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正宗参考人 正宗でございます。
造船業の当面の
不況問題につきまして、金融経験者の
立場から
一言意見を述べさせていただきたく存じます。
わが国の
造船業界が直面しております
不況の実態や今後の見通しにつきましては、すでにそれぞれ業界の方々等よりお話がございましたようですし、私も大体は同じように見ておりますので、その点につきまして詳しく申し上げることは避けさせていただきたいと思います。
ただ、お話の皮切りとして、私の
立場から
造船業に対する認識といったようなことを初めに申し述べさせていただくこととしたいと存じます。
皆様御高承のとおり、
わが国の
造船業は、
日本の経済及び
海運業の
発展とともに
成長をいたしまして、
昭和三十一年には
世界第一の
造船国となり、
わが国の重要な輸出産業の
一つとして大きな役割りを担ってきたわけでございます。しかしながら、
オイルショック以後、
造船業は
世界的に極端な
需要不振に陥りまして、
わが国の
造船会社でも、五十年度以降
操業度は急速に低下いたしました。五十二年度にはついに最盛時の四十九年度に比べて約四〇%も落ち込んだ
操業状態を余儀なくされているのでございます。
こうした
状況のもとにおきまして、現在までにすでに経営的に破綻を来してしまった企業もございますわけで、今後のことも考えますと、いまや
わが国の
造船業界全体が容易ならざる事態に立ち至っているわけでございます。
このような事態へと急速に転落いたしました
原因を考えてみますと、突き詰めれば
オイルショック前の
昭和四十七年から四十八年にかけての国際的な
タンカー建造
需要の盛り上がりと、それに対応した
造船設備の大幅な拡充にあると申し上げてもよろしいと存じます。そのころの
タンカーの
発注量は、当時の
世界全体の
タンカーの
船腹量にほぼ匹敵するほどの膨大なものでございました。こうした
タンカーの大量
発注の直後、不幸にして
オイルショックが発生し、現在の
タンカー及び貨物船の
世界的な過剰
状態につながったわけでございます。そして、このような
船腹過剰の
状態は、少なくとも今後数年間は続くものと考えられますし、その間
わが国の
造船業も、これまでの受注残を食いつぶしていくというわけでございますから、事態はさらに一段と深刻になり、これから数年間は、過去の最盛期の三分の一から四分の一
程度の仕事量しかないという極端な
不況を耐え忍んでいかなければならない
状況が続くのではないかと考えております。
このような深刻な
状態は、他の産業では余り例を見ないものでございます。現在、
造船業のほかにも、いわゆる構造
不況業種と言われる産業があることは御高承のとおりでございますが、これらの産業には個々それぞれの
事情はございましょうが、その苦境の
原因は、突き詰めれば
設備の過剰または
国際競争力の低下あるいはそれら二つの要因の組み合わせということになるかと思います。
造船業の直面している
不況も、
程度の差はありますにしても、これらの
原因によるわけでございます。ただ、
造船の場合には、供給
能力に対する
需要不足が他の産業と比較して極端に大きいこと、しかも、
わが国の
造船業の場合には、すでに
国内需要はもちろんのこと、
世界の市場をもみずからの基礎的な存立基盤として組み込んでしまっておりまして、そのような
状況下で
世界的な
需給のアン
バランスに直面したという点が現在の厳しさを倍化させておるものと考えます。他の産業の場合には、ある
程度の
設備の休廃止を行い、かつ
国内の
景気刺激を行うことによる
内需の増加によりまして
需給の
バランスの
回復が相当
程度期待されるものが多いのであります。また
内需の増加と
関連各業界も含めた構造改善策との組み合わせであるとか、海外立地の促進などの工夫によりまして、企業としての将来性を期待できるものがあると存じますが、これに対し
造船業の場合には、かなりの数の企業が私企業として存立し得なくなるような絶対的な
需要不足が
世界的規模でこれほど急速に起こったということは、他の産業ではなかなか考えにくいことでございます。この点が
造船業を他の
不況産業と比較した場合の最も大きな違いではないかと考えております。
このような苦しい
状況の中で、
造船業界の方々を中心にいろいろな対応策をすでにお考えのことと存じます。そこで、業界全体としての
対策を皆で考える場合の前提といたしまして、金融機関の目に映った
わが国造船業界の特色といったようなことをここで再確認しておくことも意義のないことではないと思われますので、二点だけ挙げさせていただきたいと存じます。
その
一つは、
造船業は御
承知のとおり、いわゆる労働集約型の産業でありまして、しかも
関連産業も含めますと、全国で約三十一万人もの人々が従事している、すそ野の広い業界であるという点でございます。
第二は、いわゆる業界構造が非常に複雑な面を持っているという点でございまして、
設備の規模を見ましても、一社で超大型ドックから中小型の船台までを全国的な広がりで持っているという大規模企業から、中小型船台を一基ないし二基しか持たない小さい企業までいろいろございますし、また、その業態を見ましても、大手企業のごとくむしろ総合重機械メーカーであって
造船業はその一部分にすぎない企業から、
造船専業とも言える企業までバラエティーがありまして、収益力や内部蓄積の大きさ等にも大きな格差があるように見受けます。
企業の数では中小型船台を一基ないし二基しか持たない
造船専業者が圧倒的な割合となるのでありますが、このような中小
造船は大手企業との結びつきも全体的に見ればさほど強いとも思われず、独立色の濃い企業が大多数を占めているように見受けられます。
したがいまして、これらの点を要約いたしますと、この業界の特色は、むしろ中小
造船を中心とする労働集約型、地域密着型の産業というふうに規定できるのではないかと思うのでございます。
このような
造船業界の特色からしまして、今後、業界全体としていろいろな
対策を考えていく場合にも、他の産業に比べまして事柄をむずかしくする、あるいは
影響するところが大きいという面が出てくるわけでございます。
造船業と金融機関との取引関係につきまして、従来は無論、直接
造船業との接触、取引がございますが、それと並行してというか、あるいは通常それ以上の
比重を持って、銀行は
造船所への金融を円滑にするためには、
造船発注主、
船主側への融資を大いに進めて、
造船所へは代金回収等の円滑な期待をするということを応援するのが
一つの通常の形として考えられてまいっております。無論、直接
造船所との取引もあるわけではございますが、それは必ずしも一律に一定してという形を持っておりません。金融機関の取引先との接触は業界に対して一律一体ということはまず考えにくいのでありまして、一般的に申しましても、金融機関は取引先に対してはその金融判断をなかなか画一的にはしてまいっておりません。特にこの
造船業界の場合に、先ほど申しましたような特性からいたしますと、金融機関と
造船所との接触は、
船主への融資というようなことを通じての円滑を期待するとともに、個々の
造船所との間の接触、取引というものは、画一的ではなくて非常に個々別々というふうに申し上げてよろしいかと思うのであります。
すでに四年にわたる
景気停滞の中で、金融機関といたしましても、社会的な摩擦を最小限に食いとめるためにいろいろな努力を重ねてまいっておりますが、一方においては民間機関としての制約といったものがございますわけで、その辺の兼ね合いがなかなかむずかしいわけでございます。
そこで最後に、民間金融機関の一員としての
意見、要望のようなものを申し述べさせていただきたいと思います。
まず第一に、絶対的な
需要不足の
状況に対応するためには、
わが国の
造船能力全体としては、これを大幅に削減して適正な
能力規模にすることがやはり必要不可欠ではなかろうかと存じます。しかも
現状で判断いたしましても、それはかなり大がかりな構造改善ということにもなりましょう。
どのような
方法で改善していくか、まだ
造船業界としてのお考えも明らかにはなっておりませんけれども、いずれにしても業界全体の、あるいは個々の企業の信用力が結果として高まるようにしていただきませんと、金融を円滑にするということにはつながらないと思うのであります。
そこで、その構造改善を円滑に行えるように事業転換などの面で従来以上に国の側面的な御援助をお願いいたしたいと思うのであります。
現在御審議中の
特定不況産業安定臨時措置法案が構造改善に向かっての業界全体の動きの引き金になるということが期待されるわけでございまして、その点評価できるものと考えておるわけでございます。
第二番目には、業界の自主努力によります構造改善がある
程度のめどがつきましても、深刻な仕事量不足は早急に解消するとも思えませんので、なお積極的に仕事量を追加するような何らかの方策が必要かと存じます。
現在すでに業界の方々より、官公庁船の建造促進やスクラップ・アンド・ビルド方式による
国内船建造体制の導入等を要望されておられるようでございますが、そのほか
造船所の集中している地域への公共事業の傾斜的な配分等をも含めまして
造船所の仕事に結びつくような事業は、
事情の許される限り前倒しで促進されることを期待いたしておるわけでございます。金融機関といたしましても、そもそも仕事がない
造船所に対しましては、経営再建への確信が持ちにくいわけでございますので、この辺の見通しが最も重要と考えるわけでございます。
最後に、担保力の問題でございます。
特に中小
造船専業について一般論的に申しますと、
造船業の
設備そのものが他に転用のききにくい船台、ドックが中心でございまして、しかも、その立地が概してよくないことと、加えまして、内部蓄積が比較的少ない企業が多いことなどが重なりますと、担保力に問題が生ずる
可能性が強いわけでございます。このことが、企業が身を縮めていく際の金融面での障害になることを危惧いたしております。
したがいまして、国の力によりましてその点をカバーするような何らかの信用補完
措置が必要となってくるのではないかと思うのであります。もちろん、現在御審議中の
特定不況産業安定臨時措置法案による特定
不況産業信用基金は、この問題のある
程度の解決にはなりましょうが、その運用に当たりましては、
造船業については格別の御配慮も必要になるのではないかと存じております。
以上、三点にしぼって当局への期待を述べさせていただきましたが、いずれにいたしましても、これからの苦しい環境に対応して
造船業が信用力を維持していくためには、国の力による相当の手助けが必要であろうと考えます。
この点に
関連いたしまして、これまで二十年間にわたり西欧の
造船諸国、
イギリスを含めフランス、ドイツの各国で、
日本の
造船業の躍進を初めとする厳しい環境に対しいかに適応してきたか、その過程でそれぞれの国の政府がどのように力をかしてきたかということも、国情の違いはございますものの、何か他山の石ともなるものがあるのではないかと存ずる次第でございます。
以上、金融経験者の一人として感想を述べさせていただいた次第でございます。
終わります。