○
田島参考人 お手元に
商政課からの「「
卸売活動の
現状と
展望」の概要」と題するペーパーが差し上げてあるようでありますが、多少これとオーバーラップするかもしれませんが、
卸売問題を考えます際の
幾つかの
ポイントについて、私の
意見を申し上げたいというふうに思います。
産業構造審議会流通部会では、これまで十一回の
中間答申を行っておるわけでございますけれども、
卸売問題について真っ
正面から取り組んで
答申を出したというのは、今回が初めてでございます。
卸売問題がなぜ今日重要であるかということを考えてみますと、おおよそ私見といたしましては、
五つぐらいの
ポイントがあるような気がいたします。
第一の
ポイントは、
高度成長から
安定成長に移行しました今日、
経済の量的な拡大というのはもはや望みにくいわけでございまして、
経済の
効率化を図る必要があるわけでございます。この
経済の
効率化を図ります際に、売り上げと申しましょうか
販売の
規模で二百二十三兆円、それから
従業者で三百五十二万人、
商店数で三十四万、こういうふうに非常に大きな
割合を占めます
卸売部門を
効率化するということは、
経済全体の
効率化にとって不可欠である、こういうふうにまず考えられるわけでございます。
二百二十二兆六千億円というふうな
卸売販売額、これがいかに大きいものであるかということを理解いたしますには、
小売の総
販売額が五十六兆円だ、
小売が五十六兆円で卸が二百二十二兆六千億円、まあ
卸売の
販売額でとらえた
規模あるいは
経済に占める
割合というのがいかに大きいかということが御理解願えるかと思うのであります。
こういう非常に大きな
割合を持ちます
卸売部門、これは
製造業と比べました場合に、
技術革新というふうな面では大変おくれをとっております。
小売部門と比較いたしましてもなお
技術革新のおくれは著しい、こういうふうに言わざるを得ないわけであります。
具体的には
答申の中にいろいろ書かれておりますけれども、たとえば非常にたくさんの
労働力を投入いたしまして、いわば人海戦術的な
卸売活動というものが
一般的に行われておりますし、
労働力を節約しますためのいろいろな設備、
機器類というふうなものの導入も
一般的におくれがちでございます。そういうわけで、他の
経済部門と比較した場合、
卸売部門というのはそのような
技術革新あるいはその他の
合理化がおくれておりまして、この
部門のそうしたおくれというのは
流通コストを押し上げ、物価全体を押し上げるという
危険性があるわけでございますので、
経済の
効率化のためにはこの
部門の
効率化をぜひ進めなければいけないということが言えるかと思うのであります。
三番目の
ポイントといたしまして、構造的な問題があるわけでございます。
構造面というのは、これはいろいろ取り上げ方がございますけれども、
一つのとらえ方といたしまして、
先ほども申し上げましたように、
小売の
売上高が五十六兆円、卸の
売上高が二百二十三兆円、つまり
小売の約四倍の
売上高を
卸売部門が持っているということは
——もちろんこの
小売部門というのは
消費者に対して
販売をしておるだけでございますが、
卸売部門はその他いろいろな
部門、たとえば
メーカーに対して
生産資材を供給するとか、あるいは病院、ホテル、
レストラン等業務用関係の
商品を提供するとか、そういう
活動を行っておりますので、
卸売売上高というのが
小売売上高より大きくなるのは当然でございますけれども、四倍という
比率、われわれはこれを
流通迂回率と呼んでおりますけれども、この
比率は国際的に見ましても非常に大きい。ちなみに、
アメリカ等では大体一・五倍くらいでございます。
日本の場合には、年々傾向的に卸の対
小売倍率が小さくなってきてはおりますものの、依然として四倍というふうな大きい
倍率になっております。
これはなぜこうなっておるかと申しますと、
一つは、
卸売段階が何
段階にもなっておりまして、簡単に申しますと、一次卸から二次卸への
販売、二次卸から三次卸への
販売というふうな形で、いわゆる
卸売段階の多
段階構造と申しますか、
重層構造と申しますか、もっと簡単に言ってしまえば
卸売段階が長い、こういうことからきておるわけでございまして、こうしたことが
流通コストを高くする
一つの
原因になっておるというふうに考えられます。
それから、ただいま申し上げました多
段階構造とやや関連する問題でございますけれども、
卸売部門の担当しております大変重要な
役割りの
一つというのは
需給調節でございますが、この
需給調節の働きと申しましょうか
機能は、
一つは、
情報が完璧でありますと
需給調節機能というのもよくなるのでございますが、
先ほど申し上げましたように、
卸売段階が何
段階にもなっておりますと、
需要側の
情報というのが確実に
生産段階へ伝わらないというふうなこともありまして、
一般に多
段階構造を持っておりますと
需給調節というのが余りうまくいかないというふうな欠点がございます。
需給調節あるいは
需給結合というのがうまくまいりませんと、たとえばオイルショック後に見られました
物不足の
パニックでございますとか、逆に物過剰の
パニックでありますとか、あるいは価格の乱高下でありますとか、こういった問題を引き起こしやすいわけでございます。そういうわけで、この
需給調節を非常にうまくやって
国民生活を安定させるというためには、
一つには
情報が整備されなくてはいけないというふうなことと、
卸構造の一層の
簡素化というふうなことも要求されるかと思うのであります。
それから
最後に指摘したいと思いますことは、
海外からの、やや
見当外れの面もないわけではないのですけれども、
日本の
流通機構、特に
卸売部門についての非難というのが若干ございまして、無視できない
状態だというふうに思われます。それは、
日本の
卸売機構というのが大変
複雑で、かつそれが
海外からの
商品輸入というものを困難にしている、つまり
日本の
卸売部門というのが非
関税障壁であるというふうな
批判が出始めておるわけでございます。
以上申し上げましたようなことで、
卸売問題というのは今日の
経済で
幾つか重要な問題を持っておるわけでございますが、
卸売問題は実は
専門家にとりましてもなかなかむずかしいわけでございます。
むずかしい理由といたしましては、
一つは、
小売の場合でありますと、われわれ日常的に接触しておりまして姿がよくわかるわけでございますが、
卸売部門というのは、いわば
流通ないし
経済の舞台裏におるわけでございまして、なかなかつかみにくいということが
一つございます。
そういうわけで、これは
日本だけではございませんけれども、
卸売に関する
実態解明というのが国際的にもおくれておるわけでございます。したがって、この
実態解明がおくれているために、卸が一面では不当に悪者扱いされたり、あるいは過小評価されたりしておる面もなきにしもあらずでございます。
いずれにしても、卸の
実態解明がもっとなされる必要があるというふうなことが
一つで、そのことが今回の
卸活動の
分析にもつながったわけでございますが、そういう
実態解明がおくれておるということに加えまして、
卸売業者の
範囲が大変広いということも、卸問題をむずかしくいたしております。
卸売業者といいますと、通常いわゆる
問屋というものを連想するわけでございますが、
卸売業者は
問屋だけではございませんで、御承知のように、たとえば
総合商社というのも
卸売業者の
一つでございますし、あるいは
卸売市場における仲買人のような
人たちも
卸売業者の
一つでございます。また、大変奇異に思われるかもしれませんが、
メーカーの支店、
営業所というのも
卸売業者の
一つでございます。
そういうわけで、
卸売業者と申しますとき、その
範囲が大変広い。したがって、ただいま申し上げましたような
卸売業者のすべてに共通する
一般論というのがやりにくいということがございます。
それからもう
一つ、大変重要な点でございますけれども、
卸売を
議論しますとき、あるいは
卸売に関する
政策を考えます際に、
卸売業者を
対象にするのか、それとも
卸売機能を
対象にするのかということで、
議論なり
政策なりというものが大分違ってくるわけでございます。こういう
卸売機能が問題なのか
卸売機能の
担当者が問題なのかということがございます。
それから
最後でございますけれども、
卸売機能というのは
業種によって大変違いますし、また、時代とともに非常に
変化しやすい性質を持っております。したがって、
卸売機能あるいはその
機能の
担当者である
卸売業者というものを固定的にとらえるということがなかなか困難である、こういうふうな点が
卸売問題をむずかしくさせている
原因である、こんなふうに考えられるわけであります。
今回の
答申の
ポイントでございますけれども、
幾つかの
ポイントがございます。
第一は、
業種だけでなくて、
業態という問題に着目をして
分析をしたということでございます。
業種と申しますのは、医薬品の卸であるとか
加工食料品の卸であるとか
生鮮食料品の卸でありますとか、こういった
商品の種類ということでございますが、
業態と申しますのは、同じ
商品を
販売しますにもいろいろな卸の形があるわけでございます。たとえば繊維を
販売しますのに、セールスマンが
小売店を訪問して受注して、そして掛け売りで
販売をする普通の
業態の卸がございますが、そのほかに、
小売店が
問屋へ買いにくる、現金で
かつお持ち帰り主義の、俗にキャッシュ・アンド・キャリーと呼ばれる卸があるわけであります。これは同じ品物を売るのでもいろいろ卸の形態があるということを言っておるわけであります。
一般に、これは
小売もそうでございますけれども、
技術革新の結果として新しい卸あるいは新しい
小売が出現する、そして
流通機構が変わっていくというとき、これは大体、新しいものというのは新しい
業態のものでございます。ですから、
業種別の
議論に加えて、この
業態の
議論をする必要があるということでございまして、この
答申の
一つの特徴というのは
業態面にスポットをかなり当てているということでございます。かつ、
業態革新ということを行わせるような
施策ということの
重要性等が指摘されております。
それから第二の
ポイントといたしましては、すべての
業種におきまして、
商取引慣行でございますとか
物流活動の
標準化、
合理化の促進というふうなことが
政策のかなめとして指摘されているということでございます。
この
商取引慣習というのは、卸の場合に非常に古いものが温存されておるわけでございまして、また、
標準化の
問題等もまだまだ大変おくれておるわけでございます。したがって、単に
構造面を
近代化するというだけでなくて、こうした
商慣習その他をも
近代化させていかなければいけないということが指摘できるかと思うのであります。
それから第三番目の
ポイントといたしましては、卸というのは、確かに
総合商社のように世界を相手にしているものもありますし、いわゆる元卸とか
全国卸と呼ばれる大きな
卸売業のように
全国を商圏としておるものもございますけれども、
卸売業のきわめて多くは
地域を
対象にして各
地方にたくさん存在し、
活動しておるわけでございますので、
卸売業の
施策というのは、きわめてローカルな
地域を配慮しつつ、
地域計画でありますとかあるいは
地方自治体の
都市計画というふうなものと密接なすり合わせをしながら、講じていく必要があるということを指摘いたしておるわけでございます。
そういうふうな前提に立ちまして、われわれとしては
商品を
幾つか
類型化いたしまして
——この
類型化の仕方はおおむね
二つの
ポイントによって
類型化しておるわけでありますが、第一は
製造業者側の
条件、
製造業者側の
条件というのはいろいろございますけれども、その中でも
生産の
集中度ということと、もう
一つは
商品の
多角化の
程度、こういう
二つの
製造業者側条件、これに加えまして、
小売業者の側の
条件として
小売段階における
品ぞろえの
必要性、こういったものを挙げまして
卸活動の
類型化を試みたわけであります。つまり、この卸というのは
消費財に今回の
議論は限定しておるわけでございますが、卸は
製造業者と
小売業者の間を取り持つ
機関でございますから、
製造業者側の
条件と
小売業者側の
条件によって規定されるわけです。そういう
意味で、
生産集中度、
商品多角化の
程度という
製造側の
条件、それから
小売の
品ぞろえの
必要度、こういった
規定要因で卸を
五つぐらいの
パターンに
類型化いたしまして、
現状、
問題点を洗うと同時に、今後の
卸売構造なり
卸売パターンの
変化というものを
展望いたしたわけでございます。
細かい点につきましては後ほどの討論に譲りたいと思うのですけれども、いずれにいたしましても、この
卸売業を取り巻く諸
条件というのが大きく
変化をしてきております。その中の大きなものとしては、たとえば
小売段階が急速に大型化していくと申しましょうか、スーパーマーケットに代表される
大型小売業というものが急速に成長してくる。他方、
メーカーの
段階でもいわゆる寡占的な
生産構造というものが
業種によっては急速に進んできた。
生産の側及び
小売の側のそうした
変化から、
卸売業というものがいままでのような形では存続しにくいというふうな
条件が出てきておるわけであります。そのほかたくさんの
環境変化がございますが、こうした
変化に即して国としてもいろいろな
施策を講ずべきである。
その主たる
施策といたしまして
二つの
ポイントを指摘しておるわけでありますが、
一つは、ちょっと妙な言葉で恐縮なんですが、
異質チャネル体間の
多元的競争というふうなことを言っております。これはどういうことかと申しますと、たとえば
メーカーが完全に支配して、
メーカーから
メーカーの
販売会社、それから系列化された
小売業というふうに
商品が流れている
業種がございます。たとえば自動車とか
家庭電器のように。ところが、こういう
チャネルというのが
一つだけでございますと、どうしても
メーカーの支配というのが強くなって、
競争政策上も問題があるわけでございます。ところが、ここへ新しいタイプの
チャネルというのが出現してまいりますと、違った
チャネルの間の
競争が促進されるわけでございまして、それだけ強大な
メーカーに対する
拮抗力等も出てくるわけでございますので、こういう異質な
チャネルの間のいろいろなレベルの
競争というものを促進するということが望ましいというのが
一つでございます。もちろん、そのためには
競争主体を育成するとか、
競争の
内容を
多角化するとか、
競争環境を整備するとか、こういった
施策が必要になるわけでございます。
それからもう
一つの重要な
施策として提言しておりますことは、
業種別の
卸機能の
高度化を推進すべきだということでございます。
施策の
具体的内容といたしましては、
一つは、
先ほども申し上げましたように、
商取引慣習というものをいろいろの面から
近代化していくべきだというふうなことが
一つと、もう
一つは、特に
物的流通というものを中心にしました
実体面での
合理化、
近代化を促進すべきだ。この点につきましては、従来から通産省においていろいろな
施策が進行しておるわけでございますが、なお一層
卸売近代化ということに焦点を当てた
政策というのが立案されるべきである、こういうふうに考えるわけでございます。
以上、
内容的に大変浅い御
報告を申し上げましたけれども、一応
卸売問題の今日性と
卸売施策の
必要性ということについて私の
意見を申し述べさせていただいた次第でございます。
どうもありがとうございました。