運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1978-04-07 第84回国会 衆議院 外務委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十三年四月七日(金曜日)     午前十時三十六分開議  出席委員    委員長 永田 亮一君    理事 大坪健一郎君 理事 奥田 敬和君    理事 毛利 松平君 理事 井上 一成君    理事 土井たか子君 理事 渡部 一郎君    理事 渡辺  朗君       川田 正則君    竹内 黎一君       福田 篤泰君    河上 民雄君       高沢 寅男君    中川 嘉美君       正森 成二君    伊藤 公介君       楢崎弥之助君  出席国務大臣         外 務 大 臣 園田  直君  出席政府委員         外務政務次官  愛野興一郎君         外務省中近東ア         フリカ局長   千葉 一夫君         外務省条約局外         務参事官    村田 良平君  委員外出席者         法務大臣官房参         事官      藤岡  晋君         法務省刑事局総         務課長     敷田  稔君         外務大臣官房領         事移住部長   賀陽 治憲君         外務省アジア局         北東アジア課長 佐藤 嘉恭君         外務省アメリカ         局外務参事官  北村  汎君         外務委員会調査         室長      高杉 幹二君     ————————————— 委員の異動 四月六日  辞任         補欠選任   佐野 嘉吉君     小坂徳三郎君   竹内 黎一君     橋本龍太郎君   中山 正暉君     山口シヅエ君   伊藤 公介君     川合  武君 同日  辞任         補欠選任   小坂徳三郎君     佐野 嘉吉君   橋本龍太郎君     竹内 黎一君   山口シヅエ君     中山 正暉君   川合  武君     伊藤 公介君 同月七日  辞任         補欠選任   松本 善明君     正森 成二君 同日  辞任         補欠選任   正森 成二君     松本 善明君     ————————————— 四月七日  安全なコンテナーに関する国際条約CSC)  の締結について承認を求めるの件(条約第一〇  号)(予) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡し  に関する条約締結について承認を求めるの件  (条約第四号)      ————◇—————
  2. 毛利松平

    毛利委員長代理 これより会議を開きます。  委員長が所用のため少しおくれますので、委員長の指名により、私が委員長の職務を代行いたします。  日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約締結について承認を求めるの件を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。井上一成君。
  3. 井上一成

    井上(一)委員 外務大臣が御出席が若干おくれるようでございますので、私はそれまで政務次官に若干の御質問をいたしたいと思います。  まず最初に、今回の条約は二国間の条約でありますけれども、国際的な傷害事件交通機関発達等大変増加の一途をたどっておるというのが今日の状況であるわけでありますけれども、この条約条約として、多数国間でのこれと同じような条約締結をするというお考えを現在持っていらっしゃるのかどうか、まずお聞きをいたしたいと思います。
  4. 村田良平

    村田政府委員 現在、犯罪人引き渡しに関しましては、ヨーロッパあるいはラ米におきまして多数国間条約があることは事実でございます。しかしながら、一般的に犯罪人引き渡しに関しまして条約を結びます場合には、人の往来が激しくて現実犯罪人を引き渡す必要があるという事情が生ずるという客観的な条件があることと、それからもう一つ、これは非常に基本的人権にもかかわりのあることでございますので、各国法体系あるいは人権思想刑法刑事訴訟法あるいは強制手段等にある程度の均質性と申しますか、同一性があることが必要でございます。そういった意味で、先ほど申し上げました西ヨーロッパの場合でございますと各国法律も非常に似通っておりますし、人権に関する物の考え方等もほぼ同じと言っていいわけでございます。また、非常に簡単に国境を越えて人が往来しておるというふうな事情でございますので多数国間条約もあるわけでございますが、わが国の場合には、必ずしもそれほど人の往来が激しい国が、ヨーロッパと同じような意味であるということではございませんし、それからまた、わが国と人の往来がかなり多い国でございましても、日本法体系等において異なるところがございますので、やはりいま申し上げました二つ要件から見まして、それと相手国制度から見まして条約締結することが必要であるというアメリカ合衆国との間でまず現行条約の改定を行った、こういうようなことでございます。
  5. 井上一成

    井上(一)委員 いま御答弁の中にもありましたヨーロッパ条約、これは一九五七年ですか、パリでつくられた条約でありますけれども、この条約内容はどのようなものであるのか、お尋ねをいたしたいと思います。
  6. 村田良平

    村田政府委員 この条約は一九五三年にヨーロッパ理事会において作業が進められておったものでございまして、先生指摘のとおりに、五十七年にパリで採択されたものでございます。その後一九六〇年四月に発効をいたしております。この条約は、基本的には、従来、伝統的に各国が二国間で結んでおりました犯罪人引渡し法考え方というもの、あるいはそういう各国国内法及び条約に盛られております基本原則を受け継いでおりまして、したがって、非常に改革的な新しい条項は入っておらない、むしろ過去のものを取りまとめた、そういう性格のものでございます。
  7. 井上一成

    井上(一)委員 ヨーロッパ地域わが国との地理的条件あるいは法体系違い等指摘があったわけですけれども、たとえばヨーロッパ条約のような、地域的な形の中で、アジア地域全体での多国間条約、いわゆるアジア条約のようなものをつくることも犯罪防止のため、あるいは的確な犯罪者に対する科罰の可能な点から考えてそういうものをつくられたらいかがかと思うのでありますけれども、政務次官、そういうお考えに立たれるというか、お考えをお持ちになっていらっしゃるかどうか、いかがでございますか。
  8. 愛野興一郎

    愛野政府委員 御承知のように、アジア地域は言うなれば同質、同種の地域というようなことも言えるわけでありますし、また、いろいろな生活態様、歴史と伝統、こういったことにつきましても似通っておるわけでありますから、連帯して犯罪を防止するという意味では、先生が申されましたような方向に努力をしなければならぬ、こういうふうに考えるところであります。
  9. 井上一成

    井上(一)委員 さらに、これは相互主義原則ということがあるわけでありますけれども、このような条約を特に日韓間でつくるということについて現在どのように考えていらっしゃるのか、あるいは、もうこのような条約締結しなくてもスムーズに事の処理ができるのだというふうにお考えでいらっしゃるのか、この点についてもひとつお聞かせをいただきたいと思います。
  10. 村田良平

    村田政府委員 ただいま井上先生は韓国のことをお取り上げになりましたが、現在、政府といたしましては、いずれの国とも、特定の国とこの種の条約締結するという計画は持っておらないわけでございまして、先ほど私が申し上げました人の往来、それから相手国制度わが国と基本的に似通っておって民主的、文化的であること、それから、これは特にアングロサクソン系統の国についてそういうことになっておるわけでございますけれども、条約がないと引き渡せないという基本的な制度をとっておる国がございます。アメリカもその一つでございますけれども。そういう相手の国の事情というふうなものを勘案して今後の方針を立てていくということでございます。  それから、わが国に対するこの種の条約締結の申し込みも、従来やはりアングロサクソン系統の国から多うございまして、そういった、先方が希望しておるかどうかというふうなことも勘案して今後検討を進めてまいりたい、かように考えております。
  11. 井上一成

    井上(一)委員 アメリカは、たしか九十三カ国と締結をしていると記憶をしているわけです。わが国はこのアメリカとの引渡し条約だけであるわけですけれども、この条約だけでは、犯罪者を罰していくのだという犯罪科罰という意味から非常に不自由ではないだろうか、私はこういうふうに思うのですよ。だから、いま、アメリカ以外の国とは現在考えておらないというお答えがあったわけですけれども、むしろこのような条約多国間で締結をしていくことがより望ましい方向ではないかと思うわけです。この点について、ひとつまた政務次官の方からお考えを聞かせていただければありがたいと思います。
  12. 愛野興一郎

    愛野政府委員 先ほど村田参事官から申し上げましたとおり、今日の日本対応というものは、諸外国とこういった条約を結ばないというようなたてまえでありますけれども、米国との間にどういう理由締結をするに至ったかということは、第一番に、人の往来状況等から見まして、現実犯罪人引き渡し要請が多いこと、これはもうたとえば福岡の犯罪の問題であるとか、いろいろ御理解のところであります。  第二に、基本的人権にかかわり合いのあることでありますから、相手国法制度、特に刑法刑事訴訟法体制わが国と似通った体制であり、かつ民主的、かつ文化的なことであるというものが相手国とならなければならぬ。ということであれば、アメリカ日本とは大体似通っておるということであります。  第三に、日本には逃亡犯罪人引渡法がありまして、条約に基づかない請求につきましても、相互主義条件に引き渡すことが可能である。諸外国でも、このような体制をとっておる国は——米国英国等のように、条約が存在しなければ引き渡しは行い得ないという体制の国もあるわけでありますが、大体相手国体制から見て必要性が、対応する国としてはアメリカは非常に似通っておる、こういうことから今回はアメリカとのみ踏み切ったわけであります。しかし、将来の問題として、いろいろな対応できることがないものかどうか、模索あるいは研究をしていく必要はあろうか、こういうふうに考えております。
  13. 井上一成

    井上(一)委員 相互主義原則で、条約締結されてなくても引き渡しは可能であるということですが、私は一定約束を明確にすることが、先ほど申し上げたように、犯罪科罰という点から考えて当然必要であるという認識を持っているわけで、いま政務次官から、将来に向かって取り組む、検討するという姿勢がうかがわれたわけであります。それはそれで了としたいと思います。  ただ、今度は、そういうことになりますと、やはりそれを一つのたてまえにして、乱用になってはいけない、乱用されるとたまったものじゃございませんから。そういう意味から、今度は犯罪者を引き渡すといっても、やはりその者の基本的人権を考慮していかなければいけない。この条約並びに国内法には、それらの者の基本的人権がどのように位置づけられておるのか、お聞きをしたいと思います。
  14. 敷田稔

    敷田説明員 お答え申し上げます。  先生仰せのとおり、犯罪者でありましても、外国引き渡しをするということは、逃亡犯罪人が相当の不利益を受けることは事実でございますので、そういう点から基本的人権を確保すべきであることは御指摘のとおりであろうと思います。  この条約におきましても、その点からしまして、まず第二条で、引き渡し犯罪を死刑、無期または長期一年を超える拘禁刑に処することとしておりまして、余り軽微なものについてまで引き渡しをするということは、逃亡犯罪人が受けます不利益との均衡上いかがかと思いますので、その点は回避しているわけでございます。また、刑の執行のための引き渡しの場合につきましても、残刑が四カ月以上あるときに限るといたしまして、たとえば一カ月、二カ月というようなものにつきましてはこれをしないということにいたしております。また第三条で、引き渡しを求められている犯罪者について「被請求国の法令上引渡し請求に係る犯罪を行ったと疑うに足りる相当な理由があること」つまり十分な証拠があるということを要件としている点。あるいはまた第八条で、引き渡し請求に当たりましては、請求国から発せられた逮捕状写し等添付資料として要求されている点。このような点で犯罪者に対する人権上の配慮を加えているわけでございます。  また、内国法仰せでございますが、この条約に基づきまして実際の引き渡しを行いますための国内手続を定めました逃亡犯罪人引渡法におきましては、東京高等裁判所によりまして司法審査をするという、その手続を含めまして種々の人権上の配慮を加えている次第でございます。
  15. 井上一成

    井上(一)委員 この条約及び国内法において法務大臣の持つ自由裁量権が何カ所、幾つぐらいあるのか、法務大臣裁量権がどの個所に及ぶのか、お聞きをします。
  16. 敷田稔

    敷田説明員 まず、この引き渡しに関する制限といたしまして、引き渡し犯罪政治犯罪であるかどうか。それから引き渡し請求当該犯罪人の、——これは自由裁量と申しますか、判断事項法務大臣判断すべき事項というふうに、先生お尋ねをちょうだいいたしますと、「引渡の請求が、逃亡犯罪人の犯した政治犯罪について審判し、又は刑罰を執行する目的でなされたものと認められるとき。」というものがまず重要な判断事項となります。それからまた、自国民を引き渡すかどうかという点につきましても法務大臣の重要な判断事項になろうかと思っております。
  17. 井上一成

    井上(一)委員 関連した国内法では……。
  18. 敷田稔

    敷田説明員 それは逃亡犯罪人引渡法でございまして、二条及び第四条にその規定がございます。
  19. 井上一成

    井上(一)委員 通過護送の第三十四条も法務大臣裁量権に入るのでしょう。
  20. 敷田稔

    敷田説明員 大変失礼いたしました。先生の御指摘のとおりでございます。
  21. 井上一成

    井上(一)委員 そこで、四条の政治犯罪あるいは五条の自国民引き渡し、そしていま私が申し上げた法律三十四条の通過護送承認、これらがあるわけですが、裁量権とは法律の認める範囲内でのみ有効であるべきはずである、私はこういうふうに思うのです。  では、いま指摘をされた、あるいは私からも指摘をした政治犯罪あるいは自国民引き渡し、あるいは通過護送承認、これはいかがなんでしょうか、それぞれの法律範囲とはどのような範囲を指すのか、いわゆる裁量権基準というものはどのようなものなのかをひとつお教えをいただきたいと思います。
  22. 敷田稔

    敷田説明員 お答え申し上げます。  まず、政治犯につきましては、政治犯である限りにおきましては、これは絶体的な不引き渡し原則が採用されておりますので、そういう点におきましては、むしろ裁量というものではなくて判断事項である、当たるか当たらないかの判断事項であるということになろうかと思います。  それから、自国民につきましては、先生指摘のとおりこれは裁量事項になるわけでございますが、この場合の裁量基準を一般的、抽象的に述べることはやや困難でございますが、具体的な事案に即しまして、引き渡し犯罪内容、性質、軽重、それから引き渡し犯罪請求国に対する影響の程度、あるいは請求国わが国に対する自国民引き渡しに関する運用の実情、それから当該日本国民請求国に引き渡すことについての国民感情、その他諸般の状況を総合勘案しまして決定すべきことになろうかと思っております。
  23. 井上一成

    井上(一)委員 政治犯罪については判断だ、それじゃ具体的にいままでそういう判断政治犯罪だと認められたような事犯があったのかどうか、あるいは裁量権についても、私はいまのお答えでは基準が明確でないと思うのです。この点についてももう少しはっきりとお答えを願いたいと思います。
  24. 敷田稔

    敷田説明員 政治犯につきましては、戦後そのような事例が一度もございませんわけでございます。したがいまして、具体的事案に応じて、ケースバイケース判断すべき事項でございますので、一般的、抽象的には先ほどお答えいたしましたものを余り出ることはできないのではないか、このように考えております。
  25. 井上一成

    井上(一)委員 戦後一件もない、結局いわばわが国はそういう判断に立たなかったということを意味すると私は思うのです。実情政治亡命でありあるいは政治犯罪であるというようなことであっても、その判断をする以前に、いわゆる他の法律によってそれらを処してきたということだと思うのです。  政務次官に、今後のことがありますので、たとえば政治難民政治犯あるいは政治亡命、それらを含めて日本入国をした場合に、その入国の合法あるいは合法的でないということは別として、今後は、この条約趣旨からいって、いわゆる判断政治的亡命あるいは政治難民あるいは政治犯罪という形の方に重きを置きながら判断をしていかれますか、そのような御意向を私はぜひここで伺っておきたい、こう思うのです。
  26. 愛野興一郎

    愛野政府委員 政治犯罪人あるいは政治亡命者あるいは政治難民等も、やはり法治国家である以上は、法は厳然たるものであろうかというふうに私は考えます。しかし、少なくとも亡命者ないし難民の問題につきましては、人道上の配慮あるいは基本的人権、こういった面も十分考慮して、ただいたずらに出入国管理令違反であるとかあるいはまた法違反であるということでなしに、先生が言われたようなそういった人権上の問題、こういったものも十分考えて対処しなければならない問題である、こういうふうに考えております。
  27. 井上一成

    井上(一)委員 わかりました。確認をするようで恐縮なんですけれども、今後は人道的見地に立って、その者の基本的人権というものを尊重した立場に立ってわが国判断をしていくというふうに理解をしてよろしゅうございますか。
  28. 愛野興一郎

    愛野政府委員 先ほど申されましたように、法は厳然たるものでありますから、それに従わなければなりませんが、一国の政策上の問題として、その対応の仕方は先生が言われたようなことで対処しなければならぬ、こういうふうには考えております。
  29. 井上一成

    井上(一)委員 それから私は、さっきの裁量権の問題で重ねてここで、その基準が明確でない、やはりそのときケースバイケースだということですけれども、そんなことであっては——もちろん画一的な取り扱いということについてはやはりいけない場合もあるかもわからぬけれども、一定の法の中あるいは基準の中で処していくということが公平な原則だと思うのです。もっと裁量権についての基準というものを明確にする必要がある、私はこういうふうに思うのですけれども、この点についてはどうですか。もう少し、具体的にですよ、明確にする必要があるとお考えでしょうか。
  30. 敷田稔

    敷田説明員 この種の裁量権の行使につきましては、国際犯罪を相連帯して、相協力して防止していくという一つ考えの利益と、それからまた、それと同時に基本的人権を守っていかなければならないという、この二つの要求があるわけでございまして、その調和をどのようにどこで見つけるかということにつきましては、やはり個々具体的な事例によりませんことには、一般的、抽象的には申し上げかねるわけでございます。各国におきましても、それを一つ基準として法規に示すという作業はほとんど不可能に近いということで、そういう事例を私まだ承知はいたしてございません。
  31. 井上一成

    井上(一)委員 なお、この条約は、いわゆる新しく通過護送を認める、そういう二条項が新設をされたわけです。犯罪者通過護送を認めたことは自国の主権の一部がへこむことになるのではないか、そういう意味を持つのではないだろうか。この通過護送という考え方は昔からあったのかどうか。あったとするならば、その歴史的な経緯を述べていただきたい。日本側としてこの通過護送を新設したことによっての有利性があるのかどうか、この点についてもひとつお聞かせをいただきたいと思います。
  32. 村田良平

    村田政府委員 通過護送規定そのものに関しましては、私ども非常に詳細な歴史的な経緯というものは承知をしておらないわけでございます。しかしながら、犯罪が国際化いたしまして、特に航空機等を利用して犯罪人あるいは被疑者護送する必要があるという現実要請から出てきたものと考えられるわけでございます。  最近の例を見てみますと、戦後でございますけれども、古いところとしては、ドイツとベルギーとの間の条約、これは一九五八年のものでございますが、ここにそのような規定がございますし、その後一九六〇年代、七〇年代に至りまして、米国であるとかカナダであるとかあるいはスウェーデン等の結んでおります条約に、この種の規定があるわけでございまして、これはやはり最近のそういう国際航空等発達という事情を反映してできたものというふうに考えられるわけでございます。  現実わが国の場合をとってみますと、ヨーロッパあるいは南米等からアンカレジを経由するあるいはロサンゼルスを経由する等の経路をもちまして犯罪人わが国護送する必要というのが出てくるわけでございます。  一つ実例があるわけでございますが、一九六三年にスイスからわが国犯罪人引き渡しを受けたわけでございますが、この際はアラスカ経由護送したわけでございまして、当時は日米間に条約がございませんでしたけれども、外交チャンネルで申し入れをいたしまして、事実上その護送が認められたということでございますが、今回このような条約を結びましてお互い約束をし合ったということでございます。  確かに、先生指摘のように、この点は主権がへこむ——へこむという表現が妥当かどうかは別としまして、その点はお互いに譲り合うということになるわけでございますけれども、そもそも、犯罪人を引き渡すかどうかということ自体が基本的には各国主権事項である、それを条約で引き渡すわけでございますので、それに関連いたしまして、この種の通過護送に関しましてもお互い主権を譲り合う、そのことによって国際的な犯罪抑圧のための協力を進めよう、こういう趣旨からこの規定が置かれた、こういうことでございます。
  33. 井上一成

    井上(一)委員 通過するということは、ただ一時的に通り抜けるということだけではないと思うのです。たとえば日本国内で一泊をするような場合、通過をする経過の中で、そういうことも起こり得ることだと思うのです。そんなときには、その者あるいはその者に付き添う警察の構成員の措置はどうなっているのか、あるいはそんなとき日本側はどう対応するのか、この点についてお答えをいただきたいと思います。
  34. 敷田稔

    敷田説明員 通過護送規定自体は明治二十年の逃亡犯罪人引渡条例にも出ております。日本国としましては、比較的古いものでございます。これに関しまして、やはりその当該国との外交関係あるいはそうすることが日本国の治安にどのような影響を及ぼすかというようなことを考えまして判断すべきことになろうかと思います。
  35. 井上一成

    井上(一)委員 十分な答えにはなっていないと思うんだけれども、そんな場合に日本側がどう対応していくんだということです。  これはこれとして、さらに、オランダなどの犯罪人引渡し法などを見ますと、護送を受けている者の仮逮捕状を発付することができるようになっているのですが、日本の場合はそういうことはどうなるのか。もし同じように仮逮捕状が発付できるとするならば、それはどの法律を根拠にしているのか、この点についてお聞きをします。
  36. 敷田稔

    敷田説明員 オランダ犯罪人引渡し法におきましては、先生御高承のとおり、オランダ官憲自体がこれを護送していくという国もございますが、多くの場合、その当該外国官憲そのものによってこれを護送せしめるという制度をとる国の方が多いのではないかと私ども承知いたしております。日本の場合は、仮に通過護送を認めます場合は、手錠をはめたまま日本国航空機あるいは羽田のトランシットルームに待機することを認めるということになろうかと思います。
  37. 井上一成

    井上(一)委員 私は、ただ単なる通過という、通過護送というのは大方の場合それを意味するわけだけれども、時として宿泊を必要とする場合があるじゃないか、そんな場合にはどうするんだということなんですよ。そんなときにホテルへ泊めるのか、刑務所へ入れるのか。刑務所へ入れるとするならば仮逮捕状というものが必要でしょう。さっきからそういうことを聞いているのだから、的確に答えていただかないと、限られた時間だからね。
  38. 敷田稔

    敷田説明員 監獄や留置場に収容することは、国内法規定がございませんので、これはできないわけでございます。したがいまして、仮に一晩あるいはそれを超えて日本国に滞在する差し迫った必要があるといたしますと、たとえば十分な警備をつけましてホテルの一室に滞在させるとか、あるいはその当該官憲の属する国の大公使館に一時連行して、そこで滞在させるとか、このような措置を講ずべきことになろうかと思います。
  39. 井上一成

    井上(一)委員 では、いまのわが国考えは、いわば相手国の警察官監視の中でホテルに宿泊をさせ、そしてわが国はいわゆるアウトサイダーで警護していく、こういう考え方ですか。
  40. 敷田稔

    敷田説明員 仰せのとおりでございます。
  41. 井上一成

    井上(一)委員 この通過護送裁量権というものは法務大臣だけが持っているのか。あるいはドイツのように高等裁判所が決定をしていく、そういう手順をとるのか。
  42. 敷田稔

    敷田説明員 法務大臣でございます。裁判所は、差し迫った事情での請求が多いことなどにもかんがみまして、この場合は関与いたしません。
  43. 井上一成

    井上(一)委員 そういうことであれば、なおさら裁量権基準というものを、先ほどから指摘をするように、明確にしていかなければいけない、こういうふうに思うわけです。行政府のそのときそのときの考え対応していくということについては私は若干の疑義がある、そういうふうに思うわけです。  さて、次に、飛行中の航空機の内部の主権はどこにあるのですか。この条約の六条で示されているとおりでございますか。
  44. 村田良平

    村田政府委員 先生の御質問はこの条約の観念というよりは、むしろ一般的な御質問だと思いますが、登録国の主権のもとにあるということでございます。
  45. 井上一成

    井上(一)委員 そういう中から、では通過護送という概念は領土を通過するだけではないであろうということですね。自国の航空機犯罪人を乗せて護送することをお互いに認めるということになったというふうに思うわけです。主権の一部分的なものをお互いに譲り合ったんだというような解釈をしてよろしゅうございますか。
  46. 村田良平

    村田政府委員 この護送規定は、外国の公権力の行使を一定条件で認めるという意味におきまして主権の一部を譲り合うという約束であることは確かでございます。
  47. 井上一成

    井上(一)委員 たとえば韓国からアメリカ護送する場合JAL、日本航空を使用し、日本通過する。そうしたらその日本航空の飛行機の中でも手錠をかけて護送ができるということなのですか。
  48. 村田良平

    村田政府委員 先ほどの先生の御質問との関連で申し上げますと、この条約の第六条には、航空機も締約国の領域の中に含まれるという規定があるわけでございますが、この第六条の規定は、国外犯との関連で特にこの規定が置かれておるわけでございまして、条約の解釈といたしましても、明らかに犯罪が犯された場所あるいは犯罪が発見された場所ということに関係する規定でございます。したがいまして第十五条に申します領域とは違うわけでございまして、第十五条の文言は「その領域を経由の上」ということになっておりますから、その「経由」はその航空機の中そのものではなくて、わが国の通常の意味で申します領域ということでございます。そこで、御質問の場合には、日本航空においてそのような状態は起こらない。手錠をかけて云々ということにはならないと考えております。
  49. 井上一成

    井上(一)委員 それでは、日本航空の中では手錠をかけることはできない、かけないということですね。
  50. 村田良平

    村田政府委員 この条約におきましては、そういう場合にどうするかということは何ら規定が置かれておりませんので、そういう現実要請が起こりました場合には恐らく別途一般国際法の原則等も頭に置きまして、日米間で話し合うことになると思います。
  51. 井上一成

    井上(一)委員 そういうことも、本来ならば明確にしていかなければいけないと私は思うわけです。  もう一つ日本アメリカという二国間だけでなく、先ほども申し上げたように、条約締結の国ともやはりこの考え方に立つのかどうかということを聞いておきたいと思います。
  52. 敷田稔

    敷田説明員 これは、今回国会に御審議を賜っております逃亡犯罪人引渡法の改正の第三十四条によりまして外交機関を経由します限り、必ずしも条約締結した国に限らないということでございます。
  53. 井上一成

    井上(一)委員 そういう点についてはまだ非常に十分でないと思うわけです。  時間がありませんので、次に、身柄を拘束する制度、いわゆる仮拘禁の制度について若干お尋ねをします。  現行のいわゆる明治十九年に結ばれた条約にもあるわけでありますが、今回のこの条約とどの辺が変わったのか、あるいは国内法はどうなったのか、仮拘禁制度は世界の各国とも取り入れているのかどうか、この点についてひとつお尋ねをします。
  54. 村田良平

    村田政府委員 若干その規定趣旨を明確にするような修正点もございますけれども、最も基本的な主要改正点は、従来の、つまり現行条約の仮拘禁の期間は二カ月でございましたけれども、これを四十五日に短縮したということでございます。なぜそうしたかという理由でございますが、現行条約の時代に比べまして現在の国際的な通信手段、輸送手段等が非常に発達いたしましたので、仮拘禁は四十五日というもので十分であるという判断に立ったわけでございます。また、これは引き渡されることになります犯罪人人権上も、そうすることがしかるべきであるという判断からさようにいたしたということでございます。  なお、諸外国引渡し条約の例を見ましても、四十五日という仮拘禁の例が相当ございます。また、仮拘禁制度そのものでございますけれども、これは一般的に各国が取り入れておる制度であるということは申し上げることができます。
  55. 井上一成

    井上(一)委員 新聞報道で国際逃亡犯引き渡し等についての中で、青色手配と赤色手配があるというふうに報道されているわけです。これはどんなものなのか、どういう手配を指すのか説明をいただきたいと思います。
  56. 敷田稔

    敷田説明員 インターポールと呼ばれておりますいわゆる国際刑事警察機構の事務総局が、加盟警察の要請によりまして国際的な手配を行うわけでございますが、この場合に発付される手配書には赤色と青色とが先生仰せのとおりございまして、赤色手配の場合は犯人逮捕と身柄の引き渡しを求めるための手配書でございます。また青色手配といいますのは情報を得るための手配でございます。このように違っております。
  57. 井上一成

    井上(一)委員 国内法の改正でいわゆる赤軍などの手配が強化できるというふうに言われているわけですけれども、できればその辺を少しわかりやすく説明していただきたいわけです。
  58. 敷田稔

    敷田説明員 お答え申し上げます。  国内法は今度二十三条に二項を設けまして、条約締結していない国からの請求がありました場合にも、相互保証の確認がとれました場合には仮拘禁をするということでございますが、赤色手配の場合に問題は逃亡犯罪人引渡法要件としまして外交ルートを経由した請求であるということを大前提といたしておりますので、国際刑事警察機構は必ずしも外交機関とは認めがたいものでございますので、その赤色手配と日本国内法の引き渡し、仮拘禁というものを直ちに結びつけることはできないのではないかと思います。ただそういう手配がありました場合には、いずれ日本国に潜入した場合には直ちにこれに対して所要の手続をとるための一応の体制を整えまして、かつまた当該国に、外交ルートを通じて正式に仮拘禁の請求をするのであればしなさいというようなことの交渉ができるという意味において、一つの大きな進歩ではなかろうか、このように考えております。
  59. 井上一成

    井上(一)委員 さらに九条の二項で、拘禁した者を拘禁理由がなくなって釈放された場合、四十五日以内に引き渡し請求が行われない場合とか、あるいはその理由が明確でない場合、これは不当逮捕になるのかどうか。     〔毛利委員長代理退席、大坪委員長代理着席〕  そんな場合にたとえば国家賠償というような問題はどうなってくるのか、あるいはそんな場合に法律的な意味づけがあるのかどうか、そういう点についてひとつお聞きをしたいと思います。
  60. 敷田稔

    敷田説明員 端的に申しまして、現行法制の場合におきますと、仮にそのような請求に応じて仮拘禁をすることについて故意過失があるといたします場合には、国家賠償の対象にもなろうかと思いますが、通常の場合そういうことはまず考えられないと思うわけでございまして、そうしますと、現在の日本国にあります刑事補償法による手はないかということでございますが、刑事補償法につきましては現在このようなものを対象とする制度になっておりませんので、刑事補償法の適用はないわけでございます。ただ、仮拘禁後二カ月という期間内にこの仮拘禁を請求した国から正規の引き渡し請求が行われなかったという理由当該犯罪人を釈放したものでございまして、実質的に無罪の裁判を受ける理由があったということになりませんので、現在の刑事補償法とは格別の均衡は失しない、このように理解しております。
  61. 井上一成

    井上(一)委員 こういうことは起こり得ないであろうし、また起こることを何も私は願うわけでもないのですけれども、私はやはり証拠性、信憑性というか、裏づけが明確にされて初めて仮拘禁というものの現実をつくっていくべきであって、いわば不当に逮捕されて、いや、そんな不当に逮捕されることは十分対処していくのだからあり得ません、起こり得る問題ではありませんということだけで済ましてはいけない、こう思うのですよ。もしそういうことが起こり得た場合には、無罪で罰することに値しないということであればこれは相手国請求しないわけですね。そういうことになれば、むしろ私は、その人に対しては不当逮捕になるのではないか、そんな場合の国家賠償というものはやはりきっちりと救済措置も考えておく必要はある、こういうふうに思うわけです。いま現在はそういう事象が起こり得る可能性が少ないということでそういう手だてはしていないけれども、そういうことも必要であるという考え方に立たれるのかどうか。
  62. 敷田稔

    敷田説明員 仮拘禁としますと、名前はいかにも仮のようではございますが、当該国から相当の証拠があるということをこちらの方に告げてまいりますし、かつ日本国におきましては裁判所の発します仮拘禁許可状において行うわけでございますので、そういうことがないという意味における保証は尽くされているように考えております。
  63. 井上一成

    井上(一)委員 余り時間がありませんので、それでは今度私は、大臣にひとつ御質問いたしたいと思います。  この条約の第十六条の二項の中に、「この条約は、第二条1に規定する犯罪であつてこの条約の効力発生前に行われたものについても適用する。」こういうふうに明確になっているわけです。このことは憲法三十九条及び罪刑法定主義のたてまえ上、どう解釈すればよいのか、ひとつお聞かせをいただきたい。
  64. 園田直

    ○園田国務大臣 憲法第三十一条との関係については、引き渡し請求されておる犯罪人については、実体的に犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、そのため手続的にこの条約で身柄を拘束するものであり、憲法第三十一条に反することはないと考えます。  憲法三十九条との関係については、この条約による身柄の拘束は、わが国において刑事上の責任を問うことを意味するわけではなく、憲法第三十九条の遡及処罰の禁止規定には該当しないと考えております。このような遡及効は、諸外国において引渡し条約の改正を行った場合も広く認められております。たとえば、米・豪州との犯罪人引渡し条約二十条、米国とデンマークの二十条、米国と英犯罪人引渡し条約の十六条、英・フィンランドの第二十条でございます。
  65. 井上一成

    井上(一)委員 大臣、いまお答えがあったわけですけれども、私はその点についてもさらにお聞きをしたいわけですけれども、それは別に譲るとしても、それじゃ大臣、こういうことですね。この十六条の二項で、二条の1に示されている犯罪については、この条約が効力を発生する前であっても適用するということをこの条約は明確にうたわれたわけでありますね。
  66. 園田直

    ○園田国務大臣 そのとおりでございます。
  67. 井上一成

    井上(一)委員 それじゃ私はここで、いろいろロッキード事件等で問題があった、いわゆるコーチャン、クラッター氏ですね、それらの人もこの条約、この法律、いわゆる実際にその人を呼ぶ呼ばないということの問題は別に置いて、この条約によっては、それらのコーチャンなりクラッター氏を引き渡すことができるということになるわけですね。そういうふうに法律上でき得ると。大臣、私は、呼ぶとか呼ばないとか、あるいは呼べとかという、そういう話じゃないわけです。現実に対処していく、そういう考え方を聞いているのではなくして、この条約で、それらの人は呼べる、呼ぶことができるんだということですね。
  68. 園田直

    ○園田国務大臣 法的解釈はそのとおりであります。
  69. 井上一成

    井上(一)委員 今回のこの条約で、それらの人は当然呼ぶことができるというお答えをいただきました。私もそうだと解釈するわけです。この折に、この条約締結することによって、今後コーチャン氏あるいはクラッター氏を引き渡すことを国会の中で要求があれば、この条約を通して、外務大臣としては、国会がそういうような形の中で意思表示があれば当然呼ぶべきだと私は思っているわけなんですけれども、大臣はいかがですか。
  70. 園田直

    ○園田国務大臣 この条約の解釈から言えば、呼ぶことができることは当然でありまして、呼ぶことがいいかどうかは、その時点でまた……。
  71. 井上一成

    井上(一)委員 私は、やはり国際的なあらゆる犯罪を防止していくという意味からも、この条約については大変結構だと思うのです。ただ、基本的な人権ということも十分配慮しながら、運用には最大限考慮していくべきである、基本的人権という立場に立って考慮していくべきであると思うわけでありますけれども、いわゆる政治難民政治亡命政治犯罪者あるいは人道的な見地からの配慮以外は、たとえどんな事犯であろうとも、私は、今後この条約締結することによって、この条約趣旨を最大限尊重をしていくという大臣のお考えをここで確認をしたい、こう思うのですが、いかがでございますか。
  72. 園田直

    ○園田国務大臣 この条約が発効したからには、この条約の精神を尊重してやることは当然であります。御発言のとおりにいたします。
  73. 井上一成

    井上(一)委員 私は最後にもう一点、これはもう何回かこの委員会でも質疑がなされてきたわけでありますけれども、金大中氏事件にかかわる問題で、金東雲、彼の指紋はすでにもう明確に、この事件と関連をして、警察庁の方ではそれなりの証拠を持っているわけなのです。本来ならば、これは事件関係者としてそれなりの対応をしなければいけない、こういうことなんですけれども、金東雲がアメリカに居住しておる場合、あるいはアメリカに一時的滞在をしておる場合、今度はわが国アメリカとが二国間でこの条約締結するわけでありますから、その場合に、金東雲に対して仮拘禁をして、そして身柄をわが国引き渡してもらう、そういうことは法律上できるのだ、これもまたそうしなさいとか、そうするのかということではなく、アメリカにおるという場合、仮拘禁をして引き渡しをしてもらうということが法律上、これはたてまえとしてでき得るというふうに理解をしてよろしいですか。
  74. 園田直

    ○園田国務大臣 金東雲氏が米国におるということは、政府承知していないわけでありますが、一般に、米国に在住する者であって、この条約に定める要件を満たすような者については、引き渡し請求は行い得るということでございます。
  75. 井上一成

    井上(一)委員 だから、金東雲がいまアメリカに居住をしている、その事実関係は、政府はまだ把握はしていない、こういうことが前段ですね。しかし後段の御答弁では、居住をしているとなれば、私が指摘したようなことができ得るということでございますね。
  76. 村田良平

    村田政府委員 先ほど大臣が答弁されましたように、この条約にいろいろな要件があるわけでございますが、たとえばその人間の犯した犯罪が相互可罰性があるとか、あるいは証拠が十分であるとか、そういった本条約に定めております要件に合致するものに関しましては、引き渡し請求を行い得る、こういうことでございます。
  77. 井上一成

    井上(一)委員 ここで金東雲がその要件を満たしているということについては、外務省といま論議をしようとは思っておりません。思っておりませんが、当然私はこの要件を満たしているというふうに理解をしているので、あえてここで、金東雲の引き渡し日本が求めれば引き渡してもらえるのですね、そういうことを、この条約締結することによってでき得るのですねということです。これはでき得るということでございますね。うなずくだけじゃなく、事実でき得るともう一度ここで確認をしておきましょう。
  78. 村田良平

    村田政府委員 先ほどの答弁の繰り返しになるかと思いますけれども、特定の個人に関連する事案を離れまして、この条約に適合する条件であればその人間の引き渡し請求できるということでございます。
  79. 井上一成

    井上(一)委員 最後に私はもう一度外務大臣に。  先ほど政務次官からは少しお答えをいただいたわけでありますけれども、この犯罪人引渡しに関する条約締結することは、私は大変それなりの意義があり、結構であるということも申し上げました。しかし余りにも行政権の中で勝手な解釈をしてはいけませんよ、こういうことも注意をしておきました。それと同時に、いまも申し上げたように、政治難民だとか、あるいは政治亡命だとか、そういう形の中での問題を抱える人については、十分に人道的な配慮をしなさい、していくべきであるということも指摘をしたわけであります。いたずらに法の乱用をしてはいけないということも指摘をしたわけであります。  そこで外務大臣政治難民あるいは政治亡命あるいは政治犯罪等も含めて、わが国はとりわけ政治犯罪については過去一件もその適用をしたことがないということでありますけれども、その適用以前に他の法律で処分の対象にしているわけであります。     〔大坪委員長代理退席、委員長着席〕 そういうことも十分配慮されて、今後基本的人権が十分尊重される中で、法の運営に当たっては、乱用せず、そしてまた正しい運用、金東雲を日本へ連れ戻すとか、あるいはコーチャン、クラッター氏を引き渡してもらう、いわゆるこの条約法律本来の趣旨を十分生かすという決意を一言ここでお聞きをしたい、それをお聞きして私の質問を終えたいと思います。
  80. 園田直

    ○園田国務大臣 犯罪防止のための国際協力と、ただいま御発言の人権尊重の二本の柱に基づいて判断をして、間違いなく運用するつもりでございます。
  81. 永田亮一

    ○永田委員長 楢崎弥之助君。
  82. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 短時間ですからマル・バツ式の質問になるかもしれません。  いまの井上委員の質問と関連をして、もう亡命に関する法令の整備を考える段階に来ているのではないかと思いますが、大臣どうでしょう。
  83. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 いわゆる亡命者を保護するための国内立法の必要性でございますが、法務省といたしましては、特にその必要はなく、現行の法律制度、すなわち出入国管理令の適正な運用によって賄うことができる、かように考えております。
  84. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 これもまた先ほどの井上委員の質問に関連いたしますが、例のロッキード事件の関係ですけれども、コーチャン、クラッター氏などと関連して、あの場合はいわゆる免訴、免責を約束した上で嘱託尋問を行ったわけでしょう。先ほどの大臣の答弁との関連はどのようになるのでしょうか。
  85. 敷田稔

    敷田説明員 お答えいたします。  先ほどの大臣の御答弁は、一般論として逃亡犯罪人引渡し条約の適用があるか否かという点につきましてお答えなすったものと私理解いたしておりますが、コーチャン、クラッターそのものを具体的にどのようにするかという点につきましては、現に進行中のものでございますので、差し控えさしていただきたいと思っております。
  86. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 井上氏の場合は、たとえばという例で、現実に呼ぶ呼ばぬということは別にして、一つの例を挙げて聞かれたのですね。一般的であると同時に具体的なものを含んでいるわけです。いまの答弁では私の質問に対する答弁になってないですね。大臣は、そういう事態が起こったらその時点で考えるという答弁のようでしたけれども、どういうことになるのでしょうか。
  87. 敷田稔

    敷田説明員 コーチャン、クラッターにつきましては、先生指摘の宣明書が現に存在しておりますので、これを前提としましては引き渡しの要求はできないということになろうかと思います。
  88. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 大臣の答弁と明らかに違いましたけれども、外務大臣の御答弁を確認した答弁をしてください。
  89. 園田直

    ○園田国務大臣 私が先ほど申し上げましたのは、この条約によって、一般論として条約の適用があるかないかということを答えたわけでありまして、免訴、免責がどう作用するかは触れていないわけでございます。
  90. 井上一成

    井上(一)委員 関連。大臣、私は先ほど私の質問で特に、この条約によって効力を発生する以前にさかのぼって、二条の一項に適用する対象者、憲法三十九条も絡めて大臣に答弁を求めたわけです。そしてその中で、コーチャン、クラッター氏ということを、固有名詞をもって私はお尋ねをしたわけです。私の質問は、法律——事実、実際上呼ぶか呼ばないかは別だ、そのことの判断は別として、大臣よろじゅうございますか、法律上呼べるんですねという質問から入ったわけです。そして、呼べますという答弁で終えているわけなんです。私は呼びなさいということも呼びかけたわけですけれども、それは正確な回答をもらっていないわけです。そうなんです。いまは一般論で私は尋ねたわけじゃないわけです。コーチャン、クラッター氏も呼べるんだ、呼ぶことができるんだ、この条約で、こういうことなんです。大臣、そうなんですよ。後ろからおかしなことを耳打ちして大臣の考え——大臣、それでイエスだと。呼ぶ呼ばないは私はそこまで聞いておらぬわけです。そうでしょう。この条約では呼ぶことはできるんだ、可能なんだ、するかしないか。あるいはコーチャン、クラッター氏についてはこういう理由があってこれは呼ばないんだということなら、それはそれの問題ですよ。しかし、この条約では法律上呼べるんだ、呼ぶことができるんだということを明確にあなたは答弁なさったのです。私はそれは正しい——大臣、後ろから教わったとおりに言うようではいつもの大臣とは違いますよ。大臣の考えをびっしり言われたから私はそれで了解したものだから質問を終えたわけです。大臣、もう時間がありませんが、はっきりと法律上呼べるんだ、この条約で呼べるんだということを再度私は質問し、お答えをしてください。
  91. 園田直

    ○園田国務大臣 私がお答えしたのは、いまへ理屈つけるわけじゃありませんが、確かに名前を挙げて、例を挙げて言われたわけであります。したがって、これをこの条約の適用で呼べるかどうか、これは呼べます。免訴、免責の作用はこれはどうなるかわからぬ、こういう意味でございます。
  92. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 濃厚な容疑者の場合はどうなりますか。
  93. 村田良平

    村田政府委員 先生の御質問の「濃厚な」という趣旨を私必ずしも正しく理解しておらないかもしれませんけれども、この条約に定めております要件が整った場合には請求できるということでございます。
  94. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 そんな答弁はあたりまえの話で、この法律に該当するものは該当するんですという言い方と同じでしょう。そんな答弁がありますか、あなた。具体的に聞いているのですよ。
  95. 村田良平

    村田政府委員 この条約に基づきましても、単なる容疑に基づいては請求はできないわけでございまして、わが国の公務員に対しまして、わが国において贈賄を行ったというものに対して逮捕状が発せられる、そういう要件があれば請求できる、こういうことでございます。
  96. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 容疑が濃厚という場合は犯罪の構成要件に該当する疑いが相当濃厚という意味ですからね。これは二条一項の解釈とも関係をしますが、その辺は明確にしておいていただきたいと思うのです。
  97. 村田良平

    村田政府委員 引き渡し請求要件手続等については、第八条の定めるところでございますが、その第三項におきまして、引き渡し請求が有罪の判決を受けていない者に関しては、次に掲げるものを添えるということで、請求国の裁判官が発した逮捕すべき旨の令状の写し等のいろいろな資料を添えるということになっております。したがいまして、そのような要件があるというケースに関しましては、請求をいたすということでございます。
  98. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 地位協定では、逮捕状をまだ現実に手にしてない場合でもそれができるようになっていますね。そして、もし逮捕状が取れないときにはそれを釈放する、こうなっておるんですね。これは交換公文とも関係するんですよ。だから必ずしも逮捕状が出てない場合でもできるわけですね。それは濃厚な容疑ということになるわけです。請求すれば当然逮捕状が取れるという前提のもとにそういうことができるようになっていますね、地位協定では。取り扱いが違うのはどうしてでしょうかね。
  99. 村田良平

    村田政府委員 地位協定の十七条で定めております事態は、米国の、合衆国軍隊が日本に駐留しているといういわば特定の事態に対処するために設けられた規定でございまして、これに反しまして犯罪人引渡し条約の方は、一般的に犯罪抑圧のための国際協力を行うという趣旨条約でございます。したがいまして、引き渡し請求にかかわる要件というふうなものについての考え方も若干の違うところがあるということでございます。いずれにいたしましても、犯罪人引渡し条約に関しましては、人権の尊重というふうな見地から厳密な要件が定められておるということでございます。
  100. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 時間の約束もございますが、質疑の途中でちょっと問題がまだ残っているわけですね。一応これは問題を残しておいて、あとは理事会の御判断にお任せをしたいと思います。
  101. 永田亮一

    ○永田委員長 午後一時三十分から委員会を再会することとし、暫時休憩いたします。     午前十一時五十八分休憩      ————◇—————     午後一時五十九分開議
  102. 永田亮一

    ○永田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。土井たか子君。
  103. 土井たか子

    ○土井委員 もうすでに本条約に対しまして触れられた点もこれからの質問の中には一部出てくるかと存じますが、その点は私の方も配慮をしながらひとつお尋ねを進めたいと思うのです。  今回、この引渡し条約を新しく締結する主な理由というのを簡単にひとつ御説明賜れませんか。
  104. 北村汎

    ○北村説明員 現行の日米犯罪人引渡条約と申しますのは、いまから九十二年前、明治十九年に締結されたものでございまして、したがいまして何分とも長い期間がたっておりますので、その間、国際航空その他の交通手段の発達によりまして、国際的な傷害事件が非常に増加をいたしました。そういう事態に適合しなくなってきたのではないかというように考えられてまいりました。特に、現行の条約では犯罪人引き渡しの対象は十五にしぼられております。また、国外犯も入っておりません。それから、引き渡し手続も煩瑣である。そういうようなこともありまして、その改正がかねてから望まれておったわけでありますが、たまたま一九七五年にクアラルンプール事件が起きまして、そういうものを契機といたしまして、政府としては国際的な犯罪抑圧というものを強力に進めなければいかぬというふうに感じまして、その翌年の一月にアメリカ側に対しまして現行の条約を改定したいということを提案いたしました。その後交渉いたしまして、ことしの三月三日に東京で署名をいたしたということでございます。
  105. 土井たか子

    ○土井委員 経過についてはいま御説明のとおりだろうと思うのですが、その中で、国際的な犯罪というものがふえつつあるということの御指摘がございました。どのような犯罪がふえつつあるのであって、それに対して一体どれくらいの件数を掌握なすっていらっしゃるのであるか、これはどうなんですか。
  106. 敷田稔

    敷田説明員 御指摘の点でございますが、たとえば昭和四十五年の赤軍派によります日航機「よど号」乗っ取り事件から急激にこの種事件がふえ始めまして、四十七年のテルアビブのロッド空港事件あるいは近くは五十年のクアラルンプール事件あるいはダッカの日航機ハイジャック事件など、そういう犯罪がふえているわけでございます。  これにつきまして、また国際的な人の交流もふえておりまして、たとえば正規に入国しました外国人の場合、昭和四十七年の七十万九千人余りから昭和五十一年には八十五万にふえておりますし、また日本国民の正規に出国しました数も、同期間中に百五十三万から二百五十八万、このようにふえております。そのような着たちがいろいろな形で犯罪に関係し、犯罪を犯すという形になりますと、国を越えて出たり入ったりということになりまして、したがってこの種の事件がふえているということでございますが、先生後段の方に御指摘のように、正確にどの程度の数字を把握しているかといいますと、まだ正確な数字を把握する体制に至ってないわけでございます。  というのは、統計的に申しましてどういうものをどの段階でどうとるかということの体制が整っていない段階でございますけれども、幸いに法務省刑事局にも国際犯罪対策室などが設けられまして、今後は関係各省と一層緊密な協力をして、こういう国際傷害事件の把握という体制を整えてまいりたい、このように考えております。
  107. 土井たか子

    ○土井委員 ところでお尋ねしたいのは、この現行法で引き渡したかったけれどもそうはできなかったという案件が過去にございますか。日本側からアメリカ側へ引き渡したかったけれどもそうはこの条約でできなかったという案件が過去にございますか、どうですか。
  108. 敷田稔

    敷田説明員 戦後は現実にそういう問題に逢着いたしたことはございません。戦前につきましては、何分資料はすべて焼失いたしておりますので、これを定かにすることはできないわけでございます。
  109. 土井たか子

    ○土井委員 引き渡してもらいたかったがそうはいかなかった、つまりアメリカ側から日本側引き渡しを当然要求してしかるべき事案であって、引き渡してもらいたかったけれどもそうはいかなかった、午前中、例のロッキードのコーチャン、クラッターという名前が出ておりますけれども、引き渡してもらいたかったけれども現行条約ではそうはいかなかったというふうな事案はあるのかどうか、いかがですか。
  110. 敷田稔

    敷田説明員 特には承知いたしておりません。
  111. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、いま御答弁は法務当局だと思いますが、そのコーチャンとかクラッターについては引き渡してもらいたい、そういう希望も法務省としてはお持ちじゃなかったのですか。
  112. 敷田稔

    敷田説明員 この問題につきましては現在進行しております裁判に関係いたしますので、引き渡しを求めたかったか求めたくなかったかという点につきましては答弁を差し控えさせていただきたいと思います。
  113. 土井たか子

    ○土井委員 係争中の案件であるという問題に、コーチャン、クラッターが具体的に日本の裁判権のこの管轄内で問題にいまなっていますか。そうじゃないでしょう。コーチャン、クラッターについて、法務当局が、できたらこれは引き渡してもらいたいという考えをお持ちになって当然の案件だったのですよ。あの当時、どういうふうな答弁を国会の中でなすってまいりましたか。野党側からの特にこのロッキード問題に対する追及に対して、できたらやはりコーチャン、クラッターというのを日本に呼べたらなという気持ちが法務省にみじんもなかったのですか。いかがなんです。
  114. 敷田稔

    敷田説明員 その取り調べなり事情聴取をして証拠を収集したいという点はもちろんあったと思いますが、それについてその処罰を求めたい気があったのかなかったのか、これは私承知いたしておりません。
  115. 土井たか子

    ○土井委員 個人の立場で私はあなたの所信をお伺いしようと思って質問しているわけじゃないのです。あなた個人の責任においてそうだったこうだったと答える必要はいささかもないですよ。ただ法務当局としては、これはやはりコーチャン、クラッターについてはできたら呼びたいとお考えになって当然なんです。むしろそのことに対してよく存じませんとか、そのことに対してはどうぞ御勘弁をというふうな答弁をなさること自身が非常に不自然ですよ。おかしい。こういうことは率直にひとつ法務当局の立場でお答えをいただきたいと思います。国民のよくわかるような答弁を、ひとつこの席ではっきりお答えになるように私は再度この問題に対して申し上げたいと思いますが、どうなんでしょう。これは引き渡してもらいたいというふうな希望は当然あってしかるべきだったと私は思うのですが、そうはいかなかったというのが現実の問題なんですね。この条約が今回こう変わりまして、先ほど免責事由なんというふうなことを持ち出されて、お互い日米間でのそういう取り交わしがあったからというふうなことをちらりと御答弁の中で出されておりますけれども、そういうふうなお互いの取り交わしがない場合、本条約であの事例に当てはめてひとつ考えてみてください。午前中の外務大臣の御答弁のとおり、率直に考えアメリカに対して引き渡し要求というのはできるのでしょう。どうなんですか。
  116. 敷田稔

    敷田説明員 旧法と申しますか、現行条約とただいま御審議いただいております条約とで、仮に贈収賄という犯罪が行われました場合に、それがいずれにおいても引き渡しを求め得るのかあるいは引き渡しを求め得ないのかという点でございますれば、なるほど旧法におきましては、付表で犯罪を限っておりますので、引き渡しを得ることができなかった。しかし、新条約に基づきましては引き渡しを求めることができる犯罪となった、こういうことでございます。
  117. 土井たか子

    ○土井委員 そこで、そうなってきますと、新条約ではいまおっしゃったとおりにこのいまの案件についても引き渡し要求をすることができるということなんですが、この新条約の十六条から考えますと、この条約の効力発生前に行われたものについてもそれは適用される案件というふうに考えてもよろしゅうございますか。
  118. 村田良平

    村田政府委員 適用できると考えております。
  119. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、午前中の繰り返しをここで確認することになりますが、純法理論的に言えば、コーチャン、クラッター氏に対して、日本側からアメリカ側に対して本条約の発効以前においても引き渡し請求をしようとしたらできるのだ、こういうことですね。
  120. 村田良平

    村田政府委員 この条約が発効した後でなければ請求はできないと思います。だから、条約の発効前の犯罪に関しても発効後請求ができるということでございます。
  121. 土井たか子

    ○土井委員 第十六条の二項の条文は、そうするとどういうかっこうになるのですか。
  122. 村田良平

    村田政府委員 この第十六条の二項で定めておりますのは、引き渡し請求に係る犯罪自体がこの条約の効力発生前に行われた場合でありましても、この条約の発効後はこの条約に基づいて、いわばさかのぼって請求することができる、こういう趣旨でございます。
  123. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、この十六条の二項に言うこの内容といたしましては、その犯罪行為を犯した時点についての問題をここで取り上げているということなんですね。つまり、引き渡しの時点を言っているのではなくて、その引き渡しに該当する、引き渡しの対象になっている犯罪行為のその時点について問題にしているという、そういうかっこうなんですね。
  124. 村田良平

    村田政府委員 お説のとおりでございます。
  125. 土井たか子

    ○土井委員 そういたしますと、これについては本条約発効後、先ほどの犯罪行為というのは、この条約が発効する以前において行われた行為でございますから、純法理論的に言うと、コーチャン、クラッター氏に対してもこれは二条の一項に規定する犯罪に該当するということである限りは、アメリカ側に対して引き渡しを要求するということが当然可能であるということは、純法理論的に言えるわけですね。これはそうでしょう。これは確認できますね。
  126. 村田良平

    村田政府委員 この条約の適用という意味におきましては、先生のおっしゃったとおりでございます。
  127. 土井たか子

    ○土井委員 さてそこで、この条約についていま十六条の二項の問題ですが、午前中井上委員の方からの御質問の中に憲法三十九条という条文が引き合いに出されて、三十九条の条文に適合しているかどうかということが質問の中で取り上げられました。それに対しまして、外務大臣の方から三十九条に矛盾はしない、適合しているというお答えでございました。いま私局長に確認をさせていただいたのは、十六条の二項に言う「この条約の効力発生前に行われたもの」という、この「もの」というのは一体何だろうということについては、犯罪行為であるということを確認をさせていただいたわけですが、これ憲法三十九条の条文にどう書いてありますか。「實行の時に適法であった行爲又は既に無罪とされた行爲については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」つまり、三十九条というのは二つのことをここでは問題にしているわけです。説明するまでもございません。二重処罰の禁止ということが問題になっているわけですね。遡及して刑罰を科してはならないということが問題になっているわけですね。これいかがですか。条約が発効する以前に行われた行為について、そのときにはだからこの条約では引き渡しできないのですよ。引き渡しをするという条件が、その犯罪行為を行ったことに対して考えられない事案なんですよね。そうでしょう、この条約が発効する以前においては。発効してからそれ以前に行った犯罪行為について引き渡しをしてよろしいというのは、これ三十九条の不遡及の原則ということからすると矛盾しはしませんか、いかがなんです。
  128. 村田良平

    村田政府委員 私どもはけさほど大臣からの答弁がございましたように、三十九条に何ら抵触しないというふうに考えておるわけでございます。憲法三十九条は、わが国の刑事法の適用によりまして刑罰を遡及することを禁じておるというものでございます。また犯罪人引き渡しの方は、相手国におきまして刑事上の手続が有効にとられている、そういうものに関して引き渡しの協力をするという趣旨のものでございます。でございますから、相手国におきまして有効に処罰し得る法律があるという場合に、わが国条約発行以前において犯された犯罪について引き渡しに協力するということは、国家の犯罪人に対する適正な処罰というものを確保するということ、及び犯罪人人権の保護という両方の見地から考えてみましても適切な措置というふうに考えるわけでございます。  ただし、もちろんこの条約の発効前に犯された犯罪でございましても、両国それぞれの法律で可罰性があるということは当然のことでございまして、この第二条で定めておりますような諸条件というものは全面的にかかっているわけでございます。
  129. 土井たか子

    ○土井委員 それは罪刑法定主義の大原則から言ったら至って当然のことしか局長はおっしゃっていないわけでありますが、これは厳密に考えると大変問題が私は実はあると思いますよ、いまの問題。それは唯々諾々とおっしゃるけれども、確かに御答弁の中で言われるとおり、これは被疑者人権というのはあるのです。刑事被告人の人権というのはあるのですね。人権というものがあるがゆえに、日本国憲法の中では被疑者人権であってみたり、刑事被告人の人権であってみたりするその人権に対しても明定の規定があるのですね。そうでしょう。だからそういう点からすると、刑事上の責任を追及するという上においても、その人権を無視した刑事上の責任追及というのはできないわけなんですね。いまの条約というのは、犯罪人を引き渡すというのはこれは何のために引き渡すのですか、刑事上の責任を追及するのでしょう。刑事上の責任を問うために引き渡すのじゃないですか。憲法第三十九条の条文をちょっとよく読んでみてください。三十九条では「何人も、實行の時に適法であった行爲又は既に無罪とされた行爲については、刑事上の責任を問はれない。」もう一度繰り返して言いますが、「何人も、實行の時に適法であった行爲又は既に無罪とされた行爲については、刑事上の責任を問はれない。」こうなっているのですよ。これは、犯罪人を引き渡すというのは刑事上の責任を問うために引き渡すのです。そうでしょう。それ以外のことじゃない。それで、このいまわれわれが審議している条約が発効するまでは引き渡すことが認められない犯罪行為というのがあるのですよ、現に。ところが、この条約が発効してしまえばそれ以前は引き渡す対象になってない犯罪行為までも、以前に犯しているにもかかわらず引き渡してよろしいということを言うわけだから、この条約が発効しない限りは引き渡す、つまり刑事上の責任を問われることがないその行為に対して、遡及して刑事上の責任を問うことになるのじゃないですか。これは憲法三十九条の条文に、厳密に解釈すれば、これはいろいろな異論が出てくるかもしれませんが、少なくとも三十九条の精神からしたら、私はただいま言っている本条約十六条の二項の内容というのは矛盾していると思います。いかがですか。外務大臣に私は御答弁願います。外務大臣が午前中にそのことに対して御答弁なさったのですから。いかがです。いや、外務大臣にお願いしますよ。もう局長、結構。
  130. 園田直

    ○園田国務大臣 この条約の発効前に犯罪でなかったものが発効後に犯罪になるということはないと存じます。私が言った意味は、発効前には犯罪について処罰が妨げられていたのにすぎないもの、それが条約によって処罰可能となる、こういうふうに解釈をいたしております。
  131. 土井たか子

    ○土井委員 それは外務大臣外務大臣くらい人権に対して尊重するという気風の強い方がおっしゃるお言葉とはとても思えないですよ。本来処罰すべきものが処罰できなかったことをこの条約によって処罰が可能なことにつくりかえるのだという、これはちょっとおかしいのじゃないでしょうか。本来処罰が可能だと何に決められているのですか。処罰が可能であるか、不可能であるかというのは、明定の規定が必要ですよ。事、刑罰なんというものは、やはり人権とは深くかかわり合いがあるわけですから、罪刑法定主義の近代法学の大原則なんというものは、やはり人権思想から出ているわけです。だからその点考えれば、従来は罰してよいものが罰せられなかったことを解除して罰するようにするなんということは、それは少しおっしゃること自身私は非常におかしいと思う。罰してよいのが、とおっしゃるのは何によって罰してよいと決まっておるのですか。これはあくまでこういう罰してよいか悪いかということを取り扱う条約において具体的に明定して、初めて罰すべきか罰すべきでないかということが、その時点で明らかにされる問題ですよ。本来刑罰というものは遡及することは認められないのです。一たん適法であったという行為はどこまでいったって適法であって、その時点で適法であったことが、後で法がつくられてひっくり返って、遡及されて処罰対象としてその行為が考えられるなんということ、これはもう人権侵害もはなはだしいと言われるゆえんなのです。こういう点から考えると、大臣、いまおっしゃったことはおかしいのじゃございませんか。いかがです。
  132. 村田良平

    村田政府委員 いま土井委員のおっしゃいました、犯罪のときに適法であった行為が、この条約規定等によって遡及して適法でなくなる、こういうことではないと思うわけでございます。すなわち、その犯罪の時点におきまして、その行為は犯罪の行為が行われました国におきまして可罰性があるわけでございますし、また引き渡しに応ずるかどうかという場合には、その時点におきまして、わが国法律においても可罰性があるかどうかということを検討するわけでございますから、要はその犯罪人の処罰というものを実現するという目的に即して何をしたらいいかということになるのだろうと思うのでございます。犯罪人人権を保護するということはもちろん重要でございますけれども、刑事法上の不遡及という原則を、この犯罪人の国際的な引き渡しというものに関しまして、条約あるいは国内法で定めておるという例はないわけでございまして、いずれの国の国内法あるいは条約におきましても、このようなわが国の現在御審議をいただいておりますような条約と同じ考え方をとっておるということでございます。つまり、その犯罪人が犯行地から相手国に逃亡したわけでございますけれども、その結果、その人間は犯罪を犯した国の刑法の適用を逃れるわけでございますが、これはその犯罪がなくなったわけではもちろんなくて、単に現在の国際法上領土主権というものがあるわけですから、たまたまその結果として、本来なら処罰さるべき行為に関して処罰されてないという状況が発生しておるだけのことでございます。したがいまして、犯人が逃亡した国に対してこれが遡及になるから不引き渡しを要求するという権利があるものでもないし、またそういった犯人を引き渡すことがその犯人の人権を侵害することにも何らならない。これは憲法三十九条の精神にも何ら違反しない規定であるというふうに考えております。
  133. 土井たか子

    ○土井委員 ちょっと参事官、少しはき違えた御答弁をなすっておるようでありますが、そんなことを私は言っているのではないのです。しかも例として犯罪行為を犯しておいて逃亡した人とおっしゃるのは、ただ一例をそこで挙げられているにすぎない。犯罪行為をその請求国において犯して逃亡したか否かということは、それはいろいろなケースがあるでしょう。外地において犯罪行為を行ったという場合だってありますよ。だから請求国において犯罪行為を行った人が逃亡した例というのは、すべてに当てはめて考えるなんということは適当とはとても思えません。それが一つ。  それで外務大臣、少し中座をなすっている間に私が申し上げていたことは、先ほど外務大臣が御答弁なさったことと少し違いますので、大変時間の浪費になるかもしれませんけれども、簡単に、中座をなすっていた間の私の申し上げたことをかいつまんで申し上げて、再度外務大臣の御答弁をお願い申し上げることにしたいと思います。  それは、外務大臣、お手元にあると思いますが、この条約の十六条の二項というところをひとつごらんくださいませんか。この十六条の二項というこの個所を見ますと、「この条約は、第二条1に規定する犯罪であつてこの条約の効力発生前に行われたものについても適用する。」こうなっているわけですね。それで外務大臣が中座をなすっている間に、私は再度午前中の井上委員や楢崎委員の御質問の中にあったところの蒸し返しを少しいたしました。そして法務省側に、純法理論的に考えた場合に現行条約に従っていったら、どうもアメリカ側から引き渡してもらいたいなあと日本側考えるのだけれどもそうはいかなかったという例に、それはコーチャンやクラッター氏なんというふうな例があるのじゃないかということを私、聞きました。それに対してはなかなか答えづらいお立場におありになるということも一つはこっちとしては十分理解した上で、純法理論的にどうかという詰めをさらにやったわけです。そうしましたら、それは現行条約の上では無理だけれども、しかしただいま審議している条約からすると純法理論的にはコーチャン、クラッターについてアメリカ側に対して引き渡し要求をするということができる、こういうことになったわけです。そこまではいいのですよ。そこまでは午前中外務大臣の御答弁の中に出てまいりましたところで、そこまではいいのですが、さて、その十六条の二項と憲法三十九条との関係なんです。三十九条に矛盾しないということを午前中の御答弁で外務大臣はおっしゃったのですけれども、憲法三十九条の条文というのは読んでみますと、二つのことを憲法三十九条ではここに規定しているわけなんです。一つは二重処罰の禁止ですね。一つは刑罰不遡及の原則ですね。簡単に言うとそういうことです。この三十九条の条文の中で一部を割愛して言っていることの中身を読んでみると、「何人も實行の時に適法であつた行爲」は、刑事上の責任を問われないというふうに規定しているわけなんです。この引き渡しということは刑事上の責任を問うためにお互いが引き渡すわけですね。それ以外のことではないですね。したがいまして、刑事上の責任を問うということについてどういうふうに決めているかということは、こうこう、こういうふうな要件に該当する場合に引き渡すということを、具体的に明定の規定で決めておかないと、罪刑法定主義や人権尊重という点からすると、これはもとるわけです。そうですね。そういうことから言うと、この十六条の二項というところをもう一度読んでみてください。現行条約では引き渡すことが不必要なんですよ。不必要というよりも、その犯罪ではできないのです。現行条約ではその犯罪では引き渡し要求ができないのです。また引き渡す義務もないのです。ところが、新しく審議している本条約の十六条の二項というところを見ると、「第二条1に規定する犯罪であつてこの条約の効力発生前に行われたものについても適用する。」となっているのですから、この条約が効力を発していない間は現行条約でいくべきなんです。そうでしょう、あくまで。そうすると、現行条約では引き渡しが不必要な犯罪に対してまでも、この条約が発効した限りにおいて引き渡すということをこの条約が認めるということは、いま言う三十九条の「何人も、實行の時に適法であつた行鳥」は「刑事上の責任を問はれない。」ということに矛盾するのではないか。いろいろ憲法解釈はございますから、厳密な解釈ということになると、これは何時間あったって恐らく討論の尽きるところはないでしょう。ただ、憲法三十九条の精神から言えば、本条約の十六条の二項というのは矛盾する内容をここに規定しているということになりはしないか、こういう趣旨で私は先ほどお尋ねをしたわけであります。外務大臣、私の申し上げているところの趣旨がおわかりいただけたでございましょうか。どのように外務大臣はお考えになりますか。
  134. 園田直

    ○園田国務大臣 私、素人でございますけれども、土井先生のおっしゃることよく理解できます。私の理解するところでは、「第二条1に規定する犯罪であつて」というところは、この条約が交わされないうちはそれが適法な犯罪でない場合に、これが交わされてから犯罪になるということではなくて、犯罪を犯しておったが引き渡しをされなかったものが引き渡される、こういう解釈をしておるわけであります。ただし、その場合に、先ほど一言おっしゃいましたどういうのが犯罪であってどういうのは犯罪でないのかということはもっと綿密にしなければならぬのじゃないか、その点はよく理解できるところでございます。
  135. 土井たか子

    ○土井委員 外務大臣、確かに理解はある程度していただいたのですが、引き渡すという行為をひとつ考えてみていただくと、刑事責任を追及するために引き渡しを片やは請求をし、片やはその請求に応じて引き渡すという行為があるわけですね。刑事責任を追及する行為なんです。これは。現行条約では引き渡すことを問題にしていないという犯罪行為があるわけなんです。そうですね。新たにこの条約にかわることによって、十六条の二項では、現行条約で引き渡す必要のない犯罪行為に対して、また引き渡すことができない犯罪行為について引き渡すことができますよ、それは、この条約発効以前にさかのぼってその犯罪行為を問題にして引き渡すことができますよ、こうなっているのです。そこのところが憲法三十九条の立法趣旨、三十九条の精神にちょっとかなわないんじゃありませんかということを申し上げているのです。これはいかがでございますか。
  136. 園田直

    ○園田国務大臣 この条約の発効前に犯罪でなかったものがこの条約発効によって引き渡すというのではなくて、発効前にも犯罪ではあったが、しかし引き渡すことのできなかったもの、それを引き渡すわけでありますから、犯罪犯罪であって、問題は、犯罪でないものを引き渡す必要はない、こういうふうに私は逆に解釈をいたします。
  137. 土井たか子

    ○土井委員 いやいや、おっしゃる趣旨は私もよく理解できるのですが、憲法三十九条の条文には刑事上の責任を問われないということで規定をされているわけです。引き渡す行為というのは刑事上の責任を問うために引き渡すのですね。したがいまして、現在は引き渡しを認めていないものに対して、刑事上の責任を問うために引き渡すことを、新たにいまこのかえる条約の中で問題にしているわけでしょう。さかのぼってそれを問題にしてよろしいということを言っているところが憲法三十九条の趣旨にひっかかるのですよ。いかがなんです。これは。
  138. 村田良平

    村田政府委員 私どもは、厳密に申しますと、この犯罪人引き渡しという行為自体は憲法で言っております刑事上の責任を問うということには当たらないと思うわけでございます。請求国におきまして刑事上の責任を問うということに関して国際協力をする、これが犯罪人引渡し条約の目的とするところでございます。すなわち、相手の国におきましてはその行為が処罰可能であるということで請求をされておるわけでございますが、先ほど申し上げましたように、領域主権という壁があるものでございますからその処罰が妨げられておるという状態が発生しておる、そこでこの条約によりましてその壁を取り払う、たまたま、その場合に条約が発効する前の犯罪でありましても、本来それは相手国法律によって処罰さるべきであり、またわが国においても同様のケースであれば処罰をするという犯罪でございますから、そういった意味でこの引き渡しを行う、こういうことでございます。  人権の見地から申しましても、犯罪人がこの条約の発効前の罪については引き渡されないということにするのがその犯人の権利を擁護する、そういうことははなはだ納得できないことでございまして、本来そういう権利は持っておらないと思うわけでございます。
  139. 土井たか子

    ○土井委員 いまの参事官の御発言、大変なことを御発言なすったわけですが、この犯罪人引き渡しという行為に対して、憲法上言う刑事上の責任を問うということには該当しない、いまの御答弁からしたらこうなんですね。そうでしょう。日本ではこの条約に付随して国内法の一部改正をしなければならないということになるのですが、これはどこの委員会で何法を問題にするのですか。
  140. 敷田稔

    敷田説明員 実行の際に適法であった行為について刑事裁判を行わないということでございますが、私どもの理解では、贈収賄という行為は実行の際に適法であった行為ではないわけでございまして、双方……(土井委員「いま私はそんなこと聞いておりません」と呼ぶ)その前置きでございますが……(土井委員「前置き、って、全然関係ない前置きは要らないです」と呼ぶ)したがって、逃亡犯罪人引渡法におきましても同じような規定を置いておるわけでございます。
  141. 土井たか子

    ○土井委員 いまの御答弁は私の質問を聞いた上で御答弁いただいたのでしょうか。いま何を御答弁になったのですか。私の質問を聞いた上で、質問に対する御答弁以外の御答弁は私はいただかないですよ。何を質問したか御存じですか。
  142. 敷田稔

    敷田説明員 先ほどそこまで申し上げようと思っていたわけでございますが、逃亡犯罪人引渡法の一部改正は現在法務委員会に付託されております。ただ、その逃亡犯罪人引渡法の第三十三条にもこの条約の十六条二項とほぼ同趣旨規定が置かれておるということを御指摘申したかったわけでございます。     〔委員長退席、大坪委員長代理着席〕
  143. 土井たか子

    ○土井委員 それで、この引き渡しというふうなことについて先ほど参事官の方から御答弁がございまして、憲法三十九条による刑事上の責任を問うということとはこれは全然違うのだ、それに当たらないというふうな趣旨の御答弁であったように私は理解しておるわけですが、そのように法務省としても考えていらっしゃいますか。
  144. 村田良平

    村田政府委員 私が申し上げましたのは、請求国が刑事上の責任を問うことについて国際協力を行うというのが引き渡し趣旨である、こういうことを申し上げたわけでございます。
  145. 土井たか子

    ○土井委員 国際協力を行うのが引き渡し趣旨であるというのはそのとおりでしょうが、引き渡すということ自身は、刑事上の責任を問うために引き渡すという行為が必要であるのではないかということを私は終始一貫申し上げているわけなんですね。ところが、それに何ら関係がないという先ほどの御答弁なんですよ。三十九条のここに言う刑事上の責任を問うということとは別だという御答弁なんです。法務省もそのように考えていらっしゃいますかということを法務省に質問をさせていただいているわけです。
  146. 敷田稔

    敷田説明員 先ほどの外務省からの御説明と同じように考えております。
  147. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、この犯罪人を引き渡すという行為は、犯罪人に対して刑事上の責任を問うために引き渡すという引き渡し行為ではない、こういうことなんですね。
  148. 園田直

    ○園田国務大臣 専門家が答弁をしてかみ合わぬのですから、素人の私が答えると混乱すると思いますけれども、いまの点だけお答えをいたしますと、やはり引き渡しということは、相手の国が刑事上の責任を問うために引き渡せということを言っているのであって、これは土井先生の発言の方が正しいと素人の私は考えますが。
  149. 土井たか子

    ○土井委員 素人だと謙虚におっしゃる大臣の方がよほどまともに事を見ていらっしゃるように私は思うのです。どういうわけで担当の方々の御発言というのは、そうねじ曲げて事がややっこしくことさらなるのであるか不思議でたまりません。率直に物をどうしてごらんにならないのでしょうね。そして、どうしてここに書いてあることが素直に見ることができないのだろうか、私は不思議でたまりませんよ。それは大臣の言われるとおりだと思うのです。そういうことからいうと、これは三十九条は「刑事上の責任を問はれない。」ということで保障されている条文でございますから、非常に私はこれにひっかかりまして、十六条の二項のこの内容というのは、憲法の趣旨から考えたらちょっと矛盾するのじゃないか、日本国憲法三十九条の精神にもとるということになりはしないかなと思ったのです。そこで、少しそのお尋ねを進めたわけであります。非常にはっきりしないまま次に論点を移すということは、どうも私としては不本意でありますけれども、ひとつこの点、三十九条に違反しない、矛盾しないというなら、もう少し論点を整理して一回私に聞かしてください。これはよろしゅうございますね。  私は、あと少し大事な論点があって、特に外務大臣にこの点もお尋ねしたいという論点であるわけでございますが、大変重要な公務のために外務大臣が途中で中座をなさるということであります。そこで、外務大臣にそれじゃ一点だけひとつ確認をさせておいていただいて、あとは政務次官にさらに御質問を続けさせていただくことにいたしましょう。  これを見てまいりまして、どういう間違いなのかなと思ったのですが、後で交換公文というのがどういうふうな意味を持っているのかというのをお尋ねをしたいと思いますが、これは純事務的なことですから、外務大臣、簡単なことなんです。交換公文をずっと見てまいりまして、合衆国側書簡というのがまずございますね。そして英文で書いてあるのは、合衆国側書簡だけでございます。それで続いて、私どもいただいております交換公文の中には、日本側書簡というのがございますね。日本側書簡というのを読みますと、日本側書簡の文章の中に「両政府の代表者の間で到達した次の了解をアメリカ合衆国政府に代わつて確認する光栄を有します。」となっているのです。これは「日本国政府に代わつて確認する光栄を有します。」というのが私は正確ではないかと思うのですが、いかがなんですか。
  150. 村田良平

    村田政府委員 日本側書簡は、園田大臣が日本国政府にかわって確認をされたわけでございまして、それは一番最後から四行目のところでございますが、「本大臣は、更に、閣下の書簡に掲げられた了解を日本国政府に代わつて確認する光栄を有します。」これがわが方のステートメントでございます。先生指摘の点は引用の部分であろうというふうに存じます。
  151. 土井たか子

    ○土井委員 そうしますと、日本側書簡となっているのは、日本側の書簡でございますから、日本の立場に立って、この内容というのはしたためられるものだと私どもは思うわけでありますけれども、これをずっと読んでまいりますと、「書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、本日付けの閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。」「本大臣は、」というのは恐らく園田外務大臣のことであろうと思いますが、「本使は、」というのはアメリカ側の大使のことを指すわけですか。そうすると、この「本使は、」という部分から終わり、——終わりからという表現はなかなかわかりにくいかもしれませんが、いただいている交換公文の五ページの六行目まで、この部分がアメリカ側が出しているアメリカ側書簡そのものがここにまた再録してしたためてあるという形式なんですね。そうなんですか。
  152. 村田良平

    村田政府委員 御指摘のとおりでございまして、交換公文の場合には通常、一番最後のその儀礼的な行だけを除きました部分を再現してそれを確認するという方法をとっておるわけでございまして、従来このような形でテキストをつくっておるわけでございます。ただ、字を一字下げただけでございますので、確かにどの部分からどの部分までが引用部分であるか、ちょっと見づらいというようなことはあるかと存じますが、過去におきましてもこのようにいたしております。
  153. 土井たか子

    ○土井委員 非常に見づらいけれども、それは綿密に言うとそのとおりでしょう。ただ、これはどうなんですか。交換公文というのは、英文と日本文と両方が用意されて、そうして、われわれの手元に参っておりますのはアメリカ側の「エクスチェンジ オブ ノーツ」という中を読んでみますと、「U・S・ノート」だけしかございませんけれども、日本側の、またここに言う日本側書簡というのは、これに対してちゃんとあるわけですか。「エクスチェンジ オブ ノーツ」と書いてあるエクスチェンジというのは片っ方の方しか載っておりませんが、いかがですか。
  154. 村田良平

    村田政府委員 日本アメリカの場合には、先方は英語で書簡を発出いたしまして、わが方はその返簡は日本語で行うということにいたしております。そこで、先方から英語の書簡をもらいまして、そのうちの実質的な部分をわが方が日本語にいたしまして、こちらの返簡に引用する、こういうふうにしておるわけでございまして、こちらから先方に出した英語のテキストというものはございません。
  155. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、英語でここに用意されている分と、交換をされた中身というのは別のものですね。そうでしょう。これだけしかないというわけじゃないのでしょう。
  156. 村田良平

    村田政府委員 むしろそれだけでございまして、英語でもらったものと、それから日本語で出したものとでございます。ただ、国会に御提出する場合には、合衆国側の書簡は英語でございますけれども、やはり翻訳をつけて御審議いただいておるということで、合衆国側書簡というのは、本来は英語のテキストだけでございます。
  157. 土井たか子

    ○土井委員 これ、表題は「エクスチェンジ オブ ノーツ」と書いてあるわけです。これがその次をあけてみると、「U・S・ノート」だけで、日本側のが全然ないというのは厳密に言うとおかしいのですよね。そのことを私は一つ指摘したいと思います。いかがです。
  158. 村田良平

    村田政府委員 先生指摘のように「エクスチェンジ オブ ノーツ」という表題だけでございますと、双方のがそこに載っておるかのような印象を与えますが、厳密には合衆国側のノートであるというふうに書いた方があるいは文書の性格が明らかになるかと存じます。
  159. 土井たか子

    ○土井委員 文書の性格が明らかになるかと思いますという答弁も、これはまあ人を食ったというか、いいかげん、その言い回しをよほど苦労された跡がありありと見える答弁というか、率直にその辺もおっしゃればいいのですよ。内容も表題どおりにしようと思ったら、これは足りません、そういうことでしょう。これを率直にお認めになればいいのです。  さて、次に移りますが、もうすでに先日の委員会でわが党の高沢委員の方から質問がございましたが、ちょっとその質問について重複する点をひとつお許しいただきながら、私はこれ自身非常に重要な問題だと思いますので、質問をさせていただきたいと思うのです。  見てまいりまして、地位協定十七条3の(a)の(ii)の公務中の罪というのは、アメリカ側に第一次裁判権があるわけでございますか。
  160. 村田良平

    村田政府委員 公務執行中の作為または不作為から生じた場合には、アメリカ側が第一次裁判権を持つということでございます。
  161. 土井たか子

    ○土井委員 第一次裁判権というのはアメリカ側にあるかどうかということについての御答弁はいかがですか。
  162. 村田良平

    村田政府委員 ある事件が公務執行中の作為または不作為から生じた場合に、米国が第一次裁判権を持つ、それ以外は日本側、こういうことでございます。
  163. 土井たか子

    ○土井委員 作為または不作為によって生じた罪というのは、それはそのとおりでしょうがね。それ以外の罪というのがあるのかどうか私にはよくわかりませんが、アメリカ側に第一次裁判権があるということはいま事実御確認になったとおりですが、過去五年くらいの間の公務中の犯罪数というのは一体どれくらいですか、いまおっしゃっておるのは。日本人が被害を受けたという公務中の犯罪件数ですね、どれくらいありますか。それで裁判をそのそれぞれの犯罪に対して行ったかどうか、そのこともあわせてまずお答えいただきたいと思います。
  164. 敷田稔

    敷田説明員 お答え申し上げます。  ただいま手元に昭和五十年から五十二年までの記録を持っておりますが、昭和五十年につきましては百四十二名、五十一年につきましては百三十八名、五十二年につきましては百五十一名、このようになっております。これにつきましての、第一次裁判権に基づきますアメリカ軍側がどのような行為をとったかということについては、通報を受けておりません。
  165. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、どういうことになったかということの通報がないわけですから、その結果についてもわからないわけですか。
  166. 敷田稔

    敷田説明員 わからないわけでございます。
  167. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、裁判の結果がどうもはっきりしないということは、通報がないからという理由に尽きますか。こっちから問いたださないということでもありますか。いかがなんですか。
  168. 敷田稔

    敷田説明員 公務中の犯罪についての向こうの第一次裁判権の行使の結果につきましては、いわゆる刑事裁判を行ったか行わないかにつきましては、通報がないのでわからないということでございます。  それからまた、特にそれと別個に懲戒処分ということを米軍側が行うわけでございますが、懲戒処分の結果につきましても、これまでも通報を受けていなかったわけでございますが、先般これにつきましては、それの通報を受け得るように、そのための措置を講じた次第でございます。
  169. 土井たか子

    ○土井委員 先般その措置を講じられたということでありますが、どういう措置であるか、それも具体的に後でお示しいただきたいと思いますが、この十七条の3の(c)の前段、いま言っているのは地位協定ですが、これを見ますと、裁判権を行使しなかった場合は、速やかに通告する義務というのがアメリカ側にあるのじゃないですか、いかがなんですか。
  170. 敷田稔

    敷田説明員 これは、事前に第一次裁判権を行使しないということを決定しました暁には、速やかに他方の国にその旨を通告しなければならないというのが第十七条の3の(c)の規定でございます。
  171. 土井たか子

    ○土井委員 そういうことですね。それでいままでに事実そういうことがございましたか。通告しなければならないという義務を向こうは誠実に履行しているのですか、この地位協定に基づいて。そのことが確認されているのですか。
  172. 敷田稔

    敷田説明員 そのことは確認しております。それは忠実に履行されております。
  173. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、いままで通告されてきた例というのは何件くらいあるのですか。
  174. 敷田稔

    敷田説明員 向こうが行使しないということを言ってきた事例につきましてはございません。
  175. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、誠実に履行されているかどうかということに対して、胸を張って、先ほどのように自信を持って御答弁になること自身、非常におかしいじゃないですか。こちら側からすれば、そういう事例があったかなかったかというのを確認のしようがないでしょう。向こうからそういう通告がなかったからないということをおっしゃっているにしかすぎないのじゃないですか。そうでしょう。政務次官、お聞きになっていてどうお思いになりますか。
  176. 愛野興一郎

    愛野政府委員 ただいま法務省から答弁をいたしたとおりでございますが、しかしもし地位協定に盛られたとおりのことを実行しておらないとすれば、やはり向こうに実行してもらうように迫るべきである、こう考えます。
  177. 土井たか子

    ○土井委員 いままでに向こうからそういうことを通告してきたということはないわけですね。ないということは、つまり十七条三項(c)の前段で、裁判権を行使しなかったからこれを通告しますというふうな意味での、通告をしなければならない問題に該当するものがなかったというふうに、こちらとしては考える以外にはないのでしょうけれども、そのことが果たしてそのとおり事実に適合しているかどうかということは、法務省としては事情聴取をしたり何らかの方法において確認をされてきておりますか。いかがでございますか。
  178. 敷田稔

    敷田説明員 第一次裁判権を行使したかどうかにつきましては、種々確認を求めたわけでございますが、何分記録がなくなっているというようなこともございまして、確認されていないわけでございます。ただ、裁判権が競合いたしております場合に、向こうが行使をするかしないかという判断というものは、その事件その事件に応じてこれまでずっとやってこられたわけでございまして、こちらの方で相手方に対して裁判権の放棄を要請した事例、あるいは向こうがこちらに対して裁判権の放棄を要請した事例というものはございません。
  179. 土井たか子

    ○土井委員 それはまるで違った問題をいま御答弁になっているわけであって、裁判権を行使しないようにということを相手方に言うなんということは全く私は触れてもいない問題であります。  さて、裁判権を、もしアメリカ側に第一次裁判権があるにもかかわらず行使しなかったという場合には、日本側に第二次裁判権というものを行使するという権利が生ずることになるのでございますか、いかがでございますか。
  180. 北村汎

    ○北村説明員 先生のおっしゃいましたとおりでございまして、アメリカ側が第一次の裁判権を持っておる事件について裁判権を行使しないという通告をしてきた場合、あるいは当該犯罪について最初の通知のあった日の翌日から起算して十日以内に右の通告を受けなかった場合には、日本国はこの事件について裁判権を行使することができるということでございます。
  181. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、いま、第二次裁判権というものを、もしアメリカ側が第一次裁判権があるにもかかわらず行使しなかった場合、わが国としてはそれを行い得るということを御答弁になったわけですが、第二次裁判権を行使する場合、その者の引き渡しを要求する必要がございます。その引き渡しを要求するに当たっては、何条約に基づいてこれは問題にしていくべきなんですか。それは地位協定ですか、ただいま審議しているこの条約でございますか。
  182. 北村汎

    ○北村説明員 交換公文によりまして、この地位協定によって引き渡されるということでございます。
  183. 土井たか子

    ○土井委員 交換公文のどこにそんなことが書いてありますか。
  184. 北村汎

    ○北村説明員 先ほど問題になりました「本使は、」以下の向こう側の書簡を引用したところの交換公文の1、2の2のところでございまして、   この条約のいかなる規定も、両締約国が千九百六十年一月十九日にワシントンで署名されたアメリカ合衆国日本国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定に基づいて有する権利及び義務に影響を及ぼすものではない。 というこのくだりでございます。     〔大坪委員長代理退席、委員長着席〕
  185. 土井たか子

    ○土井委員 それは、交換公文で言うのはいまお読みになったとおりそのままでありまして、この条約でいろいろと引き渡しを要求するということではないのでしょう。地位協定で引き渡しを要求することになるわけですね。そうですね。その間の事情をちょっとはっきりさせてください。
  186. 村田良平

    村田政府委員 いま土井委員の問題とされておられる事態は、米側が第一次裁判権を持っておって、それを放棄した場合、それを行使しない場合の御質問であろうと思いますけれども、その場合には、そもそも日本国の領域においてそういう問題が起こっており、しかも日本側が米側に身柄の請求を求める話でございますので、犯罪人引き渡しとは関係のない問題でございます。
  187. 土井たか子

    ○土井委員 いまちょっとおかしなことをおっしゃいましたが、第二次裁判権というのは、日本に第一次裁判権を持っているアメリカが裁判権を行使しない場合に第二次裁判権が当然日本にあるということを確認されたわけですよ。そうしますと、第二次裁判権というものを行使する場合に、その犯罪人に対しての引き渡しを要求する必要があるわけでしょう。その引き渡しを要求するという場合の根拠になるのは本条約ですか地位協定ですかと聞いているのです。
  188. 村田良平

    村田政府委員 地位協定十七条五項の問題でございます。私が先ほど申し上げましたのは、引渡し条約の場合にはそれぞれの国が相手国の領域におる人間の引き渡しを求めるということでございますので、日本の領域内におきましてわが国米国人の引き渡しを求めるというのは、地位協定以外にそれを律する他の条約はない、ただ、米国日本に対して米国人の引き渡しを求めるという場合には、地位協定に基づいてそれを行うかあるいは現行の日米引渡条約ないし現在御審議をいただいております条約で行うかの点につきまして競合関係が生ずる、そういうことを申し上げたわけでございます。
  189. 土井たか子

    ○土井委員 アメリカに帰った軍人などを日本引き渡してもらうのは地位協定で行うということになるならば、その細目がはっきりしていなければならないと思うのです。こういう問題なんかについて、いま競合するというふうなこともおっしゃいましたけれども、交換公文の中身では、先ほどその公文の文章を答弁の中でも読んでいただいたとおりですが、やっぱり具体的細目をはっきりしておかなければならないのじゃないか。引き渡し内容に対してどのように取り扱うかという問題なんか必ず生じてまいりますから、そういうことが考えられるのですが、日米合同委員会でこういうふうなことは詰められているのですか。いかがなんですか。
  190. 北村汎

    ○北村説明員 合同委員会の合意の中に刑事裁判管轄権に関する事項がございまして、この内容につきましては昭和三十五年に衆議院、参議院の安保特別委員会に提出した資料がございますが、その中に、まずアメリカの方が裁判権を行使する第一次の権利を有しておる場合、アメリカの当局は現地におきまして一定の書式による書面によって引き渡しを要求する、日本の方が引き渡しを要求する場合には同じように一定事項を記載した書類を作成してアメリカ側に要求する、こういう手続が決められております。
  191. 土井たか子

    ○土井委員 そういう手続が決められておりますというふうな御返答なんですけれども、日米合同委員会なんかでどういうふうな決め方がされているかということがさらに少し知りたくて、これは関係するところの省庁はどこだろう、素人判断で恐らくは防衛施設庁あたり関係があるのじゃないかと聞いてみたら、さっぱりこれは存じ上げませんという話なんですね。それでは一体どういうところが日米合同委員会の中でそういう問題に対しての詰めをされているのかというのはここで非常な関心事になってまいりました。安保条約を運営するのについて下部機構というのは一体どのようなぐあいになっているのか、その任務分担というのは一体どのようなものになっているのか、さらにいま申し上げているこの日米合同委員会の構成メンバーというのは、一体日本ではどの省とどの省とどういう部局が構成メンバーの中に入っていて、下部機構というのは一体どういうことになっていて、運用がどういうことになっているのかということを、これを機会に明らかにしてくださいませんか。これははっきりさせておいていただく必要があると私は思うのですよ。  外務省の方に行くと、いや、この問題については合同委員会の所管ではありますけれども、どうも具体的に私の方とは違うと言われ、法務省の方に行くと、いや、具体的なことは少し、外務に聞いていただかなければ、こうなりますね。素人判断で防衛施設庁かなと思って聞きに行くと、いや、うちの方は直接にはタッチをいたしておりませんが、日米合同委員会でございましょうねというふうな返答が返ってくるのですよ。たらい回しもいいところであります。  しかし、これは日米合同委員会なんかで詰められているということをいまお伺いしたわけでありますから、日米合同委員会の構成、下部機構、運用、こういうことについて、はっきり図表で示したものを提示してくださいませんか。これは安保条約を運用するのについて、下部機構がどういうことになっているかということを知る上からいっても非常に重要な部面です。どうですか、できますね。
  192. 北村汎

    ○北村説明員 まず日米合同委員会の構成メンバーでございますけれども、日本側は外務省のアメリカ局長がその代表でございまして、アメリカ側はここの参謀長がその代表になっております。そしてその下に約二十の分科委員会がございまして、関係しておる省庁といたしましては、先ほど私が御説明いたしました昭和三十五年に御提出した資料にもありますけれども、法務省、大蔵省、通産省、運輸省、郵政省、労働省それから総理府の防衛施設庁その他そういう専門の関係の省庁が関係しております。  御要請のありました図表につきましては後で御提出させていただきます。
  193. 土井たか子

    ○土井委員 図表については後で御提出ということでありますから、それを明示していただいたのをさらに確認した上で、この点なども追及する必要があろうかと私は思います。  先ほども参事官の方から本条約と地位協定とで競合するというふうな部面が引き渡しに対して生ずるという御答弁をいただいているわけですが、地位協定に従って第一次裁判権がアメリカ側にあり、そしてその裁判権が行使されないときに第二次裁判権は日本側にあるということが先ほど来の御答弁で確認をされております部面について、この引き渡しの問題はさらに地位協定に基づいて十七条の5の(a)のところで規定をされているのじゃありませんか。いかがですか。十七条の5の(a)のところでそれが規定されているところに従って、その引き渡しについては相互に援助しなければならないという相互義務というものが生じているというかっこうじゃないかと思います。そうしてさらに刑事特別法の十八条、十九条で逮捕などを行った者を引き渡すための規定というのが必要になってくるわけでありますが、それとオーバーラップするという関係にあるのではないかと思いますが、この点についての御見解もあわせてお示しいただきたいと思うのです。
  194. 北村汎

    ○北村説明員 ただいま土井委員が御指摘なさいましたように、地位協定第十七条五項(a)によって、お互い引き渡しについて援助するということが書かれてあります。これがもとになってアメリカの軍隊の構成員もしくは軍属あるいはそれらの家族の犯罪その他お互い引き渡しをするということになっております。  刑事特別法についての御質問は法務省からお答えいただくことといたしたいと思います。
  195. 敷田稔

    敷田説明員 先生指摘のとおり刑事特別法十八条、十九条ないしは十一条に規定されてございます。
  196. 土井たか子

    ○土井委員 いま御答弁のとおりの関係がはっきりするわけですけれども、公務中とはいえ、日本において日本人を巻き込んだ犯罪を刑事裁判にもしないような卑屈な態度というものは日本としてはとるべきではないと思うのです。申し上げるまでもなく、わが国は歴然たる法治国家なんでございますから、アメリカ側が第一次裁判権を持っているにもかかわらず裁判権を行使しないというふうな場合については、日本が必ず第二次裁判権というものを行使するという態度をとるべきだと思いますが、この点は確認してしかるべきだと思います。いかがです。そうですね。
  197. 敷田稔

    敷田説明員 アメリカ側が第一次裁判権を行使しなかった場合でございますが、現在までアメリカ側が第一次裁判権を行使しないという事例はございませんので……。
  198. 土井たか子

    ○土井委員 私は具体的事実を聞いているわけじゃありません。先ほど申し上げたことをもう一度吟味して率直な御返答をお願いします。
  199. 敷田稔

    敷田説明員 日本側が第二次裁判権を行使し得る状況におきまして、犯罪が明確に成立しており、十分な証拠があります場合には当然日本側が第二次裁判権を行使できることと考えております。
  200. 土井たか子

    ○土井委員 そこで、現行条約でも米軍などによる犯罪人引き渡しというのは地位協定で処理をしてきたわけですか、それとも本条約から地位協定で処理しようということになるわけですか。いかがですか。
  201. 敷田稔

    敷田説明員 地位協定だけの問題でございまして、本引渡し条約とは直接の関連はございません。
  202. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、いままでもこの地位協定で処理してきたということになるわけですね。現在のこの条約がこのようになっても何らその関係においては変わりはないというかっこうなんですね。そうしますと、交換公文はどのような法的根拠を持つというふうに考えたらよいのでしょう。念のためというふうな規定と思ってよいわけですか。いかがですか。
  203. 村田良平

    村田政府委員 実体的には地位協定を引き続き適用するという点では変わらないわけでございますけれども、しかし、現実の問題といたしまして、現行条約の場合には国外犯の規定がございませんものですから、両者が競合するというふうなケースは理論的に絶無とは言えないかもしれませんけれども、現実にあり得なかったわけでございます。  ところが、新条約によりますと国外犯の規定がございますので、ある事案がございましたときに、それは地位協定によって律するか、あるいは引渡し条約によって律するかという点の競合関係が生ずるということになるケースが非常にふえるわけでございます。しかも地位協定の後にこの新条約をつくりますから、前法と後法の関係というふうな点も明らかにするということが必要であると考えまして交換公文でその点を明確にしたということでございます。二つの国会承認条約の関係を明確にするという問題でございますので、交換公文も国会承認の対象として御提出しておる、かような次第でございます。
  204. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、合衆国軍隊などの犯罪について、地位協定において取り扱われる引き渡しに該当しない、本条約引き渡しをしなければならないと考えられるような案件というものがあるのですか。
  205. 村田良平

    村田政府委員 具体的な例として一つ申し上げますと、わが国における合衆国の軍隊からあるアメリカ兵が日本国内に逃亡したというふうな事件があるといたしますと、従来は地位協定に基づいて、米側から日本側に本人の身柄引き渡しを求める、わが方は協力する、こういう関係にあったわけでございます。  ところが、新条約によりますと、それは米国法律の国外犯の規定も適用されますので、犯罪人引渡し法による手続というものも理論的にあり得るということになるわけでございます。そうなりますと諸般の不都合が生じるわけでございますから、地位協定によってそのような事案は律するということを明確にする必要が出てきたわけでございます。
  206. 土井たか子

    ○土井委員 その辺残そうすると、従来は地位協定一本で処理してきたことが、地位協定で処理しないで今度は本条約で処理するという案件もある、従来は地位協定で処理してきたことを、地位協定で処理しないという事例を新たに本条約で認識することになる、こういうかっこうなんですか、平らに言えば。
  207. 村田良平

    村田政府委員 いま先生の御指摘のような事態はないと存じます。むしろ、従来からあった事案二つ条約の対象になり得るという事態が生じるということでございます。
  208. 土井たか子

    ○土井委員 そうすると、そのことについては、地位協定を適用するか、本条約を適用するかというのは、一体だれがどこで決めるのですか。
  209. 村田良平

    村田政府委員 この交換公文によりまして、地位協定によるということは明らかでございます。
  210. 土井たか子

    ○土井委員 何かわけのわからぬ御答弁になりましたね。この交換公文によって、地位協定でそれは万事この取り扱いを進めようということになっていると。しかし、従来からそれは、特に交換公文で確認をせずとも、地位協定で取り扱っている事例であるということにおいては変わりはないということでしょう。  だから、ことさらこれは地位協定で取り扱うものであるということを交換公文の中で明示した意味というのはどの辺にあるのですか。これは何遍も繰り返し聞かなければならない。先ほどの御答弁に矛盾するようなことをいまおっしゃいましたよ。
  211. 村田良平

    村田政府委員 先ほどの答弁の繰り返しになるかと思いますけれども、特にその国外犯の規定が新条約に置かれたということの結果といたしまして、いずれの条約を適用するかということが疑問になる、あるいは両条約が競合して適用され得るという具体的なケースというものが発生する事態になるわけでございます。そこで、そのような場合には、現在どおり、地位協定の規定に従って処理するということを、この交換公文の第二項で定めておるわけでございます。
  212. 土井たか子

    ○土井委員 時間的制約があるようでありますから、この問題については、さらに私は詰めを次回にすることにいたしましょう。  一点だけ最後に聞いて、次の質問者に譲りたいと思います。  それは、この条約の第一条の条文の中にある文言なんですが、少し条文をその前の部分から読んでまいりますと、「刑罰を執行するために他方の締約国からその引渡しを求められた者であってその領域において発見されたものを、」と書いてある。その「発見されたもの」という「もの」がひらがなで「もの」と書いてありますね。提案理由は漢字の「者」という字になっております。これは、提案理由は漢字の「者」であって、日本語で書いてあるこの第一条の条文にはわざわざひらがなをここに当ててあるというのには何らかの意味があると思えるのでありますが、いかがなんですか。
  213. 村田良平

    村田政府委員 これは従来の慣用といたしまして、者であってこれこれするものという場合には、その両者の関係を明らかに区別するために、上の方は漢字を使い、後の方はかなを使うという慣用になっておるということでございます。
  214. 土井たか子

    ○土井委員 そんな慣用はない。そうすると、提案理由の方で漢字を用い、そして本文のこの条約条文の第一条においてはひらがなをことさらここに使われたという、この意味はどの辺にあるのです。
  215. 村田良平

    村田政府委員 提案理由の方は「自国の領域で発見された者」、「発見された者」というだけでございますので、漢字を用いたわけでございますが、第一条の方は、これこれの者であってこれこれの者というふうに二つ重なりますので、後ろの方をひらがなで「もの」と書いたということでございます。
  216. 土井たか子

    ○土井委員 以後の質問は、次回に譲りたいと思います。
  217. 永田亮一

    ○永田委員長 渡辺朗君。
  218. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 この条約引き渡し犯罪規定の方式なんですが、説明書を読みますと、包括主義ということとそれから罪種列挙主義、この両者があるけれども、両国間で検討に検討を重ねた結果、最終的に包括主義を基本とするということになったと、そう言いながら、その基本を踏まえながらも、付表につけてあるように罪種が列挙されている、こういうのはどういうところに起因したのでございましょうか、まずお聞きいたしたいと思います。あるいはその点では、質問がいままで質問された方と重複するかもしれませんが、お願いしたいと思います。
  219. 村田良平

    村田政府委員 渡辺委員指摘のとおり、新条約におきましては包括主義をとったわけでございますが、しかしながら、包括主義をとるにいたしましても、この付表のように主な引き渡し犯罪を網羅したリストというものをつけますと、個別の事案の際に各国国内法を一々検討しなくても、条約の付表を見ただけでも、これがおおよそ引き渡しの対象になる犯罪であるというふうなことがすぐ把握できるわけでございまして、罪種列挙主義のメリットをそういう意味では取り入れることができるわけでございます。そこで、包括主義の規定のみならず、このような付表をつけまして便宜に処した、こういうことでございます。
  220. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 それから、細かいことですけれども、そのいまの付表の方を見ますと、書き方にこういうのがありますね。たとえば「殺人、傷害致死」、第二番目には、たとえば「不法な逮捕若しくは監禁に関する罪」というふうに、ちゃんと「罪」としてある。それから三番目には「会社その他の法人の規制に関する法令に違反する罪」——「違反する罪」。どうしてこういうふうに三つの種類が統一されないで列挙されているのでしょうか。そこら辺、何か理由がありましたら教えていただきたいと思います。
  221. 敷田稔

    敷田説明員 仰せのとおり三つに分かれておりますが、それはそれぞれ意味があるわけでございます。  まず、殺人あるいは傷害致死というようにそのものだけで犯罪内容が一見して明確であるようなものにつきましては、そのままで単に罪の名前を出しておるわけでございますが、何々に関する罪、たとえば十項の「わいせつ物に関する罪」と申しますと、わいせつ物の陳列あるいは販売あるいは販売目的の所持というようなものがこれに入りますので、それらのものを含めた形において規定しているわけでございますし、それからまた、何々の法令に違反する罪と申しますのは、その特別法の中に一年を超える罪を幾つか規定しているものがございますので、それらのものをすべて含むという趣旨でこのように書き分けているわけでございます。
  222. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 さらに、こういう点もお聞きしておきたいと思うのです。  わが国逃亡犯罪人引渡法によれば、引き渡しの対象外とされるというのは三年以下の罪の者、ところがこの条約では一年以下は対象外とされております。どうしてこういうことになっているのかという点が一つ。  それから、こういう食い違いがあると、たとえば日本アメリカ犯罪として刑罰の量が食い違うというようなものがあれば、これはどういうことになるだろうか。あるのかないのかわかりませんけれども、まずその二つの点をお聞きしたいと思います。
  223. 敷田稔

    敷田説明員 日本国逃亡犯罪人引渡法に基づきましては三年以上ということに規定してありまして、なるほど御指摘のとおり条約の場合は一年を超えるものであるわけでございますが、これは日本の場合には三年以上の罪と申しますのは重大な犯罪であるかあるいはそうでもない犯罪であるかということにつきましての刑事訴訟法上それが重要な分岐点となっておりまして、これによりましてたとえば緊急逮捕ができるかできないかというラインになっておりますので、日本国の一般の考え方といたしましては、特にこれによって重大な犯罪は三年以上であるという方針は堅持したい、このように考えるわけでございます。  ただ、アメリカの場合は御高承のように重罪と軽罪という分け方がございまして、重罪の場合は一年を超えるものというふうに規定してありますので、一応日本国アメリカの場合それぞれの国の特異の情勢をそれぞれ尊重しながらお互いに協力していこうという意味でこういう立て方になっているわけでございます。
  224. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 それで、具体的にいまの三年と一年ということの違い、それが日本アメリカでの何か食い違いになるようなケースというのは想像されませんですか。具体的な例というものは何か想定されませんか。
  225. 敷田稔

    敷田説明員 法のたてまえは三年でございますが、事アメリカに関します限りにおきましてはその条約に基づきまして一年以上ということになっておりますので、双方とも相互可罰性は全く同等でございまして、特段の問題はないと思っております。
  226. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 たとえばこれに載っているのかどうかわかりませんが、名誉棄損なんというのはどうなるのでしょう。アメリカ日本では大分考え方が違うように思うのですけれども、そういう点を例にとってみますとどういうことになりますでしょうか。
  227. 敷田稔

    敷田説明員 先生指摘の名誉棄損につきましては、日本国刑法によりますと二百三十条で三年以下の懲役となっておりますが、たとえばカリフォルニア州の刑法典を暫時調べましたところこれは軽罪となっておりまして、一年以下でございます。したがいまして、この名誉棄損につきましては日米引渡し条約の対象にはならない、こういうことでございます。
  228. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 さらに、付表の三十のところに「麻薬、大麻、向精神薬」というようなのがあります。私もよく知りませんけれども、アメリカでは各州によってそれに対する対処の仕方、日本における取り扱い方、これは違うように思いますが、そういうケースは出てまいりませんでしょうか、ここら辺をお尋ねいたします。
  229. 敷田稔

    敷田説明員 事、麻薬に関します限り、各国とも非常に重く処罰しておりますので、少なくとも一年を下る法定刑をつけるということはおよそ考えられないところであろうと思いますので、その点につきましては特段の支障はないと存じております。
  230. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 支障がないということですね。  さて、それではこの付表の二十七、二十八というのはハイジャックを対象としたものだ。そしてまた、この説明文を読みますと、いろいろ背景にはあったけれども、本条約がつくられたというのは昭和五十年のクアラルンプール事件というものがあったことがきっかけの一つであるということが書いてございます。  そこでお尋ねをいたしますが、ハイジャックというのは一体どういうふうに考えたらよろしいのか。たとえばクアラルンプール事件のときリビアの方に犯人たちは行っております。そうすると、リビアの方ではこのハイジャッカーというような犯罪人政治犯と見ているんでしょうかどうでしょうか、まずそこら辺ちょっとお尋ねをしておきたいと思います。
  231. 村田良平

    村田政府委員 渡辺委員指摘のこの付表の二十七番目、これはヘーグ条約の対象としております罪でございまして、これが通常ハイジャックと私どもが呼んでおるものであろうと思います。  それから、二十八番目の方はモントリオール条約の規制対象でございますが、ハイジャックと似たようなあるいは観念したような犯罪であるわけでございます。  お尋ねのハイジャック犯罪というのをどう考えるかということでございますが、私どもといたしましてはこのヘーグ条約あるいはモントリオール条約でそれぞれ規定しておりますところの構成要件を満たしておればそれがハイジャック犯罪でございまして、その限りにおいて本来普通犯罪であるというふうに観念しておるわけでございます。もっとも、ハイジャックという犯罪は往々にして政治的なスローガン等を掲げて行われておるということは事実でございますが、しかし基本的にはこれは普通犯罪であるというのが私どもの立場でございます。  なお、御質問のリビアがどういう考えを持っておるかということは私ども実はわからないわけでございます。したがいまして、その点についての答弁はお許し願いたいと思います。
  232. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 いや、実は私はクアラルンプール事件が起こったときの衆議院での議事録、やりとりをいろいろ見てまいりました。そうするとその中に、これは後に起こったあのダッカ・ハイジャック事件の超法規的、緊急避難的、これの前例を開いた法治国家として大変重要な問題であったと同時に、大変重要な問題提起をしたのではないかと私は思うのです。その論議が当然真剣に行われたのですけれども、そのときにこんなことはもはや二度と起こしてはならない、起こさせない、国際的にもあらゆるいろいろな努力をしてこれをなくさせていくということを政府の方でも言っておられる。ただし、いま村田さんが答弁されたように、何かリビアの方に対する態度というのは大変その当時からしてあいまいでございました。少なくとも、向こうの方に何らかの意思表示が政府として行われ、犯人引き渡し、そういうような折衝も行われたのではないかと思うのですが、その間の経緯をちょっと知らせていただきたい。交渉、折衝は行われておらないのでしょうか。
  233. 千葉一夫

    ○千葉政府委員 ただいまリビアと仰せられましたが、アルジェリアかと存じますが、アルジェリアにつきましては実は対策本部が当時対処方針を決定しまして、それに基づいていろいろ交渉いたしたわけでありますが、その際、アルジェリア政府が犯人に対してとった措置の内容及び犯人に関するすべての情報の提供を求めよう、そういうことでありまして、これはその際、御存じのとおりアルジェリア政府の方から、そういう日本の要求には応ずることはできない、そういうことを言ったわけであります。わが方としましては、その当時切迫した情勢下にありますのでこの条件をのんだわけでありまして、結局それをずっと守っておるわけであります。その後、御高承のとおり、希望表明という形でただいま申し上げたようなことを向こうに申し入れたわけでありますが、向こうはそれを全然受け付けない、こういう状況であります。その後、若干接触もありましたけれども、結局向こうの態度はそういう基本的なラインを固執しておりまして、全然われわれの求める情報はくれておりません。  以上が経緯でございます。
  234. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 いまの点でもう一遍お確かめいたしますが、いま局長さん御答弁いただいたのは、これはクアラルンプール事件の際のケースでございますか。
  235. 千葉一夫

    ○千葉政府委員 失礼いたしました。  ただいまのはダッカ事件でございます。
  236. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 そうしますと、クアラルンプールの事件の際のことを、どのようなその後対処をされたのか、経過を御説明、御報告いただきたいと思います。
  237. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 クアラルンプール事件の直後のとりました措置でございますけれども、外務省は直ちに日本赤軍関係者につきまして国際刑事警察機構を通じまして国際手配を行ったわけでございます。このような措置の結果といたしまして、先生御高承のようにクアラルンプール事件の起こりましたのは五十年の八月でございますけれども、それ以来数人の者が本邦へ強制送還されておるわけでございまして、その著明な例といたしましては、ヨルダンから五十一年十月に送還されました奥平純三、日高敏彦、日高の場合には遺体として送還されたわけでございますが、クアラルンプール事件犯人として送還されたのはこの二名でございます。奥平純三につきましてはダッカ事件において再び釈放されたことは、これまた御高承のとおりでございます。
  238. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 いまのそれは政府間の交渉によって行われたわけですね。そうですね。——そうしますと、これはもう一遍ちょっともとに返りますけれども、ここには犯人引き渡し条約はない。そういうわけですが、どういう根拠に基づいて先方では犯人を送り返したわけでしょう。引き渡したわけでしょうか。  これは、先般来説明を聞いていたら、アメリカのような国あるいは民主主義の制度発達している国、そういうところとは犯罪人引渡し条約を結ぶけれども、それ以外のところは、たとえばいまおっしゃったような国々というのは対象外になっているように説明がございました。そういうふうに向こうも、折衝すれば犯人を引き渡すような国、私はそういうところと本来引渡し条約なんかを結ぶ可能性も出てきているのではなかろうかと思うものですからあえてお尋ねするのですが、その先方が送り返してきたのはどういう根拠、どういう条約に基づいて、条約がないというのはおかしいですが。
  239. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 先生の御質問の第一点でございますけれども、送還を可能ならしめた原因は送還国における偽造旅券行使の訴追があったからでございまして、これに対しまして、わが方の申し入れによって先方が送還をしてまいった。もちろん国際協力の精神によって送還が行われたわけでございます。  犯罪人引渡し条約とハイジャック犯人、過激派との関係の問題でございますが、これについてはすでにあるいはるる御答弁もあったかと思うのでございますけれども、御承知のように犯罪人引渡し条約そのものが、やはり適切な客観条件によって初めて成立し得るものでございまして、いかなる国ともこれを直ちに締結し得る環境にないことも、これまた御理解をいただけるわけでございまして、そういう意味でハイジャック犯人引き渡しのみを特定するような条約関係を容易に設定すること、これは本来困難が伴うわけでございまして、その場合にはただいま申し上げましたように国際協力によって、相手国法律違反という前提が出てまいりますけれども、その状況のもとでケースバイケースに送還を要求してくる、これまたかなりの実が上がっておるというふうに御了承いただきたいと思う次第でございます。
  240. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 そこでもう一度お尋ねいたします。  ダッカの事件、あのときのケースでは、先ほどもお話がございましたアルジェリア政府は犯人の引き渡しに応じられない、そういう態度であった。日本政府側として、それはどのような向こう側の政府の見解に基づくものであるのか、ここら辺については御答弁いただけませんでしょうか。
  241. 千葉一夫

    ○千葉政府委員 これは、アルジェリア側に対して、わが方の飛行機を受け入れてくれ、こういうことを頼みましたときに先方が出した条件でございます。その条件は、犯人の引き渡し、身のしろ金の返還及び犯人によって惹起された損害の賠償を犯人にかわって負担することをアルジェリア側に要求しない、そういう条件をのんでくれ、こう言われたわけであります。これに基づいておる次第でございます。
  242. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 実は昭和五十二年の十一月には、国会でこの問題を契機に決議もされておりますね。その中でこう言っております。各国に対して積極的に協力体制整備を求めるために努力する。それから、幾つか言ってありますけれども、第二に、逃亡犯罪人引渡し条約締結国を拡大するのだ。三番目に、これは今日までのハイジャック関係犯人についてはあくまでも追及し、逮捕し、引き渡し等に全力を尽くして必ず成果を期すべきである。こういう決議まで行っておられるのですね。その後、それではアルジェリアのそのような態度に対しましてどのような行動を行っておられますでしょうか。日本政府としての今日までの働きかけ、再度御説明をいただきたいと思います。
  243. 愛野興一郎

    愛野政府委員 ただいまの御質問は、国会決議等々もあったわけでありますし、政府といたしましては今日ただいまでも再三にわたってアルジェリア政府にこの関連情報の提供あるいはまた犯人の行方についての情報等々も求めておるところであります。残念ながら、わが国としてもいろいろなこういった問題の再発防止のために、さらにひとつ国際テロ行為の防止のためにアルジェリア政府に協力を求めておるわけでありますが、犯人引渡し条約の審議の際にもいろいろのお話がございましたように、その国の体制やイデオロギーあるいは環境等によって請求国側と被請求国側との考え方が違うわけでありまして、そういったことから政府としては引き続きこの国際テロ行為の防止の観点からもアルジェリア政府に対していろいろと情報の提供を求めておるところであります。
  244. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 それではちょっと別の観点からお聞きしますけれども、現在日本国籍を持つ者で他国において逮捕されたり拘置されている者、ちょっとハイジャッカーだけに限ってみましょう、それは何か調べはございますか。
  245. 敷田稔

    敷田説明員 現在各国に何名何名という具体的な数字は手元に持ち合わせておりません。
  246. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 ぜひ一遍調べて教えていただきたいと思います。  たとえば岡本公三、これはハイジャッカーではなかったけれども、しかしハイジャッカーの目的の一つに頻繁に出てまいります。また先般のように、サダト・ベギンの平和交渉ぶち壊しみたいなことにもなってしまうきっかけにもなっている。現在はたしか、四十八年の警察白書によれば、イスラエルにおいて逮捕されて終身刑に処せられているというふうになっておりますが、それは事実ですね。現在服役中である。これもやはり他国においてそういう犯罪人、ハイジャッカーに類する赤軍派のグループの一人がそういうようなケースで置かれている。これは日本政府として引き渡しを要求すべきものなんですか、どうなんですか。一般の国民の立場に立ちますと、赤軍派の一蓮托生のグループがおり、それが常に火元になりまして、あちこちで騒乱を起こしている。当然、日本国籍を持っている人間だったら、これは日本でもって引き渡しを要求すべきではないかと常識的に思うのですが、こういうことについてはどのようにお考えでございましょうか。
  247. 敷田稔

    敷田説明員 先ほど仰せになりました点をまずお答え申し上げまして、それからいまの点を御説明申し上げたいと思います。  先生仰せられました、各国にどういう者がいるかということについて調査をすべきではないか、調査を尽くすべきではないかという仰せはまことにごもっともでございまして、私どもの刑事局総務課にも幸い四月五日に国際犯罪対策室というものが発足いたしましたので、警察庁の国際刑事課、外務省その他の当局と密接に連携を保ちつつ、こういう事態の完全な把握、できるだけ確実な把握というものに今後とも努めてまいりたい、このように考えております。  次に、岡本公三の点でございますが、一応のたてまえといたしましては、すでにその国におきまして裁判を終わったものにつきましては、その国のそういう実体、事実というものをできるだけ尊重する立場でございます。  それからまた、今後同種の事案が起こった場合にどうするかということになりますと、やはり日本国において引き渡しを求めた方がより適正な裁判ができると思われる場合には、相互主義の保証その他がなされます場合には、これを求めていくことになるべきではないか、このように考えております。
  248. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 そうすると、一般的なお答えだったものですから何ともとらえようがないのですが、適正な裁判ができる場合には、日本でやった方がいい場合には、引き渡しを求める。現在の場合、岡本公三のケースの場合は、イスラエルで服役中であり、その裁判なりその他は公平に公正に行われたというふうに判断して、向こうに任せているというふうに見てもいいわけですか。
  249. 敷田稔

    敷田説明員 日本国においても全く同様でございまして、日本国ですでに刑事手続を進めていることにつきましては、仮にどこの国から引き渡し請求がございましても、その引き渡しに応じないわけでございます。これと同じように、他国においてすでに刑事手続が開始されて終結しておりますものにつきましては、それを尊重する、こういうことでございます。
  250. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 時間がありませんから、一つだけ最後にお尋ねをしておきます。  これまた起こってはならないけれども、またハイジャッカーがそのような行為を行った、そして岡本公三の釈放要求を日本政府に対してやってきた、そういう要求を突きつけてきたといったようなケースが万が一あったような場合、これは日本政府としてどういう態度をとられますか。イスラエルに引き渡し、釈放を要求されるわけでございましょうか。大変仮定の問題で恐縮ですけれども、あり得ないとは言えないことでございますので、あえてお尋ねをいたしておきます。
  251. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 ただいまの御質問は非常に仮定の問題でございますが、恐らく岡本公三の釈放を要求するような要求は、イスラエル政府に対してなされるものであろうというふうに考える方が現実的ではないかと思います。それ以上のことは私も特に申し上げることはございません。
  252. 渡辺朗

    ○渡辺(朗)委員 大変仮定の問題でややこしいことをお聞きいたしました。  先ほどお話がありました、ハイジャッカーに限らず、今後引き渡しを要求すべき日本国籍の犯罪人、こういうような調査がありましたら、ぜひお教えをいただきたい、これを要望いたしまして、私の質問を終わります。ありがとうございました。
  253. 永田亮一

    ○永田委員長 中川嘉美君。
  254. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 私は、前回いろいろと御質問した中でも、最後の方で難民とかあるいは政治亡命、さらには政治犯等について順次御質問していったわけですが、若干残すところがありましたので留保させていただいたわけで、もう少しだけ残っておりますので、順次伺っていきたいと思います。  まず、ただいまも申し上げました政治犯が海外に逃亡または避難する場合、たとえば韓国から日本に逃亡してきたような場合、多くの場合は身体の危険というものを感じて出国をしてくる。わが国にすれば、正規の旅券とか査証等の手続はしないわけですね。向こうからそのまま入ってくるわけですが、この場合に、政府は不法入国者として退去強制処分とするのか、あるいは政治亡命を認めるかの判断をするわけです。私は、この場合、今日まで政府がとってきた処分そのものにここで警告を発しておきたいと思うわけですけれども、すなわち本人の政治的な背景というものを無視して、ただ出入国管理令違反ということだけの理由で、退去強制処分を執行する、そして事実上政治犯であるべきものを向こうへ引き渡してきたというケースが非常に多かったように理解しております。こういった事実に対して、ここで政府の反省を求めるものですけれども、この点についてどう考えておられるか、どのような見解を持っておられるのか、お答えをいただきたいと思います。
  255. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 まず犯罪人引き渡しということと、それから特定の国の出入国管理法令に定められた入国要件を備えていない者に対する入国の拒否ということと、区別する必要があろうかと存じます。  ただいまお尋ねの、ある国から、その国の政治秩序ないしは政治体制を保護法益とする犯罪を犯し、そのゆえにその国の官憲から追及を受けて、そしてその追及を避けるためにわが国にやってきて入国をさせてくれという場合に、まず有効な旅券がなければならない。さらには、通常は査証が要求される。さりながら、通常さような切迫した事態のもとにわが国に難を避けて来る者は有効な旅券を持たない。いわんや査証の発給を受けないままで到来するのが通常のことであろうと存じます。  そこで、さような場合に、ただいま中川議員の御指摘では、在来わが国の当局がさような者に、難を避けて来た国、つまり危難の存する国に向けて退去強制したとおっしゃいますけれども、必ずしも私どもはさように過去の実績を認識いたしておりません。  まあ理屈を申しますと、まずさような場合に私ども日本の出入国管理当局がとってまいりました措置の基本的な方針ないしは姿勢と申しますのは、本人が申し立てるところの追及、これを広い意味での迫害と申してもよろしかろうかと存じますけれども、その申し立てが果たして真実であるのか、架空のものではないのかという点を、利用し得るあらゆる資料を用いましてできるだけ真相を確かめる、これが第一点でございます。そうして、その申し立てが必ずしも架空ではない、何せわが国の港にやってきたばかりでございますから、必ずしも精密な資料ですみずみまで、何と申しますか、白黒をきわめることは困難であるといたしましても、少なくとも架空のものではないということが前提でございます。そしてその場合に、わが国の出入国管理当局が在来とってまいりました姿勢は、架空のものでない以上、その者を本国へ、つまり追及、迫害の待っている国へは送り返さない。これは御案内のノンルフルマンの原則でございますけれども、その原則をかたく守り、将来にわたって維持していく所存でございます。  問題は、単にさような迫害の待っている国へ送り返さないということだけであるのか、それにとどまらずむしろ積極的に日本の国に正規に入国を認め、滞在を許す、そして安住させるというところまでのいわゆる保護ないしは、通常かような場合には庇護という言葉を用いますけれども、庇護を与えるのかということでございます。しかし、そこまでまいりますと、これはおよそ難民と申しますか、亡命者と申しますか、あるいは政治犯罪による亡命と申しますか、さようなたぐいの人々の取り扱いを一般的にいかようにすべきかという非常にスコープの広い問題になりますので、一法務省ないしは一入国管理局において独自に決定することのできない問題でございます。つまりこれは、政府政府として政府レベルにおいて決定すべき基本的な施策姿勢でございます。したがいまして、その点につきましてはただいま私の口からとやかく断定的なことを申し上げることは差し控えさしていただきたい、かように存じます。
  256. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 そうしますと、従来政府がとってきた処分について伺いますが、送還先そのものは政府の一方的な判断によったのか、それとも本人の意思を尊重して希望を十分生かしたのか、こういう問いに対してどちらかと聞かれれば、むしろ後者であるということと、先ほど過去の実績というお話がありましたけれども、過去に明らかに政治犯とおぼしき者で退去させてしまったものもあるのかないのかということもちょっと懸念されるわけですけれども、真相を確かめた上で、政治レベルでもって判断を下して永住等についても決定する、これは今後も含めてでございますが、解釈をそういうふうに了解していいかどうか、この点についてお答えをいただきたいと思います。
  257. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 まず送還先の問題でございますけれども、私どもは、国内法つまり出入国管理令にのっとってすべてのケースを措置いたしますが、出入国管理令によりますと、日本国の費用でもって送還する場合には、その者の国籍の属する国、いわゆる本国が第一次的な送還先でございます。なお、本国に送ることができない場合には、かつて居住していた国その他が第二次、第三次の送還先になるわけでございます。ただし、これはいずれも国費による送還の場合でございまして、出入国管理令第五十二条第四項に定めておりまするところのいわゆる自費出国、おのれの費用によって日本国を退去しようとする場合につきましては、送還先に関しまして法律上何らの指定、制限はないわけでございます。そして私どもは、さような懸念がある、つまり迫害問題がひそんでおるのではなかろうかというようなケースにつきましては、当然のことながら本人の希望、意思を尊重いたしまして、自費出国の可能な場合には自費により、本人が希望する地域ないしは国へ送還する、しからざる国費送還による場合も必ずしも本国ではございませんで、その他の迫害の危難のおそれのない国または地域へ送還する、こういう方針で運用してまいっておるわけでございます。  大体以上申し上げましたことでお尋ねお答えしたことになるかと存じますが、なお足りませんでしたならば追加をいたします。
  258. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 私が最後に伺ったところで、政府レベルで決定を迫られるような場合、これについてはどうですか。
  259. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 私の体験いたします限りは、さような政府レベルにおける決定を迫られた具体的ケースがないのでございますが、もし起これば、つまり政府レベルの決定と申しますことは、単に迫害の待っている国へ送還しないということだけでなくて、日本国に正規に入国、滞在を認めるという場合でございます。さような特に政府レベルの決定に迫られたというケースはさしあたりちょっと思い浮かばないわけでございますが、しかしさようなケースが起これば、当然政府レベルの決定が要求されることになろう、かように考えております。
  260. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 例のミグ25のベレンコ中尉ですけれども、これは政治亡命であったか、あるいは単なる不法入国であったか、まずこの問いにお答えいただきたいと思います。
  261. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 ただいまお尋ねのいわゆるミグ25機事件、ベレンコ中尉のケースでございますが、このケース入国管理当局といたしましては、通常の旅券を持たないで入ってくるところの不法入国ケースということで、出入国管理令に定めまするいわゆる退去強制手続をとったわけでございます。ただ、本人は何も日本に住みたいということではございませんで別のある国へ行きたいという希望を当初から持っておったようでございます。したがいまして、私どもは出入国管理当局がその退去強制手続の過程において、先ほどの答弁で御説明申し上げましたように、いわゆる国費送還によるのでなくて、自費出国の手続によりまして本人の希望する国へ退去をさせたという次第でございます。
  262. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 そういう御答弁を背景として、あの当時ソ連に引き渡さなかった理由理解し得るように思いますが、ベレンコ中尉のこういった先例によって、今後本人の希望する国に送還する、たとえばほかの件が起きた場合ですね、本人の希望する国に送還することとなるものか、これらの点について明らかにしていきたかったわけですが、こういったベレンコ中尉の先例というものができた以上は、たとえばそれが韓国から飛び込んできたというような場合も全くその対処の仕方が同じであるというふうに解釈をしていいかどうか。私は今日までの韓国人のこの場合等においても人道的にはやはり本人の意思を尊重すべきだというふうな考え方を持っていたわけなんで、この点を確認をしておきたいと思います。
  263. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 お答えをいたします。  少なくともいわゆる迫害ということを考慮しなければならないケース、つまり本国へ送り返せば迫害が待ち受けておるということについて考慮を要するケースにおきましては、本人の国籍がいずれの国に属しようとも、それによって差別すべきものではない、かように考えております。
  264. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 それでは、第五条について伺いますけれども、「被請求国は、自国民を引き渡す義務を負わない。ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる。」この第五条ですね。これは国際法上、自国民引き渡しということは、いわゆる国際慣習法か、それともこれは一つの国際慣行にすぎないものか、どちらに当たりますか。学問上からもやはり明らかにしておいていただきたいと思います。
  265. 村田良平

    村田政府委員 今日、多数の国は自国民保護という見地あるいはその他の理由から、国内法あるいはその国が結びます引渡し条約におきまして、自国民は引き渡さないというたてまえをとっております。これは普通自国民引き渡し原則というふうに呼ばれておるわけでございますけれども、また国によりましては、自国民引き渡しを認めるという国も多数あるわけでございます。特にアメリカあるいはイギリス等におきましては、そもそも刑罰法規の適用についての考えが属地主義をとっているわけでございます。     〔委員長退席、大坪委員長代理着席〕 ですから、自国民といえども、外国で犯した犯罪外国に処罰してもらうのが妥当である、こういう考えをとっておりますので、その犯罪を犯した人間を処罰するのは、当然自国民といえども引き渡すということになっておるわけであります。そのような次第で、先生の御質問に対するお答えといたしましては、これは国際的に広く行われておる、慣行ではございますけれども、国際慣習法ではないということでございます。
  266. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 このことに関連して、「その裁量により自国民を引き渡す」というところがありまして、ここはもう少し具体的に御説明いただけますか。「その裁量により自国民を引き渡すことができる。」というところですね。
  267. 敷田稔

    敷田説明員 この「裁量により」と申しますのは、法務大臣が種々判断を加えまして、当該日本人を引き渡すかどうかということを決定するわけでございますが、その判断に際してどういうことを基準として考えるべきかということにつきまして若干御説明申し上げますと、まず基本的には、犯罪地である外国において処罰を行おうとしております場合は、原則としてその国が適正な処罰が期待される限りにおきましては、その国の処罰あるいは刑事手続というものを尊重すべきことになろうかと思います。しかしながら、その国におきまして全く刑事手続が行われていない場合あるいは必ずしも十分と言えない場合というような場合につきまして、あるいはその他諸般の犯罪内容あるいは性質、軽重あるいは請求国わが国に対する自国民引き渡しに関する運用の実情でありますとか、そういうものを考えまして、あるいはもちろん、日本国国民感情というものも十分尊重しなければならないわけでございますが、そのような諸般の状況考えまして、法務大臣裁量すべきことになろうかと存じます。
  268. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 それでは、アメリカから日本人の犯罪人引き渡し請求された場合に、自国民引き渡しに当たるわけですが、この者を海外犯として日本の司法権のもとに裁判をすることについての政府の見解、これは一体どのようなものであるか。このようにして自国民引き渡しというものは回避されるものと思いますが、この点はどうでしょうか。
  269. 敷田稔

    敷田説明員 まことにケースバイケースになろうかとは存じますが、しかしながら、仮にその事件につきましての関係人あるいは証拠がほとんど日本国において存在して、日本国で適正な裁判が行えるという場合には当然日本国でやるべきだと思いますし、先ほど申し上げましたように日本国民の国民感情というものも十分これは尊重すべきであるというふうに考えております。
  270. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 そうしますと、いま申し上げた逆のケースとして伺いますが、アメリカにおいては日本刑法と同じように海外犯の法律はあるかどうか。この点はいかがですか。
  271. 敷田稔

    敷田説明員 ございます。日本国ほど広範ではございませんが、たとえばハイジャックでございますとか、あるいは合衆国政府に対する詐欺でありますとか虚偽報告でございますとか、こういうものにつきましては海外犯処罰規定がございます。
  272. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 次に、第六条の二項ですけれども、「この条約の適用上、締約国の領域とは、当該締約国の主権又は権力の下にあるすべての陸地、水域及び空間をいい、」云々と書いてありますが、この「領域とは、当該締約国の主権又は権力の下にあるすべての陸地、水域及び空間」というところで、この「主権」と「権力」とはどのように違いがあるのか。どう使い分けておられるのか。この点はいかがでしょう。
  273. 村田良平

    村田政府委員 ここで「主権又は権力」という二つの字が使ってあるわけでございますが、これは現実には主としてアメリカとの関連がある規定でございまして、この際特に「権力」という言葉であらわされておりますのは、米国の場合には米合衆国の本来の領土でないけれども、現実米国の施政下にある地域というのがあるわけでございます。それは重要なものは三つでございまして、一つはコモンウエルス。これはプエルトリコでございます。それからミクロネシアの信託統治地域、これもこの「権力の下にある」地域に入るわけでございます。それからパノマ運河、これは目下米国の租借地になっておりますので、新条約は署名されたわけでございますけれども、現状におきましては合衆国の「権力の下にある」領域ということになるわけでございます。     〔大坪委員長代理退席、奥田委員長代理着席〕
  274. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 次に、第八条の六項ですけれども、「請求国が提出するすべての文書は、被請求国の法令の要求するところに従い正当に認証されるものとし、これらの文書には被請求国の国語による正当に認証された翻訳文を添付する。」こういうふうになっておりますが、「正当に認証された翻訳文」ということについて伺いたいわけでありますが、まず翻訳文の認証そのものはだれがするのか。認証する機関はどこにあるのか。わが方か、あるいはアメリカか。わが国には翻訳を認証する機関があるのかどうか、この辺をめぐってお答えをいただきたいと思います。
  275. 村田良平

    村田政府委員 わが国においては、特にこの点に関します法令はないわけでございますが、アメリカにおきましては連邦法典の中に定めがございます。この定めによりますと、この引き渡し事件の審理に提出されますところのいろいろな書類が証拠として受理されかつ容認されるためには、その書類が請求国の裁判所においても同じような目的のために受理し得るものであるというものとして適式かつ適法に認証せられ、さらに請求国に駐在する米国の大使館または総領事館の権限ある官吏の証明書により、右書類が正規の方法で認証されたものであることが証明されなければならない、このように定めてございます。  そこで具体的に、わが国請求国となりましてアメリカに対して要求をするという場合には、その書類を在日米国大使館の権限ある官吏が認証するということになるわけでございます。
  276. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 「法令の要求するところに従い」、実は私はその次にそれを聞きたかったわけでございますが、そうすると、どういう法令を言うのかという問いに対してのいまの御答弁は、米国にはあっても日本側にはないという意味ですか。
  277. 敷田稔

    敷田説明員 日本側にはございませんが、一応刑事訴訟法に基づきます翻訳ないしは鑑定というものに類似した行為でありまして、いわば一つの言葉から他の言葉に直された場合にその真実性が確保されている、あるいは同一性が確保されているということの認証を、適宜の者がなすべきであろうと思います。
  278. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 御答弁からすると、「思います。」という形において、その範囲における御答弁をいまいただいたわけですが、れっきとしてこの条約の中に「被請求国の法令の要求するところに従い」とちゃんと明記してあるのですから、その辺がどうもこの条約の文章に対して、もう一つ御答弁がすっきりしないような気がするので、これはもう一回確認してください。
  279. 敷田稔

    敷田説明員 その点でございますが、強いて申し上げれば、日本国刑事訴訟法ということになろうかと思います。日本国刑事訴訟法において証拠として用い得るものであるかないか、用い得るものでない限りにおいては、適正に翻訳されたものとは言いがたいのであろう、このように存じます。
  280. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 時間が参ったようですので、まとめて伺いたいと思いますが、自国文と翻訳文はともに正文となるのかどうか。たとえばILOの総会議事規則四十二条ですね、これは英文、仏文の正文以外の正式訳文は、関係政府要請に基づいてILO事務局長が作成することになっているわけですが、こうして作成された訳文が、当該国について正式訳文と認められることになっているわけです。この第八条六項の場合は、ただいま申し上げたILO条約と同様の解釈でいいのかどうか、この点はいかがでしょうか。
  281. 村田良平

    村田政府委員 先生の御例示のILOの場合には、この引き渡し請求の際の添付書類とは若干性格が異なると思われますが、いずれにいたしましても、引き渡しの本来の資料というのは、第八条の第六項の前にいろいろな資料が要求されておりますけれども、二項以下でございますが、そういったものが基本の資料でございまして、その翻訳文というのは、あくまでその出された資料というものが被請求国におきまして妥当なものとして判断し得るためのいわば参考資料、参考材料というものであろうと存じます。
  282. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 私としては実はもう少し詰めていきたい問題ではありますが、時間も来ておりますので、次に犯罪人引き渡しですが、この請求国あるいは被請求国のいずれの場所で行われるのか。現行の日米犯罪人引渡条約第七条によって、日米双方が自国民引き渡したことがあったかどうか。また、もしあったならば、その件数についても伺っておきたいと思います。
  283. 敷田稔

    敷田説明員 件数につきましては、戦後におきましてはアメリカからアメリカ国民を一名引き渡しを受けております。
  284. 中川嘉美

    ○中川(嘉)委員 最後にもう一問だけ伺いますが、そんなわけで、こういった国家間の条約によって今日まで引き渡したと言われる件数が非常に少ない。いまたしか一件と言われましたね。非常に少ないように思うわけで、日本犯罪を犯した米国人がアメリカに逃げ帰るケースは、現実には当然もっと多いんじゃないか。そして、そのことによって泣き寝入りをしてきた日本人というのは非常に多いんじゃないか。こういった現実の事態に対処するためにも、わが国としてはこの事実をさらに厳しく追及していくべきではないか、このように思います。ただいまの御答弁は、多くの犯罪の中にあってまことに限られた件数と言わざるを得ないわけですが、こういうことでは、条約があるからといって一〇〇%安心はしていられない、こんなふうに思うわけですが、今後の追及に対する政府の厳しい姿勢ですね、どのように対処されるか、この辺を最後に伺って、質問を終えたいと思います。
  285. 愛野興一郎

    愛野政府委員 ただいまの先生の御質問にはまことに同感でありまして、今回のこの条約によりまして対象もふえたことでありますし、同時に、やはり主権国家として御趣旨を体して今後前向きにやっていかなければならぬ、こういうように考えております。
  286. 奥田敬和

    ○奥田委員長代理 正森成二君。
  287. 正森成二

    ○正森委員 私は、日本共産党・革新共同を代表いたしまして、日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約について、逐条的に最初に質問させていただきたいと思います。  まず最初に、当然のことでございますが、念のために伺っておきます。第二条に「付表に掲げる犯罪であって」というようになっておりますが、その四十七番目は、「前記の各罪の未遂、共謀、ほう助、教唆又は予備」こうなっておりますね。ところが一例を挙げると、前記の各罪には、予備を罰しない構成要件がたくさんあるわけですね。それは当然この文章から見ますと「この条約の不可分の一部をなす付表に掲げる犯罪であって両締約国の法令により死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされているもの」、こうなっておりますから、予備について構成要件がなく、かつ一年以上の犯罪とされていない者については当然適用がない、こういうように解釈していいわけですね。
  288. 敷田稔

    敷田説明員 先生仰せのとおりでございます。
  289. 正森成二

    ○正森委員 それでは次に伺いますが、この第二条の規定によりますと「死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされているもの」、こういう表現になっておるわけですね。そこで伺いたいのですが、たとえば、日本では刑罰の中に死刑も含まれておるがアメリカでは死刑が含まれていない犯罪、あるいは逆にアメリカでは死刑が刑罰のうちで含まれておるが日本には死刑が含まれていないものというのがあり得ると思うのですね。そういう点についてはどうなさるおつもりですか。
  290. 敷田稔

    敷田説明員 刑が一年を超えます限りにおきましては、引き渡し犯罪となるものと考えております。
  291. 正森成二

    ○正森委員 いまそういう答弁がありました。それは基本的人権の保護からいいまして非常に問題のある、考えてみなければならない規定の仕方ではないかと思います。たとえばヨーロッパ引渡し条約につきましては、条約の第十一条で相対的不引き渡し考え方をとっているはずであります。たとえば一九五九年のベルギー、モロッコ条約の九条では、引き渡し請求の原因たる犯罪行為が請求国の法のもとで死刑に処せられ得る場合、被請求国は、請求国の国家元首または憲法上の権限ある当局者に対し、死刑を他の刑罰に軽減するよう上申するとの条件のもとに引き渡しをすることができる、こういうぐあいになっているのですね。あるいはまた一九六二年のベネルックス三カ国条約の十条にも同じ趣旨規定があります。これは引き渡しをする場合に、死刑を科してはならないという条件のもとに引き渡すように定めた例であります。他方、たとえば一九六〇年の英、西独条約の第三条では、公判で犯人が引き渡し犯罪に関し請求国の法のもとで死刑が科されるが、被請求国の法のもとでは同様なる事案につき死刑が規定されていない場合は引き渡しを拒否することができるというように、ただ単に死刑は科してはいけないのだというだけではなしに、そういう場合には引き渡さないことも裁量的にあり得るというように定めているわけですね。これはわが国では、あるいはわが国に限らず死刑というのは極刑でありますから、一概に死刑または無期もしくは長期一年以上というのではなしに、死刑が法定刑として選択されている犯罪については、私がいま言いましたような何カ国かの条約考え方というのは考慮されてしかるべきであったというように思うわけですが、基本的人権の確保あるいは人道的見地から、そのような各国の趨勢になりつつある見地について、この日米犯罪人引渡し条約が全く触れなかったというのはどういうわけですか。
  292. 敷田稔

    敷田説明員 御指摘ごもっともの点でございます。ただ、この条約自体に限りますと、日本アメリカもともに死刑を合憲と認めまして、一応その大多数の国はこれを支持している刑罰であるという前提におきます場合におきましては、やはり条約上は特段の定めをするまでの必要はないのではないかと私考えております。  ただ御指摘のように、たとえば両国の犯罪をしさいに検討してみますと、日本では死刑のないたとえば強姦でありますとかあるいは誘拐罪、これにつきましては連邦刑法は死刑または終身刑あるいは死刑または拘禁刑というような重罪を科しておりますので、そのような罪につきまして仮に日本国民の引き渡しがございました場合には、現行引渡法に基づきます法務大臣裁量権の行使に当たりまして、一つの重要な判断事項になるのではないか、このように考えております。
  293. 正森成二

    ○正森委員 しかし法務大臣裁量権と言われますけれども、この条約規定の仕方では裁量の余地は余り大きくないのじゃないですか。むしろそういう点については裁量が行われないというところにこの条約意味があるのじゃないですか。
  294. 敷田稔

    敷田説明員 その点につきましてはまだ先生の御審議が済んでいないこの第五条におきまして「自国民を引き渡す義務を負わない。」このように書いてございまして、「ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる。」、こうなっておりますので裁量になっているわけであります。
  295. 正森成二

    ○正森委員 いまお触れになったのは自国民の場合だけなんですね。そうでしょう。だけど私が言っているのは、自国民の場合に限らず、自国民以外であっても、たとえば請求国では死刑が科せられておるけれども、被請求国では死刑が科せられていない場合に、これを安易に引き渡しをするのは人道的見地から好ましくないということで一定の制限が課せられているというのが世界の条約の傾向なのではないか。それなのに、一番新しい一九七八年に批准しようとする世界でも最も文明国を自負しておる日本アメリカとの条約において何らの規定も置かれなかったというのは問題があるのではないか、こう指摘しておるのです。日本人のことだけを言っているのじゃないのです。
  296. 敷田稔

    敷田説明員 先生のお考えも確かに一つのものではございますが、ただ考え方を変えますと、日本国あるいはアメリカにたまたま逃げ込んできただけということによって死刑を免れるという運用になることもいかがかと思われますので……。
  297. 正森成二

    ○正森委員 いまの答弁は非常に粗っぽい議論なんですね。そういう答弁がもしできるとすれば、政治犯引き渡し原則もまた無用である。たまたま日本へ逃げ込んできたから政治犯は引き渡さないということで、これは非常におかしいではないか、何でもかんでも返せ、こういう議論と全く基本的には同じ考えなんですね。だからそういう乱暴な議論はよろしくないので、むしろ世界の趨勢としてはそういう考え方もある。ただ、しかし死刑の場合でも死刑は科したらいかぬが、たとえば無期懲役なんかが被請求国にある場合に、死刑があり得るというので全然返さないというのは公平の見地から見て正しくないから、引き渡さないのじゃなしに死刑は科さないという条件で引き渡すというのがベターであると思いますけれども、わが国アメリカとは今回は採用しませんでしたとか、もう少しへりくだった答弁をするのが当然であって、いまのような乱暴な答弁をすると、たまたま逃げ込んできたから政治犯が免れる、これはおかしいじゃないかということになれば、政治犯も返さなければならない、何でも返さなけばならないという議論になるでしょう。だから法務省の担当官としては非常に粗っぽい議論だ。だからもう少し答弁を細かにした方がいいんじゃないですか。
  298. 敷田稔

    敷田説明員 先生仰せのとおりでございますが、ただ政治犯の場合は、どこの国にありましても政治犯でございますけれども、死刑に当たるような重大な罪を犯した者につきましてはやはり重大な犯罪人でございまして……。
  299. 正森成二

    ○正森委員 最後のは多少負け惜しみ的な議論ですけれども、あなたにはあなたの立場がおありでしょうからこれ以上は追及しないことにいたします。  それでは、死刑の問題についてはこの条約は、非常に近代的な逃亡犯罪人引渡し条約の諸規定から見て、若干問題があるということをやはり指摘しておきたいと思うのですね。  次の問題に移りますが、この条約では第三条で引き渡しに関する手続が定められております。同時に第十条を見ますと、いわゆる略式引き渡しと言われている規定の仕方もしているわけですね。これは通常講学上言われる略式引き渡しを第十条で決めてあるものであるというように解釈していいですか。
  300. 村田良平

    村田政府委員 さようでございます。
  301. 正森成二

    ○正森委員 第十条の「被請求国の裁判所その他の権限のある当局に対し、」というのは、これはたとえばその国の法制度が検察官である場合には、検察官でもよろしいという意味でしょうね。  それから「被請求国の法令の許す範囲内において、引渡しを促進するために必要なすべての措置をとる。」というのは、放棄を申し出た場合には、被請求国の側で法令の許す限りは返さないという選択の余地がないというように解釈してもよろしいか。
  302. 村田良平

    村田政府委員 ここで定めておりますのは、特に交渉の経緯から申し上げますと、米国制度を勘案して入れた規定でございまして、わが国の場合には、その「法令の許す範囲内において、」という条項が適用されるという法令がないわけでございますけれども、米国のコモンローではこのような制度がございますので、証拠の十分性の判断であるとか、聴聞手続とか、そういうものを省略する措置をとる、特に権利を放棄するという申し出が本人からありました場合に、そのような措置をとるということを定めたものでございます。
  303. 正森成二

    ○正森委員 ベネルックス三カ国条約の十九条の二項では、たとえば十八日以内に執行されるというような一定の期間的な制限があるわけですね。この条約ではそういう制限が全くありませんが、「引渡しを促進するために必要なすべての措置をとる。」という紳士的な信頼関係にゆだねておるというように理解してもいいわけですか。
  304. 村田良平

    村田政府委員 そのとおりでございます。
  305. 正森成二

    ○正森委員 第四条には、いわゆる政治犯引き渡し制度が定められておるわけですけれども、たとえばこの政治犯の不引き渡し考え方について、この条約規定からいいまして、いわゆるベルギー加害条項と言われるのですか、そういう特例とか、その他の特例を認めていないというようですが、そう理解してよろしゅうございますね。
  306. 村田良平

    村田政府委員 先生の御指摘のいわゆるベネルックス加害条項というものは、本条約には取り入れられておらないわけでございます。  私どもの考え方といたしましては、すでにこの点については当委員会において種々質問あるいは答弁があったところでございますけれども、政治犯罪とは何ぞやということの総合判断は、いろいろな要素を勘案して判断すべきものである。したがって、いわゆるベネルックス条項のようなものを置きまして、特定の犯罪は、あらかじめ政治犯罪でないと断定することはよろしくないということで、そのような規定を取り入れなかったわけでございます。
  307. 正森成二

    ○正森委員 いま私の言い方が悪かったかもしれませんけれども、ベネルックスではなくてベルギー加害条項ですね。  それから次に申し上げますが、この第四条の一項一号の「又は引渡し請求引渡しを求められている者を政治犯罪について訴追し、審判し、若しくはその者に対し刑罰を執行する目的で行われたものと認められる場合。」こうなっておりますね。その場合の挙証責任はどこにありますか。当該引き渡し請求を受けておるものが証明しなければならないのですか。それともその証明が必ずしも十分でなくても、被請求国がそう認定すればいいということになるのですか。私は、後の方の解釈がこの条文の解釈に即するように思いますが、いかがです。
  308. 村田良平

    村田政府委員 先生の後の方の解釈でございます。
  309. 正森成二

    ○正森委員 一九一一年に、かつての帝政ロシアとわが国との間において日露逃亡犯罪人引渡条約締結されました。その場合の政治犯引き渡しについての規定の仕方と、本条約についての規定の仕方は異なるようですが、どういう点が異なっておるか説明してください。
  310. 村田良平

    村田政府委員 規定ぶりの差といたしましては、日露条約におきましては、政治上の性質を有する犯罪という表現が使われております。それに対して、御審議いただいております条約では政治犯罪となっておるという点が一つの相違点でございます。それから、日露条約には先ほどのベルギー条項が入っておるわけでございます。他方、この新日米条約の場合の、政治犯として処罰される疑いがあるときという方は日露条約の方には入っておらない、この辺が相違点でございます。
  311. 正森成二

    ○正森委員 つまり、現在審議されている条約の方が、政治犯を引き渡さないという意思が非常にはっきりあらわれているというように理解してよろしいですね。
  312. 村田良平

    村田政府委員 さようでございます。
  313. 正森成二

    ○正森委員 しかし、それ以外にももっと重要な相違点があるのではありませんか。日露逃亡犯罪人引渡条約には秘密協定があったのではありませんか。
  314. 村田良平

    村田政府委員 私は存じておりません。
  315. 正森成二

    ○正森委員 それは外務省としては非常に不勉強ではないかというように思うのですね。私が調べたところでは、まずソ連のレニングラード大学のヴェ・ア・マリーノフという人の「第一次大戦にいたる日露関係、一九〇五−一九一四年」というのが一九七四年に出ましたが、その中に明記されております。わが国では一九七六年に「社会科学研究」の二十七巻四号で和田春樹教授が、「日露逃亡犯罪人引渡条約付属秘密宣言書」という論文を書いておられます。しかも、それは根拠のない論文ではなしに、新装成りました外務省の文書館というのがありますね、その中にこの文書は現存しているわけであります。
  316. 村田良平

    村田政府委員 不勉強で申しわけありません。
  317. 正森成二

    ○正森委員 それでは、その文書館の資料を読み上げますと、こういう秘密協定を当時の帝政ロシアとわが国とは結んでおったわけですね。それはこういうものであります。この一九一一年というのは明治四十四年ですね。そこで明治四十三年に日本が韓国を併合したわけであります。そこで、韓国あるいは朝鮮人のロシア領における民族主義的な動きが非常に強くなりました。そこで、日本政府は、それまでの政治犯についての日米犯罪人引渡条約での考え方を大幅に変えまして、他方、ロシア側も、日露戦争の後長崎で亡命ロシア人のいろいろな動きがあるという条件が合致いたしまして、こういう秘密宣言書を秘密協定として結んだわけですね。それは外務省の文書館に現存しておるわけであります。その部数は非常に限られた部数を印刷されて、何部印刷してどことどこへ渡したということまでちゃんと残っているのです。それに基づいて、私が読み上げますと、当時の石井次官というのは河村司法次官にあてて覚書を送っております。それは非常に長いものですから、その要所だけを述べますと、  尤モ此種防遏手段ハ司法処分ニハ無之従テ之ニ関スル条項犯罪人引渡条約ノ本文中ニ設クルハ穏当ナラサルヘシト雖同条約附属宣言トシテ右条項ヲ協定スルヲ便宜ト居存候ニ付偶々露国政府ヨリ今回該条約案第四条政治犯不引渡ノ原則ニ例外ヲ設ケムトスル希望ヲ申出タルニ際シ或範囲内ニ於テ露国政府ノ希望ニ応スルト同時ニ本条約附属宣言トシテ別紙案ノ通協定方提議致度右御異存無之候ハハ前顕条約案第四条中修正ノ件ト共ニ貴我両省大臣ノ連署ヲ以テ閣議ニ提出スルコトト致度ニ付何分ノ御意見至急御回示相成度此段及照会候也 こういう前文がついておるわけです。そして、宣言文にはこう書いてあります。   日本帝国政府及露西亜帝国政府ハ本日調印ヲ了セル逃亡犯罪人引渡条約ノ商議中一国ノ版図内ニ於テ他ノ一国ノ臣民カ其ノ本国ノ治安ヲ害スヘキ不法ノ企図ニ従事スルノ件ニ付考量ヲ加ヘ国際間ノ礼譲及善隣ノ交誼ノ為本件ニ関シ協定スルノ有益ナルヲ認メ雙方ノ全権委員ハ左ノ宣言ニ同意セル  一 締約国ノ一方ハ其ノ版図ノ何レノ部分タルヲ問ハス他ノ一方ノ臣民カ其ノ本国ニ於ケル政治上ノ制度又ハ機関若ハ現存ノ秩序又ハ公共ノ安寧ニ反抗シテ人心ヲ煽動シ又ハ陰謀ヲ計画スル根拠地トシテ使用スルコトヲ防遏セムカ為事情ノ許ス限必要ナル措置ヲ執ルヘシ  二 此ノ宣言ハ前記逃亡犯罪人引渡条約ト効力、価値及存続期間ヲ同シクシ右条約ノ批准セラレタルトキハ此ノ宣言ハ別ニ正式ノ批准ヲ要セスシテ亦均シク承認セラレタルモノト看做サルヘシ こうなっているのです。これが外務省の文書館に残っておる秘密協定であります。だから、私は外務省にきょう日露逃亡犯罪人引渡条約日米逃亡犯罪人引渡し条約との政治犯引き渡しの問題についての相違点を聞くと言っておきましたけれども、こういう点は外務省としては、ちゃんとソ連と日本の両方の論文にあり、しかもあなた方の文書館に現存しておるわけですから、調べておく必要があると思うわけです。しかし、お調べがなかったからやむを得ませんけれども、こういうように明らかに、条約でわりときれいごとの政治犯引渡し原則を述べておりましても、秘密協定でこういうことまで決めてしまえば、一網打尽ですね。現に、これに基づいて日本政府側がロシアに対して取り締まりが手ぬるいと言って出したいろいろな請求、訓令、そういうものまで文書館に全部残っているのです。そうだとすると、これはゆゆしい一大事なのですね。日本政府はかつてこういうこともやっておったのです。  そこで、私は伺いたいと思いますが、日米逃亡犯罪人引渡し条約についてこういうことは絶対にない、あるいは金大中事件に絡んで椎名氏などが訪韓されて、在日朝鮮人団体について当時非常に微妙な発言をされてこられましたが、そういうような政治犯引き渡しあるいはその防遏について何らの秘密協定はない、もちろん本条約についてはそうだということを、大臣から、大臣はおられませんが、やむを得ず政務次官から、この委員会で宣言をしていただきたいと思います。
  318. 愛野興一郎

    愛野政府委員 ただいまの日米犯罪人引渡し協定はもちろん、それからまた韓国との間においても、一切そのような秘密協定はございません。
  319. 正森成二

    ○正森委員 それでは、そういう政治家の御答弁がありましたから、大臣の答弁ではありませんけれども、先へ進みたいと思います。私が大臣におっていただきたいと言ったのはこの問題があったからであります。  そこで伺いたいと思いますが、この条約の条文のところには、付表を見ていただきますと、四十一に「公職の選挙又は政治資金の規制に関する法令に違反する罪」というのがあります。これは日米逃亡犯罪人引渡し条約でありますが、こういうものが日本アメリカとの間にできますと、相互主義原則に基づいて、他の国に対しても、条約はなくても、わが国逃亡犯罪人引渡法に基づいて、犯罪人引き渡しが考慮されるケースはないとは言えないと思います。  そこで金大中氏の事件を考えてみますと、金大中氏は、選挙法の違反ということで有罪に処せられたわけであります。そこで、もしそういうようなことになりますと、ある国は、何も金大中事件のような主権侵害のことを行わなくても、公職選挙法の違反があるから逃亡犯罪人として引き渡してほしいということで引き渡しを受けるということもでき得るわけであります。私は、そうなりますとこれは非常に重大な問題であるというように思うのですね。金大中氏事件の場合は、大統領選挙法違反と国会議員選挙法違反という二つになっておるのですが、たとえば大統領選挙法違反の罪名のある起訴事実によりますと、こういう点を処罰すると言われておるのですね。「七一年四月から五月、第七代大統領選挙運動の期間中、朴大統領が「総統制」を意図している」ということを言ったら、これが虚偽事実だと、こういうのですね。しかし、総統という言葉は使ってないかもしれないけれども、実際的には一九七一年の選挙以来大統領の直接選挙というのはなくなっているわけですね。だから、朴大統領の永久政権であるというようなことを言われているわけです。だから、表現上は多少の差があるとしても、政治家として、もし今度の選挙で朴大統が再選されれば、もう二度と直接選挙はないんですよ、という意味のことを、よりアピールするためにそれくらいのことを言うというのはあたりまえですね。あるいは、別の訴因によりますと、「七一年一月から三月まで、第七代大統領選挙の公示前であるにもかかわらず、全国各地で」「「四大国による朝鮮半島の安全保障」など選挙政策を国民に提示し、支持を訴え」たと、こうなっているのです。しかし、自分を大統領に当選さしてくれというのでなしに、国会議員など政治家が、韓国の安全のために、あるいは全朝鮮民族の安全のために四大国による朝鮮半島の安全保障が必要だというようなことを演説会で言うなどということは、わが国では、えらい失礼ですけれども、いかな自民党政府でも、よもや土井たか子氏、あるいは正森成二を公職選挙法違反で逮捕されるということはないと思うのです。法務省おられるけれども、総務課長、よもや逮捕をようしゃしないでしょう。そうなると、公職選挙法違反という点は一緒であっても、これは全く考え方が違うのですね。そういうものに適用されるということになれば非常に危険であるというように言わなければならないのです。私は、たまたま堀田力という、ロッキード事件でアメリカで活躍された検事さんが「警察学論集」の二十九巻第一号に「犯罪人引渡条約の動向と問題点」という論文を書いておられるのを読ましていただきました。読ましていただきますと、その冒頭に、締結の基本的条件として、相手国法制度が民主的であること、相手国法制度が安定していること、相手国法制度の運用が文化的であること、この三つが必要である、それがなければ危なくて仕方がないということを堀田検事が書いているんですね。私は、ここで何国がこの三つの条件に合致するとかしないとかと言うと大分問題がありますから、それはあえて言いませんけれども、私の質問の全趣旨からおわかりだろうと思うのですけれども、この条約の、たとえば公職選挙法違反規定は、いま私が指摘してきたような例の場合、何も金大中事件とは言いませんけれども、そういう場合には、わが国の公職選挙法であれば、この程度の起訴事実については、とても虚偽事実の流布というようなことは適用できないという場合には、たとえ請求国からの請求がありましても、これは引き渡さない、むしろそれは政治犯であるというように考えるのが当然であると思いますが、いかがです。
  320. 敷田稔

    敷田説明員 それは相互可罰性の問題ではなかろうかと存じますが、同じ罪名でございましても、中に含み得るものは若干その国によって違い得るわけでございまして、仮に日本に持ってまいりました場合に、日本国の公職選挙法に抵触しているか、していないかという実質判断を加えまして相互可罰性の有無というものを判断すべきことになろうかと思います。
  321. 正森成二

    ○正森委員 いまの答弁は、たとえばこの条約にもいまの総務課長判断が可能となるような条文があるのではありませんか。
  322. 敷田稔

    敷田説明員 いろいろ想像いたしましてお答え申し上げるとした場合におきましては、政治犯は引き渡さないという規定のことを仰せではないかと思いますが……。
  323. 正森成二

    ○正森委員 そのほかに第四条の一項の(4)の規定を活用して、そして引き渡さないということも可能となるのではありませんか。それは無理ですか。
  324. 敷田稔

    敷田説明員 仰せの四条の(a)の点でございますと、これは四条1の(4)でございます。(4)ということになりますと、これは犯罪としてすでに十分成立しているものについての点でございますので、その点から申しますと、むしろ第二条の「日本国の法令及び合衆国の連邦法令」によってというこの相互可罰性の問題についてのことであろうかと存じます。
  325. 正森成二

    ○正森委員 いずれにせよ、いまの答弁は非常に遠慮した答弁でしたけれども、何国とは言いませんけれども、いまのような比較的極端な場合には、外見上は公選法違反に当たるような場合でも、その構成要件的な事実が日本国においてはなかなか犯罪とはならないということである場合には、これは引き渡されないというように考えてもいい、こう理解してよろしいですか。
  326. 敷田稔

    敷田説明員 仰せのとおりでございます。
  327. 正森成二

    ○正森委員 先ほど同僚委員が金東雲について、もし金東雲がアメリカにいるとすれば、この条約では引き渡しを求め得るというように言われましたが、それはそのとおり聞いていいですか。
  328. 村田良平

    村田政府委員 米国でおりまして、さらにこの条約で定めるいろいろな要件があるわけでございますが、それに該当する場合には請求できるということでございます。
  329. 正森成二

    ○正森委員 この条約に定める要件というのは、いままでの国会で金東雲は指紋があり、わが国の場合には逮捕状請求できる事案である、しかもその条約の死刑または無期もしくは長期一年以上に当たるものであるというもろもろの要件は、全部合致しておるわけですから、いまの後段部分は修飾的につけただけであって、アメリカにいるとすれば、本条約によれば請求できるものであるというように答えたものと同じである、こう理解してよろしいか。
  330. 佐藤嘉恭

    ○佐藤説明員 お答え申し上げます。  私どもとしては金東雲氏が米国にいるということはまだ承知していないわけでございますけれども、いずれにいたしましても、個々の人物が引き渡しの対象となり得るか、そのつもりがあるかといったようなことにつきましては、現段階ではコメントし得ることではない、なかろうかというふうに考えております。(「いま、ちょっとはっきりしない」と呼ぶ者あり)繰り返します。  私どもとしましては、金東雲が現在アメリカにいるということは承知しておりませんけれども、いずれにいたしましても、個々の人物について、その人が本件協定の対象になり得るか、あるいはそのつもりがあるかといったようなことについて、現段階でコメントし得る状況にない、こういうことではないかと思っております。
  331. 正森成二

    ○正森委員 私は、先ほど同僚の井上委員への答弁を聞いておりましたけれども、いまの答弁とは違う答弁をされたのじゃないですか。わりと非常に素直に、アメリカにいるかどうかわからないけれども、おればこの条約によって引き渡しを求め得るというように答えられたのじゃないですか。わずか数時間の間に変わるというのであれば、これは危なくて条約の審議がなかなかできないですね。
  332. 佐藤嘉恭

    ○佐藤説明員 先ほど村田参事官から答弁がございましたことは、そのとおりでございます。
  333. 正森成二

    ○正森委員 それじゃ参事官の答弁を、外務省の職制は知りませんけれども、たしか課長の方が下みたいに聞いていましたけれども、課長が結局修正した、外務省は職制を変えた、こういうことですか。職務権限を……。
  334. 愛野興一郎

    愛野政府委員 ただいまは実は同じ趣旨のことを言っておるわけでありますが、表現が若干違っておるわけでありまして、そういう要件が満たされた場合においては、先生が言われたようなことがあり得る、こういうことを村田参事官は申したわけであります。
  335. 正森成二

    ○正森委員 私はいまの答弁には必ずしも納得できませんけれども、しかし井上委員への答弁との若干の食い違いですから、いずれ井上委員から別の機会にただされることがあろうと思います。私はこういう事実を残しておくということで、次の質問に移らせていただきたいと思います。  それでは、次の問題に移らせていただきますが、本件では、相手国がすでに訴追している場合とか、刑の執行が行われる状況にある場合には引き渡しを求めないというように規定しているようであります。しかしながら、幾つかの国の規定では、訴追の移送とか刑の執行の委託という考え方があるようであります。私、若干の本を読んで、なぜこういう制度が行われているのかというように考えますと、犯人なり被告とされている人物について、むしろ訴追の移送ないしは刑の執行の委託をして請求国に返した方が犯人とされている者の今後の更生について好ましいと思われるような場合にはそうするんだというようになっているわけですね。日本の場合は島国だから余りそういうことは考えませんけれども、ヨーロッパとかアメリカ大陸などでは、しばしばそういう場合があり得るということのようでありますが、わが国では今度の条約でそういう態度をとらなかったわけですか。
  336. 敷田稔

    敷田説明員 ただいま先生仰せ条約の例といたしまして、刑事訴追の移管に関するヨーロッパ条約でございますとか、あるいは刑事裁判の国際的効力に関するヨーロッパ条約とかがございます。このような条約は、いずれも国際交流の活発化に伴います国際犯罪の増加などによりまして、国際的協力を一層活発にする、効果的にする必要があるという点から締結されたものであろうと思うわけでありますが、わが国といたしましても、将来はこの種のものの採用を考えるべきではないかと思うわけであります。しかしながら、これらのヨーロッパの諸条約が前提といたしております事実関係と申しますか、実態関係は、やはり同じ程度の文化水準と政治体制を有しているとか、あるいは類似の法律制度及びその運用を行っているとか、あるいは国境を接して人の相互交流が活発であり、何よりもまた、言語的な障壁というものも余り強くないというようなEC諸国の特有の状況が前提となって初めて可能となっている制度ではなかろうか、このように思うわけでございます。したがいまして、先ほど先生仰せのとおり、日本国はいまだこのような諸条件外国と相当程度異にしますので、さしあたりましては、やはり現在の犯罪人引き渡しや、あるいは捜査司法共助の活発化という点で対処していくべきことになろうか、このように存じております。
  337. 正森成二

    ○正森委員 私が申し上げましたのは、日本請求する犯罪人というのは、必ずしも日本人だけではなしに、日本国犯罪を犯した外国人も含まれるわけですね。ですから、そういう人間については、日本で裁判し執行するよりも、それ以外の地で訴追し執行する方が被告人にとって有利な場合もあり得るのです。私は日本人のことだけを言っているのではないのです。そうしますと、たとえば、一九七〇年の刑事判決の国際的効力に関するヨーロッパ条約というのを見ますと、その三十九条で「刑の執行の要請について被請求国の裁判所が決定する前に犯人はその意見を述べる機会が与えられる。」こうなっておって、犯人が請求国で訴追を受け、刑の執行を受けた方がいいか、それとも被請求国の方がいいかということを考慮し得る聴聞の機会というのが与えられているのです。それも、近時発達してきている人権保護から見て非常に注目すべき規定だと思うのですけれども、わが国の場合は島国であるという特殊性もあって、こういう制度は採用しなかったというように伺っておいてよろしいか。
  338. 敷田稔

    敷田説明員 先生仰せのことは、確かに十分検討に値する制度だと思いますが、ただ、現状ではそれを採用するまでには至ってないということでございます。
  339. 正森成二

    ○正森委員 それでは、余り深追いせずに、そういうように承っておきます。  その次に、私は、特定性の原則と呼ばれるものについて伺いたいと思います。  それは、恐らくこの条約の第七条に決められている諸点について言われていることであろうと思いますけれども、引き渡し請求する場合には、これは特定の犯罪について引き渡しをするわけですね。しかし、それに含まれていない場合、たとえば該当の罪種に含まれていない場合でも、引き渡した以上は、それを一諸に併合罪として審査してしまった方が引き渡された者について有利になり得る場合もあり得るわけですね。そこで、そのための規定がいろいろ書かれているというように思うわけですが、同時に、ここでは、たとえば「引き渡された者が請求国の領域から自由に離れることができるようになった日から四十五日以内に請求国の領域から離れなかったとき。」こういう場合には、もう自分でずっと残るということになったわけだから、必ずしも特定性の原則にこだわらないで、それ以外についても起訴し、あるいは処罰することができるということで、これは合理性のある規定だと思うのです。ただ、同時に、こういう点について近来のヨーロッパなどで規定されている条約を見ますと、犯人の人権保護のために告知義務を規定しているものがありますね。たとえば一九六一年の米国とブラジルとの条約の二十一条では、これは何日以内に離れなければあなたは別の犯罪でも起訴されるんですよということを言うてやって、それがいやだったらさっさと離れなさいということを念のために通知してやる規定があります。  そのほかに、請求国引き渡し犯罪以外の犯罪について犯人を訴追するには被請求国の同意が必要ですが、この同意の請求には犯人が作成した供述書を含む訴訟記録を必要とするというように定めている条約もあります。  あるいはまた、四十五日なり三十日という日数ですが、犯人に帰責できない事由によって犯人が請求国から離れることができない時間は算入しないというように、犯人とされている者の利益を擁護している規定もあります。  これらの被告人の人権保護の規定がこの条約には具体的に規定されていないようでありますが、そういう点については双方に論議がなかったわけですか。
  340. 村田良平

    村田政府委員 交渉の過程におきましては、ただいま正森委員が例としてお挙げになりましたような点についての詳細な議論はございませんで、米国が他国と多数の条約を結んでおるわけでございますので、その先例等も参考にしながら話し合って現在の規定のみを取り決めた、こういうことでございます。
  341. 正森成二

    ○正森委員 そういう答弁でありますが、私は、犯人あるいは犯人とされている者の利益保護のためには、将来はそういう点も考えるべきであり、現在の文明国の世界の趨勢はそういうことになりつつあるということを指摘しておきたいというように思います。  それでは第九条に移りますが、第九条には仮拘禁の規定があります。仮拘禁の要請請求国から被請求国にして、仮拘禁が行われた日から四十五日以内に請求国引き渡し請求を行わない場合には、仮に拘禁されている者は釈放されるということになっておるわけですね。そこで、こういうように釈放された場合、この仮拘禁されている期間について当該仮拘禁を受けた者はいかなる補償を受けることができるようになっているのですか。刑事補償法の対象になるわけですか。
  342. 敷田稔

    敷田説明員 刑事補償法の対象といたしておりません。
  343. 正森成二

    ○正森委員 そうすると仮拘禁されている者はどこかホテルへ入れてもらうとか非常に自由の保障された状態で拘禁されるわけですか。そうではないでしょう。そうでないからこそ仮拘禁でしょう。そうすると、仮拘禁されて四十五日以内、どこへ入れられるのかもしれないけれども、恐らく日本の刑務所に入れられるのでしょうが、ところが請求国が、いや請求しない、こうなれば入れられっ放し、たたきっ放しで補償は受けない、こういうことになるのですか。それではこれは非常に危なくて仕方がないというように思いますが、いかがです。
  344. 敷田稔

    敷田説明員 現在の刑事補償法の場合は、先生御高承のとおり、実質的に無罪の裁判を受けるべきものと認められる十分な事由がありました場合においては刑事補償の対象といたしておるわけでございます。このような場合、仰せ事例におきますと、相手国引き渡しを求めると言ってきておきながら実際は請求をしてこなかった、この間に四十五日間の身柄の拘束をしてしまうことになるわけでございますが、このような場合に補償を行うか否かにつきましては、これらの拘禁は、これもまだ刑事手続とは言えず行政手続と見るべきことになろうかと思いますので、したがいまして、出入国管理令上の収容でございますとか、精神衛生法に基づく措置入院でありますとか、あるいは伝染病予防法に基づく隔離というようなものの均衡というものも考えるべきことになろうかと思いますので、刑事補償の対象とまではいかないのではないか、このように考えております。
  345. 正森成二

    ○正森委員 それは法務省はそう解釈するでしょうけれども、仮に私なら私がそういう目に遭って四十四日なり四十五日ほうり込まれて、いや間違いでございましたとか、請求しないとか言われたら、これは土井たか子議員でも同じでしょうが、名前を出して失礼ですけれども、国賠法で損害賠償を請求するかもしれませんね。そうしたら、どんな代理人、弁護人が双方つくか知りませんけれども、恐らく国は敗訴します。それくらいだったら、刑事補償法とかその他に何らかの規定を置いておくということも将来の問題として考えた方がいいのではないですか。
  346. 敷田稔

    敷田説明員 前段に対しましてはそのとおりでございまして、国家賠償の請求があるかと思いますが、しかしながら、後段はいささか私、意見を異にするものでございまして、国側が敗訴することはないのではないか、つまり故意か過失がないというふうな事例が多い、多いと申しますか、それがすべてであろうかというふうに考えております。
  347. 正森成二

    ○正森委員 だけれども、あなた方が自信満々と死刑だなんと言った松川裁判でも、国家賠償をみごとにされているわけでしょう。だから余り大きなことは言わない方がいいですよ。だから、法律的には若干の不備があるし、それは人権保障において欠ける点があるというように私は思います。  それで、ほかにいろいろやりたいと思いますし、与党の理事の方からきょうは少しくらい長くやってもいいという御意見なんですけれども、委員長の方から書きつけが回ってきましたので、なるべく終わりにしたいと思いますけれども、最後に私は伺っておきたいと思います。  この逃亡犯罪人引渡し条約には交換公文があるのですね。それで安保条約に基づく地位協定については地位協定が優先するということになっております。私どもは、この規定というのは、この条約そのものの不備というよりは、安保条約があるということの必然の結果であろうというようには考えておりますが、きわめて遺憾な規定であるということは指摘しておきたいというように思うのです。といいますのは、わが党の山中議員が三月二十二日に参議院の予算委員会で明らかにしたところですけれども、安保条約下の約二十五年間に米軍による犯罪数は十四万六千三百九十三件、うち日本人がアメリカ軍によって殺されたものは九百五十六名であります。そのうち、公務外とされてわが国の裁判権のもとにあったものは十一万三百十八件、死亡者数では四百七十名でありますが、公務上とされたもの、つまり日本の裁判権が及ばないとされたものは三万六千七十五件、死亡者は四百八十六名であります。そして、予算委員会の質問によれば、この公務上とされたものについてアメリカがどんな措置をとったか全くわからない。刑事処分は行っていない。懲戒処分を行ったかどうかもわからない。そして、瀬戸山法務大臣から、どうもおかしい、これからは注意しますというような答弁があったわけであります。私はこのことを非常に遺憾であるというように思っております。そして、公務外とされたものについて、そのうちアメリカに逃げ帰って引き渡しを要求したもの、逃亡犯罪人引渡条約でその場合は公務外だからできるわけですが、それは何件あったかという質問については、他の委員の質問に対して、一件だけであるというように答えられたように思いますが、そう聞いていいのですか。
  348. 敷田稔

    敷田説明員 最初の方にお述べになりました膨大な数の件数は防衛施設庁の作成に係るものじゃなかろうかと思いますが、その内容については、現在それがどういう性格のものであるかにつきまして問い合わせ中でございまして、私どもの一応把握している数とは大幅に違っておるわけでございます。  それからまた、先生のおっしゃいました一件しかないというのは、それは四十八年以降現在まで一件しかないということでございますが、しかし、それならば逃亡しているのは数が多いのかということでございますとそうではございませんので、逃亡をしたことがわかって請求を受けたものが一件であるということでございます。
  349. 正森成二

    ○正森委員 それじゃこれで終わりますが、最後の質問をいたします。  いま責任を持って米軍犯罪等を扱っておる防衛施設庁が説明した人数について、法務省は何かおれのところと大幅に数字が違うというようなことであれば、政府内の不一致なんですね。これは意見の不一致じゃなしに事実の不一致ということになればこのまま見過ごすわけにはいかないのです。ですから、そういうあいまいな答弁をせずに、防衛施設庁の予算委員会における報告はそのとおりでございますというように答えてもらわぬと、いかにも防衛施設庁の数字が間違っておって、それを引用した私が間違っておるかのごときニュアンスを残したままでは質問を終わるわけにはいかないのですね。
  350. 敷田稔

    敷田説明員 仮に私のいまの答弁がそのようなニュアンスを残したとしますとこれまた大変失礼なことをいたしたと思うわけでございます。ただ、私が申し上げたかったのは、私どもと防衛施設庁といいますのは所管の事項が違いますし、また統計をとる目的が違うと思いますので、それがどういう目的でとられたかということについては現在問い合わせ中である、こういうことでございます。
  351. 正森成二

    ○正森委員 私は、そういうことでありましたら、一層、法務省が把握しておる日米合同委員会の資料というものを公務上と公務外に分けて当委員会に資料として提出をしていただきたい、委員長にお計らいを願いたい、こう思います。  最後に一問をいたしますが、成田空港事件について破防法を適用しようかという声があります。破防法を適用するとなるとその何条を適用するかにも問題がありますが、たとえば罰則は第六章で決まっておりますけれども、構成要件については第四条で決まっております。その第四条の一項二号を見ますと、「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的をもつて、左に掲げる行為の一をなすこと。」、こういうことで、たとえば騒擾罪とかいろんなのが規定されているのですね。そこで、この逃亡犯罪人引渡し条約からいいますと、もし破防法を適用していま言ったような第四条の一項二号を適用するというようなことになれば、政治上のいろいろな主義、施策を推進するということになれば政治犯罪になって、彼らが外国へ逃亡した場合、アメリカの領域内に入った場合には引き渡し請求できないという可能性が少しでもあるんですか。それともそうではないんですか。そこら辺を聞いて質問を終わります。
  352. 敷田稔

    敷田説明員 この破壊活動防止法の適用団体は「暴力主義的破壊活動を行った団体」ということでございますので、私、暴力主義的破壊活動を行ったものがとりもなおさず政治活動であり、あるいは政治犯であるというようには理解いたしておらないわけでございます。
  353. 正森成二

    ○正森委員 第四条の一項一号はそういう規定になっておりますけれども、一項二号は頭から「政治上の」というのがかぶさっておるでしょう。そうすると、非常に微妙な解釈になり得るんではないか。その場合でも、この項目で起訴しても、あるいは起訴する予定だった者がアメリカへ逃亡しても、必ず政治犯ではないということで引き渡しを受けるのかと、こう聞いているのです。第四条の一項一号だけじゃなしに、一項二号は初めから「政治上の」と、こう書いてあるでしょう。
  354. 敷田稔

    敷田説明員 これは動機、目的、その他諸般の状況によって慎重に事実認定をすべきものであろうと思いますが、私は、ならないのではないかというふうに考えております。
  355. 奥田敬和

    ○奥田委員長代理 ただいまの資料の取り扱いについては理事会で協議いたします。  伊藤公介君。
  356. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 政治犯罪人についてのいろいろな議論が行われてまいりました。  この政治犯引き渡し原則ということの歴史、あるいは原則が生じてきたその理由をまずお尋ねをいたしたいと思います。
  357. 村田良平

    村田政府委員 まず政治犯の不引き渡し原則の歴史でございますけれども、歴史的に見ますと、十八世紀まで、これは特にヨーロッパ諸国における慣行を中心にして申し上げるわけでございますが、十八世紀ぐらいまでは犯罪人引き渡しというのはすなわち政治犯人の引き渡しということでございまして、その他の犯人の引き渡しには各国ともむしろ関心がなかったということでございます。しかし、フランス革命以後、十九世紀になりましてからは、逆に政治犯人は引き渡さないという考え方がだんだん高まってきたわけでございます。十九世紀の初めぐらいから逐次結ばれました各国間の引渡し条約あるいは各国内の引渡し法を見ますと、例外なく政治犯罪引き渡し犯罪から除外するということになってきた、これが歴史でございます。  そういう原則が生じるようになりました理由でございますけれども、大きく言って二つあると思うわけでございます。  一つは、国の政治秩序を侵害する罪というものは、それぞれの国によって固有の事情を背景とした犯罪でございますから、政治思想というものは多様化してまいりまして、特に十九世紀の欧州では、従来の専制王制が共和国になるとか、あるいは少なくともより民主的な政体に変わるというふうな事象が非常にたくさん出てまいりまして、そういった政治的な背景のもとに、この種の行為を普通の犯罪の対象とするのは妥当ではないのではないか。さらに、人権思想というものも逐次十九世紀以降高まってまいりましたので、そういった点を勘案をして引き渡さないということになったのが第一点でございます。  それからもう一つは、いわばより外交的なといいますか、請求された国の国益の判断でございますけれども、今日政治犯人としてある人間を引き渡した場合には、その相手の国で革命が起こる。そうすると、引き渡した人間が政権をとる、こういうふうなことがあり得るわけでございまして、それが外交上のトラブルあるいは国益を損することにもなりかねない、そういった二つの背景からこの原則が出てきたというふうに考えております。
  358. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 アメリカでベトナム戦争がありましたときに、ベトナム戦争の兵役を拒否して、アメリカの若い人たちがカナダであるとかあるいは日本に逃げ延びてきたというケースがずいぶんありました。私のところにも、私はそんなことは知らなかったわけでありますけれども、そういうアメリカの若い兵役を拒否した青年が住んでいたことがあったわけでありますが、兵役を拒否して、しかもアメリカ国内逮捕状が出て、そういう人が日本に来ていて引き渡しを要求をされて引き渡しをしたというケースは実際にあったんでしょうか、どうでしょうか。
  359. 敷田稔

    敷田説明員 外国から日本国に逃げてきまして、その者を外国引き渡したという事例は、いままで一件もなかったと聞いております。
  360. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 たとえば、ベトナム戦争のとき兵役を拒否されて日本に滞在をしていた人たちに対して、アメリカの方からその兵役を拒否をして日本に滞在をしていた人たちに対する調査の依頼、そういうことが来ていたという事実はございますか。
  361. 北村汎

    ○北村説明員 いま先生がおっしゃいましたような事実はないと心得ております。
  362. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 じゃ、現実に私のところにデニス・ファレルという人が住んでおりまして、これはアメリカ要請を受けて日本の外事一課の方が調査に来られた。逮捕してほしいという要請ではなかったのかもしれませんけれども、来た。これは事実であります。そうすると、これは日本の単独で調査をしに来られたということになるのですか。私の聞いている事実、現実に私もその現場に居合わしたわけでありますけれども、アメリカ側から調査をしてほしいという要請日本の外事一課の方が見えられた。事実でありますけれども、どういうことなんですか。
  363. 敷田稔

    敷田説明員 法務省といたしましては、全く関知いたしておりません。
  364. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 今度この条約が結ばれますと、たとえば、もちろん兵役を拒否して日本に滞在をしているというアメリカの人に対しては、引き渡しを要求されれば今度はするということになるわけですね。
  365. 村田良平

    村田政府委員 わが国には兵役という制度がございませんので、それに伴う罰則というものも何らないわけでございます。そこで、条約の定めております相互可罰性がそもそもございませんので、この条約に基づく請求が行われても、わが方はそれに応じないということになるわけでございます。
  366. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 政治亡命あるいは政治難民という認定は恐らく非常にむずかしいだろうと私も思いますけれども、日本は亡命を認めていない国でありますから、恐らく日本に亡命を求めてくるという人は非常に少ないと思います。しかし亡命の中継点になる、あるいはそのあっせんをするというケースはこれはあると思うのですね。亡命者人権の犠牲の上で政治的な取引の道具になるという危険もある。私は政治亡命とか政治難民という認定については非常に慎重にしていかなければならないと思いますけれども、政府の基本的な姿勢をお尋ねしたいと思います。
  367. 愛野興一郎

    愛野政府委員 これは先ほどからも申し上げておったと思いますが、法治国家である以上出入国管理令等々の法に関係するものは厳然として行われなければいかぬ。しかしながら、やはり基本的人権なりそういった観点から十分考えて行う場合におきましては、ことに政治犯あるいは亡命のようなケースにつきましては、本人が日本を希望しておられるかどうか、あるいはまた他国を希望しておられる場合においては、そういった見地から十分そのあっせんをしていかなければならぬ、こういうふうな政府の態度であるというふうに思うわけであります。そしてまた、いろいろイデオロギーの違いなり制度の違いなりあるいは環境の違いからどうしても返すわけにはいかぬというような方々の場合においては、ことにそういった対応の仕方をしなければならぬのではなかろうか、こういうふうに考えております。
  368. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 じゃ政務次官お尋ねをしたいのですけれども、そうすると、これは結論的には認めるということですか。あるいは認めないということなんですか、どうですか。
  369. 愛野興一郎

    愛野政府委員 ケースバイケースと申し上げましたのは、人権の尊重とわが国の利益との調和を考慮した上で在留を認めることを適当とする事情の者については、出入国管理令所定の手続により在留を許可する、それからまた第三国向け政治亡命を希望しておられる外国人に対してはその希望しておられる当該国において十分受け入れを認めていただくように本人の希望を尊重して取り扱いをする、こういうわけであります。
  370. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 これは、そうするとケースバイケースですね。日本の場合には政治亡命あるいは政治難民、これは入国をそのケースによっては認めるということもあり得るということですね。政務次官、どうですか。
  371. 愛野興一郎

    愛野政府委員 これはもう先生承知のように、政治亡命を希望する外国人の方がわが国政治亡命を希望される理由が、やはりみずからの国においては政治的迫害を受けるからわが国に対して亡命を求められるわけでありますから、そういった点を十二分に考慮して、普通の刑事犯とかそういった犯罪とは、政治的犯罪とかあるいは亡命というものはおのずから違うという観点から申しておるわけであります。
  372. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 そうすると、いま政務次官の御答弁を聞いておりますと、ケースによっては日本政治亡命を認めるんだ、こういうことですね。
  373. 敷田稔

    敷田説明員 これは本来は法務省が答えるべき筋合いなんでございますが、法務省の入国管理を担当しております入国管理局の係員が先ほど退出いたしておりまして、私、刑事局でございますので、先生の御質問に対しまして責任ある御回答はできませんので、ひとつ御勘弁をお願いしたいと思います。
  374. 村田良平

    村田政府委員 先ほどからの先生の御質問は政治亡命日本で認めるかどうかという問題だと思いますが、私、外務省の人間といたしまして、国際法的な立場とわが国の立場との絡みについてお答え申し上げたいと思うわけでございます。  ある国の政治的な迫害というものがございまして、その国から逃れて他国に逃亡いたしましてそこで滞在を希望する者、これに対してその亡命を認めるというのは、いわゆる庇護の問題というふうに言われておるわけでございますが、一般国際法上は、庇護を与えるか与えないかということはその国の自由裁量に任されておるわけでございます。したがいまして、わが国の場合におきましても庇護を与えなければならないという義務は国際法上はないわけですけれども、自由裁量、それが先ほど政務次官の答弁されましたケースバイケースということになるんだろうと思いますが、個々のケースごとにいろいろな要素を判断いたしましてその庇護を求めてきた人間にどういう処遇を与えるかということを決めるということになろうかと存じます。
  375. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 政務次官お尋ねしていますけれども、ケースバイケース日本政治亡命を認めるというケースがあるんだ、こういう御答弁をいただきましたけれども、たとえばどういう場合なら政治亡命として認める、あるいはどういう場合なら政治亡命として認めない、これはやはり非常に大事な問題でありますから、日本政府の基本的な姿勢というものがないと、どういう場合に亡命として認めるのかということはぜひお聞きをしておきたいと思うのです。
  376. 愛野興一郎

    愛野政府委員 私の答弁が舌足らずであったわけでありますが、法的に認めると言ったわけではないわけでありまして、人権の尊重とわが国の利益との調和を考慮した上で、在留を認めることを適当とする事情のある者については出入国管理令所定の手続により在留を許可することとし、在留を認めない場合であっても迫害を受けるおそれの明らかな地域には送還しないものとする方針で取り扱っておる、こういうことを申したわけであります。  それからまた、第三国向け政治亡命を希望する外国人に対しては、当該国において受け入れを認める場合には、本人の希望を尊重する人道的見地からその渡航実現について好意的配慮を用いることとしておる、こういうことを申し上げたつもりであります。
  377. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 人道的な立場から受け入れられる場合もあるんだ。たとえばどういうケースの場合には、亡命を私は言っているわけですけれども、亡命として認めるわけですか。たとえばこういう条件を満たしていれば大体、それはもういろいろケースがあるでしょうけれども、亡命として認めるんだ、こういうようなことがあると思うのですね。どうなんでしょう。
  378. 愛野興一郎

    愛野政府委員 その問題につきましては、具体的に政府の方針としては言えないと考えております。と申しますのは、本人自体が果たして政治的な圧迫を受けるかどうかという問題でありますから、やはり個々人の意見を聞き、同時に調査をしなければならぬ、こういうことではなかろうかと思います。
  379. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 それでは、もう一度確認をしておきたいんですけれども、ケースによっては日本政治亡命というものは受け入れるというケースもあるんだ。たとえば人道的な立場とか、その人が非常に迫害を——いろいろ状況が特別な状況であるという場合には政治亡命として日本ケースによっては認めるんだということもあり得るということですね。
  380. 愛野興一郎

    愛野政府委員 実は、昭和五十一年十月十三日に衆議院の外務委員会におきまして竹村法務大臣官房審議官が御答弁されたことをそのまま、言うならば読んでおるわけでありまして……。
  381. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 読んでいただいたことはよくわかりました。わかりましたけれども、現政務次官としては、日本ケースによっては政治亡命というものは法的にも受け入れるということもあり得るんだというお考えですか。いかがですか。
  382. 村田良平

    村田政府委員 政治亡命を認める認めないという表現は必ずしも適切ではないかと思うのでございますが、政府といたしましては、政治的な迫害のおそれのある人間に関しましてその滞在をケースバイケース判断して認めることがある、こういうことでございます。
  383. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 認めることはあるということはわかりました。そうすると、これは法的にも認めることはあるということですか。
  384. 敷田稔

    敷田説明員 法的には政治亡命という言葉がございませんのですが、入国管理局がおりませんので、私の入国管理令上の知識をもって申し上げますならば、それは法務大臣の在留特別許可を与えるケースになるであろう、このように考えております。
  385. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 政治亡命というケースはあるわけですから、日本の場合に明らかに政治亡命だというケースをこれから法的にも受け入れをするのかどうなのかということは大変大事な問題でありますから、私は重ねてお尋ねをしているわけでありますけれども、言葉の上ではともかく、明らかにその目的が政治亡命であるというケースの場合に、わが国は今後政治亡命としてそうした目的の者を法的にも受け入れるという方針であるかどうかということを、もう一遍お尋ねをしたいと思います。
  386. 村田良平

    村田政府委員 政治亡命と申しますのは、国際法上はしばしば使われる概念でございます。また、国によりましてはその亡命者に関する法律を持っている国も一部にあるようでございますが、わが国の場合には政治亡命というのは法律上の概念ではないわけでございます。そこで、先ほど私が申し上げましたように、ある人間が本国において政治的な迫害を受けるおそれがあるというふうな場合に、法務大臣判断をいたしまして在留を許可することはできる、わが国法律上の手続に従いましてそういうことが可能であるということでございます。
  387. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 そうすると、法務大臣がこれを許可することがある。これは政治亡命を目的とした者が入国をすることが法的にも可能であるということになりますか。
  388. 村田良平

    村田政府委員 法務大臣判断の際にいろいろな政治的な背景等も考慮に入ると思いますけれども、法律としては入管令によって許可が与えられるということでございます。
  389. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 難民であるとか亡命の受け入れという問題が、最近国際的に非常に重要な問題を抱えてきていると思うから、私はこの問題については重ねてお尋ねをしているわけでありますけれども、たとえば日本へベトナムの難民が大量に上陸をしたというケースもありました。あるいは昨年のミグ25によってベレンコ中尉が亡命をしてきた、こういう事件が起きておるわけでありますけれども、この取り扱いにつきましては、もちろん私どもの外務委員会でも論議をされたところであります。私はこうしたケースが今後も非常に起こり得る可能性があるというふうに思うわけでありますけれども、日本政府としては、こうした亡命者難民の受け入れ対策、国内制度の確立等について今後の問題はどのように考えているのか、また難民条約、これは国連で認められているわけでありますけれども、難民条約の加盟についてはどうお考えになっているのかお尋ねをしたいと思います。
  390. 村田良平

    村田政府委員 今後も確かに、いわゆる亡命とかあるいは難民というものが発生いたしまして、わが国において滞在を希望するというふうなケースが出てくるかと思われます。しかしながら、一般的にそういった場合にどう対処するかというふうな原則は非常に定めがたいわけでございまして、個々の状況を勘案いたしまして、もちろん人道的な考慮、それからわが国自身の国益ということもございますので、いろいろな要素を総合判断して滞在の許可を認めるかどうかというふうなことを判断する。  それから先ほど言い忘れましたけれども、迫害されるおそれのある国には送還しないということは、国際法上も、国際的にもそういう考え方が非常に強まっておりますので、わが国の出入国管理当局も現実にそのように処理しておるということは申し上げることができるわけでございます。  それから、難民条約でございますけれども、これはすでに発効いたしておりまして、日本趣旨には賛成でございます。しかしながら、この条約の主として目的といたしますところは、難民を受け入れるかどうかということよりも、難民として受け入れた者に対していかなる社会的な待遇を与えるかという問題でございまして、相当広範な事項にわたっておるわけでございます。関係の国内法制等の整備について相当長期の慎重な検討を要するものでございますので、目下なお検討中でございまして、政府の方針といたしましては、まず人権に関する諸条約のうちの一番基本的な人権規約、これを早期に締結するということで目下作業しておる、こういうことでございます。
  391. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 今度の犯罪人引渡しに関する条約は、わが国アメリカとだけ締結するということになるわけでありますけれども、アメリカは九十三カ国と締結しているわけであります。     〔奥田委員長代理退席、委員長着席〕  私もその内容はよく理解をしているつもりでありますけれども、このような多くの国となぜ結んでいるのか、その理由お尋ねをした上で、アメリカがアジアのどういう国々と締結しているのか、お聞きをしたいと思います。
  392. 村田良平

    村田政府委員 アメリカがこのような条約を多数結んでおりますのは、二つ大きい理由があると思うわけでございますが、一つアメリカの基本的な体制といたしまして、犯罪人引き渡し条約がなければ行えないということになっているからでございます。わが国のように逃亡犯罪人引渡法という国内法に基づいた引き渡しというそれだけでは行えない、そういう体制であるということと、それからもう一つは、アメリカは国際的な交流の非常に多い国でございますので、いろいろな国の人が出入りする、またアメリカ人も各国に行くというふうなことで、現実にこの種の条約を結ぶ必要性が高かったということが原因でございます。  御質問の後段のアジアのどの国について結んでいるかということでございますが、現在のところ八カ国と結んでおりまして、それはわが国、インド、シンガポール、スリランカ、タイ、パキスタン、ビルマ、マレーシア、この八カ国でございます。
  393. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 アメリカはアジアの八カ国とこの条約を結んでいるわけでありますね。韓国、中華民国とは締結していないわけでありますけれども、これはどうしてなんでしょう。
  394. 村田良平

    村田政府委員 韓国あるいは中華民国となぜ結んでいないかという理由は、私どもは承知しておりません。
  395. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 これはアメリカ側の意思であろうと思いますから、それ以上お尋ねしてもあれだと思いますけれども、この条約の最後の付表について、一から四十七までずっと列挙されているわけでありますけれども、これに関係する国内法はどのくらいあるのでしょうか。
  396. 敷田稔

    敷田説明員 それぞれに対応します日本国内法があるわけでありますが、その条文、それは法と申しましても一つ法律に、たとえば刑法などたくさんの罪が書いてありますので、総体としまして数的に幾つになるかといいますことはちょっと勘定しておりません。
  397. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 この条約の二十七、二十八はハイジャックの関連条約内容とほぼ一致しているわけでありますけれども、ハイジャック事件が起きたときに非常に凶悪な犯人を次々と日本から外国に出してしまって、交換条件であったわけですけれども、その後もう一度引き戻すということができないという歯がゆさを日本国民の多くの方方があの事件の中で非常に痛感しただろうと思うわけでありますが、日米間のこの条約によっていろいろな問題の解決ということは私はよくわかるわけでありますけれども、そのほかの国々とこうした犯罪人引き渡しという条約をやはり結んでいく必要があるのではないか、私はこう思うわけでありますが、政府の方針はどうなのか。
  398. 愛野興一郎

    愛野政府委員 犯罪人引渡し条約締結基本的人権にかかわることでありますので、相手国法制度、特に刑法刑事訴訟法体制わが国と似通ったような民主的なものであり、また相手国の政治や法制度が一般に安定しておることが必要でありまして、諸般の情勢を勘案しながら慎重な考慮を払う必要があろうと思うわけであります。しかしながら、ハイジャック犯罪等は航空機の登録国、最終着陸国、犯人の国籍国、事件発生国、途中着陸国、そして犯人が逃亡しておる国等複数の国が巻き込まれるおそれがあるわけでございますから、ハイジャックの防止が望ましいことはもちろんであります。したがって、政府としては国際協力のハイジャック防止のためのネットワークを一層強力にすると同時に、ハイジャック等防止関連条約に加盟していない諸国に対しても同条約に加盟するよう、国連等の場を通じて積極的に呼びかけていくという方針をとっておるわけであります。
  399. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 そうすると、度重なるハイジャック事件の舞台になっているそれぞれの国とも、相手国にそういう意思があれば、わが国はこうした国々とも犯罪人引渡し条約を結んでいくという意思はお持ちになっていらっしゃるのですか、どうですか。
  400. 愛野興一郎

    愛野政府委員 ただいま申し上げましたような、いろいろな制度とか機構とか、そういったものがわが国と似通ったようなところで、わが国と結ぼうという意思がある国については、わが国も前向きで検討をしていかなければならぬ、こういうふうに考えております。
  401. 伊藤公介

    伊藤(公)委員 世界にはいろいろな国があるわけでして、もちろん日本と国情も違うし、民族の歴史も違うわけでありますから、そういう歴史的な背景が違う国々とこそこうした条約を結んでいかないと、今後こうしたハイジャック事件のような問題が国際線において頻繁に起こるということが当然予想されていく状況の中では、むしろいろろな国情の違う国とこそ結んでいかなければならないわけですから、そうした法体系を積極的に進めていただいて、どんな凶悪犯人が国際線に乗ってハイジャックのような事件を起こしてもどうにもならないという法体制の整備を、わが国もできるだけ積極的に進めていただきたいことをお願い申し上げまして、質問を終わります。
  402. 永田亮一

    ○永田委員長 本日は、これにて散会いたします。     午後六時十分散会