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岡垣最高裁判所
長官代理者
お答え申し上げます。
前回のダッカ、その前の
クアラルンプールで、審理中の被告人がそれぞれ持ち去られたわけでございますが、その二件についておくれている
状況を申し上げますと、まず企業爆破
事件、これは五十年の六月から七月にかけて起訴になりましたが、第一回公判は五十年十月三十日から始まりまして、現在検察官立証がやっと緒についたというところでございまして、これは一体いつ終わるか、明確な見通しは立っていない
状況でございます。それから連合
赤軍事件。連合
赤軍事件につきましては、四十七年三月から七月にかけて起訴になりまして、そして現在まだこれも検察官立証中でございまして、いつ終結するかという見通しは全く立っていないということでございます。
この連合
赤軍事件につきましては、実は公訴事実が非常に数も多いし大きな
事件でございますので、最初、裁判所としては、検察官、弁護人と、期日を何回くらいやろうかということで打ち合わせをしたわけでございますが、立証を担当する検察官といたしましては、最初、週二回というふうなことを主張しておられました。弁護人の方は、月一回しかできないということでございました。それで結局、裁判所が週一・五回という割合で期日指定したわけでございますが、弁護人側はこれを不服といたしまして期日に不出頭ということで、結局四十八年四月十一日に至りまして、このままではどうにもしようがないということで期日を取り消しまして、その後、ほぼ月二回というテンポで進んでおるということでございます。
それから企業爆破
事件の方は、五十年十月三十日の第一回公判から始まったわけでございますが、これは最初やはり公訴事実がいろいろございまして、被告人がいろいろ
関係しているものですから、関連の公訴事実ごとに二グループに分けて審理しようとしたわけでありますが、これも審理の
方法でそういうことはけしからぬ、一緒に併合してやるべきであるということから、被告人、弁護人が期日に出頭しないということで、結局やむを得ず一緒に併合しまして、そして審理を始めたわけでございますが、これもかなりの期日等を要するということで、最初月二回のペースであったものを、裁判所の方で月四回というベースの期日指定をしたわけでございます。これに弁護人は不満であるということで全員辞任いたしまして、裁判所は国選弁護八の推薦を弁護士会に御依頼を申し上げる。弁護士会では一生懸命
努力されましたけれ
ども、結局百八十九日たった後、従来の弁護人がまた復帰されて、そして月二回のペースでいま進んでおる、こういう事情でございます。
こういう具体的
事件の進行、
状況につきましては、これ以上その当否その他については私
どもから申し上げられないと思いますが、ただこういう問題、必要的弁護
事件において弁護人が出頭されない、あるいは辞任される、この問題につきましてわれわれといたしましては問題意識を持っておりまして、それで裁判官の協議会もしくは会同などの場合にいろいろな御議論が出るわけでございますが、その議論を大体要約いたしますと、こういうことでございます。
つまり、
一般の
事件の審理というものはそんなにはおくれていない。しかしこのように非常におくれる
事件も間々たくさんある。こういう審理の長期化の原因というのはいろいろでありますけれ
ども、一番
根本的なものは、やはり裁判所の訴訟指揮権か実質的にはないということであろう。それで、刑事訴訟法では「裁判長は、公判期日を定めなければならない。」というふうになっておりますし、それからまた、公判期日の訴訟指揮は裁判長かこれを有するということに決まっておりますけれ
ども、しかし実質上それかできるかと申しますと、できないわけであります。つまり、先ほどからの例にもございますとおりに、裁判所が、これは大体二年以内あるいは三年以内ぐらいに審決しなければいけないと思って予定を立てて期日を指定しようといたしましても、弁護人の方でこれを受け入れられないということでそれを受けてもらえませんと、裁判所は期日を決めたんだからということで開く、そうすると不出頭、そうするともうとまってしまうということでございます。現行法の解釈上、ある限度でこれを乗り越える場合もあると思います。現に乗り越えた場合も一回ございます。しかし、それはやはり
法律に、弁護人がいない場合には開廷できないということでございますので、よほどの場合、よほどの決断を要しなければできないわけでございます。
その次に、弁護人が辞任されるというふうな場合ももちろんございます。そういう辞任された場合には、あるいは弁護人が出頭されない場合には、国選弁護人を裁判所はつけるようにということは、これは
法律の命令するところでございます。ところが、国選弁護人を実際につけようと思って弁護士会に御依頼申し上げましても、あるいは裁判所が直に適当な方を探しましても、事実問題としてこれはなかなかむずかしゅうございます。たとえば、こういう
事件で国選弁護人をつけようかという段階になりますと、被告人の方の側からは、そんな国選弁護人をつけたら抹殺するぞというふうなことも文書で出てきたり、書かれたりするわけでございますし、それから、仮にお引き受けになった弁護人かあったとしましても、今度は被告人との
関係が非常にぎくしゃくいたしまして、まず実質的な弁護人としての活動はできない。それで、かつてのことでございますけれ
ども、学生
事件華やかなりしころに、凶器準備集合等で国選弁護人をお願いした、その国選弁護人の活動か法廷で裁判所に
協力的である、けしからぬということで暴行を受けられて、結局やむなく辞任されたというような
事件もございます。そういうようなわけでございまして、われわれとしましては、これは裁判所の期日指定権、訴訟進行の指揮権というものが実質上ない状態である、それか一番大きな原因であろうというふうに考えております。
したかいまして、その
対策としては、やはり何らかの例外規定、この必要的弁護
事件に対する条文の例外規定、たとえば、ただし、裁判所が相当と認める場合には、この限りでないという
程度でも何でも結構でございますが、要するに、そういうものかその場合にはできるのだということでないと、裁判所としてはどうもしようかないというふうに考えておるわけでございます。それで、懸念する方は、そういう規定を設けると、裁判所か勝手に訴訟の迅速な進行を図る余りに粗雑な審理を性急にやるおそれはないかというふうな御懸念はあるかとは思いますけれ
ども、しかしそれは絶対にないというふうに私
どもは信じております。現に、被告人の不出頭の場合には、すでに現在の刑事訴訟法で、出頭拒否の場合あるいは退廷を命ぜられた場合には、裁判所は被告人不在のままで審理できるという規定はできておりますけれ
ども、しかし、これができてから裁判所がこれをむやみに使ったということは一度もございません。ただ、例の東大
事件のような万やむを得ない場合にこの規定を活用したということはございます。むしろ、われわれといたしましては、そういう必要的弁護の例外規定かできれば、そのことによって弁護人も被告人も考え直して、そして法廷に出てきてもらえるだろう、法廷に出てきてもらえれば、これは双方の意見を十分に聞いて、十分な審理かできる。私
どもは、よく言われるのでありますけれ
ども、本来の裁判というのは、法廷の中での審理、証拠調べを十分にやって、その証拠価値を判断して適正な判断をする、これか本来の任務でございますが、現在、おまえ
たちは法廷にいかにして入るかということに腐心しておるというふうなことをよく言われますけれ
ども、私
ども全くそのとおりだと思いますので、現状とそれから原因、その
対策についてはただいま申し上げたとおりでございます。