○
笹生参考人 日本大学の
笹生でございます。もとより
浅学非才でございまして、このような席で所見を述べさせていただく
機会を得ましたことを大変光栄に思っておりますとともに、恐縮にも考えておるものでございます。
また、私は、
産業立地論、地域計画論を専攻しておりまして、
石炭鉱業であるとかあるいは
産炭地域という問題につきましては、これまでむしろ周辺の問題ということでは間接的に
関係をしておりまして、従来、深くこの面を
検討してまいったわけではございませんが、ただ、ここ数年来、
エネルギー問題、特に
エネルギー立地問題と地域
社会の問題が大変
政策的なあるいは政治的な
課題になってきたといったことからであるとか、あるいは昨年、
産炭地域振興計画を改定をするという意図から専門
委員会がつくられまして、私もそのメンバーの一員という形で参画をいたしましたことが、きょうこの席でお話を申し上げざるを得ないということになったのではなかろうかと思います。
私がこれから申し上げますことは、
産炭地域振興問題というものを今後どう進めていったらいいかということに関することでありますが、一応これにつきましては四点から申し上げてみたいと思います。
第一は、
産炭地あるいは
産炭地域問題というものをどう考えるべきかということ、第二は、そういった論述を受けまして、それをいわば地域
政策という形で
推進をしていくというにはどういう問題があるか、この二つの問題は私の
産炭地域問題についての基本的な認識にかかわるものでございます。それから第三は、今回の産振計画の改定計画をこの夏答申をしたわけでありますが、それに参画をいたしました一人として、これを推し進めるために特に留意していただきたいというふうに考えている事柄を申し上げ、
最後に、私、いまの専門
委員会の活動過程の中で
九州地域と常磐地域を現地
調査をいたしましたので、それらの地域の踏査をいたしました所見を述べ、若干具体的な
意見を述べさせていただいて終わりにいたしたいというふうに考えております。
先ほど
磯部参考人からのお話にもありましたが、
産炭地域であるとかあるいは
産炭地域問題ということは、いわゆる
産炭地域振興計画の中では、まあ先生のお言葉をかりれば旧
産炭地という色彩の濃い形で受け取られておると思うわけであります。
産炭地域というのは、私
どもは単なる
石炭を産出する地域というふうに考えるよりは、そこに
石炭資本がその地域
社会を言うならばほぼ独占的な形で支配をしておって、そういった支配
構造というものが崩壊をしたという過程の中で地域
社会全体が
一つの
構造的な空洞を生じた、その空洞をいかにいやして新しい
一つの
経済社会空間として再生させようかというのが、いわば今日言われているところの、産振計画の言うところの
産炭地問題ではなかろうかと考えておりまして、私はこういった問題を、すぐれて地域
社会構造的な問題性を持つということを、まず基本的に認識すべきではないかというふうに思っておるものであります。
そのことは、この産炭法が制定をされまして十数年、各地にいろいろな効果が上がっているわけであります。その振興効果というものを総合的に評価することはむずかしい、必ずしも容易でございませんが、包括的に申し上げまして、現行の施策に直結するような場面、たとえば工業化の度合いであるとか、あるいはそこにおける道路の改良率であるとか、こういった問題については各
産炭地域とも余り変わりがない形で水準が上昇しているわけでありますけれ
ども、たとえば地方財政力指数であるとか、あるいはその地域における人口
構造であるとか、あるいは滞留離職者の数であるとかというふうな、言うならば地域の
構造的な事由に根差すような部門であるとか、あるいは
社会福祉に非常に粘着した
部分においては、地域によってかなりな差が出ている。ということは、これまでの
政策が鉱工業の
構造改善、あるいは衰退
産業によるいわば雇用問題の解決という二点に強く集中していたということで、現在の
政策の
一つの限界を示すのではないかというふうに考えております。
今日、
石炭ばかりでございませんで、
石油、電力等
エネルギー問題がいろいろ取りざたされておりますが、私が
エネルギー問題に接触しておりますいわゆる
エネルギー立地問題という場合には、いま申し上げました地域というもののとらえ方ということが微妙に影響をしてくるというふうに思っております。
近年までの
エネルギーサイドでの地域のとらえ方というのは、とかく
エネルギー産業の用途に向けるべき地点を地域と考え、またそれの周辺地域という場合におきましても、どちらかといえば補償的な、あるいは影響圏域的な形で周辺地域というものを理解されがちであったということがあろうかと思うわけでありますが、私
どもは、地域というのは、人間があるいは人間集団がそこに
社会的な連係を持ちつつ息づいているところが地域と考えております。そういった違いが今日、
エネルギー立地に絡まる地域住民とのいろいろな紛争の中に微妙に影を映しているのではないかと思うわけであります。
石炭産業というのは御
承知のごとく、他の
エネルギー産業以上に地域と深いかかわり合いを古くから持っているわけでありますので、私は、これまでの産振法のたてまえにもかかわらず、しかもそれが今度の計画によりますと五十七年までに完成をするというタイムリミットを持っておりますが、またそれがゆえにいわば
産炭地域のとらえ方というものをもう一度原点に立ち返って
検討してみる、そのことが今日言われておる
エネルギー問題の解決にいわば先導的な
役割りをも持つというふうに思うものであります。こういったことで私は、この産済地域進行計画というものを、よりすぐれて従来以上に、いわば地域
政策として接近を試みていくということがきわめて重問な問題だと思うわけであります。
ところで、産振地域というものを地域
政策という形でとらえますときに、私はまず、他の一般の地域
開発対象地域というものに対してこの地域がこれまでいわゆる衰退地域という側面で見られがちであったわけでありますけれ
ども、それに加えて実は、いわば旧
産炭地域と言ってよろしいかとも思いますが、その多くは本来的にはかなりすぐれたポテンシャルを持っているところが数多い。言うならば、それを
開発するということが、いままでゆがめられた
産業をぬぐい去ることによってそれの持っている本来的な
経済的、
社会的なポテンシャルが発現できる地域であるという、言うならば有効地域というふうに理解をすべきではないかと思うわけであります。しかし、そうは申し上げましても、産振地域は、その地域の置かれております自然的あるいは
社会的な
条件であるとか、それから
石炭産業がそこに入り込んできた規模であるとかあるいは
発展のテンポであるとかというふうなことで、
石炭産業が入ります以前の集落の形態あるいは土地
利用の体系、あるいはそこに形成されておるいろいろな
意味での今日言われているところの
社会資本のあり方と、それから
石炭が入ってから
石炭という目的のために形成された集落あるいは交通というふうなシステムのずれの大きさ、少なさということで、地域によってきわめて区々であります。したがってこれは、その地域の特性に応じて当然、対応の策を講ずる必要があろうかと思いますが、その場合、特に、これは先ほど冒頭に申し上げましたような個別的な対策あるいは単線的な対策で一応それのポテンシャルを顕現することができる地域と、そういう個別的な対応ではなくて、より複合的なあるいは生活圏域的な対応をしないとポテンシャルを上げることがむずかしい地域があるということに気づくわけでありますが、問題は、やはりその後者の、複合的な対応を要する地域をどうするかということであります。これにつきましては、特にこれまでの施策体系の性格から申しますと、今日の施策体系を越えるような問題に一体どう対応するかということが、当然ここに出てまいりますし、そこでは恐らく、これの担当省でありますところの通産省以外の、建設省であるとか運輸省であるとかという他の省庁が、こういった問題にどう協力し得るかということにかかってくるというふうに思いますが、そういったものの中で、これまでいわば産振地域というのは通産省だという意識の中で、
産炭地の中における各省の担当分野が、いわば責任の主体が不明確になるというふうな形で、なかなかこれがいい形に進んでいかないという問題があるわけであります。たとえばこれは、農林漁業部門であるとかあるいは都市機能あるいは
社会福祉に
関係するという
部面に、そういったことが端的にあらわれていようかと思うわけであります。
また、
最後に、地域
政策としてもう
一つ申し上げたいことは、先ほ
ども申し上げましたように、この産振地域というのは、いろいろな性格あるいは
発展段階の差を持つものであります。したがいまして、これらについての国としての対応というのも当然、多様な対応をしていかなければならないと思いますが、私
ども、これまでのいわゆる地域
政策というものを見てまいりますときに、これまでの
開発投資の基本的やり方というのは、どちらかと言えば、国レベルでの資本
効率というものが投資の基準にあったのではなかろうかと思うわけであります。しかし、
産炭地域のように、いまのような多様な性格を持つところにおきましては、そういった基準にさらに加えて、地元がみずからの地域をどういうふうに
開発すべきかという構想力をどの
程度持っているか、あるいはそういう構想に対して、地域の住民の合意形成というものを取りつけ得るかどうかというふうなことを評価すべきだし、また、むしろ地元のそういった意識、行動というものをできるだけ
推進をさせていくということを基準に考えていくということが、今後考えられていかねばならないのではなかろうかと考えております。
以上、
産炭地域問題についての私の基本的な認識を述べましたが、次に、今回の改定計画の実施につきまして三点ほど申し上げてみたいと思います。
第一点は、先ほ
ども触れましたように、振興の効果がかなりばらつきを持った形で進んでおりますので、そういった場合には、当然やはりおのずからその地域の
発展段階であるとか、あるいはポテンシャルであるとか、あるいは今後の
社会、
経済の
情勢の変化を踏まえて重点施行をせざるを得ないというふうに考えておりますが、そういった場合には、特に六条地域のようないわば疲弊がなお解消されておらない地域についての基盤整備というのは、今後も引き続き重視され、
推進されていくべきだと思いますし、また第二には、そういった六条地域の中でも、特に多角的な地域
社会構造を持ち、先ほど申し上げました複合的、生活圏域的な対応を必要とすると思われる、またそうすることによってこれまでにない
発展が期待されるかもしれないと思うような、石狩六条地域であるとかあるいは筑豊地域であるとか、そういったところについて、またそういった視点からのてこ入れというのが今後の過程で尽くされるべきではないかということであります。
それから第二番目は、御案内のように、今日は高度成長から安定、低成長へと移行をしておりまして、いろいろな産振地域の
産業を振興する場合におきましても、そういった問題がいままで以上に厳しい
条件に置かれていることは、私があえて申すまでもないことでありますが、そういった
意味で、特に、たとえば工業という問題につきましても、これはたとえば工配法における特別誘導地域であるとか、そういったいろいろな格段の助成措置ということが尽くされる必要があることは言うまでもございません。さらにそれに加えまして、私は、その産振地域における工業というのが総じて内陸型の工業でありまして、そういったところでは、われわれの言葉で言いますと、フィジカルな立地
条件ということよりは、むしろメンタルな立地
条件をいかに形成させていくかということがきわめて重要だと思うわけであります。そういったことから、いわば地域に入っております現在の企業の地域
関係事業であるとか、あるいは行政における
社会政策というようなものを踏まえて、より具体的なカリキュラムを持つ改善計画というものがそこでなされねばならないし、また企業の導入を図るに当たっても、いままで以上に、いわば企業的な視点から、それの再
検討であるとかあるいは業種の選択であるとかということがなされる必要があるわけでありまして、これまでの立地
政策が、とかく
産業レベルで問題に対応するのに対して、ここでは、すぐれて企業レベルでの対応ということがより迫られるのではなかろうかというふうに考えております。
それから
最後に第三点としては、先ほ
ども一般論の中で申し上げました、いわば各省の財政的な支援であるとか、それに絡まる有機的な
推進体制をどう充実していくかということで、これは、いろいろいい計画がつくられましても、それが財政的な裏づけがなければ実現をしないという点から見て当然でありますが、現に
産炭地域振興計画に
つきましては、いわゆる
石特会計の中から出ている投資というものが基本ではありますけれ
ども、さらにそれに匹敵する
程度の各省
関係の、たとえば補助金の引き上げ額であるとか、あるいは自治省の特別交付金であるとかというふうな予算がかなり投資をされているわけであります。したがいまして、そういったむしろ各省での予算というふうなものを、
産炭地域の中にいい形でどう組み込み得るかということが、計画の実を上げるという具体的なあれになろうかと思うわけであります。そういった
意味で、現在、中央、地方に
産炭地域振興
関係各省連絡会というのが設けられているわけでありますが、私は、これが一層充実されていくことが特に望まれようかと思います。
最後に、
九州筑豊等を見ました私の所見を、これも三点ほど申し上げたいと思います。
第一点は、特に筑豊地区のごときは、いわば
鉱害復旧、それからボタ山
処理あるいは炭住改良事業等の非常に生々しい傷跡がいまもなお残っており、しかも、その進捗度が必ずしもはかばかしくないということがございます。これに、まず何よりも今後の振興を図る
前提として格段の努力をすべきだということを改めて感じたものであります。
第二は、これは先ほ
どもちょっと申し上げましたように、地域の
生産力というものを上げる場合に、工業の導入というのは確かに大きな
役割りを持っておりますけれ
ども、その地域
経済の地力というのは、やはりそこの在来からの、いわゆる農林漁業あるいは地場
産業というものが健全な形で振興されているかが問題であります。この点は、計画等も従来とも触れておりますけれ
ども、施策としてはこれについてほとんど対応がないというのが実態ではなかろうかと思うわけであります。そういった
意味合いから、現在の
政策の中でもできるだけそれを拡大解釈をする、あるいは改善をするという形で、いま申し上げましたような農林漁業であるとか、あるいは都市の機能というものを高めていくということに努力をしないと非常にむずかしいのではないかというふうに考えました。
それから
最後に、第三番目の問題として、たとえば先ほど申し上げました筑豊地域でありますけれ
ども、ここは、特に筑豊内陸部は四市を持ちましたきわめて多極的な地域
構造を持っておりますが、そのそれぞれの都市の都市力というのがいずれも弱体であります。ほかの一般の地域でありますと、その
中心になる都市が何がしかの形で力を持っておりますから、その
中心都市は周辺の農山村の用に供するような行政サービスをかなりしておりますが、ここではそれをすらする力がないというようなことであります。しかし、筑豊内陸部は北
九州地域それから
福岡市、さらには玄界それから周防灘といった両臨海部にも恵まれているということから、工夫のいかんによっては非常にいい
開発の計画が実現できる地域であろうと思います。建設省の地方生活圏であるとかあるいは今回の定住圏構想ということでも、その生活圏としてのことが強く言われている中で、私は、
一つの
産炭地域のモデルというふうな形ででも、筑豊地域についてひとつ生活圏域的な接近を強力に進めていくことが望ましいのではないか。また、これは私、現地を見ておりませんけれ
ども、石狩地域においてもまた別な
意味でそういった接近が試みられてしかるべきだろうというふうに思います。
若干長くなりまして恐縮でございますが、以上をもちまして私の
意見を終えさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)