○下村泰君 実は
大蔵大臣、これからの話は別にどうのこうのという
わけじゃありませんけれ
ども、大変頭の中、おつむの中がお疲れでしょうから聞いていただきたいと思いますが、
日本という国は余りにも芸能文化に携わっている人たちを軽視し過ぎているのではないかと思うのです。いわゆる国というものが応援するような、わが国に伝わったり伝統的な文化に対しては大変目を見開いていらっしゃるところもあります。しかし、私がこれから挙げるこの方は、いわゆる
日本という国がこういう分野に対して目を向けていないがために不幸な最期に終わったという方なんですが、恐らく大臣も
御存じでしょうけれ
ども榎本健一という大変な喜劇役者がおりました。かつて
日本にチャーリー・チャップリンが来たときに、この榎本健一の演技を見て、あなたがもしアメリカで生まれたならば恐らく世界的な喜劇王になるだろうと激賞したと言われる方なんです。この方がたまたまこういう納税という意識の低い方ですから、昔の方ですからね、低い方なんです。そして、ここにいた北村というもと榎本健一一座の役者だった方がマネージャーについた
わけです。この方も役者の出身ですから、納税事務などということは余り意識がなかった
わけです。そのためにちょっと
税金を滞納したんです。しかし、その滞納した原因が何かと申しますと、脱疽という病気に見舞われまして、前
年度は働いていたんですが、次の支払うへき明くる耳になって――働いているその年の末、そのときにこれが発病いたしまして、そして明くる年にわたったために、もちろんそれは収入を始末しなかったのはおまえらが悪いんだと言われればそれまでのことですけれ
ども、いまも申し上げましたように、大変そういうことに対しては意識の低い方々が周りにいたものですから、
手続上の不備がたたりまして明くる年には納税ができなくなった。しかも、片方は闘病生活をしている
わけです。そして、この病気がどんどん進みまして、ついには足の甲の半分を切断して、たびとかくつ下とかいうようなものに特殊な物を前に詰め物をしまして、そして舞台を勤めていた方なんです。このときにもし税務署の方が親切に相談に乗ってくれれば、後で疲労から健康を害して死に至るというようなことはなかったと思うのです。
たまたまこのときに榎本健一という方が喜劇人協会の会長をやっておりました。涙を流しながら、おれは協会の会長をやめたい、なぜやめたいんですか、おれは喜劇をやっているんじゃない、
税金を納めるために喜劇をやっているんだ、
税金に追っかけられて右も左も顔向けできない、喜劇人協会の会長やめたいよ、こういうことをおっしゃったことがある。この話を当時の山村新治郎行管庁長官なさっていました、いまの方のお父さんですね。そうしまして、長官にいろいろと調べてもらったんですが、やはり事務上の
手続はエノケンさんの方が悪かったんです。悪いんだけれ
どもそこを何とかしてもらえないか、こんな人は何百年のうちに何人も出てくる人ではないということを申し上げました。たまたまそのときに衆参両院議員の諸
先生方が超党派で榎本健一を激励する会というのを東京会館でやってくださったことがありました。けれ
ども、それでじゃ
税金の方は軽くなったかというと軽くなった
わけじゃありません。
そのうちに
税金を、働くためにたびやなんかに詰め物をしながら舞台を勤めてきましたが、それが原因で今度はついに片足切断ということになりました。そして、
税金もついに払うこともできずに、長年住みなれた大田区の雪谷にあったお家を売り払って、そして
税金を納めたんです。その後それが原因で過労からついにこの世とお別れになった方なんですけれ
ども、文化の面から見たらこんな
日本にとって大きな損失はないんですよ。チャーリー・チャップリンをして、あなたがもしアメリカに生まれたならば世界一の喜劇王になるだろうと、もしこの方がそういう育ち方をしていったら、これは
日本というものの喜劇というものが世界に喧伝されて、
日本人というのは大したもんだと言われるようなことになったかもわかりません。もし
国税庁がそのときに、その任に当たった方が、いま少し温かいお心があってこの榎本健一という者を解釈してくださったならば、こんな大きな損害をこうむらなくても済んだんではないかといま私は思う
わけです。
こういったように行政の面というものが一人の大きな国家の損失に――国家の損失といってこれが果たして本当の言葉かどうかわかりませんけれ
ども、われわれ芸能人から言わしむれば、これほど大きな宝はなかったんだ、これを少しでも生き延びさせることができたと私は解釈しておるんですよ。そういう意味で
大蔵大臣、どうぞひとつこれからもこういうことのないように、こういうちょっとした冷たい行為が大きな損失にならないようにひとつお願いをいたしまして私の質問は終わらせていただきます。