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参考人(大塚岩夫君) 私は、ただいま御紹介いただきました
日本双眼鏡工業会の副会長を務めている大塚でございます。
当
業界、諸先生方には大変御高配をいただき、また本日の
委員会に
円高による
不況対策にこのような機会を与えていただきましたことを、深く感謝申し上げます。
本日は、会長が来て説明するところでございましたけれ
ども、現在、
円高による関税
対策等の問題でワシントンの方に行っておりますので、私かわって説明さしていただくことをお願いいたします。
それでは初めに、当
業界の概要を簡単に御説明さしていただきたいと思います。
一、
わが国双眼鏡
製造業界の実態。(一)
企業規模について。
現在双眼鏡の完成品
製造業者七十二社存在しておりますが、うち大
企業が六社、そして
中小企業六十六社で九一・七%、その大部分が小
企業、零細業者によって構成され、
生産体制は受注
生産による分業
体制を確立した典型的なアッセンブル方式による労働集約型の
産業でございます。(二)
企業の地域別分布
状況について。
東京都内板橋区、練馬区、豊島区、北区等六十社、八三%でございます。他府県が埼玉県、神奈川県、長野県、京都府で十二社、一七%。したがって、現在、東京都の地場
産業となっております。(三)最近の
生産、
輸出状況について。
全
生産量は年間約三百五十万個前後になっています。このうち
輸出向けが三百八万個、八八%となっております。
国内向けが四十二万個、一二%です。外需依存型の典型的な
輸出産業であり、しかも全
生産量のうち大
企業の
製品は十四万個でわずか四%、
中小企業の
製品が三百三十六万個で九六%と、
製品の大部分が
中小企業の
製品でございます。また、用途としてはスポーツ、自然風物の観察、狩猟と、レジャー用に使用されています。主要
輸出向け国としては、アメリカが四三%、西ドイツが一四%、フランスが六%、イギリスが五・五%、カナダが四・五%の五ヵ国で、全
輸出量の七三%を占めており、
わが国双眼鏡はほぼこの五大市場の景況と需要動向に大きく左右されており、とりわけ米国市場は重要な影響力を持っております。
二、最近の
輸出環境と受注
状況について。
これまで
日本製双眼鏡は世界市場において手ごろな値段で、しかも品質がよいということで米国市場を初め、主要先進国に双眼鏡を供給してきたのでありますが、しかし、昨今の
輸出環境は最大市場である米国が一九七六年一月一日から
発展途上国に対して
特恵関税を供与され、双眼鏡製造国においては韓国、香港、台湾、マカオ等が受益国となっております。とりわけ韓国の追い上げに大変苦慮しております。現在、米国の双眼鏡に対する
輸入関税率は、
発展途上国は
特恵関税によりゼロとなっておりますが、われわれ
日本から出荷される物についてはFOB
価格において二〇%が一応課税されているのに加えて、最近の急激な
円高ショックにより
発展途上国の
製品の
価格差は優に四〇%以上の格差になり、
日本製双眼鏡は大きなハンディを背負うことになり、競争力も著しく低下しつつあるのが現状でございます。したがって、
輸出成約
状況も、通常ならば三ヵ月の受注残を持って稼働しているはずでございますが、十二月以降の受注は少なく、
バイヤーとの先物
契約が成立しにくいばかりか、値段も
円高の影響により三ないし一〇%値下げされており、特に双眼鏡
業界は零細
企業が多いこともあって、今後は
円高による受注減、赤字
生産等により
倒産も懸念され、体力も限界に来ており、その
対策に大変苦慮しております。
ちょっと余談でございますが、私の個人的な
企業の御紹介をさしていただきますと、先日一応
大手の大量
小売機構、言いかえれば百貨店ですけれ
ども、そこが来まして、非常に張り切って大量の注文を持ってきたわけです。そして去年よりも四〇%ぐらい多い注文を持ってきて、ちょうど来ている間にこの急激な
円高に遭いまして、向こうでことしの販売にいろいろ幹部を集めてプランニングをして、ことしはこういう
価格で買って、こういう宣伝をし、こういう売り方をしていこうというようなことを決めてきたんですけれ
ども、実際私
どもが提出した
価格は二百七十円であったわけです。ところが、ちょっと大げさかもしれないんですけれ
ども、飛行機に乗っている間に二百五十円になってしまったんです。それで、もう来てすぐ、とにかくこの八%は何としてくれるんだ、われわれは来年の計画はめちゃくちゃじゃないかというようなことで、とにかく会談の場にならないぐらい、この八%について非常に討議をされたわけなんですけれ
ども、これはもうどこにも結局訴えることができないような問題でありまして、私
どももやむなく三%値引きして、何とか計画を進行してくれないかというようなことでお願いしている、まあ実情でございます。
それからもう一つは、香港から一応
品物を買っているのが、非常に
品物が悪いとか、また納期が非常に遅延しているために、ことしは
日本から三十万台買いたいというようなことで、この
円高にはもってこいの話があったんですけれ
ども、
円高の影響を受けて、やはり不本意ながらことしも香港から買わざるを得なかったというふうな問題があり、私
どもは本当に
円高の問題と、それから
後進国の
特恵関税の問題、この二つで大変窮地に追い込まれている
業種でございます。
もう一つのインポーターは、やはり私
ども毎月三千本、年間
契約として大体三万本ぐらい買っている機種があったんですけれ
ども、これもやはり韓国あたりがだんだん
生産力も上回り、品質も非常によくなっているということで、いままではスタンダード
製品しかやってなかったのが、だんだん中級品から高級品に向かうようになった、そういうことで、こういう
品物であれば
後進国の追い上げを免れるという
品物まで最近食い込まれてくるようになった、そういうことで、この機種も結局韓国に持っていかれたということで、今後非常に大きな問題があり、当
業界にとっては大変なピンチじゃないかと思います。しかも、スタンダード物においては、裸
価格で三千八百円ぐらいしたものが現在三千四百円ぐらいになっている。あと受注残がないものですから、実際には値段は幾らでもいいからとってくれと、赤字
覚悟の注文をとるというふうな形に現在追い込まれているわけです。
三、要望事項として、
円高ショックはもはや
企業の自主努力では解決できない問題であり、下記要望事項について、政府の抜本的
救済措置をお願いしたいと思います。(一)、米国の双眼鏡に対する
輸入関税率引き下げ交渉は強力に進めていただきたいこと。
このことは、当
業界が
円高対策にとりまして本当に命の綱とも言うべき関税をゼロにしてもらいたいという運動をしておりましたけれ
ども、なかなか現在の対日感情の悪化だとか、ドルがたまり過ぎているとかいう問題で進まないような
状態で、この問題を何とか解決できれば
円高に対応できるんじゃないかと思われております。
私
ども双眼鏡
業界では、これまでに当面の
輸出環境改善
対応策の一環として、去年十月より、ワシントンにあるマサオカ・イシカワ法律事務所に委託し、米
国内の双眼鏡取り扱い業者の協力を得て、通商特別代表部、それから商務省等に対して、次の理由により米国における双眼鏡の
輸入関税率を引き下げていただきたい旨、運動を展開しております。
理由一、米国には一九七二年以降双眼鏡の
製造業者がいないこと。
理由二、現在米国における双眼鏡に対する
輸入関税率は二〇%であるが、これは他の光学
製品に比べて高過ぎるので、引き下げてほしいこと。
理由三、
輸入関税を引き下げることが
消費者の利益になること。
等を理由に議員立法で提案されたが、
日本の
貿易収支黒字に対する風当たりと悪印象により、上院本会議は通過したものの、下院歳入
委員会では否認されたため、行き詰まっております。しかし、関税引き下げに関しては、次の
対応策を検討するために、当工業会の宮田会長は目下渡米中でワシントンに行っております。
そこで、政府としても今後日米両国間の代償交渉、または精算交渉とも言われますけれ
ども、それと東京ラウンドの関税交渉の場においても、米国の双眼鏡
輸入関税引き下げ実現方に御支援いただきたいと思います。(二)、
中小企業為替変動対策緊急融資制度の条件緩和。
先般
円高ショックに対する
救済措置として金融措置が、金額にして二千万、金利七・六%というふうに報じられましたが、つなぎ資金としては金利が高過ぎるので、融資条件の緩和ですね、これは大
企業では金利は四・五%ぐらいで借りているというようなことがあるので、四・五%ぐらいにしていただきたい。それから、金額の枠も五千万ぐらい。それから、一応その返済期間が三年となっておりますが、これを五年に延期ということもお願いしたいと思います。あわせて
中小企業の税制上の処置も講じていただきたいとお願いする次第です。(三)、円
相場の安定策を早急に確立していただきたいこと。
円高ショックの被害は
企業の自助努力では解決できない問題があり、抜本的
貿易収支の黒字解消
対策を早急に講じ、円
相場の安定を図っていただきたいこと。特に急激な
円高はほんとに
中小企業によっては致命的な打撃をこうむり、去年の十二月には大体二百九十六円だったのが一月には二百九十二円ということで、結局小さな
中小企業の
商社等は、ほんとに資金繰りに困窮をきわめているようなわけで、これがさらに
円高の影響を受けると、
商売にならない、
倒産に結びつくという問題、ほんとに身にしみて感じております。特に急激な、二週間
程度で十五円も上がるというような、そういうふうなことは、何とか政府の方で処置を講じてもらいたいと思うわけです。
確かに
日本の
産業としては自動車だとか電機、それから鉄鋼等においては非常に強いものがありますけれ
ども、われわれはそういう
業種を見るときに、何かよその国の
企業みたいに感じるわけで、われわれとしては結局現在の力またはその品質管理、
生産効率等を
考えた場合に、二百七十円ぐらいがやっぱり妥当じゃないかというふうに
考えられます。二百五十円
——いかにも私
どもには厳しい環境であるというようなことが
考えられます。そのためにも何か抜本的な
輸入か何かできないものかというふうなことを、素人ながらに
考えているわけですけれ
ども、何かこれだけドルが余って、国家財政は足りないとか、非常に対日感情が悪いとか、
中小企業が非常に困るとか、何か方法があるんじゃないかと思われるので、ぜひ先生方にお願いして、今回の問題を、
円高に対する
不況対策をぜひ改善さしていただきたいと本当に心から申し上げる次第です。
どうもありがとうございました。