運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1978-03-31 第84回国会 衆議院 外務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十三年三月三十一日(金曜日)     午前十一時八分開議  出席委員    委員長 永田 亮一君    理事 大坪健一郎君 理事 奥田 敬和君    理事 毛利 松平君 理事 井上 一成君    理事 土井たか子君 理事 渡部 一郎君    理事 渡辺  朗君       稲垣 実男君    川田 正則君       木村 俊夫君    鯨岡 兵輔君       小坂善太郎君    佐野 嘉吉君       竹内 黎一君    中山 正暉君       久保  等君    高沢 寅男君       美濃 政市君    中川 嘉美君       正森 成二君    伊藤 公介君       楢崎弥之助君  出席国務大臣         外 務 大 臣 園田  直君  出席政府委員         外務政務次官  愛野興一郎君         外務省アジア局         次長      三宅 和助君         外務省経済協力         局長      武藤 利昭君         外務省条約局外         務参事官    村田 良平君  委員外出席者         法務大臣官房参         事官      藤岡  晋君         法務省刑事局総         務課長     敷田  稔君         外務省アメリカ         局北米第一課長 渡辺 幸治君         参  考  人         (国際協力事業         団総裁)    法眼 晋作君         外務委員会調査         室長      高杉 幹二君     ————————————— 委員の異動 三月三十一日  辞任         補欠選任   松本 善明君     正森 成二君 同日  辞任         補欠選任   正森 成二君     松本 善明君     ————————————— 本日の会議に付した案件  航空業務に関する日本国イラク共和国との間  の協定締結について承認を求めるの件(条約  第七号)  世界観光機関WTO憲章締結について承  認を求めるの件(条約第三号)(参議院送付)  許諾を得ないレコード複製からのレコード製  作者の保護に関する条約締結について承認を  求めるの件(条約第六号)(参議院送付)  国際協力事業団法の一部を改正する法律案(内  閣提出第二〇号)  日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡し  に関する条約締結について承認を求めるの件  (条約第四号)      ————◇—————
  2. 永田亮一

    永田委員長 これより会議を開きます。  航空業務に関する日本国イラク共和国との間の協定締結について承認を求めるの件、世界観光機関WTO憲章締結について承認を求めるの件及び許諾を得ないレコード複製からのレコード製作者保護に関する条約締結について承認を求めるの件、以上各件を議題といたします。  まず、政府よりそれぞれ提案理由説明を聴取いたします。外務大臣園田直君。
  3. 園田直

    園田国務大臣 ただいま議題となりました航空業務に関する日本国イラク共和国との間の協定締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。  イラク共和国政府は、昭和四十七年十二月以来再三にわたり、わが国との航空協定締結したいとの希望を表明してまいりました。政府といたしましては、近年飛躍的に緊密化した両国関係及び将来にわたるイラク重要性にかんがみまして、これに応ずるとの観点から、昭和五十年十一月以来同国政府との間で協定締結のための交渉を行ってまいりました。昨年十二月に至り、案文について最終的合意を見ましたので、本年三月二十日にバグダッドにおいてこの協定署名が行われた次第であります。  この協定は、わが国イラクとの間の定期航空業務を開設することを目的としており、そのための権利相互に許与すること、業務の開始及び運営についての手続及び条件について規定するとともに、両国指定航空企業がそれぞれの業務を行うことができる路線を定めるものであります。また、この協定は、わが国締結する航空協定としては三十一番目のものでありまして、その形式及び内容は、従来のものと同様のものとなっております。  この協定締結することは、両国友好関係の強化に資するとともに、両国間を直結する航空路を開設することによって、ここ数年来拡大しつつある経済技術協力に伴って顕著な増大を見せている両国間の人的及び物的交流の一層の増進に役立つものと期待されます。  よって、ここに、この協定締結について御承認を求める次第であります。  次に、世界観光機関WTO憲章締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。  この憲章は、観光の振興及び発展を図るため、開発途上国の利益に注意を払いつつ、観光分野中心的役割りを果たす政府間機関を設立することを目的とするものであって、一九七〇年、昭和四十五年公的旅行機関国際同盟臨時総会において採択され、一九七五年、昭和五十年発効いたしました。現在加盟国は約百カ国を数えております。  この憲章は、機関目的構成員の地位、総会を初めとする重要な内部機関の権限、予算及び支出の原則等について規定しております。  わが国がこの憲章締結し、この機関の活動に参加いたしますことは、観光分野における国際協力に応分の貢献を行うとともに、わが国観光政策推進に資する上からも有意義であると考えられます。  よって、ここに、この憲章締結について御承認を求める次第であります。  次に、許諾を得ないレコード複製からのレコード製作者保護に関する条約締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。  この条約は、いわゆるレコード無断複製からレコード製作者保護することを目的として、一九七一年十月ジュネーブにおいて国際連合教育科学文化機関、ユネスコ及び世界知的所有権機関の共催によって開催された外交会議において採択されたものであります。レコード製作者保護について定めた条約としてはすでに一つ国際条約がありますが、同条約締約国は比較的少数の国に限られていましたので、同条約によってレコード製作者保護することは必ずしも期し得ない状況にありました。このような状況を背景として、レコード無断複製の横行の実態にかんがみ、レコード製作者保護に関し早急に国際的な措置をとる必要性が認識されるに至り、同条約とは別個に特にレコード製作者保護のために新たな条約を作成しようとの気運が高まり、この条約となって結実したものであります。  この条約は、一九七三年四月十八日に効力を生じ、世界主要レコード生産国である米国ドイツ連邦共和国、フランス、英国等を含む二十八カ国が締約国となっております。  この条約は、各締約国が、著作権その他特定権利付与等によって、他の締約国国民であるレコード製作者を、その者の許諾を得ないで行われる複製物の作成、そのような複製物の輸入及びそのような複製物の公衆への頒布から保護することを主たる内容としております。  レコード生産高世界第二位にあるわが国がこの条約締結することは、レコード製作者保護のための国際協力を促進する見地から望ましいものと考えられます。また、わが国は、レコード無断複製については、むしろ被害者立場にありますので、できるだけ多くの国がこの条約締結するよう促進する必要がありますが、かかる観点からもわが国がこの条約締結することが望まれるところであります。  よって、ここに、この条約締結について御承認を求める次第であります。  以上三件につき、何とぞ御審議の上、速やかに御承認あらんことを希望いたします。
  4. 永田亮一

    永田委員長 これにて提案理由説明は終わりました。  各件に対する質疑は後日に譲ることといたします。      ————◇—————
  5. 永田亮一

    永田委員長 国際協力事業団法の一部を改正する法律案議題といたします。  質疑申し出がありますので、これを許します。井上一成君。
  6. 井上一成

    井上(一)委員 私は、二月十七日及び去る三月二十九日、この事業団法について詳細にわたって質疑を続けてきたわけであります。もとより、経済援助事業重要性というものは認識をいたしておるつもりでございます。が、しかし、それを推進していく国際協力事業団の姿勢というものに私なりに若干の疑義を持たざるを得ないような状態であったわけであります。とりわけ、去る二十九日の委員会におきましては、異例とも言える、国際協力事業団に対する外務大臣からの厳しい御発言があったわけであります。  そこで私は、外務大臣の御発言に対して、事業団総裁はどのように受けとめていらっしゃるのか、ここでその所信を明らかにしていただきたい、このように思います。
  7. 法眼晋作

    法眼参考人 ただいま井上先生から御発言がございましたが、私は目印合同委員会出席をいたしておりましたために、その間に行われました国際協力事業団法の一部改正に関しまする法律審議出席ができませんでしたために、大変皆様に御迷惑をおかけしましたことを、大変申しわけないと存じております。  私は、この事業団創立以来の三年半を振り返ってみまして、私としましても至らない点、改善すべき点、多々あることを率直に反省をいたしております。今後この反省の上に立ちまして、御指摘外務大臣の御叱責もございましたし、執務体制をしっかりと確立いたしまして、なかんずく機構を整備し、特に職員の一人一人の資質の向上を通じまして、国際協力事業発展せしめまして、そのことによって、内外から事業団に寄せられておりまする期待に十分こたえたいと念願をいたしております。この事業団法改正に当たりまして、この委員会におきまして委員先生方から発言されましたことを十分われわれは心に受けとめまして、これを反すうしながら、この上ともさらに努力を続けたいと思います。  どうか先生方のこの上ともの御支持を心からお願いいたします。
  8. 井上一成

    井上(一)委員 総裁、いま反省の上に立って努力をしたい、するんだという御発言があったわけです。もう多くを語りませんが、本当に海外経済援助の公正かつ適確事業推進というものは大事であるということはわかり切ったことなのです。総裁職員個々資質の問題だと言われておりますけれども、むしろ総裁の問題である。職員は一生懸命努力をしているけれども総裁がその上に立って、強い誠意というか、最大努力というか、そういうものを形の上であらわさなければ、私は事業推進は本当に正しく、うまく運ばない、こういうふうに思うのです。  総裁みずからの決意を再度聞かしていただきたいと思います。
  9. 法眼晋作

    法眼参考人 私はただいま井上先生の御指摘のとおりだと思います。私自身は全力を尽くしまして、この上とも、たとえば、国内におきましてはわれわれの仕事を十分、大方の国民各位に御理解を願い、さらにまた対外的には、いろいろの事業をいたしておりますけれども、その事業とともに、また日本の善意というものを発展途上国各位に十分理解していただく、そういった意味におきましては、陣頭に立つと申しますか、言葉は強過ぎるかもしれませんけれども、十分私は自分義務を尽くしたいという決心でございます。
  10. 井上一成

    井上(一)委員 今後とも、外務大臣並びに外務省と十分な連携をとりながら、より一層最大努力を私は期待をして、いろいろと質問をしたいこともありますけれども、時間の関係上、特に総裁の強い決意を了として、質問を終えます。
  11. 永田亮一

    永田委員長 これにて本案に対する質疑は終了いたしました。      ————◇—————
  12. 永田亮一

    永田委員長 日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約締結について承認を求めるの件を議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑申し出がありますので、順次これを許します。中川嘉美君。
  13. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 私は、この日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約の中身に関する質問に入ります前に、手続問題について、若干の疑問とそれから納得のいかない点がありますので、政府の明確な御説明を伺っておきたいと思います。  すなわち、本条約提案理由説明によりますと、「この条約は、本文十六個条及び付表から成り、さらに、交換公文が付属しておりますが、」云々とこう述べられておるわけでありますけれども、この交換公文そのもの国会承認対象となっているのかどうか、大変基本的なことですけれども、まず伺いたいと思います。
  14. 村田良平

    村田政府委員 この交換公文国会承認対象でございます。
  15. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 私が思うには、これを拝見しておりますと、実質上二つの条約のように解釈できるわけで、そうしますと、承認を求めるの件、この提案理由説明もそうですし、また説明書の方、この方もこう見ておりますと、どうも、いわゆる日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約等のという、この「等」という文字がここに入っていかないとならないのではないか、このように私は解釈するわけですけれども、この点についてどのように考えておられるか、伺いたいと思います。
  16. 村田良平

    村田政府委員 大臣からの提案理由説明にもございますように、この条約には交換公文が付属しておるわけでございます。従来から、条約とそれからその条約に付属いたします交換公文をも含めまして国会の御承認を得るに際しましては、これこれ条約締結について承認を求めるの件として提出しておるというのが慣行でございまして、本件条約に関しましても過去のそういう慣行に従ってこのように措置したものでございます。  内閣から国会承認を正式に求める文書がございますが、本件についてその部分を読ませていただきますと、「日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約に関する交換公文を含む。)の締結について、日本国憲法第七十三条第三号ただし書の規定に基づき、国会承認を求める。」ということになっておるわけでございます。
  17. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 そうしますと、そのような慣行といいますか、いま御答弁いただいた、そしてそこで読み上げていただいた書類の中には「交換公文を含む。」という括弧書きがあるようですが、私たちが手にしている、少なくともこの条約交換公文あるいは説明書提案理由説明を見る限りにおいては、そのような疑問が生じてくるわけです。したがって、このいわゆる条約本体、これだけを見る限りにおいては、たとえて言うならば、これから何年も先、三十年、五十年先、後世のことを考えると、これだけを後世の方々が見たときに、全くもってこれが外れ落ちて、なるほど、これで終わりなのかという誤解も生じかねない、こういう立場から、実は私は「等」と書いておけば、ああこのほかに何かがあるのだなということになるわけで、こういった疑問も実は生じてくるわけで、そうであるならば、この両方とも承認対象とするという前提で、やはり書き直すなり再提出をしなければならないのではないか、このように考えるわけでございます。  それで、先ほど御答弁いただいた中にも関連して、いままでのこの審議の中、また採決された条約の中で、こういった前例があるのかどうか、具体的な承認された条約があるのかどうかということですが、もしあれば、具体的にその条約名前等もここで明らかにしていただければ……このように思いますが。
  18. 村田良平

    村田政府委員 過去における先例は幾つかございますが、たとえば、日本国と中華人民共和国との間の漁業に関する協定締結について国会承認を求めるの件というのがございますが、これに付属書に関する交換公文は含まれておりまして、そういう例がございます。  それから、渡り鳥に関するオーストラリアとの協定がございますが、これに関しても同様の交換公文が付属しておるわけでございます。  それから、一番最近のものといたしましては、昨年この委員会において御承認をいただきました日豪基本条約でございますが、これにも交換公文がございまして、このケースを例にして申し上げますと、この日豪基本条約を豪州の非本土地域に関してどう適用するかということを定めた交換公文でございまして、内容的にも本来この基本条約と不可分一体と考えるべきものである、ただし文書の形としては別になっておりますので、一括して御承認を求めるという従来の慣例に従ったわけでございます。
  19. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 念のためにここで伺っておきますが、いわゆる交換公文承認対象にならない場合、これは本来、私の記憶では、交換公文の左肩の上のところに「参考」として括弧書きがしてある、こういうことなんで、今回はそうでないということで、あくまでも承認対象となったのだ、このような御説明と受けとめていいわけですね。
  20. 村田良平

    村田政府委員 条約署名いたします場合にはいろいろな付属文書がつくられることが多いわけでございますけれども、その付属文書個々内容に照らしまして、それが憲法に基づいて国会承認を求めるべきものであると判断いたしました場合には、私ども交換公文国会承認対象として御提出するわけでございます。ただし、それはあくまで本条約に付属する文書でございますから、従来の慣例に従った形をとっておるわけでございます。  それから、交換公文は、その内容としては憲法で言う国会承認対象ではないけれども、御審議の便宜のためには参考として提出すべきものであると判断します場合には、右肩に「参考」という字を印刷いたしまして参考配付をさしていただいておる、こういうことでございます。
  21. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 あと一、二点で終わりますが、先ほど申し上げたように、私どもの手元にある書類をもって判断する限りにおいては、先ほど御答弁にあったような交換公文を含むのだという表現はどこにもないわけで、こういうことでまた将来に疑問を残してはならないということにおいて、私はこの場で一応政府の御見解をこのように承った次第でございます。  最後に一つだけ、これは希望としてですが、先ほどの御答弁の中で読み上げていただいたのは内閣提出書類ですか、これを一応当委員会にわれわれの参考資料として果たして御提出をいただけるかどうか、これを伺って私の質問を終わりたいと思います。
  22. 村田良平

    村田政府委員 これは内閣から国会に正式に提出しております文書でございますので、果たして政府から資料として差し上げるのになじむ文書かどうかは別といたしまして、御参考までに写しをお配りいたしたいと思います。
  23. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 以上で終わります。
  24. 永田亮一

  25. 大坪健一郎

    大坪委員 外務大臣に最初に包括的にお聞きをいたしたいのですが、日米犯罪人引渡条約は明治十九年に締結され、その後明治三十九年に修正されまして今日に至っておりますが、今回それを全く改定するような趣旨のもののように受け取れます。その目的はどういうことであるのか、ひとつ御説明いただきたい。
  26. 園田直

    園田国務大臣 この目的は、自分の国へ逃亡してきた犯罪人及び被疑者相手の国へ引き渡すことを約束するものでありまして、国際的な犯罪抑圧のための協力を進める目的締結されるものでございます。本来、自国に所在する犯罪人外国に引き渡すか否か、これは国家の主権にゆだねられており、その国の義務ではございません。交通機関発達等によって犯罪人外国へ逃亡する可能性がふえたこと、人権擁護思想発達等もあり、同じような刑法刑事訴訟法等を持つ国がふえたこと等により、一定条件のもとに犯罪人義務として引き渡すことを相互に約束するようになった、これが犯罪人引渡し条約でございます。したがいまして、近年、国際的な交通機関の一層の発達によって犯罪人引渡し条約締結の必要は増加をしておるわけであります。米国とは明治年間に進めた条約でございまして、環境の変転と日米関係の推移によっていろいろ矛盾が出てまいりましたので、以上の観点からこれを改定せんとするものであります。
  27. 大坪健一郎

    大坪委員 元来法体系ヨーロッパ大陸系アメリカイギリス系とでは違うようでございますが、犯罪人引き渡しについて条約を必要とするという考え方は、米英法法体系によるものだと思われます。ところがわが国の場合は大陸系法体系に従来あるわけでございますから、犯罪人引き渡しについて条約をほとんど結んでおらない。条約を結んでおる国はアメリカ一国だということになっております。一体今後どういう国とわが国との関係を考慮して犯罪人引渡し条約を広げて締結されていくつもりなのか。それとも、アメリカ日本との間だけが特殊に交流の多い関係もあるから、日本アメリカの間にだけ犯罪人引渡し条約締結して、あとは従来長い間やってきた慣行に従って、問題の起こった都度行政機関の話し合いによって相互主義の約束をして同種の者を引き渡すということをなおお続けになっていかれるつもりなのか。基本的な今後の方向について大臣のお考えをお聞きいたしたいと思います。
  28. 園田直

    園田国務大臣 現時点で特定の国と引渡し条約を結ぶ具体的な計画はございません。いま大坪さんのおっしゃったような諸般の事情及び国の相違がございますけれども日本としては犯罪抑圧という見地から国際協力を進めるために条約締約国の拡大を図る所存でございます。その際考慮すべき点は、第一に、人の往来の状況等より見て現実に犯罪人引き渡しの要請が多いところ、第二に、犯罪人引き渡し基本的人権にかかわりのあることでございますので、相手国法制度、特に刑法刑事訴訟法体制わが国と似通った民主的かつ文化的なものであり、また相手国の政治や法制度が一般に安定しておるということ、第三に、日本では逃亡犯罪人引渡法があり、条約に基づかない請求についても、相互主義条件に引き渡すことが可能であり、諸外国でも同じような体制をとっている国もありますが、米国英国等のように条約が存在しなければ引き渡しは行い得ない体制の国もございます。このような相手国体制から見て条約締結必要性を検討しつつ、逐次拡大していく所存でございます。
  29. 大坪健一郎

    大坪委員 基本的なお考えが大体わかってまいりましたので、それでは、まあ日米双方で特に問題になりましたのは、この説明書にもございますが、一九七五年八月のクアラルンプール事件等ハイジャックの問題が契機であったようにも受け取れるわけでございますが、この条約締結されるに至りました経緯事務当局からひとつ御説明をいただきたいと思います。
  30. 渡辺幸治

    渡辺説明員 先生指摘のとおり、現行日米犯罪人引渡条約は明治十九年に締結されまして、第二次世界大戦効力を停止したわけでございますが、一九五三年、昭和二十八年に復活されて現在に至っております。昭和五十年八月のいわゆるクアラルンプール事件等契機といたしまして、政府は国際的な犯罪抑圧のための協力推進する必要性を痛感いたしまして、昭和五十一年一月米側に対して現行犯罪人引渡条約の改定を提案いたしました。交渉の結果、本年三月三日東京においてこの条約署名を行った、以上が経緯でございます。
  31. 大坪健一郎

    大坪委員 従来の明治十九年に結ばれました日米犯罪人引渡条約と、この新しい条約とをひとつわかりやすく比較して説明をしていただきたいと思います。一番問題になりますのは、古い条約では犯罪罪種を列挙しまして、十五種類だと思いますが、こういう犯罪についてのみ犯罪人引き渡しが行えるということになっておりますが、新しい条約では、いわゆる包括主義と申しますか、犯罪の量刑の程度、法令によって一定限度以上の可罰性のある犯罪を引き渡すということになっておるようでございますが、この辺の事情について少し詳しく説明をしていただきたい。
  32. 村田良平

    村田政府委員 本件条約現行条約と比較対照いたしまして、最も重要と思われます点を三点にしぼりまして御説明申し上げたいと思います。  新条約最大の特色は、いままさに大坪委員指摘のとおり、引き渡し対象犯罪が拡大されたことでございます。現行条約は、殺人、強盗その他古典的な十五の罪種に分類されました限られた数の犯罪引き渡し犯罪として列挙しておるわけでございまして、いわゆる罪種列挙主義によっておるものでございます。これに比べまして、新条約は、基本的には包括主義という考え方に基づきまして、日本国の法令及び合衆国の連邦法令により死刑または無期もしくは長期一年を超える拘禁刑に当たる犯罪、それからさらに四十七の代表的な引き渡し犯罪というものを付表に列挙してあるわけでございまして、このように包括主義を基本とする考え方をとった、これが一番大きい差異かと存じます。  その列挙主義がいいか包括主義がいいかということについては、いろいろな考え方があるわけでございますけれども、私どもといたしましては、包括主義をとることによりまして引き渡し犯罪に公平を期する、たとえば列挙されておりません中にも非常に凶悪な犯罪というものがあり得るわけでございまして、そういった犯罪は引き渡されない、列挙したもののみが引き渡されるということは公平を欠くという点がございますし、また、社会の変転に伴いまして、新しい種類の犯罪が出てくるということも十分予想されるわけでございます。その場合には、列挙主義でございますと条約改正しなければいかぬというようなことにもなりますので、包括主義をとっておりますと新犯罪にも常に対処し得ることになるわけでございます。そういった点を総合的に判断しました結果、米側に対しまして、包括主義をとろうということを主張いたしまして、米国は従来列挙主義をとっておったわけでございまして、しかも九十三の引渡し条約を結んでおるわけでございますけれども、今回わが国とのこの条約で初めて包括主義に移行した、そういう意味では、非常に画期的な条約ということがアメリカ立場からも言えるのではなかろうかと思うわけでございます。  その次に、いまの引き渡し対象犯罪の拡大との関連で申し上げておきたいのは、現行条約におきましてはいわゆる国外犯は引き渡し対象になっておらなかったわけでございます。要するに日米それぞれの領域の中において犯罪が行われた場合に、そしてその犯罪人相手国に逃亡した場合にこれを引き渡し対象とするという考え方に基づいておったわけでございますが、今度の条約におきましては、一定条件はございますけれども、国外犯を引き渡すということにしたわけでございます。これが第一の大きい点でございます。  それから第二は、犯罪の抑圧のための国際協力をより実効あらしめるためにいろいろな規定を整備したということでございまして、二つぐらい例を申し上げますと、たとえば第十三条でございますが、犯罪人引き渡します場合には、被請求国の法令の許す範囲内におきまして証拠物品等も相手国に引き渡す、こういうことにいたしたことでありますとか、あるいは両国間の引き渡しとは直接関係はないのでございますけれども相手の国が第三国から犯人を移送してくる、たとえばわが国が西ドイツから犯罪人引き渡しを受けましてわが国に移送してくる場合に、アラスカを経由するというようなことが現実に必要になってくることがあるわけでございますけれども、そういうときに自分の国の領域を通過いたしまして、そういう犯罪人ないし被疑者を護送する権利を認め合う、このようにしたわけでございます。  それから、第三の改正点は、引き渡し手続に関しまして、いろいろな規定を整備いたしまして、手続がより円滑に、かつ充実して行われるように配慮したわけでございまして、たとえば、第八条等にはその種の手続規定がございますが、こういったものが手続円滑化のための規定でございます。  以上、三点が重要な改正点であるというふうに考えております。
  33. 大坪健一郎

    大坪委員 いまの点で、特に包括主義について若干の問題があるように思います。アメリカがいままで罪種列挙主義をとっておったのに、今回日本側の説得に応じたというのでしょうか、便宜を感じたというのでしょうか、主張に従って包括主義になったというんですけれども包括主義ということになりますと、双方可罰性の原則というものから見ますと、たとえば一年を超える拘禁刑の場合、一年以上の罪に当たる犯罪だとしましても、その行為がたとえば相手の国で犯されておるということになりますと、一体その相手の国においてもそれが一年以上の罪に当たるものであるかどうか、そういうものを調べてみなければならないということになります。たとえばアメリカでございますと、刑法が連邦のほかに五十の州にございますから、そこを全部調べてみなければならぬのじゃないか。あるいは植民地がまだあるような国では、本国と植民地と刑法が違う場合にこれをもう一遍調べ直してみなければならぬのじゃないかということで、犯罪人の逃亡先について相当の調査力が要るようになって、かえって事がめんどうくさくなるのじゃないかという感じがしますけれども、その点はいかがでしょうか。
  34. 村田良平

    村田政府委員 御指摘のとおり、非常に単純な包括主義をとりまして、たとえばこの条約のように死刑、無期あるいは長期一年云々というふうな規定ぶりにいたしますと、現実に犯罪が行われました場合には自分の国の刑法相手の国の刑法を調べなければいけない。特にアメリカの場合には御指摘のような連邦法と州法の関連もあるわけでございます。そういう点も考慮いたしまして、私ども交渉の際に最も典型的であると思われる罪種四十七種類をこの条約の付表に掲げたわけでございまして、この犯罪は、もちろんその量刑の問題はございまするけれども、それぞれ引き渡し対象として両国考えておるわけでございます。したがいまして、この四十七種類にむしろ列挙されておらない犯罪というものにどんなものがあるかということを考えなければいかぬぐらいでございます。  それから、先ほどの州法の点に関しましては、この四十七種類に列挙されておりません犯罪でももちろん包括主義によってこれは引き渡し対象になるわけでございますけれども、それは米国側の立場もございますので、わが国の法令と、合衆国に関しましては連邦法令ということで、その点は州法を除きまして、個々の州あるいはアメリカの場合にはその他の属領的な地域もあるわけでございますけれども、そういうところの非常に特殊な刑法というものは一応除いたわけでございます。
  35. 大坪健一郎

    大坪委員 第二条の第一項の規定でも、大体そういうようなことで、実際上はこれは包括主義といいますけれども罪種列挙主義と包括主義とを結びつけたようなことではないだろうかと思います。そういう点では妥当な規定ではなかろうかと思いますが、この条約締結する経緯で問題になりましたような、ハイジャックの問題が特に最近国際的に問題になっております。あるいは麻薬犯罪というようなことが問題になると思いますが、たとえばハイジャックの場合にはハイジャック条約というようなものがあって、多国間条約に加入すればハイジャックの犯人に対しては引き渡し義務が生ずるということではなかろうかと思いますけれども、ハイジャック条約のようなものに入っておる国と——日本もハイジャック条約に加盟しておったと思いますけれども、この犯罪人引渡し条約との関係は将来どうなるわけでございましょうか。
  36. 村田良平

    村田政府委員 先生がただいまおっしゃいましたハイジャック条約と申しますのは、いわゆるヘーグ条約のことであろうかと思いますが、ヘーグ条約に基づきますと、ハイジャックを行った場合にはその犯人を引き渡す、それから引き渡さない場合におきましては、その犯人の所在国が自国の訴追の権限のある当局に事件を付託しなければならないということになっておるわけでございます。したがいまして、ハイジャックが行われまして、その犯人がハイジャック条約締約国においてたとえば逮捕されるというふうな場合におきましては、これをその登録国等に引き渡すかあるいは自分の国で訴追するという義務を負っておるわけでございます。またハイジャックと考えられます犯罪につきましては、今回の条約におきましても付表の中にも掲げられておりますが、これが引き渡し対象犯罪ということできわめて明確でございますので、わが国アメリカの間でその場合に引き渡しが行われるということは当然のことでございます。  それから一般にこの条約に加入しておる国におきましては、それぞれの国の国内法の手続に基づいて引き渡しが行われるということになるわけでございます。
  37. 大坪健一郎

    大坪委員 次は、第四条の政治犯罪の問題です。「この条約の規定に基づく引渡しは、次のいずれかに該当する場合には、行われない。」として「引渡しの請求に係る犯罪が政治犯罪である場合又は引渡しの請求が引渡しを求められている者を政治犯罪について訴追し、審判し、若しくはその者に対し刑罰を執行する目的で行われたものと認められる場合。」というふうになっております。ただ、この疑義が生じたときは被請求国の決定で決めるということになっておりますが、それにしましても、この政治犯罪というのは非常にはっきりしない概念でございます。この政治犯罪をどのように考えたらいいのかという問題があるわけです。政治犯にも全く純粋に政治的な犯罪人と判断できるものもあれば、犯罪を構成する内容が政治的なもの、それ以外のものが混在しておって、相対的に政治犯といわれるようなものもあるようでございます。日本に逃げてきたような場合に、日本アメリカからの被請求国になって被請求国の判断を求められるということが起こると思われますが、ここの考え方の基準と申しましょうか、そういうものを説明をしていただきたい。
  38. 村田良平

    村田政府委員 この第四条に規定しておりますような政治犯罪人の不引き渡しといいますのは、各国の国内法、犯罪人引渡し法であるとか、あるいは諸国が締結しております引渡し条約において常に規定されておるところの事柄でございます。  しからばその政治犯罪とは一体何かということになりますと、国際慣習法上はこれを、若干抽象的な表現でございますけれども、ある国の政治的な秩序を侵害する犯罪であるというふうに考えられておるわけでございますが、しかしながら具体的な犯罪が、果たして引き渡し請求の場合にこれを政治犯罪というふうに判断するかしないかということは被請求国の方にゆだねられるというのが一般的な国際慣行であるわけでございまして、学説等におきましては、その政治犯罪にはまさにいま大坪委員の御指摘のとおり、純粋な政治犯罪と相対的な政治犯罪というふうに分けて考えるというふうな考え方がございます。その場合に、純粋な政治犯罪と申しますのは、ある国の政治の基本的な秩序を変革するとか転覆するとか、そういったような、もっぱらその政治的秩序の侵害のみを内容とする犯罪ということで、たとえばクーデターないし革命の陰謀を行うというふうなものがこれに当たるわけでございます。これに対しまして相対的な政治犯罪と呼ばれておりますものは、いま申し上げましたような純粋な政治犯罪を犯すということとの関連で普通犯罪を犯したというようなケース、あるいは政治目的を持って普通犯罪を犯すというふうなケースでございます。しかしながら、具体的に特定の事件におきましてこれが政治犯罪であるかどうかということは、結局その個々のケースに照らして判断せざるを得ないわけでございまして、その犯罪のもちろん構成要件、それからどんな法益が侵されたかということ、それからその犯人の動機なり目的、それから社会的な背景、あるいは相手国がそういった犯罪にどういうふうな刑罰をもって臨んでいるかというふうないろんなことを総合的に判断いたしまして、これが政治犯罪であるかないかということを決めざるを得ないという、そういう性質のものであるというふうに考えております。
  39. 大坪健一郎

    大坪委員 そのこととちょっと関係があるかどうかわかりませんが、第五条に行きますと、自国民は引き渡さないという原則が書かれております。ただ、裁量によって被請求国は自国民を引き渡すことができる。これに該当する場合として考えられるもので今回、引き渡しを請求する国の国外で犯された犯罪、国外犯の取り扱いについても引き渡し対象とするように合意ができておるということになりますが、たとえば日本の人がアメリカ犯罪を犯す、日本人をアメリカで殺傷する。その日本人を日本の国として裁く必要があるのでアメリカ引き渡しを請求するというような場合と、それからその人間が日本に逃げてきて、アメリカアメリカの国内法でこれを裁きたいのでその人間をアメリカに引き渡せと言う、こういうような場合とが出てくると思いますけれども、その辺の場合分けを、いろんな場合があると思いますけれども、ひとつ例示をしながら、この自国民引き渡し義務を負わない場合と、裁量によって自国民を引き渡すことができる場合とをちょっと御説明をいただきたいと思います。
  40. 村田良平

    村田政府委員 自国民引き渡しに関しましては、これはあくまで裁量でございますから、絶対に引き渡さなければならないというケースはそもそもまずないわけでございます。  いま大坪委員が例として挙げられましたケースについて考えてみますと、日本人が米国内において仮に殺人を行ったという場合には、もちろんこれはアメリカの領域内における殺人でございますからアメリカが犯人を逮捕し訴追するということになるわけでございまして、これはもちろんわが国の国外犯にも該当いたしますから、わが国としてもその本人を訴追することはできるわけでございますけれども、実際には米国でそのような措置がとられるということになろうかと思います。  それから、その殺人を犯した後で何らかの理由でアメリカから逃亡して、その本人が日本に帰ってきておるというふうな状態におきましては、米国がその犯罪人引き渡しを求めるということは考えられるわけでございますが、また、わが国におきましてはわが国法律に基づきまして本人を訴追するということもできるわけでございますので、それぞれの事案に基づきまして引き渡すのが妥当であるかあるいはわが国において国外犯としてその訴追を行うのが適当かということは、わが国の主体的な判断でこれを決める。引き渡すべきであると判断された場合には、この裁量規定に基づきまして自国民といえども引き渡すことは条約上可能である、こういう仕組みになっておるわけでございます。
  41. 大坪健一郎

    大坪委員 そうしますと、アメリカの国内でたとえば日本人同士がけんかか何かして相手を殺害した、もっと悪意があって殺害をすることもあるかもしれない。推理小説めきますけれども、それが日本に逃げて帰ってきておる。アメリカとしては、アメリカ国内に起こった犯罪であるからその犯罪人引き渡しを求めてくる。それが日本人であるから、原則として引き渡し義務を負わない。日本では引き渡さない。しかし、アメリカで起こった事案であって、証拠が不十分であるから日本で不起訴になったというようなときは、これはどう考えたらいいのでしょうか。それでも自国民引き渡し義務を——その場合は、両国で相談をして、妥当な解決に至るようにするのでしょうけれども、そこら辺はどう考えたらいいか、ちょっと御説明願いたい。
  42. 敷田稔

    ○敷田説明員 お答えいたします。  外国におきまして日本人同士の殺傷事犯が生じまして、向こうで不起訴になりました場合、仮に無罪となりました場合には、一事不再理の原則が働きまして、日本国においてはこれについて再び裁判をすることはできないわけでございますが、仮に向こうにおきまして不起訴になりました場合は、日本国の判断において、日本国が十分な証拠があると判断しました場合には、日本国で起訴をすることは可能でございます。
  43. 大坪健一郎

    大坪委員 それの逆の場合ですけれども日本で証拠不十分で不起訴になって、アメリカは、その日本人を引き渡してもらいたい、アメリカで裁判したいという場合です。
  44. 敷田稔

    ○敷田説明員 お答えいたします。  その場合は、当該犯罪人を引き渡すかどうか判断をする一つの基準といたしまして、十分な証拠があるかないかということでございます。したがいまして、日本国において不起訴にしたような事例でございますと、通常十分な証拠がないと判断をすべき事案でございますから、その理由をもちまして引き渡しはしないということになろうかと思います。
  45. 大坪健一郎

    大坪委員 それについては後でもうちょっとお伺いしたいと思いますが、時間もありませんので、あと二問ほど御質問したいと思います。  一つは、先ほど中川委員から御質問がありました交換公文の件に関連してですが、日米地位協定が優先するという形になっておるようでございます。日米地位協定に基づく引き渡しと、この引渡し条約に基づく引き渡しとの関係は一体どう考えたらいいのか。公務中の犯罪でございますとか、あるいはアメリカの基地内における犯罪でございますとか、幾つかの事例があると思いますけれども日米地位協定に基づく引き渡しと、この引渡し条約に基づく引き渡しとの事案の、いわば典型的なやつを区分して、ひとつ説明していただきたい。
  46. 村田良平

    村田政府委員 犯罪人引渡し条約は、一般的に申しまして、ある国の法律に違反いたしました後に、その国の公権力のもとから逃亡いたしまして、他方の国に逃げた、そういうものを引き渡すということを約束しておるわけでございまして、したがいまして、日米条約もそうでございますが、引渡し条約は、一般的にそういった自然犯を中心とする一般犯罪を引き渡すということを主として規律しておるものでございます。  それから、その手続等につきましても、条約によっては若干の差異はないわけではありませんが、ほぼ確立した国際慣行というものがございまして、それに基づいて引き渡しが行われるということになっております。  それから、日米地位協定は、米軍がわが国に駐留しておるという、いわば非常に特定された状況に対処するために定められた約束でございまして、同協定の十七条の中に引き渡しに関する協力義務が規定されておるわけでございますけれども、その引き渡しの性質あるいは手続というものは、通常の犯罪人引渡し条約とは異なった規律というものを頭に置いてそもそもつくられておるわけでございます。  しかしながら、地位協定に基づく引き渡し協力というものも、ある国の法律を犯して逃亡した者を、他方の国がこれを引き渡すということについて協力するということでございます。そうしてその者について妥当な、適正な処罰が行われるということを確保するという目的でございますから、そういった精神の点から言いますと、犯罪人引渡し条約目的とするところと、それから地位協定の十七条に規定しておりますところとは一致した点がある、同様の目的を持っておるということが言えるかと思うわけでございます。特に今回の新条約によりましては、国外犯もこの引き渡し対象にするということになりましたので、この犯罪人引渡し条約と、それから地位協定とが競合して適用されるのではなかろうかと思われる、そういう事態が従来以上に生ずるようになるというふうに思われたわけでございます。  そこで、合衆国軍隊がわが国に駐留しておるという、いわば特定のといいますか、特殊なといいますか、そういう状況に対応してつくられておりますところの地位協定を優先させる、あるいはそういった状況については地位協定を適用するということをこの際明確にすることが必要であると考えまして、この交換公文をつくった、こういう次第でございます。
  47. 大坪健一郎

    大坪委員 そうすると、こういうふうに理解していいわけですか。地位協定は、もちろん日本における駐留軍に従事する者の法的地位について決められております。たとえば地位協定の十七条によりまして、公務中でありますとか、アメリカ人同士のような場合にはアメリカに一次的裁判権がある、そういうものの該当者がアメリカに逃げてしまった、そうすると地位協定はもう及ばないわけでございます。そうした場合はこの犯罪人引渡し条約によって犯罪人引き渡しを求める、こういうことになるのでしょうか。そこのところはどうでしょうか。
  48. 村田良平

    村田政府委員 いまの先生の御指摘のようなケースでございますが、そもそも地位協定十七条五項が対象としておりますような状況において、相互にその引き渡し協力義務がある。いまの場合にはアメリカ人が日本犯罪を犯しまして、その後何らかの理由で米国に帰ったという事態を想定しておられるのだと思いますけれども、こういったものにつきましては、私どもは地位協定十七条が適用されるという立場でございますので、犯罪人引渡し条約をもってこれを律するということではなくて、地位協定によってその引き渡しを求めるという考え方でございます。
  49. 大坪健一郎

    大坪委員 まだはっきりしない点があるのですけれども、時間がないので、最後に、たとえばロッキード事件のような事件がまた起こったといたしまして、関連の犯罪の構成要件に該当するような人がアメリカにおる、アメリカと言うと語弊がありますけれども、どこか外国におる、それがアメリカにたまたま人間としてはどうもおるらしいという場合には、こういうものに対して、ロッキード事件を例にとればクラッターとかコーチャンとかといったような人がおったわけですけれども、これは両国事情で非常にむずかしいので、特殊の日本の検察の措置で、向こうで証言をとってきたということでございましたけれども、今後はこういうものがもし起こりましたときに、アメリカに対して、その事件に関連した者の引き渡しの請求ができることになるのでしょうか。その点だけを最後にひとつ御説明をいただきたいと思います。
  50. 敷田稔

    ○敷田説明員 御説明申し上げます。  いまのロッキードの件につきましては、きわめて生々しいものでございますので、これについてどうこうというものでは全くないのでございますが、仮定の問題といたしまして、先生仰せのような事例が将来発生したといたしますと、贈収賄につきましては、この条約の付表三十九に掲げられている犯罪でございまして、米国におきましても十五年以下の懲役で処分されている事案でございますので、この条約の規定に従いましてその者の引き渡し米国に請求することは可能でございます。  ただ、もちろんそれは米国民でございますので、米国政府がそれに応じまして直ちに引き渡しをするか、あるいは米国民、自国民は裁量的な引き渡しで足りるということで、その裁量権を行使して引き渡ししないということはまたおのずから別個の問題でございます。
  51. 大坪健一郎

    大坪委員 以上で終わります。
  52. 永田亮一

    永田委員長 午後二時三十分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。     午後零時十一分休憩      ————◇—————     午後二時三十七分開議
  53. 永田亮一

    永田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。高沢寅男君。
  54. 高沢寅男

    ○高沢委員 それでは、午前中に引き続きまして、日米犯罪人引渡し条約について御質問をいたしたいと思います。  最初にお尋ねをしたいことは、今度の日米条約が結ばれました、また、その以前にも日米の間には条約があって、それで犯罪人引き渡しをやってきたわけでありますが、アメリカは、そういうふうに条約を結んだ相手の国と引き渡し関係を持つ、こういうやり方で九十三カ国と結んでおる、この日米もその中の一つである、こういうことですが、日本から見れば、そういう条約を結んだ相手アメリカ一つですね。そうすると、アメリカ以外の他の国との犯罪人引き渡しをやるのにどういうふうなやり方でやっているのか。日本の国内法としては逃亡犯罪人引渡法というのがあるわけですが、相手の国もそういうふうな法律を持っている国とやるというようなことなのか、あるいはまた、相手の国との犯罪人引き渡しをこちらがやれば相手もこちらに対してやる、そういう双務的な関係ですから、そういうふうな取り決めというものは、アメリカ以外の国との関係ではどういうやり方をするのか、これをお尋ねしたいと思います。
  55. 敷田稔

    ○敷田説明員 お答え申し上げます。  条約締結していない国に対する引き渡しにつきましては、ただいま先生仰せのとおり、その引き渡しの請求が外交ルートを経由してまいりまして、そして、仮に日本国が同じような引き渡しを請求したとする場合においては向こうも引き渡しをしてくれるという相互主義の保証がございました場合には、相手引き渡しを求めまして、仮に向こうが応ずればその引き渡しを得ることができるという関係になっております。
  56. 高沢寅男

    ○高沢委員 いまの点をもう一度お尋ねするわけですが、たとえばある国が日本に対してそういう引き渡しを求めてくるというときに、日本はその相手の国に、それじゃ今度は逆にこちらが求めるときにはおたくではしてくれますか、こういう話し合いになって、そのようにいたしますという話し合いがまとまって、それじゃということで渡す、これはつまり、現に引き渡し相手の国から求められた段階でそういう話し合いになり、そういう取り決めを結ぶということなのか、あるいはまた、アメリカ以外の他の国と、将来、いつになるかわからぬけれども、お互いに引き渡しを必要とするときには引き渡しを求める、そのときはお互いにやりましょうという、いわば申し合わせというものが相手のフランスなりイギリスなり、ほかの国とあらかじめできているのか、そういう引き渡しを必要とするケースでそのときにそういう取り決めを結ぶということなのか、それはどうなんでしょうか。
  57. 敷田稔

    ○敷田説明員 それは、先生が最初に仰せになりましたように、個別的、具体的に渡すということでございまして、その事案が発生しました場合に、相手の国の文化水準でございますとか、政治体制でございますとか、人権を保障する程度でございますとか、そういうもろもろの状況考えまして、個々具体的に、これは渡す、これは渡さないという判断をすべきことになろうかと思います。
  58. 高沢寅男

    ○高沢委員 いままでに日米のそういう条約があったわけですが、これによって日本アメリカの間で実際に犯罪人引き渡しをしたケース、どのくらいの件数があり、また具体的にはどんなようなケースがあったのか、それをお尋ねいたします。
  59. 敷田稔

    ○敷田説明員 これは長い歴史を持った条約でございますが、戦後、米国との間において引き渡しが行われました事例は、わが国米国から二名ほど引き渡しを受けております。それは、昭和五十年七月に殺人の被疑者でございます日本人を受け取りまして、また、五十二年一月に殺人の被疑者であります米国人の引き渡しを受けております。  戦前のことにつきましては、わが国引き渡しを受けた例が二件、わが国引き渡しをした例が十件あると聞いておりますが、その資料はすでに焼失などいたしておりまして、手元にございませんので、事案はわかりません。
  60. 高沢寅男

    ○高沢委員 この日米引渡し条約では、引き渡し対象犯罪を「死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされている」犯罪、こういうものをお互いの引き渡し対象にするというふうになっているわけであります。それから、一方では、日本の国内法である逃亡犯罪人引渡法によれば、引き渡し対象犯罪は「死刑又は無期若しくは長期三年以上の拘禁刑にあたる」犯罪、これが引き渡し対象だということになっております。アメリカとの関係では一年以上、国内法の関係では三年以上、こういうふうなことで、そこに現実に違いがありますね。アメリカ以外の国との関係では三年以上というようなことになっているわけですが、こういうふうな違いというものは、運用上において何か支障がないのかどうか、それをお尋ねしたいと思います。
  61. 敷田稔

    ○敷田説明員 なるほど、先生仰せのように、犯罪人引渡法と今回の日米犯罪人引渡し条約との間では、法定刑につきまして相違があるわけでございます。その相違は、仮に米国以外の国からの引き渡しを受けました場合には、日本国におきましては、一応重大な犯罪、つまり、たとえば緊急逮捕ができることと刑事訴訟法が決めておりますような犯罪が三年以上になっておりますので、一応日本では、重大な犯罪とそうでもない犯罪というのは三年をもって分けるような制度になっておりますので、日本が重大と思っている犯罪について他国についても引き渡すということになろうかと思いますが、条約を結んでいる国につきましてはその国の内情というものを事前に十分調査いたしましてこういう条約締結いたしますので、その間に若干の開きがありましても運用上は格別の支障がないもの、このように考えております。
  62. 高沢寅男

    ○高沢委員 運用上は別に支障はないというお答えでありますが、こういうものはなるべくそろう方がいいというふうな考え方に立てば、将来に向けて国内法の方を一年以上というふうに改正をされるお考えはあるのかどうか、お聞きします。
  63. 敷田稔

    ○敷田説明員 先ほど御説明申し上げましたように、日本の場合、重罪とそうでない犯罪を区別するのを一応三年といたしておりますので、この国内法制というのはできれば動かしたくないと思っておるわけであります。ただ、アメリカの場合に、ではどうして一年を超えるというようにしたかということになりますが、アメリカの場合は、御高承のとおり、フェロニーとミスディミーナー、つまり重罪と軽罪との区別を通常一年でいたしておりますので、そういうアメリカの特殊な状況を考慮いたしまして、アメリカとの条約においては一年を超えるもので区別をし、日本だけのことを中心として考える場合には三年で区別をしようということでございまして、将来ともできればこの制度でいきたい、このように考えております。
  64. 高沢寅男

    ○高沢委員 ここできょうの午前中の大坪委員の御質問関係して私もひとつお尋ねをしたいと思うのです。  ロッキード事件との関係なんであります。このロッキード問題の中ではずいぶんコーチャンとかクラッターとかいうような名前が登場したわけですが、私の承知しているところでは、コーチャンの場合にはアメリカの司法当局の取り調べに応じて必要な証言をしておる。それがまた司法協力という関係アメリカから日本の方へそういう関係の必要な資料も来ておるというように承知しているわけです。そういうアメリカの当局の取り調べの際、コーチャン氏に対しては、取り調べに応じたことに対して、責任を追及しないというふうな措置もとられたというふうに聞いているわけですが、クラッターの場合には、そういう取り調べに、私が知る限りでは応じていないという状況だと思うのですね。しかもまた、いま進行しているロッキード問題の裁判の中でも明らかなように、むしろクラッターの方が実際に金を運んできたり、あるいはいろいろなロッキードの売り込みのためにこういうことをしてほしいと話を持ってきたり、実行行為の面ではクラッターの方がずっと前面に出た役割りを果たしておる。となれば、いまのロッキード裁判との関係で、日本の司法当局としてはこのクラッターについては引き渡しを要求されるというようなことが私は必要なんじゃないかと考えるわけですが、いかがでしょうか。
  65. 敷田稔

    ○敷田説明員 何分現在裁判が進行中の事件に関するものでございますので、これにつきましての答弁は何とぞ差し控えさせていただきたいと思います。
  66. 高沢寅男

    ○高沢委員 私は裁判が進行中だから言っているのです。これが終わってしまって、全部結論が出た後でクラッターを呼んでどうだこうだと言うのは、実際上意味がないわけであって、現在進行中であって、そしてその進行中の日本の裁判にいろいろな必要な証言も得なければなりませんでしょうし、またそれとの関係で必要な司法上の処理もしなければならぬだろうし、こういうことで引き渡しを要求したらどうか、こう私は聞いたわけで、進行中だから要求するかしないか答えられないというお答えはちょっと答えにならぬのじゃないか、私はこういう感じがするのですが、いかがでしょうか。
  67. 敷田稔

    ○敷田説明員 仰せではございますが、特にコーチャンとクラッターのことを区別しての御質問でございますが、私ども同じような類型に入るのではないかと考えておりまして、かつ、現在進行中の裁判に影響を及ぼすことになりますと、司法権の独自の運用が必ずしも円滑にいかなくなる点もございますので、何とぞその点はひとつ御勘弁をいただきたいと思います。
  68. 高沢寅男

    ○高沢委員 日本の司法権の独自の運用がこれによって何か差し支えるというようなことを言われましたけれども、これも私は全く理解できないと思うのですね。まさに日本の司法権の独自の運用のために必要なものとして呼ぶべきではないか、こう言っているわけです。私、コーチャンとクラッター、多少さっきの言い方では差をつけましたが、それは、コーチャンがアメリカの方でそういう証言をしている、クラッターはしてないというような違いで、特にクラッターはと、こう強調して言ったわけです。もちろん両方呼べばなおさら結構なことであって、そういう意味において別段差をつける考えはありませんが、そういう現在進行中の裁判の日本の司法権の独自の運用のためにも大いに必要じゃないか、こう私は思うわけです。もう一回見解を聞かせてもらいたい。
  69. 敷田稔

    ○敷田説明員 私、司法権と申しましたのは、現在行われている裁判という趣旨でございます。
  70. 高沢寅男

    ○高沢委員 まさに私も現在行われている裁判という意味で言っているわけであって、この裁判が終わってしまった後では意味がないということをさっきも言ったわけで、現在進行中であるからなおさら、より正確に事態を判断してより正確に裁判の結論が出せるようにするためにも、コーチャン、クラッターの引き渡しを要求する、そしてもちろん証言も求める、また、日本の国内法に外国為替管理法とかそういうふうなことで明らかに触れているわけですから、これに対して必要な司法上の処分を与えるということでもってこの引き渡しを要求すべきじゃないか、こういうふうに言っているわけですが、どうもあなたのお答えは、全然それとかみ合わぬところで、だから呼べないというようなお答えですが、どうもこれは納得できません。もう一度、なるほどその理由なら呼べないのも無理はないと、こう私にも納得のできるような説明の仕方でひとつ答えていただきたいと思うのです。
  71. 敷田稔

    ○敷田説明員 なかなか納得のいくような御説明がむずかしいのかもしれませんが、私はそのように考えております。
  72. 高沢寅男

    ○高沢委員 ここで確かに引き渡しを求めるべきだということを敷田さんが答弁すると、あなたの一身上の問題で何かいろいろ差しさわりが出てくるというふうな御考慮があるいは働いているのかな、こんなことも実は思わざるを得ないほどあなたのお答えはどうも割り切れない、こういうことなんでありますが、このやりとりだけで時間をかけるわけにはいきませんので、この点は、せっかく日米犯罪人引渡し条約審議するならば、これこそまさに大変重要なやるべきケースじゃないかということを私は指摘をしておいて次へ進んでいきたいと思います。  条約第四条で、引き渡しを請求される犯罪が政治的な犯罪である場合は引き渡しをしない、政治犯の不引き渡しということが条約によって決められているわけであります。こういう規定があるわけですが、ただしそこに、その規定の適用について疑義が生じたときは被請求国の決定による、こういうふうなことになっております。そこで、疑義が生じた場合というのは大体どういう場合を想定されてこういうふうな条約の中へ入れられたのか、考え得る疑義というのは一体どういうふうなケースか、ちょっとそれを教えてもらいたいと思います。
  73. 村田良平

    村田政府委員 まず政治犯罪という概念についてでございますけれども、これは抽象的に言いますと、ある国の政治的な秩序を侵害する行為である、こういうふうに通常定義されておるわけでございますが、その中でいわば純粋な政治犯罪、それから相対的な政治犯罪との二種類あるというのが学説等で言われているところでございます。  そこで、特にいま御指摘の第四条の後段の方でございますけれども、いま申し上げましたような二種類の学説に従いますと、相対的な政治犯罪というものは、純粋な政治犯罪に関連いたしまして通常の刑法犯を犯したような場合であるとか、あるいは政治目的によって普通の刑法犯を犯した場合ということになるわけでございます。そこで、特に相対的な政治犯罪というふうな場合におきましては、純粋な政治犯罪よりも普通犯罪的な要素というものが、加味されておるということでございますので、果たしてその犯罪を政治犯罪と判断すべきかどうかということは、個々の具体的なケースに即しまして、構成要件から始まりまして、どのような法益が犯されておるかとか、それから犯人の目的は何か、あるいは社会的、政治的な背景とか、あるいは相手国の刑罰がどうなっているかというふうなことをいろいろと総合的に調べて判断をして、初めて結論が出せる問題でございます。  ここで疑義がある場合と申しますのは、そのようにいろいろな要素を加えて判断をする必要があるというときに、その最終的な判断は被請求国に任されておるということを規定した、そういう趣旨でございます。
  74. 高沢寅男

    ○高沢委員 そういういま御説明のような、いろいろな要素のまじりあったような状況を判断するというような場合、被請求国、つまり、これは日本なら日本でそういうようなケースを判断するという場合、これは当然法務大臣の責任で判断されるというふうなことになろうかと思うのですが、そういうような場合に、やはり何か個人の判断、まあ法務大臣の判断必ずしも個人ではないと思いますけれども、法務省という一つの組織を挙げての判断ということになろうかと思いますが、私は、事柄が非常にデリケートな事柄であるというようなことからすれば、たとえばしかるべき法律学者とか、しかるべき大学の教授であるとかというような人も加えた、そういうふうな判断を求める、意見を求める審議会というようなものがあって、そういうところの意見も求めながら判断をするというようなやり方があった方がいいんじゃないのかという感じがするわけです。いま言ったそういうふうな判断をする場合の何か決まった物差しというものがあれば一番事柄は割り切りやすいわけでありますが、そういう物差しというものがあるのかどうか。それからまた、恐らくケースによってそれぞれ多様であるというようなことになれば、その場合の判断の間違いを避けるためにも、いま言ったような何か審議会のようなものがあればなおさら客観的、妥当な判断ができるんじゃないかというような感じがいたしますが、その点はどうでしょうか。
  75. 村田良平

    村田政府委員 そもそも政治犯罪人は引き渡さないという一種の主義と申しますか、原則的な考え方が出てまいりました背景には、大きく言って二つあると思うわけでございます。これは政治犯罪人引き渡しの問題を歴史的にたどってみますとそういうことが言えると思うのでございますが、一つの大きい柱と申しますのは、その犯罪人あるいは被疑者の人権の保護といったような観点であろうと思います。すなわち、仮にその人間を引き渡した場合には、請求国の方で政治的な背景で不当な裁判をするのではなかろうかというふうな疑いがあるとか、あるいは、そもそも政治的な価値観というものは国によって異なりますから、異なった価値観で判断されて犯罪人とされておる人間を引き渡すことが妥当かどうかということを考えなければならない。それが人権的な側面であろうと思います。  それからもう一つは、犯罪人とされておる者を引き渡すことによりまして、その引き渡す方の国家が、外交上と申しますか、国益上の損失をこうむるおそれがあるということでございます。引き渡すということが相手国の内政に介入すると申しますか、関与するということにもなりましょうし、それから、特に政体の変更、転覆等を目的とした政治犯罪という場合には、きのうまで専制君主の支配しておった国が共和国になるというふうなことが往々にして起こるわけでございまして、そうなると、革命後の国との国交関係ということまで考えた判断ということが当然必要になってくるわけでございます。  ですから、簡単な言葉で申しますと、そういう人権的な判断と外交上の判断という二つの柱を立てまして、先ほど申し上げましたような諸般の考慮すべき点を慎重に検討する。この結果、わが国の場合でございますと、法務大臣が判断をされるということでございますので、いま先生の御指摘のような審議会にかけて判断するということには必ずしもなじまない問題ではないかというふうに一応考えられると思います。
  76. 高沢寅男

    ○高沢委員 この点は、私としてはそういう判断をする場合に、もちろん人権的な側面、それから外交的な判断というふうな両面があるということはよくわかりますが、その両面を含めて、この場合に引き渡す、それに応ずるのがいいのか、これを引き渡しを断る方がいいのかというような判断をされる場合に、その判断がより間違いのない判断になるためには、そういうふうな一つ機関を持って判断をされるという方がいいんじゃないか、こう考えますが、これはちょっと見解の行き違いという形になっております。  それで、なお話を進めまして、私、一つの実例を挙げてまたこの政治犯罪ということについてお尋ねをしたいと思います。  これはかつて日本で実際にあった事件ですが、手秀吉君という韓国人の青年が、これが日本で勉強したい、こういうふうな目的を持って密入国をしてきた。そして東大の研究生として勉強していた。ところが、昭和三十七年に密入国の容疑で東京入管事務所に収容された。そして強制退去で韓国へ送還されるというようなことになってきた。これに対して本人が、韓国へ送還をされると——この本人の東京にいるときの言動の中で、韓国の政府を批判したような言動もあったというようなことから、送還をされると向こうにおいてどういう迫害を受けるかわからぬというようなことで、その送還の処分の取り消しを裁判所に求めるというようなことになった。そこで、東京地裁でこの裁判が行われた。原告あるいは弁護人は、政治犯の不引き渡しの原則というものは、これは一般国際慣習法としても確立をされているものであるから、したがって、この尹秀吉君のケースも、本人の異議を認めて韓国へ送還することはやめるべきであるというような主張を展開して、そして地裁ではそれが認められる判断になった。ところが、それに対して国が控訴されて、東京高裁において、今度は、政治犯不引き渡しの原則は一般国際慣習法としては確立はしていない、こういうふうな判断になって、地裁の判断が覆された。さらに事柄は最高裁までいって、最高裁は高裁と同じような判断をされた。こういうふうなケースが現実にあったわけですね。  このケースについて私、考えるわけでありますが、いま村田さんも説明されましたように、この犯人不引き渡し原則の前提としての人権という側面、これは非常に重要な側面じゃないか、こう考えるわけで、いまの尹秀吉君の場合にも、この側面がもちろん中心になって判断されなければならぬのじゃないか、こういうふうに考えるわけですが、人権擁護というふうなことを主体に判断をすべきだということになれば、東京地裁の判断と、それから高裁、最高裁の判断、全く逆ですが、裁判の上級、下級では、それは最高裁や高裁の方が上級裁判ですけれども、地裁の方は下級の裁判ですけれども、違った判断が出た場合に、むしろこのケースとしては地裁の判断の方が妥当な判断じゃないのかというふうに、私、考えるわけですが、これについてひとつ御見解をお聞きしたい、こう思うわけです。
  77. 村田良平

    村田政府委員 最高裁の判決がすでに出ておりますケースにつきまして、それがいいとか悪いとかということを申し上げるのはいかがかと思うのでありますが、ただ、いま先生のおっしゃいましたことについて二点だけ、コメントをお許しいただければしたいのでございます。  この裁判で争われました点に関連して一つ申し上げたいのは、政治犯罪人という概念の問題でございまして、この尹秀吉氏自体は政治犯罪人という概念には当たらない方であるということは言えるのだろうと思います。すなわち、政治犯罪人はある国において犯罪を犯して、有罪判決を受けている場合もあれば、起訴されておるとかあるいは捜査の対象になっておるというふうなことがございまして、そうしてその国から、わが国ならわが国引き渡しの請求がある、条約に基づく場合もあればそれ以外の手続の場合もございますけれども、そういう対象になる人が政治犯罪人でございますので、この人はその意味で政治犯罪人には当たらないという点が一つでございます。  それから、そもそも政治犯罪人の不引き渡しが国際慣習法であるかどうかということがこの裁判で争われたわけでございますけれども政府立場、また本件条約国会に御提出して現在御説明申し上げております私ども立場といたしましては、東京高裁あるいは最高裁と同じ考え方に立っておりまして、政治犯罪人の不引き渡しはいまだに国際慣習法ではないという立場に立っておるわけでございます。
  78. 高沢寅男

    ○高沢委員 私は、そこで世界人権宣言というものに触れたいと思うわけです。世界人権宣言では、第三条で、これはもう御承知かと思いますが、「すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。」それから第五条では、「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは屈辱的な取扱若しくは刑罰を受けることはない。」それから第十四条では、「すべての人は、迫害を免れるため、他国に避難することを求め、かつ、避難する権利を有する。」「この権利は、もっぱら非政治犯罪又は国際連合の目的及び原則に反する行為を原因とする訴追の場合には、援用することはできない。」こういうただし書きがありますが、ともかくいま私の申し上げたような世界人権宣言の立場。そしてまた、その世界人権宣言の立場を、さらに今度は各国に対して法的な拘束力を持たせるという世界人権規約も、これはすでに国際的には効力を持って、そしてわが国国会としてはこれを批准すべきだということで、恐らくこの国会中に政府側から提出される、こういうふうにわれわれは考えておりますが、そういうところまで現在来ておるというふうに考えるならば、この政治犯不引き渡し原則は、これは国際慣習法としてもすでに確立をされているものだという判断に立つべきじゃないのか、こういうふうに考えるわけですが、いかがでしょうか。
  79. 村田良平

    村田政府委員 まず、世界人権宣言にお触れになりましたが、特にこの不引き渡しとの関連の大きいのは第十四条が特に関係が深いのかと思いますが、いずれにいたしましても、人権宣言自体は条約ではございませんので、それが法的な拘束力を持つというものではないということを申し上げたいと思います。政治犯罪人を引き渡さないということを二国間で約束いたします場合におきましても、その約束の趣旨は、本来主権国家としては犯罪人を引き渡す義務は何ら負っておらないわけでございますが、この条約によりまして一定の手続、要件に従って犯罪人を引き渡すということを約束するわけでございます。そこで、政治犯人を引き渡さないという規定が本件日米条約にも入っておるわけでございますが、これはそういう犯人を引き渡さないという両当事国の意思の表明であるというふうに解すべきものであるというのが私ども立場でございます。  逆の言葉で申しますと、仮に政治犯を引き渡すということを二国間の条約で約束するケースがございましたならば、これは国際法違反であるというふうな規範意識と申しますか、そういうものがまだ国際社会にできているとは言いがたいというのが、正直なところ、現状認識ではないかと思うわけでございます。すなわち、政治犯人を引き渡さないということが慣行として非常に広く行き渡っておる、あるいは確立しておるという言葉を使ってもいいかもしれませんが、それはある国が政治犯人を引き渡さないという決定を下しました場合に、その相手国の方がその決定に従う、それを非友誼的な行為とみなさないとか、いわばその被請求国の決定を受容するという意味を持つ以上のものはないというふうに思うわけでありまして、そのような規定が個人に対して権利を与えるというふうなものではないというふうに思われるわけでございます。もしも政治犯罪人引き渡しが国際慣習法であるということになれば、それはそれによって国際社会全体あるいは国際社会を構成しております国、あるいはさらに人権の場合には個人という問題が生じてくるわけでございますけれども、そういったものの利益を守る共通の法益があるというふうな価値意識と申しますか、それが国際社会にすでに確立しているということが言えなければならないと思うわけでございまして、政治犯人に関しましては、まだ国際社会の法意識というものはそこまでいっておらないというのが私どもの認識でございます。
  80. 高沢寅男

    ○高沢委員 いま法律的に非常に専門的なお立場説明がありまして、私のような素人はそれに対してこうだということを申し上げるものは何もないのです。しかし、さっき言われた政治犯不引き渡しの第一の、なぜかと言えばそれは人権の考慮であるということを言われた。私は、これは非常に重要な、まさにそのとおりだと思うのですが、そういう人権上の考慮ということが世界人権宣言、これは宣言だから拘束力はないとはいえども世界人権宣言で明らかにされて、そして今度はその同じ趣旨が拘束力のある国際人権規約として締結日本はもう参加しているわけですから、あとはこの国会の批准ですが、というような、ここまで来ておって、しかし、なおかついまのお答えでは政治犯を仮に引き渡しても、それはそれによって損われる法益はない、こういう言い方をされるのは大変矛盾ではないのか。世界各国に共通する、世界の各国民に共通する法益として人権の擁護、これは重大な法益であって、それを守るために政治犯不引き渡しは国際慣習法として当然そう確立されるべきだ、こういう立場を、私なんかそういうふうに考えるわけですが、日本政府としてもいまや国際人権規約に参加しようという立場では当然その立場をとるべきではないか、私はこういうふうに考えますけれども、どうでしょうか。
  81. 村田良平

    村田政府委員 私が先ほど申し上げましたことは、この政治犯人不引き渡しという原則がまだ国際慣習法と言うに至っていないという点のみを実は御説明したわけでございます。その理由は、繰り返しになりますので詳細は申し上げませんが、仮に慣習国際法であるということになれば、それはたとえば義務であるということになるわけでありますが、国と国との間の義務としてこの政治犯人の不引き渡しというものを考えることは非常に困難ではないかと思うわけでございます。仮定の話といたしまして、米国わが国に政治犯人の引き渡しを請求してきた、わが国がそれを引き渡したというときに、わが国アメリカに対して義務違反を犯したというのは非常にこっけいと申しますか、つまり日米間の義務違反という問題にはそもそもなり得ない性質のものでございますから、したがって、仮にこれが国際慣習法であるという立場に立つ以上は、それは個人の人権との絡みで、そういう観点から国際的な共通の法益として世界のすべての国から認識されるという状況に達しているという場合であろうかと思うのですが、その点は先ほど申し上げましたように、まだそこまでは言い切れないのが世界の現状ではなかろうか、こう思うわけでございます。しかしながら、現実に各国の慣行、国内法制、それから締結しております条約を見ますと、政治犯人を引き渡さないという慣行は確立していると言っても間違いないと思いますし、その基礎にあります考慮の非常に大きいものの一つは、人権を尊重しようということであることは疑いを入れないところでございまして、そういった意味で、今後も各国が人権尊重という立場からこの問題を判断していく、その点は疑いないというふうに考えるところでございます。
  82. 高沢寅男

    ○高沢委員 それじゃもう少し具体論に進めまして、先ほどの尹秀吉君のケースですね、これは日本の国内において密入国者として発見されて、そして入国管理のそれに反したということでのあれは取り扱いであったわけです。これは一つの仮定の問題ですが、この尹秀吉君が仮に韓国から引き渡しを求められたというようなケースであった場合には、これは日本逃亡犯罪人引渡法の中で、政治犯は引き渡さないという非常に明確な規定があるわけですから、もし求められたものであったらそれはノーと言う、こういうふうなケースに当然当たるんだろうと思うのですが、いかがでしょうか。
  83. 敷田稔

    ○敷田説明員 仮に先生仰せの尹秀吉事件が政治犯罪であると認定されました場合には、仰せのとおり、日本国の引渡法に基づきましては引き渡しをしないということになろうかと思います。
  84. 高沢寅男

    ○高沢委員 政治犯罪ということが明らかである場合は引き渡しはしないという点ははっきりわかりました。  ただ、私がいまここで大変心配もして、したがってしつこくお聞きするのは、特に在日朝鮮人、在日韓国人の関係が、この場合には入国管理令の関係でいろいろかかるケースが非常に多い、こういうことなんであります。そこで、たとえば大村収容所へ入れられる、そして送還されるというようなケース、しかし、送還されれば、その人の日本においていろいろやった言動との関係で、韓国の政府からすれば、これは反政府分子という立場でひどい目に遭うということは当然想定されるというようなケースということが、日本の場合には特別に多いということで、そこでいまのことに関係するわけです。そういう入国管理令の運用、これは犯罪人引き渡しとは全部別なことだということなんですが、しかし、実際は政治犯というものに非常に深く重なってきておる、関連してきておる、こういうふうなケースになることが非常に多いわけですが、そういう場合に入管の運用の中で、内容的には政治犯を引き渡すことになるような、そういう運用というものがやはりあってはならぬ、こういうふうに私は考えるわけです。そういうことから、万々一にも間違いのないような運用をぜひやってもらいたい、こう考えるわけです。  そこで、それとの関係一つお尋ねをいたします。これも実際にあったケースで、金東希事件、これは韓国読みするとキムドンギというのですかね、この人は韓国の軍隊に入っていて、その当時ベトナムの戦争が行われておりまして、韓国は南ベトナムへ軍隊を派遣をしていたわけですが、この金東希という人が韓国の軍隊に入って、そしていよいよベトナムへ派遣されるという事態が迫ってきたときに、ベトナムへ行くのはいやだ、こういうようなことで脱走して、そして日本へ密入国をしてきた。こういう事件が、これは昭和四十年のことですけれども、あった。それが密入国ということでやはりつかまえられて、韓国へ強制送還ということになった。このときに本人は、送り返されたら、脱走兵、ベトナム戦争はいやだということで逃げたわけですから、これは当然やられるというようなことで、何とか亡命を認めてもらいたいという亡命の嘆願をした。これは結局結論としては、朝鮮民主主義人民共和国、つまり北の方の朝鮮の方へ本人の希望によって帰ることになったというのが、実際の処分の最終的な形であったわけですが、こういうケース、これはまさに、日本の当局の扱いとしては入国管理令の違反であるという扱いになる、しかし扱われている本人の立場はまさに政治犯的な立場であるというような、一番典型的なケースじゃないかと私は思うのですが、こういう場合には、政治犯不引き渡しという立場を当然とられるべきではないか、こういうふうに私、思うわけですが、いかがでしょうか。
  85. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 お答えをいたします。  お尋ねの金東希という人物の事件、さような場合の取り扱いは、まさしく金東希事件の際に法務当局が取り計らいましたように、いわゆる迫害の待っている国には送還をしないという方針を現在行っておりますし、今後も貫いていく所存でございます。  これでよろしゅうございましょうか。
  86. 高沢寅男

    ○高沢委員 それじゃ私、ちょっとだめ押しみたいに少し同じことを重ねて私の口から言えば、そういう入国管理というふうなケースのことであっても、その本人を相手の国へ送り返せば、そこで迫害が明らかに待っているという場合には送り返すことはしない方針であるというふうに理解してよろしいですね。私もそのお言葉を聞いて大変安心をいたしました。ぜひそういうふうな運用をやっていただきたい、こう考えるわけであります。  それから、このことに関係してもう一つお尋ねしたいのは、日本にいる外国の大使なり公使なりというようなその公邸、公館、つまり在日のそういう外国の外交官の施設ですね、そういうところへたまたま政治亡命を求める人が逃げ込んで保護を求めるというようなケースがありますね。  このことでは私思い出すのは、これはかなり前の事件ですが、在日ソ連大使館のラストボロフという二等書記官が亡命を求めて、そしてこれは、アメリカ大使館ではなくて、日本にあったアメリカの特務情報機関ですね、まあCIAであるのかどうか、そういうふうな機関に逃げ込んで、そしてその機関アメリカの軍用機にラストボロフを乗せてアメリカへ連れていったということでもって、言うならば、結果としては本人の希望した亡命は成り立ったというような形になったわけですが、こういうケースで見られるように、日本にある外国のそういう外交官の施設、ここは政治亡命を求める人、政治的な迫害を逃れようとする人を庇護する、そういう権限があるんだ、こういうふうな見方をできるものかどうか。私の結論を先に言えば、そういう権限は認められるべきであるというのが私の考えですが、このことについての御判断をお聞きしたいと思います。
  87. 村田良平

    村田政府委員 先生の御質問の趣旨をあるいは正確に理解しておらない答弁かとも思いますが、まず外交的庇護についてのわが国考え方というのを申し上げたいと思います。一般国際法上、いわゆる外交的庇護権というものは承認されておらないわけでございます。一部の国におきましては、条約でもって外交的な庇護権を認め合っておるという例はございます。ラ米等でございますが、しかしながら、わが国は、わが国に存在いたします外国公館にこのような庇護権を認めておらない、また外国にございますわが国の大使館もそのような庇護権を要求はしない、これが日本政府の政策でございます。  そこで、いまの先生のおっしゃいます政治犯罪人というものはどういうカテゴリーかということになりますけれども、この外交庇護権の問題と申しますのは、本来、わが国におきましてたとえば密入国をした人間、あるいは日本法律を犯した人間、それがわが国にあるある国の大使館に駆け込みまして日本の法の適用から逃れようとする、そういう問題の場合に生じてくるわけでございまして、これはわが国としては認めておりませんので、そういう人間は引き渡せということをその大使館に対して要求するということになるわけでございます。もちろん、唯一の制約としましては、大使館そのものは国際法上不可侵権を持っておりますから、わが国が館長の承諾なしに立ち入って捜査する、逮捕するということはできない、これはそうでございますけれども、庇護権自体は認めておらない、こういうことでございます。  それからもう一つ、理論的と申しますか、仮定の問題といたしましては、アメリカにおきまして、たとえば政治犯罪とみなされる犯罪を犯して日本に逃げてきた人間が、日本にあります第三国の大使館に駆け込んだ、こういうふうなケースも考えられるわけでございますけれどもわが国アメリカ関係におきましては、この現在御審議をいただいております条約に従う手続、要件によってその犯罪人を引き渡す。仮にそれが政治犯罪人であるかどうかというときは、日本国の主体的な判断として引き渡さないということにはなりますけれども、いずれにしても、そのような人間を東京にあります外国の大使館が庇護するということはわが国としては認められない、こういう立場でございます。
  88. 高沢寅男

    ○高沢委員 私は、人権擁護という、繰り返し申し上げている立場からすれば、そういうものも認めるべきだと考えますけれども、これはそれでは見解の違いということになろうかと思います。  いまのことに関係いたしまして、そういう政治犯罪者に対する保護をより確実なものにするために、仮に名前をつければ政治亡命者保護法というような法律を、日本の国内法としてもあっていいんじゃないのか。これはもう具体的にはいろいろなケースはあろうかと思いますが、ともかく、どこかの国から迫害をされるという危険を感じて日本へやってきて、そして日本において保護を求めて、この日本にいる限りは安全だという状態で、ひとつそういう安全な場所を求めたいというふうなことが起きてくる可能性というものはずいぶんあろうかと私は思うのですが、そういうふうな場合に、そういう人が保護されるという確実な保障をつくるためにも、政治亡命者保護法というような法律を制定すべきではないかと思いますが、これは政府の側において、そういう法律案国会提出しようというようなお考えはあるのかどうか。ぜひあるというお答えをいただきたいと思うのですが、お考えを聞きたいと思います。
  89. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 亡命者の保護のための国内立法をすべきではないか、こういう御趣旨と承りました。一口に保護と申しましても、いかなる場合にどのような保護を与えるのか、いろいろな場合を考えなければならないと存じます。私ども法務省、ことに入国管理行政をやっております当局といたしましては、入国管理局の取り扱う範囲の事柄に関しましては、特にいわゆる亡命者保護立法をいたさなくとも、現行の出入国管理令の運用によって賄うことができる、かように考えております。
  90. 高沢寅男

    ○高沢委員 私、現行の出入国管理令の運用でできるというお答えでしたが、そういうふうな運用をやっていただけば大変いいと思いますが、それをさらに確実に法律の裏づけをつくるためにそういうものがあった方がいいんじゃないか、こういう質問をしたのですが、何かその種の政治亡命者を保護するというふうな法律を国内法として持っている国は、世界でどんなような国があるのか、それがわかりましたら教えていただきたいと思います。     〔委員長退席、毛利委員長代理着席〕
  91. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 世界に百数十カ国、国がございますが、いまお尋ねのようないわゆる亡命者を保護するための特別の国内法制を有しております国は、大体十カ国前後だと承知しております。
  92. 高沢寅男

    ○高沢委員 どんな国でしょうか。
  93. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 挙げますと、最も整備いたしておりますのは、西ドイツすなわちドイツ連邦共和国、それからオーストリア、それからスウェーデン、大体この三カ国が整備をいたしております。  なお、アメリカあるいはスイスなどにも、その国のいわゆる出入国管理法制の中に亡命者の入国等について言及する規定を持っておるものはございますけれども、それらの国の関係の規定は、いわゆる亡命者であるからという理由で特別の恩典を認める趣旨の規定は含まれてございません。  以上でございます。
  94. 高沢寅男

    ○高沢委員 大体、世界の各国の現状はわかりました。  重ねて、日本としても、いま一番進んでいると言われる西ドイツなりオーストリアあるいはスウェーデンというようなところへ、ひとつそういう線まで行くような保護立法をお考えいただきたいということを要望申し上げておきたいと思います。  次へ進みまして、自国民は引き渡さない、こういう第五条の関係でありますが、この場合も、「ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる。」と、こういうふうになっておりますが、この「裁量により」というこの場合の、どういうケースで裁量をされるのか、また、その場合の裁量の判断を出す物差し、基準のようなものはあるのか、それをお尋ねしたいと思います。
  95. 村田良平

    村田政府委員 自国民をいかなる場合に引き渡すかということの判断は、いろいろな問題をやはりこれは総合判断して決めなければいけないと思いますが、たとえば、その自国民についてわが国の法制上処罰可能であるかどうか、わが国も国外犯の規定もあるわけでございますから、日本自身の手によって処罰するということが可能な場合には、そういう手段をとるべきではないかということと、それからその事案の内容、重大性、あるいは米国における処罰がどういうふうになろうかということに関する判断、そういった点を事案ごとに個別に検討いたしまして結論を出すということでございます。
  96. 高沢寅男

    ○高沢委員 この条約に伴う交換公文、この関係で少しお尋ねをしたいと思います。  この交換公文のことでは、午前中に中川委員からも御質問がありましたが、交換公文も含めて国会承認対象にされたその理由というものをもう一度お聞きしたいと思います。
  97. 村田良平

    村田政府委員 交換公文をごらんいただきますと、二つの事項が書いてございます。  第一項についてごく簡単に御説明いたしますと、これはアメリカ事情を特に考慮した規定でございまして、アメリカの制度によりますと、アメリカの検事は日本国の利益を代表するという、そういう資格で米国の中で行動する、この引き渡しに関連してでございますが、そういう制度になっておるので、そのことを何らかの付属文書で明らかにしてもらいたいという希望がございましたので、十四条との関連でこの規定を置いたわけでございます。また、それに対応してわが国についての規定も置いておりますが、この内容自体は、行政権の範囲内で取り決め得るものでございますので、第一項は国会承認事項でない問題であるというふうに私ども考えております。したがいまして、この交換公文の第二項がございますので、私どもとしてはこれを国会提出したわけでございますが、その理由に関しまして申し上げますと、犯罪人引き渡し一般について律するのがこの条約でございますが、日米安保条約によってわが国に駐留いたします米軍の地位を律する地位協定というものは、この犯罪人引渡し条約とは本来は異なった法益のために設けられておる条約でございます。しかしながら、逃亡犯罪人を引き渡すということによりまして司法正義を実現するという見地から申しますと、両者に共通の法益があるというふうに見られるわけでございます。  実は現在もすでにわが国との間には明治十九年の犯罪人引渡条約が有効であるわけでございまして、従来日米地位協定に該当するケースについては地位協定によるということになっておったわけでございますが、今回新条約締結するに当たりましては、いわゆる国外犯の規定というものが新たに設けられましたので、犯罪人引渡し条約によるのか、あるいは地位協定によるのか競合するケースが具体的に出てきたわけでございます。それと、地位協定というのが現在有効な条約でございますので、いわば時間的にいいまして後法とも言うべきこの新条約との関係がどうなるのかという点についても疑問が生ずるのではないか、したがいましてその関係を明らかにするというためにこの交換公文の規定を置いたということでございます。したがいまして現在も地位協定によって律せられておるものを引き続き地位協定によって律するというのがこの交換公文の趣旨でございまして、これによって新たに地位協定の方を優先させるというようなことでは決してございません。
  98. 高沢寅男

    ○高沢委員 国会承認事項にした理由というのはいまの御説明でわかりました。  それで、地位協定関係について少しこの機会にお尋ねをしたいと思うのです。  昭和二十七年に対日平和条約が発効して、それ以来アメリカの駐留軍の軍人や軍属の関係に起こった犯罪あるいは事故というようなものはどのくらいの件数になっているのか。それから、その犯罪なり事故の関係日本国民の死傷者がどういうふうな数で出ているのか、それからその犯罪なり事故の公務中であったものと公務外であったものというような区分けはどうなるのか、そういう状況をまず御説明をお願いしたいと思います。
  99. 敷田稔

    ○敷田説明員 御説明申し上げます。  講和条約発効以来と申しますと手元に全資料がないわけでございますが、最近の過去五カ年に限りまして詳しく御説明申し上げます。  検察庁が受理しました人員が昭和四十八年に二千七百九十九名、四十九年に二千三百二十二名、五十年に二千二百六十七名、五十一年に二千九十一名、五十二年には二千二百六名、このようになっております。これらの犯罪によりまして不幸にして日本人に死傷の結果の及びましたものにつきましては、昭和五十年が五十九名でございまして、うち死亡が二名、昭和五十一年には四十四名でございまして、死亡がなし、五十二年には四十二名でありまして、うち死亡三名、このようになっております。これらの犯罪のうちでお尋ねのように、公務中のものがどのくらい含まれているかということでございますが、現時点におきまして判明しているところによりますと、昭和五十年につきましては百四十三名、五十一年につきましては百三十八名、五十二年につきましては百五十一名、このようになっております。
  100. 高沢寅男

    ○高沢委員 私の手元に、これは三月二十九日付の毎日新聞でありますが、そういう米軍の関係犯罪なり事故の数字が出ておりますが、この数字はいま御説明されたのと少し違うような感じがいたしますが、この毎日新聞に出ていた数字は必ずしも正確じゃない、こういうことでしょうか。
  101. 敷田稔

    ○敷田説明員 私も、先生仰せのその新聞は見たわけでございますが、これは多分防衛施設庁の作成に係るものではないかと思われますが、その内容につきましては現在所管庁に、どのような性格のものであるのかということについて私ども問い合わせ中でございます。私どもが先ほど申し上げました犯罪のものとは関係ございません。
  102. 高沢寅男

    ○高沢委員 わかりました。つまり事故というケースと犯罪というケースで、いまあなたのおっしゃったのは犯罪というケースのそれならわかりました。  そこで、米軍の軍人なりあるいは軍属が公務中に犯した犯罪、これについてはその一次裁判権はアメリカにある、地位協定の十七条でこういうふうになっておるということであります。そこでいままでにこの地位協定の規定によって、公務中のアメリカの軍人、軍属の犯罪に対してアメリカ側が実際に裁判権を行使したケースがどのくらいあるのか、その行使した結果どういうふうな結論になって、どういう処分が行われたか、そういう状況についてお尋ねをしたいと思います。
  103. 敷田稔

    ○敷田説明員 米軍に第一次裁判権があるものにつきましてどのような裁判結果が行われたということにつきましては日本側に通知があるわけでございますが、そのような通知につきましては必ずしも十分な資料を持っておりません。またそれ以外に懲戒処分も行われているものと思われますが、それにつきましても十分に把握はいたしておりませんが、今後につきましてはこれを十分把握できるようなそのための措置を講じております。
  104. 高沢寅男

    ○高沢委員 一次裁判権を持っているアメリカ側が裁判をしたかどうか十分掌握していない、こういうお答えであったわけですが、先般の参議院の予算委員会でもこのことの質問があって、それに対して、いままで実際に裁判をやったケースは一つもないというようなお答えがあったというふうに、これは新聞の記事で承知しているわけでございますが、もしそうであるとすれば、一次裁判権を持っているアメリカ側がその裁判権を行使しないとすれば、そうすれば当然今度は日本側がその裁判権を行使するというようなことにならなければいかぬじゃないかという感じがするのですが、この点はいかがでしょうか。
  105. 敷田稔

    ○敷田説明員 アメリカの行います裁判権の行使の中には軍事裁判を行います処分、それから懲戒処分とが含まれておりますので、懲戒処分につきましてどのような措置をとっているかについては承知をいたしてないということでございます。
  106. 高沢寅男

    ○高沢委員 懲戒処分のケースと軍事裁判にかけるケースと二つあって、懲戒処分の方はどうなったか承知いたしていないといまお答えになったのですが、ではその軍事裁判の方はどうなっているのかお聞きしたいと思います。軍事裁判の方もなしですか。なし。  そういたしますと、ごく最近のケースとして昨年の九月二十七日横浜に厚木の基地を飛び立った米軍の飛行機が落ちましたね。そしてここで非常に悲惨な被害があって、九人の死傷者が出ているわけです。これはその後アメリカ軍が墜落した飛行機のエンジンを向こうへ持っていった、本国へ持っていったということで大変問題になって、しかしその後またエンジンは日本の方に持ち帰ってきたというようないろいろないきさつがありましたが、いま明らかになっているところでは、そのエンジンの組み立ての過程にミスがあった、こういうようなことが明らかになったということですが、そうであるとすれば、そのエンジンの組み立てのミスに関係する、だれだれという具体的な責任者の名前というものは当然明らかになるだろうと思うのですが、公務中の事故であるということであるとすれば当然アメリカ側はこれに対する裁判権を行使すべきである、こういうふうに考えるわけですが、昨年の九月二十七日のこの事件についてアメリカが裁判をやるのかどうか、そういう動きについては法務省はどういうふうにキャッチされておりますか。
  107. 敷田稔

    ○敷田説明員 日本側におきましては、現在、警察及び横浜地検におきまして鋭意捜査中でございまして、まだ日本側の結論は出ていない段階でございます。アメリカにつきましては、その結論が出ました段階で、その後どのような手続にいたすかということが決まるのであろう、このように考えております。
  108. 高沢寅男

    ○高沢委員 いままでもそういうふうなケースがあって、その犯人がどうなったかと言うと、何かその後アメリカ本国へ帰ってしまった、そしてどうなったかいまじゃわけがわからぬというようなケースがほとんどじゃなかったか、こう思うわけです。そうであるとすれば、今後そういうことがあってはならぬわけでありますから、少なくも昨年九月の横浜の事件についてはアメリカ側にきちっとしたけじめをつけさせる。もしその点がいままでのように行われないというようなことであれば、その責任者、犯人をこれこそ日本側に引き渡しを求める。いま審議している引渡し条約によって引き渡しを求めて、そして日本においてこれに対する正当な裁判の処置がとられるべきである、こういうふうに思うわけですが、もしアメリカ側でこれの裁判をしないような事態においてはそれを要求する、こういう日本政府としてのお立場が当然あるべきだと思いますが、どうでしょうか。
  109. 敷田稔

    ○敷田説明員 アメリカ側が第一次裁判権を行使することがないというような場合でございますと、理論的には日本側に第二次裁判権が生ずるわけでございますが、それはもちろん事案の内容によりまして、その後どのようになるかということは個々具体的な事件の証拠によるものとなります。
  110. 高沢寅男

    ○高沢委員 事件はあの被害の結果を見ればきわめて明らかなんでありまして、そして先ほど私がロッキードのことで引き渡しを求めたらどうだと申し上げたときは、日本のいま行われているロッキード裁判の自律性を守るためにというふうな言い方もされたわけですが、そうであるとすれば、日本の裁判の自律性を守るためには、一次裁判権を持っている者がやらぬとなれば二次裁判権を行使するというために引き渡しを要求するということは当然やるべきではないか、こう思うのですよ。日本側も当然あの事件について司法当局がいろいろな取り調べはされて必要なデータも材料も持っておられると思いますが、そういう前提の上に立って、アメリカがやらぬときはこちらが引き渡しを要求する、そして日本の裁判にかける、このことはあなたははっきり答えるべきだと思うのですが、どうですか。
  111. 敷田稔

    ○敷田説明員 それは先ほどちょっと申し上げましたように、ただいま行われております警察及び検察の捜査の結果を待った上で判断すべき事項であろう、このように考えるわけでございます。
  112. 高沢寅男

    ○高沢委員 それでは、警察や検察が捜査をされて、これはもし日本人の犯罪であれば当然起訴すべき案件であるという結論になったときは引き渡しを要求する、こういうことですか、お尋ねします。
  113. 敷田稔

    ○敷田説明員 それはその段階に立ち至りまして判断すべき事項であろうと思いますので……。
  114. 高沢寅男

    ○高沢委員 このぐらいのことは常識であって、これは当然一次裁判権をやるべき者がしなければ二次裁判権でやります。そのために引き渡しを要求します。これはもう当然あるべき答えだと私は思うのですよ。ですから、あなたがその答弁席へ立って自分の口で言うことがむずかしいとすれば、私がそうですね、こう言うから、あなたはうんと言えばいいのです。ひとつうなずいたらどうですか。そういうことでしょう。——わかりました、いまちょっと下を向いてこくっとされましたからね。私はそうならなければいかぬ、こう思うのですよ。  それで、最後に、地位協定とこの引渡し条約との関係でもう一つお尋ねしたいのですが、よくあるケースですが、日本に駐留しているアメリカ軍の関係者が、たとえばいまはもうベトナム戦争は終わりましたけれども、ああいうケースの場合に、おれはベトナム戦争反対だというような立場で、アメリカ政府の政策に反対する立場アメリカ軍の将兵が脱走するというようなケースがあって、そしてその脱走をした人を今度はアメリカの当局がつかまえようと追及する。日本の司法当局に対して、つかまえて引き渡してくれというようなことになってくる。これは地位協定ではつかまえて引き渡す、協力しますということになっておりますね。ところが、そのアメリカの政策に反対して逃走したというこのケースで見れば、これはやはり政治犯だと思うのですよ。そうすると、政治犯は引き渡さない、この原則が一方にある。地位協定からすれば引き渡し協力する。しかし、日本の国内の法律である逃亡犯罪人引渡法あるいは日米犯罪人引渡し条約、この趣旨からすれば政治犯は引き渡さない、こういう矛盾したケースになってくるのですが、こういうケースにはどっちを優先されるということになるのか。このことを、今度のこの条約交換公文国会承認案件についているのは地位協定関係だとさっきおっしゃったものですから、そういう関係でもってお尋ねをしたいと思うのです。
  115. 村田良平

    村田政府委員 一般に日本の国の外におきまして米国の軍隊から脱走いたしまして、日本に入ってくるという米国の軍人についての御質問というふうに考えるわけでございます。地位協定の一条(a)に「合衆国軍隊の構成員」という定義がございますけれども、これはもちろん日本に配備された軍隊の構成員のみならず、米本土等から日本に配備された米軍との連絡の任務で来るというふうな者も、その者が米軍人であれば日本の領域にある間は合衆国軍隊の構成員というものに該当するわけでございます。ただし、そのような場合には、地位協定上の定めによりますと、第九条三項の規定がございまして、身分証明書のほかに個別的あるいは集団的な旅行命令書を携帯しておるということが要件になっております。そこで、仮にベトナム等の軍隊から脱走して日本に入国してくるという人間を想定いたしますと、いまの第九条三項に定めますところの旅行命令書というものは持っておらないというふうに考えられるわけでございます。したがいまして、その者の入国は合衆国軍隊の構成員としての入国ではなくて、一アメリカ人としての入国というふうに考えられるわけでございます。ですから、その限りにおきましてはこの地位協定上の合衆国軍隊の構成員ではない。したがって、地位協定の十七条五項による引き渡しということはないということになります。  そこで、しからばその人間は別途その犯罪人引渡し条約との関係でどういうことになるかということでございますが、ベトナムにあります米軍から脱走するということは米国の軍法の違反であるということになるわけでございまして、その人間が犯しました犯罪アメリカの軍法上どういうものであるか、そしてそれが、この条約ではいろんな要件がございますけれども、たとえばわが国の法令上可罰性があるのかとか、それから、いま先生がおっしゃいましたそれを政治犯罪と認定すべきものであるかどうかというふうな点、それから証拠がどれだけあるかとか、あるいは逮捕状の要件が備わっておるかというふうなことをそれぞれ判断いたしまして、もしもそういった要件がすべてこの条約の定めに満たされておるという場合には、そのような脱走兵もこの条約に基づいて米国政府からの引き渡し請求に応じるということになるわけでございます。
  116. 高沢寅男

    ○高沢委員 最後の御説明はちょっとおかしかったですね。  この条約に該当している場合は、アメリカ政府の政策に反対をして脱走したわけですから、そうすれば政治犯であるから、したがってこの条約を適用されれば引き渡さない、こうなるわけでしょう。そういうことじゃないのですか。
  117. 村田良平

    村田政府委員 脱走兵の場合に、それが政治犯罪であるかどうかという点につきましては、もちろん脱走のときの個別の事情によって判断する必要があるわけでございます。本来、こういった条約で想定しております政治犯罪という概念は、基本的にはある国の政治秩序、特に基本的な秩序を侵害するものがこれに当たると考えられておるわけでございます。  そこで、軍隊から脱走するというだけのことでございますと、これはその国の基本的な秩序を侵害する行為というふうには考えられない、単なる軍の規律に違反した人間というふうにみなされるわけでございます。もちろん個別にいろいろな背景や本人の動機等も検討の必要もあるかと思いますけれども、そもそもこの条約で想定しております政治犯罪という概念は、先ほど私が申し上げたことが基本的な考え方であり、またそれが国際通念であろうというふうに思うわけでございます。
  118. 高沢寅男

    ○高沢委員 もう一度やって、これで終わりますから……。  政治犯罪の概念を、その国の政府を転覆するとか、政治的秩序を変革するとかいうようなことで定義づけられたわけですが、もちろんそれもあると思うのです。しかし、たとえばいま言ったアメリカのような場合には、宗教上の信念からこの戦争に反対なんだというふうなケースが非常に多いと私は承知しているわけです。こういう場合には別にアメリカのいまの政治体制をひっくり返そうという気持ちがあるわけじゃないが、しかしその宗教上の信念で、ベトナムへ行って戦争をやるのは反対だという立場で、そしてその人がたまたま軍隊に入れられた場合に脱走するということになれば、つかまれば軍法会議ですね。この軍法会議で明らかにそういう大変な被害を受けるというような場合には、私はこういうものも政治犯不引き渡しの政治犯の枠の中で当然考えなければいかぬのではないかと思うのですよ。軍隊から脱走といったって、彼女に会いたくて脱走というケースもあるいはあるかもしれませんが、そういう単純脱走と違って、一つの宗教的な信念なりあるいはさらに政治的な信念で脱走ということになれば、これは政治犯という立場に立って、その場合には地位協定があるにもかかわらず、しかし引渡し条約の方に当てはめて、そして引き渡さないという原則を適用すべきだ、こう思うのですが、もう一度その点を答えてください。
  119. 村田良平

    村田政府委員 本来政治犯罪という概念のほかに政治的な犯罪とも呼ぶべきカテゴリーがあると思うのでございます。  たまたまいま先生が具体的に御指摘の場合がそのどれに当たるかということは、先ほど申しましたようにいろいろな要因を総合判断する必要がございますけれども世界全体の傾向から申しますと、政治的な目的を掲げてある国の法秩序を乱すというものはやはり処罰すべきであるという考え方が強まっておるのが一般的な傾向かと思うのでございます。もちろんその人間の宗教的な物の考え方、人権擁護との関係というふうな点も個別の事案に関しましては検討すべき問題であろうと思いますけれども、単に本人の政治思想に基づいて軍隊という集団が当然要求する規律に違反したという場合に、これをもってすなわち政治犯罪とみなして、したがって引き渡しは行わないというふうに結論づけることはできないと考える次第でございます。
  120. 高沢寅男

    ○高沢委員 私はそのお答えには大変不満であります。  ただ、いまお答えの中で政治犯罪と政治的犯罪と、的もつけられましたが、私は、的つけて結構なんです。的のついた場合といえども、こういう取り扱いを当然すべきだということを最後に私の意見として申し上げて、きょう、時間も参りましたので質問を終わりたいと思います。
  121. 毛利松平

    ○毛利委員長代理 中川君。
  122. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 まず冒頭に伺っておきたいと思いますが、わが国政府としては、このような犯罪人引渡しに関する条約を今後全世界に広げるつもりがあるかどうか、特に中国とかソ連等の社会主義国との間に条約締結可能性があるのかどうか。将来とも日本人がたくさん海外、各国に行くことが十分予想されるわけですけれどもわが国政府としては、いまだ条約が結ばれていないそういった国々に対して今後どのように対処するおつもりか、この辺をまず伺いたいと思います。
  123. 村田良平

    村田政府委員 現在のところは、いま有効でございますこの日米犯罪人条約をまず改定することが最も必要であるということで、そのほかに特定の国と交渉をするという予定はございません。若干の国からはこの種の条約を結びたいという申し入れはございますけれども、その特定の国と近く交渉を始めるということは決めておらないわけでございます。  しからば、今後わが国としてはこういった条約をつくっていく一般的な方針かという御質問に対しましては、そのとおりであるとお答えできると思います。すなわち、犯罪を抑圧するために、国際協力を進めることは非常に必要なことである、最近の交通機関発達等によりましてますます必要になっておるというのが私どもの認識でございまして、したがって逐次条約締結国の網を広げていくことになろうかと思います。  その際考えるべきことは、そもそもその相手国との間に人間の往来が非常にございまして、現実に犯罪人引き渡しの要請が出るかどうかということがまず第一点であろうかと思います。  それから、相手国のいろいろな制度が民主的でありあるいは人道的であり文化的である、また相手国の制度そのものが安定しておるということが必要であろうと思います。すなわち、たとえば拷問を行うとか非常に残虐な刑罰を科するという国とはこの種の条約は結ぶべきではございませんし、また相手国が、常に政変があるという場合には、相手国法律がいつ変わるかわからないという不安もあるわけでございますから、そういうことがない、わが国憲法体制と似たような仕組みを持っておる国を頭に置いて考えるべきであろうと思います。  それから第三点は、特にアングロサクソン系統の国におきましては、条約がないと引き渡しができないということになっております。したがいまして、たとえば西ドイツであるとかスイスであるとかいった国々とは、わが国逃亡犯罪人引渡法を適用する、先方も国内法を適用するということで個別にやれるわけでございますけれども、アングロサクソン系統の国はそういった意味ではそういうことができない。したがいまして、その点も勘案して、今後この条約をつくるべき国を考えてまいる、こういうことになろうかと存じます。
  124. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 一般的な観点からの私の質問に対しての御答弁をいただいたわけですけれども、どうでしょうか、中国とかソ連等の社会主義国家との間に、果たして将来どういうふうなお考えを持っておられるか。いま御答弁をいただいた範囲で理解し得ないわけではございませんが、もう一度この点だけお答えいただきたいと思います。
  125. 村田良平

    村田政府委員 社会主義国と申しましても、それぞれの国でいろいろな制度が異なりますので一概には言えないのでございますが、現実に犯罪人引渡し条約締結状況を見てまいりますと、いわゆる西側諸国と申しますか、そういった国々と東ヨーロッパの社会主義国あるいは中国との間にこの種の条約は結ばれておらないわけでございまして、これにはそれぞれの体制の相違というものが背景にあると判断するわけでございます。
  126. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 明治十九年に発効したこの現行日米間の犯罪人引渡条約によって日米双方犯罪人引き渡しが行われた件数は、先ほど高沢委員からも御質問がありました。たしか米側から日本に対しては二件、日本側から米側に対して十件というふうに御答弁があったように思いますが、これらの犯罪内容がどのようなものであったか、先ほど資料が焼失をしてという御答弁もありましたけれども、おわかりになれば果たしてどういう罪名のものがあったのか、参考までにひとつ聞かしておいていただきたいと思います。
  127. 敷田稔

    ○敷田説明員 御答弁申し上げます。  資料の焼失に係る分は戦前の分でございまして、戦後二件ありました件につきまして御説明いたしたいと思います。  双方とも罪名は殺人でございます。第一の日本人の引き渡しを受けた者が坂口一幸という者でございまして、これは、永住権を得てハワイに居住しておりますこの者が里帰りのために帰国しました際、昭和四十七年十月に福岡県におきまして刺身包丁で中村という被害者を突き殺して殺害した後また米国に逃走したという事例でございます。  第二の点でございますが、これは米国人でございますウィリアム・ローランド・マーチンと申す者でございまして、これは、昭和五十年の九月一日、これもまた偶然福岡でございますが、福岡におきまして同人の妻でございます斉藤昭代という者から強く離婚を求められまして、それに逆上しましてゆかたのひもで同女の頸部を締めつけて殺害した、その後アメリカに立ち帰りましたところをこちらで引き渡しを受けたという事例でございます。
  128. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 この条約の用語上の問題で確認をしておきたいと思いますが、この条約の中に「引渡し」という表現、それから「引き渡す」、さらには「引き渡される」、こういうようないろいろな表現が使ってあります。それで「引渡し」という場合は「き」という文字が中に入ってない、しかしながら、「引き渡す」とかあるいは「引き渡される」の方は「き」が入っているわけですね。このような使い分けをした理由はどこにあるのか。ちなみに現行条約においては全く漢字だけの「引渡」、「引」という字と「渡」という漢字だけですね。全く「き」は使われていないというわけです。今回の改定はやはり名詞と形容詞の違いからこのようになってきたのか、念のためにちょっと聞いておきたいと思います。
  129. 村田良平

    村田政府委員 法律、あるいは条約もそうでございますが、動詞と動詞が結びついた動詞、この場合に「引く」と「渡す」でございますが、それぞれの動詞の送りがなによって送る、したがって「引き」の「き」が入るということでございます。また活用語を含む複合名詞の場合には、誤読のおそれがない言葉に関しましては活用語の送りがなを省くということをルールといたしております。したがいまして、御指摘の用法はこの規則と申しますかルールに従ったものでございます。
  130. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 この条約説明書の一番最後のところですけれども、「三」として「条約の実施のための国内措置」とありまして、「この条約とともに、逃亡犯罪人引渡法改正法案を今国会提出することが予定されている。」このようにありますけれども、この条約によってどのような国内法の法改正を必要としておられるか、その主な内容と、それからこの最後のいま読み上げたように提出の時期といいますか、提出に対する予定等は果たしてどうなっているか、この点について御説明をいただきたいと思います。
  131. 敷田稔

    ○敷田説明員 御説明申し上げます。  まずこの条約に伴いまして整備すべき国内法上の要件というものがおよそ三点あろうかと思います。  大別いたしますと、第一に、この日米条約におきましては、犯罪人引き渡し請求に係る犯罪について第三国で無罪の判決を受けたときあるいは引き渡し請求が競合するときなどにおきましては、引き渡しを行うか否かということを被請求国の裁量にゆだねることになっております。このような場合を含めまして、一応条約犯罪人引き渡しが被請求国の裁量に任せられている場合に、だれがこの裁量権を行使するのかという点につきまして、日本国内法の整備を必要といたしますので、その場合法務大臣が裁量権を行使し得るということを引渡法において明定する必要があるわけでございます。これが第一点でございます。  第二点といたしまして、日米条約では、一方の締約国が他方から、その国の官憲が第三国から引き渡しを受けました犯罪人を、当該締約国の領域内を通過して護送することの承認請求がありました場合は、一定条件のもとでこれを承認すべき旨、つまり、いわゆる通過護送の承認に関する規定が必要となってまいるわけでございまして、引渡法上もこれを受けまして、法務大臣が通過護送に関する承認を行うという規定を設ける必要がございますので、そのような規定が設けられる予定になっております。  第三番目でございますが、これが仮拘禁の期間についてでございます。現行引渡法上は二ヵ月とされておりますが、新条約では航空交通機関発達その他に伴いまして、これが四十五日と短縮されておりますので、引き渡されます犯罪人の人権保護見地からも、条約上仮拘禁の期間が二ヵ月より短い定めがあります場合にはその短い定めによるということを引渡法上明定する必要がございまして、そのように明定しております。  以上三点でございまして、この法案はすでに衆議院の法務委員会に付託されておりまして、私ども、慎重御審議の上速やかに御可決くださいますよう、心から望んでいる次第でございます。
  132. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 この付表ですね、一番最後に出ておりますが、この付表においては相当詳細に引き渡されるべき罪名が明示されているわけですけれども、これはいわゆる例示と解すべきかどうか、この点まず伺いたいと思います。
  133. 村田良平

    村田政府委員 このような付表を設けましたのは、包括主義のもとにおきましても各国の国内法にさかのぼって一々調べなくても、条約のみを見ましても引き渡し犯罪がどれどれである、特に重要な引き渡し犯罪がどれであるかということがすぐわかるというメリットがございますのでこの付表をつけたわけでございます。  この第二条第一項につきまして若干補足的な説明をさせていただきますと、この一項には二つのものが対象になっております。  一つのカテゴリーは、この付表に掲げられた犯罪でありまして、両締約国の法令によって死刑、無期もしくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされているものということでございます。したがいまして、これをアメリカに関して申しますと、連邦犯罪のみならず州犯罪でございましても、この付表に掲げております四十七種類の犯罪はすべて引き渡し対象になる、こういうことでございます。  それからこの付表に掲げておらないものにつきましては、その後段の方にございますが、「日本国の法令及び合衆国の連邦法令により死刑又は無期」云々となっているわけでございまして、これは米国の非常に多くの州があるという連邦国家の特殊性も考えまして、付表に掲げたような重要犯罪、これは連邦犯罪、州犯罪ともにこの引き渡し対象になりますが、それ以外は一応連邦法令によって死刑等に処せられるものに限るということにしたわけでございます。  なお、この付表をつくるに当たりましては、なかなか作業もむずかしかったわけでございますけれども日米両国でそれぞれの刑法に基づきまして長期一年を超える犯罪というものはできる限り網羅しようということで、詳細な点検作業を行って合意したものでございますので、実際問題としてはほとんど考えられる重要犯罪は網羅されておるのではないかというふうに考えております。
  134. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 この四十七項目ですね。なるほどお答えいただいたとおり、すぐわかるという利点はありますけれども、実態は、包括主義というものを基本とすることに合意された云々という説明がございましたけれども、そのような包括主義をとるということは、法治国家として、いわゆる法律制度の上からもいろいろな問題があるのじゃないか、このように思います。すなわち、包括主義であるために、列挙されていない犯罪が出たとき、幾ら包括といっても、これは当然判断に迷いが生じるのではないだろうか。付表のほかに、果たしてどういう犯罪考えられるのだろうかということについては、いま御答弁でわれわれは一応納得するやにしても、国民にとってみれば、これ以外にどんなものがあるのだろうかということはちょっとわかりにくい。そして、先ほど申し上げたように、法治国家としては、刑事事件の場合はどういうのが犯罪となるか、これを明示すべきではないか、このように私は考えるわけですけれども、結論としては、列挙主義とする方がより賢明ではないか、このように思いますが、この点はいかがでしょうか。
  135. 敷田稔

    ○敷田説明員 列挙主義と包括主義の得喪につきましては、先生の仰せのような点もございますが、一応列挙された犯罪において、ほぼ現在網羅しているのではないか。包括主義を用いましたのは、大きな目的は、将来新しいいろいろな犯罪が起こりました場合に、仮に列挙主義にしておきますと、その段階において再びまたアメリカ条約の改定について交渉しなければならない。将来起こり得べきことも予想いたしまして、このような包括主義をとったわけでございます。この包括主義国民自体にとりましては、すでにその国その国によって、各法律において国民に明示されている法律に違反する事項でございますので、先生御心配なような事項は特段には起きないのではないか、このように理解いたしております。
  136. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 そうしますと、たとえばですけれども、いわゆるスパイ罪ですね。スパイを行った罪、これは付表の中には見当たらないと私は思うのですが、それでは、こういった犯罪引き渡し対象とならないと解していいのか。あるいは、包括主義でございますからということで、あわててそれを含むのか、この点はいかがでしょう。     〔毛利委員長代理退席、委員長着席〕
  137. 敷田稔

    ○敷田説明員 一般的、抽象的に申しますと、包括主義の制度下では、相互にそのような犯罪を処罰いたしております場合には、引き渡し犯罪になるわけでございますが、ただいまのスパイの件につきましては、日本国におきましては、これを処罰する相当の規定がございませんので、その相互罰性を満たさないという意味におきまして、引き渡し犯罪にはならない、このように考えております。
  138. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 スパイ罪、私はそんな言い方をしたわけですけれども、何かほかの名称か何か、適当なる名称が考えられるのですか。
  139. 敷田稔

    ○敷田説明員 先生の仰せでございますが、差し迫ってはちょっと思いつかない次第でございますが……。
  140. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 余り深く追い詰める気はないのですけれども、先ほどこういった罪に対する適用すべき法ですね、それがいまのところわが国としては余り整っていないんだというニュアンスの御答弁があったわけですけれども、それと含めて、こういった罪というものが全く将来出っこないんだということはあり得ないと思いますので、この名称というものもやはり当然考えられていかなければならない問題だと思いますが、今後どのようにこういったことについて対処されようとなさるのか、この点はいかがですか、今後の問題。
  141. 敷田稔

    ○敷田説明員 一般的につきましては、今後新しい犯罪の構成要件をつくりました場合におきましては、包括主義によりますと、条約を改定することなくそれが適用できまして、双方に引き渡しができるということでございますが、ただ、日本国一国だけ、あるいはアメリカ国一国だけが新しいものをつくりまして、双方に可罰性がないという場合には、やはり引き渡し対象にはならないということでございます。
  142. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 私は、たとえばの例でいま申し上げてきたわけでございますので、こういったケースも十分考えられるのだということを踏まえて、今後とも検討をいただきたい、こう思います。  次に、確認のためにちょっとお聞きしておきますが、先ほどもちょっと脱走兵の問題についてやりとりがあったようですけれども米国本土もしくは第三国に駐留する米国軍人の脱走兵が日本に脱走をしてきた場合、これはどうでしょうか、引き渡し対象となるのかどうか。
  143. 村田良平

    村田政府委員 このような脱走兵は、地位協定の九条三項の要件を満たしておらないと考えられますので、地位協定対象にならないということは、先ほども答弁をいたしたところでございます。したがいまして、犯罪人引渡し条約との関係におきましては、その人間の犯した犯罪がこの日米引渡し条約上の要件を満たす場合には、これは引渡し条約対象となるということでございます。要件といたしましては、たとえばそのアメリカ軍人の犯した犯罪、この場合には脱走罪ということになりますが、それが日本国の法令によっても、たとえば自衛隊法がそれに当たるわけですけれども、可罰性があるかどうか、これが相互罰性の問題でございます。それから証拠が十分あるか、あるいはアメリカにおきまして逮捕状その他、この条約が決めておる手続がとられておるか。それからその本人の動機等、場合によりましては政治犯罪の問題も出てくる可能性は全くないとは言い切れない。通常はないとは思いまするけれども、そういった点を十分検討いたしまして、引き渡すべきであるという結論になれば、これを引き渡すということでございます。
  144. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 私が御質問した内容としては、したがって、脱走そのものの罪に対してどうかと伺って、いまの御答弁をいただいたわけです。だからもう少し具体的に言いますと、今度は脱走兵が米国内もしくは第三国において、付表にあるこの犯罪を犯して日本に脱走してきた場合、いまいろいろ御答弁がありましたけれども、これは犯罪そのものと脱走と両方になるわけですけれども、これは引き渡し対象となるんだというふうに、今度の場合、解していいわけですね。
  145. 村田良平

    村田政府委員 その場合は、当然引き渡し対象になると考えられます。
  146. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 そうである場合に、交換公文との関係というものは一体どうなるのだろうか。交換公文は、日本における米軍人の犯罪と解するわけですけれども交換公文そのものが、実体的に政府として、このたびの条約に関してどういう効果を考慮したのか。交換公文がなくても、アメリカ軍人の日本における犯罪は地位協定でカバーできるということになっているわけですから、それにもかかわらず、この条約に関して、地位協定交換公文で確認した理由、この点はどうなんでしょうか。
  147. 村田良平

    村田政府委員 地位協定第十七条五項(a)という規定がございますが、これによりまして、日米間に相互援助の権利義務が定められておるわけでございます。具体的には、たとえば在日米軍人が合衆国法のみによって罰し得る罪、これは米側が専属的裁判権を有する場合でございますが、あるいは公務執行中の作為または不作為から生ずる罪、これは米側が第一次の裁判権を有する場合、こういうケースでございまして、アメリカの法制上、国外犯に該当するという罪を犯して日本の国内に逃亡しているという場合が現にあり得るわけでございます。現行日米条約では、国外犯に関する規定がございませんから、要するにアメリカの領域内で犯した犯罪に関してのみ、米側日本に請求をしてくる、こういう仕組みになっておったわけでございますので、地位協定とどちらがどう競合するかという問題は現実に起こり得なかったわけでございます。ところが、今度は国外犯の規定を置きましたので、いまのようなケースでございますと、地位協定上の引き渡しを行うべきなのか、あるいは別途犯罪人引渡し条約に基づく請求も行える、つまり国外犯の規定に基づいて行える、そうすると、どちらを適用すべきかという点が必ずしも明らかでない。  そこで、従来から米軍が日本に駐留しておるという特定事情に着目いたしまして締結しておりますのが地位協定でございますので、やはり在日米軍に関しましては従前どおり引き続いて地位協定を適用することが適当である。したがいまして、その点を明確にするということをこの交換公文において規定した、こういうことでございます。
  148. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 それでは第二条二項のところですが、「その者が死刑の言渡しを受けているとき又は服すべき残りの刑が少なくとも四箇月あるときに限り、引渡しを行う。」このことについて、四ヵ月とした理由ですね、これを御説明をいただきたいと思います。
  149. 村田良平

    村田政府委員 犯罪人引き渡します場合にはやはり相当の手続がかかるわけでございまして、そういった手続とのバランスを考えますと、残りの期間が非常に短いという場合には必ずしも引き渡すことは適当でなかろうということで、四ヵ月にしたというのは、いろいろな国の条約でもこういったケースは四ヵ月としておる例が多うございますので、そういう国際的な慣例と申しますか、通念に従ったということでございます。
  150. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 同じくこの第二条二項に関連して伺いますが、無期の刑の言い渡しを受けた者に対する規定がないわけですけれども、なぜ無期の刑を除外したのかという疑問が出てくるわけですが、その理由はどうでしょうか。
  151. 村田良平

    村田政府委員 この規定ぶりは「少なくとも四箇月あるとき」ということになっておりますので、残余の刑期が四ヵ月以上無期までをすべて含むという趣旨でございます。したがいまして、特に無期ということに言及する必要がないので規定をしなかった、かような次第でございます。
  152. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 第四条一項に政治犯の規定があるわけです。先ほどもいろいろと質疑応答があったようですけれども、高沢委員質問に対しての御答弁の中で、純粋なものと相対的なものということでお話がありましたけれども、政治犯は国内法の問題でもある、それから国際法上の問題でもあるわけで、国内法上の問題としての政治犯罪と国際法上の政治犯罪とはその性質が果たして同じであるかどうか、この点はいかがでしょうか。
  153. 村田良平

    村田政府委員 国内法上も政治犯罪という概念は使われておるわけでございまして、日本国憲法の中にも第八十二条にそのような言葉があるわけでございます。国際法上の政治犯罪という概念と国内法の概念というのはおおむね一致した概念であるというふうに考えられるところでございます。しかしながら、一方はあくまで国内法としての政治犯罪ということでございますし、他方は、相手国におきます犯罪が果たして政治犯罪とみなすべきものであるかどうかという観点から判断するという要素がございますので、おのずから両者は全く同じではなくて、ある程度の差異はむしろあるのではなかろうかというふうに思われます。
  154. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 したがって、日本国内では政治犯とみなされても米国ではそうでない場合があるかということ、それからまた、米国でも政治犯として日本に引き渡さないとかいうようなみなされ方もあるし、この辺はどうなんでしょうか。いま、両国によって少しは違うだろうということでお話しいただいていますが、日本国内では当然政治犯だと解しても、米側ではそうは見なかったとか、そのような例があればひとつ……。
  155. 村田良平

    村田政府委員 具体的にどのような犯罪わが国では政治犯罪とされ、米国ではされない、あるいはその逆ということはちょっと実例として私思いつかないわけでございます。しかし、そういうことはあり得るということで、まさに第一項の末段におきまして、疑いのある場合には被請求国の判断によるということですから、その規則に従いまして個別の請求に対しては対処するということになるわけでございます。
  156. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 そうしますと、政治判断について国際社会で普遍的、客観的に適用をされる基準、こういった物差しがあるのか、あるいは政治犯罪の判断というものは主観的あるいは政治判断的といいますか、政治判断そのものによって決められるものなのか、また、国家体制とかイデオロギーあるいは政治的な信条等によって、政治犯罪の基準というものは変わるものと理解してもいいのかどうか、この辺が問題になってくると思いますが、どうですか。普遍的、客観的に適用されるようなものがあるとはちょっと思えないような感じが私はいたします。それから、主観的あるいは政治判断的という方が非常に濃厚なような感じがするわけですが、この辺についてお答えをいただきたいと思います。
  157. 村田良平

    村田政府委員 大多数の犯罪人引渡し条約あるいは国内法におきましては、政治犯罪とはそもそも何ぞやという定義は一切置かれておらないわけでございまして、まさに先生指摘のとおり、これが政治犯罪の概念であるという決め手になるようなものはないわけでございます。もっとも、学説はいろいろございますし、また一部分の条約あるいは国内法におきましては若干の手がかりになるかと思われるような規定がないわけではございません。たとえば有名なものを二つ三つ拾って例として申し上げますと、いわゆるベルギー条項と呼ばれておるものがございます。これはベルギーの国内法でそのような定めがあるわけでございますが、元首、その家族、場合によっては政府要人の殺害あるいはその企図は、政治犯罪とみなさない。したがって、たとえば国王を殺すというふうな場合は、それが政治的な動機であっても政治犯罪ではないというふうにベルギーの国内法は規定しておりますし、またこの考え方を受け継いでおる国もかなりございます。それから西ドイツでございますが、一九二九年にドイツがつくりました犯罪人引渡し法がございまして、その第三条には、政治的行為とは、国の存立もしくは安全、元首もしくはこれに準ずる政府構成員憲法上の機関、選挙もしくは投票に関する公民権または外国との友好関係に対して、直接向けられる可罰的な攻撃である、こういう規定があるわけでございます。しかし、この西ドイツの国内法第三条二項を読んでみましても、これでもって具体的な案件を政治犯罪であると断定することはまた困難でございまして、その他の要素をいろいろ総合勘案しなければいけないというふうに思われます。
  158. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 そうしますと、国際法上一般に認識されるような政治犯罪というものは存在をしないと解釈せざるを得ない段階ですね。政府が政治犯罪について恣意的な解釈をしないために私はここで明確にしておきたいと思いますが、第四条の「政治犯罪」、これは日米間だけに共通する政治犯罪対象としているのかどうか、この点はいかがですか。
  159. 村田良平

    村田政府委員 日米間だけの政治犯罪と申しますよりは、ある事案に関しまして引き渡しの請求が行われるわけでございます。そこで、その引き渡しの請求にかかわります犯罪に関しまして、引き渡しを請求された方の国が当該犯罪をどう判断するかという問題でございますので、必ずしも日米両国に限ったとか、そういったたぐいの問題ではない。いずれにいたしましても請求する方の国の政治秩序を侵害する犯罪ということであろうかと思います。
  160. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 考え方としてはわからないわけではないわけですけれども、この政治犯罪ということについてはなかなか定義がむずかしいわけで、政府の確定解釈について統一見解といったものを提出いただくことができるかどうか、この点はどうでしょうか。
  161. 村田良平

    村田政府委員 やはり政治犯罪という概念そのものは非常に抽象的な表現で定義することはあるいは可能でございましても、現実の個々の事案に関してそれを当てはめるということは適当でございませんし、またこの政治犯罪人の不引き渡しということは非常に長い歴史の結果徐々にでき上がってきたものである。それから個別の判断におきましては、外交的な考慮というふうなものも入れて判断するというたぐいのものでございますので、統一見解的なものをつくることは不可能な問題であろうと存じます。
  162. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 政治犯罪という言葉の性質上ケース・バイ・ケースというふうな考え方にならざるを得ないかと思いますが、それではそれに関連をして次に伺います。  日米間というよりも、ここで一般論としてお聞きしておきたいと思いますが、いわゆる難民の定義ですね。これはどういうものか、あれば明示していただきたいと思います。
  163. 村田良平

    村田政府委員 難民という概念でございますが、歴史上のいろんな具体的な現象、事件を背景としまして論議されてきたものでございますので、一般国際法上これが難民の定義であるというものは必ずしも確立されておらないわけでございます。難民に関しましてはもちろん条約もございまして、それらの条約におきましては一定の定義が置かれておるということはございますけれども、それはあくまでその条約目的に照らして難民をこう定義するということでございまして、そもそも難民一般とは何ぞやというふうな定義はどこにもないわけでございます。  そこで具体的に難民というものをどう考えるかは、やはりその言葉が用いられますところの具体的な個々の場合に即して考えるということにならざるを得ないのではないかと思うわけでございます。一九五一年に採択されましたいわゆる難民条約、難民の地位に関する条約というものがございますが、この中にはたとえば「人種、宗教、国籍、特定の社会団体の構成員であること又は政治的意見を理由として迫害を受けることの十分に根拠のあるおそれのために国籍国の外にある者で、その国の保護を受けることができないか又は前記のおそれのためにその保護を受けることを望まないもの、」こういう規定がございまして、恐らくこういったものが一般的には難民という概念に当たるケースが多いかと思いますけれども、これはあくまでこの一九五一年条約目的に照らしてこのような概念規定をしたということにすぎませんので、あらゆる難民についてこの概念によって判断すべきだということも言えないわけでございます。
  164. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 私は難民という場合に二つの態様があるのではないかと思います。その一つは、いわゆる本国の政治体制あるいは政権による圧迫等の政治的理由による難民、いまの目的の中にも共通したものを感じます。第二番目としては、飢饉とか災害あるいは戦乱からの避難を目的とする難民、こういうこと。これは決して定義ではありませんけれども、私が感ずるには大きく分けてこういった二つの態様になってくるんじゃないか、このように思います。前者ですね、すなわち本国の政治体制、権力による圧迫云々と申し上げたわけですけれども、この政治難民はいわゆる政治犯の範疇に入るのかどうか、この辺はどうでしょうか。
  165. 村田良平

    村田政府委員 政治犯罪人とそれから政治難民と呼ばれる者とは概念としては異なるわけでございまして、政治犯罪人と申します場合にはあくまで犯罪人引き渡しとの関連で考えられておる概念でございます。したがいまして、ある国において政治犯罪を犯しましてすでに刑に服しておる者あるいは有罪判決を受けた者あるいは訴追の対象になっておるような者でその国から他国に逃れ出た者、そうしてその犯罪が行われた国から引き渡しの請求がある者、これが政治犯罪人でございます。したがって手続的な要件というものもその前提としてあるわけでございます。他方政治難民と普通呼ばれております者は、犯罪を犯したかどうかということにはかかわりなく、何らかの政治的な理由でその国におると政治的に迫害されるというおそれから外国に行ったという者でございます。したがって、概念としては違うわけでございますが、実際には政治難民であってかつ政治犯罪人として引き渡しを請求される者というケースは十分あり得るわけでございます。
  166. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 こういった難民を当該政府から引き渡しの請求があった場合、いまの最後のところの御答弁に関連もするわけですけれども日本政府としてはどのように対処をするのか。ですから、いわゆる純粋な難民というものプラス向こうで何か罪を犯したというような場合ももちろん考えられると思いますが、ベトナム戦争末期に多数の難民が海外に流れたということ、この場合の難民は政治的難民じゃなくて当然戦乱による難民ではないか、こういうように思いますが、もしこれらの中に当時の政府高官とかあるいは有力な政治家、そういう人たちもまじっていたとして、本国政府からこれらの者の引き渡しを請求された場合、これに対して政府はどのように対処なさるか、これはどうでしょうか。この立場から聞いてみたいと思います。
  167. 敷田稔

    ○敷田説明員 お答え申し上げます。  いまの場合、およそ適用すべき国内法規は、仮にそれが米国以外の国であるとしました場合には現行逃亡犯罪人引渡法でございますが、その第四条の三号に「引渡しの請求が引渡条約に基づかないで行なわれたものである場合において、逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認めるとき。」こういう規定があるわけでございます。この規定の存在意義を十分に考えまして、仮にそのような難民をその国に送り返しましたときにどのような迫害を受けるおそれがあるのかということも考えまして、それをも考慮し、かつまた犯した犯罪の性質その他を考えまして、それらを総合いたしまして、相当であるか相当でないかということをよく判断をして最終的に決めることになろうか、このように思います。  仮にそれが政治的な関連性のある犯罪であるとしました場合におきましては、さらにまた現行犯罪人引渡法の第二条に「引渡犯罪が政治犯罪であるとき。」とかあるいは「引渡の請求が、逃亡犯罪人の犯した政治犯罪について審判し、又は刑罰を執行する目的でなされたものと認められるとき。」こういう二つの規定がございまして、この二つに該当すると認められる場合には引き渡してはならない、こういう規定になっておりますので、これらの規定を総合いたしましてしかるべき適切な判断に至るもの、このように考えております。
  168. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 難民に関してさらに伺いたいと思いますが、これもまた委員会等ですでに論議の出たところかもしれませんが、先日の予算委員会において、政府は、韓国における戦乱の際に韓国人難民を救済する目的で海上保安庁の船舶ばかりではなくて自衛艦を派遣することもあり得るということを言明したわけですけれども、これは政府の確定した見解であるのかどうか、この点をお答えをいただきたいと思います。
  169. 三宅和助

    ○三宅政府委員 朝鮮半島における有事の際の韓国の難民につきましては、実は私たちといたしましては、このような不幸な事態がまず起きないことを希望しておるわけでございます。現在のこの事態から見まして、米中ソの力関係、その意図から見まして、このような大規模な戦争が起きるということの可能性が非常に少ない。仮に万が一そういうような事態が起きました場合には、諸般の事情考えましてケース・バイ・ケースで考えていきたい、こういう一般的な態度を持っておりますが、先生いま御指摘の点の国際法上の問題でございますが、これは非常に限られた仮定的な事態、すなわち、たとえば自衛艦が韓国の領海のすぐ近く、これは公海でございますが、そのあたりにいた。そこに、韓国の領海の中で難民がぷかぷか浮いているというような事態につきましては、これは国際法上の問題と人道上の問題を兼ね合わせて、人道的な見地からある程度救済はやむを得ないんではないか、その場合、国際法上の責任の追求は免れるだろう、こういうようなことで、きわめて限られた事態で申し上げたことでございます。したがいまして、一般論といたしまして、領海の中に積極的に自衛艦が難民救済に行くとかあるいはそのようなことを目的にして派遣するというようなことを申し上げたわけではないのでございます。また、憲法、それから自衛隊法とのいろいろな問題点があるということは常々大臣、それからアジア局長の方から指摘してございます。
  170. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 御答弁の中にありました人道的な問題を私どもも否定するものでは全くないわけですけれども、いまの御答弁というものをここでは信じて、次の問いに移ってみたいと思います。  政府が難民を救済するということは、難民を受け入れるというふうに解釈をしていいかという問題が一つですね。もし、そうなら、日本がこれを日本国内に収容するという政策の転換というものがなされるのかどうか。それから、韓国に限らず、政府の政策として一般論的にすべての地域からの難民をも受け入れることになると解していいか。それとも韓国のみの難民を対象としているのか。先ほどの御答弁にあった、途中で災難に遭ってそして連れ戻した形を想定して、この辺、四点についてまとめてお伺いしておきたいと思います。
  171. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 難民の受け入れの問題でございますが、これはたとえば法務省というような一つの役所限りの判断あるいは意思決定でもって決めることのできない、申しますならば、政府全体として態度を決めるべき問題であろうと存じます。さしあたりとにもかくにも、現実に難民と思われる者が保護を求めてわが国に到来してきたという場合に、いわゆる人道上の見地から、本当にその者の申し立てる迫害のおそれが根拠のあるものであるのかどうかということがまず第一の問題でございまして、根拠があると認められます場合に、人道的な見地から少なくとも迫害の待っている国へは送り返さないということ、さらに本人の人権の保護という見地と、当該人物の入国を認めることが日本の国の利益つまり国益とうまく調和するであろうかどうかという点と、双方の角度から総合的に判断をいたしまして決定をする、こういう仕組み、こういう運用を現にやってまいっておるわけでございます。なお、先ほど来仮定のケースといたしまして、朝鮮半島に一朝、事が起こった、そして大量の難民が発生して、それがたとえば海中で助けを求めておるというような場合のことでございますが、これはどうも私ども法務省の手の届かないところで起こる現象でございますので、冒頭に申し上げましたような私どもの基本的な姿勢をお答えいたしまして答弁にかえさせていただきたい、かように存じます。
  172. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 そうすると、韓国のみの難民を対象ということでなしに、すべての地域からの難民をも受け入れるという考え方でいいわけですね。
  173. 藤岡晋

    ○藤岡説明員 発生した難民が韓国におけるものであるのか、そのほかのいずれの国におけるものであるのか、その点につきましては差別をすべきでない、かように考えております。しかしそれを終局的に受け入れるのか受け入れないのかという点につきましては、先ほど来申し上げておりますように、政府全体として慎重に方針を樹立すべきものであろう。応急措置といたしましては、法務省の所管に関しましては、先ほど来申しましたように、迫害の待っている国へは送り返さないという線を貫いてまいる、こういうことでございます。
  174. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 お約束の時間が来てしまったようですので、まだこの条約審議について私も若干残すところがあるものですから、あと一問だけお聞きするとして、留保した形で私の質問をきょうのところは終えたいと思います。  その最後の質問というのは、こういったいまの問題に関連して明らかにしておきたいんですが、政府は、いわゆる政治亡命者を政治犯として保護をして、引き渡しの要求があったとしてもこれを拒否するのかどうか。政治亡命者即政治犯というふうな考え方を持たれるか。政治犯か否かを判断する政府機関は果たしてどこなのか、行政機関か司法機関か、この辺について、きょうのところは私はこの質問を最後として留保をした上で終えたい、このように思います。
  175. 敷田稔

    ○敷田説明員 政治犯罪人に当たるか当たらないかということは、個々具体的事例によってそれぞれ研究すべきことでございますが、仮に政治犯罪人であるという判断に達しますと、これは法務省が、ほかの場合によりましても、主として外務省でございますが、その他と協議いたしまして、最終的な判断に達しました場合は、政治犯罪人であるという判断に立ちます限り決して引き渡しすることはないということでございます。
  176. 中川嘉美

    中川(嘉)委員 きょうのところは以上で終わりたいと思います。
  177. 永田亮一

    永田委員長 ちょっと速記をとめて待っててください。     〔速記中止〕
  178. 永田亮一

    永田委員長 速記を始めて。  本日は、これにて散会いたします。     午後五時二分散会      ————◇—————