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鈴木参考人 鈴木治雄でございます。
現在、
日本の化学工
業界は大変な不況に悩んでおりますけれ
ども、特に、収益悪化とともに
国際競争力の低下が著しいわけでありますが、その一番大きな原因は高いナフサ価格にあると
考えておりますので、いろいろな問題がございますが、この点を中心にいたして、問題をしぼって
意見を申し述べさせていただきたいと思います。
わが国のナフサを原料とする化学工業は、
生産額で約十二・七兆円、製造工業全体の約八・七%を占めております。従業員数が約百九万人に達する基幹
産業として大きな
産業でございます。
そして、その化学工業の中には、化学肥料あるいは合成樹脂、合成繊維、合成ゴム、塗料等、広範な部門を含んでおりまして、範囲、すそ野がいずれも広く、
国民生活の向上に必要な素材の
安定供給産業でありますけれ
ども、何分
商品が国際
商品でありますので、
国際競争力が一番問題になってくる
産業でございます。そういう次第でありますので、原料の価格を国際的水準でどうしても
考えなければいけない性質の
産業でございます。
この
産業が主な原料としておりますナフサとは、粗製ガソリンでありますけれ
ども、
石油化学会社の売り上げに占めるナフサ代金の比率は現在約四〇%以上に達しておりまして、ナフサ価格のいかんが
企業経営に大変な影響があるわけでございます。
ナフサ価格につきまして、
わが国の状況と比較的よく似ておりますヨーロッパ、
わが国もヨーロッパも、ともに中東の原油を同じような条件で受け入れてこれを精製しているわけでございますが、そのヨーロッパと比較いたしますと、
わが国のナフサ価格はキロリッター当たり二万九千円であります。ところが、最近のヨーロッパのナフサ価格はこれより約七千円見当安い
状態になっております。しかも、この七千円の価格というのは決してスポット的なものではなくて、ヨーロッパの化学会社が使用している長期
契約ナフサについての価格でございます。
こういう
状態に放置しておきますと、
日本の化学工業は、世界で一番高いナフサを使用することによって
国際競争力を失い、不況の継続、雇用問題の発生につながるゆゆしい問題が生じてくるわけでございます。不況の継続によって
日本全体の内需の縮小ということにもなりますし、いろいろな問題が起こってくるわけでありますので、ぜひひとつ国の
産業政策上の重要な問題としてナフサ問題を配慮していただきたいと思います。
なぜナフサ価格がかように高い価格ベースで定着しているかということについて御説明申し上げます。
オイルショック以前におきまして、
昭和三十八年に植村調停案なるものがありました。それ以後、原油の値下がりにもかかわらずナフサが値下がりしなかったような状況もあったのでありますが、ナフサ価格はほぼ安定した
状態で継続しておりました。ところが、オイルショック以後は大幅な価格上昇がありまして、
昭和五十年十二月に通産大臣が、
石油精製
企業の
経営安定という角度から標準価格というものを
設定いたしまして、これを告示して、
昭和五十一年の四月にナフサ価格はキロリッター二万九千円に到達したわけであります。今日は標準価格なるものは存在いたしませんが、その価格が実態的には修正されずに今日に継続しているわけでございます。したがって、こういうふうに
政策によって決定された
日本のナフサ価格は、実態的に固定的にそこで定着して、現在、世界のいろいろな変化があるにかかわらず、一番高い価格になっているわけであります。このことにより、
日本の化学工業は
国際競争力を失って、非常な不況に陥っているわけでございます。
もちろん、ナフサ価格というものは個別
企業間の交渉によって決まるものでありまして、われわれ化学工業側の
努力が足りないのじゃないかという御指摘があるかとも思いますが、各社とも、ナフサが高いことを
石油精製会社に訴えまして値下げを強く要求しておりまして、何回も交渉を行っております。しかし、実際にはこの二万九千円はいまだに変わらないで続いているわけでございます。
なぜそういうことになるかということについて若干御説明したいんですが、
日本の化学工業会社は自分でナフサを製造する設備というものは持っておりません。また、みずから
輸入を自由にするわけにもいかない特殊な
産業であります。したがって、相手の精製会社に価格の交渉をする場合に、いわば武器を持たないで価格の交渉をする、裸の
状態で価格の交渉をするということで、非常に交渉力は弱いという状況にあるわけでございます。そこで、どうしても化学工業だけの
努力では現在のナフサ価格二万九千円と国際価格とのギャップ、つまり七千円
程度が現在のギャップかと思いますが、当事者の協議、交渉だけでははかがいかないという状況でございます。
そういうことをお
考えになったのかもしれませんが、先般の総合景気対策の中に、
政府は、
輸入も弾力化する、価格も調整するということを示したわけでございまして、私
どもはそれに期待しているわけでございます。もちろん、
石油精製も大事な
産業でございまして、これを十分育成していかなければならないわけでございますが、昨今の
円高による為替差益というものは全部蓄積されているということもはっきりしていることでございまして、標準価格
設定時の場合、一
ドルは三百二円だったわけであります。現在は毎日変動しておりますが、仮に二百五十二円ということで比較いたしますと、円はこの間一
ドル五十
円高くなっております。これをそのままナフサの価格に連動させて
考えますと、
ドル建てで円換算いたしますと、キロリッター五千円は差があるという計算もできるわけでございます。したがいまして、最近の
日本、ヨーロッパのナフサ価格の格差が七千円あると言いますが、その中で為替の理由によるものが約五千円あるということに相なります。
輸入のナフサについてちょっと申し上げますが、
石油供給
計画というものは、基本的に各
石油製品の需給のバランスをとって、どの製品も過剰にならないように
生産調整を行う、その結果、不足する重油とナフサを
行政指導で制限をしながら
輸入する、そういうたてまえに
石油業法はなっておるわけでございます。したがって、仮に外国に安いナフサがありましても、これを勝手に自由に
輸入するというわけにはまいらないという
実情でございます。
今回の景気対策の個別対策として、安価な
輸入ナフサの増量、具体的には七百五十万キロリッターを九百万キロリッターに増量するということを一応決めていただいたわけでございますが、この実行に当たりましては、精製会社の協力、それから
関係行政官庁の御指導によりましてぜひ全量を達成さしていただきたいと思います。
実施段階ではなかなかむずかしい問題がございますが、こういう
措置を今後も弾力的かつ適切にやっていただきたいということをお願いしたいわけでございます。
化学工業は、先ほど申しましたように国際的
産業でありまして、ナフサ価格が
産業政策として非常に低目に決まっております
韓国、
台湾並みにしてほしいというようなぜいたくなことは申しませんが、先ほど申しましたように、ぜひヨーロッパ並みにはしていただきたい。そのために、今後
ドル建て円払い方式というものを
導入して、絶えず
日本とヨーロッパの価格が為替ベースで連動するような方式を確立したい。もちろん、円が安くなり得ることも将来あるわけでございまして、そういうときは為替リスクを化学
業界は負担するという覚悟でございます。その際には、
輸出採算もよくなるわけでございますから、それでいいわけでございます。
それから、一言化学肥料について申したいのでありますが、これが大変な状況になっております。
わが国のアンモニア製造能力は四百四十三万トン、ナフサを原料とするものがそのうち四五%の大部分を占めておりますが、ナフサの価格の高騰によりまして総原価中に占める主要原料費の割合は、アンモニアにして四十七会計年度の五九%から、五十会計年度は驚くべき数字でございますが八三%というふうに多くなりました。尿素について言いますと、同じく三〇%から四〇%へ上昇しております。尿素、硫安は
法律によっても豊富、低廉な供給を義務づけられておりまして、そのためにはどうしても低価格ナフサの安定的供給を受けることが必要な条件であります。
また、肥料工業は三十九会計年度以降
行政指導による二次にわたる合理化
計画によりまして、アンモニア、尿素の
生産能力は増大し、
輸出依存型の
産業構造となっておりますが、
国際競争力の著しい低下によりまして、尿素
輸出量は四十七肥料年度の二百七十万トンから五十肥料年度は百二十五万トン、五十一肥料年度は実に七十七万トンというふうに急減いたしました。五十一肥料年度の尿素工業の
操業率は三六%という低い率になっておるわけであります。
そして、中国を初め東南アジア諸国からぜひ肥料を
輸出してもらいたいということでありますが、ナフサ高であることを主とした異常な原価上昇によりまして、
採算的に不可能でございますので、
輸出が非常に停滞しているということでございます。
政府は東南アジア諸国に、その欲している化学肥料を
経済協力したい、
経済援助したいというお気持ちがあると思いますが、
実施段階で価格の条件が相調わないという状況になっております。
肥料工業の安定は、
産業政策だけでなく、農業
政策にもわたる問題でありますので、ぜひひとつナフサについて特別の配慮をお願いいたしたいということでございます。
以上、申し述べてまいりましたけれ
ども、私
ども企業間の交渉にはなかなか限界がございます。この際、ぜひ政治、行政からの
政策的御配慮を速やかに
実施されることをお願い申し上げます。
なお、早急にお願いしたいことが二つございます。
一つは、先ほど申しましたように、ナフサの価格について国際価格、つまりヨーロッパ価格の水準まで引き下げていただきたい。それから第二は、その関連におきまして、化学工業が希望するナフサをいつでも自由に
輸入できるような体制にしていただきたい。その二つを緊急の問題としてお願いし、なお、中長期的な問題としては原油の関税の廃止であるとか生だきの中止等についても御検討をお願いしたい、かように
考えます。
ありがとうございました。