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参考人(
肥後和夫君)
成蹊大学の
肥後でございます。
まず、私は
財政制度審議会の
委員でもございますが、きょうの
意見陳述は、
財政制度審議会の
委員としてではなくて、むしろもっと自由率直に一
研究者として
意見を述べさしていただきたいと思います。
経済全般に対する展望につきましては、
村本、
中山両
参考人からすでにるるお話がございましたので、私は、時間を節約いたしますために本論に早速入りたいと思います。
第一の
意見でございますが、五十二
年度特例公債四兆五百億円の
発行は、本
年度に予想されます
経済情勢を前提にいたします限り、
経済安定政策上やむを得ない措置であり、かつ、この
公債の
発行の
特例に関する
法律案をおおむね妥当であると考える次第でございます。
その理由の第一でございますが、
政府は、インフレを回避しつつ実質
経済成長率六・七%、国際収支の黒字減らしを本
年度じゅうに達成し、世界
経済の安定に寄与することを世界に公約しておりますが、他方国内
経済について見ますと、
民間部門におきます
民間投資、特に
設備投資及び
個人消費の停滞のために、大幅な
民間部門貯蓄超過が発生しておりまして、総
需要の著しい停滞が懸念されております。したがいまして、総
需要の適切な管理を通じて国内的に
国民生活の安定を図りつつ、さらには国際
経済の安定に対する応分の責任を果たしますためには、本
年度予算に計上された
規模の
特例債の
発行は、
発行しないで済みますものならば
発行しないに越したことはないということは言うまでもございませんが、当面やむを得ないと考えるものでございます。
第二の理由でございますが、この
特例債の
発行に当たりましては、五十一
年度の場合と同様に、
発行規模を
予算をもって
国会の議決を経た金額の範囲内に限り、出納整理期間中も
発行できることとし、かつ償還のための借りかえは行わないこととされておりますが、これは過剰
発行に歯どめをかけ、かつ、償還の実質的成果を自己に義務づけるという意味で、まあ、
政府自身に義務づけるという意味で適当な
配慮であろうと考えるものであります。これが第一の
意見でございます。
第二の
意見としまして、赤字
公債は、しかしながら、異例中の異例と考えるべきものでありまして、できるだけ早く赤字
公債に依存する
状態から脱却し、建設
公債、
市中消化の原則に基づき節度ある
経済運営が行われるような健全な
状態に復帰することが望ましいと考えます。そのためにも、償還計画が厳正に実行されることを望むものであります。
以上の
意見の理由としまして、第一に、赤字
公債の
発行が望ましくないという理由——私の理由は、
経済理論上の理由ばかりではなくて、むしろその
経済理論を実践する場合の政治的な力学についての考慮からでございます。純粋に
経済理論的に考える場合でございましても、
公債発行の問題は、
経済安定の問題ばかりでなく、資源配分論あるいは所得再分配論からの問題も当然に生ずるわけでございますので、
経済安定の
観点だけが唯一の
観点であるとは思いません。しかし、
経済安定の視点に限って申しますと、
民間部門に貯蓄超過があり、かつ
経済が不完全雇用下にあります場合には、公共部門におきまして赤字をつくり出す必要があるという考え方は一般に支持されていると思います。その場合、
政府支出が将来の生産力増加に寄与するものであります場合には、
政府支出増加によって公共部門に赤字をつくり出すことは、資源配分の
観点から申しまして、世代間の負担の公平を図るものとして支持されると思います。
その場合の
政府支出は、純粋に理論の問題に限りますならば、将来の年産力増加に寄与するかどうかが問題でありまして、必ずしも
政府の固定資本形成に限る必要はないという議論もあります。たとえば教育とか研究開発とか、そのようなものでも将来に生産力
効果があるというような考え方があるわけでございます。また、公共支出と
個人消費の間に資源配分上問題がありませぬ場合には、減税が
個人消費の増加に大きな
効果がある場合には、減税によって公共部門に赤字をつくり出すことも支持されるであろうと思います。もっとも、率直に申しますと、
個人消費は、恒常所得に依存するという面を強調する必要があると思いますので、
経済環境の激変によって各
個人の将来にわたる生活設計に大きな見直しが行われつつあります
現状におきまして、減税にどれほどの
効果があったかということは私自身は疑問としております。しかし、これはすでに決着のついた問題でありますのであるいはよけいな
意見かもしれません。
次に、しかし、赤字
公債の
発行による公共部門の資源調達は、その段階でだれもその負担を直接に意識することがありませんし、また、生産力
効果があっても具体的な設備として残らない場合には一層そうでございますが、適切な公共部門と
民間部門の資源配分の手段としては全く歯どめが効きません。もちろん、
市中消化によって
財源が調達されます場合には
クラウディングアウトが生じまして、公共部門の支出と
民間投資の間に緊張
状態が発生するでございましょうが、
個人消費と公共
需要の間にはこのような歯どめが全くありません。したがって、
政府は
国民にとって何か欲しいものを何でも提供してくれる万能者のような
存在と錯覚される危険があり、公共部門が
民間部門よりも過大になる政治力学が働きます。また、公共
需要と税負担の関連が軽視されますと、超過
需要が発生して、増税が必要になりましたときに、納税者にその公共
需要に見合う税負担に対する合意ができてないことから、増税が不可能になり、増税と減税の間に非可逆的な関係が
成立することを注意しなければならないと思います。
さらに、大き過ぎる公共部門は、
国民経済の生産力を
長期的には低下させるものであるという考え方が、近年における西欧福祉
先進国の共通の認識になりつつあるということが最近注目されるものでございます。この問題は、イギリス、フランスあるいはイタリアそれぞれの
政府が、現在、公共部門の資源を、むしろ小産力
効果のある工業部門に移すことによって、
経済の起死回生を図ろうとしている点に非常に顕著に見られるわけでございます。
わが国の場合、過去の高度成長時代の行き過ぎで、社会資本や社会保障
水準の立ちおくれがあることが指摘されておりますし、私自身も過去にたびたびこのような主張をしたものでありますが、社会保障の問題につきましては、人口老齢化や年金の未成熟化の問題と深い関連がございまして、
現状ではむしろ格差の是正とか、給付と負担の
長期的な均衡を図る問題の方に重点が移っているのではなかろうかと思います。
社会資本の問題も、さしあたりは
公共投資の増加が必要でありますけれ
ども、将来の問題としては、やはり社会資本の各部門間の計画的な効率化が問題になろうかと思います。したがいまして、公共部門と
民間部門の間における資源の適切な配分につきましては、常に
国民の選択を問い直す必要があるという意味で、そのような機能を基本的に欠いております赤字
公債への依存が慢性化いたしますことは非常に危険であり、早くこのような
状態から脱却する必要があると考えるものであります。その意味におきましても、五十二
年度予算における
公債依存度が前
年度より〇・二%下がって二九・七%になったという
引き下げの
努力は見られますものの、世界一高
水準であり、アメリカの一〇・七%、イギリスの一六・八%、西ドイツの一三・五%に比べて異常に高いことは危険視すべき徴候ではないかと考えております。したがいまして、
公債発行が必要な場合でも、
公債発行対象は比較的伸縮性のある
公共投資に限り、建設
公債市中消化の原則によることが望ましいと考えるものであります。
政治的な
配慮の問題でございますが、繰り返しになりますけれ
ども、選挙民が税負担を喜ばないこと、第二次大戦後は特にそうでありますが、
政府支出の利益が
国民全般に及ぶような分野が非常に広がってきておりますことから、選挙民に喜ばれようとする政治的
配慮が働けば、赤字を膨張させるおそれが十分にあることは率直に言って否定できないものであろうかと思います。したがいまして、制度として一般的にこのような負担を回避するためにも、赤字
公債は異例中の異例として処理すべきものであろうかと考えるものであります。
なお、
特例公債の償還のためには、現在一・六%の
国債整理基金に対する繰り入れ、前
年度剰余金の全額繰り入れ、その他
予算繰り入れの措置がありますが、
特例債の場合は、さしあたり税収の余剰があれば全額赤字の縮減に振り向けるとともに、できるだけ経費の節減を図り、さらに必要な税負担の増加を求めて、現在の
財政危機を解消する
努力を真剣に払うことが望ましいと考えます。
次に、
公債発行とインフレの関係でございますが、すでに申し上げたことと重複するのでございますが、
公債発行による
国民の税及び公共料金等、負担の直接的な回避は、当面インフレを生ぜしめない
程度の赤字
公債の充行を可能にするといたしましても、
長期的には公共部門の肥大化に伴う生産力の衰弱を招き、西欧諸国に見られますようなスタグフレーションを招くおそれがもることに注意を向けるべきであります。こうなれば、失業とインフレの二重苦に
国民大衆を陥れることになりましょう。
私見を述べさしていただきますならば三千億円の積極的減税が実質的に五十一
年度分の赤字
公債の
発行によって賄われておりますこと、それから現在、
政府管掌健康保険の赤字が安易な借り入れで賄われる傾向がありますことなど、将来の
財政運営に危惧の念を持たざるを得ないような徴候が非常に多うございます このような徴候にすべて赤字
公債発行の原因になりましょう。それにつけましても、積極的な赤字
公債の
発行によって
景気回復を図った高橋
財政が、一時的には華やかな成功をおさめたかに見えましたにもかかわらず、最終的には
財政支出膨張に歯どめがかからなくなり、蔵相自身の命がけの抵抗にもかかわらず、
財政的破局と国家的破局を招来した歴史的な苦い体験を想起せずにはおれません。
最後に、赤字
公債依存からの脱却のためには息の長い
努力が必要であります。この点を
財政収支試算を手がかりに考えますと、さしあたり二つの
課題が注目されます。一つは
公債管理の問題であり、もう一つは、赤字
公債依存から脱却することが並み大抵ではないということであります。
そこで第一に、
公債管理を成功させるための条件でございますが、まず目につきますことは、最終
年度において五十兆円を超える
公債残高の重大さであります。現在は、
国債利回りの最近における
引き下げにもかかわらず、
国債及び地方債には大変な人気が集まっておりまして、
個人消化も非常に順調に進んでいるようであります。しかし、最終
年度の
国債残高が、現在預貯金中第一位を誇る郵便貯金総額をはるかに凌駕し、さらには証券
市場に上場されている証券価格の総額と比肩し得る
規模になるということは、地方債を含めて考えますと、いまや
国民の資産として
国債の比重がきわめて大きなものになったことを意味すると思います。この資産が
国民の総消費の動向等に及ぼす影響もさることながら、将来
民間投資の活力が大きくなって
クラウディングアウトが生じたときに、
国債価格の値下がりによって
国民に重大な損失を生ずることがあってはならないのであります そのためには、将来の
課題として、貯蓄供給者の
各種のニードに応じて、期間その他の異なるきめの細かい
国債の供給と、需給の適合を図れるような資本
市場の自由化を進めることが必要になるでありましょうが、何よりも基本的に重要なことは、クラウデイングアウトが生じた場合、経費の節減や税負担の適切な増加等によって過当な負担を
国民経済にかけないよう、
財政の体質の健全化を図ることではなかろうかと思うものでございます。
また、
国債の利払いが増加してまいりますと、その費用を負担する納税者と、その利子を受け取る者との間の所得再分配の問題等も生じることは無視できないことでございます。
次に、そのためにも五十五
年度に赤字
国債依存を脱却する中期目標が達成できるかどうかということが大きな意味を持ってきます。この目標を達成するためには、
景気の
回復に伴う税の自然増収だけでは不十分なことは衆目の一致するところでありますが、また増税によって所要の
財源を調達する場合にも、その時期が遅過ぎては間に合いません。とすれば、五十三
年度に適切なスタートが切られるよう、本
年度中に適切な方向が決定される必要があるように思われます。税及び公共料金等の負担の問題が回避されることなく、正しく取り上げられることを望みたいと思います。
以上でございます。