○山本
参考人 時間の関係もございますので、簡単にお礼を申し上げたいと思います。
今回の
伊豆大島近海の
地震の
被害者を代表いたしまして、被災県の知事として、政府並びに国会の先生方の
調査、あるいはもろもろの対策を直ちに講じていただきましたことに対して心からお礼を申し上げる次第であります。
さらにまた、全国知事会の
地震対策特別
委員長といたしましては、政府におきましても
地震対策立法を考えられておられる、また国会の先生方も重大な関心を払っていただいておりますことに対して、心からお礼を申し上げる次第であります。
まず最初に、今回の
地震につきまして、その特殊性について御認識をいただきたいと思います。
第一は、地すべり、山崩れ、落石等が多発いたしまして、そのために民家が埋没いたしましたり、道路、鉄道が寸断されたりしたという災害でございます。直接の
地震動によります家屋の倒壊はほとんどございません。また、住民の努力によりまして、ちょうどお昼ころであったわけでありますけれども、火災は全くゼロであったということであります。後遺症といたしましては、災害で査定を受けられるかどうかわからないようなたくさんの浮き石あるいは亀裂、山崩れ等が残っておるのでありまして、これらの危険にどう対応をするかということが今後の問題でありまして、御理解をいただきたいと思うわけであります。
それからもう
一つは、先ほど先生からお話がございましたが、
断層の延長線上に
被害が大きいという問題でございます。
東伊豆町の稲取の海岸付近の旅館は、外から見ると大した
被害でないようでありますけれども、ちょうど
断層の真上にあったようでありまして、非常な
被害をこうむっております。
さらに、その延長線上に伊豆急のトンネルのあの大災害があるわけでありまして、その延長線上に見高入谷の大きな山崩れがあり、ことによりますと、その延長線上で天城峠から河津町の梨本に至る六キロの間で二十数カ所の崩壊という問題と結びついたものかとも思う次第であります。
第三の特徴は何かと申し上げますと、二十五名の人命を損傷し、重軽傷者二百五名を出し、全壊八十九棟、半壊五百三十七棟、一部損壊三千七百九十一棟ということでございますけれども、不幸中の幸せというべき点がございます。あと数分おくれたとしたら、伊豆急はトンネルの中に入っていたかもしれません。あの時点で七列車走っていたわけでありますから、全くの無事故であったということは非常にラッキーであったとも言えるわけであります。また、時間が零時二十四分でございましたから、あの梨本から天城峠に至ります六キロの間に二十数カ所の崩壊がありましたのに、自動車の人命の災害が少なくて済んだ。これがもし三時ころであったといたしますと、二日続きの連休の前日でありますから、恐らくあの間に数百台の車が入っていただろう、したがって、はかり知れざる災害につながったのではないか、こういう点で不幸の中でもラッキーな点があったということでございます。
さらに次の問題は、実はこのたびの
地震は、直接
被害も公共土木で百四十三億、商工関係で八十四億、農地、林務関係で六十一億、合わせて二百八十八億、それを含めて
被害総額が現時点で三百十二億に上っております。ところが、直接
被害だけではなしに、実は間接
被害という問題にぶつかっているわけであります。先ごろ連休がございましたけれども、その際、直接激甚な
被害を受けました東伊豆町の伊豆熱川あるいは稲取温泉には観光客も見えてくだすっておるのでありますが、伊豆急が不通でありますためにバス連絡をやっております。そのために、直接の
被害は少なかった下田、南伊豆町、西伊豆等は実は間接
被害がはかり知れざるものがあり、伊豆急の開通が六月半ばをめどにいたしておるのでありますから、恐らくは五月の連休もその間接
被害はさらに続くものと考えざるを得ない、こういう点があったわけであります。
さらに、もう
一つの問題は、この伊豆
地域は四年間に、
場所によってウエートの違いはありますけれども、三回の
地震に見舞われておる
地域であります。
昭和四十九年の伊豆沖
地震、それから
昭和五十一年の河津
地震、それに今回の
地震でございまして、四年たたない間に三回の連続の災害を受けている、こういう点が非常な特徴と言えるかと思うわけであります。
次は、持越鉱業所のシアン鉱滓の流出の問題でございます。もう先生方御承知のように、土石を含む約八万立米が実は持越川に流出をいたしまして、狩野川及び駿河湾の一部をも汚染したという事故でございます。
幸いにして、上の土石の置き場は、第一扞止堤が五月末、第二扞止堤が四月二十五日に一応仮復旧ができる見込みでありますし、また、河川に堆積いたしましたスライムの四万立米は、おおむね二月二十日までに除去できる見込みでございます。
ただ、この点につきまして、持越川から高度二百メートルの山頂に、住民の生活や経済に重大な影響を及ぼすおそれのある産業廃棄物が自治体とは全く無関係にあのような脆弱と思われる堰堤の中に処理されておったという事実でございます。私たちは、
地方自治体の第一義的な使命は
地域住民の生命や財産の安全を確保するということにあると思うのでありまして、この点まことに遺憾にたえないところであります。現実に町村が会社へ参りますと、鉱山保安法を盾にとって拒否いたします。県が産業廃棄物やあるいは公害の観点から立入
調査をいたそうといたしましても、実は拒否されておったわけでありまして、これは国の縦割り行政と自治体の総合行政との間の矛盾という問題を、ぜひ先生方に認識していただきたいと思う点であります。
ちなみに、天城湯ケ島町におきますところの家屋の一部損壊は、全体で二千七十一世帯ありますうちのわずかに百二十四むねにすぎなかった、こういう点から考えていきますと、脆弱と思われる堰堤の中でと申し上げることも、常識的には許される表現ではないかというふうに私は考えているところであります。ぜひ国の責任において堆積場の抜本対策をとっていただきますと同時に、縦割り行政と総合行政との矛盾についてぜひ国会で御議論の上、しかるべき結論を得ていただきたいことをお願い申し上げたいと思う次第であります。
次には、余震情報の問題でございます。
正直なところを申し上げますと、今回の
地震におきます国の
地震情報を受けまして、県としては対応策に全く困り果てた状況でございます。この点につきましては、私たちは国の災対本部の情報を得まして余震情報を出しまして、実は文章の表現上に問題もありましたし、また伝達
方法が、情報処理に関する訓練等も不十分でありましたので一部に混乱を生じました。県民に迷惑をかけた点、まことに遺憾に存じているのであります。しかし、それにもかかわらず
地震前におきましては、県民の八割近く、七九%は情報があったら積極的に教えてくれという世論
調査の結果でもあったわけであります。あの混乱の後においても、あの余震情報を出した点には問題の点はあったけれども出すべきであったというのが、私たちがリサーチした結果における県民の世論であったという点でございます。したがって、私は東海大
地震を想定した場合、今後も
地震情報あるいは警報を出すべきである、こういう点を確信をいたしている次第でございます。
それにつきまして、今回の場合、
防災行政として管理された警報を行政の責任において出していただくというルールを確立されなかったということが、まことに実は遺憾なのでございます。この次々に出ました情報を分析いたしましても、まず第一に、この情報は
静岡県には気象台から連絡をいただきました。東京都も連絡をいただいたということでございますが、東京都は何ら周知させることなしに終わりました。同じ情報は、神奈川県、山梨県、それから愛知県の気象台にも連絡されたということでございますが、その気象台で、これは自治体に連絡の必要を認めない、こういうことで実は連絡されなかったという事実も私たちはつかんでいるのであります。
もう
一つは、実はこの
地震情報をいただきましても、私たちは判読に全く苦しんでしまうのです。ここらに非常に問題がございまして、後で御質問があれば経過をたどって申し上げますが、先生方に一点だけお聞き取りをいただきたい点がございます。
それは何かと申しますと、最後の余震情報とも称すべきものでございますが、こういう情報でございます。国の
災害対策本部から、「一月十四日の大島近海の
地震の余震は順調に減少しているので、今後大きな余震が発生する公算は少なくなった。」これは安心していいという情報と受けとめられるわけであります。しかし、後段にはこう書いてございます。「しかし、
伊豆半島は過去四年にわたり活発な
地殻活動を続けてきた
地域であるので、今後も監視を更に強化することが必要である。」この後段と前段とは全く違ったことでございまして、ことに
地方自治体が、住民が何を監視するのかということで、判断に全く苦しむところでございます。私はこういった点から、ぜひ
地震情報あるいは警報というものはあくまで行政の責任において出されるべきものだということを痛感をいたした次第であります。この点について、私たちは国の情報でかき回されたという感じを受けておりまして、県として責任ある対処の仕方ができないという実情にあったということを率直に申し上げ、御質問があったら詳しくお答えを申し上げたいと存じます。
第三は、特別立法についてでございます。
大
地震の発生する
可能性でございますけれども、先ほど先生方からもお話がございましたけれども、ここに全国知事会の出しました国に対する特別措置法制定の要望の付録の
記録がございます。この中に、
日本の主な
地震災害年表というのが出ております。安政元年、一八五四年から今日までおよそ百二十年間であります。その間に十六回の
地震があったと
記録されております。その十六回のうち、死者三千名を超える激甚な災害が八回あります。一万戸以上が
破壊され、全壊しあるいは焼失し、流失したという災害が八回あるわけであります。そのいずれかをとりますと、実は十六回のうち十一回を占めている。極端に言いますならば、一万戸以上か三千名以上の死者を出すというのが十年に一回あったということは、私は特筆大書さるべきことではないかというふうに考えるのでありまして、これは当時で三千人でございます。当時の三千人は今日ではあるいは三万人になるかもしれない。こういうふうに考えてまいりますと、私たちは全国至るところで、といいましては言い過ぎかもしれませんけれども、その危険な
可能性は非常に強いわけであります。
福田総理は、人命は
地球より重いと言われたのでありますけれども、あれはハイジャック百名内外のことであります。
地震国
日本といたしましては、大
地震の発生する
可能性が非常に強いということと、また学者先生方の御
意見によりますれば、東海大
地震が近い将来発生する
可能性が多い、公算が多いということも、ほぼ先生方のオーソライズされた
意見として私たちは承るべきではないかと考えます。一たび大
地震が起こりましたときに、その
被害はきわめて広域にわたり、そして激甚なものであるという点でございます。今回も事後の各種データを解析の結果は、前兆
現象と見らるべきものがあったと新聞等で伝えられているのでありますし、また中国においては
予知が成功した事例もあるのでありますから、こういった問題について
予知の
可能性が非常に高まってきたというふうに私たちは理解をいたしているわけであります。
さらに
予知、警報、さらに直前の特別措置命令というような対応策をとれば、
被害は数百分の一でとどまるという点は、特筆して御理解をいただきたい点でございます。
次に、私たちが特別立法についてお願いを申し上げたいのは、現在国では、実は
地震予知連絡会は、
昭和四十四年、文部省の諮問機関でありますところの測地学審議会の建議により
国土地理院に設置されたものであります。ところが、関東部会、東海部会は
地震予知連絡会の中でございますけれども、東海
地域判定会は、気象庁を事務局として
地震予知連絡会の中に設置されているということでございます。さらに
地震予知推進本部は、科学技術庁を事務局として内閣に設置されているという状況でございます。
さらにまた、
予知関係の国の機関を調べてまいりますと、通産省に
地質調査所あり、建設省に
国土地理院あり、運輸省に気象庁あり、そして科学技術庁に国立
防災科学技術センターがあります。恐らく素人で考えましても、気象庁から
地震の事務だけを外すということはきわめて非合理でありましょう。あるいは
国土地理院から
地震だけ外すということはきわめて不合理でありましょうけれども、今日考えてみますと、実は
地質調査所が通産省になければならぬという理由は、私は必ずしもうなずけないのではないか。気象庁が運輸省の中になければならぬという必然性があるかどうか、先生方にぜひ御議論をいただきたいと思います。あわせて、
国土地理院もまた建設省の中になければならぬか。
防災科学技術センターも科学技術庁の中になければならぬかということを考えてまいりますと、
観測体制の一元化あるいは国土
防災庁というような形で国土庁にこれを一元化いたしましたならば、実は
観測技術というものは非常に進んでくるのではないでしょうか。こういった点もぜひお願いを申し上げたいと思います。本年度予算でテレメーター化も可能であるようでありますが、さらに促進をしていただきたいということをお願いを申し上げたいと思います。
第三番目は、警報の発令体制の一元的整備と、これを制度化いたすことであります。実は、新聞に出ました国土庁の原案というようなものを見ますと、総理大臣の指示により気象庁長官が
地震情報を出すというような原案であるやに伺っております。私は、専門家、専門科学者、純粋に学問的立場から
観測の結果をもとに客観的に判定される科学者の立場と、その判定の結果を受けとめてこれを警報として発表する行政の立場とは、その機能を明確に区分すべきものではないかというふうに実は考えるのであります。もし気象庁の専門家にその発表の権限をゆだねるという形をとって行政がこれを受けとめないということでありましたら、専門科学者の判断の自由を束縛することになるおそれがあると思います。あくまで科学者は科学者の良心に基づいて
観測の結果を判定さるべきであり、それを警報なり各種の措置に結びつけるのは、当然行政の責任だというふうに峻別すべきものではないかと考えるものであります。
さらに、警報は
防災行政と直接結びついた管理された情報でなければならぬということは、今度も痛感をいたしているところであります。管理された情報とは何か。国、県、市町村それから企業、住民、それぞれの対応策を含めた管理された警報である。何らの対応策なしに実は警報が出されるということになりましたら、これは台風情報とは全く質が異なるということであります。台風情報であれば、国民はだれもビジブルであります。はだに感ずることができます。一般的には個人的な対応も可能でもあります。さらに加えて、群集心理で混乱が生ずるというようなおそれもまずないと考えられるわけであります。しかし、一たび
地震となりますと、実は
地震の災害が起こるまではインビジブルであります。さらに恐怖心、生命の危険に駆られるということでございます。そして個人的な対応は不可能であります。デマ等に基づいて群集心理が作用し、間接的な
被害を拡幅するおそれがある。こういうことを考えますと、実は私は行政がこれを受けとめて、そして対応策を含めて警報は出さるべきであり、大
地震に限って言いますならば、それは当然総理大臣が警報をお出しになるべきだというふうに私は考えるものであります。
第四番目は、緊急
防災措置は法令に基づきまして、国、県、市町村、住民、企業、一体となってそれぞれの責務を達成すべきものでありまして、緊急を要すると同時に総合行政でなければならぬということであります。大
地震に備えますためには、国が総力を挙げてこれに取り組むべきものでございますから、当然国民に対して相当
程度においてその行為または権利義務の規制等が必要になってくるということは当然のことであります。また、それをやってまいりますためには一元的な指揮、命令系統が確立されねばならぬというふうに考えるものであります。
マニュアルによる自主規制であっては効果は上がらない。なぜかと申しますと、
静岡県を例にとりますと、ガソリンスタンド等の危険物施設が一万八千二百五十カ所あります。高圧ガス施設が三千三百四十カ所ございます。火薬類施設が三百四十カ所ございます。現在の市町村職員の機能でこれを管理、チェックしていくだけでも実は不可能だろうというふうに考えます。各地で火事の起こりました雑居ビル等であってもチェックは十分に果たしていないわけでありますから、単なるマニュアルであったらチェックがきかない。したがって、最低限の法的規制、これは二次災害防止のためには必要ではないか、こういうふうに考えるものであります。
さらにまた、総力戦、総力を挙げて取り組むべきであるということは、
静岡県を例にとりますと、専門家の御
意見を伺いますと、
マグニチュード八ぐらい、安政の大
地震を考えてマクロで私たちは
被害想定をいたしたのでございますが、現状のままでなすところなしに終始いたしましたならば、県民人口の二割近い六十万人くらいが
被害人口になる見込みでございます。倒壊家屋は十万戸を上回るおそれがあります。死者は一万人に近いおそれがあります。重傷者は一万六千人。マクロで推定すればこういう結果になるわけであります。
ただ、ここでぜひ先生方に御理解いただきたいのは、この中には二次災害を含んでいないということであります。火災も含まなければ、津波の災害も含んでいない。まして新幹線、高速道路等全然含んでいないでこれだけをマクロで想定せざるを得ない。こういう状況でございますから、
被害が広域であり、かつ甚大であるということをぜひひとつ脳裏にとどめていただきたいと思うのであります。
東海大
地震が起こりました際、震度五以上の災害を受ける県は十八都道府県に及ぶということでございますから、その混乱はもう果てしないものになるおそれがあるわけであります。そういった点を考えますと、単にマニュアル等の自己規制ではばらばらでありまして、統一的な、総合的な一本筋の通った指揮、命令系統による対処ができない、こういう結果になるかと思うのであります。
まして、この高度成長以降において
巨大地震の経験を経ていない施設、地下街、高層ビルあるいはコンビナート、原発、巨大ダム、幾多の
巨大地震の経験を経ていないものがございます。また、高度成
長期前と後と比較いたしますと、火災を起こすおそれのある危険物あるいは自動車の混乱等はもう量の差ではなしに質の差になってきているということでございます。こういった点もぜひひとつお気にとめていただきたいと思うわけであります。
第五番目に、
防災特別事業の実施でございますが、わが国は
歴史的に
地震国でありまして、
日本国民である限り実は
地震は避けることのできない宿命だとも言わなければならぬと思うのであります。したがって、これに対する対応策はまさしく国民的課題だと言って差し支えないと思うのであります。高度成長時代には効率という
考え方を
中心に、あるいは経済的合理性ということを追求してまいりました。その結果、実は
地震やその他災害にまことにもろい国土をつくり出したという結果になってきているわけであります。今後は、効率や経済的合理性ではなしに、国民の生命、財産の安全とその必要性、安全性と必要性というものを
中心とした
考え方に発想の転換をしていくべきではないか、こういうふうに考えるのでございまして、
防災特別事業等の実施について、たとえば
静岡県山比の薩た峠のところでございますが、国道一号線、バイパス、国鉄東海道線、さらに東名高速道路もあります。あそこが
地震に対応できるかどうか、私たちには大変な問題であります。そこには人家はございませんから直接の住民の問題はございません。しかし、そのために県を二分されますけれども、
日本の経済そのものが二分されてくるということになるのでありまして、いまやまさしく安全性と必要性という
考え方がかつての効率と経済的合理性にかわって追求さるべきときではないか、こういうふうに考える次第でございます。
以上申し上げまして、私のお話を終わらせていただきます。ありがとうございました。