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1977-11-17 第82回国会 参議院 法務委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十二年十一月十七日(木曜日)    午前十時九分開会     —————————————    委員異動  十一月十六日     辞任         補欠選任      神谷信之助君     宮本 顕治君  十一月十七日     辞任         補欠選任      安永 英雄君     案納  勝君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         中尾 辰義君     理 事                 大石 武一君                 八木 一郎君                 寺田 熊雄君                 中野  明君     委 員                 河本嘉久蔵君                 高橋 誉冨君                 山本 富雄君                 橋本  敦君                 宮本 顕治君                 円山 雅也君    委員以外の議員        議     員  和田 春生君    国務大臣        法 務 大 臣  瀬戸山三男君    政府委員        法務大臣官房長  前田  宏君        法務省刑事局長  伊藤 榮樹君        法務省入国管理        局長       吉田 長雄君        外務省中近東ア        フリカ局長    加賀美秀夫君    事務局側        常任委員会専門        員        奥村 俊光君    説明員        内閣審議官    篠浦  光君        警察庁警備局公        安第三課長    福井 与明君        外務大臣官房領        事移住部長    賀陽 治憲君        外務省国際連合        局外務参事官   小林 俊二君        運輸省航空局監        理部長      永井  浩君    参考人        日本航空株式会        社常務取締役   手塚 良成君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○参考人出席要求に関する件 ○航空機強取等防止対策を強化するための関係法  律の一部を改正する法律案内閣提出、衆議院  送付) ○連合審査に関する件     —————————————
  2. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  委員異動について御報告をいたします。  昨十六日、神谷信之助君が委員辞任され、その補欠として宮本顕治君が選任されました。     —————————————
  3. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  航空機強取等防止対策を強化するための関係法律の一部を改正する法律案審査のため、本日、参考人として日本航空株式会社常務取締役手塚良成君の出席を求めることに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     —————————————
  5. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 航空機強取等防止対策を強化するための関係法律の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  6. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法務大臣お尋ねをいたします。  法務大臣は今回のハイジャック事件のとき前法務大臣の後をお引き受けになりまして御就任になったわけですが、その際おっしゃったお言葉の中に、この種事件処理に関連して多少の出血をいとわない場合もあり得るというような御趣旨ですか、御発言になったようであります。この問題に関しましては従来しばしば質問がございまして、大臣の御説明も承っておったのですが、まだ多少のみ込めない面もありますので、この際もう一度よくわかりやすくお考えになったところを御説明いただきたいと思います。
  7. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) いまのお尋ねでございますが、法務大臣に急遽就任することになりまして、就任直後の記者会見の際、先般の日航ハイジャック事件処理についてでございますが、政府がとりましたあの処理そのものについては、御承知のような百数十名の乗客乗務員がハイジャッカーによって生命の危険を侵されるという状況の中での処理であり、政府としては非常な苦慮と申しますか、いわゆる断腸思いで一部裁判確定重罪犯人また起訴未決勾留中の重罪犯人犯人要求に従って解放する事態になった。そういう処置をいたしまして、いわゆる超実定法的措置、全体の法律理論の範囲ではあるが、断腸思いでかような措置をとった、こういうことになっておるわけでありますが、あの事態の中では残念ながら万やむを得ない措置である、かように私も了解いたしておるわけでございます。しかし、その処理の中には、いまも申し上げましたように、憲法のもとにおける刑法刑事訴訟法あるいは裁判、こういうもので合法的に処置されたものが、結果的にはあるいは無にされ、あるいは無にされようとしておる。これは非常な事態であると私は考えます。でありますから、こういうことが繰り返されるということにもしなれば、いわゆる法治国家としては意味をなさなくなる。憲法を定め、憲法国民の人権を定め、そしてそれを着実によくやっていくために立法、司法、行政のそれぞれの方策を定めておる。そのもとでその原則を生かすために御承知のとおり各般法律規則が定められている。それによって国民全体の平和と安全また自由を確保して生活を守っていく、これが憲法下における私は法治国家の形態であろうと思っておるわけでございます。それが暴力犯罪によって一部でもだんだんに壊されていく、こういうことはとうてい法治国家として認めるわけにいかない。万やむを得ない措置でありますけれども、かようなことが繰り返されると、国民全体の平和と安全と自由を確保するという法治国が崩されてくる、法治国制度実体がなくなる、これでは私はならないと思うわけでございます。ああいう事態の場合にあらゆる手段を講じ、国民の世論の動向等も勘案して最後の決断を下すわけでございますが、一番大切なことはいわゆる憲法が指向しておる国の経営自体を守るということが大原則であると考えております。でありますから、可能な限りの手断を講じて人命を救うことが前提でございますけれども、時と場合によってはそれができない場合もあるかもしれない。そうしないと法治国家実体を守り抜くことができない、そういうことが想定されないとは考えられない。でありますから、時と場合によっては一部血を流すことがあってもやはり法治国家を守るだけの決意をもって臨まなければならない、こういう趣旨で申し上げておるわけであります。いまもってその考えは変わっておりません。
  8. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは官にあると野にあるとを問わず、日本国民が皆悩んだ問題であります。また今後もこうした事案が起きれば、同じように国民が全部そうした悩みを分かつ事柄ですから、そのときにどう対処するかという点については、これは一時の怒り、そういうもので処置し切れない面があります。もともと相異なる価値観が、あるいは相異なる価値がぶつかり合うわけですから、いずれの価値重しとするかということによって決しなければいけない。これはもう日本だけではございません。どこの国でもやはり——この間もアメリカで、ニューヨークタイムズを見てみますと、ヘルムズ元CIA長官処置に関して、国家安全保障が大切か、それとも法至上主義と言いますか、ザ・ルール・オブ・ローの方が大切かという問題だということでアメリカ国民がやっぱり悩んだということが記載されておりましたけれども、この問題でも一体どういう価値を最も重しとするかという何かはっきりとした基準といいますか、心構えといいますか、そういうものをやはり決めていただかないと、場合によっては血を流すこともあると。それは最初法務大臣の御説明によりますと、繰り返されることによって法秩序が台なしになる、それでは困るという御発言もございました。ところが、その後一番後になりますと、時と場合によってはという御発言もあったわけです。何かこう一定の基準なしに漠然と血を流す場合もあるということなのですね。それでは国民は迷うわけです。これはやはり法務大臣は、こういう事件に対処される場合に最も重きをなすお役についていらっしゃるわけですから、はっきりとした私は基準を何か決めていただきたい。それはないだろうか。いま法務大臣のお考えの中にそういう基準はないというお考えなのか。基準を見出すべくこれからも一生懸命に努力してみようとおっしゃるのか。もし全然おありにならなければ、私の方もはっきりとしたものではないのですが、多少の考えを申し上げてみたいと思いますが、その点いかがでしょう。
  9. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) こういう際に、いわゆる人命の保護かあるいは法治国家の維持かというふうによく言われるわけでございますが、私はこれは必ずしも二者択一だとは考えておらないわけでございます。このようでありますが、先ほども申し上げましたように、憲法で諸原則を決め、それに基づく各般法律規則を定めて、いわゆる国民生活の安定を図る、国の平和と安全と自由を守って国民生活の安定を図る、これが私は憲法及び憲法下における法律制度のねらいであろうと思います。でありますから、これがそういう諸制度をつくっておるというのは、まさに国家人間が形成しておるわけでございますから、大前提になるのは人命を尊重するということであろうと思います。しかし、人命を尊重するということでありますから、こういう場合の事案関係する人命を可能な限りあらゆる手段を講じて救うといいますか、人命を損しないことにするのは、これはもう最大の努力をしなけりゃならない。なりませんが、御承知のように事案はいろいろありますから、特に今度の場合のように、わが国で直接簡単に手が及ばない犯罪が今日行われる可能性が相当あるわけでございます。そういう際に憲法及び法律制度を破ってなおかつそれにこだわるということになりますと、憲法及び法律制度は無に帰するという結論になるわけでありますから、私は、それはとってはならないということでございます。  基準ということを仰せられますが、あえて基準を申し上げると、絶対に法治国基本を破るという決断は下してはならない。これはそのときによって非常に状況が違うと思いますから、時と場合によっては、その法治国家の本当の大目的を崩さない、これによってそのときの状況によって決断をしなきゃならない、こういうことを私は申し上げておるわけでございます。でありますから、これは皆さんの意見等ももちろんできれば承りたい、かように考えておるわけでございます。
  10. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法務大臣の御答弁では、そういう場合に対処する基準というものを設定するのは必ずしも得策でないという御趣旨のように承りましたが、人命という大切な価値と、いま法務大臣がおっしゃった法治国家の大目的という、そういう価値とがぶつかり合う場合があると思うのですが、それが法務大臣の御答弁では、繰り返されることによって法治国家の大目的が崩されるのか、それとも時と場合によって崩される場合があるというのか、論旨が必ずしも一貫しないように思いますね。私は、やはり犯人要求国家として受諾しがたいものかどうか、たとえば今度の場合は、未決既決囚人若干名の釈放要求だったわけですが、よく例示されるように日本刑務所に在監中の全囚人釈放しろというような要求であるとか、あるいはかわり人命を失わしめるような要求、たとえば全く無事なかわり人間を自分の方に差し出せというような要求、そうした国家的に受け入れがたい要求をした場合以外は、やはり人命という価値を優先さしてほしい、人命尊重を優先さしてほしいと。したがって、犯人要求するそのものによって失われる価値と、それからいま危殆に瀕している人命と、そのいずれが重いかという点をはかりにかけて決してほしいと、私はこういうふうに思います。まあ、きわめて単純な理論なんですが、それ以外に決断をする基準というものはないように思いますが、法務大臣いかがでしょうか。
  11. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 個々の具体的なケースではいろいろあると思いますが、私はあえて基準というお尋ねでございますから、言葉は違うかもしれませんが、いま寺田委員のおっしゃるようなこととそう違いないのじゃないかと思います。私はあえて時と場合によっては血を流してもやむを得ない場合があると言いますのは、乗客乗務員、これらハイジャックに遭っておる人々人命最初からないがしろにするという考え方ではございません。先ほども申し上げましたようにあらゆる手段を講じて人命を確保する、これは当然な前提でありますが、それでもなおかつそのために国家の権威といいましょうか、あるいはまた他の人命といいましょうか、国民全体から申し上げて、やはりそれを維持しなければならない、こういう場合には、万策尽きて時と場合によっては血を流してもその原則を守らなきゃならない、こういうことだと考えております。それをあえて基準だとおっしゃいますから、国民全体の生命、財産、安全を守るという法治国家の大原則だけは守らなけりゃならない、かように申し上げておるわけでございまして、いま個々の場合をお話しになりましたが、そういう原則に従って私は個々の場合の判断をすべきであろうと、かように考えておるわけでございます。
  12. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 私の考えもまだ十分熟したものではありませんし、この程度にとどめたいと思いますが、ただ法治国家の大原則という法務大臣の御発言が、非常に抽象的でございますし、どういう場合に法治国家の大原則が崩れるのか、今度の超実定法的な処置によって法治国家の大原則が崩れたとするのか、まだこの程度なら崩れたとは言いがたいとするのか、私どもは言いがたいとして、今回の措置政府がおとりになり、法務大臣もそれを是認なさったのだと思うのです。だから、それが繰り返されたら法治国家の大原則が崩れていくのか、それともそうでなくて、その個々要求自体社会通念上あるいは国家目的からして受け入れがたいという過大な要求であればいけないというのか、その辺お互いにひとつまた考え直していきたいと思います。どうぞ主管大臣である法務大臣におかれても、その点十分これからもお考えをいただきたいと思います。  それから今回の事件で、検事総長なり最高検次長検事が、既決未決人々釈放に反対したということが伝えられております。これは事実なのでしょうね。まずそれから承っておきたいと思います。
  13. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 検事総長からこの難件について意見が出ておるわけでございますが、御承知のとおり私はその当時は局外でございましたから、正確を期する意味において、刑事局長からお答えさせていただきます。
  14. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 日航ハイジャック事件が発生いたしまして間もなく、検察当局から口頭で、具体的には私を介しまして、法務大臣に対しまして、安易に犯人らの要求に応ずることは検察立場からとうてい賛同できないという趣旨のお話がございました。そのことは直ちに前法務大臣にお伝えいたしました。前法務大臣は、その検察の気持ち、これも参酌しながら、大所高所に立って閣僚ないし対策本部の一員として行動されたものというふうに承知しております。
  15. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 結局、釈放命令したのはどなたなんでしょうか。
  16. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 釈放内閣で御決定になりましたのを受けて、法務大臣釈放指示をしておられます。
  17. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 通常の場合ですと、これは当然検察官指揮をすることになりますね。法務大臣が直接刑務所長指揮をされたということなんでしょうか。
  18. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 法務大臣から矯正施設を所管しております矯正局長に御指示がございまして、矯正局長当該者の入っております施設の長に対して命令をした、こういう形になっております。
  19. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 結局、矯正局長法務大臣の補佐の任に当たる人ですから、法務大臣命令したというふうに伺っていいのでしょうね。これは刑事訴訟法の四百八十二条の第八号で、重大な事由があるときは検察官釈放指揮できるということになっていますが、この条文によったのじゃないのでしょうね、超実定法的とおっしゃるから。結局、つまりそうした法文なしに、どういうのですか、上司である法務大臣が部下に命令した行政的な処分だと、こう承ってよろしいですか。
  20. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいま御指摘の条文既決囚人に関する条文でございますが、こういう犯人の無法な要求に屈して釈放せざるを得なくなって釈放するというような場合に、この規定は適用されるべきものではないというふうに思っています。したがいまして、今回の釈放手続につきましては、実定法の根拠はございません。要するに緊急非常の事態に際しまして、人質の生命を救うために行政権といたしまして内閣意思決定をされまして、その内閣意思決定を受けた法務大臣におきまして、その権限に基づいて釈放命令をなさったと、こういうことだと思います。
  21. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 未決の場合も、通常の場合ですと、裁判官の決定検察官が執行することになりますね、既決ももちろんいま局長のおっしゃったようなこと。ところがそうじゃないのだと、これは超法規的な事態行政行為ですか、法務大臣指揮監督権に基づく超法規的な行政処分と、そういう意味でしょうね、局長のおっしゃるのは。それでこれは何かいままで法務省の御説明によると、逃亡罪というのですか、逃亡に当たるという、そういう御解釈のようですが、そういうふうに法律的な評価を受けるものと考えていらっしゃるのですか。
  22. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいま行政処分というようなお言葉もございましたけれども、これは要するに行政権がその権限に基づきましてやむを得ずとった事実行為であるというふうに考えております。したがいまして、この事実行為裁判所の行いましたたとえば拘留の処分でありますとか、あるいは裁判所が言い渡しました裁判の効力、こういうものに影響を及ぼすことは毫もないと、そういう意味におきまして犯人らの要求に応じて釈放されました君たちは現在逃亡と同じ状態にあると、こういうふうに考えております。
  23. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大臣命令したのが事実行為、その大臣命令を伝えたのも事実行為釈放したのも事実行為というのは、何かちょっと無理な解釈のように思えますがね。やっぱり大臣命令したのは行政処分なんでしょう。事実行為と同じく見るというならわかるけれども、大臣が事実行為として命令するというのはどういうことなんでしょうかね、ちょっと適当でないように思いますね。  それは結局逃亡罪を構成するわけですか。あるいは何か奪取罪に当たるというのですか。刑事局長どういうふうに見ていらっしゃいますか。
  24. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) その関係は、最終的に確定いたしますためには犯人らの意思その他も確認しないと何とも言えませんが、一応外形的事実からハイジャック犯人につきましては刑法でいわゆる被拘禁者奪取罪、これが成立する余地があると思います。一方、今度これに応じて出ました釈放犯、これにつきましては、詳細な法律論は省略いたしますが、逃走罪が成立する余地があると、かように考えております。
  25. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 この場合、既決囚人については時効進行しますね。これは間違いないでしょうか。
  26. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) そのとおりでございます。
  27. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いままで釈放された人、これはきょう法務省の方から釈放要求対象者名簿というのをいただいたのだけれども、この中には二名ありますが、その前のクアラルンプール事件で同じように釈放された既決囚人がおりましたね。その人たちの氏名と確定した刑、それからちょっと時効期間をおっしゃっていただきたい。
  28. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) まず、前回のクアラルンプール釈放を余儀なくされました者に、松田久というのがおります。これは刑が二つありまして、懲役八年という刑が一つ、それから懲役十月という刑が一つございます。この懲役八年の方の刑は、十年刑に服さないことによって時効となります。それから懲役十月の方は五年間で時効となります。  それから、今回釈放を余儀なくされました者が二名でございまして、そのうち一名は城崎勉でございます。刑期が懲役十年でございますから、十五年間経過いたしますと時効が完成いたします。  それからもう一人、泉水博、これは刑が二つございまして、一つ無期懲役一つ懲役二年六月でございます。この無期懲役の方の刑は二十年間の経過によって時効が完成いたしますし、二年六月の刑の方は五年間で時効が完成いたすと、こういう関係になっております。
  29. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは時効が経過して完成するまでに逮捕すれば時効が中断しますね。だから法務大臣のおっしゃる法治国家のえぐられたる傷というものは、逮捕してもう一遍ぶち込んでしまえば恐らくそれが原状に回復して治癒されると思うのです。ですから法治国家の大原則というのも、それが治癒されあたうものか、治癒しがたいものかというようなことによって、先ほどにまた戻るわけですが考えられると思うのですね。それからまた、未決の場合は公訴が提起されておれば時効は完成しない。いつまでもこれは処罰し得るわけですから、これを釈放しても法治国家の大目的というものは必ずしも全面的に放棄されたものとは言いがたい。十分治癒し得るものですね。そういう考え方がやっぱりできるのじゃないかと思いますが、ただつかまらないで、外国ですからなかなかつかまえにくいでしょうし、所在がわかっても引き渡しが外交上不可能な場合もあります。そうすると、これは非常に法務大臣、あなたのおっしゃる法治国家の与えられた傷というものがいやされがたいことになるのですが、こういう場合には時効進行しないというような趣旨法改正というものが私必要じゃないかという考え方もあると思いますが、その点法務大臣の御所見いかがでしょう。
  30. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) その前に、非常に困難なことでございますけれども、現状はこういう犯人はあらゆる努力をして捕捉したいというのがわれわれの立場でございます。ただ、その際に、仮に捕捉して刑を実行しあるいは裁判を進めるということになれば、傷ついた法治国家の一部が治るのじゃないかと、まあそういう意味において一部治る場合もあると思いますが、私はこういうことが現に行われたと、法律の効果がなくなったと、凶悪犯人でもああいう凶悪な犯罪によって外に出たと、出されたと、そういうことが可能性がある、こういうことになりますと、検察、警察に及ぼす影響は非常に大きなものだと思います。また、現に小さな犯罪者などは、ああいう重罪犯人殺人犯でも暴力の脅迫によって釈放するならば、われわれは何でもするのだと、こういうふうな気風も全然ないとは言えない。そういうところに私は法治国家の大きな原則が揺らぐという観察をしておるわけでございまして、ただ後で修復すればそれで法治国家基本は揺るがないことになりはしないかという御意見でありますけれども、私はさようには見ておらないわけでございます。
  31. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いや、その反駁は法務大臣の御意見として私も傾聴いたしますけれども、私がいまお尋ねしたのはその点じゃないので、逮捕されずに過ごした場合に刑の時効が完成してしまう、そうしたらなおさら法務大臣のおっしゃる法治国家の大目的というのは失われてしまうでしょう。結局刑が執行されずに終わっちゃうわけですから、日本に堂々と大手を振って帰ってくるわけですから、それでは困るので、そういう場合には時効進行が中断されるというような、時効進行を中断させるような法改正なり立法心要とはお考えになりませんかという点をお尋ねしたわけです。
  32. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 私からまずお答えいたしますが、御指摘の点は確かに一つの御見解だと思いますが、ただどういう法律をつくるかということを考えました場合、こういうように奪い去られた場合のことを想定した法律をつくるということもなかなか困難なことでございまして、さりとて逃走しました者一般について時効期間進行せしめないこととするというようなことにつきましても、刑の時効制度の根本に触れる問題でございますので、相当慎重な検討を要する問題だと思います。要は、もう今後二度とこういう既決囚人犯人要求によって外へ出ないということがいま一番大事じゃないかというような感じがするわけでございます。
  33. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それはちょっと逃げ口上じゃないですか、局長。もう絶対に起きないという保証はありませんよ。そうでしょう。それから、単純に逃走した場合と違うのは、法務大臣が今回のようなものでは法治国家の大目的が損なわれるということをおっしゃるから、単純に逃走したのでも多少の損なわれ方というのはあるのでしょうが、法務大臣が、人命をあるいは犠牲にしても血を流す場合もあるという、対処の仕方があるとおっしゃる、それほどに大きな価値を置く法治国家の大原則が崩れるというように法務大臣がおっしゃるから、それならばそういう方法によって既決囚人を奪い去り、そして時効を完成させてしまうというようなことは、これは普通の単純逃走の場合とは違うのじゃないでしょうかね。それを区別することがどうして困難でしょう。だから、法務当局のお考え方がそれほど重きを置かずに単純逃走と同じような価値づけをなさるならば、私はあえて言いません。しかし、前提がそうなんだから、それであるのに時効が完成してもしようがありませんと、これからは起こさないことが大事ですということでは問題の解決になりませんが、どうでしょう。
  34. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいまの御指摘は、再びわが国が犯人要求に応じて既決囚人釈放することがあることを予想しての御質問だと思いますが、私どもとしては、そういう要求があり、わが国がこれに応じることがあるということを予定した立法というものはとうていなし得ないと思うのでございます。
  35. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それはどうでしょうね。もうすでに二度なさったわけですよ。三度なさったことはもう絶対にあり得ないということを断定はできないでしょう。だから、それじゃもう一遍あった場合に、同じようなことをして同じような結果を生じて、いま局長のおっしゃったような御発言がどういう意味を持ってきましょうかね。やはり過去において二度もわれわれが悩んできたわけですからして、それはもう今後は絶対にあり得ないんだと、そういうことを予想してはいけないんだということは言い得ないでしょう。これはそうがんばらずにもっとフランクに答えてほしい。これは法務大臣に伺いましょう。
  36. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 私は、寺田さんの御意見といいますか御見解は検討に値すると思っております。こういう異例の場合には時効進行をとめるかどうか、しかしいま刑事局長からも話しましたが、各般状況を周到に考えないと、こういう立法をいたしますというお答えはちょっとやりかねますが、検討に値すると思いますから検討してみることにいたします。
  37. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 まあ、それはそれだけにとどめておきます。  それから、この種のハイジャック事件ですか、これはこの間刑事局長がその他ジャックと言われたが、船舶についてはしばしばこういう点の航空機と同じような扱いをすべきであるという議論がありますね。この点はやはり立法の御用意というのがあるのでしょうか。あるいはもう予想するのはどうかということで除いていらっしゃるのか。その点どうでしょうか。
  38. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 今後起こりますテロ行為の対象として、もちろん船舶も予想しなければならぬと思っております。そのためにはひとり船舶のみならず、いわゆる在外公館でございますとか、そういう可能性のあるいろいろなものを含めまして早急に立法措置をとらなければならないだろうということで、現在準備をしておるところでございます。
  39. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それから、この種の事件について常に考えることですけれども、犯罪人の引き渡し条約が、いま日本アメリカとだけ結んでおるようでありますけれども、これは望むらくは国連によって一般的な普遍的な条約、これはできるだけ多くの国が加盟することが望ましいわけですけれども、そうした普遍的な条約を成立させるということが望ましいわけでしょう。同時に、やはり個々の国との間に犯罪人引き渡し条約を結ぶように手配をしていくということも大事だと思いますが、この点はどっちの領域ですか、法務省か外務省か。……法務ですか、それじゃ法務省のお考えを承りたい。
  40. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 御指摘の点は形式的には外務省が御所管でございますが、その実態において私どもが深く関与いたしておりますので、私の方からお答えいたします。  犯罪人引き渡しに関する条約の結び方といたしましては、現在ヨーロッパ諸国が結んでおります多数国間条約というのがただ一つの多数国間条約でございます。そのほかに個々の罪種につきまして、たとえばハイジャックでございますとか麻薬犯罪でございますとか、こういうものの犯罪人引き渡しについては多数国間条約がございます。それらを除きますと大体趨勢は二国間条約でやる、こういうことになっております。そうなりまする理由は、事柄がそれぞれの国の司法権あるいは司法権周辺の事柄に深くかかわりますので、それぞれの国の事情あるいは司法の運営、これが微妙に異なりますごとにこの対応の仕方が変わってまいりますので、多数国をまとめて一本の条約にするということには種々難点があるわけでございます。そこで私どもといたしましては、とりあえず現在日米間にございます明治十九年にできました条約の全面改定作業をやっておりますが、これと並行いたしまして、あるいはこれに続いて、なるべく多くの国と二国間条約を結ぶ方向で大いに努力をいたしたいと、こういうふうに考えておるわけでございます。また先ほど申し上げました、罪種を限っての多数国間条約、こういうものにもなるべく積極的に加盟していく方向で外務省と御協力申し上げたいと思っておる次第でございます。
  41. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 次に、この種の犯罪について、人命を失わしめない場合でも死刑の極刑を盛るかどうかということに関しては、かつてこの委員会でも円山委員の御質問があったわけです。これはどちらかというと消極的な御意見による御質問のように聞きました。同時に、先般八木委員から積極論の立場に立つ御質問があったわけですが、死刑はできるだけこれをなくしていくということがやはり世界的な傾向のように思います。果たして国家といえども人命を絶つということについての権限を持ち得るのかどうか。そういう問題もありますし、それからいまの刑の目的犯人の教育にあるとする教育刑の理論からも、できるだけこれをなくしていきたいというのが世界的な傾向ですね。ですからこの場合でも威嚇をねらった死刑というもの、これは私どもとしては慎重に考えていただかなきゃいけないと思うのですけれども、すでに刑事局長はこれを法制審議会に諮問するとおっしゃっておられるわけですが、法務大臣、そうした刑政上のわれわれの理想、その変遷などを踏まえて、やはり法務大臣としては死刑をこの人命を損傷しないハイジャック犯罪についても盛り込むことを是とするお立場でしょうか。
  42. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 実はいま御審議を願っておりますこのハイジャック犯罪についての法律案を検討いたします場合にも、死刑に価するのではないか、こういう議論も相当あったわけでございます。しかし、寺田委員承知のとおりに、死刑はもう人命を絶つという最高の極刑でございますから、慎重の上にも慎重を期さなければならない。いまお話しのように近代刑法の傾向は人命を絶つ死刑はできるだけ少なくしなきゃならない。国連等でもそういう傾向でやっておるわけでございまして、いま法務省が諮問をいたしまして刑法改正の法制審議会の答申等にも死刑を多く現行刑法から削除するという案も出ております。一、二の例外を除いては人命を絶った犯罪に対して死刑で臨むという傾向になっておるわけでございます。いま御審議をいただいておりますのは、これは人命を絶つに至らない場合のことでございますから、軽々に死刑を刑量するということを差し控えているわけでございます。しかしこの種犯罪人命を絶つまでに至らない場合でも、それと同じような評価をすべき非常な極限状態で他の人命影響を及ぼすような事態もあり得るわけでございますから、そういう場合もあり得るという考え方で、これはその態様、犯罪の種類を相当限定しなければならないと思いますが、そういうものもあり得るという考え方に立ちまして、いまお話しのように、前にこれお答えしたと思いますが、法制審議会等の審議を経て慎重に決めるという考え方で準備を進めておるのが現状でございます。
  43. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは私もさらにまたよく考えてみたいと思いますが、法務省はやはり法律の専門家として一時の国民的な怒りというようなもの、それにあおられることはないのでしょうけれども、それに追随して極端な刑罰主義で臨むということはこれは考えていただかないと、どうせこの種の事件はそうたくさんはないでしょうけれども、また今後もあり得るのでありますからして、苦慮していらっしゃることはよくわかるけれども、その点の御配慮をお願いしたいと思います。  それから同じく刑事訴訟法の改正の是非でありますけれども、これも刑事局長の御説明によりますと、いま現に立案中の御様子であります。これも私どもとしましては、よほど慎重にしていただかないというといけない。なるほど裁判を確かに遅延させるような傾向の被告人、あるいは弁護人がないとは言えません。これは私も現実に、たとえば学生事件が非常に激発したときに、学生事件の弁護人になりまして、そうした被告人の暴走を抑えるのに非常に苦慮した覚えがあります。しかし、弁護人が毅然として抑えていけば被告人はついてくる。と同時に、またこれは裁判官にもよるのです。裁判官が興奮してしまう。そしてやみくもに被告人を抑えつけようとする。そうすると、被告人も反発してこれは収拾がつかなくなる。裁判官の力量にもよりますね。だからいちずに被告人が悪いんだ、弁護人が悪いんだときめつけるわけにはいかない。  もう一つは、そうして裁判が遅延することによって、なるほど裁判機関、あるいは検察機関としてもたまらない気持ちはおありになるかもしれないけれども、最も被害を受けるのは実は被告人なんですね。長い間裁判が決まらなくて半生をめちゃめちゃにしてしまう。そして後で後悔して、そのときはもう裁判をできるだけ短期間に簡略に終えることを希望するというような実例もあるわけです。したがって、そういう災いというものは、被告人みずからがかぶっているという現実を見なきゃいけない。そうなりますと、刑事訴訟法の改正というものは、これは憲法の弁護人必置の原則の例外とも言うべきことですからして、刑事局長のおっしゃる乱用の法理によってこれを奪い去っても構わないのだということは、にわかに賛同しがたいですね。ことに、この刑事訴訟法の弁護人を必要とする事件においても、なおかつその条文を無視するような立法をしようと、これは何か近代法の被告人の人権を、国家権力から守っていこうとする基本的人権の原則というものを乱用の法理によって奪い去ろうというのですからして、乱用の法理の乱用といいますか、これが非常にいま憲法上の原則の場合は多いですからね。これはよほど慎重にしてもらわなきゃいかぬと思うのですが、法務大臣いかがでしょうか。これは刑事局長の領域じゃない。むしろ、大臣の御領域のように思いますが。
  44. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) おっしゃるとおりに、刑事被告に弁護人をつけるというのは憲法基本的人権の規定にあるわけでございまして、これをないがしろにするということは慎まなけりゃならないわけでございます。  しかし、現在、寺田さんはその方の非常な専門家でございますから体験談もお話しになりましたが、やはりこの種の凶悪犯罪といいますか、一定のその人々のイデオロギーに基づいた主張をする犯罪の場合に、えてしてこの弁護人必置の規定を逆用する場合が目についておるわけでございます。  私どもは、法律を制定するということは、その実効をあらわすのが法治国家の目標であろうと考えております。でありますから、憲法の規定にもありますように、憲法が与えた基本的人権は乱用してはならないという、また現に規定もあるわけでございまして、乱用することによって法治国家の実を妨げようとする、これはやはり許してはならない、こういう基本考え方に基づいて、いまおっしゃるように基本的人権に関係がありますから、慎重の上にも慎重を期してそういう場合を規定しようと、こういう準備を進めて、近く法制審議会に図ると、こういうことにしておりますが、おっしゃるように、これは重要な問題でありますから慎重を期しておるということは申し上げてよろしいと思います。
  45. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法務大臣お尋ねすることはこれだけにいたします。  外務省の方にお伺いしたいのですが、国連でもハイジャック防止のための動きというものが非常に活発のようであります。ただ、人質防止条約という目玉がどうも最近ぱっとしないようでありますけれども、この国連での動き、いま人質防止条約のその帰趨、これに対するわが国の態度、こうしたものについて御説明をいただきたいと思うのですが。
  46. 小林俊二

    説明員(小林俊二君) 国連の総会におきましては、確かに御指摘のように人質防止条約についての論議が停滞いたしております。この条約は昨年の総会におきまして西独外相が提案したものでございますが、その論議はアラブ諸国とイスラエルとの間の確執を背景とする政治的な考慮によりまして種々ブロックされておるわけでございます。今回の日航ハイジャック事件、それから西独機のハイジャック事件直後から、私どもは、今回開会中の国連総会におきまして何らかその防止のための行動を起こすことを検討しておりましたが、その際一番懸念した問題も、いまのその人質防止条約をブロックしている政治的な背景でございました。  ただ、これをさらに限定いたしまして、航空機のハイジャックということだけに関して何とかアラブ諸国を説得することはできないかというところに私どもの一つの希望があったわけでございます。そうしましたところ、先月の十八日でございましたか、国際民間航空パイロット協会の要請を国連事務総長が取り上げまして、この航空機のハイジャック問題というものを今回の国連総会で議論してみてはどうかという提案を非公式に日本を含めた関心各国に呼びかけたわけでございます。私どもはこの提案を直ちに取り上げまして、それを実現すべく種々奔走したわけでございます。いろいろな経緯はございましたけれども、結局、特別政治委員会というところで、この議題を特別に緊急に追加されました議題として、ハイジャック問題にだけ限っての議題として取り上げて付託されるに至りまして、御承知のような経過をたどり、日本が提出した決議案が基礎になりまして、決議が国連総会で十一月三日にコンセンサス、すなわち投票に付することなく全会一致で採択することができたという経緯でございます。  したがいまして、いま申し上げたような政治的な背景はなおございまして、人質防止条約という問題はまだ見通しを得ておりません。しかしながら私どもとしては、今回の行動によりまして、航空機のハイジャックという問題だけに限って言えば、アラブ側もこれを積極的にブロックすることなしにコンセンサスによる合意が成立したということを高く評価しておる次第でございます。
  47. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ただ、いまの全会一致というのも、この犯罪人の引き渡しを含まないわけでしょう。  それから、何かこの人質の場合も特殊の条件つきの人質のような新聞報道ですね、その点はいかがですか。
  48. 小林俊二

    説明員(小林俊二君) 国連総会の採択いたしました決議そのものは法的な拘束力を持つものではございませんけれども、その条項の一つハイジャックに関する国際民間航空機関が中心となって作成いたしました三条約への加盟を求めるという条項がございます。この三条約、特にハイジャックに直接関係ございますのはヘーグ条約でございますが、ヘーグ条約にはその犯人を引き渡すか、または自国で処罰しなければならないという規定が入っております。したがって、この条約に加盟することによって加盟国はその犯人に対する処遇につきまして一定の義務を負うわけでございます。したがって、その条約に加盟を実現するということを通じて間接的に決議案は犯人処理というものに対する一つの方向を打ち出しているということが言えると思います。
  49. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ただ論議されている人質防止条約ですか、西ドイツの提案したこれはアラブ側の了承は得られなかったようですね。そうじゃないですか。何か犯罪人引き渡しの条項を削ってしまったと。それから、人質についても、無実な人質をとった場合のみを犯罪とするというような修正案がリビアなんかから出て、結局その条項を削ったのじゃないですか、どうですか。
  50. 小林俊二

    説明員(小林俊二君) 実はこの人質防止条約に関する論議は非常に進捗がおくれておりまして、正式にまだ一条、二条というかっこうで合意を見ながら進んでいるという状態じゃないわけでございまして、実はその一番上にブロックになっておりますのは、アラブ側が民族解放闘争のための人質をとるという行為、押えるという行為は除くということをどこか入れろということを言い出したものでございますから条約全体が全く審議が進捗していないということでございまして、修正というようなこともございますけれども、それは全く舞台裏の話でございまして、委員会の席上における修正といったような動きにはまだ至っていないわけでございます。
  51. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは、たとえば南アフリカ連邦ですね、あの国の黒人に対する極端な弾圧政治といいますか、あるいは差別的な政治、ローデシアの場合も一緒ですけれども、それからイスラエルの過酷な占領地行政、そういうものを見てみますと、アラブ側の気持ちも全くわからないわけではないのです。やはり、いままで南アフリカの黒人弾圧の政治などについては、これは国連でもしばしば決議がなされておるわけですね。そういう人種的な差別とか弾圧とか、そういうものをこの地上からなくしていくと、そういう方向に日本努力していかないとアラブの民族主義というものを説得するその説得力に欠けていくと思います。ですから、そういう点でも日本の積極的な努力ということを望みたいと思いますが、いかがでしょう。
  52. 小林俊二

    説明員(小林俊二君) ただいま開会されております第三十二回国連総会における政治問題における最大の問題もまさに御指摘の中東問題と南部アフリカ問題でございます。アラブ側が特に関心を持っておりますのは、もちろん中東問題の帰趨でございますけれども、南部アフリカ問題、すなわちローデシア問題、ナミビア問題、それから南アフリカ共和国におけるアパルトヘイト問題というものもその帰趨が非常に注目されておるわけでございます。  今回の国連総会におきましては、鳩山外務大臣の一般演説におきまして、私どもとしては従来になく強い調子でわが国の態度を表明したつもりでございます。その方向は、中東問題においては安保理決議の実施、すなわちイスラエルの生存を認める一方、パレスチナ人の処遇についても十分な考慮を払う必要があるといったようなことでございます。また南部アフリカ問題の解決につきましては、その多数支配の実現ということに向かって、私どもとしては、それを支持する態度を従来以上に明らかにしたというつもりでおります。
  53. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それはまだ今後の努力をお願いすることにして、次は、旅券法の一部改正が今回提案されておるわけですが、今度、旅券の発給を拒否する条項として、長期五年以上の刑に当たる罪を、長期二年以上の刑に当たる罪について訴追されているあるいは逮捕状が発せられている者というような改正がなされたわけですが、これは、いままでの外務省の御説明では全部のそうした犯罪を対象にしているのではないということですが、何かこの運用の基準というようなものがありますか。
  54. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) 今回の改正でいかに運用を図ってまいるかということになりますと、これは、今般の改正が日本赤軍の過激派対策の一環として実施をされておりますので、主としてやはり過激派に関連いたします主要罪名——公務執行妨害、住居侵入、威力業務妨害及び凶器準備集合並びに特別法としての暴力行為等処罰ニ関スル法律の第一条、航空機の強取等の処罰に関する法律の第三条、銃砲刀剣類等所持取締法第三一条の三、火炎びんの使用等の処罰に関する法律第三条及び火薬類取締法第五十八条、これらに該当いたしますものでハイジャック等非人道的な暴力行為を行うおそれのある者、これを主として発給拒否の対象といたしますという運用方針を外務省としては実行いたします所存でございまして、実行の方式といたしましては、外務省の内規並びに都道府県に対する通達にこれを明記するということを考えておる次第でございます。
  55. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いまのおっしゃった罪名ですね、速くおっしゃったから、これを後で何かに書いて資料として出してください。  それを内規なりあるいは通達で示すというのですから、まあ、それならば乱用の危険もないわけで、そうしていただきたいと思います。  外務省に対する質問はこれで終わります。  今度は警察庁。まず、この日本赤軍そのほかのハイジャック犯人、これは外国における一部の過激派などと連絡があるように思いますが、こういう者の動静を警察庁としてはどういうふうに把握しておられるのか。また、これを把握するためにはどういうような努力をしておられるのか。その結果として現在どの程度の情報を把握しておられるのか、これをお伺いしたいと思います。
  56. 福井与明

    説明員(福井与明君) 日本赤軍ができました経緯でございますけれども、四十六年の二月に、当時、共産同赤軍派の中央委員の一人でありました重信房子が国際根拠地の一つとしてアラブ支部の設置を目指しまして、当時、京都大学の全共闘の活動家でありました奥平剛士とともにアラブに渡りまして、向こうの一部のゲリラ組織と接触することに成功して活動を始めたという経緯がございます。  現在日本赤軍は、今回の犯行の前にも後にも日本革命を目指すということを言っておりますが、日本革命とあわせまして、これも彼らのずっと持続しておる路線でございますけれども、世界各地に国際根拠地を構築をいたしまして、武装蜂起によって世界革命を目指すという国際主義を重視をしております。  一方、アラブゲリラの中にもマルクス・レーニン主義に立脚しまして世界革命を達成しなければ真のパレスチナ解放はあり得ないと、こういう考えに立って活動している部分がございます。そういうものと日本赤軍とは連帯関係にあると、現在でも日本赤軍はアラブに本拠を置いて活動しているという実態は変わっていないと存じますので、この連帯関係は続いておると、こういうふうに私たちは見ております。  ところで、この動向の把握でございますが、具体的な事件に関します動向につきましては、外交ルート及び国際刑事警察機構のルートを通じて把握に努力をしております。それから、そのほかの一般動向につきましても外交ルート等を通じて把握に努力をしております。  現在、重信を中心にした約二十人のグループがレバノン内戦の前には恐らくレバノンに本拠を置いたと思いますが、現在はレバノンを含めたアラブ地区のいずれかにやはり本拠を構えてヨーロッパ及びアジアにまたがる諸地域で活動を続けておると、こういうふうに見ております。
  57. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 この種の事案を防止する最も効果的な手段というものは警察としては何だと考えておられるのか、それをお伺いしたいと思います。
  58. 福井与明

    説明員(福井与明君) 警察次元としましては、日本赤軍に関連しての情報を得まして、不穏動向を把握をして早期に的確な措置をとると、こういうことであると考えます。  若干御説明を申し上げますと、日本赤軍は日本革命を目指すというわけでございますから、究極には日本国内に及ぶ闘争を志向するということは、これは理の当然でございますが、そういう考え方に立ちまして国内の支援組織、これを現在拡大する方向に鋭意努めておると申しますか、そういう主張を繰り返しいたしましてそういう努力をしておると、こういうふうに見ております。その実態をまずつかむ必要があるわけでございます。それと、現時点では客観情勢なりみずからの主体的力量を考えて、この日本国内の支援組織と密接に連絡をとりながらも海外に本拠を置きまして海外で活動をする、言いかえますと、日本国内のそのときどきの情勢に合わせて海外でできることをやるという構えでございますから、関係各国と日本赤軍の海外の動向に関する情報交換をし、捜査共助をするということがまたこれ大いに力を入れなければならないところでございます。この国内の支援組織の実態解明と海外の動向把握、これに努力をする、このことが警察で最もこの種事件防止策として力を入れることである、こういうふうに考えておりますし、その方向で努力をしております。
  59. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いま御説明によりますと、海外におる日本赤軍は大体重信房子を中心とする二十人ぐらいというふうに推定しておられるようです、あるいは把握しておられるようですが、日本国内ではどの程度おるんでしょうかね。あるいは支援組織というのはどの程度のものなんでしょう。
  60. 福井与明

    説明員(福井与明君) 今回の事件が発生しました直後、まだ事態進行中でございましたけれども、九月の三十日に京都大学構内で1980行動委員会という名前で、今回の日本赤軍の犯行を積極的に支持する旨の立て看板が出されました。それから、今回の釈放犯の中に含まれております奥平純三が、昨年十月にわが国に送還されてまいりました際にも、その直後に京都大学構内で奥平らの送還を糾弾をして、奪還を呼びかける趣旨の立て看板が5・30Fという名前で出されております。  ところで、この実態でございますけれども、5・30Fという名前の「F」と申しますのは実はフラクションの意味でごいますが、日本赤軍の支援メンバーが少数ずつさまざまの大衆組織等に入り込んでいきまして、自分たちが日本赤軍の関連者であることをあくまで伏せまして周囲に影響を及ぼしていく、そういうものを幾つも幾つもつくっていきまして、全体として日本国内の日本赤軍を支援する勢力を拡大していくと、こういう方向で現在努力しておるわけでございます。したがいまして、今回の1980行動委員会と申しますのも、そういう支援グルーブの一部が今回の事件を契機に日本赤軍との連帯を強くアピールしたものと、こういうふうに見ております。したがいまして、名前を取り出しましてこれが支援組織でございますというふうにはなかなか実態として言えないわけでございますけれども、メンバーとしては百人を下らないメンバーがいると、こういうふうに見ております。
  61. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 警察庁に対するお尋ねはそれだけにいたします。  あと、日航からおいでになっていますね。——日航としましては今回の事件より以前からこの種の被害にお遭いになっているわけですが、何か運航規程にこの種の対策を盛っていらっしゃるというふうに承っておりますが、その点の経緯をお伺いしたいと思います。
  62. 手塚良成

    参考人手塚良成君) いまお話ございましたように、これまでもハイジャックの経験を受けておるわけでございまして、その後やはり再発を防止する意味におきましていろいろ会社自体でできますことについての対策を考えたわけでございますが、その一つといたしまして、いま御指摘の運航規程の中にそういうハイジャックを受けた場合に機内の乗務員としてはいかなる措置をとるかという規程を設けております。
  63. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その規程の内容は非常に多岐にわたるわけですか、簡単に御説明願えませんか。
  64. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 非常に多岐にわたることでございます。しかし、たとえて申しますと、機上でハイジャックのような不法行為などに遭った場合の乗員の応対措置というようなことから始まりまして、爆発物の脅迫を受けたような場合にどうするかというようなこと、そしていまの応対措置につきましてまた非常に細かいことがずっとたくさん載っておるというようなことで、きわめて多岐にわたっております。
  65. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それでは、そのハイジャックを受けた場合の乗員として対応の仕方ですね。その分だけ後日で結構ですから、リコピーとして当法務委員会に御提出願えますか。
  66. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 提出をいたします。
  67. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その根本の趣旨乗客の安全第一主義であるというふうに承っておりますが、このとおりと承ってよろしいか。
  68. 手塚良成

    参考人手塚良成君) そのとおりでございます。
  69. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今回のハイジャックにかんがみて、特に新しく打ち出した御方針というようなものがありましたらお答えいただきたいと思います。
  70. 手塚良成

    参考人手塚良成君) ただいまの関連の運航規程の関係におきましては、これに関して新しい措置ということは格別にいま考えておりません。やはり、いま御指摘のございましたように、乗員のとるべき措置というのは乗客の安全の確保を何よりも優先させたいと、そういう基本線におきまして従来決めてあるとおりを、そのまま実行させたいと、かように考えております。ただ、それ以外の今回の事件後の措置ということに相なりますと、先般来政府がお決めになりました方針をもとにいたしまして、それぞれ具体的な措置というのを別途、われわれで言いますと八項目という言い方で考えております。
  71. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 私ども新聞報道で知ったことですが、何か日本赤軍の人相書きを海外支店に配付したとか、あるいは飛行機の周りに監視員を配置したとか、外国空港の保安体制の調査を実施するとか、そのために外国の協力を要諦したとか、海外空港に保安担当社員を置くとか、あるいは情報担当者を配置するとか、いろいろ新聞報道で承知したのですが、そういうことも実施していらっしゃるでしょうか。  それから一番よく言われますが、乗客のダブルチェックですね、これは日本では実施が容易でしょうけれども、外国ではどうなのか。また機内手荷物を最小限にするというようなことも言っておられるようですが、これなど日本国内では可能でしょうが、外国ではどうするのか。すべてこれは問題は外国に寄港なさる場合のことだと思いますが、これはどの程度の実施状況でしょうか。
  72. 手塚良成

    参考人手塚良成君) いま御指摘の今回の事故に伴いました措置でございますが、先ほど八項目と申し上げましたような内容が、いまいろいろお挙げになりましたことが私の申し上げました八項目ということで、今回新たにとりました措置でございます。まあ、新たにと申しますけれども、従来からとっておるものを一部強化というような内容も含んでおります。これらの措置の中におきまして、私どもとしてとり得る最大の再発防止対策といいますのは、やはりお客さんの機内への持ち込みの手荷物をできるだけ少なくする、これはやはり事前のいろいろ検査に対応します時間的な問題あるいはいろいろ隠匿その他の問題から考えまして、これをできるだけ少なくするということが一つの眼目でございます。それから、そういった手荷物を持ち込まれますところの過程におきます検査というものをできるだけ厳重にいたします。その検査の一環といたしまして、いわゆるダブルチェックといいますか、従来そういう検査をやっておりますのに加えまして、最終段階、機内へ入る直前、あるいはバスに乗ります直前におきましてダブルチェックというものを実施をしたい、こういうこと。それからそれ以外に、やはりそういったお客さまの流れ以外に機内に入り込む人間なり余地というものがございます。たとえば整備のために飛行機に近づく者、あるいは機内に機内食を積み込むために中へ入り込む者、いろいろ機内の清掃等もございますが、そういう者が入り込みます。この入り込む人間は日航の職員自体である場合もありますし、特に外国のような場合には当該国との相対の契約によりまして当該国の航空会社に委託をする。あるいはそれ以外の地上の会社に委託というようなかっこうでやっておるものがございます。したがいまして、こういうものからの機内への特殊なものの持ち込みということを警戒する必要がございますので、そういったものへのチェックを厳重にやる、こういうものが私どもとしてなし得る一番大事なことであり、かつハイジャックの防止のための一番根本かと思います、いわゆる水際作戦ということに該当するかと思うわけでございます。そういうことで私どもはその点を重視をいたしまして、先ほどの八項目の中にも含めておりますが、そういったものへの人員の強化とか、あるいは検査の強化とか、いろいろそれらに対応する具体的な措置考え、かつとって実施をいたしておるわけでございますが、おっしゃいますように、それらのものが外国におきましてどうかという点が私どもとしても一番頭の痛いところでございます。たとえて申しますと、いまのダブルチェックなどを行いますにつきましても、本来そういったことを当該国の官憲、公共機関、法的機関が行っておるという国におきまして、再度われわれ自体がそういうことをやるということに対して当該国が了承をしてくれませんと現実に実行ができません。したがいまして、ただいま私どもの方では先般政府のお決めになりました措置に対応して早急にそういうダブルチェックをやりたい、やらなければならぬとわれわれなりに判定をいたしました空港が七空港ございますけれども、そういった空港の中におきましても、現在それを当該国がわれわれの要請に対しては認めがたいという御返答をもらっておるようなところもあるわけでございまして、そういう点には非常にわれわれとして今後政府の御協力を仰ぎながら現実を進めてまいりたいと、かように思っておりますが、おっしゃいますように国内と違いまして海外におきましては、きわめていろいろ細かい問題において国内と違った意味における問題が多数ございますので、われわれとして鋭意それらに努力をいたしておるわけでございます。
  73. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 あなた方の要求を受け入れがたいという空港というのは、具体的に言いますと、どことどこでしょう。そして、それに対しては西ドイツのように寄港を中止するというような措置に出るというようなことまでお考えになっているのでしょうか。いかがでしょうか。
  74. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 当該国への私ども会社といたしましてのお話は、いろいろな段階の方々といろいろな折衝をいたしておるわけで、いま申し上げましたようなことで、最終的にどうだという決定的なお話を受けておるとも考えておりません。なお現在も交渉を私どもとしてもいたしておりますし、今後政府におかれてもお願いをいたすということでございますが、いろいろ当該国との関係もございますので、私どもから申し上げるのは適当かどうかわかりませんが、いま現に七つの空港の中で、最終的に私どもでどうもむずかしかろうかなあと、われわれなりに思っておりますのが二つございます。
  75. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それはどことどこですか。
  76. 手塚良成

    参考人手塚良成君) コペンハーゲンとローマでございます。
  77. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 コペンハーゲンとローマでは、ちょっとそこで寄港をしないというところまで踏み切れないように思いますね、そうでしょう。
  78. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 私ども会社の立場からいたしますと、そういう感じがいたしております。
  79. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 最後に、航空保安官の制度、これは乗員組合は私どもも直接お伺いして航空保安官制度には反対だという決定を組合としてしておるようですけれども、これは会社側としてはどうなんでしょうか。
  80. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 先般来、政府におかれての委員会におきまして私どももオブザーバーとして参加いたしておりますが、その席でのいろいろ御議論も出ましてその結論といいますのは、端的に率直に申し上げますと、なお今後検討を続けるという結論になっております。しかし、その過程等を通じまして私ども会社自体といたしましてはどちらかといいますと消極的な考えを持っております。それは結論ということにはまだ相ならないかと思いますが、どちらかといいますと消極的でございます。
  81. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その理由は。
  82. 手塚良成

    参考人手塚良成君) これは恐らく航空保安官が武器を携帯して機内に入るということになるかと思いますが、この機内で保安官が活躍するという場面を想定いたしますと、銃撃戦のようなことが仮に起こるということになりますと、機体の構造上大変危険が多い、と申しますのは仮に弾が機体を破って、機体に当たる、穴があく、そういたしますと、まず第一に機内は御承知の与圧がしてございまして外部と内部との気圧が相違をいたして、内部はわれわれのこういう普通の状態に近い状態になっておりますので、それが変わってまいりますことによる非常に危険がございますし、機体のあちらこちらにはたとえば燃料タンクが床下にあるようなところにありますが、そういうものに当たれば爆発のおそれが出る。あるいは酸素を蓄えましたような酸素の貯蔵の場所がございますが、そういうところに弾が当たりましても爆発の危険が起こる。のみならず、床下あるいは側面等には多数の操縦用のケーブルなどがクモの巣のように走っておりますが、そういうものに銃弾が当たりました場合には、まあ極端に言いますと操縦不能という状態に陥って墜落の危険が起こる。そういったようなことで飛行機の機体そのものには大変そういう微妙な危険に直接つながるところが多いわけでございますので、それが銃撃のような結果によってそれ弾その他で当たるということによる危険が大変われわれとしてはこわいということを考えますので、特に乗務員等はそういうことをよく熟知しておりますので、皆さん方のところにいま申し上げたようなお話が出ておるのではないかと思いますし、私どももやはりその機内に入られるということは、入られた以上は先ほどの運航規程ではございませんけれども、ああいったたてまえを貫いていきたいと思っておりまして、入る前に何か措置をする。入られたらばそういうむやみな抵抗によって危険を招くようなことはしたくない、こういう意味におきまして私どもは消極的でございますが、ただやはりこういうものによる何といいますか抑止的な効果というものもないわけではなかろうという見方もあるわけでございます。そういったことで、ただいまなお政府との御相談、検討中と、こういうことでございます。
  83. 福井与明

    説明員(福井与明君) 若干警察に絡むものでございますのでお答えいたします。  航空保安官制度でございますが、ただいま日航の方で御答弁がありましたように、私たちの方でも検討いたしておりますけれども、メリット、デメリットございます。そういう者を乗せることによる心理的な抑止効果というのは確かにございます。それから地上でのチェックの不備を補い得るというメリットもございます。一方、墜落の危険という非常に大きなデメリットがあるわけでございますが、そういうものを両々慎重に検討すべき問題だと、こういうふうに私たちの方でも考えております。  それから、この制度につきまして外国の例を聞いておるわけでございますけれども、事柄が事柄でございますから、なかなか制度を設けること自体明らかにしない場合が多いわけでございますが、その中で若干つかんでおりますものを申し上げますと、フランスの場合には四十九年の五月に一応採用しまして九月には取りやめたという経過があるようでございます。それからアメリカの場合には四十五年時点では千人程度のメンバーを置いて取り組んでおったようでございますけれども、例のキューバ向けのハイジャック等が多かった時期でございますが、現在では数十人に減っておる、こういうふうに聞いております。いずれにしましてもこの問題は機長以下の乗務員の全面的な協力と申しますか、そういうことがないと有効には機能しない制度であろう、こういうふうには考えております。  それからもう一つございますが、さっき日本赤軍の人相書きということがございましたけれども、実は厳密な意味の捜査的な手配資料ということではございませんが、手配資料的なものを外国に配るということで外務省と相談をしながら準備を進めております。ただ日本赤軍と申しましても具体的な犯罪行為で何度も出てまいりますコマンドのようなものから、いわゆる周辺の関係者までございますので、範囲をどういうふうにするか、それからいわゆる公開的なものにするか、非公開で外国の官憲だけに配るかという問題がございますので若干検討を要しますけれども、そういうことを含めて検討をして準備を進めておる、こういうことでございます。
  84. 中野明

    ○中野明君 最初に、大臣に改めて見解をお尋ねしたいのですが、今回の日航機のハイジャック事件は、人命を尊重するという見地からは一人の犠牲者も出すことがなく解決できました。私どももそれなりに評価はいたしておるものでありますが、同時に犯人側の要求を容易にかつ全面的に受け入れたこの態度というものは、今後禍根を残すものと考えられるのでありますが、特に既決未決の凶悪犯罪者釈放して、その上に莫大な資金を提供したということになります。そうなりますと、犯人たちはさらにこれに自信も持ったでしょうし、将来再犯の可能性と危険性というものも増大したことはこれは否めない事実であります。この点について政府としては、国内的はもちろんですが、国際的にも非常に大きな責任を感じなければならぬと、このように私どもはそういう事件であると思っておりますが、もしこの釈放された犯人を含めて現在活動しておるこれらの連中が将来再びこのような事件を外国で起こした場合、やはりわが国として大きな責任というものを問われるのではないだろうか。  そういうことをいろいろ考えましたとき、非常に深刻で残念な事件でありますが、特に前法務大臣はこの問題で責任を感じて辞任をなさっております。福田総理を初め政府当局者も不眠不休で苦慮された結論としてこういう結論を出されたわけです。そういう背景を踏まえまして今回このハイジャック法というものが出てきたわけですけれども、先日、大臣からこの提案理由の説明をお聞きいたしました。その後も私何回か読んでみましたけれども、この提案理由の説明を読んでおりまして、本当にいま申し上げたような、そういう政府が苦慮なさった、そしてまた重大な反省に立って今後二度とこういうことを起こさせまいという決意といいますか、そういう上に立って提案された法案としては、提案理由を読む限り非常に淡々としているような感じがしてなりません。  ちょっとその辺読んでみますと、「一般刑事犯を含む被拘禁者の奪取等およそ法秩序を確立して民主主義体制を堅持する上から、到底看過し得ない容易ならざる結果を招来するに至ったことは誠に憂慮に耐えないところであります。」というような言い方です。やはり重大な反省に立つとともに、今後二度とこういうことは起こさぬぞという強い姿勢が大臣就任の決意も先ほど来質疑に出ておりますが、そういうことがやはりこういう提案の趣旨説明の中にも脈々と流れてきてあたりまえじゃないかというような気がするわけですけれども、改めてこの法案を審議するに当たりまして大臣の今後の決意というものを最初にお伺いしたいわけです。
  85. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) いま御審議願っております法律案趣旨説明は、おっしゃるとおりにこの法案をお願いするいわれだけを申し上げておるわけでございますから、御指摘になられればまさにそのとおりでございます。しかし、政府といたしましては、御承知のとおり非常な国内的にも国際的にも日本立場というものと重大な関係があるわけでございますから、そういう政府の国際的な道義的責任といいますか、国内の将来に対しても重大なる責任を感じまして、御承知のような対策本部も設け、これを未然に防止するということは最大の効果がありますから、その点を考え各般の国内的、国際的の措置をとろう、その上になおかつ、その法律だけで予防ができるわけじゃありませんけれども、やはりこれも一つの予防措置あるいは仮に起こった場合の犯人の責任を問う、この体制はつくらなければならない、かような気持ちでおるわけでありまして、おっしゃるとおりに国内問題もさることながら、日本人でしかも日本から犯罪者まで出したということは国際的に非常に御迷惑といいますか、人類に対して非常な影響を与える、十分にそういう点に責任を感じて政府は最大限の可能な限りの防止対策努力すると、こういうことにしておるわけでございます。
  86. 中野明

    ○中野明君 いま大臣のおっしゃることをお聞きしていると、そのとおり私も感じるわけですけれども、この趣旨説明を読ませていただいたこの中に、そういう気魄といいますか、決意というものが非常に欠けているような気がして、最初にそのことを申し上げたわけであります。法案に入る前に、何といいましても大切なことは、やはり今後、たびたび話が出ておりますように、二度とこういうことを起こさせちゃならぬということから、こういう犯罪の防止ということが当面の非常に大事な問題だろうと思いますので、ハイジャック等非人道的暴力防止対策本部ですか、ここが発表されて資料としていただきましたこの七項目にわたる対策につきまして二、三お尋ねをしてみたいと思います。  いまお話が出ておりました日本赤軍対策ですが、第一に、「日本赤軍に対する情報収集および取締りを強化する。このため早急に所要の専従組織を発足させる。」と、こういうふうになっておりますが、いわゆる日本赤軍専従調査班というのですか、これについてどういうところまで話が進んでおるのですか、その辺を警察庁から。
  87. 福井与明

    説明員(福井与明君) 先ほども申し上げましたように、日本赤軍は一方では日本革命を目指すという言い方をしまして国内の支援組織づくりを進めておるわけでございます。しかも一方ではそういう支援組織と密接に連絡をとりながら海外に本拠を置いて海外で活動をしておるわけでございます。したがいまして、この国内支援グループの解明と、それから海外の動向に関しまして関係各国と情報交換をし、捜査共助をするということが日本赤軍対策の基本になるわけでございますが、こういうことでこれまでも努力をしてまいりました。それなりの成果も上がっておるわけでございますけれども、しかしながら、今回のこの大きな事件が発生したわけでございますから、これを契機にと申しますか、この際に大いに反省をしてこの面の活動を強化する必要があるということでいままでやってきておったわけでございますけれども、これに専従する組織をつくるべきである、こういう発想でございます。ただ、人の増員なり予算を要することでございますから、現在関係省庁と検討を進めておる段階でございますので、内容についてはまだ煮詰まっておらないということでございます。     —————————————
  88. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 連合審査会に関する件についてお諮りいたします。  航空機強取等防止対策を強化するための関係法律の一部を改正する法律案について地方行政委員会、外務委員会、運輸委員会、交通安全対策特別委員会からの連合審査会開会の申し入れを受諾することに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  89. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  なお、連合会審査会開会の日時につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  90. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 御異議ないと認め、さよう取り計らいます。     —————————————
  91. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 引き続き質疑を行います。
  92. 中野明

    ○中野明君 防止対策本部が設置されて、本部長はたしか官房長官のようにお伺いしておりますが、その第一項目に、「早急に所要の専従組織を発足させる。」ということになっております。そういう点については非常に——まあこれはあなたに申し上げても筋違いの話になりますが、手ぬるいんじゃないかと。せっかく第一項目にそういうことを挙げられておられてまだ煮詰まっていないというようなことでは困るので、これは大臣もこの対策本部の一員におられると聞いておりますので、ぜひ早急にこれは予算を組んでやはりそれだけのことをしていただかないと、今回の事件を見ましても国内の日本赤軍と密接な連携がとられておることだけは客観的にわかるわけです。しかも京大の構内には一度ならず二度までも事件が起こると前後して立て看板が出たりしてるような現状でありますので、そういう点はぜひとも大臣の方からも要請を強くしていただいて実行に早く踏み切っていただきたいことを要望しておきます。  それから二番目の国際刑事警察機構ですか、「ICPOの逮捕手配の活用に関し、相互主義の立場から必要な法的整備の方策について検討する。」とおっしゃっております。何かこれは、やはりわが国にも憲法がございますので、「相互主義の立場」という点についていろいろ疑義があるやに聞いておりますが、その辺をもう少し説明をしていただきたいと思います。
  93. 福井与明

    説明員(福井与明君) 日本赤軍は現実には海外に本拠を置いて活動をしておるわけでございますから、国際協力ということが大変重要でございます。その中の一つの警察次元の柱としましてICPOの機構を積極的に活用するという問題があるわけでございますが、これにつきましては四十九年の九月十三日のハーグ事件を契機に、それまではこのICPO憲章の第三条、人種的、軍事的、宗教的あるいは政治的な性格を有する干渉または活動をしてはならないという規定について慎重にICPOというものは考えておったわけでございますけれども、この事件を契機に日本赤軍の主張とは切り離して、ハーグ事件犯罪そのものは政治的な動機に基づく犯罪ではないという踏み切り方をはっきりしてくれたわけでございますが、それが一つの契機と、それから五十年八月四日のクアラルンプール事件を契機に、これはまた各国の日本赤軍に対する関心が大変高まりまして、現実にはICPOを通じての国際手配をやっております者四人を含む九人がわが国に送り帰されてくる等の成果がございます。それから手配をしておる者以外につきましても外交ルート、ICPOルートを通じて情報交換等はやっておるわけでございますが、実態はそういうことで、ICPOの機構もそれなりの効果は十分上げておるわけでございますけれども、ただ、逮捕手配の活用ということで申し上げますと、これは、逮捕手配をするということは、手配者を発見した場合には将来外交ルートを通じて正式の犯罪人引き渡しの手続に入るということの意思表示でございます。それで、それまでの間は身柄を拘束してほしいと、こういうことでございますが、わが国の場合に、外国からそれを受けましても、そういうことをし得るような国内の構成にはなっておりません。したがいまして、国際相互主義の立場から外国に対してもそういうことをしておらないわけでございます。ただ、ICPOの逮捕手配だけでそういうことをさせるかどうかということは、令状主義との関係等でその他問題があるわけでございますが、したがいまして、このICPOの逮捕手配というものにどういう法的効力を持たせるかといったことは大変慎重に検討を要する問題でございますけれども、そういう点につきまして法務当局等といわゆる法的な整備の方策の検討を進めておる、こういうことでございます。
  94. 中野明

    ○中野明君 警察庁関係は後ほどまたちょっとお尋ねしたいと思いますけれども、第五番目にあります「国民に対する理解と協力の要請」というところでございますが、これは政府としていままでどういう方法をとってこられたのか、また、今後どうされようとしているのか、できれば日航もおいでになっているようですので、日航の方もお答えをいただきたいと思います。
  95. 篠浦光

    説明員篠浦光君) ハイジャックの防止のためには、対策の実施と並びましてこういった各種の防止対策につきまして積極的に広報いたしまして国民の理解と協力を得るということが必要であると考えております。ハイジャック防止対策は非常に広範囲にわたっているわけでございますが、現時点におきまして、特に国民の協力を得る必要があるという問題としまして機内への手荷物の持ち込み制限、それからボディチェック、あるいは手荷物チェック、こういった問題に対します協力の問題が特に必要であるというふうに考えております。関連いたしまして国民の方に早目に空港に来ていただくというような問題もあろうかと思いますけれども。そこで、政府といたしまして特にこういった点に重点を置いて広報するということで、今月の十二日、十三日に全国の新聞、中央紙、地方紙ともでございますが、半ページ程度の広告を出しております。お気づきいただけたかと思いますけれども、こういったものでございます。それから同じく新聞でございますが、一面の左下に小さな囲みの欄がございます。これは突き出し広告と言っておりますけれども、これにもハイジャック防止に御協力をということで広告をいたしております。同じ趣旨でテレビスポットも同じ時期に実施いたしております。週刊誌にも同じ内容のものを来週出したいというふうに考えております。それから特に年末におきましては海外旅行者もふえるということでございますので、さらに新聞広告等を出したいというふうに考えております。それから若干後先になりましたけれども、ハイジャック対策全般につきましては、過日法務大臣にも政府提供のテレビ番組への出演をお願いいたしましたし、あるいはラジオの日本短波放送で二時間の特番というのを実施、そのほか計画中のものもございますけれども、広報に努力しておるということでございます。現在御審議中の法案等が成立しました暁には、その内容等につきましても関係省庁と協議しながら広報に努めてまいりたいと、かように考えておるわけでございます。
  96. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 私ども直接お客様に接触いたしておりますので、会社自体としてやはり政府の御指導のもとに十分なPRをいたさなければならないと、かように考えておりまして、機内の手荷物の持ち込み制限、それから検査を強化いたしましたが、そういった検査の強化に対応する協力の御依頼、それからそういうものをやりますために、できるだけ早く空港に来ていただいて、そういう時間の余裕を持たせていただきたいという意味の搭乗手続を早目にすることへの御協力、そういう内容を含めましていろいろな手段で御協力をお願いいたしております。空港のカウンターにおいでになりますと、一部お目にとまったかと思いますけれども、大きな横断幕で荷物一個の制限に御協力をというようなものを出しておりますが、これを国内の各支店の空港カウンターにずっと大きな横断幕等で出しております。それから多数のポスターあるいはチラシ等をつくりまして、これを今度は各市内の支店、それからいろいろ旅行社その他の代理店業の皆さんにお配りをいたしまして、直接お客様の接触の場合に、そういう周知の御協力をお願いするというようなこと。それから先ほどもお話がありましたようなラジオでの周知という意味で、私どもなりにNHKの朝のロータリーほか、そういったラジオでの周知のこと、あるいは十一月の九日には先ほど申し上げましたような趣旨の新聞広告を、国内三社の連名をもちまして、そういうものを出しております。なお、この十一月の十日から約一カ月、ハイジャック保安月間という名称のもとに、私どもは月間運動を繰り広げまして、いろいろ腕章を巻いたり、胸にビラをつけたりということで、お客様方にお目にとまりながら、また社内のそういう意味の関心の向上というようなことを含めまして、保安月間というようなものを展開をするということなどを実施をいたしております。  海外におきましても、先ほどのチラシなり、ポスターなりを英文化いたしまして、これを海外の空港支店あるいは市内支店等にも配付をいたし、またカウンターにおいでになるお客様にもお配りする、そういった具体的なことをやっております。なかなかしかし、これの徹底にはなお時間がかかるかと思いますので、私どもはできるだけ気長に、かつ徹底してこういうことをやりたいと思います。しかし、これも国民全般ということの御協力を得ませんと、なかなか実施が得られませんので、いろいろ政府御当局において御協力をお願い申し上げておりますけれども、なお一層そういう面をお願いを申し上げるとともに、私どもの全力を挙げてやりたいと思っておることでございます。
  97. 中野明

    ○中野明君 こういう問題はたびたび起こることではありませんので、つい事件が終わると忘れがちになるおそれもありますので、直接、間接の効果がありますから、かなり根気強く政府並びに日航においても続けていただきたいと思うわけです。  次は外務省なんですが、外交官の保護条約というものにわが国が加入することを検討すると、こうなっておりますが、この保護条約に加入したらどういうメリットがあるのでしょうか、その辺を。
  98. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) お答え申し上げます。  外交官等保護条約でございますが、これは端的に申しまして航空機に対するハイジャックの防止とは直接関係はないわけでございますけれども、ハイジャックと同様にやはり非人道的な暴力行為とみなし得ると考えられますところの国家元首、外交官あるいは海外旅行中の外務大臣あるいは国際機関の正規の構成員と、そういった人々に対します殺人、誘拐等の防止及び処罰のための国際協力を図ることを目的として作成されたものでございます。御承知のように四十八年の十二月に国連総会でできたものでございます。したがいまして、政府といたしましては、この条約のメリットを認めまして、ハイジャック防止対策で先用御引用の一つ上のところに在外公館の強化というところがあるわけでございますけれども、在外公館の警備の強化等の一環といたしましてこの条約に加入をいたすべく鋭意努力をしておるわけでございます。内容的には種々の規定がございますけれども、ただいま申し上げました外交官等に対しまして殺人、誘拐等の犯罪行為が発生いたしました場合には、その容疑者が所在する国に対しまして容疑者を関係国に引き渡すかまたは訴追のための自国の権限ある当局に事件を付託する義務等を課しておるわけでございまして、内容的には実効のあるものと思われますので、われわれとしては前向きに対処してまいりたいと考えておる次第でございます。
  99. 中野明

    ○中野明君 ではもう一点だけ。  法律改正の中で先ほどお話が出ておりました刑事訴訟の迅速化を図るための刑事訴訟法の一部改正、これでございますが、今回のようなハイジャック事件で、既決未決の人をそのまま釈放しろというようなことに相なってきますと、これは裁判を迅速にして刑を決めてみてもハイジャックとは余り直接に関係がないような気がするわけです。何かハイジャック事件に絡んで法律改正の中の一つとして、刑事訴訟法の改正をお出しになってくるから、やはり大きな論議を呼ぶのではないだろうかというような気がするわけですけれども、その辺、純然として裁判を迅速にするというそういうことで切り離してこの法律改正というものをお考えになった方がいいのじゃないかという気がするのですが、何かハイジャック防止のためにどういう効果があるのだろうか、その辺をちょっと御説明いただきます。
  100. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 二つの観点から申し上げられると思います。  まず第一に、今回のような事件が起きてみまして痛感されますことは、二度とこのようなケースが起きることを全力を挙げて防がなければならないということでございます。そのために先ほど御引用になりましたような対策本部における各般の諸施策があるわけでございますが、その全体を貫くものとして、やはり法秩序というもののとうとさということを国民の一人一人にわかっていただき、また関係者もそれを十分念頭において今後に対処するということが何よりも基本的に大事なことじゃないかと思うわけでごいます。  ところで、今回の事件にかんがみてみますと、一方で将来にわたって法秩序の維持ということの重要さを言わなければならぬというのに対しまして、いまから五年以上前の事件がなお裁判の決着を見ないままに裁判途中で当該被告人が連れ去られるというようなことでございますれば、法秩序の維持と、こういう精神を貫かなければならぬという考え方と、まことに矛盾した事態があるわけでございまして、かような事態は、とりもなおさずかような事態を解消していくことこそ法秩序維持への国民の合意を得る一つ手段であろう、こういうふうにまず思われるわけでございます。  それからもう一つは、今後再びかような事件が起きてはなりませんけれども、起きました場合を想定いたしますと、今度のようにまた裁判途中の者まで連れ去られるということになりますと、わが国の司法権あるいは裁判所の権威というものは裁判所の面前で踏みにじられる結果となるわけでございます。で、かようなことは、やはり大臣からも申しましたような憲法を中心といたします各種法制を整備した法治国といたしまして、やはり断じて避けなければならないことでございます。そのためにもこの種事件についての裁判というものをなるべく早く——なるべく早くと申しましても、人権を無視して早くするわけではございません。刑事訴訟法通常のテンポに従った程度の早さで適正な処理をしていくということは、やはりこれまた非常に重要なことであろうと、こういう二つの観点から、ハイジャック対策の特効薬とは申しませんが、その基盤に触れる一つの重要な事項であろうと、かように考えておるわけでございます。
  101. 中野明

    ○中野明君 裁判が大変長引くというのにはいろいろ議論もありますし、また批判もあることは私も承知しておりますが、何かこうハイジャックが起こって、この対策の一環としてそういう憲法にも絡む重要な弁護士抜きの裁判というようなことをお出しになるところに、何かしら論議を呼ぶところがあるような気がしてならぬわけでお尋ねをしたわけですが、その辺は十分お考えの上でだろうと思いますが、いずれにしても適正な裁判で早く行われるのが一番理想なんですから、そういう観点から純粋に議論をした方で、私はこの問題はよかったのじゃないかという感じがしております。  それでは、法律の内容について二、三お尋ねをさしていただきたいと思います。  まず、第一条でございますが、前回は、法制審議会の答申によりまして、航空機のみではなくして船舶も、いわゆるシージャックというのですか、それも当然含めるべきだという答申があったやに聞いております。ところが、前回この法律をつくるときに船舶は外されたということなんですが、その背景といいますか、どういうわけで外されたのでしょうか。その辺をちょっと御説明いただきたい。
  102. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいま御指摘いただきましたように、昭和四十五年に、ただいま御幕議いただいております法律のもとでございます航空機の強取等の処罰に関する法律を制定するに当たりまして、法制審議会に対して法務大臣から諮問をいたしましたときには、航空機のほかに船舶をも対象としておったわけでございます。で、法制審議会の答申におきましても、大臣の諮問を受けて航空機と船舶と同じように扱う趣旨の御答申があったわけでございますが、その法制審議会の御審議の過程におきましてもいろいろ御議論がございました。たとえば船舶につきましては、大きさとか形、機能が千差万別であるが、これを非常に、いわば危険を伴う航空機と一律に扱っていいかどうかという問題、それからさらに、船舶の場合航行中という言葉の意義が必ずしもはっきりしないのではないかというようなこと、さらにはただいま御審議いただいておる改正部分ではございませんけれども、この法律の四条に運航阻害罪というのがございますが、この運航阻害罪を船舶に適用いたしますことにつきましては、あるいは正当な争議行為の範囲に影響を与えるおそれはないかというような種々御議論がございました。そこで、なお慎重に検討をした方がいいのではないかという御意見が相当あったわけでございます。さような審議経過が一方にございまして、他方、この法律の制定のきっかけになりましたのが「よど号」ハイジャック事件という事件でございます。したがいまして、法務省といたしましては、そういう御議論が船舶についてはなおあるということで、当面「よど号」の事件にかんがみまして、今後も発生が必ずしも予想されないではないハイジャックについてとにかくまず規定を置こう、そしてこの船舶の部分につきましては刑法全面改正の一環としてなお検討を続けようということで、とりあえずの措置として船舶を除いた法律として御審議を願い、制定を見たわけでございます。
  103. 中野明

    ○中野明君 そういういま申されたような理由で今回の改正にも船舶はお入れにならなかったわけですか。
  104. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 今回の改正で船舶を入れませんでしたのは、ただいま御指摘のような理由が一つ、それからもう一つ、今後予想されるテロ行為といたしましては、ひとり船舶ばかりでなく、過去の事例に徴しましても、列車もございますし在外公館等の地上の建築物、こういうものもいろいろ考えられますので、それらを全部包含して対処できるような、そういう立法措置を緊急にとりたい、こう考えておる次第でございます。
  105. 中野明

    ○中野明君 前回は法制審に諮問をされたのですが、今回は諮問なさってないようですが、何かそれにはわけがあるのですか。
  106. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 御承知かと思いますが、法制審議会は法務大臣の諮問に応じまして民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項について審議をするわけでございます。したがいまして、基本法の改正につきましては原則として法制審議会の議を経ることにいたしております。しかしながら、事柄の内容あるいは緊急性等によりましては、法制審議会に諮問しないで法務大臣権限によりまして法律案を作成するということも行っておるわけでございます。  今回のこの改正部分と申しますのは、端的に申しますと、ハイジャック行為に対する処罰規定と、それから改正刑法草案にあります人質強要罪とを結合した一つ犯罪類型をつくったわけでございます。そのハイジャック罪に対する罰則それから人質強要罪いずれもそれぞれの法律の審議ということで法制審議会の御議論を経ております。これを二つ結びつけるだけというと言葉が過ぎるかもしれませんが、そういう内容でございましたし、また緊急を要するということで法制審議会の議を経ないで提出したわけでございまして、これは最も最近に開かれるでありましょう法制幕議会に御報告をして、御了承を求めるつもりでおります。
  107. 大石武一

    ○大石武一君 ちょっと関連質問。  いまのいろいろなハイジャック以外のシージャックとかその他のいろいろなことについて、緊急にやはり刑事訴訟法の中で何とかそれを考えていきたいというお話でしたね。それは至急におやりになる御決意ですか。
  108. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 刑事訴訟法の改正につきましては、実は今月の二十八日に法制審議会に諮問する予定をしております。それと、その刑事訴訟法の改正作業と並行して、ただいま申し上げました人質強要あるいはハイジャックのうち特定のものについて死刑をもって臨むかどうかという問題について検討を進めておりまして、率直に申しまして、ただいま申し上げました二十八日の法制審議会総会にどうにか滑り込めるかという程度のテンポで作業をいたしております。
  109. 大石武一

    ○大石武一君 もう一言。  そうすると、それがうまく法制審議会にかかりますと、次の通常国会には提案できるという見通しですね。
  110. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 法制審議会の御議論を私どもの方で日を切って制約するということもいかがかと思いますが、一応の私どもの手順の運びとしては明年二月初めごろには答申をいただいて、そして次期通常国会に提出させていただきたい、こういうテンポで作業計画を進めております。
  111. 大石武一

    ○大石武一君 わかりました。結構です。
  112. 中野明

    ○中野明君 この一条の二項ですが、いま答弁の中にも出てまいりましたように、刑法改正草案の中で人質強要罪というのですか、そういうことが議論されているようですが、この人質ということ、これは法律用語として余り私どもなじみがなかったのですが、この人質の意義と用例についてお示しをいただきたい。
  113. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) この「人質にして、」という言葉の意義でございますが、非常に簡単な字数で言っておるわけでございますが、これを御説明申し上げますと、航空機内にある者の生命、身体等の安全に関する他の者の憂慮に乗じて、釈放、返還、あるいは生命、身体の安全に対する代償として第三者に作為または不作為を要求する目的でその者の自由を拘束すると。要するに、人の身体、生命の安全をいわゆるカタに取って第三者に対して不法な要求をする、そのいわゆるカタである、こういうことでございます。
  114. 中野明

    ○中野明君 それじゃ時間もあれですので、次に第二条関係、危険の方ですが、その第四条の中で、「不法に業務中の航空機内に、」と、こう書かれておりますが、この「不法」があるとないのとで意味が変わってくるのでしょうか。
  115. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ここに「不法にと」書いてございますのは、刑法でいいますと逮捕監禁罪あるいは住居侵入罪等にあります「不法に」とか「故なく」というのと同じような形で使っておるわけでございまして、一般社会において客観的に見ると同じような行為が合法的に行われ得るという場合に、そういう場合を除外をすると、こういう趣旨でございまして、たとえば「不法に」というのがございませんと、火炎ぴんという例示がございますが、火炎びんと同じ程度あるいはそれ以上に燃えやすい易燃性のある物の一つの例といたしまして航空燃料がございますが、航空燃料を航空機に積み込む行為まで構成要件に該当するという非常に非常識なことになるわけでございまして、その他その種の例がいろいろ考えられておりますので、「不法に」というのをつけて社会的に許される場合を除いた趣旨でございます。
  116. 中野明

    ○中野明君 その後ですが、「その他航空の危険を生じさせるおそれのある物件」と、こうなっておりますが、どういうことを一応想定なさっておりますか。
  117. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 「航空の危険を生じさせるおそれのある物件」という点についてでございますが、今回の改正の趣旨ハイジャック等の防止対策強化の一環ということでございますので、ここで持ち込みを規制しようとします物件は、第一にハイジャック犯人によってその目的のために使用されることが予想されるようなものであること、それから、第二に、航空危険処罰法で規定いたします以上、それが航空の危険と直接あるいは間接に結びつくものであること、この二つの要件が必要であろうと思うわけでございます。例示いたしました爆発物、銃砲、刀剣類、火炎びん、いずれもこの角度からまず取り上げたわけでございます。ところが、規制対象物件をこの四種に限定いたしますことはこの種の犯罪の実態から見て必ずしも適当と思われませんので、犯人において比較的入手の可能な火炎びんを例示といたしまして、航空機内において使用された場合にこの火炎ぴんと同じ程度の効力を発揮することが見込まれる物件も含めることとしておるわけでございます。したがって、ここで申します「その他航空の危険を生じさせるおそれのある物件」と申しますのは、先ほど申しましたような二つの要件を持っておりますほかに、火炎びんに比肩し得る危険性を有するものを指すと、こういうことになるわけでございます。具体的な例を挙げますと、かなり高度な爆発性あるいは易燃性、燃えやすい性質を持ちます相当量以上の火薬、爆薬、ガソリン、こういうようなもの、これらのものを用いた器物としては小型火炎放射器などが考えられると思います。それからさらに、効力のきわめて高い毒ガス、これを用いた機器としてはガス銃などが考えられますが、そういうものが入るというふうに考えております。いずれにしましても、そういうようにこの物件は性状や通常の用途等によっておのずから限定されてまいりますので、こん棒でありますとか野球のバットでありますとかいったようないわゆる用法上の凶器はもちろん入りませんし、花火、マッチ、爆竹、セルロイド、苛性ソーダ、こういったようなものでありましても、先ほど申し上げました二つの要件に当たらないものであります以上、その量のいかんにかかわらず、ここで言う「危険を生じさせるおそれのある物件」には入らないというふうに考えております。
  118. 中野明

    ○中野明君 ちょっと前後しましたが、航空機の強取ということについてのことでちょっとお尋ねしたいのですが、最近私ある小説を読んでおりましたら、いままではそういう事件が起こってないのですが、ハイジャックするのに他の航空機で現在飛んでいる航空機の後ろにつけておどかして、そしてハイジャック目的を遂げたという小説を読んだのですが、そういう場合犯人が機内におらない、そしてすぐ後ろから攻撃が可能な航空機でおどかしてハイジャックをした、そういう場合がもし将来起こったとき、やはりこの法律で取り締まることができるのか。
  119. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 航空機強取法の一条は、犯罪を犯します主体がどこにいなければならないというふうに書いておりませんから、立法当時からお尋ねのようなケースもやはり強取罪に当たると、こういうふうに解釈されております。
  120. 中野明

    ○中野明君 それでは、旅券のことでお尋ねします。現在は旅券が効力を失ったその場合に全部返すということにはなっていないように思っておりますが、現在のその取り扱いはどうなっておりましょうか。
  121. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) 御指摘の点でございますけれども、やはり失効しました旅券は旅券法の十九条第四項の規定によりまして外務大臣または都道府県知事に返納することが義務づけられておるわけでございます。この返納の義務につきましては旅券の注意欄というのがございますが、そこに記載しておりまするほか、外務省が刊行しておりますところの旅券取得のためのパンフレット等におきましてもその旨を明記いたしまして、その義務の周知徹底方を図っておるわけでございます。また、これは御参考まででございますけれども、無効になった旅券を行使することにつきましては、はっきりした罰則があるわけでございます。
  122. 中野明

    ○中野明君 現在はそういうことが義務づけられているのですか。全部返ってきておりますか。
  123. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) これにつきましては、外務本省の場合には大体八〇%から九〇%返納が見られておりますけれども、都道府県の場合におきましては、全体の統計はいまとっておりませんが、若干これを下回ることになろうかと思っております。
  124. 中野明

    ○中野明君 それはやはり悪用されるおそれもありますので、せっかく義務づけられているのならば、やはり返納を一〇〇%させるように、また本人がほしいと言えば戻すことになっているようですが、ですから、そのようにした方がいいのじゃないだろうかという気がするわけでお尋ねをしているわけです。  なお、旅券を全面的に意匠がえするというような考えがあるように聞いておりますが、その辺はどうなっておりますか。
  125. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) この点でございますが、現在、国内国外にわたりまして出回っておりまする旅券は約五百七十万冊でございまして、これを一斉に新旅券に切りかえることは、これは至難のわざでございます。各国の例をとりましても、旅券の一斉切りかえと、全面切りかえという例はないわけでございますけれども、しかし同時に現在の状況におきまして新しい旅券を発給するということの必要性は痛感いたされますので、来年度以降発給する旅券につきましては、新様式のものにいたすべく、すでに体裁等について印刷局等と打ち合わせを始めておるわけでございまして、現在の日本の旅券は非常に精巧なもので有名なわけでございまして、すでに現在はそういうことは十分言えると思いますけれども、さらにこれを精巧なものにするということで、早急に努力してまいりたいと考えております。
  126. 中野明

    ○中野明君 大体、全部かえるとしたらどれぐらい費用がかかるものですか。
  127. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) ただいま旅券課長に聞きましたら、五十六億ぐらいのお金がかかるということでございます。
  128. 中野明

    ○中野明君 それでは最後に、最近は外国の観光船で出入国される人が非常にふえている傾向にありますけれども、この点についてハイジャック防止という一環から、そういう凶悪な犯人とか指名手配の人、そういう人たちが意外にそういう中に紛れ込んで出入国するおそれもなきにしもあらずだろうと私も思いますし、現在は、お聞きしますと、外国の観光船なんかで千人から乗ってこられると、その入国審査は香港なりあるいはグアムなりまで審査官が出張して、そして船内で審査をして帰ってこられると、それで船が港へ着けばすぐ上陸できるような措置をとっておられるやに聞いておりますが、これから頻繁になってくるとなかなかこれも大変だろうというような気がするわけですが、こういう点についてさらに余り簡単にやりますと、また乗員なんかも含めて危険な人が出入りするおそれもあると思います。こういう点の今後の対策といいますか、かなり頻繁に来るということになりますと予算措置も必要だろうと思うんですが、その辺は入管の方どのようにお考えになっておるか。
  129. 吉田長雄

    政府委員(吉田長雄君) ただいま御質問の点でございますが、わが国は観光を振興するという見地並びに国際的な申し合わせに従いまして、大きな観光船に乗って、大体ただいまのところ乗客、乗員合わせて千名以上乗っている船の場合、予算の許す限り外国の港まで審査官を派遣しまして乗船せしめ、日本の国に着くまでの間に全部審査を終えるという方法をとっておりますが、何分予算、人員の関係もございますので、小さい船、観光船にはまだそこまで及んでおりません。したがいまして、千名以下の観光船の場合は、港に着きましてから審査をしている次第でございますが、これは必要に応じて近隣の入国管理事務所からもその場合は応援を派遣いたしまして、十分所要の審査を誤りなく行うようにわれわれは配慮している次第でございます。
  130. 中野明

    ○中野明君 まあ、ハイジャックですから、確かに皆空の方に気が向いているわけですが、意外にそういう面からも厳重にやはり審査もしていただき、警察その他と連絡もとって、わが国に出入りする人のそういう点についての注意も今後必要じゃないだろうかという気がするわけですが、万全を期していただきたいと思います。  以上で終わります。
  131. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 午前の質疑はこの程度といたします。  午後一時四十分まで休憩いたします。    午後零時四十一分休憩      —————・—————    午後一時四十三分開会
  132. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き質疑を行います。質疑のある方は順次御発言を願います。
  133. 橋本敦

    ○橋本敦君 それでは本法案に関連をしてお伺いをしたいと思うのですが、まず第一の問題は本法案が可決成立したとして、この法案が果たして乱用もしくは拡張解釈等によって国民の権利と人権に対する侵害を惹起しないか、これを防止する必要があるという問題であります。  言うまでもありませんが、赤軍派など非人道的な過激暴力集団に対する取り締まりの強化というのは、これは当然でありまして、今回の非道なハイジャック事件に関連をして国民の怒りも大きく沸き起こっておりますから、こういう中で刑罰法規の改正ということで今後の取り締まりを強化していくということは、一面で国民の世論に沿う面があると同時に、この世論に便乗した形で新たな取り締まり体制の全般的強化ということで、強いて言うならば、警察国家への道を開くというようなことがいささかでもあってはならないというのが私どもの立場であります。  こういう立場で、まず第一点として刑事局長にお伺いしたい点は、法それ自体が取り締まるべき犯罪の構成要件の不明確さを欠いているならば、それ自体において問題のある法ということになるわけですが、特に業務中の航空機内に爆発物等を持ち込む罪について、その中で「その他航空の危険を生じさせるおそれのある物件」という、この問題が一つあるわけであります。これについてはすでに衆議院でわが党の正森議員の質問に対しても、これを明確に限定するという立場で御答弁をいただき、本日もこれについて刑事局長の御答弁をいただいたわけですが、私が刑事局長にお伺いしたいのは、そういう刑事局長の御答弁を、実際の運用の中で検察当局としてどのように確保しておいきになる方針なのかどうか。つまり、法律が一たん成立しますと、国会での政府答弁から離れて一人歩きする危険がありますので、そういうことにならないように法務省としてはどのような体制でお臨みになるのか。これは取り締まり及び起訴独占主義で、検察官の手にもっぱら公訴の提起の権限が集められているというたてまえからして、検察当局の運用の方針をお伺いしておきたいのです。
  134. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいまお尋ね条文についての解釈につきましては、先ほどお答え申し上げたとおりでございます。さらにただいま御指摘のような心配があるということもさることながら、私どもといたしましては、この法律が効力を生ずるに至りますれば、直ちに関係機関に対し解釈運用通達を発しまして、ここでお答えいたしましたようなことを明確に徹底させるつもりでおります。
  135. 橋本敦

    ○橋本敦君 わかりました。  その解釈運用通達ということを出して徹底されるということはよく理解ができるわけでありますが、もう一つ、この罪自体の問題として、実際にハイジャック事件が惹起をしてしまいますと、この持ち込みの罪というのは、これはハイジャックそのものに吸収されるかあるいは牽連犯ということになって観念競合になるか、どういう扱いになるということになりましょうか。
  136. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 一般的には併合罪の関係に立つと思います。しかしながら、持ち込む行為がすでにしてハイジャック処罰法の予備罪に当たるという場合も考えられます。さような場合には、いまお仰せになりましたように、牽連犯と申しますより観念的競合というような関係になろうかと思います。
  137. 橋本敦

    ○橋本敦君 わかりました。  本法の主たる目的ハイジャック罪という残忍、非道、卑劣な暴力行為を断固取り締まるという予防的効果の側面も持つということで、こういう罪の規定が新たにつくられたと思うし、実際に起こった場合に、いまおっしゃったように併合罪によって加重できるというような利点も私はあると思いますから、それ自体はよいとして、いま通達で出すとおっしゃった、そこのところでこれが不法に拡大しないようにぜひお願いしておきたい、こう思うわけであります。  それからもう一つは、本法で問題になる第二の点は、何といっても旅券法の発給制限、これを長期五年から長期二年以上の刑に当たる罪にまで拡張するという問題であります。この点では衆議院及び本委員会でも御答弁がありましたが、公務執行妨害罪あるいは暴力行為等処罪ニ関スル法律等、これら九つの罪に限定し、なおかつその上でハイジャックを起こす危険性のある者というようにしぼりをかけるというお話がございましたが、私も弁護士として多年多くの労働事件を扱ってまいりましたが、威力業務妨害罪、公務執行妨害罪、暴力行為等処罰ニ関スル法律ですね、これはハイジャックとは無縁な日常の労働関係の中でも時として起こり得る起訴罪名になってくるわけですね。だから、ここらが拡張されますと、憲法が保障する移住の自由、渡航の自由に重大な制約が入ってまいります。そこで、ここのところの九つの罪にしぼると同時に、おっしゃったハイジャックを起こしそうな危険のある者ということでさらに特定をしていくというのは、具体的にどのように可能なのか、どのようにおやりになるのか。そこの実際面のお考えがあればお示しいただきたいのです。
  138. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) お答えいたします。  外務省の内規及び都道府県通達におきまして、ただいま御指摘のような、主として九罪種にしぼりまして、なおかつハイジャック等非人道的暴力行為等起こすおそれのある者という者に発給拒否の対象をしぼってまいるという運用をいたすわけでございますが、同時に、かくいたしましてもなおかつ硬直的な運用にならぬようにという御指摘であろうかと推察するわけでございます。この点につきましては外務省の立場といたしまして、旅券法全体の精神がやはり外務大臣の裁量というものをかなり重視しておりますので、この点は硬直的な運用をいたしませんで、もちろん御指摘のように裁量が乱用にわたらないようにしぼりをかけるわけではございますけれども、同時にケース・バイ・ケースの個々のケースを慎重に検討して、旅券を出すものは出す、出さないものは出さないというこの基本的な運用方針は損なわれないものであろうかと考えておりますので、先生の御指摘の趣旨を体しまして、そのバランスをとりながら運用してまいりたいと、かように考えておる次第でございます。
  139. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいま外務省から御答弁がございましたが、それに付加して私どもの立場を申し上げます。  旅券発給制限に関しますこの問題の号の事由につきましては、前段と後段に分かれておりまして、後段の方は捜査機関からの通報がなければ外務大臣は御存じないことになっております。それから、前段の訴追されている者につきましても、現在外務省のコンピューターに一定の情報を入れていただくことになっております。これらの基準につきましては、私どもの方では刑事局長通達をもちまして、現在でも長期五年以上の刑によって訴追されている者、あるいは逮捕状が出た者のすべてではなく、そのうちの必要やむを得ざる者について御通報申し上げることにしておるわけでございますが、具体的な手順としては、本法が成立いたしますれば私どもの方の通達も改正いたしまして、今度広がります部分について外務当局からお答えのありましたことに照応するようなふるいをかける、そういう措置をとるつもりでおります。
  140. 橋本敦

    ○橋本敦君 この点は、一方で国民の人権なり自由なりというものを尊重しながら、具体的なねらいはハイジャック犯人、あるいは赤軍派を国外に流出させないという、こういうことが最大の眼目であるわけですね。  そこで、過去の経験として外務省並びに警察にお伺いしたいのですが、いまから六年前に赤軍派の頭目である重信房子、奥平等がやすやすと出国をした、あのときについては、渡航目的、あるいはあの場合の旅券制限というのは一体できなかったのかどうか。いまこの点を振り返ってどのようにお考えになっておられますか。
  141. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) とりあえず奥平純三の方について申し上げますが、これは他人名義の旅券を取得いたしまして出国いたしておりまして、これには数名の者がこの旅券を取ってやっておるわけでございまして、その者につきましては、そのうちの二名について旅券法の不正受給罪で裁判をしてもらっております。
  142. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) 重信房子につきましては、四十六年の十二月十一日でございますか、申請が出されておるわけでございますけれども、ヨーロッパに観光に参るという名義でございます。当時、重信房子につきましては逮捕状等の発給の事実がございませんので出国をした次第でございます。失礼いたしました。十二月でございませんで、二月の十一日でございます。
  143. 福井与明

    説明員(福井与明君) 外務省からの御答弁のとおりでございますが、重信につきましては四十六年の二月に出国をしておるわけでございますけれども、その時点では、実は四十四年五月の本富士署に対する襲撃事件、これは放火未遂等でその後逮捕状をとるわけでございますが、これについては彼女が共犯であるということが実は判明しておりませんでした。共犯を次々に調べてまいりまして、令状がとれたのが四十九年の十二月三日と承知しておりますが、したがいまして、出国の時点では旅券法の条項に該当するものをこちらとして持っていなかった、こういうことでございます。
  144. 橋本敦

    ○橋本敦君 しかし、四十六年当時、警察としては重信が過激派集団のメンバーであるということは把握しておられたでしょう。
  145. 福井与明

    説明員(福井与明君) 実は、重信は四十六年の二月に出国をいたしまして、当時は共産同赤軍派の中央委員の一人でございますが、それで向こうに行ってアラブゲリラの一部と接触に成功して活動を始めるわけでございますが、国内の共産同赤軍派の方は、御承知のように四十六年七月に日共革命左派神奈川県委員会と合体をしまして連合赤軍をつくります。そうして例の四十六年の十二月から二月にかけてのリンチ殺人事件、それから四十七年の二月の十九日から二十八日にかけての浅間山荘事件ということにのめり込んでいって、あるいはその仲間に殺されたり検挙されたりということで壊滅的打撃を受けるわけでございますが、そういう重信房子は、自分の親元と申しますか、共産同赤軍派に四十六年の十一月時点で訣別をして、この時点から日本赤軍というものが実は誕生してまいるわけでございますけれども、したがいまして、四十六年二月出国する時点では旅券法の十三条一項五号の公安条項には該当しないという判断で、残念ながらできなかったということでございます。
  146. 橋本敦

    ○橋本敦君 いまのお話でわかったことは、そういう、一つは平素からの情報収集という問題について外務省の方は全然連絡は受けていなかったということと、警察の方はいま言ったように、かなり動向については事後的には把握されておられますが、当時の状態として旅券発給をすべきでないという判断に到達し得なかったというところに問題がありますね。  それからもう一つの場合は、偽名で旅券を奥平らに取られた場合に、果たして今回の処置によって、その偽名で取られるということも含めて、暴力集団が国外へ脱出しないような厳正なる処置というのが一体可能になるかどうか、いろいろやっぱり問題は残ってくると私は思うのです。  そこで、こういった暴力集団を今後国外に絶対脱出させないという体制をまず取り締まり当局が徹底的に整備をいたしませんと、外務省の方が二の旅券発給ということについて、刑の長期を二年に下げたというだけではこれは目的が達せられないという問題が残りますね。まさにこれは奥平の例、赤軍の例の教訓ですよ。  そこで私は警察に伺うのですが、警察が平素から過激派対策取り締まりを強化し、赤軍派の国内協力組織についても目を光らせるというこの体制の中で、長期二年という罪に該当するしないにかかわらず、外務省に情報提供をして海外脱出を防ぐという方向をとるべきだと私は思っておるのですが、それについて警察並びに法務省の御見解があれば伺わしていただきたいと思います。
  147. 福井与明

    説明員(福井与明君) 確かに日本赤軍の関連者なりそれにスカウトされるような人物が国外に出るということは、警察としましては何とか防ぎたいということでございますけれども、一方、国民一般の渡航の自由の制限とも絡まる問題でございますから、それらを比較考量しながら考えなくちゃならない問題でございます。  警察としましては、実は長期五年以上の犯罪に該当する者、これは極左に限られておりますが、東京、神奈川、大阪、愛知、兵庫、京都、福岡、北海道と、主要の八都道府県だけに限って調べてみたわけでございますけれども、五十年の当初からことしの十月末までで五年以上で拾いますと千十一人検挙することになりました。ところがこれを現在御審議いただいております二年以上、しかも九罪種にしぼって拾いますと千二百十三人という極左を検挙しておるわけでございますが、したがいまして、いま御審議いただいている方向で法案というものが成立いたしますと、これだけでも抑止効果としては相当のものがあるというふうに考えております。  実態でございますが、実際には現在外務省に私の方でこれは危ないということで通報をしておる者は年間に数十件、大体外務省と合わせまして七十件前後のものが大体あると、こういう勘定でございます。
  148. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 警察から御説明がありましたけれども、日本赤軍にかかわる目的を持ってわが国から出ようというような者がおります場合には、当然外務大臣に御連絡申し上げて、法務、外務両大臣の御協議のもとに出国を差しとめなければならぬだろうと、こう思います。
  149. 橋本敦

    ○橋本敦君 そこで、まずもって赤軍派が国内に約百名を下らない数がいるだろうという警察当局の御答弁がありましたが、今度のダッカ事件に関連をして、協力組織に対する捜査、一定の捜索令状による捜索等も行われたかのごとくに新聞は報じておりますが、この国内での協力派組織の解明と、それから百名を下らないという個別的な百名それぞれについて動向を把握し得る体制になっているのかどうか、その点はいかがですか。
  150. 福井与明

    説明員(福井与明君) 国内に百名を下らない日本赤軍関係者がいるということを御答弁申し上げておりますが、実態をちょっと申し上げますと、実は今回の事件の発生の直後に、京都大学構内で1980行動委員会というものが今回の犯行を積極的に支持する立て看板を出したということを把握しておりますけれども、実はこの1980行動委員会という名称で共産同赤軍派の一派でありますプロレタリア革命派の、私たちの方では最高幹部というふうに見ておりますが、この人物の早期保釈、それからもう一つ、マルクス・レーニン主義派のやはり最高幹部と見ておりますが、この人物の早期保釈等をやはり言っておるわけでございます。ところが、この同じ九月三十日に、同じ京都大学構内で、プロレタリア革命派がこの1980行動委員会と同じような趣旨の、すなわち今回の日本赤軍の犯行を積極評価する立て看板を出しておるわけでございますが、したがいまして、名前はいろいろ出ておりますが、個人名で拾いますと、両方に顔を出していると申しますか、重なり合っている部分があるというふうにもちろん見ております。フラクションをつくって入り込んでいって、自分たちの日本赤軍とのつながりは伏せて周囲に影響を及ぼしていっているわけでございますから、実態はなかなかつかみづらいわけでございますが、要するに個人個人という形で押さえていくと、百名を下らない者が国内にいると、こういうふうに見ておるわけでございます。  それから、外国の動向につきましては、事件関係する部分につきましては、外交ルート及びICPOルートを通じて関係の情報をとるようにしておりますし、それから、それ以外の一般動向につきましても外交ルート等を通じて情報をとるように努力をしたわけでございます。
  151. 橋本敦

    ○橋本敦君 いま、あなたがおっしゃったその百名を超える赤軍派と目される人物ですね、これが旅券発給制限の「無期若しくは長期五年」という現行ですね、これに触れるか触れないかにかかわらず、旅券を発給するかしないかは慎重な外務省の判断に任せるとして、直ちにつかんでいる百名について外務省に連絡、通報をしておくべきだと、私はこう思いますが、これはいかがですか。
  152. 福井与明

    説明員(福井与明君) 今回御審議いただいておりますこの立法趣旨にかんがみまして、海外に逃亡するおそれ、それとハイジャック等非人道的暴力犯罪を犯すおそれ、それを中心といたしまして、そういうものに該当すると思われる場合には通報いたしたいと、こういうふうに考えております。
  153. 橋本敦

    ○橋本敦君 ちょっと歯切れが悪いのだけれども、そう思われる場合にはというのは、現に百名から赤軍派と目される人物がいるわけですね。それを警察としてはマークして警戒をしておられるわけです。それが、いまあなたがおっしゃったように、海外に出国もしくは逃亡するというおそれが出たときに通報する、これはいいですよ。だけど、警察がそうつかむまでにたとえば重信のように観光名義で出国してしまうということになると手おくれになるわけです。だから私は重信の例を出したわけです。だから、警察としては、このメンバーについていまマークをしておるというそのことは、これはいま直ちに外務省に情報連絡をしてよいのではないか、それぐらいやらないと、また出ていって、後になってこれこれだという言いわけがましいことになりかねないという心配を私はするのですよ。だから、いま私が言ったように、すくにやるべき——百名全部とは言いません、百名の中で八十名とか七十名でもいいですよ、警察としてこの人物は通報しておくことが妥当であると考えられる者についてはいますぐおやりになるのが妥当ではないでしょうか。
  154. 福井与明

    説明員(福井与明君) さっき主要の八都道府県で千二百十三人の人物がもし「長期二年以上」ということで広げられれば該当することになるということで申し上げましたけれども、私たちの方では、その中からさっき申し上げましたような立法趣旨に該当する者をあくまでも外務御当局に通報するわけでございます。日本赤軍の関係者であるということは確かに何らかの理由があれば海外に連絡等で行くおそれがあるわけでございますから、ほかの極左のメンバーに比べれば通報する頻度は当然高くなるわけでございますけれども、メンバーであるということだけで通報するということにはまいらない、こういうふうに考えております。
  155. 橋本敦

    ○橋本敦君 私はこの渡航の自由という国民の自由との関係において警察が慎重を期せられる立場を理解できないわけではありませんが、こういう赤軍が海外に流出をしていくということを本当に日本が断固としてとめないと、これから諸外国に対してハイジャック防止条約の加盟を要請するとか、国際的に日本がこれについて今後対策本部考えているような措置をとるといっても、日本の国自身がハイジャッカーの海外流出をどんどんやる抜け穴があるのじゃないかという国際的な批判を受ければこれは実らないというように見ているわけです。だから、そういう意味で、私はまさにその人の自由を制限するということだけれども、あくまでそれは法の規定あるなしにかかわらず認めるなと言っているのじゃありませんよ。外務省がその都度慎重な審査をし得るようにいまから条件を整えておくべきだと、これぐらいなことはやっておいて断固取り締まる姿勢を示していかなければならぬと、こういう立場で言っているわけですね。法務大臣はその点どうお考えでしょうか。
  156. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 非常に専門的といいますか、問題でありますから、的確なお答えになるかならぬかわかりませんけれども、御承知のように、ただいま審議をしていただいておりますのは、二年以上のこういうものに触れておる者、こういうことになっておりますので、まだそういう前提がない者をどうも赤軍派であるというだけで旅券発給の制限に加えると、こういうことは法律の面から言うと至難のことではないかと、かように考えておるわけでございます。
  157. 橋本敦

    ○橋本敦君 問題は、私は必ず旅券を出さないようにせよというのじゃなくて、外務省に旅券発給について慎重な考慮を外務省自身がなし得るように平素からの情報連絡はしておいたらどうか、これだけのことなんですよ。この要件を超えて必ず禁止せいとまで私はいま言っているのじゃないですよ。そういう体制を警察取り締まり当局と外務省とが過激派対策として本当にしっかり日常的につくっておかないと、この法律をつくっても本当の、真の国民の願望は達せられませんよと、そういう日常的な連絡ルート、体制は、これはつくったらどうですかと、大臣、私、こう言っているのですよ、誤解ないようにしてほしい。法律要件を超えて禁止せいなどと一言も言ってないですよ。そういう体制は私はとらにゃならぬと思うのですが、どうですか。
  158. 福井与明

    説明員(福井与明君) 日本赤軍の動向につきましては、これは本隊は海外におって活動しておるわけでございますから、一方、国内でそれを支援しておる組織があると、こういうことでございますので、外務当局とは常々この問題については頻繁に情報交換しております。したがいまして、委員御指摘のような点につきましても情報交換でこなせる面もあると思いますが、そうして情報交換の中から海外に逃亡するおそれというものをできるだけきめ細かくつかんで、そういうものについては早期に手を打っていく、こういうことにしたいと思います。
  159. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) 特にあれでございますけれども、事件後特に各省庁間の情報交換の強化ということを心がけておりますので、その枠の中で、いま警察庁から御答弁がありましたように、われわれといたしましても努力してまいりたいと、かように考えております。
  160. 橋本敦

    ○橋本敦君 そういうことで、とにかくこういう赤軍派などを海外に脱出させないということで国際的な信用も日本としては保たなければなりませんし、再びこういうことを絶対起こさないというためにも甘やかしちゃならぬと思いますので、いまの連絡体制の整備をお願いしておきたいと思います。  さて、もう一つの問題は、本委員会でも議論になりましたけれども、過激派集団の公判の遅延が目に余ると、そしてそれにつく被告人、弁護人の挙動がいたずらに裁判進行を阻害するという意味において私も厳しい批判的意見を持っておりますが、さればといって今度のハイジャック防止体制の強化の一環として、そういう事態に弁護人なしで裁判進行せしめるという刑訴法の改正は妥当であろうか。私はこれについては断固として反対の立場なんであります。これは言うまでもありませんけれども、戦後のわが国の憲法が細かく憲法自身で刑事被告人の権利を規定したというこの民主主義の原則から言っても、弁護人を付さなければならないという憲法三十七条、三十一条の原則から言っても、軽々にこういう立法をするということは私は事実上の改憲ということにつながりかねないし、戦前の暗黒裁判という問題を言うまでもなく、私はこれは国民的大論議が起こるだろうという問題のように思っているのです。現に日本弁護士会は全面反対という態度を打ち出している。刑事局長はこの問題について、法制審議会にかけた上、できれば来次期通常国会には出したいというお考えのようですが、私は法制審議会の議論がどうであるかはわかりませんが、通常国会に必ず出すというようなそういう約束的な答弁で進められるのではなくて、これは弁護士会なり法学者なり多くの国民的な意見、法制審議会以外にも意見を聞くという態度が必要じゃないか。きわめて慎重を要する立法だと、こう思いますが、それについて大臣はいかがお考えでしょうか。
  161. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 先ほどもお答えしたわけですが、慎重を期することはまた当然でございます。御承知のように、憲法三十七条で弁護人を付するということになっておりますから、これはまさに被告人の人権を十分守ろうという立場からやっておるわけでございます。しかし、現実のこの種事件に関連のある裁判を見ておりますと、この必要的弁護制度を逆用して裁判が進まないようになっておることもこれは事実でございます。先ほども申し上げましたが、憲法が与えておるいわゆる基本的人権、これは乱用してならないということも憲法の規定するところであります。弁護人を付することを制限するわけではございません。これを逆用して、乱用してというと言葉が適切であるかどうかわかりませんが、逆用して法治国としての裁判進行を阻害する、これもまた放置することはできない、こういう立場でいま改正を考えておるわけでございます。
  162. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいまの大臣の御答弁のとおりでありますが、若干補足いたしますと、私どもが現在考えておりますことはきわめて謙抑的な限度において特別の措置をとれるようにいたしたいと。と申しますのは、憲法に定められておりますように、すべて被告人はみずからの好む弁護人の弁護を受ける権利がございますし、それから貧困等のためにみずから弁護人を選べないときには国でこれをつけることを求めることができるわけでございます。したがいまして、私どもといたしましてはこの被告人の憲法に定める権利を害しない範囲で立法をいたしたいと。すなわち、弁護人なしで何が何でも公判を継続していくという考えではなくて、たとえば当該弁護人が、これは非常に弁護士法の精神からは遺憾なことと思いますが、現実におられますある種の態度をおとりになるような弁護士が訴訟遅延の目的辞任してしまわれたというような場合に、被告人としてはすぐに別の弁護人を私選するなり、あるいは裁判所に対して適当な弁護人を得ることができないからということで請求されれば国選弁護人がつくわけでございます。そういう余地を常に残しながら、さしあたりの訴訟手続を弁護人の在廷しないままで進める余地をつくっていきたい、この程度のことを考えておりまして、決して憲法の規定にぶつかってまで措置をしようというふうに考えておるわけではございません。
  163. 橋本敦

    ○橋本敦君 その問題は具体的な成案ということの中でまた検討していくということにしますが、基本的には私は、これは憲法にかかわる大問題だから、大臣局長がおっしゃるような慎重な検討ということをぜひお願いしておきたいと思うのです。  さて次に、私はこの日本赤軍などの根絶を目指すという、こういう非常に大事な観点から取り締まり体制ということに関連をして日本航空の参考人にまず伺いたいのですが、今度のダッカのハイジャック事件ですね、あれが起こりましてから、私は日航としても慎重に、あの犯人が一体どこで乗った可能性があるのか、あの武器をどういうようにして検査を免れて機内に持ち込んだ可能性があるのか、これは日航として諸種の立場で御検討なり、推測も含めて研究されたと思うのですが、その結果どのようにこの事件の手口、犯行、これをごらんになっておられますか。
  164. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 今回の問題がボンベイと推測されますので、今回の事件後におきまして、ボンベイの所在の私どもの支店、それから当方から派遣をしました調査団、そういうものを実は出しまして、いろいろ当時の状態を調査をいたしました。ただ、私どもはお客様が切符を買ってお乗りになる段階から飛行機に乗られるという過程を調査することと、それから地上でいろいろ作業をいたしますが、その作業に関連しての分野ということについての調査に限定されるわけでございます。前段の切符、チェックインから搭乗までという関係におきましては、お客さんの旅客名簿とチェックを現実にやって乗られた方との照合、それから地上の関係のものについては、これを委託しております委託先の人の身分その他という点を調査をいたしました。チェックインの人間につきましては、偽名を使って乗っておりましたということはわかりましたけれども、それ以上のことについてはよくわかりませんし、またどうやって凶器に該当するものを持って入ったのかということにつきましては、ここのチェックをやっておりますのが当該国の警察官でございまして、私どもの方がこれを具体的に再度チェックをするというようなことができない立場にあるところでございます。そこで、そういった方々の面でのいろいろお話を伺うという程度しかできませんが、相当厳重にやっておられたというのでそのルートから入ったとは思われない、こういうような証言をいただいておるということでございます。
  165. 橋本敦

    ○橋本敦君 いただいた資料からも明らかですが、その問題のボンベイでは検査実施は向こう側の警察でございますね。そして、このボンベイにはエックス線検査機器もなければ金属探知器もないと、こういう状況である、これは間違いございませんか。
  166. 手塚良成

    参考人手塚良成君) そのとおりでございます。
  167. 橋本敦

    ○橋本敦君 そういたしますと、警察の方が厳重にチェックをしたと、こういう証言を得ているということですが、現実には武器、爆薬を携帯して機内に入り込んでいるわけですから、警察が厳重な検査をしたと、こういう向こう側の証言にかかわらず一体どこでどうして持ち込んだか、これは依然としてなぞですね。ここのところを解明しないと今後の対策ということも実際はこれはなかなか具体的には立てにくい。言ってみれば向こうは悪知恵を働かしてあらゆる策動を計画するわけですね。ここらあたりについて警察はいままでの捜査の結果どうにらんでおられますか。
  168. 福井与明

    説明員(福井与明君) 私の方は、この点につきましては、現時点では関係乗務員乗客の方からの事情聴取によっておるわけでございますけれども、これによりますと、犯人が乗り込んだのはボンベイから、要するにボンベイから乗りました二十九人、さらにその中の十七人の日本人の中に含まれておることはほぼ間違いないというふうに見ております。ただ、この点につきましては十月の九日にICPOルートを通じてインドの警察に対して捜査協力を依頼をしております。その後に外交ルートを通じましても同じような依頼をしておりますが、向こうからは十月の下旬に協力をする旨の回答は参りましたけれども、具体的な捜査結果についてはまだ参っておりません。したがいまして確定するところまではとうていまいりません。武器の搬入等については、したがいまして捜査的にはもちろん固まっていないと、こういう段階でございます。
  169. 橋本敦

    ○橋本敦君 日航の労働組合が、航空保安官に反対するということで会社に申し入れている文書の中にこういう記載がありますね。「本年七月に「日本赤軍がインドに潜入した」という外電が流れたあと、ダッカハイジャックが発生したのであって、今回のハイジャックは、会社が安全第一の姿勢をとって、手荷物チェックを行なっていたならば防止出来た可能性は高い。」と、労働組合はこう見ているわけですね。これについて日航に伺いますが、日航自身としては日本赤軍がインドに潜入したという七月ごろの外電なり、あるいはそれ以前でも日航に対する脅迫めいた、ハイジャックが予知されるような、そういう種類の情報なり通報なりというものはあったでしょうか。
  170. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 一般的に申し上げまして、ダッカ以前におきましてもいろいろな情報、いわゆる怪電話式のものがかなり参ります。そのたびに私どもの方もそれなりの措置はいたして、たとえば手荷物の検査をわれわれなりに厳重にできるところはやってみる、あるいは荷物の中身の爆弾等のおそれがある場合にはそういったものの開披検査を厳重にやって、飛行機の遅延などを来たしてもそれは検査の方を十分にやるというような措置などをとっておりますが、一々のものにつきまして全部そういうのをとるということもできませんので、われわれなりの確度の高いものについてそういう措置をとるということをやっております。いまおっしゃいました、ダッカの前につきましても、そういった意味の情報というのが入りました。それに対応してわれわれとしましてもそういう情報を東南アジア関係の支店なり関係のところに流しまして、われわれでとり得る警備の慎重徹底さを通知をいたしておるような次第でございます。
  171. 橋本敦

    ○橋本敦君 いまおっしゃった東南アジア関係という中には、問題のダッカに対する厳重警戒指示もおとりになったということですか。
  172. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 私のところの支店のございます場所でございますので、ダッカそのものについてはございません。先ほどの近くで言いますと、ボンベイ、シンガポール、カラチというようなのがその中に入るかと思います。
  173. 橋本敦

    ○橋本敦君 だからある意味では予知された事件であり、ある意味では徹底的にやれば防ぎ得た可能性がある事件だという、そういうことになりますと、やっぱりボンベイならボンベイで日航自身が支店指示という、それだけじゃなくて厳重なダブルチェックをこのときにやっておけば防げたという可能性が一層増大しますね。いかがですか、ダブルチェックやってもだめだったと思われますか。
  174. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 今回の反省といたしまして、できるだけ水際作戦で事前のチェックを厳重にやるというたてまえで、今度はダブルチェックというのを基本的にやることに決めまして、われわれはその対象空港をとりあえず七つにしぼって考えておるような次第でございます。しかしながら、それがなかなか国際的なことでございますので、これが必ずできるできないという問題がいまなお若干問題として残っておる場所があることは午前中も御説明したとおりでございますが、まあこれをやりませば強化をされるということは言えると思います。しかし、何せ私どものやりますのは、民間のベースにおきまして、運送約款を前提にいたしましてお客様相手にやることでございますので、その効果が絶対であるということは私ども考えることが無理ではないか、しかし、われわれといたしましてできる最大限の努力はしてそういうチェックはいたしたい、こういう考えでございます。
  175. 橋本敦

    ○橋本敦君 だから私が言うのは、ボンベイで仮にそのときに警戒指示を支店になさった、その警戒指示の内容が具体的にボンベイでダブルチェックを実施するところまでいっておったならば未然に防げたかもしれないという蓋然性、可能性、これは高いのでしょう。私の質問はそういう質問なんです。
  176. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 蓋然性という御質問でございますので、私は、チェックはより厳重にできたであろう。完全に防止されたかどうかということは申し上げられませんけれども、チェックはそれなりに厳重に行われたであろう。しかし、事ボンベイに関しましては、先ほども御指摘自体もございましたように、現在ですらやろうと思いましてもまだ当該国の了承が得られない、私どもの手におきましては了承が得られないので、いろいろ国のお立場その他によってそのことをお願い申し上げておるという段階でございますので、なかなかこのボンベイ自体におきますダブルチェックというのにはそれなりの問題があるということをつけ加えて御説明申し上げます。
  177. 橋本敦

    ○橋本敦君 ハイジャッカーの方は新聞によれば一年も前から計画をしていた。そしてこの飛行機にはカーター氏と近いガブリエル氏が米人として搭乗していることも知っていた。こんなことをニコシアの方で記者会見をしているといったような報道がありますから、彼らは彼らなりに実に悪質な計画を練ってきていると思うのですね。それだけにこちらの対応というのも本当に徹底した水際作戦をやりませんと、これは根絶できないわけです。  いま日航常務がおっしゃったダブルチェックを申し入れてもなかなかできないというのは、ボンベイ以外七空港ですね。折衝中だという七空港、午前の答弁でございましたね。そのうちコヘンハーゲンとローマがこれが究極的にはむずかしいだろうと、他は交渉中であるというようにお伺いしたのですが、七空港というのはどことどこですか。
  178. 手塚良成

    参考人手塚良成君) ヨーロッパの方から申し上げますと、アテネ、コヘン、ローマ、それからバンコク、クアラ、マニラ、それからカラチ、以上でございます。
  179. 橋本敦

    ○橋本敦君 運輸省に伺いますが、いまのお話からでも、一定の危険が予知され、警戒指示をしたけれども、ダブルチェックという態勢までいかないうちにダッカハイジャックが起こった。運輸省としても、今度の対策で日航独自のダブルチェックをやるということについては運輸省としてもその立場を尊重されると思うのですが、問題は、日航常務がおっしゃったように、相手国との交渉でこのことを実現しなくちゃならぬ。この問題について運輸省は強力な態勢をとらなくちゃならぬと思いますが、どのようなお考えですか。
  180. 永井浩

    説明員(永井浩君) 先ほど日本航空の方から御説明申し上げましたように、とりあえず日本航空の調査によりまして七空港についてダブルチェックをやりたい、こういうことで現地ベースで折衝されまして、現在四空港については実施の運びとなっておると聞いております。さらに、主としてヨーロッパ、東南アジア、それから中近東の日本航空の寄港する空港につきまして、ダブルチェックあるいはこれにかわる検査の強化というものを調査し、場合によっては現地の空港当局あるいは警察当局と折衝するということで、運輸省を中心といたしまして調査団を逐次派遣してやっております。それで、調査団あるいは日本航空の折衝によって検査の強化あるいはダブルチェックが不可能な場合には、さらに外交ルートを通じて検査の強化を要請したい、このように考えております。
  181. 橋本敦

    ○橋本敦君 日航が乗客生命、安全を第一に考えるという立場で苦労して検討して、七空港だけはぜひダブルチェックをやりたい、こういう方針を出した。この方針は、私は、運輸省なり外務省は全力を挙げてやっぱりその処置をとる。もしその処置をとらないでそこから起こったら、これは国の責任になりますよ。日航はそういって問題提起しているのだから。いまおっしゃったように、最後は外務省と連絡をしてやると言うのです。これはあなたのお見込みで、今年中に話がつきそうですか。一刻も早く私はつけるべきだと思いますが、見通しを聞きたいのです。
  182. 永井浩

    説明員(永井浩君) 十七空港を全部調査いたしますのに年内あるいは一月ぐらいまでかかると思います。その間において逐次問題の空港については政府間のベースで折衝したいと思いますが、何しろ相手があることでございますので、いつまでにということはこの場で明確なお答えはできない状態でございます。
  183. 橋本敦

    ○橋本敦君 年内もしくは一月中に相手との交渉が妥結しない場合は、私は、そこのところはもう寄港しないと、思い切った処置をとるべきだと思うのです。もうこれは幾らダブルチェックをやっても、一カ所が抜けてそこから入ったらおしまいなんですハイジャックが起こったら。だから、そういう万全の処置を断固とるためには、多少日航自身の採算ベース、商業ベースからコヘン、ローマその他困難があってもこれはもう思い切ってやるべきだ。たとえばルフトハンザがXデー爆破の問題で大問題になっておりますが、乗客は、ルフトハンザに乗らないでアメリカ系の飛行機に乗って、一遍フランクフルトからベルリンへ出てそれからミュンヘンへ向かうというコースまでとってでも、自分の安全確保をしておりますね、新聞報導だと。だから、年内もしくは一月中に話がつかないところはこれはもう寄港しないという処置を日航と相談して断固とる、これぐらいやらなきゃ、私は、相手国も本気にならないし、また安全処置は確保できないと思いますが、運輸省のお考えはいかがでしょう。
  184. 永井浩

    説明員(永井浩君) 寄港を中止するという処置は最後の手段だと思います。私どもできるだけ粘り強く検査の強化について要請してまいりたいと思いますが、どうしても当該国の検査体制につきまして非常な不安があるという場合には、御指摘のような措置も検討したいと、こう思っております。
  185. 橋本敦

    ○橋本敦君 その点について日航のお考えはいかがですか。私はもう期限を切って断固として政府と協力して寄港しないという方針を打ち出す、それぐらいやらないと話がつかぬと思いますよ。
  186. 手塚良成

    参考人手塚良成君) 私どもの方も、お客さんの生命を預かる立場でございますので、ただいまのような七空港の中で非常に心配が多い、検査体制が不安であるというところについては、極力ダブルチェックを初めとして現状の検査の強化ということをいろいろな角度からお願いを申し上げるわけですけれども、おっしゃいますような最終的な段階ということになりました場合には、政府御当局と十分御協議の上、おっしゃるような措置も含めて私どもからはお願いを申し上げなければならぬのではないかというぐらいまでに考えております。
  187. 橋本敦

    ○橋本敦君 警察当局に伺いますが、今度のダッカハイジャックケースで佐々木、坂東といったような連中が犯人になっているという情報がしきりにありますが、犯人の特定はいま、あるいはほぼ見込みはどうなっておりますか。
  188. 福井与明

    説明員(福井与明君) 坂東国男も佐々木規夫も、前回の五十年八月四日のクアラルンプール事件で国外に連れ出された人物でございますが、坂東国男、松田久、それと今回連れ出されました城崎勉、これはいずれも共産同赤軍派の幹部でございます。それから、佐々木規夫とそれから今回連れ出されました大道寺あや子、浴田由紀子、これはいずれも東アジア反日武装戦線のメンバーでございます。それから、前回出ました西川純と戸平和夫、これは実は、今回の事件後に大阪の人民新聞社に送られてきました日本赤軍からの声明と称するものがございますが、これでは日高隊声明というふうに名のっているわけです。ヨルダンで死亡しました日高敏彦の死んだことに対する階級的報復ということを今回の事件の作戦行動の動機の一つに挙げておるわけでございますが、この日高敏彦と西川純、戸平和夫というのは、実は五十年の三月にスウェーデンのストックホルムで同じような調査活動をやっておったということ、これもまた因縁が深いわけでございます。したがいまして、前回の釈放犯が今回の事件に関与しておるのではないかということにつきましては、強い関心を持って現在捜査をやっておりますけれども、残念ながら現在のところでは捜査的には確認をするに至っておりません。現在のところでは、コックピットに主としておりましてハンチング用の帽子をかぶっておったリーダー格の人物、これについてかなりの人が指摘をしておりますけれども、これも、似ておるという程度の指摘がほとんどでございまして、非常に確度の高い指摘というのはごくわずかでございます。したがいまして、いずれについても、逮捕状をとるまでに至っていない、こういうことでございます。
  189. 橋本敦

    ○橋本敦君 機内に銃器、爆薬を持ち込んだ手口もまだわからないし、犯人も断定できないというこれが残念ながら捜査の現状でしょうが、こういったことが、断固根絶をしていく上でも捜査上重大な盲点になっているわけですね。  そこで伺いますが、あのクアラルンプール事件で国外へ流出していった連中に対して直ちに国際手配をしなかったことが、彼らが今度の犯行に加担したのではないかという可能性を強めるというように私は見ておりますが、これはなぜ国際手配を断固直ちにやらないということなんでしょうかね。
  190. 福井与明

    説明員(福井与明君) 実は、クアラルンプール事件は五十年の八月四日でございますけれども、釈放犯の五人についてICPOの手配ルートに乗せ得るかどうかということにつきましては、八月の十六日にICPOの事務総局へ伺いを立てております。その時点では、ICPOの事務総局としては、例のICPO憲章の第三条には一応当たらない、政治的犯罪ではないという一応の見解を出してくれたわけでございますけれども、ただ、非常に微妙なケースであるのでぜひ関係国のこの点についての意向を聞いておいてほしい、こういうことだったわけでございます。それで、それから先のことは、国名についてはひとつ御勘弁願いますが、はっきりした消極意見ではございませんけれども、若干難色を示すといいますか、そういう点が一つあったわけでございます。それともう一つは、これは手続的にはできるわけでございますけれども、リビアに外交交渉でどうにか頼んで受け入れてもらった。その直後に、リビアから出国したことがはっきりしないと申しますか、むしろリビアにいる可能性があるのに、リビアを含めたICPO加盟国に手配をすることはいかがなものかと、こういう判断があったわけでございますが、両方の判断があって直後には手配をしておりません。  しかしながら、その後に、昨年の九月にこのクアラルンプール事件の被告人の一人の奥平がヨルダンにあらわれましたし、それから、これもおそらく同事件に関与しておるというふうに私どもの方で見ておりました日高敏彦もそのときにあらわれておるわけであります。それから、ことしの五月二十五日の人民新聞に、日本赤軍のものと思われる記事が載っておるわけでございますけれども、その中に連赤や、M作戦や、東アジア反日武装戦線の同志と団結を深め、階級の利益のために一つの責任をともに担うことを可能としていると、こういう文章があるわけでございます。これはまあ、読み方はなかなか微妙でございますけれども、やはり奥平、日高を除いた連中もすでに合流しておるということを言っておるのではないかということがあるわけでございます。そういう状況の変化がございましたので、今年の十月の七日にICPOに対して、もう一度あの五人についてICPOの情報手配に付したいということを言ったわけでございますけれども、それについてはICPOの了解は得られまして、現時点では関係国からの消極意見もございませんので、近々のうちに彼らについてはICROの手配になると、こういうふうに見ております。
  191. 橋本敦

    ○橋本敦君 残念ながら遅かったですね。もっと早くやっておくべきなんだし、また精力的なICPOを中心とする外交交渉をやらなくちゃだめだ。リビアにおるだろうと思っていたらもういなくなってしまうし、出国する情報は入らないのですからね。この経験を私は二度と繰り返してはならぬので、今度のダッカハイジャック事件での逃亡者についても直ちに国際手配をする、これはもうやらなくちゃならぬと思いますが、これはおやりになりますか。
  192. 福井与明

    説明員(福井与明君) 今回の事件で……
  193. 橋本敦

    ○橋本敦君 簡単にやってください。やるかやらないか。
  194. 福井与明

    説明員(福井与明君) 照らし合わせました六人につきましても、アルジェリアから彼らが出国をするという状況になり、そういうことが判明すれば直ちに国際手配に付する方針で、すでに人定等についてはICPO事務総局に通報しております。
  195. 橋本敦

    ○橋本敦君 アルジェから出るということになればという条件はどういうことなんですか。もう現にICPOに出していると、こう理解していいのですね。
  196. 福井与明

    説明員(福井与明君) クアラルンプール事件の場合と同じようでございまして、アルジェリアに外交交渉でどうにか引き受けてもらったと、そういう経緯がございますので、そういうものを勘案して、出国した時点では直ちにやると、こういうことでございます。
  197. 橋本敦

    ○橋本敦君 アルジェリア政府は、出国したら直ちに日本に通報してもらうように、外務省もしくは法務省、アルジェリアに言っておりますか。私は、この前聞いたら、いまいるのかいないのか正確な情報はないと、多分いるだろうと、こんなことですよ。アルジェリア政府にそのこと頼んでおりますか。すぐこっちがICPO手配ができるように、アルジェリアを出国すれば必ず通報する、そうなっておりますか。法務大臣、お聞きになっておりますか。
  198. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 正確な情報は受けておりません。
  199. 橋本敦

    ○橋本敦君 これなんですよ。こういうことで手抜きがある、手落ちが出てくるのですよ。いま警察がおやりになったその体制を万全を期するためには、アルジェリア政府とICPO手配を直ちにやるから、出国情報を知らしてほしいということを言わなけりゃ意味がないですよ。外務省お答えになりますか。
  200. 加賀美秀夫

    政府委員加賀美秀夫君) アルジェリア政府に対しましては……
  201. 橋本敦

    ○橋本敦君 簡単でいいですから。もう終わりますから。
  202. 加賀美秀夫

    政府委員加賀美秀夫君) 十月の四日に、例の対策本部でアルジェリア政府に関する申し入れというものが決まりまして、対処方針が決まりましたので、翌日の十月五日に東京及びアルジェにおきまして、アルジェリア政府犯人をアルジェリアから出国させないこと等を含めまして申し入れを行いまして、アルジェリア政府犯人ないし身のしろ金について措置をとったならばこれを通報してもらいたいということを申し入れてございます。ただ、それに対しましてこれまでアルジェリア政府からそういう情報等を提供してきたことはございません。
  203. 橋本敦

    ○橋本敦君 どうするのですか。今後どうするのですか。しっかりやってください。
  204. 加賀美秀夫

    政府委員加賀美秀夫君) 今後とも、アルジェリア政府に対してはそういう情報等をとるように努力をいたしますし、また第三国を通じましても情報の収集には努めてまいる所存でございます。
  205. 橋本敦

    ○橋本敦君 終わりますが、そういったことで、私は国内法、刑罰体制の強化ということではなしに、本当に起こった事件の始末、今後の再発について、過激派対策が政府主体としてはまだまだなまぬるいところがある、これを改めてもらいたいということを要望して、時間が来ましたので質問を終わります。
  206. 円山雅也

    ○円山雅也君 私は、審議の対象になっております三法の改正部分の条文のちょっと疑問になるような解釈の問題についてお尋ねをし、御説明を受けたいと思います。  まず、航空機の強取等に関する法律に関しまして、以下幾つか御質問を申し上げます。  この第一条の真ん中辺に、「航行中の航空機を強取し、」と、「航行中」という言葉が出てまいります。これは、第一条の第一項は改正部分ではございませんけれども、第二項の改正部分で「前項の罪を犯した者が、」というので第一項を受けておりますので、関連する意味でこの解釈をまずお聞きしたいと思いますけれども、この「航行中」とはいつからいつを指すのでございましょうか。
  207. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 航空機の強取等に関する法律第一条第一項に言います「航行中」と申しますのは、現在の考え方といたしましては、ハイジャック防止に関するヘーグ条約にありますところの飛行中の定義と一致する考え方でございます。すなわち、航空機が乗客を乗せる業務を終わりましてとびらを閉ざしたときから、今度は着陸して乗客をおろすためにとびらをあけるときまで、これが原則でございまして、そのほかにどこかの地点で不時着をいたしましたような場合には、乗客等の生命、財産を保護するために権限ある当局がそこに到達して引き継ぐまで、これを例外的に含めた概念と考えております。
  208. 円山雅也

    ○円山雅也君 いまの御定義ですと、航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律の第二条に、航行中の航空機に関して、括弧してどういうものを航行中の航空機と言うのかというので定義があります、これとちょっと違ってまいりますが、そうすると、この処罰法の方の航行中とそれから危険を生じさせる行為の方の法律の航行中と、これ二つは違うのでございますか。
  209. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 違うわけでございまして、違うゆえんを明らかにするために、航空危険処罰法の方は括弧を付して狭く定義を限定してあるわけでございます。これは、すなわち、この関係条文をごらんいただきますとおわかりいただけると思いますが、不時着でございましても、たとえばとびらがあいて乗客がもうおりておるというような場合には、当該航空機が墜落するとか転覆するという危険はございませんし、それからまた破壊の場合の被害の程度も違うという意味で、ハイジャックにおける飛行中の概念と同じにしておくことは、不時着の場合の刑が重きに失する場合がございますので、あえてしぼりをかける意味でかようになっておるわけでございます。
  210. 円山雅也

    ○円山雅也君 これは、強取等の処罰に関する法律ができたときのその立法に携わられた法務省の参事官の方の「法曹時報」というのに書いた「航行中」の解釈に関する部分でございますがね、どうもちょっと違うのです。この解釈によりますと、「離陸前又は着陸後に空港の搭乗口と滑走路との間を往復している場合を航行中とみることはできないであろう。」というのですが、ちょっと待ってください。条約の解釈、いま局長が言われた条約の解釈につきまして、そのような解釈は、「これは機長の権限行使が認められる時間的な範囲を明らかにするためだけの趣旨で設けられたものであり、ハイジャッキングの成立範囲を拡げる趣旨を含んではいない」というふうに解釈をされておりましてね、ちょっと何かいまのお答えと違うような解釈なんです。
  211. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 御指摘のように、「よど」号ハイジャック事件にかんがみて航空機強取処罰法をこさえました当時、航行中の概念は次のように理解されておりました。動力が離陸のために作動したときから着陸の滑走が終止するときまでと、こういうふうに解釈されておりました。これはどういうことかと申しますと、当時、国際的な飛行中あるいは航行中というものの考え方といたしましてよるべきものとしては、ハイジャック関係三条約のうち東京条約しかございませんでした。東京条約の定義がただいま私が申し上げましたとおりの定義をしておりました。したがいまして、この法律が国際的なハイジャック防止の規定であることにかんがみましてそのような解釈がとられておったわけでございますが、その後ヘーグ条約によりまして国際的な飛行中の概念についての合意ができましたので、その時点から解釈もおのずから広がってきたと、こういうことでございまして、当時国会ではその都度そのように御答弁申し上げていると思います。
  212. 円山雅也

    ○円山雅也君 ありがとうございました。よくわかりました。  次に、やはり処罰法に関しますが、第二項の「人質にして」ということでございますが、これはもうすでに中野委員が御質問申し上げまして、「人質にして」の解釈はこれこれであるということの刑事局長のお答えをいただきましたけれども、先ほど刑事局長のお答えだと、人質というのは、たとえば人の憂慮に乗じて、これこれの目的で人をカタに取るというような御説明をされておりました。そうしますと、いわゆる乗客の自由の拘束にプラス何か、何といいますか担保的な意思というか、そういうものが構成要件にプラスされるのかどうかなんですけれども、質問の意味はおわかりでございますでしょうか。この点ちょっと。
  213. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) お尋ねのように、単に乗客等を監禁するというだけではなくて、第三者に対する不法な要求がいれられなければその乗客等にどういう危険が及ぶかもしれないぞという態度を示す、これを「人質にして」と、こういうふうに考えております。
  214. 円山雅也

    ○円山雅也君 そうしますと、機内に乗客を縛りつけちゃって、その状態でもって、単にたとえば金を出せとか、これこれの犯人釈放しろと言うだけだと構成要件充足にならないのでしょうか。
  215. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 乗客を縛り上げまして、その乗客に金を出せと言うのでは構成要件に該当しませんけれども、乗客がこういう状態になっているぞと、第三者に対して、これを安全にしたければ金を出せ、だれかを釈放しろと、こういうようなことを申しますと構成要件に該当することになってまいります。
  216. 円山雅也

    ○円山雅也君 そこがちょっと問題なんですけれども、そうすると、何か担保的意思を表明しない限りはだめなんでしょうか。つまり、じゃあ一番簡単な例は、乗客だけ縛り上げちゃって、押さえておいて、何にも条件については触れないで、とにかく釈放しろ、金を出せと言うだけではこの犯罪はまだ成立しないのでございますか。
  217. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 口に出してカタに取っておると言う必要はないと思います。暗黙の意思で、黙示的に、要求に応じなければ乗客をおろさないぞと、こういう態度を示せば構成要件に該当してくると思います。
  218. 円山雅也

    ○円山雅也君 それならば何も人質というあいまいな言葉をとらなくても、たとえば客の自由を拘束して第三者に何か要求をすればと言うだけでもよさそうに思われるのですけれども、その点はこのくらいにいたします。  それから同じく二項の「要求したときは、」でございますけれども、普通こういう種類の犯罪だと、要求し、約束し、収受しとかいうような、構成要件を幾つかふやします。この場合収受は結構ですが、要求はしないけれども約束ができたときに、約束を——要求だけにこの改正を限ったのは何か特に意味がございますか。
  219. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) これは人の生命身体の安全をいわゆるカタに取るという方法で第三者をおどし上げるわけでございまして、そのおどし上げる方とおどされた方が約束をするというような状態ではないわけでございます。常に犯人側が一方的に要求をすると、こういうことでございますので、要求が第三者に到達すればもう犯罪が既遂になって、それ以上、第三者がそれに応じましても必ずしも完全な自由意思で応ずるわけではございませんので、約束という概念はハイジャックについてはそもそも入ってくる余地がないのじゃないかと、こう思っております。
  220. 円山雅也

    ○円山雅也君 余地がないと言われますけれども、たとえば、もうハイジャックしちゃったと、じいっと中でいっていると、もうこちらは不安だと。じゃあ何とか金出すから乗客だけでも早く釈放しろよと、結構だということになりますと、やっぱり人質強要罪になりますかなりませんか、その場合は。
  221. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) いわゆる第三者が乗客生命身体を心配いたしまして、何がほしいのだと、それでこれに対して金を出せと、こういうことになりますと、その金を出せと言った時点で要求が成立をすると、こういうことでございます。
  222. 円山雅也

    ○円山雅也君 その辺はそのくらいにいたしまして、去る十一月の十五日でございますか、この法務委員会で八木委員からの質問に対して刑事局長は——つまり八木委員の質問は、この人質強要罪に死刑を盛り込む考えはないかという御質問でしたけれども、それに対して刑事局長は、人の生命が左右されない場合でも死刑を科する必要があるのではないかと、だから法制審議会の意見を聞いた上その実現に努力するし、また次期国会に間に合わせるようにするというような旨の御答弁をされました。そしてまた、きょうの委員会で法務大臣はやはり寺田委員の質問に対して、人質強要罪でも人命を断つに等しい場合もあると思われるから法制審議会の審議を経て進めておるというような御趣旨のお答えをされました。この点に関しましてですけれども、どうしてこれに死刑をそこまで固執して科する必要があるのでございますか。
  223. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 死刑というのは申し上げるまでもなくきわめて限定的に規定すべきものだと思うわけでございます。そこで、最近の世界の刑事立法の趨勢を反映いたしました改正刑法草案におきましても、現行刑法よりも死刑の数を減らしております。原則として人が犯罪の結果として死んだような場合にこれを科することとし、例外的に内乱とか外患、こういうようなものについては人の死亡のいかんを問わないことにしております。こういう状況になっておる場合にハイジャック問題について死刑を科することが相当かどうかということを考えるわけでございます。ところで、ハイジャックの場合、乗客を人質に取って第三者をおどし上げる、こういう状況の中でいろいろなカテゴリーが想定されますが、きわめて悪質なぎりぎりの場面を考えますと、まだ人は彼らの言ういわゆる処刑はされていないけれども、真に人を死に至らした場合と同じ程度に評価されるようなそういうぎりぎりのケースというものがあり得るのではないかと、そういうものについては現在死刑が定められておる罪と同程度もしくはそれ以上の刑罰的評価をすべき場合もあるのではないかと、そういう意味で、単純にただいま御審議願っておる罪について死刑を乗っけるということではなくて、ぎりぎりの場面をいま想定をいたしまして検討いたしておるという実情でございます。
  224. 円山雅也

    ○円山雅也君 どうも人質強要の点につきましても何とか死刑を盛り込みたいというお気持ちが、これがどうも理性的判断を失って一部国民的感情論に引きずられているように思われてしようがないのです。と申しますのは、御参考までに——これから死刑を盛り込むかどうか御審議いただくのでしょうから、ぜひその御参考にしていただきたいのは、たとえば昭和四十七年の六月二十九日にアメリカの最高裁判所が死刑の違憲判決を出しました。死刑は犯罪の防止力がないのだと、死刑なんかやったって。それから憲法違反であるから廃止すべきだという判決を出してあります。この理由につきまして、たとえば死刑を廃止した州と存続している州とを比べても、殺人発生件数はほぼ同じで死刑は犯罪防止力に欠けるということと、もう一つは死刑は修正憲法第八条が禁止する残酷で異常な刑罰である、こういう理由から死刑の違憲判決を出しております。つまりもしハイジャック防止に関して、防止の効力をねらって死刑を科するというのならば、まさにアメリカの最高裁判決が出したように余り防止力がないんじゃないか、その点裏づけのあるデータかなんかお持ちなのかどうか。  それからさらに今度は日本の方に返りまして改正刑法草案における死刑の廃止動向見ますと、現刑法で死刑にされておられる爆発物爆発罪、激発物破裂罪、現住建造物放火罪、出水による現住建造物浸害罪、水道毒物混入致死罪、強盗致死罪、それからさらに特にこれは御注意いただきたいのは汽車、船舶、航空機破壊致死罪、破壊して致死——中にいた人間を死に落としている。これはみんな現刑法では死刑ですけれども、改正草案では全部死刑取っ払っちゃっている。つまり改正刑法の方は一生懸命になって死刑を取っ払おう、取っ払おうと努力している。かつまた汽車、船舶、航空機破壊致死罪に至っては、航空機を撃墜さして中にいた人間を殺しても、現行刑法の死刑をはずして無期でとどめようという改正案を出しておられる。そうすると、法務省は一生懸命改正刑法案を通そうとされておられますけれども、まるで何か逆行しているみたい、世界の趨勢から見ても。法務省の改正刑法を何とか通そうとされる。それは死刑を少なくしようとしておられる努力と、それから今度はハイジャックのこの人質、まず人質で死に至りもしない段階のも何とか死刑にするというのはまるで矛盾しているのじゃないか。特に汽車、船舶、航空機破壊して致死罪に、人を殺した場合の改正刑法はそれでも無期といっているのに、まだ何にも殺さない人質にとっただけでもって死刑だというのは余り刑の均衡が改正法と違うのじゃないか、その辺の御意見伺います。
  225. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 御質問は二点に分かれると思います。  第一点はそもそも死刑の威嚇力の問題、それから死刑制度全般に通ずる問題だと思います。  第二点は改正刑法草案がとろうとしておる立場との矛盾、こういう御指摘だと思います。  まず後の方から申し上げますと、私ども現在立法いたします場合には改正刑法草案の立場は究極の理想でございますけれども、現行刑法立場基準といたしましてこれとの刑量のバランスということをやはり考えざるを得ない、これが現状であろうかと思うわけでございます。  それから前者の死刑の威嚇力の問題については、もう百何十年来あるいはもっと前からかもしれませんが、議論されておる問題でございまして、現に西ドイツのように死刑を廃止しておる国もございますし、そのほかにも死刑廃止の傾向を示しておる国が幾らもあるわけでございますが、わが国におきましては、しばしば行われました世論調査の結果を見ましても、なおやはり特定の場合には死刑を存置することやむを得ないという考えが一般的であるようでございます。たとえば私個人といたしましては、将来にわたって死刑のない社会に持っていくべきものだろうと思っておりますけれども、それらの国民感情その他の現状を踏まえまして真にやむを得ざる場合は死刑を規定せざるを得ないと思っております。ただ御指摘のように非常に重大な問題でございますから、斯界の権威を集めました法制審議会で慎重な御議論をいただきたいと、こう思っておるわけでございます。
  226. 円山雅也

    ○円山雅也君 そうしますと、仮に人質強要罪について死刑が認められたとするならば、当然に今度の刑法改正案の汽車、船舶、航空機破壊致死罪なんというのは、当然死刑になっちゃいますな。
  227. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 改正刑法の草案の立場先ほど御指摘のとおりでございまして、改正刑法法案を立法化いたします場合には、やはり横並びを十分考えながらもう一遍見直さなきゃならぬと思いますが、当面の結果としては御指摘のようになるわけでございます。
  228. 円山雅也

    ○円山雅也君 大体御意図わかりました。しかし、ひとつぜひ、死刑については重大でございますので、いろいろな点からの十分な御審議を御考慮いただきたいと思います。  では次に、航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律の改正点につきまして二、三御質問いたします。  この改正点は第四条でございますので、まず、これも中野委員からすでに御質問が出ました「不法に」という意味でございますが、そのときの刑事局長のお答えだと、たとえば、もしこの不法にがないと飛行機のガソリンを積み込むのでも、ガソリンについて何かこの罰則が適用になっちゃうような不都合が生じるというような御回答をされておられましたけれども、それならば、これは正当行為ですから刑法三十五条で十分なんで、たとえばそれから正当な理由なくしてとかいう、正当な理由があれば、当然にこれは刑法三十五条に全部盛り込まれるのだから、特に何か不法にということをここに持ち込まざるを得なかった、何か特に意味がございますか。
  229. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 特にという点を非常に強調しておっしゃられますと困惑するわけでございますが、刑法で言う逮捕監禁罪とかあるいは住居侵入罪あるいは信書開披罪などに見られますように、外形上同種の行為が社会生活において正常に行われることがあり得るというような場合には大事をとると申しますか、法文上そういうものは入らないのだという趣旨を明らかにする意味において不法にとか、ゆえなくとか入れるわけでございます。先ほど中野委員お尋ねの際には、不法にがないとどういう不都合が生ずるかと、こういうことでございましたので、きわめて極端な、端的な例を出しまして大変恐縮でございましたが、たとえば登録をいたしまして所持を認められておりますような刀剣類、こういうようなものでございましても、これを機内に持ち込むことは、不法に持ち込むことになるという場合もございましょうし、あるいはたとえば緊急事態で警察官等が災害地へ赴くような際に、本来航空機内へ持ち込んではならない拳銃等のたぐいを携行していくという場合には不法にではないことになりましょうし、そこら辺は、こういったいろいろな場合の考えられる条文につきましては、不法にという言葉を入れることによりまして、先ほど御指摘の刑法総則の規定の趣旨をさらに明らかにすると、こういうふうにしておるわけでございます。
  230. 円山雅也

    ○円山雅也君 これは後の質問にもまた関連してまいりますので、そのときにもう一回取り上げたいと思いますけれども、私なんかの考えだと、不法にというと、何か不法目的を持ってこういうものを持ち込んだという、構成要件にプラス何か目的罪みたいに、構成要件をプラスするように何か誤解を受けはしないかという意味で、特に、特にという念を入れたのでございますけれども、わかりました。  それから、「持ち込んだ」という意味でございますけれども、これはたとえば荷物預け、自分で携帯しないで荷物の中に入れてそれを荷物預けにやって機内の中に入れさせる、これも含むのでございますか。
  231. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) お尋ねのように、いわゆる託送荷物として飛行機の胴体の中へ入れるのも持ち込むということに当たると思います。
  232. 円山雅也

    ○円山雅也君 わかりました。  そうすると、これもずっとこれからの質問に全部関連いたしますけれども、持ち込みの禁止の対象が、「爆発物」「銃砲、刀剣類」「火炎びんその他航空の危険を生じさせるおそれのある物件」と、こうなっておりますけれども、この爆発物とか銃砲とか刀剣類は、それぞれ爆発物取り締まりの法律とか銃砲、刀剣類取り締まりの法律とかに定義されているあの定義に該当するものだけというふうに解釈してよろしいのでしょうか。
  233. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 結論的にはそのとおりでございます。それらの言葉の意義は、爆発物取締罰則とか銃砲刀剣類所持等取締法ですでに世間に定着しておると、かように考えております。
  234. 円山雅也

    ○円山雅也君 これはちょっと私が不勉強でこういう質問申しわけないのですけれども、たとえば他の法律にそういう定義がある場合には当然その定義がこの新しい法律に適用されるというのがその根拠でございますか。
  235. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 他の、たとえば特殊な法律にある定義があるという場合に、後に法律をつくれば定義が全く同じになると、そういうものではないと思いますけれども、すでに法律用語として使われておりまして、それが国民の社会生活に定着してきておる、こういう場合には、同じ法律体系の中でございますから同じように理解すべきものだと思います。
  236. 円山雅也

    ○円山雅也君 そこで、この第四条の刑罰は「二年以上の有期懲役」、二年以上ですからかなり重い罪になると思いますけれども、こういう場合どうでしょうか。たとえば飛び出しナイフは銃砲刀剣類の処罰対象になっておりますけれども、刃渡りが小さくとも。すると、飛び出しナイフをたとえばトランクの中にほうり込んであった、そのトランクを荷物預けに預けた。それでもって機内に持ち込まれたと。この場合も当然これに該当して二年以上の有期懲役になるのでございましょうね。
  237. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 飛び出しナイフの中の一定のものが刀剣類とみなされるわけでございますが、そのものについてお尋ねのようなことがあれば形式的にはこの条文に抵触することになります。
  238. 円山雅也

    ○円山雅也君 そうしますと、たとえば、うっかりトランクの中へ入れて荷物預けに預けようとした、その段階でもって中を開いたらその該当ナイフが出てきたという場合には未遂減刑——未遂になるのでしょうが、その場合は——未遂減刑したって一年以上の有期懲役ですから、ものすごく重いですな、考えたときには。その場合もそうなっちゃうのでしょうか。
  239. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) そもそもこの飛び出しナイフの中で、飛び出してパチンと固定するようなもの、これを刀剣類と同視いたしておりますことを前提にして考えますと、そういう場合も該当することになると申し上げざるを得ません。
  240. 円山雅也

    ○円山雅也君 わかりました。かなり厳しい法律だと思います。  そうしますと、「火炎びんその他航空の危険を生じさせるおそれのある物件」、これについても中野委員からちょっと御質問がありましたのですが、たとえば、じゃあ、この航空の危険を生じさせるおそれがないと、おそれのない物件だからと思って持ち込んだ場合にはこれは過失犯でもない。過失犯は処罰してないし、不成立、そういう場合は犯罪は不成立でございますか。
  241. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) 認識のそごの問題でございまして、客観的に見まして、だれが見ても「航空の危険を生じさせるおそれのある物件」であると思うようなものをそのものだと思って持ち込めば故意があると、こういうことになると思います。
  242. 円山雅也

    ○円山雅也君 いや、それが火炎びんの定義だけでも素人が読んだってなかなかむずかしい。この火炎ぴんとは定義がむずかしいですな。だから、そうすると、それにさらに今度はその輪を広げて、火炎びんその他それに類似の危険を生じさせるものかどうかの判断というのはかなりむずかしいので、この実際の適用はかなりむずかしくなるのじゃないかなあとは思うのですけれども、結論は結構でございます。  そこで、たとえば、いわゆる四条でうっかりして——過失の場合ですね、過失の場合は、当然にこれは処罰規定がありませんから不処罰になりますね。
  243. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) そのとおりでございます。  それからなお、先ほどおっしゃいました乗客の方がこれを持って入っていいかどうか迷うのじゃないかというお尋ねがございましたが、要するに危険物につきましては一般的に航空法で持ち込みが禁ぜられております。その持ち込みが禁ぜられておる中の非常に危ない物だけをこれ取り上げておりますので、まずそういう御心配はないのじゃないかと思っております。
  244. 円山雅也

    ○円山雅也君 時間の関係もありますので、以上で二つの法律を終わりまして、今度は旅券法に関しまして外務省にちょっとお尋ねします。  これはすでにもう寺田委員、それから橋本委員からも十分にいろいろな御質問がございましたので、私がちょっとお尋ねをしたいのは、この旅券の発給を拒否する場合に、旅券法十四条でもって一応その理由を付して却下をする、理由を付した書面でおまえはだめだよということになっているのだそうですけれども、この理由というはどの程度書くのでございますか、実際。たとえば一例を申し上げますと、二年に引き上げましたね、最短を。すると、何条の二年に該当するからという程度のものでボーンとけ飛ばすのでございましょうか。
  245. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) 通常は関連条文だけを書きまして示すわけでございますが、必要に応じて補足説明をすることがございます。
  246. 円山雅也

    ○円山雅也君 ああそうですか。そうしますと、先ほどから、つまり、乱用を防ぐために基準通達を出していろいろこういう点にしぼりをかけるのだということですけれども、じゃ、そのかけられたしぼりでもっておれは発給を拒否されたのか、そのしぼりとは余り関係なくて拒否されたのか、単に条文だけ提示の理由じゃ全然不服申し立ての道がわからぬですね。
  247. 賀陽治憲

    説明員(賀陽治憲君) その点でございますが、今後は通達と内規で運用いたしますと確かに御指摘のような点が出てまいると思いますので、先ほど申し上げました補足説明の点を強化いたしまして、なるべく申請者にわかりやすいようにやらしていただきます。
  248. 円山雅也

    ○円山雅也君 ありがとうございました。終わります。
  249. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) この際お諮りをいたします。  委員外議員和田春生君から発言を求められておりますので、これを許可することに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  250. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 御異議ないと認めます。  和田春生君。
  251. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) 今回提案されました関係法の改正の部分につきましては、議論をするといろいろな問題点もあろうかと思いますけれども、私ども原則的に賛成の立場でございます。ただしかし、幾ら法律の改正をいたしましても、それを守っていくという決意また責任体制というものがなければ何もならなくなるということがあると思います。そういうことで、こういうハイジャックの再発を防止すると同時に、もし、不幸にして再び発生した場合にそれに対応する政府の姿勢、そういうものに重点を置いてまずお伺いをしてみたいと思います。同僚委員各位のいままでの質問とあるいは重複するところがあるかもわかりませんが、その点お許しを願いたいと思います。  最初にお伺いしたいのは、今度の改正が今回のハイジャックの前に行われておった、こういう法律があったとすればあれは防げたとお考えでしょうか。その点をまずお伺いしたいと思います。
  252. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) このいま提出いたしております法律があったらあの事件は起こらなかったと私は断言できないと思います。それよりも、非常な困難な対応でありますけれども、先ほど来御説明申し上げておりますように、また御承知のように、とにかく、こういうことが起こらないようにもう可能な限りの努力をすることがこういう犯罪を防ぐ第一の要件であると思います。それは国の内外を問わず全力を挙げてやると、これが第一だと思いますが、しかし、犯罪に対しては起こらないことを、予防するといいますか、起こらないことを考えるわけでありますけれども、やはり、起こった場合についてはそれの責任を問うと、これはまた、一つの手だてでありますから、そういう意味で御提案申し上げておるわけでございます。
  253. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) もう一つお伺いしたいのは、それでは、もしこの改正と同じような法律がすでにできておったとした場合に、今回の事件政府は超法規的措置とか超実定法的措置とかいろいろ言っておりますけれども、ともかく逮捕をし、すでに凶悪な殺人まで犯した犯人釈放をして、赤軍にこれをのしをつけて、しかも身のしろ金というせんべつまでつけて送り届けましたね。この政府のとった措置というものは起こらなかったと思いますか。
  254. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) これは先ほど申し上げたように、このいま御提案申し上げておる法律が仮に前にあったとしてもあれが起こらなかったとは断言できないと、かように思います。
  255. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) 事件じゃないのです。政府が超法規的措置と言っておったあの措置はとらずに済んだのか、ああいうことは起きなかっただろうかということを聞いているわけです、これがあったとすれば。
  256. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) これがあったからということには私はならないと思いますが、まあお問いの言葉にはなかったですけれども、御承知のように多数の人命を何とか確保したいと、こういうやむにやまれない措置としてああいう措置をとった、いわゆる超実定法的措置でございます。これは私どもはやはり憲法その他の法律自体がいわゆる国民といいますか、人間生命を尊重する大前提でできておると思いますから、可能な限り人命を尊重するために手段を講じたと、こういうことでありますけれども、午前中にも申し上げたわけでありますが、そういう手段をとることによって根本の憲法あるいは法律が志向しておるその目的を阻害するようなことがあってはこれは断じてならない、こう考えております。でありますから、もし同じような要求、同じようなケースがあったらやはり超実定法でやるのかと、こういうお尋ねでありますれば、かようなことは繰り返してはならない、かように考えております。
  257. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) わかり切ったようなことを二つほどお伺いしたのですけれども、幾ら罰則を強化してもそれが守られなければ何もならないと思います。それから、いまも議論になっておりましたが、今回は提案をされておりませんが、仮に人質強要行為に対して死刑をもって臨むと、こういう法律改正を行ったとしても、死刑が執行される前に今回と同じような事件が起こってその犯人を返せ、返せなかったら人質を殺すぞと、こういうふうに言われて釈放してしまえば全くその法の規定というものはナンセンスになるわけです。そのことについていま法務大臣は超実定法的な措置を二度と繰り返してはならないと、こういうふうにおっしゃったわけですけれども、二度と繰り返してはならないのではなくて、私は今回とった措置がよかったか悪かったか、将来におけるこの種の事件の防止と、発生した場合にそれに対応する政府として、国家として果たすべき責任というものについて今度の政府のとられた措置がどういうかかわりを持っているか、根源的な問題があると思うのです。国会の委員会ではございませんでしたが、ほかの場所でこの問題については法務大臣に御就任早々の瀬戸山先生とも論じたことがありました。また他の政府閣僚の人たちとも論じたことがございました。全然その点についてはっきりしたお答えは残念ながら私は聞いておらないのです。  そこで、その点についてお伺いしたいと思いますが、いま法務大臣が多数の人命の安全を守るためにあれはやむを得ない措置としてとったのだとおっしゃいましたですね。あの措置はそういう意味人命尊重第一というたてまえにおいて政府としては正しかったと、あるいは最低限やむを得ない必要な措置であったと、こういうふうに現在でもお考えになっておりますか。
  258. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 正しかったといいますか、ああいう緊迫した状況の中で百数十名の乗客乗務員生命を何とか手の届かないところで助けようという措置でございますから本当にやむを得なかったと、かように肯定しておるわけでございます。
  259. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) 本会議における福田総理の本件に関する答弁説明等を聞いてみましても、いまの法務大臣のお答えを聞いてみても、人命尊重というものが非常に重要であるから真にやむを得なかったというふうにおっしゃるわけです。しかし、私はこの種の問題を論ずるときに人命か超法規的措置、超実定法的措置といっても、いずれにしても法律を超えて、法律を破った措置でありますが、その人命か超法規的措置かという二者択一の命題を出すことが間違っているのではないかと思うんです。人命をおろそかにしてもいいという公理が出てこない以上すべて超法規的措置というものはよかったという結論にならざるを得ないのですね。したがって、あくまで人命を尊重しているように見せながら、実は人命尊重ということを免罪符にして政府の責任を逃れる弁明にすぎないのではないでしょうか、その点はどうお考えになりますか。
  260. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 私は、人命尊重と、超法規的措置と言われましたけれども、いわゆる法治国家を維持しなきゃならないと、こういうこととは二者択一とは全然考えていないわけでございます。これは人命尊重というのは、繰り返すようでありますが、憲法法律全部それをねらっての制度であろうと思います。でありますから、問題はいわゆる人命尊重と言われるものが根本を崩すものになるのかならないのか、そこで判断を決めなけりゃならぬのじゃないかと思います。私はこういうことを繰り返して、ただ人命尊重人命尊重ということだけで実定法を次々に破っていくということは、本来の憲法なり法律制度国民全体の人命尊重を阻害するおそれがある、こういうことになってはならないという判断をしなければならない、かように考えておるわけでございます。
  261. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) 一応そういう説明言葉の上で私は成り立つと思うわけであります。しかし、いま法治国家として法律の枠内でいろいろなことをやろうと思ってもどうしても法律の枠内では処理できない、あらゆる場合について規定をしていくわけにいきませんし、例外的な措置を必要とする場合もあるかもわからない、そういう場合と今回のハイジャック犯人のやっていることとは本質的に違うのじゃないでしょうか。つまり、相手は法治国家そのものを否定してかかっている、そして殺人犯を含む凶悪な犯人釈放しておれたちの手に渡せと言う、しかもそれに人質の身のしろ金としての膨大な金を要求をした。今回政府はしばしば言われておりますように、それに対して犯人要求というものは結果としてはまるのみにいたして、向こうの言いなりになった。後、それにどう対処するかという方法も特別に講じておられないようなんですね。したがって、私は、仮にそれならば今後は、この事件を契機にして、このハイジャック犯人——赤軍派たちがエスカレートさしてきて、どこかでまたハイジャックを起こした。そして容易に日本政府の手が届かないようなところで多数の人質を取る、そしてわれわれの敵である警察庁の長官の身柄を引き渡せ、それから人質の身のしろ金もたとえば一人について一千万ドルずつだと、何十億という、まあ何百億、何千億円という巨大な額を吹っかけてきた、そしてそれを渡さない限りその人質は殺すぞと、そういう脅迫があったとした場合、これはどこだか手が届かない、どうにもならぬと、警察庁長官を日本政府犯人に引き渡しますか。何千億円というような膨大な身のしろ金をやはり渡しますか。人命尊重が第一であって、そのことが超法規的措置というものを合理化するという前提に立つならば、それも認めなくてはいけないことになるのじゃないでしょうか。その辺のお考えを伺っておきたい。
  262. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 他のことから申し上げて恐縮でありますが、西ドイツは御承知のような措置をとりました。それに至るまでは、事細かに詳細をきわめておりませんけれども、西ドイツはやはり人命を尊重するといいますか、助けるために犯人要求に応じたことが数回ありました。こういうことを続けていくと、西ドイツの国家自体がおかしくなるという見解であろうと私は考えますが、それに応じなかった。御承知のように彼らは一つの目標、目的を持ってやっておりますから、最良の方法は先ほど申し上げましたように、事前にそういうことにならないようなチェックをするということでありますが、彼らの目的を達成せられないようにすることがこういう犯罪の再犯、再発を防ぐ最良の方法であるといえます。要求に応ずるということは、彼らの勢力をますます増すだけでございます。でありますから、彼らの要求はこういう手段では望めないのだと、達成されないのだという断固たる措置に出なければ終息することはないと、かように考えておるわけでございます。
  263. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) 西ドイツ政府の例をお出しになりましたけれども、私は、今回の西ドイツ政府がとったことと、日本政府がとった措置というものをここで単純に比較をして、どっちがいいか悪いかという議論をしようとしているわけではありません。この種の事件を起こさないように、万が一発生した場合には適切に解決をするということのためには、あらゆる事前の防止策というのが必要だと思います。それが第一だと思うのです。しかし、向こうはすきをねらってやろうという凶悪な意図を持って計画的に挑戦をしてくるわけでありますから、やはり一〇〇%完全に防ぐということはなかなかむずかしい。不幸にして、また同種の事件が起こるという場合があり得る。起こった場合に、それに対しては犯人の意図を達成させないという対応策というものが後ろの備えとしてなければ、防止策を幾らきちんとやってみたところで、起きてしまったらおしまいで、お手上げになって、結局犯人要求の言いなりになってしまうということでは、幾らそのエスカレートさせないようにしようと、再発をさせないようにしようと、こういうことを言ってみても何にもならぬわけですね。同時に、こういう事件を防止しようとすれば、国際的な協力が必要だということが再々強調されております。これも非常に必要です。やはり政府としてはベストを尽くして努力をしていただきたいと私は思う。しかし私が接触した範囲内でも、それを国際的な世論というかどうかわかりませんが、外国人たちの今回の日本政府のとった措置に対する目というものは非常に冷たい、あるいは侮べつ的な感情を持っておる。それはなぜかといえば、今回釈放して、しかも彼らの軍資金になるであろうと思われる巨額の金をつけてともかく日本は放してやったわけです。そしてその赤軍にいわば力をかしてやったわけです。これらの諸君が世界のどこかで、またどこかの国の飛行機をハイジャックする。そして人質をとって膨大もない身のしろ金をゆすり取ろうとしたり、あるいはその政府に対してとうていのむことのできない政治的な要求を突きつけたり、あるいは人質の人たちを殺害をしたり、そういう事件を起こしたときに、今回の日本政府のとった措置は、まさにそういう赤軍派の今後起こるかもわからないハイジャックに対しては、少なくとも共犯幇助の罪は免れないと思うのです、法的にそうなるかどうかは別として、助けてやったわけですから。例はよくないかもしらないけれども、自分の庭のごみを掃き出して自分の庭はきれいになったというけれども、隣のうちにはごみが行ったと、もっとそれよりも悪いことをやっているのじゃないかと思いますね。そういうことをやっておいて、国際的に協力しましょう、ハイジャックは二度と起こさないことにいたしましょう、日本も率先してやりますから協力してくださいといったって、冷笑をこうむるのは私はあたりまえだと思うのです。そういう点についての措置というものについての政府のやはり深刻な反省と、今後防止をするためにベストを尽くすと同時に、もし事件が起きたときに犯人要求に屈しないように、しかも人質の人命を最大限尊重して助けるようにするための具体的な対策と、それに対する準備と、こういうものがなければ何もならないと思うのです。ところが、政府から出てきましたこのハイジャック防止に対するいろいろな面についても、なるほど防止という面についてはいろいろ書かれておりますよ、あるいは赤軍について国際的な協力を求めてその根源を断つということを言っているわけです。幾ら根源を断つといっても、今回、政府がとったことは根源を断ったのじゃなくて、赤軍派の戦力増強に加担しているわけでしょう、はっきり言って。だから、その点を徹底的に改めていってどういう措置を講ずるかということがなければ、やはりその対策というものは決して満足されるものに私はならないと思うのですね。幾ら予防を一生懸命やっておっても千仞の功を一簀に虧くということになるのじゃないか、したがって、予防の方はこれからもいろいろやりましょう、われわれも全面的に協力をします。しかも防止対策というものについては、人間考えることですから一〇〇%完全なものはないと思う。それぞれ一長一短あるでしょう。そういうものはできるだけ積み重ねていってその長所をお互いに牛かしながら防止するために努力をすると、そういう政府措置について私たちも協力するにやぶさかではありません。しかし、私がさっきから言っている肝心なところが抜けておったら、また起きたときに何もならないことになる。その対策はないじゃないですか。それに対する政府の決意もありません。総理からも聞いたことがない。法務大臣からも具体的に説明をされていない。それをどうするのですか、その点をお伺いしたいと思う。
  264. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 同じことを繰り返すようでありますが、彼らの野望を、将来にわたって望みを捨てさせるといいますか、そういう野望を達成することは不可能だという措置をとらなければ、これは根絶しないと思います。しかし、これは言うはやすくして、そう簡単でないと思います。かような事件が起こりましたときには、やはりわれわれは人命を尊重する意味で政治をしておるわけでございますから、法律制度もそのためにあると思います。でありますから、それに最大限の努力をする。しかし、そのために彼らの野望が達成されたり、あるいはわが国の法治国家としての基本が崩れたりするということは、これを許してならない。あらゆる努力をして人命を救うことに全力を尽くしますが、それでもなおかつその措置がとれない場合も考えれば想定されますから、さっき申し上げたように、彼らの要求に簡単に屈しないという手段をとるよりほかに方法がないと、なかなか国際的の関係がありまして、こちらがどこでも出ていってやれるという問題じゃありませんから、いまの世界は。和田さんのおっしゃることはよくわかりますが、それ以上のことを言えと言われても、なかなか明確なお答えは正直なところできないわけでございます。
  265. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) 明確な答えができないということ自体、私は非常に残念だと思うのですね。で、西ドイツ政府の今回とった措置と、よく言う人がおります。成功したからよかったと、失敗しておったら大変なことになったのじゃないかと、一種のかけであったと、こういう批判をする人もおると思うのですね。しかし、やはり西ドイツはこれまでのハイジャックの幾つかの経験にこりて、いま法務大臣がおっしゃったように、犯人たちのよこしまな野望は達成させない、そのためのいろいろな方策を検討し、積み重ねて準備をして来ておったわけです。それがあったればこそあのかけに勝つことができて、もちろん、機長とシュライヤー氏と、二人の貴重な人命が非情に失われるということはあったけれども、ハイジャック犯を撃滅をして人質のほとんどすべてを無事救出することができたわけですね。それだけの用意があるからこそ簡単には屈しないという姿勢がとれたと思う。しかし、そういうような起こり得る場合を想定して対応する日本政府の方策、決意、準備、具体的ないろいろな措置と、こういうものがなかったならば、幾らあなたが最善の措置をして、最善の努力をしても口先だけに終わるのですよ。そのことが出てないではないですかといって聞いている。この対策の中には、防止の方だけじゃないですかと言っている。やはり具体的にこういう手もある、こういう手も、こういう手もあるなんということを書いて並べろなんというばかなことを言えません、敵に手のうちを見せるようなことは。それがなかったら、ハイジャック対策としてはしり抜けじゃないかということを言っているわけです。前段の方は幾らでも協力しましょう、やってもいいと、それがない、そこに日本政府の非常に大きく抜けたところがあるのじゃないか、その点はどうかということを聞いているわけですよ。言葉の上の最善の努力はもう結構ですよ、何回も聞いたのです。
  266. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) ドイツの場合のお話がありましたが、ドイツの場合は御承知の特殊部隊を持っておって、まず第一は、外国の警察によって適当な措置をとってもらうか、あるいは西ドイツの特殊部隊と合同で特別の措置をとるか、場合によっては自国の特別隊で処置をするか、いろいろ考えてやられたようであります。わが国でももちろんそういうことを大いに参考にしなければならない、こういうことも考えておるわけでございますが、御承知のように、わが国で警察をよそに出すかどうかというところは簡単にまた考えられない事態でございます。警察のいわゆる特殊組織をつくって、専従研をつくって対策を講じようなどということも申し上げておるのは、やはりそういうことも考えながら対策を講じなければならないということでありまして、なかなかわが国だけのことで簡単にやれると思えませんから、そう簡単に御満足のいくような答弁ができないと、かような次第でございます。
  267. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) この問題で押し問答しておっても、もうそれに対してはっきり答えるだけの準備がないのですから、時間のむだにもなると言えば言い過ぎかもわかりませんけれども、そんなむなしい気がするわけです。たとえば、「日本赤軍対策」という中にも、「日本赤軍に対する情報収集および取締まりを強化する。このため早急に所要の専従組織を発足させる。」と書いてありますね。それは赤軍対策として私は結構だと思うのです。しかし、その裏から、いや警察をしかし出すと言っても国際関係もあってなかなかむずかしいし、簡単にはいきませんしと言っておったのじゃ何にもならないのですね。むずかしいことをどうやらせるかということが問題だろうと思うのですよ。それをあえて西ドイツの場合はやったわけでしょう。単にそういうような実力行使という部隊を準備するだけではなくて、外交関係から、国際関係からいろいろな面においてやはりその対策を積み重ね準備をしていったと、そのことがああいう行為というものを成功に導いた原因じゃないか。したがって、あれもむずかしいこれもむずかしいと言っている、そういう日本政府がいかぬと言っているのですよ。むずかしいのは初めからわかっているのですから、相手は特定の意図を持った凶悪犯なんですから、法治国家に挑戦してきているわけなんですから、むずかしいのは決まっている、むずかしいことを言うなと私は言うのですよ。そのむずかしいことをどうやって乗り越えていくかということを具体的に考えなくちゃだめじゃないか。しかも、日本がねらわれているわけですね。私は、この際申し上げたいのですけれども、人命尊重第一ということは正しいですよ、あくまで人命は尊重されなければならない。そのことはこれはだれからも認められていることだと思うのです。しかし、私たちの人間が住んでいる社会の価値というものがある。そして、その社会で共存されているわれわれ人間というものがあるわけですから、社会は人間がつくっているのだけれども、人間は社会から離れたら人として生存していくことができないわけでしょう。その社会の価値というものを守っていく、その社会で共存している人間を守るということのために、そのために法律も存在をする。国家が公権力によってそれを遂行するということに私は国家の使命があり責任があると思うのだ。たとえば、自衛隊とかあるいは治安のための警察ということをお考えになってください。これは、やはり一たん緩急があった場合に、外敵が侵略してきたらそれを第一線に立って防止するという任務を持ってそういう防衛力というものは行われている。警察はやはりその社会の治安を守るために存在をしているわけだ。もし人命尊重第一ということが、そういうような社会の価値や社会に生存する人間の安全を守るために公権力を行使する点においても普遍的な原則であるとするなら、敵が攻めたときに自衛隊——そんなことあっちゃならぬけれども、自衛隊の隊員は命あっての物種ですたこら逃げてしまえばいいのですよ。凶悪犯人に警察官が立ち向かうときに、おれの命が危ないからと言ってどんどん逃げちまえばいいわけなんですよ。人命尊重第一なんだから非難することできないでしょう。警察官の人命も人の命です。自衛官の命も人の命ですよ。あるいは消防隊だってそうだと思いますね。煙の中に巻き込まれたおばあさんがいる、助けに入って命を失うことがあるかもわからぬけれども、それはやはりそういう責務というものがあるわけでしょう。そのことを考えると、人命尊重が第一であるという命題を達成するためには人命・尊重、それか超法規措置かという二者択一じゃなくて、そういうわれわれの人間の生きている社会の価値を守るために、そこで共存する人間の安全を守るためには人命が失われる場合もあり得るというのが、ある意味でいけば人間社会の非情な側面じゃないでしょうか。私はそこを申し上げている。それを考えていくのが政治家の責任だろうと思うのですよ。人命尊重第一で人質が助かったからよかった。私も非常によかったと思う。ほっとしましたよ、あのときに。ああよかったと思って、テレビを徹夜で見ておった。しかしその結果、やったことはまさにそういう意味では法治国家の崩壊につながっていく、国家の責任の放棄につながるという可能性を持っていることをおやりになったわけでしょう。そういうことを二度と繰り返したくないというのなら、私はそこを考えるべきじゃないか。それが政治家の責任ですよ。それを突かれると、人命尊重第一だ、だからやむを得なかったと言うから、政府の立てているのは、人命か超法規措置かという二者択一の命題をあなた方は立てているというのだ。人命は失ってもいいのだという答えが出せなければ何をやっても皆よかった、やむを得なかった、余儀なかったということになっちゃう。免罪符になってしまうわけです。それではいかぬということを言っているのです。その点に対する法務大臣としての決意をお伺いしたいと思います。
  268. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) しばしば申し上げておりますが、私がえらい激烈なことを言うように誤解されておるところもあると思いますけれども、おっしゃるとおりに私は考えておるわけでございます。もちろん人命を尊重するということは、これは当然でございますが、それは大きな意味人命考えなきゃならない。でありますから、時と場合によっては血を流してでもその決意を断行しなきゃならない、かように考えておるわけでございます。
  269. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) 決意を断行するということも考えなくてはならぬというお話でございますから、この問題はこれ以上ここで議論をしようと思いません。しかし、その決意を断行するためには、くどいようですけれども、そうした場合が発生したときに、防止のためにいろいろな措置を講じてもなおかつ不幸にして発生したときにそれに対応するだけの事前の準備と態勢というもの、国際関係も含めてやっておかなければ私は口頭禅になるのではないか。その点をひとつ積極的に政府の責任において、また広く協力を求めて進めていただきたい。そうでなければ幾ら防止対策をとっても千仞の功を一簣に虧くと、こういう形になるのではないかと思いますので、特にそれを申し、添えておきたいと思います。  次に、今度は具体的な問題について質問いたしたいと思いますが、航空保安官制度、あるいは私たちの民社党の場合には警乗公安官制度ということを言っておりますけれども、これについてここに注として記されておるところを見ると、「実際の運用上危険を伴う可能性があるが、その予防効果も見逃し難いのでなお検討することとする。」これは一体どういうことを言っているのでしょうか、さっぱり意味がわからぬ。
  270. 永井浩

    説明員(永井浩君) 航空保安官制度につきましては、そこに書いてございますように、かなり問題がございます。と申しますのは、仮にこういう制度をつくりますと、航空保安官は職責上武器を携帯するであろう、またそれに対抗いたしましてハイジャッカーも武力を行使すると、こういう場面が予想されるわけでございますが、そういった場合に特に乗客あるいは乗務員に危害を与える、あるいは航空機の中に各種装備がございますが、こういったものを破壊することによりまして航空機の操縦不能、あるいは火災、あるいは爆発、気圧の急速な低下といったようなきわめて危険な状態も予想されるわけでございます。しかしながら、こういった航空保安官が乗っているということによって予防効果と申しますか、そういった面も無視できない面もあるかと思います。それでそういった利害得失というものをさらに詳細に検討いたしまして、慎重に検討してまいりたいということで今後の問題とされておるわけでございます。
  271. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) われわれの考えていることと一部合うのですが、どうも私たちから言わせると、いまの答弁がおかしいじゃないかと思うのです。というのはたとえば航空公安官が乗っておって小型の武器、仮にピストルを持っておったと、犯人と撃ち合いになる。そうすると航行中の飛行機の場合にはあるいは墜落をして全部死亡してしまうというような大惨事に発展する可能性もある。したがってそういうことはやめるべきだというような批判的議論もありますよね。で、いまおっしゃっているところも、中でそういう形で犯人と公安官の間に争闘が起きた場合に不測の事故を起こすのじゃなかろうかという意味のことがありましたね。しかし、それはドンパチ撃ち合いをやるというのは最後のことなんですよ。まさにそれはここに書いてある予防効果ということがねらいなわけでしょう。警察官がピストルを持っているというのも、ピストルで撃ち合いをすることが目的じゃないわけでしょう。持っているということがあるから凶悪犯人でも一歩退くという抑止効果ということをねらっているわけでしょう。ですからその使用規程には非常に厳重ないろいろな点が決められておりますね。同じような議論をすれば、いままでも何回かそういう事故があったけれども、警察官の保持している拳銃を強盗犯人がかっぱらって、それで人を殺す危険性があるからやっぱりあれ拳銃を持たすことは危ないと、あるいは自衛隊、これについては賛成、反対の立場があるかもわからぬけれども、いざ戦争になったときに相手にやられて兵器を持っていくとその兵器で今度はこっちが撃ち殺されることになるからそれも考えた方がいいと。物事にはみんないい面ばかりないのですよね。そういうふうに議論を発展させていけば堂々めぐりで結論が出ない。私が何を言っているのかわからぬというのはそのことを言っているわけで、まさにわれわれが航空公安官なり警乗保安官の措置考えろというのは、乗っているということが一つの抑止効果になるので、簡単に起こせないぞと、あるいは制服の者が一人おったとしても、私服の者が中に二人なら二人、三人なら三人入っているかもわからないということがわかれば、なかなか行動を起こすということができないではないか、あるいは犯人が行動を起こした場合でも少数の場合には有効にこれを取って抑える可能性があるかもわからない。そういうような抑止効果、防止効果というものが保安官とか公安官という者の主たる任務なのであって、中でお互いにピストルでドンパチ撃ち合いをやることになったというのは最後の最後の最悪の事態なんでしょう。その最悪の事態を先へ持ってきて、「実際の運用上危険を伴う可能性があるが、その予防効果も見逃し難い」というのは、まるで結局そういうことはやるのかやらぬのか見当もつかないような議論をやっているので、慎重に慎重にと言っているわけでしょう。最初から私が申し上げましたけれども、ハイジャック防止というのはすべて一長一短があると思うのです。全部完全な措置はないですよ。みんな短所がある。しかし、長所のあるものはすべて取りそろえておく。何もすべての飛行機に、ここで言うところの保安官や公安官を強制的に乗り込ませるということをしなくても、そういうことがやれるという体制をとっている、空港の警備、航空機の警備、ハイジャック犯人に対する対応策、そういうものを、訓練されたそういう部隊がある、そういう人々がおると、こういうものがちゃんとあってこそ日本の主権が及ばない外国の地で何か起こったという場合においても、先ほど法務大臣に私が申し上げておった手を、中に乗っている者がとらなくても、外から手を打つ、その場合に中からこうするということだってあり得るわけです、うまくいくかいかないかということはなかなかむずかしい問題だけれども。そのメリットの部分をなぜ生かすためにやろうとしないのか、そして中で撃ち合いになったら危いから問題があるなんという議論をしておったのでは対策は進みはしないと思うのです。その点いかがですか。
  272. 永井浩

    説明員(永井浩君) 確かに先生御指摘のようなメリットも非常にあるかと思います。ただ一般的に申しますと、ハイジャッカーというのは非常に武器を多量に持っている、あるいは相当威力の強い武器を持っておるということと、一方におきまして航空機が非常に航行中におきましても常に最大の安全を図って航行しなければいけないということでございまして、航空機の機内というのは非常に精密な装備があるということで、抑止効果はもちろん十分あると思いますけれども、逆に機内での武力の行使というものも相当な可能性考えなければならない。その場合に非常な危険をもたらすというおそれもあるわけでございますので、そういった点は単に一般の地上における警備等とはかなり異なるのではないか、このように考えております。
  273. 和田春生

    委員以外の議員(和田春生君) それがおかしいと言うのですね。大量の武器を持っているからと言って、ハイジャッカーが航行中の飛行機の中で大量の武器を使うということは、彼ら人質もろとも吹っ飛んじまっちゃうことなんですから、自分たちもね。それは自殺行為でやるという形になれば別ですよ。したがって、そういうことになるというのは最悪の場合なんで、あるいは公安官ないしは保安官というものが乗り込んでいなくても、そういう自暴自棄的なことをやるやつが場合によったら出てくるかもわかりませんね。だから、そこのところを考えて問題があるという議論の立て方が私は逆立ちしていると言うのです。そういうような場合にはどういう対応姿勢をとるのか、それはそういうような任務につく人々の訓練とか、ハイジャック防止のためにやるべき任務の中身においてそういうことを回避しながら効果を上げるように検討すべきことではないかというのです。そのことを想定していいの悪いのと言っておったら、結局何もできないことになりますよ。議論が逆さまなんじゃないか。そういう制度をつくる、つくって推進していくためにはこういう問題もある、こういう問題もある、これはどういうふうにして防いでいくか、どう対応するか、そういうふうに進めることが私はハイジャック防止、そういう面においては非常に重要なことなのじゃないか。先ほど法務大臣に質問をいたしましたことの内容についてもいま言ったことと関連しているわけなんです。ですから、そういうようなああでもない、こうでもない、あっち見たりこっち見たりして議論をせずに、いいと思ったら全部やる、どんどんやる、しかしそれによって起こり得るであろう短所はどうやって防ぐかということを真剣に考える、ぜひそういう態度でこのハイジャック防止に取り組んでもらいたい。このことを要望いたしまして、私の質問を終わりたいと思います。
  274. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 本案に対する本日の審査はこの程度といたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後三時五十八分散会