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1977-10-27 第82回国会 参議院 法務委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十二年十月二十七日(木曜日)    午前十時八分開会     —————————————    委員異動  十月八日     辞任         補欠選任      宮崎 正義君     中野  明君  十月二十五日     辞任         補欠選任      中野  明君     宮崎 正義君  十月二十六日     辞任         補欠選任      宮崎 正義君     中野  明君  十月二十七日     辞任         補欠選任      吉田忠三郎君    目黒朝次郎君     —————————————    出席者は左のとおり。      委員長        中尾 辰義君      理 事                 大石 武一君                 八木 一郎君                 寺田 熊雄君                 中野  明君      委 員                 大島 友治君                 河本嘉久蔵君                 山本 富雄君                目黒朝次郎君                 橋本  敦君                 円山 雅也君    国務大臣        法 務 大 臣  瀬戸山三男君    政府委員        警察庁警備局長  三井  脩君        法務政務次官   青木 正久君        法務大臣官房長  前田  宏君        法務大臣官房司        法法制調査部長  賀集  唱君        法務省民事局長  香川 保一君        法務省刑事局長  伊藤 榮樹君        法務省保護局長  常井  善君        法務省入国管理        局長       吉田 長雄君        外務省アジア局        長        中江 要介君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所総務        局長       大西 勝也君    事務局側        常任委員会専門        員        奥村 俊光君    説明員        警察庁刑事局捜        査第一課長    平井 寿一君        警察庁警備局外        事課長      城内 康光君        外務大臣官房領        事移住部外務参        事官       橋本  恕君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○理事補欠選任の件 ○検察及び裁判運営等に関する調査  (法務行政基本方針に関する件)  (派遣委員報告に関する件)  (変死体身元確認手続に関する件)  (法廷の秩序維持に関する件)  (入国管理に関する件)  (犯罪被害者補償に関する件)  (地方法務局配置等に関する件)  (金大中事件に関する件)     —————————————
  2. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) ただいまから法務委員会開会いたします。  委員異動について御報告をいたします。  昨二十六日、宮崎正義君が委員辞任され、その補欠として中野明君が選任されました。  また、本日、吉田忠三郎君が委員辞任され、その補欠として目黒朝次郎君が選任されました。     —————————————
  3. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 理事補欠選任についてお諮りいたします。  委員異動に伴い、現在理事が一名欠員となっておりますので、この際、理事補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により委員長の指名に御一任を願いたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事中野明君を指名いたします。     —————————————
  5. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 検察及び裁判通常等に関する調査を議題といたします。  まず、瀬戸山法務大臣から所信を聴取いたします。瀬戸山法務大臣
  6. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 一言ごあいさつ申し上げます。  このたび、はからずも法務大臣に就任いたしました。申すまでもなく、法務行政の使命は、法秩序維持国民の権利の保全にあると考えますが、わが国の内外にわたりきわめて厳しい問題が山積しているこの時期に当たり、その職責の特に重大であることを痛感いたしております。私といたしましては、委員長初め委員各位の御理解と御協力を賜りまして、所管行政の各分野にわたり、時代の要請に応じた適切な施策を講じ、国民の期待する法務行政推進のため、誠実に職責を果たしてまいりたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。  ところで、この機会に当面の問題について若干申し述べたいと存じますが、まず、今回の日航機ハイジャック事件における政府措置につきましては、多数の人命に対する緊迫した危険を回避するため、やむを得なかったものと理解いたしております。しかしながら、犯人らの無法な要求に応じ、重大な犯罪によって身柄拘束中の者を、一度ならず二度まで釈放せざるを得ないという事態に至りましたことは、まことに無念というほかございません。  およそ、わが国を含む法治国家は、多年にわたる先人の努力と犠牲の上に定立されたものであり、国の法秩序が厳正に維持されることが、法治国家存立の基盤をなし、また、そのことによって国民の一人一人が自由と平和を享受し得るものであることに思いをいたしますとき、暴力によって法秩序を根本から破壊しようとする者に対しては、国民全体が、みずからの自由と安全を守るため、断固として法秩序を守るという認識と気概をもってこれに対処することが必要であると考えるのであります。私といたしましては、この種の事犯が三たび発生することのないよう、その防止対策に全力を傾注してまいりたいと決意いたしている次第でございますが、将来不幸にして同種の事件が発生いたしました場合には、人命の尊重についても配意しつつ、ただいま申し上げました観点を踏まえ、世論の動向等をも十分参酌して、慎重かつ厳粛に対処する所存であります。  次に、立法関係、特に刑法全面改正についてでありますが、法務省では、御承知のとおり、昭和四十九年五月に法制審議会から答申を受けた改正刑法草案を土台にして、政府原案作成のための作業を進めております。この改正刑法草案は、法制審議会が十八年間にわたって慎重に審議を重ねた結果完成するに至ったものであり、内容的にもきわめてすぐれたものであると承知いたしているのでありますが、刑法は、国民生活に深いかかわりを持つ国の基本法一つであり、その改正については、国民大多数の合意を得る必要があることは申すまでもないところでありますので、さらに広く国民各界各層意見十分耳を傾け、尊重すべき意見は尊重して、真に現代社会の実情に合致し、かつ、将来にわたって適合し得る刑法典の実現に心がけたいと考えております。最近、衆議院法務委員会を中心として刑法全面改正問題について検討を行う機運があるやに伺っておりますが、国民総意を代表する国会において、この問題について検討がなされることは、今後法務省政府原案作成作業を進める上においてきわめて有意義であると存じますので、そのような取り運びになりました場合には、法務省としての考え方も十分御説明いたすこととし、また、関係各位の御意見を虚心に拝聴いたしたいと考えております。  以上、簡単ではありますが、私の心持ちの一端を申し述べた次第でございます。もとより、これらのことは、委員長初め委員各位の御理解、御協力なくしては果たし得ないのでありますから、どうかよろしく御支援、御鞭撻のほどをお願い申し上げます。
  7. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 青木法務政務次官から発言を求められておりますので、この際これを許します。青木法務政務次官
  8. 青木正久

    政府委員青木正久君) このたび法務政務次官に就任いたしました青木正久でございます。  時局柄大任でございますけれども、瀬戸山法務大臣のもとでよき補佐役として時代に適合いたしました法務行政推進のために微力を尽くす覚悟でございます。  何とぞ、御指導、御鞭撻のほどをお願い申し上げます。  簡単でございますが、ごあいさつといたします。
  9. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) ただいまの大臣所信に対し、質疑のある方は順次御発言を願います。
  10. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法務大臣の御所信をただいま承ったわけですが、その中で一つ二つお尋ねしたいことがございます。  第一は、ハイジャック事件関連する問題でございますけれども、ただいま政府ハイジャック防止に関する緊急な法制の整備を御用意のように承っておりますけれども、これは今国会にいつごろ御提出になる御予定なのでしょうか、そういう御予定がおありになるかどうかですね。もしおありとすれば、いつごろになりますか。それが一点でございます。  もう一点は、刑事訴訟法改正をもお考えになっておるやに承っております。これはこの種事件の公判における審理促進考えたものだというふうに報ぜられておりますけれども、これはかなり慎重に扱っていただきませんと、いろいろな国民から憎しみを受ける犯罪というものは非常に多うございますから、それがことごとく訴訟手続を異にするというようなことになりますと、これは非常に人権の問題にも関連が出てまいりますので、そういう御用意がもしおありになるとすれば、その点についてもお伺いしたいと思います。  それからもう一つ刑法改正の問題でございますけれども、これも国民生活にきわめて重大な影響を持つ大法典でありますので、非常に慎重に御対処になっていらっしゃること、これもよく理解ができるのでございますが、ただ、私ども、それと並行いたしまして、いままで少年法改正についても大変法務当局が御熱心であったように承っております。最近その問題がちょっと何かとだえたような印象を受けるのでありますけれども、この問題についてはどんなふうにお考えになっていらっしゃるのか。その三点についてお伺いしたいと思います。
  11. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 第一点のハイジャック対策の問題で、法律改正の点はどうかというお話。御承知だと思いますが、今回のハイジャック事件関連しまして、前のクアラルンプールのときのハイジャック対策政府としては検討し、実施したわけでございますが、まだまだきわめて不十分な点があったということは、事実が証明したわけでございます。でありますから、直ちに対策本部を設けまして、いろいろ検討を進めておるわけでございますが、第一に、当面実務的に直ちに実行できるような問題を速やかに検討をして、そしてこれを一日も早く実行するという、現に実行段階に入っておる、航空機乗り込みチェック等をやっておるわけでございます。それからそれだけでは不満足ではないか、もっと法律的に処置をすべき問題がありはしないかという点がございます。その点については、第一がハイジャック処罰法にやや欠陥がありはしないか。それから航空機乗り込みについても、まだまだ実務的な措置だけでは足らない法制的な点が必要ではないか。第三は、旅券発給に関してもう少し法律的に考える必要はないか。この三点を検討いたしまして、現在それを関係省でずっと詰めておるわけでございます。各党の意見等も承りながらいま進めております。これはできるだけこういう対策を早く立てておく必要がありますということで、できれば今週中に国会お願いを申し上げたい、こういう準備を進めておりますが、これはいつになるかということは、いまの時点では明確にお答えができないのは残念でございますが、これはできるだけ今週中にお願いして今国会で御理解を得たい、こういう準備を進めておるわけでございます。  それから先ほど刑法改正、それから少年法改正お話がありましたが、これは先ほどごあいさつでも刑法改正を申し上げましたが、これは御承知のとおりにもう長年法制審議会検討を続けておりまして、四十九年の答申が出ました。しかし、これは全面改正といいますと、社会情勢変化等に応じて改正すべき点が多々あると思いますが、何しろ先ほども申し上げましたようにこれは国民全般に重大な関係のある基本的な法律でございますから、また、賛成、反対といろいろな意見があるわけでございます。そういう意見も十分に承りながら、慎重に将来にわたっても適用される刑法典をつくらなければならない、そういうことで現に進めておるわけでございます。細かい点は事務当局から説明をさせますが、そういうことで、まだいつ提案するかというところまではいっておらない。  少年法の問題についても、いまお話しのように、法制審議会でずっと検討されております。これも基本的人権に重要な関係がありますから、いろいろ法制審議会でも議論があります。まず、少年部会等をつくられて、やや全般的基本問題に触れない程度の何か改善策はないかということで、最近に中間の報告答申がございまして、それに基づいていま法務当局作業を進めておる。これも急に提案できるという状態ではないわけでございますが、できるだけ早く進めたいという気持ちは持っておるわけでございます。しかし、これは少年院その他の関係法令もありますから、直ちにというわけにはまいらない、こういう事情でございます。  もう一つ刑事訴訟法の問題がありましたが、これはおっしゃるとおりに人権あるいは弁護権等の重要な関係がありますから、急々にこれができるとは考えませんで、これは目下検討をいたしております。といいますのは、一般的に裁判——寺田さんはもっとも専門家でございますが、裁判がおくれがちである、これは民事刑事を問わず。そういうことで、裁判促進を図るということで法務省裁判所等は毎年人員の増加をお願いしたり、あるいは事務能率化を図るための機械化その他を進めてもらうように予算等お願いしておるわけでございますが、一挙にはなかなかまいりません。ただ、刑事事件において特に世間でよく言われておりますのは、たとえば昭和四十七年、ちょうど国会開会中でございました、夏でありました、例の浅間山荘事件、まさに衆人環視の中で行われたああいう暴力犯が今日第一審でまだ係属中だ。そのほかにもあるわけでございますが、この種の裁判が非常におくれをしておる。こういうことについては国民の間でやや不信があると私は見ております。今度のハイジャック関係についても、そういうこととかかわりの一面があった点があるわけでございまして、私は、法律というのはただ決めて条文がありさえすればいいというわけでなくて、その法律のねらうところをできるだけ早く実効をあらわすというのが法治国家のねらいであろうと思っておるわけでございます。もちろん、被告人人権その他は十分尊重しなければなりませんが、しかし余りにその法制を逆用するといいますか、これを逆手にとって裁判を遅延させるということが必ずしもないとはいえない状況があるようでございますから、もう少し何とか工夫をする必要がありはしないかと、こういうことで目下検討いたしておりますが、しかし、これは裁判制度刑事訴訟法といいますと、人権その他に重大な関係がありますから、おっしゃるとおり、きわめて慎重にこれは扱わなければならない、こういうことで、今国会になんとは全然考えておりませんが、これを放任するわけにはいかない、こういうことでいま進めておるわけでございます。ぜひひとつお知恵をかしていただきたいというのが率直な意見でございます。  あとは事務当局から説明させます。
  12. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいま大臣から御説明がありました点で尽きておると思いますが、一、二補足いたしますと、現在、今国会でぜひお願いをしたいということで政府考えておりますものは、三つの法律一つ特別措置法改正をしようという考え方でございまして、その改正をしようといたします法律は、まず第一に、航空機の強取等の処罰に関する法律の一部を改正いたしまして、現在ハイジャック行為については処罰のいわゆる類型がございますけれども、ハイジャックをした上で乗客乗員人質にとってそうして不当な要求をすると、こういう類型を新たに構成要件として設けまして刑を加重するということを一つ考えております。  それから第二に、航空に危険を生じさせる行為等処罰に関する法律というのがございますが、その一部を改正いたしまして、およそ理由いかんを問わず、目的いかんを問わず、爆発物銃砲刀剣火炎びん、こういったものを業務中の飛行機に持ち込む行為、これを処罰の対象として取り上げまして、ある程度単純な所持罪よりも重い刑で臨むことにしたいと、これが第二点でございます。  第三点は、旅券法改正でございまして、これはさらに三点に分かれておりまして、第一点は、現在、外務大臣旅券発給等を制限することができる条件の一つとして、死刑、無期または長期五年以上の法定刑の罪で訴追されている者あるいは逮捕状等が発付されている者、こういう者について旅券発給等を制限することができることになっておりますが、この長期五年とありますのを二年というふうにいたしまして、たとえば凶器準備集合罪でありますとか、その他過激派の君たちが犯すことが多いということが認められております罪種につきましても、訴追中あるいは逮捕状が出ておるという理由外務大臣において発給制限がなし得るように改めたいというのが第三点のうちの第一点でございます。  その第三点のうちの第二点は、旅券法にございます旅券返納命令、これは旅券法におきまして、旅券発給を受けた者に対して返納命令の通知がなされなければ効果を生じないことになっております。ところが、日本赤軍関係者にも例がございますように、所在がわかりませんために、返納命令効力が発生せしめられないという事態がございますので、これを公示によって返納命令効果を生じさせ、そうしてその者が持っておる旅券効力を失効させようと、こういう改正が第二点でございます。  第三点のまた第三点は、現在旅券法の中の罰則、たとえば他人名義旅券をとったと、あるいは他人名義旅券を不正使用したと、こういうような者に対して現在「一年以下の懲役又は三万円以下の罰金」ということで臨んでおるわけでございますが、これを法定刑を三年以下の懲役または十万円以下の罰金に改めたい、こういうふうに考えております。先般のハイジャック事件で記憶も新たな奥平純三、これが釈放要求されたわけでございますが、この者が最初にわが国を出ましたときに他人名義旅券を使って出ております。その他人名義旅券をとってやりました者が何人かおりまして、そのうちの二名はすでに起訴され、有罪が確定いたしておりますが、法定刑の上限が一年ということでありますためにきわめて軽い刑で済んでおると、こういうようなこともございまして、この際三年以下というふうに改めるのが相当であろう、また、そのことによってそういった者たちを緊急逮捕できるという要件も備わってくると、こういうふうに脅えておりまして、以上大きく分けて三点、細かく申し上げて六点の改正を含む法律案を現在取りまとめておりますので、事務的な手続といたしましては明日以降いつでも出せるように準備をいたしております。恐らく、ただいままでの、これは国会でお決めになることでございますが、国会関係、与野党の関係筋におきましては、法務委員会で御審議いただくようになるのではないかというようなこともいわれておるように伺っておりますので、その節は十分御説明は申し上げますけれども、よろしくお願い申し上げたいと思っております。  それからもう一点の刑事訴訟法改正の問題でございますが、ただいま申し上げましたいま用意しております法律案は、今臨時国会にとりあえず間に合うということでそれだけを選び出しておるわけでございますが、ハイジャック防止に対する立法措置としてはこれだけで終わるわけでもございませんので、次期通常国会を目指して関係省庁立法作業を要するものを鋭意詰めております。そのことと関連いたしまして、私どもも刑事訴訟法の一部について改正する必要があるのではないか、あるとすればどんな改正をしたらいいのかということを現在鋭意詰めにかかっておるわけでございます。  先ほど御指摘がございましたように、裁判促進を図るという目的被告人人権が抑圧されるということになっては大変でございますので、現在考えておりますのは、過激派事件訴訟遅延一つの大きな原因になっております弁護人退廷辞任、不出頭戦術、こういうものに対応できるようなものをきわめて謙抑的な限度で立法化することはできないかということを現在考えておるのでございます。たとえば、そういう者が選任いたしましたいわゆる私選弁護人、これが裁判所説得等を聞かないで辞任退廷、不出頭戦術をとりました場合に、そういったことが被告人にとっては責任がないというふうに認められる場合は、もちろん被告人人権保障のためにそんな弁護人のない状態で開廷することは許されないと思いますけれども、被告人にも責任がないとはいえないような場合、こういう場合についてはある程度謙抑的な方法弁護人が一時的に在廷しない状態審理が進められるというようなことも考える余地があろうと思いまして、そういう線で検討をしておるわけでございますが、もとより法務省立法作業のうちの大きな部分でございますから、法制審議会におきましても十分御検討いただいた上でできるものなら次期通常国会を目指してまとめてまいりたいと思っておる次第でございます。  以上、二点について補足申し上げます。
  13. 橋本敦

    橋本敦君 私もただいま伺いました大臣所信関連をして二、三質問をさしていただきたいと思います。  大臣は、ハイジャックの問題にお触れになりまして、断固たる決意でこのようなことを再発させないという決意を御表明になりました。それ自体私は全面的に賛成でありますし、赤軍派など過激暴力集団の凶悪な犯罪は断じて許せないことは国民総意だと思っております。この点で私は大臣の御発言で多少気になる点がございましてお伺いしたいと思っておったのですが、あの事件が起こりまして直後に大臣が就任をされて、今後は多少血を流しても法秩序を守るという決意を御表明になりました。多少血を流してもという御表現は大臣としてはきわめて重大な発言でありますが、いかなる事態をどのようにお考えになった発言なのであろうか、その真意が私にはよくわかりませんので、その点のお話を伺いたいと思うのであります。つまり、大臣としては、多少血を流してというのは、あの西ドイツの特殊部隊人質救出作戦をやりました。あのような特殊部隊を派遣しての救出作戦を想定しての御発言なのかどうかという問題が一つわからないわけであります。多少血を流してもということですが、あのドイツの作戦があのように成功したことはいいとして、あれでもしかし危うく多数の人質が生命を失うという危険がやっぱり私はあったと思います。そういう意味で、大臣が血を流してもとおっしゃったのは、どういう方法を具体的に想定なさってのお話なのか、この点が第一点であります。  第二点は、今回の場合、人命救助ということでやむを得ない処置として超実定法的な処置政府はおとりになった。福田総理は、その際に人命地球よりも重いという有名な言葉を引用されまして、やむを得ないということを国民表明されたのでありますが、多少血を流してもという大臣の御発言人命地球よりも重いというあの福田総理発言とに食い違いがあるのではないか。つまり、このハイジャックという今後の対策に関して法務大臣がおっしゃる御意見内閣全体あるいは総理の御意見が一致していないのではないか。大臣のおっしゃたそれが内閣の統一した見解であるのかどうか、この点について明確に私は知りたいと思っております。これが第二点であります。  第三点の問題は、私は何といっても暴力集団を根絶するということが、これが対策の主眼だと思います。ハイジャックの防止についても諸般の法令改正がいま刑事局長お話でありまして、私どもも積極的に審議をする必要を感じておりますから、議論はいたしますが、しかし、ハイジャックだけに限らない。たとえばシュライヤー事件ハイジャックでありません。明らかに路上で強奪をされた事件であります。だから、したがって、ハイジャック防止というそのことに視点を向けた法改正も必要でありますが、暴力集団の全面的な根絶ということに、いかに法務大臣なりわが国の警察、検察当局が立ち向かうかということがいま問われている。その点で私は大胆にお聞きしたいのですが、アルジェへ行ったあの犯人たち、日本の政府は犯人の引き渡しを要求するとかなんとかいうお話がございましたが、これはしかと確かな外交交渉でございません。しばらくあのアルジェから出国しないようにしてもらいたいという希望も表明したと伺っておりますが、これもしかとした外交交渉をやったというようには受け取られておりません。ところが、新聞報道では、あの犯人たちはすでに大金を持ってアルジェを出国したのではないかという情報が流れております。あの犯人たちの動静に対して法務大臣はいかなる情報を現在得ておられましょうか。あのときにダッカへ感謝の特使を総理がお送りになる、これも結構ですが、アルジェへそれこそ政府の特使もしくは外交交渉のために派遣をして、あの犯人たちの動静情報、これを把握し得るような交渉をやるべきであったし、そして犯人たちが出国しないような措置を正式に外交交渉で詰める、こういうことをやるべきであった。そういうことをやらないで、根絶すると、こう言っても、現にあの事件の始末自体がそういう方向に向かっていない。法務大臣はその点について現在いかなる情報をお持ちになっていらっしゃるか。そして、あのときに私が言ったように、積極的にアルジェに対する犯人たちの動向に関する日本政府の強い立場での交渉をやるべきであったのではないか、私はこう思いますが、以上三点についてきょうの御所信関連してお話を伺わしていただきたいと思います。
  14. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 第一点の、こういう事案に対して、将来場合によっては血を流しても云々という発言をしたと、これに関連してでございますが、私は今度の政府の——その当時は局外でありましたけれども、とりました措置については、それこそ万やむを得なかったと、こういう意味で局外にあったときから了承をしておりました。しかし、私は、この法治国家というものを政府のものであったりあるいは法務省のものであったりする、そういう考えの上に立っておりません。まあ私なりに考えてみますと、憲法を制定し、そして国民生活に関する、あるいは国家運営に関する基本的な原則を憲法に打ち定めて、その憲法に基づく諸原則を実現するために御承知のとおり万般の法律、規則を制定しておる。こういう制度は、細かい歴史は知りませんけれども、長い歴史の成果である。いろいろな歴史が繰り返されたと思いまするが、そういう国民の合意だと私は見ておりますが、あらかじめ国民生活を憎むについてのおきてといいますか、定めを決めておいてそれに従って国民生活を続けるということが、平和で安全で自由な生活ができる。もっと将来別な知恵が出るかどうか、これはわかりませんが、長い歴史の過程においてこういう方法がベターである、現在考えられる限りにおいてはこれがベターであるということで、各国おおよそそういう制度をとっておると思っております。わが国も御承知のとおり明治以来と言っていいでしょうが、約百年間これを続けてきておる。これは国民一人一人の平和で安全、自由な生活ができるという定めであると私は思います。これは法治国家の基本であって、日本にいたしますると一億一千万のすべての国民のよりどころである、私はさように考えております。でありますから、たとえばハイジャックのように、今度残念ながらそういう実定法に定めてある規則を破って、犯人の要求に応じて人命を何とか助けようと、こう措置したことでありますが、そういう法治国家をつくっておる根本のねらいは、いわゆるいま申し上げましたように、平和で安全で自由な国民生活を憎むということでありますから、まさに人命を尊重するということが基本原則で前提になっておると思います。でありますから、ああいう事態に際して考えることは、何とか乗客、乗務員等の人命を可能な限り尊重しなければならぬ、助けなければならない、この前提があると私は思います。ただしかし、こういうことをそれならばそれでは法治国家の根幹を常に崩していってもいいのかというと、私はそれに対してはそれでいいという感じが起こらぬ。と言いますのは、法治国家の根幹を崩していくということは、それ自体が国民全体の、平和と安全と自由を破壊していくということでありますから、憲法を制定し法律規則を定めた趣旨に反することになる、こういう事態が起こり得るわけでございます、将来想定いたしますと。これは非常にむずかしい問題でありますが、でありますから、これはこういう事案についての処理をあらかじめ一定しておくという方法はなかなかないと思う。いまよく言われておりますが、ドイツ方式がよかったとかあるいはわが国のとった方式がよかったとか、こう単純に割り切れるものじゃないと思う。私、率直に言って日本的には非常によかった、あるいはドイツのやり方も一人二人の犠牲は出ましたけれども非常によかったと、こういう感じを実際率直に申し上げて持っておりますが、しかし、たびたびこういうことが繰り返される場合においてそれでいいのであろうかどうか。人命はもとよりいま申し上げたとおり尊重する前提に立って考えなきゃなりませんが、しかし、その法治国家のねらいが崩れ去るというような事態は、もし仮にそういう事態が想定される場合には人命をああいう人質を救うということを前提に作動しなきゃなりませんけれども、時と場合によってはやはりある程度の犠牲を払わなきゃならぬ場合もあり得る。このくらいの決意をしなければ法治国家維持というものはできないと私は確信をいたしております。それが単純にもう犠牲にしてもいいんだと、そう簡単なものじゃありませんけれども、それくらい国民全体が法治国家ということの意味を、先ほどのを繰り返しますが、国家、政府のことでもなければ法務省のことでもない、国民一人一人の問題でありますと、それくらいの法治国家というものの根幹をみんな考えて対処しなければこういう問題の根本的解決にならない、こういう趣旨を申し上げたいと思う。私はそういうことも全然ないとは考えられない。もし、それを、ただ人命尊重、何でも注文どおりやりますと言っておると、これは法治国家の根本が崩れますから、私はそれに応ずるわけにいかない、こういう考えを申し上げておるわけでございます。  それからこれはさっき実定法で人命尊重の関係は含まれておると言いますが、さればといって、おっしゃるように、まあドイツは国情は違いますし、西ドイツのヨーロッパ地域における国際関係といいますか、地理的条件、いろいろ歴史的条件がありますからああいうことができるのじゃないかと言いますけれども、わが国ではああいうことはそう簡単にはできないと思う。でありますからそういう意見もあります。ハイジャック対策本部の中でもそういう意見もたまには出ますけれども、わが国でああいう特殊部隊をつくるという形式でやるということはいまの段階で、私は、適当ではない、可能ではない、こういうように考えておるわけでございます。そういうことは考えておりませんが、あらゆる努力を続けて人質の救助をしながら法治国家を守る、これに全力を挙げなけりゃならぬ。しかし、これは起こってからではなかなかいま申し上げましたようにそう簡単じゃありませんから、まずこれも万全の対策ということは、いまの世界情勢、いまの交通事情、世界各国の政治情勢等を見ますると、なかなかこれは万全にはいかぬと思いますけれども、とにかくああいう事件が起こらない方策、まずこれに全力を挙げる。それが、いま先ほどある程度申し上げましたことを国内的にあるいは国際的に世界全体がそういう気持ちになってもらわなければこれは根本的に排除することはできない。そういう意味で早速外務省を通じて督励して、御承知のように国連等にも持ち出して国際的にそういう方式をとってもらいたい、こういうことをやっておるわけでございまして、私は重ねて申し上げますが、根本はああいう諸君の蠢動を許さないという措置をとることが大前提であると、かように考えております。でありますから、特殊部隊を派遣して云々ということはいま政府の中では考えておりません。  それからハイジャック対策について、それは必要であると、中身は大いにひとつ研究しようというお話ですが、暴力というのはそれだけじゃないじゃないか、そのとおりであります。でありますから、他の暴力について、これは刑事局長あたりからも御説明申し上げますが、いかなる暴力でも、これはもういまの憲法、法治国家でこれは許されない問題でありますから、同じように対処をする。しかし、ハイジャックの特殊性に応じて、御承知のように飛行機の中でございますから、ほかの場合とやや違う。その違うところに無点を当てて今度のハイジャック対策についてのことを考えておる、かように御理解いただくとよろしいのじゃないかと思います。  他の暴力問題については、刑事局長から御説明させます。
  15. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいま大臣からお述べになりました過激暴力対策、これにつきましては、ハイジャック問題だけで済むわけじゃございませんから、速やかに私どもも検討いたしまして、検討が煮詰まり次第、立法を要するものはまたお願いをするという決意作業を進めております。  それから先ほどお尋ねのありましたアルジェで機外に出ました十一名の者につきましては、私の承知いたしております限り、アルジェへ飛行機がおりるための条件として、犯人の引き渡し要求をしないでくれというアルジェリアの政府の申し入れをわが政府が受諾いたしました関係がございまして、正面切って引き渡してくれということが蓄えませんので、できたら引き渡すようにしてほしいというお願いをいたしますと同時に、もしそれができなくてもアルジェリアから出さないようにしてくださいと、それから身のしろ金も彼らに渡さないようにしてくださいというお願いをいたしたわけでございますが、外務当局からのお話によりますと、アルジェリア政府は、公式には、それは最初の三つの条件を日本政府がのんだ、その約束と違うではないかというので取り合わなかったと、こういうふうに聞いております。したがいまして、外務当局では、公式の場ではなく、その他のいろいろな方法を通じて、当初の希望を何とかかなえられるようになお努力をするというふうに申しておるようでございます。  ところで、その十一名の消息につきましては、そういうような事情もございまして、現在法務省あるいは警察当局におきまして把握できておる部分は全くございません。大変残念に思っております。     —————————————
  16. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 次に、派遣委員報告に関しまして質疑を行います。
  17. 大石武一

    ○大石武一君 わが法務委員会におきましては、本年の九月上旬、中旬にかけまして、中国並びに北海道の地方を国政調査のため委員派遣をいたしまして、法務行政に関する実態を調べてまいりました。いろいろと実態を認識いたしましたし、また数々の要望も聞いてまいりました。それを委員長の手元で取りまとめまして、今後の法務行政に役立つために参考として法務大臣にお送りをいたすことを考えておりますので、そういうことに関しまして法務省の御見解と申しますか、その方針というものを二、三お聞きしてみたいということで質疑をいたすわけでございます。  なお、北海道方面につきましては私、中国方面につきましては円山委員から質問をいたす予定でございます。  恐らくそのようないろいろな各行政に対する要望とか、そういうものは大体どの地域においてもほとんど共通していると思います。しかも、そしてまた、その要望の内容というのはたくさんございますので、一々そんなことを申し上げるわけにまいりませんから、大体共通点のものを一、二の例をとりまして、そしてまあ、ちょっと御方針をお尋ねをいたしたいと思います。  第一は、増員による人的機構の充実でございます。たとえば法務局におきましては非常に増員を要求しているのでございます。今回の調査でも、現地では近年事件の増加が著しくございまして、事務の合理化、能率化に鋭意努力して事件処理に当たっておりますけれども、抜本的解決はやはり増員しかないということでございまして、大幅増員の要望が非常に強かったのであります。毎年法務省としては、増員要求の努力をされておるということは承知いたしておりますが、何せ総定員法の枠内にあるということもございます。そういうことで必ずしもこれらの希望を満たすだけの人員の増加ができるかどうか、なかなかむずかしいと思いますが、こういうことにつきまして、最近五カ年間の純増分と来年度の増員の要求についての概略のひとつ御説明を願いたいと思います。
  18. 香川保一

    政府委員(香川保一君) まず御案内のとおり計画削減がございますので、それを引きましたいわば純増分について申し上げますと、法務局関係では昭和四十八年度が百三十三名、四十九年が百八十名、五十年が百七十八名、五十一年度が百二十名、五十二年度が、本年でございますが、百十二名でございます。かように定員抑制の厳しい中で関係当局の御理解にもよりまして、いま申しましたような増員措置がとられておるわけでございますけれども、なお絶対的に法務局におきましては人員が不足いたしておりますので、来年度要求といたしましては、法務局関係合計千八十二名の要求をいたしております。
  19. 大石武一

    ○大石武一君 ただいまの御報告でいろんな御努力については非常にそれを多といたしますけれども、大体聞いておりますと、事件の処理数というものは非常に急角度に上昇しているようですが、いまの人員の増加はどちらかというとカーブが緩くなってきておるような傾向ですね。百五十何名がだんだん百三十名になり百二十名になるということで。こういうことではなかなか事件の対処がむずかしいと思います。なぜ一体人員の増加が急務であるということを御認識されながら、そのような十分な、十分とは言いかねますけれども——問題がいろいろ多くなるのに比例する人員増ぐらいは望みたいと思いますけれども、なぜできないのか、その一番大きな問題はどこにあるのかということをお聞きしたいと思います。  また、例を挙げますと、釧路地方の法務局根室支局では、職員が五名で北方領土関係事務を処理しておりますけれども、その実情と、専従職員の増員配置という現地の要望に対してはどのような御処置をお考えになっておるか、そんなものについてもお聞きいたしたいと思うのでございます。
  20. 香川保一

    政府委員(香川保一君) 私どもの立場だけから申しますと、先ほど申しましたように、千名を超す絶対的な人員の不足等考えておるわけでございますけれども、諸般の事情、特に定員抑制ということが政府基本方針でもございますし、総定員法の枠内での増員でございますので、決して十分とは申せませんけれども、先ほど申しました年々の増員は相当好意的な措置だろうというふうに受けとめております。もちろん事件が増加してきております。それを人の面だけから考えますと、この程度の増員ではなかなか適正迅速な事務処理ができないというふうになるわけでございますけれども、法務局の中でその事務量の大半を占めておりますのが登記所関係でございます。この登記の事務の処理につきましては、人の手を借りなくても機械によって処理するというふうな分野が相当ございまして、増員措置等と並行的に登記事務処理の機械化、合理化という方策を一方で進めておるわけでございます。これも、さような措置で現在完全に行われておるかということになりますと、まだまだ不十分な点はあろうかと思いますけれども、増員とあわせてそういった合理化、機械化というふうなことも強力に進めるために来年度予算におきましても大幅な金の面での要求もいたしておるわけでございます。今後とも努力を続けてまいりたいと、かように考えるわけでございます。  それから、ただいまの根室支局の関係でございますが、これは、北方領土の関係につきまして、根室支局におきましては戸籍と登記の両方の特殊な事務をやっております。御案内のとおり、北方領土、これが現実にあの地域にはわが国の市町村がないわけでございます。したがいまして、戸籍法のたてまえから申しますと、戸籍事務を処理するのが市町村長でございますから、したがって管掌する機関がないと、こういう結果になるわけでございます。しかし、当時北方領土に本籍を持っておられた多数の方がおられるわけでございますので、その人たちの戸籍簿を全部、除籍簿も含めまして、現在根室支局において保管しておるわけでございます。で、北方領土に本籍を持っておられた方々は今日におきましては当然市町村のある、本土と申しますか、その地域に転籍をしておられまして、そちらで本来の戸籍事務が行われておるわけでございますけれども、相続関係を証明する等のために北方領土における戸籍簿、除籍簿というものが必要な場合があるわけでございます。そういった関係の戸籍簿、除籍簿の閲覧とか、あるいは記載事項証明というような事務を現在根室支局においてとり行っておるわけでございます。それから登記の関係は、これは同じように北方領土の登記簿は一切根室支局において保管いたしておりまして、ただ不動産が、現状がああいう状態でございますので現実の問題として取引は全くないわけでございます。しかし、ただ問題になりますのは相続関係、相続が開始いたしました場合にその関係の登記をする必要があるわけでございますけれども、これを放置しておきますと、長年のうちに相続関係が必ずしも的確に把握できないことになっては困りますので、したがって、相続関係が発生いたしましたときには届け出を根室支局にしていただきまして、その届け出を受け付けて将来の参考資料として登記所において保管しておるというふうな扱い、それからもちろん登記簿を持っておりますので、それの閲覧とか、あるいは謄抄本、そういったものの交付も無料でやっておるというふうな事務でございます。そして、そういった事務を含めまして根室支局本来のもろもろの事務をやっておるその職員が現在御指摘のとおり五名でございますが、私どもの感じといたしましても、本来の事務から見てもう一名ぐらいは増員しなければなかなか大変だろうという認識はいたしておりますが、先ほど申しましたように増員がなかなか容易でございませんので、繁忙なときに賃金職員を配置するとか、あるいは機械化、合理化を同じように進めまして今日何とかしのいでおるわけでございます。ただ、北方領土の、先ほど申しました登記、戸籍の事務量それ自体は性質上そうたくさんないわけでございまして、この面から根室支局における職員の負担過重が生じておるというふうには必ずしも言えないのではないか。むしろ本来の支局の事務全体がやはり現在の定員では若干気の毒だというふうな現状だろうと、かように理解しておるわけでございます。
  21. 大石武一

    ○大石武一君 もう一つお尋ねしますが、保護観察官の増員の問題であります。  北海道地方の更生保護委員会及び現地の保護観察所では事件負担の過重を非常に訴えております。そして、何とか保護観察官の増員及び複数駐在官の実現を非常に要望しておるようでございますが、これは言うまでもなく、保護観察の重要性についてはもう十分御認識のことでありましょうし、その活動の強化のために増加を図り保護観察官の一人当たりの負担件数の適正化を図ることが非常に必要だと思いますけれども、これに対してひとつ御意見を伺いたいと思います。
  22. 常井善

    政府委員(常井善君) 御指摘のように、保護観察所におきます保護観察の適正化を図ることは非常に重要なことでございますが、現在、保護観察官のほかに保護司——民間の篤志家でございますが、保護司との共同体制で保護観察の業務を行っておるのでございます。しかし御承知のように、最近急激な社会の変化に伴いまして犯罪も悪質化しておりますし、また青少年の非行問題におきましても世代閥の格差などがはっきり出てまいりまして保護司に依存するという点でも限度がございますので、保護観察官を増員いたしまして保護観察の充実強化を図らなければならないということは全くお説のとおりでございます。また保護観察所の所在地から離れております、遠隔の地にございますところの駐在保護観察官の事務所に駐在します保護観察官の数を複数化する必要も感じておりますけれども、保護観察官の全体の数との兼ね合いの問題もございますので、全体の増員を図っていきたいと、全体の増員のための努力をしておるわけでございますけれども、やはり、増員抑制という政府の方針もございますので、その枠内での逐次努力を重ねての増員の上で適正配置をしたというふうに考えております。
  23. 大石武一

    ○大石武一君 それでは次の問題に入ります。  次は予算の増額措置を要するものについてでございます。  たくさんありますけれども、第一に、法務局ではいわゆる借り上げ庁舎というものが約半数北海道ではあるようでございます。これは恐らく全国でもそのような傾向にあると思いますが、実態はどうなっておりましょうか。簡単にひとつ内容をお知らせ願います。
  24. 香川保一

    政府委員(香川保一君) 現在、法務局支局、出張所合わせまして千三百六十九庁あるわけでございますが、その中で御指摘の公有——市町村有のものあるいは民有の土地、建物を借り上げておる合計が、土地につきましては六百八十八、まさに五〇%でございます。建物が三百九十七、二九%、かようなことになっております。
  25. 大石武一

    ○大石武一君 何のためにこのような借り上げ庁舎が多いかというその原因、それをお聞きしたいと思います。またわれわれもいろいろ認識しておるのでありますが、この借り上げ庁舎は大体市町村ですな、市町村にいろいろ、何と申しますか、依存して、その好意によってそのような庁舎を維持しているという傾向も大分あるように思います。こういうことは果たして正しいかどうか。  さらにもう一つは、やはりそのような借り上げ庁舎でありますと非常に内容もそれは適切に直すこともなかなか困難でありましょうし、事務能率も非常に私は悪いと思います。こういうことにつきましてどのような努力をなさる御方針であるか、それをちょっとお聞きしたいと思います。
  26. 香川保一

    政府委員(香川保一君) 借り上げ庁舎あるいは土地も借りておるというのが非常に多いという理由でございますが、これは沿革的には、御承知のとおり登記制度というのは明治当初の地券の制度、この地券の制度はいわゆる戸長、つまり現在で申しますれば市町村長に当たりましょうか、戸長のもとでそういう地券の書き入れをやっておったわけでございます。さような関係からまあ現在で申しますれば市町村の事務ではないのでございますけれども、戸長がやっておった関係から、いわば現在で申します市町村有の庁舎でやっておったと、それが裁判所の管轄になりましてもその実体はそのまま引き継いでこられたというふうな関係一つございます。  それから、いろいろ借り上げの関係を、沿革を調べてみますと、登記所というものはできるだけ地元にあった方がいいというふうなことから、土地建物は自分の方で提供するから登記所をつくってくれというふうな御要望が明治、大正ごろ非常に多くございまして、住民サービスということから、その御要望を受けて土地建物を借りたままそこに登記所をつくってきたというふうな関係で今日借り上げのものが非常に多いということになっておるのではないかというふうに考えております。ただ、かようなことは決してほめた話ではないわけでございまして、土地につきましてはできるだけ他の国有地との交換というふうなことで国有化するというふうな努力をいたしておるわけでございますけれども、なかなか思うところに交換財源としての国有地がないというふうなこと、それから一方、買い上げる関係も不動産購入費というふうなものがなかなか十分ないわけでございまして、この面からもなかなか国有化することがうまくいっていないという現状にございますが、私どもといたしましては財務当局にお願いいたしまして、できるだけ国有地との交換によって国有化するということを努力しておるところでございます。  それから建物につきましては、お説のとおり今日地元の市町村に庁舎の新営というふうなこと、あるいは増築、修理等をお願いする筋合いのものでもございませんので、できるだけ国費でもって老朽狭隘庁舎の解消を図りたいということで、これは相当予算的にも大幅な措置がされまして、約五カ年ぐらいで、さような借り上げ庁舎も含めまして、老朽狭隘の庁舎の新営を図りたいということで、来年度が第二年目になるわけでございますが、努力してまいりたいと、かように考えておるわけでございます。
  27. 大石武一

    ○大石武一君 ただいまの御答弁で御努力されておるということ、そしてなかなか容易でないことは理解できますが、いまのは五年計画ぐらいでやりたいというのは結構ですから、ひとつがんばってもらいたいと思います。特にその中にあってやっぱり最初にやることは、私は民有の庁舎の借り上げ、これを解消することが一番先ではないかと思いますから、そういうことを念のために申し添えておきます。  それから、今度はやはり予算関係でありますが、どうしても庁費及び旅費が少ないということで非常にやりくりがしにくいという訴えが相当たくさんございます。その一、二の例を申し上げますと、北海道地方更生保護委員会及び現地の保護観察所では昭和五十二年度に庁費の増額を見ましたけれども、その実態は公共料金など義務的経費の増額にすぎません。印刷費とかあるいは備品費など一般庁費は不足であり、また保護観察所の対象者面接処遇強化のための仮釈放審査旅費及び補導援護旅費も不足を告げておりまして、そうしていずれも大幅な増額を要求いたしましたが、なかなかいただけないということで、犯罪者等が円滑に社会復帰できますように、犯罪のない明るい社会を建設するように努めている保護観察所の庁費、旅費の経費の増額は緊急と考えておりますけれども、それに対する御方針をお聞きしたいと思います。
  28. 常井善

    政府委員(常井善君) 御指摘のように、地方更生保護委員会及び保護観察所におきます庁費、旅費等は逐次改善されてはありますけれども、まだ十分とは言えないものがございます。先ほども申し上げましたように、処遇困難者が増加しておる状況でございますので、仮釈放等の審査のための費用、それから保護観察の充実強化のための費用、このような費用を五十三年度の予算でも増額要求しておりますので、私どもできる限り努力したいと思っております。
  29. 大石武一

    ○大石武一君 それから、御承知のように法務省では登記所の整理統合を長く努力されましてずいぶん整理されたようでございますが、整理統合いたしますと、今度は人員の増加とかいろんな問題が出てまいりますが、それに対処する庁舎がそれに伴わないということで、非常に庁舎の狭隘を告げておるところもあるようでございまして、増築の要望等もございます。そういうこともひとつ十分に御認識を願いたいと思うのでございます。  それから最後でございますけれども、宿舎の整備改善が私相当必要じゃないかと思うのです。北海道の各地検の管内には大正年間建築の宿舎を含めて早期に改築を要する宿舎が相当ございます。法務局関係でも札幌法務局骨内では明治四十二年に建築した木造の建物がまだ二戸もあるというようなことも聞きまして、やはりこのような辺地と言っては失礼でありますが、気象条件その他の悪いところでそのような仕事に従事する人に対して相当の、楽しく幕らせる——楽しくといいますか、暮らせるようないい宿舎も整えてやることも大事だと思います。そういうことにつきましても十分の御配慮あることと思いますが、ぜひともこれにつきましても御努力を願いたいと思うのでございます。  以上で要望をかねまして私の質疑を終わります。
  30. 円山雅也

    ○円山雅也君 私も派遣委員の一人といたしまして去る九月六日から四日間、中国地方の裁判所法務省関係各庁を視察調査いたしました。その結果に関連いたしまして一、二の点につき御質問さしていただきたいと思います。  刑務所の視察といたしまして私ども山口刑務所所と岩国少年刑務所を見てまいりました。両刑務所とも職業訓練、教育訓練が非常に活発でございまして、収容者の社会復帰には大変努力をされておられるということを十分確認いたしまして大変うれしく思ったのでございますけれども、そこでこの問題に関連いたしまして、また目下問題となっております監獄法の改正刑法改正に重大なつながりを持つ問題といたしましてぜひ法務大臣に二、三お伺いしたいと思います。  まず大臣は、受刑者の処遇の目的といいますか、刑の目的と申しましょうか、それについてどのような基本的なお考えを持ってこれからお臨みになるか、その点なんでございますけれども、補足説明するまでもなく、刑の目的についてはやれ教育論だとか応報刑論だとか、それから最近は受刑者には社会復帰の権利があるのだとか、そういういろいろな議論が出ておりますけれども、この点につきまして大臣の基本的なお考えをまずお聞きしたいと思います。
  31. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 刑罰の目的といいますか、科刑のねらい、これはいまお話しのように、学説的には、それは悪いことをしたんだから、それをたしなめるといいますか、刑罰でこらしめるんだと、応報刑という言葉もあります。一面においては、そうではなくて、刑余者といえども人間ですから、その人間を社会復帰させて、正しいといいますか、社会順応の人間に仕立てると言うとちょっと言葉がおかしいですが、つくり上げると、教育といいますか、こういうのが行刑の目的だと。いろいろ学者の間で議論があります。しかし、私は、両面ともあるんだという感じを持っております。これは国民感情といいますか、やはりさっきも申し上げました、余談でありますけれども、法律、規則によってみんな平和で安全な民主的な自由な国をつくろうと、社会をつくろうと。その中でおおよその人はそういう申し合わせという言葉は当たりませんけれども、定めに従って社会生活をしようとしておるところに、どうもそういう申し合わせを破って人に迷惑をかけたり、犯罪を犯すと。こういうことはやってはならないことをやるわけですから、それに対してはやはり反発を感ずる。反発というと、けしからぬじゃないかという気持ちが起こるわけで、当然のことであります。でありますから、けしからぬのに対しては懲罰を加えなければならない。これを無視するわけにはいかないという。しかし、同じ人間でありますから、それはそれとして懲罰の意味もあるが、その懲罰を通じながらやはり一個の社会人として定められた法治国の中で貢献し得る人間に仕立てなければならない。最近の行刑はそれが大きなウエートを持っておると思います。私は両面があると覆いますが、できるだけ、人間というとこれはまた失礼に当たるかもしれませんが、そういう意味で社会復帰ができるように、これが一番のねらいであると、かようなことを感じておるわけであります。
  32. 円山雅也

    ○円山雅也君 先ほどお隣の橋本委員からも御指摘があった点なんですけれども、先日のハイジャック事件でもって、大臣はかなり非常に強気の発言をなさっておられましたけれども、では、ハイジャックの犯人の処刑につきましてもいまのようなお考えについては変わりはございませんでしょうか。
  33. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 基本的には変わりはないと思います。しかし、これは同じハイジャックの犯人でも個人個人で違うかもしれませんが、その中でもそこに私は刑法の中になぜ死刑があるかという問題にも触れると思いますが、いろいろ考えても、それほどの反社会性があれば、これは人類の中でそういう人がおると困るという事態もあると思います。でありますから、長い行刑によってあるいは社会復帰する場合もある。しかし、それは期待できない人もあるかもしれない。そういう仕分けをしなければ一概に言えないと思いますが、そういう人でも翻然として前非を悔いて、こう言っちゃなんですが、ああいう人は理屈はわかっているわけなんですから、立場が違うということになるかもしれませんが、理屈がわかっておるんですから、社会に復帰して、実際は国民社会の中でこうあるべきだという本然たる気持ちになる人もないとは限らない。でありますから、全部重刑を科するということはやっておらないわけであります。同じハイジャック処罰法でも必ずしも全部極刑に処するということをしておらぬのはそこにあると思いますから、やっぱり行刑の目的は別に変わりはないと、かように考えております。
  34. 円山雅也

    ○円山雅也君 受刑者の処遇、行刑の目的につきまして、社会復帰にウエートを置かれるというお考えを聞いて大変安心したのでございますけれども、とすれば死刑というのは社会復帰の完全な可能性を奪うわけでもって、いわゆる教育刑の放棄だというふうに言われております。そうしますと、いま問題になっておりますハイジャック処罰法改正問題、正確には航空機の強攻等の処罰に関する法律改正で、人質に取っただけでもって死刑にすべきじゃないかというような御意見がかなり出ておりますが、つまり十年ぐらいの刑では軽すぎる、十年、無期ぐらいじゃ軽過ぎる、こういうのはもう人質に取っただけで死刑にすべきだというような強硬な意見が新聞紙上によく出て見ておりますけれども、この点につきまして大臣はどのようなお考えを持っておられますか。
  35. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) いませっかくそういう立案をしておる途中でありますから、法務行政担当の私が確然たる意見を言うことは、やや不適当かもしれません。しかし、せっかくのお尋ねでありますから私の考えを申し上げます。  ああいう、いま平静な状態で見まするといろいろな意見があるといいますが、その当面の場所におる今度のハイジャック事件のような場合には感情が極度に緊張する。でありますから、外部から見ておる立場でも、非常にけしからぬ、ああいうものは社会にない方がよろしいと、こういう感情が起こるのは一面当然のような気がいたします。そういう意見が相当私は国内にもあると思う。いま国会といいますか、わが党の中でも議論がなされておりますが、しかし、法務省といたしましては、この行刑についての世界的傾向といいますか、何といっても人命をとうとぶということが基本原則でございますから、できるだけ極刑、死刑の罪を減らそう、こういう傾向にあることは御承知のとおりであります。国連等でもそういう方針を進めております。今度の刑法改正草案でも、多くの死刑に関する規定を削除した方がよろしい、減らした方がよろしいという案が出ておりますが、それはやっぱり人間の生命というものに思いをいたした考え方だろうと思います。ただし、他人の生命を絶つと、こういう犯罪については、先ほどもお話ししましたように、一種のみせしめという行刑の反面もありますから、そういうきわめて残虐な他人の生命を犠牲にして自分の目的を達成しようというものについては、諸外国によって違いますけれども、わが国においてはまだ死刑を存続すべきであるという答申が出ておるわけでございます。いまお話しの当面のハイジャックの問題でありますが、これは人を死または致傷にいたした者は時と場合によっては死刑に処することがあり得る、死刑または無期という刑を現行法で定めておるわけでございます。今度のものはそこまで至らない、ただそういう要求をした段階で犯罪が成立する、あるいは、既決、未決の囚人を出せ、六百万ドル出せと、こういう要求をした段階での犯罪を構成しようというわけでございますが、これはまだ死に至らないという、そういう意味で、死刑というものはきわめて慎重に、科するときにもそうでございますが、刑罰法規を決めるときにも慎重に考えなきゃならない。そういう意味で法務省としては、いま死刑は適当でない。無期を最高にして、下限を上げようと、十年以上と、こういう案を出しておりますが、いまのような意見があることは御承知のとおり。ただ、これは私の私見でありますが、これは先ほど申し上げたことにも関連があるわけでございますけれども、やっぱりああいう赤軍派という一種の特異な質を持っておる人々でも人間には違いないわけでございますから、何かの拍子で普通の人間に立ち返る場合も私はあり得ると思います。そういう観点から見ますると、この刑罰法規は死刑なんだ、要求はしたけれども、ここら辺でこれはもうやっぱりだれしも自分の生命は惜しいわけですから、もう要求した段階ですでに死刑に処せられるんだということになりますと、これは人間の——人によって違うかもしれませんが、感情として非常に一か八か追い詰めたかっこうになる、極限の状態に追い詰めるおそれもあるのじゃないかという懸念を、私はこれはまあほかでは余り議論をしておりませんけれども持っております。でありますから、これでやると死刑になるんだという別な規定があるわけでありますから、そこら辺のゆとりを持っておいた方がああいうものを防止する——そうなるかどうか知りませんけれども、防止する一面のゆとりを置いた方がいいんじゃないかという、これは偽らざる私の感想でありますが、しかし、これはまあ国会で決めていただくことでありますから、国民総意として決まればこれはやむを得ないと、かように考えておるわけでございます。
  36. 円山雅也

    ○円山雅也君 大臣が御就任の当時、世評は、どうも今度の大臣は鬼のような大臣ではないかなんというような誤解を受けておったようでございましたけれども、いまの御答弁をお聞きしまして、たとえば行刑の面でも大変慎重な御発言、お考えでありがとうございました。また、御親切な御懇篤な御答弁ありがとうございました。  次に、裁判所事件処理状況を見ますと、中国地方に限らず民事事件に関しましては相変わらず簡裁と地裁との事件負担量がアンバランスになっておるということに気づきました。そこで、この問題に関連いたしまして法務省民事局長にお尋ねをしたいと思います。  まず、これまで簡裁の訴訟物価額が昭和二十五年には五千円から三万円に、昭和二十九年には三万から十万に、昭和四十五年には十万から三十万にというふうに引き上げられてまいりました、法律改正で。この目的は何でございますか。つまり、簡裁の事物管轄の訴訟物の価額を引き上げた目的、引き上げなければならなかった目的は何でございますか。
  37. 賀集唱

    政府委員(賀集唱君) 御承知のように、戦前には区裁判所というのがございました。戦後簡易裁判所というのが裁判所法によってでき上がりました。そのときに地方裁判所と簡易裁判所事件の配分ということを考えまして、いかようにあるのが適当か、適正な配分というところから、ただいま申されましたように、二十五年の改正、それから二十九年の改正、四十五年の改正というものが行われたわけでございます。
  38. 円山雅也

    ○円山雅也君 たとえば四十五年の改正のときの国会改正理由、提案理由は、いわゆる経済事情の変動でもって訴訟物の従来の価額は他の物価が上がったんだから当然引き上げられるべきだというような御提案理由をされておりますけれども、いまの御答弁だと事件のバランスをとるためですか、地裁と簡裁との。
  39. 賀集唱

    政府委員(賀集唱君) 数字を申し上げれば非常におわかりいいと思いますけれども、現在四十五年の改正後三十万が簡易裁判所にいっております。三十万円でございます。ところが、経済事情が変わる、すなわち経済が成長してまいりますと、従前簡裁に持っていってしかるべき事件もといいますか、三十万円程度と評価しておったその当時の事件が、現在上げるか上げないか別といたしまして、このように成長してまいりますと、やはり県庁所在地にある地裁の本庁とかあるいはその支部に持っていくまでもなく、地元にある簡裁に持っていってしかるべき事件が現在ではあるいは三十万円よりも上がっているのではなかろうか。したがいまして、それがなお三十万に据え置かれますと、結論におきましては地裁と簡裁との事件のバランスですか、それが先ほど御指摘のようにアンバランスになってくる。やはり経済事情と深く関連しているということは申すまでもございません。
  40. 円山雅也

    ○円山雅也君 そうしますと、四十五年に三十万円に引き上げて現在までそのままでございますけれども、それからもう七年たっている。物価もかなり上がっておりますし、事件のアンバランスもできておりますが、それがさらにひどくなれば、法務省としてはまたいわゆる簡裁の訴訟物の額を三十万円からさらに引き上げるお考えでございますか。
  41. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) いまの問題は私どもこういうふうに考えております。  昭和四十五年に、あの当時は簡裁の管轄が十万円までであったと思いますが、それを三十万に引き上げた。御承知のとおり、債権債務等の事案の訴訟では、訴訟物の価額で比較的簡単な事案ということになりましょうが、そういうものは簡易裁判所——昔は区裁判所と雷っておりましたが、その他は第一審が地方裁判所となっておるわけでございますが、経済情勢の変化と物価との関係で、事案の内容は同じでありますけれども、価額が上がった。こうなりますと、法律上当然に訴訟物価額が上がりますから、地方裁判所の管轄に入ってしまう。そういたしますと、地方裁判所は非常に事件がふくそうする、簡易裁判所事件が閑散になる。そればかりでなくて、訴訟の内容や性質は同じであるけれども、金額が多いために地方裁判所まで国民は行かなければならない。簡易裁判所で済むものが、ただ値段の関係で地方裁判所に行かなければならない、こういう不便な面もあるわけでございます。  そこで、この前の改正は御承知だと思いまするが、物価の上昇、経済の拡大等に従って、案件の性質は大体同じでありますから、三十万円ぐらいを簡裁の管轄にしたらどうか、それによって、いま部長からバランスの話がありましたが、やはり事務分量も考えなければなりませんから、地方裁判所だけに集中いたしますとなかなか訴訟の処理がおくれる、人員はそう簡単にふやせない、こういう事情もありますので、その両方を兼ねて考えていくわけでございますが、いまのお話、またそれから七、八年たっておるわけでございますから、経済の拡大もありますし、いまどうと考えておりませんが、まあ御承知のとおり安定経済時代になりましたので、そんなにまた物価がどんどん上がっても困るという政策もしておりますから、いま事務分量がどうなっておるか見ておりませんけれども、余り偏差があるとまた考えなければならないと思いますが、そういうことを勘案して将来検討しなければならぬと思っておりますけれども、いま直ちにこれをどうするという結論を持っておるわけではございません。
  42. 円山雅也

    ○円山雅也君 二十九年ですか八年ですか、三万を十万に引き上げたときに、地裁の事件の約半分ぐらいが簡裁へ吸収された。一遍に簡裁が地裁の半分ぐらいをばかっと引き受けて、その引き受けるに当たって簡裁について、たとえば裁判官を増員するとか庁舎をどうするとか、そういうような手当ては何らなされていなかったために、簡裁はそれ以後小型地方裁判所と申しますか、昔の区裁判所と申しますか、いわゆる審理はどんどん長引いていく、そして訴訟のやり方も地裁と同じようになっていく。簡裁のスタート時点の本来の姿、いわゆる民衆が利用しやすい簡易裁判所、民衆が気軽に飛び込んで自分の権利を守ってくれる簡易裁判所という概念が全くなくなってきたというふうに思われるのでございますけれども、そこで、そういうことも踏まえまして、一体地裁と簡裁との事件の負担量のアンバランスを是正するため、または物価の上昇のためと、それだけの理由でもって簡裁の訴額をただ上げれば足りるとお考えなのか、また他に何かいい方法を御検討になっておられるのか、その辺についてお伺いしたいと思います。
  43. 賀集唱

    政府委員(賀集唱君) ただいま簡易裁判所のことにつきまして非常にありがたい御意見をちょうだいいたしました。法務省といたしましては、やはり簡易裁判所の充実ということも考えておりまして、毎年国会お願いいたしております裁判所職員定員法の場合にも、かなり簡裁の裁判官の定員増ということをお願いし実績を上げていっておるわけでございます。確かに、御意見にありましたように、簡易裁判所は庶民のための裁判所ということもございますが、一方ではやはり庶民が先ほど申し上げました地方裁判所の本庁あるいはその支部まで行かなくて、地元で近くにある簡易裁判所に持っていける便宜ということも考えなければなりません。そのためには、やはり経済事情が変わりまして物価が上がりますと、いままでこの程度の額ならば近くの裁判所に持って行ってもいいという事件の訴額というものがやはり多少は変わってくるのではないかと思われます。ただいま仰せになりました簡易裁判所の性格その他も踏まえまして、やはり経済事情に伴う物価上昇、それからそのままずっといっておりますと、やはり地裁ばかりにしわが寄ってくると、そういういろいろな諸般の事情を考えて、私どもでは地方裁判所と簡易裁判所の負担の割合がどうなっているかということを今後とも十分に見守っていくと、このように考えております。
  44. 円山雅也

    ○円山雅也君 法務省考えとしては、どうなんでしょうか、いわゆる簡裁の考え方についてですね、いわゆる地裁の小型化でもいいんだと、昔の区裁判所のスタイルでもいいんだというような御前提でやっておられるのか。それとも、いやそうじゃないと、いまはもうやむを得ないんだと、この配分上。だから、決してそのいまの姿を簡裁の本来の姿と思っておらないんだというお考えなのか、その点についてちょっとお聞きします。
  45. 賀集唱

    政府委員(賀集唱君) 簡裁の本来の姿を何に求めるかと、戦前型の区裁判所に求める、あるいはいまの簡裁以上にもっと庶民的な裁判所に求めると、そういう画一的なイメージというものは持ちにくいといいますか、なかなか私ども探求しがたいのであります。したがいまして、先ほど申されましたように、さしあたり仕方がないという面もございますけれども、もう少し大きな幅でもって簡裁のあり方——簡裁のあり方だけじゃございません、地裁のあり方、それから県庁所在地にあります地方裁判所あるいはその支部にどの程度の事件が来、それぞれの市民の皆さん方が地元のあるいはその近くの簡易裁判所にどの程度の事件がいったらいいかとかいろいろな面から考えておりまして、必ずしも簡裁のあり方はこうだという一つの枠でもってそれでもって画一的に考えるという考え方はいたしておりません。
  46. 円山雅也

    ○円山雅也君 ありがとうございました。要は、簡裁につきまして、単に簡裁の訴訟物引き上げによって、アンバランスの調整とかそういうことでもって、それだけでもってその簡裁の本来の姿を変えてしまうというようなお考えさえないということを承れば、私としては結構でございます。ありがとうございました。終わります。
  47. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 以上で派遣委員報告に関する質疑を終わります。     —————————————
  48. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 引き続き、木調査に関する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  49. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 私は、今月の十九日、予算委員会において問題を提起したわけでありますが、それは一人のお母さんが市川警察に死体の身元確認に来いと言われて行ったけれども、幾ら考えても幾ら見ても自分の子供ではない、そういうところから端を発しまして、八月七日の朝日新聞ですか、きわめてこの問題は不可思議な事件だということで「証言台」という欄に朝日新聞が問題を提起したのが始まりであります。その後、そのお母さんから、警察に行ってもなかなか本当のことを教えてくれない、裁判所に行ってもなかなか教えてくれない、しかし子供は私の子供ではない、しかも戸籍からまで警察の力で除籍をされてしまったと、こういう問題が発生いたしまして、私は、いろいろな現代の世相から、学生運動であるとかあるいはハイジャックの問題だとかいろいろありますけれども、そういう問題ではなくて、一人のお母さんの声としてやはりどこかで取り上げてその真相を明らかにしてほしい、そういう強い要望がありましたので、予算委員会で時間をもらって討議をしてその点を明らかにしようと思ったわけでありますが、どうしても時間がないというので、法務委員会で警察庁なりあるいは法務省なりそういう点から具体的に明らかにすると、場合によっては資料の提供もすると、そういう話がありましたので、予算委員会から引き続いてこの法務委員会でお母さんに成りかわって私は質問をしたいと思いますから、ぜひそういう角度から、法律専門家あるいは弁護士の専門家が云々ということではなくて、素朴なお母さんの質問に答えるという立場で回答をしてもらいたいし、きょうは警察庁長官の出席を要請したわけでありますが、長官が何か地方行政委員会とダブっていると、そういう件がありましたので、きょうは警察庁の関係者は長官に成りかわって予算委員会の延長として御答弁なさる心づもりで来たかどうか、まず入る前に予算委員会とのつながりを含めて警察庁側の見解をまず冒頭確認しておきたい、こう私は思います。
  50. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) ただいまの件につきましては、私どもの方でも警察庁といたしまして他日の予算委員会での目黒先生の質問内容の趣旨というものを十分わきまえております。そういう立場でお答えするということで参ったわけでございます。
  51. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 警察庁長官に成りかわって御答弁すると、そういう立場を確認していいわけですね。
  52. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 結構でございます。
  53. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 では、そういうことを確認して入ります。  この水本事件ということについてはおわかりでありますから、ひとつ初歩的なことで、変死体が発見された場合は、自殺、他殺、いろいろな取り扱いがあると思うのでありますが、どういう取り扱いになっているのか、まずその初歩的なところからぜひ教えてもらいたい、こう思うのです。
  54. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 死体が発見された場合、それがたとえば病死であるとかあるいは老衰死であるというふうな自然死体を除きまして、異常な死体というものがあるわけでございますけれども、これにつきましては、死体を発見した警察官が死体の見分を行いまして、その結果犯罪にその死因が起因しているのではないか、かような疑いがあるものにつきましては、刑事訴訟法の定める手続によりまして必要な検視を行い、あるいは司法解剖を行うということで捜査手続が進められるわけでございます。しかしながら、その死体につきまして犯罪に起因するというふうな問題がない場合、これは国家公安委員会規則に定めるところの死体取扱規則というのがございますけれども、この規則によりまして死体の見分を行った上で、身元が判明した場合には遺族に引き渡す、身元が不明な場合には死体の所在地の市町村長の方に報告し、死体をそちらの方に引き渡す、かような手続になっております。
  55. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 水中死体の場合の取り扱いについても同じですか。
  56. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 異常死体がいろいろな状態で発見されるわけでございますけれども、基本的にはいま申し上げたような手続によって取り扱われておるところでございます。
  57. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 この前、予算委員会で提起した本件事件の死体が自殺体だとおたくの方で判断したと聞いておりますが、その自殺体だと判断した理由は何ですか。
  58. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) この事件の死体は、ことしの一月六日に千葉県市川市の江戸川の川岸から五メートルぐらい離れた水中におきましてうつ伏せになって浮いているところを発見されたわけでございます。その結果、所轄の市川署の刑事官以下の警察官が現場に行きまして死体の見分を慎重にやっております。見分の結果自殺であると判断したわけでございますが、その主な理由を申し上げますと、一つには死体の着ておった着衣に乱れや破損がない。また死体にも外傷がありませんで、あるいは抵抗したような跡もない。また、現金とかそういう金品を所持しておりまして、物を取られたというふうな状況も見当たりません。それから溺死体特有の膨満によります巨人化様の状態が見られまして、腐敗もある程度進んでおる。調べたところ、生活反能も若干認められる。したがって、これは入水後の死であるという判断もしております。また、この死体は長そでシャツの上から首を針金で巻きまして、コンクリートの破片をペンダント状といいますかペンダントみないな形態でつるしております。それからその上から背広を着てボタンをかけておる。特に表から作為したというよりは、自分でやったと、こういう可能性が非常に強い。そういうふうな主な状態を判断いたしまして、これは入水によるところの自殺であると、かような判断を下しております。
  59. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 石に針金云々といま言われていたんですが、針金の太さはどのぐらいだったのですか。
  60. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 針金の太さまでちょっと詳しい状況はつかんできておりませんけれども、大体一般用いられておる程度の針金であると、かように聞いております。
  61. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 それは大事なポイントになりますから、後で確認して報告してください。ですから、それがわかりませんから、私はこの点については質問を保留しておきます。針金が出てきてから問題があります。  では、次に遺体の処理という問題についてはどんな取り決めになっているんでしょうか。
  62. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 先ほども申し上げたわけでございますけれども、身元が判明すれば遺族に引き渡す。しかしながら、身元がわからない場合には、これを戸籍法の規定に基づきまして所轄の市町村長に死亡報告をいたし、その後死体を着衣や所持金品とともに市町村長の方に引き渡す、こういう取り決めになっております。
  63. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 遺体の処理の前に検視規則第六条八項、こういうことについて身体の部分、特徴、入れ墨、傷、歯、着衣、所持品などについて撮影、記録、十分に指絞の採取などを行って、その後の身元調査に支障のないように十分な措置をせい、この点は間違いありませんな。
  64. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 先ほど申しましたように、犯罪に起因するという疑いのある死体につきましては、検視規則によるところの手続を進めるわけでございますけれども、本件は自殺であると、こう判断された死体でございますので、死体取扱規則によって処置しております。死体取扱規則のいまおっしゃったような関係条文は同規則の六条にございまして、これは申し上げますと、人相とか全身の形状や歯型の形状、あるいは傷とか入れ墨とかいうふうな身体特徴、さらに着衣、所持品、こういうものによって身元調査に支障を来たさないように見分をする、かような定めで扱っておるところでございます。
  65. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 いや、私はさっきおたくに針金がどうだと聞いたら、針金のことはまだ聞いていないと言うから、その針金の問題から絡むいろいろな疑いの点があるんですよ。だから、われわれ素人が聞いても疑いの目があるんですから、慎重を期する警察署としては他殺か自殺か、なかなか判明しない。しかし、自殺と判明しても、八項ですか、自殺の疑いがある死体については「自殺の原因及び方法、教唆者、ほう助者等の有無並びに遺書」云々、ここはまだ身元不明だからなかなかむずかしいところですね。しかし、石を抱いているとか、針金で縛っているとかということについては、私は一定の疑いを持ってもいいのではないかという点からすると、やはりいまおたくが言った他殺体の疑いのある際のやはり慎重な措置があってしかるべきではないのかと、こう思うのですが、その慎重な措置が必要がないと判断した理由は何ですか。
  66. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 決して慎重な措置が必要ないと判断しておるわけではございませんで、これはやはりあくまでも死体の観察によりまして死因がどうであるかということは、これは警察といたしましても非常に重要な事柄として、警察官に常日ごろ教養して、またそのような観点、そのような知識、技術をもって扱っているところでございます。本件の場合でも、そうした目で、定められておるところの所要の手続を踏んで、この死因の解明に努めておったと、かように聞いておるところでございます。  なお、先ほどお尋ねのありました針金の直径でございますけれども、いま確かめましたところが、直径二ミリのものであると、こういうことでございます。
  67. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 しかし、身元不明人ですから、身元を確認するには、歯とか、体の傷とか、頭のぐあいとか、全体の特徴とか指紋であるとか、そういうものをとっておかないと、身元確認をする際に重要な決め手になるんでしょう。ですから、身元確認であれば、私は、こういった歯であるとか、あるいは傷跡、特徴、あるいは体の部分、着衣、所持品の撮影、記録、指紋というのは身元確認の貴重な資料として警察段階で採取したり保管したり記録をしたり、それは当然だとわれわれ常識的に思うのですがね。身元がわからないということになると、それはどんなものでしょうか。
  68. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 先ほど私が申し上げたところでちょっと誤解があったかもしれませんけれども、先ほど私が検視規則と死体取扱規則を分けて申し上げましたのは、死因によって扱い方が違っておると、そういう手続面のことでございまして、死因を確かめる手段といたしましては、大体、いま目黒先生言われたようなもろもろの要素ということを十分判断して死体の観察、見分に当たると、こういうふうになっております。
  69. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 直径二ミリという話がありましたから、私は直径二ミリということを聞いていろいろ弁護士先生とかその他の方に聞いてみたんですがね。直径二ミリの針金をどういうふうに操作したんだろうか。石をしょっている、そういうふうな場合には、自殺と他殺という線も含めてやはり慎重にやるのが法医学界の常識になっていると、こういう御意見を聞いているんですがね。この御意見についてはいかなる見解をお持ちでしょうか。
  70. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 自殺と認定した理由につきましては、先ほど主な点を申し上げましたけれども、決してこの針金の問題だけで云々しているわけじゃございませんで、そういった死体の形状とか、あるいは全身的な乱れの状態の有無の問題であるとか、そういうもろもろの要素等、総合判断に立って自殺であると、かような認定をいたしておるわけでございます。  針金の問題につきましても、針金といいますか、そういう身辺に緊縛するようなものをかけてそれにおもしをつるして自殺すると、こういうこともいままでの経験則上多々あるわけでございまして、その辺が特に自殺を疑わせるような不自然な状態であったとは本件の場合には認められなかったということでございます。
  71. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 もう一つ伺いますが、死体は時計か何か持っていませんでしたか。
  72. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 時計は所持しておりました。
  73. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 その時計は、私はこれは安い時計だからそうでないんだけれども、日付と曜日などが刻まれておる時計であったのかどうか、あったとすればどういう表示をしておりましたか。
  74. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 時計はこれは手首にはめておったそうでありますが、セイコーファイブアクタスという二十一石の時計でございまして、時計の文字盤の表面には、日にちと曜日が表示されるようなそういう形態の時計でございます。  そこで、表示は、二十二日月曜と、こういう日時、曜日の表示になっておったということでございます。
  75. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 そうすると、二十二日の月曜日というのは、計算するといつになるんですかね。
  76. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 当時の時期の前という時点でとらえますと、昭和五十一年の三月と十一月が二十二日が月曜日と、こういう日に該当するそうでございます。
  77. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 一番接近の日は五十一年の十一月二十二日になりますね、これは間違いありませんな、どうですか。
  78. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) そうだと思います。
  79. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 この死体の死亡は、おたくでは一週間程度と、一週間から十日程度と、そういうことが検視のあれに載っておりますが、これは間違いありませんか。
  80. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 死体の表面的な状況や当時の外気や水温などに照らしまして大体死後一週間ないし十日間を経た死体であると、こういう結果になっております。
  81. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 まあ針金の問題、いやそれだけじゃないと言うと、水が入ったとか金銭が盗まれないなど言いましたけれども、大体、人間は、毎日時計というのは自分の生活の手ですからね。時計が十一月の二十二日にもうとまっているのに死体が一週間だというのはどうもちょんまが合わないのじゃないですか。この点は、どういう監察をして、どういう調べをしましたか。私は時計の問題と死亡の問題がどうもかみ合わないというのは不可思議でならない。どういう監察をして、どういう問題点を摘出してそして捜査の結果こうだと、問題点、検討、結論、その三段階について具体的に教えてもらいたい。
  82. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 本件につきましては、現在公訴棄却の問題に絡む公判が係属中でございまして、裁判審理中の一つ審理の事項になっているだけに、わが方の判断あるいは具体的な把握内容につきましては、裁判に与える影響などを考慮しますと、いまお答えすることを差し控えたいと思うのでありますが、ただ、一般的な言い方で申し上げますと、時計のこうした日付、曜日の死体の見分結果とのずれといいますか、違いにつきましては、時計の故障であるとか、あるいは時計を所持しておった本人が何らかの理由で時計を正確に日付、曜日が合うように操作していなかったのじゃないかとか、あるいはそのほかの外的な要因で時計が一時的に狂っておったとか、いろいろな点が考えられるわけでありますけれども、いままでのところ、果たしていまおっしゃったような日付のずれが一体那辺によって出てきたかということは、正確には判断しかねるところでございます。
  83. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 私は、裁判云々という逃げ方は、私は裁判まで介入する気はありませんから、おたくの方が警察庁なり市川警察署が本件の処理に当たってどういう判断でどういう取り扱いをしたのかという点でありますから、裁判云々で逃げられることについては承服いたしません、裁判裁判ですから。おたくが事件を扱ってそれなりの処理をしたんですから。しかも、戸籍の除籍までやったんですから、警察署は。ですから、私は、そんな逃げ口上はとうてい承服できませんから、自後裁判云々の言葉はぜひやめてもらいたい、こう思います。  それからいま言った、私も国鉄で、公安官なんというテレビドラマでずいぶん毎週やっていますが、時計というものは人間生活に不可欠のものですよ。それを、故障であるとか、故意に狂いとか、そんな一般論で時計の価値というのは精工舎が泣きますよ、率直に言って。時計が常に犯罪の決め手じゃないですか。私はそう思うのですが、いかがですか。いろいろなテレビドラマ、推理小説を見ますと、文学的表現も含めて、時計というのはその人間の本当のアリバイなり行動なりを裏づける本当に客観的な物的条件じゃありませんか。それをどう思いますか。
  84. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) ちょっと誤解のないように申し上げておきたいのですけれども、本件は犯罪捜査ではないわけでございます。死体が判明した時点でこれは自殺と認定して処置しているわけでございまして、したがって、本人の具体的な生前の行動や何かにつきましての捜査的な確認の方法ということは、そまこでの厳密なものは余りやられていないわけでございますけれども、そういったことを別にいたしましても、いま私が申し上げたような故障とか、あるいは本人の操作の誤りとかいろいろな要素ということはこれはまあ十分推定できるわけでございまして、そうしたものが果たして本件の場合どうかというところまではまだこれは何とも申し上げかねると、こういう意味で申し上げたわけでございます。
  85. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 私はあんたと発想が違うんだよ。あんたはこの問題は自殺だと前提にしてすべての問題を展開する。私は自殺か他殺かという問題を判断する一つの客観的な条件として時計という問題をどういう判断をすべきなのか、着想が違うんですよ。だから、着想の違う考えでおたくの方は検討したのか。いまの答弁を聞いていると、自殺という前提に従ってすべての問題を展開しているというふうに思われるのですが、私は発想は逆なんです。時計という問題を通じて、いわゆる他殺か自殺かという問題の検討はしなかったのかと聞いているんですよ。
  86. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 時計の問題をとやこう言うまでもなく、ほかの、要素によって本件は自殺であると、かように認定しておるわけでございます。
  87. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 これは明らかになったのは、時計の時間のずれという問題については他殺か自殺かという問題の判定の要件には考えなかったというふうに考えていいんですな。
  88. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) いまも申し上げましたように、ほかの要素によって自殺であると、こう認められたわけでございますして、それ以上時計の問題が死因には絡んでおるというふうには考えていなかったわけでございます。
  89. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 それは確認しますよ。時計の問題は他殺、自殺の客観的条件に考えなかったと、こういうふうに確認しておきます。  それからもう一つは、この死体を火葬にする際にはどんな規則があるのですか。
  90. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) これは警察の方の職分ではございませんけれども、たしか、私の記憶では、墓地、埋葬等に関する法律によって埋葬、火葬されているというふうに承知しております。
  91. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 それは、墓地、埋葬等に関する法律第三条で死亡後二十四時間経過後に火葬すると、こうなっていませんか。
  92. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) おっしゃるとおりでございます。
  93. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 本件の見分開始時間は何時ですか。
  94. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 本年の一月六日午後二時四十五分から見分を行ったということであります。
  95. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 一月六日の午後三時十五分じゃありませんか。
  96. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 私どもの報告を受けている範囲では、午後二時四十五分からというようになっております。
  97. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 では、火葬した時間は何時ですか。
  98. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) これは死体を市役所に送付した後、市役所の行った措置でございますので、私どもの方では承知しておりません。
  99. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 では、調べてください。  私の調査では、一月七日午後零時三十分となっていますが、われわれの調査だと、これは二十四時間以内に火葬しているんですよ。おたくのこの二時四十五分ということでやると、二十四時間にタイミングを合わせるために見分時間を繰り上げたと、こんなかっこうになりかねない疑いがあるのですが、この点はどうですか。
  100. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) さっき申し上げました墓地、埋葬等に関する法律、これは私ども直接所掌しておらないのでございますが、御参考までに申し上げますと、先ほど言われたように、死亡後二十四時間経過しなければ火葬を行っちゃいかぬ、こういう規定でございます。死亡後というのは、これはあくまでも息を引き取ってから二十四時間以内にやっちゃいかぬということでございまして、本件死体は、先ほど申し上げましたように、死後一週間ないし十日ぐらいたっていると、かように見分の結果出ておりますので、この法律違反という問題は何ら生じないのじゃないかと、かように考えております。
  101. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 われわれは、これは見分の開始時間と、こう聞いているのですが、これは誤りですかね。  それからもう一つお伺いしますが、これも知らないと言われるかな。本件死体を検死したお医者さんはどなたですか。
  102. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) これは市川市にあります外科医院の福田というお医者さんであると承知しております。
  103. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 私も何人か親兄弟が死んでいますから、火葬する際には医者の死亡診断書、これが必要だと思うのですが、これは間違いありませんか。
  104. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 死亡診断書といいますか、死体検案書というものが異常死体の場合においてつくられるわけでございますけれども、墓地、埋葬等に関する法律、先ほどの法律によって処理する場合には、警察におきましてはその前に身元不明死体について市町村長に死亡報告を行い、それから警察の作成した死体見分調書を添えてこの報告を行うことになっておるわけでございまして、その際に、法的には医師のいま申し上げたような検案調書というようなものが必要とはされておりません。
  105. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 それは第何条ですか。医者の検死の診断書は要らないというのですか、火葬する際に。戸籍法第八十六条によりますと、死亡診断書あるいは死体検案書、これを当然つけなければ火葬できないのじゃないですか。
  106. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 先ほど来申し上げていますように、火葬、埋葬の問題は、これは警察としての仕事じゃございませんので、その具体的な手続を私から的確に説明できかねるわけでありますけれども、少なくともその前提として死体の引き渡し、あるいは死亡報告、これを行う場合には警察からは死体見分調書を添えて市町村長の方に出すと、こういう手続で十分だというふうにされているわけでございます。
  107. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 正確じゃないですから、私は提起をしておきますから、これも調べて後ほど報告書をください。  われわれの調べでは、これは一月七日午後零時三十分、検視後二十四時間以内に火葬に付した。これを死体検案書というものをつくった方は御指摘のとおり福田というお医者さん。この人に聞いたならば、書いたのは一通だと、しかも一月十日に書いたと。一月七日にもう火葬にしておって一月十日に書いたということは、もう火葬をしてから三日後にこのお医者さんが検視書を書いていると、こういうずれがあるんですよ。そして、人間の死体を焼くのに、私は、変死体であろうと、普通の死亡であろうと、やはり手続はあると思うんです。なぜこういう当然とるべき手続をこの案件に限ってとらなかったのですか、普通の手続を。その理由は何ですか。
  108. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 先ほど申し上げましたように、本件につきましては通常の手続どおりやっております。すなわち、死体の見分が終わった後で身元不明死体だということを認定いたしましたので、市町村長に、市町村長といいますか、関係市長に死亡報告を行いまして、それから所要の死体見分調書を添えてこれを市長の方に渡しておる。これは通常の手続でございまして、的確に踏んでおります。
  109. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 しかし、火葬の場合の手続ではないじゃないですか。これは、このずれを、あなたが言っている問題と私の言っている問題とのずれについて、具体的に事実確認をして、後ほど報告してください。ここであなたが専門家じゃないと言ったのに、専門家でない人に言ったってしょうがないから、私はこういうデータを持っていますと、いま申し上げたネタとおたくの方のずれについては文書で釈明をしてもらいたい、こう思うのです。
  110. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 先ほども申し上げましたように、埋葬に関する手続はこれは警察の所管でございませんので、わが方としてはそれにつきましてはお答えしかねるところでございます。
  111. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 だから、私は、あなたがそうだと言うから、それ以上追及はしない。私がいま述べたでしょう、この時間的な問題、それから戸籍法第八十六条の関係も含めて、このずれについては後ほど文書で報告願いたい、関係各省と協議の上。これは自治省ですか。この点は要請しておきます。いやだというなら、私、関係省庁を呼んでまた再質問しますから、これは要請です。いいですか。努力要請。関係ないから関係ないか。そのぐらいは、政府一体じゃないか。
  112. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) いま申し上げられたことは、後ほど所管の機関の方に連絡しておきます。
  113. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 はい、じゃ、それは要望します。  それから死体の見分で私もこう聞いたんだけれども、どうもこの前の予算委員会での答弁にはちょっと私は腑に落ちないのですけれども、そのはげのぐあいということを言っておりましたが、はげはどこにあったんですか。
  114. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 先ほど目黒先生は裁判審理中という言葉は余り使ってもらいたくないというふうなことを言われましたが、しかし、これは、現実にいまこの死体の人間、水本潔なる人物の上智大内ゲバ事件でございますか、これの公判をめぐってこの死体取り扱いにつきましても裁判一つの争点になっておるわけでございます。そういう状況でございますので、詳細なるこちらの認定事項などにつきましては、これはお答えはどうしてもいたしかねるという状況であることを御了承いただきたいと思うわけであります。ただ、いまおっしゃいましたそのはげの点でございますか、これはそういうことで余り具体的にはお答えしかねるわけでありますけれども、一応後頭部にそうした部分があったという認定があったことは聞いております。
  115. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 おたくの方は十円玉大のやつが後ろにあったと、こう言われたけれども、お母さんは、自分の子供ですから、この頭の分けるのところね、ここのところに五ミリの三センチ、こう横に流れている、そのはげが子供のうちあって——私はこれは天然パーマで、はげがありますから髪を伸ばしてはげを隠しているんですが、ちょうど私と同じようにやっぱりはげがあったので髪を伸ばしてよくはげを隠しておったと、だから常に左分けをしておったと、分けたちょうどここに五ミリの三センチのはげがあったと、そう言っているので、こういうのはやっぱりお母さんでなければわからないのじゃないですか。私はこういうのはやっぱり母親の言葉を信じたいと思うんですよ。いかがですか、それは。なぜ取り上げないんですか。
  116. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 母親が最初警察に来てのお話では、そういう本人についてはげがあったというふうな特徴点は何も話がなかったようでございますけれども、それよりさき警察の方で死体見分の結果そうしたものがあるということを認知しておるわけでございます。  それで、いま先生おっしゃったようなはげの形状が違うというふうな問題でございますけれども、溺死体といいますのは、ある程度期間がたちますと死体が膨満いたしまして、一種の巨人様相と言っていますけれども、ふくれ上がる。それからまた、ある程度腐敗の現象が始まりますと、かなり表皮の剥脱であるとか、毛髪の欠落であるとか、いろいろ体の外面に変化が起こります。そういう点におきまして、こうした点の身体特徴もやはり生前の特徴とぴたっと必ずしも合うとは言えないようなのが一般的な状態でございまして、本件の場合でも特に生前の本人と著しく違うような特徴であるのかどうか、そこは私どもの方としても必ずしも断言できない問題ではないかと、かように考えておるところでございます。
  117. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 しかし、そういうはげとか、それから額、それからまつげ、もみ上げ——これはほくろがあるわけですね。写真をもらったんですけれども、ほくろ、それから胸の突起、やけどの跡、こういうのが全部母親はあると言っているんですがね。そういうものが本当にあるかないかを含めて、やっぱり先ほど申し上げた精密な写真というものは当然撮っておかないと、こういう子供を育てた母親のいろんな願いというものは、写真が不明確だと、あるいは水死体になったからそんなのはパアになったのだというだけでは、一体なかなか判定に困るのじゃありませんか。むしろそういう問題等について私は故意におたくの方でこうやったような気がするんですが、そういうことはありませんか。なぜこういう母親のいろいろな供述について証拠物件と適合するような明確な写真というのを撮らなかったのですか。
  118. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 写真は撮っております。それからまた、死体の特徴その他についてもわりあい小まめに見分は行っております。ただ、この身元不明死体の身元というものは指紋の照会によって結局わかったわけでございますけれども、その際すぐ連絡して当初警察の方にやってまいりました母親の言い分では、最初は必ずしも本人であるともないともはっきりした見分けはつかなかったと。しかしながら、残された衣類、所持品などであるいは本人であるかもわからぬと。また、指紋というものがはっきり合致したのであればそれは本人であるかもしれないと。しかし、もっと関係者に相談してみなければということになりまして、その後いろいろな関係者が来る段階になったような以後の時期におきまして、何か警察が陰謀でおかしな死体見分をやったとか、いわゆる革マル派の出している文書なんかでもそういうことが大分取り上げられておりますけれども、これを虐殺したとかいうふうなことが言われておるようでございますが、しかし、先ほど来御説明申し上げておりますように、あくまでもこの死体の見分取り扱いということは、定められたところを緻密にやってまいってきておる。それを日常業務としておる私ども刑事警察の分野では、決してこの件に限っておかしな取り扱いがなされたというふうなことは全く考えていないところでございます。
  119. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 私も死体を見たわけじゃないからそんな議論をしてもしようがありませんが、それはそういう主張があるし、われわれはこういう主張があるということです。  それからもう一つ、写真の件を聞きますが、川上茂男さんという、これは葬儀屋さんで死体を運搬した方ですが、この方が、警察官同士で、変死体の内もものところに入れ墨があったということを話をしていることをその葬儀屋さんが聞いているというのですが、その事実はありますか。
  120. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 入れ墨の問題は見分の当初からなかったというふうに聞いております。
  121. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 私も、この写真、余りいい写真じゃないけれども、これはおたくで撮った写真をもらって持っています、検視の写真を。しかし、この写真を見ると、この写真とこの写真、なぜ右足の入れ墨があったと警官たちが話しておったということを葬儀屋が聞いたというその場所だけが白いきれがかぶさっているんですか。あとは全部裸体ですよ。前もそれから後ろもみんな裸体でしょう、これは。全部裸体。なぜこの分だけ白いきれがかぶさった写真が二枚も三枚も撮られているんですか。全部裸体ならば、なぜ全部裸体にしないんですか。これはどうですか。
  122. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) ちょっとその写真がどういう写真か私もわかりかねますけれども、一応警察で記録した写真ではそういうものは外部に出ていないはずでございまして、いままでの報告では、そうした入れ墨がそこの体の表面にあると、こういうことは絶対出ていないというふうに私どもの方では報告を受けております。
  123. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 そういう立証するあなた方が撮った写真を、前、横、縦、後ろ、あらゆる角度から撮ったそうではないということを証明するだけの裸体の資料を出してください。
  124. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 本件は公訴棄却の申し立てをめぐる裁判審理中でございまして、これに関する関係記録は一切裁判所の方に提出しております。したがいまして、御要望にはちょっと沿うことはむずかしいと思います。
  125. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 前の方は自殺であって他殺でないという自信を持っておって、他殺であればいろいろ論証があるとしても、自殺であるというあんたたちが断定をした以上は、写真を出すに何でやぶさかなんですか。おたくの方で何か疑いがあると、現在警察庁自身が捜査中だというなら、私もそれなりに了としましょう。現に自殺であると認定していろいろな手続をした以上は、この写真を出すに何でためらうのですか。こんなことは裁判所理由になりませんよ、法廷闘争の。出しなさい。
  126. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) ただいま申し上げましたように、公判記録として裁判所に全部記録が行っておりまして、実際手元にないということでございます。
  127. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 これは理由になりません。こんなのに時間をつぶすのはよして、後で理事会でやってください。とにかくそうじゃないと言うんなら、そうじゃないという客観的証拠を、あなた方自身がやったんですから、そのネタを出してください。要求します。いいですか。理事さん、後で。
  128. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) ただいま目黒君の要求につきましては、理事会で協議をいたします。
  129. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 もう一つ、何か指紋の関係はずいぶん専門的なややこしいことをやっているらしいから、それはまた専門の先生にお願いするとして、一番動かない証拠が歯だと。歯の関係ではあなた方はどういう検視調書をつくったんですか。
  130. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 死体見分時に歯の状況ということも一応丹念に調べまして、それを報告すると、こういうかっこうで認定しております。
  131. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 これは一つ一つ、この金歯があったというやっとなかったというやつがあるのですが、死体見分の際は金歯があったのですか。
  132. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) この問題も現在裁判進行中ですので、詳しいことは申し上げかねますけれども、一応見分のときにはそういう金冠はあったというふうに聞いております。
  133. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 それから抜け歯はありましたか、なかったですか。
  134. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) いま申し上げましたように審理中の問題ですので、詳細につきましてはお答えを差し控えたいと思います。
  135. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 これは審理中、審理中とあなたは言うけれども、警察官が自分の責任で処理したものを自信を持って答えてくださいよ。これじゃ人間の命を預けられないね、簡単に。肝心かなめの大事な金歯があったなかったという反証、抜け歯があるのかないのか、大事な問題になると——さっきのやつは、入れ墨とか何とかというやつは、まあ腐体だ。ある程度死体が腐っているという点で逃げようがあるけれども、歯とか時計とか、こういうのは簡単にそう日にちがたったから変わるものじゃないでしょう。これはいかがですか。抜け歯があったのですか、なかったのですか。
  136. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 先ほど申しましたようにちょっと詳細な点は差し控えさせていただきたいと思うのですが、ただ、いま歯を非常に問題にされておりますけれども、この身元の確認につきましては指紋によって水本潔という人物であるとはっきり確認されているところでございます。歯の点につきましては現在公判中ですので、詳しいことは申し上げないまでも、本人の生前の治療状況などがいま一つはっきりしない点があると、こういうことで、警察側の認定した歯の特徴との食い違いということが非常に裁判上も問題になっているように聞いておりますけれども、私どもの方としては、この死体の身元がどういう人物だと、死体がすりかえられたとか何とかというふうな問題なんかは決してないわけでありますが、そうした問題の証明といたしましては、指紋という非常に確定的な証拠がございますので、これによって歯の問題を云々するまでもなく事態は非常にはっきりしているのじゃないかと、かように考えております。
  137. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 なかなか言わぬから、私の方で調べたやつを言いましょう。  まず、歯の問題は、金歯はあると検視書は書いてありますが、これはありません。それから抜け歯がないと言っておりますけれども、これはお医者さんのカルテを見ますと、前の方三本、これは抜いていると。ですから、自分の歯じゃなくて義歯だと、そういう点があります。それからこの三本の抜いた歯を押さえるために両側から押さえていると言うけれども、これもおたくの検視書と違う。歯から見ると全然別人だという点は言えると思うのですが、こういう判定はおたくは全然まだ検視をしていなかったのですか。私は、歯を見る限りは、これは本人じゃない。このお母さんの述べる、お母さんが、二人のお医者さんですか、相さん、大崎さんという自分の子供さんがかかった歯医者さんのカルテを全部見てきちっと確認してこれは息子の歯と違うと、こう言っているのですが、おたくの検視とお母さんの申し立てと違った場合に、事件を扱ったあなた方としてはどういう取り扱いをするつもりなんですか。問答無用と言ってけっちゃくるのですか。ああ、そうであったかと、じゃもう一回われわれも慎重に検討し直してみようと、そういう民衆に対する温か味があるのか。問答無用で玄関払いするのか。調べてみたら息子の歯と違う、こういう場合には、どういう措置をするのですか。
  138. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 警察といたしましては、あくまでもその遺族の立場に立ちまして、身元が御本人でないというふうな疑問があれば、できるだけそれにこたえるべく、あらゆる資料や裏づけの調査を行ってその確認をするのは当然でございまして、本件の場合でもそういう立場でいろいろと調べ、また話を関係者から聞いたところでございます。ただ、先ほど申しましたように、はっきりは具体的に言えないものの、本人の生前の歯の状況、その後の治療状況——本人は何か大変な学生運動の活動家で非常に表を飛び回っておって、母親自身も本人の生前の行動というものは余り十分とらえていないらしいのです。そういうことで、家族の人も歯の状況ということは余り詳しくは知らなかった。それから医師の話でも大変その辺にあいまいさがございまして、したがって死体の歯の状況と、そういった生前の本人の真実の歯の状況がどうであったかと、対照ということが非常にむずかしいわけでございます。そういう意味で、なかなかその辺の話の行き違いで御遺族の方が納得できないような状態だというふうに聞いておりますけれども、そういうことでございまして、できるだけの手を打ってあるわけではあります。
  139. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 できるだけの手を打っているということは、具体的に聞きますが、昭和四十五年八月から十月まで市川市の相歯科医、四十五年の十月鶯谷の大場という歯医者さん、昭和五十一年三月葛飾区の大崎というお医者さん、われわれの調べではこの三つのお医者さんの本人の治療はわかっておるのですが、このうちの一つでも二つでも、この歯が問題だという問題提起になってからこういう方々に具体的に接触をして事実調査をした経過があるかどうか、あるいはこのほかにもおたくの方で歯の問題で調べた経過があるかどうか、あったら教えてもらいたい。
  140. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) いま言われた中の一人の方につきましては、警察官がじかに詳しい事情を聞いておるというふうに聞いております。
  141. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 詳しい事情を聞いて、あなた方がどういう判断をして、お母さんにどういう連絡をしたのか、それについて教えてもらいたい。
  142. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 先ほど申し上げましたように、聞いた歯の状況ということもその後の話ではいろいろしたようでございますけれども、この歯の問題云々ということよりは、やはり母親の方といたしましては全体的に本人の死体としてこれを引き取るというわけにはいかないということで、なかなかその点は折り合いがついていないというふうに聞いております。
  143. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 調べてお母さんと接触したけれども折り合いがついていないということですか。
  144. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 母親とはその後何回も接触しておったようでありますけれども、母親の方の御意見なのか、ほかの関係者の方の御意見なのかわかりませんけれども、現在の段階ではまあことごとにいろいろな問題点を取り上げて本人の死体ではないというような御意見が強いようでありまして、そういう点で折り合いがつかないといいますか、死体の引き取りに応じていない、かように聞いております。
  145. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 折り合いがついたつかないは結論ですから、できれば何月何日どの医者、この相医者、大場医者、大崎医者、この方々の意見を聞いて、お母さんなり親族の方にこういう話をしたというメモがあれば、その説得のメモ、あるいは日時などについて、きょうでなくて結構ですから、ぜひ今後の判断のために提出方をお願いしたいと思います。  それから指紋指紋と言われるのですが、この前予算委員会ではシリコンラバーとかというなかなかややこしいことをとったそうでありますが、このシリコンラバーというやつはどんな場合に使われるのですか。そして、いままで何回ぐらい最近一カ月なら一カ月で結構ですから使われているのですか、このシリコンラバーという方式は。
  146. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 正常の指紋採取ですと、これは指にじかにインクを押捺いたしまして、ローリングといいますか、これでじかに指紋の原紙に押捺するということで簡単にとれるわけでございますが、本件のような水死体の場合でありますとか、それからこれなんかは一種の漂母皮状態といいまして、言ってみれば、ふやけるといいまして、普通のこういうインク押捺のローリング法じゃなかなかとれないという状態があるわけです。ほかにも、たとえば火災の場合とかいろいろなケースがあるわけですけれども、そういうふうに通常の方法では指紋採取が非常にむずかしい、こういう場合には、シリコンラバーを使いまして、言ってみれば、指を包むようにして指紋をとる、こういう方法を講じております。  このシリコンラバーの採取件数というのは統計的にはちょっと出ていないわけでございます。日常鑑識活動というのは多くの県で多くの所轄署で行われておりますので、かなり使用の回数というものは多いと思うのですけれども、ちょっと数字であらわすということは非常に困難な状況でございますので、この点は御了承いただきたいと思います。
  147. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 法務大臣は、このシリコンラバーという方式を実際見たことがあるんですか、実際やっているところを見たことがありますか、どんなもんでしょうか。
  148. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 残念ながら全然知りません。
  149. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 人の話なんですけれども、きょう警察庁長官も来ていればいいんだけれども、警察庁長官もなかなかという話がちょっとあったんですけれども、そうすると、法務大臣、まあ法務大臣といえばわが法曹界の大親分、法務大臣もちょっと知りませんというのは、やっぱりこれは特殊な方法だと見ていいのですか。水死体の場合はほとんどこれを使っているのですか。
  150. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 水死体でもその死体の状況によるわけでございます。さっき申しましたような漂母皮状態などで通常の方法ではとりづらいという場合なんかの手段でございまして、ただ、特殊といいますか、これは警察の活動の中でも鑑識技術といいますのは非常に特殊な分野に入ります。指紋に限らずほかの足跡の問題とかあらゆる分野でも大変これは専門的な内容に属しますので、一般的には御存じない方も多いと思うのですけれども、ただ、警察のそういう専用活動の中におきましては非常に特異、特殊というのじゃなしに、むしろありきたりのやり方であるということでこの方法が使われているわけでございます。
  151. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 指紋で、これはいろいろ親指を除いて全部やってこうして切ったというんですね、おたくのこの前の供述を見ると。しかし、この切り口とかそういうものは非常に疑問視されるものであって、とった本人のものとなかなかこう、どういう形でかみ合ったのか、非常に疑問点にされておると。もう時間もありませんから、まあこのシリコンでとって一晩警察署のボックスに入れておって次の日に送ったと、七日にとって八日に持っていったと、こういうことを言われているのですが、その切り口その他から見れば、四指以外の親指の方はどうか知らぬけれども、こっちの方は非常に疑問視されておるということを言われているのですが、こういう指紋の監視と言うと変でありますが、警察庁の中で事故が起きるというのはわれわれわからぬことだからね、これは。そういうものをその日とってすぐ持っていくということはなぜとれないんでしょうか。これは時間がなかったんでしょうか。一晩置いて、一月七日にとって八日に鑑識課へ持っていったというのは、どういう物理的な制限があったのか。常ふだんそういうふうに行われているのか、あるいはたまたま今側は時間がなくてこうなったのか、この一晩とめて持っていくというのはどういう理由だったんですか。
  152. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) これまたちょっと専門的な話になって恐縮なんでございますけれども、シリコンラバーで採取するといいましても、先ほどの通常指紋のように一遍に簡単にとれるわけじゃないわけでございます。ですから、ある程度いろいろな試行というものがその間に行われて、多少そういうことで時間が経過する場合もございますし、それからまた、シリコンラバーで指紋をとった後でも直ちにこれがそのまま指紋の表の方に押捺されて対照資料になるというわけじゃございませんで、その後、またストリッパブルペイント法という方法がございまして、インクを乾かしてシリコンラバーにさらに合わせましてそれによって指紋を再採取すると、こういう作業行程もその間にあるわけでございまして、そういうものが行われて初めて指紋の用紙にほかの指紋対照資料と同じような形状の指紋の印章というものが記載されると、こういうかっこうになりますので、やはりこれに若干時間を食うということは無理からぬことだろうかと、かように考えています。
  153. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 この鑑識に当たった千葉県警本部鑑識課の小石という技官ですね、鑑識課技官の小石さんという方が直接やったと言われているのですが、間違いありませんか。
  154. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) そのように聞いております。
  155. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 小石さんは、これは親指を除いてべたっと押したのじゃなくて、一本ずつとったのじゃないかというような意味のことをマスコミとかその他に話しているということなんですが、これはどうでしょうか。おたくの方では、四本こうとって、そして切ったと、親指を除いて四指をとって、あとで切ったというのをおたくがこの前説明してくれたけれども、この小石というのは、いや、そうではなくて、これは一本ずつとったのじゃなかろうかと、鑑識に当たった小石さん自身がそういうことを言っているというのだけれども、これはどんなものでしょうか。
  156. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) ちょっとそこまでの詳細な採取方法までは私の方は聞いておりませんのでよく承知しておりませんが、そう特別なとり方をしたというふうなことではないという関係者の話でございます。
  157. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 これは私はそういうことを聞いていますから、真実かどうかひとつ確認をしてもらいたいと思うのです。  それからもう一つは、この程度の腐敗度であれば、いわゆる墨ですね、おたくが言う普通の。こんなややこしいシリコンラバー方式でなくとも、墨の段階でもとれたのではないかという証言だとか話をしているというのですけれども、私は素人として、たとえば一月六日に死体を発見して、入れ墨とか歯とかやったと。ところが、墨でとってみたけれども指紋がはっきりしないと。はっきりしないから、次善の策としてシリコンラバーでとったというなら、私はなるほどなと素人にわかるんですよ。ですから、私は、シリコンラバーに真っすぐにいかないでやはり墨でとると、墨でとったけれども不明確だからシリコンでさらに念を押すと、こういう慎重さがあっていいと思うのですが、そしてこの小石さんという鑑識課の課員の方が、この程度のものであれば墨でもとれるはずだと、そういうことを口外していると、こういうのですが、前段と後段と含めて、なぜ死体発見のときに墨の指紋をとらなかったのか、まずとったけれども不明確であるからシリコンラバー方式を使ったと、こういうことなのか、その辺の経過はどうなんですか。
  158. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 確かにいまおっしゃられたとおりの手順を踏まなければならぬわけでございまして、現場でやはりいま言った墨といいますか通常なインクを使用した形態でとろうとしたけれども、言ってみれば、指がふやけておりますのでそれは失敗して採取できなかったと、明確な指紋は採取できなかったと、したがって、シリコンラバーという方法に次に移行いたしましてそれで採取したと、こういうことでございます。
  159. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 そうすると、墨とシリコンと両方やったということですね。じゃ、墨をやった人は何時何分、何のたれ兵衛で、どこでとったか。それが不明確であったというならば、不明確であった——まさか投げたわけじゃないでしょう。これは不明確だから捨ててしまえなんて、そんな簡単じゃないでしょう、やっぱり。墨でとったけれども不明確だと、墨はこうであるけれどもシリコンはこうだと、私はこうあるべきだと思うのですがね。だから、墨でとったというなら、何月何日、どこで、だれがとって、そしてとった墨のやつは現在どこでだれが保管しているかということを含めて、時間が来たと言われましたから、これは後日私の方に文書で提出願いたいと、こう思うのですが、いかがですか。
  160. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 一般の自殺体の指紋採取は一応慎重にやっておりますけれども、いま先生おっしゃられたように、失敗したものとか、その後の手続上効用のないものまでとってあるかどうか、大変疑問だとは思います。一応確認してみたいと、かようには考えております。
  161. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 私はそれをしつこく要求するのは、あなたがずっと前段から、時計の問題から、医師の問題から始めて、歯の問題から、いろいろな体の症状から、ずっと終始一貫あなたは指紋が決め手だと、こういうことでやってきたでしょう。その最後の指紋が決め手と言うならば、その指紋に関する限りはやっぱりわれわれ議員の要求に応じてくださいよ。指紋だ、指紋だと、肝心かなめにいくといろいろなことがありますで一般論にすりかえられたのではとんでもありませんから、事指紋に関する限りは具体的に出してもらいたい、現場を十分調査して指紋の問題を出してもらいたい、こう思うのですが、これはなぜかというと、この問題の決め手にもなるだろうし、同時に後から寺田先生にもお願いする戸籍関係の問題の決め手にもなるんですよ。あるいは母親を納得させる決め手にもなるんですよ。ですから、冒頭申し上げたとおり、一人のお母さんが自分の息子の死体をめぐって息子である・ないと、こういうことを争っているという段階ですから、人権地球よりも重いというさっきの話、それから瀬戸山法務大臣のさっきの死刑の問題をめぐってのいろいろな御見解、これはやっぱり一人の生命だって私は変わりないと思うのですよ。これが息子でなかったら一体息子はいまどこにいるのか、それから息子でなければ変死体になった人間は一体だれなのか。これは二人の人権が絡んでいるんですよ、二人の人権が。ですから、単なる指紋論争ではない、母親の願いと二人の人権が絡んでいると、こういう点にかんがみますから、ぜひ私はいま言った指紋に関する墨と、それからこの問題との経緯について十分県警と連絡をとって関係資料を出してもらいたいと、こう思います。
  162. 平井寿一

    説明員(平井寿一君) 警察の立場といたしましては、本件に限ったことではありませんけれども、関係者人権というものは十分重んじて各種の措置をとっておるところでございますし、また、遺族の感情ということもこれは最大限度重きを置いて扱っているつもりでございます。ただ、本件の場合には、私どもの方では指紋を中心に身元は的確に確認できたと、かように考えて、その措置のいままでのいきさつもそう問題はないと考えておるところでございますけれども、いわゆる革マル派などのいろいろな文書で警察の陰謀めいた話が行われているということは大変遺憾なわけでございます。それに対しましてもしっかりした反証というものをしたいわけでございますが、この点は先ほど来いろいろ申し上げて、大変目黒先生の御不満を買いましたけれども、現在裁判審理中でございます。やはり公正な裁判でどう結果が出るか、そこに期待をしなければならないところでございますし、また、裁判の行われている最中というものは、私どもの方でも事犯の判断内容とか詳しい事実関係はいろいろ申しがたい点がございますので、そういうことで奥歯にものがはさまったような申し方ばかりをしてはおりますけれども、しかし、気持ちとしてはそういう気持ちで本件を扱い、考えておるということをひとつ御了解いただきたいとお願い申し上げる次第でございます。
  163. 目黒今朝次郎

    目黒朝次郎君 最後に。いま通知がありましたからこれでやめますが、法務大臣、私もこの前予算委員会であなたも席におって八月七日の朝日新聞の問題から取り上げてきたんですけれども、結局、いま裁判裁判と言われるけれども、聞くところによると、裁判も非公開でお母さん自体もその事実審理に立ち会わせることができない、こういうことらしいんですよ。だから、お母さんとしては、警察に行ってもなかなかうまくかみ合わない、裁判関係も非公開でやられている。しかし、自分の家にはお骨を持っていってどうぞ飾ってくださいと言われても、自分の子供であるということがはっきりしない以上はこうだというんで、非常に関係があるんです。ですから、われわれも、裁判を本当に公開してやってもらいたいという市民運動の要求などもあるようですけれども、問題はいま言ったような事実経過を固めて、指紋の問題、歯の問題などの問題についていろいろ疑念もあることですから、ひとつ警察庁とも十分連携をとりながら、この疑惑をきちっとはらす。間違いなら間違いだ、間違いなければ間違いじゃない、私はそれでいいと思うんですよ。そういうことについてやっぱり法務大臣の最大の努力を要請いたしまして、私は当面二つ三つの懸案は今後の委員会にゆだねて、本日の質問は一応これで法務大臣への要望を添えて終わります。
  164. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) きょうお尋ねのようなことは、この前の参議院の予算委員会でも、傍聴と言うとおかしゅうございますけれども、承っておりました。その裁判云々ということは実はきょう私初めて承りました。ところが、革マルの何か事件裁判の被告になっておったということはいま承ったわけでありますが、警察の処置について法務省はよく関知しておりませんので、裁判の傍聴、これも裁判所の裁量である事件でありますから全部いいというわけにもいかぬのじゃないかと思いますが、私の方でこれをとやかく申し上げる立場じゃございませんから、御理解願いたいと思います。
  165. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 二時三十分まで休憩をいたします。    午後零時五十六分休憩      —————・—————    午後二時三十八分開会
  166. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、本調査に関する質疑を行います。
  167. 中野明

    中野明君 けさほど来大臣の就任ごあいさつもお聞きいたしまして、非常に法秩序維持そしてまた国民の権利の保全ということにつきまして、毅然たる姿勢を聞きまして心強く思っておりますが、私、きょうは非常にショッキングなニュースが伝えられておりますので、最初にそのことにつきまして、裁判所の法廷内の秩序維持ということについてお尋ねをしたいと思います。  御承知のように、去る十五日に、銀座の路上で暴力団員がささいなことから発砲をいたしまして、善良な市民に、無実の市民の人たちに重傷を負わした、こういう事件がございました。この事件の取り調べの中から明らかになってきたということでございますが、この犯人がその事件の前の日、十四日に、東京高等裁判所に、自分の暴力団の組長のボデーガードとして入廷といいますか、法廷の中に入っておったということを自供いたしたようでございますが、その辺の事実関係はどうなっておりましょうか、最初に。
  168. 大西勝也

    最高裁判所長官代理者(大西勝也君) 初めにちょっとお断り申し上げますが、本来刑事局長が参上してお答え申すべきはずでございますが、急なことでよんどころない差し支えで参上できませんので、総務局長でございますが、かわってお答えを申すことをお許しいただきたいと思います。  いま中野委員から御指摘の、昨日のサンケイ新聞夕刊に掲載されました記事に関する件でございますが、裁判所といたしましては、あの夕刊の記事を見まして初めてそういうピストルを所持しておったというようなことがあったということを知ったわけでございまして、まだ本日ただいま現在までに、本当にその傍聴人の一人ないし二人がピストルを所持していたかどうかという点については、まことに恐縮でございますが、まだ調査をいたしておりません。御了承いただきたいと思います。
  169. 中野明

    中野明君 伝えられるところによりますと、この暴力団の会長といいますか、組長というんですか、その人が去年の春に海外から帰ったときに、やはりこの組長のボデーガードがピストルを所持しておって、羽田で銃刀法の違反で現行犯で逮捕されております。しょっちゅうこの人のそばにボデーガードがついているということなんですが、こういう本人が警察で自白をしておるようでありますので、ほぼ間違いない事実だろうと思いますが、本当に裁判の法廷にそういうピストルを持った人が平気で出入りしているという事実、これは非常に私大変なことだろうと思うんですが、何か傍聴の規則というものはあると思いますが、それらについての、どういうんですか、ボデーチェックといいますか、そういうことはいまどのようになさっておるんでしょう。
  170. 大西勝也

    最高裁判所長官代理者(大西勝也君) 傍聴に関する、ないしは庁舎の警備に関する規則でございますが、裁判所の庁舎等の管理に関する規程という最高裁判所の規程がございまして、その規程には、裁判所の庁舎の管理者、たとえば地方裁判所で申しますと、所長でございますが、庁舎の管理者はその新聞に掲載されましたようなピストルといったような凶器を所持して裁判所の構内に入ろうと、そういうような者がありました場合には、その裁判所の構内に入ることを禁止することができる、禁止しなければいけないという規定がございます。また、法廷の警備に関することといたしましては、裁判所傍聴規則というものがございまして、やはり裁判長は、法廷へそういうものの持ち込み、そういうものを持って入ろうとする者の法廷への立ち入りを禁止することができると、かような規定になっております。
  171. 中野明

    中野明君 何か本人は、真正面から出廷する組長について弁護士と一緒に堂々と入って、何も一切チェックもなかったということのようでございますが、今後こういうことが起こるということは、これはまた大変なことなんですが、そういう点について、何か対策といいますか、お考えがございましたら。  私、なぜこういうことを言うかといいますと、この前の日に、恐らくこの公判にその会長とかいう人について裁判所へ来ているわけですから、そこで発見されれば、明くる日のこの銀座の路上での発砲事件というものはなかったんだゃないだろうか、そのようにも思えるわけです。そういうことで、非常に最近は暴力団の発砲事件というようなことで、あちらこちらで大変な騒ぎが起こっておりますが、そういうさなか、過去に前歴のあるこういう人のそばについて、絶えずボデーガードがついて出入りしていることについて、裁判所の方で余り関心をお払いになってなかったんじゃないだろうかという心配もするわけですが、その辺どうなんでしょう。
  172. 大西勝也

    最高裁判所長官代理者(大西勝也君) 中野委員重々御承知と存じますが、たとえば東京地方裁判所で申しますと、毎日のように何百件という事件を処理しておりますし、その関係裁判所の構内に出入りいたします者もその何倍という非常に大ぜいの人々が出入りするわけであります。裁判所といたしましては、憲法で保障されております裁判の公開との関係から申しましても、余り厳重なと申しますか、警備も、一々入る人全部についてそういうことを行うということはできないわけでございます。したがいまして、その何百件と申しますか、そういうたくさんの事件の中で、それぞれの裁判長が事案をわかっておるわけでございますから、そのそれぞれの事案に応じまして、法廷の秩序維持等のために警備が必要というふうに判断いたしました事件につきまして、警備命令と内部で称しておりまするが、そういうものを出しまして、その警備命令に、それぞれ具体的にどういう措置を講ずべきかというようなことを裁判長が命じておりまして、それぞれの事案に応じてその命令に従って警備をする、こういうことに相なるわけでございます。まあそれぞれ事案によって違うわけでございますが、たとえば法廷の中で法廷の警備員が傍聴人等に注意をしておるという場合もございますし、法廷へ入るところで傍聴人等の所持品検査、ボデーチェック等をいたしまして、危険なものを持って入らないようにするというようなことをする場合もございます。もっとさらに庁舎の出入口におきましていまのようなことをするというふうな場合もございます。それぞれの事案に応じて裁判長がまず判断をするということになっておりますが、恐らく今回の場合、裁判所は、まだよくわかっておりませんが、もしそういうことがあったといたしました場合、当該事案を見て、裁判長は必ずしも警備が必要だとは判断しなかったということに相なろうかと思いますけれども、いま中野委員が御指摘のように、事案に応じてそれぞれやっておる場合もたくさんございまして、たまたまこの事件についてはそういうことをやっておらなかったということに相なろうかと存じます。  東京地方裁判所といたしましても、昨日の夕刊を見まして、この事案がどうであったかということは必ずしもよくわかっておりませんが、たとえば暴力団の対立抗争が関係しておるような事件につきましては、やはりそれぞれその事案に応じて適切な警備体制がとれるように十分配慮しようではないかというふうな注意を各部にも発したようでございまして、今後はできるだけ、仮にそういうことがあったといたしましたら、そういうことにならないようにひとつ措置を講じてまいりたいと、そういうことでございます。
  173. 中野明

    中野明君 この明くる日にちょっとしたささいなことで発砲するような人間が凶器を持っておったわけですから、私その裁判所の中でもしもそういう発砲事件なんか起こったら、これは大変な大騒ぎ、取り返しのつかないことになっているのじゃないかというような心配もするわけでして、これはこういう事件を見まして、普通の場合、傍聴は国会でも同じだろうと思うのですけれども、わりあいに厳重に、まあ裁判なんかでも、報道関係の人でも、実際に裁判のところはわれわれ外部の人が見たいと思っても、写真もあるいはテレビの放映もなされてないほど厳正に神聖なところということになっているわけです。そういうところでこういう事件が起こるということは、私は非常に遺憾なことだと思いますし、裁判所の方としても、今後そういう点厳重に注意を払っていただきたいというふうに思います。この件について大臣としての御意見を最後にお聞きしておきたい。
  174. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) これは国務大臣としてよりも、私、国民の一人として、事実がまだ判明しないそうでありますが、報道されたような事実があるとすれば、これは大いに注意をしなきゃならない。裁判はいまお話しのように公開の原則がありますから、ここはまあいわゆる人権との関係でなかなかむずかしい点があると思いますが、先ほど裁判所から御説明がありましたように、やっぱり事案によっては、特に暴力団というものは、私は詳細は知りませんけれども、最近見ておりますと、何かそれこそ常道のように武器を持って歩いておると、こういうふうなことを想像するわけでございます。でありますから、まあそのときには間違いがなかったからいいようなものですけれども、やっぱり十分に注意して遺漏のないようにすべきだと国民の一人として同じように考えるわけでございます。
  175. 中野明

    中野明君 いま大臣からお答えいただきましたように、特にこの関係は前歴があって、そしてそういうものを常時持っているという常習的な人が公判に来ているということなんで、そういう点はもっと神経を使っていただいて今後厳重にお願いをしたい、このように思います。じゃ、この件は以上で終わらせていただきます。  次に、入国管理のことでお尋ねをしたいと思っております。これは先日のハイジャック事件関連をするわけですが、入国管理局の方で報告をしていただきたいのですが、今回のハイジャック人質になりました方々、この方々の帰国、一次、二次と帰られたようですが、その状況を最初にお願いしたいと思います。
  176. 吉田長雄

    政府委員吉田長雄君) 十月四日、日航の第二救援機が羽田に着きまして、そこで日本人五十八名、外国人二十四名が入国いたしました。  それから十月五日、これは第一救援機が帰ったのでございますが、日本人二十一名、外国人一名が入国しております。
  177. 中野明

    中野明君 そうしますと、たしか被害機には百三十七名でしたか乗っていたように聞いておりますが、いまのあれで言いますと両方で百四名ですか。そうしますと、残り三十三人の人はどこか途中でおりられたのじゃないかということになりますが、その辺、外務省は見えていますか。
  178. 橋本恕

    説明員橋本恕君) 十月の四日に、先ほど入管局長が御説明いたしました八十二名と申します中に、さらに日航にハイジャックされた飛行機の乗員十名が加わりまして、これを加えますと九十二名となります。  全部の数を順次申し上げますが、十月の四日に日航の第二特別機で帰りました者が、いま申し上げましたとおりに乗員十名を含めまして九十二であります。それからその明くる日十月の五日に日航の第一特別機、これは政府の救援機でございますが、これで帰りました者が二十九名。内訳は、日本人二十一、外国人一、それからいま言いました二十二名の乗客と、それからダッカからアルジェまで人質となりました日航のクルー、乗員七名、合計二十九名、これが羽田に到着いたしました。  残りの方は途中でその人の個人の意思でもって別の行動をとられた、つまり羽田まで帰ってこなかったという方でありますが、ダッカで釈放された人質百十八名のうちで釈放後ダッカで独自の行動をとりました外国人が八名、バンコックでおりた外国人は十八名。それからさらにクウェート、ダマスカスにおきましてそれぞれ外国人各一名がおりております。それから第一特別機によりまして帰りました日本人のうち、一名がバンコックでおりております。それからさらにバンコックで外国人四名がおりております。これを合計いたしますと百五十四となります。  念のために申し上げますと、ハイジャックされた飛行機におきまして、この飛行機に乗っておりました乗客、乗員を含めますと、全部でハイジャックされた当時におきましては百五十六であります。このうちから五名犯人を引きますと、百五十一となるわけであります。これにダッカにおきまして三名のクルーが新しく乗り込んでおります。したがいまして、合計百五十四、これが総数でございます。
  179. 中野明

    中野明君 それで、これは予算委員会その他でも大変問題になったことなんですが、その人質の中で旅券を犯人側にとられた人、この人が九人おられたということが報ぜられ、委員会でも問題になったわけですが、これは九人がとられたことはそのとおりでございますか。
  180. 橋本恕

    説明員橋本恕君) 当初の調べにおきましては日本人の人質のうち九名が旅券を奪取された、こういうふうに私どもの外務省の調査で確認されましたが、その後、かなりたってから九名のうちの一倍につきましてはバングラデシュにおける御承知の騒擾事件、その混乱の中で一冊が不明になっておりまして、後でバングラ政府から一冊見つかったから返すということで最近外務省を通じて返してまいりました。したがいまして、現在の時点で正確に申し上げますと八名の日本人人質旅券を奪われた、こういうことになります。
  181. 中野明

    中野明君 外国人で旅券を奪われた人は。
  182. 橋本恕

    説明員橋本恕君) 外国人で旅券を奪われた者は、現在までに在外公館その他を通じまして詳細に調べたところ、現在の時点でわかっておりますところでは五名でございまして、ブラジル人が一名、韓国人が一名、オーストラリア人が二名、インドネシア人が一名、合計五名でございます。
  183. 中野明

    中野明君 それで、入管の方にこれはお聞きするわけですが、この九人の方々がお帰りになったとき、羽田の入管の手続はどういうふうな方法でなさったのでしょうか。
  184. 吉田長雄

    政府委員吉田長雄君) 日本人九名のうち、いま橋本事官から答弁がありました、後ほど旅券が帰ってきたのでございますが、羽田に着いたときは日本の旅券自体は持っておられませんでした。ただ、その人はダッカでわが大使館から帰国のための渡航証をもらってきておられましたので、その方はそれに帰国証印を押したということでございます。続いてあとの八名は、何も旅券またはそれにかわる文書を持っておられませんでしたので、これは日本人であることを確認いたしました後に帰国証明書を羽田で出しました。
  185. 中野明

    中野明君 通常、そういうふうに、これは今度のは特殊の異常のハイジャック事件でございましたが、間のときに海外から帰ってきた人でパスポートをなくしたというような人は年間どれぐらい統計的におられるのでしょうか。
  186. 吉田長雄

    政府委員吉田長雄君) これは全国的にちょっとまだいま調べがついておりませんが、羽田が大部分でございますので、羽田の入国管理事務所における数字を御披露いたしますと、昭和五十一年三百六十一件、昭和五十二年一月から九月までの数字が三百四十四件となっております。
  187. 中野明

    中野明君 それらの人の入国もいまと同じような手続でなさっているのでしょうか。
  188. 吉田長雄

    政府委員吉田長雄君) ただいま申し上げましたように、日本人であることを確認しなければなりませんが、具体的に申しますと、その方法は戸籍抄本、謄本を持っているとか、それから運転免許証があるとか、それからたとえば親族——親、兄弟の証言、そういうものを根拠に日本人であるかどうかを確認いたしております。
  189. 中野明

    中野明君 外国人の場合はどうなるのですか、持っておられない場合。
  190. 吉田長雄

    政府委員吉田長雄君) 今回の場合の二人外国人が旅券を持たずに着いたわけでございますが、尋ねてみますと、その人たちはもちろん旅券を持って出た、それから実は日本に滞在していた人でございまして、日本から出る前に日本への再入国許可証が発出されていた、こういう事実がわかりましたので、それに基づいて仮上陸を許可いたしまして、それで羽田を通ったわけでございますが、後日おのおのの大使館から改めて新しい旅券を発出してもらいまして、それをまた入国管理事務所に持ってまいりましたから、今度は、いままで仮の上陸許可でございましたが、その旅券に基づきまして正式な上陸許可を与えた次第でございます。
  191. 中野明

    中野明君 私のお尋ねをしたい要点は、結局、羽田で一次、二次と帰ってきたわけですが、そのときにいま外国人二人とそして日本人が都合九名ですか、この方々がハイジャックの犯人に旅券をとられたと、そういうことはその時点でわかったのですか、紛失しておる、持っていないわけですから。ですから、入管の方でその時点で旅券をとられたということはわかったと思うのですが、どうでしょう。
  192. 橋本恕

    説明員橋本恕君) 私自身、政府派遣救援団の一員として現地へ参りまして、最後にアルジェまで犯人を追っかけてまいりましたけれども、最後にアルジェで釈放されました日本人あるいは外国人の乗客の中からいろいろ事情を伺いましたところ、犯人に旅券をとられたということがその場でわかりましたので、一人一人についてできるだけ詳しく事情を聞くように私は連れてまいりました外務省の事務官三名に命じまして、飛行場並びに日本に帰ってまいります途中の飛行機の中でできるだけ一人一人の方々に対して旅券をとられたかどうかということを確認しろということを命じまして、相当数の方の旅券が、正確にはわかりませんが、十数名の日本人及び外国人の方の旅券が犯人にとられたということがわかりましたので、その時点で東京に連絡をいたしました。最終的に正確に数がわかりましたのは、羽田に着きましたときに入管御当局の方で一人一人につき旅券を確認した結果正確な数字がわかった、そういうことでございます。
  193. 中野明

    中野明君 そうしますと、四日、五日で旅券がとられておったということは、犯人にとられたということは入管の方でもわかったわけですね。
  194. 吉田長雄

    政府委員吉田長雄君) そのとおりでございます。
  195. 中野明

    中野明君 これは瀬戸山法務大臣が連絡が悪いといってずいぶん御立腹になられて問題になりました。国会でも予算委員会で十三、十四ですか、そこでこの旅券の問題、今回はハイジャック法も旅券法改正も出てくるようですが、旅券のことについては大変大騒ぎをしておるわけですが、こういうときに入国管理の方で旅券を犯人にとられたということがわかっておれば、やはり当然管理局長の方へも報告が現場から来ておるはずであります。そうすれば所管の法務大臣も当然御承知であったと思うのですが、その辺の連絡は外務省と法務省の連絡も悪いのですが、法務省部内の連絡も非常に悪いのじゃないだろうか。こういう特殊の、しかも国会を挙げて旅券で大騒ぎしている時点においても、いまなお当の法務大臣が、自分の所管のいわゆる入国管理の方でとられたことを承知しておりながら、大臣はお知りになっていなかった。こういう連絡の悪さ、先ほどの裁判所のこともそうだと思いますが、部内の連絡が非常に悪いような気がしていかぬのですが、そういう点について法務大臣に御報告なさっていなかったのですか。
  196. 吉田長雄

    政府委員吉田長雄君) その時点で、どうもこれは私の責任になると思うのでございますが、法務大臣のお耳には入っていなかった次第でございます。このことについては深く反省いたしております。
  197. 中野明

    中野明君 この旅券のことで国会であれほど騒ぎになったわけですから、その時点ででも御報告なさるべきじゃなかったろうか。旅券が紛失したりあるいはなくなった人のことについて日本人であることを確認したら入れるという規則ですから、それはやむを得ないかもしれませんが、意外にのんきにお考えになっている。日ごろからその程度のことなら大したことはないとのんきにお考えになっているようですけれども、前回もハイジャックのクアラルンプールのときに旅券を渡したということでこれはもう大変な問題にもなりましたし、今回もやはりそのことが大きな一つの問題点になっております。しかも今度は旅券をとって悪用をされるおそれはもう多分にあるわけですから、そういう今後に——ハイジャックというのは二度とあってはなりませんが、今後そういう犯人がまた行動をするといいますか、活動するおそれのある一つの証拠として旅券を欲しがるわけでしょうから、そういう点についてしっかり連絡をしていただかないといかぬのじゃないだろうかと、こういうふうに私は思います。この点、入国に当たってそういうふうにチェックをなさっていけば、当然、旅券がとられておったということ、こういう犯人に非常に大事な旅券がとられておったということはもっと早くわかっておったんじゃないだろうか。もちろん外務省の方は御本人が行っておられたのですから、現地でとられたということはおわかりになっておったでしょうけれども、それの報告もおくれたというようなことで、その辺の連絡の悪さを私ども気遣うわけです。やはりこれは国民すべてがお互いに気持ちを一致してこういう事件はもう絶対起こさないように、起こさせないようにしていかなきゃならぬ事件でありますので、今後そういう点についても連絡を密にしていただきたいと思いますし、そういうことを私はぜひきょうは御要望をしておきたいと思います。まあ法務大臣も、そういう面で、結局いまから考えてみれば、もちろん外務省の連絡も悪かったけれども、入管の方ですでにその時点でとられたことがわかっておった。それを法務大臣はお知りにならなくて、やはりある程度そのことについても御不満があったというふうに新聞等も伝えております。そういうことを考えますと、非常におかしなことになってまいりますので、その点を今後注意していただきたい、こう思って御質問をしているわけでございます。
  198. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) いつの日だったか、いまはっきり記憶しておりませんが、就任直後の閣議の席で私の発言が何か非常に激高して何か言ったというように、新聞なんかを読むとややそういうニュアンスの報道がなされました。いまも何かそれらしい御発言がありましたが、別に激高しているとかなんとかということでなしに、私は、入管局からも、もちろん就任早々ですからいとまもなかったわけでしょうが、そうでなくて、その前の報道で、ダッカであったかアルジェリアであったか明確に覚えておりませんが、ハイジャック犯人によって乗客の何人かが旅券をとられておると、こういう報道がありました。旅券をとるということは、私ども考えると、それを何かに利用しようということであり、彼らの場合はいわゆる何というんですか、氏名詐称で各地を動くというものに使うと、犯罪の手段に使われる、ほとんど一〇〇%そういうことが考えられますから、その時点で、私は細かい旅券等の海外の交通規則を知りませんが、海外の日本政府の出先でそういうことはわかっておるのじゃないかと、そうすると間髪を入れず警察なり法務省なりこういう旅券が犯人に渡っておるということを連絡する緊密な体制をとる必要があると、そういう意見を申し上げたわけで、特別に怒ったとかなんというわけじゃありませんが、いま中野さんの言われますように、これは国民全体がその気にならないと、どこに穴があるかわからないということですから、以後は政府部内でも気をつけたいと思います。
  199. 中野明

    中野明君 法務大臣が連絡をちゃんとしなきゃならぬとおっしゃった趣旨は私はよく理解できるわけです。ただ、いま申し上げたかったのは、そういうことで羽田ですでにもう三日、四日、五日ですか、その時点でもっと早くから向こうでとられたことはわかっているわけですが、すでに日本の国で一番正確に羽田の入管でとられたということがわかっておるのに、法務大臣の耳にまで入っていない。その辺の連絡も含めて、これはいかぬじゃないかと、こういうことでございます。今後こういうことは起こらないようにお互いに努力をしていかなければならぬと思っておりますが、その問題はこの辺で終わらしていただきます。  次の問題としまして、先ほども裁判所のことで暴力団の抗争事件の公判の一つのことを触れましたが、最近は社会的な状況がそうなんでしょうか、非常に凶悪ないやな犯罪がふえる傾向にありますし、そのことによりまして銀座の事件のように全然罪のない人がその犯罪に巻き込まれて死んだりけがをしたりいろいろ被害を受ける人に対する救済補償の制度、犯罪者被害補償制度と、このように私ども一応呼んでおりますが、この補償制度の立法化のことなんですが、そういうことで救済の道がなくして泣き寝入りをしている人が非常に最近はふえてまいりました。これはまことに気の毒この上ないような状態であります。衆議院の方で議員立法をして出されているようでありますが、法務省として検討なさっているやに聞いておりますが、この犯罪者の飛ばっちりを受けて損害を受けた人の救済方法、これについて法務省としてどの程度まで御検討がなされておるのか。
  200. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいまお話がございました被害者補償の問題につきましては、ヨーロッパを中心とする相当な国で現在実施をすでに見ておりまして、わが国においてもなるべく早くその実現が期待されておるように思うわけでございます。そういった期待を受けまして、衆議院の方ではいわゆる公明党案というものが議員提案として出されておるのが現状でございまして、このことは側面的に政府も努力をするようにという御推進のお気持ちも相当あって御提出いただいておるようにも承っておるわけでございます。私どもは、したがいまして、被害者補償の制度の早期の実現を目指して鋭意事務的にいま詰めておる段階でございます。  現在私どもが考えます場合に、最も理想的には、先ほど申しました公明党案のように、故意、過失いずれに基づく犯罪であるかを問わないで、およそ犯罪によって身体的等の被害を受けられた方、生命を奪われた方の遺族、こういう方に対して手厚く補償をして差し上げると、こういうことが理想であろうと思います。しかしながら、他面、こういう犯罪被害者補償制度をとることによりまして、わが国におきますもろもろの福祉施策との兼ね合いがどうなるかということも政府全体としては考えなければならないことだろうと思います。たとえば最近言われておりますことでも、学校災害でございますとか、あるいは公害被害、薬害、いろいろな問題がございます。それらの諸般の福祉施策の必要性を踏まえました上で、さしあたりどうしても必要な限度においてでもこの補償制度の発足を早からしめようと思って現在努力しております。そういう意味におきまして、私どもがいま考えておりますものは、実は公明党案よりもやや狭い。たとえば、過失犯はこの際後回しにさせていただく、それから被害の補償をいたします対象者につきましても本当にお気の毒な人をまずやらしていただくと、そういうようなことで、早急にいわゆる芽を出してそれをだんだん皆さんの御支援を得まして大きく茂らせていきたいと、こういうような基本的な態度で現在鋭意詰めさせていただいております。
  201. 中野明

    中野明君 とにかく、これまたきのうあたりから大変ニュースになっております兵庫県の尼崎で暴力団が用心棒の会社をつくったとかというようなことが問題になっております。これなんかのうたい文句に、やはり泣き寝入りをしている人というようなことで、現在救済の法がないので泣き寝入りをしている人を含めてそういうPRの文句でどんどん引っ張り込もうというような風潮であります。そういう面、いま刑事局長の御答弁で、私も非常に強く前向きで検討なさっているということを聞きまして喜んでおりますが、これは一日も早くいま言ったように第一歩を踏み出していただいて、何とかこういう気の毒な人たちを救済する制度というものを確立していかなければならぬのじゃないだろうか、このように考える一人でございます。そういう状況下にありますので、この点は大臣にもぜひ早期にまとめていただいて提案をしていただくように強く要望したいと思いますが、御所見をお聞きしたい。
  202. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 状況はいま刑事局長から御説明したとおりでございます。なかなかこの範囲をどうするかということが、人の行為でありましても、被害を受けた方は、このごろの犯罪は全く突発的に、全然無関係なところに殺傷が行われているところがありますから、しかも犯人もわからないなんということもありますし、それを傍観するということは共同社会としては適当でなかろう。これはもう数年前から法務省もわれわれの党でも研究しておりましたが、ただ非常にむずかしい点がありますのは、それは、妙な言い方ですけれども、雷様に当たっても、落雷でもこれはやっぱり同じじゃないかと。落雷みたいなものですよ、爆弾事件なんというのは。そういう点をどこでしぼるか、これは無制限にしますとまた幅が広くなりまして財政ももたないというかっこうになるおそれもありますから、先ほど申し上げましたように、何とかこの制度を、諸外国にもこういう立法例があるわけでございますから、最初から理想的なものはなかなかむずかしいと思いますけれども、実際犯罪のために困る方があるわけでございますから、できるだけ早く関係省庁とも話を詰めて法案として提出をしたい、かように考えておるわけでございます。
  203. 中野明

    中野明君 では、いま一点。これはけさほど大石委員の方からも一部お話がございましたが、法務局の支局または出張所の適正配置の実施状態をちょっとお尋ねしてみたいと思いますが、これは趣旨はどこまでも民事行政事務の充実強化がその趣旨であろうかと私も思っておりますが、ただ機械的に統合だけされても意味がありません。そういう意味では対応策を十分講じてやってきていただいていると思いますが、いままでの実施状況といいますか、四十六年にたしか千七百六十七庁だったと私も聞いておりますが、その後の実施状況をちょっと御報告願いたい。
  204. 香川保一

    政府委員(香川保一君) 昭和四十六年度から五ヵ年計画で進めてまいりまして、四十六年度に廃止しましたのが四十一庁、四十七年が六十一庁、四十八年が六十六庁、四十九年が七十四庁、五十年が八十九庁、ここでちょうど五年になるわけでございますが、なかなかいろいろ問題がございまして、当初計画したのが積み残しになっておるものがございましたので、三カ年延長いたしまして、五十一年に七十二庁、五十二年度、本年でございますが、十月今日現在で二十九庁、合計四百三十二庁の統合を実施いたしました。
  205. 中野明

    中野明君 これはいままでの状態を、恐れ入りますが、人庁別の登記所数等含めまして、資料で後ほどでも結構ですが御提出いただきたいと思うのですが、よろしいでしょうか。
  206. 香川保一

    政府委員(香川保一君) 承知いたしました。
  207. 中野明

    中野明君 それで、大体いまのお話でちょっと三年延ばしたとおっしゃっていますが、いつごろを完了の目途となさっているのですか。
  208. 香川保一

    政府委員(香川保一君) 五十一年当初におきましては、それまでに実施したものと、計画しながらなお実施ができないものとが不均衡になっておりますので、かような不均衡是正というふうな意味で三カ年延長をしたのでございますが、今日、新聞等でお聞き及びのとおり、さらに行政改革の一環として登記所の統廃合もなお推進すべきだというふうな線で検討されておるわけでございます。私どもといたしましては、当初の目標どおり五十三年度中にいままでの積み残しの分を処理いたしまして、その時点でさらに検討してみたいと、かような考えでございます。
  209. 中野明

    中野明君 あと、刑法の問題と少年法の問題をいま少しお尋ねしようと思っていましたが、けさほど刑事局長並びに大臣の方のお答えもございまして、大体それで法務省の現在の方向がわかりましたので、私のきょうの質問はこれで終わらせていただきます。
  210. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 暫時休憩します。    午後三時二十五分休憩      —————・—————    午後三時五十八分開会
  211. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、本調査に関する質疑を行います。
  212. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それではアジア局長に金大中問題でお尋ねをしたいと思います。  外務省のいままでのお話ですと、金大中問題は一応一九七三年の十一月に外交的な決着を見たということになっておりますね。その際、朴大統領の親書を韓国の金首相が持ってこられましたし、当時の田中総理大臣が朴大統領あての親書を送られたようですが、この朴親書、田中親書というものは金大中事件の外交的な決着にどの程度寄与しているといいますか、役割りを持っておるでしょうか、これをちょっとお伺いしたいのですが。
  213. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 御質問の朴大統領の親書、それから田中総理の親書、これは御承知のように外交的決着といいますのは十一月二日に金鍾泌国務院総理が日本に参りまして日本の田中総理と話をしてそして外交的に決着をつけるということに決まったわけで、外交的決着の実体はこの両総理間の話である。ただ、その両総理間の話の中の一番大事な部分であります韓国側が陳謝の意を表する、つまり金国務院総理がここで韓国政府を代表して陳謝の意を述べるときに朴大統領という韓国の元首の手紙を添えて、添えてといいますか、手紙も携えてやってきたということで、外交的決着の重みを増したと、こういうふうに私ども受けとめております。これに対しまして、田中総理の朴大統領あての親書といいますのは、この朴大統領からの親書に対する返事という形になっている、こういうふうに理解しておるわけでございます。
  214. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ただ、田中親書は、外交的な決着をつけたその理由といいますか、自分の外交的決着をつけたそのときの真意ですね、それをある程度物語っている証拠資料といいますか、そういうふうに受け取ってよろしいでしょうか。
  215. 中江要介

    政府委員(中江要介君) これはむしろ朴大統領の親書なかりせば田中総理はこの親書は出されなかったと思うのです。したがいまして、田中総理の親書は、その返簡を出すことになりましたもとになる向こうから参りました親書、つまり朴大統領の親書の意味を受けて返事を出しておられますので、この中に書いてありますことは、おっしゃいますように、田中総理としての気持ちといいますか考え方というものは反映されておりますけれども、これは朴大統領の書簡を読んでのこれに返事を書くに当たっての感じ、考え方というふうなことでいいのではないかと思います。しかし、その根底には、先生もおっしゃいますように、この外交的決着をつけることが、この事件によって日韓関係全般がこれ以上悪化するということはよろしくないという気持ちが裏に秘められていることは当然かと、こういうふうに思います。
  216. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いまの局長の御説明によりますと、外交的決着というのは、結局、両国の総理同士の話し合い、そして金首相が陳謝の意を表したことによって成り立った、朴親書は外交的決着の重みを増したものである、そういう趣旨の御説明があったわけですが、さて、その親書なるものを当委員会に提出をお願いするという橋本委員の請求があったわけですね。それに対して、外務省の方は、親書というものは非常にパーソナルな性格を持つから出しにくいという趣旨の御説明がありました。また、国際慣行といいますか、そういう面からも適切ではないと、そういう御説明がありましたが、私としましては、こういうふうな主権が侵害された疑いがきわめて強い、政府は否定しておるけれども、そういう疑惑を持っておる国民、政治家というものは非常に多いわけですから、そういう案件の決着に余りパーソナルな要素というものが役立つというのは好ましいことではないというふうに考えておったわけです。ところが、局長お話では、両親書というものはそう大きな役割りを占めたものではなくて、重みを増した程度だと、外交的決着をつけた最もエッセンシャルな基礎的なモメントは金総理の陳謝だと、そうおっしゃるのでしょう。どうでしょうか。
  217. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 外交的決着といいますのは、陳謝のほかに四つか五つの要素をひっくるめまして全体をもって外交的決着といたしたわけでございます。その中のエッセンシャルな、いま先生がおっしゃいましたようにエッセンシャルな部分である陳謝につきましては、一国の総理が国国政府を代表して陳謝をするということでも十分その陳謝の意は表されるわけですけれども、この際は、総理が陳謝の意を表するにとどまらず、総理が自国の元首から日本の総理あての陳謝の手紙を持ってくるということによって陳謝の意を表する表明の仕方を最も重い形にした、こういうふうに先ほど申し上げたつもりであるわけでございます。
  218. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 だんだんわかってきたような気がしますが、さて、その陳謝ということが非常に重要な要素になってきましたが、その問題につきまして先般外務省から御提出をいただきました一九七三年十一月五日の韓国国会の議事録、これを私は丹念に読んでみたのですが、この議事録で韓国の首相が韓国の国会で何のために自分が日本に行ったのかというくだり、説明をするくだりですね、それを読む限りにおいては、陳謝をしたということがうかがえないのですがね。本当に陳謝ということがあったのだろうか、これは非常に疑わしいんですよ。韓国の金首相の公的な発言ですからね、国会における。その公的な御発言それ自体から陳謝の意図というものはほとんどうかがえないんですがね。局長、どういうふうにお考えになりますか。
  219. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 私どもは金大中事件関連いたします日韓間の外交的決着は、この十一月二日の両総理の会談の後でお互いにその会談の内容を発表したわけでございますけれども、日本側は、権威をもってこういう外交的決着があったということを発表したとおりのことが会談の内容であったということについては確信を持っておるわけです。のみならず、先ほど先生も御引用になりました朴大統領の、つまり陳謝の意を表する表明の仕方に一段と重みをつけました最高レベルでの書簡の中にも遺憾の意を表して、しかも、韓国政府は再びかかる事態が生じないよう最善の努力を払うということを言っておる。このことは、つまり韓国側が責任を感じて、再発防止と一般に言いますが、また再びこういうことをいたしませんということを書き添えているところから見ましても、韓国側に、大統領以下日本に対して陳謝の意を表しているということは歴然たるものがあると、こういうふうに私どもは受けとめておるわけです。  いま他方御引用になりました十一月五日の韓国の国会の議事録の中にいま私が言いましたようにクリアな形で発言がないという点は、私もこれをこの間橋本先生の御指摘もありましてずっと読みましたけれども、確かにいま先生の御指摘のように、私がただいま御説明しましたような形ではっきり出ていないという点はございますが、これはなぜそうであるのか、韓国の総理が韓国の国会で行われた発言について私どもがそれがどういう意味であったかということをせんさくするということはいたしておりませんけれども、ここにございますように、両国首脳が相寄って種々この問題について協議した結果結論を得たと、こういうふうに言っておりますこの協議の内容につきましては、私どもが外交的決着の要点としてその直後発表しましたものが真相であるし、またこのことを繰り返して何回も何回も私ども申しておりますけれども、そういう外交的決着ではなかったということを韓国側が言ってきたことはもちろん一度もなくて、そのとおりであるということは十分承知しておるところであると思いますし、さらに、この外交的決着の各項目については、韓国政府は一々フォローアップを要する部分についてはフォローアップをしてきているという実態から見ましても、私どもの認識している外交的決着の内容、特にその中の陳謝の意を表明したという点については、これは間違いがないというふうに確信しているわけでございます。
  220. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 局長のおっしゃるように、外交的決着というのがまさに両国の首脳の協議の結果なんですよね。その協議の中身、最もエッセンシャルな部分である陳謝という点が、一方は陳謝と主張し、一方は陳謝などということを全くおくびにも出さないオフィシャルな発言国会でしているということになりますと、果たして日本の外務当局が言うような内容を持った協議が成立したということは言えないのじゃないでしょうかね。これは両方の意思が合致した、つまり合意が成立するということがこの外交的決着そのものなんでしょうね。ところが、両方の言い分が、これは両方のオフィシャルな発表というものが全く食い違っているというそんな合意があるだろうか。これは私的な合意についても同じです。私とあなたが何らかの合意をした、あなたのおっしゃることと私の言うこととが一致していない、しかもエッセンシャルな部分でそれが一致していないというわけですよ。それが合意と言えるでしょうか。協議と言えるでしょうか。そうでしょう。いかがですか。
  221. 中江要介

    政府委員(中江要介君) その点は、私どもは、韓国の国会で金国務院総理が言いました内容よりも、韓国の元首の地位にある朴大統領が当時の日本の総理にあてた手紙の中ではっきり申し述べていることが韓国の意思であるというふうに受けとめて一向に差し支えないと思っておりますし、また、その線でその後、もう三年、四年になりますか、この間私ども本件に対処してまいっておりますことについていささかの疑義も韓国側からも差しはさまれていないということによっても、当時の外交的決着の実質的内容が、私どもがその直後に発表しましたこと、そしていままた私が御説明していることには間違いがないと、こういうふうに確信しておると、こういうことでございます。
  222. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 疑いを持ってはいけませんので、金総理の韓国国会における経過報告を全部読んでみます、これはそう長いものじゃありませんから。   去る十一月二日、田中首相といろいろの問題  を協議するため日本へ行って来た。私は国連総  会における韓国問題に関する日本との協力関係  を始め、韓日経済協力関係、また最近田中首相  がモスクワへ行って来たので、樺太在留の韓国  人問題そして金大中事件をめぐるこれまでの韓  日間の問題など、韓日間の諸般の懸案問題につ  いて田中首相と直接協議するため一泊二日で日  本へ行って来た。   特に金大中事件に関しては、去る八月八日事  件が起って以来、日本国内でも多くの物議が起  こり、またわが国内においても未だ事件につい  て明白なけりがついていない。しかし、その間  のわが外務当局と日本の外務当局の間にこの問  題について結論が出され一段落することになつ  たので、今回両国首相が会って、より確実にし  なければならないと思い、この問題について協  議した結果、結論を得た。   私はこの席を借りて議員の皆様と国民の皆様  に金大中事件に対する結末を報告することがで  きず、いまだに捜査を続けなければならない現  実であるということを大変すまないと考えてい  る。   田中首相と私は金大中事件に関していろいろ  と協議し、また次のような結論に合意したの  で、この事件に関する韓日間の外交的な問題に  ついては結着をつけることになった。   つまり日本で嫌疑があるとされている金東雲  書記官に関しては、わが方が引続き捜査をし、  その捜査結果に従いわが国内法によって処理す  る。だから今後この問題に関する限り、日本で  はこれで捜査が終結し、これからはわが方でこ  の問題に対する捜査を続け、真相を究明するこ  とになった。  陳謝をしたというようなことはおくびにもないですね。これははっきり出ていないどころじゃありません。エッセンシャルなパートであるその陳謝なるものは全く影も形もないんですよ、金総理の発表では。それが日本の場合には、それがなされたがゆえに外交的決着をつけた。全然これは正反対なんですね。局長、これは大変な問題だと思う。  しかもですよ、この中にはいろいろな問題がある。いま私がお話ししました朴親書のことについては、これが本当に朴親書に陳謝の意味があるかどうかという問題はまたさらにお尋ねしますけれども、それよりももっといろいろな問題というのは、この外交的決着というのは、金総理の発表によりますと、すでに田中、金両首相の会談以前に、その間のわが外務当局と日本の外務当局との間にこの問題について結論が出され一段落することになったので、今回両国首相が会って、より確実にしなければならないと思い、この問題について協議した結果、結論を得たというくだりです。そうすると、両首相の陳謝によって解決を見たのじゃなくて、それ以前にすでに外務省当局同士でもう結論が出ていたんだ。そして、総理が会ったというのはそれを単に確認するというか確実にするためだけにすぎないという趣旨の発表ですよ、金総理のは。ですから、すでに外務当局、事務当局の間でもう何らかこの事件は不問にしようというような話し合いが成立しておったということになりますが、どうでしょうか。
  223. 中江要介

    政府委員(中江要介君) その点は、全く、私どもはいま先生がおっしゃったようには受けとめておりませんし、また、実態はそうではなくて、これは当然のことでございますけれども、これだけの大事件が起きたわけでございますので、外交当局間でこれについてまずどう認識するか、そしてそれから派生するいろいろの問題をどう処理するかということを話し合うのはもう当然のことでございます。  そのときに、私どもは、この金大中事件には韓国の中央情報部の介入があったのではないかという疑惑が日本国内で非常に叫ばれたわけでございますので、そういう観点から、一体これは日本の主権侵害ではないかという点について日本側の疑惑も念頭に置きながら韓国との間でこの事件をどういうふうにして解明するかという話をずっと続けておるわけで、もうその間は毎日この問題について外交チャネルで話し合いがあったわけでございまして、そのために他方通常の日韓間の関係は凍結されるような状況で冷却化していった。そういう中で、その過程におきまして、金東雲一等書記官の指紋が検出される。こういうものを持って韓国にさらに迫るという場面も入れながら十月いっぱいずっと双方で話し合いましたけれども、主権の侵害があったという確証が得られないままに日時が経過していく。そこで、そのままでいつまでも本件の真相究明だけに没頭していくという考え方もあろうかと思いますけれども、そういう道をたどるのが賢明であるのか。しかし、日韓間は、一九六五年に正常化して以来、双方で努力をしながら友好関係を積み上げてきたのであるから、この事件の真相究明はこれはおろそかにしないで続けるけれども、他方日韓間のいわゆる通常の両国関係がこのためにすっかり冷えてしまうということはやはり賢明な対策ではなかろうと。そこで、この真相究明は真相究明として追及しながら、他方外交的には本件を一応決着をつけて、そして外交関係はもとに戻そうと、こういう話がだんだん行われておりまして、それにつけても、日本側としては、これは何といっても韓国側が日本に陳謝を表明すべき問題である。その内容に主権侵害があったかどうかということは、これはまだその時点で証拠も挙がっておらなかったために決めつけるわけにはまいらなかったけれども、しかし、これだけの疑惑を生んだような事件を韓国人と韓国人の間で日本という場所で起こされたということについては韓国として黙って済ませる問題ではないじゃないかという話をここに引用しております外務当局と日本の外務当局の間でいろいろ話をして、その結論の中の一つにはそういうものもあったわけです。そのいろいろの段取りの中には、結局、陳謝の意を表明する、これは韓国側としては最も高いレベルで表明してもらわなければならない、それからまた再発の防止についても約束してもらわなければならない、また犯人はしかるべく処置してもらわなければならないし、また責任者の処遇も考えてもらわなきゃならないし、また被害者である金大中氏の身柄の問題も考えてもらわなければならないというような話をだんだん積み上げまして、さてこういうふうに事務当局で詰めて、これによって果たして外交的決着はできるかどうか、またするかどうかというこれはもうきわめて高度の政治的な判断でございますので、それはひとつ両首脳の間で話してもらいたいし、そのことは当然陳謝をすべき立場にある韓国から出向いてきていただいて、そして日本に来てまず謝って、そしてこの外交的決着の内容をよく相談してもらいたいというところまでが、ここに書いてございますように、外交当局の間で結論が出されて一段落することになったので、この両国首脳が会って、より確実にするために協議をした結果、結論を得たと、こういう次第になっておるわけでございまして、事務当局がすべてを決めて、ただそれを両国首脳が相寄って形式的にどうしたということではなくて、最終的な判断は両国首脳でやるというそれほどの重い取り扱いという気持ちで事務当局も対処しておったわけで、その中のエッセンシャルな部分である陳謝の意を表明するというところでは、韓国といたしましては大統領の田中首相あての親書を持って向こうの首相がやってくると、こういう非常に重い形式をとったと、こういうことでございます。
  224. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大体局長のおっしゃることはわかったように思います。結局、外務省の事務当局同士でいつまでも日韓両国の間柄というものをぎくしゃくしたものにしておくわけにはいかない、円満な関係に修復しなければいかぬ、大体その話ができておって、その手打ち式みたいなものを両国の首相の間でやってほしいということなんでしょう。その手打ち式が、金総理が来てそして田中と話し合うということになったのじゃないでしょうか。だがそれは結局儀式みたいなもので、そのおぜん立てばもう全部事務当局同士の話し合いでできておったと、こういうことなんでしょう。
  225. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 段取りはもちろん事務当局の間で話し合いをして決めませんと、大体首脳会談というのはいかなる案件、いかなる場合であっても行われない。つまり、首脳会談が行われる前には事務当局の間で段取りを決める、これは通常の手続だと思いますが、この事務的な段取りをするに当たりまして、いま申し上げましたような政治的判断までも、政治的な、つまり両国政府の首脳と何ら相談しないで事務当局だけでこの筋書きを決めたというふうにもし先生がおとりでしたら、それはそうではなくて、当然のことですけれども、それぞれの国では自分の国の政府首脳と相談しながらその手順その他については外交レベルで話をしていくということでございます。その韓国の外務当局と話し合いをいたしましたについて日本側が臨んだ姿勢というのは先ほど申し上げたようなことでございますし、その限りにおいては、これは被告も原告もと言いますか、つまり加害者も被害者もともに韓国人であると想定され、またその人たちがすべて韓国内に存在しているという状況にその時点でなっておったわけでございますので、そういう客観的な状況、またその肝心の日本でこの者と目星をつけました金東雲一等書記官も東京におります間は外交官としての特権がありますために任意の事情聴取すらもできない状況であったというようなこともありまして、これ以上いつまでも真相究明だけに日韓両国が当たっていくということは果たしてどうかということは、これは最高レベルの政治判断の問題でございますので、私どもも恐らく当然韓国側も、最高首脳といろいろ協議しながら、私ども事務レベルで協議を詰めて、そしてこの十一月一日、二日の両国首脳の会談にまで事が運んだと、こういう経緯でございます。
  226. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ただ、局長事務当局で話し合いは当然のことだと、おぜん立てはね、そうおっしゃるけれども、この金総理の発表というものは、「わが外務当局と日本の外務当局の間にこの問題について結論が出され一段落することになったので、今回両国首相が会って、より確実にしなければならないと思い、この問題について協議した結果、結論を得た。」と、こうなっているのですよ。つまり、もう結論は出たんだと、一段落することになったんだと、両国の首相は単にそれを確実にするという、どう言うのかね、アファームと言うのかね、確実にするということだけにすぎないんだと、こういう発表なんですね。どうでしょうかね、本当に金総理は、いま私が申し上げたように——局長もこの文書を読んで、陳謝の意味は表面に出ていないように思うということをおっしゃったでしょう。本当に陳謝したんでしょうかね。もし本当に陳謝したものなら、なぜ金首相は陳謝したということを韓国で言わないのだろうか。全然そういうことを表に出さずに報告するという、そのエッセンシャルなパートが消えているということは、これはどうでしょうかね、まあ韓国の国民に対して偽りを言うか、あるいは韓国の国会を欺くかということになりませんかね。一国の総理がそんなうそをついてまでこの問題の決着をつけるということもおかしな話だと思うのですが、もう一度念のために、局長、本当に陳謝したんだろうか、はっきり言えますか。
  227. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 私どもの経験と記録に関する限り、韓国側が日本に陳謝の意を表明したということには一点の疑義も持っておりません。韓国の総理が韓国の国会でなぜこういう言い方をしたかというのは、これは私どもの及ばないところで行われていることでございますし、韓国民からいたしますと、国務院総理が大統領の手紙を持って東京まで出かけて田中総理と会った、そしてその会った東京で日本政府がその内容はこうであったということを発表したと、このことは韓国民もすべて知っていることだということであることは当然なことでございますし、これは隠しようのないことであるのみならず、その後の事態の進展及び私どもの説明が一貫してこの外交的決着の内容を私どもが発表したとおりのものという前提で処理しているというその流れの上には何の支障もないということから見ましても、韓国がこの十一月二日の両国総理の会談の席上こういった陳謝の意から再発防止その他その他を述べたということについてはいまや疑う余地はないと、こういうふうに私は思っております。
  228. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 疑う余地がないとおっしゃっても、これはやっぱり客観的な資料に基づいておっしゃっていただかないと国民は了承できないわけですよね。あなたはそれにタッチなさったからそれは確信するとおっしゃっても、国民政府の発表そのまま一〇〇%うのみにするわけじゃありません。やはり客観的な資料というものを分析して、それに裏づけられて初めて私どもがそれを信用するかどうかが決まるわけですからね。  それからもっと私がびっくりしたのは、いろいろびっくりすることがあるんだけれども、陳謝でないということを裏づけする趣旨の金首相の報告では、日本も悪かったんだというくだりがあります。というのは、日本が金大中氏に旅券目的以外の政治活動を許したのが悪いということを言っているので、金首相の表現では「日本側も大変そこつであった」と、こう言っているんですよね。で、結論としては、「われわれも最善を尽くすつもりであるので、日本も最善を尽くしてくれと申し入れ、これについてはそのように合意を見た。」と。つまり、両方悪いじゃないかと、だから両方とも改めようということで合意を見たという趣旨ですよ。これは全文をいまここで読まなくても、そういう趣旨の報告があることは、局長は資料をお持ちだからおわかりになるでしょう。これはどうでしょう。両方悪いんだ、だから両方改めよう、それで合意したんだと、こう言っていますが、どうでしょう。
  229. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 先ほどもちょっと私申し上げましたけれども、韓国の総理が韓国の国会で御発言になったことが一々本当であるかうそであるか、あるいはそれをどう解釈するかというようなことは通常いたしませんわけでございますけれども、日本の総理以下日本の責任ある地位にある者が日本の国会で述べていることということは、これはやはりそれ相応の重みを持ってお受けとめいただきたいと思うわけでございまして、この件について両方が悪かったから両方で手を打ちましょうというようなそういう解決ということはゆめゆめ考えたこともございませんし、そういったことも私どもが一度も御説明なりあるいは申し述べたこともございませんし、私どもは一貫して十一月二日の外交的決着というのは繰り返し述べているようなものであったと、またそのことについて朴大統領の田中総理あての親書の要旨もあえて公表いたしましてそして国民の皆様の御理解を得ておるわけでございまして、いまこの段階で韓国の国会で韓国の総理が言われた一語一語についてこれは内容と違うじゃないかと言われましても、私どもは公にいたしました外交的決着と、そしてまたある程度公にしております諸般の文書、親書とかその他のものがございますが、そういうものから見ていただきましても、そんな解決の仕方をしたということは絶対にないということについては御信頼いただきたいと、こう思うわけでございます。
  230. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それは、局長、一方的な行為である場合は、たとえば日本の単独行為である場合、それは日本の外務省の発表あるいは総理の発表というものをわれわれは信用せざるを得ませんけれども、これは合意なんですよね。いわば協定なんですよ。それが一方の発表するものと相手方の発表するものとが食い違うということは、これは信用することができないじゃありませんか。だから、両方の合意の場合には、何かこれを発表する場合に初めから共同発表の形をとるか、まあ条約であればその解釈について確定しておくかというような外交的な手続が通常とられますね。この場合はそれがない。文書にもなっていない。親書があるけれども、これは後でまたお尋ねするけれども、親書ももう非常にあいまいな親書で、発表せられた限りにおいてはどうにでもこれは解釈できるようなものです。  いまお話ししたように、ともかく相手方の公式な発表というものでは、両方悪いんだと、だから両方が反省しようということになっているわけですよ。陳謝というものを消しているわけですね。ことに、その後で、金鍾泌首相と当時の田中総理とでは、ある期間が過ぎれば過熱がさめ、両国間の物議は一段落するという結論を出して結末を見たというくだりもあるのですよ。つまり、これはいいかげんに時を過ごせば熱はさめますよ、そうだそうだというような何か非常に無責任なことのようなくだりもあります。韓国首相の発表を見ると、これはいかにいいかげんなことでこの事件を不問に付したかということを裏書きするもの以外の何物でもないんですよ。そういうくだりのあることもお認めになるでしょう。いかがですか。
  231. 中江要介

    政府委員(中江要介君) いま御指摘のように、日本においても過熱状態なので云々という国務院総理発言があることは議事録で承知しております。ただ、先生何度も向こうの国務総理の発表とおっしゃっておりますが、これは国会における発言でございまして、私どもの発表というのは、これは明らかに外交的決着が終わった後で、国会の場ではもちろんその後いろいろ御説明しておりますけれども、その要点は新聞に正確に発表した。この発表しました中は、合意とおっしゃいますけれども、その中身は全部韓国側の責任においてなすべきことばかりが述べてあるわけでございます。犯人の処理と監督責任者の処分、ここでは金東雲を特に特記いたしまして、これについて取り調べるということも述べておりますし、捜査の結果を通報するということもございますし、金東雲の監督責任者について相応の措置をとると、これは全部韓国側がなすべきことでございます。また、金大中氏の自由について、一般市民と同様に出国を含めて自由にするというような点もそうですし、陳謝はもう先ほど来申し上げましたとおりこれは韓国が日本に陳謝するわけでございますし、将来こういうことを起こさないという再発防止といいますか、それも再びかかる事態を生じないように努力するということを朴大統領自身もその手紙の中に書いておりますし、主権侵害については、これはいまの段階では日本は主権侵害であるとは断定できないけれども、将来これを裏づける事実が出てくれば再びこの件を見直すという立場を留保すると、これはすべて韓国側が日本に陳謝をした上で本件について真相究明を続けつつ、他方外交関係をもとに戻すために両国首脳が話し合った内容ということで日本側が積極的に発表いたしまして、その発表したものが守られているかどうかについてはその後折に触れて国会でもいろいろ御叱正いただいておりますけれども、韓国側にこのとおりのことが行われているかどうかということについて私どもが厳重に見守ってきているというところから見ましても、金鍾泌国務総理が先方の国会説明したことというものはそれは国会説明したことであるにすぎないので、実体はあくまでも私どもが明らかにし、そしてその後その線に沿って韓国と話し合いを続けているというこの外交的決着の内容というものが不動のものである、こういうふうに御理解をいただきたいと思うわけでございます。
  232. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 次に、大切なことは、この金総理国会における報告、これは何かいま局長お話では新聞発表よりも次元が低いもののようにおっしゃったけれども、そうじゃないと思いますよ。民主主義国家においては一番大切な国家機関である国会における行政当局の首脳のオフィシャルな報告というものは、それは新聞発表にまさるとも劣るものじゃないと思いますがね。ですから、その認識もまた改めていただかなければいけませんが、この報告の中の、日本側の捜査は終結し、これからは韓国側が捜査を続け真相を究明することになったというくだりなんですよ。これはもう私も驚いてしまってね。どうです、これは。こんなばかげたことはないでしょう。もしそんなことを決めたとすれば、これはどういうことになりますか。日本の犯罪捜査権というものを全く否定したようなことになるし、もちろん検察権の否定でもありましょうね。それを外務当局がこんなことを相互に話し合うこともおかしいし、まして協議するなんということは考えもつかないことだけれども、その考えもつかないことが金総理国会におけるオフィシャルな報告の中にあるんですよ。本当にそういう日本の金大中問題に対する警察権、検察権の行使というものを打ち切ってしまうような合意というものがなされたんだろうか。これは大変な問題でしょう。
  233. 中江要介

    政府委員(中江要介君) これは、そのくだりのところは、「日本で嫌疑があるとされている金東雲書記官に関しては、」という部分を指しておっしゃっていることだと思いますが、金東雲書記官につきましては、先ほども申し上げましたように、韓国側としては、金東雲書記官に対する犯罪の容疑があるということを認めまして、これは韓国の方で取り調べて相応の措置をとるし、またその韓国側で捜査した結果は通報する、他方、金東雲の監督責任者については相応の措置をとるということを韓国は約束したわけでございます。  このことは、この事件が起きましたときに、先ほどちょっと私が触れましたように、日本としては指紋まで検出された金東雲書記官でありますので、この書記官からまず任意の事情聴取をしたいということで、韓国政府に、早速、たしか九月の五日だったと思いますけれども、申し入れたわけでございますけれども、先方は、国際慣例に基づいて引き渡すわけにはまいらない、つまり国際慣例といいますのは外交特権を持つ外交官であるので引き渡すわけにまいらないということであったわけでございまして、その後金東雲は帰国したわけでございます。で、向こうの管轄下に入った金東雲は、これは韓国側でもこの金大中拉致事件というのは韓国における一つ刑事事件でもあるわけでございますので、この容疑者たる金東雲については韓国側で調べる、そして相応の措置をとるし、捜査の結果は通報するということで、これがそのとおりであることは、何度か私が申し上げておりますように、この捜査の結果の通報がなかなか来ないとわが方の捜査に支障があるということで何回も催促いたしまして、翌年の八月十四日に捜査の報告が来ましたけれども、これまた不十分で満足がいかないということでこれを突き返して、十月に再捜査を韓国側に迫りまして、韓国がまた改めてひそかに金東雲について調べてその結果が一九七六年の七月二十二日の口上書という形で通報されてきたということで、韓国と日本との間で、ある意味での捜査協力を行いながらこの真相究明をするのだということについてははっきり認識がされておりますし、そのとおりその後の事態が進展しておりますところから見ましても、ここで「日本ではこれで捜査が終結し、」という言葉、これはどういう意図でおっしゃったか知りませんけれども、私が申し上げましたようなことには相違がないわけでございますので、この外交的決着の要点に沿いまして日本としてはいまなお韓国政府のその履行を見守っていると、こういうことでございます。
  234. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 何か、局長の御説明は、こういう合意ができたことを暗にお認めになるようでもありお認めにならないようでもあり、非常にあいまいなんですよね。あなたは金東雲書記官に関するだけだということを冒頭におっしゃったけれども、金東雲というのは、たまたま日本の警察で指紋を得、かつ目撃者も数名あるというところから、最も濃い嫌疑をかけているというそういう人物で、つまりこの事件の象徴的な犯人像なわけでしょう。だから、金東雲に関する限り捜査を打ち切るといっても、それはやはりこの事件に関する日本側の捜査を打ち切るということにつながるわけですよ、金東雲それ一人の問題ではないわけですから。だから、本当に金東雲に関することだけですというそのあなたのお言葉をそのまま受けとめて私の方がお尋ねしてもいいんですよ。じゃ、金東雲に関する限りはわが方の、日本での捜査は終結したと、そういうふうな理解のもとに金総理と田中総理とは当時合意をしたのですか。
  235. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 私の説明がそういうふうになったといたしますと舌足らずだったと思うのですけれども、捜査を終結するということはいずれにしてもなかったわけで、日本側は、毎回日本の捜査当局も国会で明らかにしておられますように、捜査を継続しておりますし、いわんや、その中心的な人物が金東雲一等書記官であるということで、そういう認識のもとで捜査を継続しておられることは当然なんでございますけれども、私が申し上げましたのは、金東雲の身柄を日本におりますときに引き渡し請求したけれども渡してもらえなかったと、そしてその身柄はこの外交的決着をしました時点では韓国側に渡っておりますので、そのときに日本にそれを再び引き渡しを請求して調べるという方法にはよらないで、いま身柄のある韓国側でも本件を捜査しているというから、それなら韓国側で金東雲に直接いろいろ捜査をすればその結果については報告してもらいたいということを育ったにとどまるわけで、日本側は金東雲を含めまして金大中事件全般を引き続き捜査するということについてはこれは疑問の余地のないところである、こういうふうに御理解をいただきたいと思います。
  236. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ですから、田中、金両氏の合意というものは非常にあいまいで、両方がどうにでも都合のいいように解釈し、それぞれがそれぞれの思惑で両国民に発表したというそういう性質のものですわね。だから、これは大変無責任なことであったと思いますよ。ことに、いまの朴親書の問題でも、向こうが発表している朴親書の要約と、それからわが方が発表している親書の要約とが、まるでニュアンスが違うんですよ。いいですか。韓国国会での金総理発言によりますと、「意外にも金大中事件が惹起することにより、両国間に物議がかもされたことは誠に遺憾なことであると考えます。」と。つまり、自分は全く意外なことなんだと。それがたまたま何かのことで惹起されたんだと。両国間で物議が醸し出されたことは遺憾なことであると存じますと。で、「このような事件のため、韓日両国間の友好に亀裂が生じてはならないと考えます。従って、両国は共に努力を払うことによって友好増進のため固い基盤を維持しましょう。韓日間には多くの懸案問題があり、その懸案問題を直接協議するため国務総理が赴くことになったのでお会いいただき、良い結果が結ばれるよう望みます」と、こういう要約になっていますね。これはお認めになりましょう。結局、何か客観な事態が生じて、自分の責任によらざる事態で両国間に物議が醸し出されたことは遺憾なことであると。アイムソリーじゃないんですよ、これはね。自分が悪かったから遺憾の意を表すという遺憾の表し方もありますが、これはそうじゃないんです。だから、田中総理の書簡も、金鍾泌の発表によりますと、また、この間外務省が要約をなさったことによりましても、田中総理も同じように遺憾の意を表しているんですよ。金大中事件が起こったことについては自分としてはまことに遺憾にたえません。これはアイムソリーでないでしょう。自分は、こっちは何にも非がないんだから。非はないけれども、客観的にそういう事態が生じたことは遺憾なことであるという、つまり、本意ではないというのだろうか。あるいは、自分としては残念なことだというのでしょうか。とにかく、自分が悪いことをしたからという趣旨でアイムソリーという遺憾の意じゃないんです、田中さんが言うその遺憾はね。朴総理が言う遺憾も。ただ遺憾という言葉を両者がお互いに用いているわけです。だから、田中総理が何で遺憾の意を表するのかわけはわからない。そうでしょう。田中総理が遺憾にたえませんと言ったのはアイムソリーじゃないでしょう。これは局長認められるでしょう。どうです。
  237. 中江要介

    政府委員(中江要介君) いま先生がおっしゃいましたように、残念なことであるというような意味での遺憾と、こういうふうに私どもは考えておるわけでございます。
  238. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 同じように、朴総理の言う遺憾であるというのも、田中総理の遺憾であると言ったのと少しも変りないでしょう。どうです。文案から見てもそうなりましょう。
  239. 中江要介

    政府委員(中江要介君) その点は、これは、日本語がどうも違った意味を同じ字で表明するために、ときどきというか、しばしば私ども外交的な問題を処理しますときに翻訳で誤解を招いて困る一つの事例なんでございますけれども、朴大統領の親書にあります遺憾といいますのは、これは閣下と日本国民に対し遺憾の意を表しますということで、これは韓国の大統領として日本国の総理及び日本国民に対して遺憾の意を表しております。そしてまた、そのあとに、先ほど申し上げましたように、再びかかる事態が生じないように最善の努力の払いますと、こういうことを付け加えておるところから、これはどう見ましても陳謝の意を表するという意味での遺憾であると。他方、田中総理の親書の、まことに遺憾なことでありましたというのは、日韓の友好親善関係に一時わだかまりが生じたことはまことに遺憾なことであると、これは非常に残念なことであると、こういう意味でございまして、この同じ遺憾という二つの文字を使っておりますけれども、その内容は、その前後から見ましても、また金国務総理がわざわざこの手紙を持って日本にやってきたというところから見ましても、先方の言う遺憾は、どう見ましても、これは陳謝の意を表するという意味での遺憾という字であるというふうに御理解いただきたいと、こう思うわけでございます。
  240. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 どうも、そこは、局長、あなたは日本国民に対して遺憾の意を表したということをおっしゃったけれども、この金鍾泌首相の要約はこう言っていますよ。   韓日両国間の友好関係が増進して行く過程に  おいて、意外にも金大中事件が惹起することに  より、両国間に物議がかもされたことは誠に遺  憾なことであると考えます。しかしこのような  事件のため、韓日両国間の友好に亀裂が生じて  はならないと考えます。従って、両国は共に努  力を払うことによって友好増進のため固い基盤  を維持しましょう。韓日間には多くの懸案問題  があり、その懸案問題を直接協議するため国務  総理が赴くことになったので、お会いいただ  き、良い結果が結ばれるよう望みます。  これは、局長、いまおっしゃったように、田中首相が「韓日両国間に増進している友好関係を慶賀するが、金大中事件が起ったことについては、自分としては誠に遺憾に耐えません」と、この「遺憾」とどこが違いますか。全く自分の予期せざることが客観的に起きたので残念であるという趣旨で、これは両方ともそういうふうな遺憾の意をお互いに表し合ったということ以外に、これは演出だろうと私は考えますよ。ただ遺憾という言葉を使えばそれでいいんだということで両方が遺憾という言葉をもてあそんだ、そうして国民をだましたというふうにとられてもいたし方ないような使い方のように思いますが、あなたのおっしゃる日本国民に対して謝罪なんていうことはないですよ、これは。われわれがやはりこれはどうしても両方の親書というものを当委員会に提出していただかないといけないと言うのは、そこにあるわけです。両方の発表がまるで違うんですもの。両方の内容が違うことの発表によって、両方とも互いに都合のいいことを言って合意ができた、これで外交的決着を済ましたとおっしゃるから、それならやっぱり疑いを避けるために両方の親書というものはどうしても出してもらわないと、この大事なことについての判断ができないじゃないかと、こう思うんですよ。いかがでしょう。
  241. 中江要介

    政府委員(中江要介君) まず、先ほども繰り返し申し上げましたように、外国の国会で外国の総理が言いました発言について私がここでコメントするということは、これはできないことでございますので御理解いただきたいのですが、この遺憾の意を表するということによって、つまり陳謝ということによって、その他の条件も付しながら外交的決着をつけたと、これは外交的に言いますと、国と国との関係、間におきまして、その国の最高首脳が遺憾の意を表する、しかも再びそういうことはいたしませんということを手紙で言うということは、先生のお言葉でございますが、演出であるとかなんとかというようなものではなくて、大変国際法的にも意味の深いものでございまして、その点は私どもが親書の要旨であると言って発表いたしましたことを御信用いただきたいわけでございますし、また、そういう立場に立ってこそ、その後毎回私どもがこの事件が議論されますことに私どもの基本的な立場というのはここから出発していると、つまり外交的決着というものの意味はこういうことであるということを何回も申しておりますし、それに基づいてもろもろの細目の事案を処理していくことにつきまして、韓国側から、そんなはずはないとか、そんな陳謝の意を表したことはないとか、その外交的決着の内容は実はそうじゃなくて、うちの総理が言っているこういうものだとかというような反駁はあるはずのものでもございませんし、事実上ないわけでございまして、私どもの発表いたしました親書の要旨と、それから外交的決着の内容というものが真実であるということに基づいて本件を御検討いただきたいと、こう思うわけでございます。
  242. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 私は、いま申し上げたような事情から、朴親書と田中親書の全文を当委員会に提出していただきたいと資料要求をいたします。これはいかがですか。
  243. 中江要介

    政府委員(中江要介君) これは、私ども事務当局の立場といたしましては、大統領、あるいは日本で申しますならば陛下とか総理の親書というものの持つ重みから言いまして、国際慣例から見ましても、要旨を出すことすらも場合によってははばかることもあるのでございますけれども、本件の場合には、事件事件でございましたので、これは先方の了承も得ませんとこういう手紙の内容というものは明らかにできないわけでございますが、この要旨を発表さしていただきましたし、この内容については絶対に間違いがないという点は御信頼いただきたいと、こう思うわけでございます。
  244. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 一応理事会で協議してください。
  245. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) それでは、ただいまの件につきましては理事会で協議いたします。
  246. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それから局長、外務省の方からいただきました韓国政府の口上書がございますね、昭和四十九年八月十四日付の口上書というのがあります。その口上書についております韓国検察側の決定書というのがありますね。この一番最後に、金東雲に対する容疑を確認するに足る資料がないから本件内査を中止すると、つまり確証がないので捜査を中止するという韓国検察庁の決定書、この一番最後にそういう理由づけがあります。それを読んでみますと、「とくに金大中がら致された現場にいた梁一東と金敬仁は、金東雲を犯行現場で目撃した事実がないと陳述しているほか、金大中についても金東雲の人相が自分をら致するのに加担した人とは記憶していないと陳述しているのみならず、金東雲もまた同ら致事件に加担したことはないと犯行一切を否認しているので、結局、現段階では本件容疑者達が犯行に加担したという資料がないので、本件内査を中止する。」ということになっていますね。これを結局金東雲は否認していると。それから被害者である金大中も、そこに現場にいたいわゆる目撃証人である金敬仁も、金東雲を見ていないとしているんです。ところが、やはり韓国国会における、これは四十八年の十一月六日の韓国国会での一番最後に、金敬仁議員の身上発言というのがありますね。これをお読みになったでしょう。この身上発言を見ますと、  申法務部長官は六日午前“金大中、梁一東、金敬仁氏の証言によると、金東雲は犯人ではなく、現在としては嫌疑はない”と述べたが、私が捜査機関の提示した金東雲氏の写真を見て、陳述した証書はそのような意味ではなかった。   私は、事件当時、グランドパレスホテルで私を部屋の中に押し入れた二人の顔だけを記憶しているが、二人の人は金書記官と異なると語っただけであり、金書記官が犯人であるのかないのかは知らない。   金大中氏も、私が金書記官について尋ねたところ、自分を車の中に押し込めた犯人中の一人の顔は記憶しているが、金書記官とは異なると話しただけであるといった。   このような事実から、金東雲が犯人でないという証拠にはならない。  こう言っていることはお認めになりますか。いかがでしょう。
  247. 中江要介

    政府委員(中江要介君) そういう趣旨の発言が十一月六日の議事録の最後の方に出ておることは承知しております。
  248. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 つまり、韓国の検察庁の調べというのは、何とかして金東雲の嫌疑をなくそうとして、つまり金敬仁や金大中が言っている意味を全く曲解して、ねじ曲げている。つまり、自分を部屋に押し込めた二人の中には金東雲はいなかったという金敬仁証言を、あたかも六人の犯人の中に金東雲はいなかったというふうに韓国の検察庁はねじ曲げている。また、金大中にしても、一人だけ自分は顔を覚えている、それは金東雲ではなかったと言っているのを、何か金東雲が現場にいなかったと金大中は述べているというふうに韓国の検察庁は事実をねじ曲げて認定し、かつそれを報告しているわけですよ。こういう偽りの捜査といいますか、これでは、つまりそれはさっき言ったように、何かおれたちだけが捜査をするんだと、日本側はもう捜査はしないんだというようなそういう理解のもとにやっているものだから、勝手放題な捜査をしてもう本当の捜査をしていないということになる。少なくも韓国の国会における金敬仁の身上発言を見るとそう理解せざるを得ない。これはどうしたってもう一遍捜査をやり直せといって要求せざるを得ないと思うんですよ。そうでしょう。こういう資料があれば、こういう資料のあれとは韓国の検察庁の決定とは違うじゃないかということを当然要求すべきだと思いますよ。これは中江さんと同時に警察庁の御意見も伺いたい、御両氏のね。
  249. 中江要介

    政府委員(中江要介君) ただいま御指摘の金敬仁の発言につきましても、これは私が評価を加えることは差し控えなければならないと思うのでございますけれども、韓国がしかし八月十四日の口上書で通報してきたことは、これは外交ルートでわれわれが正式に通報を受けたことでございますので、これについては、捜査当局とも御協力いたしまして、これをどう受けとめるかということは協議をいたしまして、ここにありますように、本件内査を中止する、こんなことで中止するということでは承服できないということで押し返したわけでございます。八月十四日にこれを受けとめまして、そのすぐ翌日にもうとてもこれではいかぬというのでこれを押し返そうといたしましたその八月十五日に、先生御記憶の文世光事件というのが、つまり朴大統領狙撃事件というのが起こりまして、これでまた日韓関係が非常にがたがたいたしまして、これが一段落いたしました、あれは確か十月だったと思いますけれども、この八月十四日の口上書ではわれわれは承服できない、もっとよく調べてもらいたいということを先方に押し返したという経緯がございまして、その結果参りましたのが先ほども申し上げました一九七六年の七月二十二日の口上書ということで、日本側がそう言うので、韓国側でもさらに極秘裏に、ごく非公式に、ひそかに金東雲を調べてみたけれども、ついに起訴にたえ得るようなものを発見することはできなかったので不起訴処分にしたという結論がもたらされたと、こういう経緯でございます。
  250. 城内康光

    説明員(城内康光君) お答えいたします。  この間の経緯につきましては、ただいま外務省の中江アジア局長から御答弁がありましたとおりでございます。
  251. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 さっき言った日本の警察の捜査は打ち切りにしたなんていういまの金発言については、警察庁は全く関与していないでしょうね。念のために確認しておきます。
  252. 城内康光

    説明員(城内康光君) お答えいたします。  日本における捜査は終結したということでございましたけれども、このことにつきましては警察は外務省から事前にもまた事後にも何ら連絡は受けていないわけでございます。なお、この件につきましては、過去の記録を見ますと、すでに昭和四十八年の十一月八日の参議院の法務委員会それから外務委員会で同様の御質問があったわけでございまして、当時警察庁及び外務省からお答えしておりますように、この田中・金総理会談におきまして捜査は継続するということを韓国側に通告いたしまして、先方もそれを了承したというふうに承知いたしております。したがいまして、警察は現に現在もなお本件捜査を継続して真相の究明に当たっているわけでございます。
  253. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 最後に一言。  当然のことだけれども、一国の総理がオフィシャルな発言をしておるのでそこに問題があるわけですがね。最後に法務省刑事局長にお尋ねしますが、これは青地晨氏外多数人によってなされました金在権、企東雲、劉永福に対する逮捕、監禁致傷殺人未遂等の告発事件がありますね。これについては、何か前に質問がなされまして、アメリカの資料を鋭意検討中である、それによって捜査の端緒をつかみたいと考えているように聞いている、それは検察庁がそういうふうに考えているように聞いているという安原前刑事局長の答弁がなされたことがあるのですが、その後この捜査はどうなっていますか。その経過をちょっと御説明願いたいと思います。
  254. 伊藤榮樹

    政府委員伊藤榮樹君) ただいま御指摘のように、昨年七月六日に御指摘の告発がございまして、現在東京地検がこの事件を担当しておるわけでございます。ところで、この金大中氏事件は、御承知のように、当初から警察が中心になって捜査を展開しておられ示して、検察としては警察から随時御連絡をいただきながら協議しながら警察を中心とする捜査活動を見守っておると、こういうような状況でございますので、告発がございまして、さてしからば検察としてなし得ることはどれだけかというようなことを種々検討いたしました結果、やはり告発状記載の事実の法律検討と、それからさらに警察の従来の捜査に関しまして何らか検察として助言し得ることがあるのではないかと。その一端として、さきに前刑事局長が申し述べましたように、外務省を通じて入手いたしました米議会関係資料がある程度ございますので、これらの検察としての分析検討、そしてそれによって気がつきましたことを警察に御連絡申し上げる、そういう方向で作業をいたしておりまして、ただいま申し上げましたような手順で警察と緊密な連絡をとりながら警察における実践的な捜査活動を側面的に御援助申し上げ、その成果を見守っておる、これが正直なところでございます。
  255. 橋本敦

    橋本敦君 寺田委員から長時間にわたって政治決着の問題についての質疑があったのですが、中江局長の熱心な御答弁にもかかわらず、私はこの政治決着をめぐる疑惑については一向晴れないし、ますます疑惑が深いと、こう私は考えております。  まず端的に伺いますけれども、局長国会におけるあなた及び政府首脳の答弁というものは非常に重いということをおっしゃる。同じようなことを韓国側も恐らく言うでしょうね。だから、韓国国民、韓国国会にとってみれば、金総理報告はこれは権威があり、里いものだと、こう言うでしょう。これは間違いのないところです。端的に伺いますが、予算委員会でも指摘しましたが、日本では金大中事件に関する限り捜査が終結したと、こうはっきり国会で述べていることについて、事実に反するなら反するという意思を私は外交的に表明する価値があると思いますが、どうお考えでしょう。事実に反するなら。
  256. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 私どもは外国の国会でなされておりますいろいろの発言について、一々それを直接取り上げて相手国に何かするということはいたしませんで、そういう発言なり何なりが公式の発表なりあるいは実際の行動なりあるいは日本に対する批判なり、そういった形で出てまいりますれば、これはそのときの了解と違うではないかと言って抗議をする等、措置をとることはございますけれども、これは韓国に限りませず、いずれの国の国会審議についてもそうでございますし、また外国からも日本の国会での審議そのものについてそれは違うだの何だのということは言わないわけでございまして、外交の普通のやり方といたしましては、それが外交のレベルに出てきた場合に、それが発表である場合もコメントである場合もあるいは実際の行動である場合もございますが、そのときに取り上げる。そういう観点からいたしますと、私どもがるる申し上げております外交的決着の内容、つまり日本が理解しております内容につきまして、韓国が外交上のルートあるいは外交上の文書その他によってこれに異を差しはさんだことがないばかりでなくて、その私どもの了解に基づいて一つ一つを韓国側に、たとえば金大中氏の身柄の問題、あるいは金東雲書記官についての捜査結果の追及、そういったものは一々この了解に基づいてやっているわけで、そのとおり韓国が受けとめておるところから見ましても、いま韓国の国会の議事録の表現だけで何かするということは考えておらない、こういうことでございます。
  257. 橋本敦

    橋本敦君 私は、この重大な日本の主権の問題にかかわる事件の性質と、それから政治決着という両首脳の合意ということの受け取り方の違いということがあらわれている重大な問題について、いまのような態度で具体的な外交上のクレームなり意思表示をしないというそのこと自体新たな問題だと思うのですが、いま局長がおっしゃったその裏に、実際は、やっぱり金東雲に関する限り、もう日本側での捜査というのはできないと向こう側つまり韓国側が考えている状況というのはあり得ると思いますよ。たとえば了解事項の第一点、これは中江局長自身が国会で御答弁になっておるたとえば七七年七月十三日の衆議院外務委員会の答弁を読みますと、第一点はということで、つまり日本側で指紋を明らかにいたしました金東雲の容疑を韓国側が認めまして、これを取り調べて、これは韓国側が取り調べまして、これに対しては相応の処置をとる、捜査の結果は通報する、こうありますね。だから、つまり了解事項の第一点が、韓国側が金東雲を韓国側の法律によって取り調べて通報するというこういう合意があるということは、韓国側から見れば、金策雲に関する限りおれの方で捜査をして通報するということで決着がついた、したがって日本側の捜査は金東雲に関する限りもう終わりだと理解し得る了解事項ではありませんか。そう思いませんか。私はそう韓国が取るのも無理もないと思いますよ。
  258. 中江要介

    政府委員(中江要介君) この点は、金東雲一等書記官の容疑が非常に濃い、つまり指紋が検出されて容疑が非常に濃いというときに、日本は、捜査当局の必然の御希望でございますけれども、それを踏まえまして外交的なチャネルを通じて在日韓国大使に対して金東雲一等書記官の身柄の引き渡しを請求したわけでございます。これが九月の五日でございます……
  259. 橋本敦

    橋本敦君 それは何遍も聞きました。簡単に結論を言ってください。韓国側が受け取るのも無理もないじゃないですか。
  260. 中江要介

    政府委員(中江要介君) そういうことでございますので、金東雲一等書記官を直接調べるということは、外交的決着のときに、これは韓国側でやる、しかし日本側は金大中事件全体の捜査を継続する、その中で日本が最も目ぼしいものとして考えている金東雲一等書記官についての捜査も、身柄は確かに直接取り調べはできませんけれども調べていく。だからこそ、金東雲の取り調べの結果を知らせろと、捜査の結果を知らせろと言いまして、先方の結果の通報を受けても、それでは満足できない、それではわが方の捜査の参考にならないということで押し返して、さらに先方の捜査結果をあれした、こういうことでございます。
  261. 橋本敦

    橋本敦君 経過はもう聞きました。向こうはこれで受け取るのは無理もないじゃないかという質問、事実を聞いているんです。
  262. 中江要介

    政府委員(中江要介君) そこでそういう外交的決着のこの部分から先方が日本が捜査をしないというふうに受け取ることは、これは私は先方の受け取り違いだと思いますし、現に日本側が捜査を継続していることについてそれは了解と違うというようなことを言ったことは一度もないと、こういうことでございます。
  263. 橋本敦

    橋本敦君 よくわかりませんから三井警備局長にお伺いしますが、捜査当局は当時指紋まで発見をして真剣に金東雲の捜査を追及するという姿勢をとっておられた。身柄の引き渡し要求を外務省を通じてやったけれども向こうは拒否した。そこで、この十一月の政治決着の了解事項第一点で、金東雲については韓国側が韓国の法律で今後は捜査をして、その結果は報告するということになるということについて、事前に警察庁に、こういう了解事項を行うが警察庁としてはそれでよろしいかというような相談が総理もしくは外務省、政府からありましたか。
  264. 三井脩

    政府委員(三井脩君) 別にございません。
  265. 橋本敦

    橋本敦君 その点、私は外務省並びに政府責任は重大だと思うんですよ。この政治決着の前の七三年九月十一日に国会の衆議院地方行政委員会で高橋警察庁長官はどう言っておられますか。大変な決意で言っておられますよ。政治決着の二カ月前です。こう言っておられますよ。この事件の捜査は困難をきわめた。「しかしながら警察は、不撓不屈、予断を排し、あくまで地道に事実を追及する堅実な捜査を続け、その結果韓国大使館員が何らかの関係があるのではないかと疑うに足りる、指紋の割り出しその他の参考人の供述を得ましたので、外務省を通じ本人から事情聴取するため、任意出頭を求める措置をとることに決めました。」そこで、その後で「綿密な検討を続けた結果、本人」つまり金東雲「からの事情聴取することが真相究明上不可欠であるとの結論に達したものであります。」と、こうはっきり答弁されておる。金東雲から日本の警察が直接事情聴取をすることが真相究明上不可欠であると、こう言っているんです、警察は。私も客観的にそう思いますよ。だから、したがって、日本の警察は今後も韓国側の誠意に期待をするが「金大中氏らの来日を要求し続け、真相究明につとめてまいる決意であります。」とはっきりおっしゃっている。これは警察当局の国会に対する責任ある答弁です。金東雲氏からの事情聴取が捜査、真相究明上不可欠だと警察が判断している。したがって、今後も韓国がどう言おうと金大中氏らの来日を要求し続けて真相究明をやるんだと、こう言っているんです。日本の警察がここまで事案を掘り下げ、指紋まで発見し、不可欠だと、ここまで決意をしてやっているそのときに、当の真相究明の先頭に立っている警察当局に何らの相談も了解もしないで田中角榮が金総理との間で政治決着をつけて、もう日本の警察は引き渡しや来日要求は手が届かぬのです、外交決着をやれば。はっきりするでしょう。そういうことになってできなくなる。そうすると警察にとっては不可欠な捜査ができないんです。そのことを日本の警察に相談もしないで、了解点第一点で、金東雲の直接の捜査は韓国側あなたに任します、日本の警察はこう言っているけれども、こんなものは構わぬと、こういう形の政治決着をつけた。この政治責任は重大ですよ、相談もしないで。こんな政治決着をつけていいんだろうか。この意味で私は田中総理の政治責任はきわめて重大だと思いますが、中江局長はいかがお考えでしょう。この高橋長官の答弁と比べてみてください。
  266. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 当時を想起いたしますと、いま高橋長官が言われましたようなことで日本政府の間では意思統一がされて何とか真相の究明をしようという努力が続けられておったわけです。その中にありまして金東雲も韓国に帰ってしまうと、そういう状況で、不可欠である金東雲、あるいは金大中の再来日と、この問題は、あるいは梁一東、金敬仁、いろいろあったわけです。そういう者を外交ルートを通じていろいろ努力をいたしましても、何しろ韓国の人が韓国の主権のもとに入っておるわけでございまして、そういう人たちから直接事情聴取をする道というのはきわめて険しいという、そういう状況の中でここから先が政治的な決断になるわけでございますが、あくまでもそれを追及することによって日韓関係の正常化がいつまでも延びる、その道を選ぶのがいいか、それともこの険しいむずかしい道は引き続き鋭意わが方はわが方の独自の捜査によって御努力いただいて、そして真相究明は真相究明として努力を継続するとしてでも、やはり日韓関係は直接の隣国であるのでこの際外交関係は正常に復するのが賢明であるかという大きな政治的判断が迫まられる時期がこの十月の末から十一月の初めにあったわけでございまして、そのときに政治的判断はいまのような方法が選ばれたと、こういうことでございます。
  267. 橋本敦

    橋本敦君 わかりました。本質が非常にはっきりしてきました。まさに日韓関係を親善化という言葉で進めるという政治判断のために、いま私が指摘したように、警察当局の了解も相談もなしにそういう政治判断から警察の捜査を事実上不可能あるいは妨害ならしめるような政治決着をつけたということがあなたの答弁ではっきりしたですよ。私はこれがまさに捜査権放棄だと、こう言っているんです。私は、そのときに、高度の政治的判断から日本の主権侵害問題についての判断を一体田中総理がどう考えたのか、政府はどう考えたのか、これは大問題だと思います。法務大臣、お聞き願いたいのですが、田中法務大臣は、四十八年十月九日、政治決着の一カ月前の衆議院内閣委員会でこう言っておられますよ。この事件は、「金東雲一等書記官の行動というものが指紋によって証明されたということが明瞭になり、日本の捜査当局がこれを公式に発表いたしました。この発表をいたしました瞬間から私は先生と同様」、これは質問者の意見ですが、「同様の考えを持っておる。」次です。「いまや某国ではない、KCIAというか国家機関だ。韓国国家機関だということを政治的に限定して差しつかえがないのだ。」と、こう言ってはっきり答弁されているんですよ。つまりこうなれば、日本の主権侵害問題ということが直接の大事な、それこそ高度の政治問題になる。西ドイツをごらんなさい。連行された留学生その他を断固抗議をして、ドイツと韓国との間の友好関係、経済援助、国連での問題一切を拒絶する、そしてまた韓国大使を六カ月以上引見しない断固たる処置をとって主権を守って連れ戻さした。それに比べて、田中法務大臣がこうまで言っている問題を、一体何がゆえに日本の主権問題という大事な高度の政治問題を抜きにして、親善という名の政治問題だけに高度の政治判断をやってこういう決着をつけたのか、私はこれはきわめて重大な責任だと思いますよ。局長にもう一遍伺いますが、一生懸命真相究明をやるとあなた方は国会側に答弁するんですよ。一生懸命日本は捜査をやると、こう言って、韓国は打ち切りだと言っていることをやるとあなたはおっしゃっているんです。それなら、こういう政治決着をつけるときに警察当局に意見を徴する、今後はどうやって真相究明をやるんだということも詰める。何にも相談がなかったというのが真相です。なぜこれをやらなかったのか、この点はどう思われますか。相談しなくてもいいですか。
  268. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 私の記憶しておりますところでは、本件を捜査当局と何ら相談しないでものを進めるということは、この大きな政治的判断を除きますれば、絶えず御協力あるいは御相談しながらわれわれは外交面はやっていた。政治判断のところは、全く政治判断をなさった最高首脳の間で話し合われたことでございまして、私どもはちょっと詳細承知し得ないところで政治判断が下されて、この線でやるということになったというふうに記憶しております。
  269. 橋本敦

    橋本敦君 だから、したがって、いま私が指摘したように、この政治結着なり、高度の政治判断は、まさに真剣に捜査をやろうとしていた警察当局と何の相談もなしに、日本の主権という問題の政治的判断もなしになされたものだということで、重大な政治責任がある問題だということが明らかになったと思います。  ところで、局長にもう一遍伺いたいのですが、三井警備局長初め筒橋警察庁長官もそうですが、この事件は組織的な犯行であり、そして複雑な韓国内の政治情勢を背景とした犯行であるというように判断されている答弁を今日まで行っておられます。この事件がそういう政治的背景を持った事件だというように外務省も見ておられますか。
  270. 中江要介

    政府委員(中江要介君) これは私どもはなかなかその捜査の実態は承知しておりませんので申し上げることはできませんが、ただ、金大中という人がかつての大統領候補で、大統領選挙のときに相当接戦をされた方であるということ、それからアメリカ及び日本で朴大統領のいまの政権に対して批判的な意見を述べておられる人であるということ、そのことはわきまえております。
  271. 橋本敦

    橋本敦君 そういうことを認識されているということの上に立って、この事件が政治的背景のある事件だという見方をするのは私は当然だと思うのです。そういう見方をしていますかと、こういう質問です。
  272. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 私どもはこの事件の背景については、確たる証拠といいますか、調査を了しない以前に予断にわたるようなことは言うべきでないということで、コメントはしていないと、こういうことでございます。
  273. 橋本敦

    橋本敦君 予断ではありません。警察当局が捜査上非常にむずかしい事件だと、そしてこれは組織的、政治的背景を持った事件だという判断をしておられるという答弁が現にあるわけです。  三井警備局長に重ねて伺いますが、これは予断の問題ではなく、捜査当局の事件の性格に対する判断として、複雑な韓国における政治的背景を持った事件だと、こう見ておられることは間違いありませんね。
  274. 三井脩

    政府委員(三井脩君) 端的に申せばそのとおりでございまして、ちょっとつけ加えますと、事件当時の八月であったと思いますが、当時の長官が国会でこの事件に対する警察の基本的態度というものについてそういう趣旨を申し述べております。
  275. 橋本敦

    橋本敦君 最近もそうでしょう。
  276. 三井脩

    政府委員(三井脩君) 現在においてもわれわれはそう考えております。
  277. 橋本敦

    橋本敦君 局長、十一月五日の韓国国会の議事録が先ほど問題になっておりますが、この五日の議事録を見ても、政治的背景を有する事件だということを十分に推測される金総理報告がありますね。つまり、三ページをごらんいただきますとわかりますが、この金大中事件が起こった原因、背景についておおむね金総理報告は、先ほど寺田委員も指摘されましたが、金大中氏の政治活動を日本が日本国内で取り締まらなかったという問題を指摘している。そして、その後でこの金大中事件の場合は、過般の答弁において述べたと記憶しているが、日本の各方面のソースより情報が入り、金大中が政治的活動をやっているという情報が入ったけれども、まさかそんなことはあるまいと、こう思っているうちにこの事件が起こったんだという趣旨の報告をしていますよ。だから、まさに韓国の金総理自身のとらえ方が、この事件が起こった背景に金大中氏のいま局長がおっしゃったアメリカ、日本における政治活動というものがあったということはあなたの答弁と一致します。  そこで、金大中氏の政治活動とは何か、これが問題です。いま、局長がおっしゃった金大中氏の政治活動というのは、端的に言えば朴政権に対して反対をし、韓国の民主回復をやろうという彼の政治活動です。間違いありませんね。
  278. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 一口で申しますと、いま言われましたような考え方を金大中氏は持っていたということは承知しております。
  279. 橋本敦

    橋本敦君 だから、この事件の背景は、言ってみれば朴政権が金大中氏の政治活動をきわめてきらっていたという、抑圧したいと考えていたという、そこから出てきたということがいまでも明らかになったわけでございます。私はアメリカで二回にわたるこの問題の調査で、名前はここでは申し上げませんが、元韓国政府の要人であった人にも会いました。私はそこで重要な事実を聞いたんです。金大中氏はアメリカでもKCIAからいろいろと妨害その他を受けていた。しかし、KCIAは金大中氏を何とか早くアメリカその他での反朴活動をするのをやめさして韓国へ帰ってくれるようにと考えていたし、説得して連れて帰りたいと思っていた。しかし、状態が急変する事態が起こった。金大中氏が日本に来る前にニューヨークで開いた、金大中氏と、私に話してくれた元韓国要人を含む韓国民主回復を行う人たちが集まって、そしてそこで会議を開いたときに、その席で、いよいよわれわれは金大中を首班とする臨時亡命政府をつくろうという発言があった。それを金大中氏は抑えて、われわれはいまそういうことをやろうとするのではない、選挙を通じ民主的に韓国の民主化を図るんだから、亡命政権という問題はいま考えるべきでないと彼は打ち消したし、私に話をしてくれた韓国要人も打ち消したが、しかし、その話がKCIAに漏れて、そのときから、KCIAは朴政権に反対する臨時革命政府あるいは臨時亡命政府を金大中氏が樹立するということを大変神経をとがらせ、そしてKCIAの金大中氏に対する抹殺作戦というのがそのときから具体的な計画に乗り始めたという話を私は聞きました。そういう話は、私は直接に聞いた話ですが、あり得ることだと思うのですが、この事件の背景がそういう政治的背景だとするならば、まさに朴政権の息のかかった筋がこの事件を引き起こすということに推測をしていく上でこれは当然の道筋があるわけですね。  そこで、私は外務省に伺いたいのですが、外務省はアメリカ大使館には検察庁からお行きになって参事官でいらっしゃる方、あるいはその他の大使館には警察庁から出向されてそれぞれの国の国内事情の調査研究をなさっている方、それぞれ各省派遣をしているのですが、外務省は最も近い韓国との問題についてアメリカ大使館、韓国大使館その他韓国のこの熾烈な朴政権と金大中氏との対立関係ということについて情報を集められていたのが当然だと思いますが、そういう情報収集はやっていたのではありませんか。
  280. 中江要介

    政府委員(中江要介君) いま御指摘のようなところにのみしぼって情報を収集するというようなことはいたしておりませんけれども、これはどこの国もそうでございますが、在外公館の活動、つまり外交使節の活動の中には、当然その国に関連するいろいろの問題について情報を収集し、情勢を分析し、情勢判断を行うと、その上で外交が行われているということは当然のことと、こういうふうに思います。
  281. 橋本敦

    橋本敦君 その当然のことの一環として、金大中氏と、それからいま私が指摘した朴政権、KCIAの金大中氏の政治活動に対するいろいろな妨害や抑圧、そのことが情報として外務省に入っていなかったなんというそんなのんきなことではなかったと私は思いますから聞いている。情報は入っていたんでしょう。
  282. 中江要介

    政府委員(中江要介君) ここの場で具体的にどうであったかということはちょっと申し上げかねます。
  283. 橋本敦

    橋本敦君 なぜ申し上げかねるのでしょう。大事なことですから、私ははっきりしてくださいと言っているんです。入っていなかったなんというのは、これは私は考えられないことですからお聞きしているんですよ。
  284. 中江要介

    政府委員(中江要介君) これは日本にとりまして友好国の政権に絡まる情報につきましては軽率に口にすべきでないと私ども常々思っておりますので、この場では申し上げかねますと、こう申したわけでございます。
  285. 橋本敦

    橋本敦君 友好国に関する問題であると同時に、何度も指摘するように、わが国で起こった事件であり、わが国の主権侵害という重大な疑惑のある事件だという姿勢に外務省は立てませんか、政府は立てませんか。それが問題なんですよ。わが党の上田議員がこの法務委員会で指摘をいたしました。この金大中氏の殺害計画を中止させる上で、アメリカのコーエン教授がキッシンジャー氏に直接電話を入れた。キッシンジャー氏は驚いて善処することを約束したという事実関係を明らかにしましたが、朝日新聞の報道によれば、キッシンジャー氏は内容についてはコメントをしていませんが、コーエン教授からそういう電話があったことは否定していない。そういう報道が送られて返ってきておりますね。日本側はそういうような情報はあなたは全然なかったとは否定しないんですから、あったと私は思っておるんですが、そういうキッシンジャー氏がどういうような工作をしてそして金大中の命を救うようにアメリカ国務省筋その他を通じて働きかけたか、これは外務省も私は知っているはずだと思いますが、いかがですか。
  286. 中江要介

    政府委員(中江要介君) その件に関しましては、わが外務省は何ら承知しておりません。
  287. 橋本敦

    橋本敦君 私は、アメリカ側の認識がこの事件についてKCIAの犯行であるということでほぼ意見が一致していることを何度も明らかにしました。それについて、国防総省のこの間予算委員会で示した「南朝鮮に対する脅威」という公式文書の中で、金大中事件はKCIAの犯行であると断定している問題を取り上げましたが、これについて口頭でのコメントではなくて、アメリカ国務省筋から正式の文書でもらうように努力をするという総理のお約束がありましたが、この点はいかがなっておりますか。
  288. 中江要介

    政府委員(中江要介君) いま先生御指摘の文書につきまして、アメリカ政府に照会いたしましたところ、先方は、二十六日でございますが、次のような態度を明らかにしてまいりました。日本政府からアメリカ政府に対し、日本の国会で提起された問題についてのアメリカ政府の見解を照会をよこされた場合には、アメリカ政府は何らかの回答は行うが、これは文書による必要はないと考える。今回米政府は口頭による回答を行ったが、これは文書によるものと同様に有効であると、こういう返事がございました。
  289. 橋本敦

    橋本敦君 私はアメリカの国務省の態度に重大な疑問を持っておるのです。前にレイナード氏が、この事件はKCIAの犯行であるという発言を私に行い、それが大きく報道され各紙も追いました。そのときに日本はアメリカ国務省に照会しましたね。そのときの政府答弁は、あれはレイナード氏の一私人の発言だから国務省としては何らコメントしない、こういうことでした。間違いありませんね。そして今度の場合は、このアメリカの国防省情報局のこの判断の基礎に、アメリカ国務省がレイナード氏の発言ということつまりフレーザー委員会における証言ということがあってこういう記載になったということをコメントしていますね。私は重大な矛盾があると思うのですよ。アメリカ国務省は、もともと金大中事件は日本と韓国との間の関係事件で、アメリカにとっては第三国の問題だからコメントしないという態度をほぼ持ち続けていましたね。ところが、アメリカの政府機関のこの文書が出て、その態度を捨てて一歩踏み込んでコメントするようになった。文書では出さないということだから仕方がありませんが、しかしながら少なくともアメリカ国務省がコメントをしなければならない、つまりノーコメントという態度からコメントするようになってきたというのは、一つはこの文書がこれがアメリカ政府機関が出した公的文書であるというそのことをアメリカ側も考えたからだと私は思いますが、その点いかがですか。
  290. 中江要介

    政府委員(中江要介君) その点につきましては、この前予算委員会で御説明いたしましたとおり向こうは言っておるわけで、その言い方は、この文書はアメリカの行政府以外の機関によって作成されたものであると。この文書は公開の公にされた資料に基づいて作成されたものであり、同文書中、金大中がKCIAにより拉致されたという部分は、昨年三月に行われた米国におけるKCIAの活動に関する下院国際機関小委員会の公聴会の報告書の中にある元国務省朝鮮部長レイナードのステートメントに基づいて作成されたものである。金大中事件に関する部分を含め、同文書は米国政府の見解を示すものではない。こういうこのとおりのことで、これ以上でも以下でもないと、こういうふうに御了解いただきたいと思います。
  291. 橋本敦

    橋本敦君 その答弁は聞いたから、私はその答弁を聞こうと思って言ったのじゃないんですよ。少なくともそういうコメントをするようになったのは、この文書が行政府以外ではあるが、アメリカ政府機関が出した文書で、この文書自体が否定できないからコメントするようになったことは間違いないですよ。  そこで、局長に聞きますが、文書では出せないというその理由はわかりませんが、アメリカ国務省のどなたがいまあなたが報告されたようなコメントを出されたんですか。国務省にはいろいろな方がありますね。私も国務省に行きましたが、ジャパンデスクもあれば次官もいらっしゃるし、次官補もあるし、長官もいらっしゃいますね。どのレベルの話ですか。
  292. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 国務省のプラット日本部長から、アメリカ政府考え方であるという前提で伝えられてきたものであります。
  293. 橋本敦

    橋本敦君 日本部長という人の話だということでありますけれども、アメリカ国務省という大きな機構と立場を考えますと、それは日本部長だけの判断なのか、それとも国務省そのものの判断なのか、なお私は疑いを持つんです。なぜかと言いますと、そのようなコメントをするということについて重大な疑義があるのは、この国防省情報局はCIAとも深く連絡情報をとり合っているし、それからさらに金大中事件がKCIAの犯行であるというレポートについては、CIAレポートも含んで公的な判断としてそういう判断がなし得るんだということはレイナード氏も言っておるわけです。だから、したがって、こういうような判断が出るという基礎には、私はアメリカの高度の情報機関の相互連絡というものなり情報収集があってのことだとみるのが当然ですが、一日本部長だけの判断でいまあなたがコメントなさったようなことを言ってきたとすれば、これは私はアメリカ国務省そのものがもっと検討してもらわねばならぬ問題だと思うんですよ。  その点について私は局長に伺いたいのですが、そういうコメントが日本部長から出されて、そして日本政府はそれによってKCIAの犯行ではなかったという証明になると思われますか、考えておられますか。
  294. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 私は、先ほど申し上げましたように、これはアメリカ政府考え方であるということで日本部長が伝えてきたということで、その内容は金大中事件がKCIAの犯行であるかどうかということとは無関係に、形式的にアメリカの国防省の文書と称せられておりますものの性格についてアメリカ政府考えを伝えてきたものである。したがって、そのことがKCIAの犯行であるかどうかということとは関係のない話であると、こういうふうに受けとめております。
  295. 橋本敦

    橋本敦君 そのとおりです。だから、KCIAの犯行でないということの証明にはそのコメントは何らなっていない。むしろこの文書はアメリカの行政府機関以外の機関がつくったんだとはっきり言っております。つまり、国防省情報局がつくったんだと、こう言っております。だから、私は局長要求をいたしますが、国務省の日本部長という地位は国務省の中でそう高いものじゃない。私は、直接この文書を作成をしたアメリカ国防総省情報局長あてに、この文書が作成された経緯、さように判断された具体的な状況、そして国防総省はKCIAの犯行だと判断しているそのことの認識のコンファーム、これを金大中事件真相究明のためにやってもらいたい。直接情報局に対してそのような処置をとることを強く要求いたしますが、御見解はいかがですか。
  296. 中江要介

    政府委員(中江要介君) これは外交活動の一般の国際慣行といたしまして政府から政府にものを要求いたしますときには、日本で言えば外務省、アメリカで言えば国務省を通じてやるというのが慣行でございますので、本件につきましても、あるいはその他の件につきましても、アメリカ政府に照会せよという指示をいただきましたときには、私どもは必ず国務省を通じてやるわけでございまして、前回のこのもとになりました照会をいたしましたときにも国務省を通じて照会いたしまして、先ほど読み上げましたような、つまり予算委員会で御説明しましたような回答を得たときにも、即刻その場で米国行政府以外の機関と言うけれどもそれはどこなのだというようなこと、その他当然ただ聞いて帰るということでなくて、先方の回答の一々についてさらに突っ込んだ説明を求めたのでございますけれども、この点についてはアメリカ政府としては右以上の情報は提供できないということを非常に強く言っておりまして、これ以上は求められないというのが現状でございます。
  297. 橋本敦

    橋本敦君 それじゃ、日米両政府の合作による真相究明妨害ですよ。私は、そういう意味では、本当に国会で真相究明を本気でやらなくちゃ、政府やアメリカ政府に任しておいても、韓国政府はもちろんですが、できないという感を一層強くいたします。  ところで、KCIAの犯行だというようなこの問題について高橋警察庁長官が警察官友の会でおっしゃった発言が問題になった。高橋長官がおっしゃっているのは、これは二つ大事なことがありますね。一つは、金大中は私は危ないと思っていたという表現です、危ないと思っていた。これはまさにその政治的背景なり情報ということが当時の警察庁長官のお耳に入っていたということの一つのあらわれです。もう一つは、この中ではっきりと、公式にはKCIAでないと言っているけれども、あれはKCIAがやった犯行だということを断定的におっしゃっている。警察庁の長官として高橋氏はこの事件が起こった当時から国会でも責任を持って答弁をし、真相究明の重要な立場にあった人であり、その人の直接の発言だと、こう考えますと、この発言というのはきわめて重要なものだと思うわけです。これについて、三井警備局長、どのようにお考えですか。
  298. 三井脩

    政府委員(三井脩君) 先ほどちょっと触れましたけれども、この事件に対する警察の態度というのは、高橋当時の長官が国会でも報告し明らかにしておるところでございまして、いろいろの背景が考えられ、またそういったことについての情報も多いという中で、警察が捜査をやって事案の真相を解明するためには何としても事実に基づいて、つまり単なる推測や何かじゃなくて、証拠に基づいて事案を解明する、こういう態度であるということを明らかに言っておるわけでございます。今日に至るもわれわれは全く同じ方針のもとにやっておるわけでございます。これが第一点でございます。  そうすると、退官後の高橋発言というのはいまのと矛盾するではないか、こういうことでありますが、これは本人にもわれわれ確かめました。しかし、全く事実に基づかない——警察の態度はさっき言ったとおりでありますから、今日においても高橋さんは警察はそれでいくべきだと考えていると。ただ、あそこで言った講演は、退官後の気安さと、あそこでの話の内容というのは、全体はいわゆる「警察歳時記」というものに高橋さんが書いた、警察生活の思い出、そのときどきの考え方を思い出としてみんなに話したんだと。その中で、たまたま金大中事件に触れて、なかなかむずかしい中で警察はしっかりやった、集まっておる諸君もしっかりやれと、こういうことを言う趣旨で言ったんだと。したがって、あそこで言っておる具体的な内容につきましては、ただいまの特にお挙げになりました二点につきましては、当時の推測等を言ったにすぎないんだということでございます。事実、この点につきましては、私は現在は政府委員でございますが、当時この事件を直接担当する警視庁の公安部長でございました。そういう意味におきましては、当時の事実について最も直接に知る立場にあったわけでございますが、金大中が事前に危ないと。なるほど韓国の政界から言えばVIPでもありましょうけれども、日本に来ておって危ないというようなことは私たちは全く考えませんでした。ただ、そういう人が日本に来ておるということについては、そういう連絡を受け、来ておるならどこにおるのかということは把握しておけよというようなことは指示をいたしたわけでございますけれども、これは把握できるまでに至らなかったのですけれども、警察は同氏に危険があるというふうなことは毛頭考えなかったわけでございますし、また、証拠に基づいて事案の真相を究明するという捜査の立場から、これを行ったものがKCIAであるというようなことは今日に至るもそれを証拠に基づいて言う段階に来ておらない、こういうことでございますので、ただいまお話しありましたように、当時の大臣でさえもKCIAではないかということを推測としてはおっしゃる……
  299. 橋本敦

    橋本敦君 政治的にはとおっしゃった。
  300. 三井脩

    政府委員(三井脩君) ああそうですか。そういうようなことが頭にあったというようなことがあったからではなかろうかということを高橋さんは私にも言っておるわけでございますが、捜査としてそういうものであるというものではないと、こういうことでございます。
  301. 橋本敦

    橋本敦君 納得できません。最高の捜査の責任者であった人が警察幹部を集めた会合で自分の体験談を話すにしても、まさにこの事件がKCIAの犯行であるかどうかが最大の日本にとっては主権侵害の課題になっているというその問題について軽々に発言なさるというようなことは、これは高橋さんの人格ということを考えても、そんなうかつなことをおっしゃるものと私は考えたくないですよ。しかも三井局長のおっしゃるように仮に推測をおっしゃったんだとしても、いやしくも当時の最高の捜査責任者であった高橋さんのその推測には、それなりの合理的理由がなくちゃならない。合理的理由があったでしょう。私はあなたからどういう趣旨で高橋さんがこれをおっしゃったかをいかに弁解的な答弁を聞いても納得できません。田中親書並びに朴大統領親書の資料提出と同時に、私は直接御本人から、言った事実は間違いないんですから、これは局長も否定されないんですから、どういう経緯でどういうことでどういう推測でどういう事情に基づいて言われたか、直接当委員会で明らかにしてもらうために高橋氏の証人喚問を要求したいと思います。この点は理事会でも引き続き御協議願いたいと思います。  さて、そこで、最後の質問の課題に入りますが、この了解点の第一点として、政治決着では、本人の処分、これは残念ながら起訴できないということでやみに葬り去られましたが、監督者の処分ということはいかがなりましたか、局長
  302. 中江要介

    政府委員(中江要介君) このくだりは、金東雲一等書記官が嫌疑を受けて、そしてこの犯行に加担したのではないかということで捜査を受けたもうそのこと自身で、真犯人であるかどうかということを待つまでもなく、監督者としての処分があるのではないかというそういう発想でございまして、金東雲一等詳記官が在勤しておりました在京韓国大使館の当時のイ・ホ特命全権大使が日本を離任したという形で相応の措置をとったというふうに私どもは受けとめております。
  303. 橋本敦

    橋本敦君 その李大使が更迭をされたということですが、金大中事件が起こった当時、KCIA長官、つまり部長はだれでしたか。
  304. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 私の記憶に間違いがなければ、李厚洛部長であったかと思います。
  305. 橋本敦

    橋本敦君 そうですね。その李大使が日本大使を免ぜられ、更迭されたのはいつでしたか。
  306. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 事件の起きました一九七三年の十二月十七日と、こういうふうに聞いております。
  307. 橋本敦

    橋本敦君 それと時を同じくして李厚洛氏はどうなりましたか。
  308. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 李厚洛中央情報部長は十二月の三日に更迭されているというふうに承知しております。
  309. 橋本敦

    橋本敦君 韓国で発行している東亜日報によりますと、内閣改造という事態で、そして李厚洛氏が解任をされたということを大きく報道しておりますが、これによりますと、これは明白にここにも活字がありますが、金大中事件や学園事件、あるいは国会政府建議事件、こういったことで諸閣僚が責任をとらされて内閣改造が行われた、こういうことを報道しております。東亜日報の文章を読んでみますと、結果的に今度の人事はその間の定期国会で物議を醸す種となった金大中事件を初めとするさまざまの事態に対する引責であっただけでなく、十月維新云々ということで、明白に金大中事件に対する引責という形で新聞は報道している。ちょうどそれと時を同じゅうして一九七四年十二月六日に重要なワシントンポストでジャック・アンダーソンが記事を大きく書き、同じく東亜日報もそれを報道しているんですが、ジャック・アンダーソンは朴大統領に会って金大中事件について話をした。朴大統領はこの金大中のアブダクション——拉致事件がKCIAの犯行である可能性を認めた。そして、彼はその責任をとらせて李厚洛を解任をした——「ファイアード・ヒム」と、こうあります。こういうことをはっきり言っている。李厚洛がKCIA部長として十二月の改造でこのように報ぜられているように金大中事件責任をとったということは、この金大中事件がKCIAの筋であったということを端的にはしなくも物語っていると私は見なきゃならぬと思う。こういうような事実について外務省はどう見ておりますか。
  310. 中江要介

    政府委員(中江要介君) いま御指摘の李厚洛中央情報部長の更送は、内閣改造の一環として行われたものという以上のことは私どもとしては推察あるいは評価というものはいたしておりません。
  311. 橋本敦

    橋本敦君 法務大臣に、お時間が参りまして、一言伺いますが、この金大中事件が組織的、政治的背景を持った事件であることは明らかにしました。そしてしかも政治的事件ということの中に朴政権と金大中運動との対立があることも明らかにしました。そしてこれがKCIAの犯行ではないかという数々の疑念もアメリカの資料その他に基づいて明らかにしました。かつて、田中法務大臣は、先ほど言ったように、この事件は韓国国家機関が関与したという事件だというように政治的に限定して差し支えないとはっきり答弁されております。これからもこの事件の真相究明は大事なわが国司法の捜査の課題でありますが、現法務大臣の御見解を一言承りたい。
  312. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) この事件は大変長い間懸案でありますが、私の考えでは、推理をするあるいは想像すればいろいろな想像ができる、推理ができると思います。とにかく相当確実な想像をいたしますと、金大中氏がだれかに拉致された、日本の国内において。これはまあ間違いのない事実のように私も見ております。それは国内における犯罪でありますから、これは当然にわが国のそれぞれの法務省は捜査を続けなければならぬ。主権の侵害の問題が強く言われますが、もしこれが犯罪といいますか、拉致事件というものが他国の公権力によって行われた、しかもそれがわが国の了解なしに行われておるとすれば、これはまさに主権の侵害に関して重大な問題である、かように考えられるわけでありますが、今日までいろいろそれぞれの関係当局が説明いたしておりますように、確実な事実をつかむことができない。証拠によってこれを確定することができない。金東雲氏の指紋があったということはもう明らかなことということでありますが、これは大使館の一等書記官だと、それが私的にやったのか公的にやったのかも、いわゆる公権力の行使でやったのかも明確にするすべがないというのが現状であるということ。しかし、いずれにしてもわが国の国内自治権の侵害に当たるかどうかということを別問題にいたしましても、一つの韓国人でありますけれども、金大中氏という個人が日本国内において拉致されたことはおおよそ明らかなようでありますから、それは捜査を続けなければならぬ。それと同時に、仮に公権力の介入だったとすれば、おっしゃるように主権の侵害になる。これは国家間としては重要な問題であります。そういう意味で、先ほど来お話がありますように、かねがね論議されておりますように、日韓間の国交の問題については政治的決着がついておる。しかし、犯罪ありと、あるいは主権の侵害があったという問題については、残念ながら明確な証拠をつかんでこれを明らかにすることができないという事実の問題であります。何しろ、御承知のとおり、関係者と思われる人がすべて国外にある。わが国の国権の外にあるわけでございます。これはそういう場合にいろいろな筋で捜査をするわけでありますが、私が衆議院の予算委員会で正森委員からの質問に対して、順序を追うて捜査を続けますというのは、簡単に申し上げましたが、そういうことでありまして、わが国の領域内であればもっとやさしいと思いますが、御承知のとおり全部国外である、そこに困難さがある。しかし、先ほど来説明がありましたように、警察なりあるいは検察なり捜査の責任を持っておる機関が今後続けてこれをそれぞれの順序を踏んで捜査を続けるものと、また続けなければならないと、こういう期待をいたしておるわけでございます。
  313. 橋本敦

    橋本敦君 大臣、お急ぎのようですから、結構であります。またいずれ事態の進展に応じて伺います。  そこで局長、最後に伺いたいのですが、当時韓国大使であった後宮さんが一九七五年八月十二日の「世界週報」という雑誌で、「金大中事件解決に想う」ということで重要なことを書いておられますね。国立京都国際会館の館長ですから公務員の立場で書いておられる。あの政治決着の結果、結局起訴するに足る資料が見当たらぬということになったのですが、それに関してこう言っておられるんです。「ただ、金東雲書記官の指紋、金大中氏拉致にあたった自動車の問題を含む事件の背後関係事情の究明については、一昨年秋の決着でその推進が約せられていたにかかわらず、今次の解換においても実質的な解明を得られなかったのであり、わが捜査当局をはじめとする国内各方面の不満は重々察せられるところである。」あたりまえですね。重大な疑問と不満が残る。次が問題なんです。「ただこれに関しては事件の性質は異なるとはいえ昨年夏勃発した朴大統領狙撃犯人の文世光の背後関係についての情報も、いまだ先方の要望を満足させるものがわが方から出されていない経緯があり、したがって外交案件の見地からみるときは、ここには一般外交交渉の常識としての「ギブ・アンド・テイク」の考え方が導入されざるを得」ないのだ、こういうことをおっしゃっているんですよ。いいですか。日本も捜査について不満があろう、しかしたまたま起こったあの文世光事件で、韓国側も背後関係について日本からもっと情報を出せというのにわが方は出せない、不満があろう、これはギブ・アンド・テークという関係で、外交案件処理の一般交渉の常識として、これでもう満足しなきゃしようがないんだという趣旨のことをベテランの外交官がおっしゃっておる。こうなりますと、私は、政治決着を捜査当局の意向も聞かずに高度の政治判断でやったというそのこと自体でけしからぬと思うと同時に、あの文世光事件というあの事件がこの金大中の真相を隠す政治決着を一層固める関係で日韓関係ではギブ・アンド・テークと言われるような形で、こういう空気で、いま韓国と日本政府間にはあの文世光事件以後一層金大中事件はもうおしまいだという考え方が強まっているということを私はこの発言から推測せざるを得ない。局長、いかがですか、こういう後宮さんの発言は重大ですよ、これは。
  314. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 私ども事務当局といたしましては、文世光事件金大中事件を絡ませるといいますか、後宮元大使が言われたような認識で臨んでいるということは一切ございません。当時の現地の大使としてどういうお考えをお持ちかは知りませんけれども、私どもの事務処理に当たりましては、金大中事件金大中事件、文世光事件は文世光事件、これははっきり別々の事件、案件として処理しているということでございます。
  315. 橋本敦

    橋本敦君 これで質問を終わりますが、この不当な政治決着があらゆる口実と事件を利用しながら二重にも三重にも政治的にカバーアップされているという、そういう現状について私は疑問を提起をして本日はこの程度で質問を終わります。
  316. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 本日の調査はこの程度にとどめます。  本日はこれにて散会をいたします。    午後六時十一分散会      —————・—————