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1977-11-02 第82回国会 衆議院 法務委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十二年十一月二日(水曜日)     午前十時二十七分開議  出席委員    委員長 上村千一郎君    理事 羽田野忠文君 理事 山崎武三郎君    理事 横山 利秋君 理事 沖本 泰幸君       塩崎  潤君    田中伊三次君       福永 健司君    島本 虎三君       西宮  弘君    日野 市朗君       米田 東吾君    飯田 忠雄君       長谷雄幸久君    正森 成二君       加地  和君    鳩山 邦夫君  出席国務大臣         法 務 大 臣 瀬戸山三男君  出席政府委員         内閣官房長官 塩川正十郎君         内閣官房内閣審         議室長内閣総         理大臣官房審議         室長      清水  汪君         内閣法制局第二         部長      味村  治君         法務政務次官  青木 正久君         法務大臣官房長 前田  宏君         法務省刑事局長 伊藤 榮樹君         法務省矯正局長 石原 一彦君         法務省保護局長 常井  善君         法務省人権擁護         局長      鬼塚賢太郎君         法務省入国管理         局長      吉田 長雄君         外務省中近東ア         フリカ局長   加賀美秀夫君         運輸省航空局長 高橋 寿夫君  委員外出席者         警察庁刑事局国         際刑事課長   新田  勇君         警察庁警備局公         安第三課長   福井 与明君         警察庁警備局警         備課長     若田 末人君         外務大臣官房領         事移住部長   賀陽 治憲君         外務省国際連合         局外務参事官  小林 俊二君         運輸省航空局監         理部総務課長  山田  宏君         最高裁判所事務         総局刑事局長  岡垣  勲君         法務委員会調査         室長      家弓 吉己君     ————————————— 本日の会議に付した案件  航空機強取等防止対策強化するための関係法  律の一部を改正する法律案内閣提出第一一  号)      ————◇—————
  2. 上村千一郎

    上村委員長 これより会議を開きます。  お諮りいたします。  本日、最高裁判所岡垣刑事局長から出席説明要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 上村千一郎

    上村委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  4. 上村千一郎

    上村委員長 内閣提出航空機強取等防止対策強化するための関係法律の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山崎武三郎君。
  5. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 今回のこのハイジャック防止法案内容審議に入る前に、政府の方では先月の十三日、ハイジャック再発防止対策として、日本赤軍対策国際協力の推進、安全検査等徹底出入国規制国民に対する理解協力の要請、在外公館等警備強化の六項目から成る第一次対策決定したと聞いておりますが、その後どのような具体策がとられているのか、まず第一番目にこれをお聞きしたいと思います。
  6. 塩川正十郎

    塩川政府委員 お尋ねの六項目に関しましてそれぞれ関係省庁と協議いたし、実行可能なものから順位を決めて対策を講ずるようにいたしておるのでありますが、まずとりあえずは、日本赤軍対策に関しましては警察庁中心となりまして、情報収集強化拡充しなければならぬという点からこれが着手にかかっておるのであります。と同時に、赤軍関係しております団体、その関係情報を密にしたい、そういう情報収集を主体として強化対策をとってきておるところでございます。  なお、具体的な赤軍対策につきまして、具体的なものはいろいろと警察庁で詰めておりますけれども、この場で私から御報告申し上げることははばからしていただきたいと思うのであります。  それから次に、国際協力の問題でございますが、御承知のように国連にこの決議を持ち出すということもいたしておりますし、またそれぞれの各国に御理解をいただいて、でき得れば航空機ダブルチェック、搭乗に際してのダブルチェックでございますが、等が容易にし得るようなそういう御協力もお願いいたしたいとして外務省努力している最中であります。  なお、安全検査徹底でございますが、これはすでに航空会社当局と具体的な対策を講じつつあります。御承知のように、ボデーチェックをいたします能力に相当限界がございます。したがって、まず物理的な対策を講じなければならぬということと、それに伴いますところの航空会社並びに空港管理当局の体制もとらなければならぬのでございまして、これは当然予算措置も伴ってくると思うのでございますが、そういうようなものも、予算措置として必要なものは昭和五十三年度にいたすといたしまして、とりあえず空港ボデーチェック安全管理検査徹底を図る手段を講じております。  それから、出入国規制でございますが、これにつきましては、ただいま当委員会においてお願いいたしております法案一つの大きい柱となっておるようなところでございますし、そういう措置を講じておるのでありますが、要するに、これらすべてを通じますことは、政府一般国民方々が一体となって推進していただく、それがための理解を得る方法、これに十分な力を入れていきたいと思うております。
  7. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 警察庁にちょっとお聞きしますが、いま官房長官お答えになりましたが、赤軍派実態の把握ということを申されました。理屈から言いますと、日本国内にいる赤軍国外にいる赤軍、これを全部つかまえてしまえば再発も起きないわけでございますから、至って簡単なことであります。だけれども、それがどの程度情報収集をいま懸命にやっていらっしゃるということでございますが、一体その人数はどの程度なのか、あるいはどういうぐあいにしてその実情を把握して、その動きについては遺漏なきよう期しているのかどうか、警察庁からお答えを賜りたいと思います。
  8. 福井与明

    福井説明員 お答えいたします。  日本赤軍組織実態でございますが、奥平、旧姓重信房子中心にしまして約二十人のメンバーから成っておるというふうに判断しております。アラブ諸国に本拠を置きまして、ヨーロッパ、アジア諸地域にまたがる活動を続けております。この本来のメンバーの周辺にはさまざまの支援組織があると見ておりますが、日本国内にも、海外から送還されてまいりましたメンバー中心にしまして支援組織がつくられており、さまざまの方法で拡大に努めておる、このように判断しております。  ところで、この種の海外事犯が起こった際に国内のグループを検挙してはどうかという御指摘がございましたので、ちょっと実態を御説明申し上げますと、本件につきましては、現在、関係先の捜索を行う等、国内関係者が今回の事件に関与しているかどうかについて捜査中でございます。捜査的に事件に関与しているということが明らかになった分は、現在のところでは残念ながらございません。  ところで、これまでのケースでございますが、四十九年の七月に、ヨーロッパにあります日本の商社の関係者を身のしろ金目的で誘拐をするということで日本赤軍関係者か準備をしておりまして、予備段階でフランスの治安当局に摘発をされ、ほとんどの者が国外追放に遭うという事犯がございました。これに関連いたしまして、国内関係者七人を検挙しております。一人を国際手配しております。内容は、旅券不正入手あるいは不正譲渡、当委員会で御審議いただいております旅券法の二十三条の一項一号、三号関係を主とした事犯でございます。  それから、四十七年の五月三十日に、例のテルアビブのロッド空港事件がございましたけれども、これでも、岡本公三の海外へ出ていくについて手をかしたと見られる人物をやはり旅券不正入手等で、これを含めまして二件、二名を検挙しておりますというのが実態でございます。
  9. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 再発防止方策として、るる政府方策決定なされ、鋭意努力中でありますけれども、その一策としまして航空保安官、この航空保安官を同乗させることはよくないという結論が出たかに聞いておりますけれども、その利害得失について承りたいと思います。
  10. 高橋寿夫

    高橋(寿)政府委員 お答え申し上げます。  一つは、航空保安官が機内におきまして犯人と格闘をしあるいは発砲をしたときの危険性の問題、もう一つは、航空保安官が乗ったことによる抑止力その他の問題、二つございます。  まず前段の方を申し上げますと、御承知のように、航空機というのは非常に繊細な神経が行き届いてできている乗り物でございます。床下等には、操縦系統を左右する各種の細い線がいっぱい通っている。それから、給油系統等も全部細いパイプが通っておりますし、それから、外板はかなり薄うございます。軍用機と違いまして、旅客機は非常に薄い外板であります。それから窓もたくさんございます。そういったことでございまして、もし発砲した弾がそれましてガラスを破るというふうなことになり、あるいは外板等を破るということになりますと、御承知のように、航空機は高高度を飛ぶ場合には室内を与圧いたしておりまして、外側は非常に気圧が弱い。そこで、急激に中の空気が表へばっと出る瞬間に、意外と小さい銃弾の穴が大きく広がっていくおそれがある。そうしますと、気圧の急激な降下、酸素不足等によって乗客に生命の危険も起こりますし、急激なそういったバーストによって航空機墜落を招くおそれもなしとしない。あるいはまた、床をぶち抜きまして、その床に入っております操縦系統等に支障を与えますと、それが直ちに墜落につながるということで、航空の技術の専門家に検討させましたところ、これはやはり危険なので、専門家立場としては、あえてそのことをやっても大丈夫ですという結論を出しにくいというふうに言われているわけでございます。  それから、一方におきまして、一つ航空機に数名の航空保安官が乗ったというふうなことを考えまして、まあ犯人の数との対比もございますけれども、どの程度抑止力があるかという点につきましては、警察当局の御意見も伺っておりますけれども、いわば狂言的なハイジャック犯人でございますれば抑止力があると思いますが、本当にやる気になってやってくる組織的な計画的犯人に対しましては、数名の保安官抑止力というものにはやはり限界があろう。そうなりますと、効果と危険性と両々相まって考えますと、やはりこの際、安全サイドに物を考えるべきじゃないだろうかということで、私どもは消極的な結論を出そうとしているわけでございます。
  11. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 二年前にクアラルンプールハイジャック事件が起きました。そして、今回また起きました。二年前に超法規的処置ということでもって犯人要求に屈したわけでございます。そのときにおいて、再度かような事件が起きるであろうか、二年前のことでございますが、そういうふうに思ったのか、あるいはもう赤軍派などというのは二度とかような事件は起こさないと思ったのであるか、あるいはかような事件が起きる可能性があると思ったのであれば二年間にどのような処置を講じたのか、承りたいと思います。
  12. 塩川正十郎

    塩川政府委員 率直に申しまして、この二年間に、そういう悲しむべき事件を再び起こさないようないわば厳しい措置というものがおくれておったと思うております。しかし、クアラルンプールのあの事件一つの大きい教訓となりまして、それに対する予防策というものは現在においても非常に有効な措置が検討されておりますので、それを今後一つ一つ着実に実行していくことだと思うております。したがって、この二つの事件、二年置いて起こってまいりましたこの事件は、この際にこそ断固たる予防措置を講ずる絶好の機会であると思うておりますので、今後この面におきまして、本当にのっぴきならぬ断崖に立たされた気持ちで、この実行をいたしていきたい、こう思うております。
  13. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 二回目の事件犯人要求に屈して超法規的な措置を講じて、今回その反省の上に立って予防策並びに起きた場合の処置についてるる検討中でございます——政府の方ではただいまの六項目から成る予防策決定されました。非常に聞きにくい質問でございますけれども、これで三回目、再度かような事件が起きると思われるでしょうか、あるいは今回のこの処置で起きないというふうに思われるでしょうか、この点をお聞きしたいと思います。
  14. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 また再び三たび起こるであろうということは想定したくありません。ありませんが、いま各般措置を講じつつある、立法もお願いしたい、これは内外にわたって、国際的にも各国がそういう決意をしてもらわないと、いまの情勢で断じてそういうことはないと確言はできないと私は思います。しかし、われわれの考える、また人知を尽くしてできる手段はあらゆる手段を講じて再発を防ぐ、起こってからではなかなかですから起こらないようにあらゆる手段を講ずる、これが現在の心境でございます。
  15. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 ただいま法務大臣は起きないために万策の処置を講ずるとおっしゃられ、かつ起きない可能性はない、考えたくはないけれども起こり得るという趣旨のお答えをなさいました。私も、相手は確信犯人でございます、いかなる処置を講じようと、いかなる法律をつくろうと、彼らの目的のためには、その方法の難易だけであって、いずれの日にか必ずやまたその目的を達するであろうと思います。いかに人知を尽くしてみてもやはりどこかに抜け道はあるかもしれません。起きないためにいま一生懸命やっていらっしゃいます。しかし、再度起きた場合どのような態度政府はおとりになるか。また人命尊重ということで、人命第一ということで超法規的措置をおとりになるのか、今回とられた、あるいは二回おとりになりました超法規的措置をお繰り返しになるおつもりなのか、それともかような処置は二度ととらないのか、その辺を承りたいと思います。
  16. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 かような事件といいますか、これが必ずしも一定の形をとるとは私は思いません。同様のことが起こるとは思いませんが、これをあらかじめ、すべてこういうハイジャック等の場合はかくかくしかじかの方策をとる、こういうことで決めてかかることはなかなか困難だと思います。やはりそのときの、起こった事件の態様、いろいろあると思いますから、それに応じて国民の感情その他あらゆる問題を総合して判断すべきものと思いますから、一定見解を持っておる、こういうふうにいかないんじゃないかと私は思います。しかし根本は、もしそういうことが繰り返されて法治国家というものが維持できないような方向に向くということは国民全体のために断じてとるべき方策ではない。  端的に申しますと、仮に今回と同じようなケースがあって今回と同じような措置をとれといってもできない、かように思います。
  17. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 法務大臣は、今回と同じような処置はとるべきでないというお答えでございましたけれども政府最終決定というのは時の総理がなさるわけでございます。そして、従来政府並びに報道機関その他が使っている言葉ないし考え方根本は、人命地球よりも重いという一つ論理であります。他方、いや法秩序断固として守らなければならないという、この人命尊重に対する反対の意味として法秩序維持という、いずれをとるかということで従来言われてきました。そして、今回日本国政府のとった処置は、人命地球よりも重いという論理でございます。人命地球よりも重いということであるならば、人命を助けるためには犯人の言ったとおりしなければ人命は助からぬわけでございますから、一から十まで犯人の言ったとおりしなければいけない理屈でございます。今回もまさに、だからこそ犯人の言ったとおりしたわけであります。犯人要求しないことまでも、人命尊重するために政府はやりました。飛行機がおりるたびに諸外国に必死になって外交交渉を続けたわけでございます。これは人命尊重でありますから、ハイジャック機に乗っている人質人命を守るためには、犯人が何と言おうと犯人の意思とは無関係人命を守らなければいけないから、これは当然の処置であります。  けさの朝日新聞を見ますと、法務省の方で、この人質が刑務所を出ていくときに一定お金を渡したというふうに書いてあります。この超法規的処置というのは、まさに時の内閣総理大臣が命令を出したわけであり、政府かそれを承認してやったわけでありますから、法務当局者としても、これは一つの合法的な手続としてこのお金を渡すのがあたりまえだろうと私は思います。これが、犯人要求には絶対に屈しない、法秩序断固として守らなければいけないというのが政府の方針であったならば、今回法務省のとった処置なんというのはナンセンスであります、私は、事件か起きた場合の処置というのは、時の政府が、わが日本国家か、法律を守るために断固として犯人要求には屈しないというその態度をとるかどうかにかかっていると思います。そして、法秩序を守るというその目的は、まさしく人命尊重するために法秩序というのはあると私は思います。法治国家を守るために法秩序はあるわけであります。そして、法秩序維持目的そのものはまさしく人命尊重であります。人命尊重だからこそ法秩序は守らなければいけないわけでございます。ところが、政府の方も報道機関の方も、人命尊重ということと法秩序ということは別な概念であるというふうに割り切っていらっしゃるような感じがしますし、そういうようなとらえ方をずっとしてきました。だから、いまや日本じゅうそういうようなとらえ方であります。私は、今回のハイジャック事件のこの人命尊重というのは、ハイジャックされた人質目前生命と、自後起こるかもしれないその生命との比較の問題であろうと思うわけであります。目前生命か、それ以後侵害されるであろう生命かの比較だろうと思います。だから、目前生命を守るためには、自後起きるかもしれないその危険性幾ら生命の侵害が起きるかわからないけれども、それはやむを得ないという態度を、今回は、政府の場合はとったのだと思います。いずれも、これは人命尊重法秩序維持しようという考え方、こういう考え方方々もいらっしゃいます。昨日の夕刊を見ますと、総理府ハイジャック世論調査をなさった。六二%が人命第一だというふうに書いてあります。強硬論は二四%だ。これは、私がいま申し上げましたとおり、人命第一か、法秩序維持か、そういうとらえ方をしますと、目前のこの命を救うためには、政府のとった措置犯人要求に屈してもやむを得なかったという方が六二%だというふうに総理府統計ではなっております。ところが、サンケイ新聞の十月二十七日のこのアンケートによりますと、四千百三十七通の中間集計西独方式を支持するという方々が八割だというふうにこちらは書いてある。サンケイ新聞がとると八割で、総理府が出てくると二四%だ。どこでどういうぐあいにして違うのかよくわかりません。よくわかりませんけれども、私は、この国民理解そのものについても、本当に犯人要求にそのまま屈するということは、法律を守ることであります。法律を守るということは、また自後の人命が損なわれるおそれか莫大に出てくるわけでございます。それは放置しておって、目前のことだけにとらえるのか、それとも、一たんここで政府断固たる措置を決めまして、犯人要求には絶対に屈しないという態度でもって対処するという決意をなさり、それを内外に宣言し、かつ政府そのものもとった措置について責任を問われるおそれがありますから、これは衆参両院決議を得て、衆参両院の同意を得て、以後起きたハイジャック事件については政府断固として法律を守る、犯人要求には屈しないという態度をおとりになるおつもりはございませんか。それをお聞きいたします。
  18. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 いま山崎さんがおっしゃられたように、統計といいますか、調査の結果はいろいろありますが、私は、率直に言って、それは全部ではないと思います。先ほどお話しのように、私ども人命尊重しなければ——これは大原則であるというふうに思います。ただ問題は、憲法を制定し、その諸原則に基づいて各般法律、規則をつくっておるわけでございますが、これはまさに、人間の平和と安全と自由と基本的な人権を守り、そして豊かな人間の暮らしができるようにというのが私は法治制度だと考えております。これはまさに、いまもお話がありましたが、生命尊重するという大目的を持っておることだと思っております。でありますから、こういう事態に対処するときに、人命法律かというそういうとらえ方は、私は根本的に非常に単純で間違っておるというふうに思う。ドイツがやりました方式日本がやりました方式も、人命を守りながら、それが最前提であって、しかも、根本法治国家の諸制度を暴力によって崩してはならない、こういう、どちらも同じ原則で立ち向かっておると私は思います。ただ、そのときの状況日本の場合は海外に手が伸びないという状況下において、それが必ずしも同じようなケースで同じような結末はとれなかったというだけのことだと思っております。でありますから、私は、基本には人命法治制度は一致すると、こういう考え方を持っております。でありますから、根本的な人命尊重人命尊重するといいますか、豊かにするという法治制度が崩れるという事態を想定いたしますと、それを守るためには、やむを得ず一部の人命が捨てられる場合もあり得る、そうでなければ憲法法治制度というものを守れない事態が全然ないとは考えられないというのがわれわれの立場でございます。
  19. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 恐縮ですけれども、再度塩川官房長官の御見解を賜りたいと思います。
  20. 塩川正十郎

    塩川政府委員 先ほど法務大臣からお話しありましたように、人命法律かという、そういう短絡した考え方政府は対処したのではございません。総理も断腸の思いをもってこの決定をしたと言っておりますように、願わくは両方の道を通したい、こういうことでございましたが、結果から判断した場合に、人命尊重に重点を置かれた措置であったと、私は、これは当然そういうぐあいになったと思うのであります。  そこで、これからの問題といたしまして、やはり国民の合意というものが何としても政府決定するときの最大の要件であろうと思うのであります。御質問の中にございましたように、もう私もまさにそのとおりだと思いますのは、法秩序を守ることが全体の人命尊重につながるんだと、この気持ちは全く私たちも同じでございます。したがって、そういう世論がやはり日本国内一致結束をした形であらわれてくるように私たちも今後努力をいたさなければならないと思いますし、また、現在のこの二件続いてまいりましたハイジャック事件、これを顧みまするに、一般世論というものも、数年前の考え方とは相当やはり変化があるのではないかと思うたりいたしております。でありますから、万々一そういうことはなかろうとは思いますけれども、万一再発するようなことかありました場合、先ほど瀬戸山大臣がおっしゃいましたように、そのときの事態というものは今回の事態とは違うのではないか、したがってそのときにとる措置というものも今回とはあるいは違うのではないかと思うたりいたしておりまして、そういうことから、私たちは固定した観念で将来を律するということはいたしたくないと、こう思うております。
  21. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 仮にハイジャック事件が再びまた海外で起きた場合の処置でございますけれども、この場合、警察官の海外派遣ということがるる議論されております。法を改正せずして、現行法のままで、銃器等を持っていくことかできるのかどうか、あるいはそのために特殊訓練というのをしているのかどうか、この点を警察庁から承りたいと思います。
  22. 若田末人

    ○若田説明員 お答えをいたします。  ハイジャック事件の場合に国外国内の場合がございますが、いまお尋ねの件は外国の場合でございますけれども、率直に申し上げまして、外国でこの種事件が発生いたした場合に、現在の国際関係下におきましては、外国のそれぞれ独立の国でございますので、外国の主権のもとにおきまして、当該国が全責任を持って処理に当たるのが、現在の国際間におきます原則でございます。したがいまして、今回のルフトハンザ機乗っ取り事件におきます西独政府がとりました措置は異例中の異例のケースだと私どもは考えております。したがいまして、海外への警察官の派遣につきましては、当該国の承認がなければならないことは当然のことでございまして、その上に政治外交上の問題とも関連をいたしますし、あるいは国内世論等もございますので、慎重に検討されなければならないと考えております。  しかしながら、国内でこの種事件が起きました場合には、私ども人質の安全救出を第一としつつ、しかしながらそれのみでもって満足しないで、あらゆる困難を克服いたしまして、犯人の制圧、検挙を図ることを基本として対処してまいりましたし、現に国内で十一件ハイジャック事件が起こっておりますが、そのうち十件は、いずれも犯人を検挙し、なおかつ人質の安全救出をいたしておる次第でございます。  そういう意味におきまして、警察といたしましては、最後のような御質問お答えをするわけでございますが、あらゆる事態に備え得るべく部隊も用意をいたしておりますし、訓練もいたしておるところでございます。なお今後とも訓練に励み、装備等の強化を図ってまいりたいと考えておる次第でございます。
  23. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 外務省警察庁にお聞きしますけれども、今回のハイジャック犯人の連中は、現在どこにいるのですか。そしてこの引き渡しを求めるために、どの程度外交交渉をし、実現可能性があるのかないのか、その辺を承りたいと思います。
  24. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 お答えいたします。  アルジェリアから犯人が出国したかどうかという点につきましては、いろいろな未確認情報があるようでございますけれども、現在の段階で最終的な確認を得たものはございません。  それから、アルジェリア政府に対する交渉でございますが、これは事件後行っております。ただ、これは官房長官から予算委員会等で御説明がございましたように、アルジェリア政府は、当面これに対して応じていない、ただわれわれといたしましては、アルジェリアに対してのみならず、周辺諸国からも情報をひとつとるように現在努力中でございますけれども、確たる情報を得ていない現状でございます。
  25. 福井与明

    福井説明員 警察庁といたしましても、外務省の御答弁のとおり、それ以上、情報は持ち合わせておりません。
  26. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 仮に逮捕したとしても、この種の事件の裁判は非常に長くなるとお聞きしております。一体どこにその原因があるのか、どうすれば裁判の迅速化は図れるのか、刑務所の中に長くいるから、ハイジャック犯人が出てきて出せ出せと言うわけですから、この問題も重要な問題の一つでありますし、刑事訴訟法の改正を次の通常国会ではやりたいという御意向だと承っております。その辺もくるめて、裁判所、法務省から御答弁賜りたいと思います。
  27. 岡垣勲

    岡垣最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。  前回のダッカ、その前のクアラルンプールで、審理中の被告人がそれぞれ持ち去られたわけでございますが、その二件についておくれている状況を申し上げますと、まず企業爆破事件、これは五十年の六月から七月にかけて起訴になりましたが、第一回公判は五十年十月三十日から始まりまして、現在検察官立証がやっと緒についたというところでございまして、これは一体いつ終わるか、明確な見通しは立っていない状況でございます。それから連合赤軍事件。連合赤軍事件につきましては、四十七年三月から七月にかけて起訴になりまして、そして現在まだこれも検察官立証中でございまして、いつ終結するかという見通しは全く立っていないということでございます。  この連合赤軍事件につきましては、実は公訴事実が非常に数も多いし大きな事件でございますので、最初、裁判所としては、検察官、弁護人と、期日を何回くらいやろうかということで打ち合わせをしたわけでございますが、立証を担当する検察官といたしましては、最初、週二回というふうなことを主張しておられました。弁護人の方は、月一回しかできないということでございました。それで結局、裁判所が週一・五回という割合で期日指定したわけでございますが、弁護人側はこれを不服といたしまして期日に不出頭ということで、結局四十八年四月十一日に至りまして、このままではどうにもしようがないということで期日を取り消しまして、その後、ほぼ月二回というテンポで進んでおるということでございます。  それから企業爆破事件の方は、五十年十月三十日の第一回公判から始まったわけでございますが、これは最初やはり公訴事実がいろいろございまして、被告人がいろいろ関係しているものですから、関連の公訴事実ごとに二グループに分けて審理しようとしたわけでありますが、これも審理の方法でそういうことはけしからぬ、一緒に併合してやるべきであるということから、被告人、弁護人が期日に出頭しないということで、結局やむを得ず一緒に併合しまして、そして審理を始めたわけでございますが、これもかなりの期日等を要するということで、最初月二回のペースであったものを、裁判所の方で月四回というベースの期日指定をしたわけでございます。これに弁護人は不満であるということで全員辞任いたしまして、裁判所は国選弁護八の推薦を弁護士会に御依頼を申し上げる。弁護士会では一生懸命努力されましたけれども、結局百八十九日たった後、従来の弁護人がまた復帰されて、そして月二回のペースでいま進んでおる、こういう事情でございます。  こういう具体的事件の進行、状況につきましては、これ以上その当否その他については私どもから申し上げられないと思いますが、ただこういう問題、必要的弁護事件において弁護人が出頭されない、あるいは辞任される、この問題につきましてわれわれといたしましては問題意識を持っておりまして、それで裁判官の協議会もしくは会同などの場合にいろいろな御議論が出るわけでございますが、その議論を大体要約いたしますと、こういうことでございます。  つまり、一般事件の審理というものはそんなにはおくれていない。しかしこのように非常におくれる事件も間々たくさんある。こういう審理の長期化の原因というのはいろいろでありますけれども、一番根本的なものは、やはり裁判所の訴訟指揮権か実質的にはないということであろう。それで、刑事訴訟法では「裁判長は、公判期日を定めなければならない。」というふうになっておりますし、それからまた、公判期日の訴訟指揮は裁判長かこれを有するということに決まっておりますけれども、しかし実質上それかできるかと申しますと、できないわけであります。つまり、先ほどからの例にもございますとおりに、裁判所が、これは大体二年以内あるいは三年以内ぐらいに審決しなければいけないと思って予定を立てて期日を指定しようといたしましても、弁護人の方でこれを受け入れられないということでそれを受けてもらえませんと、裁判所は期日を決めたんだからということで開く、そうすると不出頭、そうするともうとまってしまうということでございます。現行法の解釈上、ある限度でこれを乗り越える場合もあると思います。現に乗り越えた場合も一回ございます。しかし、それはやはり法律に、弁護人がいない場合には開廷できないということでございますので、よほどの場合、よほどの決断を要しなければできないわけでございます。  その次に、弁護人が辞任されるというふうな場合ももちろんございます。そういう辞任された場合には、あるいは弁護人が出頭されない場合には、国選弁護人を裁判所はつけるようにということは、これは法律の命令するところでございます。ところが、国選弁護人を実際につけようと思って弁護士会に御依頼申し上げましても、あるいは裁判所が直に適当な方を探しましても、事実問題としてこれはなかなかむずかしゅうございます。たとえば、こういう事件で国選弁護人をつけようかという段階になりますと、被告人の方の側からは、そんな国選弁護人をつけたら抹殺するぞというふうなことも文書で出てきたり、書かれたりするわけでございますし、それから、仮にお引き受けになった弁護人かあったとしましても、今度は被告人との関係が非常にぎくしゃくいたしまして、まず実質的な弁護人としての活動はできない。それで、かつてのことでございますけれども、学生事件華やかなりしころに、凶器準備集合等で国選弁護人をお願いした、その国選弁護人の活動か法廷で裁判所に協力的である、けしからぬということで暴行を受けられて、結局やむなく辞任されたというような事件もございます。そういうようなわけでございまして、われわれとしましては、これは裁判所の期日指定権、訴訟進行の指揮権というものが実質上ない状態である、それか一番大きな原因であろうというふうに考えております。  したかいまして、その対策としては、やはり何らかの例外規定、この必要的弁護事件に対する条文の例外規定、たとえば、ただし、裁判所が相当と認める場合には、この限りでないという程度でも何でも結構でございますが、要するに、そういうものかその場合にはできるのだということでないと、裁判所としてはどうもしようかないというふうに考えておるわけでございます。それで、懸念する方は、そういう規定を設けると、裁判所か勝手に訴訟の迅速な進行を図る余りに粗雑な審理を性急にやるおそれはないかというふうな御懸念はあるかとは思いますけれども、しかしそれは絶対にないというふうに私どもは信じております。現に、被告人の不出頭の場合には、すでに現在の刑事訴訟法で、出頭拒否の場合あるいは退廷を命ぜられた場合には、裁判所は被告人不在のままで審理できるという規定はできておりますけれども、しかし、これができてから裁判所がこれをむやみに使ったということは一度もございません。ただ、例の東大事件のような万やむを得ない場合にこの規定を活用したということはございます。むしろ、われわれといたしましては、そういう必要的弁護の例外規定かできれば、そのことによって弁護人も被告人も考え直して、そして法廷に出てきてもらえるだろう、法廷に出てきてもらえれば、これは双方の意見を十分に聞いて、十分な審理かできる。私どもは、よく言われるのでありますけれども、本来の裁判というのは、法廷の中での審理、証拠調べを十分にやって、その証拠価値を判断して適正な判断をする、これか本来の任務でございますが、現在、おまえたちは法廷にいかにして入るかということに腐心しておるというふうなことをよく言われますけれども、私ども全くそのとおりだと思いますので、現状とそれから原因、その対策についてはただいま申し上げたとおりでございます。
  28. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 裁判遅延の実情等につきましては、ただいま最高裁の方から詳細お答えがありまして、私どもが見るところも全く同様でございます。  そこで、ただいまおっしゃいましたようなネックをいかにして解消するかということに関しまして、現在刑事訴訟法の一部改正を行うべきではないかということで検討いたしております。その内容は、ただいまの最高裁のお話から当然御推察いただけると思いますけれども、弁護人が正当な理由がなく退廷、不出頭あるいは辞任というような戦術をとりまして訴訟の遅延を図る、こういうような場合には、一定限度において、弁護人不在のままでも審理が進められるということをひとつ法制化したいということを考えております。  ただ問題は、被告人の防御権に直ちに響いてまいりますから、その辺の兼ね合いを図りながら、法の精神に反しない限度において、必要最小限度の規定をどういうふうにしたらつくれるかということで、現在鋭意検討しておるところでございます。  それからなおもう一点、そういうような措置をとったといたしまして、問題は、やはり国選弁護人をつけてやるという段階がすぐに参るわけでございます。その点につきまして、弁護士会におきましてはぜひ裁判所の裁判に協力する意味で何らかの努力をして、国選弁護人になる人を探していただく、こういう御努力をいただきたいと思っておりますし、また他面、そういった非常に苦労の多い国選弁護人を引き受けられる方にそれ相応の手当てをしてあげるというようなことも裁判所と私ども協力いたしまして考える必要もあるのではないかというようなことを現在考えておる次第でございます。
  29. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 今回のハイジャック事件で、犯人にパスポートを渡したということで大分議論になりました。いいか悪いか、それは抜きにしまして、このパスポートの問題について外務省は、現在出ているパスポートを偽造したり、犯人はいろいろな手だてでもって諸外国を出歩きするわけでありますから、これをとめるための一つ方策として、旅券を毎年つくり直したらどうかという議論があります。大変金がかかるとかなんとかいろいろ言われておりますけれども、一体その可能性があるのかないのか。ないとすれば、なぜないのか、その点を御説明いただきたいと思います。
  30. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 お答えいたします。  新しい旅券の発給の問題でございますが、現在、有効な旅券として出回っておりますものは五百七十万冊と言われておるわけでございます。今回の防止対策をいろいろ御検討いただいておるわけでございますが、外務省といたしましては、この機会に新しい旅券を発給いたすことしかるべしということで、これは大蔵省の印刷局が印刷に当たるわけでございますが、せっかく新しいものを出します以上は、きわめて精巧なるものを作成いたしたいということで、若干時日をかけますけれども、新規旅券の発給の方向でただいま鋭意検討中でございます。
  31. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 法案内容に入ります。  まず第一条「航空機の強取等の処罰に関する法律の一部改正」についてお聞きします。  第一条第二項を新設した理由は何なのか。航空機に限らず、船舶、汽車、バス、これは対象にする考えはなかったのか、承りたいと思います。また「無期又は十年以上」の法定刑に当たる罪は、現行法ではどのようなものがあるのか。どうして死刑は入れなかったのか。「第三者」の範囲はどの程度か。「義務のない行為をすること又は権利を行わないこと」というふうになっておりますが、具体的にどのような場合を考えてこれはつくったのか。本条の既遂時期。以上の点について承りたいと思います。
  32. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 順次お答え申し上げます。  第一条第二項を新設いたしました理由でございます。これは先ほど来、塩川副長官等もおっしゃっておりましたように、最近のハイジャック行為は非常に悪質化いたしておりまして、現にダッカのハイジャックあるいはルフトハンザのハイジャック等に見られる状態でございます。これに対しましては、先ほどお話のありましたように、万般の施策を講じてその防止措置をとらなければならぬわけでございますが、その一環として、刑罰面におきましても従来よりこの種のハイジャックについては重く処罰することが必要であろうというふうに考えまして、現行法制をながめますと、単純なるハイジャック行為に対する罰則はございますけれども、ハイジャッカーが人質をとって不法な要求をするということについて特に規定がございませんので、これを規定化いたしまして刑を加重する必要があろう、こういうふうに考えて法案を御提出申し上げたわけでございます。  御指摘のように、今後考えられるハイジャック類似行為といたしましては、飛行機のみならず、在外公館でございますとか船舶であるとかいろいろなものが考えられるわけでございますが、私どもといたしましては、当面のダッカ・ハイジャック事件に対応するためということで今回は航空機に限って法案を提出させていただいたわけでございますが、御指摘のように、妙な言い方でございますが、いわゆるその他ジャックの危険性というものも十分考えなければなりませんので、早速現在それらの法制の整備について検討を始めておりますので、できましたら明通常国会にでも御提出できるようなテンポで検討を進めたいと思っておるところでございます。  それから無期または十年以上という法定刑に当たります罪は、お手元にお配りしてございます航空機の強取等の処罰に関する法律の一部改正関係参考資料の一ページにございまして、現在わが国の法制で刑の上限を無期としております罪が十ございます。そのうちの最も重いものが無期または十年以上でございまして、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律にございます常習特殊強盗致傷、常習特殊強盗強姦、これについて無期または十年以上という法定刑が定められております。  次に、今回の法定刑として死刑を規定しなかった理由でございますが、およそ新しい犯罪類型を設けます場合にどの程度の刑を規定すべきかということは、本来その罪に対する道義的責任の度合いに応じておのずと一定の刑量の範囲が想定されるべきものでありますが、その際一応想定される範囲を基礎としまして、他の同種犯罪の均衡でございますとか、刑罰の抑止力、威嚇力、その時点における国民感情など諸般の状況を考慮して、立法政策として許される限度においてこの範囲を決定していくというのが基本的な立法の態度であろうと思うわけでございます。このような観点から死刑問題について考えますと、今日のわが国の法律上は、内乱でありますとか外患誘致など特殊の犯罪類型を除きまして、およそ死の結果発生を構成要件上予定していない罪について新たに死刑を設けるということにつきましては、責任主義に立脚するとともに人命を最大限に尊重しようとする近代刑法の立場から十分慎重を要することであろうと思うわけでございます。しかしながら、航空機強取等の犯人の実際の行動に徴しますと、それらの行為が本来死の発生と無縁とは言えない場合も想定されるわけでございまして、そういう意味では死刑ということを検討する余地もあろうと思っております。  種々申し上げましたが、要するに、ハイジャックの中にはきわめて単純な形態のものから今回の事件のような非常に重大なものまでいろいろございますので、その単純なものまで死刑の適用を受ける可能性があるというようなことが必ずしも相当ではないというふうに考えられる余地もありますので、これも早急に私どもとしては検討をいたしておりまして、今回御提案申し上げておりますこの法律案で足らざる点ありとすれば、次期通常国会にもひとつ新しい検討の結果を御提案申し上げてみたいと思っておる次第でございます。  それから第三者に義務のない行為をさせたり、権利を行わせない、こういう「第三者」でございますが、これは従来の法律概念からいたしまして、自然人はもちろん、法人あるいは法人格のない団体、さらには政府、国というものも全部第三者に含まれる、こういうのが解釈上問題のないところであろうと思っております。  それから、義務のない行為をすることの例でございますが、いろいろなことが考えられますが、たとえば、今回のように政府に対して身のしろ金を払え、それから被拘禁者を釈放しろ、こういうようなことが当然義務のない行為をすることを要求するカテゴリーに入ります。それから権利を行わせない、こういうカテゴリーに属するものを想定いたしますと、たとえば死刑の判決が確定しておる者に対して死刑の執行をしないようにというようなことでございますとか、あるいは刑事事件で逮捕状が出ておる者を逮捕しないで見送れとか、そういうようなものが考えられると思いますが、いずれにいたしましても、義務のない行為をすることとそれから権利を行わせないことと、この両者をあわせて、およそ不法な要求はすべてこれに含まれる、こういう趣旨で規定させていただいております。  それから、このハイジャックによる人質強要罪の既遂の時期でございますが、これは犯人ら以外の者に対して要求がなされました時点で既遂に達すると考えております。たとえばダッカ事件の例をとりますと、管制塔におりますマームド参謀長に犯人要求内容が到達した時点で既遂に達する、こういうふうに考えております。
  33. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 第二条、航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律の一部改正についてお聞きします。  第一条で二年を三年にした理由は何なのか。二つ目は、第四条の構成要件のうち「業務中」とありますが、「業務中」というのはいかなる場合を指すのか。また「その他航空の危険を生じさせるおそれのある物件」、これはどの範囲を言うのか。爆発物等の輸送禁止については航空法で禁止されておりますし、罰則もございますが、本条との関係はどうなっているのか、第五条で本条の未遂罪も罰することとしておりますが、実行の着手はいかなる段階を指すのか、御答弁賜りたい。
  34. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 御質問がおおむね罰則関係になっておりますので、私からお答え申し上げます。  まず、第一条で、現在の法定刑二年を三年にいたします理由でございますが、現在の二年以上の有期懲役という法定刑は、刑法百二十五条の汽車、電車、艦船に対する往来危険罪の法定刑との均衡を考慮して定められておるものでございますが、本来航空機はこれらのものよりはるかに危険性を持っておるものでございますし、また、最近のハイジャック事件の事例を見ますと、犯人が、乗っ取りました航空機の操縦士を強要いたしまして、着陸許可のない滑走路へいきなり突っ込んでくる、あるいは離陸許可のないまま強行離陸をするというような事例がございまして、こういった行為は、事案によりましてはこの第一条に書いてございます「その他の方法航空の危険を生じさせた者」ということに当たる場合が出てまいると思うのでございます。それらのことを勘案いたしますと、現在二年以上の有期懲役となっておりますのは三年以上というふうに改めた方がより合目的性があると考えたわけでございます。なお、今回新たに設けます爆発物の機内持ち込み罪が三年以上というふうになっておりますので、その均衡をも考慮して所要の調整をしたという趣旨もあるわけでございます。  次に、今度設けます爆発物等持ち込み罪の構成要件の中に、業務中の航空機に持ち込む、こういうことで「業務中」という言葉が出てまいります。この「業務中」という言葉につきましては、この法律の第三条に定義がございまして、いわゆるモントリオール条約第二条(b)に規定する概念をそのまま援用しておるわけでございます。申し上げますと、ある特定の飛行のため地上業務員または乗組員により飛行前の準備が開始されたときから、着陸の後二十四時間を経過するときまで、この期間が原則でございまして、これに加えて不時着以外の着陸の場合において、着陸後二十四時間を経過しても乗降口のうちいずれか一つが降機のため開かれることがないときは、それが開くまで、また、不時着の場合において、着陸後二十四時間を経過しても、権限のある当局航空機並びにその機内の人及び財産に関する責任を引き継ぐときまで、これらを加えたものが「業務中」の概念であるとされておるわけでございます。  それから「その他航空の危険を生じさせるおそれのある物件」と申しますのはいろいろ考えられると思います。たとえば、非常にこぼれやすい形で包装されたガソリンでございますとか、そういったものが考えられると思いますが、要するにその持ち込まれるもの自体の属性として「航空の危険を生じさせるおそれのある物件」ということでございまして、いわゆる用法上の凶器、たとえばこん棒でございますとか石ころでございますとか、使いようによっては危険なものになるというものは含まないというふうに考えております。  それから、危険物の輸送禁止につきましては、御指摘のように航空法の八十六条で禁止規定がございまして、一応の罪則があるわけでございますが、御承知のように、航空法の方は航空機内の秩序の維持という観点を含めて行政規制ということで規定されておりますのに対しまして、今回御提案申し上げております持ち込み罪は、航空機全体の危険の防止を図るという観点の規定でございますので、目的、態様が異なるということが言えようと思います。したがいまして、事案によりましては、航空法八十六条違反とそれからただいま御提案いたしております罰則違反とが二つながら成立する場合が考えられるわけでございます。その場合には法律的には観念的競合の関係に立つ、こういうふうに考えます。  それから、今回御提案申し上げております持ち込み罪につきましては、御指摘のように未遂罪を処罰することに相なります。この持ち込みという行為は、典型的な場合を考えますと、手に携えて飛行機に乗り込むという場合のほかに、カウンターに託送いたしまして航空会社の人の手を介して機内に持ち込む、この二つの場合が考えられるわけでございますが、ただいまの事例に即して申し上げますと、航空会社のカウンターへ託送のために荷物を差し出した時点、ここで実行の着手があって、それが飛行機の胴体の中に入った時点で既遂になると考えますし、また、手に持ってまいります場合には、たとえばチェックの場所の金属探知器をくぐろうとする時点、こういった時点で実行の着手があるということに考えております。
  35. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 最後の質問をします。第三条、旅券法の一部改正についてお聞きします。  まず第一に、第十三条第一項第二号について、昭和四十五年に「十年」を「五年」に短縮しておるのに、さらに「二年」に短縮した理由は何か。二年にした場合対象になる罪種はどのくらいあるのか。また、チェックの手続は実際どのような方法で行われているのか。  二つ目に、第十九条を新設した理由は何か。それによってどのような点にメリットがあるのか。  第三番目に、第二十三条第一項の改正で「三年以下の懲役又は十万円以下」に、第二項で「十万円」に改正した理由は何か、お尋ねいたします。
  36. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 お答えを申し上げます。  第一点の御質問でございますが、昭和四十五年に「長期十年以上」ということを「五年以上」に改めた理由の御質問でございますが、四十五年の法改正によりまして、実は五年有効の数次往復の旅券制度が新たに導入されまして、刑事事件関係者国外逃亡が従来より容易になるのではないかという危惧がございました。また、当時渡航用の外貨割り当ての枠が緩和いたされましたために、渡航者層の拡大、渡航人口の増大等を見るに至ったこともございます。これらの事情から、国の刑事司法作用の適確な運用を確保するためには従来の制限の範囲を拡大することしかるべしということでこの改正が行われたわけでございます。  第二点の御質問でございますが、今回御提案申し上げておりますように「長期五年以上」をさらに「長期二年以上」に改める理由と申しますのは、ハイジャック等重大犯罪につながるような事態を事前に防止いたしますために、これまで日本赤軍メンバー等過激派またはその同調者によって犯されることの多い犯罪である公務執行妨害、これは長期三年でございます、それから暴力行為等の処罰に関する法律違反、これは長期三年でございます、凶器準備集合罪、長期二年でございます、等を旅券発給拒否の事由に含ましめるというところにねらいがあるわけでございます。  第三の御質問でございますが、「長期二年以上」に今回御提案申し上げておりますように改正いたします場合には、対象となる罪は約九百二十種でございまして、従来の「長期五年以上」の場合に比しまして約六百三十種の増加になるわけでございます。  次の御質問で実際の手続の御質問がございましたけれども旅券申請者が先生御指摘の十三条第一項二号該当者である場合には、当該申請者に、旅券申請に先立ちまして、身分条項、渡航先等のほか、事件内容を記載した渡航事情説明書また裁判所の旅行許可証を都道府県の窓口に提出せしめることといたしておるわけでございます。これらの書類は実はすべて外務本省に送付されてくるわけでございまして、外務省といたしましては、当該説明書に基づきまして、要すれば関係各省の御意見も聴取いたしつつ、慎重に旅券発給の可否につき事前審査を行っておる状況でございます。  それから、十九条の次に一条を新設した理由でございますが、これは現在の旅券法の第十九条におきましては、外務大臣または領事官は、旅券の発給を受けた者が交付を受けに後に旅券発給制限事由に該当するに至りました場合等には旅券の返納を命ずることができることになっておるわけでございますが、この返納命令は書面で本人に通知されることが必要とされております。しかしながら、航空機強取等の過激活動を行う者につきましては、その所在を知ることは当然のことながら困難でございますので、旅券の返納命令制度も有効に作用しない場合が多いと言わざるを得ないわけでございます。今回の十九条の二の新設は、かかる場合におきまして外務大臣が官報に公告を行いまして、あるいはまた外務大臣が必要と認める地域の領事館においても官報に公告した趣旨を掲示することによって返納命令の通知が到達したとみなし得ることを可能とするものでございます。このようにいたしますと、旅券が返納されなくとも返納期限の到来とともに旅券を失効せしめることができるわけでございまして、関係諸国にもこのことを通知いたしまして、過激派活動関係者日本旅券による外国での滞在ないしは国際的な移動に一つの歯どめをかけ得るのではないかと考えておりますし、また、状況によっては外国官憲の協力を得まして本人の帰国を可能ならしめる余地もある、かように考えておるわけでございます。  先生の最後の御質問法務省から答弁をお願いいたしたいと思います。
  37. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 旅券法二十三条の罪の法定刑を「一年以下」とありますのを「三年以下」にし、「三万円以下」というのを「十万円以下」と改める理由でございますが、最近海外において、御承知のように日本人によるハイジャックを初めとするテロ行為がしばしば見られるわけでございますが、その背景にありましては、このような犯罪を行う動機や目的で出国いたします際に、旅券発給制限事由を潜脱するため、あるいは行動を秘匿するために、他人名義の冒用によって旅券を取得したり、あるいはただいま外務省から御説明のありました、訴追されておる事情を秘して旅券申請をして旅券を取得するというような場合がふえておるわけでございます。さらに、それらの旅券を不正に使用するという場合も当然ふえておるというふうに認められるわけでございまして、このような動機、目的によります旅券の不正使用、不正取得等につきましては、従来程度の刑をもって臨んだのでは適当ではないというふうに考えられますので、この法定刑を引き上げることといたして、その実質に応じた量刑が図れるようにいたしたいと思っておるわけでございます。  さらに、このような改正の一環といたしまして、今後外務省、警察等を中心といたしまして、国際的にいろいろこういった犯人らの立ち回り国に対して手配等が行われてまいります。そういう場合もございましょうし、また日本からの入出国に際しまして発覚するという場合も想定されるわけでございますが、三年以下の懲役ということにいたしますことによりまして、刑事訴訟法による緊急逮捕の要件が具備いたしますので、この捕捉も従来よりはやりやすくなるのではないかと思っておるわけでございます。  なお、罰金刑の上限を三万円から十万円に引き上げますのは、経済事情等を考慮して、感銘力のある罰金の程度はいかほどかということを考慮いたしました結果、一応十万円まで引き上げるということにさせていただいておるわけでございます。
  38. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 終わります。
  39. 上村千一郎

    上村委員長 次に、横山利秋君。
  40. 横山利秋

    ○横山委員 塩川さんお帰りになったようでありますが、官房からもおいでになっていますし、大臣にもお伺いしたいのです。  ハイジャック等非人道的暴力防止対策本部、この対策本部が十月十三日に第一次ハイジャック防止対策というものを決定をしておる模様であります。この対策本部の任務は、一体ハイジャックにあるのか、等非人道的暴力防止にあるのか、どちらでございますか。
  41. 清水汪

    ○清水政府委員 対策本部は十月四日に設置をされたものでございますが、御指摘の点につきましては、対策本部の全体の日的といたしましては、単にハイジャックだけでなく、さらにその種の非人道的暴力に対する防止対策を検討していこう、こういう姿勢でございます。しかしながら、当面特に急ぎますのは、今回の事件の経験も踏まえまして、ハイジャック対策を至急に検討し、実施に移していこうという体制で現在取り組んでいるところでございます。
  42. 横山利秋

    ○横山委員 承れば十一月初旬に第二回ですか、おやりになるそうでございますが、これはいつまて設置をされて、いかなる目的——いまお話があったのですけれども、いかなる問題についての対策を立てられるのですか。
  43. 清水汪

    ○清水政府委員 十一月上旬、近くまた対策本部を開くことになろうかと思いますが、この対策本部の現在の基本的な心構えといたしましては、これは私の責任で正式にお答えするのはやや荷が重いかと思いますが、本部長であります官房長官も述べておられるわけでございますが、単に一時的に対策を決めて解散するというようなものにはいたしませんで、むしろその決めた対策の実施状況を随時フォローし、さらにまた必要な対策を検討し、防止に万全を期するということで、いわば常設的にこれを運営していこうという考え方をもって現在臨んでいるところでございます。  それからまた、どの範囲までという御質問でございますが、これは本部自体におきまして、やはり諸般の情勢を検討いたしまして、対策の範囲そのものも検討の中で決めていくことになろうかと思います。
  44. 横山利秋

    ○横山委員 私もそうありたいと考えております。もうこの種の問題が何回国会で議論されたか。そのたびに何らかの機構が設置されて、のど元過ぎれば熱さ忘れる、また今度あったからまた対策本部をつくる、こういうことであってはならないのであります。  それから第二番目に、いまもいろいろお話があったのですが、私は常にこんな感じがするわけです。ハイジャックが起きた、さてそれを追及する、それを防止する対策は何か、そのやった実績、経過を中心にして今後それができないようにする、こういう後追い的な方式、感覚が強いように思われてなりません。いまも刑事局長の説明を聞いておりましてそうだなと思いますことは、きわめて単純なハイジャックもあるけれども、今回のような緻密に計算されて周到な準備が行われて、最後まで目的を貫徹するためにあらゆる努力をしておる。このやり方、この高度な準備、そして決断——向こうを向いているのじゃありませんよ。その事情を向こう側の立場に立って考えますと、今回やったようなことを、また同じやり方をするばかはないと思うのであります。少なくともあのやり方を考えてみますと、手を変え品を変え、別な方法をもってやるだろう。ところがいま政府対策は、やったことを調べて、その経験を生かして、やったことが二度と行われないようにするというような感覚が非常に強いと私は思う。要求にしてもそうであります。この前十六億円要求したから今度はふえるだろうというような感覚があるのではないか。要求も多様化してくると思うのであります。やり方も別な手段を選ぶと思うのであります。たとえば、ハイジャックでなくてこの間のバスジャック、あれはもう同型、同類とは言えませんけれども、ドイツの財界の人をさらったように、政府高官を人質にする、そして緻密に計算されたやり方で、犯人の所在不明のままに目的を達する、最後までわからないようなやり方をする、そういうやり方があるでしょうし、あるいはまた政府高官でなくて、全然関係のない一般の無事の人を人質にする、そういうやり方も私は容易に想像される。そういうきわめて多様性のある出方を先取りして対策を立てなければいかぬと思うのですが、その点、法務大臣はどうお考えになりますか。
  45. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 その前に、先ほど内閣官房から御説明申し上げましたが、昭和四十八年のクアラルンプールハイジャックの後で対策本部を設け、そして各機関の行うべき防止策を決定しております。また、それを実行に移しております。ところが、さらに今度起きておる、こういう苦い経験があります。大きく反省すべきところがありますので、さっきお話がありましたが、これは恒常的な機関として、現に決めたことが着実に行われておるかをチェックする体制で進めよう、こういうふうにしておることをつけ加えておきます。  それから、いまお話しのように、彼らの行動というのは周到をきわめておるように見られます。いかなる手段に出てくるか、これはなかなか想像がつかない場合もあるわけでございますから、問題は、こういう犯人、こういう過激派をとにかく可能な限りあらゆる努力をして捕捉する、これが一番最良策であるわけでございますから、そういう面も含めて、詳細には申し上げませんが、警察当局としてはそういう考え方で臨んでおる、これが第一であろうと思います。いまおっしゃるように、起こったらこれ、起こったらこれではなかなか後追いになる。さればといって、いかなる方法、いかなる手段で来るかということを全部想定することも実際上困難でありますから、いまおっしゃったようなことを頭に置いて、政府のあらゆる機関を総動員して対処しよう、こういうことでございます。
  46. 横山利秋

    ○横山委員 もう一つ考えられることは、この種の事案が突発的にできる、今回は閣僚が集まって、福田総理大臣が決断をした、そして、直ちに防止対策本部を置いて関係各省が集まってくる、そして、そこでそれぞれの縦割り行政の枠内において任務を全うする、こういうやり方なんであります。ところが、国内でもこの種事件ハイジャックは十一件起こったというのでありますけれども国内で起こってもさはさりながら、外国の国際犯罪となりますと、今回も、この間少し皮肉を言いましたけれども、縦割りだけでは非常にそごが生ずる。したがって、防止対策本部が恒常的に設置されるというのは、これは私は意味があると思うのでありますけれども、それが単に縦割りの連絡調整をするということだけでは、機敏に、大胆に、そして周密にやることが不可能だと思います。システム化しなければいかぬ。この種の問題については、対策本部が一つの権限を持ってシステム化されたやり方で総合的にやらなければいかぬ。各省に対して指示をしなければいかぬ。各省から案を持ち寄ってきて順番に行列よく並べたという感じがする。われわれの目の前にあるのは刑罰だけの法案なんです。もちろん、旅券法もありますよ。ありますけれども、われわれの審議の対象になっているのは罰則だけです。それはどういう意味だかわかりませんが、この第一次防止対策の中には、この法案のことが書いてないのですね。これは行政措置だという意味で第一次になさったのかもしれませんけれども、一体化してないようなんです。作文をどうこうするつもりはありませんけれども、そういう感じがするわけであります。ですから、私は、恒常的に置かれるなら、防止対策本部が各省を調整するばかりでなくて、指示し、機能し、突発的事故が起こった場合には全責任を持つ、そこまでいかなければいかぬと思いますが、どうですか。
  47. 清水汪

    ○清水政府委員 御指摘の御趣旨はまことに同感でございます。私どもの方からの御説明があるいは不十分だった点があろうかと思いますが、ただいまたまたま例に挙げられました第一次対策とこの法律案関係で申しますと、表示が不十分でございましたけれども、取り急ぎ法律措置でなくてできるものとしてまずまとめたのが第一次対策でございます。それから、それに引き続きまして、ぜひこの臨時国会でお願いしたいということで今回御提案申し上げている法律関係に作業が移ったわけでございますが、もちろん、それらを合わせまして一体として本部で行っておるわけでございますし、先ほどもちょっと触れましたように、さらにその後も、現在その他の措置につきましても検討中でございますし、それらも近くまとめる予定にいたしております。  ただいま先生御指摘の、全体的に整合性、総合的に進めるべきであるという御趣旨につきましては、よくわきまえまして対処いたしたいと思います。
  48. 横山利秋

    ○横山委員 私は、いまこの種の基本姿勢、基本システムについてまず意向をただしておるわけですが、その問題の最後は、この間も私質問しましたし、きょうも山崎委員質問したのですが、人命法律かという問題でございます。この問題の提起については、総理大臣が人命尊重で決断をしたのに、法務大臣はこの国会を通じて、これからはそうばかりも言わぬぞというニュアンスを出しておみえになります。その是非論の前に、ひとつ世論として、私は西独方式を是とするわけではありませんが、少なくとも粘りが少し政府の腰に足らなかったんではないかというのが国民のコンセンサスの中に潜在的に強いと思うのであります。粘りが足らない。人命尊重であろうが法律尊重であろうが、少なくとも西独政府がとったような腰の粘りの強さ、その問題と比較してみて、日本政府の問題処理に対する焦燥感、そして決断が前へ出て相手にそれを知らしめた結果、そういうものを考えますと、なるほど時を争う、時間を争う問題ではあるが、粘りの強さが足らなかったのではないか。いま人命法律かという問題について国民事態に対する認識を期待をしたいと、どうもそのニュアンスを考えますと、国民が、とにかく人命尊重もさることながら、いざというときには仕方がない、やってしまえという世論が出てこないだろうかと期待をされるような雰囲気が見えました。こういう期待を持つのでなくして、国民に対する説得力というものは、本当にやむを得ないという気持ち、その突発事故から短かい時間であろうが、二、三日であろうが、ここまでがんばっておるという気持ちが、国民に対する最後の決断に対する説得力になる、私はそう思うのでありますが、法務大臣、どうお考えになりますか。
  49. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 国民の皆さんの中に、もう少し粘ってやるべきであった、こういう御意見があることもあえて否定はいたしません。ただ、御承知のようなああいう事態の中で百数十人の人命が非常に危険な状態にさらされた。しかも、国外におり、ああいう暑いところにおる。犯人の脅迫は御承知のようにどんどん続いておる。粘りに粘ったことだと思います。後の批判が出てきておることは私承知いたしておりますが、どこまで粘れるかというところがあのときのぎりぎりのことであろうと思います。しかも、ダッカにおいて、政府からも行っておるわけですから、もっとあそこで粘れるんじゃないかという期待をしておったさなかに御承知のようなバングラデシュで事件が起こった、そしてバングラデシュ政府は向こうの自主権によって速やかに航空機の退去をさせた、そして転々としてアフリカまで行った、こういう事情があるものですから、後で批判されると私もおっしゃるような気がいたしますが、ああいう事態のときにはそれこそ万やむを得なかった、まあ断腸の思いというふうに総理も言っておりますが、まあやむを得なかったのじゃないかと私も思っております。
  50. 横山利秋

    ○横山委員 以上、基本姿勢について注文を幾つか申し上げました。  もう一遍整理しますと、第一は対策本部の機能恒常化、第二番目には、システム化をしなければいかぬ、そして権限を集中をしなければいかぬ。第三番目に一対策はどうも後追い的な対策であるような気がしてならぬ、あり得べき多様性のある事態を予見して対策は立てられるべきである。それから、いま言いましたように、人命尊重法律かの前に少し粘りが足りない。手の内をさらけ出してしまって、そして向こうの選択に任せるという結果になったのではなかったか、そういう感じが私にはいたしましたので、注文をいたしました。最後の注文は、少し矛盾するようでありますが、われわれは罰則を強化し、そしてこの第一次防止対策のような数々の行政措置政府のあるいは民間のとるべき措置に対して協力をしようと思っております。しかしながら、あつものにこりてなますを吹くというたとえがございますが、この運用に当たって無事な人たち、全く関係のない人たち、それらの人々に対して人権を極端にじゅうりんをする、そういうことのないようにこれは配慮を十分にしてもらいたい。それをまず基本姿勢の問題で注文をしておきます。  その次に、私の注文の中における事件処理のやり方と予防措置、それから事後措置に分けてみまして、われわれはいま今後の予防措置という問題を議論をしているわけであります。多様性のある問題についての予防措置につきまして、どうあればいいかという数々の問題をわれわれは議論しなければなりません。ある意味では罰則は意味がないと私は思うのであります。あの連中にしてみれば、一年が三年になろうが、十年が無期になろうが、無期が死刑になろうが、覚悟をしてやっておるわけであります。だから、私はそれも一定法律効果がないとは言いませんけれども、重罪を科したからあの連中がもうやめたというような人間ではないと思っておるわけであります。ですから、これもまずいいだろうと思うけれども、それで能事終われりとお互いに思うわけではありませんが、より重点は、重罪を科することよりもいかにして綿密な対応策、予防措置をするかということでなければならぬと思う。  その意味で二、三お伺いをしたいのでありますが、まず第一に警察関係から伺いますと、ここにICPOの問題が出ています。その協力を十分に行うという意味があったわけでありますが、外国での日本人を強制送還をしてもらいたい、あるいはまた日本へ外国から犯罪を犯してやってきた外国人、それを向こうが送り返してもらいたい、ともに逃亡犯罪人の引き渡しを、いま日米だけでありますから、ほかの国に対する強制力がありませんね。いまの国民感情から言うならば、アルジェリアにおろうがどこにおろうが、なぜ一体政府は頼んでああいう重罪を犯した人間日本に引き渡してもらわぬのだろうか、そういうきわめて常識的な気持ちでいっぱいなのであります。だから、その逃亡犯罪人引き渡し条約の内容にも問題がございますけれども、とにもかくにも引き渡し条約を各国と締結をして、そして返してもらうということが基本ではありますけれども、それでもなおかつICPOの機能を、相互主義を徹底する必要があるのではないか。単に「国際手配を積極的に活用する。」と書いてありますが、この国際手配の積極的活用という意味は具体的には何を意味しておるんだろうか。フランスにおる、あるいはイギリスにおる、アメリカにおるその犯人をわれわれに引き渡してもらいたい、あるいはまた向こうへ行って調査をさせてもらいたい。その調査については、先ほど刑事局長から話があったように、向こうの国内法があってわれわれの警察権が向こうに及ばない、それは全くわかる。しかしながら、その範囲内においての派遣、これは武器を持っての派遣ではありませんよ、事前の予防措置の問題あるいは事後措置の問題でございますけれども、そういう国際手配を徹底をするとするならば、相互主義を、日本における外国人犯罪者、日本へ来ている外国人犯罪者等も含めて、現実的にいま可能なやり方は何があるか、それを聞きたいと思うのであります。
  51. 新田勇

    ○新田説明員 お答えいたします。  インターポールの役割りは、外交ルートを補完するというようなことで発足いたしておるわけでございますが、逃亡犯罪人の引き渡しというきわめて重要なマターにつきましては、引き渡し手続そのものはやはり外交ルートで行われるべきであるし、またやっておるわけでございますが、その前段階として、インターポールといたしましてはそれらの者がどこにおるかという情報をキャッチする、ここに全力を置いてこの手配の強化といいますか、この促進をやってまいりたい、こういうことでございます。
  52. 横山利秋

    ○横山委員 それはこれの二の「国際協力の推進」の3に書いてある。私の言っているのは、一の「日本赤軍対策」の2の「ICPO国際手配を積極的に活用する。」その関連のもとに聞いておる。仮に情報収集強化するといっても、外務省を通じ、大使館を通じ、向こうの警察に情報をくれというような迂遠なやり方がそう簡単に私は効果があると思わないのであります。いまこれだけ全世界を聳動させたような問題であるならば、もうとっくに——あなたは国際刑事課長さんでしたら国会におらずにアルジェリアかどこかに行っておったらどうなんだね。それは一例ではありますけれども、仮に情報収集強化するとしたならば、もっと機動的な活動をしなければこれは絵にかいたぼたもちに終わるのではないか。  もう一遍聞きますが、「国際手配を積極的に活用する。」という意味の具体的な内容は、単に情報収集強化するということだけなんですか。
  53. 福井与明

    福井説明員 実例を挙げて御説明した方がおわかりかと思いますが、実は日本赤軍関係者で、これまでに関係国の積極的な措置によりましてわが国に送り返されておるのが九人ございますが、そのうちの七人は五十年八月四日のクアラルンプール事件以降のものでございます。それまでも働きかけをやっておったわけでございますけれどもクアラルンプール事件によって関係国の日本赤軍に対する関心が一層高まったということがこの背後にあるわけでございます。  それからもう一つクアラルンプール事件以降にありましたこととして、事件は八月でございますが、十月にアルゼンチンのブエノスアイレスでICPOの総会がございましたけれども警察庁から刑事局長以下が出席をいたしまして、国際テロ事犯についての国際的な捜査協力を訴えております。そうして、このテーマについての特別のシンポジウムの開催を提唱しております。それが入れられまして、五十一年の二月にパリのICPOの事務総局で、組織されたグループにより行われる暴力犯罪に関する国際シンポジウムというのが行われましたけれども、これに警察から次長以下の代表が出席をしております。こういう関係国に対するこの種テロ事犯についての共通の理解、認識を得るための働きかけ等が功を奏しまして、かなり国際協力の面では実績が上がってきておるわけでございますけれども、しかしながら、今回の事件が起こったということで反省をしつつ、さらにICPOルート等を通じての国際協力について努力してまいりたい。しかしその前提には、先ほども触れましたが、この種テロ事犯についてのわが国と関係各国との間に共通の理解、認識があることが何としても大前提でございます。同じような捜査依頼をしましても、一方の国は全面的な理解を示して、自後外交ルート等を通じて関係の証拠物なり捜査書類を送ってきている、一方の国は、同じような捜査協力依頼の内容でございますが、ナシのつぶてという実態が何年来ございます。そういった点を外務当局等と協力をしながら少しでも改善をしていく、そういう前提に立ってICPOルート等を通じての国際手配制度等の積極的な活用を図ってまいりたい、このように考えております。
  54. 横山利秋

    ○横山委員 ナシのつぶてと言いますけれども、ナシをほうっただけで知らぬ顔をしてつぶてを待っているような気がしてならないのであります。私が期待をいたしたいのは、たとえばいまのお話のように、向こうから送還をしてくれた、それは向こうで犯罪を犯しているわけではないんでしょうね。旅券法なり何なりの名目に藉口して、そしておまえは国外退去を命ずる、こういうことではなかろうかと思うのです。日本における犯罪のゆえをもって向こうが無条件に強制送還をしたのではなかろう、日本におけるその問題を頭に入れて向こうの国の何かの法違反に藉口しての強制送還なのですか、どちらですか。  それから、もうそうだとしたら、私の手元の、いま犯罪白書の中の外国人犯罪という項を見ておるのですが、日本におきましても外国人犯罪が非常に多いんでありますが、また外国で犯罪を犯して日本へ来ている人間も非常に多かろうと思うのです。そういう点についての相互主義というものはどういうふうに展開をされます。
  55. 福井与明

    福井説明員 日本赤軍関係者でわが国に送還をされた例について申し上げますと、その国々の法制で行政措置によっているものが多いようでございますが、身柄を拘束をしてわが国に送り返してきておる、こういう実態でございます。
  56. 横山利秋

    ○横山委員 いや、身柄を拘束した理由は何か、どういう理由で向こうは強制送還をしたか、それは調べましたか。
  57. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 私ども承知しております限りでは、いろいろなカテゴリーがございます。御指摘の向こうの法律に触れたということで強制送還をされた者もおりますし、またわが国の旅券法によって旅券を失効せしめられたことにより不法残留になり、強制退去させられた者もある、こういう実情でございます。  なお、国際間の犯罪人引き渡し関係について補足いたしますが、私どもが現在引き渡し条約を結んでいる国は遺憾ながらまだアメリカ一カ国でございます。これも明治十九年に結んだ条約でございまして、現在鋭意改定交渉をやっておりまして、そのめどもおおむねつきかけておるところでございますが、ヨーロッパ各国ともなるべく引き渡し条約を締結する方向で検討してまいりたいと思っております。それまでの間は、先ほども御指摘のありましたように相互主義の保障をしながらケース・バイ・ケースで国際令状による引き渡し、引き取りをやってまいりたい、こういうふうに思っておりますが、それでは不十分でございますので、条約の締結の問題も十分頭に置いて努力をしていきたい、こう思っておるわけでございます。
  58. 横山利秋

    ○横山委員 航空機強取等防止関係条約及び法律の概要をずっと調べてみますと、結局は私ども日本人が体験をし、あれかしと思うことが実際は条約の中に盛られておりません。私ども日本人が考えますことは、各国に対しては、勝手かもしらぬけれども、飛行機は返してもらいたい、身のしろ金は返してもらいたい、逃亡犯罪人は引き渡してもらいたい、それによっておたくの国に迷惑をかけたことについては十分な補償をする、簡単に言うとそういうことなんです。それが何人も願うところなんであります。ところが、これらの条約はそれを担保していないのであります。この種の条約に未加盟国がたくさんある、逃亡犯罪人の引き渡し条約は日米だけであるということになりますと、いつまでたってもこの種の問題については国民の納得をするような条件下で解決はしないと思うのであります。  そこで、外務省おいでになっておりますけれども、国連におきましての日本政府としての行動、これからの努力目標はどういう方向で行われますか。
  59. 小林俊二

    ○小林説明員 お答え申し上げます。  ただいまたまたま開催中でございました国連第三十二回総会におきまして、事務総長の示唆もございまして、わが国といたしましてはその機会をとらえて、先月の二十日でございますが、このハイジャック問題というものを緊急に討議するように努力をいたしました。その結果緊急議題の追加を提案いたしまして、その提案が認められて、総会の承認を得て特別政治委員会におきましてこの問題の討議が始まったわけでございます。と同時にわが国といたしましては、わが国独自の立場から決議案を作成いたしまして提出する手続をとりました。決議案そのものにつきましては、その後、関心のある諸国と協議の末、共同提案国四十六カ国の参加を得て決議案の提出という事態に至ったのでございますが、その内容には、ただいま先生のおっしゃいました三条約への加盟を緊急に考慮してもらいたい、これは未加盟国に対する呼びかけを含んでおります。この決議案はそれ以来特別政府委員会において審議がいたされておりましたが、けさのニューヨークからの連絡によりますと、特別政治委員会におきまして全会一致で採択されたということでございます。したがって、今後、緊急に本会議に提出されまして採択の運びになる見通しがついたと申し上げることができると思います。  なお、この決議案の中には、より具体的に関係のございます国際民間航空機関、ICAOにおきまして、さらにこのハイジャック防止というような観点から、飛行場あるいは航空機における保安設備あるいは保安体制の強化という面からさらに検討を進めるようにという呼びかけがございます。したがって、これを受けまして今後ICAOにおきましてより具体的な実施策についての検討が続けられる見込みでございます。わが国といたしましては、こういった検討にもさらに積極的に参加したいと存じております。
  60. 横山利秋

    ○横山委員 それは結構なことだと思いますが、私が素朴に言った、人を返せ、金を返せ、飛行機を返せ、おたくに迷惑料は必ず補償するという感覚は出ていますか。
  61. 小林俊二

    ○小林説明員 最も関係のございますのは、御承知のようなヘーグ条約でございますが、ヘーグ条約には犯人に対する措置ということが書いてございます。これは、その前に締結されました東京条約においての足りない点を一つ補った面でございます。金を返せ、あるいは飛行機を返せということはまだ触れてございません。したがって、今後さらに国際条約の面におきましてこれを強化していく余地はあろうかと存じますが、こういった限られたヘーグ条約の場合であっても、まだその加盟国が八十カ国内外ということで非常に不十分な現況にございますので、一挙に完全な国際的な取り決めということを期待し得る現況にございません。一歩一歩その枠を狭めていくということが最も現実的なアプローチかと存じております。
  62. 横山利秋

    ○横山委員 私は努力は多といたしますけれども、まだまだ素朴な国民感情というもの、これは日本だけが要求するのでなくて、すべてのハイジャックに遭った国の共通の問題であります。もちろん、それがいまなかなか世界各国の了承を得られない、了承をされ得ない事情、政治的背景というものはわからぬではございませんけれども、しかしながら、そういう政治的な事情、背景というものがありながら、なおかつ国際世論となっておるこの機を逸しては、この素朴な人間的、国民要求というものが達せられないのでありますから、百尺竿頭一歩を進めてぜひ御努力を願わなければなりません。  運輸省に伺いますが、この参考資料を見ますと「日航の寄航する外国空港安全検査体制の概要」をいま見ておるわけでありますが、X線検査機器、金属探知器の設備されている空港とされていない空港を見ますと、まことに驚くことには、かなりの空港が設置がされていないということであります。一方運送約款をずっと見てみますと、この運送約款がまじめに行われておるならばかかることはあるまいにということが痛感をされるわけであります。国際運送約款というのは民間のものでありますから、それが十分に徹底していないことについてどれだけの罰則があるか、これは自主性の問題でありますからなかなか徹底を期しがたいと思うのですが、お互いに判こをついて各国が了承したものでございますから、その運送約款の徹底を期すると同時に、外国空港のこの検査機器がすべて徹底をされること、そのように努力することが第二番目でありますが、結局は日航を中心といたしまして日本航空会社が自主防衛を最終的にはせざるを得ないのではないか、こう私は考えるわけであります。その自主防衛というものは、この防止対策の第一次にも第三にあるわけでありますが、外国の空港におきまして、外国がやっている以外に日航などが自主防衛の機器を、X線検査機器とか金属探知器というものを、航空機に乗り込むタラップの下とかあるいは航空機の入り口とか、そういうところですることが最終的な問題だと思いますが、どうお考えですか。
  63. 高橋寿夫

    高橋(寿)政府委員 日本航空の飛行機が寄航しております外国の空港での検査機器の整備の状況は、参考資料にお出ししたとおりでございます。  検査機器がございませんでも、それらの国といたしましてはボデーチェック等によってしっかりやっている、こういうお話があるわけでありますが、私どもはやはり検査機器というものの非常に有効であるということを承知いたしておりますので、何とかこれを整備してほしいということを外国の空港当局に要請をしておりますけれども、なかなかよそさんのことでございますので、これが必ずしも徹底できないうらみがございます。その場合には、いま先生がお示しのように、日本航空の自衛策といたしまして、少なくとも日本航空航空機に乗る直前に検査をするということが必要である。このためには大きな機器は要らないのでありまして、ハンディーな機器を使えばこれは乗る直前にできるということでございますので、現在私ども日本航空の寄航しております空港の中から問題のありそうなところ十七空港をまず選びまして、それらにつきましてまず日本航空の職員が調査をしてまいりました。まだ最終報告、まとまっておりませんけれども、ごく大まかな話といたしまして、このうち八つの空港につきましては外国の官憲での検査をいたしまして、それがすぐに航空機の搭乗という形になるし、その外国の官憲の検査については十分これからやるというふうなことがありますので、日本航空がいますぐに重ねてチェックをする必要は薄いように思われる。なお二つの空港につきましては施設が狭隘でどうしてもこういったことがしにくいというふうなことでございますと、十七から十を引きまして七つの空港につきましてはいますぐにでもいま先生御指摘のようないわゆるダブルチェックが可能になりますので、これにつきましては取り急いでダブルチェックの体制をとることにいたしております。  なお、現在外国の政府が不要と考えているところにつきましても私どもの手でもう一遍調査をいたしまして、これは政府調査団を派遣いたしまして、その調査結果によりましてやはりさらにダブルでやった方がいいという場合には、所要の措置をとりましてそういった体制を整備いたしたい、こういうふうに考えております。
  64. 横山利秋

    ○横山委員 先ほど山崎委員と最高裁刑事局長との間に、裁判遅延問題が議論されました。私は聞いておりまして、この裁判遅延というものは私どもも指摘をしておることでありますから趣旨はわかるし、私も若干の意見を持っておるものでありますが、しかしハイジャックとどういう関係があるかなという気がしたわけであります。裁判が遅延しているからハイジャックが起こる、刑務所におるから起こらぬということではないのであります。生きておる限りはそれを出せ、こういうわけでありますから、なぜハイジャック防止対策に裁判遅延問題が関係があるだろうか、いろいろ質疑応答を聞きながら揣摩憶測をしておるわけですが、どうもこの間私が少し皮肉を申しましたように、検察陣の権威に関するという問題がまたそこへひょいと浮かび上がったような気がいたしますが、改めて伺いますが、裁判遅延とハイジャックとの関係はどういうふうにお考えなんでしょうか。
  65. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 クアラルンプール事件に次いで今回のダッカのハイジャック事件が起きて、未決勾留中の者を相当数出さなければならないという事態になったわけでございます。その結果、わが国の司法権と申しますか裁判権の実現がきわめて困難な事態になっておるわけでございます。もちろん服役中の者につきましても、刑罰の執行権というものがじゅうりんされたわけでございますけれども、何よりもまず裁判がきちんと行われるという事態がやはり法治国家の最後のとりででございますわけで、それが実現がきわめて困難な、事実上不可能な状態になってしまったということについては、裁判所を初めとして非常な憂慮の念あるいは非常な残念さを持っておるわけでございまして、そういう意味で、また再びこのようなことがあってはなりませんけれども、少なくとも日本の裁判というものはきちんと終わっておるという状態が何としても必要なのではないか、こういうことから出てきた議論でございます。
  66. 横山利秋

    ○横山委員 論争は避けたいと思いますけれども、なるほど裁判権を侵害された、検察陣の努力途中で侵害された。しかし判決があって既決として刑務所におる者もまた国の責任においてその執行をされておるわけでありますから、裁判さえ済んでおればハイジャッカーが要求しないという保証は何もない。裁判さえ行われておれば国の権威は失遂しないという論理も必ずしも妥当ではないという論理も必ずしも妥当でない。裁判遅延の問題はまた別の角度から十分に、いまお話があったような諸問題を含めて議論をすべきものだ、私はそう考えておりますが、御議論があったら承っても結構でございます。法務大臣、何か御議論ございますか。
  67. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 議論というわけではございませんが、いま横山さんお話しのように、このハイジャック問題と完全に一致するわけではないと私ども考えております。ただ、一面このハイジャックにやはり裁判の遅延がかかわりがある、こういう見方をしておるわけでありまして、今回の場合も、未決の者もあるいは既決の者も出ておる。また、その裁判あるいは刑務所や拘置所におるおらないにかかわらず、ああいう手段に出ることは想像にかたくないわけでございますから、必ずしもこれで、全部ハイジャックが防げるというたてまえではございませんけれども、彼らのいわゆる同志が未決で入っておる、どうしてもこれを早く救出して彼らの言う兵力増強をしなければならない、こういうかかわりが一面にある、かような見方でこの際この問題をとらえたい、こういうことでございます。
  68. 横山利秋

    ○横山委員 議論は、お互いに意見の違う点があると思いますからやめます。  それから、その次に入管局長にお伺いしたいと思うのでありますが、私は、先般来、論理の立て方として、司法共助にしてもあるいはICPOの検察陣の協力にしても、何か日本が一方的に外国に協力を要請するばかりに急で、日本がまた協力する体制を整えておかないと説得力がないというたてまえでいろいろ問題を提起しておるわけでありますが、それとまた別の角度で出入国の問題がございます。  いま私どもが直面しておりますものは、まあ韓国人が一番多いと思います。けれども、この間、一年前ですか、あなたとやり合ったように、潜在的な密入国者、発見されない密入国者は恐らく数万人いると思うのであります。韓国人が一番多いと思うのでありますが、その韓国人が数万人日本に密入国しておるということは、ほかの国の人でも密入国が可能であるということを示唆いたしておると思います。一方、ベトナムから難民がやってまいりまして、政府はベトナム難民の閣僚会議を行われたそうでありますが、これまた何か結論が結局は出なかったかのごとき印象を与えております。  また、私が提案をいたしました亡命者保護法案とこのハイジャックの問題とは微妙にかかわり合っておるということがある意味では言えると思われるかもしれませんが、私は、基本的に問題の性質が違うと思っておるわけであります。すでにこの種の問題、難民条約の問題についても国際会議が行われておったという話でありますが、この際、難民条約に関する問題、それから密入国の取り締まりの問題、亡命者保護法案等について御意見を承っておきたいと思います。
  69. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 いろいろの問題が御質問の中にあるのでございますが、ハイジャックと難民条約はどうだという点につきましては、ハイジャック自体は非人道的な行為でございまして、これは難民に該当しませんので、難民条約で救われるということは毛頭ございません。  次に、難民条約についての政府考え方でございますが、法務省といたしましては、大筋においてこれに加盟することに異議はないと考えております。  次に、朝鮮半島からの密入国の問題とベトナム難民の問題との関連はいかんという御質問の御趣旨かと存じますが、ベトナム難民について申し上げますと、これは国連の事業でございまして、国連がベトナム難民救済計画というものを持っておりまして、わが国といたしましては、もちろん人道的見地もございますが、国連加盟国の一員といたしまして、国連のこの計画に協力するというたてまえをとっておる次第でございます。したがいまして、その見地から朝鮮半島からの密入国者とベトナム難民は相違するわけでございます。  なお密入国対策でございますが、先般先生の御質問がございましたときにお答えいたしましたように、限られた人員と予算でできるだけ関係機関の協力、具体的に申しますと、海上保安庁とか警察との協力によって万全を期している次第でございますが、何分わが国は海岸線も長く、非常にむずかしい。それから最近はその手段が非常に巧妙化されてきておりますので、なかなか所期の目的を達するまでに至っておりませんが、これは今後も関係機関とも協力して大いに努力いたしたいと思っております。  なお、朝鮮半島からの密入国のようなことがほかの国からも行われ得るのではないかという御質問がございましたが、この点につきましては、少しは——絶無とは申しませんけれども、朝鮮半島とわが国との地理的関係からいたしまして、やはり統計の上からも九割七、八分までは朝鮮半島からの密入国者でございまして、ほかの国から入ってくる密入国者は案外少ないのが現状でございます。それから、その性質も偽造旅券であるとかそういうたぐいで、主としてわが国の出入国港から正式に入ってきて、それが偽造旅券とか偽造査証で入ってくる、こういう点が多いのでございまして、たとえば全然港のない海岸線に夜陰に乗じて入ってくるというのは、これは地理的関係で朝鮮半島以外の国は非常に遠いものでございますから、実際上そういう例は、絶無とは申しませんが、非常に少ないとお考えいただいていいのではないかと思っております。
  70. 横山利秋

    ○横山委員 最後に、きょうわれわれが審議しておるこの罰則関係法案に関連をして、この間私が言いましたことは、ハイジャックは年に一回か二回だけれども、われわれの日常周辺、暴力団が本当にたくさんおる。花のお江戸の銀座で鉄砲をぶっ放したり、あるいはハワイで鉄砲の練習をしたり、韓国で暴力団の会議が行われたり、そういうことの方が実に多いのにかかわらず、この暴力団に対する処罰が、科刑状況を調べてみると、本当にすぐ出てくる。そして、出てきたらたくさんの人が刑務所前で迎えて、意気揚々と帰ってくる。箔がついた、こういうような状況ががまんがならぬ。刑事局長からは、暴力団対策については別途考慮したいというお話がございました。  それと同様に、この犯罪白書を見てみますと、内ゲバの事件の処理状況を念査してみますと「罪名別にみると、兇器準備集合、暴力行為等処罰に関する法律違反、傷害・同致死、建造物侵入、監禁・同致傷、暴行、強要など」の問題ですね。これによりますと、懲役に処せられた——もう少し前から読んだ方がいいかな。検挙人員は、四十八年で三百六十一、死傷者は五百七十五、発生件数は二百三十八件ございます。  「この種事件昭和四十八年中に第一審裁判があったもの二十八件、七十八人についてその科刑状況をみると、I−73表のとおりである。これによると、有罪総人員七十八人(一部無罪四人を含む。)のうち、懲役刑が五十四人(六九・二%)、罰金刑が二十四人(三〇・八%)となっており、禁錮、拘留、科料の刑に処せられた者はいない。懲役に処せられた者のうち、実刑となった者は五人(九・三%)、執行猶予の付せられた者は四十九人(九〇・七%)である。また、有罪となった七十八人について、その科刑分布をみるとI−74表のとおりである。まず、懲役の刑期についてみると、実刑となった者五人の科刑は、一年以下一人、二年以下四人である。その内容は、監禁致傷及び強要により懲役一年六月に処せられた者が三人、傷害及び暴力行為等処罰に関する法律違反により懲役一年六月に処せられた者が一人、傷害により懲役十月に処せられた者一人である。刑の執行を猶予された者では、四十九人のうち五七・一%に当たる二十八人が六月を超え一年以下の刑に、一八・四%に当たる九人が六月以下の刑に、一四・三%に当たる七人が一年を超え二年以下の刑に処せられている。罰金額の分布をみると、二十四人のうち、一万円を超え三万円以下が十三人、一万円以下が十人、三万円を超え五万円以下が一人となっている。」  私の大変素人の感じですけれども、軽く済んでいますね。そんな感じがします。この人たちも暴力団もハイジャックも、もちろん先ほど言ったように、刑を重くしたからといって解決しない問題を含んではいる。含んではいるけれどもハイジャックは、いま時の勢いとして罪刑を重くするということならば、もっと身近な、われわれが表に出たらすぐある暴力団、あるいは銀座で思いがけなく内ゲバで無事の国民が被害を受けた、そういう人たちに対する均衡、もっと身近な均衡というものをどう考えるか。冒頭申し上げたように、この非人道的暴力防止対策本部に期待をしたいところでありますが、刑罰としては、暴力団については、この間、刑事局長がちょっと所見を述べられたのでありますが、この種の問題についての均衡を法務大臣はどうお考えになるでしょうか。
  71. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 細かいことは刑事局長から御説明させますが、おっしゃるように、ハイジャックの問題は国際的に非常に大きな問題になりましたが、われわれが見ておりますと、特に近来、暴力団関係あるいは過激派の内ゲバ事件等、銃砲等を持って凶悪の犯罪が行われている。しかも全然無関係の人まで巻き添えに遭う。この事態はまさに看過できない。検察、警察、全力を挙げて各種取り締まりをしておりますが、まだ結論を持っておるわけじゃございませんけれども、これも現状でいいのかどうなのか。裁判の結果は裁判所でやられるわけでありますけれども、科刑上、法制上これでいいのかどうか、こういう大きな疑問を私持っております。そういう意味で事務当局に、この問題を今後いかに取り扱うべきか、法制上どこかに欠陥がありはしないか、これを検討を命じておるのが現状でございます。
  72. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 暴力団については前回申し上げましたので、内ゲバについて一言申し上げます。  内ゲバ事件は、被害者が全く捜査に協力しない等のことがありまして、検挙が比較的困難でございまして、非常に大ざっぱに申しますと、内ゲバ事件の検挙は、大体事件発生から二年おくれぐらいでやっと検挙ができるという実情がございまして、かつ、二年後ぐらいたって検挙したものの、裁判が例によって重い罪のものについては非常に長くかかるという実情がございます。したがいまして、先ほど御指摘の犯罪白書の数字に出てまいりましたものはわりあい初期の内ゲバ事件で、かつ、いわば公判の経過において、悪かったと反省を示したような者が比較的多く含まれておるように感ずるわけでございます。私どもといたしましても、検察当局におきましてもやはり、そうは申しましても内ゲバに対する科刑がどうも低いということで、鋭意周囲の情状等を立証することに努めまして、それに相応した刑を盛っていただくように裁判所に大いに働きかけたいというふうに思っておりまして、逐次改善されてきつつある状態でございます。しかしながら、御指摘のような現状に対しましては、国民立場から見ました場合に、まだまだ御不満があるということは認めざるを得ませんので、いま大臣が申されましたように、どうしたら国民の納得の得られるような最終的な結果に到達できるかという点につきまして、法制面、運用面、両面からなお十分検討させていただきたいと思います。
  73. 横山利秋

    ○横山委員 終わります。
  74. 上村千一郎

    上村委員長 午後二時三十分委員会を再開することとし、この際、暫時休憩いたします。     午後零時四十九分休憩      ————◇—————     午後二時三十七分開議
  75. 上村千一郎

    上村委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。飯田忠雄君。
  76. 飯田忠雄

    ○飯田委員 ハイジャックに関します法律案を本日いただきまして拝見いたしました。正直なところ申しまして、大変失望したのでございます。といいますのは、いままで各委員の方が述べてこられましたところですが、今度の法案ではもっぱら犯人を逮捕してそれを処罰することが重点的のようでございます。予防措置としましては、旅券発行の制限の範囲の拡大の問題だけが出ております。  そこで、私はこのハイジャックの問題につきましては根本的な問題をお尋ねいたしたいのですけれども、今度出てきました法案が余りにも問題点が多いので、まず法案そのものについての問題点を挙げて法律的に御質問を申し上げたいと思います。そして、その後引き続きまして根本問題に入りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。  まず、このたびの法案の中で旅券発行の制限の拡大の問題が挙げられておりますが、この問題につきまして最初にお尋ねをいたしたいと思います。旅券法の改正につきまして、長期五年を長期二年までに下げる、こうなっておりますが、刑法を見てみまして、過失犯と堕胎罪と単純遺棄罪と信書隠匿罪、こういうわずかなものを除きました全部がみんなひっかかるのです。たとえば、他人の家へ入っていきましてちょっと長く座っておったら、出ていってくれと言われた、間違えて出ていかなかったら不退去罪に問われた、そういう人も今後旅行はできない。それから自動車を運転しまして事故を起こした、業務上の過失致死傷罪を犯したという場合、これもまた旅行ができない可能性が出てくるわけであります。こういうように非常に広い範囲内で制限されるということになりますと、憲法の二十二条に、公共の福祉に反しない限り居住、移転の自由を認め、また外国への移住の自由の不可侵を決めておりますが、この憲法条項とどういうことに相なるでしょうか。御所見を承りたいと思います。
  77. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 今度提出いたしました法案の第三点として、いまお話しの旅券の発給の制限規定を設けておるわけでございますけれども、従来の「五年以上」としてあるのを「二年以上」ということにいたしました。おっしゃるように、このままいきますと、旅行といいますか、それに大変支障を来すおそれがある、こういうことが考えられるわけでありますが、これは発給を全部停止しなければならないという規定でもありませんし、従来の経験からいたしますと、他のところでも御説明いたしたと思いますが、やはりこういう暴力犯罪、この種犯罪につながりそうな過去の事件に関連しておった人も、五年以上ではチェックができないというかっこうになっておる。でありますから一応二年以上ということにして、そういうものが場合によってはチェックができる、これがねらいでありまして、運用面等については外務省からお話がありますが、それを全部そのままやったら、これはあるところで、非公式でありますが、選挙違反でもひっかかってしまうものじゃないかという話もありましたようなことで、そういうところもよく勘案いたしまして、そういう刑が比較的低い犯罪に関係しておるけれども、いまのような凶悪事件につながるおそれのあるというものを厳密にチェックができる体制をつくろう、これが趣旨であります。  運用等の面については、外務省から御説明することにいたします。
  78. 飯田忠雄

    ○飯田委員 大臣の御説明、具体的にはそういう御処置をなさるかもしれませんけれども、法は常に可能性をあらわすものでございます。憲法可能性をあらわし、法律もそうなんですが、法律に一たん決めますと、これは初めの意図と反した方向へとかく行きがちだと思います。外務省の御処置によって歯どめができるということは、現在のお方ならばできるかもしれませんけれども、将来できるとは保証されないわけです。こういう点につきまして、どのように歯どめがかけられるのか、お伺いいたします。
  79. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 お答え申し上げます。  外務省立場から申し上げますと、先生御指摘のような問題点を十分われわれも自覚いたしまして、罪種、罪状、本人の資質、性格、経歴その他の事情を具体的かつ個別的に勘案をいたしまして、慎重な裁量によって旅券の発給の可否を決定いたしてまいるつもりでございます。  御指摘のように、五年を二年にいたしましたために罪種が拡大いたしましたこと、これは否定すべからざるところでございますけれども、これは同時に赤軍予備軍的な犯罪につながるものを旅券法上新たに発給制限の対象とするという新しい意味も実は持っておるわけでございまして、そういう意味で、何らかの御参考までに過去の五年のときの、今回の御提案は二年でございますが、取扱状況に徴してみましても、該当案件申請三十二件に対しまして、これは訴追者の申請でございますけれども、拒否は五件でございます。五十年は申請二十三件に対して拒否三件、五十一年は申請二十八件に対し拒否四件と限られておるわけでございます。  先生から、外務省が担当官がかわればどうなるかわからないという御指摘もございましたけれども外務省旅券の主管官庁として、長きにわたりこの重要な職務を遂行しておりまして、われわれといたしましては非常に熟練の、練達のスタッフを持っておるつもりでございます。今後とも若い人をさらにそういう面でも育成をいたしまして、この運用には誤りなきを期したい、かように考えておりますので、何とぞ御理解をいただきたいと思います。
  80. 飯田忠雄

    ○飯田委員 外務省のお考えはよくわかりましたが、それならば、外務省の方で従来チェックされてきたその罪種というものがおのずからわかるのではないでしょうか。そうすれば、その罪種に限って旅券発給をとめるというふうな法律の規定の仕方もできるはずであります。それを特になさらないで、一般的に「長期二年」とされたその趣旨はどういうわけでしょうか。
  81. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 ただいまの御質問でございますけれども、現実問題として旅券法のたてまえが御承知のように外務大臣が旅券を発給しないことができるということで、ケース・バイ・ケースの判断になっておるわけでございます。  過去における拒否件数の実態について御質問がございました。  四十九年の拒否事案の罪状を申し上げますと、騒擾一件、傷害、公務執行妨害一件、電汽車往来危険、威力業務妨害一件、詐欺二件ということになっております。五十年は、二十三件のうち、先ほど申し上げましたように三件の拒否事案があったわけでございますが、やや詳細にわたって恐縮でございますが、暴力行為等処罰に関する法律違反一件、傷害、凶器準備集合、公務執行妨害一件、逮捕監禁、暴力行為等処罰に関する法律違反、威力業務妨害、傷害一件、かようでございます。五十一年は二十八件のうち四件でございますが、傷害、恐喝、道交法違反一件、詐欺一件、銃砲刀剣類所持等取締法違反一件、覚せい剤取締法違反一件。それから五十二年は、十月までの統計でございますが、十九件のうち二件を拒否しておりまして、殺人、暴力行為等処罰に関する法律違反一件、覚せい剤取締法違反一件でございます。  先生の御指摘の第二点は、こういう五年から二年への改正を行うに当たって、そういう罪種を一定に特記するということが望ましいのではないかという御質問でございますが、もともと旅券法は、先ほど来申し上げておりますように、外務大臣の裁量のもとに、健全なる裁量の範囲において旅券の発給を拒否するという形になる一般法規のたてまえでございまして、これは法制局等とも十全に御相談を申し上げておりますけれども、やはり一般法のたてまえから、罪種を特記いたしますことは、立法技術上困難がございます。それが一つでございます。  それからもう一つは、先ほど来赤軍関係の関連罪種ということを申し上げておるわけでございますが、厳密に申しますと、やはり海外への逃亡とかあるいは海外での再犯の可能性とか申しますのは、当該罪の種類につながってこの罪だからそうであるというものではあるいはないのではないかと存じております。むしろ当該本人の資質、性向、経歴等に起因する属人的なものであるのでございまして、むしろ罪種によって限定をすることによって、その面ではやや不都合も生じてまいるということが実態かと考えますので、この辺をバランスして考えますと、特定の罪種に限定するということは必ずしも適当ではない、かように考え、それに加えまして、先ほど来申しております健全なる裁量、運用ということで対処してまいるのが最も現実的な対処策ではないか、かように考えておる次第でございます。
  82. 飯田忠雄

    ○飯田委員 憲法に書いてある外国への移住の自由の不可侵というこの憲法が保障しておる人権ですが、この人権を抑えてでも制限するということになりますと、それは特別の公共の福祉という問題が出てこなきゃなりません。そうなりますと、やはり具体性を持たないとだめだと思いますが、そういう点で、私は今度の旅券法改正については、憲法に触れる疑いが多分にあると考えるものでございます。  実は、時間がございませんので、この点をもっと突っ込みたいのですが、その次の問題に参ります、もっと重要な問題がございますので。  今度の予防措置につきまして、航空法の改正が回避されておりますが、つまり航空法の改正をしないようにされておりますが、これは何か理由がございますか。
  83. 山田宏

    ○山田説明員 御説明申し上げます。  今回のハイジャック事件にかんがみまして、今後の再発防止ということは、先生御案内のように、いわゆる水際作戦と申しますか、危険な爆発物あるいは拳銃その他、そういうハイジャックその他凶悪な事犯に使われるおそれがあるような物件を、そもそも航空機内に持ち込ませないようにすることがまず肝要でございます。そういうことで、運輸省といたしましては、かねてより空港におきまして航空会社が実施いたしております荷物の検査あるいはボデーチェックという、旅客が何か不審な物件を荷物あるいは荷物に入れたりあるいは携行していないか、それのチェックをやっておりますけれども、そういった面につきまして直ちにその強化徹底を図るという行政措置を講じております。  それと相まって、今回お願いしておりますこの改正法の中で、第二条におきまして航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律の一部改正、これをお願いしておりますが、そこで、改正後のこの同法の第四条、ここに不法に、つまり社会的に是認あるいは許容されないような方法あるいは態様で、ここにございますような爆発物あるいは銃砲、刀剣類、火炎びん、そういったたぐいのものを航空機内に持ち込むというような社会的に是認されないような行為、そういったものを、ここにございますような三年以上の有期懲役あるいは二年以上の有期懲役というような厳罰をもって処断するというような方途を講じまして、先ほど申し上げました水際作戦と相まって、ハイジャック事犯再発防止に資することといたしたい、こういうことでございます。  そこで、こういった措置をもって当面足りると考えておりますので、先生御質問航空法の改正につきましては措置を講じなかった次第でございます。
  84. 飯田忠雄

    ○飯田委員 ただいま航空法の関係につきまして、航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律の問題が出ましたので、まずこの法律について少しくお尋ねいたしたいと思います。  この現行法によりますと、二年以上の有期懲役、罰則はこうなっております。それを三年以上にされておりますが、これはどういう理由でございましょうか。
  85. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 航空危険処罰法の第一条の法定刑のお話だと思いますが、現在の二年以上の有期懲役という法定刑は、刑法におきます汽車等の危険罪、これの刑をにらみまして、二年以上の有期懲役ということにされておるという沿革的な理由があるわけでございますが、考えてみますと、航空機の発達に伴いまして、非常に大型化したものがどんどん飛んでおるという現状をかんがみますと、航空機危険性等に照らしまして、汽車等と同列に扱っていいものかどうかという一つの問題がございます。  それから、今度起きましたハイジャック事件の例を見ましても、管制塔の指示を無視して強行着陸をする、あるいは無視して強行離陸をするというような事案が随所で見られたわけでございますが、このような行為は、場合によりましてはただいまおっしゃっております第一条の罪に該当することになるわけでございまして、そういった点を考えあわせますと、下限が低きに過ぎるのではないかという考え方があるわけでございます。それとあわせまして、今回新設いたします爆発物の機内持ち込み罪の下限が三年ということになりますこととの均衡も配慮いたしまして、二年から三年へと下限を上げることにしたわけでございます。
  86. 飯田忠雄

    ○飯田委員 刑罰の点はよくわかりましたが、第四条の不法爆発物持ち込み罪、これにつきまして、持ち込み防止の規定が航空法にございますね。航空法の八十六条、それから八十六条の二にございますね。この航空法の規定があるのにそれに違反して持ち込んでしまったという状態が生じた場合、これはそのことを監督する義務を負う航空局の人なりあるいは現場の人なりあるいは日本航空の人なり、そういう人たちは、業務上の怠慢ということが起こらないでしょうか。業務上の怠慢ということが起こりますと、そこに過失の問題が起こりますし、また幇助の関係も生ずるのではないかと思います。こういう点についてはいかがでしょうか。
  87. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 およそ刑罰をもって対応します場合に、怠慢ということがどういうふうに評価されるかは別といたしまして、いずれにいたしましても、航空業務に関係しておられる方がそういう危険な物の持ち込みにつきまして、何か幇助をするとかあるいは手助けをするということはちょっと考えにくいことでございますが、もし何らかそういう持ち込もうとする人と通じまして、こっそり手助けをするとかそういうようなことがございますれば、もちろん幇助犯ないし、場合によっては共謀、共同正犯という場合もあり得ようと思います。  しかしながら、一般的には皆そういう危ない物を持ち込ませないように一生懸命やっておられるわけでございましょうから、何か過失によってこれに加功するというようなところまではちょっと考えにくいように思います。
  88. 飯田忠雄

    ○飯田委員 この問題は法律上争いがあるとは思いまするけれども、実際に飛行場で荷物の積み込みについてどういう監督をしておられるか、このことをよく詳細に見られるとわかると思いますが、非常に遠慮深くやっておられます。遠慮深くやるということは、業務を怠っておることに当たるわけなんです。その遠慮深さがかえって不幸な事態を生じておる。そうしますと、その遠慮深さというものは一種の行政上の過失ではないかと私は考えるのですね。そういう行政上の過失がいままで積み重なって今日のハイジャックが起こったのだというふうに言えないこともないわけです。そうなりますと、こういう問題について刑事責任を問うということも起こるじゃありませんか。たとえば公害罪について、これは会社は何も知らずにおっても過失を問われてやられております。そういう点を考えますと、行政上の過失によって起こってきた今度のハイジャック事態といったようなもの、これはまさにこの航空の危険を生じさせる行為等の処罰法第四条の幇助罪に当たることにはならないか、少なくとも過失犯にはならないかということですが、どうですか。
  89. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 過失犯の成立については刑法学上いろいろ問題がございますが、ただいま仰せになりましたのは一種の、何といいますか道義的な責任の問題であろうと思います。そういう意味では怠慢を問われる場合があり得ると思います。  しかしながら刑法上の問題としては、御承知のように結果の予見可能性でありますとか、その他諸般の要素を過失犯については要するとされておりますから、過失犯処罰の規定が仮にあったとして、過失犯が成立するかどうかは刑法的にはなかなかむずかしい問題であろうと思います。ただ、おっしゃいますように、何か行政的責任と申しますか道義的責任といいますか、そういうものを感ぜざるを得ない場合はあろうかと思う次第であります。
  90. 飯田忠雄

    ○飯田委員 この問題は私は非常に重視をいたしますのは、ハイジャック防止のために航空法というものが非常に役立つものだということを私考えるのですよ。その航空法の措置がなおざりにされておる。これをなおざりにされておるということは、一つには人権侵害ということを心配してなされてきたものだということも考えます。考えますが、もっと慎重にこういう問題を取り上げて、予防措置を現行法でもできたのであって、それができなかったということは行政上の過失といいますか、監督責任もありましょうし、いろいろな点で問題があろうと思います。これは予見可能性というものはあるのですから、予見可能性があり、また予見したところを回避する義務も当然あるはずです。そうしますと、明らかに刑法上の問題になってくると私は思います。ただいままで刑法上の問題にしなかったのは、非常にそういう点を大まかに考えておったというにすぎない。公害罪、たとえば水俣病などといったようなものは昔は大まかに考えておりました。刑事事件じゃなかった。ところが今日は刑事事件になってきたのです。それと同じように、ただ何もないのに刑事事件になるというはずはないので、原因があるから刑事事件になります。今度の不法爆発物ち持み込み罪につきましても、今日のような事態が起こってまいりました以上、やはり今後は刑事事件も考えられなければならぬのじゃないか。そして、行政官の怠慢によってこうした不幸な状態を生ずることは避けるべきだと私は考えるわけですが、この点どうですか。
  91. 山田宏

    ○山田説明員 お答え申し上げます。  先生先ほど、非常に遠慮がちに検査をしておる、これは要するに結果的に怠慢と同じではないかという御趣旨の御発言だったかと思いますが、私、冒頭に申し上げましたように、何と申しましても肝要なことは、危険な物件が航空機内に入らないようにするための事前のチェックということに尽きると思います。そこで、これにつきましては、現時点におきまして立法措置を講ずるまでもなく、従来から実施しておりますやり方を十分徹底強化すれば足りる、こういうふうに考えております。  そこで、遠慮がちにというふうに先生ごらんになっておられるかと存じますけれども、要するに慎重かつ的確に、されど能率的にやらせておりますし、今回の事件の発生にかんがみまして、羽田等におきますガードマンの強化等々、具体的な検査のやり方につきましてもさらに精度を高める、こういうことにいたしまして、いわゆる水際作戦の徹底を期することとしておる次第でございますので、その辺の現在の航空法体系の中での実効措置によって十分な効果を上げてまいりたい、こういうふうに考えておる次第でございます。
  92. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは次の方へ移ります。  今度は、航空機強取等防止対策強化法の改正の問題でございます。この法律案を見ますと「当該航空機内にある者を人質にして、第三者に対し、義務のない行為を」要求して、こうございます。  ところで、この「第三者」というものでございますが、これは今度の事件では明らかに日本政府であったわけです。これを国家に該当すると考えるかどうかは議論があると思いますが、日本政府国家だと考えれば、日本国家、こういうものに当たると思います。そこで、今度とられた政府処置を見ますと、日本政府が自分の意思で要求に応じたものだというふうに私は考えておりますが、これは自分の意思で、政府の自発的意思でおとりになった行為であるか、それとも強盗に強圧されたような、意思力を失ってやった問題でございましょうか、お伺いいたします。
  93. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 自発的な意思でないことは明らかでございまして、刑法的な概念で申せば反抗抑圧に近い程度に脅迫をされてやむを得ず応じた、こういうことであろうかと思っております。
  94. 飯田忠雄

    ○飯田委員 ただいまのお話は私大変遺憾に思いますが、西ドイツのやり方、日本のやり方、それぞれあるというふうに言われております。西ドイツはあのようなやり方を選択したのです。日本は今度のようなやり方を選択したのですが、選択の自由は少なくともあったのではないか。選択の自由がないほど意思を失っておったのかという点につきましては私は非常に疑問に思います。選択の自由があったというふうに解釈するのが私は国家の名誉のために必要ではないかと思いますが、この点について本当に選択の自由はなかったのか、それともあったのか、お尋ねをいたします。
  95. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 選択の自由があったかないかということについては、選択の自由があったと申し上げます。ただ、たびたび申し上げておるわけでございますが、西ドイツ政府は西ドイツ流の選択をやった、わが国ではわが国のような選択をやった。どちらにも甲乙、是非はあると思いますが、わが国の場合は、人命を何とかして助けよう、しかも海外におって直接手が届かない、こういう困難な事態であの選択をやった、こういうことだと思います。
  96. 飯田忠雄

    ○飯田委員 選択の自由をお持ちになってこのたびの行為をなされたわけですが、結局人権保障という問題を考えて、政府憲法上の義務として負うておる人権保障を全うするために行われたことだと私は解釈しております。そうであるなら、今度の政府がおやりになったことは、その限りにおいては合法的だと言わざるを得ぬのであります。  そこで問題が生じますのは、政府の意思で犯人を釈放し、身のしろ金を支払った、これは事実でございますが、そういう政府の行為、これは国の行為と普通言われるわけですが、国家がみずからの意思で行った行為によって釈放し、金を与えた相手を、犯人として処罰することは、国家の行為の取り消し、そのことを認める、こういうことになると私は思いますが、その点についての御見解をお伺いいたします。
  97. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 先ほど大臣からもお答えがございましたことに関連いたしますが、たとえば、あるいは例が当を失するかもしれませんが、強盗罪というのがございますが、強盗罪の類型を考えました場合に、一般通常人の反抗を抑圧する程度の脅迫行為が行使されました場合には強盗に当たるわけでございます。その場合、ピストルをつきつけられながらも敢然として立ち向かって犯人の取り押さえにかかるか、あるいはもろ手を挙げて降参をして金品を取るに任せるか、この意味において選択の自由はあり得ると思うわけでございます。したがいまして、今回のハイジャック事件におきまして政府がおとりになりました措置、これは全くフリーハンドで、どんなふうにも選択し得るという状況であったわけでは全くございませんで、実にやむを得ざる状態においてやむを得ざる決断をされたわけでございます。そこにおきましては国としてそれらの釈放しました者たちに対します刑罰権を放棄する意思は毛頭ありませんでしたし、またそれを受け取って逃げ去った犯人たちに対して裁判権を放棄するというような意思も全くなかったわけでございまして、当初から裁判権なり刑罰権の行使について放棄をした事実がございませんのでありますから、意思の変更とかいうような問題は起きないのじゃないかと思います。
  98. 飯田忠雄

    ○飯田委員 私はこの問題をあえて取り上げましたのは、従来から行政法の理論で、ある一種の行政行為をやりました場合に、それを不利益に、つまり受けた方の不利益に変更することは許されないという原理がございます。そして判例でもあったようでございます、これは税法に関係しまして。  それで、私はこの問題を特に法理論的に取り上げますのは、政府の自由意思で釈放し、自由意思で金を与えた、そしてその相手を犯人として処罰するということは、国民に対する国家行為として法理論的にどうであろうか、こういうことを実はお尋ねをしておるわけです。彼らを罰してはいかぬとかそういうことではありません。とらえて罰すべきだ。罰すべきなら罰すべきで、罰してもどこからも突っ込まれないような法律の手当てが必要ではないか、そういうことを言いたいために私は申し上げておるのでありまして、今度の、いまのままでいきますと、新しくできますこの法律では、結局国の意思の二重性を主張しなければどうにもならぬ問題であろうと思います。金を与えるときは、無理やり取られたのではなくて自分の考えで与えた。命と引きかえでも構いません、助けるために与えたのです。これは憲法的の行為をやるためやった行為です。そのことはそれで悪いとは言いません。しかし、一たん自分の意思で金を与えておいて、そして相手の方には、おまえはけしからぬ、こういう非難を加えて処罰するような法律に見えるが——今度の法律はですよ、その点は法律論的に問題はないのか、こういうふうにお尋ねしているわけです。
  99. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 恐らくお尋ねをいただいておりますお考えの基本として、昔から時に言われます「国は畏怖せず」というようなお考えがあるのではないかと思うわけでございますが、しかしながら、今回のハイジャック事件を見ました場合には、国かどうかはわかりませんが、少なくとも政府、内閣を頂点といたします政府は、事柄の重大性によって自由な、本当の意味の自由な判断はできない状態にございまして、ごく限られた選択しかできない状態であった、こういうことでございますので、その出発点の理解が多少異なっておりますために、ただいまおっしゃいます事柄自体はまことによく理解できるわけでございますが、その出発点の違いがございますために、どうも的確なお答えができなくて申しわけなく思っております。
  100. 飯田忠雄

    ○飯田委員 この問題は余り議論を繰り返してもしようがないと思いますけれども、これは裁判で恐らく問題になります。それで特にお尋ねするわけですが、こういうとってこられた政府の行為の効果、このものは当然法理論上問われねばならぬと思います。犯人を釈放した行為、身のしろ金を与えた行為、その行為の効果は一体どうなるのだ。無効なのか有効なのか、それとも制限的に有効なのか、こういう問題は当然起こってくる問題であろうと思います。  そこで、新しく法律をつくられるのですから、それで特にこの問題を取り上げてお尋ねするわけですが、これはいまおっしゃられた御答弁によりますと、強制さが弱いけれども、ある程度強制されていた、だからやむを得ぬ、そういう点で意思の自由が完全でないから不完全な部分だけは無効だ、こういうようにとれるわけですが、そういう意味でございましょうか。
  101. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 ただいまのお尋ねも、要するに行政法学上申します行政行為の無効とか、瑕疵ある行政行為というようなことに関連するお話だと思いますが、私ども今回この被拘禁者を釈放したり身のしろ金をやりました行為は全くの事実行為である、実定法の根拠がない事実行為であるというふうに考えておりますから、事実行為については何らの法律的効果も発生するわけはない。ただ被拘禁者がむざむざと向こうへ渡された、身のしろ金が持っていかれた、こういう事実が残っておる、こういうふうに考えておるわけです。
  102. 飯田忠雄

    ○飯田委員 政府が行われました行為について、それは単なる事実行為であって法律上の問題が起こらぬということは、私はどうも理解しかねるわけでございます。物を与えた、与えた行為というものは確かにあるんで、与えた以上はもらった方に所有権が移るという法律上の効果はあるわけですが、この場合に、一体物の所有権は相手に移ったのか移らぬのかということまでも事実行為として無視されるのかどうか。これは私は大変疑問だと思います。やはり民法も働くし、いろいろの法律が働くということを私は考えるわけですが、それはそうとしまして、今後の措置としまして、こういうような第三者に日本政府が与えるような場合の法律をつくりました場合に、その第三者の行為がいわゆる正義とぶつかる場合にはその行為は無効とするという、そういうことを是認されていかれるのかどうかということをお尋ねいたしたいのです。つまり、今度金を与えた、釈放した。これは確かに釈放した以上は逃したのですから、全然単なる事実行為ではなくて放免しているわけです。それで放免したのだけれども、それはその限りであって、相手が悪いのだから、そうした釈放した行為は法律上無効だ。事実行為だとおっしゃる意味は法律上無効だ、こういう意味だと思いますが、そういうことにするのだという、そういうお考えでしょうか。
  103. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 ただいまの御質問も、私どもと出発点がどうもちょっと違っておるようでございまして、私どもは与えたというものではなく、取られたというふうに思っておるわけでございまして、取られたものは取り返せると、きわめて単純なことでございます。
  104. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは、この問題はもう議論してもしようがありませんのでこのくらいにしておきますが、今度のこの法律をおつくりになったのが——人質をしたことということは、これはもう相手のやったことですから悪い、これは処罰すべきだ。それから政府以外の者に要求したのも、これも悪い、処分すべきだ。しかし、いやしくも国がこういう問題に取り組んでやった場合に、国が自分で与えておいて、そしてもらった人をまた処罰するといったような、そういう考え方法律が今後できるとすると、私は大変困ったことだと思います。それで特にいろいろ御注文を申し上げたわけでございます。  それから最後に、少し時間がありますのでお尋ねいたしたいのですが、今度の事件におきまして政府がとられた措置としまして超法規的措置だとかあるいは超実定法的措置だとか、こういうことが言われてまいりました。超法規的措置だとか超実定法的措置というそういう言葉の意味がどうもあいまいであります。これは非常に重要な意味を持ちますので、どういう意味でこういうことを言われたのか、お尋ねいたしたいと思います。
  105. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 前のクアラルンプールのときには政府措置について説明は超法規的行為、今度は超実定法的行為、こう言っているわけでございますが、その趣旨は、中身は違わないと思います。違わないと思いますが、ああいう事態で極度の脅迫をされて未決あるいは既決の者を出す、こういう規定が御承知のとおりないわけでございます。でありますから、この意味においては実定法にない行為をいたしておる。しかし百数十人の人命を何とか努力をして助けたい。これはまたやはり憲法人権尊重といい、人命尊重——私は憲法法律、すべて人命をりっぱにするというのが目的で制定されておる、法治国家はそうだと思いますが、そういう意味においては憲法の精神には反しない。高度のといいますか、実定法には書いてないけれども、こういう非常事態にはこういう措置がとられてもやむを得ない、こういう意味において、法理論といいますか、実定法にはないけれども、広い意味の法律上の措置である。こういう意味において、今度の場合は私は局外におりましたけれども、前のと比較してみまして、その方が表現上正確である。超法規的と言いますと、憲法も何も超越したような感じを受けるおそれがありますから、超実定法的措置、これが表現としては確実であろう、かような措置でございます。
  106. 飯田忠雄

    ○飯田委員 大臣の御説明はそれなりにわかりましたが、ここで私問題にいたしたいのは、超実定法、超法規という一言葉、今日の憲法体制のもとにおいて、法律を超越する、実定法を超越するということは、根本的には憲法を超越するということにならざるを得ないわけです。憲法に超越した行為をやすやすととられるということになりますと、これは大変なことだと思います。私は、今度のハイジャック事件におきまして政府がとられました行動は、決して超法規的でもなければ、超憲法的でもないと思うのです。これは憲法が保障する基本的人権の保障、それを遂行する任務を政府は負う、憲法上の義務として負います。ですから、基本的人権の保障をするために行った行為、ことに基本的人権の中では、生命の保障というものは最大のものでございますが、その生命の保障、自由の保障をするためにとられた行為ですから、これは超法規的でもなければ、超憲法的でもない。明らかに憲法の精神に従った行動だと私は考えるわけです。だから、今度の政府のとられた行動を私どもは是認するわけです。もしあれが超憲法的、超法規的ならば、われわれはその行動を否定せざるを得ないわけであります。  このたびの報道におきまして言われておることが、実は超憲法的ではないんだけれども、それをいかにも超法規的という言葉で言われますというと、今後こういう問題が起こった場合には、超法規的行動をとってもいいということを一般に宣伝をし、そういう習慣をつくってしまうことになります。これは大変恐ろしいことです。憲法国家において、こうした超法規的ということがやすやすと言われ、実行されるならば、日本の国の存立は非常に危ないと思います。どこまでも憲法に従った行動をしていただかなければならぬわけでありますが、特にこの言葉を私は重要視いたしますのは、将来ハイジャックをした犯人が、たとえばわが国の国民主権制の廃止を要求した、あるいはわが国の特定の個人を名指しで要求した、それを人質に出せと要求した、こういうような場合に、超法規的行為として処置をされるのかされないのか、これが問題であります。この点についての御見解を承りたいと思います。
  107. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 先ほど私が申し上げたのは、飯田さんのお考えと同じだと思います。憲法の範囲内の行為である。たくさんの人の命を何とかして救わなければならぬ、こういうせっぱ詰まったときに、ああいう事態を予想した実定法はありませんから、でありますから、超実定法であるけれども憲法の精神にのっとった超実定法的措置である、かように申し上げておるわけでございます。憲法及び憲法政治下の根本を破壊するようなことにさらに超憲法的な措置をとるということは、わが国においてはできないことだと思っております。
  108. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 ただいま大臣がお述べになりましたとおりでございますが、私どもも、憲法は絶対超えるべきでないというふうに確信をし、これを死守するつもりでございます。その一つのあらわれとしまして、今回の事件におきましても、犯人側から九名の者の釈放要求がございましたが、何と言われましても意思確認をそれぞれについていたしまして、意思に反して出国をするというような事態がないことを絶対に確保したい、こういうふうな努力をしたわけでございまして、今後とも憲法を守っていくという気持ちはいつまでもわれわれ忘れてならないことだと思っております。
  109. 飯田忠雄

    ○飯田委員 大変明瞭な御答弁をいただきまして安心をいたしたわけでございますが、今度の事件におきまして、そうした憲法に従った行動を政府はおとりになった。おとりになったのになお超法規的というお言葉をお使いになる、これが私は非常に危ないと思うのです。といいますのは、憲法に従った行為をとった場合に、その憲法に従う行為を邪魔する法律、あらゆる命令は一切無効だ。これは憲法に書いてあることなんです。憲法に違反する法律、詔勅全部無効だ。そうでありますならば、今度政府人命を救助し、自由を保障するためにとられた行為、それを妨害する、障害となる法律があるならば、それはその限りにおいて無効扱いにされて一向差し支えないと思うわけです。そうであれば、これは超法規的でも何でもない、憲法に従った堂々たる行為をしたとおっしゃるべきだと私は思います。  そこで問題は、それはそれでいいんですが、そうした憲法に従った行為、それをおやりになったことは大変いいのですが、その陰で、実はそのことは余り直接にも間接にも関係のない違法行為が行われておるわけであります。そういう問題と今度の問題をごっちゃにされたんでは困るわけです。といいますのは、たとえば犯人の刑の執行停止手続、これにつきましては当然刑事訴訟法によりまして検察官の指揮が必要なはずであります。ところが今度の釈放を見ますと、検察官の指揮があったのかなかったのかどうもはっきりしません。新聞では、なかったように書いてあります。もし新聞の報道が正しいとしますと、なぜこのような違法をあえて政府は行われたのか、これは問題だと思います。人権保障をすることとは何の関係もないことなんです。堂々と検察官を指揮して、検察官の指揮によっておやりになって構わない問題である。しかも、それはおやりになっても憲法に従った行動をする、そのためのことですから、別に違法でもないと私は考えるのですが、こういう点について御見解を承りたいと思います。
  110. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 前回クアラルンプール事件の際には、内閣で犯人要求に応ずるという御決定がございまして、それを受けました法務大臣から検事総長に対して、検察庁法十四条の指揮権に準ずる措置といたしまして、検察官が釈放に必要な手続をとるようにと、こういう御命令があってそのような措置をとったわけでございます。ただいまおっしゃいましたことの中に出てまいりました、たとえば刑の執行停止でございますとかあるいは未決勾留者の釈放という問題につきましては、現行刑事手続法上これらをとり得る理由がございません。刑の執行を停止する理由にはこれらのこのハイジャック問題はなりませんし、それから未決の勾留者を釈放するという手続もこのような場合には実定法上ございません。ございませんが、当時の考えとしては、裁判の執行それから勾留も裁判の執行でございますが、あるいは公訴の維持、こういうものと密接に関連を持っております検察官が担当しております分野に密接した事項をこれから行おうとするのである、そういう意味において法務大臣は検事総長に御指揮をされた、こういうふうに理解をしておるわけでございます。しかしながら、再び今回のような事件が起きてみますと、検察と申しますのは、申し上げるまでもなく、憲法を守ることはもちろんでございますが、実定法を忠実に守り、その実定法秩序を守っていくべき責務を最大の任務としておる組織でございます。そこで、当時の大臣におかれましては、ここで再び釈放手続に検察を関与せしめることは、ただいま申し上げました検察の性格、使命からいいまして、今後における検察の運営またその活動に対しまして取り返しのつかないマイナスを生ぜしめるのではないか、こういうふうにお考えになりまして、今回の場合は特に行政プロパーの分野において措置をするのが相当である、こういうことで被釈放者を収容しております収容施設の長、これに対しまして直接釈放手続をとらせることとされまして、それを所管しております矯正局長を通じて当該拘置所長、刑務所長に対して釈放を命ぜられたわけでございます。  いずれにいたしましても、検察がいたしましても矯正当局がいたしましても、わが国の実定法にはない手続をとることに変わりはないわけでございまして、そのいずれの道を選ぶか、こういうことは内閣の命を受けられました法務大臣の指揮権と申しますか、大変口幅ったい表現でございますが、そういうものによってお決めにならざるを得ないことであり、また今回はそういう観点でお決めになったものというふうに理解しておるわけでございます。
  111. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは一つお尋ねいたしますが、今度の事件後、法務大臣がやめられました。辞職されましたが、やはりこれはこうした責任をおとりになったのでしょうか。どうでしょう。
  112. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 前法務大臣のお考えを聞きますと、これは責任をとったというよりも、いわゆる超実定法的な措置をとらざるを得なかった、しかしこれは異例中の異例であり、一部実定法には反しておるわけでございますから、法治国家というものの重大なる意義を国民の皆さんにも考えてもらいたい、それを法務大臣の辞任という事実をもって示したい、この政府措置に対しては、間違ったからそれに対して責任をとる、こういう意味ではなくて、法治国家維持には国民全体が決意を持ってもらうような重大な事態である、これを示したいのが辞任の根拠である、かようにお話がありました。
  113. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは最後に一つお尋ねいたしますが、これもいまの問題に関係するわけですが、旅券の冊子を持っていって渡されたということが、外務大臣もおっしゃっていましたが、新聞にも出ておりました。この旅券の冊子を持参されて犯人に手渡す行為、そこまで犯人要求しておったかどうかという点につきまして、新聞等によりますと要求してはいなかったというふうに書いてありますが、もし新聞の報道が正しいといたしますと、そういうことをやることは別にハイジャックによって抑留されておる人を助けるということとは直接の関係がない、まあ、やってもやらぬでもどちらでもいいことだと思われます。そういうことを特に親切におやりになるということは、特別の法的根拠があったのでしょうか、それとも急の場合なので頭が混乱してこういうふうになってしまったということでありましょうか、お尋ねをいたします。
  114. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 お答え申し上げます。  旅券冊子をあらかじめ携行させてございますが、携行させましたのは何らかの役に立つのではないかという特定の目的ではなくて、通常の判断として携行せしめたものでございます。先ほど先生御指摘の、石井政府派遣団長が、ダッカにおいて人質乗客全員を釈放したいという最大限の努力を尽くすべきであるという御判断をされまして、奥平を説得されたというお話を伺っております。その説得の過程において政府派遣団長が冊子を交付する、渡すということ、これは実際上は奥平に渡されたものではなくて、マームドという参謀長がおったわけでございますが、この方に渡されたわけでございますけれども、これはやはり乗客全員釈放の可能性は最後まで尽くすべきであるという緊急の御判断上なされたというように後から拝承しておるわけでございます。その意味では、奥平の乗機後四十数名近く乗客が釈放されました。この四十名の釈放によって残る者はわずか二十数名になった。この事実とこの問題とがどの程度絡んでおるかということの判断はこれは人によって分かれるところと思いますが、石井団長のお話を承りますと、奥平が乗った後はわが方においてはすでに何物も——身のしろ金も全部いっておるわけでございますし、奥平を最後に犯人が全部乗機しておるわけでございますので、これは四十人の乗客解放に役立ったという御判断を伺っておりますので、人命救助のためのやむを得ざる御判断であった、かように考えております。もちろん外務省といたしましては、本来法的効果は全くないものでございますが、その番号を全在外公館を通じまして全外国政府に通報いたしまして、念のためこれらの番号には注意するようにという措置を早速とっておる次第でございます。
  115. 飯田忠雄

    ○飯田委員 私、きょう時間がありませんのでやめますが、こうした今度とられた処置、これは大もとにおいては間違ってはいないと思いますけれども人命救助、自由の救助という問題に余り関係のない点において政府の部内的なところで法律に従わない行動がとられたということは、これは大変に遺憾なことであります。こういう問題について、ぜひ今後こういうことが起きないような御処置をおとり願いたいと思うものであります。  それから、なお私は今度の事件につきましての法的責任、政治的責任の問題をお尋ねいたしたいのですが、時間がございませんので、きょうはこれでやめます。後ほどぜひもう一度時間をいただければありがたいと思います。よろしくお願いします。
  116. 上村千一郎

    上村委員長 次に、正森成二君。
  117. 正森成二

    ○正森委員 それでは私から若干の問題について、本法案に関連のある事項について質問をさせていただきます。  私ども承知しておるところによりますと、ルフトハンザ機にはガブリエルというアメリカのガーフィールド銀行の頭取夫妻が乗っておったそうであります。犯人は、もし要求が聞き入れられないならば、このガブリエル氏を真っ先に処刑するということを通告してきてわが政府を威迫したということでありますが、そういう事実はあったのですか。
  118. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 ハイジャッカーが要求をわが方に対して突きつけまして、次第におどしをかけてまいりましたその中間段階で、いま御指摘のような人が第一番目の、彼らの言葉で言う処刑さるべき者として通告された事実はございます。
  119. 正森成二

    ○正森委員 いま答弁者が刑事局長だったのですが、こういうことは本来外務省が答えるべきことじゃないのですか。
  120. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 当時政府に設けられました対策本部で関係閣僚を初めとして協議が行われました。そこに私も幹事としておりましたので、その立場お答えしたわけでございます。
  121. 正森成二

    ○正森委員 同時に、私ども承知しておりますところでは、事件が発生してから二日目に、東京のアメリカ大使館が本国政府の訓令に基づく通告として、米国政府は日航機の米国人乗客の安全について憂慮しており、日本政府が彼らの安全の確保についてあらゆる措置を講じることを求める旨の通告をしてきたと言われております。こういう事実はあったのですか。
  122. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 お答え申し上げます。  ただいま先生御指摘の点でございますが、御高承のように今回の航空機には米国人十名が乗っておりました。これはちょっとあれでございますが、五十七名の外人が乗っておりまして、十七カ国でございますが、アメリカ人は十名でございます。私どもオペレーションルームに勤務しておったわけでございますけれども、米国、フィリピン、インドネシア、ニュージーランド、オーストラリア、それから韓国の各在京大使館から現地のダッカの様子はどうなっているかということを電話で照会してまいりまして、これに対しましてわが方としてはその時点における説明を行いました。一部は、インドネシアは在インドネシアの日本大使館を通じて、インドネシア国人の安否の問題を聞いてまいったことはございます。
  123. 正森成二

    ○正森委員 私の問いに直接はお答えになりませんでしたけれども、アメリカだけでなしに何カ国かの外国人がルフトハンザ機に乗っておるということで、それで日本政府に、私が述べましたような要請ないしは通告をしてきたことがあるかというように聞いたわけですが、非常に漠とした一般的な言い方でしかお答えがなかったのですね。よほど首をひねって考えてもよくわからないということなんで、もう少し端的に答えてください。
  124. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 お答え申し上げます。  ただいま先生から御質問のございました意味合いにおきます米国政府からの申し入れという個別的な事項はございません。これらの国の、いま申し上げました諸国の主として在京大使館から電話によって安否を聞いてきたということはございます。
  125. 正森成二

    ○正森委員 いま私の発言中ルフトハンザというのは日航の間違いで、ついうっかりして間違いました。  それで、日航機がハイジャックされたときに電話で安否を尋ねてきたということですけれども、その安否を尋ねるにも尋ね方があると思うのですね。ハイジャックされて、まだ爆破されていないかとか、まだだれも射殺されていないかという尋ね方と、それから私が申し述べましたように、日航機の米国人乗客の安全について憂慮しており、日本政府が彼らの安全の確保についてあらゆる措置を講じることを求める、あるいはこの言葉のとおりでないかもしれませんよ、しかしそうとられ得るような要請があったとしたら、これは安否について聞いてきたというものじゃなしに、できるだけ安全を確保されたい、こういう要請ですね。ですから電話で一般的に安否を聞いてきたということでなしに、もう少しはっきり答えてほしいのです。
  126. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 お答えいたします。  電話照会等の非常に詳細な言葉遣いその他につきましては、すべてについて記録があるわけではございませんけれども、私ども受けました方の印象から申し上げますると、やはり自国民保護の観点からこういう照会をしてきた。したがいましてそういう照会がありました以上は、単に安否という事実関係を聞いておるということでございますにしても、その裏には、やはり日本政府のしかるべき配慮を求めるという気持ちがあったことは推定できるかと思いますが、言葉遣いとしては、そういう外交的申し入れの言葉遣いにはなっておらなかったわけでございます。
  127. 正森成二

    ○正森委員 非常に間接的な、自国民保護という言葉で私の申しました趣旨が含まれていたやに間接的にお認めになったと思うのです。私がなぜこういうことを聞くかと言いますと、御承知のように、ロサンゼルス・タイムズ紙のジェームソンという東京特派員がこのことを承知して、そして、犯人とは取引しないとか言っておきながら、よその国に対して自国の乗客の安全確保を要求するのはおかしいではないかということを公然たる記事で発表したわけです。それに対して米国大使館の幹部は、申し入れの事実を認めた上で、ただあれはごく一般的な見解表明であるというように弁解しているのです。ですから、ロサンゼルス・タイムズの記者が報道したことを全面的に否定はしておらないということは、公表された、隠れもない事実だというように思うのです。米国政府としては日本にああせい、こうせいということを言ったわけではない。それはこう弁明するでしょうけれども、しかし、いま領事移住部長みずからも言われたように、単なる安否ではなしに、自国民保護の観点からの電話である、こう理解する、こういうように言い、そしてロサンゼルス・タイムズでああいうようにすっぱ抜かれてもなおかつこれを正面からは否定しないということになりますと、このガブリエルというのはカーター大統領の友人であるとかないとか言われているそうでございまして、その点については後ほど否定されたというようには聞いておりますけれども、こういうアメリカ人について生命の安全を保障してほしいと受け取られかねない外交的保護の要請があり、そして第一番にこのガブリエル氏を射殺し、処刑するという通報があって、その後犯人の言っているところでは、われわれの今度の作戦に米国人が非常に大きな役割りを果たした、米国人を処刑すると言ったら日本政府は一も二もなかったということを公然と後ほど言っているんですね。そうしますと、アメリカ政府が、事件がある程度進行した後で、あたかも日本政府態度を非難するかのごとく、ルフトハンザ機のドイツの態度を非常に称揚して、米政府はいかなる意味でも取引はしないとか、場合によっては西独方式を行うだけでなしに、相手国政府の了解がなくても米国政府としてはとるべき措置をとる、つまり相手国の空港に米空軍あるいは特殊部隊が強行着陸をしてでもハイジャック犯人を制圧するかのごときことを言っておる。自分ではそういうことを言いながら日本政府に対しては外交保護権という名前でも、どんな要人が乗っておったかもしれないけれども生命の安全を保障するように配慮されたいと受け取られかねないことを言ってくるというのでは、米国政府のたてまえと本音は全く違うじゃないですか。そして、それにもちろんわが日本国民も乗っておりますから、人命尊重は大事ですけれども、処刑の第一号がそういうことだったということでわが政府態度が動かされて、もう少し粘り強く交渉したらいいと思うのにそれもできなかったということになるのならば、これはわが国の主権の観点から見てもゆゆしい問題であると思いますので、もう少しはっきり答弁してください。
  128. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 先生御指摘の点でございますが、重ねて申し上げさせていただきますけれども、特定の申し入れは受けておりません。したがいまして、われわれとしては、恐らく自国民保護の観点からその消息を知りたいということに理解しておるということをまず御了承いただきたいと思います。  それから、ガブリエル氏の、先方の言葉で申しまする処刑ということでございますけれども、これで日本政府が直ちに犯人要求に応じたということではございません。これは人命尊重という基本的な方針からして日本政府の対応が決まったわけでございまして、米国人のガブリエル氏の、向こうの言葉で申しまする処刑のためにそういう決定が行われたという要素はないと存じます。
  129. 正森成二

    ○正森委員 しかし、同様当時広く報道されたことでございますけれども、ガブリエル氏はそういうように処刑第一号になりながら、一日の夜の八時過ぎに女性乗客ら六十九人の釈放に先立って機内から外に運び出された。本人は意識を失って倒れて、気がついたら外に出されていたと語っているそうですが、病院に収容されてしばらく後に、笑いながらくつろいでいる姿をバングラデシュ・タイムズのカメラマンが目撃をしておる。そこで、広く言われているところですけれども、これは別のルートで、別途に身のしろ金を支払うという約束ができて、先に解放された身内の人が金を指定の場所に払い込んだからこういう病院に先に釈放されたのではないかということまで言われているわけですね。もしこういう事実があるとすれば、私は、管制塔との応答以外にこういうことが行われる可能性はないと思うのですね。ですから、日本政府は当然あの参謀長と同様に承知しておるはずであります。ですから、もうそういう事実があるならば今後のためにもその事実を公表されたいと思います。
  130. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 私どもの記憶によりますと、十月一日の、日本時間でございますが二十三時四十分にガブリエル氏が健康障害の理由で解放されたということでございます。先生がただいま御提起されましたような事実関係はございません。
  131. 正森成二

    ○正森委員 私が指摘したような事実関係はないということですけれども、処刑第一号になった者が婦女子よりも先立って釈放される。しかも意識が不明であるといいますが、あの方は何か前立腺か何かに病気があって尿が出ないという状況であったにもかかわらず、犯人側はがんとして釈放しなかった。それが突如として釈放されたということの中には、ガブリエル氏をめぐる何らかのニュアンスを伴った回答がなされて、それが犯人側に了承されたというように見るのが非常に普通の解釈ですね。しかも、そういう人間が意識不明で倒れておったのに、知らぬ間に外に出ておったなんということは通常なかなか考えられないですね。自分はいつ射殺されるか射殺されるかと思っているのですから、意識がなくなって、倒れてしまって気がつかないということはなかなかないですね、一生懸命自分の命を守ろうと思って緊張しているわけですから。ですから、こういうような事実関係には非常に疑問がある。だから日本政府は知っておって発表できない事実があるのではないか。またアメリカ大使館からそういう外交保護に基づく申し入れがあったということについても、あなた方からは必ずしも公表されていないですね。そういう点で、私たちは、非常に本件のガブリエル氏をめぐる動きについてはすっきりしない、明朗でないものを感じるのですね。いかがですか。
  132. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 お答えいたします。  ガブリエル氏の釈放のときのガブリエル氏の健康状態というのは、先生の御指摘のような前立腺の障害であったというふうにわれわれも承知いたしております。ただ、ガブリエル氏についていま御指摘のような何らかの事実関係があったかということは、これは全くございません。
  133. 正森成二

    ○正森委員 そういうぐあいにおっしゃるんでしたら水かけ論になりますから私の質問を転換させていただきたいと思いますが、少なくともアメリカ政府が、取引は一切しないとかあるいは断固たる措置をとって譲歩というものは考えられないというようなことを事件の進行がある程度いった中で公表しましたけれども、しかしアメリカ政府もやはり人の子であって、自国国民生命というものについては、外交保護権という一般的な名であろうともそれを尊重されたいということを申し入れてきたということを外務省当局が認めたということは記録にとどめておきたいと思うのです。私は、このことがいけないと言っているんじゃないのです。いけないと言っているんじゃないのですけれども、たてまえだけを言うのではなしに、人の生命というものはアメリカ人であれ日本人であれ非常に大切であり、そして場合によってはその生命も犠牲にしなければならない場合があり得るというように法務大臣も言われました。私も、そういう事実が全くないと断定することはできませんけれども、しかし人命というものはなし得る限り最大限に尊重をして事を処理しなければならないというように考えるものでございます。  そこで法務大臣に伺いたいと思いますが、先ほどから同僚議員も質問されておりましたので前置きは簡単にしたいと思いますが、前回は超法規的措置と言っておられたのが今回は超実定法的措置というように言い方をお改めになりました。また、たしか私の承知しているところでは、クアラルンプールとの例を比較しているのですが、前回は検察官が同行して釈放指揮書を交付したというように聞いておりますが、今回は釈放指揮書をお出しになったのかどうか、そこら辺の差から聞いていきたいと思うのですが、いかがですか。
  134. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 先ほど来お答えしておるわけなんですけれども、前回はいわゆる超法規的措置であるということを言ったわけで、今回は超実定法的措置、これは私は内容は変わらないと思いますが、先ほど来申し上げておりますように、こういう事態に対処してとりましたああいう措置はいわゆる実定法には規定がない。しかし、人命を何とか助けようということから——私はよけいなことかもしれませんが申し上げておりますように、憲法諸法規というもので法治国家をつくっておるのはやはり人間の幸せを図るための制度だといいますか、その最高のものは人命であります。でありますから、そういう憲法下における人命ということを何とか助けたい。しかし規定がない。規定がないけれども、規定がないというよりも規定に外れる、実定法に外れる措置をとるが、そういう高度の法理論によって措置をした、これを超実定法的措置、こう言っておると思います。まあ私はその当時局外でありますから、これは私の認識、解釈でございますが、超法規的措置といいますと、何か憲法を初めもう全部法律を離れた措置をしたように誤解されるおそれがある。でありますから、超実定法的措置というのが正確な言い方である、かように解しておるわけでございます。  それから、後の指揮の問題については刑事局長からお答えいたします。
  135. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 前回のクアラルンプール事件のときには検察官が護送指揮書と釈放指揮書を発しました。今回は発しておりません。
  136. 正森成二

    ○正森委員 その差異がどこから出てきたのであろうか。それから、非常に失礼な言い方ですが、新聞報道によりますと伊藤刑事局長は、今回は矯正局が行政行為としていろいろやったけれども、次回こういうことが起これば矯正局もこれを拒否するということが新聞に報道されておるのですね。  前回は検察官が護送指揮書と釈放指揮書を出したが、今回は出さなかった、その変化の理由ですね。それからさらに、今回はこういうことだったが、次回は矯正局も法務大臣の命令を拒否するということを新聞に報道されておるその根拠あるいは考え方の底に流れるものについて説明をしていただきたいと思うのです。
  137. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 前回は釈放に検察が関与し今回は関与しなかった理由は、先ほども他の委員の御質問に対して申し上げましたが、簡潔に繰り返しますと、前回クアラルンプール事件が発生しまして、被拘禁者の引き渡しを要求をされました。わが国にとっての初めてのことでございました。この時点において内閣では要求に応ずるという御決定になり、これが法務大臣におりてまいりました。法務大臣としては、被拘禁者を釈放するという手続は、公訴の維持それから裁判の執行を預っております検察の事務に密接関連する分野に属する事務であるというふうに御判断になりまして、検察庁法十四条に定めます指揮権発動の例に準じまして検事総長に釈放の手続をするように仰せられ、それが順次おりまして、最終的には東京地方検察庁の検察官が東京拘置所長に対し護送指揮、釈放指揮をいたしたわけでございます。ところが今回再び不幸な事態が起きまして、いろいろ紆余曲折はございましたが、犯人要求を入れるという内閣の御決定があり、それが法務大臣におりました段階で、法務大臣としてはいろいろお考えになりました結果、憲法はもとより実定法を最大限に尊重し、その実定法秩序を守るということを最大の使命としております検察が、今回再び釈放手続に関与いたしますことは検察の今後における運営に大きなマイナスになる、こういう御判断をなさいまして、今回は検察を関与させない、直接所管の矯正局長を通じて刑務所、拘置所の長に対して釈放を御命令になる、こういう手続をおとりになったわけでございました。  そこでお尋ねの後段でございますが、これは仮定の問題でございましてやや申し上げるのが僭越かと思いますが、もし今回、前回と同様に法務大臣から検事総長に対して釈放手続に関与するようにという御命令がございましたら、検察は、はなはだ意に満たないことではありましたでしょうけれども、応じたと思います。矯正は現実にこれに応じたわけでございます。しかしながら振り返ってみますと、前回クアラルンプール事件の際にも体験したことでございますが、多くの人の血まで流してやっと捜し求めて裁判の場に引き出した、あるいは裁判の結果服役中の者を釈放しなければならないという検察の無念さ、これは検察は警察の立場も代表してその無念の念にむせんだわけでございますが、そういったことを考えますと、第一線の検察官、その指揮書を書かされました一人はかく申す私でございますが、もう二度とやらせてほしくないという気持ちがあることは否定できないわけでございます。  同じように、これは私どもの所管ではございませんが、今回矯正当局がとられました措置について、矯正の一線の人たちは四六時中被拘禁者を逃がさないように一生懸命見張っておられるわけでございます。そういう人たちが、はるばるダッカまで連れていって釈放せざるを得なかったことについてのやるせなさ、無念さというものは、私どもも察するに余りがあろうと思うわけでございます。したがいまして、検察もそれから恐らく矯正の人たちも、一線の人たちは、この次またあったら本当にやりたくないなという気持ちでいっぱいであろうと思うわけでございます。私はさる機会に感想を求められました場合に、率直にただいま申し上げましたようなことを申したわけでございます。ただ私どもも役人でございますから、また今回あるいはクアラルンプール事件のときの内閣の御決定、それに基づく法務大臣の御命令が憲法違反あるいは全くの違法な行為であるというふうには考えておりませんので、御命令があれば従わなければならない、こういうふうには考えておりますが、率直な感想として以上のようなことを申し上げたことがあるわけでございます。
  138. 正森成二

    ○正森委員 いま刑事局長の情理を尽くした答弁でその心境はわかりましたけれども、私がなぜ聞いたかといいますと、検察庁法十四条に準ずるというようなことで、その表現は、前回のクアラルンプールのときにたしか東京の地方裁判所の該当部から釈明要求がありまして、それに対して昭和五十年の八月二十二日に検察から釈明文というのが出ておりますね。その中にそういう言葉が使われておるわけですが、そもそもこういうような事件の場合には、検察庁法十四条に準ずるなどと言いましても、あの条項を使うべき場合でないですね。ですから検事総長を指揮をして釈放指揮書を書かせるという措置をとらなかったという方が私は妥当であると思います。ただしかしそれにしましても、われわれは決して望むわけではありませんが、どんな事態で多数の人命を擁護するために今回に似たようなケースが起こらないとも限らない。そういう場合に検察は拒否する、それから矯正局長も拒否するということになりますと、一般の私人か、あるいは法務大臣が直接出かけていって矯正当局なり刑務所を実力で排除して、そして出すというようなことになれば、それ自体法秩序の上から大変なことですね。ですから、超実定法的措置というのは実定法には反するけれども、全憲法体系の趣旨や法律の趣旨から見て、人命擁護のためには許され得る行為であるということで超実定法的措置ということが言われるわけですから、そういう場合に検察も拒否する、それから矯正局、刑務所側も拒否する、後はどうなときゃあなろたいというのでは、これはぐあいが悪いわけです。ですから、そういうことまでお考えになってあの発言をされているとすれば、これは国家のために重大なことであるというように考えてあえて質問したのですが、いまの御答弁でそういう意思ではないということがわかりましたので、その点はこの程度にしておきます。  それでは矯正局長に伺いたいと思いますが、今回九名を釈放しろということで意思確認を行った上、出国の意思がないという者を除いて拘禁の者は外へ出すということで事実上釈放したわけですが、そのときに、伝え聞くところでは作業賞与金というものを出したとか出さないとかいう報道があるわけです。私としましては、事実上釈放された者について、実際に支給すべき金額はどれぐらいあったのか——もし通常ならばですよ、そしてそのうち支給されなかったのはどれぐらいで、それはどういうわけで、支給されたものはどれぐらいで、それはなぜ支給したのか、詳細に答弁してほしいと思います。
  139. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 今回の措置が超実定法的措置であるという点につきましては、大臣及び刑事局長から御答弁のあったところでございまして、私自身も、実定法にない手続を進めるに当たりまして悩みつつ決断し指示したことも多かったのでございますが、この作業賞与金等の交付についても同様のものの一つでございます。  先に全体を申し上げますが、持っていきました金額は六人中合計で十六万八千円余りでございます。全然持っていかなかった者が二人でございまして、持っていきました者がしたがって残りの四人になります。一番少ないのが千六百円余り、次が一万円と少し、その次が五万六千円余り、その次が九万九千円余りでございます。残しました金額は四十万円でございまして、合計いたしますと五十六万九千円になります。  この釈放の際に支給すべき金額は、いわゆる御指摘の作業賞与金のほかに領置金がございます。それから死傷病手当金がございます。これらを含めてのことでございまして、先ほど申し上げました金額のうち、千六百円余りと一万円ちょっとと申し上げましたのは領置金だけでございます。残りの九万九千円余りと五万六千円余りは作業賞与金と領置金の一部が入っております。残りました金額の一つは三十二万円余りでございまして、もう一つは五万円余りでございます。これは金額が多いのでございますが、いずれも親族に渡してくれということで残っております。残りの分は二千九百円余りと二万三千円余りでございますが、これは弁護士、知人として渡したようでございますが、弁護士にいわゆる宅下げになっております。  御承知のように超実定法的な措置ではございますが、それ以外はできるだけ実定法の手続に従って釈放措置をとるということでございまして、それで措置をとったという一語に尽きるのでございますが、恐らく御疑問の点は、逃亡の場合であればこういう金は残していくではないか、それをなぜ支払うのか、こういう点にあろうかと思います。もちろん逃亡の場合には払わないのでございますけれども、今回の場合には、内閣の決定に基づき法務大臣から私あて御指示があり、私が東京拘置所長あてに護送及び釈放の指揮をいたしております。先ほど来、検察官への指揮の点がクアラルンプール事件との比較においてお話しがありましたが、それと同様な面で私の指揮書を東京拘置所長あてに渡しているのでございます。こうした面から考えますと、支払わざるを得ないという結果に相ならざるを得ないのでございます。しかしながら、もう一つの観点から申し上げますと、釈放が決まりますまでにすでに六百万ドルという多額の金が支払われておりました。それに比べれば、先ほども申し上げたような金額でございまして、少ないという気持ちがあったということは否めない点でございます。  それからもう一つは、金ならいかぬが物ならどうかという問題がございます。たとえば、このうちの長期囚は長い間刑務所におりまして、パンツから上に着ているものまですべて刑務所で支給したものでございまして、これもいけないとなれば裸のまま出さざるを得ないということになって、これはどうも当を得ない。それからもう一つは、具体的な名前を申し上げることは避けさせていただきますが、病気の者がございます。脱肛でございまして、用便の後三十分以上手当てをしないと出たものが中に入らないという者がございまして、これには実は薬も少々ではございますがつけております。それと、とにかく持たしたものが十六万で残したものが四十万という点からおわかりだろうと思いますが、一言で申しますと、できるだけ日本に未練を残させた方がいいのではないか、家族の者に少しでも金を残すという気持ちがあるならば、外国に行った場合に再び犯罪を起こす際の心理的な障害になりはしないかという気持ちが働いたことも事実でございます。  かような複雑ないろいろな事情を一挙に解決して指示をしなければならない時間的な制約があったのでございますが、そういう点で四十万円は残させましたけれども、合計十六万円は四人の者に持たして出したというのが事実でございます。
  140. 正森成二

    ○正森委員 いま石原矯正局長がるる御答弁になったわけですけれども、私としましては御苦心のほどはよくわかるのですけれども、しかし国民の感情から言えば、私は幾つか新聞も読みましたけれども、大部分の家庭の主婦などは、これは非常に石原さんに酷な表現ですけれども、盗人に追い銭という言葉を使っているのですね。幾らああいう不法な要求で出獄するにいたしましても、出獄する者自身が実力で拘禁を排除して出るわけではありませんから、だからこれらの人が出る場合に、パンツも官給品であるからはかせない、服はもちろん着せない、病気であっても普通使用しておる薬も持たせないというようなことまではしなくてもいいだろう、それは社会的な常識によって決めるところである。しかし、まさかそこへ連れていくまでの機内で食事を食べさせないとか、水を飲ませないということはないので、向こうに引き渡すまでは当面金は要らないわけです。ですからそういう者について、作業賞与金については逃走の場合には計算高から抹消すべしという規定もあって、事実上逃走と同様に扱って、帰ってきた場合には、わが主権内に入った場合にはもう一度拘禁をするというのが検察のたてまえであるにもかかわらず、至れり尽くせりに、家族に返すものは返されるけれども、それ以外のものは持っていかせるということ、そういうことが超実定法的措置という考え方に明白に反するのではないか。いま伊藤刑事局長が、涙に暮れたとまではおっしゃらなかったけれども、それに近い表現で釈放を指揮するその無念さを訴えられたんですが、そうすると、犯人を六人なり七人なり釈放して外へ出させるということと、それから要求している六百万ドル、約十六億円というお金、これは渡さなければ人命に影響があるということであるから、超実定法的措置として要求に応ずる。しかし自分の権限内でやらなくてもいいことについては、検察官も検察庁法十四条に準ずるというような措置法務大臣になるべくとってほしくない、普通行う検察官の指揮書も書かないということで、矯正局長に行政的な措置として命令したわけです。そうすると矯正局長としても、作業賞与金の十何万何がしをつけなければガブリエルを射殺するとかあるいはだれそれをどうするというのなら別ですけれども、あなた方がいみじくも言っておられるように、十六億円の一万分の一だという金について彼らハイジャッカーも問題にしておらないという場合には、幾らいろいろお考えになったとしても、まさにこの十六万円という額は、金額の問題ではなしに、そこにわが政府は実定法に反するようなそういう行為は許さない、しかし憲法体系全体から考えて、人命も大事であるから超実定法的に憲法体系からやむを得ないと思われる要求だけはのむということが明白にあらわれると思うのですね。私は、十六万円というのは一万分の一という額ではなくて、日本政府のある意味では心構えをあらわしておる額である、こう思うのです。それを、パンツ一つで出すわけにいかぬからというようなものと同列に扱って、十六万円を持たしてやるというように、短時間の間ではあれ、決断をした矯正局長あるいはそれを是認した法務大臣態度というのは、これは国家としての背骨を一本欠いておるのではないかというように私は思うのですが、いかがでしょうか。
  141. 石原一彦

    ○石原(一)政府委員 そういうお尋ねになろうかと思いまして、冒頭、悩みつつ決断、指示した一つであると申し上げた次第でございますが、私どもも、いかに実定法以外の点については実定法に基づくとはいいながら、後から考えまして余りすっきりした気持ちでないことは事実でございます。私自身、前回のクアラルンプール事件におきましては、最高検におりまして直接事件に関与し、無念の涙をのんだ一人でございますが、今回矯正局長として関与いたしまして、ここまでしなければならないのかという点に自己嫌悪を覚えているところでございますので、その点につきましては、先ほど私が申し上げました、一瞬の決断の間に相当な思いが胸の中と頭の中を駆けめぐりつつ決断したことだということで御了承を願いたいと思います。
  142. 正森成二

    ○正森委員 非常の場合のことですから、私は矯正局長をこれ以上追及したりあるいは質問を続行したりしようとは思いません。しかし私は、瀬戸山法務大臣に一言決意のほどを示していただきたいと思うのです。  大臣は、場合によっては血を流してもという発言をされました。私は、血を流すというようなことは最大限避けなければならないということで、それを軽々しく発動してもらっては困ると思います。また、伊藤刑事局長は、検察は拒否する、それから場合によっては矯正局も拒否したい気持ちだということをおっしゃった、それぐらいな気持ちを持っておられるならば、今後そういうことが二度と繰り返されるということは、予見するということはよくないことですけれども、今後はそんな作業賞与金を盗人に追い銭的につけてやるということは、法務大臣としては心して、矯正局長が悩まなくてもいいように、法務大臣の責任でそういうことをしない。そういうことをやらなくたって人命は無事に帰ってくる場合があるわけですから、拘禁中の刑事犯まで釈放するわ、六百万ドルはつけるわ、その上にまた作業賞与金までつけるというそういうことはやはりやめるという決意を表明していただきたいと思いますが、いかがですか。
  143. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 御承知のとおり、私はその後で就任したのでありますが、石原矯正局長からいまの事態は説明を聞いております。しかし、それは淡々たる気持ちでなくて、ああいう事態の中で命令が出て、それこそ既決の囚人を預りこれを間違いなくそこに収容しておる、それから未決拘留の者を裁判の進行中これを間違いなく保持しておく、こういう職責の人々が、しかもダッカまで送り届けていかなければならない、だれが送り届けるか、非常な愁嘆場といいますか、苦心惨たんがあったことを聞いておるわけでありまして、後になりますといろいろ批判されるところがあるわけでありますが、それはひとつ御了承いただきたいと思います。  まあ後になりますと確かに、とにかく働いた作業報酬あるいは自分の所持金等領置してあったもの、これは出て行くのだからやったということなんですけれども、今後さようなことがあれば、これはまさに公正な釈放じゃないのですからやるべきでない、かように考えております。
  144. 正森成二

    ○正森委員 それでは、大臣からそういう御答弁がありましたから、この問題はそれだけに済ませたいと思います。  私は、今回の政府のとった措置人命尊重からいって根本的に間違っておると言うわけではないのです。基本的にはああせざるを得なかっただろうと思いますけれども、それにまつわる周辺部分についてはずいぶん心構えに不十分な点があったのではないか。今回のその十六万何がしの点も、額はわずかですけれども、心構えの点で不十分な点があった一つのあらわれだと思います。  私はもう一つ伺いたいのですが、こういうことは言いにくいのですが、石井運輸政務次官が行きまして、他の委員会でも質問があったことだと思いますから簡単に言いますけれども、奥平と最後に話し合ったときに、わざわざこっちから何か希望はないかというようなことを言って、例のあの旅券の問題が起こった、こういうことになっているのですね。何か希望はないかというようなことを、いよいよ最後に奥平を釈放し人質全部と交換するという場合に言って、またまた要求を引き出してくるというのも、ある意味では盗人に追い銭というかっこうになると思うのですね。それからさらに、私は行政当局は規律がたるんでおるといいますか、政治に対して非常に不遜な考えを持っておるのではないかという気がしてならないのは、十一名の旅客が旅券を奪われておるということが報道をされました。それは入管の方ではちゃんとわかっておって、三日と五日に人質乗客が帰国したときに、渡航証明書または帰国証明書で入国を認めていた。ところが、出先の入管はこのことをしかるべき上司にも言わなければ、まして政府対策委員会あるいは幹事会というところに言うておらないというのですね。私は、ここらにも、いかにこの事件国家の権威あるいは威信という点からは重大な意味を持っておるものであり、そういうことを御用聞きのように何か要望はないかということを言ってみたり、あるいは帰ってきた乗客の中に旅券をとられている者があればその旅券は直ちに偽造に使われる可能性が十分にあるわけですから、即刻上司に報告をするというのが当然の官僚としての態度だと思うのですね。それを相当期間にわたって報告しておらないなどということは綱紀弛緩もはなはだしい。本当ですよ。法務省当局は何よりも規律を重んじなければならないのに、そういうような態度をとっておるということについてどう考えておるのか、明確な答弁を求めたいと思います。
  145. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 お答えいたします。  釈放された人たちの救援機が戻ってまいりまして、その中で日本人で九名が旅券を持っておりませんでした。その一名は帰国のための渡航書を持っておりましたので、それに帰国証印をしたわけでございますが、あとの八名は何も文書を持っておりませんでしたので、これには、日本人であるということを確認いたした上で帰国証明書を出したわけです。それから外国人二人が旅券を持っておりませんでした。これは、尋ねますと、もともと旅券はもちろん持っていた、それから日本にいた外国人でございまして、日本を出るときに再入国許可書をもらって行った、こういうことを申しまして、わが方調べてみますと、確かに再入国許可書を発給しておりますので、それで確かめました上で仮上陸を認めまして、その後この二人については在京大使館から旅券再発給されまして、その旅券を見せてもらって今度は正式に上陸許可をしたわけでございます。  それから、ただいま御質問の中で、この失われた旅券といいますか犯人に結果的にとられました旅券が不正に再度使用されることがあってはいけないということで、直ちに外務省と連絡をいたしまして、外務省ではすぐ在外公館にこれらの旅券番号を一斉に通報した次第でございます。したがいまして、事務的には、とるべき措置は即刻全部とった次第でございますが、上層部への報告が結果的に遅くなりまして、それについて国民の皆さまに、政府は何をしているかというような印象を結果的に与えましたことについては深く反省している次第でございます。
  146. 正森成二

    ○正森委員 いま入管局長から、外務省にも連絡をしたし、とるべき措置はとったと言われましたけれども、通常の場合に旅券をどこかで紛失したとかいうのではなしに、まさにこういうハイジャックに関連して犯人が奪取した場合ですから、何よりもハイジャック対策委員会の首脳部に連絡をして、それが重要なことであると判断するかどうかは上層部が判断すべきことである。下級が、こんなものは通常の連絡ルートで連絡さえしておけば、ハイジャック対策委員会の首脳部に報告しないでもいいというように判断する、そこのところが官僚独善といいますか、やはり政治というものの判断を軽視している。それは一つには、大臣にはえらい申しわけありませんけれども、自民党の歴代内閣の大臣がしっかりしていないから、官僚がちゃんと判断しておればそれでいいと思われている向きがあるんじゃないかというようにも思うのですね。さる刑事局長がさる大臣に、官僚ではなしにあなたが判断していただきたいという名言を残したとか残さぬとかいうことも聞いておりますけれども、まさにやはり政治というものがもっと責任を持ち、官僚から政治に対し報告をしなければならない、そういう信頼感と威信をぜひとも持つ必要があるということをあえて申し上げておきたいというように思います。  それでは、時間がありませんので、法案の条文の審議に入らせていただきます。  法案の条文の中でお聞きしたいことが若干ございますが、時間がありませんので、ほんの二、三点にしぼって聞かしていただきたいと思います。  航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律の一部改正に関連することでありますが、その第四条を見ていただきますと「不法に業務中の航空機内に、爆発物を持ち込んだ者は三年以上の有期懲役に処し、銃砲、刀剣類又は火炎びんその他航空の危険を生じさせるおそれのある物件を持ち込んだ者は二年以上の有期懲役に処する。」と、こう書いてあります。そこで、爆発物を所持するとかあるいは銃砲刀剣類や火炎びんを所持するとかいうのは、すでにもう処罰を定めた刑事法典があるわけであります。それを、さらにこういうように新しく条文を設け、刑を重くしたのは、ひとえに業務中の航空機内に持ち込むということを新しい構成要件としてとらえたからであるというように思いますが、そのとおりですか。
  147. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 おおむね御指摘のとおりでございます。
  148. 正森成二

    ○正森委員 おおむねというように言われましたが、そうすると、私が言うた以外にも目的があるのだと思いますが、それについて簡単に説明してください。
  149. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 単に、ここに列挙しました物件の単純所持に対して加重類型をつくるというだけの意味ではない、こういう趣旨でございます。
  150. 正森成二

    ○正森委員 そうすると、もう少しはっきり言っていただくとどういうことになりますか。
  151. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 およそ業務中の航空機の中へ物件の性質自体危険性のあるもの、そういうものを持ち込むことは、やはり十分厳しく罰せられるべきである、特にそのものがハイジャック等に用いられる可能性があるということにも思いをいたして、そういう観点から構成要件を考えておるわけでございます。
  152. 正森成二

    ○正森委員 いまのお話で意図するところがわかりましたが、しかし、この第四条というのは、ハイジャックを行うことを目的としてというような、爆発物取締罰則に目的の条項がありますが、そういう目的は必要なくて、単にこれらのものを業務中の航空機に持ち込んだという、そのことを処罰するわけでしょう、そうではないですか。
  153. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 そのとおりでございまして、危険なものを持ち込むということをいたしますと、そのもの自体の属性として危険が発生する場合もありましょうし、またよからぬ人がそれらを用いて危険な行為に及ぶ場合もあり得る、そういう背景のもとに考えておるわけでございます。
  154. 正森成二

    ○正森委員 そこでお伺いしますが、私は爆発物とか銃砲刀剣類あるいは火炎びんについてはそれなりの理由があると思います。しかし、その次に「その他航空の危険を生じさせるおそれのある物件」というのは、これは刑事法典としては類例を見ない、つまり、構成要件がきわめて不明確であるというそしりを免れないですね。私は寡聞にして、刑事処罰を行う構成要件の中に、こういう「生じさせるおそれのある物件」というような表現は知らないわけであります。ここに同僚の羽田野忠文議員がおられますけれども羽田野忠文議員が、昭和四十五年の十二月七日に人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律案というものについて質疑を行っておられます。これは必ずしも本法とは同じではございませんけれども、御記憶にありますように「公衆の生命又は身体に危険を生じさせた者は、」というふうに第二条はなっているけれども政府あるいは法務省の最初の要綱の際には「生命の危険を生ずるおそれのある状態を生じさせた者」ということになっておったわけですね。これは「状態」という言葉が入っておりますから本法とは比較はできませんけれども、この「おそれのある」というのは非常に漠とした表現ではないかということで、羽田野議員を初め各議員から論議があったわけですね。与党は、原則としてこれは削除すべし、野党の中にはこれを残しておいた方が公害を防止する上でいいという議論もありましたけれども、しかしいずれにせよ、その論議の中心は、刑事処罰を加える構成要件を定める中に「おそれがある」というような、そういう表現が妥当であるかどうかということについて論議が行われたというように私は承知しているわけであります。  本件については「航空の危険を生じさせるおそれのある物件を持ち込んだ者」ということで、しかも刑が二年以上の有期懲役といいますと、これは十五年に至る非常に重い刑罰であります。しかも第五条には「前条の未遂罪は、これを罰する。」ということになっておりますから、ハイジャックを行うような目的があろうがなかろうが、航空の危険を生じさせるおそれのある者が物件を持って金属探知器のところでもくぐろうとすれば、先ほどのあなたの御答弁では、実行の着手があったということで未遂罪になる、こういうことになりますから、非常な重刑なんですね。行政取り締まり法規ならばこういう規定というのは必要であろう、私はこういうぐあいに思いますけれども、重刑を科するという中にこういう不明確な構成要件を置いて、そしてそのままで手当てをしないということになりますと、国民の権利義務を守る上から、ハイジャック防止するという点ではいろいろあるでしょうけれども一般的に言いますと非常に拡大解釈される余地のある条項ではないか、こう思いますが、何か歯どめを考えていますか。
  155. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 ただいまお尋ねの「その他航空の危険を生じさせるおそれのある物件」こういうものが無制限に、ただおそれのある物件ということで広がっていけば切りがないという趣旨の御質問はそれなりによく理解できるわけでございますが、そういうものがみだりに拡張解釈をされないために「銃砲、刀剣類又は火炎びん」こういうふうに例示しておるわけでございまして、その例示とそれから刑がただいま御指摘のように相当重いということと相まって、解釈上はおのずから定まってくるのではないか。たとえば特別の劇薬でございますとか、あるいは火炎びんの定義は充足していないけれども、火炎びんに類するものでございますとか、そういうものが考えられるわけでございまして、それら考えつくもの、またこれから発明されるであろうものを全部書くということが非常にむずかしゅうございますので、例示とそれから刑から出てくる解釈の幅というもので担保が可能であるというふうに考えておるわけでございます。  なお、罰則をかけておりますものの中で「おそれのある」とか「おそれがある」とかいう文言を使っておりますものとしまして参考までに申し上げますと、懲役刑を規定しておりますものといたしましては道路交通法の第六十二条、それから薬事法の第六十五条、鉱山保安法の第二十五条の二、食品衛生法第四条等がございます。あと二、三ございますが、省略いたします。後段の部分はそういう例はあるという意味で申し上げるだけのことでございます。
  156. 正森成二

    ○正森委員 道交法六十二条などをお引きになりましたけれども、あの場合は「おそれがある」といいましても、前後の文章からどういう場合であろうかということで予測かつくわけですね。ところが、本法の規定の仕方では「その他航空の危険を生じさせるおそれのある物件」ということで、あなたは前の方に爆発物だとか、銃砲刀剣類とか、火炎ぴんと書いてあるからそれで類推される。それからまた、これはわりと独創的な意見だと思うのですけれども、刑が重いから構成要件も特定されるだろうというのは、刑法の教科書でそういうのが書いてあるということは私は余り知らないのです。刑が重いからよくよくのものでなければ処罰されないだろうというような解釈をされましたけれども、しかし、あなたの方のいただいておる資料から見ましても、銃砲というのはどういうものをいうかとか、刀剣類というのは刃渡り十五センチ以上であるとか、あるいはそれより短い場合は飛び出しナイフで、角度が何十度くらいのものであるとか、詳細に書いてあるんですね。それから火炎びんの場合でも、火炎びんだけを処罰するのじゃなしに、たとえば第三条の二項では「ガラスびんその他の容器にガソリン、燈油その他引火しやすい物質を入れた物でこれに発火装置又は点火装置を施しさえすれば火炎ぴんとなるものを所持した者も、前項と同様とする。」とか、誤解を避けるためいろいろ条項があるわけですね。  また、「おそれのある」ということで処罰が決まっておるものはあるということでお挙げになりましたが、私も多少調べました。本法と余り関係のないものではいかぬと思いましたので航空法を調べたら、航空法にそういう規定があるのですね。たとえば航空法の五十三条を見ますとその二項に「何人も、飛行場内で、航空機に向かって物を投げ、その他航空の危険を生じさせるおそれのある行為で運輸省令で定めるものを行ってはならない。」この場合には「おそれのある」ということは言っておりますけれども「運輸省令で定めるもの」というように限定しているのですね。そして同法施行規則の九十二条の四では「おそれのある行為」を列挙して、たとえば「着陸帯、誘導路又はエプロンに金属片、布その他の物件を放置すること。」とか二つないし三つのことが明定されているわけでありますね。しかも、この罰則が幾らかと思ってその法律を調べてみたら、罰則自体は非常に軽いのですね。航空法の第百五十条で「五万円以下の罰金」そういうものについても構成要件はこれだけ明確にしているわけです。ですから、日進月歩で世の中が変わるからすべてのことは規定できないとか、あるいは前の方はいろいろ書いてあるからそれでわかるだろうとか言われますけれども、余りにも行政当局を信頼せよという議論であって、少なくとも行政処分あるいは行政罰と刑事罰、しかも二年以上の懲役という重い刑の場合と未遂罰を罰する場合とはやはり区別して考えなければいけないのじゃないか。しかも、これはハイジャック目的があろうがなかろうがそういうことになるわけです。そうすると、銃砲刀剣類であれば、刃渡り十五センチ以下であって短い六センチぐらいのものでも、飛び出しナイフできちっと固定できるようなものは悪いというのは法律をみればわかるわけですね。あるいは登山ナイフも危ないというのもわかるわけですけれども、実際こういうことはわからないわけですね。そして、たしか山崎委員かだれかの質問に対しては、刑事局長の答弁の中には用法上の凶器は入らない、つまり石ころだとか棒だとか野球のバット、これだって十分人をなぐれるわけですけれども、そういうものは入らない。しかし、たとえば油とかそういうもののふたが十分でないというようなものも考えておるという答弁があったのですね。私はそういうものをハイジャックの意思はなくして、あるいは故意に機内でまき散らす意思なくしてただ持って、それで金属探知器といいますかあそこをくぐろうとした、ちょっと待てということで、これはおそれのあるものであるということで二年以下の懲役ということになれば、行政的に取り締まるというのはいいけれども、それで刑事罰を科するということになれば、人権の面から見てやはり問題があるんではないか。ですから、この件については削除をするかあるいはもう少し特定できるように処置をするのが当然ではなかろうか。われわれはハイジャック防止するために重くすべき刑罰は重くし、航空機の安全を確保したいという点については人後に落ちるものではありませんけれども、それがために不必要に国民の権利義務を侵害するようなことがあってはならぬ。まして刑事罰についてはそうだと思いますが、何かその点をもう少し構成要件を明確にするお考えはありませんか。
  157. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 御指摘のような観点はあろうかと思いますけれども、たとえば例を挙げて申し上げますと、例示の中に刀剣が入っており飛び出しナイフは入っておらないというようなことでありまして、例示されておるものと同程度にあるいはこれに準ずる程度の危険のあるものということで一応の解釈上、構成要件の不明確さはないのじゃないかと思っております。また、たまたま例を挙げになりましたから申し上げますが、火炎びん原料となるようなものでございます、先ほどお挙げになった二つ接着すればすぐ火炎びんになるようなもの、そういうようなものも当然危ないものであろうと思いますが、それらのものを全部列挙するということは技術的にも、また現に法律で取り締まっておるものはそこに規定の概念がありますからよろしいのでございますが、これからどんなものが出てくるかわからない。これらに準ずるようなもの、たとえば銃砲の概念を超えるような大変な武器などもございますでしょうし、そういうものを全部ひっくるめて列挙するということは非常に困難でございますし、またこういった刑罰をもっぱら規定しております法律でその内容につきまして政令とか省令に落とすということもはなはだ当を得ないことであると思いますので、私は、くどく申し上げますが、例示を見ることによって裁判所は的確な判断ができるのじゃないかというふうに思っておるわけでございます。
  158. 正森成二

    ○正森委員 いま刑事局長が答弁になりましたけれども、たとえば銃砲刀剣類所持等取締法の第二条の2では刀剣類の規定があって、飛び出しナイフも入っておるわけです。ただこういう飛び出しナイフは入らないという除外規定があるわけです。ですからある程度法自体の中に規定をしておるわけです。  それからあなたは、最終的には裁判所がこの法で言うところの危険を生ぜしめる物件というのになるかどうかについては判断をして人権侵害にならないようにするであろう、こういうように言われました。構成要件を決めるというのは最終的には裁判所が判断しますけれども、しかし、そのことによって警察官や検察官が人を逮捕したり起訴したりするということも防ぐ。つまり警察官や検察官はこの条項でいく、裁判所において二年、三年争った結果それには当たらないということで無罪あるいは訴因変更で他の法律で罰するということであってもこれはよろしくないわけですね。そもそも捜査機関が拡張解釈するおそれがないように条文自体の中にその保障があるというのが罪刑法定主義の上から言っても非常に必要なわけです。ですからこの要請というものはハイジャック防止するという大きな目的がありましても、やはりできるだけ尊重されなければならないというように私は思います。明敏な刑事局長ですから御自分の答弁自体が必ずしも十全でないということはお顔を見ておりますと書いてあるようですからこれ以上申しませんけれども法務大臣とも御相談なさって、こういう点についてはいろいろ手を尽くされるということの方が大事ではないかという問題点を指摘しておきたいというように思います。  それから、法案の私が質問を申し上げたい第二点は、旅券法の一部改正についてであります。  同僚議員も質問されましたが、第十三条の二に「死刑、無期若しくは長期五年以上の刑にあたる罪につき訴追されている者又はこれらの罪を犯した疑いにより逮捕状、勾引状、勾留状若しくは鑑定留置状が発せられている旨が関係機関から外務大臣に通報されている者」ということで、かつて十年であったものが五年になり今度は長期二年以上ということになるわけです。しかし同時に、日本国民の渡航ないしは移動の自由というのはある意味では憲法上の権利であります。ですからそれが不当に抑止されるということはあってはならないわけです。われわれはハイジャッカーが海外へ渡航する、そしてハイジャックを行うというようなことを防止しなければならないのと同時に、当然外国等へ出国でき得る者がこの規定によって不当に制限されるということがあってはならないというように考えているわけです。  そこで、こういうような二年以上というように非常に広げてしまった場合に、どういうぐあいにこれを狭めていって本当に出国させたくないという者だけをこれで網の目で残すことができるかということがまさに必要なことだと思うのです。そのために、外務省が御答弁になるのかどこかわかりませんが、しかるべき政府機関がその乱用のおそれのないようにするために、将来通達でも出されるお考えがあるのかどうか、あるいはもし出されるとすればその内容法案が通ってから出されるのが筋であろうと思いますけれども、事前に、少なくともこういうように考えておるというお考えの基本でもできるだけいまの段階として詳細に御答弁願えれば、国民にとっても、いやわれわれはそれほど制限されないのだという点で安心できるだろうと思うのです。その点について答弁してください。
  159. 賀陽治憲

    ○賀陽説明員 お答え申し上げます。  先生御指摘のように、五年から二年になりましたために該当罪種がふえてまいりました。これは午前中も御答弁申し上げたことでございますけれども旅券法のたてまえが、外務大臣は旅券を発給しないことができるという大幅な裁量を与えておりますので、今後とも慎重かつ健全な判断で実施いたしてまいりたいと思いますが、先生まさに御指摘のように、いろいろ憲法上の問題あるいは不当に渡航の自由が制限されるのではないかというおそれが一部にございましたとすれば、これにも十分耳を傾けなければならない、このように考えておる次第でございます。  そこで第二点の御質問でございますけれども、現在の段階では、五年から二年になります一つの大きな要因でございますところの過激派にかかわる罪を、五つの主要罪名が挙げられております。公務執行妨害、住居侵入、凶器準備集合、威力業務妨害、集団的暴行、脅迫、器物毀棄といったことでございますが、私どもといたしましては、先生のただいまの第二点の御質問に対しまして、現在の段階で申し上げられる点は、五年から二年になったということに伴いまして、外務省は、もとよりただいま申し上げました健全、慎重な運用をいたすわけでございますけれども、何らか御安心をいただく意味におきまして、部内においてただいま申し上げました罪等に限局をしながら拒否の対象をしぼっていくということを運用の方針とするということを、何らかの部内的な措置をもって御満足をいただけるようなことができないかどうかということをただいま鋭意検討しております。最終案を得ておりませんけれども、その方向で御審議の過程においてひとつまとめていきたい、かように考えております。
  160. 正森成二

    ○正森委員 ではこれで質問を終わらしていただきますが、いまの答弁について、法務省関係で入管もございますし刑事局もございますが、何かつけ加えることがあれば承って質問を終わらしていただきます。
  161. 伊藤榮樹

    ○伊藤(榮)政府委員 このたび五年から二年に下げますことによりまして特段の配慮を要することは、ただいま外務省から御答弁のありましたとおりで、さしあたり私どもとしては、過去の実績からして過激派が犯しておる場合が非常に数の上から多い罪種、さっきお挙げになりました公務執行妨害、住居侵入、威力業務妨害、凶器準備集合、それから暴力行為処罰法、この五つが実績から挙がってまいります。それから実績はありませんけれども、やはりとめなければならぬものとしては、ハイジャック処罰法の違反の予備罪、それから銃刀法、火炎びんの処罰法違反、火薬類取締法違反、一応この程度に限りまして、外務省の方で御検討の結果、都道府県知事に通達をお出しになるとか、あるいは内規をお改めになるとか、こういう措置を御検討中のようでございますから、十分御協力申し上げたいと思っております。
  162. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 同じようなことでございますが、対策本部としても御趣旨をよく検討いたしまして措置をとりたいと思います。
  163. 正森成二

    ○正森委員 どうもありがとうございました。
  164. 上村千一郎

    上村委員長 次回は、来る四日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後四時五十四分散会