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渋沢利久君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
健康保険法及び
船員保険法の一部を
改正する
法律案並びに
自由民主党による
修正案に
反対し、以下その
理由を明らかにいたしたいと存じます。(
拍手)
申し上げるまでもありませんが、
昭和四十八年第七十一
国会における
健康保険法改正に当たって、
政府は、それまでの
累積赤字を約三千億をたな上げ、
給付費の一〇%
定額国庫補助制度や
保険料率の
一定引き上げを認める
弾力条項を新設し、今日まですでに二回にわたって
保険料を引き上げ、被
保険者負担による
赤字対策を行ってきたのであります。それでも
赤字は解消しません。本
年度末には千六百億余の
赤字が推定されるに至ったのであります。これまでの
経過が示しますように、もはや小手先の財政糊塗策を何度繰り返しても、健保財政の真の解決にはならないということがはっきりしておるのであります。(
拍手)
しかし、
政府は、今回の
改正案によってボーナスからの
特別保険料徴収、
標準報酬の
上限改定、
初診時、
入院時一部
負担金の引き上げ、さらには、高額
療養費自己
負担限度額の引き上げ等、すべて被
保険者の
負担増によってこれが解消を図ろうとしておるのであります。驚くべき感覚であります。
赤字を生み出す構造的要因には一顧だに与えず、一指だに触れることなしに、ひたすら被
保険者負担による財政対策の反復、まさに無為無策、長きにわたってなすことなき
政府のこの怠慢と欺瞞に対して、私はこれを強く指弾せざるを得ません。(
拍手)
政管健保の
赤字は、まずその立脚
基盤が中小零細企業であり、加入者の賃金水準は
組合健保の八割レベルにすぎず、平均事業所
規模十七人という小企業では十分な健康管理や企業内福利
措置も期待できません。事実が示しますように、平均受診率や平均
入院日数などの支出要因もはるかに上回っておりまして、
赤字の発生は当然であります。
さらに、このようなこの制度固有の
赤字要因だけではなく、
わが国の医療制度が全体として持っている諸矛盾がこれに重なっているわけであります。すなわち、財政対策を幾らやっても、ざるに水を注ぐが
ごとしと言われる状況と構造がそれであり、薬づけ医療、営利医療と言われるものがそれであります。
医療費の増大は依然としてとどまるところを知らず、個人所得の伸び率を大幅に上回り、
昭和五十一年七兆七千億、五十二年推定八兆七千八百億、医療費
改定がこれに加われば優に九兆を超え、いよいよ十兆の大台に迫ろうとしておるのであります。その薬剤費比率は四〇%を超え、異常というほかないこの薬の過剰投与が問題となっているのでありまして、この異常肥大の主な原因の一つは、すでに多く指摘されたように、点数出来高払い制と言われる診療報酬制度であり、さらには、薬を使えば使うほど医療収益が大きくなる薬価基準制度にあるということは言うまでもありません。(
拍手)早く治すほど損をしたり、腕に自信のある医師ほど恵まれないというようなこの制度では、医療の営利主義的な偏向を避けることはできないのであります。(
拍手)また、医療機関が実際に購入する薬品の価格よりもはるかに高いところで薬価基準を定めるというこの構造、仕組みによって薬剤大量投与を促しかつ支えているのであります。
こうして、今日の医療制度の著しい特徴は、膨大な医療費によって
国民の医療保障がなされるのではなしに、一握りの製薬メーカーの企業利益だけが確かに保障されているというところにあるのであります。(
拍手)
昭和三十六年以来、いわゆる
国民皆保険、保険加入と
保険料負担が
国民に義務づけられながら、しかし
国民に対する医療供給の
責任が果たされていないというこの事実は重大であります。差額ベッド、付添看護料などの保険外
負担は、金のない者は
入院も治療もできないという事実をつくり出し、薬害の被害者や遺族は、十年、二十年に及ぶ血みどろの裁判闘争によってもなお満足な解決を得られないという現実があり、救急医療の不備、老人政策の欠落、医療有料化への不安などなど、医療に対する
国民の不信は
拡大するばかりであります。医療はもともと公共的性格を持つものであり、
国民すべてにひとしく保障されるものでなくてはなりません。
ところが、
わが国の医療制度は、営利経営的な自由開業医制を基調として、私的医療機関が制度の主体をなし、公的医療機関までが独立採算で営利を強要されるというこの構造が、医療をして
国民の医療とする道を阻んでいるのであります。そして何よりも、国の
施策も指導性もまさになきに等しいというところに問題があるのであります。(
拍手)
いま
政府に求められているものは、一時しのぎの財政政策ではなしに、
赤字の根源に挑戦することであり、医療制度の抜本改革に勇気を持って、しかも直ちに着手することなのであります。(
拍手)
自由民主党の
修正案が、ボーナス
保険料の二%を一・五%に微修正を試みましても、われわれは、ボーナス
保険料などというこのこそくな発想に、そもそもくみすることができないのであります。
労働者の拠出分だけで六百億、
修正案によりましても五百億を超える
負担を、この不況とインフレに苦しむ
労働者に強いることになるのであります。
総理の諮問機関であります
社会保障制度審議会が、「慎重に対処したものとは認められず、たとえ時限的
措置を講ずるとしても、にわかに容認することはできない。」という手厳しい、しかも
全会一致の答申を行ったことを銘記すべきでありまして、
国会もまた、
政府案並びに
修正案の採決に当たって慎重に対処したものとは認められず、たとえ
修正案をもってしても、とうてい容認することはできないということを
全会一致で確認しようではありませんか。
所見の一端を申し述べて、
反対討論といたします。(
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