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参考人(
三村秀一君) それでは、研究所におきまして水質検査を実施する場合の基本的な
考え方並びに今回の
試験検査をいたしました結果について私の所見を述べさしていただきます。
水質の
調査というものは、試料の採取——サンプリングというんですが、このサンプリングと、それから
試験検査というものは車でたとえますと両輪のような関係がございまして、非常に重要でございます。と申しますのは、試料を採取したときの
条件というものが水質
試験の結果に微妙に影響してくるからでございます。そのために、私たちの研究所で、たとえば学会に出す
調査研究の資料のような場合には、みずから現地に行きまして、そして納得のいくサンプリングの方法をいたしまして、サンプリングをいたしているわけでございます。現在、研究所でいろいろな依頼検査を受け付けておるわけでございますが、このような場合にはそういう方法がとれませんので、研究所にお出しいただきました検体につきまして、その成績書は何月何日に御依頼された試料につきましてという
条件をつけて、水道法に適合するかしないかという判定をいたしておるわけでございます。
この判定の基準でございますが、この基準は、先ほどからもお話が出ていますように、水道法の第四条の水質基準に基づいております。この基準というものは、大体その水の中が赤痢菌とかチフス菌のような病原生物によって汚染されていないか、第二点といたしましては、シアン、水銀、カドミウムのような有害な成分あるいは金属が混入されていないか、第三点といたしましては、鉄のように、家庭用水として使用した場合いろいろな障害を来さないか、あるいは人間の感覚的な点で不快な感じを与えないか、まあ大別いたしますとこの三本の柱で組み立てられると言ってよろしいと思います。
先ほどからもいろいろとお話が出ていますが、こういうような
試験をする場合の項目というのは全部で二十七項目プラス、カドミが入りますので、二十八項目にわたって細かく定められているわけですが、その検査を全部やることを一応これは精密検査と言っております。で、精密検査の場合には、ビル管理法の場合には年二回、ただし、その一回は必要に応じて検査項目が省略できる。また、水道法におきましては年一回することが義務づけられているわけでございます。
一方、水道法の場合には、毎月一回行う定期検査というものがございます。この検査は、先ほど申しました二十八項目の中から十二項目のみを選択して実施する検査でございまして、私たちの研究所では、数多い依頼検査の中でも定期検査が最も多い割合を示しております。特にビル用水の場合には、じゃ口まで来る途中でタンクとかあるいは配管などの材質を溶かすことがあります。そのような場合には、依頼者の方にそのビルで使用されている材質をお聞きして、先ほど申しました定期検査の十二項目に、さらにその成分と思われる二、三項目を追加して検査を実施しているわけでございます。
いま試料の採取法の重要性とかあるいは水質基準の解説、私たちが研究所で行っている実態についての御説明を申し上げたわけでございますが、さて、このような観点から、今回、水質研究班がとられました試料の結果についていろいろと解析してみたいと思います。
まず、御依頼を受けましたビル用水は、全部で十七検体でございました。そのうちの十検体が水道法の基準に適合しないという結果が出ておりまして、その不適の原因というのは、項目別で見ますと、大部分が色度の五度、鉄の〇・三ppm、亜鉛の一・〇ppmという基準を超えて異常値を示しているためでございます。この中でも、色度の高い原因は鉄が多いためでございますので、問題となる項目は鉄、亜鉛の二項目であると言ってよいと思います。鉄、亜鉛が異常な値を示した原因といたしましては、腐食性の強い水がタンクあるいは配管中に長期間滞留しているうちに、材質である鉄分あるいは亜鉛引き鋼管の亜鉛を溶出したものと
考えられるわけでございます。このような現象というのは、私は数多く接触することがございます。
一般に腐食の原因というのは、多少学問的な御説明になりますが、配管の材質、構造上から来る内部ファクター、水のPHあるいは遊離炭酸、溶存酸素、残留塩素などからくる化学成分、このような外部ファクターと、普通この両ファクターが相乗的に作用することが多く、簡単に原因物質を追求することはきわめて困難な問題でございます。
さて、このような水を飲料あるいは家庭用水として使用した場合、どのような問題点があるかと申しますと、鉄分につきましては、人体に対する有害性というものよりも、むしろ人間に感覚的に不快な感じを与える方が問題になると思います。すなわち家庭用水として使った場合に、たとえば洗濯物あるいは白いタイルに着色するとか、お茶を入れた場合にタンニン鉄の紫青色を呈するなどの支障があるからでございます。
一方、亜鉛でございますが、この亜鉛は普通、哺乳動物の生殖能や健康な発育に必要な金属の
一つとなっております。ゆえにその量が問題でありまして、あるレベル以下であったら必須金属になるわけでございますが、あるレベル以上になりますと下痢、腹痛、けいれんなどの症状、すなわち急性毒性が見られます。しかしこの亜鉛は鉛のような蓄積性がなく、慢性毒性がないというのが現在の医学界の定説になっております。そのためにヨーロッパ、WHO、アメリカなどの諸外国におきましては、水質基準亜鉛五・〇ppmという許容量が認められております。日本では一ppmと非常に厳しい基準が定められているわけでございますが、その理由は、たとえば沸かした場合に白く濁るとか、あるいは特有の金属床を呈するという不快な感じを与えるためと
考えられます。
今回の
試験結果では、特に某ビルにおきまして、亜鉛が最高三・六ppmという数字が示されておりますが、さきに述べましたように、外国の基準値あるいは毒性研究の結果と照らし合わせてみた場合、人体に対する毒性上の影響よりも、むしろ人間の感覚的な面に問題があり、実際にこのような水を口に含んだ場合異様な味がし、飲料水として使用することは全くできないと
考えられるわけでございます。
以上、
試験結果及び私の所見を説明さしていただきました。