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矢山委員 それでは次に、過失犯として成立するかどうかという、直接に
関係する部分について指摘されておる点を申し上げてみたいと思うのです。それは、
(五)使用中における貯槽の保安管理上の過失
1、被疑者三菱石油、同渡邊武夫、同伊藤満、同澤登典夫、同大嶋俊夫等は同会社の業務に関しそれぞれの担当部門において、多くの危険性を包蔵している貯槽の保安管理には特段の意を用い事故の
発生を未然に防止すべき注意義務を課せられていたにもかかわらず、これを怠り本件T-二七〇号貯槽が軟弱地盤上に建設されたものであることの認識の深い三菱石油は貯槽の基礎地盤沈下乃至支持力等についての保安点検を行なわず、支持力低下極度の不等沈下等を漫然と看過したことは管理上の過失として責めを負わねばならない。
2、使用上における過失
(1)本件T-二七〇号貯槽は重油の維持温度を五〇度Cとして設計建設されたものであるにもかかわらず、貯槽に入れる重油温度が本格的使用を開始してから事故
発生までの間おおむね六十五度Cから九十五度Cと計画以上の高温(一〇八度Cに達した日がある。)となっており、不当な高温繰返し負荷が貯槽の側板、底板に加えられたことにより、鋼板の強度が弱められたことも考えられ、高温による熱応力及び温度変化の
影響等が貯槽破壊原因の
一つとされていることは、最終報告書においても報告されているところである。
なお、つけ加えておきますが、事故
発生時の油温は摂氏八十度の温度であります。
(2)事故
発生直後隣接するT-二七一号貯槽との油深差(当時T-二七一号の油深約七メートル、T-二七〇号の油深約二八メートル)を利用してT-二七一号貯槽へ重油を移送すべくバルブ操作を行ったところ、大音響とともにT-二七〇号貯槽の底部が破断し大量の重油が流出し、よって同貯槽の油深が急激に低下しT-二七一号貯槽内の重油約六、二八八キロリットルが逆入した結果重油流出量が
増加したものであるが底部破断時において即時バルブ操作が行われ交通弁が閉止されたならば海上への流出量も減じられたであろうことは想像に難くない。この即時閉止を行ない得なかった理由も前記2の(2)に述べたとおり不当な高温使用が招いた事態であることを忘れてはならない。
(3)本件事故
発生時における油温は八〇度Cであったごとが記録されているが、かりに維持温度五〇度Cで使用されていたとすれば重油そのものの持つ性質が低温度である程粘性が高められるのであるから貯槽からの流出速度は減じられ、また構内のあたり一面、油のガス化、または油しぶきも立ちこめることも第二次的災害
発生の危険も生ずることなく、また操油課員等もさして生命に危険を
感じることなく、即時バルブ操作を行い得たことであろうと思われる。
以上のようにT-二七〇号貯槽に不適当な高油温使用が
被害の拡大へとつながった要因であるから過失として責められるところである。(六)事故後における
被害拡大防止措置と過失事故
発生後、約一〇時間にわたって約一五、〇〇〇キロリットルの冷却水が三菱石油水島製油所構内の装置にかけられたことについて、検察官が言うように同構内の第二次的災害
発生防止のため止むを得ずとった措置であったとしても、仕方がないと言う考え方は、次の理由から肯定できない。
1、過去における我が国の事故例をみても、臨海の陸上施設から
発生した流出事故が、重油を広域海上へ拡散したときは、海産物に多大な
被害をもたらすことは十分予見されるところであるにもかかわらず、巨大な操業利益を得ていた三菱石油としては余りにも貧弱な防災設備、資材のみの整備態勢であったと言わざるを得ない。
当時三菱石油は法規制は遵守していたと主張するかも分らないが、法はあくまで最低線を示すのみであるから、その法規制を踏まえたうえで客観的に必要とされるまでの安全策を講じておくことが
企業に与えられた責務であり社会的要請にも応えるものとして高く
評価されるのである。
2、流出重油を製油所構内にとどめ得ず、多量の重油を海上へ拡散し、
被害拡大に
影響を与えた原因として、
(1)所轄消防署、海上保安部への通報遅れである。このような事故
発生の場合、初期活動の如何が
被害の
程度を左右することは、常識的に判断できるところ、三菱石油の日頃の防災体制、訓練の怠慢それに防災
意識の欠如と相まって
被害を徒らに拡大した。
(2)右通報遅れによる時間の徒過を加え当初海上への流出重油を過少に発表したこと、さらに防災措置に関し指揮命令体制が整えられたのが夜半過ぎというに至っては、日頃からの防災保安管理体制の欠陥を如実に物語るものである。
(3)決定的に
被害拡大へとつながった原因としては第二ガードベースンの放流扉が閉止できなかったことである。このことから同ガードベースン内にたまっていた流出重油を冷却水が無制限的に海上へ押し出す結果となったもので製油所構内の各種装置に対する保守管理の懈怠の表れといわねばならない。
(4)防油堤は万一、油の流出事故が
発生した場合、その
被害が外部へ拡大するのを防止するためのものであるから法規上明文化されていなくとも二重、三重の防油堤を設置すべきであった。
が挙げられ、
被害拡大防止に過失があった
ことが認められる。
こういうふうに詳細に三菱石油の過失を指摘しておるわけであります。だから私は、過失犯がこういう論拠に基づいて成立するというふうに考えておる。どうなんですか。時間ですから簡単に言ってください。