○国務
大臣(坊秀男君) 昨年末にはからずも
大蔵大臣を拝命しました。内外の経済情勢がきわめて厳しい今日、私は、その重責を痛感しております。
今後における
財政金融政策につきまして、先般の
財政演説において申し述べたところでありますが、本
委員会において重ねて所信の一端を申し述べ、
委員各位の御理解と御
協力をお願いする次第であります。
世界経済は、石油危機を契機とする戦後最大の不況からようやく立ち直りつつあります。しかしながら、先進国の中にも、いまだに激しいインフレと国際収支の赤字を克服しない国があり、また、開発途上国においても、非産油開発途上国を中、心に国際収支の赤字に悩む等困難な情勢が続いております。
一方、わが国経済は、五十年春を底に緩やかな回復
過程をたどっております。景気回復の足取りは昨年夏以降やや緩慢化しておりますが、景気の失速が懸念される状態ではないと考えます。
しかしながら、景気の回復状況には業種や地域により破行性が見られ、また、雇用面の改善がおくれ、倒産が増加する等なお解決すべき問題が残されております。
このような情勢にかんがみ、
政府は、昨年十一月、公共
事業等の執行促進等の
措置を決定し、また、その効果を一層確実にするため
昭和五十一
年度補正
予算を提出いたしました。
私は、これらの
措置が
昭和五十二
年度予算と相まって一部に見られる先行き不安感を払拭し、景気回復をさらに力強く、かつ、確実なものにすることを期待いたしております。そのためにも、五十一
年度補正
予算、五十二
年度予算及び
予算関連
法案が一日も早く成立し、実施に移されることが緊要であると考えます。本
委員会関係の諸
法案につきましても何とぞよろしく御
審議のほどをお願いする次第であります。
以上のような内外経済情勢の現状に顧み、私は、今後の
財政金融政策の
運営に当たり、インフレなき経済発展、
財政の健全化及び世界経済への貢献の三点を重要な課題としてまいりたいと存じます。
第一に、景気の回復と国民生活の安定を一層確実なものとし、インフレなき持続的成長を達成していくことであります。
さきに述べましたとおり、我が国経済は長い不況から回復しつつあるとは言え、なお不況の傷跡ともいうべき問題が残されております。また、石油危機がもたらした構造変化にいかに適応していくかという問題もあります。これらの諸問題を速やかに解決していくためにも、均衡のとれた景気の回復を図ることが必要であります。
しかし、景気の回復を急ぐ余り、インフレの再燃を招くようなことは厳に避けなければなりません。物価の安定こそは、健全な経済活動を維持し、社会的公正を確保していくための不可欠の前提であり、私は、物価の安定に今後とも最大の努力を傾注する覚悟であります。
さらに、国際収支につきましては、今後、おおむね均衡に向かうものと思われますが、流動的な世界経済の現況にかんがみ、その動向については、引き続き慎重に注視していく必要があると考えます。
第二に、
財政の健全化に努めることであります。わが国
財政は、歳入の約三割を
特例公債を含む公債金収入により賄うという諸外国にも例を見ない異常な事態に立ち至っております。
しかしながら、今後かかる大量の公債発行が続くようなことがあれば、公債残高の累増、国債費の増高等を通じて、
財政が硬直化し、機動的
運営が困難になるのみならず、その資源配分機能が阻害されるおそれなしとしないのであります。
また、大量の公債に安易に依存することは、
財政の放慢化をもたらすおそれがあるほか、民間の資金需要を圧迫し、経済にインフレ要因を持ち込む危険をはらむものであります。国民生活の安定と経済の発展を図る上で、
財政の果たすべき役割はきわめて重要であります。その健全性が失われるならば、わが国経済の円滑な
運営が困難になるのであり、私は、そのような事態を恐れるものであります。
昭和五十二
年度予算においては、景気回復をより一層確実にするという要請にこたえる一方、公債依存度については五十一
年度に比し、これを引き下げ、
財政の健全化に努めることとしております。もとより、
財政の健全化は短時日の間に一挙に達成できる問題ではありません。私は、大量の公債への依存、特に
特例公債への依存からできるだけ速やかに脱却するため、歳入歳出の両面を通じ、
財政の健全化の推進に全力を尽くす決意であります。
第三に、世界経済の安定と発展に貢献するよう努めることであります。近年、各国経済の相互依存
関係がとみに深まっておりますが、米国、欧州とともに世界経済の
運営に重要な役割を担っているわが国としては、国力の許す範囲で世界経済の発展に貢献すべきことは申すまでもありません。この
意味において、わが国が景気の着実な回復を図り、インフレなき経済発展の道を歩むことは、世界経済の安定的な回復に引き続き寄与していくものと信じます。
また、わが国は昨年十一月、IMFに対する一般借り入れ取り決めの貸付枠を大幅に拡大し、対英IMF借款にも積極的に
協力してきておりますが、このような各国の相互支援等による国際
協力を進めるとともに、開発途上国に対する経済
協力についても引き続き推進してまいる考えであります。
さらに、自由貿易の精神に基づき、新国際ラウンド交渉を積極的に推進してまいる所存であります。
次に、当面の
財政金融政策の
運営について申し述べます。
昭和五十二
年度予算は、以上申し述べました
考え方に立って、
財政の健全化に努めるとともに、景気の着実な回復と国民生活の安定を図るという二つの課題を達成することを主眼として編成いたしました。そのため、
予算及び
財政投融資計画を通じ、その規模については、
財政体質の改善を図り、かつ、景気の着実な回復に資するような適度な水準を確保することとしております。
特に、現下の経済情勢に顧み、景気回復をより一層確実にするため、国民生活充実の基盤となる社会資本の整備等の公共
事業費について拡充を図ることとしております。
その他の経費については、全体的には極力節減を図りつつも、財源を重点的、効率的に配分することに配意し、特に、社会保障
関係費につき
各種の
施策の充実にきめ細かい配慮を払ったほか、文教及び科学技術の振興、中小企業対策の拡充、経済
協力の充実、エネルギー政策の推進、農林漁業
施策の充実等各般にわたる
施策の推進に努めております。
また、国鉄運賃等の公共料金等につきましては、受益者負担の原則に立ってその適正化を図ることとし、引き続き
事業経営等の健全化を進めることといたしております。
さらに、地方
財政については、地方団体へ
交付すべき地方
交付税
交付金の所要額を確保するほか、地方債の消化の円滑化を図るため、
政府資金比率を引き上げる等五十二
年度の地方
財政の
運営に支障が生じないよう配意したところであります。
次に、
税制面におきましては、最近の社会経済情勢に顧みて、
所得税について負担の軽減を行う一方、税負担の公平を一層推進する見地から引き続き
租税特別措置の整理合理化を進めるとともに、現行
税制の仕組みの中で当面の経済
運営の方向と矛盾しない範囲において、増収
措置を講ずることといたしております。
まず、
所得税については、中小
所得者の負担の軽減を図るため、
各種の人的控除の引き上げによる減税を行うことといたしております。その減税規模は、現下の厳しい
財政事情にもかかわらず
所得税、住民税を通じ約四千三百億円になっております。
他方、
租税特別措置については、利子配当
課税の
特例の見直しを行うことを中心として、企業
関係の
特別措置についても、前
年度の全面的な見直しを引き続き、整理合理化を推進するとともに、交際費
課税を強化することとしているほか、印紙税及び登録免許税について定額税率の引き上げ等を行い、財源の充実を図ることといたしております。
なお、関税率及び関
税制度につきましても、所要の改正を行うこととしております。
私は、この機会に
所得税減税に対する
考え方を申し上げたいと存じます。
所得税減税につきましては、
予算編成の
過程におきまして、国民生活の現状から、あるいは景気回復の観点から、この際、大幅な減税を行うべきであるという御
意見がありましたことは十分
承知しているところであります。
これにつきましては、わが国の
所得税負担は主要諸外国のそれに比しかなり低い水準にあり、今後、福祉その他の公共サービスの確保を図るためにも一税負担水準のある程度の引き上げが避けられないと見られる状況のもとで、
所得税の大幅な減税を行うことは、将来における問題の解決を一層困難にすることになるものと考えます。特に、現在の
財政事情のもとにおいて減税を行うとすれば、その財源は
特例公債に求めざるを得ませんが、このことは現在の国民が将来の国民の負担において利益を受けることになり、安易に行うべきことではないと考えます。また、景気回復を図るためには、その政策効果及び
財政の弾力的運用の観点から、公共
事業費に重点を置くべきであると
判断した次第であります。
しかしながら、他方今
年度に引き続き来
年度においても
所得税減税を見送った場合には、国民の税負担感が高まることもまた懸念されるのでありまして、以上述べてまいりましたことを総合勘案いたしました結果、中小
所得者の負担軽減を中心として今回
提案することといたしました程度の減税を行うことが適当であると
判断した次第であります。
金融政策につきましては、最近の金融情勢を見ますと、企業の資金繰りは、総じて見れば緩和基調で推移しており、当面の金融政策の
運営に当たりましては、物価の安定にも配意しながら、必要な資金の円滑な供給を図ってまいる方針であります。
また、五十二
年度におきましては、前
年度に引き続き国債、地方債等公共債の大量発行を余儀なくされておりますが、その消化に当たっては、従来同様、市中消化の原則を堅持することとし、金融情勢等に十分配慮しながら円滑な消化に努める考えであります。また、国債管理政策に一層配慮しつつ、公社債市場の整備、育成のための積極的な努力を続けてまいる所存であります。
以上、
財政金融政策に関する私の所信の一端を申し述べました。
本
国会において御
審議をお願いすることを予定しております大蔵省
関係の
法律案は、
昭和五十一
年度補正
予算に関連するもの一件、
昭和五十二
年度予算に関連するもの十件、その他一件合計十二件でありますが、このうち十一件につきましては、本
委員会において御
審議をお願いすることとなると存じます。それぞれの
内容につきましては、逐次、御説明することとなりますが、何とぞよろしく御
審議のほどを重ねてお願いする次第でございます。