。
この点では、本
法案を見ますと、情報に関連する部分が少ない点もありますし、また明確でない点もあるかと思います。今後実施の段階でこれらの点は明らかになると思いますけれ
ども、以下その点を私
どもの見方から具体的に申し上げたいと思います。
地震予知情報について、
法案の中で取り上げられていないものと取り上げられているものとございます。取り上げられていないものとして私
どもが
考えておりますものは、
地震予知判定会招集以前の段階というのがございます。もともと、先ほ
ども山本知事が御指摘になりましたが、
判定会自体は本
法案の中で全く触れられておりません。
予知情報のもとの根であるところがあいまいである。この点は今後の
予知体制の強化とともに明確になると思いますけれ
ども、少なくとも報道機関にとりましては、この点は今後の問題としてはやはり残ることになります。
地震の事前の異常値の
観測等々は当然報道機関としては注意深く取材しなければならない点でございます。現段階では、報道機関はそれぞれ独自の判断でこれを報道するということになります。私としては、この種の情報なり報道については、情報による混乱を起こさないような慎重な配慮が必要だと思います。しかし逆に言いますと、そのために情報を隠すということはかえって無用な混乱を起こすのではないか。先ほど申し上げましたように、むしろ物事を正確に伝えるということを前提として
考えていくべきではないかと思います。
次に、これも
法案の中の規定にはないのでございますけれ
ども、
判定会を招集した時点でどうすべきかという問題がございます。事の緊急性と重要性から、報道機関としては当然これは速やかに報道すべきであるというふうに
考えます。防災サイドでは、判定結果が出る前に報道することは混乱を招くのではないかという懸念があると聞いております。これは、防災機関の末端まで情報が伝わらないうちに情報が流れるということとか、
判定会の白黒が決まらないうちに情報が出るということに非常に心配をされていることかと思います。しかし、私
どもは、この情報はできるだけ正確に伝えること、そして
事態をできるだけ的確に
国民大衆に理解してもらう、あるいは
認識してもらうということが混乱を避ける要諦だというふうに
考えております。したがいまして、この種の情報を報道機関に対して隠すべきではございませんし、また実際に隠しおおせるものでもないと思います。むしろ不正確な情報漏れとか不明確な伝わり方こそが混乱やデマを招くものというふうに
考えております。その原則に立ちまして、今後どのような発表形式をとるのかなどについて、具体的なことについてはさらに綿密に詰めていくことが必要かとも
考えております。
次に、
法案の中に取り決めてある部分といたしましての
予知情報がございます。
法案の中では、
予知情報そのものは気象業務法の改正によって位置づけられておりますけれ
ども、少なくとも法的に最初に公にされるというのは、総理大臣による警戒宣言であるというふうに理解されます。私は実は、失礼な言い方かもしれませんけれ
ども、
予知情報というものはかなり専門的かつ科学的なデータでございますので、緊急性の判断とかあるいは閣議を開いてこれを決めるというようなプロセスがどういうことになるのか、正直のところよくわからない部分もございますが、いずれにしましても私
どもが一番重要だと
考えておりますのは、警戒宣言や関連の情報が責任の所在を明らかにして遅滞なく出されるということであろうと思います。さらに、その警戒宣言や関連する
予知情報等が具体的にどういう内容であり、どういう表現であり、さらに言いますと、どういう文章とかどういう用語を使うのかというようなところとか、さらに発表の時期とか方法等が問題になるのであります。もちろんこれらの点はさらに詰められると思いますけれ
ども、こういうことが
国民に十分理解されるような内容なり形になることが望ましいと思っております。われわれの
経験でございましても、日常の天気
予報についても長年
気象庁等と話し合って、わかりやすい用語をどうするか、どういう言い回しがいいかということを積み重ねてまいっております。逆に言いますと、表現とかあるいは発表の形式、時期等が的確でありませんと、混乱を起こすという
可能性があるということでございまして、これは先般
静岡県で起こりました余震情報をめぐる混乱の例からも明らかな点ではないかと思います。
それから次には、警戒宣言が発表された後でどのような情報が出てくるかという問題であります。警戒宣言というのは言うなれば非常宣言というふうに受け取れますし、一般の
住民は引き続き的確な情報を早く知りたいというふうに
考えます。警戒宣言を出して補足的な
技術説明をするというだけでは満足しないであろうし、言いかえますと、情報の飢餓
状態に置いておきますと、ちょっとしたデマや誤解等が引き金になりまして情報パニックというものを起こしかねません。これを防ぐためには、きめの細かい行動基準を含めた
予知情報のマニュアルといいますか、手引きをつくっておく必要があると思います。現在、NHKの場合でございますと、暴風雨とかあるいは
地震等の場合には、防災機関と十分に打ち合わせまして行動基準をつくって実際の防災報道に役立てております。
地震予知の場合もこのようなマニュアルをつくることは、なかなか困難性もあろうかと思いますけれ
ども、ぜひとも必要ではないかと思っておるわけでございます。
次に、先ほ
ども申し上げましたけれ
ども、情報の整合性という問題がございます。報道機関と
行政あるいは防災機関とがそれぞれの情報の流し方をするわけでございますし、また時間的なずれもあるかと思います。しかし、少なくとも情報そのものについてはずれがあったり食い違いがあったりしてはならないと思います。また時間的なずれにつきましても、私
どもの
考えでは、このような時間的なずれは、どういう形で
行政なりあるいは防災機関が
体制づくりをしておるのか、あるいはいまどういう手順で事が運んでいるかということが明確に伝われば、かなり混乱というものは避けられるのではないかというふうに
考えております。その
意味から、先ほど申し上げましたように、情報はむしろ積極的に出していって、理解を求めるという形にすべきだというふうに思っております。
また、これと関連しまして、たとえば深夜に警戒宣言が出る場合等もございます。私
ども、現在、放送終了後に、
地震とか津波の場合には新しく放送の電波を発信しまして伝えるわけでございますけれ
ども、これは
地震が実際に起こっているという時点で放送を出すわけでございますから、一般の
方々はその
事態を
承知の上でスイッチを入れてくださるわけでございます。しかしながら、真夜中でございますと、しかも事前に、まだ
地震が起こっておらない時点で
予知情報を出す、あるいは警戒宣言が出ても、これはなかなか一般に伝わり切れない部分がございます。この点は、防災機関の広報車なりあるいは有線放送等々のバックアップと申しますか、そういうものとの連携の中で情報を伝えていく必要があろうと思います。ただ、広報車等々が情報を伝える場合に、情報がとぎれがちになりまして、あるいは断片的になったりして誤解を招いて、逆に混乱の原因になるというようなことも、先般の
静岡でもそういう例があったと聞いております。
以上、私は報道機関という
立場で
意見を申し上げましたが、指定公共機関という
立場もございますので一言触れておきたいと思いますのは、今度の
法案が、指定公共機関への指示とか要請とかというものを
災害対策基本法の準用というような形で行うという趣旨になっておりますが、当然のことではありますが、万が一にも
法律の拡大解釈等によって運用を誤るというようなことのないようにということをお願いしたいと
考えているわけでございます。
地震予知につきましてはいろいろ問題がございますけれ
ども、私
ども放送をやる
立場ではこの問題は避けて通れない問題であり、今後
観測体制なり
予知体制なり、全体的な
体制の強化とあわせまして、これについては積極的に取り組みたいというふうに
考えております。
以上でございます。(
拍手)