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国務大臣(
倉成正君)
わが国の
国際収支を考えてまいりますと、
貿易収支の面で考えますと、原材料をどうしても
輸入しなきゃならない。特に、
オイルショックの後におきまして、中東の諸国に対しては大幅な
輸入超過、
赤字になっていると、
貿易の
赤字が出てきているわけです。また、オーストラリア等の原料国に対しても大幅な
赤字であると。したがって、その
赤字をどこかでかせがなきゃいけないと、これが
アメリカとECという形で出てきておるわけでございます。ところで、
わが国のその
貿易外収支を考えてまいりますと、構造的にこれは
赤字になっておるわけでございまして、これはまあ船賃であるとか、保険料であるとか、ロイアルティーであるとか、そういうものでありますけれ
ども、構造的に
赤字であり、しかも、これはだんだん拡大の
傾向にあるという
状況でございます。
なお、今後の
わが国の立場を考えてまいりますと、長期の資本収支の面については対外援助等で
赤字に推移するということを考えていかなきゃならない。そういうことを勘案してまいりますと、われわれはやはりどうしても
貿易外収支の構造的な
赤字というのを何とか少しでも減らすことができないだろうかと、これはまあ非常にむずかしい問題が中に含まれておりますけれ
ども、その努力をこれからしていくことも必要でございますし、また同時に、われわれはその資本収支の
赤字ということを考えてまいりますと、
貿易収支、
貿易外収支合わせました、いわゆるまあそれに移転収支を合わせました経常収支で若干の黒字を出しまして、その黒字分で資本収支の
赤字を補うという形が
昭和五十五年の
国際収支のバランス表ということになっておるわけでございます。
昭和五十五年の
貿易収支で百三十億ドルの黒字でございまして、それから
貿易外及び移転収支で九十億ドルの
赤字、経常収支で四十億ドルの黒字、そして長期資本収支が四十億ドルの
赤字ということで、まあ基礎収支で大体均衡をとると、こういう形に
昭和五十五年の
国際収支で考えていると、こういう次第でございます。
それから、財政面から
物価の問題が出てきやしないかというお話でございますけれ
ども、御案内のとおり、現在は民間の
設備投資が増えておりますので、民間の資金
需要というのが必ずしも強くない
状況であります。したがいまして、公債を発行しましても何とか貯蓄率が高い現況のもとではこの民間資金と
政府の資金とが競合するということでございませんで、国債の消化あるいは地方債の消化というのが順調に行われているという
状況でございます。しかし、将来国債がさらに累増していくと、また民間の資金
需要が出てくるということになりますと、やはり
政府資金と民間資金との競合、いわゆるクラウディングアウトというような問題も出てくる可能性がありますし、またそのことが通貨の増発という形でインフレーションを起こしてくる可能性があるということは十分われわれは考えておかなきゃならないことではなかろうかと思うわけでございます。しかし、御案内のとおり、いま社会資本を充実したり、福祉を充実するために
欧米先進国と違って
わが国はどうしても財政に期待されている役割りが大きいものですから、だんだん財政支出はふえていく
傾向にあるわけでございまして、行政改革その他いろいろやりましても、なおかつ財政支出は、これはこれからふえていく
傾向にある。まあいわば折り返し点にいま進んでおるところでございます。
欧米の方はまあ折り返し点から公的部門に余り資源を移し過ぎたので、民間部門に少し資源を移したらどうかという段階でございますけれ
ども、
日本の場合にはやはり公的な方にまだ資源を移していくとと。したがって、財政というのがだんだんふくれていく可能性があると。そのときに減速
経済に入ったと、いわば財政支出は増大するにかかわらず、自然増収が望めない
減速経済下に入ってきたと。したがって、財政に対する負担が非常に重くなってこれが
赤字公債の増発という形、あるいは建設公債を大幅に出さなければいけないと、こういうことになっているというのが今日の姿でございます。したがって、財政の負担がどこまでたえ得るかという問題がこれからの
経済運営にとって非常に大事なことの
一つになるし、また、この節度を保ってまいらなければ、これはやはり
物価騰貴につながるというふうに考えておるわけでございまして、
先生の御
指摘どおりの感じを私も持っておる次第でございます。
なお、西ドイツのお話がございましたけれ
ども、西ドイツにおきましては、やはりインフレを抑えると、
物価安定ということがちょうど
アメリカにおける独禁法と同じような位置にあるわけでありまして、国民のコンセンサスが
物価安定という点で
労働組合を含めて全国民の
一つの大きな国是になっておると。あらゆる政策に優先して
物価を安定させる、インフレを抑えること。これは第一次大戦等におけるまあ非常に大きなインフレーションの教訓に学んだドイツの国民性と申さなければならないわけでございまして、これが
一つ大きく響いている。それからもう
一つ、
産業政策から見ましても、ドイツはかなり工業製品を
輸入しておるわけでございまして、かなり自信を持っているわけです、
産業に。したがって、多少自国の
産業が衰退することがあってもやむを得ないというくらいの意気込みで
産業政策を進めておるという点があろうかと思いますし、また、為替政策を非常にうまく使っていると、そういうことで、
わが国とは若干いろんな
事情が異なっておるわけでございまして、まあ
カーター大統領の提案に対しましてやはりインフレという面で多少違った行き方をしたいということをドイツ
政府が申しておるということを聞いておるような次第でございます。したがいまして、これから先、われわれはやはり
景気がだんだん
回復している過程において、
国際収支の問題、先ほどは非常に問題を鋭角的に申し上げましたけれ
ども、決して心配していないというわけではございませんし、やはり十分注意していかなければならない。まあかつてのような時代とは大分異なってきているということを申しておるわけでございますし、
国際収支も注意していかなければならないし、また
物価につきましても、今日の段階ではまあ稼動率が低い
状況でありますから、
物価がすぐ
上昇するということは考えられませんけれ
ども、しかし、どうしても
景気が急激に
上昇するということになりますと、
需要の方が供給をオーバーしまして、やはりその部分から
物価が
上昇するということも考えられるのじゃなかろうかと思うわけでございます。この点は十分注意をしていかなければならないと思っております。