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国務大臣(坊秀男君) 本日、第八十回
国会の再開に当たり、今後における財政金融政策につき所信を申し述べますとともに、
昭和五十二年度
予算の大綱を御説明いたしたいと存じます。
世界経済は、
石油危機を契機とする戦後最大の不況からようやく立ち直りを見せております。先進国においては、いまだ一部に激しい
インフレや国際収支の赤字を克服し得ない国もありますが、全体としては緩やかな回復基調をたどりつつあります。他方、開発途上国においては、
世界経済の回復とともに改善の兆しが見られるものの、非産油開発途上国を中心に国際収支の赤字に悩む等、困難な
情勢が続いております。
一方、
わが国経済は、五十年春を底に緩やかな回復過程をたどっております。
景気回復の足取りは昨年夏以降やや緩慢化しておりますが、生産、出荷とも一年前と比較すれば一〇%以上増加しており、また、
企業収益にも相当の改善が見られるなど、景気の失速が懸念される
状態ではないと考えます。しかしながら、景気の回復状況には業種や
地域により破行性が見られ、また、雇用面の改善のおくれ、倒産の増加等の摩擦的現象も生じております。
このような
情勢にかんがみ、
政府は、昨年十一月、
公共事業等の執行促進等の措置を決定し、また、その効果を一層確実にするため、
昭和五十一年度
補正予算を提出することといたしました。私は、これらの措置が
昭和五十二年度
予算と相まって、一部に見られる先行き不安感を払拭し、
景気回復をさらに力強く、かつ、確実なものにすることを
期待いたしております。
以上のような
内外経済情勢の現状に顧み、私は、今後の財政金融政策を運営するに当たり、次の三点を重要な
課題としてまいりたいと存じます。
まず第一は、
インフレなき
経済発展を図ることであります。
すなわち、景気の回復と
国民生活の安定を一層確実なものとし、
インフレを回避しつつ持続的
成長を
達成していくことであります。
さきに申し述べましたとおり、
わが国経済は、長い不況から回復しつつあるとはいえ、なお不況の傷跡とも言うべき問題が残されております。また、
石油危機がもたらした構造
変化にいかに適応していくかという問題もあります。これらの諸問題を速やかに
解決していくためにも、均衡のとれた景気の回復を図ることが必要であります。
しかし、景気の回復を急ぐの余り、
インフレの再燃を招くようなことは厳に避けねばなりません。物価の安定こそは、健全な
経済活動を維持し、
社会的公正を確保していくための不可欠の前提であり、
国民の切実な願望であります。現在、
消費者物価は、基調的には比較的落ちついた動きを示しておりますが、騰勢には依然として根強いものがあります。私は、物価の安定に今後とも最大の
努力を傾注していく覚悟であります。
さらに、
わが国の国際収支につきましては、
石油危機を契機に大幅な赤字を記録しましたが、輸出の好調等に支えられ、昨年来黒字に転じております。最近においては、輸出の増勢に落ちつきが見られる反面、今後、
景気回復の進展に伴い輸入の増加が見込まれ、国際収支はおおむね均衡に向かうものと思われます。しかしながら、最近の石油値上げの影響等、
世界経済の先行きに多くの不確定要因があることにかんがみ、国際収支の動向については引き続き慎重に注視していく必要があると考えます。
第二は、財政の健全化に努めることであります。
わが国財政は、歳入の約三割を特例公債を含む公債金収入により賄うという諸
外国にも例を見ない異常な
事態に立ち至っております。
昭和五十年度以降、大量の公債への依存を余儀なくされた原因は、未曾有の不況のため、歳入面では租税収入が五十年度に大幅な減少を来し、その後の自然増収も過去の
高度成長期のように大幅な伸びを見込むことができない状況にある反面、歳出面では景気の回復と
国民生活の安定に資するために必要な財政支出はこれを確保する必要があったことによるものであり、やむを得ないことであったと考えます。
しかしながら、今後かかる大量の公債発行が続くようなことがあれば、公債残高の累増、国債費の増高等を通じて、財政が硬直化し、機動的運営が困難になるのみならず、その
資源配分機能が阻害されるおそれなしとしないのであります。また、大量の公債に安易に依存することは、財政の放漫化をもたらすおそれがあるほか、結果的には将来の世代の負担増加を来すこととなり、さらに、民間の資金需要を圧迫し、
経済に
インフレ要因を持ち込む危険をはらむものであります。財政の健全化は、ひとり財政の
立場からの要請ではありません。
国民生活の安定と
経済の
発展を図る上で、財政の果たすべき役割りはきわめて重要であります。その健全性が失われるならば、
わが国経済の円滑な運営が困難になるのであり、私は、そのような
事態を恐れるものであります。
昭和五十二年度
予算においては、
景気回復をより一層確実にするという要請にこたえる一方、公債依存度を五十一年度より引き下げ、財政の健全化に努めることとしております。もとより、財政の健全化は短時日の間に一挙に
達成できる問題ではありません。私は、大量の公債への依存、特に特例公債への依存からできるだけ速やかに脱却するため、既存の制度、慣行の見直しを含む歳出の一層の効率化、租税や公共料金の負担
水準の適正化等に引き続き全力を尽くす
決意であります。
第三は、
世界経済の安定と
発展に貢献するよう努めることであります。
近年、各国
経済の
相互依存関係がとみに深まっている
情勢のもとにおいて、
世界経済の
発展なくして
わが国経済の
発展が
期待し得ないことは申すまでもありません。また、
わが国経済は、
世界経済において大きな比重を占め、米国、欧州とともに重要な役割りを担うに至っております。
わが国としても、国力の許す範囲で、
世界経済の
発展に貢献すべきものと考えます。この
意味において、
わが国が景気の着実な回復を図り、
インフレなき
経済発展の道を歩むことは、
世界経済の安定的な回復に引き続き寄与していくものと信じます。
先進諸国間の国際収支の不均衡是正につきましては、
基本的には、赤字国の自助
努力によるべきものと考えますが、同時に、各国の相互支援等による国際
協力の
重要性は一層高まってきております。このような見地から、
わが国は、昨年十一月、IMFに対する一般借り入れ取り決めの貸付枠を大幅に拡大し、対英IMF借款にも積極的に
協力してきております。
次に、開発途上国に対する
経済協力については、従来から二国間及び多国間の
協力を通じて
努力してきたところでありますが、これを引き続き推進してまいりたいと存じます。特に、今後に予想される
世界的な食糧問題の
解決に寄与する見地に立ち、開発途上国における計画的な食糧増産を促進するための援助を新たに実施するほか、技術
協力の拡充、国際開発金融機関に対する資金
協力の充実等にも十分配慮いたしております。
さらに、自由貿易の
精神に基づき、新国際ラウンド交渉を積極的に推進してまいる
所存であります。
昭和五十二年度
予算は、以上申し述べました
考え方に立って、財政の健全化に努めるとともに、景気の着実な回復と
国民生活の安定を図るという
二つの
課題を
達成することを主眼として編成いたしました。
その特色は、次の諸点であります。
第一に、
予算及び財政投融資計画を通じ、その規模については、財政体質の改善を図り、かつ、景気の着実な回復に資するような適度な
水準を確保することといたしております。
このため、財源を極力重点的、効率的に配分することに配意し、特に、
現下の
経済情勢に顧み、
景気回復をより一層確実にするため、
国民生活充実の基盤となる
社会資本の整備等の公共事業費について拡充を図ることとしたのであります。また、その他の経費についても、全体的には極力節減を図りつつも、真に
国民生活の安定と福祉の充実のため必要な経費についてはできるだけの配慮を払い、効率的な
予算を編成することに努めました。この結果、一般会計
予算の規模は、二十八兆五千百四十三億円となり、前年度当初
予算に比べ一七・四%増となっております。
また、財政投融資計画につきましても、厳しい原資の制約のもとにおいて、住宅、
中小企業金融等、
国民生活の
向上と福祉の充実に資する
分野に対し、重点的に資金を配分するとともに、地方財政の状況にかんがみ、地方債に充てる
政府資金及び公営
企業金融公庫資金の確保に努めることとしております。この結果、財政投融資計画の規模は、十二兆五千三百八十二億円となり、前年度当初計画に比べ一八・一%増となっております。
これら一般会計
予算及び財政投融資計画の伸び率は、いずれも
政府の
経済見通しによる
国民総生産の伸び率を上回るものとなっております。
次に、公債につきましては、すでに申し述べました財政の役割りを果たすため、五十一年度に引き続き多額の公債の発行を行わざるを得ない状況にありますが、財政の節度を堅持するため、公債依存度を前年度当初
予算における二九・九%から二九・七%に引き下げ、発行総額は八兆四千八百億円としております。このうち四兆四千三百億円は財政法第四条第一項ただし書きの規定に基づく公債の発行によることとし、残余の四兆五百億円については、別途御審議をお願いいたします
昭和五十二年度の公債の発行の特例に関する法律案に基づく公債の発行を予定いたしております。
第二に、税制面におきましては、最近の
社会経済情勢に顧みて、所得税について負担の軽減を行う一方、税負担の公平を一層推進する見地から引き続き租税特別措置の整理合理化を進めるとともに、現行税制の仕組みの中で当面の
経済運営の方向と矛盾しない範囲において、増収措置を講ずることといたしております。
まず、所得税については、
中小所得者の負担の軽減を図るため、各種の人的控除の引き上げによる減税を行うことといたしております。その減税規模は、
現下の厳しい財政事情にもかかわらず、所得税、住民税を通じ約四千三百億円になっております。他方、租税特別措置については、利子・配当課税の特例の見直しを行うことを中心として、
企業関係の特別措置についても、前年度の全面的な見直しに引き続き、整理合理化を推進するとともに、交際費課税を
強化することとしているほか、印紙税及び登録免許税について定額税率の引き上げ等を行い、財源の充実を図ることといたしております。
なお、この機会に所得税減税に対する
政府の
考え方を申し上げたいと存じます。
所得税減税につきましては、
予算編成の過程におきまして、
国民生活の現状から、あるいは
景気回復の観点から、この際、大幅な減税を行うべきであるという御意見がありましたことは、
政府としても十分承知しているところであります。
これにつきましては、
わが国の所得税負担は主要諸
外国のそれに比し、かなり低い
水準にあり、今後、福祉その他の公共サービスの確保を図るためにも税負担
水準のある程度の引き上げが避けられないと見られる状況のもとで、所得税の大幅な減税を行うことは将来における問題の
解決を一層困難にすることになるものと考えます。特に、現在の財政事情のもとにおいて減税を行うとすれば、その財源は特例公債に求めざるを得ませんが、このことは、現在の
国民が将来の
国民の負担において利益を受けることとなり、安易に行うべきことではないと考えます。また、
景気回復を図るためには、その政策効果及び財政の弾力的運用の観点から、公共事業費に重点を置くべきであると判断した次第でございます。
しかしながら、他方、今年度に引き続き来年度においても所得税減税を見送った場合には、
国民の税負担感が高まることもまた懸念されるのでありまして、
政府としては、以上述べてまいりましたことを総合勘案いたしました結果、
中小所得者の
負担軽減を中心として今回提案することといたしました程度の減税を行うことが適当であると判断した次第であります。
国民各位におかれましては
政府の意のあるところを十分御
理解いただきたいと存じます。
第三に、財源の重点的かつ効率的な配分に努めることにより、財政体質の改善を図るとともに、最近の諸
情勢に即応した諸
施策の充実を図ることとしております。
まず、公共事業
関係費については、景気の着実な回復に資するとともに、
社会資本の充実の要請にこたえるため、その拡充に努めることとし、住宅、下水道、環境衛生等のほか、治山、治水等の国土保全施設の整備、農業
基盤整備等の推進を図ることとしております。
この結果、五十二年度の公共事業
関係費の総額は、前年度当初
予算に比べ二一・四%増の四兆二千八百十億円となっております。
なお、治山、治水及び漁港整備の三事業につきまして、それぞれ
昭和五十二年度を初年度とする長期計画を策定することといたしております。
社会保障
関係費については、真に必要な福祉
施策について重点的にその充実を図ることとし、生活保護基準の引き上げ、救急医療体制の体系的整備、心身障害者対策の充実等を初めとし、各種の
施策の充実にきめ細かな配慮を払っております。一方、
社会保険料及び受益者負担の適正化を図るなど、既存の制度の合理化に努めることといたしております。
さらに、最近の雇用
情勢に対処するため、雇用安定資金の創設等、雇用調整対策を拡充することとしているほか、中高年齢者を中心とする職業転換対策等につきましても、その充実に配意いたしております。この結果、五十二年度の
社会保障
関係費は一前年度当初
予算に比べ一七・七%増の五兆六千五百八十一億円となっております。
次に、文教及び
科学技術の振興につきましては、公立文教施設の整備を促進することとし、前年度新設された公立高等学校新増設建物整備事業につきましても、事業量の大幅な拡大を図ることとしております。さらに、大学入試制度改善のための
施策の推進、私立学校に対する助成や育英事業の充実、新技術の開発、原子力平和利用の推進等、
各般の
施策につき、その拡充を図ることとしております。
また、
中小企業対策につきましては、特に、小
企業経営改善資金融資制度の拡充等小規模事業対策の推進及び
中小企業信用保険公庫に対する出資の増額等信用補完制度の充実に重点的に配意するとともに、
政府系
中小企業金融三機関等の融資規模を拡大することとしております。
以上のほか、開発途上国に対する
経済技術
協力の充実を図るとともに、プラント輸出等のため新たに輸出保証保険を創設することとしております。また、国際的な
資源・
エネルギー問題の動向等に顧み、石油
資源の開発、石油備蓄の推進等を図ることといたしております。
また、食糧の安定供給の確保、自給力
向上のための諸
施策を推進し、農産物の価格安定、流通対策、農業後継者確保対策等の充実を図ることとしておりますほか、二百海里
経済水域問題に対しても所要の
施策を講ずることといたしております。
さらに、国鉄運賃等の公共料金等につきましては、受益者負担の原則に立ってその適正化を図ることとし、引き続き事業経営等の健全化を進めることといたしております。なお、
日本国有鉄道の財政再建問題につきましては、諸般の
情勢により収支均衡の年限を延期せざるを得ない
事態となりましたが、
日本国有鉄道が財政再建の軌道を逆行するようなことがあってはならないと考え、必要最小限度の運賃改定を行うこととするとともに、これと並行して、助成措置の拡充を図ることといたしております。
第四に、地方財政対策としては、地方交付税交付金について、国税三税の三二%相当額に
昭和五十年度決算に係る精算分等を加算した金額四兆六千二百二十一億円を計上するほか、臨時地方特例交付金一千五百五十七億円及び資金運用部資金からの借入金九千四百億円の特例措置を講ずること等により、地方団体へ交付すべき地方交付税交付金の総額として五兆七千五十五億円を確保することといたしております。なお、総額四千二百二十五億円の臨時地方特例交付金を、地方交付税交付金の総額の確保に資するため、
昭和五十五年度から
昭和六十二年度までの各年度において、一般会計から交付税及び譲与税配付金特別会計へ計画的に繰り入れることといたしております。
また、地方債の消化の円滑化を図るため、
政府資金比率を高めるとともに、義務教育施設等については、原則として全額を
政府資金で引き受けることとする等、きめ細かな配慮を払っております。
以上の措置により、五十二年度の地方財政の運営に支障が生じないよう配意したところでありますが、この際、私は、地方公共団体に対し、国と同一の基調により一般行政経費等の抑制と財源の重点的かつ効率的な配分を行い、節度ある財政運営を図るよう要請するものであります。
なお、この機会に、
昭和五十一年度
補正予算について一言申し述べます。
今回、景気の着実な回復及び災害復旧等のための公共事業
関係費の追加、農業保険費、人事院勧告の実施に伴う
国家公務員等の給与改定費、義務的経費の追加、国債整理基金特別会計への繰り入れ等を内容とする
補正予算を提出することといたしております。
この
補正予算における歳出追加額の合計は六千百十一億円でありますが、他方、既定経費の節減、
公共事業等予備費及び一般予備費の減額、合計二千五百六十九億円の修正減少を行うこととしておりますので、この補正による歳出総額の増加は三千五百四十二億円となっております。
歳入については、前年度剰余金受け入れ二千五百四十二億円を計上いたしますとともに、財政法第四条第一項ただし書きの規定に基づく公債二千億円の増発を行うこととしておりますが、他方、
昭和五十一年度の公債の発行の特例に関する法律に基づく公債を一千億円減額することといたしておりますので、この補正による歳入総額の増加は、三千五百四十二億円となっております。
以上の結果、
昭和五十一年度一般会計補正後
予算は、二十四兆六千五百二億円となるのであります。
以上、
予算の大要について御説明いたしました。
最近の金融
情勢を見ますと、
企業の資金繰りは、総じて見れば、緩和基調で推移しており、また、国債等の市中消化も順調に進んでおります。このような状況のもとにおいて、当面の金融政策の運営に当たりましては、物価の安定にも配慮しながら、必要な資金の円滑な供給を図ってまいる方針であります。
また、五十二年度におきましては、前年度に引き続き、国債、地方債等公共債の大量発行を余儀なくされておりますが、その消化に当たっては、従来同様、市中消化の原則を堅持することとし、金融
情勢等に十分配慮しながら円滑な消化に努める考えであります。また、国債管理政策に一層配慮しつつ、公社債市場の整備、育成のための積極的な
努力を続けてまいる
所存であります。
わが国経済は、過去において他の先進国に類を見ない
高度成長を
達成してまいりました。その結果、戦後三十余年を経た今日、かつては予想もしなかった豊かな
国民生活が
実現され、また、
国際社会においても、主要先進諸国の一員として確固たる地位を築くことができたのであります。しかしながら、
わが国経済の将来を展望いたしますと、
資源、立地、環境等
内外両面にわたる幾多の制約が強まり、従来のような
高度成長を続けることはもはや困難であるのみならず、また、適切でもないことを十分
認識する必要があると考えます。
今後の
経済運営に当たりましては、このような諸
情勢の
変化を踏まえ、これまでの惰性や慣行を断ち切り、均衡のとれた安定
成長を
実現していかねばなりません。
私は、財政金融政策の責に任ずる者として、直面する諸問題を
国民の前に率直に提示し、
国民各位の英知も仰ぎながら、確固たる
決意をもって、この難局打開に全力を傾注してまいる覚悟であります。
国民各位の格別の御
理解と御
協力を切望する次第でございます。(
拍手)
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