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参考人(村越邦男君) 私は中央大学の教師で、教育心理学を
専門としております。
私は一昨年から去年にかけて、国民教育研究所と日教組が協力して行いました学力実態調査のために組織された
委員会のメンバーとして、算数部会と統計部会に参加させていただきました。
初めに、今回行われた調査に関して若干
説明いたしますと、今日の学習指導要領と、それをもとにしてつくられた教科書のもとでは、多くの子供たちが取り残されているのではないか、最も基礎的な学力を身につけることができないのではないかというふうなことが多くの方から
指摘されているわけですが、この問題に関して客観的に明らかにして、この実態を浮き彫りにするために、今回の調査は行われたものであったわけです。調査対象は六つの県の児童生徒を対象にいたしまして、約五万人の生徒を対象にいたしました。そして協力をしてくれた学校は約二百校に上るわけです。また、今回の調査は国語、算数の二教科について標本抽出による
基本調査、これは中学校の一年生と小学校の五年生を対象としているわけですが、それと補充調査、これは国語、算数の歴史比較調査、それから計算力の発達調査、算数の
理解度調査、算数の意識調査という幾つかのものを組み合わせたわけですが、これを実施して、特に国語では漢字の読み書き、算数では計算力を中心として、多面的に今日の児童生徒の学力の実態が浮き彫りにできるように工夫いたしました。特に、ここで留意していただきたいのは、この調査で出題をされた問題は、現行の学習指導要領の範囲の中から出題をされていることでありますし、今回の調査を通して、
立場はどうであれ今日の教育課程のもとにおける学力の実態を
それなりに、客観的に浮き彫りにし得えたという事実であります。それは今年になって文部省の教育研究機関である国立の教育研究所の調査の結果が発表されたわけですが、それとも若干の解釈の食い違いはあったとしても、データの
部分だけから見てみますときわめて類似するところが多いということからも知ることができます。ところで、今回の調査ではどのような子供の学力の特徴が示されたのか、詳細は
報告書が出ておりますので、それを参照にしていただければというふうに思いますが、私はここで四点だけ算数にしぼってその特徴を
指摘してみたいというふうに思います。
それは、まず第一に、中学校の一年生の
段階で、小学校で身につけるべき計算力が身についていない子供たちがきわめて多く見出されるという事実です。たとえば、これは議員の先生方にいま計算問題をやっていただきますが、九割ることの四十三というふうな、こういう簡単な問題に関して、中学校の一年生で正答する子供が一四・四%、ですから十人のうち九人は間違えてしまうという結果。それから五・〇〇八割る五・六というふうな問題に関しても一一・九%、それから〇・七割ることの五・六に関しても一一・九%。こういうふうに小数の割り算の問題に関しては大
部分の問題で七割から八割、もしくは九割の生徒が間違えてしまうというふうになっています。また、三カ六分の五足す十四分の三というふうな問題に関しては三〇・七%、それから一カ六分の五引く〇・二五というふうな問題に関しては三〇・六%、それから九カ四分の一割ることの二カ五分の七というふうな問題に関しては三九・〇%というふうに、分数の加減乗除算の問題に関しても、中学校の一年生で六割から七割の生徒が間違えてしまうというふうな事実です。特に分数の問題に関しては、国立の教育研究所の調査でも、八カ六分一引く二カ三分の二の正答率は、小学校の六年生で三九・七%というふうになっています。つまり両方の調査を通して正答率は低というふうな同様な結果が出ているというふうなことになっているわけです。
さらに、第二番目に
指摘されなければならないのは学年進行に伴う学力の格差の広がりの問題です。たとえば、それは小学校の三年生、四年生の
段階ですでに見出された学力の格差が中学校の一年生ではさらに広がって、いわゆるできない子供の場合には、中学校に入る時期には小学校で身につけるべき計算力が全く身についていないことによって示されます。すなわち、
基本調査の対象となった千八十人の生徒の中で、中学校の一年生で五十二点満点中十一点までしかとれなかった生徒二百二十二人の場合には、ほとんどの問題に対して正しく答えることができないというふうな驚くべき学力の遅滞というふうなものがここで生じています。
また、第三に
指摘されなければならないのは、学年が進んでも学力が向上しないというふうな事実です。たとえばそれは国立の教育研究所の調査でも、小学校の六年生と中学校の三年生に出題した同一の計算問題で、正答率がほとんど変わらないということにも示されています。私たちの調査ではこの傾向がさらに顕著にあらわれて、同一問題では小学校の三年生から四年生にかけては計算力が向上するが四年生から五年生にかけては計算力が停滞する、そして小学校の六年生では正答率が小学校の五年生よりも低くなるというふうな、いわゆる私たちはこれを逆転現象というふうに名づけているものですが、こういうふうなものが生じて、これは教育学の言葉で言いますと学力の剥離現象というふうなことで言われているものですが、そういうものが非常にはっきりと見出されるということになっています。
また、第四には子供の学習意欲の問題です。すなわちこれも国立の教育研究所の調査とも一致しているわけですけれ
ども、学年が進むにつれて計算ぎらい算数ぎらいが増加してくる。特に小学校の低学年ではまだ学力の低い児童でも算数や計算が好きだというふうに答える者がかなり見出されるのに、高学年になりますと、学力の低い児童はほとんどが算数や計算はきらいだというふうに答えていますし、つまり児童が学習意欲の面でも大きくむしばまれていることを知ることができます。
以上、私は算数に関してその特徴を挙げましたが、国語に関しても同じようなことが言えます。特に読むよりも書くことが劣るというふうな事実でありますとか、幾つかの文字を書くことに関しては、学年進行とともに正答率が低くなるというふうな事実、さらに一九五二年に文部省が実施した漢字の書きに関する調査と同一の問題を今回やったわけですが、そうしますと以前よりも正答率が低くなってくるというふうな事実。これらのことも児童の漢字の読み書きの深刻な実態というふうなものを物語っているんではないかというふうに私は思います。
以上、私は簡単に今回の調査について紹介いたしました。私見を許していただければ、私は大学に職を奉ずる一教師としても、一研究者としても、今回この調査に参加して非常にショックを受けたわけです。私はこの
報告を全国さまざまな府県で
現場の先生方や父兄に
報告する機会を多く持ったわけですが、多くの方々からいわゆる落ちこぼれ現象に関して、文部省や学校教
職員その他教育
関係者がともにこの問題に総力を挙げて取り組むことの必要性というふうなものを訴えらました。そういう
意味で、ぜひ
関係各氏の御協力をお願いできればというふうに思っています。以上です。