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参考人(
寺嶋伊弉雄君) 先ほど御紹介をいただきました根室市長の寺嶋でございます。
今回、参議院の
農林水産委員会に
参考人として
出席を命ぜられたわけでございますが、まず最初に、
日ソ漁業交渉に当たって総理を初めとする農林大臣あるいは外務大臣、さらにまた
先生方が大変この問題について御腐心をされ、また御
努力をされているについて心から敬意と感謝を表するものでございます。
私ども
ソ連と国境を接しております根室市民といたしましては、この二百海里の問題をきわめて深刻な問題として受けとめておるわけでございます。かつてドルショックあるいはオイルショックという言葉がございましたけれども、私ども市民にいたしますというと、これは回復のない二百海里ショックだと、こういうふうに受けとめて、
地域といたしましては深刻にこの問題を討議をし、また
政府要路に対しても
実情を訴えてまいったところでございますが、この
機会にその
実情を申し上げたいと存じます。
実情を申し上げるに先立って、先般この
委員会に
参考人として
出席を命ぜられた段階において、根室支庁管内の八つの
漁業協同組合がございます。さらにまた、一市四町でございますので、そうした
関係の市町村長並びに議会その他商工
会議所を中心といたしますところの産業団体、こうした
関係の
方々からも十分
意見を拝聴いたしまして、今回ここに私の
意見を申し述べたい、かように考えているわけでございます。最初に、二百海里問題と
北方四島の
関係でございますが、これは根室市として当然申し上げなければならない
立場にございますので、お聞き取りいただきたい。その他のことにつきましては
知事さんから総体的にお話があったと存じますので、私は、
北方四島と根室地方における
漁業という
立場で御
意見を申し上げたいと存じます。
北方四島は、御
承知のとおり、戦後
ソ連によって占有されて戦後三十二年間経過しているわけでございますが、
政府の見解どおり、私ども根室地方の住民は四島は
日本の固有の領土である、こういう考え方は
政府の考え方と全く一致しているものでございまして、戦後三十二年間、忍従と苦難の三十年でございましたけれども、しかし、これは一地方の産業とか、あるいは経済という問題でこれを処置するものではない、こういうことから、
地域の漁民はもとより
関係の産業
関係におきましても、もちろん大きな経済的な打撃を受けているわけでございますけれども、しかし、これは国家的な問題であるという見地に立って、国とともに返還運動を進めているわけでございます。それで、今回
ソ連が二百海里の線引きをいたしましても、私どもは、それはあくまでも
日本の固有の領土であるから、
日本としてはやはり択捉島と得撫の中間でこれは二百海里の線引きをすべきであろう。したがって、
ソ連と重なり合うわけでございますけれども、このことについては、そうしたお互いに
領海二百海里を線引きした段階においてお互い
交渉のテーブルに着くべきであろう。
ソ連の一方的な二百海里線引きをこのまま容認するわけにはまいらない、こういうのが私ども根室地方の住民の一致した考え方でございます。一部にはこの問題について、それを固定するようなお考えの方もあるようでございますけれども、と申しますのは、共同管理方式あるいは入漁方式、こういうような方もいらっしゃるようでございますけれども、私ども地元の一貫した考え方は、あくまでも固有の領土であるからこれは話し合いで
解決をすべき問題である。しかし、これは相手のあることでございますので、なかなか容易な問題でないということは容易に想像がつくわけでございますけれども、少なくとも国家百年の大計を誤らないためには、この際多少時間と苦労が伴っても根本的な
解決を図るべきだ。しかし、先ほど申し上げましたとおり、これは大変時間と労力を要する問題でございますので、現段階ではそのことが不可能であるとするならば、少なくとも
現状維持に凍結をすべきであろう、これが地元としての一貫した考え方でございます。
ソ連の領有権を認めるものでもなし、また
ソ連の
領海十二海里を認めるものではございませんけれども、現段階ではやむを得ずそれをたな上げをして
現状で凍結をする。現在
ソ連が二百海里の線引きをいたしておりますけれども、その十二海里を引いた後の百八十八海里については、従前同様に
日本漁民が
操業できる、こういう態勢に少なくともしていただきたい、こういう考え方が地元にあるわけです。一部共同管理方式あるいは入漁方式、こういうような
意見もございますけれども、地元の漁民としてはこれについては全く反対である、このことをこの
機会にはっきり申し上げておきたいと思います。
本来、漁民は領土よりも魚をとらせろと、こういう
意見の方が先になるべきであろうというふうにお考えでございましょうけれども、このことについては地元でいろいろ
漁業関係者とも十分討議したわけでございますけれども、その基本的な考え方としては、いま安易な妥協をして千載に悔いを残すようなことをしてはならない。いわゆる領土を放棄して魚をとるということは、これは根本的に間違いである。たとえ
ソ連が、いま
日本が
領土権を放棄をすればそのかわり全面的に魚をとらせると言っても、これは過去の
サケ・
マスの
日ソ漁業交渉に見るごとく、二十一年前には二十数万トンという
サケ・
マスの割り当てだったものが、今日においてはわずかに六万二千トン、こういう
実績からまいりましても、最初はそのようにいろいろな諸条件が整っておっても、五年あるいは十年後には領土も失い魚の
操業もできない、こういう
実態になることは火を見るよりも明らかである、これが根室地方の漁民の一貫した考え方であります。そういう意味において、現在
操業ができなくても、たとえ一年や半年がまんをしても、じっくり時間をかけてこの問題を基本的に
解決してほしい。このことは、私がこちらに出立に先立って
漁業関係者から特にそういう
要望のあったことをこの
機会にお伝えし今後善処を願いたい、かように存ずるわけでございます。
もちろん、このことは長年月がかかってよろしいということではなく、できることなれば短期間にこの問題が
解決することが一番望ましいことでございますけれども、漁民にいたしますというと、やはり基本的な問題を
解決をしなければ今後に悔いを残す、こういう考え方であることもひとつ御理解をいただきたいと存じます。もちろんそれが長期間になりますというと、やはり漁民も
生活がございますので
政府の手厚い援助をいただかなければならない、こういうこともあらかじめお含みおきをいただきたいと思うわけでございます。
特に根室の場合は、御
承知のとおり終戦の一カ月前に、人口四万五千でございますが、その八割が戦災によって焼失いたしました。さらにまた、
生活の場である
北方海域を失ってしまった、あるいは島を失った。それらの島にいた一万六千五百人の引き揚げ者のほとんどが根室市に引き揚げてきた。戦災で焼けた町の中でお互い苦労をして
生活をしなければならなかった、こういう忍従の三十年でございました。今回また、こうした二百海里の問題は、根室地方の住民にとっては全く戦争の悲哀を再び感じている。全国の中で恐らく戦後の終わらないのは根室であろう。いわゆるいまにして敗戦の惨めさをしみじみと味わっている、これが根室地方の
実態でございます。
特に、こうした海域に
操業する漁民は、御
承知かもしれませんけれども、あの
沿岸で
操業しているのが約三千隻でございます。これも百トンあるいは二百トンという大きな船ではなく、三トンから五トン程度の船が約八割を占めている。御
承知でもございましょうけれども、これはみずからが船主であり船長で、朝出かけていって夕方に帰ってくるという、いわゆる自営の
漁業でございます。
漁業のランクからまいりますというと、きわめて零細な
漁業者である。まあこの二百海里の問題に関連して、
北海道でも稚内あるいは釧路と、こうした大きな基地では報道
関係でもにぎやかに取り上げておりますけれども、私の方はこうした零細な
企業であるということによって、漁獲のトン数も少ないということで報道
関係には余り登場いたしませんけれども、実際の中身からまいりますというと、釧路あるいは稚内というのは三百トンあるいは五百トンという大きな底びき船でございます。そのために漁獲するトン数も非常に多いわけでございます。うちの場合にはきわめてトン数も少ないと、こうしたことではございますけれども、
実態としては個々の船が自営でやっていると。非常に諸条件の悪いいわゆる小
企業でございます。
漁業の中では全く零細な
漁業でございます。そうした
実態等もお考えをいただいて、この問題についても善処をいただきたいものだと。
また、こうした
操業の中で、御
承知でございましょうけれども、
昭和二十一年来いわゆる
北方海域において拿捕された船が千百そう余り、人員にいたしまして八千人と、いまだに抑留されて帰れない漁船員が十二名もいると、こういう悲惨な海域で
操業しているということもひとつお考えをいただいて、今後
法案の審議等にも十分御
配慮をいただきたいものと、かように考えるわけでございます。
それから、この二百海里をこの海域に設定されますというと根室地方としてどれだけの
被害があるかということでございますけれども、大体昨年の
実績を見ますというと、これは根室市だけの
実績でございますが、大体十六万四千トンの
水揚げをいたしているわけでございます。これはウニとかホタテ、カニあるいはタラと、こうしたいわゆる雑魚に属するものでございます。そうしたもの七〇%が削減をされると、三〇%しか生産ができないという、こういう
実態でございます。これに従事する
漁業者が大体六千七百人でございます。こうした者がいわゆる二百海里の線引きによって職を失うという問題が出ております。御
承知のとおり、
ソ連の言うあの線引きでまいりますというと、根室地方の漁民は全く漁場を失ってしまって、
生活に困り転業する方法がない。他の魚種に転換することができないわけです。ですから、
ソ連の言う二百海里の線引きをされますというと、好むと好まざるとにかかわらず、
生活をするといたしますならば他の業種に転換をせざるを得ない、こういう
実態にあるわけでございます。そのほかに、水産加工並びにそれに関連するようなものでございますけれども、これは根室支庁管内合わせて二百六十二の事業者がございます。
従業員の数にして六千名。これが線引きになりますというと、約五割こうした
従業員の失業が出るということ。もちろん業者といたしましては、他から原魚を輸入しても加工業は続けてまいりますけれども、それにいたしましても、こうした
従業員が五割程度失業をするであろうと、このように推測をいたしておるわけでございます。
それから今回の
ソ連の漁場規制に伴って、金額的な面ではおよそ現在で十四億円の損失をこうむっている、これが
実態でございます。
それから
水産加工業の関連でございますけれども、水産加工は現在は全面
休業という
実態でございます。一部には、冷蔵庫にストックした魚を細細としていわゆる
従業員を
確保するためにつなぎとして
操業しているものもございますけれども、これはごく限られた工場でございまして、ほとんどの工場は
休業していると、こういう
実態でございます。これらに伴うところの
緊急融資の希望等も取りまとめいたしましたけれども約三十一億円の資金を要すると、こういう
実態でございます。
それから、
ソ連が二百海里を線引きいたしますというと、当然ここで
操業上トラブル等も生じてくると、こういうことから、いわゆる海上の保安
体制の確立をぜひ確立をしていただきたい、こういうこともこの
機会にお願い申し上げる次第でございます。
そういうようなことで、町の経済はただいま申し上げたようなことで大きな打撃を受けるわけでございます。したがって、私がお預かりしている市の財政にいたしましても、相当な
影響を受ける。市の財政の場合、その年度に不漁であれば二カ年財政に響くと、こういうふうに言われているわけです。不漁の年については税金の納入率が非常に悪い。次の年になりますというと、前年の所得を基礎にして課税をされるということで、二カ年市の財政に
影響を受ける。あるいはこれは農村地帯でも同じかもしれませんけれども、凶漁になりますというと、二カ年財政に
影響を受ける。今回の場合は凶漁ではございませんけれども、現実に
水揚げがないとするならば、やはり市の財政に二カ年
影響を与えると、こういう状況でございます。それでなくても、オイルショック以来、地方自治体の財政というのはきわめて重大な危機に直面しているわけでございますが、今回またさらにこういう状況になりますというと、いろいろと
地方財政にも大きな
影響を来すと。このことについても、できる限り国の手厚い
対策をお願いしたいものだと、かように考えているわけでございます。
それから、こうした状況でございますが、特に私どもの場合はほかの海域と違いまして、現実に
ソ連が占有してしまう。従前はいわゆる
北方海域の十二海里以外についてはいわゆる根室地方の漁民が自分の
生活の場とし、いわゆるむしろ自分の庭先の漁場、どこに行けば何がとれるということはもう頭の中に入っている。極端に言うならば、目をつぶってもその場所に到達できると、本当の庭先
漁業である。そうした、いわゆる農民で言うならば自分の耕作する畑を取り上げられるのと同様なのが根室の漁民でございます。そういうことの事情をひとつお含みいただきまして、今後万が一
ソ連の線引きどおり決定した場合には、根室の漁民は全くこれはもう
生活の手段を失う。こういうことでございますので、できるなれば産炭地振興法等に準じたようなお取り扱いを願いたいものだと、かように考えるものでございます。一部には、それであれば他に魚種を転換したらと、こういう御
意見もございますけれども、根室の場合は狭い海域でございまして、旧マッカーサーラインというのがございまして、納沙布岬から千七百五十メートル行けば国境と、こういう
実態でございまして、全くほかの魚種に転換するわけにはまいらないと、こういう
地域であることもひとつ御理解をいただきたいと存じます。
それから、簡単に申し上げますけれども、
地域の
要望といたしましては、水産
日本でありながらこうした問題でいろいろ問題があると、こういう観点から
漁業の専任の省を設けてほしい、したがって専任の大臣を設けてほしいと、こういう
意見もございます。それから今日のような食糧危機に面して水産の位置づけを明確にしてほしいと、こういうこともございます。それからへ今回のような二百海里規制に伴って、従来の
漁業制度そのものを根本的に見直すべきだと、こういう
意見もございます。これらについてはすでに御検討はいただいているとは思いますけれども、たとえば定置
漁業のようなものにつきましても、たとえば国が
サケ・
マスの増殖事業をやって特定の免許を持った
漁業者だけがこれをとると、こうしたことも現在の
漁業制度からまいりますと、漁民の意識からまいりましても必ずしも適当でないと、こういう
意見等もございます。そうした意味において、これを
機会に
漁業制度の根本的な
解決をお願いしたいと、かように考えます。
次には、こうした状況でございますから、相当商社が原魚を輸入するというようなことはすでに行われているようでございますけれども、これはやはり、国の統制と言ったらちょっと言葉が過ぎるかもしれませんけれども、秩序ある輸入をすべきである。これはある意味においても過当競争を防ぎ、あるいは生産者である漁民の
立場を擁護するためにも、こうした秩序ある原魚の輸入を
政府が統制をしてほしい、こういうことでございます。
さらにまた、こうした
沿岸資源が限られてまいりますというと、増養殖あるいは水産物の加工、こうした面についても、
政府機関がそれぞれ施設を持って限られた資源を活用するように特別な御
配慮をいただきたいと、かように考えているわけでございます。それから、従前もそうでございましたけれども、加工業に対して国の施策というものはきわめて手薄い。たとえば事業拡張のための資金にいたしましても、非常に
融資の道が閉ざされている。こういう
実態等もございますので、こうした面についても、今回これを
機会に加工業の振興に対して特別な
政府の
対策を特にお願いしたいと、かようにお願い申し上げるわけです。
以上、時間が参りましたのではしょって申し上げましたけれども、できることであれば、今後こうした
実態等もつぶさに御視察をいただきたいと、かように思いますので、今後
機会を見て
現地を御視察をいただきたいと、かようにお願い申し上げまして、私の
意見を申し述べさしていただいた次第でございます。よろしくお願いいたします。