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参考人(
塚本光三君)
全国砂糖労働組合会議議長の
塚本でございます。
私たちは
砂糖産業で働いている
労働者でございますが、こういう
国会の場で
労働者の
立場で
意見を述べさせていただく
機会を与えていただきましたことに、感謝申し上げます。
いま、私たち
砂糖産業で働いております
労働者は、かつて経験したことのない大規模な首切りと生活不安に脅かされておるわけでございます。すでに昨年の九月、明治製糖の川崎
工場の閉鎖、ことしに入りまして大分県の新光
砂糖工業と三重県の東海精糖の
工場閉鎖が強行されまして、合わせて千人近い
労働者の生活が奪われたのでございます。しかも、このような雇用不安と生活不安は今後ますます広がり、さらに深まる様相を示しているわけでございます。このような
労働者への深刻な攻撃というものはいまに始まったことではないわけで、政府が
昭和三十八年八月の末に、
国内措置を講ずることもなく突如として断行しました
原料糖の
輸入の
自由化以来、十年以上にわたって過当競争を続けているわけでございます。
その原因は、言うまでもなく、申し述べましたように、
原料糖の
自由化にあるわけでございます。
原料糖の
輸入の
自由化は、高度経済成長
政策のもとで政府の
砂糖産業切り捨てと、
商社の
利益を保証する
政策であったということは、その後の事態の推移を見ていただければ雄弁に物語っておると思っております。諸
外国におきましても
原料糖の
自由化というのは、二、三を除いてその例を見ない無謀なものであったと私は思っております。この
自由化を契機にして、精糖メーカーは先を争って原糖の
輸入と
生産、販売の競争に乗り出し、過当競争を現出しまして、
砂糖の
労働者は四千人以上の首切りを強行されたのでございます。私たち
砂糖で働いております
労働者は、これを第一次
合理化攻撃と言っております。
この
業界の
混乱の過程で、
商社がその膨大な資金力を
背景としまして精糖メーカーの支配に乗り出し、系列化を進めてまいりました。
昭和四十五年十一月の三井製糖の発足は、
商社主導による
業界再編成の突破口となりました。
工場と事業所の閉鎖が相続きまして、そこで働く
労働者の生活がますます厳しく、これで生活が奪われていったのであります。これを私たちは、第二次の
合理化攻撃というふうに言っております。これによって
砂糖業界は、現在御
承知のとおり、三井、三菱、丸紅、日商岩井、伊藤忠、この五大
商社か支配する産業になったのであります。
石油危機を引き金としまして発生しました、
昭和四十八年から四十九年にかけました国際
砂糖相場の暴騰を
背景として締結されました日豪
砂糖協定というものは、
業界を支配する
商社が
輸入市場の独占と、それによって
国内での競争を一挙に優位の
立場に立とうと、そういうことをねらって締結されたものだというふうに私たちは思っております。これによって、三井、三菱の
豪州糖グループと、それ以外の
商社との間の対立は一挙に深まりました。その後、国際原糖相場が大暴落したことにより、その対立は決定的なものになってしまったのであります。この中で、精糖メーカーは生き残るために
工場、事業所を閉鎖して、
商社はみずからの系列内での系列
関係の薄い企業に対しては、資金融資のストップや原糖の選別の供給を行いました。そして企業を破産に追い込み、
労働者の首切りを強行してきたのであります。明治製糖の川崎
工場の閉鎖や新光
砂糖工業の破産や東海精糖の現在
生産ストップは、まさにそれの具体的なあらわれでございます。
私たちはいま、次の
合理化攻撃を、第三次前段の
合理化でないかというふうに位置づけているゆえんでもあるわけでございます。このような
業界の
混乱に対して、政府・
農林省はいままでいかなる対応をしてきたのでありましょうか。
政府は、
昭和二十八年の一月、
てん菜生産振興臨時
措置法の制定以来、一貫して
国内産糖業の保護育成の方針を掲げてまいりました。これは
関根参考人も申し上げたと思いますけれ
ども、不十分ながら一定の助成策を講じてまいりました。しかし、政府の無謀なこの
自由化断行や法の
目的さえ達成できない
糖価安定法の制定と運用、さらに
商社の
業界支配の放置など、
砂糖行政の失敗によってせっかくの
国内産糖産業保護
政策も空洞化されたのであります。精
糖業に至りましては、一片の
政策もなかったと言わざるを得ないのであります。政府の総合食糧
政策の重要な柱であります重要食糧の長期
輸入協定の推進によって具体化された日豪
砂糖協定が破産に瀕しているとき、契約の当事者は民間だとしてみずからの責任にほおかぶりをしてきた政府の態度こそ、この間の精
糖業に対する政府の
政策を雄弁に物語っているものではないかというふうに思います。
政府の無策に加えまして、膨大な資金力を
背景としました
商社の倒れるまで戦う苛烈な競争というものと、依然として投機的経営から抜け出せず、相場に失敗すれば
労働者への首切りや
労働条件の切り下げであがなう精糖企業の経営者の攻撃の狭間で、私たちはみずからの生活と働く権利を守るためにこの三年間あらゆる困難を押して運動を続けてまいりました。
私たちの運動は、大別すれば
国内産糖の
自給率の
向上であり、
業界の
商社支配の排除による民主的な安定した
業界づくりを目指したものであります。このために、恒久的な
需給調整措置と、その国民的合意を保障する
需給調整委員会の設置を
糖価安定法の中に
規定することによって、
機能麻痺に陥りましたこの
法律をよみがえらせ、法の
目的を遂行するに足りるものにすべく運動をしてきたのでございます。
この
需給調整によって、精
糖業の常識を越えた過当競争を正常に回復させる、もって
国内産糖業の安定を確保し、
甘味資源耕作
農民の
営農をも保障しようというものでございました。同時に私たちは、政府の食糧
政策を
背景として、政府がその締結を積極的に
支援し運用に関与してきた日豪
砂糖協定の問題を政府によって解決し、言いかえれば、日豪間の交渉によって解消し得ない原糖の
価格格差の解消のために、
国内措置を強く要求してきたのでございます。
業界の今日の
混乱が
豪州糖の異常な
価格格差を原因として増進されている以上、この解消のためにこれを推進し援助した責任に照らして、政府・
農林省の責任は免れないものだというふうに思っております。
さらに私たちは、みずからの経営の失敗を、挙げて
労働者の犠牲の転嫁によって償ってきた精糖企業の経営者とその背後にある
商社に対して、
業界の安定と
労働者の声を反映させた
業界をつくるべく、
業界ベースの労使の交渉のテーブルをつくることを強く要求してまいりました。そのテーブルに、雇用不安を排除して人間らしい
労働条件を確保するための最低限の要求であります、年間交代制
労働日数の制限に関する協定の締結を求めてきたのでございます。これに対しまして企業と
商社は、
労働組合敵視の
政策を正面に据えて、私たちの真摯な要求を一蹴して歯牙にもかけない態度を取り続けているのでございます。
昭和三十八年の原糖の
自由化以来、連綿として絶えることのない首切りの不安と生活不安に一日たりとも解放されたことのない私たち
砂糖労働者が、みずからの職場と生活を守るために、
業界の安定と
労働者の雇用の安定を目指して
業界ベースの労使交渉のテーブルをつくれという私たちの要求は、人並みの生活をするために夜勤の制限を求める私たちの要求は、これを理不尽とでも言うのでしょうか。
もちろん私たちは、これによってみずからの主体的な力量の不足を他に転嫁し、責任を回避するつもりはございません。昼夜をたがわず、文字どおり身を粉にして
砂糖の増産を図ってきたのは、まさに現場で働く私たち
労働者でございます。
業界の
混乱を是正して雇用と生活の不安のない
業界を築けという圧倒的な多数の
砂糖労働者の叫びにも、呼応して立ち上がれない
労働者がいることも事実でございます。しかしながら、経営者の指示によってまじめに日々の
労働を遂行し、そのあげく
生産過剰だとして首を切られるとしたら、その
労働者に一体いかなる責任があるとでも言うのでしょうか。
政府は、
業界の正常な秩序回復を目指して、
砂糖の売り戻し
特例法を現在上程して
審議しております。その成立を期しております。その条文には、
工場、事業所の閉鎖はもとより、
労働者の首切りをほのめかす一文の文字すら含まれていないことは、疑いもない事実でございます。しかし、そこには、
昭和三十八年の原糖の
自由化以来、企業の延命と存続のために、六千人以上に上る
砂糖の
労働者の失業と生活の破壊が再び繰り返されないという保証もないことは明らかでございます。否、むしろ政府と
商社、企業は、精糖設備能力が二〇%以上も過剰であるとして、その廃棄のためにキャンペーンを大々的に繰り広げております。しかも、この
特例法は、
豪州糖問題の解決に名をかりてコスト競争をあおり、
工場、事業所の廃棄を強要して多大の
労働者の雇用を奪わんとしているものでもございます。
糖価安定法に基づく
下限見合い
価格の維持を至上命令とするこの
法律、
需給調整は、合意された日豪
砂糖協定の協定
価格よりはるかに低い水準であります。この
価格に近づけるためには、個別企業は好むと好まざるとにかかわらず精糖企業は
生産集中を促され、
工場、事業所の廃棄を強要されるに違いありません。これと同時に、企業別シェアの確定は企業の保護にこそなれ、
労働者の雇用の安定につながるものでないことは、私たちの被害妄想ではなくてまさに冷徹な経済原則ではないでしょうか。しかも政府は、去る五十一年十二月一日の
農林大臣の指示するカルテルの発動に当たって、精糖設備の廃棄を初めとする
業界の構造改善を指示して、
精糖工業会はこれにこたえて、設備の二〇%を廃棄する
合理化案を策定していると聞いております。
さらに重要なことは、この
法律案が三年の
時限立法であり、その
需給調整の権限がすべて
農林大臣に集中されており、政府の固有の責任である日豪
砂糖協定に伴う
国内解決もうやむやにされようとしているものであります。およそ
砂糖にかかわりその
混乱をつぶさに経験してまいりました者にとっては、恒久的な
需給調整なくしてこの
業界の安定はないということは、もはや常識でございます。一体、三年後のこの
法律の期限切れを迎えて、現在の
混乱が再現されないという保証がどこにあるのでしょうか。さらにまた、
砂糖という国民生活必需品の
需給コントロールをすべて政府の権限に帰属させることに、深く憂慮を抱かざるを得ないのでございます。
以上の見地に立って、私たち全国
砂糖は、政府か次の諸点を明らかにして、そのために所要の施策を講ずることを強く要求するものでございます。
第一に、日豪
砂糖協定の改定交渉の合意に伴う
国内措置を講ずることでございます。
第二に、
労働者の雇用の確保と安定施策を講ずることでございます。そのために、私たちの要求である交代制
労働日数制限の協定の締結を、
業界の経営者に強く
指導していただきたいということでございます。
第三に、恒久的な
需給調整措置を講じていただきたい。これは前にも述べましたので、三年間の
時限立法ではこの
業界は安定していかないということがもはや常識になっているということでございます。
第四に、民主的な
業界を築くために、
業界レベルの交渉体制を経営者が確立するよう
行政でぜひ
指導をしていただきたい。
この四点、これらの施策が講じられない限り、この
法律案は
需給調整に名をかりた
労働者の首切り
法案であり、
商社と企業の
利益を擁護するものとして、私たちは反対の表明をせざるを得ないことを
考えるものでございます。これこそが、前後三次にわたって加えられました
砂糖労働者の累々たる犠牲をこれ以上積み重ねないという保証になるものだからでございます。私たちの真剣な要求につきましては、どうか
国会の場で十分
審議していただくことを
お願い申し上げまして、私の
意見陳述にかえたいと思います。